説明

磁気記録媒体の製造方法と磁気記録媒体原反用巻芯

【課題】
磁気テープの巻き姿を良好にし、エッジ折れ、又は磁気テープの走行性の悪化等を低減させる磁気記録媒体の製造方法を提供すること。
【解決手段】
ロール状に巻回された広幅の磁気テープ原反44が長尺形状に裁断されてテープハブ76に巻き取られる磁気記録媒体の製造方法において、磁気テープ原反44を外周面が一定方向に傾斜した巻芯10へ巻取り熱処理を行なうことによって、磁気テープ原反44の状態で一定方向の湾曲癖が形成され、容易に磁気テープの巻き姿を良好にすることが可能となり、エッジ折れ、又は磁気テープの走行性の悪化等を低減させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体原反を裁断して巻き取りハブに巻き取る磁気記録媒体の製造方法と、磁気記録媒体原反を巻回する巻芯に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オーディオ、ビデオ、放送、コンピュータ等に使用されるテープ状の磁気記録媒体は、磁性微粒子と樹脂バインダとを含有する磁気塗料が、ポリエステル等の素材で作られた広幅の原反フィルムへ塗布、乾燥され、カレンダ処理、熱処理等の各工程を経て、所定の幅に裁断して製造されている。
【0003】
裁断後の磁気記録媒体(磁気テープ)は、樹脂製のテープハブに巻き取られる。このようなテープハブに磁気テープを巻回したテープ巻取体は、業界内では一般にパンケーキと称呼されている。パンケーキは、種々の処理がなされるため、何回か巻き返しが行なわれ、最終出荷形態としてカセットに巻き込まれて出荷される。
【0004】
しかし、カセットに巻き込まれた磁気テープの巻き姿が良くないと、輸送中に磁気テープのエッジが折れる、又は磁気再生装置等で磁気テープを使用する際に磁気テープの走行性が悪くなる等の問題が発生する。
【0005】
通常、図6に示すように巻芯5に巻かれた磁気テープ原反ロール6は、ロール両端部の厚さよりもロール中央部の厚さが厚い中高ロール形状に巻回されており、図7(a)、(b)に示されるように、裁断された磁気テープ1には、長手方向に沿って湾曲癖がつく。湾曲癖は、磁気テープを平坦面上に置いたときの所定直線長さLに対する湾曲幅Dで湾曲程度が表され、最終出荷形態としてカセットに巻き込まれた状態が、上に凸状を呈するものを+、上に凹状を呈するものを−と称している。
【0006】
中高ロール形状の磁気テープ原反から裁断された磁気テープ1は、採取する磁気テープ原反の幅方向部位により+方向への湾曲、−方向への湾曲、及び磁気テープ原反ロールの幅方向中央部近傍より採取された湾曲のないものが生じる。このとき、最終出荷形態としてカセットに巻き込まれた状態で巻姿が良くなるのは湾曲が+方向のものとされ、−方向への湾曲は悪いとされる。
【0007】
例えば、図8に示すように、湾曲癖のある磁気テープ1をテープハブ2に巻き取ってパンケーキ3を製造した場合、+方向への湾曲を有する磁気テープ1は、カセット4に巻き込まれた状態において、図8(a)に示される様に下フランジに沿って巻かれた良好な形状となり、−方向への湾曲を有する磁気テープ1は図8(b)に示される形状となる。
【0008】
このように、+方向への湾曲を有する磁気テープを巻き取れば巻き姿は良好になる。しかし、湾曲癖は、磁気テープ原反ロールの中高形状や磁気テープベースの厚さムラ等に起因してほぼ一定確率で生じるため、+方向へ湾曲したものだけを製造するには、選別工程や巻き返し工程が必要となる。これに対し、好ましい+方向への湾曲のものだけを製造する技術として、傾斜のついたにテープハブへ裁断した後の磁気テープを巻取ることにより、一定方向の湾曲をつける磁気テープの製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平9−138945号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に記載されているような製造方法で製造を行なった場合、裁断後の磁気テープは、非常に本数が多い為、湾曲を均一にするには非効率的であり、コストも多大にかかる。
【0010】
本発明は、このような問題に対して成されたものであり、磁気テープの湾曲を+方向に一様に形成することにより、容易に磁気テープの巻き姿を良好にすることが可能となり、エッジ折れ、又は磁気テープの走行性の悪化等を低減させる磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は前記目的を達成するために、ロール状に巻回された広幅の磁気記録媒体原反が長尺形状に裁断されてテープハブに巻き取られる磁気記録媒体の製造方法において、裁断前の前記磁気記録媒体原反を外周面が一定方向に傾斜した巻芯へ巻取り熱処理を行なうことを特徴とする。
【0012】
また、前記巻芯の傾斜は、該巻芯の軸方向の12.65mmの間隔における、大口径側の直径と、小口径側の直径との差を求め、前記差を該小口径側の直径で割ることにより求めた値を1000倍した値が0.05以上0.35以下である。
【0013】
本発明によれば、裁断前の磁気記録媒体原反(磁気テープ原反)を、外周面が一定方向に傾斜した巻芯へ巻取った後に熱処理工程を行なう。これにより、磁気テープ原反には一様な湾曲が形成される。裁断工程(スリット工程)後にテープハブへ巻き取られた磁気テープには、一様に図7(a)に示すような、ドライブ走行時に上になるエッジが下になるエッジより長くなる+方向の湾曲が既に形成されている為、効率的に磁気テープの巻き姿を良好にすることが可能となる。
【0014】
