説明

磁気歯車、磁気遊星歯車装置、磁気波動歯車装置、および磁気伝達減速機

【課題】低コストに製造でき、かつ伝達トルクの向上を図ることのできる磁気歯車を実現する。
【解決手段】磁気歯車は、歯車の軸方向に沿って分極された永久磁石11と、永久磁石11の一方の磁極(図ではS極)側に取り付けられた磁性体12と、永久磁石11の他方の磁極(図ではN極)側に取り付けられた磁性体13とを有する。磁性体12および13は歯車形状をしており、該歯車の各歯は永久磁石11の磁界によって磁気歯として作用とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速機構等に利用可能な磁気歯車、およびそれを用いた磁気伝達減速機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、様々な分野における動力源としてモータが用いられている。また、モータを高効率で駆動するには、高い回転数が必要である。一方、モータによって駆動される負荷には、低速かつ高トルクが必要とされる応用が多い(電子錠、ロボットアームなど)。
【0003】
低速駆動が必要とされる用途に対しては、負荷を直接駆動できるダイレクトドライブモータも提案されている。しかしながら、そのようなダイレクトドライブモータは、出力に対して体積が大きい、低速時の発熱が大きい、制御が困難などの問題を有している。このため、多くの用途では、高回転で駆動されるモータに減速機を組み合わせて用いることが有効である。尚、減速機に要求される性能としては、減速比(入力回転数/出力回転数)、伝達効率(出力エネルギ/入力エネルギ)、許容トルク、許容回転数、バックラッシの程度、サイズ、コスト、耐久性などが挙げられる。
【0004】
上記減速機においては機械式のものが主流であり、機械式の力伝達機構、減速機構としては、平歯車・遊星歯車・不思議遊星歯車、サイクロイド減速装置、更に最近ではハーモニックドライブ社の波動歯車装置が開発されている。しかしながら、これらの減速機構は機械的接触式のため、効率が悪く、振動、騒音、寿命などの課題があった。
【0005】
近年では、磁石の高性能化に伴って磁気歯車やそれを用いた減速機構が開発されているこのような磁気歯車および磁気減速機構は、例えば特許文献1〜4において開示されている。特に、特許文献2には、減速比を上げることのできる磁気遊星歯車装置が提案されている。
【0006】
特許文献2において開示のある磁気遊星歯車装置の構成を図14に示す。図14に示す磁気遊星歯車装置は、太陽歯車101、遊星歯車102、および外輪歯車103から構成されており、各歯車は、回転円板の外周部に永久磁石からなる多数の磁気歯をN極およびS極が交互に配列した磁気歯車となっている。動力を伝達しあう歯車同士は、磁気歯の形成された面を隙間を空けて対向配置させ、N極・S極が引き合うかみ合い領域で動力を伝達する。上記磁気遊星歯車装置では、例えば、太陽歯車101を入力軸、遊星歯車を出力軸とすることで高い減速比を得ることができる。
【0007】
磁気力によってトルクを伝達する上記磁気歯車や磁気減速機構では、機械的接触を伴わないため、高伝達効率を実現でき、さらには、低振動・低騒音、無発塵、磨耗レス・メンテナンスフリー等のメリットを有する。また、許容トルクを超えるトルクが生じた場合には、磁気歯の磁気的なかみ合いが外れることによって(磁気歯がすべることによって)駆動力の伝達が行なわれなくなるが、磁気歯同士は機械的なかみ合いをしていないため歯車の破損につながることはなく、トルクリミッタの機能を有することになる。
【特許文献1】特開2005−114162号公報(公開日:2005年4月28日)
【特許文献2】特開2005−114163号公報(公開日:2005年4月28日)
【特許文献3】特開2006−336666号公報(公開日:2006年12月14日)
【特許文献4】特開2007−10157号公報(公開日:2007年1月18日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1〜4において開示されている磁気歯車では、磁気歯自体が永久磁石によって形成されているため、磁気歯の形成において製造コストがかかるといった問題がある。すなわち、磁石の複雑な多極着磁など構造が複雑であるため、製造コストが上昇する。また、永久磁石は、通常の金属加工と同様に加工することができず、加工精度も低くなるといった問題がある。
【0009】
