説明

磁気共鳴イメージング(imaging)装置及び方法

【課題】脈管構造の画像を適切に収集することができる磁気共鳴イメージング装置及び方法を提供することである。
【解決手段】実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置は、収集部と、画像再構成部とを備える。収集部は、流体が流入する領域に対して、プロトンの縦磁化成分を飽和させる飽和パルスを空間的に不均一に印加し、該飽和パルスの印加から所定時間経過後、該領域に対して励起パルスを印加することで、該領域から信号を収集する。画像再構成部は、収集された信号を用いて、流体を表す画像を再構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、磁気共鳴イメージング装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気共鳴イメージング装置は、核磁気共鳴(NMR(Nuclear Magnetic Resonance))を用いてイメージングを行う。また、近年、磁気共鳴イメージング装置は、非造影の血管造影法(MRA(Magnetic Resonance Angiography))や非造影の静脈造影法(MRV(Magnetic Resonance Venography))を用いて、脈管構造(vasculature)の画像を収集する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/0268062号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、脈管構造の画像を適切に収集することができる磁気共鳴イメージング装置及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置は、収集部と、画像再構成部とを備える。前記収集部は、流体が流入する領域に対して、プロトン(proton)の縦磁化成分を飽和させる飽和パルスを空間的に不均一に印加し、該飽和パルスの印加から所定時間経過後、該領域に対して励起パルスを印加することで、該領域から信号を収集する。前記画像再構成部は、収集された前記信号を用いて、前記流体を表す画像を再構成する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図1は、実施形態に係るMRI(Magnetic Resonance Imaging)システムの模式的なブロック図である。実施形態に係るMRIシステムは、高度化された非造影MRA及び/又はMRVによって、選択された空間領域に流入するNMRの原子核(nuclei)を画像化することを目的として、データを取得して処理するように構成されている。また、実施形態に係るMRIシステムは、その領域内で、事前に空間的に不均一な度合いの飽和に原子核を曝す。
【図2】図2は、典型的な非造影QISS(Quiescent Interval Single Shot)シーケンスの代表的な概略図である。非造影QISSシーケンスは、変形されたプリサチュレーションパルス(pre-saturation pulse)であって、選択された画像スライス全域にわたる空間ドメインで不均一な形状を有するプリサチュレーションパルスを含む。
【図3】図3は、画像化されるスライスの流入エッジ付近では少ない飽和を有し、画像化されるスライスの流出エッジ付近では大きな飽和を有する、プリサチュレーションパルスプロファイル(pre-saturation profiles)を空間ドメインで模式的に示した図である。
【図4A】図4Aは、考え得るプリサチュレーションプロファイルの例を、画像化対象スライス全域にわたる空間ドメインで模式的に示した図である。
【図4B】図4Bは、考え得るプリサチュレーションプロファイルの例を、画像化対象スライス全域にわたる空間ドメインで模式的に示した図である。
【図4C】図4Cは、考え得るプリサチュレーションプロファイルの例を、画像化対象スライス全域にわたる空間ドメインで模式的に示した図である。
【図4D】図4Dは、考え得るプリサチュレーションプロファイルの例を、画像化対象スライス全域にわたる空間ドメインで模式的に示した図である。
【図5A】図5Aは、血流に対する血管信号を、様々な形状のプリサチュレーションプロファイルを用い、速度の関数としてシミュレーションした例を示した図である。
【図5B】図5Bは、血流に対する血管信号を、様々な形状のプリサチュレーションプロファイルを用い、速度の関数としてシミュレーションした例の相対的な信号向上度(均一な従来のプロファイルと比較して)を示した図である。
【図6A】図6Aは、スライス厚の関数としてシミュレーションした、比較的低速に流れる血液に対する血管信号を示した図である。
