説明

磁気ディスク媒体及び磁気転写装置

【課題】製造コストの上昇を招くことなく、各磁気ディスク媒体を特定して転写条件毎の障害解析や品質管理を行う。
【解決手段】磁気転写により両面にプリフォーマットがなされる磁気ディスク媒体であって、表面と裏面とで、判定対象情報にあらかじめ対応づけられた所定の角度だけずれた位置に同一セクタ番号のセクタが配置されている。これを実現するため、磁気転写装置11は、前記第1マスタ媒体及び前記第2マスタ媒体を、当該第1マスタ媒体と当該第2マスタ媒体との相対角度をずらした状態で第1転写ホルダ及び第2転写ホルダに保持させる保持機構を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気ディスク媒体及び磁気転写装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気ディスク媒体を用いた磁気ディスク記録装置においては、各種情報が記録されるトラックの位置決めを行うためのサーボ信号や、各トラックを特定するためのアドレス信号、再生クロック信号がデータの未記録状態においても再生される必要がある。そこで、これらの信号を再生可能なように、磁気ディスク媒体の製造時において、いわゆるプリフォーマットが行われている。
【0003】
このプリフォーマットを正確にかつ高効率で行うために、マスタ媒体に担持された磁気パターンを磁気ディスク媒体に転写する磁気転写方法が広く知られている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
磁気ディスク媒体の両面に同時に磁気転写を行う磁気転写装置は、マスタ媒体をそれぞれ保持する一対のホルダを有し、ホルダに保持されたマスタ媒体は、磁気ディスク媒体を両面から挟み込んで密着状態とされる。そして、転写磁界を印加することにより磁気ディスク媒体には、サーボパターンが転写され、プリフォーマットがなされることとなっていた。
上記方法により製造されるプリフォーマットがなされた磁気ディスク媒体においては、表側のサーフェス(surface)及び裏側のサーフェスにおけるセクタ形成位置(及びセクタ番号)は、一致するようにされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−318946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記従来の磁気転写装置におけるプリフォーマットがなされた磁気ディスク媒体の製造管理において、転写条件毎の障害解析や品質管理を行うことを考えた場合には、各磁気ディスク媒体を転写条件毎に識別する必要がある。しかしながら、できあがった磁気記録媒体は全て同様の構成となっていた。したがって、そのままでは各磁気ディスク媒体を識別することができなかった。特に磁気ディスク媒体を磁気ディスク装置に組み込んだ後に、障害解析を転写条件と関連づけて行おうとする場合には、別途何らかの識別手段を設けたりする必要があった。この識別手段としては、例えば、磁気ディスク装置と磁気ディスク媒体を対応づけたデータベースを構築する、識別符号を磁気ディスク媒体に付加する等が考えられる。
いずれにしても、これらの手段を設けることは、製造コストの上昇につながるという問題点があった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、各磁気ディスク媒体を特定して転写条件毎の障害解析や品質管理を容易に行うことが可能な磁気ディスク媒体及び磁気転写装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の磁気ディスク媒体は、磁気転写により両面にプリフォーマットがなされる磁気ディスク媒体であって、表面と裏面とで、判定対象情報にあらかじめ対応づけられた所定の角度だけずれた位置に同一セクタ番号のセクタが配置されている。
【0009】
また、実施形態の磁気ディスク媒体は、磁気転写により両面にプリフォーマットがなされる磁気ディスク媒体であって、前記磁気ディスク媒体の両面の同一位置にセクタがそれぞれ形成されているとともに、同一位置に形成されたセクタのセクタ番号の差が、判定対象情報にあらかじめ対応づけられた所定の値となっている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、第1実施形態の磁気転写装置の第1の概略説明斜視図である。
