磁気転写用マスター担体、及びこれを用いた磁気転写方法
【課題】残留磁化によって転写信号を乱すことなく、良好な磁気記録を行うことができる磁気転写用マスター担体、及びこれを用いた磁気転写方法の提供。
【解決手段】本発明の磁気転写用マスター担体は、垂直磁気記録方式の磁気記録媒体上に配置され、磁場を印加して該磁気記録媒体に磁気情報を転写するために用いられる磁気転写用マスター担体であって、転写用磁気情報に対応した磁性層が形成された転写部と、該磁性層を有する転写部に対して相対的に低い凹形状を成す非転写部と、を備え、該磁性層は垂直磁気異方性を有し、該磁性層の磁気異方性エネルギーが4×106erg/cm3未満であることを特徴とする。
【解決手段】本発明の磁気転写用マスター担体は、垂直磁気記録方式の磁気記録媒体上に配置され、磁場を印加して該磁気記録媒体に磁気情報を転写するために用いられる磁気転写用マスター担体であって、転写用磁気情報に対応した磁性層が形成された転写部と、該磁性層を有する転写部に対して相対的に低い凹形状を成す非転写部と、を備え、該磁性層は垂直磁気異方性を有し、該磁性層の磁気異方性エネルギーが4×106erg/cm3未満であることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録媒体に磁気情報を転写する磁気転写用マスター担体、及びこれを用いた磁気転写方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報を高密度で記録可能な磁気記録媒体として、垂直磁気記録媒体が知られている。この垂直磁気記録媒体の情報記録領域は、狭トラックで構成されている。そのため、垂直磁気記録媒体では、狭いトラック幅において正確に磁気ヘッドを走査し、高いS/N比で信号を再生するためのトラッキングサーボ技術が重要となる。このトラッキングサーボを行うためには、トラッキング用のサーボ信号、アドレス情報信号、再生クロック信号等のサーボ情報を、所定間隔で垂直磁気記録媒体に、いわゆるプリフォーマットとして記録しておく必要がある。
【0003】
垂直磁気記録媒体に、サーボ情報をプリフォーマットする方法としては、例えば、サーボ情報に対応した、磁性層を含むパターンが形成されたマスター担体を、該磁気記録媒体に密着させた状態で記録用磁界(転写磁界)を印加し、マスター担体のパターンを磁気記録媒体に磁気転写する方法がある(例えば、特許文献1〜3参照)。
この方法において、該磁気記録媒体にマスター担体を密着させた状態で転写磁界が印加されると、磁束がマスター担体の磁化状態に基づきパターン上の磁性層に吸収され、磁界がパターンの凹凸形状に対応し強められる。このパターン状に強められた磁界によって、磁気記録媒体の所定箇所のみが磁化される。よって、これまでは高飽和磁化を有する磁性材料が積極的にマスター磁性層材料として使用されてきた。
【0004】
ところで、上記マスター担体の磁性層は、数十ナノメータ程度であり、非常に薄い。そのため転写磁界を印加すると、該磁性層内に強い反磁界が発生する。反磁界が強くなると、高飽和磁化を有する磁性材料を使用しても、実効的な磁性層への印加磁界が減少し、凹凸磁性層は未飽和状態となる。これまでは、転写磁界強度を確保するために外部印加磁界をより高め、実効的な磁性層への印加磁界を高めることで磁性層を飽和状態に近づけようとした。しかし、印加磁界を高めることによる磁性層磁化増加率は、印加磁界強度と比例関係にあるため、実質的に低飽和磁化材料に強磁界を印加した状態と同等な状況となる。凸部上の転写磁場強度は強くなり、垂直磁気記録媒体の磁化は、ほぼ飽和した状態となるが、凹部上の転写磁界強度も強くなり、凹凸間の転写磁界強度差が小さくなる。凹凸間の転写磁界強度差が小さい状態でサーボ情報を磁気記録媒体に転写すると、磁化されるべきでない箇所(凹部)で磁化反転が発生し、その記録信号の品位が劣化し、問題となる。
【0005】
上記問題の発生を抑制するためには、少なくとも転写磁界を印加した状態においては、マスター担体の磁性層自身が所望の転写磁界強度にて飽和した状態となり、磁化値が大きくなっている必要がある。
特に、磁気記録媒体を磁化するのに最低限必要な強さの転写磁界によって、マスター担体の磁性層自身の磁化値を充分に大きくすることができれば、凹凸間の転写磁界強度差を大きくすることができ、好ましいと言える。
【0006】
このような事情等により、該磁性層の材料として、磁性層の面に対し、垂直な方向に磁気異方性を有する材料を用いることが検討されている。このような垂直磁気異方性を有する材料をマスター担体の磁性層に用いれば、印加する転写磁界の強さを最低限に抑えつつ、該転写磁界によって該磁性層の磁化値を容易に大きくできるものと考えられた。
【0007】
しかしながら、従来の垂直磁気異方性を有する材料を磁性層として用いた磁気転写マスターによる磁気転写方法では、磁気転写後に外部磁界を取り去った後も磁気転写マスターの凸部とスレーブディスクとが接触していると、磁気転写マスターの残留磁化が転写信号を弱める磁界を発生し、接触箇所の転写信号を乱すことがあった。
図11A〜Cに、磁気転写前後の磁気転写マスターの磁化状態を示す。図11A〜Cにおいて、磁化されていない初期状態(図11A)の磁気転写マスター111に外部磁界Hdを加えると、磁性層112が磁化される(図11B)。その後、外部磁界Hdを取り去ると、磁気異方性を有さない材料からなる磁性層112であれば磁化は消え去るが、磁気異方性を有する材料からなる磁性層112では、図11Cに示すようにエネルギーが安定となる磁化状態となる。このときの磁気転写マスター111の磁化状態は、外部磁界Hdと同じ方向だけでなく、外部磁界Hdと逆方向の磁化の向きにもなるため、この磁化状態の磁気転写マスター111とスレーブディスク110とが密着していると、スレーブディスク110の磁性層112と接触している部分の転写信号が乱れることになる(図11C)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−203325号公報
【特許文献2】特開2000−195048号公報
【特許文献3】米国特許第7218465B1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明は、残留磁化によって転写信号を乱すことなく、良好な磁気記録を行うことができる磁気転写用マスター担体、及びこれを用いた磁気転写方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、
<1> 垂直磁気記録方式の磁気記録媒体上に配置され、磁場を印加して該磁気記録媒体に磁気情報を転写するために用いられる磁気転写用マスター担体であって、転写用磁気情報に対応した磁性層が形成された転写部と、該磁性層を有する転写部に対して相対的に低い凹形状を成す非転写部と、を備え、該磁性層は垂直磁気異方性を有し、該磁性層の磁気異方性エネルギーが4×106erg/cm3未満であることを特徴とする磁気転写用マスター担体である。
<2> 磁性層の磁気異方性エネルギーが、6×105erg/cm3以上3×106erg/cm3以下である前記<1>に記載の磁気転写用マスター担体である。
<3> 磁性層の磁気異方性エネルギーが、9×105erg/cm3以上2×106erg/cm3以下である前記<2>に記載の磁気転写用マスター担体である。
<4> 磁性層は、膜厚が50nm未満である前記<1>から<3>のいずれかに記載の磁気転写用マスター担体である。
<5> 磁性層は、膜厚が10nm以上40nm以下である前記<4>に記載の磁気転写用マスター担体である。
<6> 磁性層は、膜厚が20nm以上40nm以下である前記<5>に記載の磁気転写用マスター担体である。
<7> 磁性層の飽和磁化(Ms)が600emu/cc以上である前記<1>から<6>のいずれかに記載の磁気転写用マスター担体である。
<8> 垂直磁気記録媒体を、垂直方向に初期磁化させる初期磁化工程と、前記初期磁化工程後の垂直磁気記録媒体に対して、前記<1>から<7>のいずれかに記載の磁気転写用マスター担体を密着させる密着工程と、前記垂直磁気記録媒体と前記磁気転写用マスター担体とを密着させた状態で、前記初期磁化と逆方向の垂直磁界を印加し、前記垂直磁気記録媒体に磁気情報を転写する工程と、を含むことを特徴とする磁気転写方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、前記従来における諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、残留磁化によって転写信号を乱すことなく、良好な磁気記録を行うことができる磁気転写用マスター担体、及びこれを用いた磁気転写方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1A】図1Aは、垂直磁気記録転写方法の工程を示す説明図である(その1)。
【図1B】図1Bは、垂直磁気記録転写方法の工程を示す説明図である(その2)。
【図1C】図1Cは、垂直磁気記録転写方法の工程を示す説明図である(その3)。
【図2A】図2Aは、一実施形態に係るマスターディスクの部分断面図である(その1)。
【図2B】図2Bは、一実施形態に係るマスターディスクの部分断面図である(その2)。
【図3】図3は、一実施形態に係るマスターディスクの製造方法の説明図である。
【図4】図4は、一実施形態に係るマスターディスクの製造方法の説明図である。
【図5】図5は、マスターディスクの上面図である。
【図6】図6は、スレーブディスクの断面を示す説明図である。
【図7】図7は、初期磁化工程後の磁性層(記録層)の磁化方向を示した説明図である。
【図8】図8は、磁気転写工程を示す説明図である。
【図9】図9は、磁気転写工程に用いる磁気印加装置の概略構成図である。
【図10】図10は、磁気転写工程後の磁性層(記録層)の磁化方向を示した説明図である。
【図11A】図11Aは、従来の磁気転写方法を示す図である(その1)。
【図11B】図11Bは、従来の磁気転写方法を示す図である(その2)。
【図11C】図11Cは、従来の磁気転写方法を示す図である(その3)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係る磁気転写用マスター担体について説明する。
【0014】
先ず、図1A〜Cを用いて垂直磁気記録の磁気転写技術の概要を説明する。図1A〜Cは、垂直磁気記録の磁気転写方法の工程を示す説明図である。図1A〜Cにおいて、符号10は被転写用の磁気ディスクとしてのスレーブディスク(垂直磁気記録媒体に相当)、符号20は磁気転写用マスター担体としてのマスターディスクを表す。
【0015】
図1Aに示されるように、スレーブディスク10のディスク平面に対し、垂直の方向から、直流磁界(Hi)を印加して、該スレーブディスク10を初期磁化する(初期磁化工程)。
初期磁化を行った後、図1Bに示されるように、前記初期磁化後のスレーブディスク10と、マスターディスク20とを密着させる(密着工程)。
さらに、両ディスク10、20を密着させた後、図1Cに示されるように、初期磁化の際に印加される磁界(Hi)とは、逆向きの磁界(Hd)を印加して、該スレーブディスク10に磁気転写する(磁気転写工程)。
【0016】
本実施形態の磁気転写用マスター担体とは、図1A〜Cにおいて示されるマスターディスク20に相当するものである。以下、このマスターディスク20を例に挙げて、本実施形態のマスター担体を説明する。
【0017】
(磁気転写用マスター担体(マスターディスク))
図2Aは、マスターディスク(マスター担体)20の部分断面図である。このマスターディスク20は、基材202と、該基材202の表面上に形成される磁性層204とを備える。該基材202は、その表面に、凸部206及び凹部207を有する。該凸部206は、その表面に前記磁性層204を有する。なお、本実施形態においては、製造が容易である等の理由により、凹部207の表面にも磁性層208が形成されている。他の実施形態においては、凹部207内に磁性層208がなくてもよい。
基材202の凸部206と、その表面(頂面)に形成される磁性層204とは、転写信号に対応するビット部となる。このビット部は、初期磁化を反転させる部分であり、転写部に相当する。なお、凹部207は、磁化反転しない非転写部に相当する。
【0018】
図2Bは、他の実施形態のマスターディスク20Aの部分断面図である。このマスターディスク20Aは、基材212と、該基材212の表面上に、転写信号に対応するビット部となる磁性層214とを備える。このマスターディスク20Aにおいては、該磁性層214が、転写部に相当し、隣り合う磁性層214の間の部分(隙間)が、非転写部に相当する。
【0019】
<基材>
前記基材は、ガラス、ポリカーボネート等の合成樹脂、ニッケル、アルミニウム等の金属、シリコン、カーボン等の公知の材料を用いて製造される。
【0020】
<磁性層>
前記磁性層は、垂直磁気異方性を有し、磁気異方性エネルギー(Ku)が、4×106erg/cm3未満である。この磁気異方性エネルギー(Ku)は、公知の磁気異方性トルク計を用いて測定できる。
前記磁性層が「垂直磁気異方性を有する」とは、以下の方法により求められる、面内磁化曲線の磁化値(Min)、及び垂直磁化曲線の磁化値(Mpe)の比(Mpe/Min)が、反磁界補正を施したヒステリシス曲線において、1以上の場合である。Min及びMpeを求める方法は、以下の通りである。
