磁気力顕微鏡用探針の製造方法
【課題】磁気探針先端の先鋭化を高めることができる磁気力顕微鏡用探針の製造方法を提供する。
【解決手段】Siからなる探針素材13上に、順に、SiO2層14、FePt薄膜層15を形成すると共に、そのFePt薄膜層15の形成中ないしはFePt薄膜層15の形成後に熱処理を行う。その際、SiO2層14を、探針素材13の表面をプラズマ酸化して形成することにより、成膜によって形成する場合に比べて、SiO2層形成に伴う体積の増大を抑制する。
【解決手段】Siからなる探針素材13上に、順に、SiO2層14、FePt薄膜層15を形成すると共に、そのFePt薄膜層15の形成中ないしはFePt薄膜層15の形成後に熱処理を行う。その際、SiO2層14を、探針素材13の表面をプラズマ酸化して形成することにより、成膜によって形成する場合に比べて、SiO2層形成に伴う体積の増大を抑制する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気力顕微鏡用探針の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気情報に対応した磁化パターン等を測定するものとして、磁気力顕微鏡(MFM)が用いられている。磁気力顕微鏡は、磁性探針を備えており、その磁性探針の先端を被測定媒体である磁性体試料に近づけ、磁性探針上の磁極と磁性体試料上の磁極との間に働く磁気的作用を直接検出することにより、磁化パターン等の測定が行われる。
【0003】
この磁気力顕微鏡の磁性探針としては、特許文献1に示されるように、非磁性材料Siからなる探針素材上に、順に、SiO2層、磁性薄膜層(鉄(Fe)−白金(Pt)規則合金層)が形成されたものが提案されており、その磁性探針の製造においては、Siからなる探針素材上に、順に、酸化珪素(SiO2)層、磁性薄膜層を形成し、その後、その磁性薄膜層を規則合金膜に規則変態させるべく(Al型不規則相のFePt合金膜をL10型FePt規則合金膜に規則変態)、熱処理を行う工程が必要である。このため、このものにおいては、製造段階において、磁性薄膜層の形成に先立ち、探針素材上にSiO2層が形成されることから、熱処理を行っても、Siからなる探針素材と磁性薄膜層とが反応、合金化して磁性薄膜層の磁気特性が劣化することを防止でき、その磁性薄膜層に基づき大きな保磁力と大きな飽和磁束密度とを得て探針先端の磁極密度を高めることができる。この結果、空間分解能を向上させることができる。
【特許文献1】特開2005−98804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、一方で、上記SiO2層の厚みを薄く形成することは容易ではなく、それが磁気探針の外形形状に反映されて、その磁気探針の先鋭度を高めること(できるだけ細く尖った状態とすること)を妨げている。このことが空間分解能の向上を妨げることなっている。
【0005】
本発明は以上のような事情に鑑みてなされたもので、その技術的課題は、磁気薄膜層と探針素材との間にSiO2層を介在する場合であっても、探針の先鋭度をできるだけ高めることができる磁気力顕微鏡用探針の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記技術的課題を達成するために本発明(請求項1に係る発明)にあっては、
珪素(Si)からなる探針素材上に、順に、酸化珪素(SiO2)層、磁性薄膜層を形成すると共に、該磁性薄膜層の形成中ないしは該磁性薄膜層の形成後から、熱処理を行う磁気力顕微鏡用磁性探針の製造方法であって、
前記酸化珪素層を、前記探針素材の表面をプラズマ酸化することにより形成する構成としてある。
この構成により、探針素材における珪素と酸素とが結合することから、酸化珪素層を形成しても、基本的に、探針素材の外周側において、厚みの増大として、酸素分に相当する体積(探針素材の珪素原子間に酸素原子が入り込む場合にはさらに少ない体積)だけが増大することになり、酸化珪素自体を探針素材上に堆積させるスパッタ法等を用いる場合に比して、酸化珪素層形成に伴う体積の増大を抑制して、探針をできるだけ細い状態に抑えることができる。このため、磁気薄膜層と探針素材との間にSiO2層が介在される場合であっても、探針の先鋭度を高めることができる。勿論この場合、磁性薄膜層と探針素材との間に酸化珪素層が存在することになることから、酸化珪素層は、磁性薄膜層と探針素材の珪素との反応、合金化を防止して、磁性薄膜層の磁気特性が劣化することを防止できる。
また、プラズマ酸化による強力な酸化作用に基づき酸化珪素層を確実且つ迅速に形成できる一方、一旦、酸化珪素層が形成されると、それがバリア層となって、それ以上、探針素材の内部の珪素が酸化されることが防止できることになり、略一定厚みの酸化珪素層を形成できる。このため、酸化珪素層に反応抑制機能を的確に働かせて探針素材と磁気薄膜層との反応を確実に防止できると共に、探針素材内部における珪素の酸化進行に伴って探針の先鋭度が低下すること(太くなること)も防止できる。
【0007】
請求項1の好ましい態様としては、前記探針素材の表面をプラズマ酸化することを、一定時間以上行う構成を採ることができる(請求項2対応)。この構成により、プラズマ酸化による強力な酸化作用に基づき酸化珪素層を確実且つ迅速に形成できる一方、プラズマ酸化を一定時間以上行っても、酸化珪素層がバリア層となり、探針素材の内部の珪素が酸化されることが防止できる。このため、一定時間以上、探針素材の表面をプラズマ酸化することを条件として、適正な一定厚みの酸化珪素層を確実に形成できる。
【0008】
請求項1の好ましい態様としては、前記探針素材の表面に前記プラズマ酸化を行う前に、該探針素材表面上に自然酸化により形成された自然酸化膜を除去する構成を採ることができる(請求項3対応)。この構成により、プラズマ酸化により形成される酸化珪素層に不純物が取り込まれることを防止でき、酸化珪素層に適正な機能を発揮させることができる。
【0009】
請求項1の好ましい態様としては、前記磁性薄膜層として、鉄(Fe)−白金(Pt)薄膜層を形成し、該鉄(Fe)−白金(Pt)薄膜層を前記熱処理により鉄(Fe)−白金(Pt)規則合金薄膜層とする構成を採ることができる(請求項4対応)。この構成により、磁性薄膜層として、鉄(Fe)−白金(Pt)薄膜層を形成する場合であっても、磁気特性を劣化させることなく具体的に磁性探針を形成できることは勿論、その磁気探針の先鋭度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明(請求項1に記載された発明)によれば、磁気薄膜層と探針素材との間に酸化珪素層が介在しても、探針の先鋭度をできるだけ高めることができる磁気力顕微鏡用探針の製造方法を提供できる。
