説明

磁気転写方法、磁気転写装置及び磁気記録媒体の製造方法

【課題】磁気記録媒体に、磁気パターンを転写する磁気転写方法に関し、磁気転写マスタの寿命を長くする。
【解決手段】表面に潤滑剤(3)を有する磁気記録媒体(2)に、磁気パターンを転写する磁気転写マスタ(1)を、磁気転写装置(20)内で、定期的に、オゾン雰囲気中に曝し、磁気転写マスタ(1)に付着した潤滑剤(3)や汚染粒子を、化学分解し、クリーニングする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体に磁気パターンを転写するための磁気転写方法、磁気転写装置及び磁気記録媒体の製造方法に関し、特に、磁気記録媒体に磁気的サーボパターンを形成するのに好適な磁気転写方法、磁気転写装置及び磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体、特に、ディスク上でヘッドを位置決めするために、データ領域と交互にサーボ領域を形成している。このサーボデータ領域から読み出される磁気情報に基づき、ヘッドは正確に記録トラック上に位置決めされる。従来、サーボデータは、サーボトラックライタ(Servo Track Writing:STW)によって、専用ヘッドを用いて、磁気ディスクに、1枚毎、記録されていた。
【0003】
このようなサーボデータは、ユーザーデータと異なる、1回記録されると、書き換えられることがない。近年の磁気ディスク装置の低価格の傾向により、サーボデータの書き込みを、量産に適したものとなることが要望されている。
【0004】
この要請により、磁気転写法を利用したサーボデータ書き込み法が、注目を浴びている。磁気転写法は、スレーブ媒体にサーボ情報を記録する場合に、外部磁界を印加しながら、磁気転写用マスタと、潤滑剤が塗布されているスレーブ媒体とを密着させる。これにより、磁気転写用マスタに形成されたサーボパターンに対応して、スレーブ媒体に、磁化パターンが形成される。
【0005】
この磁気転写法は、ディスク1面の数万トラック分のサーボ情報を、1回の転写で記録できるため、量産に適している。一方、1枚あたりの磁気転写用マスタから、サーボ情報を記録できる媒体数が多いほど、長寿命のマスタであることを意味し、サーボ情報記録のコストが押さえられるメリットがある。
【0006】
この量産過程での磁気転写特有の問題点として、スレーブ媒体に塗布された潤滑剤が、磁気転写用マスタ側に移着し、蓄積された後、スレーブ媒体に、再付着することがまれに発生する。
【0007】
そのようなスレーブ媒体(磁気記録媒体)を装置に搭載すると、ヘッドへの付着汚染、さらにヘッドクラッシュが発生し、転写したディスク媒体で組み立てた磁気ディスク装置の製造の歩留まりが悪化する。そのため、従来の専用ヘッドによりサーボ情報を記録する方法(STW法)よりも、製造コストが割高となってしまう問題が生じていた。
【0008】
この潤滑剤の悪影響を防止するため、磁気転写後に、磁気記録媒体に潤滑剤を塗布する方法が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。しかしながら、この方法では、磁気転写前後で、成膜工程と塗布工程とが分離され、量産に適することが、難しい。
【0009】
一方、転写用マスタの表面に、初めから、潤滑剤を塗布する方法が、提案されている(例えば、特許文献3,4参照)。この方法では、スレーブ媒体に塗布された潤滑剤が、転写用マスタに移着しても、転写用マスタには、潤滑剤が塗布されているため、不織布等によるワイピングで、簡単に移着された潤滑剤をクリーニングできる。
【特許文献1】特開2001−006170号公報
【特許文献2】特開2001−209934号公報
【特許文献3】特開2005−050477号公報
【特許文献4】特開2001−034939号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の転写用マスタに、潤滑剤を塗布する方法では、転写枚数が少ない場合には、有効であるが、量産過程で、より多くの100万枚規模の媒体との転写圧着を繰り返すため、潤滑剤を塗布するだけでは、スレーブ媒体への付着防止に不十分であり、より多くの転写枚数の実現が困難であった。
【0011】
