説明

磁気記録媒体の消磁装置及び消磁方法

【課題】消磁効率が良好で簡単な構成の磁気記録媒体の消磁装置及び消磁方法を提供する。
【解決手段】複数の永久磁石を列状に配設した一対の永久磁石列3a、3bと、磁気記録媒体1が当接して走行するガイド1とを備え、一対の永久磁石列3a、3bは対向して配置しており、一対の永久磁石列3a、3bを形成する前記各永久磁石の磁極は、永久磁石列3a、3bの列方向において磁場の方向が繰り返し反転する交番磁場を形成するように配置されており、一対の永久磁石列3a、3bは、磁気記録媒体1の搬送方向の上流側から下流側に向かうにつれて、一対の永久磁石列3a、3bの間隔が大きくなるように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体の消磁装置及び消磁方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体は、その製造工程の磁場配向に起因する残留磁化を消去するために消磁工程を設けて製造される。磁気記録媒体の消磁は、着磁工程となる塗布機内で広幅シートでの消磁、裁断後のパンケーキでの消磁、又は裁断後のテープ搬送装置上での消磁、磁気テープを組み込んだカートリッジの消磁が一般的である。
【0003】
いずれも、電磁石を用いる場合が多い。例えば、巻物状(パンケーキ等)の磁気記録媒体の消磁は、電磁石に交流電流を流し交番磁界を発生させ巻物を交番磁場の中を通してから遠ざけるというものである。また、シート状の磁気記録媒体の消磁では、専用の消磁ヘッドとこの消磁ヘッドに交流電流を流すドライバーとから構成された装置により、磁気記録媒体であるシートを交番磁界の中を通して遠ざけるというものである。
【0004】
これらの装置は、電磁石に流す電流コストが発生し、さらに電磁石に交流電流を流す際に生じる熱の冷却のための冷却装置と電磁石内の冷却構造とが必要となり、装置が大型化し、かつ冷却エネルギーを消費するという問題があった。
【0005】
これに対し、電流コストが発生せず、冷却エネルギーも消費しない永久磁石による消磁方法が提案されている(例えば特許文献1−4)。
【0006】
特許文献1には、磁性インクの転写ドラムの消磁機構であって、転写ドラムに沿って取りつけられ減衰する周期磁場を発生する多極磁石が提案されている。特許文献2には、円周上に複数の磁石が配設された一対のロールを対向させて回転させることにより、交番磁場を発生させる装置が提案されている。
【0007】
特許文献3には、磁界の強さの異なる複数の永久磁石を対向させて並べて、減衰する交番磁場を形成して消磁する方法が提案されている。特許文献4には、テープが進むにつれて次第に減少する磁界強度を作り出すために、磁気ヘッドをテープに対し所定の角度で傾斜させる技術が提案されている。
【特許文献1】特開昭63−220188号公報
【特許文献2】特開平1−271917号公報
【特許文献3】特開平2−101630号公報
【特許文献4】特開平9−97402号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に提案の技術では、多極磁石は1列に止まり、磁場強度の大きさが不十分であるという問題があった。特許文献2に提案の技術では、磁石を配設したロールを回転させるために装置が大掛かりになり、振動を嫌う場合には使用できないという問題があった。
【0009】
特許文献3に提案の技術では、磁界の強さが少しずつ異なる磁石を用意するのが困難であるという問題があった。特許文献4に提案の技術においても、特許文献1に提案の技術と同様に、永久磁石消去ヘッドは1列に止まり、磁場強度の大きさが不十分であるという問題があった。
【0010】
