説明

磁気記録媒体の製造方法

【課題】表面平滑性の優れた磁気記録媒体を効率的に製造することができる磁気記録媒体の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】片面側に磁性層12を形成したウェブWを一対のカレンダロール16、18でニップする。ニップ出口Eでの搬送方向に沿ったウェブテンションを所定範囲内にするとともに、ニップ出口Eから0°よりも大きく180°よりも小さい範囲のラップ角θで磁性層側のカレンダロール16にウェブWをラップする。これにより、カレンダロール16、18で磁性層12をニップすることによって平滑な磁性層を得ることが出来てかつ、工程切断がなく安定してカレンダ処理をすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、片面側に磁性層を形成したウェブをカレンダロールでニップする工程を行う磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
支持体の片面側に磁性層を形成した磁気テープ等の磁気記録媒体が多用されている。このような磁気記録媒体を製造する際、カレンダ処理において磁気記録媒体の表面が平滑化されていることが多い。
【0003】
従来からこの表面平滑化の技術の向上が図られており、高温、高圧、低速処理による平滑化技術の向上、ロール表面の改良による平滑化技術の向上、ロール材質の改良による平滑化技術の向上などが一般的に知られている(例えば特許文献1、2参照)。これら以外にも、カレンダ処理されるまでの経時、カレンダ処理工程での湿度環境、カレンダ処理される媒体のバインダ構成などの工夫による平滑性向上などが開示されている。
【特許文献1】特開昭61−192026号公報
【特許文献2】特開2001−312816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、近年、表面の平滑性が高くて良好な磁気記録媒体を効率的に製造することが要求されてきている。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して、表面平滑性の優れた良好な磁気記録媒体を効率的に製造することができる磁気記録媒体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、片面側に磁性層を形成したウェブをカレンダロールでニップする工程を行う磁気記録媒体の製造方法であって、ニップ出口での搬送方向に沿ったウェブテンションを所定範囲内にするとともに、該ニップ出口から0°よりも大きく180°よりも小さい範囲のラップ角で磁性層側のカレンダロールに前記ウェブをラップする。
【0007】
ニップ出口での搬送方向に沿ったウェブテンションとは、ニップ出口で、カレンダロールの回転軸方向に直交する方向のウェブテンションのことである。
【0008】
上記ラップ角が0°以下であると、磁性層の表面がカレンダロールに沿わずにニップ出口からウェブが押し出されるので、磁性層の表面平滑化の効果が得られない。また、180°以上であると、磁性層に皺が形成され易くなり、ハンドリングが困難になる。
【0009】
請求項1に記載の発明では、ニップ出口での搬送方向に沿ったウェブテンションを所定範囲内にしてニップ出口からの上記ラップ角を上記範囲内としているので、表面平滑性の優れた良好な磁気記録媒体を効率的に得ることができる。なお、ラップ角は、好ましくは2°以上30°未満である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、片面側に磁性層を形成したウェブを2回以上連続してカレンダロールでニップする工程を行う磁気記録媒体の製造方法であって、少なくとも後半のニップにおけるニップ出口での搬送方向に沿ったウェブテンションを所定範囲内にするとともに、該ニップ出口から0°よりも大きく180°よりも小さい範囲のラップ角で磁性層側のカレンダロールに前記ウェブをラップする。
【0011】
2回以上連続して磁気記録媒体をカレンダロールでニップする場合、後半のニップのほうが前半のニップに比べ、ニップ出口で磁性層の表面平滑化が阻害され易い。従って、請求項2に記載の発明により、2回以上連続して磁気記録媒体をカレンダロールでニップしても、表面平滑性の優れた良好な磁気記録媒体を効率的に製造することができる
【0012】
請求項3に記載の発明は、片面側に磁性層を形成したウェブを2回以上連続してカレンダロールでニップする工程を行う磁気記録媒体の製造方法であって、少なくとも前記ウェブが最大圧力を受けるニップにおけるニップ出口での搬送方向に沿ったウェブテンションを所定範囲内にするとともに、該ニップ出口から0°よりも大きく180°よりも小さい範囲のラップ角で磁性層側のカレンダロールに前記ウェブをラップする。
【0013】
