説明

磁気ディスク装置及びそれに用いる磁気ヘッド

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、磁気抵抗効果型ヘッド及びそれを搭載した磁気ディスク装置に関し、特に、ノイズレス,高感度で再生できる磁気ヘッド及びそれを用いた磁気ディスク装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来の技術として、米国特許第4103315 号には、磁気抵抗効果膜全面に反強磁性膜を形成することが記載されている。
【0003】また、米国特許第4663685 号には、磁気抵抗効果膜端部に反強磁性膜を形成することが記載されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】従来の技術では、いずれも、磁気抵抗効果膜に直接接して反強磁性膜が形成されているため、バルクハウゼンノイズは抑制できるものの、結合磁界が大きすぎ、磁気ヘッドの磁気応答特性、いわゆる再生感度が劣化するという問題点があった。
【0005】そこで、本発明の目的は、バルクハウゼンノイズを抑制し、磁気応答特性を高めた高出力の磁気抵抗効果型磁気ヘッドを搭載した磁気ディスク装置を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の磁気デイスク装置は、内周側から外周側に向かって周速度が大きくなるように回転する磁気ディスクと、該磁気ディスクに記録された磁気的信号を磁気抵抗効果を用いて電気的信号に変換する磁気ヘッドとを有するものであって、前記磁気ヘッドは再生時に、前記磁気ディスクから得られる前記電気的信号のベースライン変動を抑制できるように磁区制御層を有することを特徴とする。
【0007】ここで前記電気的信号のベースライン変動量が前記電気的信号のピーク値に対して3%以下、特に、2〜0.01% であることが好ましい。
【0008】ベースライン変動とは、前記磁気ディスクからの磁気的信号がない場合の再生電圧をゼロとし、前記磁気的信号がない場合にも再生電圧がゼロでないときのそのゼロ点からのシフト量をいう。さらに、ベースライン変動量は、そのゼロ点からのシフト量を前記電気的信号のピーク値で割り、100倍したパーセンテージで定義する。
【0009】本発明者らは、ベースライン変動は前記磁気ヘッドが前記磁気ディスクからの磁気的信号を読み取る際に生じるバルクハウゼンノイズに起因するものであることを見い出した。本発明は、高出力,ノイズレスで再生できる磁気ディスク装置を実現するには、磁気ヘッドか信号処理回路の少なくとも一方に該ノイズを抑制する手段を設けなければならないという知見に基づくものである。
【0010】そして、この知見に基づき本発明は、特に、磁気ディスク装置に電気的信号のベースライン変動を抑制する手段を設けることを特徴とする。さらには、前記ノイズを抑制するだけでなく、これと同時に高出力で再生できる手段を設けることが好ましい。
【0011】また、本発明は、磁気抵抗効果を用いて磁気的信号を電気的信号に変換する前記磁気抵抗効果膜と、磁気抵抗効果膜に信号検出電流を流すための一対の電極とを有する磁気ヘッド又はそれを搭載した磁気ディスク装置であって、一対の電極に挾まれた領域に、磁気抵抗効果膜に接して配置された磁区制御層を有し、磁区制御層が、磁気抵抗効果膜との界面で発生する交換結合と称する磁気的な結合を利用して磁気抵抗効果膜に長手方向の縦バイアス磁界を印加するための第一の磁性膜と、第一の磁性膜と磁気抵抗効果膜との間に形成され、磁気抵抗効果膜と第一の磁性膜との磁気的な結合の大きさ、すなわち縦バイアス磁界の大きさを、所望の大きさに調節する第二の磁性膜とを有することを特徴とする。本発明の磁気ヘッド又はそれを搭載した磁気ディスク装置は、磁気ヘッドの磁区制御層が二つの交換結合、一つは第一の磁性膜と第二の磁性膜で、他の一つは第二の磁性膜と磁気抵抗効果膜で交換結合を形成することに特徴がある。これによりノイズレス,高出力で再生できる気ヘッド又はそれを搭載した磁気ディスク装置を提供することができる。
【0012】詳述すれば、二つの交換結合により磁気抵抗効果膜に付与される縦バイアス磁界は、前記磁気ディスクから得られる電気的信号をノイズレスとし、高出力の電気的信号とする。つまり、これは第二の磁性膜の飽和磁束密度を小とし、第一の磁性膜から二つの交換結合により磁気抵抗効果膜に付与される縦バイアス磁界の大きさを、磁気抵抗効果膜の磁気モーメントの回転が容易となるまで縦バイアス磁界を小とすることにより達成される。
【0013】ここで、本発明の磁気ディスク装置は、所望の面記録密度に応じ、前記ノイズが発生しない範囲で、磁気抵抗効果膜に付与される縦バイアス磁界値を小として磁気抵抗効果膜内の磁気モーメントの回転を容易としていることに最も特徴がある。
【0014】磁気抵抗効果膜に前記ノイズを抑制すべく縦バイアス磁界を付与するための第一の磁性膜は、反強磁性膜,フェリ磁性膜,永久磁石膜が好ましく、反強磁性膜,永久磁石膜が最も望ましい。また、磁気抵抗効果膜と第一の磁性膜との間の縦バイアス磁界を高感度にすべく調節するための第二の磁性膜は、強磁性膜,フェリ磁性膜が好ましく、強磁性膜が最も望ましい。
【0015】第二の磁性膜は、強磁性成分を含む磁性膜で構成することが好ましい。すなわち、自発磁化を所持していることが必要である。第二の磁性膜が、常磁性などの非磁性で構成される場合には、磁気抵抗効果膜と第一の磁性膜との磁気交換結合が消滅し、磁気抵抗効果膜に縦バイアス磁界が付与できなくなるからである。
【0016】さらに、高出力とするために、前記第二の磁性膜の膜厚より前記磁気抵抗効果膜の膜厚が厚いことが好ましい。
【0017】高出力,ノイズレスで再生でき、高い面記録密度を有する磁気ディスク装置が実現できる。
【0018】また、本発明に係る磁気ヘッドは、磁気抵抗効果膜に通電する電流(以下、「センス電流」と称する)、磁気ヘッドと磁気ディスクとの間の距離(以下、「浮上量」と称する)を考慮して前記磁気ディスクに記録された情報を再生した場合、周囲温度が変化しても、同じ情報に対しては、ほぼ同じ電気的信号の形状及び/又はピーク値が得られるように磁区制御層を有することを特徴とする。
【0019】ここで、動作温度範囲内で電気的信号の温度による前記ピーク値変動量が、5%以下、特に、4〜0.01% であることが好ましい。
【0020】本発明者らは、周囲温度が変化しても、磁気ディスクからの同じ情報に対しては、常にほぼ同じ電気的信号の形状及び/又はピーク値を所持して再生できるようにするには、前記磁気抵抗効果膜の磁気モーメントの回転の容易性を動作温度範囲内で一定に保つ手段を有すればよいという知見を見い出し、本発明は、このような知見に基づくものである。
【0021】また、本発明は、磁気抵抗効果を用いて磁気的信号を電気的信号に変換する磁気抵抗効果膜と、前記磁気抵抗効果膜に信号検出電流を流すための一対の電極を有する磁気ヘッド又はそれを搭載した磁気ディスク装置であって、一対の電極に挾まれた領域に、磁気抵抗効果膜に接して配置された磁区制御層を有し、磁気抵抗効果膜の磁気モーメントの回転の容易性を動作温度範囲内で一定とするため、前記磁区制御層から磁気抵抗効果膜に付与される縦バイアス磁界の大きさを動作温度範囲内で一定とようにすることが好ましい。
【0022】具体的には、磁気ディスク装置に搭載された磁気ヘッドの磁区制御層と磁気抵抗効果膜との縦バイアス磁界の大きさの温度依存性を動作温度範囲内で小とすることにより達成される。さらには、室温での縦バイアス磁界を小とし、かつ、磁区制御層と磁気抵抗効果膜との間の交換結合が消失する温度、いわゆる、ブロッキング温度を動作温度範囲に比べて大としたことにより達成される。
【0023】また、本発明は、磁気抵抗効果を用いて磁気的信号を電気的信号に変換する磁気抵抗効果膜と、前記磁気抵抗効果膜に信号検出電流を流すための一対の電極とを有する磁気ヘッド又はそれを搭載した磁気ディスク装置であって、前記一対の電極に挾まれた領域に、前記磁気抵抗効果膜に接して配置された磁区制御層を有し、前記磁区制御層が、反強磁性膜と、前記反強磁性膜と前記磁気抵抗効果膜との間に形成される磁性膜とを有し、前記磁性膜の自発磁化より前記反強磁性膜の自発磁化が小さいことを特徴とする。
【0024】また、本発明は、磁気抵抗効果を用いて磁気的信号を電気的信号に変換する磁気抵抗効果膜と、前記磁気抵抗効果膜に信号検出電流を流すための一対の電極とを有する磁気ヘッド又はそれを搭載した磁気ディスク装置であって、前記一対の電極に挾まれた領域に、前記磁気抵抗効果膜に接して配置された磁区制御層を有し、前記磁区制御層が、永久磁石膜と、前記永久磁石膜と前記磁気抵抗効果膜との間に形成される磁性膜とを有し、前記磁性膜の自発磁化より前記永久磁石膜の自発磁化が大きいことを特徴とする。
【0025】また、本発明は、磁気抵抗効果を用いて磁気的信号を電気的信号に変換するNiFe膜と、前記NiFe膜に信号検出電流を流すための一対の電極とを有する磁気ヘッド又はそれを搭載した磁気ディスク装置であって、前記一対の電極に挾まれた領域に、前記NiFe膜に接して配置された磁区制御層を有し、前記磁区制御層が、CoPt又はNiOからなる第一膜と、前記第一膜と前記NiFe膜との間に形成されたNiFeNbからなる第二膜とを有することを特徴とする。
【0026】
【作用】本発明に係る磁気ディスク装置に搭載する磁気ヘッドは、読み取り専用の再生ヘッドと該再生ヘッドの上方に電磁誘導型の書き込み専用の記録ヘッドとを形成してなる記録再生分離型磁気ヘッドである。
【0027】再生ヘッドを用いて磁気ディスクに記録された情報を読み込む場合、電磁誘導型の磁気ヘッドで読み込む場合と比較すると、浮上量,磁気ディスク媒体等を同じ条件としたときには、同じトラック幅当りで、5〜10倍の再生出力がノイズレスで得られる。
【0028】記録ヘッドと再生ヘッドとを分離することにより、記録ヘッドの磁気コア材に高飽和磁束密度の材料を使用することが可能となり、強い書き込み磁界で磁気ディスクに情報を書き込むことを可能とする。
【0029】また、これにより、高い保磁力を有する磁気ディスク媒体の使用が可能となり、トラック密度及び線記録密度(「ビット密度」ともいう)を大として書き込むことができる。