本発明は、前記のような従来の問題を解決するものであり、消磁効率が良好で簡単な構成の磁気記録媒体の消磁装置方法及び消磁方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の消磁装置は、複数の永久磁石を列状に配設した一対の永久磁石列と、磁気記録媒体が当接して走行するガイドとを備え、前記一対の永久磁石列は対向して配置しており、前記一対の永久磁石列を形成する前記各永久磁石の磁極は、前記永久磁石列の列方向において磁場の方向が繰り返し反転する交番磁場を形成するように配置されており、前記一対の永久磁石列は、前記磁気記録媒体の搬送方向の上流側から下流側に向かうにつれて、前記一対の永久磁石列の間隔が大きくなるように配置されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の消磁方法は、磁気記録媒体を搬送させながら前記磁気記録媒体を消磁する磁気記録媒体の消磁方法であって、一対の永久磁石列を対向するように配置し、前記永久磁石列の列方向において磁場の方向が繰り返し反転する交番磁場を形成するように、前記一対の永久磁石列を形成する前記各永久磁石の磁極を配置し、前記磁気記録媒体の搬送方向の上流側から下流側に向かうにつれて、前記一対の永久磁石列の間隔が大きくなるように、前記一対の永久磁石列を配置し、前記一対の永久磁石列の間に、前記磁気記録媒体を搬送させて前記磁気記録媒体を消磁することを特徴とする。
【0013】
本発明の第1の磁気記録媒体の製造方法は、消磁工程を含む磁気記録媒体の製造方法であって、前記消磁工程において、前記本発明の磁気記録媒体の消磁装置を使用することを特徴とする。
【0014】
本発明の第2の磁気記録媒体の製造方法は、消磁工程を含む磁気記録媒体の製造方法であって、前記消磁工程において、前記本発明の磁気記録媒体の消磁方法を使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、消磁効率が良好で構成も簡単になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の磁気記録媒体の消磁装置、消磁方法及び製造方法によれば、強い交番磁場を形成することができ、この交番磁場を徐々に減衰させることができるので、消磁効率が良好になる。また、主な構成が永久磁石及びその固定構造であるので。構成も簡単になる。
【0017】
前記本発明の消磁装置においては、前記一対の永久磁石列は、前記各永久磁石の先端面とこれと対向する前記各永久磁石の先端面とが対称軸面に対し略対称になるように配置されており、前記ガイドは、前記磁気記録媒体が前記対称軸面に略一致する位置を走行するように配置されていることが好ましい。この構成によれば、長手方向の磁場成分の強度が強い部分を磁気記録媒体が走行するので、磁気記録媒体の長手方向の磁化の消磁効率が良好になる。
【0018】
また、前記ガイドは、前記磁気記録媒体の搬送方向の上流側において、前記磁気記録媒体が、前記一対の永久磁石列のうち一方の前記永久磁石列の側に偏り、かつ前記磁気記録媒体が前記磁気記録媒体の搬送方向の上流側から下流側に向かうにつれて、前記偏りが減少するように配置されていることが好ましい。この構成によれば、磁気記録媒体の長手方向及び厚さ方向の双方の磁場成分が形成される部分を磁気記録媒体が走行するので、磁気記録媒体の長手方向及び厚さ方向の双方の消磁が可能になる。
【0019】
また、前記複数の永久磁石の磁力が略同一であることが好ましい。この構成によれば、徐々に減衰する交番磁場が容易かつ確実に得られ、磁石自体の入手も容易になる。
【0020】
また、前記各永久磁石列は、磁性体のヨークに固定されていることが好ましい。この構成によれば、より強い磁場強度が得られ、永久磁石列とテープガイドとの位置関係の調節も容易になる。
【0021】
また、前記一対の永久磁石列及び前記ガイドの位置関係が調節可能であることが好ましい。この構成によれば、消磁対象に応じて最適な位置関係を設定することができる。
【0022】
前記本発明の消磁方法においては、前記一対の永久磁石列を、前記各永久磁石の先端面とこれと対向する前記各永久磁石の先端面とが対称軸面に対し略対称になるように配置し、前記対称軸面に略一致する位置に前記磁気記録媒体を搬送させることが好ましい。この構成によれば、長手方向の磁場成分の強度が強い部分を磁気記録媒体が走行するので、磁気記録媒体の長手方向の磁化の消磁効率が良好になる。
【0023】
また、前記磁気記録媒体の搬送方向の上流側において、前記磁気記録媒体が、前記一対の永久磁石列のうち一方の前記永久磁石列の側に偏り、かつ前記磁気記録媒体の搬送方向の上流側から下流側に向かうにつれて、前記偏りが減少するように、前記磁気記録媒体を搬送させることが好ましい。この構成によれば、磁気記録媒体の長手方向及び厚さ方向の双方の磁場成分が形成される部分を磁気記録媒体が走行するので、磁気記録媒体の長手方向及び厚さ方向の双方の消磁が可能になる。