また、その磁気回路構成においては、入出力軸の磁極が対向している構造であるため、小型化が困難である。さらに、有効に伝達トルクを伝えることのできる面積が小さく、高トルク化が困難である。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、低コストに製造でき、かつ伝達トルクの向上を図ることのできる磁気歯車を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る磁気歯車は、上記課題を解決するために、永久磁石と、複数の凸部が形成された歯車形状部を有する少なくとも一つの磁性体部材とを有し、上記磁性体部材は、上記永久磁石の一方の磁極のみに接触するように取り付けられていることを特徴としている。
【0012】
上記の構成によれば、上記歯車形状部において形成される複数の凸部は、上記永久磁石からの磁界によって磁化し、磁気歯として作用する。このため、歯車の磁気歯自体を永久磁石で形成する必要はなく、部品点数の削減や製造工程の簡素化によってコスト削減を図ることができる。
【0013】
また、上記歯車形状部は、鉄などの磁性体金属によって製造できるため、小型で、かつ高精度の部品とすることも容易となる。
【0014】
また、上記磁気歯車は、2つの上記磁性体部材を備えており、一方の磁性体部材は上記永久磁石の一方の磁極のみに接触し、他方の磁性体部材は上記永久磁石の一方の磁極のみに接触し、上記磁性体部材同士は接触していない構成とすることができる。
【0015】
上記の構成によれば、上記永久磁石の両方の磁極のそれぞれに対応して歯車形状部が形成されるため、高い伝達トルクを得ることができる。
【0016】
また、上記磁気歯車では、上記2つの磁性体部材は、それぞれの歯車部におけるピッチが半ピッチずれている構成とすることができる。
【0017】
上記の構成によれば、磁気歯車の回転の間における磁気力変動を低減でき、より滑らかな回転を実現できる。
【0018】
本発明に係る磁気遊星歯車装置は、複数の凸部が形成された外歯歯車形状部を有する磁性体部材を備えた太陽歯車と、複数の凸部が形成された内歯歯車形状部を有する磁性体部材を備えた外輪歯車と、上記太陽歯車と外輪歯車との間に配置され、複数の凸部が形成された外歯歯車形状部を有する磁性体部材を備えた、少なくとも一つの遊星歯車とから構成されており、太陽歯車、遊星歯車、外輪歯車の少なくとも一つには永久磁石が取り付けられており、永久磁石が取り付けられている歯車の磁性体部材は、該永久磁石の一方の磁極のみに接触するように取り付けられていることを特徴としている。
【0019】
上記の構成によれば、動力を伝達する歯車同士を回転軸の半径方向に並べて配置することができ、各磁気歯車の径を小さくしても、磁気歯におけるトルク伝達領域の面積が小さくなることはない。また、磁気歯を複雑な形状にする必要もない。このため、構造が簡単で、小型かつ高トルク伝達可能な磁気遊星歯車装置を提供することができる。
【0020】
また、上記磁気遊星歯車装置は、上記太陽歯車、上記外輪歯車、および上記遊星歯車のそれぞれにおける磁性体部材が、歯車の軸方向に沿って多段に積層されている構成とすることができる。上記の構成によれば、容易に高い伝達トルクを得ることができる。
【0021】
また、上記磁気遊星歯車装置は、太陽歯車と遊星歯車との間、および遊星歯車と外輪歯車との間のそれぞれで閉磁界が発生する構成とすることができる。上記の構成によれば、大きな伝達トルク(許容トルク)を得ることができる。
【0022】
また、上記磁気遊星歯車装置は、太陽歯車、遊星歯車、および外輪歯車の全てを通る閉磁界が発生する構成とすることができる。上記の構成は、例えば遊星歯車の永久磁石を省略することで、低コストおよびサイズの小型化が図りやすくなる。
【0023】
本発明に係る磁気波動歯車装置は、複数の円弧状外周面を有する磁性体部材を備えた高速ロータと、複数の凸部が形成された内歯歯車形状部を有する磁性体部材を備えた固定部と、上記高速ロータの円弧状外周面と上記固定部の内歯歯車形状部の内周面との間に配置される低速ロータとから構成されており、上記低速ロータは、上記固定部の内歯歯車形状部における凸部のピッチとは異なるピッチで配置された、磁性体からなる複数の棒状部材を備えており、高速ロータおよび固定部の少なくとも一方には永久磁石が取り付けられており、永久磁石が取り付けられている側の磁性体部材は、該永久磁石の一方の磁極のみに接触するように取り付けられていることを特徴としている。
【0024】