なお、本発明で前記巻芯に巻回される磁気テープ原反は、幅が300mm以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明の磁気記録媒体の製造方法によれば、容易に磁気テープの巻き姿を良好にすることが可能となり、エッジ折れ、又は磁気テープの走行性の悪化等を低減させることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面に従って本発明に係る磁気記録媒体の製造方法について説明する。
【0017】
まず、磁気記録媒体の製造工程について説明する。磁気記録媒体の製造工程は、通常、塗布乾燥工程、カレンダ工程、熱処理工程、裁断(スリット)工程の順に行なわれる。これらの工程を経て、磁気記録媒体の原反をテープハブに巻かれた長尺形状の磁気記録媒体(パンケーキ)へ加工する。
【0018】
図1は塗布乾燥工程を示す構成図である。図1に示すように、塗布工程は主として、送出リール装置32、磁性液塗布装置34、第1乾燥装置36、バック層液塗布装置38、第2乾燥装置40、及び巻取リール装置42で構成される。
【0019】
送出リール装置32から送り出された磁気テープ原反44は、磁性液塗布装置34によって磁性塗布液が塗布された後、第1乾燥装置36内を搬送されて、磁性層が乾燥される。磁性層が乾燥された磁気テープ原反44は、バック層液塗布装置38によって裏面(塗布面の反対側面)にバック層液が塗布される。バック層液が塗布された磁気テープ原反44は、乾燥ゾーン及び熱処理ゾーンを備えた第2乾燥装置40内を搬送されて乾燥と熱処理が施される。
【0020】
第2乾燥装置40を通過した磁気テープ原反44は、欠陥検出装置46に導入される。欠陥検出装置46によって欠陥故障が検出された後、磁気テープ原反44は巻取リール装置42に備えられた巻芯10巻き取られる。これにより、支持体に磁性塗布液とバック層塗布液を塗布した磁気テープ原反44が製造される。
【0021】
なお、図1では、第2乾燥装置40に乾燥ゾーン及び熱処理ゾーンを設けるようにしたが、乾燥ゾーン及び熱処理ゾーンを別装置として分離してもよい。また、図1の符号48は、溝付き吸引ドラムであり、その吸引力や回転速度を制御して吸引ドラム面における支持体のすべり具合を調整することで、搬送される磁気テープ原反44のテンションを調整する、又は磁気テープ原反44の安定搬送を行うことができる。なお、テンション調整には溝付き吸引ドラム48を用いたドロー方式の他に、ダンサローラを用いたダンサ方式でもよい。
【0022】
図2はカレンダ工程を示す構成図である。図2に示すように、カレンダ工程は主として、送出リール装置56、カレンダローラ58、59、60、欠陥検出装置64、及び巻取リール装置62で構成される。
【0023】
図1の巻取リール装置42に巻き取られたロール状の磁気テープ原反44は、図2の送出リール装置56に移載される。移載された磁気テープ原反44は、送出リール装置56から繰り出され、カレンダローラ58〜60同士の間を挟持搬送される。これにより、磁気テープ原反44は、カレンダ処理されて磁性層面とバック層面が平滑化される。
【0024】
カレンダ処理された磁気テープ原反44は、欠陥検出装置64に導入され、欠陥検出装置64によって、磁気テープ原反44の欠陥故障の位置、及び幅寸法を測定する。測定後の磁気テープ原反44は、巻取リール装置62に備えられた巻芯10巻き取られる。
【0025】
図3は熱処理工程を示す構成図である。熱処理工程は、ロール状の磁気テープ原反44の熱収縮率を均一化するための熱処理、又は、磁気テープ原反44の磁性層面の表面粗さを均一化するための熱処理の少なくとも一方の熱処理を行う。
【0026】
図3に示すように、磁気テープ原反44は、ロール状態のまま恒温室66に搬入され、巻芯10に取り付けた軸68が一対の支柱69、69に掛け渡される。恒温室66は、一定の温度に保たれ、巻芯10に巻かれた磁気テープ原反44を所定時間放置して熱処理を行なう。
【0027】
図4は、スリット工程を示す構成図である。図4に示すように、スリット工程は主として、巻き戻しリール70、フィードローラ72、スリッタ74、及びテープハブ76で構成される。
【0028】
巻き戻しリール70には、熱処理されたロール状の磁気テープ原反44が装着される。この磁気テープ原反44は、フィードローラ72を駆動することによって巻き戻しリール70から連続的に引き出される。
【0029】
フィードローラ72は、磁気テープ原反44を走行させるためのローラであり、例えば、サクションドラムが使用される。サクションドラムは、磁気テープ原反44を表面に吸着しながら回転するドラムであり、ドラムの表面に溝を形成し、磁気テープ原反44の保持力を増加させるとよい。なお、フィードローラ72として、磁気テープ原反44を挟圧して搬送する一対のニップローラなど、他の公知のフィード手段を使用してもよい。
【0030】
フィードローラ72によって巻き戻しリール70から送り出された磁気テープ原反44は、複数のガイドローラ78、78…にガイドされながらスリッタ74に送られる。スリッタ74は、円盤形状の回転上刃80と、円筒状の回転下刃82とから成り、回転上刃80は、磁気テープ原反44の幅方向に一定間隔で複数配置される。
【0031】
回転する回転上刃80と回転下刃82との間に磁気テープ原反44が導入されると、磁気テープ原反44は、受け刃である回転下刃82へ巻きかけられながら、複数の回転上刃80によって剪断力が付与され、多数本(例えば100〜500本)に裁断される。
【0032】
これにより、規定の幅寸法(例えば12.65mm、25.4mm、3.81mm等)の磁気テープ84、84が製造される。磁気テープ84、84は、ガイドローラ86、86に巻きかけられた後、テープハブ76、76に巻回される。
【0033】
以上のような工程を経て磁気テープ原反44は、テープハブ76に巻かれたパンケーキの状態となる。
【0034】
次に、本発明に係る巻芯について説明する。図5は巻芯の形状と、磁気テープ原反44を巻き取った状態を示した斜視図である。