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施の形態について説明する。
【0025】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る消磁装置の概略図を示している。本図に示した消磁装置は、磁気記録媒体である磁気テープの消磁に用いる例を示している。第1ヨーク4aには、複数個の永久磁石を列状に配設した第1永久磁石列3aを設けている。同様に、第2ヨーク4bには第2永久磁石列3bを設けている。第1ヨーク4aと第2ヨーク4bとは対向させており、第1永久磁石列3aを形成する各永久磁石列の先端と、第2永久磁石列3bを形成する各永久磁石列の先端とが対向している。
【0026】
第1ヨーク4a及び第2ヨーク4bは、比透磁率の大きな材料(純鉄、センダスト、パーマロイなど)で形成したものである。永久磁石をこのようなヨークに配設することにより、より強い磁場強度が得られる。また、ヨークと永久磁石列とを一体に移動させることができるので、後に説明するような永久磁石列とテープガイドとの位置関係の調節も容易になる。
【0027】
第1ヨーク4aと第2ヨーク4bとの間には、テープガイド2が配設されている。テープガイド2の材料は、例えばアルミニウム、銅、セラミック、プラスチックなどの非磁性材料である。テープガイド2のガイド面2aに、磁気テープ1が当接して走行する。
【0028】
符号6で示した破線は、対称軸面を示している。図1のように消磁装置を側面側から見たときに、第1ヨーク4aの第1永久磁石列3aを構成する各永久磁石の先端面と、これと対向する第2ヨーク4bの第2永久磁石列3bを構成する各永久磁石の先端面は、対称軸面6に対し略対称に配置されている。
【0029】
テープガイド2は、テープガイド2のガイド面2aが、対称軸面6に略一致するように配設している。第1永久磁石列3aを構成する各永久磁石は、一方の磁極が第1ヨーク4a側、他方の磁極がテープガイド2側になるように配設している。
【0030】
同様に、第2永久磁石列3bを構成する各永久磁石は、一方の磁極が第2ヨーク4b側、他方の磁極がテープガイド2側になるように配設している。また、第1永久磁石列3a、第2永久磁石列3bのそれぞれにおいて、各永久磁石は隣り合うそれぞれの磁極が逆になるように配設している。このことにより、永久磁石列の列方向において磁場の方向が繰り返し反転する交番磁場を形成している。具体的には下記の通りである。
【0031】
図1の矢印7a、7bは、磁場の様子を概略的に示したものである。矢印7a、7bは、図示の便宜上、永久磁石列の一部にのみ付しているが、磁場の様子は永久磁石列の任意の部分において同様である。第1永久磁石列3aの磁場と第2永久磁石列3bの磁場とが重なり合う部分(矢印7a同士が重なり合う部分、矢印7b同士が重なり合う部分)に、磁気テープ1が走行している。このため、磁気テープ1の走行部分における磁場は、ほぼ磁気テープ1の長手方向の成分で構成されている。
【0032】
前記の通り、各永久磁石は隣り合うそれぞれの磁極が逆になるように配設している。このため、矢印7aと矢印7bとは磁場の向きは逆になっており、磁気テープ1の長手方向に形成される磁場成分の向きも逆になる。すなわち、磁気テープ1は、磁場の方向が繰り返し反転する(右向きと左向き)交番磁場が形成された部分を走行することになる。
【0033】
図2は、図1の矢印7a、7bを付した部分の拡大図である。図示を見易くするため、磁気テープ1及びテープガイド2の図示は省略している。点bは磁力線の頂点の位置に相当し、前記の通りこの部分を磁気テープ1が走行している。点bにおいては、符号10で示したように、磁場はほぼ磁気テープ1の長手方向の成分で構成されている。
【0034】
点cは、磁力線のうち頂点よりも永久磁石列に近づいた位置の点である。点cにおいては、符号11で示したように、右上方向に向いた磁場が形成される。この磁場は、符号11aで示したように磁気テープ1の長手方向の成分と、符号11bで示したように磁気テープ1の厚さ方向の成分とで構成されている。
【0035】
