説明

磁気記録媒体及びその記録再生装置

【課題】 製造過程でサーボ情報が予め書き込まれ、後からサーボ情報を書き込む必要のないパターンドメディア、その製造法、その型材、及びその記録再生装置を提供することである。
【解決手段】 円形の基板上に形成された非磁性体膜によって離隔された単一磁区からなる強磁性体が、前記円形の基板と中心が同一の複数の同心円上に規則的に整列されてなる磁気記録媒体において、前記複数の同心円の夫々に、前記強磁性体からなり第1のピッチで整列された第1の強磁性体と、前記強磁性体からなり第1のピッチとは異なる第2のピッチで整列された第2の強磁性体が配置され、前記複数の同心円を構成する一の同心円上の第2の強磁性体の配列と、前記複数の同心円を構成する他の同心円状の第2の強磁性体の配列との相違によって、前記一の同心円を前記他の同心円と識別可能とすること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度記録を可能とする磁気記録媒体等に関し、特に、単一磁区の微粒子をアレイ状に並べたパターンドメディア(Patterned Media)と呼ばれる磁気記録媒体等に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体には、大量の情報を記録することができる。このため、磁気記録媒体、特に磁気ディスクは、情報化社会を支える基幹装置の一つとして発展を続けている。
【0003】
磁気ディスクへの記録方式としては、現在、水平磁気記録方式および垂直磁気記録方式の二つの方式が用いられている。何れの方式にも、記録密度を高めて行くと雑音が大きくなるという問題がある。両記録方式とも、記録膜としては、強磁性体多結晶が一様に敷き詰められた多結晶強磁性体連続膜が用いられる。この多結晶強磁性体連続膜は、サイズや形が不規則に変化する結晶粒により構成され、その境界は不規則な形状をしている。この不規則性により、再生信号に雑音が発生する。従って、雑音を減らすためには、記録膜の強磁性体粒子を微細化して直線的なビット境界が得られるようにする必要がある。
【0004】
ところで、記録膜の記録密度を向上させようとしてビット間隔を狭くすると、強磁性体粒子はビット間隔に対して相対的に大きくなる。従って、記録密度を上げようとして、ビット間隔を狭くすると雑音が大きくなってしまう。このように、雑音を増加させずに記録密度を向上させるためには、強磁性体粒子を更に微細化してビットの境界がジグザクにならないようにしなければならない。
【0005】
しかし、強磁性体粒子を微細化し過ぎると、熱揺らぎによって記録磁化が消失しやすくなる。このため強磁性体粒子の微細化には限界がある。従って、記録密度を向上させていくと、最終的には雑音の不可避的上昇という限界に突き当たる。
【0006】
この問題を解決する新しいい記録媒体として、パターンドメディアが期待されている。これは、非強磁性体で離隔した単一磁区の強磁性体粒子を整列させて、この磁性粒子一つ一つに1ビットの情報を記録する究極の記録媒体である。図21は、パターンドメディアの概念を示したものである。基板1の上に単一磁区の強磁性体粒子2を整列させ、その間を非強磁性体3で満たし各強磁性体粒子2を離隔する。この離隔された強磁性体粒子2一つ一つに1ビットの情報を記録する。強磁性体粒子2は非強磁性体3によって離隔されているので、磁界の境界は明瞭であり雑音の問題は生じない。
【0007】
パターンドメディアの形成方法としては、電子線描画法、フォトリソグラフ法等を用いて非強磁性体に孔を開け強磁性体を埋め込む方法、同様に強磁性体をパターニングした後に非磁性体を埋めこんで平坦化する方法等に加えて陽極酸化で形成されたアルミナに開いた微細な孔(アルミナナノホール)に強磁性体を埋め込む方法がある(特許文献1)。
【0008】
図22は、最後の方法によって形成されたアルミナナノホール・パターンドメディアの平面図である。図22の上部は全体像を表し、下部はその一部を拡大したものである。図22に示すように、基板1の上にアルミナ膜5が形成され、同心円4上に整列したアルミナナノホールに強磁性体2が埋め込まれている。従って、磁気ディスクに必須のトラックが、予め作りこまれた構造になっている。
【0009】
このような同心円上に整列したアルミナナノホールは、アルミニウム薄膜にモールド(型材)を押し付けてできた浅い溝6に選択的に形成される。図23は、図22に示したアルミナナノホール・パターンドメディアの製造工程を示したものである。
【0010】
図23の左側は、アルミナナノホール・パターンドメディアの一部を拡大した平面図である。右側は、A−A´線における断面を矢印の方向から見た図である。
【0011】
まず、基板1上にアルミニウム膜(以下、Al膜と呼ぶ)7を堆積する(図23(a))。次に、Al膜7に同心円状に凸が形成されたモールド10を押し付けて、浅い溝8を形成する(図23(b))。尚、図23(b)の左側に記載した平面図では、モールド10が省略されている。次に、このAl膜7を所定の条件で陽極酸化すると、この溝8の中にアルミナナノホール9が選択的に一定間隔で形成される(図23(c))。この間隔(ピッチ)は、陽極酸化の条件により十〜数十nmの範囲で制御が可能である。最後に、このアルミナナノホールに強磁性体2を埋め込む(図23(d))。
【0012】
アルミナナノホールの深さは100nm程度であり、直径は10nm程度である。従って、埋め込まれた強磁性体には大きな形状磁気異方性が付与される。このため、アルミナナノホール9内の強磁性体2には、大きな保磁力が与えられる。この大きな保磁力により、強磁性体2の熱的安定性が高くなる。このように、アルミナナノホール・パターンドメディアには、高密度・低雑音という利点以外にも、熱揺らぎ耐性が高いというメリットがある。なお、アルミナナノホール9中の強磁性体2の磁化容易軸方向は、基板1に対して垂直な方向である。
【特許文献1】特開2005−305634号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したようにパターンドメディアには、同心円状のトラックが予め作りこまれている。ただし、トラック番号やセクタ番号等のサーボ情報は、後から書き込む必要がある。しかし、パターンドメディアに対しては、以下に説明する通り、従来ハード磁気ディスクへのサーボ情報の記録方法として用いられてきた、記録層に後からサーボ情報を書込む方法は適用することができない。