【0035】
巻芯10は、外周面が一定方向に傾斜した棒状の磁気テープ原反巻取り用巻芯である。図5の(a)に示すように、巻芯10の長手方向の12.65mmの間隔において、小口径の直径をd、大口径側の直径をDとしたとき、その直径の差をD-d=Δdとする。このΔdを、小口径の直径dで割った値を1000倍したものを(Δd/d)×1000=Aとする。巻芯10の傾斜の大きさは、このAの値が0.05≦A≦0.35になるように形成されている。
【0036】
巻芯10は、前記傾斜の大きさが保たれるのであれば、他の部分の形状は問わない。また、傾斜は、既に傾斜が形成された他の部材を取り付ける、金属や樹脂等で構成された部材を切削などの機械加工により形成する、又は通常傾斜の無いものが磁気テープ原反を巻回することにより傾斜が形成されるもの等、いずれの方法で形成されたものでも好適に使用できる。
【0037】
このような巻芯10に巻回された磁気テープ原反44は、図5(b)に示すように一定方向に傾斜したロール状になる。この状態で図3に示す熱処理工程を行なうことにより、磁気テープ原反44の全面で同一方向の湾曲癖が形成される。これにより、スリットされた磁気テープ原反44は、同一方向に湾曲している為、+方向へ湾曲したものだけを製造することが可能となり、選別工程や巻き返し工程が不要となる。
【0038】
なお、巻芯10の傾斜は、Aの値が0.05≦A≦0.35になるように形成されているが、好ましくは0.05≦A≦0.3であり、更に好ましくは0.1≦A≦0.25であるものが好適に使用できる。Aの値が、0.05未満の場合は湾曲を形成する効果がない為好ましくない。また、Aの値が0.35超では湾曲程度が大き過ぎ、磁気テープ走行中のテープエッジ削れ、耐久性の低下、及び巻取り時の放射の発生等の原因となるため好ましくない。
【0039】
また、外周面が一定方向に傾斜した巻芯10へ磁気テープ原反44を巻回するのは、熱処理工程前であれば、いずれの工程において巻回されてもよく、それ以外においては傾斜の無い通常の巻芯へ巻回されていてもよい。
【0040】
以上説明したように、本発明に係る磁気記録媒体の製造方法によれば、磁気テープ原反の状態で一定方向の湾曲癖を形成される。これにより、容易に磁気テープの巻き姿を良好にすることが可能となり、エッジ折れ、又は磁気テープの走行性の悪化等を低減させることが出来る。
【0041】
尚、本実施の形態において、磁気テープ原反44に使用される磁気記録媒体は以下のような構成で製造される。
【0042】
磁気テープ(磁気記録媒体)は、基本的にベースフィルムの一方の面に磁性層、他方の面にバックコート層を有する構成のものを意味し、たとえばベースフィルムと磁性層との間に更に非磁性層を設けた構成の磁気記録媒体であってもよい。また、両面が磁性層のものであってもよい。
【0043】
ベースフィルムとしては、従来から磁気記録媒体のベースフィルム材料として用いられているものを使用することができ、特に非磁性のものが好ましい。これらの例としては、ポリエステル類(例、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンナフタレートとの混合物、エチレンテレフタレート成分とエチレンナフタレート成分を含む重合物)、ポリオレフィン類(例、ポリプロピレン)、セルロース誘導体類(例、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート)、ポリカーボネート、ポリアミド(中でも芳香族ポリアミド、アラミド)、ポリイミド(中でも全芳香族ポリイミド)などの合成樹脂フィルムを挙げることができる。これらの中では、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、芳香族ポリアミド及びアラミドが好ましい。
【0044】
ベースフィルムの厚みは、特に制限はないが、2〜8μm(更に好ましくは、3〜8μm、特に好ましくは、3〜7μm)の範囲にあることが好ましい。
【0045】
磁性層は、基本的には強磁性粉末及び結合剤から形成されている。また、磁性層には、通常、さらに潤滑剤、導電性粉末としてカーボンブラック、そして研磨剤が含有されている。
【0046】
強磁性粉末としては、たとえばγ−Fe2O3 、Fe3O4 、FeOx (x=1.33〜1.5)、CrO2 、Co含有γ−Fe2 O3、Co含有FeOx (x=1.33〜1.5)、強磁性金属粉末及び板状六方晶フェライト粉末を挙げることができる。本発明においては、強磁性粉末として、強磁性金属粉末又は板状六方晶フェライト粉末の使用が好ましい。特に好ましくは強磁性金属粉末である。
【0047】
強磁性金属粉末は、その粒子の比表面積が好ましくは30〜70m2 /gであって、X線回折法から求められる結晶子サイズは、50〜300Aである。比表面積が余り小さいと高密度記録に充分に対応できなくなり、余り大き過ぎても分散が充分に行えず、従って平滑な面の磁性層が形成できなくなるため同様に高密度記録に対応できなくなる。強磁性金属粉末は、少なくともFeを含むことが必要であり、具体的には、Fe、Fe−Co、Fe−Ni、Fe−Zn−Ni又はFe−Ni−Coを主体とした金属単体あるいは合金である。またこれらの強磁性金属粉末の磁気特性については、高い記録密度を達成するために、その飽和磁化量(σs )は110emu/g以上、好ましくは120emu/g以上、170emu/g以下である。又保磁力(Hc)は、800〜3000エルステッド(Oe)(好ましくは、1500〜2500Oe)の範囲である。そして、透過型電子顕微鏡により求められる粉末の長軸長(すなわち、平均粒子径)は、0.5μm以下、好ましくは、0.01〜0.3μmで軸比(長軸長/短軸長、針状比)は、5以上、20以下、好ましくは、5〜15である。更に特性を改良するために、組成中にB、C、Al、Si、P等の非金属、もしくはその塩、酸化物が添加されることもある。通常、前記金属粉末の粒子表面は、化学的に安定化させるために酸化物の層が形成されている。