【0030】再生ヘッドを用いることにより、その再生出力を大とすることができるため、磁気ヘッドのトラック幅を小としても充分な再生出力を持つ電気的信号が得られる。しかも、その電気的信号はノイズレスである。また、線記録密度を大としても、充分に再生出力を得ることができる。
【0031】これにより、磁気ディスクの線記録密度とトラック密度との両方を高めることができ、高記録密度であって大容量の磁気ディスク装置が実現できる。
【0032】また、再生ヘッドを用いて得られる電気的信号をノイズレスとできるため、得られた電気的信号を即信号処理でき、ノイズ処理回路などの特別な信号処理回路を使用しない磁気ディスク装置を達成できる。そして、このような信号処理回路で処理する時間を省くことができるため、再生時のデータの転送速度を大にできる。
【0033】また、線記録密度を大とすることも、再生時のデータの転送速度を大にできる要因である。
【0034】さらに、電気的信号がノイズレスであることにより、アクセス時間を小にできる。
【0035】さらに、再生ヘッドの再生出力はディスク周速度に依存しないため、磁気ディスク径を小さくしても再生出力を大に維持できる。これにより、磁気ディスク径を小としても高出力の電気的信号を得ることができる。このため、磁気ディスク径を小として、小型磁気ディスク装置に要求される装置容量を満足するまで記録密度を大にしても、充分に読み込み動作ができるので、磁気ディスク径を極力小とした磁気ディスク装置が実現できる。
【0036】これにより、直径が1.5〜6.5インチの磁気ディスクと、該磁気ディスクを3500〜5000rpmで回転させる回転手段と、該磁気ディスクに記録された磁気的信号を磁気抵抗効果膜によって電気的信号に変換する磁気ヘッドと、を有し、前記磁気ディスクにトラック密度2.6〜20.0ktpi及びビット密度60〜200kbpiで記録された情報を、転送速度6〜9MB/s及びアクセス時間5〜10msで再生することを特徴とする磁気ディスク装置が実現できる。
【0037】さらには、直径が1.5〜3.0インチの磁気ディスクに記録された磁気的信号を磁気抵抗効果を用いて電気的信号に変換する磁気ヘッドを搭載した小型の磁気ディスク装置が実現できる。
【0038】
【実施例】以下、本発明の実施例を説明する。
【0039】図2は、本発明の一実施例による磁気ディスク装置4000の構成を示す概略図である。同図に示すように、磁気ディスク装置4000は、等間隔で一軸(スピンドル)上に積層された複数の磁気ディスク12と、スピンドルを駆動するモータ11と、移動可能なキャリッジ14に保持された磁気ヘッド群13と、このキャリッジ14を駆動するボイスコイルモータ15と、これらを支持するベースとを備えて構成される。また、磁気ディスク制御装置などの上位装置から送出される信号に従って、ボイスコイルモータ15を制御するボイスコイルモータ制御回路を備えている。また、上位装置から送られてきたデータを書き込み方式に対応し、磁気ヘッドに流すべき電流に変換する機能と、磁気ディスク13から送られてきたデータを増幅し、ディジタル信号に変換する機能とを持つリード/ライト回路を備え、このリード/ライト回路は、インターフェイスを介して、上位装置と接続されている。
【0040】次に、この磁気ディスク装置4000の動作を、読み出しの場合を例として説明する。上位装置から、インターフェイスを介して、ボイスコイルモータ制御回路15に、読み出すべきデータの指示を与える。ボイスコイルモータ制御回路からの制御電流によって、ボイスコイルモータ15がキャリッジ14を駆動させ、指示されたデータが記憶されているトラックの位置に、磁気ヘッド群13を高速で移動させ、正確に位置付けする。この位置付けは、ボイスコイルモータ制御回路と接続されている位置決め用磁気ヘッド13aが、磁気ディスク12上の位置を検出して提供し、データ用磁気ヘッド13の位置制御を行うことによって行われる。また、ベースに指示されたモータ11は、スピンドルに取り付けた複数の磁気ディスク12を回転させる。次に、ライト/リード回路からの信号に従って、指示された所定の磁気ヘッドを選択し、指示された領域の先頭位置を検出後、磁気ディスク上のデータ信号を読み出す。この読み出しは、ライト/リード回路に接続されているデータ用磁気ヘッド13が、磁気ディスク12との間で信号の授受を行うことにより行われる。読み出されたデータは、所定の信号に変換され、上位装置に送られる。
【0041】本発明に係る磁気ディスクのトラック密度は1インチ当り2600〜20000 トラックである。線記録密度は1インチ当り65〜200キロビットである。そして、これらの積で定まる面記録密度を1平方インチ当り170〜4000メガビットとすることができる。
【0042】本発明の磁気ディスク装置に搭載された磁気ヘッドは、たとえば図6に記載した記録再生分離ヘッド3000である。記録再生分離型磁気ヘッド3000は、記録を電磁誘導型薄膜磁気ヘッド2000で行い、再生を磁気抵抗効果型磁気ヘッド(以下、MRヘッドと称す。)1000で行う。
【0043】本発明によれば、MRヘッド1000の単位トラック幅当りの再生出力は、浮上量,磁気ディスク媒体の種類などを同じとして再生動作を行った場合、従来の記録再生兼用の電磁誘導型薄膜磁気ヘッドの5〜10倍とできる。しかも、その再生出力は磁気ディスクの周速に依存しない優れた利点を持つ。
【0044】さらに、これにより、MRヘッドのトラック幅を小としても、すなわち、磁気ディスク媒体のトラック密度を大としても、高い再生出力が維持できる。また、磁気ディスク媒体の線記録密度を大としても、高い再生出力が維持できる。
【0045】また、本発明によると、再生時、磁気ディスクからの電気的信号に発生しやすいバルクハウゼンノイズを抑止し、何れのディスク回転数とセンス電流と浮上量においても該ノイズに起因して発生する再生波形のベースライン変動量を3%以下に抑えているため、ノイズレスの電気的信号とでき、高S/N比を確保でき高感度で情報を再生できる。
【0046】さらに、本発明によると、動作温度範囲内で安定性よく、高出力,ノイズレスの電気的信号を得ることができる。
【0047】さらに、本発明によれば、記録ヘッドと再生ヘッドを分離することにより、記録ヘッド2000の磁気コア材130を高飽和磁束密度Bsを所持した材料とでき、書き込み磁界が大とでき、かつ、シャープとでき、高い線記録密度で記録することができる。また、トラック幅を小としても高い書き込み磁界が維持でき、高いトラック密度で記録できる。また、これに伴い磁気ディスク媒体の保磁力を大とできる。
【0048】上記より、本発明に係るMRヘッド1000を含んで磁気ディスク装置を構成することにより、ディスク径の大小にかかわらず、高出力、かつ、ノイズレスで再生できる磁気ディスク装置が実現できる。
【0049】上記より、磁気ディスク径の大小を問わず高密度記録が可能となり、本発明の磁気ディスク装置ではディスク径を1.5インチ〜6.5インチと小型化しても、磁気ディスク回転数3500〜5000rpmで、トラック密度2.6〜20.0ktpi、及び線記録密度60〜200ktpiで記録、及び再生が可能となり、1平方インチあたり170〜4000メガビットの面記録密度を達成した磁気ディスク装置が実現できる。
【0050】さらに、小型磁気ディスク装置に要求される装置容量を満足するために高ビット密度,高トラック密度とし、ディスク径を1.5〜3.0インチまで小型化しても、充分に読み込み、および書き込み動作ができるので、該サイズのディスク径まで小型化でき、大容量の小型磁気ディスク装置が実現できる。
【0051】記録密度が増大し、情報の記憶容量が大になってもデータの転送速度がその分遅くなったのでは利用価値が少ない。データの転送速度は、線記録密度が高いほど大である。本発明では線記録密度を1インチ当り60〜200キロビットにでき、転送速度を大にできる。
【0052】また、本発明によれば、記録ヘッド2000の磁気コア材130に高Bs材を用いており、これにより、導体コイル110のターン数を少なくしても十分強い書き込み磁界を維持できるためターン数を少なくでき(図6)、これにより、記録ヘッド2000のインダクタンスが小にでき、高周波でも情報の書き込み動作が充分にできる。
【0053】また、MRヘッドの再生出力は周速に依存せず、高周波で情報の読み込み動作ができる。
【0054】さらに、本発明に係るMRヘッド1000を用いて得られる前記電気的信号はノイズレスである。このため、得られた電気的信号を前記バルクハウゼンノイズを処理する特別な回路を通過させることなく、即、ディジタル信号に変換することができる。
【0055】上記より、本発明によると、データ転送速度を6〜9メガバイト/秒とすることができる。
【0056】データへのアクセス時間(位置決め時間)は、データ転送速度の増大に伴って短縮する必要があり、本発明では、5〜10ミリ秒とすることが望ましい。
【0057】ディスク回転数、及び磁気ヘッドの回転待ち時間は、データ転送速度との関連から回転数3500rpm以上、回転待ち時間は平均6m秒以下とするのが望ましい。ここで、回転待ち時間とは、所定のトラック位置まで移動した磁気ヘッドが、そのトラックの所定の位置に情報を書き込む或いは所定の位置から情報を読み出すために静止して磁気ディスクが回転されるのを待っているのを意味する。本発明によれば、磁気ディスク径を小型化できるため高速シークができ、さらに、MRヘッド1000のバルクハウゼンノイズ抑止ができるため、アクセス時間を短くできる。
【0058】MRヘッドが磁気ディスク上からの信号を読み出す際、バルクハウゼンノイズ(ベースライン変動)が生じると、磁気ディスク上からのデータ信号を再度読み出さなければならない。この際、上述したサイクルで読み出しの動作が再度行われる。たとえば、バルクハウゼンノイズが1/2の確率で発生するMRヘッドを備えて磁気ディスク装置を構成した場合、1/30秒アクセス時間が遅れる。本発明の磁気ディスク装置では、MRヘッドのバルクハウゼンノイズを抑止できたため、アクセス時間を5〜10ミリ秒とすることができる。
【0059】図3は、本発明の磁気ディスク装置を所定のスペースに収納した状態を斜視図で示す。
【0060】ヘッド・ディスクアッセンブリ(HDA)71及び電子回路部72でヘッド・ディスクアッセンブリ・ユニット(HDU)73を形成し、容器700の内部に収納されている。容器700は、底の一辺の長さが0.3〜1.5m、高さは装置容量に応じ0.2〜2m としている。図3において、AおよびBはHDA及びHDU内の回路板に清浄な空気を供給するための空気の流れである。