磁気転写用マスター担体の磁性層と同じものを、公知の振動試料型磁力計を用いて、面内方向及び垂直方向に磁界を印加して、磁化曲線の測定を行う。
得られた磁化曲線に基づいて、記録用磁界と同値の外部印加磁界強度での面内磁化曲線の磁化値(Min)、垂直磁化曲線の磁化値(Mpe)を算出する。
【0021】
該磁性層の磁気異方性エネルギーは、少なくとも4×106erg/cm3未満であり、6×105erg/cm3以上3×106erg/cm3以下が好ましく、9×105erg/cm3以上2×106erg/cm3以下がより好ましい。磁気異方性エネルギーが小さすぎると、磁性層を垂直配向させることが難しくなる。
【0022】
また、該磁性層は、厚さが50nm未満であることが好ましく、10nm以上40nm以下が好ましく、20nm以上40nm以下がより好ましい。磁性層が厚すぎると、残留磁化による転写信号の乱れが大きくなり、磁性層が薄すぎると、信号出力の高い磁気転写ができなくなる。
【0023】
該磁性層の飽和磁化(Ms)は、600emu/cc以上であることが好ましい。飽和磁化が600emu/cc未満であると、垂直磁気異方性を有し、磁性層磁化が飽和した状態にあるにもかかわらず、凹凸間の転写磁界強度差を確保できず、充分な転写特性を確保できないことがある。即ち、磁性層の飽和磁化Msを高めることで、磁気転写用マスター凸部から出る磁界と凹部から出る磁界の差をより大きくすることができる。
【0024】
また、該磁性層の核生成磁界(Hn)が正値(Hn>0)であることが好ましい。核生成磁界(Hn)が、Hn≦0であると、磁気転写終了後、転写磁界を除去後にも磁性層から大きな磁界が発生することとなり、重ね記録が起こり、所望の信号を記録できないことがある。
なお、該磁性層の核生成磁界(Hn)は、印加磁界(転写磁界、Hd)以下であることが好ましい。印加磁界以下であると、該磁性層の飽和磁化(Ms)を有効に活用できる。
【0025】
該磁性層の飽和磁化(emu/cc)及び核生成磁界(Hn)は、公知の振動試料型磁力計を用いて求められる。飽和磁化(emu/cc)は、該振動試料型磁力計を用いて得られる磁化曲線から、飽和磁気モーメント(emu)を求め、該飽和磁気モーメントを、該磁性層の体積(cc)で割ることにより、求められる。核生成磁界(Hn)は、該磁化曲線から求められる。
【0026】
該磁性層の残留磁化(Mr)は、小さい値であることが好ましい。残留磁化がある値よりも大きくなると、転写磁界の印加を解除した後も、マスターディスクから磁界が発生するため、マスターディスクをスレーブディスクから分離する際に不要な転写が生じ、この不要な転写が信号のノイズとなる。該磁性層の残留磁化(Mr)は、飽和磁化値の80%以下であることが好ましく、具体的には、480emu/cc以下であることが好ましい。
【0027】
該磁性層の保磁力(Hc)は、その値が大きすぎると、印加磁界で該磁性層が磁化しない。大きな転写磁界印加は、凹部の磁界を強める。したがって、該磁性層の保磁力(Hc)は、対象とする垂直磁気記録媒体の保磁力以下であることが好ましく、具体的には、6,000Oe以下が好ましく、4,000Oe以下が更に好ましい。
【0028】
このような、マスターディスク(マスター担体)の磁性層に用いられる材料としては、Fe、Co、Niのうち、少なくとも1つの強磁性金属と、Cr、Pt、Ru、Pd、Si、Ti、B、Ta、Oのうち少なくとも1つの非磁性物質とから構成される合金、或いは化合物である。該磁性層の材料としては、特に、Coと、Crとから構成される合金(CoCr)や、Coと、Ptとから構成される合金(CoPt)が好ましい。
【0029】
マスターディスク表面には、機械的、摩擦特性、耐候性を改善するために保護層が形成されている。この保護層の材料としては、硬質な炭素膜が好ましく、スパッタ法により形成した無機カーボン、ダイヤモンドライクカーボン等を用いることができる。この硬質保護層上には、更に、潤滑剤からなる層(潤滑剤層)を形成してもよい。
この種の潤滑剤としては、一般的に、パーフルオロポリエーテル(PFPE)等のフッ素系樹脂が用いられる。
【0030】
マスターディスク(マスター担体)の磁性層は、例えば、スパッタリング法によって形成できる。例えば、該磁性層としてCoPtを用いる場合、該磁性層の磁気特性は、主として、該磁性層形成時のスパッタ圧(力)、Pt濃度で制御できる。ただし、スパッタ圧を0.2Pa未満に設定すると、通常、放電が困難となる。スパッタ圧は、0.2Pa〜50Paが好ましく、0.2Pa〜10Paがより好ましい。Pt濃度は、5〜30原子%が好ましく、10〜20原子%がより好ましい。
【0031】
<下地層>
マスターディスク(マスター担体)の磁性層の垂直配向性、磁気異方性エネルギー(Ku)、飽和磁化(Ms)及び核生成磁界(Hn)を調整するために、該磁性層の下(磁性層と基材との間)に、下地層を形成してもよい。磁性層の下層に下地層を形成しておくことで、上に形成する磁性層を垂直に配向させやすくすることができる。
該下地層の材料としては、例えば、Pt、Ru、Pd、Co、Cr、Ni、W、Ta、Al、P、Si、Tiのうち、少なくとも1つを含有する金属、合金、化合物で構成される。該下地層の材料としては、Pt、Ru等の白金属やTa等の金属、合金が好ましい。該下地層は、単層でもよく、多層でもよい。
【0032】
該下地層の厚みは、1nm〜30nmの範囲であることが好ましく、5nm〜20nmの範囲がより好ましい。下地層の厚みが、30nmを超えると、マスターディスクのパターン上に形成された磁性層の形状が劣化して、転写磁界の分布が悪化し、記録信号の信号品位が劣化する。下地層の厚みが、1nm未満であると、該磁性層を垂直配向させることができない場合、或いは、磁気異方性エネルギー、飽和磁化、核生成磁界を制御できない場合がある。
なお、該下地層の厚みは、20nm以下であることが好ましい。20m以下であると、磁性層形成後のパターン形状の劣化を抑制することができ、大幅に磁気転写特性を改善できる。
【0033】
<マスターディスクの製造方法>
図3及び図4は、マスターディスクの製造工程を示す説明図である。図3及び図4に基づいて、一実施形態に係るマスターディスクの製造方法を説明する。
図3(a)に示されるように、表面が平滑なシリコンウエハーである原板(Si基板)30を用意し、この原板30の上に、電子線レジスト液をスピンコート法等により塗布して、レジスト層32を形成し(図3(b)参照)、ベーキング処理(プレベーク)を行う。
【0034】
次いで、高精度な回転ステージ又はX−Yステージを備えた不図示の電子ビーム露光装置のステージ上に原板30をセットし、原板30を回転させながら、サーボ信号に対応して変調した電子ビームを照射し、レジスト層32の略全面に所定のパターン33、例えば各トラックに回転中心から半径方向に線状に延びるサーボ信号に相当するパターンを円周上の各フレームに対応する部分に描画露光(電子線描画)する(図3(c)参照)。
【0035】
次いで、図3(d)に示されるように、レジスト層32を現像処理し、露光(描画)部分を除去して、残ったレジスト層32による所望厚さの被覆層を形成する。この被覆層が次工程(エッチング工程)のマスクとなる。なお、基板30上に塗布されるレジストはポジ型、ネガ型のどちらでも使用可能であるが、ポジ型とネガ型では、露光(描画)パターンが反転することになる。この現像処理の後には、レジスト層32と原板30との密着力を高めるためにベーキング処理(ポストベーク)を行う。
【0036】
次いで、図3(e)に示されるように、レジスト層32の開口部34より原板30を表面より所定深さだけ除去(エッチング)する。このエッチングにおいては、アンダーカット(サイドエッチ)を最小にすべく、異方性のエッチングが望ましい。このような、異方性のエッチングとしては、反応性イオンエッチング(RIE;Reactive Ion Etching)が好ましく採用できる。
【0037】
次いで、図4(f)に示されるように、レジスト層32を除去する。レジスト層32の除去方法は、乾式法としてアッシングが採用でき、湿式法として剥離液による除去法が採用できる。以上のアッシング工程により、所望の凹凸状パターンの反転型が形成された原盤36が作製される。
【0038】
次いで、図4(g)に示されるように、原盤36の表面に均一厚さに導電層38を形成する。この導電層38の形成方法としては、PVD(Physical Vapor Deposition)、CVD(Chemical Vapor Deposition)、スパッタリング、イオンプレーティングを含む各種の金属成膜法等が適用できる。このように、導電膜の層(符号38)を1層形成すれば、次工程(電鋳工程)の金属の電着が均一に行えるという効果が得られる。導電層38としては、Niを主成分とする膜であることが好ましい。このようなNiを主成分とする膜は、形成が容易であり、且つ、硬質であるため、導電膜としてふさわしい。この導電層38の膜厚として、特に制限はないが、数十nm程度が一般的に採用できる。
【0039】
次いで、図4(h)に示されるように、原盤36の表面に、電鋳により所望の厚さの金属(ここでは、Ni)による金属板40を積層する(反転板形成工程)。この工程は、電鋳装置の電解液中に原盤36を浸し、原盤36を陽極とし、陰極との間に通電することにより行われるが、このときの電解液の濃度、pH、電流のかけ方等は、積層された金属板40(すなわち、図2で説明した基材202に相当するマスター基板となるも)に歪みのない最適条件で実施されることが求められる。
【0040】
そして、上記のようにして金属板40の積層された原盤36が電鋳装置の電解液から取
り出され、剥離槽(図示略)内の純水に浸される。
【0041】
次いで、剥離槽内において、金属板40を原盤36から剥離し(剥離工程)、図4(i)に示すような、原盤36から反転した凹凸状パターンを有するマスター基板42を得る。
【0042】
次いで、図4(j)に示されるように、マスター基板42の凹凸表面上に磁性層48を形成する。該磁性層の材料は、例えば、CoPtからなる。該磁性層48の厚みは、5nm〜200nmの範囲が好ましく、10nm〜100nmの範囲がより好ましく、15nm〜50nmが更に好ましい。該磁性層48は、上記材料のターゲットを用いスパッタリングにより形成される。なお、前記磁性層48を形成する前に下地層を形成しても良い。該下地層の材料は、例えば、Taからなる。
【0043】
その後、マスター基板42の内径及び外径を、所定のサイズに打抜き加工する。以上のプロセスにより、図4(j)に示すように、磁性層48(図2A及びBにおける磁性層204及び214に相当)が設けられた凹凸パターンを有するマスターディスク20が作製される。
【0044】
図5はマスターディスク20の上面図である。図5に示されるように、マスターディスク20の表面には、凹凸パターンからなるサーボパターン52が形成される。また、図には示さないが、マスターディスク20表面の磁性層48(図4(j)参照)の上にダイヤモンドライクカーボン等の保護膜(保護層)や、更に、保護膜上に潤滑剤層を設けてもよい。
【0045】
該保護層を形成する目的は、マスターディスク20とスレーブディスク10とを密着させた際に磁性層48が傷つきやすく、マスターディスク20として使用できなくなってしまうことを防止するためである。また、潤滑剤層は、スレーブディスク10との接触の際に生じる摩擦による傷の発生などを防止し、耐久性を向上させる効果がある。
【0046】
具体的には、保護層として、厚さが2〜30nmのカーボン膜を形成し、更にその上に潤滑剤層を形成した構成が好ましい。また、磁性層48と、保護層との密着性を強化するため、磁性層48上にSi等の密着強化層を形成し、その後に保護層を形成してもよい。
【0047】
<スレーブディスク(垂直磁気記録媒体)の説明>
図1A〜Cにおいて示される、前記スレーブディスク10は、円盤状の基板の表面の片面或いは、両面に磁性層が形成されたものであり、具体的には、高密度ハードディスク等が挙げられる。このスレーブディスク10を例に挙げ、図6を用いて、垂直磁気記録媒体の説明を行う。
【0048】
図6は、スレーブディスク10の断面を示す説明図である。図6に示されるように、スレーブディスク10は、ガラスなど非磁性の基板12上に、軟磁性層(軟磁性下地層;SUL)13、非磁性層(中間層)14、磁性層(垂直磁気記録層)16が順次積層形成された構造からなり、磁性層16の上は更に保護層18と潤滑層19とで覆われている。なお、ここでは、基板12の片面に磁性層16を形成した例を示すが、基板12の表裏両面に磁性層を形成する態様も可能である。
【0049】
円盤状の基板12は、ガラスやAl(アルミニウム)等の非磁性材料から構成されており、この基板12上に軟磁性層13を形成した後、非磁性層14と、磁性層16を形成する。
【0050】
軟磁性層13は、磁性層16の垂直磁化状態を安定させ、記録再生時の感度を向上させるために有益である。軟磁性層13に用いられる材料は、CoZrNb、FeTaC、FeZrN、FeSi合金、FeAl合金、パーマロイなどFeNi合金、パーメンジュールなどのFeCo合金等の軟磁性材料が好ましい。この軟磁性層13は、ディスクの中心から外側に向かって半径方向に(放射状に)磁気異方性が付けられている。
【0051】
軟磁性層13の厚さは、20nm〜2,000nmであることが好ましく、40nm〜400nmであることが更に好ましい。
【0052】
