説明

磁気共鳴イメージング装置及びSAR予測方法

【課題】 IEC規定に基づくSAR値の予測と監視を簡便かつ正確に行うことで、ルーチン検査でのスループットの低下を防止することが可能なMRI装置を提供する。
【解決手段】 被検体毎に、被検体のRF吸収量を求め、該RF吸収量に基づいて所定のパルスシーケンスのSAR値を求めることを特徴とする。被検体毎にRF吸収量を求める際には、例えば被検体毎のSAR計測の実施や過去データを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体中の水素や燐等からの核磁気共鳴(以下、「NMR」という)信号を測定し、核の密度分布や緩和時間分布等を画像化する核磁気共鳴イメージング(以下、「MRI」という)装置に関し、特に、SAR値の正確な予測に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置は、被検体、特に人体の組織を構成する原子核スピンが発生するNMR信号を計測し、その頭部、腹部、四肢等の形態や機能を2次元的に或いは3次元的に画像化する装置である。撮影においては、NMR信号には、傾斜磁場によって異なる位相エンコードが付与されるとともに周波数エンコードされて、時系列データとして計測される。計測されたNMR信号は、2次元又は3次元フーリエ変換されることにより画像に再構成される。
【0003】
MRI装置では、IEC(International Electrotechnical Commission)の規定により、被検体における高周波パルス(以下RFパルス)由来の温度上昇もしくはSAR(Specific Absorption Ratio)をある閾値以下に抑えなければならない。この規格に対応するための技術として、被検体の温度計測技術(例えば特許文献1)や人体モデルSARシミュレーション(例えば特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-135824号公報
【特許文献2】米国特許第7282914号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
被検体の温度計測技術は、小さな位相変化から温度変化を計測する技術であり、誤差が大きくなる傾向がある。さらに、診断に必要とされるMRI撮像以外の計測を実施する必要があるために、ルーチン検査でのスループットが低下する。
【0006】
人体モデルSARシミュレーションは、1cm程度の分解能で人体領域をSARシミュレーションするために時間が掛かる。さらに、検査毎に被検体の体型等を正確にモデリングする必要があるが、そのモデリングには時間がかかり、ルーチン検査でのスループットが低下する。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記課題を鑑みてなされたものであり、IEC規定に基づくSAR値の予測と監視を簡便かつ正確に行うことで、ルーチン検査でのスループットの低下を防止することが可能なMRI装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明では、静磁場中に配置された被検体にRFパルスを照射する送信部と、前記RFパルスの照射を含む所定のパルスシーケンスを用いた撮像を制御する撮像制御部と、前記RFパルスによって、被検体に吸収されるSAR値を求めるSAR計算部と、前記SAR値が所定の制限値を超えるか否かを監視するSAR監視部と、を備えた磁気共鳴イメージング装置であって、前記SAR計算部は、前記被検体毎に、前記被検体のRF吸収量を求め、該RF吸収量に基づいて前記所定のパルスシーケンスのSAR値を求める。
【発明の効果】
【0009】
本発明のMRI装置及びSAR予測方法によれば、検査毎に該検査を始める前に、被検体の体型や装置との相対位置に応じて、つまり被検体毎に、SARの予測と監視を簡便かつ正確に行うことができる。その結果、SARの予測値と実測値がほぼ一致することになるので、検査前にSARが制限を越えてしまうような撮像条件を不本意に設定することを回避できる、そのような不本意な撮像条件設定による検査途中での撮像中止を回避できることになる。それ故、スループット低下を回避することが出来るようになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係るMRI装置の一例の全体構成を示すブロック図
【図2】送信系の各部におけるパワーの流れを示す図
【図3】複数のRFパルス(RF1,RF2,・・・RFw,・・・)の組を照射する撮像シーケンスの一例を示す図
【図4】実施例1の演算処理部の各機能を示す機能ブロック図
【図5】実施例1の全体処理フローを示すフローチャート
【図6】実施例1のステップ502の詳細処理フローを示すフローチャート
【図7】実施例1の効果を説明するための図
【図8】実施例2のステップ502の詳細処理フローを示すフローチャート
【図9】複数の被検体で測定した基準RFパルス出力とRF吸収量の関係を示すグラフ
【図10】実施例3のステップ502の詳細処理フローを示すフローチャート
【図11】複数の被検体で測定した被検体の体重とRF吸収量の関係を示すグラフ
【図12】実施例4のステップ502の詳細処理フローを示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を適用した第一の実施形態を図面を用いて説明する。なお、発明の実施形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0012】
