説明

磁気的多段変速機構及び複合磁気的多段変速機構

【課題】構造の単純化と損失低減とを図れる磁気的多段変速機構を実現することである。
【解決手段】入力側部材12に設けられ、N極とS極とが周方向に交互に配置されるように設けられている複数の内側永久磁石58,60,62を含む複数の内側ロータ24,26,28と、出力側部材14に設けられ、N極とS極とが周方向に交互に配置されるように設けられている複数の外側永久磁石を含む複数の外側ロータ34,36,38と、周方向複数個所に磁性材製の柱部46が配置される磁気特性変化部44を含む回転不能なステータ16とを備える。1の内側ロータ及び1の外側ロータに磁気特性変化部44を径方向に対向させた部分により1の変速部を構成する。ステータ16の軸方向の移動により、1の変速部とは異なる変速比を有する別の変速部へ切り換え可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転可能に配置された第1回転要素及び第2回転要素と、第1回転要素に設けられ内側永久磁石を含む内側ロータと、第2回転要素に設けられ外側永久磁石を含む外側ロータと、内側、外側両ロータの間に径方向に離れて回転不能に配置される磁気特性変化部を含むステータと、を備える磁気的多段変速機構及び複合磁気的多段変速機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、多段の変速機構として、歯数の異なる一対ずつの歯車同士を噛み合わせた歯車組を複数備える等の、機械式の多段変速機構が知られている。このような機械式の多段変速機構の場合、変速段を変える場合に、噛み合っている1つの歯車組で歯車同士の結合を切り離すとともに、別の歯車組を構成する歯車同士を噛み合わせる必要があり、このために同調機構が用いられている。例えば、自動車のマニュアルトランスミッション装置では、シンクロメッシュ機構を採用して、回転している軸に係合させたスリーブのスプライン部と歯車に設けたスプライン部とを速度を同期させつつ、厳密に整合させて、同調させることを可能としている。
なお、本発明に関連する先行技術文献として、非特許文献1がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】ケー・アタラー(K. Atallah)他2名、「Design, analysis and realisation of a high-performance magnetic gear」、IEEE Proc.-Electr. Power Appl., Vol.151, No.2、2004年3月、p.135-143
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように従来から考えられている機械式の多段変速機構の場合、機械的に歯車を噛み合う歯車の位置を精度よく同調させるための同調機構を必要とするため、構造が複雑になるだけでなく、システム全体が大型化する。また、同調機構を必要とするため、機械的な損失が増大する可能性がある。
【0005】
一方、非特許文献1に記載されているように、内側ロータと、内側ロータの径方向外側に対向する外側ロータと、内側、外側両ロータの間に配置されたステータとを備える磁気歯車が知られている。各ロータとステータとは同軸上に配置される。内側、外側各ロータは、複数の永久磁石を含み、ステータは、複数の強磁性体の柱部を含む。外側ロータとステータと内側ロータとは、同軸上に配置されている。この場合に内側、外側各ロータのうち、一方のロータの永久磁石の極対数をP1とし、他方のロータの永久磁石の極対数をP2とし、ステータの柱部の数をNsとした場合に、ステータの柱部の数Nsは、次式で表すように規定する。
Ns=P1±P2 ・・・(1)
【0006】
この場合、ステータが静止しているのであれば、例えば減速比Grは次式で表される。
Gr=P2/P1 ・・・(1)
【0007】
この場合、例えば他方のロータの極対数P2を、P2=Ns−P1とし、外側ロータの極対数P1を22とし、ステータの柱部の数Nsを26とし、内側ロータの極対数P2を4とすると、Gr=1/5.5となり、内側ロータに入力された回転速度が1/5.5倍に減速される。
【0008】
ただし、このような非特許文献1に記載された磁気歯車は、1段の減速比しか得られず、例えば、自動車や二輪車等に使用する変速装置の用途において、入力軸に入力された速度を複数段で変えて出力したい場合に使用できない。本発明者は、このような事情から、鋭利工夫により、機械式の多段変速機構で使用していた同調機構をなくすことにより、構造の単純化と損失低減とを図れる多段変速機構を発明するに至った。また、本発明者は、複数の多段変速機構を備える複合磁気的多段変速機構も発明するに至った。
【0009】
本発明は、構造の単純化と損失低減とを図れる多段変速機構及び複合磁気的多段変速機構を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る磁気的多段変速機構は、互いに同軸に回転可能に配置された第1回転要素及び第2回転要素と、第1回転要素に設けられた内側ロータであって、外周面にN極とS極とが周方向に交互に配置されるように設けられた複数の内側永久磁石を含む内側ロータと、第2回転要素に設けられた外側ロータであって、内周面にN極とS極とが周方向に交互に配置されるように設けられた複数の外側永久磁石を含む外側ロータと、内側、外側両ロータの間に径方向に離れて回転不能に配置され、周方向複数個所に磁性材製の柱部が配置される磁気特性変化部を含むステータと、を備え、内側ロータ及び外側ロータに磁気特性変化部を径方向に対向させた部分により、第1及び第2回転要素間で動力を変速しながら伝達可能とする変速部を構成し、変速部とは異なる変速比を有する別の変速部へ切り換え可能とすることを特徴とする磁気的多段変速機構である。
【0011】
また、本発明に係る磁気的多段変速機構において、好ましくは、第1回転要素と第2回転要素とステータとのうち、1または2が、軸方向に離れた複数の内側ロータと外側ロータと磁気特性変化部とのいずれか1を含み、少なくとも1の磁気特性変化部に設けられた柱部の数をNsとし、少なくとも1の内側ロータに設けられた磁極の極対数をPiとし、少なくとも1の外側ロータに設けられた磁極の極対数をPoとした場合に、切り換え可能なそれぞれの変速部でNs=Po+PiまたはNs=Po−Piが成立し、第1回転要素と第2回転要素とステータとの少なくとも1を軸方向に移動させることにより、第1及び第2回転要素間での変速比を切り換え可能とする。
【0012】