2回以上連続して磁気記録媒体をカレンダロールでニップする場合、ウェブが最大圧力を受けるニップのニップ出口で、磁性層の表面平滑化が阻害され易い。従って、請求項3に記載の発明により、2回以上連続して磁気記録媒体をカレンダロールでニップしても、表面平滑性の優れた良好な磁気記録媒体を効率的に製造することができる
【0014】
請求項4に記載の発明は、片面側に磁性層を形成したウェブを2回以上連続してカレンダロールでニップする工程を行う磁気記録媒体の製造方法であって、少なくとも前記ウェブが最大圧力を受けるニップ、およびそれ以降のニップにおけるニップ出口での搬送方向に沿ったウェブテンションを所定範囲内にするとともに、該ニップ出口から0°よりも大きく180°よりも小さい範囲のラップ角で磁性層側のカレンダロールに前記ウェブをラップする。
【0015】
請求項4に記載の発明により、請求項3に記載の発明による効果をより顕著に奏することができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、前記所定範囲が49N/m以上294N/m以下(5kg/m以上30kg/m以下)の範囲である。
【0017】
5kg/mよりも小さいと、磁性層の表面平滑化の効果が得難くなる。また、30kg/mよりも大きいと、磁性層に形成される切断の箇所が増大する。
【0018】
請求項5に記載の発明により、磁性層の表面平滑化効果を得つつ、磁性層に切断が形成されることを抑えることができる。
【0019】
なお、この所定範囲は、好ましくは78.4N/m以上245N/m以下(8kg/m以上25kg/m以下)の範囲である。これにより、請求項3に記載の発明による効果がより顕著に得られる。
【0020】
請求項6に記載の発明は、前記ウェブの磁性層側のカレンダロールを加温する。
これにより、カレンダロールでニップする工程で、磁性層の熱処理を行いながら磁性層の表面平坦化を行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、表面平滑性の優れた良好な磁気記録媒体を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、実施形態を挙げ、本発明の実施の形態について説明する。なお、第2実施形態以下では、既に説明した構成要素と同様のものには同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0023】
[第1実施形態]
まず、第1実施形態について説明する。図1、図2に示すように、本実施形態では、長尺状の支持体10の片面側に磁性層12を形成したウェブWをカレンダ処理する。このカレンダ処理では、一対のカレンダロール16、18でニップすることにより、ニップ工程開始前では図2(A)に示すように磁性層表面が平滑化されていないウェブWを、ニップ工程終了後には図2(B)に示すように磁性層表面が平滑化された状態にする。なお、磁性層12と支持体10との間には非磁性層14が形成され、支持体10の磁性層12が形成されていない面にはバックコート面WBが形成されている。
【0024】
本実施形態では、カレンダロール16、18は、何れも金属製であり、ウェブWにラップされるカレンダロール16は加温され、カレンダロール16と一対に設けられたカレンダロール18は冷却(水冷)されている。この構成により、カレンダロール16によって磁性層12が熱処理される。この熱処理では、磁性層12の温度が60〜120℃の範囲となっていることが好ましい。
【0025】
本実施形態では、磁性層12を上側にしてウェブを搬送してニップする。また、ニップ出口Eでの搬送方向に沿ったウェブテンション(ウェブ張力)を49N/m以上294N/m以下(5kg/m以上30kg/m以下)の範囲とする。ウェブテンションは、例えばニップ出口から引き出されたウェブWをパスするロール(例えば図1に示すロール19やロール20)にかかる力を測定し、この力に基づいて算出する。
【0026】
そして、ニップ後に続いて、ニップ出口Eから0°よりも大きく180°よりも小さい範囲のラップ角θで磁性層側のカレンダロール16にウェブWをラップする。この範囲であれば、例えばθが10°(図1で実線で示すウェブWを参照)であっても100°程度や179°程度(何れも図1で二点鎖線で示すウェブWを参照)であってもよい。
【0027】
以上説明したように、ニップ出口Eでの搬送方向に沿ったウェブテンション(ウェブ張力)を49N/m以上294N/m以下(5kg/m以上30kg/m以下)の範囲としており、従来ではウェブの面内方向の寸法安定性を制御するのに用いていたウェブテンションを、磁性層の表面平滑化を向上させるために利用している。そして、ニップ出口Eから0°よりも大きく180°よりも小さい範囲のラップ角θで磁性層側のカレンダロール16にウェブWをラップしている。これにより、ニップ工程を終えてカレンダロール16から離れたウェブWの磁性層12の表面粗さを小さくすることができ、表面平滑性の優れた良好な磁気テープを効率的に製造することができる。
