説明

磁気ディスクの評価方法及び磁気ディスクの製造方法並びに磁気ディスク

【課題】磁気ヘッドの浮上量が1nm〜2nmといった超低浮上領域での磁気ディスクの浮上特性差を正確に評価することが可能な磁気ディスクの評価方法を提供する。
【解決手段】熱膨張によって突出するヘッド素子部を備えた磁気ヘッドにおけるDFHパワーに対する記録再生素子の突き出し量を測定するDFHパワー測定工程と、磁気ヘッドを浮上させた後、DFHパワーを徐々に増加させることで記録再生素子が磁気ディスク表面に接触した時点でのDFHパワーを測定するタッチダウン測定工程と、該タッチダウン測定工程により求めたDFHパワーを所定量減少させた後、測定環境の気圧を徐々に減少させて磁気ヘッドが磁気ディスクの表面に接触する時の圧力を求めるDFH-TDP測定工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はたとえば垂直磁気記録方式のHDD(ハードディスクドライブ)等の磁気ディスク装置に搭載される磁気ディスクの評価方法及び磁気ディスクとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報処理の大容量化に伴い、各種の情報記録技術が開発されている。特に磁気記録技術を用いたハードディスクドライブ(HDD)の面記録密度は年率100%近い割合で増加し続けている。最近では2.5インチ径磁気ディスクにして、1枚あたり250GBを超える情報記録容量が主流となってきている。HDDに使用される磁気ディスクは1.0〜3.5インチ径まであり、ガラスもしくはアルミを基板とし、その上に磁性膜が製膜されている。
【0003】
磁気記録密度の向上には磁気ディスクにおける磁性層の面内密度の改善に加え、磁性層と磁気ヘッドの記録再生素子との間隙(磁気的スペーシング)を狭くしてシグナルノイズ比(Signal-Noise Ratio:SNR)を向上させる技術も必要となる。磁気ヘッドの浮上量を低減するために、磁気ディスク表面は平滑化され、極限まで粗さが低減されてきている。
【0004】
磁気ヘッドが低浮上量化してきたことに伴い、外部衝撃や飛行の乱れによって磁気ヘッドがディスク表面に接触する可能性が高まっている。このため磁気ディスクには磁気ヘッドが磁気ディスクに衝突した際、磁気記録層の表面が傷つかないように保護する媒体保護層が設けられ、さらに保護層の上には磁気ヘッドの接触摺動のダメージを緩和するために潤滑剤が塗布されている。潤滑剤使用例としては特開昭62−66417号公報(特許文献1) などで、HOCH2- CF2O - (C2F4O)p - (CF2O)q - CH2OHの構造をもつパーフロロアルキルポリエーテルの潤滑剤を塗布した磁気記録媒体が知られている。
【0005】
潤滑剤を塗布することにより磁気ヘッドの接触時のダメージを低減することが可能であるが、浮上量低下により潤滑層とディスク表面とで間欠的な接触状態に置かれると、ディスク表面からヘッドスライダ表面への潤滑剤移着が起こりやすくなる。この移着量が多くなると、ヘッドスライダと磁気ディスクと間に潤滑層の架橋が形成され、メニスカス力と呼ばれる吸着力が発生し、ヘッドスライダの安定浮上を妨害する。ヘッドの浮上特性の悪化はHDDの寿命にも影響が大きい。
【0006】
磁気ヘッドの低浮上量化によりSNR向上を行う場合は、移着の起こりにくい潤滑剤の開発及びその評価方法の確立が同時に必要である。評価方法の一例として、例えば特許文献2には、磁気ディスクから所定量浮上し、潤滑剤との衝突を圧電素子やAE(AcousticEmission)センサで検出する浮上ヘッドで、磁気ディスクの回転数を下げていき浮上ヘッドが磁気ディスク表面と摺動を開始する速度(TDV:Touch Downvelocity)と、磁気ディスクの回転数を上げていき浮上ヘッドが磁気ディスクから再浮上して摺動や衝突が終了する速度(TOV:Take Offvelocity)との差から、浮上ヘッドの磁気ディスク面からの離脱特性を求める技術が開示されている。また、磁気ヘッドの浮上量を圧力依存で操作するTDP/TOP(TouchDown Pressure/Take off pressure)試験により同様の評価を行うことも可能である(例えば特許文献3参照)。