また、本発明に係る磁気的多段変速機構において、好ましくは、第1回転要素は、軸方向に離れた複数の内側ロータを含み、各内側ロータは、互いに異なる数の内側永久磁石が周方向に並ぶように配置されており、第2回転要素は、軸方向に離れた複数の外側ロータを含み、各外側ロータは、互いに異なる数の外側永久磁石が周方向に並ぶように配置されており、ステータは、軸方向同位置の周方向複数個所に配置された磁性材製の柱部により構成する磁気特性変化部を含み、柱部の数をNsとし、少なくとも1の内側ロータに設けられた磁極の極対数をPiとし、少なくとも1の外側ロータに設けられた磁極の極対数をPoとした場合に、切り換え可能なそれぞれの変速部でNs=Po+PiまたはNs=Po−Piが成立し、ステータを軸方向に移動させ、1の内側ロータ及び外側ロータに磁気特性変化部を径方向に対向させた状態から、別の内側ロータ及び外側ロータに磁気特性変化部を径方向に対向させた状態に切り換えることにより、第1及び第2回転要素間での変速比を切り換え可能とする。
【0013】
また、本発明に係る磁気的多段変速機構において、好ましくは、第1回転要素及び第2回転要素の一方の回転要素と、ステータとをそれぞれ軸方向に移動可能とし、ステータは、軸方向に離れた複数の磁気特性変化部を含み、各磁気特性変化部は、互いに異なる数の磁性材製の柱部が周方向に並ぶように配置されており、一方の回転要素は、軸方向に離れた複数の内側ロータまたは外側ロータを含み、各内側ロータまたは各外側ロータは、互いに異なる数の内側永久磁石または外側永久磁石が周方向に並ぶように配置されており、柱部の数をNsとし、少なくとも1の内側ロータに設けられた磁極の極対数をPiとし、少なくとも1の外側ロータに設けられた磁極の極対数をPoとした場合に、切り換え可能なそれぞれの変速部でNs=Po+PiまたはNs=Po−Piが成立する。
【0014】
また、本発明に係る磁気的多段変速機構において、好ましくは、本発明に係る磁気的多段変速機構において、第1回転要素は、動力が入力される入力側部材であり、第2回転要素は、動力が出力される出力側部材である。
【0015】
また、本発明に係る磁気的多段変速機構において、好ましくは、出力側部材に、入力側部材の内側ロータを設ける側と軸方向に関して同じ側に外側ロータを設けている。
【0016】
また、本発明に係る磁気的多段変速機構において、好ましくは、出力側部材に、入力側部材の内側ロータを設ける側と軸方向に関して反対側に外側ロータを設けている。
【0017】
また、本発明に係る複合磁気的多段変速機構は、それぞれ本発明に係る磁気的多段変速機構である、複数の磁気的多段変速機構を作動的に連結することにより構成する複合磁気的多段変速機構であって、少なくとも1の磁気的多段変速機構を構成する出力側部材を、別の磁気的多段変速機構を構成する入力側部材に、動力伝達部を介して、または直接に作動的に連結し、それぞれの磁気的多段変速機構において、入力側部材と出力側部材との間での変速比を切り換え可能としていることを特徴とする複合磁気的多段変速機構である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る磁気的多段変速機構によれば、多段変速機構を実現でき、しかも、機械式の多段変速機構で使用していた同調機構をなくすことができ、構造の単純化と小型化とを図れる。また、同調機構をなくすことができるとともに、変速部での機械的な噛み合いをなくすことができるため、機械的な損失の低減を図れる。また、本発明に係る複合磁気的多段変速機構によれば、機械的な損失の低減を図れるとともに、単純な構造でより多くの段数の変速機構を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態の磁気的多段変速機構の略断面図である。
【図2】図1の拡大A−A略断面図である。
【図3】図1の磁気的多段変速機構を構成するリニアアクチュエータの別の2例を示す略断面図である。
【図4】図1の磁気的多段変速機構において、第1、第2、第3各変速部を構成する外側ロータ及び内側ロータと、ステータの柱部とを、部分的に分離した状態で並べた略斜視図である。
【図5】図1の磁気的多段変速機構において、変速段を3段階に変える様子を示す、磁気的多段変速機構の略断面と、α、β、γ部で中心軸に対し直交する方向に切断した略断面とを示す図である。
【図6】本発明に係る第2の実施の形態の磁気的多段変速機構の、図4に対応する図である。
【図7】図1の磁気的多段変速機構により構成する複合磁気的多段変速機構の1例を示す模式図である。
【図8】本発明に係る第3の実施の形態の磁気的多段変速機構の略断面図である。
【図9】図8の磁気的多段変速機構により構成する複合磁気的多段変速機構の別例を示す模式図である。
【図10】本発明に係る第4の実施の形態の磁気的多段変速機構の略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1の発明の実施の形態]
以下において、図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。図1から図5は、本発明の第1の実施の形態を示している。
【0021】
図1、図2に示すように、本実施の形態の磁気的多段変速機構10は、第1回転要素であり、動力が入力される入力側部材12と、第2回転要素であり、動力が出力される出力側部材14と、ステータ16と、アクチュエータ18とを備える。入力側部材12は、軸部20と、軸部20の一端部(図1の右端部)に設けたフランジ部22とを含み、固定部分である図示しないハウジングの内側に軸受等を介して回転可能に配置し、支持している。また、軸部20の他端部(図1の左端部)から中間部にわたる範囲の外周面に、それぞれ軸部20に対し同軸に第1内側ロータ24、第2内側ロータ26、及び第3内側ロータ28を嵌合固定している。各内側ロータ24,26,28同士の間に軸方向の空間が設けられている。すなわち、各内側ロータ24,26,28は軸方向に離れている。
【0022】
出力側部材14は、一端部(図1の右端部)に設けられた円筒状の小径筒部30と、他側(図1の左側)に設けられた略円筒状の大径筒部32と、小径筒部30及び大径筒部32を連結する円板状の連結部とを含む。出力側部材14は、ハウジングの内側に回転可能に配置し、支持している。入力側部材12と出力側部材14とは、同軸上に配置している。小径筒部30は、入力側部材12の軸部20の一端寄り部分外周面に直接または図示しない軸受を介して嵌合している。このため、出力側部材14は、入力側部材12に対し相対回転可能に配置される。また、出力側部材14の大径筒部32の軸方向3個所位置で各内側ロータ24,26,28とそれぞれ径方向外側に対向する位置に、出力側部材14に対し同軸に第1外側ロータ34、第2外側ロータ36、及び第3外側ロータ38を設けている。すなわち、各外側ロータ34,36,38は、軸方向に離れている。