永久磁石の磁界強度は、3000G以上が好ましく、5000G以上がより好ましい。このような永久磁石としては、ネオジム磁石が好適である。永久磁石の幅寸法は、消磁しようとする磁気テープ1のテープ幅より大きいことが好ましい。
【0036】
永久磁石列の各永久磁石の間には、必要に応じて所定の大きさの非磁性材料で形成したスペーサ5が配設されている。スペーサ5の厚さは、特に制限されないが、0.1〜10mmが好ましい。この好ましい範囲は、消磁装置の小型化も考慮している。すなわち、スペーサ5の厚さが大きくなると、永久磁石列のピッチも大きくなる。このため、消磁装置の小型化を重視する場合は、スペーサ5の厚さは10mm以下が望ましい。また、スペーサ5の厚さ、スペーサ5の有無は、消磁効果に応じて設定すればよく、スペーサ5を介在させずに、各永久磁石同士を直接当接させた構成でもよい。
【0037】
第1永久磁石列3aの各永久磁石と第2永久磁石列3bの各永久磁石は、同極が対向するように配設している。このように、一対の永久磁石列を対向させることにより、対向させない場合に比較して、強い磁場を形成することができ、消磁効率を向上させることができる。
【0038】
ここで、第1永久磁石列3aの永久磁石の端部と、これに対向する第2永久磁石列3bの永久磁石の端部との間の距離を端部間距離dとする。端部間距離dは、磁気テープ1の走行方向の上流側(図1の左側)から下流側(図1の右側)に向かうにつれて大きくなるように設定している。このことにより、上流側から下流側に向かうにつれて、徐々に減衰する交番磁場が得られることになる。
【0039】
なお、端部間距離dの変化については、図1のように第1ヨーク4a及び第2ヨーク4bの永久磁石の配置面を平面とし、端部間距離dが直線状に変化するようにしたものでもよく、第1ヨーク4a及び第2ヨーク4bの永久磁石の配置面を曲面とし、端部間距離dが曲線状に変化するようにしたものでもよい。
【0040】
また、端部間距離dは、使用する磁石の磁界強度、消磁する磁気テープの保磁力(Hc)の大きさによって異なる。例えば、端部間距離dが最も小さい上流側において1〜6mmであることが好ましく、この場合の磁場強度としては、3000Oe以上が好ましく、5000Oe以上が好ましい。また、端部間距離dが最も大きい下流側において10〜30mmが好ましく、この場合の磁場強度としては50Oe以下が好ましく、20Oe以下がより好ましい。
【0041】
また、各永久磁石の磁力は略同一であることが好ましい。この構成によれば、端部間距離dの変化に応じて磁場強度が変化するので、前記のような徐々に減衰する交番磁場が容易かつ確実に得られる。また、磁石自体の入手も容易になる。
【0042】
テープガイド2は対向して配設される第1永久磁石列3a及び第2永久磁石列3bの間に配設され、その長さは第1永久磁石列3a及び第2永久磁石列3bの長さと同等か、それより大きいことが好ましい。
【0043】
次に、本実施の形態に係る消磁装置の動作について説明する。図1において、巻き出しリール(図示せず)から巻き出され、巻き取りリール(図示せず)に巻き取られる磁気テープ1は、図1の左側から消磁装置内に搬送される。
【0044】
この際、図1に示したように、磁気テープ1は、テープガイド2の一端に角度θの巻き付け角度で巻き付けられて、消磁装置の磁場内に侵入するように設定することが好ましい。このように、角度θを設けることにより、搬送される磁気テープ1に伴う同伴空気がテープガイド2の入口で遮断され、磁気テープ1はテーブガイド2上を安定して走行することができる。
【0045】
消磁装置入口側、すなわち磁気テープ1の搬送方向の上流側(図1の左側)は、端部間距離dが小さくなっており、強い磁場が形成される。入口付近の磁場強度は、磁気テープ1の保磁力(Hc)より大きいことが好ましく、保磁力の2倍以上であることがより好ましい。前記の通り、通常、入口付近の磁場強度は3000Oe以上が好ましく、5000Oe以上がより好ましい。出口付近の磁場強度は0Oeに近い方が好ましく、通常、50Oe以下が好ましく、20Oe以下がより好ましい。
【0046】