まず、本実施形態のMRI装置の全体構成について説明する。図1は、本実施形態のMRI装置100の全体構成を示すブロック図である。本実施形態のMRI装置100は、NMR現象を利用して被検体の断層画像を得るもので、静磁場発生系2と、傾斜磁場発生系3と、送信系5と、受信系6と、信号処理系7と、シーケンサ4と、演算処理部(CPU)8とを備える。
【0013】
静磁場発生系2は、垂直磁場方式であれば、被検体1の周りの空間にその体軸と直交する方向に、水平磁場方式であれば、被検体1の体軸方向に均一な静磁場を発生させる。被検体1の周りに配置される永久磁石方式、常電導方式あるいは超電導方式の静磁場発生源により実現される。
【0014】
傾斜磁場発生系3は、MRI装置100の座標系(静止座標系)であるX、Y、Zの3軸方向の傾斜磁場を印加するための傾斜磁場コイル9と、それぞれの傾斜磁場コイルを駆動する傾斜磁場電源10とを備える。後述のシ−ケンサ4からの命令に従ってそれぞれの傾斜磁場コイルの傾斜磁場電源10を駆動することにより、X、Y、Zの3軸方向に傾斜磁場Gx,Gy,Gzを印加する。
【0015】
撮影時には、スライス面(撮影断面)に直交する方向にスライス方向傾斜磁場パルス(Gs)を印加して被検体1に対するスライス面を設定し、そのスライス面に直交して且つ互いに直交する残りの2つの方向に位相エンコード方向傾斜磁場パルス(Gp)と周波数エンコード方向傾斜磁場パルス(Gf)とを印加して、エコー信号にそれぞれの方向の位置情報をエンコードする。
【0016】
送信系5は、被検体1の生体組織を構成する原子の原子核スピンに核磁気共鳴を起こさせるために、被検体1に高周波磁場(RF)パルスを照射するもので、高周波発振器11と変調器12と高周波増幅器13と送信側の高周波コイル(送信コイル)14aとを備える。高周波発振器11から出力されたRFパルスは後述するシーケンサ4からの指令によるタイミングで変調器12により振幅変調され、高周波増幅器13で増幅され、被検体1に近接して配置された送信コイル14aから被検体1に照射される。
【0017】
受信系6は、被検体1の生体組織を構成する原子の原子核スピンの核磁気共鳴により放出されるエコー信号(NMR信号)を検出するもので、受信側の高周波コイル(受信コイル)14bと信号増幅器15と直交位相検波器16と、A/D変換器17とを備える。送信コイル14aから照射されたRFパルスによって誘起された応答のNMR信号は、被検体1に近接して配置された受信コイル14bで検出され、信号増幅器15で増幅され、後述するシーケンサ4からの指令によるタイミングで直交位相検波器16により直交する二系統の信号に分割され、それぞれがA/D変換器17でディジタル量に変換されて、計測データとして信号処理系7に送られる。
【0018】
シーケンサ4は、所定の撮像シーケンスに従って、RFパルスと傾斜磁場パルスとを繰り返し印加するよう制御するもので、CPU8の制御で動作し、計測データ収集に必要な種々の命令を送信系5、傾斜磁場発生系3、および受信系6に送る。なお、撮像シーケンスは、RFパルス、傾斜磁場パルス等のon/offのタイミングを規定するタイムチャートと、励起RFパルスの印加間隔(TR)、バンド幅(BW)、加算回数、位相エンコードステップ数等の計測条件(計測パラメータ)とからなり、両者を組み合わせて計測中の計測対象に作用する磁場の時間的変化を規定する。撮像シーケンスは、計測の目的に従って予め作成され、プログラムおよびデータとして後述する記憶装置18等に格納される。
【0019】
信号処理系7は、各種データ処理と処理結果の表示及び保存等を行うもので、CPU8と、ROM、RAM等の記憶装置18と、光ディスク、磁気ディスク等の外部記憶装置19と、表示装置20とにより構成される。受信系6からの計測データがCPU8に入力されると、CPU8が信号処理、画像再構成等の処理を実行し、その結果である被検体1の断層画像を表示装置20に表示すると共に、記憶装置18または外部記憶装置19に記録する。
【0020】
操作部25は、MRI装置100自体の各種制御情報および信号処理系7で行う処理の各種制御情報の入力を受け付けるもので、トラックボール又はマウス、および、キーボード等の入力装置21を備える。操作部25は表示装置20に近接して配置され、オペレータは、表示装置20を見ながら操作部25を介してインタラクティブにMRI装置100の各種処理に必要な情報を入力する。
【0021】
現在MRI装置の撮像対象核種は、臨床で普及しているものとしては、被検体の主たる構成物質である水素原子核(プロトン)である。プロトン密度の空間分布や、励起状態の緩和時間の空間分布に関する情報を画像化することで、人体頭部、腹部、四肢等の形態または、機能を2次元もしくは3次元的に撮像する。
【0022】
なお、図1において、送信コイル14aと傾斜磁場コイル9とは、被検体1が挿入される静磁場発生系2の静磁場空間内に、垂直磁場方式であれば被検体1に対向して、水平磁場方式であれば被検体1を取り囲むようにして設置される。
【0023】
また、受信コイル14bは、被検体1に対向して、或いは被検体1を取り囲むように設置される。本実施形態では、この受信コイル14bとして、被検体1の計測対象領域からのNMR信号を複数のコイルで受信する表面コイルと、計測対象領域からのNMR信号を1のコイルで受信可能で、ほぼ均一な感度分布を有する全身コイルとを備える。
【0024】
本実施形態のMRI装置100は、異なる撮像シーケンス種を含む、複数の撮像シーケンスを連続して実行する。撮像シーケンス種によっては、IECに規定された制限値(以下IEC制限値という)の範囲内にSAR値を収めるため、直前に実行した撮像シーケンス実行後、SAR値が所定の値に低下するまで待つ必要がある。本実施形態では、1検査内の合計待ち時間を最も短くするよう、撮像シーケンスの実行順を決定し、検査を実行する。
