説明

磁気ディスク用基板

【目的】 生産性に優れ、溝の加工精度が良好な磁気ディスク用基板とする。
【構成】 例えば、フロッピーディスク用の可撓性基板10を作製する際、表面を親水化処理した、例えばPET等の非磁性基体上に、塩化ビニルが80〜92モル%で、酢酸ビニルが8〜20モル%の主骨格を有する塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー層を形成した非磁性基体100を順次繰り出して、加熱下スタンパ21をプレスし、スタンパ21の溝を前記コポリマー層に転写して溝を形成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、磁気ディスク用基板に関する。
【0002】
【従来の技術】溝を有する磁気ディスクの場合、溝内では磁気ヘッドからの距離が大きくなって分離損による減磁が増大するため、隣接する記録トラックを溝にて分離でき、トラック記録密度が高いときでもクロストークを防止することができる。
【0003】このような磁気ディスクは、溝を形成した基板を用い、この基板上に磁性層を形成して得られている。
【0004】このような溝付きの磁気ディスク用基板において、溝を機械的に作成する方法としては、例えば特開昭54−12806号に開示されているように、無変調のカッタでラッカ板をオーバーカッティングし、このラッカ板を用いてこのラッカ板と同形のスタンパを形成し、このスタンパにて磁気ディスク用基板を作成するものがある。
【0005】しかし、このような方法では、1μm 程度の超挟幅の溝の形成は不可能である。また、作成される基板は1枚ずつの枚葉式となるため、生産効率を急激に向上させることはできない。さらに、このような方法は、フロッピーディスク用のように、100μm 以下の比較的薄い基板から、ハードディスク用のように、1.2mm程度の比較的リジッドな基板までは、同一方法で得ることはできないという欠点を有する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、生産性に優れ、溝の加工精度がよい磁気ディスク用基板を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】このような目的は、下記(1)〜(5)の本発明により達成される。
【0008】(1)非磁性基体の表面を親水化処理して水に対する接触角を低下させ、この親水化処理した基体上に、塩化ビニルが80〜92モル%で、酢酸ビニルが8〜20モル%の主骨格を有する塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマーの層を形成し、この層に溝付き原盤の溝を転写し、溝を形成して得たことを特徴とする磁気ディスク用基板。
【0009】(2)前記塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー層の乾燥膜厚が3〜12μm である上記(1)に記載の磁気ディスク用基板。
【0010】(3)前記親水化処理により非磁性基体表面の水に対する接触角が40度以下となる上記(1)または(2)に記載の磁気ディスク用基板。
【0011】(4)前記溝形成面上に連続薄膜の磁性層を形成した磁気ディスクを得るのに用いる上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の磁気ディスク用基板。
【0012】(5)前記連続薄膜の磁性層を形成するに際し、前記溝形成後、前記塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー層上にプラズマ重合膜を設ける上記(4)に記載の磁気ディスク用基板。
【0013】
【具体的構成】以下、本発明の具体的構成について詳細に説明する。
【0014】本発明の磁気ディスク用基板を得るには、まず、非磁性基体上に塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー層を形成する。
【0015】この場合、非磁性基体の塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー層形成面の親水化処理する。
【0016】そして、このような非磁性基体上にコポリマー層を形成した後、所定の溝を有する溝付き磁気記録ディスク用基板を得る。
【0017】このような工程を経ることによって、所定の溝を形成することができる。すなわち、1μm 程度の超挟幅の溝の形成も可能となる。また、コポリマー層を形成した非磁性基体を連続的に搬送させて原盤による溝形成を連続的に行なうことができ、量産可能となる。
【0018】さらに、このような同一の方法により、フロッピーディスクのような比較的薄い基板からハードディスクのような比較的リジッッドな基板まで、いずれにおいても溝の形成が可能となり、本発明の適用範囲は広範である。