また、酸化珪素層に反応抑制機能を的確に働かせて探針素材と磁気薄膜層との反応を確実に防止できると共に、探針素材内部における珪素の酸化進行に伴って探針の先鋭度が低下すること(太くなること)も防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1において、符号1は、本実施形態に係る探針が用いられる磁気力顕微鏡1である。この磁気力顕微鏡1においては、チャンバー2内に帯状のカンチレバー(板ばね)3が設けられており、そのカンチレバー3は、その基端部がチャンバー2内壁に支持されている一方、そのカンチレバー3の先端部には本実施形態に係る探針4が設けられている。この探針4(カンチレバー3)は、磁化パターン等を測定するに際して、テーブル5上の磁性体試料6の表面上を走査されることになっており、このとき、磁性体試料6から探針4に作用する磁力により生じるカンチレバー3の撓み(振れ)を、レーザ発生装置7から照射されるレーザ8の反射光9の位置ずれを光検出器10で検出することにより、磁性体試料6の磁界の強さを測定している。尚、本実施形態においては、十分な感度を得るために、カンチレバー3の基端部が、その機械的共振周波数で振動させる加振用圧電素子11を介してチャンバー2内壁に支持され、テーブル5が、アクチュエータ用圧電素子12により、磁性体試料6と探針4との間の磁気力が一定となるように制御される。
【0012】
前記磁気力顕微鏡1に用いられる前記探針4は、図2,図3に示すように、カンチレバー3の先端部にカンチレバー3の延び方向に直交するように突設されており、その探針4の形状は、先端に向うに従って尖るように設定されている。具体的には、その探針4の形状は、例えば四角錐形状に形成されており、その探針4の先端部は、その先端から内方に向って10nm位置における幅(厚み)dは、50nm程度とされている。この探針4は、珪素(Si)からなる探針素材13上に順に、酸化物層としてのSiO2層(酸化珪素層)14、磁性薄膜層としての鉄(Fe)−白金(Pt)規則合金薄膜層(L10型規則合金系で、Pt組成は、40〜60at%の範囲が好ましく、50at%付近がより好ましい)15が積層された構造となっており、本実施形態においては、カンチレバー3も、Siにより形成されている。
【0013】
このような探針4は、図4に示す工程に従って製造される。
先ず、Siからなる探針素材13が用意される。その探針素材13上に磁性薄膜層等を形成する必要があるからである。この探針素材13は、本実施形態においては、予めカンチレバー3の先端部に取付けられており、以後、探針素材13及びカンチレバー3は、後の工程において、一体的に扱われる。このSiからなる探針素材13は、具体的には、Si単結晶ウェハーから異方性エッチングにより製造されるが、材料としては、Siを用いるだけでなく、導電性を確保するため、Si中に不純物が含まれるもの(不純物半導体)を用いてもよい。
【0014】
次に、前記探針素材13に対してプラズマ酸化を行ってその探針素材13上にSiO2層14を形成することにより、SiO2層保有体が形成される。SiO2層14を、Siからなる探針素材13と後述のFePt薄膜層との反応を抑制する反応抑制層として機能させ、探針4の先鋭度が低下すること(主として径が太くなること)を防止するためである。また、SiO2層14の形成方法として、Siからなる探針素材13をプラズマ酸化処理を行うこととしているのは、最終的製品である探針4の径が太くなることをできるだけ抑制して、スパッタ法を用いる場合に比して空間分解能を高めるためである。すなわち、SiO2層14の形成に際して、Siに関しては、探針素材13のSiを利用し、基本的に、探針素材13の外周側において、厚みの増大として、酸素分に相当する体積(探針素材13の珪素原子間に酸素原子が入り込む場合にはさらに少ない体積)だけが増大するようにし、SiO2自体を探針素材13上に堆積させるスパッタ法を用いる場合よりもSiO2層保有体の体積の増大を抑制して、探針4をできるだけ細い状態に抑えようとしているのである。しかも、このプラズマ酸化処理の強力な酸化作用に基づきSiO2層14が確実且つ迅速に形成される一方、一旦、SiO2層14が形成されると、それがバリア層となって、それ以上、探針素材13の内部の珪素が酸化されることが防止され、略一定厚みのSiO2層14が形成される。このため、SiO2層14に反応抑制機能を的確に働かせて探針素材13と磁気薄膜層との反応を確実に防止できると共に、探針素材13内部のSiの酸化進行も抑制してSiO2層保有体の体積増加を抑制でき、その探針素材13内部におけるSiの酸化進行に伴って探針4の先鋭度が低下すること(太くなること)を防止できる。
【0015】
具体的には、このプラズマ酸化により、SiO2層14の厚みを、0.2nm〜3nmの範囲とすることが好ましい。SiO2層14の厚みは、薄ければ薄いほど、探針4の先鋭度を高める観点から好ましいように思えるが、図5に示すように、SiO2層14の厚みを0.2nm未満とすると、Siからなる探針素材13と後述のFePt層との反応抑制機能が十分に働かず、探針4先端部の幅(先端から内方に向けて10nmの位置の幅d)が急激に増大し、探針4の先鋭度を高めることができなくなるからである。
【0016】
前記探針素材13に対するプラズマ酸化処理は、例えば、図6に示すように、チャンバー17内における回転テーブル18上の基板ホルダ19に探針素材13(カンチレバー3付き)をセットし、そのチャンバー17内を一定の圧力(例えば6.0×10-4Pa(好ましくはこの値以下))状態にした上で、酸素プラズマ発生装置20から酸素プラズマを、回転状態の回転テーブル18上の探針素材13に対して照射することにより、行われる。これにより、探針素材13上に3.0nm位の厚みをもってSiO2層14が形成できた。この場合、探針素材13を加熱状態とせずに、酸素プラズマの照射時間を10分、20分、30分とした各場合について、SiO2層14の生成厚みを分光エリプソメーター解析から計算したところ、図7に示す結果を得た。その図7によれば、酸素プラズマの照射開始から一定時間(10分)で、SiO2層14の厚みはほぼ一定値に至り、その一定時間経過後、酸素プラズマをいくら照射しても、SiO2層14の厚みにあまり変化はなかった。図8は、プラズマ酸化前の探針素材13の先端部を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像であり、このとき、その探針素材13の先端から内方へ10nm位置における幅dは20nmであったが、それをプラズマ酸化した後には、図9に示すように、その先端から10nm位置における幅は、SiO2層14の形成により25nm前後に増大した。