【0028】
なお、本実施形態では磁性層12を上側にして搬送してニップすることで説明したが、図3に示すように磁性層12を下側にして搬送してニップしても同様の効果が得られ、更にはウェブWを水平方向と交差する方向に搬送しても同様の効果が得られる。
【0029】
<試験例1(第1実施形態の試験例)>
本発明の効果を確かめるために、本発明者は、第1実施形態で説明した磁気テープ製造方法の三例(以下、実施例1〜3という)、及び、比較のための磁気テープ製造方法の四例(以下、比較例1〜4という)を行った。
【0030】
実施例1、及び、比較例1、2では、ニップ出口Eでのウェブテンションを12kg/mの一定にし、ラップ角θをパラメータとして変化させた。また、実施例2、3、及び、比較例3、4では、ラップ角を10°の一定にし、ニップ出口Eでのウェブテンションをパラメータとして変化させた。試験条件を表1、表2に示す。
【0031】
【表1】

【表2】

なお、本試験例では、カレンダロール16、18のロール径は何れも100mmφ、支持体10の厚みは5.0μm、磁性層12の厚みは0.10μm、磁性層12と支持体10との間に形成されている非磁性層14の厚みは1μmである。
【0032】
本発明者は、カレンダロール16、18から離れたニップ工程終了後のウェブの磁性層の表面粗さRaをAFM(atomic force microscope、原子間力顕微鏡)で測定した。また、工程切断(カレンダ工程でウェブが切断して連続処理ができなくなる問題のこと)の有無も調べた。測定結果及び調査結果を表1に併せて示す。
【0033】
表1、表2から判るように、実施例1〜3では、AFMによる表面粗さRaは比較例1、3に比べ、大幅に小さかった。また、実施例1〜3、比較例1、3では磁性層に工程切断は生じていなかったが、比較例2、4では磁性層に工程切断が生じていた。
【0034】
なお、他の試験条件や試験手順について以下に示す。本実施例では、以下の説明で「部」は「重量部」を意味する。
【0035】
1.磁性層塗布液の調製
強磁性針状金属粉末 100部
組成:Fe/Co/Al/Y=65/20/8/7(原子比)
表面処理層:Al ,Y 抗磁力(Hc):183kA/m
結晶子サイズ:12.5nm
平均長軸長:45nm
平均針状比:6
BET比表面積(S BET ):60m /g
飽和磁化(σs):140A・m /kg(140emu/g)
塩化ビニル共重合体 12部
ポリウレタン樹脂 8部
分岐側鎖含有ポリエステルポリオール/ジフェニルメタン
ジイソシアネート系、
親水性極性基:−SO Na=70eq/ton含有
フェニルホスホン酸 3部
カーボンブラック(平均粒子サイズ 20nm) 2部
シクロヘキサノン 110部
メチルエチルケトン 100部
トルエン 100部
ブチルステアレート 2部
ステアリン酸 1部
【0036】
2.非磁性層塗布液の調製
非磁性無機質粉末 85部
α−酸化鉄
表面処理層:Al ,SiO 平均長軸径:0.15μm
タップ密度:0.8g/ml
平均針状比:7
BET比表面積(S BET ):52m /g
pH8
DBP吸油量:33ml/100g
研磨材 α−Al 15部
(住友化学工業社製、商品名AKP−30、平均粒径=0.4μm)
カーボンブラック 20部
DBP吸油量:120ml/100g
pH:8
BET比表面積(S BET ):250m /g
揮発分:1.5%
塩化ビニル共重合体 10部
ポリウレタン樹脂 8部
分岐側鎖含有ポリエステルポリオール/ジフェニルメタン
ジイソシアネート系、
親水性極性基:−SO Na=70eq/ton含有
フェニルホスホン酸 3部
α−Al (平均粒径0.2μm) 1部
シクロヘキサノン 140部
メチルエチルケトン 170部
ブチルステアレート 2部
ステアリン酸 1部
【0037】
上記磁性層、非磁性層塗布液を形成する各成分をそれぞれオープンニーダで混練したのち、サンドミルを用いて分散させた。得られたそれぞれの分散液に3官能性低分子量ポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン製 コロネート3041)を6部、メチルエチルケトン40部を加え、さらに20分間撹拌混合した後、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、磁性層塗布液および非磁性層塗布液を調製した。
【0038】
3.バックコート層用塗布液の調製
(分散)
下記組成物をボールミルに投入し、24時間分散を行った。
カーボンブラック 180部
キャボット社製: Regal250
平均粒径:34nm
BET比表面積:55m2/g
カーボンブラック 2 5部
キャボット社製:Black Pearls 130
平均粒径:75nm
