説明

磁気波動歯車装置および磁気伝達減速機

【課題】小型化でき、かつ製造が容易となる磁気波動歯車装置を実現する。
【解決手段】磁気波動歯車装置は、同一の回転軸を有する高速ロータ10、固定部30、および低速ロータ20から構成される。高速ロータ10は、磁性体材料からなる円板形状のコアの片面に永久磁石を装着してなる。永久磁石は回転軸方向に分極された扇型形状の磁石である。固定部20は、高速ロータ10の磁石装着面に対向して配置され、上記回転軸に対して放射状に等ピッチに配置された複数の磁性体片31を有する。低速ロータ30は、固定部20に対向して配置され、磁性体材料からなる円板における固定部20との対向面に、同一形状をもつ複数の磁気歯21が回転軸に対して放射状に等ピッチに形成されている。高速ロータ10の磁石数をn、低速ロータ20の歯数をn、固定部30の磁性体片数をnとするとき、n=n±nが満たされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁機伝達機構を用いた磁気波動歯車装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、様々な分野における動力源としてモータが用いられている。また、モータを高効率で駆動するには、高い回転数が必要である。一方、モータによって駆動される負荷には、低速かつ高トルクが必要とされる応用が多い(電子錠、ロボットアームなど)。
【0003】
低速駆動が必要とされる用途に対しては、負荷を直接駆動できるダイレクトドライブモータも提案されている。しかしながら、そのようなダイレクトドライブモータは、出力に対して体積が大きい、低速時の発熱が大きい、制御が困難などの問題を有している。このため、多くの用途では、高回転で駆動されるモータに減速機を組み合わせて用いることが有効である。尚、減速機に要求される性能としては、減速比(入力回転数/出力回転数)、伝達効率(出力エネルギ/入力エネルギ)、許容トルク、許容回転数、バックラッシの程度、サイズ、コスト、耐久性などが挙げられる。
【0004】
上記減速機においては機械式のものが主流であり、機械式の力伝達機構、減速機構としては、平歯車・遊星歯車・不思議遊星歯車、サイクロイド減速装置、更に最近ではハーモニックドライブ社の波動歯車装置が開発されている。しかしながら、これらの減速機構は機械的接触式のため、効率が悪く、振動、騒音、寿命などの課題があった。
【0005】
近年では、磁石の高性能化(例えば、NbFeB系の高エネルギを持つ希土類磁石の開発)に伴って磁気歯車を用いた磁機伝達機構が開発されている。このような磁気伝達機構は、例えば特許文献1〜4および非特許文献1〜3において開示されている。
【0006】
磁気力によってトルクを伝達する磁気伝達機構では、機械的接触を伴わないため、高伝達効率を実現でき、さらには、低振動・低騒音、無発塵、磨耗レス・メンテナンスフリー等のメリットを有する。また、許容トルクを超えるトルクが生じた場合には、磁気歯の磁気的なかみ合いが外れることによって(磁気歯がすべることによって)駆動力の伝達が行なわれなくなるが、磁気歯同士は機械的なかみ合いをしていないため歯車の破損につながることはなく、トルクリミッタの機能を有することになる。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1〜4および非特許文献1〜3において開示されている磁気伝達機構では、磁気歯自体が永久磁石によって形成されているため、多数の磁気歯の形成において製造コストがかかるといった問題がある。すなわち、磁石の複雑な多極着磁など構造が複雑であるため、製造コストが上昇する。また、永久磁石は、通常の金属加工と同様に加工することができず、加工精度も低くなるといった問題があった。
【0008】
本願発明者らは、非特許文献4において、これらの課題を解決しうる新しい磁気波動歯車装置を提案している。非特許文献4にて提案された磁気波動歯車装置の構成を図9〜図10に示す。尚、波動歯車装置には、小型でも大きな減速比が得られるといった利点がある。
【0009】
上記磁気波動歯車装置は、図9〜図10に示すように、高速ロータ100,低速ロータ110,固定部120を備えて構成されている。図9は上記磁気波動歯車装置の上面図、図10は断面図である。
【0010】