【0017】
前記プラズマ酸化処理に先立ち、図4に示すように、探針素材13表面における自然酸化膜を除去することが好ましい。プラズマ酸化により形成されたSiO2層に不純物が取り込まれることを防止し、SiO2層14に適正な機能を発揮させるためである。この処理としては、プラズマエッチングが好ましい。
【0018】
次に、前記SiO2層保有体のSiO2層14上に、磁性薄膜層として、FePt合金薄膜層を形成(成膜)して、FePt合金薄膜層保有体が形成される。探針4の磁性薄膜層として、磁性体試料からの漏洩磁場により探針4磁化が変化しない高保磁力材料が求められるからである。
【0019】
このFePt薄膜層は、本実施形態においては、Fe,Ptの薄膜を交互に積層した多層膜ではなく、FePt合金膜(層)とされており、その成膜化は、DCマグネトロンスパッタ装置を用いて行った。具体的には、予備排気圧8.0×10-4Pa以下の下で、流量70sccmとしたArガス(不活性ガス)を供給し、Feターゲット、Ptターゲットをスパッタし、そのスパッタされた原子をSiO2層14上に堆積させてFePt合金薄膜を形成した。このとき、FePt合金膜の厚みは、例えば10nm(一定)とされる。図10は、上記条件でFePt合金薄膜層が形成されたFePt合金薄膜層保有体(熱処理前)を示すSEM像であり、このとき、その先端から内方へ10nmの位置における幅は、45nmとなった。
【0020】
次に、前記FePt合金薄膜層保有体に対して熱処理を行って、熱処理体が形成される。大きな一軸結晶磁気異方性を有すると共に、飽和磁化の大きなL10型FePt規則合金薄膜層15を得るためには、その室温成膜時の不規則相をL10型規則相に規則変態させるべく熱処理が必要となるからである。
【0021】
具体的には、急速加熱処理装置(RTA)を用い、熱処理として、例えば、加熱開始真空度2.0×10-4Paの下で、昇温速度25℃/secで750℃まで昇温させ、その状態を600sec維持することが行われる。図11は、上記条件でFePt合金薄膜層保有体を熱処理した後の熱処理体を示すSEM像であり、このとき、その先端から内方へ10nmの位置における幅は50nmとなった。これと比較すべく、探針素材13表面にSiO2層14を形成することなくFePt合金薄膜膜層を形成し、それに対して熱処理を行った場合のSEM像を図12に示す。この場合には、その先端から内方へ10nm位置における幅は、FePt合金薄膜層と探針素材13を形成するSiとの反応等により、100nmとなった。
尚、本実施形態においては、磁性薄膜層としてのFePt合金薄膜層15をSiO2層14上に形成した後に、熱処理を行っているが、FePt合金薄膜層15の形成中(成膜中)に熱処理を行ってもよい。
【0022】
この後、上記熱処理体を磁場中におき、その熱処理体(探針4)の軸心方向に着磁が行われる。これにより、探針4の製造工程が終了し、本実施形態に係る探針4を得る。
【0023】
このような本実施形態に係る探針4について、性能を評価すべく、交番力磁力計(AGM)を用いて面内磁化曲線を測定し、磁気特性として、保磁力(Hc)、残留磁化/飽和磁化(Mr/Ms)を求めると共に、本実施形態に係る探針4との比較を行うために、探針素材13をプラズマ酸化することなくその上にFePt合金規則膜を形成した探針、Si基板に熱酸化膜を(厚み150nm)を形成したものに対してFePt合金規則膜を形成したものについても、面内磁化曲線を測定して、保磁力(Hc)、残留磁化/飽和磁化(Mr/Ms)を求めた。この結果を示すものが、図13及び図14であり、図13,図14において、f1が本実施形態に係る探針4の場合を示すもの、f2が、探針素材13をプラズマ酸化することなくその上にFePt合金規則膜を形成した探針の場合を示すもの、f3が、Si基板に熱酸化膜を(厚み150nm)を形成したものに対してFePt合金規則膜を形成したものを示している。これによれば、保磁力(Hc)、残留磁化/飽和磁化(Mr/Ms)に関し、本実施形態に係る探針4(f1),Si基板に熱酸化膜を形成したものに対してFePt合金規則膜を形成したもの(f3)は、探針素材13をプラズマ酸化することなくその上にFePt合金規則膜を形成した探針(f2)よりも良好な結果を示した。
【0024】
また、本実施形態に係る探針4についての磁場中での安定性を調べるべく、FePt系磁性ドットを磁化反転させる場合について観察した。無磁場中で、図15に示すように、探針4及び磁性体試料の磁性ドット21の磁化方向(図中、矢印方向)を同じにしておき、その後、探針4の磁化方向と逆方向(FePt系磁性ドットの膜面に垂直方向)から磁場(5kOe)を印加したところ、図16に示すように、磁性ドット21のみが反転し、探針4の磁化は反転しなかった。図17,図18は、そのときのMFM像を示しており、無磁場中での磁性ドット21が明コントラストとして示され(図17参照)、磁場を印加することにより、磁性ドット21のうち、磁化反転したものが、暗コントラストとして示されている(図18参照)。
【0025】
さらに、空間分解能の評価を行うために、本実施形態に係る探針4を前述の磁気力顕微鏡に用いて磁性体試料の磁気分布を測定した。この場合、測定条件は、下記のようにした。
測定雰囲気:5.0×10-5Pa以下
Q値:6000
探針と磁性体試料との間の距離:10nm前後
磁性体試料:CoCrPt−SiO2垂直記録媒体(Hc:6.5kOe)
線記録密度500kfci
探針:本実施形態に係る探針(カンチレバーのバネ定数は40N/m)
【0026】
上記測定により得られた磁気分布に対応した像にフーリエ変換を施し、変換した2次元スペクトルから1次元スペクトルを抽出した。その上で、図19に示すように、1次元スペクトルの強度と波数(1/λ)との関係を示し、これにより、磁気的な情報を取り出すことができない領域(強度が一定値となってホワイトノイズが支配的となっている領域)の下限の波数から、それに対応する波長の半波長を空間分解能として求めた。この結果、空間分解能は11nmを示した。図20は、このときのMFM像を示す。
【0027】
これに対して、探針素材(Si)と磁性薄膜層(FePt規則合金薄膜層)との間にSiO2層が存在する既存の探針(特開2005−98804号公報)であって、SiO2層をスパッタ法を用いて作製したもの(SiO2層の作製方法以外の条件は共通)について調べたところ、下記の通りとなった。