【0025】
最初に、本発明の概要を説明する。
本発明は、被検体毎に、静磁場中に配置された被検体にRFパルスの照射によって該被検体に吸収されるSAR値を予測するものであって、被検体のRF吸収量を求め、該RF吸収量に基づいて所定のパルスシーケンスのSAR値を求めることを特徴とする。被検体毎にRF吸収量を求める際には、例えば被検体毎のSAR計測の実施や過去データを使用する。
【0026】
好ましくは、被検体に複数の検査が行われる場合に、SAR計算部は、検査毎に、被検体のRF吸収量を求め、該RF吸収量に基づいて前記所定のパルスシーケンスのSAR値を求める。
【0027】
ここで、検査とは、その目的のための少なくとも一つの撮像シーケンスを組み合わせたプロトコル(以下、検査プロトコルという)の実行を意味する。そして、一人の被検体に対して検査部位が異なる少なくとも一つの検査プロトコルが実施される。そのため本発明では、一人の被検体において、さらに検査毎に基準RFパルスのRF吸収量を測定し、検査毎にSAR値の予測と監視を行う。
【0028】
本発明の各実施例は、RF吸収量の測定の仕方が異なるが、RF吸収量からSAR値を予測するには、以下に説明する共通の方法で行う。
【0029】
最初に、任意の撮像シーケンスのSAR値を図2に基づいて説明する。図2は送信系5の各部におけるパワーの流れを示す。図2に示すように、送信コイル14aにRF送信パワーPfwd1、Pfwd2のRFパルスを送信した場合に、送信コイル14aから反射するRF反射パワーPrft1、Prft2を計測し、送信コイルでのRF消費量(消費パワー)Pcoilを考慮すると、被検体に吸収されるRF吸収量Pobjが式[1]で算出される。





本実施例1では、ある基準となる基準RFパルスでのRF吸収量(エネルギー)を検査毎に算出される。具体的には、基準とする基準RFパルスを用いて被検体に照射した場合での、RF吸収量をPobj_standard、RF送信パワーをPfwd_standard、RF反射パワーをPrfl_standard、高周波コイルでのRF消費量をPcoil_standardとすると、これらの間には式[1]と同じ関係が成立する。基準RFパルスでのRF吸収量の測定のためには、基準RFパルス強度設定シーケンスを用いる。基準RFパルス強度設定シーケンスは、エコー信号を最大強度にするフリップ角90度のRFパルス照射強度を探索するためのパルスシーケンスである。具体的には、RFパルスを照射してエコー信号を計測する処理を、RFパルスの照射強度を変えながら複数回繰り返し、計測するエコー信号が最大強度となるRFパルスを基準RFパルスとする。
【0030】
そして、算出されたPobj_standardに基づいて、任意の撮像シーケンスで被検体を撮像する場合に、当該撮像シーケンスに使用される全RFパルスでのRF吸収量を見積もる。具体的には、図3に示すように、複数のRFパルス(RF1,RF2,・・・RFw,・・・)の組を照射する撮像シーケンスにおいて、強度も含めた各RFパルス(RF1,RF2,・・・RFw,・・・)の組における各RFパルスRFw,の波形比:RfWaveRatiowを用いて、当該撮像シーケンスで使用される全RFパルスでのRF吸収量を式[2]に基づいて見積もる。

【0031】
そして、式[2]のRF吸収量と被検体の体重Weightとから撮像シーケンスのSAR値が式[3]に基づいて予測される。

なお、IECで規定される頭部SARおよび身体部分SARを求める場合には、体重Weightはそれぞれ頭部又は身体部分の体重とする。
【0032】
上記式[1]〜[3]に示したように、実際の被検体でのRF吸収量Pobj_standardに基づいたSAR値の予測であることから、被検体の体型や撮像体位に関係なく、被検体毎に正確にSAR値を予測できることになる。予測されたSAR値は将来実行される撮像シーケンスのSAR値とほぼ同値となることから、IEC制限値に対するSAR予測値に過度の尤度を持たせる必要がない。ただし、IEC制限値を超えないようにするために、安全性を鑑みて適度な尤度が設定されていてもよい。
【0033】
以上のように、検査毎(つまり被検体毎)にSAR値を正確に予測することで、SAR制限によって撮像シーケンスが実行途中で不本意に中断される、もしくは検査内の撮像シーケンス間で待ち時間が発生することが、検査を始める前に予測できるようになる。そして、操作者の意志に反して撮像シーケンスの中断や待ち時間が発生すると予測された場合には、操作者は撮像シーケンスの中断や待ち時間が発生しないような撮像条件に変更する事が可能になり、検査中の撮像シーケンスの中断や待ち時間発生によるスループットの低下を回避できると共に、それ故、検査をスムーズに実施することが可能になる。
【実施例1】
【0034】
次に、本発明のMRI装置及びSAR予測方法の実施例1について説明する。本実施例1は、検査毎に、基準RFパルスのRF吸収量を測定し、該基準RFパルスのRF吸収量を用いてSAR値を正確に予測する。
【0035】
これにより、検査の途中で、SAR制限による撮像シーケンスを実行しない待ち時間を無くし、当該待ち時間によるスループット低下を回避する。
【0036】
はじめに、基準RFパルスのRF吸収量を測定し、該基準RFパルスのRF吸収量を用いてSAR値を予測するための、本実施例1の演算処理部8の各機能を、図4に示す機能ブロック図に基づいて説明する。本実施例1における演算処理部8は、被検体情報設定部401と、撮像条件設定部402と、SAR計算部403と、撮像制御部404と、SAR監視部405と、を有して成る。