【0019】本発明に用いる塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマーは、塩化ビニルが80〜92モル%、好ましくは85〜90モル%で、酢酸ビニルが8〜20モル%、好ましくは10〜15モル%の主骨格を有するものである。
【0020】このものは塗布溶媒の選択の巾が広く、非磁性基体上への塗布が容易で、製造上好ましい。
【0021】また、このような成分構成のコポリマーを用いることによって、非磁性基体とコポリマー層との接着が強固になり、溝付き基板とする上で好ましい。さらには、用いる溝付き原盤(スタンパ)の寿命が長くなり、また、スタンパからの溝の転写を確実に行なうことができる。
【0022】なお、上記のコポリマーは、上記の主骨格を有するものであれば、一部変性したものであってもよい。
【0023】さらには、上記成分のほかに、これとは異なる第三成分を含むものであってもよく、第三成分としては、ビニルアルコール、ブタジエン、ウレタン等から誘導されるものが挙げられ、塩化ビニルと酢酸ビニルとの合計を100モル%としたとき、これに対し1〜10モル%の割合とするのがよい。さらには、ポリビニルアルコール、ポリブタジエン、ポリウレタン等のポリマーをこのような割合で混合してもよい。
【0024】本発明の磁気ディスク用基板は、フロッピーディスク用の可撓性基板あるいはハードタイプの磁気ディスク用の剛性基板として用いるものである。
【0025】フロッピーディスク用の可撓性基板に用いる非磁性基体の材質に特に制限はなく、強磁性金属薄膜成膜時の熱に耐える各種フィルム、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などを用いることができる。また特開昭63−10315号公報に記載の各材料が使用可能である。
【0026】このときの樹脂製の非磁性基体の寸法は目的に応じて選定すればよいが、通常、厚さ30〜100μm 程度、直径60〜130mm程度である。
【0027】一方、ハードタイプの磁気ディスク用の剛性基板とする時は、ガラス、アルミニウム、樹脂のいずれであってもよい。基板が剛性であるとは、基板のヤング率をE、厚さをtとしたとき、E・t3 ≧1×107 dyncm、より好ましくはE・t3 ≧3×107 dyncmであることをいう。
【0028】このとき用いる樹脂には特に制限がなく、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、放射線硬化性樹脂等いずれの樹脂を使用してもよい。
【0029】この場合、非磁性基体をキャスティング法で成型する場合は、例えば、ポリウレタン、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリアミド、シリコーン樹脂、ポリエステルおよびこれらの変性体等が使用できる。
【0030】インジェクション法で成型する場合は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリカーボネート、、ポリアセタール、ポリエステル、ポリサルホン、ポリオキシベンジレン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキサイド、ポリケトンサルファイド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルイミド、ポリエーテルイミド、ポリオレフィン、アモルファスポリオレフィンおよびこれらの変性体等が使用できる。
【0031】このときの樹脂製の非磁性基体の寸法は目的に応じて選定すればよいが、通常、厚さ0.8〜1.9mm程度、直径60〜130mm程度である。
【0032】このような非磁性基体を用いて、前述のコポリマー層を形成するに当たり、非磁性基体表面を親水化処理するが、親水化処理には特に制限はなく、基体表面の水に対する接触角を低下させるような処理のいずれをも用いることができる。
【0033】このような処理によって、非磁性基体とコポリマー層との接着性が向上し、溝の転写が確実となる。
【0034】この場合、基体表面の水に対する接触角は40度以下、さらには30度以下、とすることが好ましい。親水化という観点から接触角は小さいほど好ましい。
【0035】このような親水化処理にはプラズマ処理、コロナ処理等がある。
【0036】このなかで、プラズマ処理の場合は、処理ガスとして酸素、窒素等の無機ガスを用いて行なえばよい。また、プラズマ処理条件には特に制限はなく、電極配置、印加電流、処理時間、動作圧力等は、通常のプラズマ処理条件と同様とすればよい。通常、動作圧力は0.01〜1Torr程度とする。また、処理ガスの流量は5〜100SCCMとすればよい。
【0037】プラズマ処理電源の周波数については、特に制限はなく、直流〜マイクロ波までのいずれであってもよい。
【0038】また、コロナ処理を用いる場合も、通常の方法に従えばよい。