【0007】
TDP測定等により浮上特性が悪いと判断された磁気ディスクはHDDのドライブを使用した試験においても同様に耐久性が低い結果が得られている。一般的なドライブ試験としてはロードアンロード耐久試験が挙げられる。これは、磁気ディスクをHDDに搭載し、例えば60万回以上というような多数回に亘って連続してロードアンロード動作を繰り返すものである。ドライブの動作形態に最も近い評価試験であるが、磁気ディスクと浮上ヘッドを用いる実装試験であり、結果を得るために多大な時間と費用を要する試験である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭62−066417号公報
【特許文献2】特開2007−095176号公報
【特許文献3】特開2007−115383号公報
【特許文献4】特開2003−168274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、近年の磁気ヘッドにおいては、素子内部に備えた薄膜抵抗体に通電して発熱させることで磁極先端部を熱膨張させることで当該ヘッドと磁気ディスクとの距離、つまりヘッド浮上高(Dynamic Fly height : DFH)を調整する技術が開発されている(例えば上記特許文献4参照)。ここで用いられる発熱体はDFHヒータと呼ばれ、当該発熱体に加えられる電力はDFHパワーと呼ばれる。このDFHを調整する技術により磁気ヘッドではスライダ浮上量を保ちつつ磁気的スペーシングの低減が可能となった。現在ではディスク表面から記録再生素子までの距離は数nmにまで低減されている。
【0010】
従来の浮上量は磁気ヘッドのスライダ浮上量を想定して行われてきている。しかしDFHヒータを使用した場合の浮上量はディスク表面から磁気ヘッドの記録再生素子までの距離を意味することになる。また従来のTDP測定では、スライダ浮上量を特定の値に設定することは困難である。そのためサンプル間で浮上量にバラツキが生じ、特定浮上量における特性差を正確に調査することは出来なかった。浮上量が数nmといった領域では、潤滑剤の分子直径や分子自由度も考慮して開発を行う必要があり、厳密な特性調査が必要である。よってTDP測定においても、低浮上量でのより正確な調査方法を用いることが要求されてくる。
【0011】
本発明はこのような従来の事情に鑑みてなされたものであり、磁気ヘッドの浮上量が1〜2nmといった超低浮上領域での磁気ディスクの浮上特性差を正確に評価することが可能な磁気ディスクの評価方法を提供することを目的とし、さらにこのような評価方法を適用した評価工程を含むことにより、良好な浮上特性を有する信頼性の高い磁気ディスクを得ることができる磁気ディスクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
(構成1)
最上層に潤滑層を有する磁気ディスクの前記潤滑層を評価する磁気ディスクの評価方法であって、熱膨張によって突出するヘッド素子部を備えた磁気ヘッドにおけるDFHパワーに対する記録再生素子の突き出し量を測定するDFHパワー測定工程と、前記磁気ディスクを回転させて該磁気ディスクの上方に前記磁気ヘッドを浮上させた後、DFHパワーを徐々に増加させることで前記記録再生素子が前記磁気ディスク表面に接触した時点でのDFHパワーを測定するタッチダウン測定工程と、該タッチダウン測定工程により求めた前記磁気ディスク表面接触時のDFHパワーを所定量減少させた後、測定環境の気圧を徐々に減少させて前記磁気ヘッドが前記磁気ディスクの表面に接触する時の圧力を求めるタッチダウン気圧(以下、DFH-TDPという。)測定工程と、を含むことを特徴とする磁気ディスクの評価方法。
【0013】
(構成2)