従って、本発明の目的は、多数枚の磁気記録媒体の磁気転写において、転写マスタから磁気記録媒体への潤滑剤の再付着現象を有効に防止するための磁気転写方法、磁気転写装置及び磁気記録媒体の製造方法を提供することにある。
【0012】
又、本発明の他の目的は、転写マスタの寿命を伸ばし、低コストに、サーボパターンを記録した磁気記録媒体を提供するための磁気転写方法、磁気転写装置及び磁気記録媒体の製造方法を提供することにある。
【0013】
更に、本発明の他の目的は、多数枚の磁気記録媒体の磁気転写において、生産性を低下することなく、転写マスタから磁気記録媒体への潤滑剤の再付着現象を有効に防止するための磁気転写方法、磁気転写装置及び磁気記録媒体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的の達成のため、本発明の磁気転写方法は、磁気転写用マスタを、潤滑剤を表面に有する磁気記録媒体に圧着して、磁気転写するステップと、前記磁気転写用マスタをオゾン雰囲気中に暴露して、前記磁気転写用マスタをクリーニングするステップとを有する。
【0015】
又、本発明の磁気転写装置は、チャンバー内で、セットされた潤滑剤を表面に有する磁気記録媒体に圧着して、磁気転写する磁気転写マスタと、前記磁気記録媒体の取り出し後、前記チャンバー内で、前記磁気転写用マスタをオゾン雰囲気中に暴露して、前記磁気転写用マスタをクリーニングするクリーニングユニットとを有する。
【0016】
又、本発明の磁気記録媒体の製造方法は、磁気記録基板に、少なくとも磁気記録層と潤滑剤層とを形成するステップと、磁気転写装置内で、磁気転写用マスタを、前記潤滑剤を表面に有する磁気記録媒体に圧着して、サーボパターンを磁気転写するステップと、前記磁気転写装置から、前記磁気記録媒体を取り出すステップと、前記磁気転写装置内で、前記前記磁気転写用マスタをオゾン雰囲気中に暴露して、前記磁気転写用マスタをクリーニングするステップとを有する。
【0017】
更に、本発明では、好ましくは、前記クリーニングするステップは、前記磁気転写用マスタに酸素を吹き付け、且つ紫外線照射するステップを有する。
【0018】
更に、本発明では、好ましくは、前記クリーニングするステップは、前記磁気転写用マスタにオゾンを供給するステップを有する。
【0019】
更に、本発明では、好ましくは、前記磁気転写するステップは、前記磁気記録媒体の両面から一対の前記磁気転写用マスタを圧着するステップと、前記磁気転写後、前記磁気記録媒体を取り出し、且つ前記一対の磁気転写用マスタを互いに離間するステップとを有し、前記クリーニングするステップは、前記離間された前記一対の磁気転写媒体を、前記オゾン雰囲気中に暴露するステップとを有する。
【0020】
更に、本発明では、好ましくは、前記磁気転写するステップは、表面を、低自由エネルギー処理した前記磁気転写用マスタを、潤滑剤を表面に有する磁気記録媒体に圧着して、磁気転写するステップを有する。
【0021】
更に、本発明では、好ましくは、前記磁気転写ステップは、前記潤滑剤を表面に有する磁気記録媒体に圧着して、サーボパターンを磁気転写するステップを有する。
【発明の効果】
【0022】
磁気転写マスタを、磁気記録媒体の転写後、所定周期で、オゾン雰囲気中に暴露するため、磁気転写マスタに、磁気記録媒体からの潤滑剤の移着・蓄積があった場合においても、10nm程度の汚染粒子が付着・蓄積された場合においても、磁気転写用マスタ上の潤滑剤や汚染粒子を化学分解・除去し、フレッシュな状態のマスタに復活できる。その状態で、磁気転写を行うので、転写された磁気記録媒体は、常に転写する前の媒体表面状態を保てるため、装置に組み込んでもヘッドクラッシュなどの発生を防止でき、サーボ情報書き込み媒体の量産が可能となる。
【0023】
また、磁気転写装置の中でマスタに対して、オゾン雰囲気中暴露を行うため、マスタをわざわざ、転写装置から外して処理し再度装着する必要が無くなり、生産性の高い磁気転写装置が実現される。
【0024】