(1)SiO2の作製条件:
予備排気圧:4.0×10-5Pa
成膜時Ar圧:5.0×10-1Pa
(2)SiO2層保有体の先端部(先端から内方へ10nmの位置;以下同じ)の幅:30nm
(3)FePt合金薄膜層保有体の幅:50nm
(4)熱処理体の先端部の幅:60nm
(5)空間分解能:14nm(特開2005−98804号公報表1も参照)
【0028】
これにより、SiO2層14を形成するに際して、スパッタ法を用いるよりも本件方法(探針素材をSiにより形成し、それをプラズマ酸化すること)を用いる方が、探針の先鋭度を高めて空間分解能を高めることができ、空間分解能に関し、本件方法により製造された探針4の方がスパッタ法を用いて製造された探針よりも優れていることが確認できた。
尚、上記SiO2層保有体先端部の幅:30nm(探針素材幅20nmの場合)は、スパッタ法を用いた場合において、安定して形成できる下限幅である。
【0029】
以上実施形態について説明したが本発明にあっては、次のような態様を包含する。
(1)磁性薄膜層を形成する材料としては、基本的に熱処理が要求される材料(規則合金系、多層膜からの合金化を図るもの)を用いることができ、具体的には、耐食性の観点から、下記Ptを含む合金系を用いることができる。
1)CoPt(L10型規則合金系で、Pt組成は、40〜60at%の範囲が好ましく、50at%付近がより好ましい。)
2)(Fe−Co−Ni)Pt(L10型規則合金系で、Pt組成は、40〜60at%の範囲が好ましく、50at%付近がより好ましい。また、Fe−Co2元系では全ての組成範囲で用いることができ、Niの比率は0〜30at%程度が好ましい。)
3)上記各合金系に、さらに、セラミック成分(SiO2等)を全体に対して0〜30vol%程度加えたもの。
(2)SiO2を含むグラニュラー薄膜系は、磁性膜の付着性を向上させる可能性があり、それを利用すること。
(3)プラズマの電子温度を低温に保った状態でSiO2層を形成すること。これにより、信頼性を損なうことなく厚みの薄いSiO2層を形成できる。
【0030】
尚、本発明の目的は、明記されたものに限らず、実質的に好ましい或いは利点として記載されたものに対応したものを提供することをも含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施形態に係る探針を用いた磁気力顕微鏡を説明する説明図。
【図2】実施形態に係る探針の内部構造を説明する説明図。
【図3】実施形態に係る探針を、その探針先端側から見た図。
【図4】実施形態に係る探針の製造工程を説明する工程図。
【図5】SiO2層の厚みと探針先端部の幅との関係を示す特性図。
【図6】酸素プラズマ照射を説明する説明図。
【図7】SiO2層の厚みと酸素プラズマ照射時間との関係を示す特性図。
【図8】プラズマ酸化前の探針素材の先端部を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像。
【図9】図8の探針素材をプラズマ酸化した後の状態を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像。
【図10】図9のSiO2層上にFePt合金薄膜層が形成されたFePt合金薄膜層保有体(熱処理前)を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像。
【図11】図10のFePt合金薄膜層保有体を熱処理した後の熱処理体を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像。
【図12】探針素材表面にSiO2層を形成することなくFePt合金薄膜膜層を形成し、それに対して熱処理を行った場合における走査型電子顕微鏡(SEM)像。
【図13】面内磁化曲線を示す図。
【図14】図13における各特性線の保磁力、残留磁化/飽和磁化を示す図。
【図15】探針及び磁性体試料の磁性ドットの磁化方向(図中、矢印方向)が同じにされている状態を示す概念図。
【図16】図15に示す状態において、探針の磁化方向と逆方向(FePt系磁性ドットの膜面に垂直方向)から磁場(5kOe)を印加したときに、磁性ドットの磁化のみが反転し、探針の磁化が反転しない状態を示す概念図。
【図17】磁性体試料において、図15の状態を示すMFM像。
【図18】磁性体試料において、図16の状態を示すMFM像。探針及び磁性体試料の磁性ドットの磁化方向(図中、矢印方向)が同じにされている状態を示す概念図。
【図19】1次元スペクトルの強度と波数(1/λ)との関係を示す図。
【図20】実施形態に係る探針を磁気力顕微鏡に用いて磁性体試料の磁気分布を測定したときにおける状態を示すMFM像。
【符号の説明】
【0032】
1 磁気力顕微鏡
4 探針
13 探針素材
14 SiO2層
15 FePt規則合金薄膜層(磁性薄膜層)
20 酸素プラズマ発生装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気力顕微鏡用探針の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気情報に対応した磁化パターン等を測定するものとして、磁気力顕微鏡(MFM)が用いられている。磁気力顕微鏡は、磁性探針を備えており、その磁性探針の先端を被測定媒体である磁性体試料に近づけ、磁性探針上の磁極と磁性体試料上の磁極との間に働く磁気的作用を直接検出することにより、磁化パターン等の測定が行われる。
【0003】
この磁気力顕微鏡の磁性探針としては、特許文献1に示されるように、非磁性材料Siからなる探針素材上に、順に、SiO2層、磁性薄膜層(鉄(Fe)−白金(Pt)規則合金層)が形成されたものが提案されており、その磁性探針の製造においては、Siからなる探針素材上に、順に、酸化珪素(SiO2)層、磁性薄膜層を形成し、その後、その磁性薄膜層を規則合金膜に規則変態させるべく(Al型不規則相のFePt合金膜をL10型FePt規則合金膜に規則変態)、熱処理を行う工程が必要である。このため、このものにおいては、製造段階において、磁性薄膜層の形成に先立ち、探針素材上にSiO2層が形成されることから、熱処理を行っても、Siからなる探針素材と磁性薄膜層とが反応、合金化して磁性薄膜層の磁気特性が劣化することを防止でき、その磁性薄膜層に基づき大きな保磁力と大きな飽和磁束密度とを得て探針先端の磁極密度を高めることができる。この結果、空間分解能を向上させることができる。