高速ロータ100は、最内周に配置される部材であり、永久磁石101と、2つの磁性体102・103とを回転軸方向に積層して構成されている。永久磁石101は、回転軸方向に沿って分極されている。磁性体102は、永久磁石101の一方の磁極(図10ではS極)側に取り付けられており、磁性体103は、永久磁石101の他方の磁極(図10ではN極)側に取り付けられている。また、高速ロータ100は、図9に示すように、回転軸方向から見て、円周の2箇所を平行な弦で切り取った形状をしている。尚、この形状は、高速ロータ100の磁極数を2とする場合の構成例である。
【0011】
低速ロータ110は、最外周に配置される部材であり、ここでは内歯形状の磁気歯車を用いている。
【0012】
また、固定部120は、非磁性体からなる環状部材121の上下に棒状の磁性体からなる複数の磁性体片122,123を所定のピッチで取り付けた構成となっている。固定部120は、高速ロータ100および低速ロータ110の間に配置される。固定部120において、非磁性体からなる環状部材121は、隣り合う磁性体片122,123同士が接触せず、かつ所定のピッチで配列されることを可能にするための部材である。
【0013】
固定部120における磁性体片122,123のピッチは、低速ロータ110における磁気歯のピッチと若干異なるように設定される。図9に示す構成では、磁性体片122,123のピッチは低速ロータ110の磁気歯のピッチよりもわずかに狭くなるように設定されている。このため、円周方向に配置される磁性体片122または123の本数は、これに対向する磁気歯数よりも多くなる。
【0014】
上記構成の磁気波動歯車装置では、図10に示すように、高速ロータ100、固定部120の磁性体片122,123、および低速ロータ110の全てを通る閉磁界が発生する。上記構成において高速ロータ100が回転すると、固定部120を介して高速ロータ100と低速ロータ110との間で発生する磁界にバランスの取れた状態に向かおうとする復元力を生じ、この磁界復元力が低速ロータ110にトルク伝達力を生じさせる。そして、高速ロータ100が回転し続ける間は、このトルク伝達力も低速ロータ110に作用し続けるため、低速ロータ110も回転し続ける。尚、固定部120と低速ロータ110とは、その役割を逆としてもよい。
【0015】
上記磁気波動歯車装置で使用される高速ロータ100および低速ロータにおける磁気歯は、磁性体金属によって製造される歯車形状部を永久磁石からの磁界によって磁化することで、磁気歯として作用する。このため、歯車の磁気歯自体を永久磁石で形成する必要はなく、部品点数の削減や製造工程の簡素化によってコスト削減を図ることができる。また、上記歯車形状部は、鉄などの磁性体金属によって製造できるため、一般的な金属加工法を用いて製造することができ、小型で、かつ高精度の部品とすることも容易となる。
【特許文献1】特開2005−114162号公報(公開日:2005年4月28日)
【特許文献2】特開2005−114163号公報(公開日:2005年4月28日)
【特許文献3】特開2006−336666号公報(公開日:2006年12月14日)
【特許文献4】特開2007−10157号公報(公開日:2007年1月18日)
【非特許文献1】K.Atallah and D.Howe, “A novel high-performance magnetic gear”, IEEE Trans.Magn.37, 2844(2001)
【非特許文献2】K.Atallah, J.Wang, and D.Howe, “A high-performance linear magnetic gear”, J.Appl.Phys.97, 10N516(2005)
【非特許文献3】S.Mezani, K.Atallah, and D.Howe, “A high-performance axial -field magnetic gear”, J.Appl.Phys.99, 08R303(2005)
【非特許文献4】山本優文,平田勝弘:HB型磁気伝達減速機構に関する研究,第20回「電磁力関連のダイナミクス」シンポジウム,pp77-80(2008)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、上記非特許文献4の構成においても、以下に示すような、サイズや製造工程に係る問題がある。
【0017】
すなわち、非特許文献4における磁気波動歯車装置では、磁気歯が回転軸に平行に長手方向を有するため、軸方向サイズを小型化しづらい(薄型化しづらい)といった問題がある。
【0018】