【図2】図2は、第1実施形態の磁気転写装置の第2の概略説明斜視図である。
【図3】図3は、セクタオフセット値の設定説明図である。
【図4】図4は、磁気ディスク媒体を組み込んだ磁気ディスク装置の説明図である。
【図5】図5は、磁気ディスク装置の概要構成断面図である。
【図6】図6は、セクタオフセット判別範囲の設定説明図である。
【図7】図7は、磁気ディスク媒体の表面と裏面とで、同一位置に形成するセクタの番号を所定数ずらす場合の、セクタの形成状態の説明図である。
【図8】図8は、磁気ディスク媒体の表面と裏面とで、同一位置に形成するセクタの番号を所定数ずらす場合の、セクタオフセット値の判別処理の説明図である。
【図9】図9は、磁気転写装置にプリフォーマット対象の磁気ディスク媒体を待機位置で装着した場合の説明図である。
【図10】図10は、第2転写ホルダを磁気転写位置に移動させた場合の説明図である。
【図11】図11は、第1電磁石及び第2電磁石に電流を流した場合の動作説明図である。
【図12】図12は、第2実施形態の磁気転写装置の概略説明斜視図である。
【図13】図13は、第2実施形態の第2転写ホルダの正面図である。
【図14】図14は、第2実施形態の磁気転写装置において、第1マスタ媒体と、第2マスタ媒体との相対角度を変更する場合の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の磁気転写装置の第1の概略説明斜視図である。
図2は、第1実施形態の磁気転写装置の第2の概略説明斜視図である。
磁気転写装置11は、略円柱状の第1転写ホルダ12及び第2転写ホルダ13を備えている。この第1転写ホルダ12及び第2転写ホルダ13は、非磁性体により形成されている。ここで、第1転写ホルダ12は、第1マスタ媒体15を保持するマスタ媒体保持面12Aを有しており、第2転写ホルダ13は、第2マスタ媒体18を保持するマスタ媒体保持面13Aを有している。
【0012】
磁気転写装置11においては、マスタ媒体保持面12Aと、マスタ媒体保持面13Aとが、対向するように、第1転写ホルダ12及び第2転写ホルダ13が保持されている。この場合において、マスタ媒体保持面12A及びマスタ媒体保持面13Aは、例えば床面に直交する垂直面に沿って配置するようにされている。
【0013】
第1転写ホルダ12のマスタ媒体保持面12Aには、マスタ媒体用内径軸14が突設されている。このマスタ媒体用内径軸14には、第1マスタ媒体15が装着される。このとき、第1転写ホルダ12には、第1マスタ媒体15の取付基準位置を示すマークあるいはゲージが設けられている。
第1マスタ媒体15にあらかじめ設けられた取付基準位置マークを、第1転写ホルダ12に設けられた取付基準位置を示すマークあるいはゲージに合わせて装着することにより、第1マスタ媒体15は第1転写ホルダ12に所定状態で取り付けられる。
この場合において、取付基準位置マークとしては、例えば、所定のセクタ番号を有するセクタの形成予定位置等としている。また、所定状態とは、基準位置を一致させた状態、又は、所定角度若しくは所定セクタ数ずらした状態をいう。
【0014】
第1マスタ媒体15は、非磁性体で構成されたマスタ媒体本体と、マスタ媒体本体の表面に配置される磁性体パターンと、を備えて形成されている。磁性体パターンは、磁気ディスク媒体31の一方のサーフェス(本実施形態では、裏面)に確立されるサーボパターンの形状を反映している。第1マスタ媒体15を構成する磁性体パターンは、後述する磁気転写対象の磁気ディスク媒体31(図3参照)の裏面のサーボセクタ領域に確立されるサーボパターンの形状が反映されている。
【0015】
マスタ媒体用内径軸14には、後述する磁気転写対象の磁気ディスク媒体31が装着されて、保持される磁気ディスク媒体用内径軸16が形成されている。この磁気ディスク媒体用内径軸16は、例えば、軟磁性材料により形成される。また、マスタ媒体用内径軸14の軸心は、磁気ディスク媒体用内径軸16の軸心に一致している。
こうして第1マスタ媒体15の表面には磁気ディスク媒体31の裏面が重ね合わせられる。
【0016】