【0023】
ステータ16は、軸部40と、軸部40の一端部がその片面中心部に結合固定された略有底円筒状のステータ本体部42とを含む。ステータ本体部42の先端部に、磁気特性変化部44を設けている。磁気特性変化部44は、複数の柱部46を櫛歯状に設けている。複数の柱部46は、磁気特性変化部44の周方向複数個所に等間隔に設けている。
【0024】
なお、図示の例では、ステータ本体部42の内径及び外径を、磁気特性変化部44で変化させているが、ステータ本体部42の磁気特性変化部44以外の内径及び外径を、それぞれ磁気特性変化部44の内径及び外径と同じとすることもできる。ステータ本体部42を構成する筒部は、出力側部材14の大径筒部32の内周面と、入力側部材12の各内側ロータ24,26,28の外周面との間に挿入配置している。ステータ16は、ハウジングの内側に支持し、入力側部材12及び出力側部材14に対し同軸上に配置している。ステータ16は、ハウジングに対する回転を不能とする一方、ハウジングに対する軸方向の移動を可能としている。例えば、ステータ16の軸部40は、ハウジングに設けた図示しない孔部に対し軸方向のみの変位を可能に支持する。なお、ハウジングに設けた孔部内周面と、ステータ16の小径筒部106の外周面との間に、ボールスプライン機構を設けることもできる。また、ステータ16の少なくとも磁気特性変化部44を含む部分は、磁性材製としている。すなわち磁気特性変化部44は、ステータ16の軸方向同位置の周方向複数個所に配置された磁性材製の柱部46により構成する。
【0025】
アクチュエータ18は、リニアアクチュエータであり、ステータ16を構成する軸部40の外側に設けられている。この軸部40は、鉄等の磁性材製である。なお、ステータ16の全体を鉄等の磁性材製とすることもできる。アクチュエータ18は、コイル48を含み、コイル48に対しいずれかの方向へ通電することにより、その通電方向に応じて軸部40を軸方向のいずれかの側に変位させる。
【0026】
図3(a)(b)は、アクチュエータ18の別の2例を示している。図3(a)に示すアクチュエータ18の別例の第1例の場合、アクチュエータ18は、図示しないモータと、モータの回転軸に同軸に結合した、またはこの回転軸と一体の軸部52との間に設けたボールねじ54とにより構成している。ボールねじ54は、軸部52外周面に設けた雄ボールねじ溝と、軸部40の端部に結合した筒部56の先端部内周面に設けた雌ボールねじ溝と、雄、雌両ボールねじ溝の間に設けた複数のボールとにより構成している。軸部40と固定のハウジングとの間に、例えば軸部40の回転を防止しつつ、軸部40の軸方向の移動を案内する図示しないガイド部を設ける。モータがいずれかの方向に回転することにより軸部52が回転すると、筒部56を設けた軸部40がこの回転方向に対応した軸方向のいずれかの方向に移動する。
【0027】
また、図3(b)に示すアクチュエータ18の別例の第2例の場合、アクチュエータ18は、軸部40の外周面に結合固定し径方向に着磁した略円筒状の永久磁石58と、軸部40の外側の軸方向3個所位置に永久磁石57に径方向に対向するように設けたコイル48とにより構成している。永久磁石57の両端部は、軸方向の端に向かうに従って外径が小さくなる略円錐筒状に形成している。各コイル48の1または2に選択的にいずれかの方向へ通電し、また通電を停止することにより、軸部40を軸方向の3個所のいずれか1に選択的に円滑に移動させ、停止させることができる。なお、軸部40の外周面に、永久磁石57の代わりに、永久磁石57と同形状の磁性材製の筒部を結合固定して、同様の機能を得ることもできる。
【0028】
図1に戻って、第1内側ロータ24、第2内側ロータ26及び第3内側ロータ28の外周面にそれぞれ複数ずつの内側永久磁石58,60,62を設けている。図4は、第1内側ロータ24及び第1外側ロータ34を対向させた部分と、第2内側ロータ26及び第2外側ロータ36を対向させた部分と、第3内側ロータ28及び第3外側ロータ38を対向させた部分とを、それぞれ切り離して磁気特性変化部44とともに示す斜視図である。各内側ロータ24,26,28に設けた内側永久磁石58,60,62は、各内側ロータ24,26,28の径方向に着磁しており、各内側永久磁石58,60,62の着磁方向は、周方向等間隔に交互に異ならせている。このため、各内側ロータ24,26,28は、外周面にN極とS極とが周方向に交互に配置されように設けられた複数の内側永久磁石58,60,62を含む。すなわち、各内側ロータ24,26,28は、複数の内側永久磁石58,60,62が周方向に並ぶように配置されている。
【0029】
また、各内側ロータ24,26,28の内側永久磁石58,60,62の数は、互いに異ならせている。例えば、図2では、第1内側ロータ24を図示しており、第1内側ロータ24に設けた複数の内側永久磁石58のうち、斜格子を付した部分が外周面にN極が配置されるものであり、白抜きの部分が外周面にS極が配置されるものである。図示の例では、第1内側ロータ24に設けた内側永久磁石58を5極対としている。
【0030】
また、図5の(a)(b)(c)の左側の図は、第1内側ロータ24、第2内側ロータ26及び第3内側ロータ28の断面部分をそれぞれ示しており、それぞれの図で、内側永久磁石58,60,62の黒で塗りつぶした部分が外周面にN極が配置されることを、白抜きの部分が外周面にS極が配置されることを、それぞれ表している。図示の例では、第2内側ロータ26に設けた内側永久磁石60を9極対としており(図5(b))、第3内側ロータ28に設けた内側永久磁石62を15極対としている(図5(c))。
【0031】
図2、図4に戻って、第1外側ロータ34、第2外側ロータ36及び第3外側ロータ38の内周面に、それぞれ複数ずつの外側永久磁石64,66,68を設けている。外側永久磁石64,66,68は、各外側ロータ34,36,38の径方向に着磁しており、各外側永久磁石64,66,68の着磁方向は、周方向等間隔に交互に異ならせている。このため、各外側ロータ34,36,38は、内周面にN極とS極とが周方向に交互に配置されように設けられた複数の外側永久磁石64,66,68を含む。すなわち、各外側ロータ34,36,38に、複数の外側永久磁石64,66,68が周方向に並ぶように配置されている。また、各外側ロータ34,36,38の外側永久磁石64,66,68の数は、互いに異ならせている。例えば、図2では、第1外側ロータ34を図示しており、第1外側ロータ34に設けた複数の外側永久磁石64のうち、斜格子を付した部分が内周面にN極が配置されるものであり、白抜きの部分が内周面にS極が配置されるものである。図示の例では、第1外側ロータ34に設けた外側永久磁石64を39極対としている。