BET比表面積:25m2/g
α−Fe2O3 1部
戸田工業社製:TF100、平均粒径:0.1μm
ニトロセルロース樹脂 35部
ポリエステルポリウレタン樹脂(東洋紡績社製:UR−8300 ) 65部
MEK 260部
トルエン 260部
シクロヘキサノン 260部
【0039】
下記組成物を分散後のスラリーに混合、撹拌した後、再度ボールミルにて分散処理を3時間行った。
ステアリン酸 1部
ステアリン酸ブチル 2部
MEK 210部
トルエン 210部
シクロヘキサノン 210部
【0040】
濾過後の塗料100重量部にイソシアネート化合物(日本ポリウレタン社製、コロネート−L)1重量部を加え、撹拌、混合し、0.5μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、バックコート塗布液を調整した。
【0041】
4.磁気テープの作製
得られた磁性層塗布液、非磁性層塗布液を、ポリエチレンナフタレート(PEN)支持体(厚さ:5.0μm、長さ(MD)方向のヤング率6.3GPa、幅(TD)方向のヤング率8.3GPa、磁性層塗布面の中心線平均表面粗さRa:2nm(カットオフ値:0.25mm))上に、非磁性層、磁性層の順に乾燥後の厚みがそれぞれ1.0μm、0.10μmとなるように同時重層塗布した。次いで、磁性層がまだ湿潤状態にあるうちに、300mT(3000ガウス)の磁束密度を持つコバルト磁石と150mT(1500ガウス)の磁束密度を持つソレノイドを用いて配向処理を行った。その後、乾燥させることにより磁性層を形成した。その後、支持体の他方の側(磁性層とは反対側)に、上記バック層塗布液を乾燥後の厚さが、0.5μmとなるように塗布し、乾燥してバック層を形成した。支持体の一方の面に磁性層そして他方の面にバック層がそれぞれ設けられた磁気記録積層体ロールを得た。上記ロールを直径100mmの金属ロールのみから構成される1段のカレンダロールで245kN/m(250kg/cm)、温度90℃、カレンダ出口ラップ角を磁性面が金属ロールに沿って引き出されるように10°傾け、カレンダ出口ウェブテンションを12kg/m、速度100m/分で表面平滑化処理を行った後、70℃で48時間加熱処理を行い、1/2インチ幅にスリットした。その後カートリッジに巻き込み、本発明に従う磁気テープを作製し、評価を行った。
【0042】
磁性層表面粗さRaについては、キーエンス社製VN−8000で測定視野40μm角での磁性層表面粗さRaを測定した。
【0043】
工程切断の有無については、5000mの原反を4ロール処理して切断の有無及び切断回数を記録した。
【0044】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明する。本実施形態では、片面側に磁性層12を形成したウェブWを2回連続してカレンダロールでニップする工程を行う。
【0045】
本実施形態では、図4に示すように、1回目のニップを行う一対のカレンダロール22、24と、カレンダロール22、24のウェブ搬送方向下流側に、2回目のニップを行う一対のカレンダロール26、28とを設ける。カレンダロール22、24、26、28は何れも金属性であり、カレンダロール22、26は加温され、カレンダロール24、28は冷却(水冷)されている。
【0046】
なお、後段でニップするカレンダロール26の温度を前段でニップするカレンダロール22に比べて高くして、1回目のニップで予備加熱し、2回目のニップで主熱処理すると、ウェブWの温度が急激に上昇することが回避されて好ましい。
【0047】
また、カレンダロール22、24とカレンダロール26、28との間に、ウェブWのバックコート面WBに当接する押圧ロール30を設ける。なお、押圧ロール30の設定配置位置が、図4の紙面上下方向に可変とされていてもよい。
【0048】
本実施形態では、磁性層12を図4の紙面上側にしてウェブWを搬送してニップする。また、2回目のニップにおけるニップ出口Eで、搬送方向に沿ったウェブテンション(ウェブ張力)を第1実施形態と同様に49N/m以上294N/m以下(5kg/m以上30kg/m以下)の範囲とする。
【0049】
そして、ニップ出口Eから0°よりも大きく180°よりも小さい範囲のラップ角θでウェブWを磁性層側のカレンダロール28にラップする。
【0050】
以上説明したように、本実施形態では、ニップ出口Eでの搬送方向に沿ったウェブテンション(ウェブ張力)を49N/m以上294N/m以下(5kg/m以上30kg/m以下)の範囲としている。そして、ニップ出口Eから0°よりも大きく180°よりも小さい範囲のラップ角θで磁性層側のカレンダロール28にウェブWをラップしている。これにより、後半のニップ、すなわち2回目のニップを終えてカレンダロール28から離れたウェブWでは、磁性層12の表面粗さが小さい。従って、表面平滑性の優れた良好な磁気テープを効率的に製造することができる。