上記の構成によれば、磁性体金属の加工のみで減速比およびトルク伝達方向を自由に設定可能な磁気波動歯車装置を得ることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の磁気歯車は、永久磁石と、複数の凸部が形成された歯車形状部を有する少なくとも一つの磁性体部材とを有し、上記磁性体部材は、上記永久磁石の一方の磁極のみに接触するように取り付けられている構成である。
【0026】
それゆえ、上記歯車形状部において形成される複数の凸部は、上記永久磁石からの磁界によって磁化し、磁気歯として作用する。このため、歯車の磁気歯自体を永久磁石で形成する必要はなく、部品点数の削減や製造工程の簡素化によってコスト削減を図ることができるといった効果を奏する。また、上記歯車形状部は、鉄などの磁性体金属によって製造できるため、小型で、かつ高精度の部品とすることも容易となる。
【0027】
また、本発明の磁気遊星歯車装置は、複数の凸部が形成された外歯歯車形状部を有する磁性体部材を備えた太陽歯車と、複数の凸部が形成された内歯歯車形状部を有する磁性体部材を備えた外輪歯車と、上記太陽歯車と外輪歯車との間に配置され、複数の凸部が形成された外歯歯車形状部を有する磁性体部材を備えた、少なくとも一つの遊星歯車とから構成されており、太陽歯車、遊星歯車、外輪歯車の少なくとも一つには永久磁石が取り付けられており、永久磁石が取り付けられている歯車の磁性体部材は、該永久磁石の一方の磁極のみに接触するように取り付けられている構成である。
【0028】
それゆえ、動力を伝達する歯車同士を回転軸の半径方向に並べて配置することができ、各磁気歯車の径を小さくしても、磁気歯におけるトルク伝達領域の面積が小さくなることはない。また、磁気歯を複雑な形状にする必要もない。このため、構造が簡単で、小型かつ高トルク伝達可能な磁気遊星歯車装置を提供することができるといった効果を奏する。
【0029】
また、本発明の磁気波動歯車装置は、複数の円弧状外周面を有する磁性体部材を備えた高速ロータと、複数の凸部が形成された内歯歯車形状部を有する磁性体部材を備えた固定部と、上記高速ロータの円弧状外周面と上記固定部の内歯歯車形状部の内周面との間に配置される低速ロータとから構成されており、上記低速ロータは、上記固定部の内歯歯車形状部における凸部のピッチとは異なるピッチで配置された、磁性体からなる複数の棒状部材を備えており、高速ロータおよび固定部の少なくとも一方には永久磁石が取り付けられており、永久磁石が取り付けられている側の磁性体部材は、該永久磁石の一方の磁極のみに接触するように取り付けられている構成である。
【0030】
それゆえ、磁性体金属の加工のみで減速比およびトルク伝達方向を自由に設定可能な磁気波動歯車装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
〔実施の形態1〕
本発明の一実施形態について図1ないし図3に基づいて説明すると以下の通りである。本実施の形態1では、本発明に係る磁気歯車の具体的な構成例を説明する。
【0032】
図1に示す磁気歯車は、永久磁石11と、2つの磁性体12・13とを備えて構成されている。永久磁石11は、歯車の軸方向に沿って分極されている。磁性体12は、永久磁石11の一方の磁極(図1ではS極)側に取り付けられており、磁性体13は、永久磁石11の他方の磁極(図1ではN極)側に取り付けられている。また、磁性体12と磁性体13とは互いに接触しないように間に隙間を設けて歯車の軸方向に沿って配置されている。
【0033】
磁性体12は、外周に複数の溝部12aが等ピッチで形成された円柱部材であり、溝部12aの間に形成される凸部12bが磁気歯として機能する。同様に、磁性体13は、外周に複数の溝部13aが等ピッチで形成された円柱部材であり、溝部13aの間に形成される凸部13bが磁気歯として機能する。また、磁性体12における磁気歯12bと磁性体13における磁気歯13bとは、互いに同ピッチとなるように形成し、かつ軸方向から見た場合に半ピッチずれるように形成されることが好ましい。
【0034】
