説明

磁気ヘッド駆動回路

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は磁気ディスク装置に用いられる磁気ヘッド、特に磁気抵抗効果型再生ヘッド(以下、MRヘッドと呼称する)と記録ヘッドを駆動する磁気ヘッド駆動回路に関するものである。
【0002】
【従来の技術】磁気抵抗効果素子(以下、MR素子と呼称する)を使用したMRヘッドは、再生専用ではあるが、高い感度を有し、かつその出力が媒体−ヘッド間の相対速度に依存しないという特徴を有しているため、磁気ディスク装置の小型化・大容量化を実現する上で、極めて魅力的なヘッドである。そして、MRヘッドを磁気ディスク装置に搭載するためには、記録ヘッドと一体化した構造が有利である。なぜなら、データの記録再生を別々のヘッドで行うことは、それぞれのヘッドのアクセス時間が余分に必要で、データのスループットを上げる上で不利になるためである。
【0003】従来の複合ヘッドの一例の断面を図4に示し説明する。従来の複合ヘッドにおいては、この図4の断面図に示すような構造が用いられてきた。この図4において、41は上部磁気ヨーク、42は下部磁気ヨーク兼上部シールド、43は下部シールド、44は記録ギャップ、45,46は再生ギャップ、47はMR素子、48はコイル、49は記録磁界の向きである。そして、この図4に示す複合ヘッドにおいては、コイル48を流れる電流により記録磁界49が発生し、この記録磁界49により、磁気ディスク上に情報が記録される。また、再生時には、磁気ディスク上に記録された磁化パターンによる磁界の変化をMR素子47により抵抗変化として検出し、センス電流を供給して出力電圧を得る。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上述の複合ヘッドにおいては、記録動作時に発生する記録磁界の影響により、MR素子の磁化状態が乱される場合がある。すなわち、記録磁界は、MR素子にも印加されるが、その大きさは磁気記録媒体の保磁力より十分大きく、1000エルステッド以上であり、MR素子をバイアスするために印加される数十エルステッド程度のバイアス磁界より、極めて大きい。したがって、記録動作時にはMR素子の磁化方向は記録磁界の向きにより反転を繰り返す。そして、MR素子の磁化の反転にヒステリシスがあると、記録動作終了時の記録磁界の向きがMR素子のバイアス磁界の向きと同じ場合にはMR素子のバイアスが深くかかり、記録磁界の向きがMR素子のバイアス磁界の向きと逆の場合には、MR素子のバイアスが浅くなる。このように、従来の複合ヘッドでは、記録動作終了時の記録磁界の向きにより、MR素子のバイアスが変動すると、MR素子の再生感度が変動し、再生出力が変動するという課題があった。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明による磁気ヘッド駆動回路は、磁気抵抗効果膜,非磁性膜および上記磁気抵抗効果膜に磁気的なバイアスを与える隣接軟磁性膜を備えた磁気抵抗効果型再生ヘッドと、上部および下部磁性膜より構成される磁気ヨークと、この磁気ヨークに卷かれたコイルならびに磁気記録媒体対向面において上記上部および下部磁性膜間にギャップを備えた記録ヘッドの複合ヘッドを駆動する磁気ヘッド駆動回路であって、上記複合ヘッドが記録動作から再生動作に移行する際の最終の記録磁界発生方向が一定であり,かつその向きが上記隣接軟磁性膜の磁化方向と一致しているものである。
【0006】また、本発明の別の発明による磁気ヘッド駆動回路は、磁気抵抗効果膜および導電性金属膜を備えた磁気抵抗効果型再生ヘッドと、上部および下部磁性膜より構成される磁気ヨークと、この磁気ヨークに卷かれたコイルならびに磁気記録媒体対向面において上記上部および下部磁性膜間にギャップを備えた記録ヘッドの複合ヘッドを駆動する磁気ヘッド駆動回路であって、上記複合ヘッドが記録動作から再生動作に移行する際の最終の記録磁界発生方向が一定であり,かつその向きが上記導電性金属膜を流れる電流により発生する上記磁気抵抗効果膜のバイアス磁界の向きと一致しているものである。
【0007】また、本発明による磁気ヘッド駆動回路は、上記各発明において、記録動作中も再生ヘッドのセンス電流を供給するようにしたものである。
【0008】
【作用】本発明においては、記録動作終了時の記録磁界の向きがMR素子のバイアスを深める向きに保たれ、また、記録動作中もMR素子のバイアス磁界が印加されている。
【0009】
【実施例】図1は本発明による磁気ヘッド駆動回路の一実施例を示すブロック図である。この図1において、1はエンコーダ、2はこのエンコーダ1の出力である記録データaを入力とする記録ビット付加回路、3はこの記録ビット付加回路2の出力信号dを入力とするフリップフロップ、4はこのフリップフロップ3の出力信号eを入力とする記録アンプ、5はこの記録アンプ4の出力である記録電流fによって作動する記録ヘッド、6は記録電流源、7はエンコーダ1の出力である記録データaと記録終了信号cを入力とし奇数・偶数判定信号bを記録ビット付加回路2に供給するフリップフロップである。gは記録終了信号である。