【0051】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態について説明する。本実施形態では、第2実施形態と同様、片面側に磁性層12を形成したウェブWを2回連続してカレンダロールでニップする工程を行う。
【0052】
本実施形態では、図5に示すように、磁性層12が当接するカレンダロール32と、カレンダロール32との間で1回目のニップを行うカレンダロール34と、1回目のニップの終了後にウェブWの搬送方向を反転させるための反転ロール36と、カレンダロール32との間で2回目のニップを行うカレンダロール38と、を設ける。
【0053】
ここで、カレンダロール32、34、38は上下方向に一列に並べて配置されており、カレンダロール34とカレンダロール38とにカレンダロール32が挟まれた配置とされている。そして、カレンダロール32、34の自重により、2回目のニップのほうが、1回目のニップに比べ、ウェブWが受ける圧力が高くなっている。
【0054】
カレンダロール32、34、38は何れも金属製であり、カレンダロール32は加温され、カレンダロール34、38は冷却(水冷)されている。
【0055】
また、2回目のニップにおけるニップ出口Eの搬送方向下流側に、ウェブWのバックコート面WBに当接する押圧ロール40を設ける。ここで、ニップ出口Eから0°よりも大きく180°よりも小さい範囲のラップ角θでウェブWが磁性層側のカレンダロール32にラップされるように、反転ロール36の配置位置が予め調整されている。
【0056】
なお、押圧ロール40の設定配置位置が、図5の紙面上下方向や紙面左右方向に可変とされていてもよい。これにより、押圧ロール40の位置調整によってラップ角θを調整することができる。
【0057】
本実施形態では、図5に示すように、磁性層12をカレンダロール32に当接する側にしてウェブWを搬送し、カレンダロール32とカレンダロール34とで1回目のニップを行う。そして、反転ロール36にウェブWを巻き掛け、カレンダロール32とカレンダロール38とで2回目のニップを行う。
【0058】
ここで、カレンダロール32とカレンダロール38とのニップ出口E(すなわち2回目のニップでのニップ出口)での搬送方向に沿ったウェブテンション(ウェブ張力)を、第1実施形態と同様に49N/m以上294N/m以下(5kg/m以上30kg/m以下)の範囲とする。
【0059】
更に、ニップ出口Eから0°よりも大きく180°よりも小さい範囲のラップ角θで磁性層側のカレンダロール38にウェブWをラップする。
【0060】
本実施形態により、最大圧力を受ける2回目のニップを終えてカレンダロール28から離れたウェブWでは、磁性層12の表面粗さが小さい。従って、表面平滑性の優れた良好な磁気テープを効率的に製造することができる。また、磁性層12に当接する加温されたカレンダロールの本数を第2実施形態よりも1本減らしても2回のニップを行うことができる。
【0061】
なお、本実施形態のようにカレンダロールを上下方向に一列に並べて配置することは、図6に示すように、加温するカレンダロールKと水冷するカレンダロールSとを交互に配置して上段から下段へウェブを順次ニップする場合に行うことが多い。このようにして多段でニップする場合、通常、カレンダロールの自重により、下段のニップのほうが上段のニップよりもウェブWが受ける圧力は高い。従って、後半のニップで、ニップ出口でのウェブテンションを所定範囲内にするとともに、ニップ出口から0°よりも大きく180°よりも小さい範囲のラップ角で磁性層側のカレンダロールにウェブWをラップすることで、最終的にカレンダロールから離れたウェブWの磁性層の表面粗さを効率的に小さくすることができる。
【0062】
<試験例2(第3実施形態の試験例)>
本発明の効果を確かめるために、本発明者は、第3実施形態で説明した磁気テープ製造方法の四例(以下、実施例4〜7という)、及び、比較のための磁気テープ製造方法の五例(以下、比較例5〜9という)を行った。
【0063】
実施例4、5及び、比較例5〜7では、ニップ出口Eでのウェブテンションを12kg/mの一定にし、ラップ角θをパラメータとして変化させた。また、実施例6、7及び、比較例8、9では、何れも、1回目のラップ角を0°、2回目のラップ角を10°とし、ニップ出口Eでのウェブテンションをパラメータとして変化させた。試験条件を表3、表4に示す。
【0064】
【表3】

【表4】

なお、本試験例では、試験例1と同様、カレンダロール32、34、38のロール径は何れも100mmφ、支持体10の厚みは5μm、磁性層12の厚みは100nm、磁性層12と支持体10との間に形成されている非磁性層14の厚みは1μmである。
【0065】
本発明者は、カレンダロール32から離れた2回目のニップ工程終了後のウェブの磁性層の表面粗さRaをAFMで測定した。また、工程切断の有無も調べた。測定結果及び調査結果を表3、表4に併せて示す。