【0014】
サーボ情報を記録層に書き込む方法としては、磁気記録装置の磁気ヘッドによって作り出された磁界を磁性膜に書き込む方法がある。しかし、垂直磁気記録メディアやパターンドメディアのような大容量記録媒体にこのような方法を用いると、書き込み時間が膨大になり非効率的である。このため垂直磁気記録メディアのような大容量磁気記録媒体にサーボ情報を書き込む方法としては、磁気転写法が一般的である。
【0015】
図24は、磁気転写法を説明する概念図である。まず、サーボ情報に対応する磁性体パターンを、軟磁性体11のパターンに置き換えた雛形12を用意する。この雛形を、強磁性膜14を記録層とするハード磁気ディスク13に覆い被せる。この状態で、ハード磁気ディスクに垂直な磁界15を印加すると、非磁性体16の中に配置された軟磁性体11に磁界が集中し、その直下に位置する強磁性膜14が磁化される。従って、雛形に形成された磁性体パターンが、ハード磁気ディスクに転写される。この方法によれば、サーボ情報を一括してハード磁気ディスクに書き込みことができるので、極めて作業効率が高い。
【0016】
しかし、この方法をパターンドメディアに適用することは極めて困難である。従来のハード磁気ディスクでは記録層が連続的な強磁性体膜で構成されていたので、雛形12の軟磁性体11の下には必ず強磁性体膜14が存在する。しかし、強磁性体粒子(強磁性体2)が離散的に分布しているパターンドメディアでは、軟磁性体11の下に必ず強磁性体粒子が来るとは限らない。従って、雛形12とパターンドメディアを精密に位置あわせすることが必要になる。
【0017】
しかし、パターンドメディアのトラック間隔は100nm以下であり、ビット間隔も数十nmである。このため、雛形12とパターンドメディアの位置合わせは極めて困難である。すなわち、パターンドメディアには、従来の大容量ハード磁気ディスクで用いられてきた、後から記録層にサーボ情報を書込む方法を用いることはできない。
【0018】
従って、現状では、パターンドメディアへのサーボ情報の記録は、磁気記録装置の磁気ヘッドによって逐次書き込む以外に有効な方法はない。
【0019】
そこで、発明の目的は、製造過程でサーボ情報が予め書き込まれ、後からサーボ情報を書き込む必要のないパターンドメディア、その製造法、その型材、及びその記録再生装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の側面は、円形の基板上に形成された非磁性体膜によって離隔された単一磁区からなる強磁性体が、前記円形の基板と中心が同一の複数の同心円上に規則的に整列されてなる磁気記録媒体において、前記複数の同心円の夫々に、前記強磁性体からなり第1のピッチで整列された第1の強磁性体と、前記強磁性体からなり第1のピッチとは異なる第2のピッチで整列された第2の強磁性体が配置され、前記複数の同心円を構成する一の同心円上の第2の強磁性体の配列と、前記複数の同心円を構成する他の同心円状の第2の強磁性体の配列との相違によって、前記一の同心円を前記他の同心円と識別可能とすることを特徴とする。
【0021】
本発明の第1の側面によれば、第2の強磁性体の配列にトラックに関する情報が予め書き込まれているので、サーボ情報を後から磁気ヘッドで書き込む膨大な手間が不要になる。
【0022】
本発明の第2の側面は、円形の基板上に形成された非磁性体薄膜中に埋め込まれた単一磁区からなる磁性体が、前記円形の基板と中心が同一の渦巻き上に規則的に整列されてなる磁気記録媒体において、前記渦巻きの各周回に、前記磁性体からなり第1のピッチで整列された第1の強磁性体と、前記磁性体からなり第1のピッチとは異なる第2のピッチで整列された第2の強磁性体が配置され、前記各周回を構成する一の周回上の第2の強磁性体の配列と、前記各周回を構成する他の周回上の第2の強磁性体の配列との相違によって、前記一の周回を前記他の周回と識別可能とすることを特徴とする。
【0023】
本発明の第2の側面によれば、第2の強磁性体の配列にトラックに関する情報が予め書き込まれているので、サーボ情報を後から磁気ヘッドで書き込む膨大な手間が不要になる。
【0024】
本発明の第3の側面は、第1および第2の側面において、第2の強磁性体の配列が、符号化されていることを特徴とする。
【0025】
本発明の第3の側面によれば、符号された第2の強磁性体の配列によってサーボ情報も予め書き込可能になるので、トラック番号を含むサーボ情報を後から磁気ヘッドで書き込む膨大な手間を更に省略することができる。
【0026】
本発明の第4の側面は、第4の側面において、前記同心円または前記周回の夫々が複数の区画に分割され、前記複数の区画のそれぞれに、第2の強磁性体が配置され、符号化された前記配列によって、前記複数の区画を構成する一の区画を他の区画と識別可能にすることを特徴とする。
【0027】
本発明の第4の側面によれば、符号された第2の強磁性体の配列によってトラック番号とセクタ番号を含むサーボ情報も予め書き込可能になるので、サーボ情報を後から磁気ヘッドで書き込む膨大な手間を一層省略することができる。
【0028】
本発明の第5の側面は、第1乃至4の側面において、前記非磁性体がアルミナであり、前記磁性体が、前記アルミナに形成された孔に埋め込まれていることを特徴とする。
【0029】
本発明の第6側面は、アルミニウム膜に押し付けて、陽極酸化によって形成されるアルミナの中に開口する孔の位置を特定する平板状の型材において、同心円状または渦巻き状の凸部に、所定の間隔を隔てて配置された線状の凸部が交差していることを特徴とする型材。
【0030】
本発明の第6の側面によれば、アルミナナノホールを利用したパターンドメディアの製造が容易になり、しかもパターンの偏心に対する許容度が高いパターンドメディアを製造することがきる。
【0031】
本発明の第7面は、第1乃至5の側面における磁気記録媒体の製造法であって、基板上にアルミニウム膜を形成する工程と、前記アルミニウム膜に第6の側面の型材を押し付けて、前記アルミニウム膜に前記型材の型を転写する工程と、前記型が転写された前記アルミニウム膜を陽極酸化して、前記アルミニウム膜をアルミナ膜に転換するとともに、前記型の転写された領域に孔を形成する工程と、前記孔に強磁性体を埋め込む工程とからなる。
【0032】