【0032】
また、図5の(a)(b)(c)の左側の図は、第1外側ロータ34、第2外側ロータ36及び第3外側ロータ38の断面部分をそれぞれ示しており、それぞれの図で、外側永久磁石64,66,68の黒で塗りつぶした部分が内周面にN極が配置されることを、白抜きの部分が内周面にS極が配置されることを、それぞれ表している。図示の例では、第2外側ロータ36に設けた外側永久磁石66を35極対としており(図5(b))、第3外側ロータ38に設けた外側永久磁石68を29極対としている(図5(c))。
【0033】
また、ステータ16を構成する磁気特性変化部44は、いずれかの内側、外側両ロータの間に同軸上に径方向に離れて回転不能に配置されている。図2に示す例では、ステータ16の磁気特性変化部44を構成する柱部46の数を、44本としている。また、互いに対向する内側ロータ及び外側ロータに磁気特性変化部44を径方向に対向させた部分により、入力側部材12及び出力側部材14間で動力を変速しながら伝達可能とする変速部を構成する。ステータ16は、軸方向に移動可能であるため、変速部は、図2、図5(a)に示すように、第1内側ロータ24及び第1外側ロータ34に磁気特性変化部44を対向させた第1変速部70と、図5(b)に示すように、第2内側ロータ26及び第2外側ロータ36に磁気特性変化部44を対向させた第2変速部72と、図5(c)に示すように、第3内側ロータ28及び第3外側ロータ38に磁気特性変化部44を対向させた第3変速部74との3状態が実現可能である。各変速部70,72,74の変速比は互いに異なる。すなわち、ステータ16の軸方向の移動により、1の変速部から、1の変速部とは異なる変速比を有する別の変速部へ切り換え可能としている。
【0034】
また、第1変速部70、第2変速部72及び第3変速部74が実現される場合の、内側ロータ24,26,28及び外側ロータ34,36,38の永久磁石の極対数と、ステータ16の磁気特性変化部44の柱部46の本数とを整理すると、次の表1のようになる。
【0035】
【表1】

【0036】
また、磁気特性変化部44に設けられた柱部46の数をNsとし、各内側ロータ24,26,28に設けられた磁極の極対数をPi1、Pi2、Pi3とし、各外側ロータ34,36,38に設けられた磁極の極対数をPo1、Po2、Po3とした場合に、切り換え可能なそれぞれの変速部70,72,74で、Ns=Po1+Pi1、Ns=Po2+Pi2、Ns=Po3+Pi3のいずれか1が成立するようにしている。ここで、Pi1、Pi2、Pi3は、それぞれ第1内側ロータ24、第2内側ロータ26、第3内側ロータ28の磁極の極対数であり、Po1、Po2、Po3は、それぞれ第1外側ロータ34、第2外側ロータ36、第3外側ロータ38の磁極の極対数である。
【0037】
また、図1に示すように、複数の外側ロータ34,36,38は、出力側部材14に、入力側部材12の内側ロータ24,26,28を設ける側と軸方向に関して同じ側である、図1の左側に設けている。
【0038】
また、アクチュエータ18によりステータ16を軸方向に移動させ、1の内側ロータ及び外側ロータに磁気特性変化部44を径方向に対向させた、いずれかの変速部70,72,74を構成する状態から、別の内側ロータ及び外側ロータに磁気特性変化部44を径方向に対向させた、別の変速部70,72,74を構成する状態に切り換えることにより、入力側部材12及び出力側部材14間での変速比である減速比Grを切り換え可能としている。例えば、上記の表1に示すように、第1変速部70を構成した状態では、減速比Gr、すなわち入力側部材12にエンジン等の動力源から動力が入力される場合に出力側部材14から出力される動力の減速される度合は、Pi1/Po1=0.128となる。また、第2変速部72を構成した状態では、減速比Grは、Pi2/Po2=0.257となる。また、第3変速部74を構成した状態では、減速比Grは、Pi3/Po3=0.517となる。なお、各変速部70,72,74で実現される減速比Grは、第1変速部70、第2変速部72、第3変速部74の順に、徐々に大きくなるように変化させているが、徐々に小さくなるように変化させることもできる。
【0039】
このように各変速部70,72,74を構成した状態で、入力側部材12から出力側部材14に変速されて動力が伝達される作用は、次の通りである。例えば、図2、図5(a)の左の図で示すように、第1変速部70を構成した状態では、第1内側ロータ24及び第1外側ロータ34にステータ16の磁気特性変化部44を対向させた状態で、例えばエンジン等の動力源から入力側部材12に動力が伝達され、第1内側ロータ24が図2、図5(a)の左の図の矢印方向に回転する場合を考える。この場合、磁気特性変化部44の柱部46が第1内側ロータ24の内側永久磁石58の磁場により磁化し、しかも内側永久磁石58が回転するため、柱部46の磁化方向も交互に変化し、磁気特性変化部44の外側に第1内側ロータ24と同方向に回転する回転磁界が生じる。これに伴って、第1外側ロータ34の外側永久磁石64に、柱部46に対し吸引または反発の方向の力が作用して、結果的に第1外側ロータ34も回転する。この場合、第1変速部70でNs=Po1+Pi1が実現されるように構成しているので、第1外側ロータ34は、第1内側ロータ24の回転方向に対し逆方向に回転し、出力側部材14は、入力側部材12の回転方向に対し逆方向に回転する。
【0040】
また、第1変速部70が構成される場合に、Ns=Po1+Pi1が成立するようにしているので、入力側部材12の動力は、出力側部材14に、Pi1/Po1の減速比で減速されて伝達される。すなわち、出力側部材14の速度をVoとし、入力側部材12の速度をViとした場合に、Vo=(Pi1/Po1)×Viとなる。出力側部材14の動力は、図示しない適宜の動力伝達機構を介して取り出すことができる。
【0041】