【0066】
表3、表4から判るように、実施例4〜7では、AFMによる表面粗さRaは比較例5、6、8に比べ、大幅に小さかった。また、実施例4〜7、比較例5、6、8では磁性層に工程切断は生じていなかったが、比較例7、9では磁性層に工程切断が生じていた。
【0067】
なお、他の試験条件や試験手順については、2段のカレンダロールで処理したこと以外は試験例1と基本的に同じである。
【0068】
以上、実施形態を挙げて本発明の実施の形態を説明したが、これらの実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲がこれらの実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】第1実施形態で、ウェブをカレンダロールでニップすることを説明する側面図である。
【図2】図2(A)及び(B)は、それぞれ、第1実施形態で、ニップ工程開始前の磁気テープの側面断面図、及び、ニップ工程終了後の側面断面図である。
【図3】第1実施形態で、ウェブをカレンダロールでニップすることの変形例を説明する側面図である。
【図4】第2実施形態で、ウェブをカレンダロールで2段にわたってニップすることを説明する側面図である。
【図5】第3実施形態で、ウェブをカレンダロールで2段にわたってニップすることを説明する側面図である。
【図6】第3実施形態で、ウェブをカレンダロールで多段にわたってニップすることを説明する側面図である。
【符号の説明】
【0070】
10 支持体
12 磁性層
16 カレンダロール
18 カレンダロール
22 カレンダロール
24 カレンダロール
26 カレンダロール
28 カレンダロール
32 カレンダロール
34 カレンダロール
38 カレンダロール
E ニップ出口
K カレンダロール
S カレンダロール
W ウェブ
θ ラップ角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
片面側に磁性層を形成したウェブをカレンダロールでニップする工程を行う磁気記録媒体の製造方法であって、
ニップ出口での搬送方向に沿ったウェブテンションを所定範囲内にするとともに、該ニップ出口から0°よりも大きく180°よりも小さい範囲のラップ角で磁性層側のカレンダロールに前記ウェブをラップする、磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
片面側に磁性層を形成したウェブを2回以上連続してカレンダロールでニップする工程を行う磁気記録媒体の製造方法であって、
少なくとも後半のニップにおけるニップ出口での搬送方向に沿ったウェブテンションを所定範囲内にするとともに、該ニップ出口から0°よりも大きく180°よりも小さい範囲のラップ角で磁性層側のカレンダロールに前記ウェブをラップする、磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
片面側に磁性層を形成したウェブを2回以上連続してカレンダロールでニップする工程を行う磁気記録媒体の製造方法であって、
少なくとも前記ウェブが最大圧力を受けるニップにおけるニップ出口での搬送方向に沿ったウェブテンションを所定範囲内にするとともに、該ニップ出口から0°よりも大きく180°よりも小さい範囲のラップ角で磁性層側のカレンダロールに前記ウェブをラップする、磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
片面側に磁性層を形成したウェブを2回以上連続してカレンダロールでニップする工程を行う磁気記録媒体の製造方法であって、
少なくとも前記ウェブが最大圧力を受けるニップ、およびそれ以降のニップにおけるニップ出口での搬送方向に沿ったウェブテンションを所定範囲内にするとともに、該ニップ出口から0°よりも大きく180°よりも小さい範囲のラップ角で磁性層側のカレンダロールに前記ウェブをラップする、磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記所定範囲が49N/m以上294N/m以下の範囲である、請求項1〜4のうち何れか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
前記ウェブの磁性層側のカレンダロールを加温する、請求項1〜5のうちの何れか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−86594(P2010−86594A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−253547(P2008−253547)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】