【0061】図4は、本発明の記録再生分離型磁気ヘッドを所定のスライダに形成した状態を斜視図で示す。符号81はスライダであり、例えば非磁性セラミクスなどである。符号3000は記録再生分離型磁気ヘッドであり、詳細は図6に示した形状を有する。また、記録ヘッドと再生ヘッドを分離したため、記録再生分離型磁気ヘッドの電流端子は4つである。符号83は媒体対向面を示し、磁気ディスクと対向する面である。
【0062】図5は、図4に示すスライダを荷重アーム上に形成した記録再生分離型磁気ヘッドを斜視図で示す。
【0063】符号91は、スライダ81をささえる荷重アームを示す。符号93はジンバルバネであり、磁気ディスクとの距離を一定に保つ作用をするものである。この磁気ディスクをスライダ81の先端に形成された記録再生分離型磁気ヘッド3000との、磁気ディスク装置の起動状態における距離は、一般に浮上量といわれ磁気ディスク装置の性能の重要な要素の一つである。本発明の磁気ディスク装置ではこの浮上量を0.2μm 以下とすることができる。
【0064】図6は、本発明の磁気ディスク装置に装備された記録再生分離ヘッド3000である。非磁性セラミクス基板101上に再生専用のMRヘッド1000を形成し、その上方に記録専用の電磁誘導型の記録ヘッド2000を形成している。尚、図6では記録ヘッド2000の右側半分と、MRヘッド1000の右側半分の信号検出電極60上方に形成される各層を省略してある。
【0065】図6の符号110は導体コイルであり、符号130は上下磁気コア材である。また、これらの間に電気的絶縁をとるため符号120で示す絶縁膜が形成される。
【0066】本発明に係る記録再生分離型磁気ヘッド3000では、記録ヘッド2000で読み込み動作を行わないため、磁気コア材130には読み込み時に要求される高透磁率,低磁歪特性を必要とせず、書き込み時に要求される高Bs特性のみが必要とされる。これにより、上記したように上下磁気コア材130を高Bs材で構成することができる。さらに、書き込み特性は磁気コア材130の磁歪定数にほとんど依存しないため、材料の選定、および、材料組成のマージンが広がり、記録ヘッド2000の製造を容易にできる。これはスループット向上,歩留まり向上ができる。さらに、材料の選定、および材料組成のマージンを広げることができ、耐食性を向上するための元素添加、たとえばCr等添加ができ、耐食性に優れる記録ヘッド2000の製造ができる。
【0067】図1は、本発明の磁気ディスク装置に搭載されたMRヘッドの一実施例を示すものであり、媒体対向面側からみた拡大斜視図である。尚、図1ではMRヘッドの右側半分で上部ギャップ膜70と上部シールド膜80を省略した。
【0068】図1のMRヘッド1000は、非磁性セラミクス基板101の上に下部シールド膜10と、この下部シールド膜10の上側に形成される下部ギャップ膜20と、この下部ギャップ膜20の上側に、少なくとも一対の信号検出用電極60に挾まれる領域に形成され、第一の磁性膜45とする反強磁性膜と、この反強磁性膜の上側に形成され、自発磁化を所有する第二の磁性膜77と、第二の磁性膜77の上に形成される磁気抵抗効果膜40と、この磁気抵抗効果膜40の上に、磁気抵抗効果膜40の磁気応答特性を高めるために配置されるシャント膜50とソフト膜55と、このソフト膜55の上に形成される上部ギャップ膜70と、この上部ギャップ膜70の上に形成される上部磁気シールド膜80を備えて形成される。
【0069】次に、各膜,各層の作用,材料などを説明する。
【0070】MRヘッド1000のトラック幅は、上記一対の信号検出電極60間の距離であり、1〜10μmの範囲にある。また、磁気抵抗効果膜40のこの領域を感磁部といい、この部分で磁気ディスクからの磁気的信号の読み取りを行う。
【0071】上部シールド膜,下部シールド膜80,10は、磁気抵抗効果膜40に信号磁界以外の磁界が影響するのを防止し、MRヘッド1000の信号分解能を高める作用を行う。その材料は、NiFe合金,NiCo合金,Co系の非晶質合金などの軟磁性であり、その膜厚はおよそ0.5〜3μm である。
【0072】上記磁気シールド膜80,10に隣接して配置される上部ギャップ膜、および下部ギャップ膜70,20は磁気抵抗効果素子と、上部および下部シールド膜80,10を電気的,磁気的に隔離する作用をし、ガラス,アルミナなどの非磁性,絶縁物よりなる。上部,下部ギャップ膜70,20の膜厚は、MRヘッド1000の再生分解能に影響するため、磁気ディスク装置に望まれる記録密度に依存し、通常0.4〜0.1μmの範囲にある。
【0073】この上部,下部ギャップ膜70,20の間に形成される磁気抵抗効果素子は、磁界に対してその電気抵抗が変化する磁気抵抗効果膜40と、磁気ディスクからの磁気的信号を高出力の電気的信号とするため、磁気抵抗効果膜40に横バイアス磁界を印加すべく形成されるシャント膜50,ソフト膜55と、磁気抵抗効果膜40に信号検出電流を流すための信号検出電極60と、少なくとも磁気抵抗効果膜40感磁部を単磁区化するに充分な縦バイアス磁界を印加するための第一の磁性膜45と、第一の磁性膜45と磁気抵抗効果膜40の中間に配置され、第一の磁性膜45から付与される強すぎる縦バイアス磁界の大きさを、高出力の電気的信号となるよう調整するために設けられる第二の磁性膜77とからなる。これら、再生出力調整層を兼ねた磁区制御層100とする第二の磁性膜77と第一の磁性膜45の詳細は後述する。
【0074】磁気抵抗効果膜40は、NiFe合金,NiCo合金,NiFeCo合金のような、磁化の方向によって電気抵抗が変化する強磁性薄膜で形成される。その膜厚は、約0.01〜0.045μmである。
【0075】信号検出電極60は、磁気抵抗効果膜40に十分な電流、たとえば1×106〜2×107A/cm2を流すため、通常、電気抵抗が小さいCu,Au,Nb,Taなどの薄膜が用いられる。
【0076】シャント膜50は、磁気抵抗効果膜40を高感度とするに十分なレベルに、横バイアス磁界を印加する作用を行う。このバイアス印加方向は、上記した磁区制御層によって付与される方向と垂直である。横バイアス磁界を印加するために、シャント膜を用いる方法をシャントバイアス法という。シャントバイアス法においては、シャント膜として、磁気抵抗効果膜40上に、Ti,Nb,Ta,Mo,Wなどの薄い金属膜を形成する。通常、その膜厚は、0.01〜0.04μmである。また、シャント膜に流れる電流によって横バイアス磁界が変化するので、シャント膜50の膜厚とともに、比抵抗も調整することが必要である。この比抵抗の値は、通常、磁気抵抗効果膜40の比抵抗の値の1〜4倍程度である。
【0077】このシャントバイアス法以外に、高密度磁気記録用のMRヘッドに適した、磁気抵抗効果膜40を高感度にするに十分なレベルに、横バイアス磁界を印加する方法として、たとえば、セルフバイアス法とソフト膜バイアス法とがある。いずれの方法も、横バイアス磁界を印加する層を、磁気抵抗効果素子に隣接して形成する方法である。
【0078】セルフバイアス法は、磁気抵抗効果素子に流れる電流によって発生する磁界を利用する方法であり、隣接して形成された磁気シールド膜によって、横バイアス磁界が増強されるので、磁気抵抗効果膜を磁気シールド膜に近接して形成するのが重要である。
【0079】ソフト膜バイアス法は、非磁性層を介して、磁気抵抗効果膜に隣接して、軟磁気特性を有する強磁性膜を形成し、磁気抵抗効果膜に流れる電流によって発生する磁界を、効率よく、磁気抵抗効果膜に印加する方法である。ソフト膜55としては、NiFeRu,NiFeTa,NiFeRh,CoZrCr,MnZnフェライトなどの材料が用いられる。
【0080】これらの方法は単独で用いてもよいが、図1R>1のようにシャント膜50(非磁性膜)の上にソフト膜55を形成した複合バイアス法が効果的であり、本発明に係るMRヘッド1000では、複合バイアス法を採用した。
【0081】次に、MRヘッド1000の製造方法について説明する。尚、下記の薄膜形成法およびパターニング方法は、スパッタリング法やエッチング,フォトリソグラフィー法を用いた。
【0082】最初に、下部シールド膜10とするNiFe合金を2μmの厚さに形成し、その後、その上部に、下部ギャップ膜20とするアルミナを0.3μm の厚さに形成する。そして、この下部シールド膜10と下部ギャップ膜20とを所定の形状に加工する。ここで、下部シールド膜10の端部は、図1に示すように、基板面に対して傾斜するように加工する。これは、下部磁気シールド膜10を覆う形に形成される信号検出電極60が、下部シールド膜10の端部で断線するのを防止するためである。次に、下部ギャップ膜20上に0.1μm の第一の磁性膜45とするNiO膜を形成する。NiOターゲットを用い、スパッタリング室を0.3〜3×10-6torrに排気した後、Arガス圧0.4〜2mtorr の低ガス圧で形成する。基板温度は室温である。次に、別のスパッタ室で第一の磁性膜45上の所定の位置に、第二の磁性膜77とするNiFeNb膜を200Åの厚さに形成する。NiFeNb膜はNiFeNb合金ターゲットを用いて形成し、基板温度は室温である。次に、磁気抵抗効果膜40とするNiFe合金膜を400Åの厚さに形成し、続いて、シャント膜40とするNb膜を400Åの厚さに形成し、ソフト膜55とするCoZrNb膜を400Åの厚さに形成する。その後、信号検出電極60とする金とチタンの2層膜を0.1μm の厚さに形成した後、加工し、さらに、その上部に、上部ギャップ膜70とするアルミナを0.3μm の厚さに形成する。次に、上部磁気シールド膜80とするNiFe合金膜を2μmの厚さに形成し、保護膜としてアルミナを形成し、MRヘッド1000の作成を完了する。
【0083】本発明に係るMRヘッド1000は、磁気抵抗効果膜40感磁部に磁区制御層100を所有し、第一の磁性膜45と磁気抵抗効果膜40の中間に自発磁化を所持する第二の磁性膜77を介在させてあるところに最も特徴がある。第一の磁性膜45が反強磁性膜である場合、自発磁化の大きさは、磁気抵抗効果膜40が最も大きく、第二の磁性膜77,第一の磁性膜45の順でなければならない。第一の磁性膜45は、第二の磁性膜77を介して磁気抵抗効果膜40に縦バイアス磁界を付与して磁気抵抗効果膜を単磁区化し、第二の磁性膜77は、第一の磁性膜45と磁気抵抗効果膜40が直接接した場合に大きくなりすぎる結合磁界(縦バイアス磁界)を弱め、磁気抵抗効果膜40内の磁気モーメントの磁化回転を容易としてMRヘッドを高出力とする作用をする。したがって、本発明に係る磁区制御層100は、再生出力調整層も兼ねることができ、これを含む磁気ヘッドとすることにより、バルクハウゼンノイズ抑止と再生出力向上を同時に行うことができる。さらには、磁気ディスクからの磁気的信号を高出力,ノイズレスの電気的信号にできる磁気ディスク装置が実現できる。