【図6B】図6Bは、スライス厚の関数としてシミュレーションした、比較的低速に流れる血液に対する血管信号の相対的な信号向上度(均一な従来のプロファイルと比較して)を示した図である。
【図7A】図7Aは、QISS MRAシーケンス内のQIの関数としてシミュレーションした、比較的低速に流れる血液及び様々なプリサチュレーションプロファイルに対する血管信号を示した図である。
【図7B】図7Bは、QISS MRAシーケンス内のQIの関数としてシミュレーションした、比較的低速に流れる血液及び様々なプリサチュレーションプロファイルに対する血管信号の相対的な信号向上度(均一な従来のプロファイルと比較して)を示した図である。
【図8A】図8Aは、従来の長方形の均一サチュレーションプロファイルを使用した実際の画像を示し、比較する図である(比較的高速の血流について)。
【図8B】図8Bは、勾配型の不均一サチュレーションプロファイルを使用した実際の画像を示し、比較する図である(比較的高速の血流について)。
【発明を実施するための形態】
【0007】
実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置(以下、適宜「MRIシステム」)は、図1に示すように、架台10(模式的に断面図で示す)、及び、架台10と接続された種々の関連システムコンポーネント20を備える。通常、少なくとも架台10はシールドされた部屋に設置される。また、実施形態に係るMRIシステムは、実質的に同軸の筒形に構成された、静磁場B0磁石12と、G、G、及びG傾斜磁場コイルセット14と、RFコイルアセンブリ16とを備える。このような筒形に配列されたエレメントの水平軸沿いに、イメージングボリューム18がある。これは、被検体寝台又はテーブル11に支持された被検体9の頭部を実質的に包囲するものとして示されている。当然のことながら、イメージングボリューム18に/からRF(Radio Frequency)信号を送信/受信するために、種々のRFコイル構造及び/又はRFコイル配列を使用することができる。
【0008】
MRIシステム制御部22は、表示部24、キーボード/マウス26、及びプリンタ28に接続される入/出力ポートを有する。当然のことながら、表示部24は、制御入力の機能も果たすように、タッチスクリーンの類であっても構わない。
【0009】
MRIシステム制御部22は、MRIシーケンス制御部30とインターフェース接続される。そのMRIシーケンス制御部30は、G、G、G傾斜磁場コイルドライバ32、並びにRF送信部34及び(送信及び受信のどちらにも同じRFコイルが使用される場合に)送信/受信スイッチ36を制御する。当業者には自明であるが、ECG(electrocardiogram)信号及び/又は抹消脈波同期信号をMRIシーケンス制御部30に提供するために、生体に、1つ又は複数の適切な生理学的トランスデューサ8を貼着することができる。MRIシーケンス制御部30は、更に、MRIシーケンス制御部30の能力範囲の中で既に利用可能になっているMRIデータ取得シーケンスを遂行するに適したプログラムコード構造38へのアクセスも有している。例えば、特定のMRIデータ取得シーケンスパラメータを規定する操作者入力及び/又はシステム入力を使って、非造影MRA画像及び/又はMRV画像を生成する。
【0010】
MRIシステム20は、表示部24への処理済画像データを生成すべく、データプロセッサ42に入力を提供するRF受信部40を備える。MRIデータ処理部42は、更に、画像再構成プログラムコード構造44、及びMR画像記憶部46(例えば、例示的実施形態及び画像再構成プログラムコード構造44に従った処理から導かれるMR画像データを記録するための)にもアクセスできるように構成されている。
【0011】
一般化した表示のMRIシステムプログラム/データ格納部50も、図1に示している。そこに記録されているプログラムコード構造(例えば、高度化された非造影MRA画像及び/又はMRV画像用に不均一なプリサチュレーションパルスプロファイルを生成するための、操作者入力を受け入れてそれを制御するための、等の)は、MRIシステムの種々のデータ処理コンポーネントにアクセス可能なコンピューター可読記録媒体に記録されている。当業者には自明であるが、プログラム格納部50を細分化し、少なくとも一部分を、システムの諸々の処理コンピューターのうちの、通常の動作においてかかる記録プログラムコード構造を最も緊急に必要とするものに直接接続することができる(すなわち、共有した形で記録し、MRIシステム制御部22に直接接続するのではない)。
【0012】