本発明の第8面は、第1乃至5の側面における磁気記録媒体に、情報の記録及び再生の一方又は双方を行う磁気記録再生装置であって、第1および第2の強磁性体の生成する電気信号から、第2の強磁性体の前記配列を特定するサーボ情報読取装置を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、製造過程でサーボ情報が予めパターンドメディアに書き込まれているので、後から磁気ヘッドでサーボ情報を書き込む膨大な手間が不要になり、パターンドメディアへの情報の記録再生が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【0035】
(1)実施の形態1
本実施の形態は、製造段階でサーボ情報が予め書き込まれたパターンドメディアの構造に係るものである。
【0036】
本実施の形態におけるパターンドメディアでは、強磁性体粒子が、第1のピッチと第1のピッチとは異なる第2のピッチでトラック上に整列されている。サーボ情報は、第2のピッチで整列された強磁体粒子の配列によって記録されている。一方、データは、第1のピッチで整列された強磁性体粒子の磁化方向(垂直磁化)によって記録される。
【0037】
図1は、本実施の形態におけるパターンドメディア17の平面図である。図2は、パターンドメディア17のサーボ情報記録領域18の拡大図である。但し、図2には、サーボ情報記録領域18の一端(下側)のみが拡大されて記載されている。図3は、図2のA−A´線における断面を矢印の方向から見た図である。
【0038】
本実施の形態におけるパターンドメディアでは、石英からなる円形の基板1上にアルミナ膜5が配置され(図1及び3)、コバルト(Co)からなる強磁性体19が、そのアルミナによって互いに離隔され、且つ基板1と中心が同一で半径が60nmずつ増加する複数の同心円4からなるトラック上に、50nm間隔で規則的に整列されている(図2)。
【0039】
断面構造の詳細は、図3のようになっている。まず結晶化ガラスからなる基板1(直径1インチ)の上に、基板1に強固に密着し且つ平坦な表面を備えたTaからなる密着層20が50nmの厚さに成膜されている。次に、この密着層20上には、NiFeからなる下地軟磁性層21が、50nmの厚さに成膜されている。次に、この下地軟磁性層21の上に、Taからなる酸化停止層22が、10nmの厚さに成膜されている。次に、この酸化停止層22の上に、強磁性体19が埋め込まれたアルミナ膜5が成膜されている。更に、アルミナ膜5の上には、ダイヤモンドライクカーボン膜からなる保護膜23が、10nmの厚さに成膜されている。最後に、保護膜23の上にフッ素系液体潤滑剤24が約1nm塗布されている。
【0040】
なお、基板1としては、Al円板、石英円板、シリコン基板、またはシリコン基板の表面を熱酸化したSiO/Si基板であってもよい。また、密着層20としては、Ti膜またはCr膜であってもよい。また、下地軟磁性層21としては、CoZrNb膜またはCoZrTi膜であってもよい。また、酸化停止層22としては、Ti膜またはNi膜であってもよい。
【0041】
本実施の形態におけるパターンドメディアのトラック25は、図2のように構成されている。すなわち、各トラック25上には、第1のピッチ26(50nm)及び第1のピッチとは異なる第2のピッチ27(70nm)で整列させられた2種類の強磁性体19が存在する。図2では、第1のピッチで整列された強磁性体28(以下、第1の強磁性体と呼ぶ)は白丸で、第2のピッチで整列された強磁性体29(以下、第2の強磁性体と呼ぶ)は黒丸で表されている。第1の強磁性体には、記録再生装置によって情報が記録され又は読み出される。一方、第2の強磁性体29は、磁化方向は総てのビットで同一であるが、配列がトラック毎に異なっている。トラック1では、第2の強磁性体29は一つだけであり、その近傍には他に第2の強磁性体29は存在しない。トラック2では、第2の強磁性体29が3つ連続して存在している。トラック3では、第2の強磁性体29のペア30が、2つの第1の強磁性体28を挟んで存在する。同様に、トラック4と5では、第2の強磁性体29のペアが、それぞれ5つまたは8つの第1の強磁性体28を挟んで二つ存在する。
【0042】
従って、第2の強磁性体29の配列を読み取れば、サーバ情報記録領域18内のトラックを識別することができる。たとえば、一つのサーバ情報記録領域内に256本のトラックを収容すると、サーバ情報記録領域の半径方向長さは約14μmである。この長さは、サブμmオーダーのパターン合わせ精度、偏芯制御精度と比べて十分広いので、ステッピングモータだけで所望のサーバ情報記録領域18(正確には、サーバ情報記録領域18を有するトラック群)にヘッドポジショニングすることができる。従って、ステッピングモータによって磁気ヘッド52を所望のサーバ情報記録領域18にポジショニングし、更に個々のトラックを第2の強磁性体29の配列によって識別すれば、パターンドメディア全体で個々のトラックを識別することができる。尚、図中に示した矢印31はトラックの走行方向である。なお、トラッキングは、磁気ヘッド52の出力が最大になるように磁気ヘッド52の位置を半径方向で制御するようにする。
【0043】
図2に示した例では、第2の強磁性体のペア30の間隔等の相違によってトラックを識別している。トラックを識別するための配列としては、図2の配列以外にも種々のものが考えられる。
【0044】
図4は、異なった数の第2の強磁性体29が、隣接するトラック25に交互に配置された例である。トラック間隔が比較的広くステッピングモータによるヘッドポジショニングの分解能が2トラック以下であれば、図4のような配列によっても、ヘッドポジショニング情報を利用することによって個々のトラックを識別することができる。
【0045】
図5は、第2の強磁性体29の配列を符号化することによりトラックを識別するパターンドメディアの例である。この例では、第2の強磁性体29に“1”を、第1の強磁性体28には“0”を対応させる。例えば、トラック5には、符号“1000001000001”が対応する。このように各トラックに設けられた第2の強磁性体粒子29の配列を符号化して、各トラック付した符号によって各トラックを識別する。
【0046】
図6は、符号化領域の前後にその始まりと終わりを現すギャップ35を設けた例である。この例では、各トラックは、第1の強磁性体28からなる(情報を書き込むための)データエリア33と、第2の強磁性体29の配列によってサーボ情報が書き込まれたサーボ情報エリア34と、第2の強磁性体29からなり、データエリア33とサーボ情報エリア34を分離するギャップ35とから構成されている。そして一つデータエリア33、一つのサーボ情報エリア34、及び一対のギャップ35によって、一つのセクタ36が構成されている。