また、固定部120における磁性体片122,123は、円周面に(すなわち曲面に)沿って配置されるため、これらを精度良く配置することが困難であり、製造工程におけるコスト増加を招来する。
【0019】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、小型化でき、かつ製造が容易となる磁気波動歯車装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明に係る磁気波動歯車装置は、上記課題を解決するために、第1の部材、第2の部材、および第3の部材を、同一の回転軸を有するように配置してなる磁気波動歯車装置であって、上記第1の部材は、磁性体材料からなる円板形状のコアの片面に、複数の永久磁石を装着してなり、上記永久磁石は回転軸方向に分極された扇型形状の磁石であり、上記第2の部材は、上記第1の部材の磁石装着面に対向して配置され、上記回転軸に対して放射状に等ピッチに配置された複数の磁性体片を有しており、上記第3の部材は、上記第2の部材に対向して配置され、磁性体材料からなる円板における上記第2の部材との対向面に、同一形状をもつ複数の歯が上記回転軸に対して放射状に等ピッチに形成されており、上記第2の部材における上記磁性体片のピッチと、上記第3の部材における上記歯のピッチとが異なるように形成されており、上記第1の部材における磁石数をn、上記第3の部材における歯数をn、上記第2の部材における磁性体片数をnとするとき、
=n±n
を満たすことを特徴としている。
【0021】
ここで、上記第1の部材を高速ロータとし、第2の部材を固定部とした場合には、第3の部材が低速ロータとなる。また、第1の部材を高速ロータとし、第3の部材を固定部とした場合には、第2の部材が低速ロータとなる。
【0022】
上記の構成によれば、磁気歯が回転軸方向に長手方向を持たないため、軸方向に小型化しやすい(薄型化しやすい)。
【0023】
また、第1の部材における磁石および第3の部材における歯が円板面に形成されるため、これらに対向する第2の部材における磁性体片も平面内に配置される。このため、磁性体片を精度良く配置することが容易となる。
【0024】
また、上記磁気波動歯車装置では、上記第1の部材における上記永久磁石の中心角θは、
θ=90−180/n
に設定されていることが好ましい。
【0025】
上記の構成によれば、第1の部材のコギングトルクを低減することが可能となる。
【0026】
また、上記磁気波動歯車装置では、上記第2の部材における上記磁性体片、および上記第3の部材における上記歯は、回転軸方向から見て扇形形状を有していることが好ましい。
【0027】
上記の構成によれば、磁極片を扇形形状にすることで、第1の部材における磁石のエッジと第2の部材の磁極片のエッジ部分、及び第2の部材の磁極片のエッジと第3の部材の磁極片のエッジ部分がそれぞれ平行に対向することで、回転方向の磁束成分が増加し、伝達許容トルクが向上する。
【発明の効果】
【0028】
本発明の磁気波動歯車装置は、以上のように、第1の部材、第2の部材、および第3の部材を、同一の回転軸を有するように配置してなる磁気波動歯車装置であって、上記第1の部材は、磁性体材料からなる円板形状のコアの片面に、複数の永久磁石を装着してなり、上記永久磁石は回転軸方向に分極された扇型形状の磁石であり、上記第2の部材は、上記第1の部材の磁石装着面に対向して配置され、上記回転軸に対して放射状に等ピッチに配置された複数の磁性体片を有しており、上記第3の部材は、上記第2の部材に対向して配置され、磁性体材料からなる円板における上記第2の部材との対向面に、同一形状をもつ複数の歯が上記回転軸に対して放射状に等ピッチに形成されており、上記第2の部材における上記磁性体片のピッチと、上記第3の部材における上記歯のピッチとが異なるように形成されており、上記第1の部材における磁石数をn、上記第3の部材における歯数をn、上記第2の部材における磁性体片数をnとするとき、
=n±n
を満たす。
【0029】
それゆえ、磁気歯が回転軸方向に長手方向を持たないため、軸方向に小型化しやすく、かつ、第2の部材における磁性体片を平面内に配置できるため、磁性体片を精度良く配置することが容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
〔実施の形態1〕