【特許文献1】特開2005−98804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、一方で、上記SiO2層の厚みを薄く形成することは容易ではなく、それが磁気探針の外形形状に反映されて、その磁気探針の先鋭度を高めること(できるだけ細く尖った状態とすること)を妨げている。このことが空間分解能の向上を妨げることなっている。
【0005】
本発明は以上のような事情に鑑みてなされたもので、その技術的課題は、磁気薄膜層と探針素材との間にSiO2層を介在する場合であっても、探針の先鋭度をできるだけ高めることができる磁気力顕微鏡用探針の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記技術的課題を達成するために本発明(請求項1に係る発明)にあっては、
珪素(Si)からなる探針素材上に、順に、酸化珪素(SiO2)層、磁性薄膜層を形成すると共に、該磁性薄膜層の形成中ないしは該磁性薄膜層の形成後から、熱処理を行う磁気力顕微鏡用磁性探針の製造方法であって、
前記酸化珪素層を、前記探針素材の表面をプラズマ酸化することにより形成する構成としてある。
この構成により、探針素材における珪素と酸素とが結合することから、酸化珪素層を形成しても、基本的に、探針素材の外周側において、厚みの増大として、酸素分に相当する体積(探針素材の珪素原子間に酸素原子が入り込む場合にはさらに少ない体積)だけが増大することになり、酸化珪素自体を探針素材上に堆積させるスパッタ法等を用いる場合に比して、酸化珪素層形成に伴う体積の増大を抑制して、探針をできるだけ細い状態に抑えることができる。このため、磁気薄膜層と探針素材との間にSiO2層が介在される場合であっても、探針の先鋭度を高めることができる。勿論この場合、磁性薄膜層と探針素材との間に酸化珪素層が存在することになることから、酸化珪素層は、磁性薄膜層と探針素材の珪素との反応、合金化を防止して、磁性薄膜層の磁気特性が劣化することを防止できる。
また、プラズマ酸化による強力な酸化作用に基づき酸化珪素層を確実且つ迅速に形成できる一方、一旦、酸化珪素層が形成されると、それがバリア層となって、それ以上、探針素材の内部の珪素が酸化されることが防止できることになり、略一定厚みの酸化珪素層を形成できる。このため、酸化珪素層に反応抑制機能を的確に働かせて探針素材と磁気薄膜層との反応を確実に防止できると共に、探針素材内部における珪素の酸化進行に伴って探針の先鋭度が低下すること(太くなること)も防止できる。
【0007】
請求項1の好ましい態様としては、前記探針素材の表面をプラズマ酸化することを、一定時間以上行う構成を採ることができる(請求項2対応)。この構成により、プラズマ酸化による強力な酸化作用に基づき酸化珪素層を確実且つ迅速に形成できる一方、プラズマ酸化を一定時間以上行っても、酸化珪素層がバリア層となり、探針素材の内部の珪素が酸化されることが防止できる。このため、一定時間以上、探針素材の表面をプラズマ酸化することを条件として、適正な一定厚みの酸化珪素層を確実に形成できる。
【0008】
請求項1の好ましい態様としては、前記探針素材の表面に前記プラズマ酸化を行う前に、該探針素材表面上に自然酸化により形成された自然酸化膜を除去する構成を採ることができる(請求項3対応)。この構成により、プラズマ酸化により形成される酸化珪素層に不純物が取り込まれることを防止でき、酸化珪素層に適正な機能を発揮させることができる。
【0009】
請求項1の好ましい態様としては、前記磁性薄膜層として、鉄(Fe)−白金(Pt)薄膜層を形成し、該鉄(Fe)−白金(Pt)薄膜層を前記熱処理により鉄(Fe)−白金(Pt)規則合金薄膜層とする構成を採ることができる(請求項4対応)。この構成により、磁性薄膜層として、鉄(Fe)−白金(Pt)薄膜層を形成する場合であっても、磁気特性を劣化させることなく具体的に磁性探針を形成できることは勿論、その磁気探針の先鋭度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明(請求項1に記載された発明)によれば、磁気薄膜層と探針素材との間に酸化珪素層が介在しても、探針の先鋭度をできるだけ高めることができる磁気力顕微鏡用探針の製造方法を提供できる。
また、酸化珪素層に反応抑制機能を的確に働かせて探針素材と磁気薄膜層との反応を確実に防止できると共に、探針素材内部における珪素の酸化進行に伴って探針の先鋭度が低下すること(太くなること)も防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1において、符号1は、本実施形態に係る探針が用いられる磁気力顕微鏡1である。この磁気力顕微鏡1においては、チャンバー2内に帯状のカンチレバー(板ばね)3が設けられており、そのカンチレバー3は、その基端部がチャンバー2内壁に支持されている一方、そのカンチレバー3の先端部には本実施形態に係る探針4が設けられている。この探針4(カンチレバー3)は、磁化パターン等を測定するに際して、テーブル5上の磁性体試料6の表面上を走査されることになっており、このとき、磁性体試料6から探針4に作用する磁力により生じるカンチレバー3の撓み(振れ)を、レーザ発生装置7から照射されるレーザ8の反射光9の位置ずれを光検出器10で検出することにより、磁性体試料6の磁界の強さを測定している。尚、本実施形態においては、十分な感度を得るために、カンチレバー3の基端部が、その機械的共振周波数で振動させる加振用圧電素子11を介してチャンバー2内壁に支持され、テーブル5が、アクチュエータ用圧電素子12により、磁性体試料6と探針4との間の磁気力が一定となるように制御される。
【0012】
前記磁気力顕微鏡1に用いられる前記探針4は、図2,図3に示すように、カンチレバー3の先端部にカンチレバー3の延び方向に直交するように突設されており、その探針4の形状は、先端に向うに従って尖るように設定されている。具体的には、その探針4の形状は、例えば四角錐形状に形成されており、その探針4の先端部は、その先端から内方に向って10nm位置における幅(厚み)dは、50nm程度とされている。この探針4は、珪素(Si)からなる探針素材13上に順に、酸化物層としてのSiO2層(酸化珪素層)14、磁性薄膜層としての鉄(Fe)−白金(Pt)規則合金薄膜層(L10型規則合金系で、Pt組成は、40〜60at%の範囲が好ましく、50at%付近がより好ましい)15が積層された構造となっており、本実施形態においては、カンチレバー3も、Siにより形成されている。
【0013】
このような探針4は、図4に示す工程に従って製造される。