【0039】コポリマー層は、前記の塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマーの塗布液を用いて形成する。
【0040】このときの塗布溶媒としては、このようなコポリマーを溶解するものであって非磁性基体を侵さないものであれば特に制限はなく、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン等の低沸点で低極性の溶媒を用いることができ、なかでもメチルエチルケトン等を用いることが好ましい。
【0041】また、塗布溶液の濃度は10〜30wt% 、好ましくは15〜25wt% 程度とすればよい。
【0042】塗布方法にも特に制限はなく、公知のいずれの方法によってもよく、グラビアロールコート法、リバースロールコート法、スピンコート法等によることが好ましい。この場合の塗布条件等も公知の方法によってよい。
【0043】このようにして形成されるコポリマー層の膜厚は、乾燥膜厚で、3〜12μmである。フロッピーディスク用の可撓性基板の場合3〜7μm 、好ましくは4〜6μm とすればよく、ハードタイプの磁気ディスク用の剛性基板の場合3〜10μm 、好ましくは5〜8μm とすればよい。膜厚をこのような範囲にすることによって、溝の転写を確実に行なうことができる。これに対し、膜厚があまり大きくなると、プレス時に剥離等が起こるなど製造上好ましくなく、膜厚が小さくなりすぎると溝の転写を行なうことができない。
【0044】なお、膜厚は、マイクロメータ等により測定すればよく、通常は、非磁性基体とコポリマー層とを合計した全体厚から非磁性基体の厚さを引き算して算出する。
【0045】次に、前記コポリマー層を形成した非磁性基体に対し、溝付き原盤(スタンパ)を用い、溝付き原盤をコポリマー層にプレスすることによって溝を形成する。
【0046】このときの原盤の材質には特に制限はないが、通常金属製のものとすればよく、なかでも、入手のしやすさ、コスト面、メッキが可能なことなどの点からNi製とすればよい。
【0047】また、プレスの際には加熱することが好ましい。
【0048】プレス圧力は、フロッピーディスク用可撓性基板の場合130〜250kg/cm2、好ましくは140〜220kg/cm2、ハードタイプの磁気ディスク用の剛性基板の場合200〜300kg/cm2、好ましくは230〜250kg/cm2とすればよい。
【0049】このようなプレス圧力とすることによって、溝の転写を確実に、また精度よく行なうことができる。圧力があまり大きくなると、プレス機を大型化する必要が出てきて高価になるとともに精度の面で劣るものとなって好ましくなく、圧力が小さくなりすぎると、溝の転写を確実に行なうことができない。
【0050】加熱温度は140〜250℃、好ましくは170〜200℃とすればよい。このような加熱温度とすることによって、ポリマーが適度に移動する状態となり、プレスが容易となる。
【0051】温度があまり高くなると、変形が生じやすくなり、温度があまり低くなると溝の転写を行なうことができなくなる。
【0052】また、溝の形状は、スタンパの溝の形状を選択することにより、これに応じて、所定のものとすることができる。
【0053】通常、溝は同心形状、スパイラル状等に形成され、溝幅、深さ、溝のピッチ等は記録密度、記録材料に合わせて適宜選択すればよい。
【0054】本発明では、1μm 程度の超狭幅の溝であっても精度よく形成することができ、溝幅、深さの両方とも、スタンパの溝との比較において、±10%未満とすることができ、不良品の発生が少なくなり、歩留りが向上する。
【0055】本発明において、コポリマー層を形成した非磁性基体に対し、溝を形成する装置の一構成例が図1に示されている。
【0056】図示の装置1は、非磁性基体としてPET等を用いたフロッピーディスク用基板を作製するものである。
【0057】装置1は、所定形状の溝を形成するスタンパ部2を有し、コポリマー層を形成した非磁性基体100をロール状に収納し、かつこれを順次繰り出して供給する基体供給部3、および溝を形成した後の基板10を収納する基板収納部4を有する。
【0058】スタンパ部2は所定形状の溝を有するスタンパ21と、スタンパ21を所定温度に加熱する加熱部23とを備え、スタンパ21の下方には、溝形成に際して、スタンパ21と対をなして基体100を挟持する下型25が設置されている。
【0059】下型25は常温下に設置してよく、また冷却してもよい。
【0060】図1の構成において、基体100は基体供給部3から順次繰り出され、スタンパ部2でスタンパ−21により、加熱下プレスされる。これにより、連続的に溝を形成することが可能となる。
【0061】このようにして溝が形成された後の基板10は巻き取られて基板収納部4に収納される。
【0062】このようにして溝が形成された基板10は、フロッピーディスク用の可塑性基板として用いられる。この場合、基板は、ディスク状に打ち抜いてから磁性層を形成してもよく、磁性層等を形成し、全層を設層してから打ち抜いてもよい。