一方、第2転写ホルダ13のマスタ媒体保持面13Aには、図2に示すように、マスタ媒体用内径軸17が突設されている。このマスタ媒体用内径軸17には第2マスタ媒体18が装着される。このとき、第2転写ホルダ13には、第2マスタ媒体18の取付基準位置を示すマークあるいはゲージが設けられている。そして、第2マスタ媒体18にあらかじめ設けられた取付基準位置マークを、第2転写ホルダ13に設けられた取付基準位置を示すマークあるいはゲージに合わせて装着する。これにより、第2マスタ媒体18は、第2転写ホルダ13に所定状態で取り付けられる。ここで、所定状態とは、基準位置を一致させた状態、又は、所定角度若しくは所定セクタ数ずらした状態をいう。
また、第2マスタ媒体18は、第1マスタ媒体15に対向している。第1転写ホルダ12のマスタ媒体用内径軸14の軸心と、第2転写ホルダ13のマスタ媒体用内径軸17の軸心とは一致している。さらに第2マスタ媒体18の径は第1マスタ媒体15の径と同一に設定されている。
【0017】
第2マスタ媒体18は、第1マスタ媒体15と同様に、非磁性体で構成されたマスタ媒体本体と、マスタ媒体本体の表面に配置される磁性体パターンと、を備えて形成されている。磁性体パターンは、磁気ディスク媒体31の他方のサーフェス(本実施形態では、表面)に確立されるサーボパターンの形状を反映している。第2マスタ媒体18を構成する磁性体パターンは、後述する磁気転写対象の磁気ディスク媒体31(図3参照)の表面のサーボセクタ領域に確立されるサーボパターンの形状が反映されている。
【0018】
ここで、第1マスタ媒体15及び第2マスタ媒体18の第1転写ホルダ12あるいは第2転写ホルダ13に対する取り付け状態と、形成されるサーボパターン(特に、セクタ配置)との関係について説明する。
【0019】
本実施形態においては、第1マスタ媒体15あるいは第2マスタ媒体18を交換したり、磁気転写処理条件(磁束密度や、磁気転写時間等)を変更したりして、磁気転写条件が変更された場合には、障害解析や品質管理を行うために、版数管理を行っている。
すなわち、磁気転写条件が変更される毎に、版数を変更して管理を行っている。
【0020】
そして、版数を判別するために、磁気ディスク媒体31の表面と、裏面とで、形成する同一セクタ番号を有するセクタを所定角度ずらして配置し、あるいは、磁気ディスク媒体31の表面及び裏面に形成するセクタを鏡面対称状態に形成し、同一位置に形成するセクタの番号を所定数ずらしている。
【0021】
図3は、セクタオフセット値の設定説明図である。
例えば、磁気ディスク媒体31の表面と、裏面とで、形成する同一セクタ番号を有するセクタを所定角度ずらして配置する場合であって、図3に示すように、版数=0〜9の10版まで管理する場合には、以下の通りとなる。
例えば、版数=0の場合には、磁気ディスク媒体31の表面と、裏面との間のセクタオフセット設定値(セクタをずらす角度)は、5度、版数=1の場合には、セクタオフセット設定値=15度、…、版数=9の場合には、セクタオフセット設定値=95度のように10度ずつ、セクタオフセット設定値を変更するようにしている。したがって、例えば、版数=6である場合には、セクタオフセット値を65度に設定する。すなわち、第1マスタ媒体15及び第2マスタ媒体18は、基準位置のずれ量が65度となるように、第1転写ホルダ12あるいは第2転写ホルダ13に取り付けられることとなる。
【0022】
次に本実施形態の磁気ディスク媒体31を組み込んだ磁気ディスク装置について説明する。
図4は、磁気ディスク媒体を組み込んだ磁気ディスク装置の説明図である。
また、図5は、磁気ディスク装置の概要構成断面図である。
【0023】
磁気ディスク装置51は、筐体本体52を備えている。ここでは、説明の簡略化のため、筐体本体52の収容空間には、磁気ディスク媒体31が1枚収容されているものとする。
磁気ディスク媒体31は、スピンドルモータ54の回転軸に装着されている。
筐体本体52の収容空間には、さらにキャリッジ55が収容されている。このキャリッジ55は、支軸56に回転可能に支持されるキャリッジブロック57を備えている。キャリッジブロック57には、磁気ディスク媒体31の表面及び裏面に対してそれぞれ略平行に配置された一対のキャリッジアーム58が設けられている。
【0024】
各キャリッジアーム58の先端にはヘッドサスペンション59が取り付けられ、これらのヘッドサスペンション59の前端には、浮上ヘッドスライダ61が支持されている。
この浮上ヘッドスライダ61には、図示しない磁気ヘッドが搭載されている。