先ず、Siからなる探針素材13が用意される。その探針素材13上に磁性薄膜層等を形成する必要があるからである。この探針素材13は、本実施形態においては、予めカンチレバー3の先端部に取付けられており、以後、探針素材13及びカンチレバー3は、後の工程において、一体的に扱われる。このSiからなる探針素材13は、具体的には、Si単結晶ウェハーから異方性エッチングにより製造されるが、材料としては、Siを用いるだけでなく、導電性を確保するため、Si中に不純物が含まれるもの(不純物半導体)を用いてもよい。
【0014】
次に、前記探針素材13に対してプラズマ酸化を行ってその探針素材13上にSiO2層14を形成することにより、SiO2層保有体が形成される。SiO2層14を、Siからなる探針素材13と後述のFePt薄膜層との反応を抑制する反応抑制層として機能させ、探針4の先鋭度が低下すること(主として径が太くなること)を防止するためである。また、SiO2層14の形成方法として、Siからなる探針素材13をプラズマ酸化処理を行うこととしているのは、最終的製品である探針4の径が太くなることをできるだけ抑制して、スパッタ法を用いる場合に比して空間分解能を高めるためである。すなわち、SiO2層14の形成に際して、Siに関しては、探針素材13のSiを利用し、基本的に、探針素材13の外周側において、厚みの増大として、酸素分に相当する体積(探針素材13の珪素原子間に酸素原子が入り込む場合にはさらに少ない体積)だけが増大するようにし、SiO2自体を探針素材13上に堆積させるスパッタ法を用いる場合よりもSiO2層保有体の体積の増大を抑制して、探針4をできるだけ細い状態に抑えようとしているのである。しかも、このプラズマ酸化処理の強力な酸化作用に基づきSiO2層14が確実且つ迅速に形成される一方、一旦、SiO2層14が形成されると、それがバリア層となって、それ以上、探針素材13の内部の珪素が酸化されることが防止され、略一定厚みのSiO2層14が形成される。このため、SiO2層14に反応抑制機能を的確に働かせて探針素材13と磁気薄膜層との反応を確実に防止できると共に、探針素材13内部のSiの酸化進行も抑制してSiO2層保有体の体積増加を抑制でき、その探針素材13内部におけるSiの酸化進行に伴って探針4の先鋭度が低下すること(太くなること)を防止できる。
【0015】
具体的には、このプラズマ酸化により、SiO2層14の厚みを、0.2nm〜3nmの範囲とすることが好ましい。SiO2層14の厚みは、薄ければ薄いほど、探針4の先鋭度を高める観点から好ましいように思えるが、図5に示すように、SiO2層14の厚みを0.2nm未満とすると、Siからなる探針素材13と後述のFePt層との反応抑制機能が十分に働かず、探針4先端部の幅(先端から内方に向けて10nmの位置の幅d)が急激に増大し、探針4の先鋭度を高めることができなくなるからである。
【0016】
前記探針素材13に対するプラズマ酸化処理は、例えば、図6に示すように、チャンバー17内における回転テーブル18上の基板ホルダ19に探針素材13(カンチレバー3付き)をセットし、そのチャンバー17内を一定の圧力(例えば6.0×10-4Pa(好ましくはこの値以下))状態にした上で、酸素プラズマ発生装置20から酸素プラズマを、回転状態の回転テーブル18上の探針素材13に対して照射することにより、行われる。これにより、探針素材13上に3.0nm位の厚みをもってSiO2層14が形成できた。この場合、探針素材13を加熱状態とせずに、酸素プラズマの照射時間を10分、20分、30分とした各場合について、SiO2層14の生成厚みを分光エリプソメーター解析から計算したところ、図7に示す結果を得た。その図7によれば、酸素プラズマの照射開始から一定時間(10分)で、SiO2層14の厚みはほぼ一定値に至り、その一定時間経過後、酸素プラズマをいくら照射しても、SiO2層14の厚みにあまり変化はなかった。図8は、プラズマ酸化前の探針素材13の先端部を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像であり、このとき、その探針素材13の先端から内方へ10nm位置における幅dは20nmであったが、それをプラズマ酸化した後には、図9に示すように、その先端から10nm位置における幅は、SiO2層14の形成により25nm前後に増大した。
【0017】
前記プラズマ酸化処理に先立ち、図4に示すように、探針素材13表面における自然酸化膜を除去することが好ましい。プラズマ酸化により形成されたSiO2層に不純物が取り込まれることを防止し、SiO2層14に適正な機能を発揮させるためである。この処理としては、プラズマエッチングが好ましい。
【0018】
次に、前記SiO2層保有体のSiO2層14上に、磁性薄膜層として、FePt合金薄膜層を形成(成膜)して、FePt合金薄膜層保有体が形成される。探針4の磁性薄膜層として、磁性体試料からの漏洩磁場により探針4磁化が変化しない高保磁力材料が求められるからである。
【0019】
このFePt薄膜層は、本実施形態においては、Fe,Ptの薄膜を交互に積層した多層膜ではなく、FePt合金膜(層)とされており、その成膜化は、DCマグネトロンスパッタ装置を用いて行った。具体的には、予備排気圧8.0×10-4Pa以下の下で、流量70sccmとしたArガス(不活性ガス)を供給し、Feターゲット、Ptターゲットをスパッタし、そのスパッタされた原子をSiO2層14上に堆積させてFePt合金薄膜を形成した。このとき、FePt合金膜の厚みは、例えば10nm(一定)とされる。図10は、上記条件でFePt合金薄膜層が形成されたFePt合金薄膜層保有体(熱処理前)を示すSEM像であり、このとき、その先端から内方へ10nmの位置における幅は、45nmとなった。
【0020】
次に、前記FePt合金薄膜層保有体に対して熱処理を行って、熱処理体が形成される。大きな一軸結晶磁気異方性を有すると共に、飽和磁化の大きなL10型FePt規則合金薄膜層15を得るためには、その室温成膜時の不規則相をL10型規則相に規則変態させるべく熱処理が必要となるからである。
【0021】
具体的には、急速加熱処理装置(RTA)を用い、熱処理として、例えば、加熱開始真空度2.0×10-4Paの下で、昇温速度25℃/secで750℃まで昇温させ、その状態を600sec維持することが行われる。図11は、上記条件でFePt合金薄膜層保有体を熱処理した後の熱処理体を示すSEM像であり、このとき、その先端から内方へ10nmの位置における幅は50nmとなった。これと比較すべく、探針素材13表面にSiO2層14を形成することなくFePt合金薄膜膜層を形成し、それに対して熱処理を行った場合のSEM像を図12に示す。この場合には、その先端から内方へ10nm位置における幅は、FePt合金薄膜層と探針素材13を形成するSiとの反応等により、100nmとなった。