実際、当業者には自明であるが、図1は、本明細書で後述する実施形態を実行できるように若干の変更を加えた一般的なMRIシステムを非常に高度に簡素化した図である。システム構成要素は、さまざまな論理収集の「箱」に分割でき、通常、多数のデジタル信号処理装置(DSP(Digital Signal Processors))、マイクロプロセッサ、特殊用途向け処理回路(例えば、高速A(Analog)/D(Digital)変換、高速フーリエ変換、アレイ処理用等)を含む。これら処理装置のそれぞれは、通常、各クロックサイクル(または所定数のクロックサイクル)が発生すると、物理データ処理回路が、ある物理的状態から別の物理的状態へ進むクロック動作型の「ステートマシン」である。
【0013】
処理回路(例えば、CPU(Central Processing Unit)、レジスタ、バッファ、演算ユニット、等)の物理的状態が、動作中に、1つのクロックサイクルから別のクロックサイクルに前進的に変化するだけでなく、関連のデータ記録媒体(例えば、磁気記録媒体のビット格納部位)の物理的状態も、かかるシステムの動作中に、1つの状態から別の状態に移される。例えば、MRイメージング再構成プロセスの終了時に、物理的記録媒体内のアレイ状のコンピューター可読アクセス可能データ値格納部位(例えば、画素値の多数桁バイナリ表現)は、何らかの前の状態(例えば、全てが一様に「0」値又は全てが「1」値)から新しい状態に移されることになるであろう。この場合、かかるアレイの物理的部位の物理的状態(例えば画素値の)は、現実の物理的事象及び状態(例えば、画像化されたボリューム空間全体にわたる被検体の組織)を反映して、最小値と最大値の間のまちまちの値になっている。当業者には自明であるが、かかるアレイ状の記録データ値は(命令レジスタへの書込みとMRIシステムの1つ又は複数のCPUによる実行が逐次的に行われたときに、特定の動作状態のシーケンスを生じさせ、それをMRIシステム内部で遷移させる特定の構造のコンピューター制御プログラムコードの場合と同様に)物理的構造を表し、更にそれを構成する。
【0014】
後述する例示的な実施形態は、MRIデータを取得する手法、MRIデータ取得を処理する手法、MR画像を生成し表示する手法の改良型を提供する。
【0015】
実施形態に係るMRIシステムは、収集部と、画像再構成部とを備える。収集部は、流体が流入する領域に対して、プロトンの縦磁化成分を飽和させる飽和パルス(以下、適宜「プリサチュレーションパルス」)を空間的に不均一に印加し、このプリサチュレーションパルスの印加から所定時間経過後、この領域に対して励起パルスを印加することで、この領域から信号を収集する。また、画像生成部は、収集された信号を用いて、流体を表す画像を再構成する。また、実施形態に係る収集部は、プリサチュレーションパルスのフリップ角を、この領域を流れる流体の流れ方向に沿って変化させることで、この領域に対してプリサチュレーションパルスを空間的に不均一に印加する。なお、図示を省略したが、収集部は、例えば、MRIシーケンス制御部30に備えられ、また、画像再構成部は、例えば、MRIデータ処理部42に備えられればよい。
【0016】
一般的な非造影MRA法は、画像スライス領域の背景組織を飽和させた後、続いて取得された「新鮮な」(すなわち、未飽和の)流入血液を、画像スライス領域のMR画像内で明るく(高信号に)出現させることによって、ホワイトブラッド(white blood)の血管造影像を生成する。TOF(Time−of−Flight) MRIは、かかる技術の一例である。
【0017】
図2は、QISS(Quiescent Interval Single Shot)と呼ばれるTOFの変形法を模式的に示す。なお、図2において、α章動(nutation)パルスは必須ではない。QISSは、空間選択性のプリサチュレーションパルス(pre−saturation pulse)を、関心対象のスライスに直接適用する。オンスライスで飽和させることで、関心対象のスライスにおいて直ちに背景を抑制することができる。新鮮な非飽和血液は、「QI(Quiescent Interval)」中に関心対象のスライスに流入することができる。QIは、典型的には約200〜300msが選択される。すなわち、新鮮な血液を十分に流入させるには十分に長いが、事前に飽和した背景組織の大幅なT1 NMR回復を防止するには十分に短い。QIの後に、SSFP(Steady−State Free Precession)といった2Dリードアウトなどの従来のMRIパルスシーケンス(1つ又は複数)を用いて、新鮮な流入血液の磁化が検出される。スキャン時間を節約するために、リードアウトは、典型的には「シングルショット」で実施される。当然のことながら、各「シングルショット」中に、1つ又は複数の異なる大きさの位相エンコードが使用されるが、それは、そのショット中にk空間の対応する部分のデータを取得するためである。スキャンから動脈造影図を作成するために、TOF2Dに一般的に適用されるように、独立した「ウォーキング(walking)」(すなわち、順番に移動する)空間選択性プリサチュレーションパルスを用いて静脈血液を飽和させることができる。