【0037】
被検体情報設定部401は、表示装置20に被検体情報を入力するための入力画面を表示し、入力装置21を介して、操作者による被検体情報の入力を受け付け、入力された被検体情報をSAR計算部403に通知する。特にSAR値の計算に係る被検体情報として、年齢、性別、体重等が必要となる。年齢、性別、体重は式[3]のWeightを計算する際に使われる。
【0038】
撮像条件設定部402は、表示装置20に撮像条件(具体的には、撮像シーケンスの具体的パラメータ値)を入力するための入力画面を表示し、入力装置21を介して、操作者による撮像条件の入力を受け付け、入力された撮像条件をSAR計算部403と撮像制御部404に通知する。特に、撮像シーケンスがSAR制限値を超過する場合には、表示装置20にその旨の警告表示を行うと共に、新たに、撮像条件の変更または待ち時間設定を促すための表示を行い、入力装置21を介して操作者による撮像条件の変更または待ち時間設定を受け付け、受け付けた撮像条件の変更または待ち時間設定の内容をSAR計算部403と撮像制御部404に通知する。
【0039】
SAR計算部403は、被検体情報設定部401から通知された被検体情報に基づいて、被検体のRF吸収量を設定する。
【0040】
また、IECで規定される頭部SARおよび身体部分SARを求める場合には、送信コイル14a内にある被検体の該当する各部分体重を設定する。なお、SARとしては、6分平均全身SAR,6分平均身体部分SAR,6分平均頭部SAR,10秒平均全身SAR,10秒平均身体部分SAR,10秒平均頭部SARがある。
【0041】
また、撮像条件設定部402から通知された撮像条件に基づいて、検査プロトコルを構成する各撮像シーケンスの時系列SAR値を計算し、計算したSAR値を後述するSAR監視部405に通知する。
【0042】
また、撮像中にシーケンサ4から通知されるPfwd、Prflの値に基づいて随時SAR値を求め、求めたSAR値をSAR監視部405に通知する。
【0043】
撮像制御部404は、撮像条件設定部402から通知された撮像条件に基づいて、任意のパルスシーケンスを実行するためのRFパルスや傾斜磁場パルス等の印加タイミング及び印加波形等の制御データを具体的に生成し、シーケンサ4に通知して、当該パルスシーケンスを実行させる。
【0044】
また、SAR監視部405から、SAR値がIEC制限値を超えると通知された場合には、直ちに実行中の撮像シーケンスを中止する。
【0045】
SAR監視部405は、SAR計算部403から通知されたSAR値がIEC制限値を超えないように監視する。SAR計算部403から通知されたSAR値(予測値又は実測値)がIEC制限値を超えると判断した場合には、撮像制御部404にその旨を通知して、実行中の撮像シーケンスを停止させると共に、SAR値制限により撮像シーケンスを停止した旨を表す表示を表示装置20に表示する。
【0046】
次に、上記各機能部が連携して行なう本実施例1の処理フローを図5に示すフローチャートに基づいて説明する。本処理フローは、予めプログラムとして記憶装置18に記憶されており、演算処理部8が記憶装置18からそのプログラムを読み込んで実行することにより実施される。以下、各処理ステップの処理内容を詳細に説明する。
【0047】
ステップ501で、被検体情報設定部401は、被検体情報を入力するための入力画面を表示装置20に表示し、操作者による被検体の年齢、性別、体重などの被検体情報の入力を受け付ける。そして、入力された被検体情報をSAR計算部403に通知する。
【0048】
ステップ502で、SAR計算部403は、被検体情報設定部401から通知された被検体情報に基づいて、被検体のRF吸収量を設定する。本ステップの詳細は後述する。
【0049】
ステップ503で、SAR計算部403は、被検体情報設定部401から通知された被検体情報に基づいて、IECで規定される頭部SARおよび身体部分SARを求めるために送信コイル14a内にある被検体の各部分体重を設定する。
【0050】
ステップ504で、撮像条件設定部402は、検査プロトコルを構成する一つの撮像シーケンスの撮像条件を入力するための入力画面を表示装置20に表示し、入力装置21を介して、操作者による撮像条件(つまり、撮像シーケンスのパラメータ値)の入力を受け付け、入力された撮像条件をSAR計算部403と撮像制御部404に通知する。
【0051】
ステップ505で、SAR計算部403は、撮像条件設定部402から通知された撮像条件に基づいて、撮像シーケンスのSAR値を時系列に計算する。そして、計算した時系列SAR値をSAR監視部405に通知する。
【0052】
SAR監視部405は、通知された時系列SAR値の各々の値がIEC制限値を超えることにより撮像シーケンスの実行が許可できない場合は、その旨を撮像条件設定部402に通知する。
【0053】
その通知を受けた撮像条件設定部402は、撮像条件の変更または待ち時間設定を受け付ける入力画面を表示装置20に表示し、操作者による撮像条件の変更または待ち時間設定を受け付けるとともに、変更された撮像条件又は空き時間設定をSAR計算部403に通知する。
【0054】
そして、SAR計算部403は、変更された撮像条件または設定された待ち時間に基づいて時系列SAR値を再計算する。
【0055】
以降、上記の一連の処理が、時系列SAR値がIEC制限値内となるまで繰り返される。
【0056】
そして、撮像条件設定部402は、時系列SAR値がIEC制限値内となった撮像条件及び待ち時間設定を撮像制御部404に通知する。