さらにマスタ体の表面エネルギーが45mN/m以下となるような表面処理(LSE処理)についても、1マスタに対して転写を繰り返すことで、LSE処理の効果が薄れてしまう問題に対しても、上記の紫外線照射、オゾン雰囲気中暴露を定期的に行うことで、マスタ体表面のLSE処理の効果を復活させることができ、マスタの寿命を延ばすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を、磁気記録媒体の製造方法、磁気転写方法の第1の実施の形態、磁気転写方法の第2の実施の形態、他の実施の形態の順で説明するが、本発明は、この実施の形態に限られない。
【0026】
(磁気記録媒体の製造方法)
図1は、本発明の磁気記録媒体の製造方法の一実施の形態の工程図、図2は、図1の磁気記録媒体の説明図、図3は、図2のサーボパターンの説明図、図4乃至図6は、磁気転写工程の説明図である。図1乃至図3は、磁気記録媒体として、磁気ディスク装置(ハードディスクドライブ)の磁気ディスクを例に示す。
【0027】
以下、図1の工程を、図2乃至図6を参照して説明する。
【0028】
(S10)基板を成膜装置にセットし、基板上に、磁性膜、保護膜を成膜する。図4で説明すると、下地層6を設けた基板(円板)7に、磁気記録層(磁性層)5、保護膜4を成膜する。基板7に、ガラス基板が用いられた場合には、ガラス基板に密着性向上のため、ガラス基板7上に、下地層6としてクロム合金膜を設けることが望ましい。ここでは、磁気記録層5としては、Co合金垂直磁化膜を用いる。
【0029】
(S12)この磁性膜5、保護膜4を成膜された磁気記録媒体2に、図4のように、潤滑剤3を、塗布装置で塗布する。潤滑剤3は、有機物で構成され、例えば、プロピレングリコール基で終端されている直鎖状のパーフルオロポリエーテル(FOMBLIN Z TETRAOL)が好適である。
【0030】
(S14)磁気記録媒体2は、転写前のクリーニングが行われる。即ち、塗布装置から取り出し、磁気記録媒体の表面の汚染(コンタミネーション)を除去する。
【0031】
(S16)次に、磁気記録媒体の表面検査を行い、汚染がないかを調べる。汚染があれば、ステップS14のクリーニングを再度行う。
【0032】
(S18)表面検査に合格すると、磁気記録媒体2は、図4以下で説明する磁気転写装置に搬送され、磁気記録媒体2の両面に、サーボパターンが磁気転写される。図2に示すように、円板上の磁気記録媒体2に対し、半径方向に同心円上のトラックを多数形成するためのサーボパターン16が磁気転写される。サーボパターン16は、トラックの円周方向に複数記録され、セクタの一部を構成する。図3は、サーボパターンの一例であり、同期信号パターン、トラック番号パターン及び位置検出用パターン(ここでは、位相パターン)からなる。
【0033】
(S20)サーボパターンが記録された磁気記録媒体2は、転写後のクリーニングが行われる。即ち、磁気転写装置から取り出し、磁気記録媒体の表面の汚染(コンタミネーション)を除去する。
【0034】
(S22)磁気記録媒体2は、ヘッド浮上試験機にセットされる。ヘッド浮上試験機では、磁気記録媒体2を回転し、ヘッドの浮上量を測定し、ヘッド浮上量が適切かを試験する。試験に合格しない場合には、ステップS14のクリーニングを再度行う。
【0035】
(S24)ヘッド浮上試験に合格すると、磁気ディスク装置の組み立て用磁気ディスクとして、磁気ディスク装置の組み立て工程に提供される。
【0036】
次に、図4乃至図6で磁気転写工程を説明する。
【0037】
図4のように、磁気転写用マスタ1は、Ni等のマスタ基板10をエッチングして、サーボパターンに対応する凹凸を形成したものであり、凸部が、磁気転写すべきパターン部分である。このマスタ基板10に、磁性層12(例えば、Fe−Co等の軟磁性層)を設けて、磁気転写用マスタ1を形成する。尚、軟磁性層12上に、DLC(ダイアモンドライクカーボン)や、スパッタカーボン等の保護膜を形成する。
【0038】
図4に示すように、磁気転写は、外部磁石で、磁化を与えながら、潤滑剤3を塗布した媒体2面に、磁気転写マスタ1を圧着し、磁気転写用マスタ1の凸部に対応する磁気記録層5を磁化して、サーボパターンを記録する。
【0039】
図5に示すように、この磁気転写時、磁気記録媒体2上に塗布された潤滑剤3等の有機物の一部が、磁気転写マスタ1へ移着する。図5では、転写後、磁気記録媒体2から磁気転写マスタ1を離した状態を示す。
【0040】