非磁性層14は、後に形成する磁性層16の垂直方向の磁気異方性を大きくする等の理由により設けられる。非磁性層14に用いられる材料は、Ti(チタン)、Cr(クロム)、CrTi、CoCr、CrTa、CrMo、NiAl、Ru(ルテニウム)、Pd(パラジウム)、Ta、Pt等が好ましい。非磁性層14は、スパッタリング法により上記材料を成膜することにより形成される。非磁性層14の厚さは、10nm〜150nmであることが好ましく、20nm〜80nmであることが更に好ましい。
【0053】
磁性層16は、垂直磁化膜(磁性膜内の磁化容易軸が基板に対し主に垂直に配向したもの)により形成されており、この磁性層16に情報が記録される。磁性層16に用いられる材料は、Co(コバルト)、Co合金(CoPtCr、CoCr、CoPtCrTa、CoPtCrNbTa、CoCrB、CoNi等)、Co合金-SiO2、Co合金-TiO2、Fe、Fe合金(FeCo、FePt、FeCoNi等)等が好ましい。これらの材料は、磁束密度が大きく、成膜条件や組成を調整することにより垂直の磁気異方性を有している。磁性層16は、スパッタリング法により上記材料を成膜することにより形成される。磁性層16の厚さは、10nm〜500nmであることが好ましく、20nm〜200nmであることが更に好ましい。
【0054】
本実施形態では、スレーブディスク10の基板12として、外形65mmの円盤状のガラス基板を用い、スパッタリング装置のチャンバー内にガラス基板を設置し、1.33×10−5Pa(1.0×10−7Torr)まで減圧した後、チャンバー内にAr(アルゴン)ガスを導入し、チャンバー内にあるCoZrNbターゲットを用い、同じくチャンバー内の基板の温度を室温として、80nm厚のSUL第1層をスパッタリング成膜する。次にその上に、チャンバー内にあるRuターゲットを用いて0.8nmのRu層をスパッタリング成膜する。さらにその上に、CoZrNbターゲットを用い、80nm厚のSUL第2層をスパッタリング成膜する。こうしてスパッタ成膜されたSULを、半径方向に50Oe以上の磁場を印加した状態で200℃まで昇温し室温に冷却する。
【0055】
次に、Ruターゲットを用い、基板温度が室温の条件の下で放電させることによりスパッタリング成膜をおこなう。これによりRuからなる非磁性層14を60nm成膜する。
【0056】
この後、上記と同様にArガスを導入し、同じチャンバー内にあるCoCrPt-SiO2ターゲットを用い、同じく基板温度が室温の条件の下で放電させることによりスパッタリング成膜をおこなう。これによりCoCrPt-SiO2からなるグラニュラー構造の磁性層16を25nm成膜する。
【0057】
以上のプロセスにより、ガラス基板に、軟磁性層、非磁性層と磁性層が成膜された転写用磁気ディスク(スレーブディスク)10を作製した。
【0058】
(磁気転写方法)
本発明の磁気転写方法は、初期磁化工程と、密着工程と、磁気転写工程とを少なくとも含んでなり、さらに必要に応じて、その他の工程を含む。
【0059】
<初期磁化工程>
前記初期磁化工程は、垂直磁気記録媒体を、垂直方向に初期磁化させる工程である。
なお、垂直方向とは、垂直磁気記録媒体の表面の鉛直方向に対して±10°以内であることを意味し、垂直磁気記録媒体の表面の鉛直方向に対して±5°以内であることが好ましい。
例えば、図1Aに示されるように、スレーブディスク10の初期磁化は、スレーブディスク10の表面に対し垂直に直流磁界を印加することができる装置(不図示の磁界印加手段)により初期化磁界Hiを発生させることにより行う。具体的には、初期化磁界Hiとしてスレーブディスク10の保磁力Hc以上の強度の磁界を発生させることにより行う。この初期磁化工程により、図7に示されるように、スレーブディスク10の磁性層16について、ディスク面と垂直な一方向に初期磁化Piさせる。なお、この初期磁化工程は、スレーブディスク10を磁界印加手段に対し相対的に回転させることにより行ってもよい。
【0060】
<密着工程>
前記密着工程は、前記初期磁化工程後の垂直磁気記録媒体に対して、磁気転写用マスター担体を密着させる工程である。例えば、マスターディスク20と、初期磁化工程後のスレーブディスク10とを図1Bのように重ね合わせて両者を密着させる工程(密着工程)である。図1Bに示されるように、密着工程では、マスターディスク20の突起状パターン(凹凸パターン)の形成されている面と、スレーブディスク10の磁性層16の形成されている面とを所定の押圧力で密着させる。
【0061】
スレーブディスク10には、マスターディスク20に密着させる前に、グライドヘッド、研磨体等により、表面の微少突起又は付着塵埃を除去するクリーニング処理(バーニッシング等)が必要に応じて施される。
【0062】
なお、密着工程は、図1Bに示すように、スレーブディスク10の片面のみにマスターディスク20を密着させる場合と、両面に磁性層が形成された転写用磁気ディスクについて、両面からマスターディスクを密着させる場合とがある。後者の場合では、両面を同時転写することができる利点がある。
【0063】
<磁気転写工程>
前記磁気転写工程は、前記垂直磁気記録媒体と前記磁気転写用マスター担体とを密着させた状態で、前記初期磁化と逆方向の垂直磁界を印加し、前記垂直磁気記録媒体に磁気情報を転写する工程である。
なお、初期磁化と逆方向とは、初期磁化の真逆方向のみならず、初期磁化の真逆方向に対して±10°傾斜した方向をも含む。
図1Cに基づき磁気転写工程を説明する。上記密着工程によりスレーブディスク10とマスターディスク20とを密着させたものについて、不図示の磁界印加手段により初期化磁界Hiの向きと反対方向に記録用磁界Hdを発生させる。記録用磁界Hdを発生させることにより生じた磁束がスレーブディスク10とマスターディスク20に進入することにより磁気転写が行われる。
【0064】
本実施形態では、記録用磁界Hdの大きさは、スレーブディスク10の磁性層16を構成する磁性材料の保持力Hcと略同じ値である。
【0065】
磁気転写は、スレーブディスク10及びマスターディスク20を密着させたものを不図示の回転手段により回転させつつ、磁界印加手段によって記録用磁界Hdを印加し、マスターディスク20に記録されている突起状のパターンからなる情報をスレーブディスク10の磁性層16に磁気転写する。なお、この構成以外にも、磁界印加手段を回転させる機構を設け、スレーブディスク10及びマスターディスク20に対し、相対的に回転させる手法であってもよい。
【0066】
磁気転写工程における、スレーブディスク10とマスターディスク20の断面の様子を図8に示す。図8に示されるように、凹凸パターンを有するマスターディスク20をスレーブディスク10が密着させた状態で、記録用磁界Hdを印加すると、磁束Gは、マスターディスク20の凸領域とスレーブディスク10が接触している領域では強く、記録用磁界Hdにより、マスターディスク20の磁性層48の磁化向きが記録用磁界Hdの方向に揃い、スレーブディスク10の磁性層16に磁気情報が転写される。一方、マスターディスク20の凹領域は、記録用磁界Hdの印加によって生じる磁束Gが凸領域に比べて弱く、スレーブディスク10の磁性層16の磁化向きが変わることはなく、初期磁化の状態を保ったままである。
【0067】
図9は、磁気転写に用いられる磁気転写装置について詳細に示したものである。磁気転写装置は、コア62にコイル63が巻きつけられた電磁石からなる磁界印加手段60を有するものであり、このコイル63に電流を流すことによりギャップ64において、密着させたマスターディスク20とスレーブディスク10の磁性層16に対し垂直に磁界を発生する構造になっている。発生する磁界の向きは、コイル63に流す電流の向きによって変えることができる。従って、この磁気転写装置によって、スレーブディスク10の初期磁化を行うことも、磁気転写を行うことも可能である。
【0068】
この磁気転写装置により初期磁化させた後、磁気転写を行う場合には、磁界印加手段60のコイル63に、初期磁化したときにコイル63に流した電流の向きと逆向きの電流を流す。これにより、初期磁化の際の磁化向きとは反対の向きに記録用磁界を発生させることができる。磁気転写は、スレーブディスク10及びマスターディスク20を密着させたものを回転させつつ、磁界印加手段60によって記録用磁界Hdを印加し、マスターディスク20に記録されている突起状のパターンからなる情報をスレーブディスク10の磁性層16に磁気転写するため、不図示の回転手段が設けられている。なお、この構成以外にも、磁界印加手段60を回転させる機構を設け、スレーブディスク10及びマスターディスク20に対し、相対的に回転させる手法であってもよい。
【0069】
本実施形態では、記録用磁界Hdは、本実施の形態に用いられるスレーブディスク10の磁性層16の保磁力Hcの60〜130%、好ましくは、70〜120%の強度の磁界を印加することにより磁気転写を行う。
【0070】
これにより、スレーブディスク10の磁性層16には、サーボ信号等の磁気パターンの情報が、初期磁化Piの反対向きの磁化となる記録磁化Pdとして記録される(図10参照)。
【0071】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0072】
なお、本発明の実施に際して、マスターディスク20に形成された突起状のパターンは、図4(j)で説明したポジパターンと反対のネガパターンであってもよい。この場合、初期化磁界Hiの方向及び記録用磁界Hdの方向を各々逆方向にすることにより、スレーブディスク10の磁性層16に、同様の磁化パターンを磁気転写することができるからである。また、本実施の形態では、磁界印加手段は、電磁石の場合について説明したが、同様に磁界が発生する永久磁石を用いてもよい。
【0073】
なお、上述した本発明の実施形態に係る方法により製造された垂直磁気記録媒体は、例えば、ハードディスク装置等の磁気記録再生装置に組み込まれて使用される。これにより、サーボ精度が高く、良好な記録再生特性の高記録密度磁気記録再生装置を得ることができる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0075】
(実施例1)
<マスター担体の作製>
8インチのSi(シリコン)ウェハー(基板)上に、電子線レジストを、スピンコート法により、100nmの厚みで塗布した。塗布後、基板上の該レジストを、回転式電子線露光装置を用いて露光し、露光後の該レジストを現像して、凹凸パターンを有するレジストSi基板を作製した。
その後、該レジストをマスクとして用い、該基板に対して、反応性イオンエッチング処理を行い、凹凸パターンの凹部を掘り下げた。該エッチング処理後、該基板上に残存するレジストを可溶溶剤で洗浄し、除去した。除去後、該基板を乾燥したものを、マスター担体を調製するための原盤とした。
【0076】
<メッキ法によるマスター担体中間体作製>
上記原盤上に、スパッタ法を用いてNi(ニッケル)導電性膜を20nm形成した。該導電性膜を形成した後の原盤を、スルファミン酸Ni浴に浸漬し、電解メッキにより、200μmの厚みのNi膜を形成した。その後、原盤よりNi膜を引き剥がし、洗浄して、Ni製のマスター担体中間体を得た。
【0077】
<磁気転写用磁性層形成方法>
上記Ni製のマスター担体中間体を、所定のチャンバーにセットし、該Ni製のマスター担体中間体の凸部の先端面に、成膜圧力(Arガスの圧力)0.3Pa、Ni製のマスター担体中間体−ターゲット間距離200mm、DCパワー1,000Wの条件下で、スパッタリング法により、Ta下地層を10nm形成した。Ta下地層を形成した後、成膜圧力(Arガスの圧力)0.3Pa、Ni製のマスター担体中間体−ターゲット間距離200mm、DCパワー1,000Wの条件下で、CoPt膜(Co92at%Pt8at%)の磁性層を40nm形成して、マスター担体を得た。このマスター担体の磁性層の磁気異方性エネルギーは、1.2×106erg/cm3であり、飽和磁化は1,280(emu/cc)であった。なお、これらの測定方法は後述する。
なお、本実施例1で作製したマスター担体には、垂直磁気記録媒体に転写された磁気信号の信号線幅が所定の幅(例えば、100nm)となるような凹凸パターンが形成されている。
具体的には、以下のような凹凸パターンが形成されたマスター担体を作製した。
凹凸パターンの周期が狙いとする信号線幅の2倍の長さとして、円盤状であるマスター担体の内側から外側に向かって除々に太くなるような線状パターンを配置した。この時、際内周での信号線幅は50nm、中周での信号線幅は100nm、最外周での信号線幅は150nmとなるようにした。線状パターンの本数は100本を1セクタとし、周方向に均等な間隔で150セクタ分配置した。
【0078】
<垂直磁気記録媒体の作製>
2.5インチのガラス基板上に、スパッタリング法を用いて、軟磁性層、第1非磁性配向層、第2非磁性配向層、磁気記録層及び保護層を、この順に形成した。更に、該保護層の上に、ディップ法により潤滑剤層を形成した。
軟磁性層の材料として、CoZrNbを用いた。該軟磁性層の厚みは、100nmであった。ガラス基板をCoZrNbターゲットと対向させて配置し、Arガスを0.6Pa圧になるように流入させ、DC1500Wで成膜した。
第1非磁性配向層としてTi:5nm、第2非磁性配向層としてRu:6nmを形成した。
第1非磁性配向層は、Tiターゲットと対向配置し、Arガスを0.5Pa圧になるように流入し、DC1,000Wで放電し、5nmの厚さになるように、Tiシード層を成膜した。第1非磁性配向層形成後にRuターゲットと対向させて配置し、Arガスを0.8Pa圧になるように流入させ、DC900Wで放電し、6nmの厚さになるように第2非磁性配向層を成膜した。