【0048】
また、板状六方晶フェライト粉末は、その比表面積は25〜65m2 /gであって、板状比(板径/板厚)が2〜15、板径は0.02〜1.0μmである。板状六方晶フェライト粉末は、強磁性金属粉末と同じ理由から、その粒子サイズが大きすぎても小さすぎても高密度記録が難しくなる。板状六方晶フェライトとしては、平板状でその平板面に垂直な方向に磁化容易軸がある強磁性体であって、具体的には、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、鉛フェライト、カルシウムフェライト、及びそれらのコバルト置換体等を挙げることができる。これらの中では、特にバリウムフェライトのコバルト置換体、ストロンチウムフェライトのコバルト置換体が好ましい。本発明で用いる板状六方晶フェライトには、更に必要に応じてその特性を改良するためにIn、Zn、Ge、Nb、V等の元素を添加してもよい。また、これらの板状六方晶フェライト粉末の磁気特性については、高い記録密度を達成するために、前記のような粒子サイズが必要であると同時に飽和磁化(σs )は少なくとも50emu/g以上、好ましくは53emu/g以上である。また、保磁力は、700〜2000エルステッド(Oe)の範囲であり、900〜1600Oeの範囲であることが好ましい。
【0049】
上記の強磁性粉末の含水率は0.01〜2重量%とすることが好ましい。また結合剤の種類によって含水率を最適化することが好ましい。強磁性粉末のpHは用いる結合剤との組み合わせにより最適化することが好ましく、そのpHは通常4〜12の範囲であり、好ましくは5〜10の範囲である。強磁性粉末は、必要に応じて、Al、Si、P又はこれらの酸化物などで表面処理を施してもよい。表面処理を施す際のその使用量は、通常強磁性粉末に対して、0.1〜10重量%である。表面処理を施すことにより、脂肪酸などの潤滑剤の吸着を100mg/m2 以下に抑えることができる。強磁性粉末には可溶性のNa、Ca、Fe、Ni、及びSrなどの無機イオンが含まれる場合があるが、その含有量は5000ppm以下であれば特性に影響を与えることはない。
【0050】
潤滑剤は、磁性層表面ににじみ出ることによって、磁性層表面と磁気ヘッド、ドライブのガイドポールとシリンダとの間の摩擦を緩和し、摺接状態を円滑に維持させるために添加される。潤滑剤としては、たとえば、脂肪酸、あるいは脂肪酸エステルを挙げることができる。脂肪酸としては、たとえば、酢酸、プロピオン酸、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、アラキン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸、及びパルミトレイン酸等の脂肪族カルボン酸またはこれらの混合物を挙げることができる。
【0051】
また、脂肪酸エステルとしては、たとえばブチルステアレート、sec −ブチルステアレート、イソプロピルステアレート、ブチルオレエート、アミルステアレート、3−メチルブチルステアレート、2−エチルヘキシルステアレート、2−ヘキシルデシルステアレート、ブチルパルミテート、2−エチルヘキシルミリステート、ブチルステアレートとブチルパルミテートの混合物、オレイルオレエート、ブトキシエチルステアレート、2−ブトキシ−1−プロピルステアレート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルをステアリン酸でアシル化したもの、ジエチレングリコールジパルミテート、ヘキサメチレンジオールをミリスチン酸でアシル化してジオールとしたもの、そしてグリセリンのオレエート等の種々のエステル化合物を挙げることができる。これらのものは、単独あるいは組み合わせて使用することができる。潤滑剤の通常の含有量は、磁性層の強磁性粉末100重量部に対して、0.2〜20重量部(好ましくは0.5〜10重量部)の範囲である。
【0052】
カーボンブラックは、磁性層の表面電気抵抗(Rs )の低減、動摩擦係数(μK 値)の低減、走行耐久性の向上、及び磁性層の平滑な表面性を確保する等の種々の目的で添加される。カーボンブラックは、その平均粒子径が3〜350nm(更に好ましくは、10〜300nm)の範囲にあることが好ましい。また、その比表面積は、5〜500m2/g(更に好ましくは、50〜300m2/g)であることが好ましい。DBP吸油量は、10〜1000mL/100g(更に好ましくは、50〜300mL/100g)の範囲にあることが好ましい。またpHは、2〜10、含水率は、0.1〜10%、そしてタップ密度は、0.1〜1g/ccであることが好ましい。
【0053】
カーボンブラックは、さまざまな製法で得たものが使用できる。使用できるカーボンブラックの例としては、ファーネスブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック及びランプブラックを挙げることができる。カ−ボンブラックの具体的な商品例としては、BLACKPEARLS2000、1300、1000、900、800、700、VULCANXC−72(以上、キャボット社製)、#35、#50、#55、#60及び#80(以上、旭カ−ボン(株)製)、#3950B、#3750B、#3250B、#2400B、#2300B、#1000、#900、#40、#30、及び#10B(以上、三菱化学(株)製)、CONDUCTEXSC、RAVEN150、50、40、15(以上、コロンビアカ−ボン社製)、ケッチェンブラックEC、ケッチェンブラックECDJ−500およびケッチェンブラックECDJ−600(以上、ライオンアグゾ(株)製)を挙げることができる。カーボンブラックの通常の添加量は、強磁性粉末100重量部に対して0.1〜30重量部であり、好ましくは0.2〜15重量部の範囲である。