図6に示すように、1つマスタ体1に対して、転写する媒体数を増やしていくことで、磁気記録媒体2面の微量の潤滑剤3が、マスタ1へ累積移着していき、今度は、マスタ1上の潤滑剤3(凹部に残る)が、媒体2面にまれに、再付着するようになる。又、マスタ1の凸部、凹部に、汚染粒子8が付着する場合もある。
【0041】
このような状態で、転写を繰り返すと、媒体2上のコンタミネーションが、ヘッドに絡んで、浮上障害を引き起こしたり、媒体1に再付着した潤滑剤3が、媒体上で凝集し、ヘッドに付着することで、ヘッドが汚れる。さらに、ヘッドの汚れにより、媒体2とヘッド間に、潤滑剤のメニスカス架橋を形成することで、TD(タッチダウン)を起こして、ヘッドクラッシュ発生に至ることが懸念される。
【0042】
本発明は、以下に説明するように、このような磁気転写マスタ1の潤滑剤やコンタミネーションを、転写工程で、有効に除去する。
【0043】
(磁気転写方法の第1の実施の形態)
図7及び図10は、本発明の磁気転写方法の第1の実施の形態の説明図である。
【0044】
図7に示すように、磁気転写装置20は、装置の両側に、一対の磁気転写マスタ1が設けられ、中央に、磁気記録媒体2にセットされる。更に、この実施の形態では、装置上部に、酸素ガス吹き付け器30を設ける。更に、図9で後述するように、紫外線(紫外線)照射器40を、転写装置20に挿入可能に設ける。
【0045】
図7に示すように、転写装置20に、両面に磁気記録層を設けた磁気記録媒体2がセットされると、一対の磁気転写マスタ1が、図示しない駆動部材で、磁気記録媒体2方向に移動し、一対の磁気転写マスタ1で、磁気記録媒体2を挟み込む。図示しない磁界印加部材で、磁界を印加して、図4乃至図6で説明したように、磁気転写マスタ1のサーボパターンを、磁気記録媒体2の両面に、磁気転写する。
【0046】
次に、図8に示すように、一対の磁気転写マスタ1を、図示しない駆動部材が、磁気記録媒体2から離れる方向に移動した後、磁気転写された磁気記録媒体2を、磁気転写装置20から取り出す。
【0047】
図9に示すように、磁気転写マスタ1は、転写装置20に設置したままの状態で、両面のマスタが開いた状態で、装置のほぼ中央に、紫外線照射器40を挿入する。
【0048】
図10に示すように、マスタ1を含むチャンバー20の雰囲気を、真空ポンプで荒引きする。次に、酸素吹き付け器20は、酸素バルブ34を開き、フィルタ33を通して、ノズル31から、マスタ1の表面に、酸素ガスをふきつける。さらに、紫外線照射器40は、192nm・500Wの紫外線ランプを点燈させ、5mm/secのスピードで、紫外線ランプを、マスタ1に対して相対的に、1往復移動させる。
【0049】
例えば、マスタ1の表面と紫外線ランプとの最短距離は、5mmとする。紫外線ランプとの距離が10mm以上とすると、紫外線照射の効果が少なく、5往復程度とすると効果が大きい。
【0050】
このように、酸素供給し、紫外線照射することにより、オゾンが発生し、マスタ1上の潤滑剤やコンタミネーション(汚染粒子)が、化学分解・除去され、フレッシュな状態のマスタとなる。その状態で、磁気転写を行うと、転写された媒体2は、常に転写する前の媒体表面状態を保てるため、装置に組み込んでも、ヘッドクラッシュなどは起こらなくなり、サーボ情報書き込み媒体の量産が可能となる。
【0051】
即ち、磁気転写マスタ1に、スレーブ媒体2からの潤滑剤の移着・蓄積があった場合においても、又、10nm程度のナノコンタミネーションが付着・蓄積された場合においても、定期的に、磁気転写用マスタ1に対し、紫外線照射を行うことで、これらが化学分解且つ除去され、多数回転写しても、転写工程での潤滑剤や汚染粒子による、磁気記録媒体2の性能低下を防止でき、マスタの寿命を伸ばすことができる。
【0052】
例えば、転写回数が、5000回毎に、紫外線照射を行うことが望ましく、転写毎に行う必要はない。
【0053】
また、磁気転写装置20の中で、マスタ1に対して紫外線照射を行うため、マスタ1をわざわざ、転写装置20から外して、処理し、再度装着する必要が無くなり、生産性の高い磁気転写装置が実現できる。
【0054】
さらに、マスタ1の表面自由エネルギーが、45mN/m以下となるような表面処理(LSE処理という)を予め施した磁気転写用マスタに対して、特に好適である。即ち、紫外線照射、或いは、オゾン雰囲気中暴露を定期的に行うことで、LSE効果を持続させることができる。