尚、本実施形態においては、磁性薄膜層としてのFePt合金薄膜層15をSiO2層14上に形成した後に、熱処理を行っているが、FePt合金薄膜層15の形成中(成膜中)に熱処理を行ってもよい。
【0022】
この後、上記熱処理体を磁場中におき、その熱処理体(探針4)の軸心方向に着磁が行われる。これにより、探針4の製造工程が終了し、本実施形態に係る探針4を得る。
【0023】
このような本実施形態に係る探針4について、性能を評価すべく、交番力磁力計(AGM)を用いて面内磁化曲線を測定し、磁気特性として、保磁力(Hc)、残留磁化/飽和磁化(Mr/Ms)を求めると共に、本実施形態に係る探針4との比較を行うために、探針素材13をプラズマ酸化することなくその上にFePt合金規則膜を形成した探針、Si基板に熱酸化膜を(厚み150nm)を形成したものに対してFePt合金規則膜を形成したものについても、面内磁化曲線を測定して、保磁力(Hc)、残留磁化/飽和磁化(Mr/Ms)を求めた。この結果を示すものが、図13及び図14であり、図13,図14において、f1が本実施形態に係る探針4の場合を示すもの、f2が、探針素材13をプラズマ酸化することなくその上にFePt合金規則膜を形成した探針の場合を示すもの、f3が、Si基板に熱酸化膜を(厚み150nm)を形成したものに対してFePt合金規則膜を形成したものを示している。これによれば、保磁力(Hc)、残留磁化/飽和磁化(Mr/Ms)に関し、本実施形態に係る探針4(f1),Si基板に熱酸化膜を形成したものに対してFePt合金規則膜を形成したもの(f3)は、探針素材13をプラズマ酸化することなくその上にFePt合金規則膜を形成した探針(f2)よりも良好な結果を示した。
【0024】
また、本実施形態に係る探針4についての磁場中での安定性を調べるべく、FePt系磁性ドットを磁化反転させる場合について観察した。無磁場中で、図15に示すように、探針4及び磁性体試料の磁性ドット21の磁化方向(図中、矢印方向)を同じにしておき、その後、探針4の磁化方向と逆方向(FePt系磁性ドットの膜面に垂直方向)から磁場(5kOe)を印加したところ、図16に示すように、磁性ドット21のみが反転し、探針4の磁化は反転しなかった。図17,図18は、そのときのMFM像を示しており、無磁場中での磁性ドット21が明コントラストとして示され(図17参照)、磁場を印加することにより、磁性ドット21のうち、磁化反転したものが、暗コントラストとして示されている(図18参照)。
【0025】
さらに、空間分解能の評価を行うために、本実施形態に係る探針4を前述の磁気力顕微鏡に用いて磁性体試料の磁気分布を測定した。この場合、測定条件は、下記のようにした。
測定雰囲気:5.0×10-5Pa以下
Q値:6000
探針と磁性体試料との間の距離:10nm前後
磁性体試料:CoCrPt−SiO2垂直記録媒体(Hc:6.5kOe)
線記録密度500kfci
探針:本実施形態に係る探針(カンチレバーのバネ定数は40N/m)
【0026】
上記測定により得られた磁気分布に対応した像にフーリエ変換を施し、変換した2次元スペクトルから1次元スペクトルを抽出した。その上で、図19に示すように、1次元スペクトルの強度と波数(1/λ)との関係を示し、これにより、磁気的な情報を取り出すことができない領域(強度が一定値となってホワイトノイズが支配的となっている領域)の下限の波数から、それに対応する波長の半波長を空間分解能として求めた。この結果、空間分解能は11nmを示した。図20は、このときのMFM像を示す。
【0027】
これに対して、探針素材(Si)と磁性薄膜層(FePt規則合金薄膜層)との間にSiO2層が存在する既存の探針(特開2005−98804号公報)であって、SiO2層をスパッタ法を用いて作製したもの(SiO2層の作製方法以外の条件は共通)について調べたところ、下記の通りとなった。
(1)SiO2の作製条件:
予備排気圧:4.0×10-5Pa
成膜時Ar圧:5.0×10-1Pa
(2)SiO2層保有体の先端部(先端から内方へ10nmの位置;以下同じ)の幅:30nm
(3)FePt合金薄膜層保有体の幅:50nm
(4)熱処理体の先端部の幅:60nm
(5)空間分解能:14nm(特開2005−98804号公報表1も参照)
【0028】
これにより、SiO2層14を形成するに際して、スパッタ法を用いるよりも本件方法(探針素材をSiにより形成し、それをプラズマ酸化すること)を用いる方が、探針の先鋭度を高めて空間分解能を高めることができ、空間分解能に関し、本件方法により製造された探針4の方がスパッタ法を用いて製造された探針よりも優れていることが確認できた。
尚、上記SiO2層保有体先端部の幅:30nm(探針素材幅20nmの場合)は、スパッタ法を用いた場合において、安定して形成できる下限幅である。
【0029】
以上実施形態について説明したが本発明にあっては、次のような態様を包含する。
(1)磁性薄膜層を形成する材料としては、基本的に熱処理が要求される材料(規則合金系、多層膜からの合金化を図るもの)を用いることができ、具体的には、耐食性の観点から、下記Ptを含む合金系を用いることができる。
1)CoPt(L10型規則合金系で、Pt組成は、40〜60at%の範囲が好ましく、50at%付近がより好ましい。)
2)(Fe−Co−Ni)Pt(L10型規則合金系で、Pt組成は、40〜60at%の範囲が好ましく、50at%付近がより好ましい。また、Fe−Co2元系では全ての組成範囲で用いることができ、Niの比率は0〜30at%程度が好ましい。)
3)上記各合金系に、さらに、セラミック成分(SiO2等)を全体に対して0〜30vol%程度加えたもの。
(2)SiO2を含むグラニュラー薄膜系は、磁性膜の付着性を向上させる可能性があり、それを利用すること。
(3)プラズマの電子温度を低温に保った状態でSiO2層を形成すること。これにより、信頼性を損なうことなく厚みの薄いSiO2層を形成できる。
【0030】
尚、本発明の目的は、明記されたものに限らず、実質的に好ましい或いは利点として記載されたものに対応したものを提供することをも含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施形態に係る探針を用いた磁気力顕微鏡を説明する説明図。
【図2】実施形態に係る探針の内部構造を説明する説明図。
【図3】実施形態に係る探針を、その探針先端側から見た図。
【図4】実施形態に係る探針の製造工程を説明する工程図。