【0054】
研磨剤としては、たとえば溶融アルミナ、炭化珪素、酸化クロム(Cr2O3)、コランダム、人造コランダム、ダイアモンド、人造ダイアモンド、ザクロ石、エメリー(主成分:コランダムと磁鉄鉱)を挙げることができる。これらの研磨剤は、モース硬度5以上(好ましくは、6以上)であり、平均粒子径が、0.05〜1μm(更に好ましくは、0.2〜0.8μm)の大きさのものが好ましい。研磨剤の添加量は通常、強磁性粉末100重量部に対して、3〜25重量部(好ましくは、3〜20重量部)の範囲である。
【0055】
磁性層の結合剤としては、たとえば熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂やこれらの混合物を挙げることができる。熱可塑性樹脂の例としては、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコ−ル、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレン、ブタジエン、エチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、及びビニルエーテルを構成単位として含む重合体、あるいは共重合体を挙げることができる。共重合体としては、たとえば、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル−塩化ビニリデン共重合体、アクリル酸エステル−スチレン共重合体、メタアクリル酸エステル−アクリロニトリル共重合体、メタアクリル酸エステル−塩化ビニリデン共重合体、メタアクリル酸エステル−スチレン共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、クロロビニルエーテル−アクリル酸エステル共重合体を挙げることができる。
【0056】
上記の他にポリアミド樹脂、繊維素系樹脂(セルロースアセテートブチレート、セルロースジアセテート、セルロースプロピオネート、ニトロセルロースなど)、ポリ弗化ビニル、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、各種ゴム系樹脂なども利用することができる。
【0057】
また、熱硬化性樹脂または反応型樹脂としては、たとえばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル系反応樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ−ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂とポリイソシアネートプレポリマーの混合物、ポリエステルポリオールとポリイソシアネートの混合物、ポリウレタンとポリイソシアネートの混合物を挙げることができる。
【0058】
上記ポリイソシアネートとしては、たとえばトリレンジイソシアネート、4−4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、o−トルイジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネートなどのイソシアネート類、これらのイソシアネート類とポリアルコールとの生成物、及びイソシアネート類の縮合によって生成したポリイソシアネ−トを挙げることができる。
【0059】
上記ポリウレタン樹脂は、ポリエステルポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン、ポリエーテルポリエステルポリウレタン、ポリカーボネートポリウレタン、ポリエステルポリカーボネートポリウレタン、及びポリカプロラクトンポリウレタンなどの構造を有する公知のものが使用できる。
【0060】
本発明において、磁性層の結合剤は、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、及びニトロセルロースの中から選ばれる少なくとも1種の樹脂と、ポリウレタン樹脂との組み合わせ、又は、これらに更にポリイソシアネートを組み合わせて構成することが好ましい。
【0061】
結合剤としては、より優れた分散性と得られる層の耐久性を得るために必要に応じて、−COOM、−SO3M、−OSO3M、−P=O(OM)2、−O−P=O(OM)2(Mは水素原子、またはアルカリ金属塩基を表わす。)、−OH、−NR2、−N+ R3 (Rは炭化水素基を表わす。)、エポキシ基、−SH、−CNなどから選ばれる少なくとも一つの極性基を共重合または付加反応で導入して用いることが好ましい。このような極性基は、結合剤に10-1〜10-8モル/g(更に好ましくは、10-2〜10-6モル/g)の量で導入されていることが好ましい。
【0062】
磁性層の結合剤は、強磁性粉末100重量部に対して、通常5〜50重量部(好ましくは10〜30重量部)の範囲で用いられる。なお、磁性層に結合剤として塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂、及びポリイソシアネートを組み合わせて用いる場合は、全結合剤中に、塩化ビニル系樹脂が5〜70重量%、ポリウレタン樹脂が2〜50重量%、そしてポリイソシアネートが2〜50重量%の範囲の量で含まれるように用いることが好ましい。
【0063】