【0055】
LSE処理として、マスタ1の表面層(ここでは、保護膜)に対して、非酸化性雰囲気中で、エキシマレーザ光等の高エネルギー線を予め照射する。これにより、マスタ1の表面自由エネルギーが45mN/m以下にしている。
【0056】
このマスタ1の表面層の表面自由エネルギーが、45mN/m以下である効果を、図11で説明する。図11は、マスタ1の表面自由エネルギーと転写枚数との関係図である。マスタ1の表面自由エネルギーは、対象膜に対する純水およびジヨードメタンの接触角を測定し、以下の導出式から算出した。
【0057】
固体試料の表面自由エネルギーをγS、液体試料の表面自由エネルギーをγL、固体試料/液体試料の接触角をθSL、固体試料/液体試料の界面自由エネルギーをγSLとすれば、(1)式に示すYoungの式が成立する。
【0058】
γS =γL・cosθSL+γSL・・・(1)
液体が固体表面に付着することにより安定化するエネルギーである接着仕事WSLはDupreの式(2)に従う。
【0059】
γS +γL = WSL+γSL・・・(2)
以上の2式から、Young- Dupreの式(3)が導出され、接着仕事は液体の表面自由エネルギーと接触角から求められることになる。
【0060】
WSL=γL(1+cosθSL)・・・(3)
この接着仕事に対して表面自由エネルギーの各成分の幾何平均則を適用すると、(4)式が成り立つ。
【0061】
WSL=2√(γSd・γLd)+2√(γSh・γLh)・・・(4)
ここでd、hは分散成分、水素結合成分を意味する。
【0062】
2種類の液体(i, j)を用いれば接着仕事について次の関係が成り立つ。
【0063】
【数1】

従って、2種類の液体の接触角を実測し、接着仕事求めれば、次の関係から固体の表面自由エネルギーを各成分毎に求めることができる。この関係式をFowkes式と呼ぶ。またこの関係式より、表面自由エネルギーγs=γsd+γshが求められる。
【0064】
【数2】

具体的には下表のデータを用い、下記の式により、表面自由エネルギーγs=γsd+γshを求めた。
【0065】
【数3】

上式においてθwは水の接触角、θDはジヨードメタンの接触角である。
【0066】
【表1】

又、転写枚数は、サーボセクタの欠陥セクタ率より求めた。即ち、サーボセクタの欠陥セクタ率は、磁気ディスク媒体上に記録されるサーボセクタの内、記録再生に使用できないセクタの割合であり、転写された磁気記録媒体を、磁気ヘッドで、リード/ライトテストし、欠陥セクタを検出した。そして、転写枚数は、サーボセクタの欠陥セクタ率が1%に達するまで、転写できたスレーブ媒体数を意味する。
【0067】
図10は、磁気転写マスタ1の表面自由エネルギーを変化させた場合に、サーボセクタの欠落セクタ率が1%になる転写枚数を調べた結果である。これより、磁気転写マスタ1の表面の表面エネルギーが、45mN/m以下になると、転写枚数は2万枚となる。
【0068】
一方、表面自由エネルギーが、50mN/mを越えると、急激に転写可能枚数が減少する。また、磁気転写マスタ1の表面(本例の場合には表面層の表面)の表面自由エネルギーが、サーボ情報が書き込まれる磁気記録媒体(本例の場合には潤滑層の表面)の表面よりも小さい場合、磁気記録媒体の潤滑層が情報転写マスタ側へ移着しないため、磁気転写マスタからの再付着もないと考えられる。
【0069】
このような表面処理(LSE処理)をした場合でも、1マスタに対して転写を繰り返すことで、LSE処理の効果が薄れてしまうが、上記の紫外線照射を定期的に行うことで、マスタ1の表面のLSE処理の効果を復活させることができ、マスタ1の寿命を延ばすことができる。
【0070】
(磁気転写方法の第2の実施の形態)
図12及び図13は、本発明の磁気転写方法の第2の実施の形態の説明図である。
【0071】
図12に示すように、磁気転写装置20は、装置の両側に、一対の磁気転写マスタ1が設けられ、中央に、磁気記録媒体2にセットされる。更に、この実施の形態では、装置下部に、オゾン発生器50を設ける。
【0072】
図7と同様に、転写装置20に、両面に磁気記録層を設けた磁気記録媒体2がセットされると、一対の磁気転写マスタ1が、図示しない駆動部材で、磁気記録媒体2方向に移動し、一対の磁気転写マスタ1で、磁気記録媒体2を挟み込む。図示しない磁界印加部材で、磁界を印加して、図4乃至図6で説明したように、磁気転写マスタ1のサーボパターンを、磁気記録媒体2の両面に、磁気転写する。