【0047】
サーボ情報エリア34は図5と同様に符号化されており、最上部のトラックの符号は“0000000000000000”である。一方、最下部のトラックの符号は、“0011110011001”である。この符号に、トラック番号とセクタ番号からなるサーボ情報を対応させる。
【0048】
以上のように、第2の強磁性体29の配列にサーボ情報を記録する方法には種々のものがあり、必要に応じて最適の記録方法を選択すればよい。
【0049】
本実施の形態におけるパターンドメディアは、アルミナナノホールを利用したパターンドメディアに関するものである。しかし、本実施の形態は、他のパターンドメディアにも適用できる。例えば、電子線描画法を用いて非磁性体に孔を開けて強磁性体を埋め込むタイプのパターンドメディアにも適用可能である。この場合、アルミナ膜を非磁性体として用いてもよいが、他の非磁性体膜例えばSiOを用いることもできる。また、酸化停止層22は不要である。他の構成は、第1および第2の強磁性体の配置を含めて、上記パターンドメディアと同じにすればよい。
【0050】
尚、本実施の形態では、磁性体粒子のピッチは2通りであったが、ピッチの種類は3通り以上であっても良い。また、磁性体粒子は同心円状のトラックに配置されていたが、図7のような螺旋55上に配置されていてもよい。この場合には、第2の強磁性体の配列によって、夫々の周回が他の周回上と識別される。なお、ここで周回とは、螺旋上の一点56が螺旋上を一回転する間に通る区間57のことである。即ち、一つの周回が一トラックに相当する。以後の説明では、同心円状のトラックを有するパターンドメディアに関してのみ説明するが、「同心円状」を「螺旋状」、「同心円」を「周回」と読み替えれば螺旋上に磁性体粒子が配置されたパターンドメディアの説明になる。
【0051】
(2)実施の形態2
本実施の形態は、実施の形態1で説明したパターンドメディアの記録再生装置に係るものである。
【0052】
図8は、本実施の形態における記録再生装置のブロック図である。図9は、図8に示した記録再生装置の信号を表したものである。
【0053】
本実施の形態における記録再生装置は、ハードディスク・アセンブリ(以下、HDAと称する)58と、信号処理装置69からなる。HDA58は、スピンドルモータ、ボイス・コイル・モータ、磁気、ヘッドアンプ等からなる。一方、信号処理装置69は、磁性体粒子の磁化方向を電気信号に変換したHDAの出力59が入力される第1の同期信号抽出回路60(以下、PLL1と称する)と、HDAの出力59が入力される第2の同期信号抽出回路(61以下、PLL2と称する)と、PLL1の出力する第1のクロック信号に同期してHDAの出力59を同期検波する第1の同期検波回路62と、PLL2の出力する第2のクロック信号に同期してHDAの出力59を同期検波する第2の同期検波回路63と、第1および第2の同期検波回路の出力が入力されるデコーダ、エンコーダ、信号波形整形回路、メモリー、マイクロコンピュータ、モーター・ドライバー等からなる信号処理回路(図示せず)から構成されている。
【0054】
第1の同期信号抽出回路60は、位相同期回路(PLL)等から構成されており、第1の強磁性体が発生する信号の位相に同期した第1のクロック信号を出力する。第2の同期信号抽出回路61は、位相同期回路(PLL)等から構成されており、第2の強磁性体が発生する信号の位相に同期した第2のクロック信号を出力する。
【0055】
第1の同期検波回路62は、HDAの出力59が入力されPLL1の出力する第1のクロック信号に同期して開閉する第1のスイッチ64と、第1のスイッチ64の出力が入力される第1の低域通過フィルタ65とによって構成されている。第2の同期検波回路63は、HDAの出力59が入力されPLL2の出力する第2のクロック信号に同期して開閉する第2のスイッチ66と、第1のスイッチ66の出力が入力される第2の低域通過フィルタ67とによって構成されている。
【0056】
ここで、第1の低域通過フィルタ65は、第1の強磁性体が磁気ヘッドを通過する周期に対応する周波数は通過させより高い周波は遮断する。また、第2の低域通過フィルタ67は、第2の強磁性体が磁気ヘッドを通過する周期に対応する周波数は通過させより高い周波は遮断する。
【0057】
従って、第1の同期検波回路は、第1の強磁性体が発生する信号を選択的に抽出することができる。また、第2の同期検波回路は、第2の強磁性体が発生する信号を選択的に抽出することができる。
【0058】
第1および第2の同期検波回路の出力は、図示しない信号処理回路に入力され、HDAに装着されたパターンドメディアに記録された信号が再生される。
【0059】
一方、パターンドメディアに信号を記録する場合には、図示しない信号処理装置が第2の同期検波回路67の出力からサーボ情報を取得し、制御信号とデータ68をHDAに出力して情報を記録する。
【0060】
次に、本実施の形態の記録再生装置が、パターンドメディアからサーボ情報を取得する動作について説明する。
【0061】
まず、HDA58の磁気ヘッドにより、回転するパターンドメディアの強磁性体粒子が作り出す磁束変化を電気信号に変換する。この電気信号59には、第1の強磁性体が生み出すデータ信号と第2の強磁性体が生み出すサーボ情報信号が含まれている。第2の同期信号抽出回路61(PLL2)は、ハードディスク・アセンブリの出力59からサーボ情報信号に位相同期した第2のクロック信号70を抽出する。
【0062】
第2の同期検波回路63は、PLL2の出力する第2のクロック信号に同期してスイッチ66を開閉させ、その出力から第2の低域通過フィルタ67によって平滑化してサーボ情報信号のみ抽出する。すなわち、第2の同期信号抽出回路61と第2の同期検波回路63は、サーボ情報読取装置を構成する。
【0063】
図9は、図6のようなギャップとサーボ情報エリアを有するパターンドメディアに対する第2の第2の同期信号抽出回路61と第2の同期検波回路63の出力を示したものである。
【0064】
第1の曲線70は、第2の同期信号抽出回路61の出力を示す。第1〜6の曲線71は、異なるトラックからの第2の同期検波回路63の出力である。横軸は時間、縦軸は信号強度である。
【0065】