磁気記録媒体の磁性層を形成するための塗布液には、磁性粉末を結合剤中に良好に分散させるために、分散剤を添加することができる。また必要に応じて、可塑剤、カーボンブラック以外の導電性粒子(帯電防止剤)、防黴剤などを添加することもできる。分散剤としては、たとえば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアロール酸等の炭素数12〜18個の脂肪酸(RCOOH、Rは炭素数11〜17個のアルキル基、又はアルケニル基)、前記脂肪酸のアルカリ金属又はアルカリ土類金属からなる金属石けん、前記の脂肪酸エステルのフッ素を含有した化合物、前記脂肪酸のアミド、ポリアルキレンオキサイドアルキルリン酸エステル、レシチン、トリアルキルポリオレフィンオキシ第四級アンモニウム塩(アルキルは炭素数1〜5個、オレフィンは、エチレン、プロピレンなど)、硫酸塩、及び銅フタロシアニン等を使用することができる。これらは、単独でも組み合わせて使用しても良い。分散剤は、磁性層の結合剤100重量部に対して通常0.5〜20重量部の範囲で添加される。
【0064】
次に、バックコート層について説明する。バックコート層は、カーボンブラックと結合剤とから形成されていることが好ましい。また、無機粉末や潤滑剤が更に添加されていることが好ましい。
【0065】
カーボンブラックは、平均粒子サイズの異なる二種類のものを組み合わせて使用することが好ましい。この場合、平均粒子サイズが10〜20nmの微粒子状カーボンブラックと平均粒子サイズが230〜300nmの粗粒子状カーボンブラックを組み合わせて使用することが好ましい。一般に、上記のような微粒子状のカーボンブラックの添加により、バックコート層の表面電気抵抗を低く設定でき、また光透過率も低く設定できる。磁気記録装置によっては、テープの光透過率を利用し、動作の信号に使用しているものが多くあるため、このような場合には特に微粒子状のカーボンブラックの添加は有効になる。また微粒子状カーボンブラックは一般に液体潤滑剤の保持力に優れ、潤滑剤併用時、摩擦係数の低減化に寄与する。一方、粒子サイズが230〜300nmの粗粒子状カーボンブラックは、固体潤滑剤としての機能を有しており、またバック層の表面に微小突起を形成し、接触面積を低減化して、摩擦係数の低減化に寄与する。
【0066】
微粒子状カーボンブラックの具体的な商品としては、以下のものを挙げることができる。RAVEN2000B(18nm)、RAVEN1500B(17nm)(以上、コロンビアカーボン社製)、BP800(17nm)(キャボット社製)、PRINTEX90(14nm)、PRINTEX95(15nm)、PRINTEX85(16nm)、PRINTEX75(17nm)(以上、デグサ社製)、#3950(16nm)(三菱化学(株)製)。また粗粒子状カーボンブラックの具体的な商品の例としては、サーマルブラック(270nm)(カーンカルブ社製)、RAVENMTP(275nm)(コロンビアカーボン社製)を挙げることができる。
【0067】
バックコート層において、平均粒子サイズの異なる二種類のものを使用する場合、10〜20nmの微粒子状カーボンブラックと230〜300nmの粗粒子状カーボンブラックの含有比率(重量比)は、前者:後者=98:2〜75:25の範囲にあることが好ましく、さらに好ましくは、95:5〜85:15の範囲である。バックコート層中のカーボンブラック(その全量)の含有量は、結合剤100重量部に対して、通常30〜110重量部の範囲であり、好ましくは、50〜90重量部の範囲である。
【0068】
無機粉末は、硬さの異なる二種類のものを併用することが好ましい。具体的には、モース硬度3〜4.5の軟質無機粉末とモース硬度5〜9の硬質無機粉末とを使用することが好ましい。モース硬度が3〜4.5の軟質無機粉末を添加することで、繰り返し走行による摩擦係数の安定化を図ることができる。しかもこの範囲の硬さでは、摺動ガイドポールが削られることもない。また軟質無機粉末の平均粒子サイズは、30〜50nmの範囲にあることが好ましい。モース硬度が3〜4.5の軟質無機粉末としては、たとえば、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、及び酸化亜鉛を挙げることができる。これらは、単独で、あるいは二種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中では、特に、炭酸カルシウムが好ましい。バックコート層内の軟質無機粉末の含有量は、カーボンブラック100重量部に対して10〜140重量部の範囲にあることが好ましく、更に好ましくは、35〜100重量部の範囲である。
【0069】
モース硬度が5〜9の硬質無機粉末を添加することにより、バックコート層の強度が強化され、走行耐久性が向上する。これをカーボンブラックと共に使用すると、繰り返し摺動に対しても劣化が少なく、強いバックコート層となる。またこの無機粉末の添加により、適度の研磨力が付与され、テープガイドポール等への削り屑の付着が低減する。硬質無機粉末は、その平均粒子サイズが80〜250nm(更に好ましくは、100〜210nm)の範囲にあることが好ましい。
【0070】
モース硬度が5〜9の硬質無機質粉末としては、たとえばα−酸化鉄、α−アルミナ、及び酸化クロム(Cr2O3)を挙げることができる。これらの粉末は、それぞれ単独で用いても良いし、あるいは併用しても良い。これらの内では、α−酸化鉄又はα−アルミナが好ましい。硬質無機粉末の含有量は、カーボンブラック100重量部に対して通常3〜30重量部の範囲であり、好ましくは、3〜20重量部の範囲である。
【0071】
バックコート層には、潤滑剤を含有させることができる。潤滑剤は、磁性層に記載した潤滑剤の中から適宜選択して使用できる。バックコート層において、潤滑剤は結合剤100重量部に対して通常1〜5重量部の範囲で添加される。また、バックコート層に、磁性層に記載した分散剤を添加することもできる。分散剤の添加量は、磁性層に添加する量と同様な量とすることができる。
【0072】