【0057】
撮像制御部404は、時系列SAR値がIEC制限値内となった撮像条件に設定された撮像シーケンスを実行するためのRFパルスや傾斜磁場パルス等の印加タイミング及び印加波形等の制御データを具体的に生成し、シーケンサ4に通知して、当該撮像シーケンスを実行させる。
【0058】
ステップ506で、SAR計算部403は、撮像シーケンスの実行中に、シーケンサ4で実測されて通知されたPfwd、Prflを用いて、式[3]に基づいてSAR値を計算し、計算したSAR値をSAR監視部405に通知する。
【0059】
そして、SAR監視部405は、SAR計算部403から通知されたSAR値とIEC制限値とを比較し、SAR値がIEC制限値を超えるか否かを監視する。そのSAR値がIEC制限値を超えると判断した場合には、撮像制御部404にその旨を通知する。
【0060】
そして、撮像制御部404は、SAR値がIEC制限値を超えると通知された場合には、直ちに撮像シーケンスの実行を停止するようシーケンサ4に指令を出して、撮像シーケンスの実行を停止させる。ただし、前述のステップ505で、SAR値がIEC制限値を超えないように撮像条件設定及び待ち時間設定が行われているので、本ステップ506でのSAR監視と、SAR値がIEC制限値を超えた場合の撮像シーケンスの停止は、基本的には発生せず、ステップ506におけるSAR値の監視は、あくまで予防的な監視となる。
【0061】
ステップ507で、撮像制御部404は、検査プロトコルを構成する全撮像シーケンスの実行が終了したか否かを判定し、終了していればステップ508に移行し、終了していなければステップ504に戻って、検査プロトコルを構成する他の撮像シーケンスについて、前述のステップ504〜506の処理を繰り返す。
【0062】
ステップ508で、ルーチン検査終了となる。
以上までが、本実施例1の処理フローの概要である。
【0063】
次にステップ502の詳細処理フローを図6に示すフローチャートに基づいて説明する。
ステップ601で、SAR計算部403は、ほぼ全ての場合で撮像シーケンスを実行可能とするため、大きな尤度をもたせて基準RFパルスのRF吸収量を仮設定する。尤度をもたせてRF吸収量を設定するのは、実際のRF吸収量がまだ不明であるため、以降に実効する基準RFパルス強度設定シーケンスとSAR計測専用シーケンスでの安全を優先するためである。
【0064】
ステップ651で、SAR計算部403は、ステップ601で仮設定したRF吸収量から基準RFパルス強度設定シーケンスのSAR値を、式[3]に基づいて予測する。
【0065】
ステップ652で、撮像制御部404は、基準RFパルス強度設定シーケンスを実行して、基準RFパルスの強度(RFGain)を決定する。これにより、フリップ角が90度となるRFパルスの強度が基準RFパルスとして設定される。
【0066】
ステップ602で、SAR計算部403は、ステップ652で強度が設定された基準RFパルスとの波形比からSAR計測専用シーケンスのSAR値を予測する。このSAR予測値はステップ601で仮設定したRF吸収量を基にしていることから、実際よりもかなり大きな値となる。ここでのSAR計測専用シーケンスとは、RFパワーの計測誤差が小さくなるようにRFパルスの強度や撮像条件が最適化されたシーケンスである。例えば、IECで規定されているSAR測定のためのパルスエネルギー法(IEC60601-2-33)を用いてもよい。
【0067】
ステップ603で、撮像制御部404は、SAR計測専用シーケンスを実行する。
【0068】
ステップ604で、シーケンサ4が、SAR計測専用シーケンスの実行中にPfwd_standard、Prfl_standardを計測し、計測したlこれらの値をSAR計算部403に通知する。
【0069】
ステップ605で、SAR計算部403は、ステップ604で通知されたPfwd_standard、Prfl_standardの計測値を使用して式[1]に基づいて、被検体の基準RFパルスの吸収量Pobj_standardを算出する。この基準RFパルスの吸収量Pobj_standardは、測定した被検体の略正確なRF吸収量である。
【0070】
ステップ606で、SAR計算部403は、ステップ601で仮設定したRF吸収量を、ステップ605で算出したPobj_standardで再設定する。したがって、再設定されたRF吸収量Pobj_standardは、略正確に被検体のRF吸収量を表すことになる。
【0071】
以上までが、ステップ502の詳細処理フローの説明である。以降は、再設定されたRF吸収量Pobj_standardを用いて前述のステップ503以降の処理を行う。ステップ503以降の処理では、前述した様に、SAR計算部403は、ステップ605で計算したPobj_standardを用いて式[2][3]に基づいて、検査プロトコルを構成する撮像シーケンスのSAR値を計算する。
【0072】
そして、SAR計算部403は、計算した撮像シーケンスのSAR値をSAR監視部405に通知する。
【0073】
そして、SAR監視部405は、通知されたSAR値とIEC制限値とを比較し、SAR値がIEC制限値を超えるか否かを監視する。そのSAR値がIEC制限値内である場合、撮像制御部404にその旨を通知する。
【0074】
そして、撮像制御部404は、撮像シーケンスの制御データを生成してシーケンサ4に通知し、シーケンサ4に撮像シーケンスを実行させる。
【0075】