本発明の一実施形態について図1ないし図4に基づいて説明すると以下の通りである。本実施の形態に係る磁気波動歯車装置は、図1に示すように、第1の部材である高速ロータ10,第3の部材である低速ロータ20,第2の部材である固定部30を備えて構成されている。また、これらの部材は共通の回転軸を有し、該回転軸方向に沿って、高速ロータ10,固定部30,低速ロータ20の順序で配置されている。
【0031】
尚、本実施の形態では、図1における部材30を固定部、部材20を低速ロータとしているが、部材20と部材30とは、その役割を入れ替えることも可能である。すなわち、第3の部材である部材20を固定部とすれば、第2の部材である部材30が低速ロータとして機能する。以下の説明は、部材30を固定部、部材20を低速ロータとした場合を例示して説明を行なうものである。
【0032】
高速ロータ10は、磁性体材料からなるコア13(図2参照)に、2つの永久磁石11および12を取り付けた構造である。コア13は円板形状の部材であり、一方、永久磁石11および12は回転軸方向に分極された扇型形状の磁石である。また、図1では、コア13の中央にモータ軸を通すための軸穴が設けられている。永久磁石11および12は、コア13の片面(固定部30との対向面)において、回転軸に対して対称となるように配置・装着される。さらに、永久磁石11および12のそれぞれにおける分極方向は、互いに逆となっている。
【0033】
低速ロータは20は、磁性体材料からなる部材であり、円板形状の基台の片面(固定部30との対向面)において、同一の歯幅をもつ複数の歯21が回転軸に対して放射状に等ピッチに形成されている。ただし、歯21は回転軸の中心付近には形成されていない。
【0034】
固定部30は、複数の磁性体片31を回転軸に対して放射状に等ピッチに配置してなる。図1では、磁性体片31のみを図示しているが、実際にはこれらの磁性体片31は樹脂等で一体化され、ピッチ等の相互関係が保たれるようになっている。
【0035】
固定部30における磁性体片31のピッチは、低速ロータ20における磁気歯21のピッチと若干異なるように設定される。図1に示す構成では、磁性体片31のピッチは磁気歯21のピッチよりもわずかに狭くなるように設定されている。このため、円周方向に配列される磁性体片31の本数は、これに対向する磁気歯数よりも多くなる。
【0036】
上記構成の磁気波動歯車装置では、高速ロータ10に備えられた永久磁石11および12により、図2に示すように高速ロータ10、低速ロータ20、および固定部30の全てを通る閉磁界が発生する。
【0037】
ここで、上記磁気波動歯車装置の動作原理を図3および図4を参照して説明する。図3および図4は磁気波動歯車装置を半径方向側から見た図であり、高速ロータ10の一方の磁石(図3では永久磁石11を図示)付近の拡大図である。
【0038】
先ず、図3は、磁気波動歯車装置において、高速ロータ10と低速ロータ20との間で発生する磁界が、低速ロータ20に対して回転トルクを生じさせない状態を示している。すなわち、図3では、高速ロータ51の1つの磁石に対して、低速ロータ20における4つの磁気歯21、および固定部30における3本の磁性体片31が対向する構成を例示しているが、この時、高速ロータ10と低速ロータ20との間では、固定部30における4本の磁性体片31を介して低速ロータ20の磁気歯21へ向う4つの強い磁界(図中の太線矢印)が発生する。そして、図3では、この4つの磁界のバランスが取れているため、低速ロータ20において回転トルクは発生しない。
【0039】
図3の状態から高速ロータ10が回転し、磁気歯のほぼ1ピッチ分移動すると、高速ロータ10と低速ロータ20との間で発生する磁界は図4に示す状態となる。この磁界は、バランスの取れた状態(すなわち図3の状態)に向かおうとする復元力を有するため、この磁界復元力が低速ロータ20の磁気歯21に作用し、低速ロータ20にトルク伝達力を生じさせる。
【0040】
そして、高速ロータ10が回転し続ける間は、図4に示すトルク伝達力も低速ロータ20に作用し続けるため、低速ロータ20も回転し続ける。
【0041】
図3および図4では、固定部30における磁性体片31のピッチは低速ロータ20の磁気歯21のピッチよりもわずかに狭くなるように設定されている。すなわち、固定部30における磁性体片31の本数は低速ロータ20の磁気歯数21よりも多くなるように設定されている。この場合、図4に示すように、低速ロータ20の回転方向(トルク伝達方向)は、高速ロータ10の回転方向と逆方向となる。