前記DFHパワー測定工程により前記記録再生素子の突き出し変化量1nmに必要なDFHパワーを正確に求めることで、DFH-TDP測定時におけるDFHパワーの前記所定減少量を1nm〜4nmの範囲で規定することを特徴とする構成1に記載の磁気ディスクの評価方法。
(構成3)
前記磁気ディスクは、起動停止機構がロードアンロード方式のハードディスクドライブ装置に用いられる磁気ディスクであることを特徴とする構成1又は2に記載の磁気ディスクの評価方法。
【0014】
(構成4)
前記DFH-TDP測定とロードアンロード試験との間に相関があり、DFH-TDPの基準設定値以上ではロードアンロード試験が不合格となり、基準値未満の磁気ディスクを良品とすることを特徴とする構成3に記載の磁気ディスクの評価方法。
(構成5)
前記基準設定値は、DFHパワー所定減少量が1nmにおいて、環境気圧から130Torr以下であることを基準値とすることを特徴とする構成4に記載の磁気ディスクの評価方法。
【0015】
(構成6)
前記磁気ディスクは、2.5インチ以下の直径を有することを特徴とする構成1乃至5のいずれか一項に記載の磁気ディスクの評価方法。
(構成7)
構成1乃至6のいずれか一項に記載の磁気ディスクの評価方法による評価工程を含むことを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
【0016】
(構成8)
基板上に少なくとも磁性層と、潤滑層とが形成された磁気ディスクであって、構成4又は5に記載の磁気ディスクの評価方法により、前記DFH-TDP測定において、前記基準設定値を満足することを特徴とする磁気ディスク。
【0017】
本発明の磁気ディスクの評価方法によれば、前もって測定に使用する磁気ヘッド(熱膨張によって突出するヘッド素子部を備えたDFHヘッド)のDFHパワーに対する記録再生素子突き出し量を測定(調査)した後、磁気ディスクを回転させて該磁気ディスクの上方に前記磁気ヘッドを浮上させた後、DFHパワーを徐々に増加させることで前記記録再生素子が前記磁気ディスク表面に接触(タッチダウン)してから、特定の値だけDFHパワーを減少(バックオフ)することでバックオフ(Backoff)量を調節できる。タッチダウンの値は磁気ディスク固有値であるため、どのサンプルにおいても浮上量1nm、2nmといった超低浮上状態を規定することが可能であり、特定浮上量におけるTDP特性を求めることができる。これにより微小な浮上量における浮上特性差の違いを明確に評価することが可能である。
【0018】
また、構成2の発明にあるように、前記DFHパワー測定工程により前記記録再生素子の突き出し変化量1nmに必要なDFHパワーを正確に求めることで、前記DFH-TDP測定時におけるDFHパワーのバックオフ量を1nm〜4nmの範囲で正確に規定することが好ましい。
また、構成3の発明にあるように、前記磁気ディスクは、ロードアンロード方式のハードディスクドライブ装置に用いられる磁気ディスクであることが好ましい。
【0019】
また、構成4の発明にあるように、前記DFH-TDP測定とロードアンロード試験との間に相関があり、DFH-TDPの基準設定値以上ではロードアンロード試験が不合格となり、基準値未満の磁気ディスクを良品とすることができる。
また、構成5の発明にあるように、前記基準設定値は、DFHパワー所定減少量が1nmにおいて、環境気圧から130Torr以下であることを基準値とすることができる。
【0020】
また、構成6の発明にあるように、前記磁気ディスクは、2.5インチ以下の直径を有するものであることが好ましい。
また、構成7の発明にあるように、本発明の磁気ディスクの評価方法による評価工程を含む磁気ディスクの製造方法によれば、良好な浮上特性を有する信頼性の高い磁気ディスクを得ることができる。
【0021】