以上説明したように、本実施例1のMRI装置及びSAR予測方法によれば、被検体毎に基準RFパルスのRF吸収量を求めて、この基準RFパルスのRF吸収量に基づいて、任意の撮像シーケンスのSAR値を予測する。これにより、被検体の体型や送信コイルとの相対位置関係によらずに、正確に撮像シーケンス毎のSAR値を予測することが可能になる。その結果、検査開始前に待ち時間の要否を判定でき、待ち時間要なった場合には、撮像条件の変更等により待ち時間を低減でき、予期せぬ待ち時間によるスループット低下を回避できるようになる。
【0076】
特に、本実施例1による方法は、被検体の体重や部分体重が同じであっても透磁率、導電率が異なり、同じRF照射磁場であったとしても吸収エネルギーが異なることに正しく対応できる。
【0077】
このことは、図7により模式的に示すことができる。図7の横軸は被検体の体重であり、縦軸は各体重における吸収エネルギーを示している。図7で黒丸で示した様に、それぞれの吸収エネルギーは平均値に対して分散を持って分布している。従来は、撮像を安全なものとするため、被検体の吸収エネルギーがこのようなある程度の分散を持つとの仮定の基に、少し大目に白星印に示す値でSARを見積もっていたが、より撮像の自由度を増すため、黒星印で示したより正確な推定が必要とされていた。本実施例1によれば各被検体、被検部位に応じた実際の吸収エネルギー(SAR)を求めることができるので、正しくSARを見積もることができ、一律的に大きく見積もる必要が無くなるので、より自由度の高い撮像ができる。
【実施例2】
【0078】
次に、本発明のMRI装置及びSAR予測方法の実施例2について説明する。前述の実施例1では、基準RFパルスでのRF吸収量の測定にSAR計測専用シーケンスを用いる例を説明したが、本実施例2では、SAR計測専用シーケンスを用いずに、基準RFパルス強度設定シーケンス自体を用いて基準RFパルスでのRF吸収量を測定する。以下、前述の実施例1と異なる箇所のみ説明し、同じ箇所の説明を省略する。
【0079】
本実施例2のSAR値の予測を行うための演算処理部8の各機能は、図4に示した機能ブロック図と同じであるが、各機能部の処理内容が異なる。以下、本実施例2の処理フローの説明を通して各機能部の処理内容を説明する。
【0080】
本実施例2において、前述の実施例1と異なる箇所は、上述したように、SAR計測専用シーケンスを実行せず、その他は前述の実施例1と同様なので、図6に示した実施例1におけるステップ502の処理フローのみ異なることになる。
【0081】
本実施例2のステップ502の処理フローを表すフローチャートを図8に示す。図8に示すフローチャートにおいて、図6に示したフローチャートと異なる箇所は、SAR計測専用シーケンスの実行ステップであるステップ602とステップ603が無い。ステップ604で基準RFパルス計測シーケンスの実行中にシーケンサ4がPfwd_standard、Prfl_standardを計測し、計測した値をSAR計算部403に通知する。以降の処理は、図6と同じである。その結果、基準RFパルス計測シーケンスに基づいて被検体毎のRF吸収量が決定され、ステップ606で決定したRF吸収量を再設定する。
【0082】
以上説明したように、本実施例2は、SAR計測専用シーケンスを用いずに、基準RFパルス強度設定シーケンス自体を用いて基準RFパルスでのRF吸収量を測定する。その結果、SAR計測専用シーケンスの実行ステップを省略できるので、被検体毎のRF吸収量の測定を簡略化・短時間化できることになる。
【0083】
本実施例2によっても、実施例1と同様に、実際の吸収エネルギー(SAR)を求めることができるので、より自由度の高い撮像を可能とすることに寄与できる。
【実施例3】
【0084】
次に、本発明のMRI装置及びSAR予測方法の実施例3について説明する。前述の実施例2では、基準RFパルス強度設定シーケンスを用いて基準RFパルスでのRF吸収量を測定したが、本実施例3では、基準RFパルスでのRF吸収量を測定せずに、過去に取得した複数人の検査時の基準RFパルスの強度とRF吸収量との関係に基づいて、基準RFパルス強度を用いて被検体毎のRF吸収量を推定する。
【0085】
最初に、基準RFパルス強度からRF吸収量を推定できることを図9に基づいて説明する。図9は、複数の被検体で測定した基準RFパルス出力とRF吸収量の関係を示すグラフである。横軸は基準RFパルスのRF出力(つまり強度)であり、縦軸はRF吸収量を示す。菱形の各プロット点は、被検体毎の測定値を示す。このグラフから、RF吸収量と基準RFパルス強度とは相関関係があることが理解される。そこで、菱形の各プロット点を最小自乗で近似する曲線関数を求めると、図9のグラフでは、
RF吸収量=a×(基準RFパルス強度)^2 ・・・[4]
a=0.0700556
と近似できる。したがって、基準RFパルス強度を測定すれば、その基準RFパルス強度からRF吸収量を推定できることになる。そこで、式[4]に示す関係式及び係数aを予め記憶装置18に記憶しておき、記憶しておいた関係式[4]に基づいて、基準RFパルス強度からRF吸収量を推定する。
【0086】
次に本実施例3の演算処理部8の各機能ブロック及び処理フローについて説明する。
【0087】
上記本実施例3の、基準RFパルス強度とRF吸収量との関係に基づいて、SAR値の予測を行うための演算処理部8の各機能は、図4に示した機能ブロック図と同じであるが、各機能部の処理内容が異なる。以下、本実施例3の処理フローの説明を通して各機能部の処理内容を説明する。
【0088】
本実施例3の処理フローにおいて、前述の実施例2と異なる箇所は、基準RFパルス計測シーケンスの実行中にRF送信パワーと反射パワーを計測しない、基準RFパルス強度からRF吸収量を求める、である。その他は前述の実施例2と同様である。その結果、図8に示した実施例2におけるステップ502の処理フローのみ異なることになる。