第1の曲線70に示されるように、第2の同期信号抽出回路61は一定周期のクロック信号を発生する。そして、第1〜第6の曲線71に示されるように、第2の同期検波回路63は第2の強磁性体の配列に対応した信号を発生する。すなわち、ギャップ35に対応する期間72では、一定周期の信号を発生し、サーボ情報エリア34に対応する期間73ではトラック番号またはセクタ番号に対応した信号を発生し、データエリア33に対応する期間74では信号を発生しない。なお、図中に示した破線は、後段の信号処理回路が信号の有無を判断する閾値である。第1の強磁性体からの信号はこの閾値より低く、第2の強磁性体からの信号はこの閾値より高くなる。すなわち、閾値75以上の信号は第2の強磁性体からの信号と、閾値75以下の信号は第1の強磁性体からの信号と識別される。同様にして、データも第1の同期信号抽出回路60と第1の同期検波回路62によって抽出される。
【0066】
以上のようにして得られたサーボ信号及びデータ信号に基づき、信号処理装置69はハードディスク・アセンブリ58を制御し、データの書込みおよび読み込みを行う。
【0067】
(3)実施の形態3
本実施の形態は、実施の形態1で説明したパターンドメディアの製造方法に係るものである。
【0068】
図10〜12は、本実施の形態におけるパターンドメディアの製造法を要部断面図で示したものである。
【0069】
まず、図10(a)のように、結晶化ガラスからなる円板状のディスク基板1に、膜厚50nmのTaからなる密着層20と、膜厚50nmのNiFeからなる下地軟磁性層21と、膜厚10nmのTaからなる酸化停止層22と、膜厚100nmのAl膜7をスパッタ法によって成膜する。成膜方法は、スパッタ法に限られるものではなく、蒸着やCVD等の他の成膜方法であってもよい。
【0070】
ここで密着層20は、以後の工程でストレスによって成膜した膜が膜剥しないようにするためのものである。下地軟磁性層21は、垂直磁気記録を容易にするためのものである。酸化停止層22は、Al膜7の陽極酸化時に下地軟磁性層21が腐食されたり、剥離することを防止するためのものである。従って、これらの層は必須の構成要素ではないが、省略しない方が好ましい。
【0071】
次に、Al膜7上にインプリント用のレジスト36(ポリメチルメタアクリレート(PMMA), ポリカーボナイト(PC)等)を、スピンコート法によって50nmの厚さに成膜する(図10(b))。尚、レジストの膜厚は、次の工程で使用するインプリント用モールドの凹凸の高さに応じて適宜調整する必要がある。
【0072】
次に、アルミナナノホールを整列させる溝に対応したパターンが刻まれているモールド37を用意する。このモールド37を、レジスト膜36に圧着してそのパターンをインプリントする(図10(c))。インプリントのための条件はレジストの材質によって変化するが、たとえばガラス転移温度120℃のPMMAを用いた場合には、圧力は500kg/cm、温度は150℃、保持時間は5分である。
【0073】
本実施の形態では、レジスト36へのモールドパターンの転写は熱インプリント法によって行うが、光インプリント法を用いてもよい。または、電子線描画法、フォトリソグラフィ法等により、レジスト36に直接上記溝のパターンを形成してもよい。
【0074】
図13は、本実施の形態で使用するモールド37の平面図である。図の上半分はモールド全体を、下半分はサーボ情報記録領域に対応する部分の拡大図を示したものである。図14は、図13のA−A´線における断面を矢印の方向から見た図である。図14に示すように、モールド37には一定の幅の凹凸が周期的に繰り返される所謂ライン・アンド・スペース(以下、L/Sと称する)パターン39が刻まれている。ここで、凹部深さ38は50nmであり、L/Sパターンのピッチ40は60nmである(凹部の幅は30nm、凸部の幅も30nm)。このL/Sパターンはトラック形成用のものであり、そのピッチは、本実施の形態におけるパターンドメディアのトラックピッチに対応する。
【0075】
サーボ情報記録領域には、このL/Sパターンに直交するように別のL/Sパターンも刻みこまれている。このL/Sパターンのピッチ41は70nmであり、二つのL/Sパターンの交点が転写された位置にアルミナナノホールが選択的に形成され、サーボ情報を記録するための強磁性体粒子が埋め込まれる。なお、サーボ情報記録領域用L/Sパターンの深さは、上記トラック用L/Sパターンと同じであり、凹部の幅及び凸部の幅は夫々35nmである。
【0076】
次に、モールド37の型が転写されたレジスト36をOプラズマアッシャによってアッシング処理し(PF電力50W,処理時間20s)、凹部の底に残っているレジストの残渣を除去する。その後、塩素系のRIEによってAl膜7を10nm程度エッチングする。RIEエッチングの条件は、圧力0.2pa、Cl流量45sccm、Ar流量5sccm、及びRF電力200Wである。RIEエッチング時間は1分間である(図11(d))。
【0077】
次に、レジスト膜7をアッシング処理し(PF電力50W,処理時間60s)、更にアセトン中に1分間浸漬することによりAL膜7からレジスト36を剥離する。レジスト36を剥離するとAL膜7表面には、モールド37のパターンが転写された凹凸が現れる(図11(e))。
【0078】
次に、AL膜7を陽極とし、別途用意するAl板を陰極として、これらの電極を0.3Mの希硫酸からなる電解液に浸し20Vの電圧を5分間に印加する。するとAL膜7は陽極酸化されてアルミナ膜5となり、トラック内のデータエリアには50nmピッチのアルミナナノホール9の列が形成され、サーボ情報エリアおよびギャップエリアには70nmピッチのアルミナナノホール列が形成される。
【0079】
上記陽極酸化条件は、同心円状の凹部に50nmピッチのアルミナナノホール列を形成するためのものである。従って、同心円上に凹部のみが形成されたデータエリアには、50nmピッチのアルミナナノホール列が形成される(図11(f))。
【0080】
ところで、アルミナナノホールには、2本の溝が交わる交点に選択的に形成されるという性質がある。従って、トラック用L/Sパターン39とサーボ情報記録領域用L/Sパターン42が交差する位置(凹部)には選択的にアルミナナノホールが形成される。サーボ情報記録領域用L/Sパターンのピッチは70nmなので、サーボ情報エリアには、70nmピッチのアルミナナノホール列が形成される。
【0081】