【0063】前者のプレスと同時に打ち抜く方法を採る場合、枚葉式スパッタ装置を用いて両面同時に磁性層を成膜することができ、打ち抜く際の位置合わせの手間を省くことができる。
【0064】後者の全層を設層してから打ち抜く方法を採る場合、予めスタンパ21に位置合わせガイド用溝を形成しておき、図2に示すように、基板10の磁性層形成区域の記録・再生部10A 外の区域10Bに、スタンパ21に対応して位置合わせガイド用溝105を形成することが好ましい。すなわち、このような溝105は、図示のように、ディスク状のものおいて120°間隔で3か所に設けることが好ましい。このような方法では溝および磁性層等の形成を連続的に行なうことができ、有利である。
【0065】このような方法によって得られるフロッピーディスクの一構成例が図3に示されている。
【0066】図3に示すように、フロッピーディスク5は、前記のようにして溝31が形成された基板10上に、下地膜13および下地層14を介して磁性層15を有する。そして、磁性層15上にはトップコート膜16が設けられている。
【0067】必要に応じ、図3に示すように設けられる下地層14の材質は、磁性層15に応じて、面内および垂直方向に磁化容易軸が配向する金属、金属化合物、または合金を選択して用いればよい。具体的にはCr、Mo、パーマロイなどを挙げることができ、後述のハードタイプの磁気ディスクの下地層と同様である。下地層14の膜厚は500〜10000A (0.05〜1μm )程度とする。
【0068】また、このような金属下地層14と基板10との間には、プラズマ重合膜の下地膜13を設けることが好ましい。このようなプラズマ重合膜の下地膜13を設けることによって、磁性層15や下地層14と基板10との接着性が良好となり、耐久性が向上する。また、例えばスパッタ等により下地層14や磁性層15を形成する場合、溝の形状が熱変形を受けることがないなどの利点もある。
【0069】プラズマ重合膜の下地膜13の膜厚は50〜300A 程度とする。
【0070】磁性層15は、連続薄膜型であれば特に制限はなく、磁性層15を構成する各強磁性金属薄膜は、例えば、Fe、CoおよびNiから選ばれる1種以上を含有する連続薄膜、特にCo系の連続薄膜で構成すればよい。
【0071】磁性層の組成の具体例としては、Co−Ni合金、Co−Ni−Cr合金、Co−V合金、Co−Ni−P合金、Co−P合金、Co−Zn−P合金、Co−Ni−Pt合金、Co−Pt合金、Co−Ni−Mn−Re−P合金等が挙げられる。
【0072】さらに、必要に応じて少量の酸素を各層の表面層に含有させたり、この他非磁性層を介在させたりして、耐食性等を向上させることができる。
【0073】磁性層15の厚さは、0.03〜0.2μm 程度であることが好ましい。このとき出力を十分に大きくすることができる。
【0074】磁性層15は、蒸着、スパッタ、イオンプレーティング、CVD等の各種気相成膜法にて成膜すればよいが、特にスパッタにて成膜することが好ましい。
【0075】スパッタにて成膜する場合、スパッタの方式、装置等には特に制限がなく、また諸条件もスパッタ方式等に応じて適宜決定すればよい。
【0076】例えば、DC−マグネトロンスパッタの場合、動作圧力は、0.1〜10Pa程度とし、Ar等の不活性ガス雰囲気下で行なえばよい。また、磁性層15の表面を硬化する場合は、O2 を含むガス雰囲気とすればよい。
【0077】また、磁性層15上に、図3に示すように、必要に応じトップコート膜16が設けられるのが、プラズマ重合膜であることが好ましい。このときのトップコート膜16の膜厚はスペーシングロスの点から10〜200A とするのがよい。このほか、潤滑保護膜を別途設けてもよい。
【0078】この場合、前記基板10上の溝31によって、ディスク最上面に凹凸が形成されるが、この凹凸によって、溝トラッキングによるトラック密度の向上、ヘッドとの接触面積が減少することによる耐久性の向上等の効果が得られる。
【0079】以上においては、本発明を、フロッピーディスク用の可撓性基板として用いる好ましい場合について説明してきたが、ハードタイプの磁気ディスクの剛性基板に用いることができる。
【0080】この場合、ディスク状の非磁性基体を用いてスピンコート法により前記コポリマー層を形成し、ベルトコンベアに下型をのせ、その上にコポリマー層を形成した非磁性基体を置き、上型の下に基体が位置したときプレスするなどして溝を形成することが好ましい。
【0081】ハードタイプの磁気ディスクとする場合、その層構成等は図3と同様であり、前記のうち剛性基板を用いる点で大きく異なるのみである。
【0082】磁性層は、連続薄膜型であれば特に制限がなく、この場合の磁性層は原則としてフロッピーディスクと同様とすればよく、製法も同様とすればよい。
【0083】磁性層の膜厚は、再生出力および保磁力の点から0.03〜0.2μm が好ましい。