【図5】SiO2層の厚みと探針先端部の幅との関係を示す特性図。
【図6】酸素プラズマ照射を説明する説明図。
【図7】SiO2層の厚みと酸素プラズマ照射時間との関係を示す特性図。
【図8】プラズマ酸化前の探針素材の先端部を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像。
【図9】図8の探針素材をプラズマ酸化した後の状態を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像。
【図10】図9のSiO2層上にFePt合金薄膜層が形成されたFePt合金薄膜層保有体(熱処理前)を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像。
【図11】図10のFePt合金薄膜層保有体を熱処理した後の熱処理体を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像。
【図12】探針素材表面にSiO2層を形成することなくFePt合金薄膜膜層を形成し、それに対して熱処理を行った場合における走査型電子顕微鏡(SEM)像。
【図13】面内磁化曲線を示す図。
【図14】図13における各特性線の保磁力、残留磁化/飽和磁化を示す図。
【図15】探針及び磁性体試料の磁性ドットの磁化方向(図中、矢印方向)が同じにされている状態を示す概念図。
【図16】図15に示す状態において、探針の磁化方向と逆方向(FePt系磁性ドットの膜面に垂直方向)から磁場(5kOe)を印加したときに、磁性ドットの磁化のみが反転し、探針の磁化が反転しない状態を示す概念図。
【図17】磁性体試料において、図15の状態を示すMFM像。
【図18】磁性体試料において、図16の状態を示すMFM像。探針及び磁性体試料の磁性ドットの磁化方向(図中、矢印方向)が同じにされている状態を示す概念図。
【図19】1次元スペクトルの強度と波数(1/λ)との関係を示す図。
【図20】実施形態に係る探針を磁気力顕微鏡に用いて磁性体試料の磁気分布を測定したときにおける状態を示すMFM像。
【符号の説明】
【0032】
1 磁気力顕微鏡
4 探針
13 探針素材
14 SiO2層
15 FePt規則合金薄膜層(磁性薄膜層)
20 酸素プラズマ発生装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素(Si)からなる探針素材上に、順に、酸化珪素(SiO2)層、磁性薄膜層を形成すると共に、該磁性薄膜層の形成中ないしは該磁性薄膜層の形成後から、熱処理を行う磁気力顕微鏡用磁性探針の製造方法であって、
前記酸化珪素層を、前記探針素材の表面をプラズマ酸化することにより形成する、
ことを特徴とする磁気力顕微鏡用探針の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記探針素材の表面をプラズマ酸化することを、一定時間以上行う、
ことを特徴とする磁気力顕微鏡用探針の製造方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記探針素材の表面に前記プラズマ酸化を行う前に、自然酸化により形成された該探針素材表面の自然酸化膜を除去する、
ことを特徴とする磁気力顕微鏡用探針の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項において、
前記磁性薄膜層として、鉄(Fe)−白金(Pt)薄膜層を形成し、該鉄(Fe)−白金(Pt)薄膜層を前記熱処理により鉄(Fe)−白金(Pt)規則合金薄膜層とする、
ことを特徴とする磁気力顕微鏡用探針の製造方法。
【請求項1】
珪素(Si)からなる探針素材上に、順に、酸化珪素(SiO2)層、磁性薄膜層を形成すると共に、該磁性薄膜層の形成中ないしは該磁性薄膜層の形成後から、熱処理を行う磁気力顕微鏡用磁性探針の製造方法であって、
前記酸化珪素層を、前記探針素材の表面をプラズマ酸化することにより形成する、
ことを特徴とする磁気力顕微鏡用探針の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記探針素材の表面をプラズマ酸化することを、一定時間以上行う、
ことを特徴とする磁気力顕微鏡用探針の製造方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記探針素材の表面に前記プラズマ酸化を行う前に、自然酸化により形成された該探針素材表面の自然酸化膜を除去する、
ことを特徴とする磁気力顕微鏡用探針の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項において、
前記磁性薄膜層として、鉄(Fe)−白金(Pt)薄膜層を形成し、該鉄(Fe)−白金(Pt)薄膜層を前記熱処理により鉄(Fe)−白金(Pt)規則合金薄膜層とする、
ことを特徴とする磁気力顕微鏡用探針の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図13】
【図19】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図13】
【図19】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図20】
【公開番号】特開2008−209276(P2008−209276A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−46962(P2007−46962)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 :社団法人 日本応用磁気学会 刊行物名 :第30回日本応用磁気学会学術講演概要集 発行年月日:2006年9月11日
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【出願人】(000227375)日東光器株式会社 (4)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 :社団法人 日本応用磁気学会 刊行物名 :第30回日本応用磁気学会学術講演概要集 発行年月日:2006年9月11日
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【出願人】(000227375)日東光器株式会社 (4)
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