これに対して、図1、図5(a)の右の図の状態から、アクチュエータ18のコイル48へのいずれかの方向への通電(またはアクチュエータ18をボールねじ54により構成する場合にはモータのいずれかの方向への回転)により、ステータ16を図の矢印P方向に移動させると、図5(b)の右の図で示すように、第2内側ロータ26及び第2外側ロータ36に磁気特性変化部44が径方向に対向した、第2変速部72が構成された状態となる。この状態では、第2内側ロータ26が例えば図5(b)の左の図の矢印方向に回転すると、上記と同様に磁気特性変化部44の柱部46に回転磁界が生じ、第2外側ロータ36は、第2内側ロータ26と逆方向に回転する。このように第2変速部72が構成される場合に、Ns=Po2+Pi2が成立するようにしているので、入力側部材12の動力は、出力側部材14に、Pi2/Po2の減速比で減速されて伝達される。
【0042】
また、図5(b)の右の図の状態から、アクチュエータ18によりステータ16をさらに図の矢印P方向に移動させると、図5(c)の右の図で示すように、第3内側ロータ28及び第3外側ロータ38に磁気特性変化部44が径方向に対向した、第3変速部74が構成された状態となる。この状態では、第3内側ロータ28が例えば図5(c)の左の図の矢印方向に回転すると、上記と同様に磁気特性変化部44の柱部46に回転磁界が生じ、第3外側ロータ38は、第3内側ロータ28と逆方向に回転する。このように第3変速部74が構成される場合に、Ns=Po3+Pi3が成立するようにしているので、入力側部材12の動力は、出力側部材14に、Pi3/Po3の減速比で減速されて伝達される。また、図5(c)の状態から、アクチュエータ18によりステータ16を図の矢印Q方向に移動させると、図5(b)の第2変速部72が構成された状態に戻り、さらにステータ16を図の矢印Q方向に移動させると、図5(a)の第1変速部70が構成された状態に戻る。
【0043】
このように1の変速部から、異なる変速比を有する別の変速部に切り換え可能とすることにより、入力側部材12及び出力側部材14の間での変速比を切り換え可能としている。すなわち、ステータ16を軸方向に移動させ、磁気特性変化部44を、1の変速部を構成する内側ロータ及び外側ロータの間から、別の変速部を構成する内側ロータ及び外側ロータの間に移動させることにより、等価的に、互いに噛み合う一対の歯車の歯数比を変更したのと同様になる。
【0044】
なお、図1、図5に示すアクチュエータ18の場合、コイル48を1つのみ設けているが、コイル48への通電により、1の変速部を構成する内側ロータ及び外側ロータの間から抜け出した磁気特性変化部44が、隣り合う別の内側ロータ及び外側ロータの間に円滑に移動し停止しやすくなると考えられる。ただし、より精度よく内側ロータと外側ロータとの間に磁気特性変化部44を停止させる面からは、ステータ16の軸方向位置を検出する位置決め用センサを設け、位置決め用センサの検出信号を制御部に入力し、制御部により、コイル48への通電状態を制御することが好ましい。
【0045】
また、アクチュエータ18を省略して、ステータ16と、運転者が操作可能な操作部とを、機械式連結機構により連結することもできる。機械式連結機構は、操作部の押し引き等の操作に応じて、ステータ16を軸方向に変位させる。このようにステータ16を手動で軸方向に変位可能とすることもできる。
【0046】
上記の磁気的多段変速機構10によれば、変速比が複数段階で変化する多段変速機構を実現でき、しかも、機械式の多段変速機構で使用していた同調機構をなくすことができるため、構造の単純化と小型化とを図れる。すなわち、変速部70,72,74では、外側ロータと内側ロータとがステータを介して磁気的に結合するため、機械的な歯車機構により変速部を構成する場合と比べて入力側部材12と出力側部材14とのそれぞれでの回転速度のずれをある程度許容しやすくなる。このため、上記の同調機構を必要とする機械式の多段変速機構の場合と異なり、厳密な歯車位置やスプライン位置の調整を不要とすることができ、同調機構をなくすことができる。このため、構造の単純化と小型化とを図れる。また、同調機構をなくすことができるとともに、変速部70,72,74での機械的な噛み合いをなくすことができるため、機械的な損失の低減を図れる。
【0047】
なお、本例では、磁気特性変化部44に設けられた柱部46の数をNsとし、各内側ロータ24,26,28に設けられた磁極の極対数をPi1、Pi2、Pi3とし、各外側ロータ34,36,38に設けられた磁極の極対数をPo1、Po2、Po3とした場合に、切り換え可能なそれぞれの変速部でNs=Po1+Pi、Ns=Po2+Pi2、N
s=Po3+Pi3のいずれか1が成立するようにしている。ただし、上記と同じ場合に、それぞれの変速部でNs=Po1−Pi1、Ns=Po2−Pi2、Ns=Po3−Pi3のいずれか1が成立するようにすることもできる。例えば、ステータ16の磁気特性変化部44を構成する柱部46の数を、34本とした場合に、第1内側ロータ24の永久磁石の極対数を5とし、第1外側ロータ34の永久磁石の極対数を39とすることもできる。このように構成した場合、入力側部材12の回転は、出力側部材14に、入力側部材12の回転方向と同方向に回転する動力として伝達される。また、この場合、出力側部材14の速度は、入力側部材12の速度に対して、Pi1/Po1の減速比で減速される。すなわち、出力側部材14の速度をVoとし、入力側部材12の速度をViとした場合に、Vo=(Pi1/Po1)×Viとなる。
【0048】
また、ステータ16を構成する磁気特性変化部44は、ステータ本体部42を構成する筒部の先端部に複数の柱部46を設けることにより櫛歯状に構成したものを説明した。ただし、磁気特性変化部44は、このような構成に限定するものではなく、ステータ16の周方向に関して磁気特性が等間隔に交互に変化するものであればよい。例えば、本例のステータ16で、複数の柱部46の間を樹脂等の非磁性材製部分で埋めることもできる。また、本例のステータ16で柱部46を省略する代わりに、ステータ16を構成する磁性材製の筒部の軸方向一部に周方向複数個所の等間隔位置に、軸方向に長いスリットを形成し、磁気特性変化部を構成することもできる。この場合、各スリットは、筒部の径方向に貫通させる。そして、このように構成した磁気特性変化部を、互いに径方向に対向する外側ロータと内側ロータとの間に移動可能とする。このような構成の場合も、上記の柱部46により構成した磁気特性変化部44の場合と同様の機能を得られる。
【0049】
[第2の発明の実施の形態]
上記の第1の実施の形態では、変速部70,72,74の数を3として、3段の変速機構を実現できる場合を説明したが、本発明はこのような構成に限定するものではない。例えば、変速部の数を増やして変速機構を、より多段化することもできる。図6は、このように多段化した場合の1例である、本発明に係る第2の実施の形態の磁気的多段変速機構を示す、図4に対応する図である。