【0018】
オンスライス空間選択性プリサチュレーションは、背景組織の信号を低減するのに効果的である。しかし、それは、そのとき関心対象のスライス内に配置されていた血液も飽和させる。血管エッジ付近の層流状態の血液や小動脈中の血液といった比較的低速の血液の流れについて、典型的なMRIデータ取得パルスシーケンスの間に、スライス内部の血液を完全に入れ換えるようにするには、QIは、多くの場合長さが不十分である。飽和した低速血液の残余分が、若干MRIデータ取得時にこのように依然としてスライス内に存在する場合があり、これによって信号が無用に失われることになる。この前述の課題は、スライスが厚くなり、及び/又は、QIが短くなると、一層悪化する。
【0019】
この課題は様々な結果に帰着する。第1の課題は、最も重要なことに、小さな血管から出るMRI信号は大きな減衰を受け易く、多くの場合、最終画像には存在しなくなる水準にまで減衰することである。より大きな血管のエッジ(層流の場合は低速)からの信号も減少し、ひいては識別可能な管腔の幅も狭まり、場合によっては狭窄の過大評価を招く。
【0020】
第2の課題は、背景信号を低減しながら十分な流入を可能にするように、QIを注意深く選択しなければならない場合が多いことである。背景組織のT1 NMR緩和時間に比べてQIが長い場合、無用な背景信号が増大し、画像化対象の血管の顕著性が低下する可能性がある。QIは、脂肪T1程度(例えば〜250ms)である場合が多いため、この課題は、脂肪の原子核の場合に最も多く見られる。
【0021】
後述する例示的な実施形態においては、前述した不利益の少なくとも一部に対処するために、非造影MRI(例えばMRA及び/又はMRV)シーケンスのプリサチュレーションパルスの空間プロファイルを変形する。例えば、実施形態に係る収集部は、血液がスライスに流入する流入側におけるプリサチュレーションパルスのフリップ角が、血液がスライスから流出する流出側におけるプリサチュレーションパルスのフリップ角よりも小さくなるように、スライスに対してプリサチュレーションパルスを空間的に不均一に印加する。すなわち、プリサチュレーションパルスのプリサチュレーション空間プロファイルは、図3に示すように、関心対象のスライスの「流出エッジ」付近ではより大きな度合いで選択的に飽和させ、スライスの「流入エッジ」付近ではより少なく選択的に飽和させるような「形状に」変形するのがよい。例えば、プリサチュレーションパルスは、傾斜した空間プロファイルを生成するように設計される。プリサチュレーションパルスは、TONE(Tilt Optimized Non-saturated Excitation)パルスや、他の形状に設定された傾斜空間プロファイルと同様に、流入エッジ付近では最小のフリップ角を有し、流出エッジ付近では最大のフリップ角を有するRF励起パルスを生成するように設計される。一般に、空間選択性RF NMRパルスの時間ドメイン包絡線は、フーリエ(Fourier)変換(FT(Fourier Transformation))による空間ドメインプロファイルと関連がある。例えば、典型的なRF励起パルスには、シンク形の時間ドメイン包絡線が与えられる。というのは、これは、フーリエ変換後に、空間ドメインにおいて均一な空間ドメインプロファイルを有する方形波になるからである。同様に、所望の空間ドメインプロファイルの逆フーリエ変換(FT-1(Inverse Fourier Transformation)を用いて、対応する時間ドメインRFパルス包絡形状を規定することができる。
【0022】
関心対象の厚さΔzの画像スライスの動脈流入エッジ(図3の左側)からスタートする流動スピンは、スライスから退出するのに(しかも、新鮮な流入磁化と置き換わるのに)最も長い時間がかかる。空間的に形状が設定されたプリサチュレーションパルスを使用することによって、これらのスピンは、部分的にしか(又は、場合によっては全く)飽和しない。したがって、それらが低速で、QI後も画像取込み時間に依然としてスライス内部に存在する場合、それらは依然として最終画像に信号を与えることができる。スライスの流出エッジ付近のスピンは、プリサチュレーションの際に、より強く飽和する。しかし、それらがスライスを退出するまでに移動する距離は短く、したがって、いずれにしろそれらは、磁化状態のいかんに関わらず、最終信号に決して寄与することができない。
【0023】
いかなるMRIの応用例でも、取得された画像信号は、効果的なことに、各ボクセルの体積全域にわたる信号の積分である。したがって、スライスの範囲では、背景組織の信号への寄与分は、効果的なことに、プリサチュレーションパルスに続く複合磁化を積分したものとなる(例えば、QISSが使用される場合、QI中のT1緩和効果を含む)。したがって、スライス全域で依然として空間的に形状が設定されたプリサチュレーションプロファイルを適用しながら、空間的に形状が設定されるプリサチュレーションパルスを、その空間プロファイルの積分がゼロの信号になるような態様で設計することができる。