上記磁気歯車では、永久磁石11から発生する磁界によって磁性体12・13が磁化し、凸部12b・13bが磁気歯として作用する(以下、磁気歯12b・13bと称する)。すなわち、永久磁石11のS極側に取り付けられた磁性体12ではすべての磁気歯12bがS極に磁化され、N極側に取り付けられた磁性体13ではすべての磁気歯13bがN極に磁化される。尚、実際には、上記磁気歯車では、組み合わされる他の磁気歯車に対して磁気歯同士が対向する部分近辺に磁界が集中するため、全ての磁気歯が同時に均等に磁化されるわけではない。また、永久磁石11から発生する磁界を有効に利用するためには、軸方向における永久磁石11の磁極端部を磁性体12・13の端部に近接させすぎず、ある程度の距離を持たせることが好ましい(すなわち、図1におけるLの長さを短くさせすぎない)。
【0035】
組み合わされる2つの磁気歯車間での動力の伝達は、図2に示すように、S極の磁気歯とN極の磁気歯とが対向することによってこれらの磁気歯間で磁気吸引力が発生し、この磁気吸引力によって一方の歯車の回転に他方の歯車が追随することによって行なわれる。また、1つの磁気歯車が有する磁気歯12bと磁気歯13bとは互いに半ピッチずれるように形成されることによって、ピッチをずらさずに形成する場合に比べて、歯車の回転の間における磁気力変動を低減でき、より滑らかな回転を実現できる。
【0036】
図1に示す磁気歯車は、磁気歯を外歯形状に形成したものであるが、図3に示すように、磁気歯を内歯形状に形成する構成とすることも可能である。すなわち、図3に示す磁気歯車は、永久磁石21と、2つの磁性体22・23とを備えて構成されている。永久磁石21は、歯車の軸方向に沿って分極された環状の磁石である。磁性体22は、永久磁石11の一方の磁極(図1ではS極)側に取り付けられており、磁性体23は、永久磁石21の他方の磁極(図1ではN極)側に取り付けられている。また、磁性体22と磁性体23とは互いに接触しないように間に隙間を設けて歯車の軸方向に沿って配置されている。
【0037】
磁性体22は、内周に複数の溝部22aが等ピッチで形成された円筒部材であり、溝部22aの間に形成される凸部22bが磁気歯として機能する。同様に、磁性体23は、内周に複数の溝部23aが等ピッチで形成された円筒部材であり、溝部23aの間に形成される凸部23bが磁気歯として機能する。また、磁性体22における磁気歯22bと磁性体23における磁気歯23bとは、互いに同ピッチとなるように形成し、かつ軸方向から見た場合に半ピッチずれるように形成されることが好ましい。
【0038】
尚、図1および図3に示す磁気歯車は、歯車部となる2つの磁性体部材を備えており、これら2つの磁性体部材が1つの永久磁石によって磁化されている。これはもちろん、1つの永久磁石が有する2つの磁極を有効利用するための構成である。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、1つの磁気歯車は、歯車部となる磁性体部材を少なくとも1つ備えていれば良い。
【0039】
本実施の形態1に示した磁気歯車は、従来の磁気歯車とは異なり、磁気歯自体が永久磁石によって形成されているものではない。すなわち、1つの永久磁石から発生する磁界を多数の歯を有する磁性体部材に作用させ、該磁性体部材の歯を磁化させて磁気歯とするものである。
【0040】
このため、本実施の形態に係る磁気歯車においては、多数の永久磁石を複雑な形状に加工したり、他の部材に着磁させる必要はなく、部品点数の削減および加工工程の減少によって大幅なコスト低減効果が得られる。また、本実施の形態に係る磁気歯車では、歯を有する磁性体は、鉄などの磁性金属を用いて作成することができる。このため、一般的な金属加工法を用いることができ、低コストで作成できると共に高い加工精度を得ることができる。また、従来の磁気歯車のように磁気歯を永久磁石によって形成する場合に比べ、磁極間隔を小さくした歯車を得ることも容易である。
【0041】
〔実施の形態2〕
本発明の他の実施形態について図4ないし図8に基づいて説明すると以下の通りである。本実施の形態2では、実施の形態1で説明した磁気歯車の適用例として、磁気遊星歯車装置を説明する。先ずは、本実施の形態2に係る磁気遊星歯車装置の構成を図4および図5を参照して説明する。
【0042】
上記磁気遊星歯車装置は、太陽歯車31,4つの遊星歯車32,外輪歯車33を備えて構成されている。太陽歯車31および遊星歯車32は、図1に示す外歯形状の磁気歯車であり、外輪歯車33は図3に示す内歯形状の磁気歯車である。尚、遊星歯車32の個数は4つに限定されるものではない。
【0043】
上記磁気遊星歯車装置においては、太陽歯車31の磁気歯と遊星歯車32の歯車とは、対向する磁気歯同士が異なる磁極となっている。また、遊星歯車32の歯車と外輪歯車33の磁気歯とは、対向する磁気歯同士が異なる磁極となっている。言い換えれば、上記磁気遊星歯車装置における軸方向に沿った同一の段においては、太陽歯車31と外輪歯車33とが同一磁極の磁気歯を有し、遊星歯車32が異なる磁極の磁気歯を有している。
