説明

磁気抵抗読取り変換器および磁気抵抗センサ

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、一般には、磁気媒体から情報信号を読み取る磁気変換器に関し、特に、磁気抵抗読取り変換器および磁気抵抗センサの改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来技術には、高い線密度を有する磁気記録面からデータを読み取ることができる磁気抵抗(MR)センサまたは磁気抵抗ヘッドとして言及される磁気変換器を開示するものがある。MRセンサは、磁性材料から成る読取り素子によって感知する磁束の量および方向の関数である該素子の抵抗の変化から磁場進行を検出する。これら従来技術のMRセンサは、異方性磁気抵抗(AMR)効果を基準として動作し、抵抗成分は磁化方向と電流方向との間の成す角度の余弦の二乗(COSの二乗)として変化する。このAMR効果のより詳しい説明は、D.A.Thompson他による刊行物IEEE Trans.Mag.MAG-11(1975年)、"Thin Film Magnetoresistors in Memory, Storage, and Related Applications"の1039頁に記載されている。これらMRセンサはAMR効果を基礎とするが、この効果は非常に小さい百分率での抵抗変化しか生じない。
【0003】ドイツ特許第DE3820475号(Grunberg)は、磁化の反平行アライメントによりMR効果を増強する層状磁気構造を開示している。層状構造に用いることができる材料として、Grunbergは強磁性遷移金属および合金をリストに挙げているが、そのリストのうちどのような材料がMR効果を得るのに優位であり好ましいかについては指摘していない。
【0004】近年、他の様式のMRセンサが確認されているが、ここでは二つの連結されていない強磁性層間での抵抗が、この二層間の磁化の角度の余弦によって変化し、電流の方向には無関係であることが認められている。この機構は、材料の組み合せの選択によってはAMRよりも大きい効果が得られ、“スピン・バルブ”(SV)磁気抵抗として注目されている。SV磁気抵抗効果は1990年12月11日に出願された現在継続中の米国特許出願第625343号において説明されている。
【0005】従来技術には、弱い印加磁場において高いMR応答性を有するMRセンサに関するものはない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の主要な目的は、弱い印加磁場においても高いMR応答性を有する磁気抵抗(MR)読取り変換器および磁気抵抗(MR)センサを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、MRセンサは、基層上に形成される層状構造を有し、強磁性材料の第一の薄膜層および第二の薄膜層を有し、これらの層のうち少なくとも一層はコバルトおよびコバルト合金のグループから得られる材料から形成された強磁性材料から成るが、非磁性金属材料の薄膜層によって分離されている。強磁性材料の第一の薄膜層の磁化方向は、ゼロ印加磁場において、強磁性材料の第二の薄膜層の磁化方向に対してはほぼ垂直である。電流はMRセンサを通じて生じるが、強磁性材料のこれら層間での磁化に回転差があるため、その電流の変化はMRセンサの比抵抗において感知されることで磁場感知機能を発揮する。
【0008】
【実施例】従来技術における磁気抵抗(MR)センサは異方性磁気抵抗(AMR)に基づくものであり、ここでは抵抗成分は磁化方向と電流方向との成す角度の余弦の二乗として変化する。近年において確認されたMRセンサは、前述の係属中出願によれば、その一つは二つの連結されていない強磁性層間での抵抗が、この二層間の磁化の成す角度の余弦によって変化し、電流の方向に無関係であることが認められている。この機構は材料の組み合せの選択によっては、AMRよりも大きい効果が得られ、“スピン・バルブ”(SV)磁気抵抗と呼ばれている。本発明においては、多層形態であるか否かにかかわらず、弱い磁場状況において他のいかなる既知システムにおけるよりも高いSV磁気抵抗効果が得られる、特定の材料を用いるシステムが開示される。本発明によるMR(SV)センサ10が図1に示されている。