【0073】
次に、図12に示すように、一対の磁気転写マスタ1を、図示しない駆動部材が、磁気記録媒体2から離れる方向に移動した後、磁気転写された磁気記録媒体2を、磁気転写装置20から取り出す。
【0074】
図13に示すように、磁気転写マスタ1は、転写装置20に設置したままの状態で、両面のマスタが開いた状態で、マスタ1を含むチャンバー20の雰囲気を、真空ポンプで荒引きする。次に、オゾン発生器50は、オゾンガスバルブ52を開き、フィルタ54を通して、転写装置20内部にオゾンを供給する。
【0075】
このように、オゾン雰囲気中に、磁気転写マスタ1が暴露されると、マスタ1上の潤滑剤やコンタミネーション(汚染粒子)が、化学分解・除去され、フレッシュな状態のマスタとなる。その状態で、磁気転写を行うと、転写された媒体2は、常に転写する前の媒体表面状態を保てるため、装置に組み込んでも、ヘッドクラッシュなどは起こらなくなり、サーボ情報書き込み媒体の量産が可能となる。
【0076】
即ち、磁気転写マスタ1に、スレーブ媒体2からの潤滑剤の移着・蓄積があった場合においても、又、10nm程度のナノコンタミネーションが付着・蓄積された場合においても、定期的に、磁気転写用マスタ1に対し、オゾン雰囲気中暴露を行うことで、これらが化学分解且つ除去され、多数回転写しても、転写工程での潤滑剤や汚染粒子による、磁気記録媒体2の性能低下を防止でき、マスタの寿命を伸ばすことができる。
【0077】
例えば、転写回数が、5000回毎に、オゾン雰囲気中暴露を行うことが望ましく、転写毎に行う必要はない。
【0078】
また、磁気転写装置20の中で、マスタ1に対してオゾンを供給するため、マスタ1をわざわざ、転写装置20から外して、処理し、再度装着する必要が無くなり、生産性の高い磁気転写装置が実現できる。
【0079】
さらに、第1の実施の形態と同様に、マスタ1の表面自由エネルギーが、45mN/m以下となるような表面処理(LSE処理という)を予め施した磁気転写用マスタに対して、特に好適である。即ち、紫外線照射、或いは、オゾン雰囲気中暴露を定期的に行うことで、LSE効果を持続させることができる。
【0080】
(他の実施の形態)
サーボパターンの磁気転写の例で説明したが、磁気転写用マスタについては、特に制限はなく、どのような情報を転写するものでもよい。このようなマスタの構成は、シリコン、ガラス、Ni基板の微細凹凸パターンにFe−Co等よりなる軟磁性層が被覆されているのが一般的である。
【0081】
又、本発明に係る磁気記録媒体(スレーブ媒体)についても、特に制限はなく、ハードディスク装置に使用される、面内媒体、SFM(Synthetic Ferri Coupled Media)、垂直記録媒体、ディスクリートトラック媒体、ビットパターンド媒体など、どのような記録媒体であってもよい。
【0082】
更に、磁気記録媒体の表面の潤滑層は、特に制限はなく、公知の潤滑剤を用い、公知の方法で形成することもできる。さらに、LSE処理として、媒体の潤滑剤膜厚以上の潤滑剤を、転写マスタに塗布した場合にも適用できる。
【0083】
尚、本発明は、以下に付記する発明を包含する。
【0084】
(付記1)
磁気転写用マスタを、潤滑剤を表面に有する磁気記録媒体に圧着して、磁気転写するステップと、前記磁気転写用マスタをオゾン雰囲気中に暴露して、前記磁気転写用マスタをクリーニングするステップとを有することを特徴とする磁気転写方法。
【0085】
(付記2)
前記クリーニングするステップは、前記磁気転写用マスタに酸素を吹き付け、且つ紫外線照射するステップを有することを特徴とする付記1の磁気転写方法。
【0086】
(付記3)
前記クリーニングするステップは、前記磁気転写用マスタにオゾンを供給するステップを有することを特徴とする付記1の磁気転写方法。
【0087】
(付記4)
前記磁気転写するステップは、前記磁気記録媒体の両面から一対の前記磁気転写用マスタを圧着するステップと、前記磁気転写後、前記磁気記録媒体を取り出し、且つ前記一対の磁気転写用マスタを互いに離間するステップとを有し、前記クリーニングするステップは、前記離間された前記一対の磁気転写媒体を、前記オゾン雰囲気中に暴露するステップとを有することを特徴とする付記1の磁気転写方法。