【0044】
上記磁気遊星歯車装置は、磁気伝達減速機として好適に利用できる。例えば、図4および図5の構成においては、外輪歯車33を固定とし、太陽歯車31を回転(自転)させれば、遊星歯車32が太陽歯車31の周囲を回転(公転)する。そして、太陽歯車31を入力側、遊星歯車32を出力側とすれば、減速比および伝達トルクの大きな減速機を得ることができる。尚、遊星歯車32を出力側とするためには、4つの遊星歯車32の全ての軸に接続された回転円板を設け、該回転円板の軸を出力軸とすればよい。この場合の減速比は、太陽歯車31の磁極数(歯数)をa、外輪歯車33の磁極数をcとすれば、(a+c)/aで表され、遊星歯車bの磁極数に関係なく決まる。
【0045】
あるいは、太陽歯車31を固定とし、外輪歯車33を入力側、遊星歯車32を出力側とすることもできる。この場合の減速比は、(a+c)/cで表される。磁気遊星歯車装置の構成が同じである場合、太陽歯車31を入力側として遊星歯車32を出力側とすれば減速比を大きくでき、外輪歯車33を入力側として遊星歯車32を出力側とすれば許容トルクを大きくすることができる。
【0046】
上記磁気遊星歯車装置を備えた磁気伝達減速機をモータと組み合わせることにより、低振動、低騒音、かつ長寿命といった利点を有する、低速かつ高トルクの駆動源を得ることができる。
【0047】
なお、本発明に係る磁気遊星歯車装置は、図4および図5の構成に限定されるものではなく、他に様々な変形例が考えられる。例えば、図6または図7に示すように磁気歯車を軸方向に沿って多段に重ねた多段モジュールとして構成することができる。特に、図7の構成においては、永久磁石の着磁方向を軸方向に沿って交互に逆方向とすることで、許容トルクを大幅に増加させることが可能となる。無論、このような多段モジュールとした磁気遊星歯車装置において、その段数は限定されるものではなく、図7の構成を用いればその段数が奇数段であっても全ての永久磁石の磁極を磁性体部材と接触させることができる。
【0048】
また、図4および図5に示す磁気遊星歯車装置では、太陽歯車31,遊星歯車32,外輪歯車33の全てにおいて、それぞれが永久磁石を備えた磁気歯車を用いている。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、磁気遊星歯車装置内に存在する全ての歯車が永久磁石を備えている必要はない。すなわち、磁気遊星歯車装置内に存在する歯車は、装置内に存在する少なくとも一つの永久磁石から発生する磁界によって、磁気歯が生じるものであってもよい。
【0049】
例えば、図8は、図5における遊星歯車32を、永久磁石を有さない遊星歯車42に置きかえた構成例である。また、図8の構成では、太陽歯車31における永久磁石の分極方向と外輪歯車33における永久磁石の分極方向とが、軸方向において互いに逆となっている点で図5の構成とは異なっている。
【0050】
図5に示す磁気遊星歯車装置と図8に示す磁気遊星歯車装置とを比較した場合、図5に示す磁気遊星歯車装置では、太陽歯車31と遊星歯車32との間、および遊星歯車32と外輪歯車33との間のそれぞれで閉磁界が発生する。このため、図5の構成では、図8の構成に比べて大きな伝達トルク(許容トルク)を得ることができる。
【0051】
これに対し、図8に示す磁気遊星歯車装置では、太陽歯車31、遊星歯車42、および外輪歯車33の全てを通る閉磁界が発生する。図8の構成では、図5の構成に比べて伝達トルク(許容トルク)は小さくなるものの、遊星歯車の永久磁石を省略することで、低コストおよびサイズの小型化が図りやすくなる。
【0052】
本実施の形態に係る磁気遊星歯車装置では、特許文献3の構成とは異なり、動力を伝達する歯車同士を回転軸の半径方向に並べて配置することができ、各磁気歯車の径を小さくしても、磁気歯におけるトルク伝達領域の面積が大きく減少することはない。また、特許文献3のように、磁気歯を複雑な形状(特許文献3では、磁気歯はインボリュート曲線形状に形成される)にする必要もない。このため、構造が簡単で、小型かつ高トルク伝達可能な磁気遊星歯車装置を提供することができる。
【0053】
〔実施の形態3〕