【0084】基板と、磁性層との間には、必要に応じて、エピタキシャル成長を良好に行ない、磁気特性を向上させる目的で下地層が設けられる。
【0085】下地層は、例えば、フロッピーディスクの下地層と同様に、Cr、MoおよびWから選ばれる1種以上を含有する連続薄膜にて構成すればよい。この場合、用いる金属は単体でも合金でもよい。下地層の膜厚は、磁性層の配向性および結晶性を良化する目的で0.05〜0.5μm が好ましい。
【0086】なお、これら合金には、必要に応じ、O、N、Si、Al、Mn、Ar、B、C等の他の元素が20重量%程度以下含有されていてもよい。
【0087】下地層は、前述した磁性層と同様、蒸着、スパッタ、イオンプレーティング、CVD等の各種気相成膜法にて成膜すればよく、特にスパッタにて成膜することが好ましい。
【0088】磁性層上には、必要に応じて、さらに保護層や図示しない有機系潤滑膜等を設けてもよい。また、フロッピーディスクと同様に、基板と下地層や磁性層との間にプラズマ重合膜を介在させてもよく、同様の効果が得られる。
【0089】この場合、前記基板上のグルーブによって、ディスク最上面に凹凸が形成され、磁気ディスクと磁気ヘッド間の潤滑性がより一層向上し、このためCSS耐久性が向上する。また、トラック密度が向上する。
【0090】保護層は、通常炭素あるいは炭素に他の元素を5重量%程度以下添加したもので構成され、その膜厚は、0.03〜0.1μm 程度とすればよい。
【0091】また、潤滑膜は、通常フッ素系液体潤滑剤等にて構成され、その膜厚は5〜20A 程度とすればよい。
【0092】なお、保護層等は、各種気相成膜法、特にスパッタにて成膜すればよい。
【0093】また、潤滑膜等は、ディップコート、スプレーコート、スピンコート等にて成膜すればよい。
【0094】以上では、図3に示すように、片面記録型磁気ディスクを例に挙げて説明してきたが、本発明は、両面記録型の磁気ディスクにも適用することができる。
【0095】この場合、フロッピーディスク用の可撓性基板では前記のようにして一方の面に溝を形成したのち、もう一方の面に同様の操作を繰り返し溝を形成してもよい。
【0096】一方、ハードタイプの磁気ディスク用の剛性基板では、これと同様にして各面にそれぞれ溝を形成することができる。
【0097】
【実施例】以下、本発明の具体的実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。
【0098】実施例1厚さ75μm のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用い、これに表1に示す組成のポリ塩化ビニルまたは塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマーをそれぞれ用い、このポリマーの20wt% メチルエチルケトン溶液を塗布し、表1に示す膜厚(乾燥膜厚)の塗膜を形成した。塗布は、グラビアロールコート法によった。
【0099】なお、ポリマー層の設層に際しては、表1で示すように、非処理の非磁性基体と、下記の条件でプラズマ処理した非磁性基体とをそれぞれ使用するものとした。
【0100】プラズマ処理条件使用ガス:酸素流量:100 SCCMRF:50W圧力:0.05Torr
【0101】なお、ポリマー層の膜厚はマイクロメータにより測定し、PETフィルムとポリマー層との合計厚さからPETフィルムの厚さを引き算することによって算出した。
【0102】次に、上記塗膜を形成したPETフィルムをロール状に収納し、図1に示す装置を用いて溝を形成した。
【0103】スタンパはNi製とし、このときの溝は、幅0.4μm 、深さ0.5μm とし、溝間間隔は1.6μm とし、同心円状に形成した。また、図2に示すように、位置合わせのガイド用溝も形成した。
【0104】また、溝を形成する際のプレス圧力は150kg/cm2、加熱温度は180℃とした。
【0105】このようにして得られた基板サンプルの各々について、PETとポリマー層との接着強度、スタンパ寿命および歩留りを以下のようにして調べた。
【0106】(1)接着強度幅1/2インチに切り出した基板サンプルに、スコッチテープ(3M社製)を貼りつけ、PETフィルムからポリマー層を引き剥がすのに必要な力(g )を求めた。
【0107】(2)スタンパ寿命スタンパからポリマー層へ全面転写しなくなるまでの基板サンプルの枚数で評価した。
【0108】(3)歩留り基板サンプル数1000枚について、溝の溝幅および深さを、走査型トンネル顕微鏡(STM)により測定し、溝幅および深さのうちいずれか一方でもスタンパの溝から±10%以上ずれているものを歩留り外と判断し、両方とも±10%未満であるものの割合を歩留り(%)として求めた。
【0109】結果を表1に示す。表1には非磁性基体表面の水に対する接触角を併記する。
【0110】
【表1】


【0111】表1より本発明の効果は明らかである。