磁気記録層として、CoCrPtO:18nmを形成した。CoCrPtOターゲットと対向させて配置し、O2を0.06%を含むArガスを14Pa圧になるように流入させ、DC290Wで放電し磁気記録層を作製した。
磁気記録層を形成した後に、C(カーボン)ターゲットと対向させて配置し、Arガスを0.5Pa圧になるように流入させ、DC1000Wで放電し、C保護層(4nm)を形成した。この記録媒体の保磁力は、334kA/m(4.2kOe)とした。
更に、該媒体にディップ法により、PFPE潤滑剤を2nmの厚さで塗布した。
以上のようにして、垂直磁気記録媒体を作製した。
【0079】
<初期磁化工程>
上記垂直磁気記録媒体に対して、初期化を行った。初期化の際に印加する磁界の強度(初期磁界強度)は10kOeであった。
【0080】
<密着工程、磁気転写工程>
初期化済み垂直磁気記録媒体に対して、上記マスター担体を対向して配置し、これらを0.7MPaの圧力にて密着させた。互いに密着した状態で、磁界を印加して、磁気転写を行った。磁気転写に用いた磁界強度は4.6kOeであり、磁界印加終了後、マスター担体を、垂直磁気記録媒体から剥離した。
【0081】
<評価>
下記に示す評価を行った。
なお、実施例1では、転写された磁気信号の信号線幅が100nmとなる垂直磁気記録媒体部分について、信号品位(信号出力、出力バラツキ)の評価を行った。
なお、垂直磁気記録媒体に転写された磁気信号の信号線幅は、磁気力顕微鏡(日本ビーコ社製 NanoscopeIV)を用いて測定した磁気信号の像から算出した。
【0082】
<<磁性層の磁気異方性エネルギーの測定>>
実施例1のマスター担体の下地層及び磁性層と同じものを、実施例1と同じ条件で、ガラス基板(2.5インチ)上に形成した。該ガラス基板上に形成された試料を、6mm×8mmのサイズに切り出し、その切り出された試料を、磁気異方性トルク計(東英工業社製 TRT−2型)を用いて、磁気異方性エネルギーを求めた。
【0083】
<<磁性層の飽和磁化の測定>>
上記磁気異方性エネルギーを測定した試料を、振動試料型磁力計(東英工業社製 VSM−C7)を用いて、磁化曲線を作成した。該磁化曲線から飽和磁化値(emu)を求めた。
また、該試料を用いて、下地層及び磁性層の厚みを、原子間力顕微鏡(日本ビーコ社製、Dimension5000)で測定した。
上記飽和磁化値を、磁性層(試料)の体積で割り、体積当たりの飽和磁化(emu/cc)とした。
【0084】
<<磁性層の膜厚の測定>>
マスター担体の磁性層の膜厚の測定を原子間力顕微鏡(日本ビーコ社製、Dimension5000)で行った。
【0085】
<<サーボ信号品位>>
<<<信号出力>>>
磁気転写後の垂直磁気記録媒体に対して、マスター担体の線状パターン部によって記録された信号の再生出力を全セクタ分検出した。該検出には、リード巾100nmのGMRヘッドを装着した評価装置(協同電子社製 LS−90)を用いた。信号線幅が100nmとなっている半径位置を測定し、150セクタ分の全平均S/N(PS/N)を算出した。また、信号線幅が150nmとなる半径位置を測定し、参照用のS/N(HS/N)を算出した。(PS/N)/(HS/N)の比率を求め、この比率が80%以上であれば非常に良い(◎)と判断し、60%以上80%未満であれば、良い(〇)と判断し、40%以上60%未満であれば、やや悪い(△)と判断し、40%未満であれば、悪い(×)と判断した。
【0086】
<<<凸部側出力バラツキ>>>
凸部側出力バラツキを以下のように評価した。
ここで、凸部側出力とは、垂直磁気記録媒体において、初期磁化状態から磁気転写により反対方向に磁化反転した信号の強度(ゼロ基準)を示す。信号線幅100nmとなっている半径位置において、150セクタ分の再生出力から出力の標準偏差(σ)を求め、その値が、出力の10%未満であれば、非常に良い(◎)と判断し、10%以上20%未満であれば、良い(〇)と判断し、20%以上30%未満であれば、やや悪い(△)と判断し、30%以上であれば、悪い(×)と判断した。
【0087】
<<<凹部側出力バラツキ>>>
凹部側出力バラツキを以下のように評価した。
ここで、凹部側出力とは、垂直磁気記録媒体において、初期磁化状態から磁気転写後も初期磁化側に向いたままの信号の強度(ゼロ基準)を示す。信号線幅100nmとなっている半径位置において、150セクタ分の再生出力から出力の標準偏差(σ)を求め、その値が、出力の10%未満であれば、非常に良い(◎)と判断し、10%以上20%未満であれば、良い(〇)と判断し、20%以上30%未満であれば、やや悪い(△)と判断し、30%以上であれば、悪い(×)と判断した。
【0088】
(実施例2)
実施例1において、CoPt膜(Co92at%Pt8at%)の磁性層を形成する代わりに、CoCr膜(Co90at%Cr10at%)の磁性層を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で、マスター担体を作製した。このマスター担体の磁性層の磁気異方性エネルギーは、3.4×106erg/cm3であり、飽和磁化は1,090(emu/cc)であった。
【0089】
(実施例3)
実施例2において、厚み40nmのCoCr膜(Co90at%Cr10at%)の磁性層を形成する代わりに、厚み50nmのCoCr膜(Co90at%Cr10at%)の磁性層を形成したこと以外は、実施例2と同様の方法で、マスター担体を作製した。このマスター担体の磁性層の磁気異方性エネルギーは、3.4×106erg/cm3であり、飽和磁化は1,090(emu/cc)であった。
【0090】
(実施例4)
実施例2において、厚み40nmのCoCr膜(Co90at%Cr10at%)の磁性層を形成する代わりに、厚み60nmのCoCr膜(Co90at%Cr10at%)の磁性層を形成したこと以外は、実施例2と同様のマスター担体を作製した。このマスター担体の磁性層の磁気異方性エネルギーは、3.4×106erg/cm3であり、飽和磁化は1,090(emu/cc)であった。
【0091】
(実施例5)
実施例1において、CoPt膜(Co92at%Pt8at%)の磁性層を形成する代わりに、CoCr膜(Co85at%Cr15at%)の磁性層を形成したこと以外は、実施例1と同様のマスター担体を作製した。このマスター担体の磁性層の磁気異方性エネルギーは、2.5×106erg/cm3であり、飽和磁化は860(emu/cc)であった。
【0092】
(実施例6)
実施例5において、Ta膜の成膜圧力及びCoCr膜(Co85at%Cr15at%)の成膜圧力を0.3Paから7.0Paに変えたこと以外は、実施例5と同様のマスター担体を作製した。このマスター担体の磁性層の磁気異方性エネルギーは、1.8×106erg/cm3であり、飽和磁化は570(emu/cc)であった。
【0093】
(実施例7)
実施例1において、CoPt膜(Co92at%Pt8at%)の磁性層を形成する代わりに、FeCo膜(Fe50%Co50at%)の磁性層を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で、マスター担体を作製した。このマスター担体の磁性層の磁気異方性エネルギーは、4.0×105erg/cm3であり、飽和磁化は1,600(emu/cc)であった。
【0094】
(実施例8)
実施例1において、CoPt膜(Co92at%Pt8at%)の磁性層を形成する代わりに、Co膜の磁性層を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で、マスター担体を作製した。このマスター担体の磁性層の磁気異方性エネルギーは、8.0×105erg/cm3であり、飽和磁化は1,390(emu/cc)であった。
【0095】
(実施例9)
実施例1において、CoPt膜(Co92at%Pt8at%)の磁性層を形成する代わりに、CoPt膜(Co90at%Pt10at%)の磁性層を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で、マスター担体を作製した。このマスター担体の磁性層の磁気異方性エネルギーは、2.8×106erg/cm3であり、飽和磁化は1,250(emu/cc)であった。
【0096】
(実施例10)
実施例1において、厚み40nmのCoPt膜(Co92at%Pt8at%)の磁性層を形成する代わりに、厚み10nmのCoPt膜(Co92at%Pt8at%)の磁性層を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で、マスター担体を作製した。このマスター担体の磁性層の磁気異方性エネルギーは、1.2×106erg/cm3であり、飽和磁化は1,280(emu/cc)であった。
【0097】
(実施例11)
実施例1において、厚み40nmのCoPt膜(Co92at%Pt8at%)の磁性層を形成する代わりに、厚み15nmのCoPt膜(Co92at%Pt8at%)の磁性層を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で、マスター担体を作製した。このマスター担体の磁性層の磁気異方性エネルギーは、1.2×106erg/cm3であり、飽和磁化は1,280(emu/cc)であった。
【0098】
(実施例12)
実施例1において、厚み40nmのCoPt膜(Co92at%Pt8at%)の磁性層を形成する代わりに、厚み20nmのCoPt膜(Co92at%Pt8at%)の磁性層を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で、マスター担体を作製した。このマスター担体の磁性層の磁気異方性エネルギーは、1.2×106erg/cm3であり、飽和磁化は1,280(emu/cc)であった。
【0099】
(実施例13)
実施例1において、厚み40nmのCoPt膜(Co92at%Pt8at%)の磁性層を形成する代わりに、厚み30nmのCoPt膜(Co92at%Pt8at%)の磁性層を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で、マスター担体を作製した。このマスター担体の磁性層の磁気異方性エネルギーは、1.2×106erg/cm3であり、飽和磁化は1,280(emu/cc)であった。
【0100】
(比較例1)
実施例1において、CoPt膜(Co92at%Pt8at%)の磁性層を形成する代わりに、CoPt膜(Co88at%Pt12at%)の磁性層を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で、マスター担体を作製した。このマスター担体の磁性層の磁気異方性エネルギーは、5.2×106erg/cm3であり、飽和磁化は1,260(emu/cc)であった。
【0101】
(比較例2)
実施例1において、CoPt膜(Co92at%Pt8at%)の磁性層を形成する代わりに、CoPt膜(Co70at%Pt30at%)の磁性層を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で、マスター担体を作製した。このマスター担体の磁性層の磁気異方性エネルギーは、1.4×107erg/cm3であり、飽和磁化は1,190(emu/cc)であった。
【0102】
上記実施例2〜13及び比較例1〜2のマスター担体及びこのマスタ担体を用いて磁気転写された磁気記録媒体を、実施例1と同様の方法で、評価した。評価結果を表1に示す。
【0103】
【表1】
【0104】
実施例のマスター担体により磁気転写された垂直磁気記録媒体は、凸部側出力バラツキの評価結果が、比較例のマスター担体により磁気転写された垂直磁気記録媒体よりも優れていることが確かめられた。これは、マスター担体凸部の磁性層の磁気異方性エネルギーを弱めることで、該磁性層の残留磁化が弱まり、転写信号の乱れが小さくなったことを示している。
【符号の説明】
【0105】
10 スレーブディスク(垂直磁気記録媒体)
20 マスターディスク(磁気転写用マスター担体)
12 基板
13 軟磁性層
16 磁性層
60 磁界印加手段
62 コア
63 コイル
80 磁界印加装置
202,212 基材
204,214 磁性層
206 凸部
207 凹部
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録媒体に磁気情報を転写する磁気転写用マスター担体、及びこれを用いた磁気転写方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報を高密度で記録可能な磁気記録媒体として、垂直磁気記録媒体が知られている。この垂直磁気記録媒体の情報記録領域は、狭トラックで構成されている。そのため、垂直磁気記録媒体では、狭いトラック幅において正確に磁気ヘッドを走査し、高いS/N比で信号を再生するためのトラッキングサーボ技術が重要となる。このトラッキングサーボを行うためには、トラッキング用のサーボ信号、アドレス情報信号、再生クロック信号等のサーボ情報を、所定間隔で垂直磁気記録媒体に、いわゆるプリフォーマットとして記録しておく必要がある。
【0003】