【0024】
これらの判断基準に基づき、空間的に形状が設定される不均一なプリサチュレーションパルスを数多く設計することができる。その一部を図4B〜4Dに示す。不均一に形成した例をいくつか挙げると、TONE RF励起パルスに類似した直線的な勾配(図4B)、VUSE(variable angle uniform signal excitation)RF励起パルスに類似した放物線(図4D)、又は単純な半スライス幅長方形の類(図4C)がある。すなわち、実施形態に係る収集部は、プリサチュレーションパルスのフリップ角を、血液の流れ方向に沿って線形に変化させる(図4B)。また、実施形態に係る収集部は、プリサチュレーションパルスのフリップ角を、血液の流れ方向に沿って非線形に変化させる。例えば、実施形態に係る収集部は、流れ方向に沿ったスライスの第1区間(例えば、左側1/2Δz)においては、第1フリップ角(例えば、0°)でプリサチュレーションパルスを印加し、第2区間(例えば、右側1/2Δz)においては、第1フリップ角より大きい第2フリップ角(例えば、180°)でプリサチュレーションパルスを印加する(図4C)。また、例えば、実施形態に係る収集部は、流れ方向に沿ったスライスの第1区間(例えば、左側3/4Δz)においては、所定のフリップ角(例えば、180°)まで放物線状にフリップ角を大きくしながらプリサチュレーションパルスを印加し、第2区間(例えば、右側1/4Δz)においては、所定のフリップ角(例えば、180°)でプリサチュレーションパルスを印加する(図4D)。また、実施形態に係る収集部は、プリサチュレーションパルスのフリップ角の平均が90°となるように、フリップ角を流れ方向に沿って変化させる。これらのパルスプロファイルは全て、同一の積分面積を有する。パルス自体は、RF励起パルスとして、以前から十分に理解されている(すなわち、MRIデータ取得シーケンスの初期NMR励起部分)。しかし、かかる空間的に形状が設定されたプロファイルのRFパルスを、空間選択性プリサチュレーションRFパルスとして使用すること(例えば、非造影流入MRAの目的で)は、空間的に不均一に形成されたそれらの選択プロファイルを利用した新規な方法として今回発見されたものである。
【0025】
ここで、「飽和」は、信号、特に後続画像における最初の正帯磁(Mz)の信号を抑圧するのに使用される。空間プリサチュレーションパルスは、90°章動(nutation)に限定されない。空間プリサチュレーションパルスはおそらく、章動が90°を超える空間領域を含むであろう。空間領域における飽和の効果が90°章動を上回る場合、その効果は、「反転」なる用語は使わずに、依然として飽和として説明される。したがって、空間プリパルスが局所的により大きな章動角を有する場合に、その角度がたとえ90°を超えていても、これらの例示的な実施形態では、上記のものは、小さい方の章動がたとえ90°章動に近いものであっても、小さい方のRF章動に比べて「より大きな飽和」として説明される。より複雑なパルスシーケンス内部で飽和効果を達成するために90°を越える章動角と一緒に空間パルス、化学選択性プリパルス等が利用される場合が多いMRIでは、かかる用法は一般的である。
【0026】
シミュレーションによれば、不均一に形成されたプリサチュレーションパルスは、図5A〜5Bに示すように、比較的低速の血液からのMRI信号寄与を大幅に増大させる。シミュレーションによる信号の増加度合いは、血流速度、QI、及びスライス厚に応じて、全般的に20〜60%の間である。血流速度が速い場合(例えば、最高速度>10cm/s)、ほとんど全ての血液がQI中に入れ換わってしまっているため、不均一に形成されたプリサチュレーションプロファイルからは、相対的な向上は得られないであろう。
【0027】
しかし、不均一に形成されたプリサチュレーションパルスを使用することによって、QISSデータ取得スキャン(図2に模式的に示す)は、スライス厚及びQIといった重要なパラメータの選択に対する反応性を低下させることができる。不均一に形成されたプリサチュレーションパルスを用いれば、関心対象のスライスの厚さを厚くして、図6A〜6Bに示すようにSNRを高め、且つ/又はスキャン時間を節約することができる。同様に、不均一に形成されたプリサチュレーションパルスは、QIを選択するという負担を緩和し、更に、図7A〜7Bに示すように、たとえ対象が低速に流れるスピンであっても、広範囲のQIにわたってより頑健な信号を生成する。
【0028】