前記の通り、第1永久磁石列3aと第2永久磁石列3bとの間には、磁気テープ1の搬送方向の上流側から下流側に向かうにつれて、徐々に減衰する交番磁場が得られる。また、磁気テープ1の走行部分には、長手方向の磁場成分が繰り返し反転する交番磁場が形成される。このことにより、磁気テープの長手方向の磁化が消磁される。
【0047】
図3は、図1に示した消磁装置におけるテープガイド2上の磁場強度の一例を示している。破線は、磁気テープ1の長手方向(X方向)の磁場成分の強度を示している。実線は、磁気テープ1の厚さ方向(Y方向)の磁場成分の強度を示している。
【0048】
破線で示した磁場は、交番磁場であり、下流側に向かうにつれて徐々に減衰している。これは、前記の通り、図1において端部間距離dは、消磁装置入口側から出口側、すなわち磁気テープ1の搬送方向の上流側から下流側(図1の左側から右側)に向かうにつれて大きくなっているためである。
【0049】
一方、実線で示したように、磁気テープ1の厚さ方向については、上流側から下流側の全体に亘りほとんど磁場が形成されていない。これは、前記のように図1の消磁装置は、テープガイド2のガイド面2aを、対称軸面6と略一致するように配設しているので、磁気テープ1は磁気テープ1の厚さ方向の磁場成分がほとんど形成されない位置を走行するためである。
【0050】
すなわち、磁気テープ1の走行部分には、磁気テープ1の厚さ方向の磁場成分は、ほとんど形成されず、長手方向の磁場成分が繰り返し反転する交番磁場が形成されることになる。このことにより、前記の通り、磁気テープの長手方向の磁化が効率良く消磁されることになる。
【0051】
なお、前記の説明において、一対の永久磁石列を構成する各永久磁石の先端面は、対称軸面6に対し略対称に配置され、テープガイド2のガイド面2aは、対称軸面6に略一致するように配設している例で説明した。これは、各永久磁石の先端面が対称軸面6に対し完全対称に配置されていなくても、略対称に配置されていれば対称軸面6の位置は、長手方向の磁場成分の強度が強い部分であることに変りないためである。同様に、対称軸面6に完全一致する位置ではなく、略一致する位置であっても、長手方向の磁場成分の強度が強い部分であることに変りない。
【0052】
一方、各部材の配置位置の設定の程度により、磁気テープ1が例えば図2の点cの部分のように、磁気テープ1の厚さ方向の磁場成分が形成される部分を走行する場合もある。このような場合であっても、磁気テープ1の長手方向の磁場成分は確保されているので、以下の実施の形態2で説明するように、磁気テープ1の長手方向の磁化の消磁は可能である。
【0053】
(実施の形態2)
図4は、本発明の実施の形態2に係る消磁装置の概略図を示している。図4に示した消磁装置は、各構成部分は図1の消磁装置と同じであるが、テープガイド2の配置が図1の消磁装置と異なっている。実施の形態1と同一構成のものは、同一符号を付してその説明は省略する。
【0054】
図4に示した消磁装置のテープガイド2の配置は、図1においてテープガイド2を、A点を中心として時計回転方向(矢印a方向)に回転させた状態に相当する。A点は、永久磁石列3a、3bの両端のうち、磁気テープ1の搬送方向の下流側の端部に対応する対称軸面6上の点である。
【0055】
したがって、図4のテープガイド2は、磁気テープ1の搬送方向の上流側において、図1の配置に比べ、第1永久磁石列3a側に偏っており、この偏りは上流側から下流側に向かうにつれて、徐々に減少していくことになる。このため、磁気テープ1は、A点に至るまでは、図2に示したような磁力線の頂点に相当する点bの位置から外れた位置を走行することになる。すなわち、磁気テープ1は、磁気テープ1の長手方向の成分と磁気テープ1の厚さ方向の成分とで磁場が構成されている部分を通過することになる。
【0056】
この構成によれば、磁気テープ1の走行部分には、磁気テープ1の長手方向及び磁気テープ1の厚さ方向の双方において、下流側に向かうにつれて減衰する交番磁場が得られる。このことについて、図5を参照しながら具体的に説明する。
【0057】
図5は、図4に示した消磁装置におけるテープガイド2上の磁場強度の一例を示している。破線は、磁気テープ1の長手方向(X方向)の磁場成分の強度を示している。実線は、磁気テープ1の厚さ方向(Y方向)の磁場成分の強度を示している。
【0058】