次に、アルミナナノホールの形成された基板1を、硫酸コバルト(CoSo)水溶液とホウ酸水溶液からなるメッキ液(CoSO:50g/l、ホウ酸:20g/l)に浸し50℃に保つ。この状態で、基板1上の酸化停止層22と別途用意する電極との間に12Vの交流電圧を印加して、強磁性体Coをアルミナナノホールに充填し更にアルミナ膜の表面を覆うまでメッキする(図12(g))。
【0082】
次に、この表面のCoを、CMP(chemical mechanical polishing)法によって研磨し表面を平坦化する。研磨剤にはシリカ粒子を主成分とするスラリーを用い、アルミナ膜5の表面も約10nm研磨する(図12(h))。
【0083】
次に、平坦化したアルミナ膜5の表面に、厚さ3nmのDLC(ダイヤモンドライクカーボン)をスパッタ法で成膜して保護膜23を形成する。次に、ディップ法によって、フッ素系の液体潤滑剤を保護膜23の表面に約1nmを塗布する(図12(i))。
【0084】
最後に、アルミナナノホールに強磁性体が埋めこまれた基板に、垂直磁界を印加して強磁性体粒子全体を一方向に磁化する。
【0085】
以上の工程により、サーボ情報エリアを有する図1〜6のようなパターンドメディアを製作することができる。
【0086】
本実施の形態におけるパターンドメディアの製造方法は、アルミナナノホールを利用したパターンドメディアに関するものである。電子線描画法を用いて非磁性体に孔を開けて強磁性体を埋め込むタイプのパターンドメディアを製造するには、以下のようにすればよい。まず、図10(a)の工程において、酸化停止膜層22の形成を省略し、Al膜7の代わりに例えばSiO膜をCVD法により100nm堆積する。次に、図10(b)の工程ではインプリント用レジストの代わりに電子線描画用のレジストを50nmスピンコートする。次に、図10(c)及び(d)の工程に代わりに、アルミナナノホールを形成すべき総ての位置(データエリア、サーボ情報エリア及びギャップ)に電子線を照射して、アルミナナノホールと同程度の直径(10nm)の円を描く。その後このレジストを現像し、アルミナナノホールに対応した多数の孔の開いたパターンを形成する。次に、その後、塩素系のRIEによってSiO膜に下地軟磁性体膜に貫通する孔を開ける。以後の工程は、上記アルミナナノホールを利用したパターンドメディアの製造方法と同じである。
【0087】
(4)実施の形態4
次に、本実施の形態におけるパターンドメディア製造用のモールド37について説明する。
【0088】
本実施の形態のモールド37は、図13に示したように、同心円上のトラック用L/Sパターン39とこれに交差するサーボ情報記録領域用L/Sパターン42とを具備している。このパターンは、以下に説明するように、電子線描画装置でレジスト膜に描画され、金属厚膜に写し取られる。
【0089】
アルミナナナノホールを形成するためのモールドのパターンは、必ずしも図13に示すようにL/Sからなるパターンではなく、多数の点を整列させたパターンであってもよい。しかし、L/Sからなるパターンを用いることによって、モールドの作製が極めて容易になる。
【0090】
点状の凹部が形成されたAl膜を陽極酸化すると、点状の凹部に選択的にアルミナナノホールが形成される。従って、モールドのパターンとしては、図16のようなアルミナナノホールを形成したい位置に点状の凸部を一つ一つ設けたパターンでもよい(図16には、三トラック分の凸部を示してある。)。しかし、このようなパターンを電子線描画装置で描こうとすると、凸部を一点描く毎に電子線を遮断(ブランキング)をしてから、次の描画位置に電子線照射位置を移動しなければならない。従って、この方法は極めて非効率的である。この方法に対して、L/Sパターを用いる方法では、一定電流の電子線でレジストの表面を連続的に走査すればよいので極めて効率的である。
【0091】
また、モールドの他のパターンとしては、図17のように、サーボ情報を担うアルミナナノホールの位置で、L/Sパターン(凸部)45の幅を膨らました瘤46を設けてもよい。このような瘤を形成するには、まず電子線描画によりトラック用のL/Sパターンを描画した後、瘤46となる位置にL/S幅より少し広めの円を描画することになる。
【0092】
この作業自体、一つ一つ円を描かなければならないので効率が悪い。しかも、このようなパターンを描こうとすると、60nmのトラックピッチで形成されたトラック用L/Sパターンに重なるように円を描画しなければならない。このような描画には、数十nmの精度で描画位置を合せることが必要である。そのような高精度の位置合せは極めて困難であり、図17のようなパターンを形成するのは事実上不可能である。
【0093】
これに対して、本実施の形態におけるパターン(図13)では、サーボ情報記録領域用L/Sパターン42がトラック用L/Sパターン39のピッチより長く描かれるので、図15のように、トラック用L/Sパターン39とサーボ情報記録領域用L/Sパターン42は必ず交差する。すなわち、本実施の形態におけるサーボ情報記録領域用L/Sパターン42を描画するためには、高精度の位置合せは不要である。従って、図13のようなパターンを有するモールドは、容易に作製することができる。尚、図15では、L/Sパターンは直線で表しているが、実際にはL(ライン)とS(スペース)の幅は、1:1である。
【0094】
図18及ぶ図19は、図13に示したモールドの製造方法を図示したものである。図の右半分は作成途上のモールド等の平面図であり、左半分は平面図のA−A´線における断面を矢印の方向から見た図である。
【0095】
まず、シリコン基板47の上に、電子線描画用のレジスト48をスピンコートする。レジスト48の厚さは、約50nmである(図18(a))。基板としては、SiN、ガラス等からなる表面の平坦な円板を用いることもできる。
【0096】
次に、レジスト48がコートされた基板47をr−θ型の電子線描画装置に装填し、60nmピッチで同心円状のL/Sパターン49を、レジスト48に描画する(図18(b))。
【0097】
次に、サーボ情報記録領域に対応するエリアに70nmピッチで、同心円状のL/Sパターン49と交差する直線群50を描画する(図18(c))。
【0098】
次に、電子線で露光したレジスト48を、現像処理する。図18(d)は、現像処理によってレジスト48にL/Sパターンが形成された部分の拡大断面図である。以後、図18(f)までは、拡大断面図である。
【0099】