【0010】図2は図1の動作説明に供するタイムチャートで、(a)はエンコーダ1の出力である記録データaを示したものであり、(b)はフリップフロップ7の出力である奇数・偶数判定信号b、(c)は記録終了信号c、(d)は記録ビット付加回路2の出力信号d、(e)はフリップフロップ3の出力信号e、(f)は記録アンプ4の出力である記録電流fを示したものである。そして、8は記録アンプ4の出力信号fのグランドレベルを示し、9は付加パルスを示す。
【0011】つぎに図1に示す実施例の動作を図2を参照して説明する。まず、エンコーダ1により記録密度効率が良くなるよう変換された記録データaは、記録ビット付加回路2およびフリップフロップ7にそれぞれ入力される。そして、記録終了信号cによりリセットされるフリップフロップ7はエンコーダの出力である記録データaの記録ビットの総数が奇数であるか偶数であるかを識別し、記録ビット付加回路2へ奇数・偶数判定信号bを送る。ここで、この図1に示す実施例の場合、記録ビットの総数が奇数の場合、奇数・偶数判定信号bは論理レベル「1」となり、偶数の場合には論理レベル「0」となる。
【0012】そして、記録ビット付加回路2においては、記録終了信号cの入力時にフリップフロップ7によるデータビット総数の奇数・偶数判定信号bにしたがい、付加パルスを付加するか否かが決定される。図2に示すタイムチャートにおいては、フリップフロップからの奇数・偶数判定信号bが論理レベル「1」であり、付加パルス9が付加されてデータビット総数は偶数となる。記録ビット付加回路2の出力信号dはフリップフロップ3により、1データビットが記録アンプ4より記録ヘッド5に供給される記録電流fの反転となるよう変換される。したがって、この記録電流fはエンコーダ1から出力されるデータビットの総数によらず、常に偶数回の電流反転を起こす。よって、記録動作終了時の電流方向は図2に示すように常にグランドレベル8に対して負となり、記録ヘッドから発生される記録磁界の向きが一定に揃えられる。
【0013】つぎに、この記録動作終了時の記録磁界の向きを複合ヘッド中のMR素子に対して、どちらに向けるべきかについて、図3および図4を用いて説明する。この図3は磁気抵抗効果膜,非磁性膜および上記磁気抵抗効果膜に磁気的なバイアスを与える隣接軟磁性膜を備えた磁気抵抗効果型再生ヘッドの断面図で、MR素子のバイアス方法としてソフトフィルムバイアス法を用いている場合を示すものである。この図3において、11および12は上部および下部磁性膜より構成される上部および下部磁気ヨーク、13は下部シールド、14は磁気ヨーク11,12に卷かれたコイル、15は磁気記録媒体対向面において上部および下部磁性膜間に設けたギャップである記録ギャップ、16,17は再生ギャップ、18はMR素子、19は記録磁界で、矢印はその向きを示す。20はMR膜、21は軟磁性膜、22はセンス電流、23はMR膜20の磁化を示し、24は軟磁性膜21の磁化を示す。そして、本発明は、このように各構成要素を備えた記録ヘッドの複合ヘッドを駆動する磁気ヘッド駆動回路であって、複合ヘッドが記録動作から再生動作に移行する際の最終の記録磁界発生方向が一定であり,かつその向きが隣接軟磁性膜の磁化方向と一致しているものである。
【0014】図4は磁気抵抗効果膜および導電性金属膜を備えた磁気抵抗効果型再生ヘッドの断面図で、MR素子のバイアス方法としてシャントバイアス法を用いている場合を示すものである。この図4において図3と同一符号のものは相当部分を示し、25はシャント膜である。そして、本発明の別の発明による磁気ヘッド駆動回路は、上記各構成要素を備えた記録ヘッドの複合ヘッドを駆動する磁気ヘッド駆動回路であって、複合ヘッドが記録動作から再生動作に移行する際の最終の記録磁界発生方向が一定であり,かつその向きが導電性金属膜を流れる電流により発生する磁気抵抗効果膜のバイアス磁界の向きと一致しているものである。また、本発明においては、記録動作中も再生ヘッドのセンス電流22を供給するように構成されている。