【0089】
本実施例3のステップ502の処理フローを表すフローチャートを図10に示す。図10に示すフローチャートにおいて、図7に示したフローチャートと異なる箇所は、ステップ604が無いこと、及びステップ605の処理内容である。
【0090】
本実施例3におけるステップ605では、基準RFパルス出力値から、予め記憶装置18に記憶しておいて関係式[4]に基づいて、RF吸収量を決定する。以降の処理は、図7と同じである。
【0091】
その結果、基準RFパルス計測シーケンスの実行中において、RF送信パワー、反射パワーを計測することなく、基準RFパルス計測シーケンスで決定した基準RFパルス強度に基づいて、被検体毎にRF吸収量が決定され、ステップ606で決定したRF吸収量を再設定する。
【0092】
以上説明したように本実施例3では、基準RFパルス強度とRF吸収量との関係に基づいて、基準RFパルスシーケンスで測定した基準RFパルス強度からRF吸収量を推定する。その結果、SAR計測専用シーケンスの実行、及び、RF送信パワー、反射パワーの計測を省略できるので、ステップ502の処理フローが更に簡略化されると共に、処理時間を短縮できる。
本実施例3によっても、実施例1と同様に、実際の吸収エネルギー(SAR)を求めることができるので、より自由度の高い撮像を可能とすることに寄与できる。
【実施例4】
【0093】
次に、本発明のMRI装置及びSAR予測方法の実施例4について説明する。前述の実施例2では、基準RFパルスでのRF吸収量を測定したが、本実施例4では、基準RFパルスでのRF吸収量を測定せずに、過去に取得した複数人のデータを基にして、被検体の体重から被検体毎のRF吸収量を推定する。
【0094】
最初に、被検体の体重からRF吸収量を推定できることを図11に基づいて説明する。図11は、複数の被検体で測定した被検体の体重とRF吸収量の関係を示すグラフである。横軸は被検体の体重であり、縦軸はRF吸収量を示す。菱形の各プロット点は、被検体毎の測定値を示す。このグラフから、RF吸収量と体重とは相関関係があることが理解される。そこで、菱形の各プロット点を最小自乗で近似する曲線関数を求めると、図11のグラフでは、
RF吸収量 = b×M(被検体の体重) ・・・[5]
b= 27.632
と近似できる。したがって、被検体の体重を入力すれば、その体重からRF吸収量を推定できることになる。そこで、式[5]に示す関係式及び係数bを予め記憶装置18に記憶しておき、記憶しておいた関係式[5]に基づいて、被検体の体重からRF吸収量を推定する。
【0095】
次に本実施例2の演算処理部8の各機能ブロック及び処理フローについて説明する。
【0096】
上記本実施例4の、被検体の体重とRF吸収量との関係に基づいて、SAR値の予測を行うための演算処理部8の各機能は、図4に示した機能ブロック図と同じであるが、各機能部の処理内容が異なる。以下、本実施例4の処理フローの説明を通して各機能部の処理内容を説明する。
【0097】
本実施例4の処理フローにおいて、前述の実施例3と異なる箇所は、基準RFパルス計測シーケンスを実行しない、被検体の体重からRF吸収量を求める、である。その他は前述の実施例3と同様である。その結果、図10に示した実施例3におけるステップ502の処理フローのみ異なることになる。
【0098】
本実施例4のステップ502の処理フローを表すフローチャートを図12に示す。図12に示すフローチャートにおいて、図10に示したフローチャートと異なる箇所は、ステップ651,652が無いこと、及びステップ605の処理内容である。
【0099】
本実施例4におけるステップ605では、ステップ501で入力された被検体の体重から、予め記憶装置18に記憶しておいて関係式[5]に基づいて、RF吸収量を決定する。以降の処理は、図10と同じである。
【0100】
その結果、SAR計測専用シーケンス及び基準RFパルス計測シーケンスを実行することなく、被検体毎にその体重に基づいてRF吸収量が決定され、ステップ606で決定したRF吸収量を再設定する。
【0101】
なお、ステップ651の基準RFパルス強度設定シーケンスのSAR値の予測、及び、ステップ652の基準RFパルス強度設定シーケンスの実行による基準RFパルスの強度の決定は、ステップ606のRF吸収量の再設定の後に行われる。
【0102】
以上説明したように本実施例4では、体重とRF吸収量との関係に基づいて、被検体の体重からRF吸収量を推定する。その結果、SAR計測専用シーケンス及び基準RFパルス計測シーケンスの実行を省略できるので、ステップ502の処理フローが更に簡略化されると共に、処理時間を短縮できる。
【実施例5】
【0103】
上記実施例1及び実施例2では、撮像シーケンスの実行前のSARのモニタリングが正しいとの前提のもとに成り立っている。しかしながら、実際にはSARのモニタリングには照射コイル内部損失の個体差、アナログ部品の個体差とそれに伴う照射コイルチューニングのずれ、計測用アンプの個体差、等に伴った誤差が考えられる。これらの誤差が大きい場合、実際のSAR値を被検体の温度上昇に基づいて計測し、得られた値で事前に得たSAR値を補正するようにするのが望ましい。
【0104】