【0112】上記基板サンプルNo. 3、No. 5、No. 7を用い、膜厚0.1μm のCr下地層を形成し、さらに、プラズマ重合膜の下地膜を形成したのち、膜厚0.05μm のCo−Ni−Cr磁性層を形成した。さらに、磁性層上にプラズマ重合膜のトップコート膜を形成した。下地層およびトップコート膜の膜厚は、それぞれ200A 、50A とし、プラズマ重合条件は以下のとおりとした。
【0113】プラズマ重合条件W/(FM) : 1.05×109 Joule/kgCH4 の流量: 40 SCCM動作圧力: 0.1 Torrプラズマ出力: 500 Wプラズマ周波数: 13.56 MHz
【0114】また、下地層および磁性層の成膜は、それぞれ、DC−マグネトロンスパッタにて行なった。
【0115】また、下地層および磁性層のスパッタ条件は、動作圧力を1Paとし、Ar雰囲気中とした。
【0116】ターゲットには、それぞれ、CrおよびCo62.5Ni30Cr7.5 (at% )を用いた。
【0117】なお、ICP発光分析により磁性層の組成を求めたところ、Co62.5Ni30Cr7.5 (at% )であった。
【0118】この後、位置合わせのガイド用溝を利用して打ち抜き、3.5インチのフロッピーディスク(FD)サンプルを得た。用いた基板サンプルに応じてFDサンプルNo. 3、No. 5、No. 7とする。
【0119】FDサンプルNo. 3、No. 5、No. 7を、3.5インチフロッピーディスク駆動装置に組み込み、耐久性を調べたところ、耐久性は十分であった。また、電磁変換特性等も満足できるレベルにあった。
【0120】また、上記のFDサンプルの断面をTEMにより観察し、溝の半値巾(WG )を求め、スタンパの半値巾(WS )と比べたところ、WG /WS はほぼ1であり、溝の転写が確実で、かつスパッタ等による熱変形等をうけることなく、溝の形状が良好に維持されていることが確認された。
【0121】なお、上記のFDサンプルにおいて、プラズマ重合膜の下地膜を形成しないほかは同様の構成のFDサンプルを得、上記のFDサンプルと比較したところ、プラズマ重合膜の下地膜を有するFDサンプルの方が耐久性に優れることがわかった。これは、プラズマ重合膜により磁性層や下地層と基板との接着性が増したためと考えられる。
【0122】また、FDサンプルの断面をTEMにより観察したところ、プラズマ重合膜の下地膜を有する方が溝の形状を維持する点で優れていた。ただし、プラズマ重合膜の下地膜を有さないものであっても、実用上問題を生じないレベルであった。これは、プラズマ重合膜の下地膜により下地層や磁性層形成の際のスパッタ熱による溝の変形が緩和されるためと考えられる。
【0123】
【発明の効果】本発明によれば、生産性に優れ、溝の加工精度が良好である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に用いる溝を形成するための装置の概略構成図である。
【図2】位置合わせのガイド用溝を説明するための模式図である。
【図3】本発明を適用した磁気ディスクの部分断面図である。
【符号の説明】
1 装置
2 スタンパ部
10 基板
5 磁気ディスク
15 磁性層
31 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】 非磁性基体の表面を親水化処理して水に対する接触角を低下させ、この親水化処理した基体上に、塩化ビニルが80〜92モル%で、酢酸ビニルが8〜20モル%の主骨格を有する塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマーの層を形成し、この層に溝付き原盤の溝を転写し、溝を形成して得たことを特徴とする磁気ディスク用基板。
【請求項2】 前記塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー層の乾燥膜厚が3〜12μm である請求項1に記載の磁気ディスク用基板。
【請求項3】 前記親水化処理により非磁性基体表面の水に対する接触角が40度以下となる請求項1または2に記載の磁気ディスク用基板。
【請求項4】 前記溝形成面上に連続薄膜の磁性層を形成した磁気ディスクを得るのに用いる請求項1ないし3のいずれかに記載の磁気ディスク用基板。
【請求項5】 前記連続薄膜の磁性層を形成するに際し、前記溝形成後、前記塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー層上にプラズマ重合膜を設ける請求項4に記載の磁気ディスク用基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開平6−20266
【公開日】平成6年(1994)1月28日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−196292
【出願日】平成4年(1992)6月30日
【出願人】(000003067)ティーディーケイ株式会社 (7,238)