本発明のさらに他の実施形態について図9ないし図13に基づいて説明すると以下の通りである。本実施の形態3では、実施の形態1で説明した磁気歯車の適用例として、磁気波動歯車装置を説明する。先ずは、本実施の形態3に係る磁気波動歯車装置の構成を図9および図10を参照して説明する。
【0054】
上記磁気波動歯車装置は、高速ロータ51,低速ロータ52,固定部53を備えて構成されている。固定部53は、最外周に配置される部材であり、ここでは図3に示す内歯形状の磁気歯車を用いている。
【0055】
高速ロータ51は、最内周に配置される部材であり、永久磁石511と、2つの磁性体512・513とを回転軸方向に積層して構成されている。永久磁石511は、回転軸方向に沿って分極されている。磁性体512は、永久磁石511の一方の磁極(図10ではS極)側に取り付けられており、磁性体513は、永久磁石511の他方の磁極(図10ではN極)側に取り付けられている。また、高速ロータ51は、図9に示すように、回転軸方向から見て、円周の2箇所を平行な弦で切り取った形状をしている。尚、この形状は、高速ロータ51の磁極数を2とする場合の構成例であるが、高速ロータ51の磁極数は3以上であっても良い。尚、高速ロータ51が有する磁性体512,513のそれぞれは、永久磁石511によって磁化される複数の磁極を有するため、該高速ロータ51も本発明の磁気歯車として見なされるものである。
【0056】
また、低速ロータ52は、図11に示すように、非磁性体からなる環状部材521の上下に磁性体からなる複数の棒状部材522,523を所定のピッチで取り付けた構成となっている。低速ロータ52は、高速ロータ51および固定部53の間に配置される。低速ロータ52において、非磁性体からなる環状部材521は、隣り合う棒状部材522,523同士が接触せず、かつ所定のピッチで配列されることを可能にするための部材である。このような非磁性体は、上記の環状部材に限定されるものではない。
【0057】
低速ロータ52における棒状部材522,523のピッチは、固定部53における磁気歯のピッチと若干異なるように設定される。図9に示す構成では、棒状部材522,523のピッチは固定部53の磁気歯のピッチよりもわずかに狭くなるように設定されている。このため、円周方向に配置される棒状部材522または523の本数は、これに対向する磁気歯数よりも多くなる。
【0058】
上記構成の磁気波動歯車装置では、高速ロータ51、低速ロータ52の棒状部材522,523、および固定部53の全てを通る閉磁界が発生する。
【0059】
ここで、上記磁気波動歯車装置の動作原理を図12を参照して説明する。図12は磁気波動歯車装置を軸方向側から見た図であり、高速ロータ51の一方の磁極付近の拡大図である。尚、高速ロータ51の磁極とは、磁性体512または513の円弧面を指す。これは、磁性体512または513の円弧面は間に低速ロータ52を挟んで固定部53の内周面(磁気歯形成面)と近接しており、永久磁石によって発生する磁界が磁性体512または513の円弧面とこれに対向する固定部53の内周面との間に集中し、該円弧面が磁化されるためである。
【0060】
先ず、図12(a)は、磁気波動歯車装置において、高速ロータ51と固定部53との間で発生する磁界が、低速ロータ52に対して回転トルクを生じさせない状態を示している。すなわち、図12では、高速ロータ51の1つの磁極に対して、固定部53における3つの磁気歯、および低速ロータ52における3本の棒状部材が対向する構成を例示しているが、この時、高速ロータ51と固定部53との間では、低速ロータ52における3本の棒状部材を介して固定部53の磁気歯へ向う3つの強い磁界(図中の太線矢印)が発生する。そして、図12(a)では、この3つの磁界のバランスが取れているため、低速ロータ52において回転トルクは発生しない。
【0061】
図12(a)の状態から高速ロータ51が回転し、磁気歯のほぼ1ピッチ分移動すると、高速ロータ51と固定部53との間で発生する磁界は図12(b)に示す状態となる。この磁界は、バランスの取れた状態に向かおうとする復元力を有するため、この磁界復元力が低速ロータ52の棒状部材に作用し、低速ロータ52にトルク伝達力を生じさせる。
【0062】
そして、高速ロータ51が回転し続ける間は、図12(b)に示すトルク伝達力も低速ロータ52に作用し続けるため、低速ロータ52も回転し続ける。
【0063】
図12では、低速ロータ52における棒状部材のピッチは固定部53の磁気歯のピッチよりもわずかに狭くなるように設定されている。すなわち、低速ロータ52における棒状部材の本数は固定部53の磁気歯数よりも多くなるように設定されている。この場合、図12(b)に示すように、低速ロータ52の回転方向(トルク伝達方向)は、高速ロータ51の回転方向と同方向となる。