【0084】上記磁区制御層100の構造,機能について説明する。
【0085】図7に、本発明に係る磁区制御層100の機能を説明するため、媒体対向面から見た磁気抵抗効果膜40と、磁区制御層100の構成要素である第一の磁性膜45と自発磁化を所持する第二の磁性膜77の拡大断面図を示す。ここで、第一の磁性膜45は反強磁性膜とした。上記ノイズを抑止すべく、磁気抵抗効果膜40への縦バイアス磁界の付与過程を詳述するため、各膜の磁気モーメントの方向を示した。符号401と771と451はそれぞれ、磁気抵抗効果膜40と第二の磁性膜77と第一の磁性膜45の磁気モーメントの方向を模式的に示したものである。
【0086】上記第一の磁性膜45内の磁気モーメント451は、第二の磁性膜77の磁気モーメント771と反強磁性−強磁性の交換結合を形成し、第二の磁性膜77の磁気モーメントは符号771に向くことができる。その結果、第二の磁性膜77に縦バイアス磁界を付与することができる。次に、第二の磁性膜77上に磁気抵抗効果膜40を形成すると第二の磁性膜77と磁気抵抗効果膜40で強磁性−強磁性の交換結合を形成し、磁気抵抗効果膜40内の磁気モーメントは符号401の方向に向くことができる。その結果、磁気抵抗効果膜40に縦バイアス磁界を付与でき、バルクハウゼンノイズの抑止ができる。
【0087】バルクハウゼンノイズが抑止できても、磁気ヘッドの再生出力が小さい場合は、高密度磁気ディスク装置を実現できない。高密度となるにつれ、磁気ディスクからの磁気的信号が小となり、磁気ヘッドを高出力にしなければならないからである。そこで、本発明のバルクハウゼンノイズを抑止しつつ、再生出力を大とする方法を説明する。
【0088】バルクハウゼンノイズ防止のためには、磁気抵抗効果膜40に付与する縦バイアス磁界を大きくしなければならない。一方、縦バイアス磁界を大きくしすぎると再生出力が小さくなってしまう。縦バイアス磁界が大きいと磁気抵抗効果膜40内の磁気モーメントが磁気ディスクからの信号磁界に応じて急峻に回転できなくなるためである。このため、高出力でノイズレスの電気的信号が得られる磁気ディスク装置を実現するには、バルクハウゼンノイズを抑止できる範囲で磁気抵抗効果膜40に付与される縦バイアス磁界を小さくした磁気ヘッドを搭載し、磁気ディスク装置に望まれる面記録密度に応じて、所望の縦バイアス磁界値に調節した磁気ヘッドを搭載しなければならない。
【0089】本発明によると、磁気抵抗効果膜40と第一の磁性膜45が直接接したときに生じる大きすぎる縦バイアス磁界を、これらの中間に磁気抵抗効果膜40より自発磁化が小さい第二の磁性膜77を介在させ、その飽和磁束密度Bs値を調整することにより、容易に最適縦バイアス磁界値を得ることができた。
【0090】ここで、本発明に係る自発磁化を所有する第二の磁性膜77は、上記シャント膜50と同様にシャントバイアスの効果がある。しかし、図1のように磁気抵抗効果膜40を介してシャント膜50の反対側に第二の磁性膜77を形成する場合、磁気抵抗効果膜40には、シャント膜50によって付与されるバイアス方向とは逆方向の横バイアス磁界が印加される。この場合、磁気抵抗効果膜40を高感度にできない。これに対処すべく、本発明では、第二の磁性膜77の比抵抗を100μΩcm以上とし、磁気抵抗効果膜40に比べて薄い膜として、第二の磁性膜77の導電性を小さくし、逆方向横バイアス磁界の発生を防止してある。
【0091】以下、実際の材料を用いてノイズレス,高出力とした上記一実施例を説明する。磁気抵抗効果膜40,第二の磁性膜77,第一の磁性膜45に、それぞれ、NiFe合金膜,(Ni81Fe19)100-XNbX膜,NiO膜を用いた場合を示した。
【0092】図8は、第二の磁性膜77とする(Ni81Fe19)100-XNbX膜の飽和磁束密度BsのNb量依存性である。Nb量増加とともに、飽和磁束密度Bsを小さくできることを明らかにした。
【0093】図9は、第二の磁性膜77とする(Ni81Fe19)100-XNbXの比抵抗のNb量依存性である。Nb量増加とともに比抵抗を大きくでき、約8原子%以上で100μΩcm以上の比抵抗とできた。
【0094】次に、自発磁化を磁気抵抗効果膜40よりも小とした(Ni81Fe19)100-XNbX膜をNiFe合金膜とNiO膜の中間に介在させた。図10に、交換結合したこれら3層膜の結合磁界Heと異方性磁界Hkの関係を示した。ここで、結合磁界Heは、図中(a)の容易軸励磁の磁化曲線において、原点からのシフト量として観察される。異方性磁界Hkは、図中(b)の困難軸励磁において、磁化が飽和するのに必要な大きさである。結合磁界Heと異方性磁界Hkは比例的な関係がある。結合磁界Heが大きくなると、磁気抵抗効果膜40の磁気モーメントが磁化回転しにくくなるため、異方性磁界Hkも大きくなるからである。そして、この異方性磁界Hkの大きさは、磁気ヘッドの再生出力と反比例の関係にある。このため、該再生出力を大とするには異方性磁界Hkを小さくするのが必須である。本発明によると、1平方インチあたりの面記録密度を170メガビット以上とした磁気ディスク装置を実現するには、結合磁界Heを調整し、異方性Hkの値を少なくとも20Oe以下にする必要があった。さらなる高面記録密度とするには、10Oe以下にするのが望ましかった。
【0095】本発明によれば、図10に示すように、第二の磁性膜77とする(Ni81Fe19)100-XNbX 膜のNb量増加とともに異方性磁界Hk,結合磁界Heを小さくすることができた。Nb量を約6原子%以上とすることによりHkを、20Oe以下にでき、約10原子%以上とすることにより、10Oe以下にできた。これにより、磁気ヘッドの再生出力を高くでき、磁気ディスク装置の面記録密度を1平方インチあたり170メガビット以上にできた。
【0096】図11は、異方性磁界Hkおよび結合磁界Heと第二の磁性膜77の飽和磁束密度Bsの関係を示したものである。本発明では、第二の磁性膜77の飽和磁束密度Bsを0.6T 以下とすることにより、異方性磁界Hkを20Oe以下にでき、約0.4T 以下とすることにより、異方性磁界Hkを10Oe以下にできた。これにより、磁気ヘッドの再生出力を高くでき、磁気ディスク装置の面記録密度を1平方インチあたり170メガビット以上にできた。
【0097】図12に、異方性磁界Hkを10Oeとした上記磁区制御層100を含む磁気抵抗効果素子の磁気抵抗変化曲線を示す。縦軸は抵抗変化ΔVであり、横軸は印加磁界Hである。図12では、該磁区制御層を含むことにより、バルクハウゼンノイズ抑止ができることを明らかにした。これにより、バルクハウゼンノイズ抑止と再生出力の向上が同時に達成できた。さらに、Hkを6Oeとしても依然バルクハウゼンノイズは発生しておらず、さらに、MRヘッドを高感度にでき、磁気ディスク装置の面記録密度を1平方インチあたり約4000メガビットにできた。
【0098】図13は、異方性磁界Hkを10Oeとした、本発明に係る上記磁区制御層100を含むMRヘッド1000を磁気ディスク装置に搭載して得られた磁気ディスクからの電気的信号である。横軸は時間t、縦軸は出力電圧Vである。波形歪,波形のジャンプなどが観測されておらず、また、いずれのディスク回転数(周波数)とセンス電流と浮上量において、ベースライン変動を2%以下に抑えることができ、バルクハウゼンノイズ抑止が達成できた。
【0099】また、発明者らは上記磁区制御層100に隣接して形成された磁気抵抗効果膜の磁区観察を行った。図12と図13でバルクハウゼンノイズが発生しなかったほとんどの試料では、磁気抵抗効果膜40は単一磁区状態であった。また、完全に単一磁区状態になっていなくても、少なくとも磁気抵抗効果膜40感磁部が単一磁区状態にあればバルクハウゼンノイズは出現しなかった。したがって、本発明は、少なくとも感磁部を単一磁区状態とすれば、バルクハウゼンノイズが抑止できることを含まなければならない。
【0100】図14は、本発明の磁気ディスク装置に搭載された上記交換結合3層膜(NiFe合金膜とNiFeNb合金膜とNiO膜)のブロッキング温度を測定した実施結果である。ブロッキング温度は、中間の第二の磁性膜77の介在の有無に係らず約200℃と一定であり、中間に介在させた(Ni81Fe19)100-XNbX膜の飽和磁束密度およびNb量を変化させても一定で、約200℃と高温にすることができた。さらに、自発磁化を所持する第二の磁性膜77の種類を変えても約200℃と高温にすることができた。
【0101】上記のように、ブロッキング温度を約200℃と高い値に保持しながら、第二の磁性膜77の種類,組成,飽和磁束密度を変えることにより、結合磁界Heおよび異方性磁界Hkの値を自由に調節することができたため、容易に、磁気ディスク装置の面記録密度に応じたこれらの所望の値を得ることができた。そして、高い再生出力を得ることができたと同時に、バルクハウゼンノイズ抑止、すなわち、ベースライン変動の抑止ができたため、高S/N比の電気的信号を得ることができ、かつ、ブロッキング温度を高くできたため、高密度で信頼性のある磁気ディスク装置が実現できた。
【0102】ここで、バルクハウゼンノイズを抑止し、すなわち、ベースライン変動を抑止し、かつ、再生出力を高めるための異方性磁界Hkおよび結合磁界Heの最適値は、媒体の種類,磁気ヘッドの浮上量により、磁気抵抗効果膜40,第二の磁性膜77,第一の磁性膜45の種類と膜厚により、また、磁気抵抗効果素子の形状,大きさにより、また、磁気抵抗効果膜40,第二の磁性膜77,第一の磁性膜45の各層間の接触面積により、などに依存して変動する。この場合、本発明の上記手法で自発磁化を所持する第二の磁性膜77の飽和磁束密度Bsを調節し、磁気ディスク装置に望まれる面記録密度に応じて所望の最適値に調節すればよい。