実施例5では、MRI装置は撮像機能により被検体の温度変化を計測できるので、温度変化から撮像シーケンス実行中のSAR値を計測する。すなわち、以下に説明する温度計測に基づき求めたSAR値と実施例1から4のいずれかで求めたSAR値との誤差が大きい場合、実施例1から4のいずれかで求めたSAR値を撮影シーケンスの途中で置き換えるようにする。すなわち、前記被検体の温度上昇を計測する温度計測部を備え、前記SAR計算部は、前記温度計測部により得られた温度上昇を用い、実施例1から4のいずれかで計算したSAR値と、以下に説明する温度計測に基づき求めたSARとの誤差が大きい場合、温度計測に基づき求めたSAR値で実施例1から4のいずれかで計算したSAR値を置き換える。
【0105】
検体もしくはファントムがRF波を吸収するということは、その分だけエネルギーが吸収され、その物質の温度は上昇しているので、温度上昇の勾配を測定することで、単位時間の吸収エネルギーを得ることができる。温度計測の実際の原理としては、a)縦緩和時間の温度差を利用した信号強度法、b)ケミカルシフトの温度差を利用した位相法、c)拡散係数の温度差を利用した拡散画像法等が考えられる。ここで、実際に温度計測により得られた温度上昇よりSARを見積もる際には、温度上昇値を被検体の検査部位の質量、被検体の比熱(C)等で換算計算をするようにすれば良い。より具体的には、
得られた1gあたりの温度上昇ΔTに、C×4.2×M(被検体の体重)×103をかけ、被検体が吸収した熱量は
Q=ΔT×C×4.2×M×103
であるので、
SAR=Q[J/s]/M[kg]=ΔT×C×4.2×103
となる。
【符号の説明】
【0106】
1 被検体、2 静磁場発生系、3 傾斜磁場発生系、4 シーケンサ、5 送信系、6 受信系、7 信号処理系、8 演算処理部(CPU)、9 傾斜磁場コイル、10 傾斜磁場電源、11 高周波発信器、12 変調器、13 高周波増幅器、14a 高周波コイル(送信コイル)、14b 高周波コイル(受信コイル)、15 信号増幅器、16 直交位相検波器、17 A/D変換器、18 記憶装置、19 外部記憶装置、20 表示装置、21 入力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静磁場中に配置された被検体にRFパルスを照射する送信部と、
前記RFパルスの照射を含む所定のパルスシーケンスを用いた撮像を制御する撮像制御部と、
前記RFパルスによって、被検体に吸収されるSAR値を求めるSAR計算部と、
前記SAR値が所定の制限値を超えるか否かを監視するSAR監視部と、
を備えた磁気共鳴イメージング装置であって、
前記SAR計算部は、前記被検体毎に、
前記被検体のRF吸収量を求め、
該RF吸収量に基づいて前記所定のパルスシーケンスのSAR値を求める
ことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記被検体に複数の検査が行われる場合に、
前記SAR計算部は、前記検査毎に、
前記被検体のRF吸収量を求め、
該RF吸収量に基づいて、前記所定のパルスシーケンスのSAR値を求める
ことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記SAR計算部は、基準RFパルスのRF吸収量を求め、該基準RFパルスのRF吸収量と、前記被検体の体重と、前記所定のパルスシーケンスを構成するRFパルスの組み合わせと、に基づいて、該所定のパルスシーケンスのSAR値を求めることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記SAR計算部は、基準RFパルスを用いたSAR計測専用シーケンスに基づいて、前記RF吸収量を求めることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記SAR計算部は、基準RFパルスの強度を設定する基準RFパルス強度設定シーケンスに基づいて、前記RF吸収量を求めることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記SAR計算部は、前記基準RFパルスの強度とRF吸収量との関係に基づいて、前記基準RFパルスの強度を用いて前記RF吸収量を求めることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置において、
前記SAR計算部は、前記被検体の体重と前記RF吸収量との関係に基づいて、前記被検体の体重を用いて前記RF吸収量を求めることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記被検体の温度上昇を計測する温度計測部を備え、前記SAR計算部は、前記温度計測部により得られた温度上昇を用い、前記計算したSAR値との誤差が大きい場合、SAR値を温度計測による値で置き換えることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
静磁場中に配置された被検体にRFパルスの照射によって該被検体に吸収されるSAR値を予測するSAR予測方法であって、
前記被検体のRF吸収量を求めるステップと、
前記RF吸収量に基づいて所定のパルスシーケンスのSAR値を求めるステップと、
前記SAR値が所定の制限値を超えるか否かを監視するステップと、を有してなることを特徴とするSAR予測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−31633(P2013−31633A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−70773(P2012−70773)
【出願日】平成24年3月27日(2012.3.27)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】