【0025】
各浮上ヘッドスライダ61には、磁気ディスク媒体31のサーフェスに向かってヘッドサスペンション59から押し付け力が作用する。これとともに、磁気ディスク媒体31がスピンドルモータ54に回転させられると、磁気ディスク媒体31表面で生じる気流の働きで浮上ヘッドスライダ61には浮力が作用する。この結果、ヘッドサスペンション59の押し付け力と浮上ヘッドスライダ61の浮力とのバランスで磁気ディスク媒体31の回転中には、浮上ヘッドスライダ61は浮上し続けることとなる。
【0026】
一方、キャリッジブロック57には、ボイスコイルモータ(VCM)62が動力源として接続されており、このVCM62の働きでキャリッジブロック57は支軸56を回動軸として、回動することができるようになっている。
【0027】
このキャリッジブロック57の回動に基づきキャリッジアーム58及びヘッドサスペンション59が揺動される。そして、浮上ヘッドスライダ61の浮上中に、支軸56に対して、キャリッジアーム58が揺動する。これらの結果、浮上ヘッドスライダ61は磁気ディスク媒体31の半径方向に、磁気ディスク媒体31の表面を横切る。したがって、磁気ディスク媒体31の複数のトラックの情報を磁気ヘッドにより読み書きすることができるようになっている。そして、磁気ディスク媒体31に形成された複数のサーボセクタから、セクタ番号を読み出すことが可能となっている。
【0028】
これにより、磁気ディスク媒体31が組み込まれた磁気ディスク装置51において、磁気ディスク媒体31の版数を判別する場合には、まず、磁気ディスク媒体31の一方の面で、基準とするいずれかのセクタ番号を読み出す。そして、当該読み出したセクタ番号と同一のセクタ番号を有するセクタが他方の面で検出されるまでのセクタオフセット値を検出する。つづいて、検出したセクタオフセット値がどのセクタオフセット範囲に属するかに基づいて版数を判別する。
【0029】
図6は、セクタオフセット判別範囲の設定説明図である。
図6に示すように、検出されたセクタオフセット値が、0度〜9度である場合には、版数=0となる。同様に、10〜19度である場合には、版数=1、…、90度〜99度である場合には、版数=9と判定する。例えば、検出されたセクタオフセット値が、66度であった場合には、版数=6と判定される。
【0030】
以上の説明は、磁気ディスク媒体31の表面と、裏面とで、形成する同一セクタ番号を有するセクタを所定角度ずらして配置する場合のものであった。以下においては、磁気ディスク媒体31の表面と、裏面とで、セクタ形成位置は同一とし、セクタ番号を変更する場合について説明する。
図7は、磁気ディスク媒体の表面と裏面とで、同一位置に形成するセクタの番号を所定数ずらす場合の、セクタの形成状態の説明図である。
【0031】
例えば、磁気ディスク媒体31の表面と、裏面とで、同一位置に形成するセクタの番号を(版数×10−1)ずらしたとする。これにより、版数=6の場合には、同一位置に形成されるセクタの番号は、59ずれることとなる。ここでは、このセクタ番号のずれをセクタオフセット値と呼ぶものとする。
【0032】
この結果、例えば、図7に示すように、磁気ディスク媒体31の表面に形成されたセクタの番号=0である場合に、裏面に形成されているセクタの番号=60となる。
【0033】
図8は、磁気ディスク媒体の表面と裏面とで、同一位置に形成するセクタの番号を所定数ずらす場合の、セクタオフセット値の判別処理の説明図である。
磁気ディスク装置51において、キャリッジアーム58、ヘッドサスペンション59及び浮上ヘッドスライダ61(磁気ヘッド)は、磁気ディスク媒体31の表面と裏面とで、対となっている。そして、磁気ディスク媒体31の表面側で、読み取ったセクタ番号=12であった場合に、ヘッドチェンジを行う。ヘッドチェンジの結果、磁気ディスク媒体31の裏面側で、読み取ったセクタ番号=74であったとする。このように、セクタ番号のずれであるセクタオフセット値=62であった場合には、例えば、図6のセクタオフセット検出値の単位を角度からセクタ番号に読み替えると、版数=6であると判別されることとなる。
【0034】
このように、本実施形態によれば、磁気ディスク媒体31の表面及び裏面から所定の条件でセクタ番号を読み出すことにより、ずれ角度あるいはセクタ番号のずれから容易に版数を特定できる。そして、版数管理に基づく、障害解析や品質管理を行うことが可能である。