垂直磁気記録媒体に、サーボ情報をプリフォーマットする方法としては、例えば、サーボ情報に対応した、磁性層を含むパターンが形成されたマスター担体を、該磁気記録媒体に密着させた状態で記録用磁界(転写磁界)を印加し、マスター担体のパターンを磁気記録媒体に磁気転写する方法がある(例えば、特許文献1〜3参照)。
この方法において、該磁気記録媒体にマスター担体を密着させた状態で転写磁界が印加されると、磁束がマスター担体の磁化状態に基づきパターン上の磁性層に吸収され、磁界がパターンの凹凸形状に対応し強められる。このパターン状に強められた磁界によって、磁気記録媒体の所定箇所のみが磁化される。よって、これまでは高飽和磁化を有する磁性材料が積極的にマスター磁性層材料として使用されてきた。
【0004】
ところで、上記マスター担体の磁性層は、数十ナノメータ程度であり、非常に薄い。そのため転写磁界を印加すると、該磁性層内に強い反磁界が発生する。反磁界が強くなると、高飽和磁化を有する磁性材料を使用しても、実効的な磁性層への印加磁界が減少し、凹凸磁性層は未飽和状態となる。これまでは、転写磁界強度を確保するために外部印加磁界をより高め、実効的な磁性層への印加磁界を高めることで磁性層を飽和状態に近づけようとした。しかし、印加磁界を高めることによる磁性層磁化増加率は、印加磁界強度と比例関係にあるため、実質的に低飽和磁化材料に強磁界を印加した状態と同等な状況となる。凸部上の転写磁場強度は強くなり、垂直磁気記録媒体の磁化は、ほぼ飽和した状態となるが、凹部上の転写磁界強度も強くなり、凹凸間の転写磁界強度差が小さくなる。凹凸間の転写磁界強度差が小さい状態でサーボ情報を磁気記録媒体に転写すると、磁化されるべきでない箇所(凹部)で磁化反転が発生し、その記録信号の品位が劣化し、問題となる。
【0005】
上記問題の発生を抑制するためには、少なくとも転写磁界を印加した状態においては、マスター担体の磁性層自身が所望の転写磁界強度にて飽和した状態となり、磁化値が大きくなっている必要がある。
特に、磁気記録媒体を磁化するのに最低限必要な強さの転写磁界によって、マスター担体の磁性層自身の磁化値を充分に大きくすることができれば、凹凸間の転写磁界強度差を大きくすることができ、好ましいと言える。
【0006】
このような事情等により、該磁性層の材料として、磁性層の面に対し、垂直な方向に磁気異方性を有する材料を用いることが検討されている。このような垂直磁気異方性を有する材料をマスター担体の磁性層に用いれば、印加する転写磁界の強さを最低限に抑えつつ、該転写磁界によって該磁性層の磁化値を容易に大きくできるものと考えられた。
【0007】
しかしながら、従来の垂直磁気異方性を有する材料を磁性層として用いた磁気転写マスターによる磁気転写方法では、磁気転写後に外部磁界を取り去った後も磁気転写マスターの凸部とスレーブディスクとが接触していると、磁気転写マスターの残留磁化が転写信号を弱める磁界を発生し、接触箇所の転写信号を乱すことがあった。
図11A〜Cに、磁気転写前後の磁気転写マスターの磁化状態を示す。図11A〜Cにおいて、磁化されていない初期状態(図11A)の磁気転写マスター111に外部磁界Hdを加えると、磁性層112が磁化される(図11B)。その後、外部磁界Hdを取り去ると、磁気異方性を有さない材料からなる磁性層112であれば磁化は消え去るが、磁気異方性を有する材料からなる磁性層112では、図11Cに示すようにエネルギーが安定となる磁化状態となる。このときの磁気転写マスター111の磁化状態は、外部磁界Hdと同じ方向だけでなく、外部磁界Hdと逆方向の磁化の向きにもなるため、この磁化状態の磁気転写マスター111とスレーブディスク110とが密着していると、スレーブディスク110の磁性層112と接触している部分の転写信号が乱れることになる(図11C)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−203325号公報
【特許文献2】特開2000−195048号公報
【特許文献3】米国特許第7218465B1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明は、残留磁化によって転写信号を乱すことなく、良好な磁気記録を行うことができる磁気転写用マスター担体、及びこれを用いた磁気転写方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、
<1> 垂直磁気記録方式の磁気記録媒体上に配置され、磁場を印加して該磁気記録媒体に磁気情報を転写するために用いられる磁気転写用マスター担体であって、転写用磁気情報に対応した磁性層が形成された転写部と、該磁性層を有する転写部に対して相対的に低い凹形状を成す非転写部と、を備え、該磁性層は垂直磁気異方性を有し、該磁性層の磁気異方性エネルギーが4×106erg/cm3未満であることを特徴とする磁気転写用マスター担体である。
<2> 磁性層の磁気異方性エネルギーが、6×105erg/cm3以上3×106erg/cm3以下である前記<1>に記載の磁気転写用マスター担体である。
<3> 磁性層の磁気異方性エネルギーが、9×105erg/cm3以上2×106erg/cm3以下である前記<2>に記載の磁気転写用マスター担体である。
<4> 磁性層は、膜厚が50nm未満である前記<1>から<3>のいずれかに記載の磁気転写用マスター担体である。
<5> 磁性層は、膜厚が10nm以上40nm以下である前記<4>に記載の磁気転写用マスター担体である。
<6> 磁性層は、膜厚が20nm以上40nm以下である前記<5>に記載の磁気転写用マスター担体である。
<7> 磁性層の飽和磁化(Ms)が600emu/cc以上である前記<1>から<6>のいずれかに記載の磁気転写用マスター担体である。
<8> 垂直磁気記録媒体を、垂直方向に初期磁化させる初期磁化工程と、前記初期磁化工程後の垂直磁気記録媒体に対して、前記<1>から<7>のいずれかに記載の磁気転写用マスター担体を密着させる密着工程と、前記垂直磁気記録媒体と前記磁気転写用マスター担体とを密着させた状態で、前記初期磁化と逆方向の垂直磁界を印加し、前記垂直磁気記録媒体に磁気情報を転写する工程と、を含むことを特徴とする磁気転写方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、前記従来における諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、残留磁化によって転写信号を乱すことなく、良好な磁気記録を行うことができる磁気転写用マスター担体、及びこれを用いた磁気転写方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1A】図1Aは、垂直磁気記録転写方法の工程を示す説明図である(その1)。
【図1B】図1Bは、垂直磁気記録転写方法の工程を示す説明図である(その2)。
【図1C】図1Cは、垂直磁気記録転写方法の工程を示す説明図である(その3)。
【図2A】図2Aは、一実施形態に係るマスターディスクの部分断面図である(その1)。
【図2B】図2Bは、一実施形態に係るマスターディスクの部分断面図である(その2)。
【図3】図3は、一実施形態に係るマスターディスクの製造方法の説明図である。
【図4】図4は、一実施形態に係るマスターディスクの製造方法の説明図である。
【図5】図5は、マスターディスクの上面図である。
【図6】図6は、スレーブディスクの断面を示す説明図である。
【図7】図7は、初期磁化工程後の磁性層(記録層)の磁化方向を示した説明図である。
【図8】図8は、磁気転写工程を示す説明図である。
【図9】図9は、磁気転写工程に用いる磁気印加装置の概略構成図である。
【図10】図10は、磁気転写工程後の磁性層(記録層)の磁化方向を示した説明図である。
【図11A】図11Aは、従来の磁気転写方法を示す図である(その1)。
【図11B】図11Bは、従来の磁気転写方法を示す図である(その2)。
【図11C】図11Cは、従来の磁気転写方法を示す図である(その3)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係る磁気転写用マスター担体について説明する。
【0014】
先ず、図1A〜Cを用いて垂直磁気記録の磁気転写技術の概要を説明する。図1A〜Cは、垂直磁気記録の磁気転写方法の工程を示す説明図である。図1A〜Cにおいて、符号10は被転写用の磁気ディスクとしてのスレーブディスク(垂直磁気記録媒体に相当)、符号20は磁気転写用マスター担体としてのマスターディスクを表す。
【0015】
図1Aに示されるように、スレーブディスク10のディスク平面に対し、垂直の方向から、直流磁界(Hi)を印加して、該スレーブディスク10を初期磁化する(初期磁化工程)。
初期磁化を行った後、図1Bに示されるように、前記初期磁化後のスレーブディスク10と、マスターディスク20とを密着させる(密着工程)。
さらに、両ディスク10、20を密着させた後、図1Cに示されるように、初期磁化の際に印加される磁界(Hi)とは、逆向きの磁界(Hd)を印加して、該スレーブディスク10に磁気転写する(磁気転写工程)。
【0016】
本実施形態の磁気転写用マスター担体とは、図1A〜Cにおいて示されるマスターディスク20に相当するものである。以下、このマスターディスク20を例に挙げて、本実施形態のマスター担体を説明する。
【0017】
(磁気転写用マスター担体(マスターディスク))
図2Aは、マスターディスク(マスター担体)20の部分断面図である。このマスターディスク20は、基材202と、該基材202の表面上に形成される磁性層204とを備える。該基材202は、その表面に、凸部206及び凹部207を有する。該凸部206は、その表面に前記磁性層204を有する。なお、本実施形態においては、製造が容易である等の理由により、凹部207の表面にも磁性層208が形成されている。他の実施形態においては、凹部207内に磁性層208がなくてもよい。
基材202の凸部206と、その表面(頂面)に形成される磁性層204とは、転写信号に対応するビット部となる。このビット部は、初期磁化を反転させる部分であり、転写部に相当する。なお、凹部207は、磁化反転しない非転写部に相当する。
【0018】
図2Bは、他の実施形態のマスターディスク20Aの部分断面図である。このマスターディスク20Aは、基材212と、該基材212の表面上に、転写信号に対応するビット部となる磁性層214とを備える。このマスターディスク20Aにおいては、該磁性層214が、転写部に相当し、隣り合う磁性層214の間の部分(隙間)が、非転写部に相当する。
【0019】
<基材>
前記基材は、ガラス、ポリカーボネート等の合成樹脂、ニッケル、アルミニウム等の金属、シリコン、カーボン等の公知の材料を用いて製造される。
【0020】
<磁性層>
前記磁性層は、垂直磁気異方性を有し、磁気異方性エネルギー(Ku)が、4×106erg/cm3未満である。この磁気異方性エネルギー(Ku)は、公知の磁気異方性トルク計を用いて測定できる。
前記磁性層が「垂直磁気異方性を有する」とは、以下の方法により求められる、面内磁化曲線の磁化値(Min)、及び垂直磁化曲線の磁化値(Mpe)の比(Mpe/Min)が、反磁界補正を施したヒステリシス曲線において、1以上の場合である。Min及びMpeを求める方法は、以下の通りである。
磁気転写用マスター担体の磁性層と同じものを、公知の振動試料型磁力計を用いて、面内方向及び垂直方向に磁界を印加して、磁化曲線の測定を行う。
得られた磁化曲線に基づいて、記録用磁界と同値の外部印加磁界強度での面内磁化曲線の磁化値(Min)、垂直磁化曲線の磁化値(Mpe)を算出する。
【0021】
該磁性層の磁気異方性エネルギーは、少なくとも4×106erg/cm3未満であり、6×105erg/cm3以上3×106erg/cm3以下が好ましく、9×105erg/cm3以上2×106erg/cm3以下がより好ましい。磁気異方性エネルギーが小さすぎると、磁性層を垂直配向させることが難しくなる。
【0022】
また、該磁性層は、厚さが50nm未満であることが好ましく、10nm以上40nm以下が好ましく、20nm以上40nm以下がより好ましい。磁性層が厚すぎると、残留磁化による転写信号の乱れが大きくなり、磁性層が薄すぎると、信号出力の高い磁気転写ができなくなる。
【0023】
該磁性層の飽和磁化(Ms)は、600emu/cc以上であることが好ましい。飽和磁化が600emu/cc未満であると、垂直磁気異方性を有し、磁性層磁化が飽和した状態にあるにもかかわらず、凹凸間の転写磁界強度差を確保できず、充分な転写特性を確保できないことがある。即ち、磁性層の飽和磁化Msを高めることで、磁気転写用マスター凸部から出る磁界と凹部から出る磁界の差をより大きくすることができる。
【0024】
また、該磁性層の核生成磁界(Hn)が正値(Hn>0)であることが好ましい。核生成磁界(Hn)が、Hn≦0であると、磁気転写終了後、転写磁界を除去後にも磁性層から大きな磁界が発生することとなり、重ね記録が起こり、所望の信号を記録できないことがある。
なお、該磁性層の核生成磁界(Hn)は、印加磁界(転写磁界、Hd)以下であることが好ましい。印加磁界以下であると、該磁性層の飽和磁化(Ms)を有効に活用できる。
【0025】
該磁性層の飽和磁化(emu/cc)及び核生成磁界(Hn)は、公知の振動試料型磁力計を用いて求められる。飽和磁化(emu/cc)は、該振動試料型磁力計を用いて得られる磁化曲線から、飽和磁気モーメント(emu)を求め、該飽和磁気モーメントを、該磁性層の体積(cc)で割ることにより、求められる。核生成磁界(Hn)は、該磁化曲線から求められる。