また、構成8の発明にあるように、基板上に少なくとも磁性層と、潤滑層とが形成された磁気ディスクであって、本発明の磁気ディスクの評価方法により、前記DFH-TDP測定において、前記基準設定値を満足する磁気ディスクによれば、良好な浮上特性を有する信頼性の高い磁気ディスクが得られる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、磁気ヘッドの浮上量が1nm〜2nmといった超低浮上領域での磁気ディスクの浮上特性差を正確に評価することが可能な磁気ディスクの評価方法を提供することができる。
【0023】
また、本発明によれば、本発明の磁気ディスクの評価方法を適用した評価工程を含むことにより、良好な浮上特性を有する信頼性の高い磁気ディスクを得ることができる磁気ディスクの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明によるDFH-TDP測定の方法を説明するための図である。
【図2】本発明による評価対象の磁気ディスクの層構成を示す断面図である。
【図3】本発明による磁気ディスクの評価方法のフローチャートである。
【図4】従来のTDP測定による評価結果を示す図である。
【図5】本発明による評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施の形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、本発明を限定する趣旨ではない。
【0026】
本発明にかかる磁気ディスクの評価方法は、DFH磁気ヘッドにおけるDFHパワーに対する記録再生素子の突き出し量を測定するDFHパワー測定工程と、前記磁気ディスクを回転させて該磁気ディスクの上方に前記磁気ヘッドを浮上させた後、DFHパワーを徐々に増加させることで前記記録再生素子が前記磁気ディスク表面に接触(タッチダウン)した時点でのDFHパワーを測定するタッチダウン測定工程と、該タッチダウン測定工程により求めた前記磁気ディスク表面接触時のDFHパワーを所定量減少(バックオフ)させた後、測定環境の気圧を徐々に減少させて前記磁気ヘッドが前記磁気ディスクの表面に接触する時の圧力を求めるDFH-TDP測定工程と、を含む。
【0027】
本発明は、記録再生素子(以下、RW素子という)の突き出し変化量をあらかじめ測定(調査)したDFH磁気ヘッドを用いて、各測定磁気ディスクごとにディスク表面にRW素子が接触するDFHパワーの測定を行う。その後、所定量DFHパワーを減少(バックオフ)させて任意の浮上量を規定する。すなわち、どのディスクにおいても磁気ヘッドを任意の高さで浮上させることが可能である。その上で環境気圧を減少させて任意の浮上量におけるTDPを求める。これにより従来のTDP測定では困難であった特定浮上量における正確な比較評価ができ、微小領域での特性差を判別することが可能となる。
【0028】
図1は本発明によるDFH-TDP測定の方法を説明するための図である。
本発明に使用する磁気ヘッドスライダ20は、熱膨張素子(DFH素子)21およびRW素子22を有している。熱膨張素子21にはヒータ(=DFHヒータ)が隣接しており、このヒータ電力(=DFHパワー)を上げていくと、熱膨張素子21の体積が増加し、RW素子22はディスク表面に近づくことになる。RW素子22がディスク表面に接触した時点をタッチダウン(TouchDown)とする。タッチダウン時のDFHパワーを所定量減少(バックオフ)することで任意のバックオフ値(例えばAnm)、すなわち浮上量Anmを設定することが可能である。引き続き設定した浮上量AnmにおいてTDP測定を行うことで、特定浮上量における浮上特性の比較が可能となる。なお測定環境の圧力は真空ポンプと系を開放するコックを併用することで特定の圧力に制御することが可能である。この場合においては、プログラムを用いた正確な制御方法が望ましい。
【0029】
図3は、本発明による磁気ディスクの評価方法の流れを説明するためのフローチャートである。
まず、任意の磁気ディスクを用いて、磁気ヘッドのDFHパワー1mWあたりのDFH素子突き出し量(nm)を測定する(ステップS10)。DFH素子の変化量はディスク表面からRW素子までの距離の変化量を意味しており、この距離が変化すればRW信号強度も変化する。この強度差を用いて変化量を計算により求めることが可能である。