不均一に形成されたプリサチュレーションパルスを使用することで、血管信号がほとんど血流速度に依存しないようにすることができる(例えば図5A〜5B参照)。したがって、QISSデータ取得スキャンは、心位相に対する反応性が下がることになる。ひいては、動脈血液が最も速く流れる期間にスキャンすることは、あまり必要ではなくなるであろう。心拍のタイミングに対する依存性を緩和することによって、ゲートをかけずにQISSデータ取得スキャンを実行することさえも可能になり、したがって、スキャン時間が更に節約されるとともに、セットアップの複雑性も低下する。
【0029】
QISSシーケンスは、研究用3Tスキャナを利用して実現した。(a)従来の均一に形成された長方形プロファイルのプリサチュレーションパルスと、次いで(b)不均一な勾配型パルスと、を用いて、健康なボランティアの動脈三分岐領域について試験を行った。この場合、勾配型パルスは、流入エッジでは45°の最小フリップ角を有し、流出エッジでは135°の最大フリップ角を有していた。
【0030】
次のパラメータを使用した。シングルショットSSFP(steady state free precession)、TE(Echo Time)/TR(Repetition Time)=2.3/4.6ms、リードアウトBW=651Hz/画素、FOV(Field Of View)=18×30cm、マトリクス=160×256、パーシャルフーリエマトリクスファクタ=0.625、スライス厚/ギャップ=4.0/−1.5(有効値=2.5)、フリップ角=60°、40スライス、FatSat、QI=230ms、移動プリサチュレーション(静脈抑制のために)、PPG(photoplethysmography)ゲーティング(遅延=450ms、経験的測定に基づく)。いずれの場合も、飽和プロファイル全域での平均フリップ角は90°であった。
【0031】
図8Aと図8Bとを比較して示しているように、均一な長方形プリサチュレーションを使ったQISS結果と不均一な勾配型プリサチュレーションを使ったQISS結果との間の差は限定的であった。この結果はほとんど、三分岐領域における収縮期の流れが全般的に速い(>10cm/s)ことによるものである。更に、勾配の傾きも緩やかであった(45°〜135°)。勾配型のデータでは、背景の抑制が若干大きい。但し、これは、実際の平均フリップ角の小さなゆらぎによって起こった可能性がある。〜800ms(筋肉)という一般的なT1では、平均フリップ角が若干高くなると、背景抑制もおそらく若干改善されることになるであろう。
【0032】
いずれにせよ、スライス全域では飽和フリップ角が不均一であったとはいえ、これらの結果から、形状の設定を行った飽和プロファイルは、選択されたスライス全域で所望の積分飽和を生成するということが確認される。
【0033】
図8A及び図8Bは、比較的高速に流れる動脈(三分岐)において、従来の均一な長方形飽和プロファイル(左)と勾配型プリサチュレーションプロファイル(右)とを比較したものである。このような比較において、極めて低速の血流では大きな改善は予期されていなかった。画像は、QISSマルチスライスデータの冠状断平面MIP(Maximum Intensity Projection)である。飽和プロファイルを示す図は、各画像上に与えられている(はっきり分かるように示すために、スライスの厚さは誇張されている)。スライスの方向は、矢印で表示されている。
【0034】
例示的な実施形態の動作のモードは単純である。空間プリサチュレーションパルスの形状は、典型的には従来の均一な長方形プロファイルであるが、これに代えて、不均一に形成された空間プロファイルのプリサチュレーションパルスを使用している。不均一なプロファイルは任意に規定することができ、したがってそれを、流速、スライス厚、及び流入時間(QI)といったパラメータに基づいて、流入する原子核からのMRI信号を最大化するように設計することができる。不均一な飽和プロファイルをいくつか提案しており、線図の形で図4B〜4Dに示している。かかるスライスプリサチュレーションプロファイルの詳細設計は、多数のよく知られた方法を使って生成することができる。
【0035】
飽和プロファイルの平均フリップ角は、特に制約の無いパラメータである。但し、公知であるように、90°のフリップ角は、ゲーティングの変化(すなわち、不整脈に起因するEKG信号のR−R間隔のバラツキ)に対して頑健であるという点で有利である。
【0036】
種々のMRAパルスシーケンス及び/又はMRVパルスシーケンス(例えばQISS法)が、既に確立されている。しかし、不均一なプリサチュレーション空間プロファイルを使用すれば、例えば、プリサチュレーションRFパルス及びそれに関連する流入期間のようなQISS法の重要な観点を、改善できるはずである。
【0037】
プリサチュレーションプロファイルは、高速流動スピンを選択的に高めるように調整(例えば反転)することも可能である。
【0038】