【0042】
但し、本発明の磁気波動歯車装置は上記例に限定されるものではなく、固定部30における磁性体片31のピッチは低速ロータ20の磁気歯21のピッチよりもわずかに広くなるように設定されていてもよい。すなわち、固定部30における磁性体片31の本数は低速ロータ20の磁気歯数21よりも少なくなるように設定されていてもよい。この場合、低速ロータ20の回転方向(トルク伝達方向)は、高速ロータ10の回転方向と同方向となる。
【0043】
すなわち、上記磁気波動歯車装置では、固定部30における磁性体片31と低速ロータ20の磁気歯21とのピッチ設定によって、高速ロータ10の回転方向に対する低速ロータ20の回転方向を同方向または逆方向の何れにも設定することが可能である。
【0044】
上記磁気波動歯車装置は、磁気伝達減速機として好適に利用できる。例えば、図1の構成において、高速ロータ10を入力側、低速ロータ20を出力側とすれば、減速比および伝達トルクの大きな減速機を得ることができる(無論、部材20を固定部とした場合には、部材30を出力側とすることができる)。また、上記磁気波動歯車装置を備えた磁気伝達減速機をモータと組み合わせることにより、低振動、低騒音、かつ長寿命といった利点を有する、低速かつ高トルクの駆動源を得ることができる。また、入力と出力とを逆にして加速機として用いることも可能である。
【0045】
上記磁気波動歯車装置の減速比は、高速ロータ10の磁石数をn、低速ロータ20の歯数をnとした場合n/nとなる。また、固定部30の磁性体片数nは、n=n±nに設定される。すなわち、低速ロータ20の回転方向を高速ロータ10の回転方向と同方向にする場合にはn=n−nに設定し、逆方向にする場合にはn=n+nに設定すればよい。いずれの場合も減速比はn/nである。
【0046】
上記説明における磁気歯動歯車装置では、低速ロータ20と固定部30との役割を逆にすることも可能である。すなわち、低速ロータ20を固定すれば、高速ロータ10への入力に対して固定部30からトルクを出力させることもできる。また、入力と出力とを逆にして加速機として用いることも可能である。
【0047】
本実施の形態1に係る磁気波動歯車装置には、以下のような利点がある。
(1) トルク発生の有効領域が広い。
(2) 1段で高い減速比が得られる。
(3) 磁石形状が単純。
(4) エアギャップが小さく設定可能。
【0048】
以上より、高い伝達許容トルクが得られる。また、磁性体金属の加工のみで減速比およびトルク伝達方向を自由に設定可能である。
【0049】
さらに、非特許文献4における磁気波動歯車装置と比較しても以下の利点がある。尚、以下の説明では、非特許文献4における磁気波動歯車装置をラジアル型(部材間のエアギャップが半径方向に生じているため)、本発明に係る磁気波動歯車装置をアキシャル型(部材間のエアギャップが軸方向に生じているため)と称する。
【0050】
まず、ラジアル型では、磁気歯が回転軸に平行に長手方向を有するため、軸方向サイズを小型化しづらい(薄型化しづらい)が、アキシャル型では薄型化を図ることが容易である。その結果、同程度の伝達トルクを発生させようとする場合に、アキシャル型ではラジアル型に比べて体積を約2/3程度に小型化できる。
【0051】
また、ラジアル型では、部材間のエアギャップが半径方向に生じるため、円周面上において高精度のエアギャップを形成する必要がある。このことは、部材の製造工程におけるコスト増加を招来する。特に、図9に示す固定部120において、磁性体片122,123は円周面に(すなわち曲面に)沿って配置されるため、これらを精度良く配置した上で一体化することが困難である。これに対し、アキシャル型では、固定部30における磁性体片31は平面に配置される。このため、磁性体片31を精度良く配置した上で一体化することは容易である。
【0052】
〔実施の形態2〕
本発明の他の実施形態について図5ないし図6に基づいて説明すると以下の通りである。
【0053】
先ず、実施の形態1に示す磁気波動歯車装置において、低速ロータ20を固定したまま安定位置(θ=0°)から高速ロータ10を180°回転させた場合の、低速ロータの伝達トルク(LR)、高速ロータのコギングトルク波形(HR)の三次元有限要素法によるシミュレーション結果を図5に示す。なお、この時の磁気波動歯車装置における各パラメータは、以下の表1に示す通りである。
【0054】
【表1】

【0055】