【0026】
該磁性層の残留磁化(Mr)は、小さい値であることが好ましい。残留磁化がある値よりも大きくなると、転写磁界の印加を解除した後も、マスターディスクから磁界が発生するため、マスターディスクをスレーブディスクから分離する際に不要な転写が生じ、この不要な転写が信号のノイズとなる。該磁性層の残留磁化(Mr)は、飽和磁化値の80%以下であることが好ましく、具体的には、480emu/cc以下であることが好ましい。
【0027】
該磁性層の保磁力(Hc)は、その値が大きすぎると、印加磁界で該磁性層が磁化しない。大きな転写磁界印加は、凹部の磁界を強める。したがって、該磁性層の保磁力(Hc)は、対象とする垂直磁気記録媒体の保磁力以下であることが好ましく、具体的には、6,000Oe以下が好ましく、4,000Oe以下が更に好ましい。
【0028】
このような、マスターディスク(マスター担体)の磁性層に用いられる材料としては、Fe、Co、Niのうち、少なくとも1つの強磁性金属と、Cr、Pt、Ru、Pd、Si、Ti、B、Ta、Oのうち少なくとも1つの非磁性物質とから構成される合金、或いは化合物である。該磁性層の材料としては、特に、Coと、Crとから構成される合金(CoCr)や、Coと、Ptとから構成される合金(CoPt)が好ましい。
【0029】
マスターディスク表面には、機械的、摩擦特性、耐候性を改善するために保護層が形成されている。この保護層の材料としては、硬質な炭素膜が好ましく、スパッタ法により形成した無機カーボン、ダイヤモンドライクカーボン等を用いることができる。この硬質保護層上には、更に、潤滑剤からなる層(潤滑剤層)を形成してもよい。
この種の潤滑剤としては、一般的に、パーフルオロポリエーテル(PFPE)等のフッ素系樹脂が用いられる。
【0030】
マスターディスク(マスター担体)の磁性層は、例えば、スパッタリング法によって形成できる。例えば、該磁性層としてCoPtを用いる場合、該磁性層の磁気特性は、主として、該磁性層形成時のスパッタ圧(力)、Pt濃度で制御できる。ただし、スパッタ圧を0.2Pa未満に設定すると、通常、放電が困難となる。スパッタ圧は、0.2Pa〜50Paが好ましく、0.2Pa〜10Paがより好ましい。Pt濃度は、5〜30原子%が好ましく、10〜20原子%がより好ましい。
【0031】
<下地層>
マスターディスク(マスター担体)の磁性層の垂直配向性、磁気異方性エネルギー(Ku)、飽和磁化(Ms)及び核生成磁界(Hn)を調整するために、該磁性層の下(磁性層と基材との間)に、下地層を形成してもよい。磁性層の下層に下地層を形成しておくことで、上に形成する磁性層を垂直に配向させやすくすることができる。
該下地層の材料としては、例えば、Pt、Ru、Pd、Co、Cr、Ni、W、Ta、Al、P、Si、Tiのうち、少なくとも1つを含有する金属、合金、化合物で構成される。該下地層の材料としては、Pt、Ru等の白金属やTa等の金属、合金が好ましい。該下地層は、単層でもよく、多層でもよい。
【0032】
該下地層の厚みは、1nm〜30nmの範囲であることが好ましく、5nm〜20nmの範囲がより好ましい。下地層の厚みが、30nmを超えると、マスターディスクのパターン上に形成された磁性層の形状が劣化して、転写磁界の分布が悪化し、記録信号の信号品位が劣化する。下地層の厚みが、1nm未満であると、該磁性層を垂直配向させることができない場合、或いは、磁気異方性エネルギー、飽和磁化、核生成磁界を制御できない場合がある。
なお、該下地層の厚みは、20nm以下であることが好ましい。20m以下であると、磁性層形成後のパターン形状の劣化を抑制することができ、大幅に磁気転写特性を改善できる。
【0033】
<マスターディスクの製造方法>
図3及び図4は、マスターディスクの製造工程を示す説明図である。図3及び図4に基づいて、一実施形態に係るマスターディスクの製造方法を説明する。
図3(a)に示されるように、表面が平滑なシリコンウエハーである原板(Si基板)30を用意し、この原板30の上に、電子線レジスト液をスピンコート法等により塗布して、レジスト層32を形成し(図3(b)参照)、ベーキング処理(プレベーク)を行う。
【0034】
次いで、高精度な回転ステージ又はX−Yステージを備えた不図示の電子ビーム露光装置のステージ上に原板30をセットし、原板30を回転させながら、サーボ信号に対応して変調した電子ビームを照射し、レジスト層32の略全面に所定のパターン33、例えば各トラックに回転中心から半径方向に線状に延びるサーボ信号に相当するパターンを円周上の各フレームに対応する部分に描画露光(電子線描画)する(図3(c)参照)。
【0035】
次いで、図3(d)に示されるように、レジスト層32を現像処理し、露光(描画)部分を除去して、残ったレジスト層32による所望厚さの被覆層を形成する。この被覆層が次工程(エッチング工程)のマスクとなる。なお、基板30上に塗布されるレジストはポジ型、ネガ型のどちらでも使用可能であるが、ポジ型とネガ型では、露光(描画)パターンが反転することになる。この現像処理の後には、レジスト層32と原板30との密着力を高めるためにベーキング処理(ポストベーク)を行う。
【0036】
次いで、図3(e)に示されるように、レジスト層32の開口部34より原板30を表面より所定深さだけ除去(エッチング)する。このエッチングにおいては、アンダーカット(サイドエッチ)を最小にすべく、異方性のエッチングが望ましい。このような、異方性のエッチングとしては、反応性イオンエッチング(RIE;Reactive Ion Etching)が好ましく採用できる。
【0037】
次いで、図4(f)に示されるように、レジスト層32を除去する。レジスト層32の除去方法は、乾式法としてアッシングが採用でき、湿式法として剥離液による除去法が採用できる。以上のアッシング工程により、所望の凹凸状パターンの反転型が形成された原盤36が作製される。
【0038】
次いで、図4(g)に示されるように、原盤36の表面に均一厚さに導電層38を形成する。この導電層38の形成方法としては、PVD(Physical Vapor Deposition)、CVD(Chemical Vapor Deposition)、スパッタリング、イオンプレーティングを含む各種の金属成膜法等が適用できる。このように、導電膜の層(符号38)を1層形成すれば、次工程(電鋳工程)の金属の電着が均一に行えるという効果が得られる。導電層38としては、Niを主成分とする膜であることが好ましい。このようなNiを主成分とする膜は、形成が容易であり、且つ、硬質であるため、導電膜としてふさわしい。この導電層38の膜厚として、特に制限はないが、数十nm程度が一般的に採用できる。
【0039】
次いで、図4(h)に示されるように、原盤36の表面に、電鋳により所望の厚さの金属(ここでは、Ni)による金属板40を積層する(反転板形成工程)。この工程は、電鋳装置の電解液中に原盤36を浸し、原盤36を陽極とし、陰極との間に通電することにより行われるが、このときの電解液の濃度、pH、電流のかけ方等は、積層された金属板40(すなわち、図2で説明した基材202に相当するマスター基板となるも)に歪みのない最適条件で実施されることが求められる。
【0040】
そして、上記のようにして金属板40の積層された原盤36が電鋳装置の電解液から取
り出され、剥離槽(図示略)内の純水に浸される。
【0041】
次いで、剥離槽内において、金属板40を原盤36から剥離し(剥離工程)、図4(i)に示すような、原盤36から反転した凹凸状パターンを有するマスター基板42を得る。
【0042】
次いで、図4(j)に示されるように、マスター基板42の凹凸表面上に磁性層48を形成する。該磁性層の材料は、例えば、CoPtからなる。該磁性層48の厚みは、5nm〜200nmの範囲が好ましく、10nm〜100nmの範囲がより好ましく、15nm〜50nmが更に好ましい。該磁性層48は、上記材料のターゲットを用いスパッタリングにより形成される。なお、前記磁性層48を形成する前に下地層を形成しても良い。該下地層の材料は、例えば、Taからなる。
【0043】
その後、マスター基板42の内径及び外径を、所定のサイズに打抜き加工する。以上のプロセスにより、図4(j)に示すように、磁性層48(図2A及びBにおける磁性層204及び214に相当)が設けられた凹凸パターンを有するマスターディスク20が作製される。
【0044】
図5はマスターディスク20の上面図である。図5に示されるように、マスターディスク20の表面には、凹凸パターンからなるサーボパターン52が形成される。また、図には示さないが、マスターディスク20表面の磁性層48(図4(j)参照)の上にダイヤモンドライクカーボン等の保護膜(保護層)や、更に、保護膜上に潤滑剤層を設けてもよい。
【0045】
該保護層を形成する目的は、マスターディスク20とスレーブディスク10とを密着させた際に磁性層48が傷つきやすく、マスターディスク20として使用できなくなってしまうことを防止するためである。また、潤滑剤層は、スレーブディスク10との接触の際に生じる摩擦による傷の発生などを防止し、耐久性を向上させる効果がある。
【0046】
具体的には、保護層として、厚さが2〜30nmのカーボン膜を形成し、更にその上に潤滑剤層を形成した構成が好ましい。また、磁性層48と、保護層との密着性を強化するため、磁性層48上にSi等の密着強化層を形成し、その後に保護層を形成してもよい。
【0047】
<スレーブディスク(垂直磁気記録媒体)の説明>
図1A〜Cにおいて示される、前記スレーブディスク10は、円盤状の基板の表面の片面或いは、両面に磁性層が形成されたものであり、具体的には、高密度ハードディスク等が挙げられる。このスレーブディスク10を例に挙げ、図6を用いて、垂直磁気記録媒体の説明を行う。
【0048】
図6は、スレーブディスク10の断面を示す説明図である。図6に示されるように、スレーブディスク10は、ガラスなど非磁性の基板12上に、軟磁性層(軟磁性下地層;SUL)13、非磁性層(中間層)14、磁性層(垂直磁気記録層)16が順次積層形成された構造からなり、磁性層16の上は更に保護層18と潤滑層19とで覆われている。なお、ここでは、基板12の片面に磁性層16を形成した例を示すが、基板12の表裏両面に磁性層を形成する態様も可能である。
【0049】
円盤状の基板12は、ガラスやAl(アルミニウム)等の非磁性材料から構成されており、この基板12上に軟磁性層13を形成した後、非磁性層14と、磁性層16を形成する。
【0050】
軟磁性層13は、磁性層16の垂直磁化状態を安定させ、記録再生時の感度を向上させるために有益である。軟磁性層13に用いられる材料は、CoZrNb、FeTaC、FeZrN、FeSi合金、FeAl合金、パーマロイなどFeNi合金、パーメンジュールなどのFeCo合金等の軟磁性材料が好ましい。この軟磁性層13は、ディスクの中心から外側に向かって半径方向に(放射状に)磁気異方性が付けられている。
【0051】
軟磁性層13の厚さは、20nm〜2,000nmであることが好ましく、40nm〜400nmであることが更に好ましい。
【0052】
非磁性層14は、後に形成する磁性層16の垂直方向の磁気異方性を大きくする等の理由により設けられる。非磁性層14に用いられる材料は、Ti(チタン)、Cr(クロム)、CrTi、CoCr、CrTa、CrMo、NiAl、Ru(ルテニウム)、Pd(パラジウム)、Ta、Pt等が好ましい。非磁性層14は、スパッタリング法により上記材料を成膜することにより形成される。非磁性層14の厚さは、10nm〜150nmであることが好ましく、20nm〜80nmであることが更に好ましい。
【0053】
磁性層16は、垂直磁化膜(磁性膜内の磁化容易軸が基板に対し主に垂直に配向したもの)により形成されており、この磁性層16に情報が記録される。磁性層16に用いられる材料は、Co(コバルト)、Co合金(CoPtCr、CoCr、CoPtCrTa、CoPtCrNbTa、CoCrB、CoNi等)、Co合金-SiO2、Co合金-TiO2、Fe、Fe合金(FeCo、FePt、FeCoNi等)等が好ましい。これらの材料は、磁束密度が大きく、成膜条件や組成を調整することにより垂直の磁気異方性を有している。磁性層16は、スパッタリング法により上記材料を成膜することにより形成される。磁性層16の厚さは、10nm〜500nmであることが好ましく、20nm〜200nmであることが更に好ましい。
【0054】
本実施形態では、スレーブディスク10の基板12として、外形65mmの円盤状のガラス基板を用い、スパッタリング装置のチャンバー内にガラス基板を設置し、1.33×10−5Pa(1.0×10−7Torr)まで減圧した後、チャンバー内にAr(アルゴン)ガスを導入し、チャンバー内にあるCoZrNbターゲットを用い、同じくチャンバー内の基板の温度を室温として、80nm厚のSUL第1層をスパッタリング成膜する。次にその上に、チャンバー内にあるRuターゲットを用いて0.8nmのRu層をスパッタリング成膜する。さらにその上に、CoZrNbターゲットを用い、80nm厚のSUL第2層をスパッタリング成膜する。こうしてスパッタ成膜されたSULを、半径方向に50Oe以上の磁場を印加した状態で200℃まで昇温し室温に冷却する。
【0055】