MRセンサ10はガラス、セラミック、または半導体等から成る適当な基層11を有し、その上層に、ソフトな強磁性材料から成る第一の薄膜層12、非磁性金属材料から成る薄膜層14、および強磁性材料から成る第二の薄膜層16が置かれる。強磁性材料から成る二つの層12、16は、印加磁場が無いときは、磁化の方向が互いにほぼ90度に成るように方向付けされている。さらに、強磁性材料から成る第二の薄膜層16は、矢印20の方向に固定されている。印加磁場が無いときの強磁性材料の第一の薄膜層12の磁化方向が、矢印22として示されている。第一の薄膜層12の磁化は、(図1における磁場hのような)印加磁場に応答して図1に示される点線矢印のごとく、回転して変化する。
【0009】図1に示される本発明の実施例においては、第二の薄膜層16の磁化が定位置に固定できるように、強磁性材料の第二の薄膜層16の保持力は強磁性材料の第一の薄膜層12のものよりも高くされている。図2R>2に示される特定の実施例においては、強磁性材料の第二の薄膜層16の磁化を固定するための2つの選択可能な技法が示される。
【0010】図2の実施例においては、抵抗の高い交換バイアス材料の薄膜層18が、直接、強磁性材料の第二の薄膜層16に接触しており、周知の交換結合によってバイアス磁場を生じさせることができる。この薄膜層18は、反強磁性材料がよく、それ以外なら、十分な、高直角度、高保持力および高抵抗である強磁性の層がよい。図2の構造は反転してもよい。その場合、基層の上にまず層18が置かれ、層16、14、12の順でそれに続き置かれていく。
【0011】本発明の実施例では、強磁性層12および16の両方またはその何れか一方は、コバルト(元素記号Co)またはコバルト合金であることが望ましい。非磁性スペーサ層14は、銅(Cu)であるか、または銀(Ag)や金(Au)などの貴金属である。磁化方向が固定されているCoまたはCo合金である強磁性層16は、FeMn等によって交換バイアスされるべきであり、交換バイアスの影響による大きさの変化は、以下に詳細に述べるように下層を利用して制御される。
【0012】特定のMR(SV)センサの実施例は、本発明によれば、ガラス基層の上に構築され、以下の構造を有する。


FeMn層の酸化を阻止するために、その上層にはCu層(図2には示されていない)が置かれる。これとは異なり、実際の装置には、例えばTa(タンタル)のような比抵抗の高い不動態化(passivation)層も用いられる。この構造での磁場とモーメントとの関係が図3(a)に示されており、二つのCo層に対応する二つのループが重ねて描かれているが、このうちの一層はFeMn層により交換バイアスされているものである。図3(b)は、Co磁化の反平行アライメントに対応して、磁場が20〜120エールステッド(Oe)の範囲については比抵抗が8.7%増加することを示している。この大きさは、800e以下の磁場においては、今までに報告されている他のいかなる常温バルク磁気抵抗または薄膜磁気抵抗よりも大きい。
【0013】図4は、磁気特性が図3に示されたと同じ構造について、MR応答を示している。例として、磁化の方向が180度に方向付けられると、図4の正の磁場は図3の負の磁場に対応することに注意されたい。さらに、磁場スイープの大きさが小さすぎて交換バイアス層16(図3参照)を反転させることができない場合には、−40〜150eの範囲内の磁場において反平行アライメントが生じる。
【0014】材料をどう選択するかは、MR(SV)センサから得られるMR応答に影響を及ぼす。第一の強磁性層12については、ソフトな磁気特性が要求される。純粋なコバルトに加えるものとして、例えばこの層12に用いるものとしては、NiFe、NiCoから、またはCoZr若くはCoMoNb若くはNiFeCo等のコバルト合金が挙げられる。第二の強磁性層16は、磁化を定位置に固定しておくためにハードな磁気特性を有することが好ましい。純粋コバルトにさらに加えるものとして、CoNi(成分比80:20)のようなコバルト合金も用いることができる。第二の強磁性層16もまた、FeMnまたはNiMnへの交換結合によって定位置に磁化が固定される。他の実施例としては、この層16の磁化が、CoPtまたはCoPtCrのような保持力の高い材料への交換結合によって固定される。