図5より、高速ロータの回転角が50°の時に低速ロータ側で得られるトルクが最大で、約4Nmのトルクを伝達できることが示された。また、高速ロータで作用しているコギングトルクが約1Nm程度発生しており、低速ロータのトルク波形もかなりひずんでいることが分かる。これは振動・騒音の原因となりうるため解消する必要がある。本実施の形態2に係る磁気波動歯車装置は、上記コギングトルクを抑制するために、磁石寸法の最適化の検討を行なったものである。
【0056】
すなわち、本実施の形態2に係る磁気波動歯車装置では、高速ロータ10における永久磁石11および12の中心角を90°から8°小さくして82°とした。永久磁石11および12の中心角を82°とし、他のパラメータは表1と同条件とした場合のシミュレーション結果を図6に示す。
【0057】
これにより、永久磁石11および12の中心角を82°としたモデルでは、高速ロータの側のトルク波形(HR)が磁石の中心角を90°とした場合の高速ロータ側トルク波形(HR90)と比較して、約半分の大きさに抑制できることが確認できる。また、低速ロータの伝達トルク(LR)への影響も見られない。すなわち、磁石寸法(中心角)の最適化を行なうことで、高速ロータのコギングトルクを大幅に抑制できる。
【0058】
ここで、本実施の形態2は、高速ロータのコギングトルクの半周期分を機械角とし位相角度を操作することでコギングトルクを低減するものである。この場合、永久磁石の中心角を調整する代わりに、2つの磁石の位相角度を180°から半周期分(180/n=約8°)ずらすことも可能だが、高速ロータの回転平衡が悪くなるため、本検討では、永久磁石の中心角を90°から82°に変更することで、コギングトルクの低減を試みたものである。
【0059】
尚、上記例では、永久磁石11および12の中心角を90°から8°小さくしているが、これは、発生するコギングトルクの半周期分の大きさが約8°となるためである。また、コギングトルクの周期は固定部の歯数nに依存し、(コギングトルクの周期)=360/nである(半周期は180/n)。これより、永久磁石11および12の中心角をθ(°)とすると、θは、
θ=90−180/n
に設定されることが高速ロータのコギングトルクを低減する上で有効である。
【0060】
〔実施の形態3〕
本発明の他の実施形態について図7ないし図8に基づいて説明すると以下の通りである。本実施の形態3に係る磁気波動歯車装置は、固定部30における磁性体片31、および低速ロータ20における磁気歯21の形状を変更し、伝達トルクの向上を図ったものである。
【0061】
固定部30および低速ロータ20の磁極片形状は、トルク伝達特性に大きく影響するため、その形状及び寸法を最適化する必要がある。本実施の形態3では、固定部30および低速ロータ20の磁極片形状を長方形から扇形へ変更した。
【0062】
すなわち、実施の形態1における磁性体片31および磁気歯21では、図7(a)に示すように、その長辺が軸方向から見て平行となっており、該長辺は歯車の半径に一致していない。このため、磁石と磁極片とのエッジの重なりが内径側から外径側に向けて順次発生する。
【0063】
これに対し、本実施の形態3に係る磁気波動歯車装置では、図7(b)に示すように、磁極片形状が扇形とされているため、磁性体片31および磁気歯21の長辺が歯車の半径に一致する。
【0064】
長方形型磁極片に対する扇形磁極片の優位性を確認するために、長方形磁極片モデルと同様に三次元有限要素法を用いて伝達トルクを求め、両者を比較した。扇形磁極片の解析モデルの寸法及び条件は以下の表2に示す通りである。
【0065】
【表2】

【0066】
両モデルにおいて、固定部及び低速ロータ以外の寸法は長方形磁極片モデルと同じ条件としている。ここで、低速ロータを固定したまま安定位置から高速ロータを回転させた時の低速ロータの伝達トルクと、高速ロータのコギングトルク波形の解析結果を図8に示す。
【0067】
図8より、高速ロータの回転角が50°の時に低速ロータ側で得られるトルクの最大値約5.5Nmを実現した。すなわち、扇形磁極片では、長方形磁極片モデルと比較して約1.5Nm伝達トルクが向上している。これは、磁極片を扇形形状にすることで、高速ロータにおける磁石のエッジと固定部の磁極片のエッジ部分、及び固定部の磁極片のエッジと低速ロータの磁極片のエッジ部分がそれぞれ平行に対向することで、回転方向の磁束成分が増加し、伝達許容トルクが向上したためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