【0050】
本例の場合、入力側部材12(図1等参照)に第1内側ロータ76、第2内側ロータ78、第3内側ロータ80、第4内側ロータ82及び第5内側ロータ84の、5つの内側ロータを設けている。また、出力側部材14(図1等参照)に、第1外側ロータ86、第2外側ロータ88、第3外側ロータ90、第4外側ロータ92及び第5外側ロータ94の、5つの外側ロータを、対応する内側ロータと径方向に対向するように設けている。各内側ロータ76,78,80,82,84及び対応する外側ロータ86,88,90,92,94の間に磁気特性変化部44を移動させることにより、異なる5段階の変速部である、第1変速部、第2変速部・・・第5変速部を実現可能としている。次の表2は、第1変速部、第2変速部・・・第5変速部を実現する場合の、内側ロータ及び外側ロータの永久磁石の極対数Pi、Poと、ステータ16(図1等参照)の柱部46の本数Nsと、それぞれの変速部での減速比の1例を示している。
【0051】
【表2】

【0052】
このように各変速部で実現される減速比は、第1変速部、第2変速部・・・第5変速部の順に、徐々に小さくなるように変化させているが、徐々に大きくなるように変化させることもできる。その他の構成及び作用は、上記の第1の実施の形態と同様である。また、変速部の数は、上記の3または5に限定するものではなく、2または4または6以上とすることもできる。
【0053】
[複合磁気的多段変速機構の1例]
上記の図6に示した第2の実施の形態では、1の磁気的多段変速機構を構成する外側ロータ及び内側ロータの数を増やすことで、変速機構を多段化している。ただし、それぞれが3段の変速機構である複数の磁気的多段変速機構を作動的に連結することにより、変速段を多段化することにより、複合磁気的多段変速機構を構成することもできる。図7は、本発明に係る複合磁気的多段変速機構の1例を示す模式図である。
【0054】
本例の複合磁気的多段変速機構96は、複数の磁気的多段変速機構10を備え、複数の磁気的多段変速機構10を、歯車機構等の動力伝達部98を介して作動的に連結することにより構成している。それぞれの磁気的多段変速機構10の基本構成は、上記の図1から図5に示した第1の実施の形態の磁気的多段変速機構10と同様である。複数の磁気的多段変速機構10のうち、最も出力側に配置される1の磁気的多段変速機構10(図7の右端の磁気的多段変速機構10)を除いた、それぞれの磁気的多段変速機構10を構成する出力側部材14を、別の磁気的多段変速機構10を構成する入力側部材12に、動力伝達部98を介して作動的に連結している。
【0055】
例えば、1の磁気的多段変速機構10を構成する出力側部材14の筒部外周面に歯車部を設けるとともに、別の磁気的多段変速機構10を構成する入力側部材12の一部外周面に歯車部を設け、互いの歯車部を噛合させることにより、動力伝達部98を構成する。このようにして複数の磁気的多段変速機構10を作動的に連結するとともに、それぞれの磁気的多段変速機構10において、入力側部材12と出力側部材14との間での変速比を切り換え可能としている。例えばそれぞれの磁気的多段変速機構10を構成するアクチュエータ18(図1等参照)の1または2以上を選択的に作動させることにより、それぞれの変速比を切り換え可能とする。そして、最も入力側に配置される磁気的多段変速機構10の入力側部材12に入力された回転を、所望の変速比で最も出力側に配置される別の磁気的多段変速機構10の出力側部材14から取り出し可能としている。それぞれの磁気的多段変速機構10を構成するアクチュエータ18の作動は、図示しない制御部で統合して制御する。すなわち、制御部に入力される等により取得される変速比の指令値に応じて、制御部は、選択した1または2以上の磁気的多段変速機構10のアクチュエータ18を作動させ、最も入力側に配置される磁気的多段変速機構10の入力側部材12に動力が入力された場合に、最も出力側に配置される別の磁気的多段変速機構10の出力側部材14から所望の速度で動力を取り出し可能とする。
【0056】
このような構成によれば、機械的な損失の低減を図れるとともに、単純な構造でより多くの段数の変速機構を実現できる。その他の構成及び作用は、上記の図1から図5に示した第1の実施の形態と同様である。
【0057】
[第3の発明の実施の形態]
図8は、本発明に係る第3の実施の形態の磁気的多段変速機構の略断面図である。本例の磁気的多段変速機構10aの場合、上記の図1に示した第1の実施の形態の磁気的多段変速機構10に対して、出力側部材14とステータ16との軸方向の向きをそれぞれ逆にしている。すなわち、出力側部材14は、有底筒状の筒部100と、筒部100の片面(図8の左面)に結合した軸部102とを備える。筒部100の軸方向3個所位置に、第1外側ロータ34、第2外側ロータ36及び第3外側ロータ38を設けている。また、軸部102の端部にフランジ部104を設けている。第1外側ロータ34、第2外側ロータ36及び第3外側ロータ38は、それぞれ入力側部材12に設けた第1内側ロータ24、第2内側ロータ26及び第3内側ロータ28に、径方向に対向している。出力側部材14は、回転のみ可能に図示しないハウジングの内側に支持している。
【0058】
ステータ16は、小径筒部106と、大径筒部108とを円板状の連結部により連結している。小径筒部106は、入力側部材12の軸部20の外周面に、直接または軸受等を介して嵌合させており、ハウジングに対し軸方向のみの移動を可能に支持し、ハウジングに対する回転を不能としている。したがって、入力側部材12は、ステータ16及びハウジングに対し回転可能である。このために、ハウジングに設けた図示しない孔部に対し、ステータ16の小径筒部106を軸方向のみの変位を可能に支持する。なお、ハウジングの孔部内周面と、ステータ16の小径筒部106の外周面との間に、ボールスプライン機構を設けることもできる。
【0059】
また、ステータ16の大径筒部108を鉄等の磁性材製とするとともに、大径筒部108の先端部に、複数の柱部46により構成する櫛歯状の磁気特性変化部44を設けている。さらに、大径筒部108の磁気特性変化部44から外れた部分の径方向外側にコイル48を対向配置することにより、アクチュエータ18を構成している。コイル48へのいずれかの方向への通電により、ステータ16は軸方向のいずれかの方向へ変位可能とする。なお、ステータ16全体を磁性材製としてもよく、櫛歯状の磁気特性変化部44の代わりに複数のスリットを形成することにより、磁気特性変化部44を構成することもできる。また、アクチュエータ18は、上記の図3(a)(b)に示したいずれかの構成により構成することもできる。このように構成するため、各外側ロータ34,36,38は、出力側部材14に、入力側部材12の各内側ロータ24,26,28を設ける側(図8の左側)と軸方向に関して反対側(図8の右側)に設けている。その他の構成及び作用は、上記の図1から図5の第1の実施の形態と同様である。