【0015】つぎにこの図3および図4に示す複合ヘッドの動作について説明する。まず、図3において、MR膜20に対し、センス電流22が断面図面内に対し上方から下方へ垂直に供給されると、センス電流22が発生する磁界により軟磁性膜21の磁化25は図示の通り右向きとなる。この軟磁性膜21の磁化24により発生するバイアス磁界により、MR膜20の磁化23は図示のように左向きにバイアスされる。そして、この軟磁性膜21を用いたソフトフィルムバイアス法においては、MR膜20のバイアスは、軟磁性膜21の磁化24により決定される。したがって、記録動作終了時の記録磁界19の向きを、軟磁性膜21の磁化24に合わせることにより、MR素子18の安定なバイアス状態が得られる。つぎに、図4においては、MR膜20およびシャント膜25に対し、センス電流22が断面図面内に対し、上方から下方へ垂直に供給されると、センス電流22が発生する磁界により、MR膜20の磁化23は、左向きとなる。したがって、記録動作終了時の記録磁界19の向きをMR膜20の磁化23に合わせることにより、MR素子18の安定なバイアス状態が得られる。
【0016】さらに、図3および図4において、MR素子18に供給されるセンス電流22が記録動作中も継続して供給されると、記録動作終了後、再生動作に移行するまでの間、MR素子18にバイアスが継続して与えられるので、MR素子18のバイアス状態は一層安定になる。そして、このMR素子18に記録動作中も継続してセンス電流22を供給するためには、再生回路中のセンス電流供給回路(図示せず)を記録動作中も停止させなければよい。
【0017】
【発明の効果】以上説明したように本発明の磁気ヘッド駆動回路は、記録動作終了時の記録磁界の向きが、MR素子のバイアスを深める向きに保たれ、また、記録動作中もMR素子のバイアス磁界が印加されているため、記録動作終了後のMR素子のバイアスが安定し、再生動作時に雑音を発生しにくく、かつ記録動作ごとに再生出力が変動することがない安定な再生動作を得ることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による磁気ヘッド駆動回路の一実施例を示すブロック図である。
【図2】図1の動作説明に供するタイムチャートである。
【図3】本発明における複合ヘッド中のMR素子の磁化方向を示す断面図である。
【図4】本発明における複合ヘッド中のMR素子の磁化方向を示す断面図である。
【図5】従来の複合ヘッドの一例を示す断面図である。
【符号の説明】
1 エンコーダ
2 記録ビット付加回路
3 フリップフロップ
4 記録アンプ
5 記録ヘッド
6 記録電流源
7 フリップフロップ
11 上部ヨーク
12 下部ヨーク
13 下部シールド
14 コイル
15 記録ギャップ
16,17 再生ギャップ
18 MR素子
19 記録磁界
20 MR膜
21 軟磁性膜
22 センス電流
23 MR膜の磁化
24 軟磁性膜の磁化
25 シャント膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】 磁気抵抗効果膜,非磁性膜および前記磁気抵抗効果膜に磁気的なバイアスを与える隣接軟磁性膜を備えた磁気抵抗効果型再生ヘッドと、上部および下部磁性膜より構成される磁気ヨークと、この磁気ヨークに卷かれたコイルならびに磁気記録媒体対向面において前記上部および下部磁性膜間にギャップを備えた記録ヘッドの複合ヘッドを駆動する磁気ヘッド駆動回路であって、前記複合ヘッドが記録動作から再生動作に移行する際の最終の記録磁界発生方向が一定であり,かつその向きが前記隣接軟磁性膜の磁化方向と一致していることを特徴とする磁気ヘッド駆動回路。
【請求項2】 磁気抵抗効果膜および導電性金属膜を備えた磁気抵抗効果型再生ヘッドと、上部および下部磁性膜より構成される磁気ヨークと、この磁気ヨークに卷かれたコイルならびに磁気記録媒体対向面において前記上部および下部磁性膜間にギャップを備えた記録ヘッドの複合ヘッドを駆動する磁気ヘッド駆動回路であって、前記複合ヘッドが記録動作から再生動作に移行する際の最終の記録磁界発生方向が一定であり,かつその向きが前記導電性金属膜を流れる電流により発生する前記磁気抵抗効果膜のバイアス磁界の向きと一致していることを特徴とする磁気ヘッド駆動回路。
【請求項3】 請求項1または請求項2記載の磁気ヘッド駆動回路において、記録動作中も再生ヘッドのセンス電流を供給するようにしたことを特徴とする磁気ヘッド駆動回路。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【特許番号】特許第3106541号(P3106541)
【登録日】平成12年9月8日(2000.9.8)
【発行日】平成12年11月6日(2000.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−108297
【出願日】平成3年4月15日(1991.4.15)
【公開番号】特開平4−315804
【公開日】平成4年11月6日(1992.11.6)
【審査請求日】平成9年7月24日(1997.7.24)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【参考文献】
【文献】特開 昭60−47223(JP,A)
【文献】特開 昭61−129703(JP,A)
【文献】特開 平4−205903(JP,A)