破線で示した長手方向の磁場成分は、交番磁場であり、下流側に向かうにつれて徐々に減衰している。これは、図3の消磁装置においても、図1の消磁装置と同様に、端部間距離dが、消磁装置入口側から出口側に向かうにつれて大きくなっていることには変りないからである。
【0059】
図4の構成では、前記の通り、テープガイド2を第1永久磁石列3a側に偏るように配置している。したがって、ガイド面2aは、磁気テープ1の厚さ方向の磁場成分が形成される位置にあることになる。図4の構成においても、永久磁石列の隣り合う永久磁石は、それぞれの磁極が逆になるように配設されている。このため、磁気テープ1の厚さ方向の磁場成分についても、磁気テープ1の長手方向の磁場成分と同様に、磁場成分の方向が繰り返し反転する(上向きと下向き)交番磁場が形成されることになる。
【0060】
また、ガイド面2aの偏りは磁気テープの搬送方向の下流側に向かうにつれて減少するので、ガイド面2aの位置では、磁気テープ1の厚さ方向の磁場成分の磁場強度は、下流側に向かうにつれて減少することになる。図5の実線はこの様子を示しており、磁気テープ1の厚さ方向の交番磁場は下流側に向かうにつれて徐々に減衰している。
【0061】
すなわち、図4のように、ガイド面2aを対称軸面6から偏らせた構成では、図5のように、X方向及びY方向の双方において、下流側に向かうにつれて減衰する交番磁場が得られるので、磁気テープ1の長手方向のみならず磁気テープ1の厚さ方向の磁化も消磁することが可能となり、厚さ方向の消磁を必要とする場合に、改めて厚さ方向の消磁をする必要がなくなる。
【0062】
なお、ガイド面2aの偏りは大きい方が好ましく、磁石列により近づくことが好ましいので、ガイド面2aはガイド面2aに対向する第1永久磁石列3a側に偏るように配置することが好ましい。
【0063】
(実施の形態3)
図6は、本発明の実施の形態3に係る消磁装置の概略図を示している。本実施の形態は、消磁装置の構成部品の位置調節機構に関するものであり、前記の各実施の形態に用いることができる。前記各実施の形態と同一構成のものは、同一符号を付してその説明は省略する。
【0064】
図6の構成は、第1ヨーク4aと第2ヨーク4bとを第1固定治具8及び第2固定治具9を介して固定している。より具体的には、磁気テープ1の搬送方向の上流側において、第1固定治具8の各スリット孔の位置に、固定ネジ8a、8bを締め付けて、第1ヨーク4aと第2ヨーク4bとを固定している。同様に磁気テープ1の搬送方向の下流側において、第2固定治具9の各スリット孔の位置に、固定ネジ9a、9bを締め付けて、第1ヨーク4aと第2ヨーク4bとを固定している。
【0065】
この構成によれば、各固定ネジを緩めることにより、磁気テープ1の搬送方向の上流側及び下流側において、第1永久磁石列3aと第2永久磁石列3bとの間の対向距離を自在に変化させることができる。
【0066】
このことにより、第1永久磁石列3a、第2永久磁石列3b及びテープガイド2の3者間の位置関係を調節することが可能になる。例えば、前記の図1の設定から図3への設定の変更も可能になる。
【0067】
なお、図4の設定は、図1の設定において第1永久磁石列3aと第2永久磁石列3bとの位置関係は保持しつつ、テープガイド2を回転移動させた例として説明した。本実施の形態3の調節機構は、テープガイド2の位置を調節するものではないが、第1永久磁石列3a及び第2永久磁石列3bの位置を調節することにより、図1の設定から図4の設定への変更が可能になる。
【0068】
また、第1永久磁石列3a、第2永久磁石列3b及びテープガイド2の3者間の位置関係を調節できればよく、図6の例に限らず、公知の固定方法を用いることができる。
【0069】
以上、磁気記録媒体の消磁装置、消磁方法について説明したが、これらは、磁気記録媒体の一連の製造工程に含まれる消磁工程において用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、消磁効率が良好で簡単な構成の磁気記録媒体の消磁装置及び消磁方法が得られるので、本発明は、磁気記録媒体の製造工程における消磁装置及び消磁方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施の形態1に係る消磁装置の概略図。
【図2】図1の矢印7a、7bを付した部分の拡大図。