【0015】前記実施例において得られる交換バイアスのレベルでは、いくつかの適用には向かないことがある。交換バイアスのレベルは図5に示されるようなMR(SV)センサの特定の実施例によって増加できることが、発見されている。この実施例における、基層11、非磁性材料層14、強磁性材料の二つの層12、16および交換バイアス材料層18があるという構造は、図1および図2に関連して述べられたような同様の構造に対応するものである。しかし、ここでは薄い下層24が、他の層が設けられるより先に基層11上に設けられている。この下層24は、約50オングストローム(Å)厚のジルコニウム(Zr)であることが好ましく、この下層には、Co層のc軸テクスチュア(C-axis texture)を増加させる役割があり、その結果として、バイアス結合が順に増加し、CoおよびFeMn間の結晶学的マッチングが良好になる。一層の下層を有する構造のMR応答の特定の例が図6に示されている。図6(a)においては下層を有しない構造の場合のMR応答を示しており、図6(b)においては他は同じ構造とするが厚さ50オングストロームのZrをまず基層上に下層として設けている構造の場合のMR応答を示している。図6(b)の構造は次のようになる。


【0016】例として、TaまたはZr等の高い比抵抗材料から成るキャッピング層26(図5)がMRセンサを覆い、電気リード部28および30がMRセンサ構造、電流源32および感知手段34の間に回路パスを形成する。
【0017】MR(SV)センサの特定の実施例におけるMR応答が図7に示されているが、このMR構造は、高いMR感度(5.2%)と非常に低い飽和磁場(150e)とを兼ね備えている。図6に示されるデータは次の構造を有するMRセンサについてのものである。


下層(例としてZrまたはTaが挙げられる)および異なるキャッピング層(これについてもZrまたはTaが挙げられる)またはそのいづれか一方を利用することによって、MR応答性をいっそう高めることができる。これらの構造を変更したところで、センサのソフトな磁気特性に性能低下を生じさせることはない。
【0018】
【発明の効果】本発明によれば、強磁性層の何れか一層または両層においてコバルトまたはコバルト合金を利用する、磁気抵抗読取り変換器および磁気抵抗センサが提供される。これらの構造では、SV磁気抵抗(MR)効果により、弱い磁場において、現在知られている他のいかなるものよりも高いMR感度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による特定の実施例である磁気抵抗センサの分解斜視図である。
【図2】本発明による代替の実施例である磁気抵抗センサの分解斜視図である。
【図3】図2の磁気抵抗センサの特定の実施例において2つのグラフを示しているが、そのうち(a)は周囲温度履歴ループのグラフであって、(b)は周囲温度磁気抵抗のグラフ図である。
【図4】図3の磁気抵抗センサの容易軸に沿っているがX軸のスケールは十分縮小してある、磁気抵抗応答を示すグラフ図である。
【図5】本発明の磁気抵抗センサの応用実施例の端面図である。
【図6】(a)は本発明の磁気抵抗センサの特定の実施例についてMR応答性を示すグラフ図であって、(b)は同様の構造であるが、基層と第一の強磁性層との間に下層を設けている構造での、MR応答性を示すグラフ図である。
【図7】本発明の磁気記録センサの他の実施例の磁気抵抗応答を示すグラフ図である。
【符号の説明】
11 基層
12 強磁性材料の第一の薄膜層
14 強磁性材料の第二の薄膜層
16 非磁性金属材料の薄膜層
18 交換バイアス材料の薄膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】基層および前記基層上に形成された層構造を有し、前記層構造が非磁性金属材料の薄膜層によって分離された強磁性材料の第一の薄膜層および第二の薄膜層を有し、前記第一の薄膜層および第二の薄膜層の少なくとも一方がコバルトおよびコバルト合金から成るグループから選ばれた材料で形成されており、印加磁場がゼロの状態において前記第一の薄膜層の磁化の方向が前記第二の薄膜層の磁化の方向に対してほぼ垂直になるようにされている、磁気抵抗センサと、前記磁気抵抗センサに電流を流す手段と、感知する磁場に応じた前記第一の薄膜層および前記第二の薄膜層の磁化の回転差に基づく前記磁気抵抗センサの比抵抗における変化を感知する手段とを有する、磁気抵抗読取り変換器。