【0103】本発明は、磁区制御層100の着磁工程を含まなければならない。磁気抵抗効果膜40に均一な縦バイアス磁界を印加するため、ひとたび、第一の磁性膜45とする反強磁性膜のブロッキング温度TB 以上に加熱し、一方向の磁界を印加しながらブロッキング温度以下に冷却する工程を含めなければならない。この着磁工程は成膜終了時に行われてもよく、MRヘッド、あるいは、記録ヘッド製造工程上のどの製造工程で行ってもよい。ただ、製造工程中、ブロッキング温度以上の熱履歴を与えた場合には、必ず、一方向の磁界中で冷却し、ブロッキング温度を通過させる工程を含めなければならない。
【0104】第一の磁性膜45とする反強磁性膜,第二の磁性膜77,磁気抵抗効果膜40の形成時あるいは形成後、ブロッキング温度以上に加熱されると、第一の磁性膜45が常磁性状態となり、第一の磁性膜45と第二の磁性膜77の交換結合は消失する。このまま冷却すると第一の磁性膜45内の磁気モーメントがランダムに配列するため、第二の磁性膜77に隣接した磁気抵抗効果膜40に縦バイアス磁界を付与することはできない。一方、一方向の外部磁界を印加しながらこれらの層が冷却され、ブロッキング温度TB まで冷却されると、第一の磁性膜45はふたたび常磁性状態から反強磁性状態となり、このとき、第二の磁性膜77の内部磁界によって、第一の磁性膜45内の磁気モーメントが第二の磁性膜77内部の磁気モーメントを一方向に向けるように配列することができる。ひとたび、第一の磁性膜45内の磁気モーメントが整列すると反強磁性膜の磁気異方性は極めて大きいため、その方向にしっかりと固定され、第二の磁性膜77に一方向異方性、すなわち、縦バイアス磁界を付与することができる。そして、第二の磁性膜77と交換結合する磁気抵抗効果膜40にも縦バイアス磁界が付与でき、単一磁区状態が実現できる。
【0105】また、本発明は、磁区制御層100を構成する各磁性層の磁気特性において、第二の磁性膜77のキュリー温度Tcが第一の磁性膜45とする反強磁性膜のブロッキング温度TB よりも高いことを含めなければならない。ここで、キュリー温度Tcとは、強磁性体の強磁性状態が常磁性状態に転移する温度である。図15に磁区制御層100を用いて上記理由を模式的に説明する。
【0106】まず、第一の磁性膜45とする反強磁性膜,第二の磁性膜77,磁気抵抗効果膜40の3層膜を反強磁性膜のブロッキング温度TB 以上に加熱する。この加熱を、一方向の外部磁界を印加しながら行う。ブロッキング温度TB 以上に加熱された図15(a)では、反強磁性膜は、常磁性状態にあるので、磁気モーメントは符号451のようにランダムである。また、常磁性状態にあるため、第二の磁性膜77との交換結合は消失している。図15(a)の状態から一方向の磁界を印加しながら反強磁性膜のブロッキング温度TB 以下に冷却すると反強磁性膜は、その上方に配置されている第二の磁性膜77と交換結合を形成しようとする。第二の磁性膜77のキュリー温度Tcがブロッキング温度TB よりも小さい図15(b)場合、周囲温度がブロッキング温度通過時、第二の磁性膜77は常磁性状態にあるため、一方向の交換結合を形成できずバイアス磁界の方向はランダムとなり、磁気抵抗効果膜40に付与されるバイアス磁界の方向はランダムとなる。このため、磁気抵抗効果膜40に縦バイアス磁界を付与することができなくなり、バルクハウゼンノイズを抑止できなくなってしまう。一方、第二の磁性膜77のキュリー温度Tcがブロッキング温度TB よりも大きい図15(c)の場合、周囲温度がブロッキング温度のとき、第二の磁性膜77は強磁性状態である。この場合、一方向の外部磁界が印加されていると、まず、磁気抵抗効果膜40,第二の磁性膜77の磁気モーメント401,771が外部磁場の方向に向き、ついで、第二の磁性膜77の内部磁界に誘導されて反強磁性膜が符号451のように配列する。ひとたび、符号451のように配列すると、反強磁性膜の磁気異方性は極めて大きいため、その配列はしっかりと固定される。このため、第二の磁性膜77の磁気モーメントを符号771に向けた状態で交換結合を形成することができる。そして、第二の磁性膜77に隣接し、交換結合している磁気抵抗効果膜40にも縦バイアス磁界が付与でき、バルクハウゼンノイズ抑止ができる。したがって、キュリー温度Tcがブロッキング温度TB より高い場合に限り、磁気抵抗効果膜40に縦バイアス磁界を付与でき、バルクハウゼンノイズ抑止ができる。
【0107】次に、MRヘッド1000に搭載する、第一の磁性膜45とするNiO膜の最適膜厚を決定するため、NiO膜上にNiFe膜を形成し、交換結合特性を調べた実施結果を図16に示す。Heは結合磁界、すなわち、縦バイアス磁界である。結合磁界は、NiO膜厚とともに増加し、400Å以上で一定となる。図17は、ブロッキング温度TB のNiO膜厚依存性を調べた実施結果である。ブロッキング温度TB も400Å以上で一定となって約200℃を示し、1500Å以上で若干増加する。このため、NiO膜厚は良好な交換結合特性を示し、かつ、それらの特性の安定する400Å以上とするのが望ましい。一方、MRヘッド1000では、NiO膜は、図1のように下部シールド膜20と磁気抵抗効果膜40の中間に配置されるため、これらの間隔を大きくした場合、MRヘッドの分解能を落としてしまう。このため、NiO膜厚は2000Å以下とするのが望ましい。したがって、本発明は、NiOの最適膜厚が400〜2000Åの範囲にあることを含めなければならない。
【0108】次に、本発明に係る再生出力調整層を兼ねた磁区制御層100の構成要素である第一の磁性膜45,自発磁化を持つ第二の磁性膜77の各材料について説明する。
【0109】本発明に係る第二の磁性膜77は、磁気抵抗効果膜40と第一の磁性膜45の両方に磁気交換結合しなければならない。このため、第二の磁性膜77は自発磁化を持っていなければならない。さらに、大きな磁気抵抗変化率を示さない方が望ましい。磁気ディスクからの信号磁界に応じて第二の磁性膜77と磁気抵抗効果膜40の磁気モーメントが同時に等しい角度で回転するとは限らず、再生波形にノイズが生じる場合があるからである。さらに、上述したように磁気抵抗効果膜40への逆方向横バイアス磁界の発生を抑止するため、比抵抗値100μΩcm以上を必要とする。さらに、高キュリー温度を必要とする。さらに、耐食性,耐熱性が要求される。
【0110】これらの目的を同時に満足する材料としては、上記NiFeNb合金膜の他、下記に示す材料でも代用可能である。
【0111】すなわち、Fe,Co,Niを主成分とした強磁性膜がよく、所望の縦バイアス磁界の大きさに調整すべく、Bs値を適度とするためこれに非磁性元素を0〜20%添加した強磁性膜がよい。非磁性元素を添加することにより、第二の磁性膜77の飽和磁束密度Bsおよび磁気抵抗効果を小さくでき、合金化することにより比抵抗を100μΩcm以上とできる。さらに、Fe,Co,Niの2種以上を主成分とし、これに非磁性元素を0〜20%添加した強磁性膜で構成してもよい。さらに、自発磁化を持っていれば結晶質であっても非晶質であってもよい。非磁性元素としては、たとえば、Nb,Mo,Ta,W,Ti,V,Cr,Rh,Ruのうちいずれの元素を添加してもよい。さらに、上記元素のうち、2種以上の元素を添加してもよい。この場合、比抵抗をさらに大きくできる効果があり、磁気抵抗効果膜40への逆方向横バイアス磁界の発生をさらに小とできる。
【0112】ここで、非磁性元素の最適添加料は、磁気抵抗効果膜40,第二の磁性膜77,第一の磁性膜45の種類,組成,膜厚などに依存するので、その都度、所望の結合磁界になるように本発明の上記手法で調整しなければならない。
【0113】本発明に係る第二の磁性膜77の膜厚は50〜500Åである。MRヘッドの再生出力を大とするためには、逆方向横バイアス磁界の発生を防ぐべく、磁性膜77の導電性を小とすべく、薄くする方が望ましいが、膜が薄すぎる場合には均一な連続膜とすることができない。一方、厚くすると逆方向の横バイアス磁界の発生が大となって、再生出力が小さくなってしまう。従って、第二の磁性膜77の膜厚は50〜500Åの範囲で構成するのが望ましい。
【0114】さらに、MRヘッド1000の膜構成とする場合、高出力の電気的信号とすべく第二の磁性膜77は磁気抵抗効果膜40より薄くなければならない。
【0115】次に、第一の磁性膜45の材料としては、上記NiOの他、磁気抵抗効果膜40と優れた磁気交換結合特性を示す下記の材料で構成しても上記目的は達成可能である。
【0116】すなわち、FeMn合金,FeMnPd合金,FeMnPt合金,FeMnRh合金,FeMnIr合金,FeMnRu合金,FeMnOs合金,FeMnRe合金,FeMnCr合金,FeMnCr合金,TbFe合金,GdFe合金,GdFe合金,GdCo合金,α−Fe23でも代用可能である。
【0117】さらに、NiOに少量のFe,Coや、α−Fe23に少量のCo,Niを添加しても上記目的は達成可能である。さらに、NiOやα−Fe23に少量の希土類元素La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybを添加しても上記目的は達成可能である。
【0118】本発明によると、磁気抵抗効果膜40感磁部で磁区制御を行うことにより下記の効果がある。
【0119】本発明によると、磁気ディスク装置の面記録密度に応じ、所望の縦バイアス磁界値の大きさに自由、かつ、容易に調節可能である。感磁部を磁区制御しているために、MRヘッドに所望の交換結合特性を容易に所持させることができる。しかも、再現性よくできる。
【0120】さらに、本発明に係る記録再生分離型磁気ヘッドは、たとえば、図1と図6に示すように磁気抵抗効果膜40上方に信号検出電極60が形成され、その上方に、上部ギャップ膜70,上部シールド膜80、さらには、記録ヘッド2000が積層される。発明者らは、これにより磁気抵抗効果膜40が複雑で大きな応力を受けていることを確認した。一般に、強磁性体に応力が加わると磁気異方性が発生する。この物理現象を応力誘起磁気異方性、あるいは逆磁歪効果という。この大きさは、強磁性体に印加されている応力の大きさと、強磁性体の磁歪定数と、強磁性体の飽和磁束密度に比例する。また、異方性の方向は応力の印加されている方向と磁歪定数の正負によって定まる。本発明によると、磁気抵抗効果膜40の磁歪定数を小としている(10-7程度)。しかし、磁気抵抗効果膜40の信号検出電極60付近では、かなり大きな応力が印加されていたため、たとえ、磁気抵抗効果膜40の磁歪定数を小さくしても、磁区制御が不十分な場合には一方向異方性を乱す応力誘起磁気異方性が発生した。