バックコート層の結合剤は、前記磁性層に記載した結合剤を使用することができる。使用できる結合剤としては、ニトロセルロース樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、及び硬化剤としてのポリイソシアネートを挙げることができる。バックコート層の結合剤はカーボンブラック100重量部に対して、通常5〜250重量部(好ましくは、10〜200重量部)である。
【0073】
上記のように、本発明の磁気記録媒体は、ベースフィルムと磁性層との間に非磁性層が設けられた構成のものであってもよい。すなわち、ベースフィルムの一方側の面に非磁性層と磁性層とをこの順に有し、他方側の面にバックコート層を有する構成の磁気記録媒体であってもよい。
【0074】
非磁性層は、非磁性粉末及び結合剤を含む実質的に非磁性の層である。この非磁性層は、その上の磁性層の電磁変換特性に影響を与えないように実質的に非磁性であることが必要であるが、磁性層の電磁変換特性に影響を与えない程度に少量の磁性粉末が含有されていても特に問題にはならない。また、通常、非磁性層には、これらの成分以外に潤滑剤が含まれている。
【0075】
非磁性層で用いられる非磁性粉末としては、たとえば、非磁性無機粉末、カーボンブラックを挙げることができる。非磁性無機粉末は、比較的硬いものが好ましく、モース硬度が5以上(更に好ましくは、6以上)のものが好ましい。非磁性無機粉末の例としては、α−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、二酸化チタン、二酸化珪素、窒化ホウ素、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、及び硫酸バリウムを挙げることができる。これらは単独でまたは組み合わせて使用することができる。これらのうちでは、二酸化チタン、α−アルミナ、α−酸化鉄、又は酸化クロムが好ましい。非磁性無機粉末の平均粒子径は、0.01〜1.0μm(好ましくは、0.01〜0.5μm、特に、0.02〜0.1μm)の範囲にあることが好ましい。
【0076】
カーボンブラックは、磁性層に導電性を付与して帯電を防止すると共に、非磁性層上に形成される磁性層の平滑な表面性を確保する目的で添加される。非磁性層で用いるカーボンブラックは、前記の磁性層に記載したカーボンブラックを使用することができる。但し、非磁性層で使用するカーボンブラックは、その平均粒子径が35nm以下(更に好ましくは、10〜35nm)であることが好ましい。カーボンブラックの通常添加量は、非磁性層に、全非磁性無機粉末100重量部に対して、3〜20重量部であり、好ましくは、4〜18重量部、更に好ましくは、5〜15重量部である。
【0077】
潤滑剤としては、前記の磁性層にて記載した脂肪酸、あるいは脂肪酸エステルを使用することができる。潤滑剤の添加量は、非磁性層の全非磁性粉末100重量部に対して、通常0.2〜20重量部の範囲である。
【0078】
非磁性層の結合剤としては、前述した磁性層にて記載した結合剤を使用することができる。結合剤は、非磁性層の非磁性粉末100重量部に対して、通常5〜50重量部(好ましくは10〜30重量部)の範囲で用いられる。なお、非磁性層に結合剤として塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂、及びポリイソシアネートを組み合わせて用いる場合は、全結合剤中に、塩化ビニル系樹脂が5〜70重量%、ポリウレタン樹脂が2〜50重量%、そしてポリイソシアネートが2〜50重量%の範囲の量で含まれるように用いることが好ましい。なお、非磁性層においても前記の磁性層に添加することができる任意成分を添加してもよい。
【0079】
非磁性層を有する態様の磁気記録媒体の場合に、磁性層及び非磁性層の形成方法は特に限定されないが、磁性層は、非磁性層用塗布液をベースフィルム上に塗布後、形成された塗布層(非磁性層)が湿潤状態にあるうちにこの上に磁性層用塗布液を塗布する、所謂ウエット・オン・ウエット方式による塗布方法を利用して形成されたものであることが好ましい。
【0080】
上記ウエット・オン・ウエット方式による塗布方法としては、たとえば以下の方法を挙げることができる。
【0081】
(1)グラビア塗布、ロール塗布、ブレード塗布、あるいはエクストルージョン塗布装置などを用いて、ベースフィルム上にまず非磁性層を形成し、該非磁性層が湿潤状態にあるうちに、ベースフィルム加圧型エクストルージョン塗布装置により、磁性層を形成する方法(特開昭60−238179号、特公平1−46186号、及び特開平2−265672号公報参照)。
【0082】
(2)二つの塗布液用スリットを備えた単一の塗布ヘッドからなる塗布装置を用いてベースフィルム上に磁性層、及び非磁性層をほぼ同時に形成する方法(特開昭63−88080号、特開平2−17921号、及び特開平2−265672号各公報参照)。
【0083】
(3)バックアップローラ付きエクストルージョン塗布装置を用いて、ベースフィルム上に磁性層及び非磁性層をほぼ同時に形成する方法(特開平2−174965号公報参照)。非磁性層及び磁性層は同時重層塗布法を利用して形成することが好ましい。
【0084】
磁気記録媒体のバックコート層の表面は、テープが巻かれた状態で磁性層の表面に転写される傾向にある。このためバックコート層の表面も比較的高い平滑性を有していることが好ましい。磁気記録媒体のバックコート層の表面は、その表面粗さRa(カットオフ0.08mmの中心線平均粗さ)が、0.003〜0.060μmの範囲にあるように調整されていることが好ましい。なお、表面粗さは、通常塗膜形成後、カレンダによる表面処理工程において、用いるカレンダローラの材質、その表面性、そして圧力、速度等により、調節することができる。
【0085】