【0035】
この版数検出は、上述したように、磁気ディスク媒体31が磁気ディスク装置51に組み込まれている場合に適用可能である。また、磁気ディスク媒体31を磁気ディスク装置51から取り外した場合であっても、セクタ番号さえ読み出すことが可能であれば、適用可能となっている。
【0036】
次に、磁気ディスク媒体31の表面と、裏面とで、形成する同一セクタ番号を有するセクタを所定角度ずらして配置し、あるいは、磁気ディスク媒体31の表面及び裏面に形成するセクタを鏡面対称状態に形成し、同一位置に形成するセクタの番号を所定数ずらしつつ、磁気転写を行う処理について説明する。
図1及び図2に示したように、第1転写ホルダ12及び第2転写ホルダ13には、着磁機構21が設けられている。
【0037】
着磁機構21は、電流の供給に応じて磁界を生成する第1電磁石22及び第2電磁石23を備えている。第1電磁石22及び第2電磁石23は、同一構成であり、磁性コア24と、磁性コア24に巻き付けられたコイル25と、を備えている。第1電磁石22及び第2電磁石23は、共働して磁気転写を行うための磁界を生成している。
【0038】
着磁機構21は、制御回路26の制御下で磁気転写を行うための磁界を生成している。そして、制御回路26は、第1電磁石22及び第2電磁石23に供給される電流の大きさや向きを個別に制御している。すなわち、制御回路26は、所定の制御プログラムに従って電流の大きさや向きを制御して、磁気転写を行うための磁界(磁力線)を制御する。
【0039】
磁気転写装置11において、第1転写ホルダ12及び第1電磁石22は、固定設置されている。一方、第2転写ホルダ13及び第2電磁石23は、第1転写ホルダ12及び第1電磁石22に対して相対的に離接可能に移動することができる。すなわち、第2転写ホルダ13はマスタ媒体用内径軸17の軸心に沿った矢印AX方向に沿って移動することができる。こういった第2転写ホルダ13の移動は、例えば、図示しない案内レールの案内に基づき実現される。
【0040】
図9は、磁気転写装置にプリフォーマット対象の磁気ディスク媒体を待機位置で装着した場合の説明図である。
図10は、第2転写ホルダを磁気転写位置に移動させた場合の説明図である。
本実施形態においては、第2転写ホルダ13は、所定の待機位置及び磁気転写位置の間で移動することができる。所定の待機位置においては、図3に示すように、第1転写ホルダ12と、第2転写ホルダ13と、の間には所定の間隔が確保される。この状態において、第1転写ホルダ12の磁気ディスク媒体用内径軸16に、プリフォーマット前の磁気ディスク媒体31が装着される。
【0041】
一方、第2転写ホルダ13及び第2電磁石23が所定の待機位置から第1転写ホルダ12に向かって移動すると、第1転写ホルダ12及び第2転写ホルダ13は、図10に示すように、所定の磁気転写位置で結合状態となる。こうして第1転写ホルダ12及び第2転写ホルダ13内で、第1マスタ媒体15及び第2マスタ媒体18は、磁気ディスク媒体31を挟み込むことができる。
【0042】
次に、磁気ディスク媒体31にサーボパターンを書き込むためにプリフォーマットを行う場合について説明する。
まず、図9に示したように、第2転写ホルダ13及び第2電磁石23が所定の待機位置にある状態で、第1転写ホルダ12の磁気ディスク媒体用内径軸16に、初期化された磁気ディスク媒体31が装着される。これにより、磁気ディスク媒体31の裏面は、第1マスタ媒体15の表面に重ね合わせられる。
【0043】
図11は、第1電磁石及び第2電磁石に電流を流した場合の動作説明図である。
続いて、制御回路26は第1電磁石22及び第2電磁石23に電流の供給を開始する。
【0044】
第1電磁石22及び第2電磁石23に電流が供給されると、例えば、図11に示すように、第1電磁石22から第2電磁石23に向かって磁力線32が生成される。
これにより、第1電磁石22及び第2電磁石23の間には磁気的引力が発生する。そして、第2電磁石23及び第2転写ホルダ13は、待機位置から磁気転写位置に向かって図示しない案内レールにより案内されて移動する。
【0045】
そして、第1転写ホルダ12及び第2転写ホルダ13は、図10に示したように、所定の磁気転写位置で結合状態となる。すなわち、第1マスタ媒体15及び第2マスタ媒体18は、磁気ディスク媒体31を挟み込んで、磁気ディスク媒体31の両面にそれぞれ接触状態となり、位置決めされる。