【図3】本発明の実施の形態1に係る消磁装置のテープガイド2上の磁場強度の一例を示す図。
【図4】本発明の実施の形態2に係る消磁装置の概略図。
【図5】本発明の実施の形態2に係る消磁装置のテープガイド2上の磁場強度の一例を示す図。
【図6】本発明の実施の形態3に係る消磁装置の概略図。
【符号の説明】
【0072】
1 磁気テープ
2 テープガイド
2a ガイド面
3a 第1永久磁石列
3b 第2永久磁石列
4a 第1ヨーク
4b 第2ヨーク
5 非磁性スペーサ
6 対称軸面
8 第1固定治具
8a,8b,9a,9b 固定ネジ
9 第2固定治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の永久磁石を列状に配設した一対の永久磁石列と、
磁気記録媒体が当接して走行するガイドとを備え、
前記一対の永久磁石列は対向して配置しており、
前記一対の永久磁石列を形成する前記各永久磁石の磁極は、前記永久磁石列の列方向において磁場の方向が繰り返し反転する交番磁場を形成するように配置されており、
前記一対の永久磁石列は、前記磁気記録媒体の搬送方向の上流側から下流側に向かうにつれて、前記一対の永久磁石列の間隔が大きくなるように配置されていることを特徴とする磁気記録媒体の消磁装置。
【請求項2】
前記一対の永久磁石列は、前記各永久磁石の先端面とこれと対向する前記各永久磁石の先端面とが対称軸面に対し略対称になるように配置されており、前記ガイドは、前記磁気記録媒体が前記対称軸面に略一致する位置を走行するように配置されている請求項1に記載の磁気記録媒体の消磁装置。
【請求項3】
前記ガイドは、前記磁気記録媒体の搬送方向の上流側において、前記磁気記録媒体が、前記一対の永久磁石列のうち一方の前記永久磁石列の側に偏り、かつ前記磁気記録媒体が前記磁気記録媒体の搬送方向の上流側から下流側に向かうにつれて、前記偏りが減少するように配置されている請求項1に記載の磁気記録媒体の消磁装置。
【請求項4】
前記複数の永久磁石の磁力が略同一である請求項1に記載の磁気記録媒体の消磁装置。
【請求項5】
前記各永久磁石列は、磁性体のヨークに固定されている請求項1に記載の磁気記録媒体の消磁装置。
【請求項6】
前記一対の永久磁石列及び前記ガイドの位置関係が調節可能である請求項1に記載の磁気記録媒体の消磁装置。
【請求項7】
磁気記録媒体を搬送させながら前記磁気記録媒体を消磁する磁気記録媒体の消磁方法であって、
一対の永久磁石列を対向するように配置し、
前記永久磁石列の列方向において磁場の方向が繰り返し反転する交番磁場を形成するように、前記一対の永久磁石列を形成する前記各永久磁石の磁極を配置し、
前記磁気記録媒体の搬送方向の上流側から下流側に向かうにつれて、前記一対の永久磁石列の間隔が大きくなるように、前記一対の永久磁石列を配置し、
前記一対の永久磁石列の間に、前記磁気記録媒体を搬送させて前記磁気記録媒体を消磁することを特徴とする磁気記録媒体の消磁方法。
【請求項8】
前記一対の永久磁石列を、前記各永久磁石の先端面とこれと対向する前記各永久磁石の先端面とが対称軸面に対し略対称になるように配置し、前記対称軸面に略一致する位置に前記磁気記録媒体を搬送させる請求項1に記載の磁気記録媒体の消磁方法。
【請求項9】
前記磁気記録媒体の搬送方向の上流側において、前記磁気記録媒体が、前記一対の永久磁石列のうち一方の前記永久磁石列の側に偏り、かつ前記磁気記録媒体の搬送方向の上流側から下流側に向かうにつれて、前記偏りが減少するように、前記磁気記録媒体を搬送させる請求項1に記載の磁気記録媒体の消磁方法。
【請求項10】
消磁工程を含む磁気記録媒体の製造方法であって、前記消磁工程において、請求項1から6のいずれかに記載の磁気記録媒体の消磁装置を使用することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項11】
消磁工程を含む磁気記録媒体の製造方法であって、前記消磁工程において、請求項7から9のいずれかに記載の磁気記録媒体の消磁方法を使用することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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