【0121】しかし、本発明によると、磁気抵抗効果膜40感磁部を上記磁区制御層100により直接磁区制御しているため、一方向異方性の方が応力誘起異方性よりも優勢であり、安定性よく単一磁区状態が維持できた。さらに、感磁部を直接磁区制御しているため、より小さな縦バイアス磁界で単一磁区状態とできた。すなわち、小さな縦バイアス磁界でもバルクハウゼンノイズを安定性よく抑止できる効果があった。さらに、これにより、MRヘッドの高出力化を有利とする効果があった。さらに、これにより、磁気ディスク装置の高記録密度化を有利とする効果もあった。
【0122】さらに、本発明によると、第二の磁性膜77の磁歪定数も小としている。これは、一方向異方性を安定性よく維持する効果があり、バルクハウゼンノイズを安定性よく抑止できる効果がある。
【0123】さらに、本発明によると、MRヘッド1000に搭載する上記第二の磁性膜77を、Niを主成分とした強磁性膜とすると下記の効果がある。上記磁区制御層100は、第一の磁性膜45の上方に第二の磁性膜77を形成し、その上方に磁気抵抗効果膜40を形成して構成される。磁気抵抗効果膜40はF.C.C.の結晶構造を所有している。一方、Ni主成分の強磁性膜もF.C.C.の結晶構造を所有している。磁気抵抗効果膜40の下側がF.C.C.の結晶構造を有する場合、磁気抵抗効果膜40はエピタキシャル成長できる。この場合、磁気抵抗効果膜40の結晶性が上昇し、磁気抵抗効果膜40の磁気特性を向上できる効果があった。この場合、MRヘッド1000の磁気的応答性を向上できる効果があった。
【0124】さらに、上記第一の磁性膜45とする反強磁性膜のうち、本発明に係るブロッキング温度を大としたNiO膜(約200℃)を用いることにより下記の効果がある。
【0125】MRヘッドにセンス電流通電時、磁気ヘッドは自己発熱する。該自己発熱により、磁気ヘッドがブロッキング温度以上に上昇した場合、上記ノイズを抑止するための縦バイアス磁界は消失してしまう。本発明は、ブロッキング温度が該自己発熱による温度上昇よりも大きいことを含めなければならない。該発熱量は、磁気抵抗効果素子に通電する電流密度に依存し、高電流密度で通電するほど大である。一方、高電流密度で通電するほどMRヘッドの再生出力を大にできるため、再生出力を大とするには高電流密度で通電した方が望ましい。しかし、極端に高電流密度で通電すると、エレクトロマイグレーション現象が発生する。エレクトロマイグレーション現象とは、磁気抵抗効果素子を構成する各原子が多量の電子にはじき出され、原子が陽極に移動し、しまいには磁気抵抗効果素子が断線してしまう現象である。本発明は、MRヘッドがエレクトロマイグレーション現象が発生しない許容電流密度下で使用することを含まなければならない。そして、その最大発熱量は約80℃以下に抑えてある。本発明に係るNiO膜のブロッキング温度は、約200℃と最大発熱温度80℃に比べ大であり、該自己発熱により磁気ヘッド温度が上昇しても、縦バイアス磁界が消失することはなく、信頼性のある磁気ディスク装置を提供できる効果がある。
【0126】さらに、図14で、異方性磁界Hkを約10Oeに低減したNi72.7Fe17.4Nb9.9を第二の磁性膜77とした結合磁界の温度依存性を見ると、室温から80℃で結合磁界Heの温度変化が小さいことを確認できる。見方を変えると、異方性磁界Hkをほぼ同じに保つことができる。そして、磁気ディスク装置の動作温度範囲である室温から80℃で異方性磁界Hkをほぼ一定に保てるので、周囲温度が該温度範囲で変動しても、磁気ディスクに記録された同一情報からは、つねに同一の電気的信号およびピーク値が得られ、信頼性のある再生動作とできる効果がある。さらに、温度による前記電気的信号のピーク値変動幅を5%以内に抑えることができる。
【0127】上記より、動作温度範囲内で信頼性のある、ノイズレス,高出力とした磁気ディスク装置が実現できる。
【0128】さらに、磁気ヘッドの耐食性を向上できる効果がある。
【0129】磁気ヘッド製造工程中、たとえば媒体対向面の研磨工程で第一の磁性膜45は腐食環境にさらされる。実際の研磨加工は、pH4〜8の領域で行われる。第一の磁性膜45は、このpH範囲で耐食性のよい材料で構成するのが望ましい。
【0130】図18は、NiO膜、FeMn膜の腐食試験結果である。比較のため、磁気抵抗効果膜40の1例であるNiFe膜の浸漬試験結果を示した。酸性側は純水に塩酸を滴下してpH値を調整し、アルカリ側は水酸化ナトリウムを滴下して調節した。その後、各水溶液を80℃に加熱し、上記試験片を3時間浸漬し、腐食前後の膜厚の段差を測定し、浸漬時間で割ることにより腐食速度とした。図18では、NiO膜はpH4〜8の範囲で全く腐食されないことを確認した。この実施結果より、本発明に係るNiO膜を用いることにより、磁気ヘッドの耐食性を向上できる効果があることを明らかにした。
【0131】上記のように、本発明に係るNiO膜は耐食性がよいため、磁気ディスク装置の製造コストを安くできる効果もある。
【0132】第一の磁性膜45にFeMn系合金膜を用いる場合、FeMn系の反強磁性膜は酸化しやすいため、磁気ディスク装置内部の環境を低湿下に保持する必要がある。また、製造工程でも腐食及び酸化を防止するための特別の対策,注意を払わなければならない。一方、本発明はNiO膜が30〜80%の湿度に耐えられることを含むが、これにより、磁気ディスク装置内部を低湿下に保持する装置を設けなくてもすむ。これにより、磁気ディスク装置の製造コストおよび、動作時の消費電力が削減でき、低コストで信頼性のある磁気ディスク装置が実現できる。さらに、小型磁気ディスク装置の大きさを小とするのに有利にできる。
【0133】さらに、本発明に係るNiO膜を第一の磁性膜45とすることにより、製造工程上下記の利点がある。
【0134】本発明に係るNiO膜は酸化物である。本発明は、NiO膜をひとたび大気中に取り出しても第二の磁性膜77との磁気交換結合を維持できることを含むが、これにより、製造プロセス上連続積層しなければならないという制約が解除できる。これにより、設備導入など必要とせず、従来の膜形成装置で対応できる利点がある。
【0135】さらに、上記のように磁気抵抗効果膜40と第二の磁性膜77と磁気交換結合を形成する前に、NiO膜を大気中に取り出すことができるので、NiO膜を第二の磁性膜77或は磁気抵抗効果膜40と異なる形状に加工できる利点がある。これにより、種々のプロセスを可能とし、さらに、NiO膜を用いて、磁気ヘッドに付加機能を持たせることができる。これらは、代案として後述する。
【0136】さらに、上記のように、NiO膜と他の膜は別々のスパッタリング室,真空装置で形成できるため、次の利点がある。酸化物膜と金属膜を同一のスパッタリング室,真空装置で形成する場合、酸化物により排気速度が極度に落ちる。また、到達真空度が悪くなる。これは、第二の磁性膜77,磁気抵抗効果膜40の磁気特性を劣化させてしまう。また、スループットも悪くしてしまう。特に、磁気抵抗効果膜40のMR特性が劣化し、MRヘッドの再生出力を著しく劣化させる原因となる。本発明は、NiO膜と他の磁性膜は別のスパッタリング室、または、真空装置で形成することを含む。これにより、磁気抵抗効果膜40形成時、不純物混入を防ぐことができ、高出力とした磁気抵抗効果膜40が製造できる。
【0137】第一の磁性膜45が酸化物反強磁性膜で構成される場合、本発明に係る第二の磁性膜77は酸化物反強磁性膜から磁気抵抗効果膜40への酸素拡散を防止する効果もある。
【0138】たとえば、酸化物反強磁性膜であるNiOは不定比化合物である。NiOは、通常Niが不足し、酸素過剰になっている。しかも、NiOはアルミナのように酸素との親和力はそれほど大きくない。このため、NiOを熱処理すると酸素が出入りする可能性がある。実際、磁気交換結合した磁気抵抗効果膜40とNiO膜の2層膜を熱処理したところ、熱処理後、磁気抵抗効果膜40の磁気特性が劣化した。著者らは、この劣化の原因を調べるために、オージェ電子分光を試みたところ、NiO膜の酸素が磁気抵抗効果膜40に拡散していることを明らかにした。磁気抵抗効果膜40に酸素などの不純物が存在する場合、磁気抵抗効果膜40の磁気抵抗変化率が減少した。一方、磁気ヘッドの製造にあたっては、多数の熱処理工程が含まれる。最高で250℃程度の熱処理が含まれる。これにより、磁気抵抗効果膜40とNiO膜が直接接した構造とした場合には、NiO膜中の酸素が磁気抵抗効果膜40に侵入する。したがって、磁気抵抗効果膜中への酸素混入を防止しなければならない。
【0139】本発明では、第二の磁性膜77により、上記酸素混入を防止していることを含む。
【0140】図19に、磁気抵抗効果膜40とNiO膜の中間に本発明に係る第二の磁性膜77を介在させ、交換結合したこれら3層膜を耐熱試験した実施結果を示す。熱処理は真空中で各温度3時間行った。図19では、熱処理前の各磁気物性値を1として熱処理後の値を規格化した。図19では、250℃,3時間の熱処理では結合磁界Heと容易軸保磁力Hceと困難軸保磁力Hchと異方性磁界Hkの値は熱処理前に比べて全く変化しないことを明らかにした。さらに、275℃でもほとんど変化がなかった。これより、本発明に係る第二の磁性膜77は、NiO膜から磁気抵抗効果膜40への酸素侵入を効果的にブロックするのに有効であることを明らかにした。したがって、第一の磁性膜45が酸化物反強磁性膜で構成される場合、本発明に係る第二の磁性膜77は酸化物反強磁性膜から磁気抵抗効果膜40への酸素拡散を防止するのに有効であり、MRヘッドの再生出力劣化を抑えることができる効果があった。
【0141】さらに、第二の磁性膜77はNiO膜から侵入した酸素を含んでおり、これにより、第二の磁性膜77だけで測定した比抵抗値よりも実質的には大きな値を持つことができた。このため、磁気抵抗効果膜40への逆方向の横バイアス磁界の発生をさらに小さくでき、磁気抵抗効果膜40を高出力とできる効果があり、これと同時に、磁気抵抗効果膜40への電流の分流比を大とできるため、MRヘッドの再生出力を大きくできる効果もあった。