磁気波動歯車装置を低コストかつ高精度に提供でき、該磁気波動歯車装置を減速機等に用いることによって、電子錠、ロボットアームなどの用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施形態を示すものであり、磁気波動歯車装置の外径を示す斜視図である。
【図2】上記磁気波動歯車装置の断面図である。
【図3】上記磁気波動歯車装置の動作原理を示す図であり、低速ロータに対して回転トルクを生じさせない状態を示す図である。
【図4】上記磁気波動歯車装置の動作原理を示す図であり、低速ロータに対して回転トルクが生じている状態を示す図である。
【図5】上記磁気波動歯車装置において、低速ロータの伝達トルク、高速ロータのコギングトルク波形の三次元有限要素法によるシミュレーション結果を示すグラフである。
【図6】上記磁気波動歯車装置において、磁石の中心角を最適化した場合の低速ロータの伝達トルク、高速ロータのコギングトルク波形の三次元有限要素法によるシミュレーション結果を示すグラフである。
【図7】(a)は固定部および低速ロータの磁極片形状を長方形とした場合のモデルを示す平面図であり、(b)は固定部および低速ロータの磁極片形状を扇形とした場合のモデルを示す平面図である。
【図8】上記磁気波動歯車装置において、磁極片形状を扇形とした場合の低速ロータの伝達トルク、高速ロータのコギングトルク波形の三次元有限要素法によるシミュレーション結果を示すグラフである。
【図9】非特許文献4における磁気波動歯車装置の構成例を示す平面図である。
【図10】非特許文献4における磁気波動歯車装置の構成例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0070】
10 高速ロータ
11,12 永久磁石
20 低速ロータ
21 磁気歯
30 固定部
31 磁性体片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の部材、第2の部材、および第3の部材を、同一の回転軸を有するように配置してなる磁気波動歯車装置であって、
上記第1の部材は、磁性体材料からなる円板形状のコアの片面に、複数の永久磁石を装着してなり、上記永久磁石は回転軸方向に分極された扇型形状の磁石であり、
上記第2の部材は、上記第1の部材の磁石装着面に対向して配置され、上記回転軸に対して放射状に等ピッチに配置された複数の磁性体片を有しており、
上記第3の部材は、上記第2の部材に対向して配置され、磁性体材料からなる円板における上記第2の部材との対向面に、同一形状をもつ複数の歯が上記回転軸に対して放射状に等ピッチに形成されており、
上記第2の部材における上記磁性体片のピッチと、上記第3の部材における上記歯のピッチとが異なるように形成されており、
上記第1の部材における磁石数をn、上記第3の部材における歯数をn、上記第2の部材における磁性体片数をnとするとき、
=n±n
を満たすことを特徴とする磁気波動歯車装置。
【請求項2】
上記第1の部材における上記永久磁石の中心角θは、
θ=90−180/n
に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気波動歯車装置。
【請求項3】
上記第1の部材における上記永久磁石の数は2つであり、
上記2つの磁石の位相角度が180°から180/nずらされていることを特徴とする請求項1に記載の磁気波動歯車装置。
【請求項4】
上記第2の部材における上記磁性体片、および上記第3の部材における上記歯は、回転軸方向から見て扇形形状を有していることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の磁気波動歯車装置。
【請求項5】
上記請求項1から4の何れか一項に記載の磁気波動歯車装置を備えており、上記第1の部材を入力側、上記第2の部材もしくは第3の部材を出力側とすることを特徴とする磁気伝達減速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−106940(P2010−106940A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−278787(P2008−278787)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)