【0046】
この状態で、第1電磁石22及び第2電磁石23に電流を流し続けると、第1電磁石22と、第2電磁石23との間には、磁気的引力が維持される。そして、第1マスタ媒体15の表面は磁気ディスク媒体31の裏面に密着される。この結果、第1マスタ媒体15の磁性体パターンは、磁気ディスク媒体31の裏面に密着する。そして、磁力線32の働きで、磁気ディスク媒体31の裏面では第1マスタ媒体15の磁性体パターンに密着する領域で上書き磁化される。こうして磁気ディスク31の裏面の磁性体パターンに密着した領域では、磁力線32の向きとは反対向きに磁化される。
【0047】
同様に、第2マスタ媒体18の表面は磁気ディスク媒体31の表面に密着される。この結果、第2マスタ媒体18の磁性体パターンは、磁気ディスク媒体31の表面に密着する。そして、磁力線32の働きで、磁気ディスク媒体31の表面では第2マスタ媒体18の磁性体パターンに密着する領域で上書き磁化される。こうして磁気ディスク31の表面の磁性体パターンに密着した領域では、磁力線32の向きとは反対向きに磁化される。
このようにして、磁気ディスク媒体31の表裏面にはサーボパターンが書き込まれる。
【0048】
その後、制御回路26は、第1電磁石22及び第2電磁石23への電流供給を停止させる。
これにより、第1電磁石22と、第2電磁石23と、の間の磁気的引力は消滅する。したがって、第2転写ホルダ13と第1転写ホルダ12との結合が解かれて、第2転写ホルダ13は、磁気転写位置から待機位置に移動可能となる。なお、このとき、第1電磁石22及び第2電磁石23に、第1転写ホルダ12及び第2転写ホルダ13を、結合する場合とは、逆向きの電流を供給するようにしてもよい。これにより、第1電磁石22と、第2電磁石23と、の間の磁気的斥力により、待機位置に向かって、第2転写ホルダ13が移動を開始することとなる。
【0049】
その後、オペレータあるいは図示しないディスク脱着装置は、磁気ディスク媒体31を、第1転写ホルダ12から取り外すこととなる。
その後、オペレータあるいは図示しないディスク脱着装置は、磁気ディスク媒体用内径軸16に、初期化された新しい磁気ディスク31を装着し、同様の磁気転写の処理が繰り返されることとなる。
【0050】
以上の説明のように、本第1実施形態の磁気転写装置11によれば、磁気ディスク媒体31の表面と、裏面とで、形成する同一セクタ番号を有するセクタが所定角度ずらして配置される。あるいは、磁気転写装置11は、磁気ディスク媒体31の表面及び裏面に形成するセクタを鏡面対称状態に形成し、同一位置に形成するセクタの番号が所定数ずれるようにする。このように構成するだけで、磁気ディスク媒体31の製造コストの上昇を招くことなく、各磁気ディスク媒体31を特定して転写条件毎の障害解析や品質管理を容易に行うことができる。
【0051】
(第2実施形態)
上記第1実施形態においては、磁気ディスク媒体31の表面と、裏面とで、形成する同一セクタ番号を有するセクタを所定角度ずらして配置した。あるいは、第1実施形態においては磁気ディスク媒体31の表面及び裏面に形成するセクタを鏡面対称状態に形成し、同一位置に形成するセクタの番号を所定数ずらしていた。
【0052】
そして、第1実施形態においては、上記構成のために、オペレータが、第1マスタ媒体15及び第2マスタ媒体18を第1転写ホルダ12あるいは第2転写ホルダ13に取り付けるに際して、これらのずれを設定していた。
しかしながら、本第2実施形態は、第1マスタ媒体15及び第2マスタ媒体18を第1転写ホルダ12あるいは第2転写ホルダ13の所定の取り付け基準位置に取り付け、磁気転写装置側でずれ量を設定できるようにする場合の実施形態である。
【0053】
図12は、第2実施形態の磁気転写装置の概略説明斜視図である。
図12において、図1と同様の部分には、同一の符号を付し、その詳細な説明を援用する。
第2実施形態の磁気転写装置11Aが、第1実施形態の磁気転写装置11と異なる点は、第2転写ホルダ13Xに、あらかじめ設定した回動位置で、固定保持可能な回動軸71が接続されて、第2マスタ媒体18において、所望の回動量を得ることができるようにし、この回動量を制御回路26Aで制御できるようにした点である。
【0054】