【0142】本発明によると、上記MRヘッド1000は、第一の磁性膜45の上側に自発磁化を持つ第二の磁性膜77を形成し、その上に磁気抵抗効果膜40を形成したが、これらの層構成を反転し、磁気抵抗効果膜40上に第二の磁性膜77を形成し、この上に第一の磁性膜45を形成して磁区制御層とし、これを含むMRヘッド構造として磁気ディスク装置に搭載しても上記目的は達成できる。
【0143】さらに、第一の磁性膜を上記反強磁性膜の代わりにCoPt合金,CoPtCr合金などの永久磁石膜で構成しても目的は達成できる。この場合、自発磁化の大きさは磁気抵抗効果膜40が最も大きく、ついで、第一の磁性膜45,第二の磁性膜77が最も小さくなければならない。
【0144】さらに、第一の磁性膜45が複数の層から成り、これらの層に反強磁性体が析出した層で構成しても代用可能である。
【0145】さらに、本発明によると、上記磁区制御層100において、磁気抵抗効果膜40に印加すべき縦バイアス磁界の大きさは、第二の磁性膜77の厚さを変えることによっても調節可能である。磁気抵抗効果膜40,第二の磁性膜77の膜厚を厚くしても、磁気抵抗効果膜40への縦バイアス磁界を所望値まで小さくでき、バルクハウゼンノイズを抑止できる範囲で再生出力を高めることができる。さらに、磁気抵抗効果膜40,第二の磁性膜77の飽和磁束密度と膜厚を同時に変えても目的は達成可能である。
【0146】さらに、本発明によれば、結合磁界Heは図16に示すようなNiO膜厚依存性があるので、NiO膜厚を変えることにより、所望の縦バイアス磁界値に調整することが可能である。
【0147】さらに、第二の磁性膜77を2層以上の自発磁化を所持する磁性膜としてもよい。
【0148】さらに、本発明に係るMRヘッド1000は、磁気抵抗効果膜40の上方に信号検出電極60を配置しているが、磁気抵抗効果膜40の下方に配置してもよい。
【0149】さらに、本発明では、少なくとも磁気抵抗効果膜40感磁部でこれに隣接して第二の磁性膜77を形成し、これに隣接して第一の磁性膜45を形成したが、これら第二の磁性膜77と第一の磁性膜45を、磁気抵抗効果膜40が複雑な応力を受けている電極部に配置して電極を兼ねた構造とし、これを含むMRヘッド構造としても目的は達成できると推定される。この場合、磁気抵抗効果膜40に隣接する信号検出電極として、はじめに第二の磁性膜77、次に第一の磁性膜45が隣接した層を含む信号検出電極構造にしなければならない。
【0150】さらに、上記MRヘッド1000の製造工程において、第一の磁性膜45とするNiO膜を少なくとも磁気抵抗効果膜40の感磁部にパターニングしてから、第二の磁性膜77,磁気抵抗効果膜40,シャント膜50,ソフト膜55を所定の位置に形成してもよい。
【0151】さらに、第二の磁性膜77,磁気抵抗効果膜40,シャント膜50,ソフト膜55を順次積層した後、一括してこれらの膜をイオンミリング法により所定の位置にパターニングして、第一の磁性膜45とするNiO膜だけをベタ膜状態として残存させてもよい。
【0152】さらに、下部シールド膜20の上に第一の磁性膜45とするNiO膜を形成後、これらの膜を図1に示す下部シールド膜20と同じ形状に一括加工してから、第二の磁性膜77,磁気抵抗効果膜40,シャント膜50,ソフト膜55を形成し、これらを一括してパターニングしてもよい。
【0153】さらに、第一の磁性膜45が酸化物反強磁性体である場合、酸化物反強磁性ターゲット(NiO,酸化鉄)上に、少量のFe,Co,Niチップ、あるいは希土類元素であるLa,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybやこれらの酸化物チップを配置してスパッタリングを行っても、目的を満たす第一の磁性膜45の製造が可能である。
【0154】さらに、酸化物反強磁性ターゲット(NiO,酸化鉄)中にこれらの元素を含んだものを用い、これをスパッタリングしても目的を満たす第一の磁性膜45の製造が可能である。
【0155】さらに、本発明に係る第一の磁性膜45とするNiOは室温で形成したが、NiOおよび上記第3元素を含んだNiOを室温から250℃の温度範囲で形成してもよい。また、放電ガス種としてはArのほかにAr+O2 であってもよかった。
【0156】さらに、NiあるいはNiより構成されるターゲット上に、少量のFe,Co,Niチップ,上記希土類元素より構成されるチップ、または、これらの酸化物チップを配置し、放電用ガス種としてAr+O2 を用いてリアクティブスパッタを行っても目的を満たす第一の磁性膜45の形成が可能であった。
【0157】さらに、上記放電用ガス種に少量の水素ガスあるいはヘリウムガスを混入することにより、酸化物反強磁性膜を緻密にすることが可能となり、良質の酸化物反強磁性膜の製造ができると推定される。
【0158】さらに、基板側にバイアス電圧を印加しながら酸化物反強磁性膜を成膜すると緻密な膜が成膜でき、良質な酸化物反強磁性膜の製造が可能になると推定できる。
【0159】さらに、本発明に係る第二の磁性膜77はFe,Co,Ni,Fe−Co合金,Co−Ni合金,Ni−Fe合金などのターゲットを用い上記の非磁性金属のチップを適量配置してスパッタリングを行ってもよく、上記非磁性金属を適量含んだ合金ターゲットを用いてもよい。
【0160】さらに、第二の磁性膜77は、Fe,Co,Niの一種以上を主成分とし、Sc,Mn,Zn,Y,Zr,Tc,Pd,Ag,Hf,Re,Os,Ir,Pt,Au,ランタノイド元素から一種以上選ばれた合金膜で構成しても目的を満たす第二の磁性膜77の形成が可能であると推定できる。
【0161】さらに、本発明に係る第二の磁性膜77の形成時、放電用ガス種にArを用いたが、Ar+N2 を用いてスパッタリングを行っても目的を満たす第二の磁性膜77の形成が可能であった。
【0162】さらに、基板温度を室温〜250℃の温度範囲のいずれの温度でスパッタリングを行っても目的を満たす第二の磁性膜77の形成が可能であった。
【0163】さらに、本発明に係る第一の磁性膜45,第二の磁性膜77はイオンビームスパッタ法,真空蒸着法,メッキ法などの他の成膜手段を用いても形成が可能である。
【0164】さらに、本発明に係るMRヘッド1000において、第一の磁性膜45とする反強磁性膜、あるいは第二の磁性膜77、あるいは磁気抵抗効果膜40のいずれか一部接してCoPt合金,CoPtCr合金のような永久磁石膜を配置することにより、下記の利点がある。
【0165】MRヘッドが、反強磁性膜のブロッキング温度以上の熱履歴を万が一受けた場合、磁気抵抗効果膜40に付与されている縦バイアス磁界が消失してしまう。しかし、ブロッキング温度以下に冷却されるとき、永久磁石膜と接している反強磁性膜或は第二の磁性膜77或は磁気抵抗効果膜40の何れかの膜が永久磁石膜と交換結合できる。このことにより、ブロッキング温度以上の熱履歴を受けても磁気抵抗効果膜40に付与されている縦バイアス磁界を維持できる。さらに、CoPt合金膜等は一方向に強い磁束を発生するので、磁気抵抗効果膜40の単磁区化に有利とできる。さらに、ソフト膜バイアス法,複合バイアス法を用いる場合、ソフト膜の磁区制御ができるため、磁気抵抗効果膜40を安定性よく磁区制御することが可能になる。
【0166】さらに、本発明に係る酸化物反強磁性膜、たとえば、NiO膜は絶縁性を示すため、MRヘッド1000において、下部ギャップ膜20をNiO膜で構成してもよい。この場合、下部ギャップ膜20の製造工程がなくなるので製造コストを下げることができる。さらに、MRヘッド1000は製造終了時、磁気抵抗効果膜40内の磁気モーメントを一方向に揃えるため、磁界中で熱処理する工程が含まれる。MRヘッド1000では、上部,下部シールド膜80,10が備えてあり、これらの膜厚および膜面積は、磁気抵抗効果膜40に比べて極めて大きい。このため、印加磁界が小さいと、この磁界はすべてこれらの磁気シールド膜に吸収されてしまう。したがって、磁界中熱処理時、磁気抵抗効果膜40内部の磁気モーメントを整列させるためにはかなりの強磁界が必要となる。しかし、NiO膜が下部ギャップ膜20をかねている場合、磁気抵抗効果膜40内の磁気モーメントの方向を整列させるために必要な磁界は、結合磁界に相当する磁界、すなわち、数〜数10Oe程度でよい。NiO膜が磁気抵抗効果膜40と下部シールド膜10の両方に磁気交換結合しているからである。このため、結合磁界の大きさ程度の外部磁界で熱処理すれば磁気抵抗効果膜40内部の磁気モーメントの方向を揃えられることになる。これは、磁界中熱処理時に必要な消費電力を大幅に下げることとなり、MRヘッドの製造コストを大幅に下げることができる。
【0167】さらに、ソフト膜55を備えた、たとえば、MRヘッド1000において、上部ギャップ膜70の下側に、ソフト膜55と信号検出電極60の上側に、本発明に係る酸化物反強磁性膜を介在させると次の利点がある。この場合、酸化物反強磁性膜とソフト膜55が磁気交換結合するので、ソフト膜55の磁区制御を行うことができる。ソフト膜が多磁区状態になっている場合、ソフト膜55に近接して配置されている磁気抵抗効果膜40にノイズを誘導しやすくなる。ソフト膜55を酸化物反強磁性膜で磁区制御し、ソフト膜55を単一磁区状態に維持することにより、磁気抵抗効果膜40に発生するノイズを安定性よく抑止することが可能となる。さらに、この場合、上部ギャップ膜70を本発明に係る酸化物反強磁性膜が兼ねてもよい。さらに、第二の磁性膜77を介して酸化物反強磁性膜を設けてもよい。
【0168】さらに、本発明に係る磁区制御層は、シールド膜を備えてMRヘッドを構成しているが、ノンシールド型MRヘッド,ヨークタイプMRヘッド,バーバーポール型MRヘッド、さらに、単なる強磁性膜の磁気抵抗効果を利用した磁気センサーにも、本発明は適用可能である。
【0169】さらに、本発明は縦バイアス磁界の印加のほか、横バイアス磁界の印加にも適用は可能である。
【0170】さらに、本発明は、磁気抵抗効果膜40の磁区制御ばかりでなく、従来の電磁誘導タイプの磁気ヘッドにも適用は可能である。電磁誘導タイプの磁気ヘッドにおいて、上部磁気コア、及び下部磁気コアに本発明の磁区制御法を適用することにより、これらの磁性膜の磁区制御が可能になると推定できる。
【0171】さらに、本発明は、巨大磁気抵抗効果素子において、強磁性膜に一方向異方性を付与するのにも適用は可能であると推定できる。
【0172】
【発明の効果】本発明によると、ノイズレス,高出力で再生できる磁気ヘッド及びそれを用いた磁気ディスク装置を提供できる。