例示した不均一に形成されたプリサチュレーションプロファイルの技法は、低速流動スピン(例えば速度<10cm/s)からの信号を増大することができる。この前述の機構によって、形状の設定を行ったプリサチュレーションプロファイルは、短い事後飽和遅延(QI)又は厚手のスライスに対する血管信号をより良好に維持する。不均一に形成されたプリサチュレーションプロファイルによってQISSは流速に対する反応性が低くなるため、QISSを適用したときの信号は、不整脈を含む流速の変化に対してより頑健になる。
【0039】
プリサチュレーションパルスの空間的に不均一なフリップ角は、比吸収率(SAR(Specific Absorption Rate))の増大化を招く(例えば、SARがフリップ角の二乗に比例するため、不均一プロファイルのSARは、均一長方形形状パルスよりも大きいであろう)が、プリサチュレーションパルスのSAR寄与分は、完全なシーケンスの総合的SAR(これは、RF励起パルスによって支配される)のほんの少しでしかない。
【0040】
様々なT1の材料(脂肪/筋肉/流体)がスライス内部で異質に分布している場合、形状が設定されたプリサチュレーションパルスの不均一フリップ角プロファイルは、不均一な飽和を生成する可能性がある。スライスの総飽和がスライス全域にわたるNMR磁化の積分であるため、遅延時間(QI)に応じて、異種のT1に適用される不均一フリップ角はおそらく、異種のT1に適用される均一フリップ角よりも大きな背景信号を生成するであろう。しかし、スライスは薄い(<5mm)のが一般的であり、隣接する組織は全般的に均質(脂肪又は筋肉)であるため、図8A〜8Bで実証しているように、これは無視できる事項である。
【0041】
例示的実施形態は、プリサチュレーションパルスとして、形状が設定されたプロファイル選択パルスを使用する。飽和プロファイルを変形すれば、流入スピンからの速度依存性信号は選択的に高められる。
【0042】
なお、実施形態に係る収集部は、撮像領域のスライスに対してプリサチュレーションパルスを印加するとともに、このスライスとは異なる別の領域(以下、適宜「別領域」)に対してプリサチュレーションパルスを印加してもよい。例えば、撮像領域のスライスに対して、動脈及び静脈の双方が、互いに反対の流れ方向で流入し、流出しているものとする。例えば、図3に示すように血管が走行し、撮像領域のスライスに対して、左から右に動脈が流れ、右から左に静脈が流れるとする。また、動脈の信号については高信号に描出されることが望まれる一方で、静脈の信号については十分に飽和されることが望まれるとする。このような場合に、例えば、収集部は、静脈の流れにおける上流側、すなわち、撮像領域のスライスの右側であって、撮像領域とは異なる別領域に、静脈の信号を飽和させるためのプリサチュレーションパルスを印加してもよい。また、この場合、収集部は、静脈の血液が別領域に流入する流入側におけるプリサチュレーションパルスのフリップ角が、静脈の血液が別領域から流出する流出側におけるプリサチュレーションパルスのフリップ角よりも大きくなるように、この別領域に対してプリサチュレーションパルスを空間的に不均一に印加してもよい。あるいは、その反対に、収集部は、静脈の血液が別領域に流入する流入側におけるプリサチュレーションパルスのフリップ角が、静脈の血液が別領域から流出する流出側におけるプリサチュレーションパルスのフリップ角よりも小さくなるように、この別領域に対してプリサチュレーションパルスを空間的に不均一に印加してもよい。
【0043】
上述したように、実施形態に係るMRIシステムは、選択された領域内の原子核を空間的に不均一なプリサチュレーションパルスに曝した後に、非造影のMRIパルスシーケンスを適用することで、この領域に流入する非定常な原子核からk空間データを取得する。そして、MRIシステムは、被検体の脈管構造を表す画像を生成する。かかるプリサチュレーションは、プリサチュレーション中に領域内部に所在していた背景組織の原子核から出る後続のMRI信号を抑制するとともに、画像化されるボリューム全域にわたって空間的に形成される不均一なプリサチュレーションのプロファイルの関数(速度、スライス厚、及び画像が収集されるまでの経過時間の関数)として、その内部を流れる原子核から出るMRI信号を高める。
【0044】
以上述べた少なくとも一つの実施形態の磁気共鳴イメージング装置及び方法によれば、脈管構造の画像を適切に収集することができる。
【0045】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0046】
8 生理学的トランスデューサ
9 被検体
10 架台
11 被検体テーブル
12 静磁場B0磁石
14 G、G、G傾斜磁場コイルセット
16 RFコイルアセンブリ
18 イメージングボリューム
20 MRIシステム
22 MRIシステム制御部