【0030】
次に、評価を行う磁気ディスク10(後述)を回転させて、回転により磁気ディスク10の上方に磁気ヘッドを浮上させる(ステップS11)。
次に、磁気ディスク10を一定の速度で回転させた状態で、磁気ヘッドに印加するDFHパワーを段階的に増加することで磁気ヘッドのDFH素子を磁気ディスクに接触させて、接触したときのDFHパワーを測定する(タッチダウン測定工程)(ステップS12)。このとき磁気ヘッドはDFH素子のみがディスク表面と接触した状態であり、磁気ヘッドのスライダは墜落せず浮上している状態である。接触を確認した後はDFHパワーを切り、DFH素子を磁気ディスク表面から遠ざける。
【0031】
次に、上述のステップS12で測定した値からたとえば距離1nm相当のパワーを減少させた(バックオフさせた)DFHパワーに設定する(ステップS13)。磁気ディスク10を一定の速度で回転させた状態で、測定装置内の気圧を段階的に減少させることにより磁気ヘッドのスライダ浮上量を低下させ、浮上が不安定となりDFH素子が磁気ディスク表面に接触したときの圧力(DFH-TDP)を測定する(ステップS14)。ステップS13に戻り、ステップS12で測定した値から距離2nm相当のパワーを減少させたDFHパワーを設定して、DFH-TDPを測定する。同様の測定を繰り返して、バックオフ量例えば1〜4nmの範囲でのDFH-TDPを測定する。
【0032】
TDPは磁気ヘッドの個体差(磁気ヘッドのスライダ表面粗さ等)により、ばらつきを持つ値である。本発明においてはDFH素子の変化量をあらかじめ測定した磁気ヘッドを用いて、磁気ディスクのタッチダウンを測定してバックオフ量の値を決めることにより磁気ヘッドの個体差を吸収することができる。これにより、いずれの磁気ヘッドを用いても同じ浮上量でTDP測定を行うことが可能となる。
また、本発明者は、DFH-TDPとロードアンロード試験結果との間に相関があることを見い出し、ロードアンロード試験においてエラーが起きない基準設定値を設けることで、信頼性の高いディスクを得ることが出来る。基準設定値は測定環境の気圧から130Torr以下とすることが好ましい。
【0033】
以下、本発明の評価方法による評価工程を含む磁気ディスクの製造方法について説明する。
図2は、本実施の形態に係る磁気ディスク10の概略層構成を説明する断面図である。同図に示す磁気ディスク10は、ディスク基板11、磁気記録層12、媒体保護層13、潤滑層(潤滑剤)14を有して構成される。
【0034】
ディスク基板(磁気ディスク用基板)11としては、例えば、ガラス基板、アルミニウム基板、シリコン基板、プラスチック基板などを用いることができる。好ましくは、アモルファスのアルミノシリケートガラスをダイレクトプレスで円板状に成型したガラスディスクが用いられる。なお、ガラスディスクの種類、サイズ、厚さ等は特に制限されない。
【0035】
磁気記録層12は、軟磁性層、下地層など直接磁気記録を担わない層も含めた積層構造を有する。例えば、垂直磁気記録方式用の磁気記録層12としては、主にディスク基板と軟磁性層との接着を行う付着層、垂直磁気記録方式において記録層に垂直方向に磁束を通過させるために記録時に一時的に磁路を形成する軟磁性層、磁気記録層の磁化容易軸をディスク垂直方向に配向させるための下地層、情報を保存し記録再生を行う磁性層を、その順で形成することにより構成されている。かかる磁気記録層12は、一般にスパッタリング法によって成膜される。
【0036】
媒体保護層13は、例えば真空を保った状態でカーボンをCVD法により成膜して形成される。媒体保護層13は、磁気ヘッドの衝撃から磁気記録層12を保護する。一般にCVD法によって成膜されたカーボンはスパッタリング法によって成膜したものと比べて膜硬度が向上するので、磁気ヘッドからの衝撃に対してより有効に磁気記録層12を保護することができる。
【0037】