【0060】
[複合磁気的多段変速機構の別例]
図9は、本発明に係る複合磁気的多段変速機構の別例を示す模式図である。本例の複合磁気的多段変速機構96aは、上記の図7に示した複合磁気的多段変速機構96と異なり、それぞれが上記の図8に示した第3の実施の形態の磁気的多段変速機構10aである、複数の磁気的多段変速機構10aを直線的に作動的に連結することにより構成している。すなわち、それぞれの磁気的多段変速機構10aの入力側部材12と出力側部材14とを、すべて同軸上に配置している。複数の磁気的多段変速機構10aのうち、最も出力側に配置される1の磁気的多段変速機構10a(図9の右端の磁気的多段変速機構10a)を除くそれぞれの磁気的多段変速機構10aを構成する出力側部材14を、別の磁気的多段変速機構10aを構成する入力側部材12にカップリング機構等の軸継手を介して、または直接に連結している。
【0061】
また、それぞれの磁気的多段変速機構10aにおいて、入力側部材12と出力側部材14との間での変速比を切り換え可能としている。その他の構成及び作用は、上記の図7に示した複合磁気的多段変速機構の1例または図8に示した第3の実施の形態の磁気的多段変速機構10aと同様である。
【0062】
[第4の発明の実施の形態]
図10は、本発明に係る第4の実施の形態の磁気的多段変速機構10bを示す略断面図である。本例の場合、上記の図8に示した第3の実施の形態の磁気的多段変速機構10aにおいて、ステータ16だけでなく、出力側部材14も図示しないハウジングに対し軸方向に移動可能としている。このため、出力側部材14を構成する軸部102を鉄等の磁性材製とするとともに、軸部102の径方向外側に第2コイル110を対向配置することにより、第2アクチュエータ112を構成している。第2コイル110へのいずれかの方向への通電により、出力側部材14は軸方向のいずれかの方向へ変位可能とする。また、入力側部材12に第1内側ロータ24及び第2内側ロータ26を設けるとともに、出力側部材14に第1内側ロータ24及び第2内側ロータ26のそれぞれに対向するように、第1外側ロータ34及び第2外側ロータ36を設けている。このような第2アクチュエータ18は、上記の図3(a)(b)に示したいずれかの構成と同様に構成することもできる。
【0063】
また、ステータ16を構成する筒部114の先端部に磁気特性変化部44を設けるとともに、磁気特性変化部44から外れた軸方向中間部に、第2磁気特性変化部116を設けている。第2磁気特性変化部116は、周方向に関して磁気特性を交互に変化させる。例えば、第2磁気特性変化部116は、周方向複数個所等間隔位置に軸方向に長いスリット118を形成することにより構成する。また、磁気特性変化部44を構成する柱部46の数と、第2磁気特性変化部44を構成する、周方向に隣り合うスリット118の間に設けられる柱部120の数とを互いに異ならせている。
【0064】
このように出力側部材14と、ステータ16とをそれぞれハウジングに対し軸方向に移動可能とし、さらに、ステータ16は、軸方向に離れた磁気特性変化部44及び第2磁気特性変化部116を含み、各磁気特性変化部44,116は、互いに異なる数の磁性材製の柱部46,120が周方向に並ぶように配置されている。また、出力側部材14は、軸方向に離れた第1外側ロータ34及び第2外側ロータ36を含み、各外側ロータ34,36,38は、互いに異なる数の外側永久磁石が周方向に並ぶように配置されている。また、出力側部材14とステータ16との1または2を軸方向に移動させることにより、異なる変速比を有する複数の変速部同士の間で切り換え可能としている。
【0065】
例えば、第1外側ロータ34及び第1内側ロータ24の間に磁気特性変化部44を配置することにより1の変速部を実現した場合と、第1外側ロータ34及び第1内側ロータ24の間に第2磁気特性変化部116を配置することにより別の変速部を実現した場合とで、異なる変速比を実現可能としている。また、第1外側ロータ34を軸方向に移動させることにより、第1内側ロータ24の外側に第1外側ロータ34または第2外側ロータ36を選択的に対向させることを可能とし、第2内側ロータ26の外側に第1外側ロータ34または第2外側ロータ36を選択的に対向させることを可能としている。したがって、互いに異なる変速比を持つ最大で8の変速部が実現可能である。また、磁気特性変化部44、第2磁気特性変化部116を構成する柱部46,120の数をNsl(lは、1または2)とし、第1内側ロータ24、第2内側ロータ26に設けられた磁極の極対数をPim(mは、1または2)とし、第1外側ロータ34、第2外側ロータ36に設けられた磁極の極対数をPon(nは、1または2)とした場合に、切り換え可能なそれぞれの変速部でNsl=Pom+PinまたはNsl=Pom−Pinが成立するように構成している。
【0066】
アクチュエータ18及び第2アクチュエータ112の作動は、図示しない制御部で統合して制御する。すなわち、制御部に入力される等により取得される変速比の指令値に応じて、制御部は、選択したアクチュエータ18及び第2アクチュエータ112の1または2を作動させ、入力側部材12に動力が入力された場合に出力側部材14から所望の速度で動力を取り出し可能とする。その他の構成及び作用は、上記の図8に示した第3の実施の形態と同様である。
【0067】
なお、本例の構成において、出力側部材14のハウジングに対する軸方向の移動を不能とするとともに、入力側部材12のハウジングに対する軸方向の移動を可能とし、入力側部材12をアクチュエータ18とは別のアクチュエータにより移動させるように構成することもできる。また、入力側部材12及び出力側部材14に設けるロータと、ステータ16に設ける磁気特性変化部とを、それぞれ1または3以上とすることもできる。
【0068】
また、上記の各例の構成では、外側ロータを設ける部材を出力側部材14とし、内側ロータを設ける部材を入力側部材12としているが、本発明はこれに限らず、外側ロータを設ける部材を、動力が入力される入力側部材12とし、内側ロータを設ける部材を、動力が出力される出力側部材14とすることもできる。
【符号の説明】
【0069】