図13は、第2実施形態の第2転写ホルダの正面図である。
この構成によれば、図13に示すように、第2マスタ媒体18の側縁部あるいは周縁部に形成した図示しない位置合わせマークを第2転写ホルダ13Xの取付基準位置マークRMに合わせて取り付けるだけでよい。そしてこの構成によれば、制御回路26Aの制御下で所望の回動角RXを設定することができる。したがって、同一の第1マスタ媒体15及び第2マスタ媒体18を使用して、磁気転写の処理を行っており、途中から磁気転写条件を変更した場合等には、第1マスタ媒体15と、第2マスタ媒体18との相対角度を変更することができる。
したがって、磁気ディスク媒体31の表面と、裏面とで、形成する同一セクタ番号を有するセクタを所定角度ずらして配置することが容易に行える。あるいは、磁気ディスク媒体31の表面及び裏面に形成するセクタを鏡面対称状態に形成し、同一位置に形成するセクタの番号を所定数ずらすことが容易に行える。
【0055】
図14は、第2実施形態の磁気転写装置において、第1マスタ媒体と、第2マスタ媒体との相対角度を変更する場合の説明図である。
本第2実施形態においては、第2転写ホルダ13Xは、所定の待機位置及び磁気転写位置の間で矢印AX方向に移動することができるとともに、矢印RX方向に回動させることができる。したがって、所定の待機位置において、第1電磁石22及び第2電磁石23への電流強を遮断した状態で、制御回路26Aにより図示しない駆動装置により回動軸71を回動させることにより、第1マスタ媒体15と、第2マスタ媒体18との相対角度を変更し、回動状態を保持、固定することとなる。
【0056】
そして、図14に示すように、第1転写ホルダ12の磁気ディスク媒体用内径軸16に、プリフォーマット前の磁気ディスク媒体31を装着して、第2転写ホルダ13X及び第2電磁石23を所定の待機位置から第1転写ホルダ12に向かって移動させる。さらに、第1転写ホルダ12及び第2転写ホルダ13X内で、第1マスタ媒体15及び第2マスタ媒体18により磁気ディスク媒体31を挟み込む。
これにより、磁気ディスク媒体31の表面と、裏面とで、形成する同一セクタ番号を有するセクタを所定角度ずらして配置することが可能となる。あるいは、磁気ディスク媒体31の表面及び裏面に形成するセクタを鏡面対称状態に形成し、同一位置に形成するセクタの番号を所定数ずらすことが可能となる。
【0057】
以上の説明のように、本第2実施形態によれば、第1実施形態の効果に加えて、版数の変更を容易に行うことができる。
【0058】
(実施形態の変形例)
以上の各実施形態においては、セクタパターンの形成位置の制御を行っていたが、マスタ媒体に磁気ディスク装置において、最終パターンを記録する構成を採り、最終パターンを記録するに際して用いるリライト用シードパターンについて、同様の処理を行うように構成することも可能である。
【0059】
この場合において、リライト用シードパターンは、リライトを行うことにより消去されてしまう場合には、リライトまでの版数管理が行えることとなる。また、リライト後も、磁気ディスク媒体の周縁部等にリライト用シードパターンが残る場合には、それらを読み取ることによって、リライト以降も版数管理を行うことが可能となる。
【0060】
以上の各実施形態においては、セクタオフセット値に対応づける判定対象情報として、版数の場合を例として説明した。しかしながら、版数のみならず、磁気転写時の磁界強度等の転写条件、転写機を特定するための転写機ID情報等を含めた任意の情報を判定対象情報として、対応付けするように構成することも可能である。
【0061】
また、本実施形態の制御回路26は、CPU等の制御装置と、ROM(Read Only Memory)やRAM等の記憶装置と、HDD、CDドライブ装置等の外部記憶装置と、ディスプレイ装置等の表示装置と、キーボードやマウス等の入力装置を備えており、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成を採っている。
【0062】
そして、本実施形態の制御回路26で実行される版数等の管理制御プログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD−ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD−R、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供されるようにしてもよい。