潤滑層14は、PFPE(パーフロロポリエーテル)をディップコート法により成膜して形成される。PFPEは長い鎖状の分子構造を有し、媒体保護層13表面のN原子と高い親和性をもって結合する。この潤滑層14の作用により、磁気ディスク10の表面に磁気ヘッドが接触しても、媒体保護層13の損傷や欠損を防止することができる。PFPEを成膜後には磁気ディスクを高温処理もしくはUV処理をすることでPFPE分子と媒体保護層13との結合の増強を行うことができる。
【0038】
上記磁気ディスク10は、低浮上を実現できるロードアンロード方式のハードディスクドライブ装置に用いられる磁気ディスクであることが好ましい。
【0039】
また、上記磁気ディスクは、2.5インチ以下の直径を有するものであることが好ましい。
【0040】
本発明の磁気ディスクの評価方法による評価工程を含む磁気ディスクの製造方法によれば、磁気ヘッドの浮上量が1nm〜2nmといった超低浮上領域での磁気ディスクの浮上特性差を正確に評価することが可能であるため、その結果、良好な浮上特性を有する信頼性の高い磁気ディスクを得ることができる。
また、DFH-TDP測定において基準値を設定することで、ロードアンロード試験を合格できる磁気ディスクを得ることができる。
【実施例】
【0041】
次に、本発明を具体的実施例により説明する。
本実施例において、測定対象とする磁気ディスクは、以下のようにして作製した。
すなわち、外径65mm、内径20mm、ディスク厚0.635mmのディスク基板11上に、真空引きを行った成膜装置を用いて、DCマグネトロンスパッタリング法にてAr雰囲気中で、磁気記録層12の成膜を行った。具体的には、順次、Ti系の付着層、FeNi系の軟磁性層、Ruの第1下地層、同じくRuの第2下地層、CoCrPt磁性層を成膜した。この磁気記録層は垂直磁気記録方式用磁気記録層である。次いで、媒体保護層13はCVD法によりC及びCNを用いて成膜し、潤滑層14はディップコート法によりPFPEを用いて形成した。
【0042】
本実施例では、上記潤滑層14の構成が異なる4種類の2.5インチ磁気ディスク10を作製した。すなわち、PFPEを主鎖とする潤滑剤Aを用いた潤滑層14の膜厚が1.4nmである磁気ディスク(磁気ディスクNo.1)と、同じく潤滑剤Aを用いた潤滑層14の膜厚が1.8nmである磁気ディスク(磁気ディスクNo.2)と、PFPEとは主鎖構成が異なる潤滑剤Bを用いた潤滑層14の膜厚が1.4nmである磁気ディスク(磁気ディスクNo.3)と、潤滑剤A,Bとも主鎖構成の異なる潤滑剤Cを用いた潤滑層14の膜厚が1.4nmである磁気ディスク(磁気ディスクNo.4)とを作製した。
【0043】
図4及び図5は、いずれも本実施例の磁気ディスク10についてTDPを測定した結果を示す図であり、図4は従来のTDP測定結果、図5は本発明による測定結果を示している。具体的な測定方法の詳細は後述する。なお、本実施例におけるTDP測定には、Kubota Comps株式会社製の磁気ディスクテストシステムHDFtester 2007(商品名)を用いた。
【0044】
図4では縦軸に磁気ヘッドに与えられる振動を検出したAE電圧を示し、横軸に測定環境気圧を示している。縦軸のAE電圧が検出限界値である2Vとなると磁気ヘッドが磁気ディスク10の表面に接触したことを示す。この場合は磁気ヘッドスライダが完全に墜落した状態である。一方、図5では縦軸に磁気ヘッドが振動を検出したときの測定環境気圧を示し、横軸に磁気ヘッドに印加されたDFHパワーを示している。またこのときの磁気ヘッドはAEが0.2V以上の振動を示した時点でタッチダウンとしており、磁気ヘッドスライダ自体は墜落していない。
【0045】
まず従来の方法に沿ってTDPを測定した。磁気ディスク10上に、磁気ヘッドをロードさせて、磁気ディスク10の回転の速度(周速)を10.0(m/sec)で固定した後に、気圧を760(Torr)から180(Torr)まで2(Torr/sec)刻みで減少させた。
【0046】