【0088】
(付記5)
前記磁気転写するステップは、表面を、低自由エネルギー処理した前記磁気転写用マスタを、潤滑剤を表面に有する磁気記録媒体に圧着して、磁気転写するステップを有することを特徴とする付記1の磁気転写方法。
【0089】
(付記6)
前記磁気転写ステップは、前記潤滑剤を表面に有する磁気記録媒体に圧着して、サーボパターンを磁気転写するステップを有することを特徴とする付記1の磁気転写方法。
【0090】
(付記7)
チャンバー内で、セットされた潤滑剤を表面に有する磁気記録媒体に圧着して、磁気転写する磁気転写マスタと、前記磁気記録媒体の取り出し後、前記チャンバー内で、前記磁気転写用マスタをオゾン雰囲気中に暴露して、前記磁気転写用マスタをクリーニングするクリーニングユニットとを有することを特徴とする磁気転写装置。
【0091】
(付記8)
前記クリーニングユニットは、前記磁気転写用マスタに酸素を吹き付ける吹き付けユニットと、紫外線照射する照射ユニットとを有することを特徴とする付記7の磁気転写装置。
【0092】
(付記9)
前記クリーニングユニットは、前記磁気転写用マスタにオゾンを供給するユニットを有することを特徴とする付記7の磁気転写装置。
【0093】
(付記10)
前記磁気転写用マスタは、前記磁気記録媒体の両面から一対の前記磁気転写用マスタで構成され、前記クリーニングユニットは、前記磁気転写された前記磁気記録媒体を取り出し後、前記一対の磁気転写用マスタを互いに離間した状態で、前記一対の磁気転写媒体を、前記オゾン雰囲気中に暴露するユニットを有することを特徴とする付記7の磁気転写装置。
【0094】
(付記11)
前記磁気転写用マスタは、表面を、低自由エネルギー処理された磁気転写用マスタで構成されたことを特徴とする付記7の磁気転写装置。
【0095】
(付記12)
前記磁気転写用マスタは、前記潤滑剤を表面に有する磁気記録媒体に圧着して、サーボパターンを磁気転写する磁気転写用マスタで構成されたことを特徴とする付記7の磁気転写装置。
【0096】
(付記13)
磁気記録基板に、少なくとも磁気記録層と潤滑剤層とを形成するステップと、磁気転写装置内で、磁気転写用マスタを、前記潤滑剤を表面に有する磁気記録媒体に圧着して、サーボパターンを磁気転写するステップと、前記磁気転写装置から、前記磁気記録媒体を取り出すステップと、前記磁気転写装置内で、前記前記磁気転写用マスタをオゾン雰囲気中に暴露して、前記磁気転写用マスタをクリーニングするステップとを有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【0097】
(付記14)
前記クリーニングするステップは、前記磁気転写用マスタに酸素を吹き付け、且つ紫外線照射するステップを有することを特徴とする付記13の磁気記録媒体の製造方法。
【0098】
(付記15)
前記クリーニングするステップは、前記磁気転写用マスタにオゾンを供給するステップを有することを特徴とする付記13の磁気記録媒体の製造方法。
【0099】
(付記16)
前記磁気転写するステップは、前記磁気記録媒体の両面から一対の前記磁気転写用マスタを圧着するステップと、前記磁気転写後、前記磁気記録媒体を取り出し、且つ前記一対の磁気転写用マスタを互いに離間するステップとを有し、前記クリーニングするステップは、前記離間された前記一対の磁気転写媒体を、前記オゾン雰囲気中に暴露するステップとを有することを特徴とする付記13の磁気記録媒体の製造方法。
【0100】
(付記17)
前記磁気転写するステップは、表面を、低自由エネルギー処理した前記磁気転写用マスタを、潤滑剤を表面に有する磁気記録媒体に圧着して、磁気転写するステップを有することを特徴とする付記13の磁気記録媒体の製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0101】
磁気転写マスタに、磁気記録媒体からの潤滑剤の移着・蓄積があった場合においても、10nm程度の汚染粒子が付着・蓄積された場合においても、定期的に磁気転写用マスタに対し、紫外線照射、オゾン雰囲気中暴露のいずれかを行うことで、マスタ上の潤滑剤や汚染粒子を化学分解・除去し、フレッシュな状態のマスタに復活できる。その状態で、磁気転写を行うので、転写された媒体は、常に転写する前の媒体表面状態を保てるため、装置に組み込んでもヘッドクラッシュなどの発生を防止でき、サーボ情報書き込み媒体の量産が可能となる。