次に、Ruターゲットを用い、基板温度が室温の条件の下で放電させることによりスパッタリング成膜をおこなう。これによりRuからなる非磁性層14を60nm成膜する。
【0056】
この後、上記と同様にArガスを導入し、同じチャンバー内にあるCoCrPt-SiO2ターゲットを用い、同じく基板温度が室温の条件の下で放電させることによりスパッタリング成膜をおこなう。これによりCoCrPt-SiO2からなるグラニュラー構造の磁性層16を25nm成膜する。
【0057】
以上のプロセスにより、ガラス基板に、軟磁性層、非磁性層と磁性層が成膜された転写用磁気ディスク(スレーブディスク)10を作製した。
【0058】
(磁気転写方法)
本発明の磁気転写方法は、初期磁化工程と、密着工程と、磁気転写工程とを少なくとも含んでなり、さらに必要に応じて、その他の工程を含む。
【0059】
<初期磁化工程>
前記初期磁化工程は、垂直磁気記録媒体を、垂直方向に初期磁化させる工程である。
なお、垂直方向とは、垂直磁気記録媒体の表面の鉛直方向に対して±10°以内であることを意味し、垂直磁気記録媒体の表面の鉛直方向に対して±5°以内であることが好ましい。
例えば、図1Aに示されるように、スレーブディスク10の初期磁化は、スレーブディスク10の表面に対し垂直に直流磁界を印加することができる装置(不図示の磁界印加手段)により初期化磁界Hiを発生させることにより行う。具体的には、初期化磁界Hiとしてスレーブディスク10の保磁力Hc以上の強度の磁界を発生させることにより行う。この初期磁化工程により、図7に示されるように、スレーブディスク10の磁性層16について、ディスク面と垂直な一方向に初期磁化Piさせる。なお、この初期磁化工程は、スレーブディスク10を磁界印加手段に対し相対的に回転させることにより行ってもよい。
【0060】
<密着工程>
前記密着工程は、前記初期磁化工程後の垂直磁気記録媒体に対して、磁気転写用マスター担体を密着させる工程である。例えば、マスターディスク20と、初期磁化工程後のスレーブディスク10とを図1Bのように重ね合わせて両者を密着させる工程(密着工程)である。図1Bに示されるように、密着工程では、マスターディスク20の突起状パターン(凹凸パターン)の形成されている面と、スレーブディスク10の磁性層16の形成されている面とを所定の押圧力で密着させる。
【0061】
スレーブディスク10には、マスターディスク20に密着させる前に、グライドヘッド、研磨体等により、表面の微少突起又は付着塵埃を除去するクリーニング処理(バーニッシング等)が必要に応じて施される。
【0062】
なお、密着工程は、図1Bに示すように、スレーブディスク10の片面のみにマスターディスク20を密着させる場合と、両面に磁性層が形成された転写用磁気ディスクについて、両面からマスターディスクを密着させる場合とがある。後者の場合では、両面を同時転写することができる利点がある。
【0063】
<磁気転写工程>
前記磁気転写工程は、前記垂直磁気記録媒体と前記磁気転写用マスター担体とを密着させた状態で、前記初期磁化と逆方向の垂直磁界を印加し、前記垂直磁気記録媒体に磁気情報を転写する工程である。
なお、初期磁化と逆方向とは、初期磁化の真逆方向のみならず、初期磁化の真逆方向に対して±10°傾斜した方向をも含む。
図1Cに基づき磁気転写工程を説明する。上記密着工程によりスレーブディスク10とマスターディスク20とを密着させたものについて、不図示の磁界印加手段により初期化磁界Hiの向きと反対方向に記録用磁界Hdを発生させる。記録用磁界Hdを発生させることにより生じた磁束がスレーブディスク10とマスターディスク20に進入することにより磁気転写が行われる。
【0064】
本実施形態では、記録用磁界Hdの大きさは、スレーブディスク10の磁性層16を構成する磁性材料の保持力Hcと略同じ値である。
【0065】
磁気転写は、スレーブディスク10及びマスターディスク20を密着させたものを不図示の回転手段により回転させつつ、磁界印加手段によって記録用磁界Hdを印加し、マスターディスク20に記録されている突起状のパターンからなる情報をスレーブディスク10の磁性層16に磁気転写する。なお、この構成以外にも、磁界印加手段を回転させる機構を設け、スレーブディスク10及びマスターディスク20に対し、相対的に回転させる手法であってもよい。
【0066】
磁気転写工程における、スレーブディスク10とマスターディスク20の断面の様子を図8に示す。図8に示されるように、凹凸パターンを有するマスターディスク20をスレーブディスク10が密着させた状態で、記録用磁界Hdを印加すると、磁束Gは、マスターディスク20の凸領域とスレーブディスク10が接触している領域では強く、記録用磁界Hdにより、マスターディスク20の磁性層48の磁化向きが記録用磁界Hdの方向に揃い、スレーブディスク10の磁性層16に磁気情報が転写される。一方、マスターディスク20の凹領域は、記録用磁界Hdの印加によって生じる磁束Gが凸領域に比べて弱く、スレーブディスク10の磁性層16の磁化向きが変わることはなく、初期磁化の状態を保ったままである。
【0067】
図9は、磁気転写に用いられる磁気転写装置について詳細に示したものである。磁気転写装置は、コア62にコイル63が巻きつけられた電磁石からなる磁界印加手段60を有するものであり、このコイル63に電流を流すことによりギャップ64において、密着させたマスターディスク20とスレーブディスク10の磁性層16に対し垂直に磁界を発生する構造になっている。発生する磁界の向きは、コイル63に流す電流の向きによって変えることができる。従って、この磁気転写装置によって、スレーブディスク10の初期磁化を行うことも、磁気転写を行うことも可能である。
【0068】
この磁気転写装置により初期磁化させた後、磁気転写を行う場合には、磁界印加手段60のコイル63に、初期磁化したときにコイル63に流した電流の向きと逆向きの電流を流す。これにより、初期磁化の際の磁化向きとは反対の向きに記録用磁界を発生させることができる。磁気転写は、スレーブディスク10及びマスターディスク20を密着させたものを回転させつつ、磁界印加手段60によって記録用磁界Hdを印加し、マスターディスク20に記録されている突起状のパターンからなる情報をスレーブディスク10の磁性層16に磁気転写するため、不図示の回転手段が設けられている。なお、この構成以外にも、磁界印加手段60を回転させる機構を設け、スレーブディスク10及びマスターディスク20に対し、相対的に回転させる手法であってもよい。
【0069】
本実施形態では、記録用磁界Hdは、本実施の形態に用いられるスレーブディスク10の磁性層16の保磁力Hcの60〜130%、好ましくは、70〜120%の強度の磁界を印加することにより磁気転写を行う。
【0070】
これにより、スレーブディスク10の磁性層16には、サーボ信号等の磁気パターンの情報が、初期磁化Piの反対向きの磁化となる記録磁化Pdとして記録される(図10参照)。
【0071】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0072】
なお、本発明の実施に際して、マスターディスク20に形成された突起状のパターンは、図4(j)で説明したポジパターンと反対のネガパターンであってもよい。この場合、初期化磁界Hiの方向及び記録用磁界Hdの方向を各々逆方向にすることにより、スレーブディスク10の磁性層16に、同様の磁化パターンを磁気転写することができるからである。また、本実施の形態では、磁界印加手段は、電磁石の場合について説明したが、同様に磁界が発生する永久磁石を用いてもよい。
【0073】
なお、上述した本発明の実施形態に係る方法により製造された垂直磁気記録媒体は、例えば、ハードディスク装置等の磁気記録再生装置に組み込まれて使用される。これにより、サーボ精度が高く、良好な記録再生特性の高記録密度磁気記録再生装置を得ることができる。
【実施例】
【0074】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0075】
(実施例1)
<マスター担体の作製>
8インチのSi(シリコン)ウェハー(基板)上に、電子線レジストを、スピンコート法により、100nmの厚みで塗布した。塗布後、基板上の該レジストを、回転式電子線露光装置を用いて露光し、露光後の該レジストを現像して、凹凸パターンを有するレジストSi基板を作製した。
その後、該レジストをマスクとして用い、該基板に対して、反応性イオンエッチング処理を行い、凹凸パターンの凹部を掘り下げた。該エッチング処理後、該基板上に残存するレジストを可溶溶剤で洗浄し、除去した。除去後、該基板を乾燥したものを、マスター担体を調製するための原盤とした。
【0076】
<メッキ法によるマスター担体中間体作製>
上記原盤上に、スパッタ法を用いてNi(ニッケル)導電性膜を20nm形成した。該導電性膜を形成した後の原盤を、スルファミン酸Ni浴に浸漬し、電解メッキにより、200μmの厚みのNi膜を形成した。その後、原盤よりNi膜を引き剥がし、洗浄して、Ni製のマスター担体中間体を得た。
【0077】
<磁気転写用磁性層形成方法>
上記Ni製のマスター担体中間体を、所定のチャンバーにセットし、該Ni製のマスター担体中間体の凸部の先端面に、成膜圧力(Arガスの圧力)0.3Pa、Ni製のマスター担体中間体−ターゲット間距離200mm、DCパワー1,000Wの条件下で、スパッタリング法により、Ta下地層を10nm形成した。Ta下地層を形成した後、成膜圧力(Arガスの圧力)0.3Pa、Ni製のマスター担体中間体−ターゲット間距離200mm、DCパワー1,000Wの条件下で、CoPt膜(Co92at%Pt8at%)の磁性層を40nm形成して、マスター担体を得た。このマスター担体の磁性層の磁気異方性エネルギーは、1.2×106erg/cm3であり、飽和磁化は1,280(emu/cc)であった。なお、これらの測定方法は後述する。
なお、本実施例1で作製したマスター担体には、垂直磁気記録媒体に転写された磁気信号の信号線幅が所定の幅(例えば、100nm)となるような凹凸パターンが形成されている。
具体的には、以下のような凹凸パターンが形成されたマスター担体を作製した。
凹凸パターンの周期が狙いとする信号線幅の2倍の長さとして、円盤状であるマスター担体の内側から外側に向かって除々に太くなるような線状パターンを配置した。この時、際内周での信号線幅は50nm、中周での信号線幅は100nm、最外周での信号線幅は150nmとなるようにした。線状パターンの本数は100本を1セクタとし、周方向に均等な間隔で150セクタ分配置した。
【0078】
<垂直磁気記録媒体の作製>
2.5インチのガラス基板上に、スパッタリング法を用いて、軟磁性層、第1非磁性配向層、第2非磁性配向層、磁気記録層及び保護層を、この順に形成した。更に、該保護層の上に、ディップ法により潤滑剤層を形成した。
軟磁性層の材料として、CoZrNbを用いた。該軟磁性層の厚みは、100nmであった。ガラス基板をCoZrNbターゲットと対向させて配置し、Arガスを0.6Pa圧になるように流入させ、DC1500Wで成膜した。
第1非磁性配向層としてTi:5nm、第2非磁性配向層としてRu:6nmを形成した。
第1非磁性配向層は、Tiターゲットと対向配置し、Arガスを0.5Pa圧になるように流入し、DC1,000Wで放電し、5nmの厚さになるように、Tiシード層を成膜した。第1非磁性配向層形成後にRuターゲットと対向させて配置し、Arガスを0.8Pa圧になるように流入させ、DC900Wで放電し、6nmの厚さになるように第2非磁性配向層を成膜した。
磁気記録層として、CoCrPtO:18nmを形成した。CoCrPtOターゲットと対向させて配置し、O2を0.06%を含むArガスを14Pa圧になるように流入させ、DC290Wで放電し磁気記録層を作製した。
磁気記録層を形成した後に、C(カーボン)ターゲットと対向させて配置し、Arガスを0.5Pa圧になるように流入させ、DC1000Wで放電し、C保護層(4nm)を形成した。この記録媒体の保磁力は、334kA/m(4.2kOe)とした。
更に、該媒体にディップ法により、PFPE潤滑剤を2nmの厚さで塗布した。
以上のようにして、垂直磁気記録媒体を作製した。
【0079】
<初期磁化工程>
上記垂直磁気記録媒体に対して、初期化を行った。初期化の際に印加する磁界の強度(初期磁界強度)は10kOeであった。
【0080】
<密着工程、磁気転写工程>
初期化済み垂直磁気記録媒体に対して、上記マスター担体を対向して配置し、これらを0.7MPaの圧力にて密着させた。互いに密着した状態で、磁界を印加して、磁気転写を行った。磁気転写に用いた磁界強度は4.6kOeであり、磁界印加終了後、マスター担体を、垂直磁気記録媒体から剥離した。
【0081】
<評価>
下記に示す評価を行った。
なお、実施例1では、転写された磁気信号の信号線幅が100nmとなる垂直磁気記録媒体部分について、信号品位(信号出力、出力バラツキ)の評価を行った。
なお、垂直磁気記録媒体に転写された磁気信号の信号線幅は、磁気力顕微鏡(日本ビーコ社製 NanoscopeIV)を用いて測定した磁気信号の像から算出した。
【0082】
<<磁性層の磁気異方性エネルギーの測定>>
実施例1のマスター担体の下地層及び磁性層と同じものを、実施例1と同じ条件で、ガラス基板(2.5インチ)上に形成した。該ガラス基板上に形成された試料を、6mm×8mmのサイズに切り出し、その切り出された試料を、磁気異方性トルク計(東英工業社製 TRT−2型)を用いて、磁気異方性エネルギーを求めた。