10,10a,10b 磁気的多段変速機構、12 入力側部材、14 出力側部材、16 ステータ、18 アクチュエータ、20 軸部、22 フランジ部、24 第1内側ロータ、26 第2内側ロータ、28 第3内側ロータ、30 小径筒部、32 大径筒部、34 第1外側ロータ、36 第2外側ロータ、38 第3外側ロータ、40 軸部、42 ステータ本体部、44 磁気特性変化部、46 柱部、48 コイル、50 回転軸、52 軸部、54 ボールねじ、56 筒部、57 永久磁石、58,60,62 内側永久磁石、64,66,68 外側永久磁石、70 第1変速部、72 第2変速部、74 第3変速部、76 第1内側ロータ、78 第2内側ロータ、80 第3内側ロータ、82 第4内側ロータ、84 第5内側ロータ、86 第1外側ロータ、88 第2外側ロータ、90 第3外側ロータ、92 第4外側ロータ、94 第5外側ロータ、96,96a 複合磁気的多段変速機構、98 動力伝達部、100 筒部、102 軸部、104 フランジ部、106 小径筒部、108 大径筒部、110 第2コイル、112 第2アクチュエータ、114 筒部、116 第2磁気特性変化部、118 スリット、120 柱部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに同軸に回転可能に配置された第1回転要素及び第2回転要素と、
第1回転要素に設けられた内側ロータであって、外周面にN極とS極とが周方向に交互に配置されるように設けられた複数の内側永久磁石を含む内側ロータと、
第2回転要素に設けられた外側ロータであって、内周面にN極とS極とが周方向に交互に配置されるように設けられた複数の外側永久磁石を含む外側ロータと、
内側、外側両ロータの間に径方向に離れて回転不能に配置され、周方向複数個所に磁性材製の柱部が配置される磁気特性変化部を含むステータと、を備え、
内側ロータ及び外側ロータに磁気特性変化部を径方向に対向させた部分により、第1及び第2回転要素間で動力を変速しながら伝達可能とする変速部を構成し、
変速部とは異なる変速比を有する別の変速部へ切り換え可能とすることを特徴とする磁気的多段変速機構。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気的多段変速機構において、
第1回転要素と第2回転要素とステータとのうち、1または2が、軸方向に離れた複数の内側ロータと外側ロータと磁気特性変化部とのいずれか1を含み、
少なくとも1の磁気特性変化部に設けられた柱部の数をNsとし、少なくとも1の内側ロータに設けられた磁極の極対数をPiとし、少なくとも1の外側ロータに設けられた磁極の極対数をPoとした場合に、切り換え可能なそれぞれの変速部でNs=Po+PiまたはNs=Po−Piが成立し、
第1回転要素と第2回転要素とステータとの少なくとも1を軸方向に移動させることにより、第1及び第2回転要素間での変速比を切り換え可能としたことを特徴とする磁気的多段変速機構。
【請求項3】
請求項2に記載の磁気的多段変速機構において、
第1回転要素は、軸方向に離れた複数の内側ロータを含み、各内側ロータは、互いに異なる数の内側永久磁石が周方向に並ぶように配置されており、
第2回転要素は、軸方向に離れた複数の外側ロータを含み、各外側ロータは、互いに異なる数の外側永久磁石が周方向に並ぶように配置されており、
ステータは、軸方向同位置の周方向複数個所に配置された磁性材製の柱部により構成する磁気特性変化部を含み、
柱部の数をNsとし、少なくとも1の内側ロータに設けられた磁極の極対数をPiとし、少なくとも1の外側ロータに設けられた磁極の極対数をPoとした場合に、切り換え可能なそれぞれの変速部でNs=Po+PiまたはNs=Po−Piが成立し、
ステータを軸方向に移動させ、1の内側ロータ及び外側ロータに磁気特性変化部を径方向に対向させた状態から、別の内側ロータ及び外側ロータに磁気特性変化部を径方向に対向させた状態に切り換えることにより、第1及び第2回転要素間での変速比を切り換え可能としたことを特徴とする磁気的多段変速機構。
【請求項4】
請求項3に記載の多段変速機において、
第1回転要素及び第2回転要素の一方の回転要素と、ステータとをそれぞれ軸方向に移動可能とし、
ステータは、軸方向に離れた複数の磁気特性変化部を含み、各磁気特性変化部は、互いに異なる数の磁性材製の柱部が周方向に並ぶように配置されており、
一方の回転要素は、軸方向に離れた複数の内側ロータまたは外側ロータを含み、各内側ロータまたは各外側ロータは、互いに異なる数の内側永久磁石または外側永久磁石が周方向に並ぶように配置されており、
柱部の数をNsとし、少なくとも1の内側ロータに設けられた磁極の極対数をPiとし、少なくとも1の外側ロータに設けられた磁極の極対数をPoとした場合に、切り換え可能なそれぞれの変速部でNs=Po+PiまたはNs=Po−Piが成立することを特徴とする磁気的多段変速機構。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1に記載の磁気的多段変速機構において、
第1回転要素は、動力が入力される入力側部材であり、
第2回転要素は、動力が出力される出力側部材であることを特徴とする磁気的多段変速機構。
【請求項6】
請求項5に記載の磁気的多段変速機構において、
出力側部材に、入力側部材の内側ロータを設ける側と軸方向に関して同じ側に外側ロータを設けていることを特徴とする磁気的多段変速機構。
【請求項7】
請求項5に記載の磁気的多段変速機構において、
出力側部材に、入力側部材の内側ロータを設ける側と軸方向に関して反対側に外側ロータを設けていることを特徴とする磁気的多段変速機構。
【請求項8】
それぞれ請求項5から請求項7のいずれか1に記載の磁気的多段変速機構である、複数の磁気的多段変速機構を作動的に連結することにより構成する複合磁気的多段変速機構であって、
少なくとも1の磁気的多段変速機構を構成する出力側部材を、別の磁気的多段変速機構を構成する入力側部材に、動力伝達部を介して、または直接に作動的に連結し、
それぞれの磁気的多段変速機構において、入力側部材と出力側部材との間での変速比を切り換え可能としていることを特徴とする複合磁気的多段変速機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−94742(P2011−94742A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250455(P2009−250455)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)