【0102】
また、磁気転写装置の中でマスタに対して紫外線照射、オゾン雰囲気中暴露を行うため、マスタをわざわざ、転写装置から外して処理し再度装着する必要が無くなり、生産性の高い磁気転写装置が実現される。
【0103】
さらに、マスタ体の表面エネルギーが、45mN/m以下となるような表面処理(LSE処理)についても、1マスタに対して転写を繰り返すことで、LSE処理の効果が薄れてしまう問題に対しても、上記の紫外線照射、オゾン雰囲気中暴露を定期的に行うことで、マスタ体表面のLSE処理の効果を復活させることができ、マスタの寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の一実施の形態の磁気記録媒体の製造方法の工程図である。
【図2】本発明の磁気記録媒体の一実施の形態の正面図である。
【図3】図2の磁気記録媒体のサーボパターンの説明図である。
【図4】図1の磁気転写前の状態図である。
【図5】図4の磁気転写後の状態図である。
【図6】図4の多数回の磁気転写後の状態図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態の磁気転写方法の説明図である。
【図8】図7の磁気転写後の磁気記録媒体の取り出し動作の説明図である。
【図9】図7の紫外線照射ユニットの挿入動作の説明図である。
【図10】図9の紫外線照射ユニットの動作の説明図である。
【図11】図7の磁気転写マスタの低自由エネルギー処理の説明図である。
【図12】本発明の第2の実施の形態の磁気転写方法の説明図である。
【図13】図12のクリーニング動作の説明図である。
【符号の説明】
【0105】
1 磁気転写マスタ
2 磁気ディスク(磁気記録媒体)
3 潤滑剤
4 保護層
5 磁気記録層
6 下地層
7 基板
8 汚染粒子
10 マスタ基板
12 軟磁性層
16 サーボパターン
20 磁気転写装置
30 酸素吹き付け器
40 紫外線照射ユニット
50 オゾン供給ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気転写用マスタを、潤滑剤を表面に有する磁気記録媒体に圧着して、磁気転写するステップと、
前記磁気転写用マスタをオゾン雰囲気中に暴露して、前記磁気転写用マスタをクリーニングするステップとを有する
ことを特徴とする磁気転写方法。
【請求項2】
前記クリーニングするステップは、前記磁気転写用マスタに酸素を吹き付け、且つ紫外線照射するステップを有する
ことを特徴とする請求項1の磁気転写方法。
【請求項3】
前記クリーニングするステップは、前記磁気転写用マスタにオゾンを供給するステップを有する
ことを特徴とする請求項1の磁気転写方法。
【請求項4】
チャンバー内で、セットされた潤滑剤を表面に有する磁気記録媒体に圧着して、磁気転写する磁気転写マスタと、
前記磁気記録媒体の取り出し後、前記チャンバー内で、前記磁気転写用マスタをオゾン雰囲気中に暴露して、前記磁気転写用マスタをクリーニングするクリーニングユニットとを有する
ことを特徴とする磁気転写装置。
【請求項5】
磁気記録基板に、少なくとも磁気記録層と潤滑剤層とを形成するステップと、
磁気転写装置内で、磁気転写用マスタを、前記潤滑剤を表面に有する磁気記録媒体に圧着して、サーボパターンを磁気転写するステップと、
前記磁気転写装置から、前記磁気記録媒体を取り出すステップと、
前記磁気転写装置内で、前記前記磁気転写用マスタをオゾン雰囲気中に暴露して、前記磁気転写用マスタをクリーニングするステップとを有する
ことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−283052(P2009−283052A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−132954(P2008−132954)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)