次に、L/Sパターンが形成された基板47に、電子線蒸着装置を用いて厚さ約50nmのNi膜を蒸着する(図19(e))。このNi膜を電極として、スルファミン酸Ni水溶液を用いてNiを電鋳し厚さ300 μmのNi板54を形成する(図19(f))。
【0100】
最後に、基板47を剥離しその後裏面研磨及び外径加工を行うと、図13に示したようなモールドが完成する(図19(g))。
【0101】
図18(b)及び(c)におけるL/Sパターンは、基板を載せる試料台が回転可能なr−θ型電子線描画装置で描画される。しかし、図18(b)の同心円状のL/Sパターンはr−θ型電子線描画装置で描画し、図18(c)の短い直線群50は描画フィールド(電子線の走査方向、すなわちXY座標)が回転可能なXY型電子線描画装置で描画すれば処理速度は一層向上する。
【0102】
この場合、基板をr−θ型電子線描画装置から外して、XY型電子線描画装置に再度装着しなければならないので、直線群50を描画する際同心円状のL/Sパターン49の中心を正確に特定することが困難になる。しかし、本実施の形態では、同心円状のL/S49に対して直線群50を交差させてサーボ情報を書き込むので、多少の偏心や位置ずれがあってもトラッキング時の情報処理によって容易に補正することができる。
【0103】
すなわち、各トラック(または、セクタ)には何らかのサーボ情報が書き込まれているので、その情報を基に各トラック(またはセクタ)を特定することが可能である。
【0104】
図20は、図2および図4〜6に示したサーボ情報記録領域を形成するための電子線描画パターンである。図中には、60nmピッチで整列する強磁性体粒子28(第1の強磁性体)および70nmピッチで整列する強磁性体粒子29(第2の強磁性体)も記載されている。描画パターンは細い線51で描かれているが、実際には強磁性体粒子29の直径と同程度の幅である。
【0105】
図20(a)〜(d)のパターンは、それぞれ図2、図4〜6のサーボ情報記録領域を形成するためのものである。
【0106】
以上の実施の形態をまとめると,次の付記のとおりである。
【0107】
(付記1)
円形の基板上に形成された非磁性体膜によって離隔された単一磁区からなる強磁性体が、前記円形の基板と中心が同一の複数の同心円上に規則的に整列されてなる磁気記録媒体において、
前記複数の同心円の夫々に、前記強磁性体からなり第1のピッチで整列された第1の強磁性体と、前記強磁性体からなり第1のピッチとは異なる第2のピッチで整列された第2の強磁性体が配置され、
前記複数の同心円を構成する一の同心円上の第2の強磁性体の配列と、前記複数の同心円を構成する他の同心円状の第2の強磁性体の配列との相違によって、前記一の同心円を前記他の同心円と識別可能とすることを特徴とする磁気記録媒体。
【0108】
(付記2)
円形の基板上に形成された非磁性体薄膜中に埋め込まれた単一磁区からなる磁性体が、前記円形の基板と中心が同一の渦巻き上に規則的に整列されてなる磁気記録媒体において、
前記渦巻きの各周回に、前記磁性体からなり第1のピッチで整列された第1の強磁性体と、前記磁性体からなり第1のピッチとは異なる第2のピッチで整列された第2の強磁性体が配置され、
前記各周回を構成する一の周回上の第2の強磁性体の配列と、前記各周回を構成する他の周回上の第2の強磁性体の配列との相違によって、前記一の周回を前記他の周回と識別可能とすることを特徴とする磁気記録媒体。
【0109】
(付記3)
第2の強磁性体の配列が、符号化されていることを特徴とする付記1又は2に記載の磁気記録媒体。
【0110】
(付記4)
前記同心円または前記周回の夫々が複数の区画に分割され、
前記複数の区画のそれぞれに、第2の強磁性体が配置され、
符号化された前記配列によって、前記複数の区画を構成する一の区画を他の区画と識別可能にすることを特徴とする付記3に記載の磁気記録媒体。
【0111】
(付記5)
前記非磁性体がアルミナであり、
前記強磁性体が、前記アルミナに形成された孔に埋め込まれていることを特徴とする付記1乃至4に記載の磁気記録媒体。
【0112】
(付記6)
アルミニウム膜の表面に直接押し付けて、陽極酸化によって形成されるアルミナの中に開口する孔の位置を特定する平板状の型材において、
同心円状または渦巻き状の凸部に、所定の間隔を隔てて配置された線状の凸部が交差していることを特徴とする型材。
【0113】
(付記7)
付記1乃至5に記載の磁気記録媒体の製造法であって、
基板上にアルミニウム膜を形成する工程と、
前記アルミニウム膜の表面に直接付記6に記載の型材を押し付けて、前記アルミニウム膜に前記型材の型を転写する工程と、
前記型が転写された前記アルミニウム膜を陽極酸化して、前記アルミニウム膜をアルミナ膜に転換するとともに、前記型の転写された領域に孔を形成する工程と、
前記孔に強磁性体を埋め込む工程とからなる磁気記録媒体の製造法。
【0114】
(付記8)
付記1乃至5に記載の磁気記録媒体に、情報の記録及び再生の一方又は双方を行う磁気記録再生装置であって、
第1および第2の強磁性体の生成する電気信号から、第2の強磁性体の前記配列を特定するサーボ情報読取装置を有することを特徴とする磁気記録媒体の記録再生装置。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明は、磁気記録装置製造業で利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】実施の形態1におけるパターンドメディアの平面図である。
【図2】実施の形態1におけるパターンドメディアのサーボ情報記録領域の拡大図である。
【図3】図2のA−A´線における断層を矢印の方向からみた図である。
【図4】実施の形態1におけるサーボ情報記録領域の他の例1である。
【図5】実施の形態1におけるサーボ情報記録領域の他の例2である。
【図6】実施の形態1におけるサーボ情報記録領域の他の例3である。
【図7】実施の形態1における他のパターンドメディアの例である。
【図8】実施の形態2における記録再生装置のブロック図である。
【図9】実施の形態2における記録再生装置の信号を表した図である。
【図10】本実施の形態3におけるパターンドメディアの製造法を示す第1の図である。
【図11】本実施の形態3におけるパターンドメディアの製造法を示す第2の図である。
【図12】本実施の形態3におけるパターンドメディアの製造法を示す第3の図である。
【図13】本実施の形態4における、アルミナナノホールを整列させる浅い溝をAl膜7に形成するための型が刻まれたモールドの平面図である。