【0064】
但し、本発明の磁気波動歯車装置は上記例に限定されるものではなく、低速ロータ52における棒状部材のピッチは固定部53の磁気歯のピッチよりもわずかに広くなるように設定されていてもよい。すなわち、低速ロータ52における棒状部材の本数は固定部53の磁気歯数よりも少なくなるように設定されていてもよい。この場合、低速ロータ52の回転方向(トルク伝達方向)は、高速ロータ51の回転方向と逆方向となる。
【0065】
すなわち、上記磁気波動歯車装置では、低速ロータ52における棒状部材と固定部53の磁気歯とのピッチ設定によって、高速ロータ51の回転方向に対する低速ロータ52の回転方向を同方向または逆方向の何れにも設定することが可能である。
【0066】
上記磁気波動歯車装置においても、磁気伝達減速機として好適に利用できる。例えば、図9および図10の構成においては、高速ロータ51を入力側、低速ロータ52を出力側とすれば、減速比および伝達トルクの大きな減速機を得ることができる。また、上記磁気波動歯車装置を備えた磁気伝達減速機をモータと組み合わせることにより、低振動、低騒音、かつ長寿命といった利点を有する、低速かつ高トルクの駆動源を得ることができる。
【0067】
上記磁気波動歯車装置の減速比は、高速ロータ51の歯数(磁極数)をn、低速ロータ52の歯数(棒状部材522または523の本数)をn、固定部53の歯数をn=n−nとした場合、n/nとなる。これは、低速ロータ52の回転方向が高速ロータ51の回転方向と同方向になる場合である。また、低速ロータ52の回転方向が高速ロータ51の回転方向と逆方向になる場合は、固定部53の歯数をn=n+nとする。この場合の減速比もn/nとなる。
【0068】
なお、本発明に係る磁気波動歯車装置は、上記例に限定されるものではなく、他に様々な変形例が考えられる。例えば、図13に示すように、永久磁石を高速ロータのみに取り付け、高速ロータの磁性体は永久磁石の一方の磁極のみに取り付ける。また、この構成では、固定部は磁気歯を有する外輪部のみではなく、さらに底面部を有する。上記底面部は、上記永久磁石の高速ロータ磁性体が取り付けらていない側の磁極と対向させる。この構成では、固定部における底面部は、閉磁界の磁路の一部を形成する。この構成は、図9および図10磁気波動歯車装置に比べ、部材削減による低コスト化の効果を図ることができる。
【0069】
本実施の形態3に係る磁気波動歯車装置には、以下のような利点がある。
(1) トルク発生の有効領域が広い。
(2) 1段で高い減速比が得られる。
(3) 磁石形状が単純。
(4) エアギャップが小さく設定可能。
【0070】
以上より、高い伝達許容トルクが得られる。また、磁性体金属の加工のみで減速比およびトルク伝達方向を自由に設定可能である。
【産業上の利用可能性】
【0071】
磁気歯車を低コストかつ高精度に提供でき、該磁気歯車を減速機等に用いることによって、電子錠、ロボットアームなどの用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の実施形態を示すものであり、外歯形状の磁気歯車の要部構成を示すブロック図である。
【図2】2つの磁気歯車間での動力の伝達を示す図である。
【図3】本発明の他の実施形態を示すものであり、内歯形状の磁気歯車の要部構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の磁気歯車を用いた磁気遊星歯車装置の構成例を示す平面図である。
【図5】本発明の磁気歯車を用いた磁気遊星歯車装置の構成例を示す断面図である。
【図6】多段モジュールとされた磁気遊星歯車装置の構成例を示す断面図である。
【図7】多段モジュールとされた磁気遊星歯車装置の構成例を示す断面図である。
【図8】本発明の磁気歯車を用いた磁気遊星歯車装置の構成例を示す平面図である。
【図9】本発明の磁気歯車を用いた磁気波動歯車装置の構成例を示す平面図である。
【図10】本発明の磁気歯車を用いた磁気波動歯車装置の構成例を示す断面図である。
【図11】上記磁気波動歯車装置で用いられる低速ロータの形状例を示す斜視図である。
【図12】上記磁気波動歯車装置の動作原理を示す図である。
【図13】本発明の磁気歯車を用いた磁気遊星歯車装置の構成例を示す斜視図である。