図4に示すように、磁気ディスクNo.1では、気圧206(Torr)のときに検出電圧が2Vとなっているため、気圧206(Torr)において磁気ヘッドが磁気ディスクNo.1の表面に墜落したことを示している。つまり磁気ディスクNo.1のTDPは206(Torr)である。同様に磁気ディスクNo.2からNo.4までのTDPを測定した結果、それぞれ244(Torr)、208(Torr)、230(Torr)となった。つまり磁気ディスクNo.1は磁気ディスクNo.2よりも低圧まで磁気ヘッドが浮上していることから、磁気ディスクNo.1は磁気ディスクNo.2に比べて良い浮上特性を示している。図4中の左向き矢印方向がより良い浮上特性であることを示している。一方で磁気ディスクNo.1と磁気ディスクNo.3はこのTDP測定からは特性に差は見えていない。順としてはNo. 1とNo. 3 が同等であり、次にNo.4、最後にNo.2の順で良い浮上特性となる。
【0047】
次に本発明の方法に従ってTDPを測定した。まず磁気ヘッドのDFHパワー1mWあたりのDFH突き出し量(nm)を測定したところ、DFHパワー1mWあたりのDFH素子変化量は0.1(nm)であった。なお、本実施例の信号強度の測定には日立ハイテクノロジーズ株式会社製のスピンスタンドを用いた。
【0048】
次に、磁気ディスク10上に、磁気ヘッドをロードさせて、磁気ディスク10の回転の速度(回転数)を5400(rpm)で固定した後に、DFHパワーを0 (mW)から1(mW / sec)刻みで減少させた。結果、磁気ディスクNo.1ではDFHパワー93.6(mW)において磁気ヘッドが磁気ディスクNo.1の表面に接触し、磁気ディスクNo.2では84.7(mW)、磁気ディスクNo.3では93.9(mW)、磁気ディスクNo.4では88.2(mW)にて接触を検知した。
【0049】
磁気ディスクNo.1においては浮上量1nm(バックオフ量1nm)としてDFHパワーを83.6mWに設定して、磁気ディスクNo.1の回転の速度(周速)を10.0(m/sec)で固定した後に、気圧を760(Torr)から2(Torr/sec)刻みで減少させた。磁気ディスクNo.1は磁気ヘッドの浮上量1nmにおいては気圧565(Torr)にて磁気ヘッドの接触を検知した。同様に浮上量2nmはDFHパワー73.6 mW, 浮上量3nmはDFHパワー 63.6mW, 浮上量4nmはDFHパワー 53.6mWに設定して、各TDPを測定した。以上の測定を磁気ディスクNo.2、No.3、No.4についても同様に行った。
【0050】
図5に各磁気ディスクについてのDFH-TDP測定結果を示している。この図では右側(図中の矢印方向)にいくほど(DFHパワーが大きいほど)RW素子が磁気ディスク表面に近づいていることを意味している。磁気ディスクNo.1、No.3が同等であるのに対して、No.2およびNo.4はDFHパワーが小さい。つまりDFH突き出し量が小さくても浮上が不安定になっていることを意味している。
【0051】
また、磁気ディスクNo.1とNo.3を比較すると、同浮上量においてNo.1の方がTDPが小さい。つまり同浮上量においてはNo.1のほうが気圧低下に対してのマージンがあることを意味している。
さらに磁気ディスクNo.4は浮上量1nmにおいて640Torrを示している。この値は環境気圧(ここでは760Torr)から130以下という基準値を満たしていない。ロードアンロード試験ではNo.4のみ不合格という結果が得られた。以下の表1に一覧を示している。
【0052】
【表1】

【0053】
以上のことから、DFH-TDP測定結果から浮上特性はNo.1, No.3, No.2の順で良好であることが確認された。またDFH-TDP試験で基準値を満たさなかったNo.4はロードアンロード試験で不合格となることが確認された。
【0054】