【図14】図13のA−A´線における断面を矢印の方向から見た図である。
【図15】トラック用L/Sパターンとサーボ情報記録領域用L/Sパターンの位置合せについて説明する図である。
【図16】アルミナナノホールを形成する位置に点状の凸部を一つ一つ設けたモールドパターンである。
【図17】アルミナナノホールを形成する位置に瘤を設けたモールドパターンである。
【図18】本実施の形態5におけるアルミナナノホール形成用のモールドの製造方法を示す第1の図である。
【図19】本実施の形態5におけるアルミナナノホール形成用のモールドの製造方法を示す第2の図である。
【図20】図2及び図4〜6に示したサーボ情報記録領域を形成するための電子線描画パターンである。
【図21】パターンドメディアの断面を示す概念図である。
【図22】アルミナナノホール・パターンドメディアの平面図である。
【図23】アルミナナノホール・パターンドメディアの製造工程である。
【図24】磁気転写法における磁気転写を示す概念図である。
【符号の説明】
【0117】
1 基板
2 強磁性体粒子
3 非磁性体
4 同心円
5 アルミナ膜
7 Al膜
8 浅い溝
9 アルミナナノホール
10 モールド
11 軟磁性体
12 雛形
13 ハード磁気ディスク
14 強磁性膜
15 磁界
16 非磁性体
17 パターンドメディア
18 サーボ情報記録領域
19 強磁性体
20 密着層
21 下地軟磁性層
22 酸化停止層
23 保護膜
24 液体潤滑剤
25 トラック
26 第1のピッチ
27 第2のピッチ
28 第1のピッチで整列された強磁性体(第1の強磁性体)
29 第2のピッチで整列された強磁性体(第2の強磁性体)
30 第2の強磁性体のペア
31 トラックの走行方向
32 符号化領域の始まりと終わりを現すギャップ
33 データエリア
34 サーボ情報エリア
35 ギャップ
36 レジスト
37 モールド
38 モールドの凹凸の深さ
39 モールドのL/Sパターン(トラック用)
40 モールドのL/Sパターンのピッチ(トラックピッチ)
41 モールドのL/Sパターン(サーボ情報記録領域用)のピッチ
42 モールドのL/Sパターン(サーボ情報記録領域用)
43 Co
44 点状
45 L/Sパターン
46 瘤
47 シリコン基板
48 電線描画用のレジスト
49 同心円状のL/Sパターン
50 同心円状のL/Sパターンと交差する直線群
51 描画パターンを示す線
52 磁気ヘッド
53 Ni膜
54 Ni板
55 螺旋
56 螺旋上の点
57 周回
58 ハードディスク・アセンブリ
59 ハードディスク・アセンブリの出力
60 第1の同期信号抽出回路
61 第2の同期信号抽出回路
62 第1の同期検波回路
63 第2の同期検波回路
64 第1のスイッチ
65 第1の低域通過フィルタ
66 第2のスイッチ
67 第2の低域通過フィルタ
68 制御信号およびデータ
69 信号処理装置
70 第1の曲線
71 第1〜第6の曲線
72 ギャップに対応する期間
73 サーボ情報エリアに対応する期間
74 データエリアに対応する期間
75 閾値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形の基板上に形成された非磁性体膜によって離隔された単一磁区からなる強磁性体が、前記円形の基板と中心が同一の複数の同心円上に規則的に整列されてなる磁気記録媒体において、
前記複数の同心円の夫々に、前記強磁性体からなり第1のピッチで整列された第1の強磁性体と、前記強磁性体からなり第1のピッチとは異なる第2のピッチで整列された第2の強磁性体が配置され、
前記複数の同心円を構成する一の同心円上の第2の強磁性体の配列と、前記複数の同心円を構成する他の同心円状の第2の強磁性体の配列との相違によって、前記一の同心円を前記他の同心円と識別可能とすることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
円形の基板上に形成された非磁性体薄膜中に埋め込まれた単一磁区からなる磁性体が、前記円形の基板と中心が同一の渦巻き上に規則的に整列されてなる磁気記録媒体において、
前記渦巻きの各周回に、前記磁性体からなり第1のピッチで整列された第1の強磁性体と、前記磁性体からなり第1のピッチとは異なる第2のピッチで整列された第2の強磁性体が配置され、
前記各周回を構成する一の周回上の第2の強磁性体の配列と、前記各周回を構成する他の周回上の第2の強磁性体の配列との相違によって、前記一の周回を前記他の周回と識別可能とすることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項3】
第2の強磁性体の配列が、符号化されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記同心円または前記周回の夫々が複数の区画に分割され、
前記複数の区画のそれぞれに、第2の強磁性体が配置され、
符号化された前記配列によって、前記複数の区画を構成する一の区画を他の区画と識別可能にすることを特徴とする請求項3に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記非磁性体がアルミナであり、
前記強磁性体が、前記アルミナに形成された孔に埋め込まれていることを特徴とする請求項1乃至4に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
請求項1乃至5に記載の磁気記録媒体に、情報の記録及び再生の一方又は双方を行う磁気記録再生装置であって、
第1および第2の強磁性体の生成する電気信号から、第2の強磁性体の前記配列を特定するサーボ情報読取装置を有することを特徴とする磁気記録媒体の記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2008−204509(P2008−204509A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−36663(P2007−36663)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人科学技術振興機構、「ナノホール垂直パターンドメディアの開発に関する研究」委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】