【図14】従来の磁気遊星歯車装置を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0073】
11 永久磁石
12・13 磁性体(磁性体部材)
12b・13b 凸部
21 永久磁石
22・23 磁性体(磁性体部材)
22b・23b 凸部
31 太陽歯車
32・42 遊星歯車
33 外輪歯車
51 高速ロータ
511 永久磁石
512・513 磁性体(磁性体部材)
52 低速ロータ
521 環状部材
522・523 棒状部材
53 固定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石と、複数の凸部が形成された歯車形状部を有する少なくとも一つの磁性体部材とを有し、
上記磁性体部材は、上記永久磁石の一方の磁極のみに接触するように取り付けられていることを特徴とする磁気歯車。
【請求項2】
2つの上記磁性体部材を備えており、一方の磁性体部材は上記永久磁石の一方の磁極のみに接触し、他方の磁性体部材は上記永久磁石の一方の磁極のみに接触し、上記磁性体部材同士は接触していないことを特徴とする請求項1に記載の磁気歯車。
【請求項3】
上記2つの磁性体部材は、それぞれの歯車部におけるピッチが半ピッチずれていることを特徴とする請求項2に記載の磁気歯車。
【請求項4】
複数の凸部が形成された外歯歯車形状部を有する磁性体部材を備えた太陽歯車と、
複数の凸部が形成された内歯歯車形状部を有する磁性体部材を備えた外輪歯車と、
上記太陽歯車と外輪歯車との間に配置され、複数の凸部が形成された外歯歯車形状部を有する磁性体部材を備えた、少なくとも一つの遊星歯車とから構成されており、
太陽歯車、遊星歯車、外輪歯車の少なくとも一つには永久磁石が取り付けられており、永久磁石が取り付けられている歯車の磁性体部材は、該永久磁石の一方の磁極のみに接触するように取り付けられていることを特徴とする磁気遊星歯車装置。
【請求項5】
上記太陽歯車、上記外輪歯車、および上記遊星歯車のそれぞれにおける磁性体部材が、歯車の軸方向に沿って多段に積層されていることを特徴とする請求項4に記載の磁気遊星歯車装置。
【請求項6】
太陽歯車と遊星歯車との間、および遊星歯車と外輪歯車との間のそれぞれで閉磁界が発生することを特徴とする請求項4に記載の磁気遊星歯車装置。
【請求項7】
太陽歯車、遊星歯車、および外輪歯車の全てを通る閉磁界が発生することを特徴とする請求項4に記載の磁気遊星歯車装置。
【請求項8】
複数の円弧状外周面を有する磁性体部材を備えた高速ロータと、
複数の凸部が形成された内歯歯車形状部を有する磁性体部材を備えた固定部と、
上記高速ロータの円弧状外周面と上記固定部の内歯歯車形状部の内周面との間に配置される低速ロータとから構成されており、
上記低速ロータは、上記固定部の内歯歯車形状部における凸部のピッチとは異なるピッチで配置された、磁性体からなる複数の棒状部材を備えており、
高速ロータおよび固定部の少なくとも一方には永久磁石が取り付けられており、永久磁石が取り付けられている側の磁性体部材は、該永久磁石の一方の磁極のみに接触するように取り付けられていることを特徴とする磁気波動歯車装置。
【請求項9】
高速ロータ、低速ロータの棒状部材、および固定部の全てを通る閉磁界が発生することを特徴とする請求項8に記載の磁気波動歯車装置。
【請求項10】
上記請求項4ないし7の何れかに記載の磁気遊星歯車装置を備えており、上記太陽歯車を入力側、上記遊星歯車を出力側とすることを特徴とする磁気伝達減速機。
【請求項11】
上記請求項4ないし7の何れかに記載の磁気遊星歯車装置を備えており、上記外輪歯車を入力側、上記遊星歯車を出力側とすることを特徴とする磁気伝達減速機。
【請求項12】
上記請求項8または9に記載の磁気波動歯車装置を備えており、上記高速ロータを入力側、上記低速ロータを出力側とすることを特徴とする磁気伝達減速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−275870(P2009−275870A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−129616(P2008−129616)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(801000061)財団法人大阪産業振興機構 (168)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)