【請求項2】前記第二の薄膜層の磁化方向を固定する手段をも有する、請求項1の磁気抵抗読取り変換器。
【請求項3】前記非磁性金属材料の薄膜層が、銅、銀および金から成るグループから選ばれた材料で形成されている、請求項2の磁気抵抗読取り変換器。
【請求項4】前記第二の薄膜層の磁化方向を固定する手段が、前記第一の薄膜層の保磁力よりも高い保磁力を有する、請求項2の磁気抵抗読取り変換器。
【請求項5】前記第二の薄膜層の磁化方向を固定する手段が、前記第二の薄膜層と直接接触する交換バイアス材料の薄膜層を有する、請求項2の磁気抵抗読取り変換器。
【請求項6】前記非磁性金属材料の薄膜層が、銅、銀および金から成るグループから選ばれた材料で形成されている、請求項5の磁気抵抗読取り変換器。
【請求項7】前記基層と前記第一の薄膜層との間にさらに下層を有する、請求項5の磁気抵抗読取り変換器。
【請求項8】前記非磁性金属材料の薄膜層が、銅、銀および金から成るグループから選ばれた材料で形成されている、請求項7の磁気抵抗読取り変換器。
【請求項9】前記下層がタンタルおよびジルコニウムから成るグループから選ばれた材料で形成されている、請求項7の磁気抵抗読取り変換器。
【請求項10】前記第一の薄膜層がNiFeであり、且つ、前記第二の薄膜層がコバルトまたはコバルト合金である、請求項1の磁気抵抗読取り変換器。
【請求項11】基層と、前記基層上に形成され、非磁性金属材料の薄膜層によって分離された強磁性材料の第一の薄膜層および第二の薄膜層を有し、前記第一の薄膜層および第二の薄膜層の少なくとも一方がコバルトおよびコバルト合金から成るグループから選ばれた材料で形成されており、印加磁場がゼロの状態において前記第一の薄膜層の磁化の方向が前記第二の薄膜層の磁化の方向に対してほぼ垂直に成るようにされている層構造とを有する、磁気抵抗センサ。
【請求項12】前記第二の薄膜層の磁化方向を固定し、且つ、前記第一の薄膜層における磁化の回転度合に応じて比抵抗において変化を生じさせる、手段とをさらに有する、請求項11の磁気抵抗センサ。
【請求項13】前記非磁性金属材料の薄膜層が、銅、銀および金から成るグループから選ばれた材料で形成されている、請求項12の磁気抵抗センサ。
【請求項14】前記第二の薄膜層の磁化方向を固定する手段が、前記第一の薄膜層の保磁力よりも高い保持力を有する、請求項12の磁気抵抗センサ。
【請求項15】前記第二の薄膜層の磁化方向を固定する手段が、前記第二の薄膜層と直接接触する交換バイアス材料の薄膜層を有する、請求項12の磁気抵抗センサ。
【請求項16】前記非磁性金属材料の薄膜層が、銅、銀および金から成るグループから選ばれた材料で形成されている、請求項15の磁気抵抗センサ。
【請求項17】前記基層と前記第一の薄膜層との間にさらに下層を有する、請求項15の磁気抵抗センサ。
【請求項18】前記非磁性金属材料の薄膜層が、銅、銀および金から成るグループから選ばれた材料で形成されている、請求項17の磁気抵抗センサ。
【請求項19】前記下層が、タンタルおよびジルコニウムから成るグループから選ばれた材料で形成されている、請求項17の磁気抵抗センサ。
【請求項20】前記第一の薄膜層がNiFeであり、且つ、前記第二の薄膜層がコバルトまたはコバルト合金である、請求項11の磁気抵抗センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【特許番号】第2582499号
【登録日】平成8年(1996)11月21日
【発行日】平成9年(1997)2月19日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−6095
【出願日】平成4年(1992)1月17日
【公開番号】特開平6−60336
【公開日】平成6年(1994)3月4日
【出願人】(390009531)インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレイション (4,084)
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MASCHINES CORPORATION