24 表示部
26 キーボード/マウス
28 プリンタ
30 MRIシーケンス制御部
32 G、G、G傾斜磁場コイルドライバ
34 RF送信部
36 送信/受信スイッチ
38 MRIデータ取得プログラムコード構造
40 RF受信部
42 MRIデータ処理部
44 画像再構成プログラムコード構造
46 MR画像記憶部
50 MRIシステムプログラム/データ格納部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流入する領域に対して、プロトンの縦磁化成分を飽和させる飽和パルスを空間的に不均一に印加し、該飽和パルスの印加から所定時間経過後、該領域に対して励起パルスを印加することで、該領域から信号を収集する収集部と、
収集された前記信号を用いて、前記流体を表す画像を再構成する画像再構成部と
を備えたことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記収集部は、前記飽和パルスのフリップ角を、前記領域を流れる前記流体の流れ方向に沿って変化させることで、前記領域に対して前記飽和パルスを空間的に不均一に印加することを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記収集部は、前記流体が前記領域に流入する流入側における前記飽和パルスのフリップ角が、前記流体が前記領域から流出する流出側における前記飽和パルスのフリップ角よりも小さくなるように、前記領域に対して前記飽和パルスを空間的に不均一に印加することを特徴とする請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記収集部は、前記飽和パルスのフリップ角を、前記流れ方向に沿って線形に変化させることで、前記領域に対して前記飽和パルスを空間的に不均一に印加することを特徴とする請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記収集部は、前記飽和パルスのフリップ角を、前記流れ方向に沿って非線形に変化させることで、前記領域に対して前記飽和パルスを空間的に不均一に印加することを特徴とする請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記収集部は、流れ方向に沿った前記領域の第1区間においては、第1フリップ角で前記飽和パルスを印加し、第2区間においては、前記第1フリップ角より大きい第2フリップ角で前記飽和パルスを印加することを特徴とする請求項5に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
前記収集部は、流れ方向に沿った前記領域の第1区間においては、所定のフリップ角まで放物線状にフリップ角を大きくしながら前記飽和パルスを印加し、第2区間においては、前記所定のフリップ角で前記飽和パルスを印加することを特徴とする請求項5に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
前記収集部は、前記飽和パルスのフリップ角の平均が90°となるように前記フリップ角を前記流れ方向に沿って変化させることで、前記領域に対して前記飽和パルスを空間的に不均一に印加することを特徴とする請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
前記収集部は、前記飽和パルスを含むQISS(Quiescent Interval Single Shot)シーケンスを用いて、前記領域から信号を収集することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一つに記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
磁気共鳴イメージング装置で実行される磁気共鳴イメージング方法であって、
流体が流入する領域に対して、プロトンの縦磁化成分を飽和させる飽和パルスを空間的に不均一に印加し、該飽和パルスの印加から所定時間経過後、該領域に対して励起パルスを印加することで、該領域から信号を収集する収集工程と、
収集された前記信号を用いて、前記流体を表す画像を再構成する画像再構成工程と
を含んだことを特徴とする磁気共鳴イメージング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【公開番号】特開2012−239884(P2012−239884A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−97123(P2012−97123)
【出願日】平成24年4月20日(2012.4.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】