【0083】
<<磁性層の飽和磁化の測定>>
上記磁気異方性エネルギーを測定した試料を、振動試料型磁力計(東英工業社製 VSM−C7)を用いて、磁化曲線を作成した。該磁化曲線から飽和磁化値(emu)を求めた。
また、該試料を用いて、下地層及び磁性層の厚みを、原子間力顕微鏡(日本ビーコ社製、Dimension5000)で測定した。
上記飽和磁化値を、磁性層(試料)の体積で割り、体積当たりの飽和磁化(emu/cc)とした。
【0084】
<<磁性層の膜厚の測定>>
マスター担体の磁性層の膜厚の測定を原子間力顕微鏡(日本ビーコ社製、Dimension5000)で行った。
【0085】
<<サーボ信号品位>>
<<<信号出力>>>
磁気転写後の垂直磁気記録媒体に対して、マスター担体の線状パターン部によって記録された信号の再生出力を全セクタ分検出した。該検出には、リード巾100nmのGMRヘッドを装着した評価装置(協同電子社製 LS−90)を用いた。信号線幅が100nmとなっている半径位置を測定し、150セクタ分の全平均S/N(PS/N)を算出した。また、信号線幅が150nmとなる半径位置を測定し、参照用のS/N(HS/N)を算出した。(PS/N)/(HS/N)の比率を求め、この比率が80%以上であれば非常に良い(◎)と判断し、60%以上80%未満であれば、良い(〇)と判断し、40%以上60%未満であれば、やや悪い(△)と判断し、40%未満であれば、悪い(×)と判断した。
【0086】
<<<凸部側出力バラツキ>>>
凸部側出力バラツキを以下のように評価した。
ここで、凸部側出力とは、垂直磁気記録媒体において、初期磁化状態から磁気転写により反対方向に磁化反転した信号の強度(ゼロ基準)を示す。信号線幅100nmとなっている半径位置において、150セクタ分の再生出力から出力の標準偏差(σ)を求め、その値が、出力の10%未満であれば、非常に良い(◎)と判断し、10%以上20%未満であれば、良い(〇)と判断し、20%以上30%未満であれば、やや悪い(△)と判断し、30%以上であれば、悪い(×)と判断した。
【0087】
<<<凹部側出力バラツキ>>>
凹部側出力バラツキを以下のように評価した。
ここで、凹部側出力とは、垂直磁気記録媒体において、初期磁化状態から磁気転写後も初期磁化側に向いたままの信号の強度(ゼロ基準)を示す。信号線幅100nmとなっている半径位置において、150セクタ分の再生出力から出力の標準偏差(σ)を求め、その値が、出力の10%未満であれば、非常に良い(◎)と判断し、10%以上20%未満であれば、良い(〇)と判断し、20%以上30%未満であれば、やや悪い(△)と判断し、30%以上であれば、悪い(×)と判断した。
【0088】
(実施例2)
実施例1において、CoPt膜(Co92at%Pt8at%)の磁性層を形成する代わりに、CoCr膜(Co90at%Cr10at%)の磁性層を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で、マスター担体を作製した。このマスター担体の磁性層の磁気異方性エネルギーは、3.4×106erg/cm3であり、飽和磁化は1,090(emu/cc)であった。
【0089】
(実施例3)
実施例2において、厚み40nmのCoCr膜(Co90at%Cr10at%)の磁性層を形成する代わりに、厚み50nmのCoCr膜(Co90at%Cr10at%)の磁性層を形成したこと以外は、実施例2と同様の方法で、マスター担体を作製した。このマスター担体の磁性層の磁気異方性エネルギーは、3.4×106erg/cm3であり、飽和磁化は1,090(emu/cc)であった。
【0090】
(実施例4)
実施例2において、厚み40nmのCoCr膜(Co90at%Cr10at%)の磁性層を形成する代わりに、厚み60nmのCoCr膜(Co90at%Cr10at%)の磁性層を形成したこと以外は、実施例2と同様のマスター担体を作製した。このマスター担体の磁性層の磁気異方性エネルギーは、3.4×106erg/cm3であり、飽和磁化は1,090(emu/cc)であった。
【0091】
(実施例5)
実施例1において、CoPt膜(Co92at%Pt8at%)の磁性層を形成する代わりに、CoCr膜(Co85at%Cr15at%)の磁性層を形成したこと以外は、実施例1と同様のマスター担体を作製した。このマスター担体の磁性層の磁気異方性エネルギーは、2.5×106erg/cm3であり、飽和磁化は860(emu/cc)であった。
【0092】
(実施例6)
実施例5において、Ta膜の成膜圧力及びCoCr膜(Co85at%Cr15at%)の成膜圧力を0.3Paから7.0Paに変えたこと以外は、実施例5と同様のマスター担体を作製した。このマスター担体の磁性層の磁気異方性エネルギーは、1.8×106erg/cm3であり、飽和磁化は570(emu/cc)であった。
【0093】
(実施例7)
実施例1において、CoPt膜(Co92at%Pt8at%)の磁性層を形成する代わりに、FeCo膜(Fe50%Co50at%)の磁性層を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で、マスター担体を作製した。このマスター担体の磁性層の磁気異方性エネルギーは、4.0×105erg/cm3であり、飽和磁化は1,600(emu/cc)であった。
【0094】
(実施例8)
実施例1において、CoPt膜(Co92at%Pt8at%)の磁性層を形成する代わりに、Co膜の磁性層を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で、マスター担体を作製した。このマスター担体の磁性層の磁気異方性エネルギーは、8.0×105erg/cm3であり、飽和磁化は1,390(emu/cc)であった。
【0095】
(実施例9)
実施例1において、CoPt膜(Co92at%Pt8at%)の磁性層を形成する代わりに、CoPt膜(Co90at%Pt10at%)の磁性層を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で、マスター担体を作製した。このマスター担体の磁性層の磁気異方性エネルギーは、2.8×106erg/cm3であり、飽和磁化は1,250(emu/cc)であった。
【0096】
(実施例10)
実施例1において、厚み40nmのCoPt膜(Co92at%Pt8at%)の磁性層を形成する代わりに、厚み10nmのCoPt膜(Co92at%Pt8at%)の磁性層を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で、マスター担体を作製した。このマスター担体の磁性層の磁気異方性エネルギーは、1.2×106erg/cm3であり、飽和磁化は1,280(emu/cc)であった。
【0097】
(実施例11)
実施例1において、厚み40nmのCoPt膜(Co92at%Pt8at%)の磁性層を形成する代わりに、厚み15nmのCoPt膜(Co92at%Pt8at%)の磁性層を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で、マスター担体を作製した。このマスター担体の磁性層の磁気異方性エネルギーは、1.2×106erg/cm3であり、飽和磁化は1,280(emu/cc)であった。
【0098】
(実施例12)
実施例1において、厚み40nmのCoPt膜(Co92at%Pt8at%)の磁性層を形成する代わりに、厚み20nmのCoPt膜(Co92at%Pt8at%)の磁性層を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で、マスター担体を作製した。このマスター担体の磁性層の磁気異方性エネルギーは、1.2×106erg/cm3であり、飽和磁化は1,280(emu/cc)であった。
【0099】
(実施例13)
実施例1において、厚み40nmのCoPt膜(Co92at%Pt8at%)の磁性層を形成する代わりに、厚み30nmのCoPt膜(Co92at%Pt8at%)の磁性層を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で、マスター担体を作製した。このマスター担体の磁性層の磁気異方性エネルギーは、1.2×106erg/cm3であり、飽和磁化は1,280(emu/cc)であった。
【0100】
(比較例1)
実施例1において、CoPt膜(Co92at%Pt8at%)の磁性層を形成する代わりに、CoPt膜(Co88at%Pt12at%)の磁性層を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で、マスター担体を作製した。このマスター担体の磁性層の磁気異方性エネルギーは、5.2×106erg/cm3であり、飽和磁化は1,260(emu/cc)であった。
【0101】
(比較例2)
実施例1において、CoPt膜(Co92at%Pt8at%)の磁性層を形成する代わりに、CoPt膜(Co70at%Pt30at%)の磁性層を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で、マスター担体を作製した。このマスター担体の磁性層の磁気異方性エネルギーは、1.4×107erg/cm3であり、飽和磁化は1,190(emu/cc)であった。
【0102】
上記実施例2〜13及び比較例1〜2のマスター担体及びこのマスタ担体を用いて磁気転写された磁気記録媒体を、実施例1と同様の方法で、評価した。評価結果を表1に示す。
【0103】
【表1】
【0104】
実施例のマスター担体により磁気転写された垂直磁気記録媒体は、凸部側出力バラツキの評価結果が、比較例のマスター担体により磁気転写された垂直磁気記録媒体よりも優れていることが確かめられた。これは、マスター担体凸部の磁性層の磁気異方性エネルギーを弱めることで、該磁性層の残留磁化が弱まり、転写信号の乱れが小さくなったことを示している。
【符号の説明】
【0105】
10 スレーブディスク(垂直磁気記録媒体)
20 マスターディスク(磁気転写用マスター担体)
12 基板
13 軟磁性層
16 磁性層
60 磁界印加手段
62 コア
63 コイル
80 磁界印加装置
202,212 基材
204,214 磁性層
206 凸部
207 凹部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直磁気記録方式の磁気記録媒体上に配置され、磁場を印加して該磁気記録媒体に磁気情報を転写するために用いられる磁気転写用マスター担体であって、
転写用磁気情報に対応した磁性層が形成された転写部と、
該磁性層を有する転写部に対して相対的に低い凹形状を成す非転写部と、を備え、
該磁性層は垂直磁気異方性を有し、該磁性層の磁気異方性エネルギーが4×106erg/cm3未満であることを特徴とする磁気転写用マスター担体。
【請求項2】
磁性層は、膜厚が50nm未満である請求項1に記載の磁気転写用マスター担体。
【請求項3】
磁性層の飽和磁化(Ms)が600emu/cc以上である請求項1から2のいずれかに記載の磁気転写用マスター担体。
【請求項4】
垂直磁気記録媒体を、垂直方向に初期磁化させる初期磁化工程と、
前記初期磁化工程後の垂直磁気記録媒体に対して、請求項1から3のいずれかに記載の磁気転写用マスター担体を密着させる密着工程と、
前記垂直磁気記録媒体と前記磁気転写用マスター担体とを密着させた状態で、前記初期磁化と逆方向の垂直磁界を印加し、前記垂直磁気記録媒体に磁気情報を転写する工程と、を含むことを特徴とする磁気転写方法。
【請求項1】
垂直磁気記録方式の磁気記録媒体上に配置され、磁場を印加して該磁気記録媒体に磁気情報を転写するために用いられる磁気転写用マスター担体であって、
転写用磁気情報に対応した磁性層が形成された転写部と、
該磁性層を有する転写部に対して相対的に低い凹形状を成す非転写部と、を備え、
該磁性層は垂直磁気異方性を有し、該磁性層の磁気異方性エネルギーが4×106erg/cm3未満であることを特徴とする磁気転写用マスター担体。
【請求項2】
磁性層は、膜厚が50nm未満である請求項1に記載の磁気転写用マスター担体。
【請求項3】
磁性層の飽和磁化(Ms)が600emu/cc以上である請求項1から2のいずれかに記載の磁気転写用マスター担体。
【請求項4】
垂直磁気記録媒体を、垂直方向に初期磁化させる初期磁化工程と、
前記初期磁化工程後の垂直磁気記録媒体に対して、請求項1から3のいずれかに記載の磁気転写用マスター担体を密着させる密着工程と、
前記垂直磁気記録媒体と前記磁気転写用マスター担体とを密着させた状態で、前記初期磁化と逆方向の垂直磁界を印加し、前記垂直磁気記録媒体に磁気情報を転写する工程と、を含むことを特徴とする磁気転写方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【公開番号】特開2010−108586(P2010−108586A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221252(P2009−221252)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
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