【0063】
また、本実施形態の制御回路26で実行される管理制御プログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせる等、ネットワーク経由で提供又は配布するように構成しても良い。
また、本実施形態の管理制御プログラムを、ROM等に予め組み込んで提供するように構成してもよい。
【0064】
なお、本発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成することができる。例えば、実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせても良い。
【符号の説明】
【0065】
11、11A 磁気転写装置
12 第1転写ホルダ
12A マスタ媒体保持面
13、13X 第2転写ホルダ
13A マスタ媒体保持面
14 マスタ媒体用内径軸
15 第1マスタ媒体
16 磁気ディスク媒体用内径軸
17 マスタ媒体用内径軸
18 第2マスタ媒体
21 着磁機構
22 第1電磁石
23 第2電磁石
24 磁性コア
25 コイル
26、26A 制御回路
31 磁気ディスク媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気転写により両面にプリフォーマットがなされる磁気ディスク媒体であって、
表面と裏面とで、判定対象情報にあらかじめ対応づけられた所定の角度だけずれた位置に同一セクタ番号のセクタが配置されていることを特徴とする磁気ディスク媒体。
【請求項2】
前記所定の角度は、同一面で隣設された二つのセクタの間の角度のn倍(nは、自然数)とされていることを特徴とする請求項1記載の磁気ディスク媒体。
【請求項3】
前記判定対象情報は、磁気転写の版数であり、
前記所定の角度は、前記版数が同一の場合には、同一角度とされ、前記版数が異なる場合には、異なる角度とされている、ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の磁気ディスク媒体。
【請求項4】
前記セクタ番号は、シードパターンに対応するものであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の磁気ディスク媒体。
【請求項5】
磁気転写により両面にプリフォーマットがなされる磁気ディスク媒体であって、
前記磁気ディスク媒体の両面の同一位置にセクタがそれぞれ形成されているとともに、同一位置に形成されたセクタのセクタ番号の差が、判定対象情報にあらかじめ対応づけられた所定の値となっていることを特徴とする磁気ディスク媒体。
【請求項6】
前記判定対象情報は、磁気転写の版数であり、
前記所定の値は、前記版数が同一の場合には、同一値とされ、前記版数が異なる場合には、異なる値とされている、ことを特徴とする請求項5記載の磁気ディスク媒体。
【請求項7】
磁気ディスク媒体の一方の面に磁気転写を行うための第1マスタ媒体を保持する第1転写ホルダと、
前記磁気ディスク媒体の他方の面に磁気転写を行うための第2マスタ媒体を保持する第2転写ホルダと、
磁気転写時に前記磁気ディスク媒体の表面と裏面とで、判定対象情報にあらかじめ対応づけられた所定の角度だけずれた位置に同一セクタ番号のセクタが配置されるように前記第1マスタ媒体及び前記第2マスタ媒体を、前記第1転写ホルダ及び前記第2転写ホルダに保持させ、あるいは、磁気転写時に前記磁気ディスク媒体の両面の同一位置にセクタがそれぞれ形成されるとともに、同一位置に形成されたセクタのセクタ番号の差が、判定対象情報にあらかじめ対応づけられた所定の値となるように、前記第1マスタ媒体及び前記第2マスタ媒体を、前記第1転写ホルダ及び前記第2転写ホルダに保持させる保持機構と、
を備えたことを特徴とする磁気転写装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−138137(P2012−138137A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288458(P2010−288458)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)