要するに、従来のTDP測定ではNo.1とNo.3は同等にしか見えていなかったが、本発明による評価方法によってはじめてNo.1とNo.3の浮上特性差を区別できることが示された。さらに基準値を設定することでNo.4は浮上特性が悪くロードアンロード試験で不合格となることが示された。つまり、本発明の評価方法によれば、特に超低浮上領域における磁気ディスクの浮上特性差を正確に評価することが可能となり、またロードアンロード試験とも相関を取ることが可能となる。結果、磁気ディスクの信頼性を高いレベルで評価することができる。
【0055】
なお、本発明は上記実施例には限定されず、適宜変更して実施することができる。上記実施例における材質、個数、サイズ、処理手順などは一例であり、本発明の効果を発揮する範囲内において種々変更して実施することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、垂直磁気記録方式のHDDなどに搭載される磁気ディスクに適用可能である。
【符号の説明】
【0057】
10 磁気ディスク
11 ディスク基板
12 磁気記録層
13 保護層
14 潤滑剤
20 磁気ヘッドのスライダ
21 熱電素子(DFH素子)
22 RW素子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
最上層に潤滑層を有する磁気ディスクの前記潤滑層を評価する磁気ディスクの評価方法であって、熱膨張によって突出するヘッド素子部を備えた磁気ヘッドにおけるDFHパワーに対する記録再生素子の突き出し量を測定するDFHパワー測定工程と、前記磁気ディスクを回転させて該磁気ディスクの上方に前記磁気ヘッドを浮上させた後、DFHパワーを徐々に増加させることで前記記録再生素子が前記磁気ディスク表面に接触した時点でのDFHパワーを測定するタッチダウン測定工程と、該タッチダウン測定工程により求めた前記磁気ディスク表面接触時のDFHパワーを所定量減少させた後、測定環境の気圧を徐々に減少させて前記磁気ヘッドが前記磁気ディスクの表面に接触する時の圧力を求めるタッチダウン気圧測定工程と、を含むことを特徴とする磁気ディスクの評価方法。
【請求項2】
前記DFHパワー測定工程により前記記録再生素子の突き出し変化量1nmに必要なDFHパワーを正確に求めることで、前記タッチダウン気圧測定時におけるDFHパワーの前記所定減少量を1nm〜4nmの範囲で規定することを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスクの評価方法。
【請求項3】
前記磁気ディスクは、起動停止機構がロードアンロード方式のハードディスクドライブ装置に用いられる磁気ディスクであることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気ディスクの評価方法。
【請求項4】
前記タッチダウン気圧測定とロードアンロード試験との間に相関があり、タッチダウン気圧の基準設定値以上ではロードアンロード試験が不合格となり、基準値未満の磁気ディスクを良品とすることを特徴とする請求項3に記載の磁気ディスクの評価方法。
【請求項5】
前記基準設定値は、DFHパワー所定減少量が1nmにおいて、環境気圧から130Torr以下であることを基準値とすることを特徴とする請求項4に記載の磁気ディスクの評価方法。
【請求項6】
前記磁気ディスクは、2.5インチ以下の直径を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の磁気ディスクの評価方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の磁気ディスクの評価方法による評価工程を含むことを特徴とする磁気ディスクの製造方法。
【請求項8】
基板上に少なくとも磁性層と、潤滑層とが形成された磁気ディスクであって、請求項4又は5に記載の磁気ディスクの評価方法により、前記タッチダウン気圧測定において、前記基準設定値を満足することを特徴とする磁気ディスク。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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