本発明の製造方法に従って製造される、ベースフィルムの一方の側に磁性層を、他方の側にバックコート層を有する単層構成の磁気記録媒体の磁性層は、その厚みが、1.0〜3.0μm(さらに好ましくは、1.5〜2.5μm)の範囲にあることが好ましい。
【0086】
また、この構成の磁気記録媒体の全体の厚みは4.0〜12.0μm、さらに好ましくは、4.0〜10.0μm)の範囲にあることが好ましい。
【0087】
また、バックコート層の厚みは、0.1〜1.0μm(さらに好ましくは、0.2〜0.8μm)の範囲にあることが好ましい。
【0088】
非磁性層を有する構成の磁気記録媒体の磁性層は、その厚みが、0.01〜1.0μm(更に好ましくは、0.05〜0.5μm)の範囲にあることが好ましい。
【0089】
また、非磁性層の厚みは、0.01〜3.0μm(更に好ましくは、0.5〜2.5μm)の範囲にあることが好ましい。
【0090】
磁性層の厚みと非磁性層の厚みとの比は、1:2〜1:15(更に好ましくは、1:5〜1:12)の範囲にあることが好ましい。
【0091】
非磁性層を有する構成の磁気記録媒体の全体の厚み及びバックコート層の厚みは、前記の単層構成の磁気記録媒体と同じ範囲にあることが好ましい。
【0092】
以上のような構成で、磁気テープ原反44に使用される磁気記録媒体は製造される。
【実施例】
【0093】
次に、本発明の実施例を説明する。実施例としては、コンピュータバックアップ用磁気テープを例にとる。
【0094】
巻芯の傾斜の大きさAが0から0.05ずつ0.4まで、9種類の巻芯を用意する。各巻芯へ磁気テープ原反を直径400mmまで巻き取る。巻取り後70度で熱処理を行なう。
【0095】
熱処理後、所定の工程を経て1/2インチ(約12.65mm)磁気テープカセットを製作する。その時、巻き取るテープの湾曲を、テンションゼロの状態で計測し、1m辺りの湾曲値として計測する。巻き姿、放射は目視にて確認し、巻き乱れや放射があるものを×とした。巻芯の傾斜量、湾曲値、及び巻き姿の関係は以下の表になる。
【0096】
【表1】

表1に示すように、巻芯の傾斜の大きさAを0.05以上0.35以下で磁気テープの巻き姿を良好にする効果が確認された。更に、巻芯の傾斜の大きさAが好ましくは0.05≦A≦0.3であり、更に好ましくは0.1≦A≦0.25であるものが好適に使用できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】塗布乾燥工程を示す構成図。
【図2】カレンダ工程を示す構成図。
【図3】熱処理工程を示す構成図。
【図4】裁断(スリット)工程を示す構成図。
【図5】巻芯の形状と、磁気テープ原反を巻き取った状態を示した斜視図
【図6】従来の磁気テープ原反を巻き取った状態を示した斜視図。
【図7】磁気テープの湾曲状態を示した図。
【図8】磁気テープの巻取り姿を示した図。
【符号の説明】
【0098】
1…磁気テープ,2…テープハブ,3…パンケーキ,5、10…巻芯,32…送出リール装置,34…磁性液塗布装置,36…第1乾燥装置,38…バック層液塗布装置,40…第2乾燥装置,42…巻取リール装置,44…磁気テープ原反,46…欠陥検出装置,48…溝付き吸引ドラム,56…送出リール装置,58〜60…カレンダローラ,62…巻取リール装置,64…欠陥検出装置,66…恒温室,68…軸,69…支柱,70…巻き戻しリール,72…フィードローラ,74…スリッタ,76…テープハブ,78…ガイドローラ,80…回転上刃,82…回転下刃,86…ガイドローラ,88…耳部,90…投光部,92…受光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロール状に巻回された広幅の磁気記録媒体原反が長尺形状に裁断されてテープハブに巻き取られる磁気記録媒体の製造方法において、
裁断前の前記磁気記録媒体原反を外周面が一定方向に傾斜した巻芯へ巻取り熱処理を行なうことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記巻芯の傾斜は、該巻芯の軸方向の12.65mmの間隔における、大口径側の直径と、小口径側の直径との差を求め、前記差を該小口径側の直径で割ることにより求めた値を1000倍した値が0.05以上0.35以下であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記巻芯に巻取り熱処理され、長尺形状に裁断された前記磁気記録媒体は、ドライブ走行時に上になるエッジが下になるエッジより長くなる状態に湾曲することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記巻芯に巻回される前記磁気記録媒体原反は、幅が300mm以上であることを特徴とする請求項1、2又は3のいずれか一つに記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
長尺形状な磁気記録媒体を製造するために裁断される広幅な磁気記録媒体の原反であって、該磁気記録媒体原反をロール状に巻回するための巻芯において、
前記巻芯は外周面が一定方向に傾斜しており、前記傾斜は該巻芯の軸方向の12.65mmの間隔における、大口径側の直径と、小口径側の直径との差を求め、前記差を該小口径側の直径で割ることにより求めた値を1000倍した値が0.05以上0.35以下であることを特徴とする磁気記録媒体原反用巻芯。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−294088(P2006−294088A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−110163(P2005−110163)
【出願日】平成17年4月6日(2005.4.6)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】