【0173】さらに、本発明によると、動作温度範囲内で安定に、ノイズレス,高出力で再生できる磁気ヘッド及びそれを用いた磁気ディスク装置を提供できる。
【0174】上記より、直径が1.5〜6.5インチの磁気ディスクと、該磁気ディスクを3500〜5000rpmで回転させる手段と、該磁気ディスクに記録させた磁気的信号を磁気抵抗効果膜によって電気的信号に変換する磁気ヘッドと、を有する磁気ディスク装置であって、前記磁気ディスクのトラック密度を2.6〜20.0tpi 及びビット密度60〜200ktpiとし、転送速度6〜9MB/s及びアクセス時間5〜10msで再生することを特徴とする磁気ディスク装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例のMRヘッドを示す斜視図。
【図2】本発明の磁気ディスク装置および情報処理システムの構成を示す概略図。
【図3】本発明の一実施例の磁気ディスク装置の斜視図。
【図4】本発明の記録再生分離型磁気ヘッドをスライダに形成した斜視図。
【図5】荷重アーム上にスライダを形成した斜視図。
【図6】本発明の一実施例の記録再生分離型磁気ヘッドを示す斜視図。
【図7】本発明の磁区制御層の機能を示す拡大断面図。
【図8】NiFeNb合金膜の飽和磁束密度のNb量依存性を示す図。
【図9】NiFeNb合金膜の比抵抗のNb量依存性を示す図。
【図10】異方性磁界,結合磁界とNiFeNb合金膜のNb添加量の関係を示す図。
【図11】異方性磁界,結合磁界とNiFeNb合金膜の飽和磁束密度の関係を示す図。
【図12】本発明の磁区制御層を含む磁気抵抗効果素子の磁気抵抗変化曲線を示す図。
【図13】本発明の磁区制御層を含むMRヘッドの再生波形を示す図。
【図14】本発明の磁区制御層のブロッキング温度を示す図。
【図15】本発明の自発磁化を所持する磁性膜のキュリー温度がブロッキング温度よりも高い必要があることを説明する図。
【図16】本発明のNiO膜の結合磁界,異方性磁界のNiO膜厚依存性を示す図。
【図17】本発明のNiO膜のブロッキング温度のNiO膜厚依存性を示す図。
【図18】各磁性膜の腐食試験結果を示す図。
【図19】本発明の磁区制御層の耐熱試験結果を示す図。
【符号の説明】
10…下部シールド膜、11…モータ、12…磁気ディスク、13…磁気ヘッド、14…キャリッジ、15…ボイスコイルモータ、20…下部ギャップ膜、40…磁気抵抗効果膜、45…第一の磁性膜、50…シャント膜、55…ソフト膜、60…信号検出電極、70…上部ギャップ膜、71…ヘッド・ディスクアッセンブリ、72…電子回路部、73…ヘッド・ディスクアッセンブリ・ユニット、77…第二の磁性膜、80…上部シールド膜、81…スライダ、83…媒体対抗面、91…荷重アーム、93…ジンバルバネ、100…磁区制御層、101…非磁性基板、110…導体コイル、120…絶縁膜、130…磁気コア、700…磁気ディスク装置の容器、1000…MRヘッド、2000…記録ヘッド、3000…記録再生分離型磁気ヘッド、4000…磁気ディスク装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】磁気抵抗効果を用いて磁気的信号を電気的信号に変換する磁気抵抗効果膜と、前記磁気抵抗効果膜に信号検出電流を流すための一対の電極とを有する磁気ヘッドを搭載した磁気ディスク装置であって、前記一対の電極に挾まれた領域に、前記磁気抵抗効果膜に接して配置された磁区制御層を有し、前記磁区制御層が、前記磁気抵抗効果膜に長手方向のバイアス磁界を印加する第一の磁性膜と、前記第一の磁性膜と前記磁気抵抗効果膜との間に形成され、前記磁気抵抗効果膜と前記第一の磁性膜との磁気的な結合の大きさを調節する第二の磁性膜と有する磁気ヘッドを搭載したことを特徴とする磁気ディスク装置。
【請求項2】請求項1記載の磁気ディスク装置において、前記第二の磁性膜の膜厚より前記磁気抵抗効果膜の膜厚が厚いことを特徴とする磁気ディスク装置。
【請求項3】直径が1.5〜6.5インチの磁気ディスクと、該磁気ディスクを3500〜5000rpm で回転させる回転手段と、該磁気ディスクに記録された磁気的信号を磁気抵抗効果膜によって電気的信号に変換する磁気ヘッドと、を有する磁気ディスク装置であって、前記磁気ディスクにトラック密度2.6〜20.0ktpi及びビット密度60〜200kbpiで記録された情報を、転送速度6〜9MB/s及びアクセス時間5〜10msで再生することを特徴とする磁気ディスク装置。
【請求項4】磁気抵抗効果を用いて磁気的信号を電気的信号に変換する磁気抵抗効果膜と、前記磁気抵抗効果膜に信号検出電流を流すための一対の電極とを有する磁気ヘッドを搭載した磁気ディスク装置であって、前記一対の電極に挾まれた領域に、前記磁気抵抗効果膜に接して配置された磁区制御層を有し、前記磁区制御層が、反強磁性膜と、前記反強磁性膜と前記磁気抵抗効果膜との間に形成される磁性膜とを有し、前記磁性膜の自発磁化より前記反強磁性膜の自発磁化が小さいことを特徴とする磁気ヘッドを搭載した磁気ディスク装置。
【請求項5】磁気抵抗効果を用いて磁気的信号を電気的信号に変換する磁気抵抗効果膜と、前記磁気抵抗効果膜に信号検出電流を流すための一対の電極とを有する磁気ヘッドを搭載した磁気ディスク装置であって、前記一対の電極に挾まれた領域に、前記磁気抵抗効果膜に接して配置された磁区制御層を有し、前記磁区制御層が、永久磁石膜と、前記永久磁石膜と前記磁気抵抗効果膜との間に形成される磁性膜とを有し、前記磁性膜の自発磁化より前記永久磁石膜の自発磁化が大きいことを特徴とする磁気ヘッドを搭載した磁気ディスク装置。
【請求項6】磁気抵抗効果を用いて磁気的信号を電気的信号に変換するNiFe膜と、前記NiFe膜に信号検出電流を流すための一対の電極とを有する磁気ヘッドを搭載した磁気ディスク装置であって、前記一対の電極に挾まれた領域に、前記NiFe膜に接して配置された磁区制御層を有し、前記磁区制御層が、NiO又はCoPtからなる第一膜と、前記第一膜と前記NiFe膜との間に形成されたNiFeNbからなる第二膜とを有することを特徴とする磁気ヘッドを搭載した磁気ディスク装置。
【請求項7】磁気抵抗効果を用いて磁気的信号を電気的信号に変換する磁気抵抗効果膜と、前記磁気抵抗効果膜に信号検出電流を流すための一対の電極とを有する磁気ヘッドにおいて、前記一対の電極に挾まれた領域に、前記磁気抵抗効果膜に接して配置された磁区制御層を有し、前記磁区制御層が、前記磁気抵抗効果膜に長手方向のバイアス磁界を印加する第一の磁性膜と、前記第一の磁性膜と前記磁気抵抗効果膜との間に形成され、前記磁気抵抗効果膜と前記第一の磁性膜との磁気的な結合の大きさを調節する第二の磁性膜と有することを特徴とする磁気ヘッド。
【請求項8】磁気抵抗効果を用いて磁気的信号を電気的信号に変換する磁気抵抗効果膜と、前記磁気抵抗効果膜に信号検出電流を流すための一対の電極とを有する磁気ヘッドにおいて、前記一対の電極に挾まれた領域に、前記磁気抵抗効果膜に接して配置された磁区制御層を有し、前記磁区制御層が、反強磁性膜と、前記反強磁性膜と前記磁気抵抗効果膜との間に形成される磁性膜とを有し、前記磁性膜の自発磁化より前記反強磁性膜の自発磁化が小さいことを特徴とする磁気ヘッド
【請求項9】磁気抵抗効果を用いて磁気的信号を電気的信号に変換する磁気抵抗効果膜と、前記磁気抵抗効果膜に信号検出電流を流すための一対の電極とを有する磁気ヘッドにおいて、前記一対の電極に挾まれた領域に、前記磁気抵抗効果膜に接して配置された磁区制御層を有し、前記磁区制御層が、永久磁石膜と、前記永久磁石膜と前記磁気抵抗効果膜との間に形成される磁性膜とを有し、前記磁性膜の自発磁化より前記永久磁石膜の自発磁化が大きいことを特徴とする磁気ヘッド
【請求項10】磁気抵抗効果を用いて磁気的信号を電気的信号に変換するNiFe膜と、前記NiFe膜に信号検出電流を流すための一対の電極とを有する磁気ヘッドにおいて、前記一対の電極に挾まれた領域に、前記NiFe膜に接して配置された磁区制御層を有し、前記磁区制御層が、NiO又はCoPtからなる第一膜と、前記第一膜と前記NiFe膜との間に形成されたNiFeNbからなる第二膜とを有することを特徴とする磁気ヘッド

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図12】
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【図2】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図13】
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【図10】
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【図16】
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【図17】
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【図11】
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【図19】
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【図14】
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【図15】
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【図18】
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【特許番号】第2817501号
【登録日】平成10年(1998)8月21日
【発行日】平成10年(1998)10月30日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−59895
【出願日】平成4年(1992)3月17日
【公開番号】特開平5−135331
【公開日】平成5年(1993)6月1日
【審査請求日】平成7年(1995)3月10日
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【参考文献】
【文献】特開 平3−160613(JP,A)