磁気転写用マスター担体、磁気転写方法、及び垂直磁気記録媒体
【課題】凸部の中央部分にも磁束を集中させることができ、もって垂直記録媒体の再生信号(転写信号)における信号凹みを低減することができる磁気転写用マスター担体等の提供。
【解決手段】本発明の磁気転写用マスター担体は、円盤状の基板と、前記基板上に形成された磁性層とを備える磁気転写用マスター担体において、垂直磁気記録媒体に記録すべき情報に応じ、且つ、少なくとも表面に前記磁性層を有する凸部が形成され、前記凸部に溝が形成され、前記凸部の円周方向の幅WLと前記溝の円周方向の幅WGとが、0.1≦WG/WL≦0.5を満たすことを特徴とする。
【解決手段】本発明の磁気転写用マスター担体は、円盤状の基板と、前記基板上に形成された磁性層とを備える磁気転写用マスター担体において、垂直磁気記録媒体に記録すべき情報に応じ、且つ、少なくとも表面に前記磁性層を有する凸部が形成され、前記凸部に溝が形成され、前記凸部の円周方向の幅WLと前記溝の円周方向の幅WGとが、0.1≦WG/WL≦0.5を満たすことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録媒体に情報を磁気転写する磁気転写用マスター担体、該磁気転写用マスター担体を用いた磁気転写方法、及び該磁気転写マスター担体を用いて磁気転写された垂直磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
情報を高密度で記録可能な磁気記録媒体として、垂直磁気記録方式の磁気記録媒体(以下、垂直磁気記録媒体)が知られている。この垂直磁気記録媒体の情報記録領域は、狭トラックで構成されている。そのため、垂直磁気記録媒体では、狭いトラック幅において正確に磁気ヘッドを走査し、高いS/N比で信号を再生するためのトラッキングサーボ技術が重要となる。このトラッキングサーボを行うためには、トラッキング用のサーボ信号、アドレス情報信号、再生クロック信号等のサーボ情報を、所定間隔で垂直磁気記録媒体に、いわゆるプリフォーマットとして記録しておく必要がある。
【0003】
垂直磁気記録媒体に、サーボ情報をプリフォーマットする方法としては、例えば、サーボ情報に対応した、表面に磁性層を有する複数の凸部からなるパターンが形成されたマスター担体を、該垂直磁気記録媒体に密着させた状態で、記録用磁界を印加し、該マスター担体のパターンに対応するサーボ情報を、該垂直磁気記録媒体に磁気転写する方法がある(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0004】
前記方法において、垂直磁気記録媒体に前記マスター担体を密着させた状態で記録用磁界が印加されると、前記マスター担体の磁化状態に基づいて、磁束がパターン状に配置する磁性層に吸収される。その結果、前記記録用磁界は、前記マスター担体のパターンに対応して強められる。このパターン状に強められた磁界によって、垂直磁気記録媒体の所定箇所のみが磁化される。このようにして、該マスター担体のパターンに対応するサーボ情報が、該垂直磁気記録媒体に磁気転写される。
【0005】
また、円盤状の基板表面に、垂直磁気記録媒体に転写すべき情報に応じた複数の突起状磁性層パターン(凸部)を垂直磁気転写用マスター担体に形成し、前記突起状磁性層パターン(凸部)の円周方向の幅Lと、前記突起状磁性層パターン(凸部)同士の円周方向の間隔Sとの比L/Sをコントロールすることで、垂直磁気記録媒体に対して良好な磁気転写を行う方法がある(例えば、特許文献4)。
【0006】
しかしながら、前記突起状磁性層パターン(凸部)の円周方向の幅Lが大きくなると、前記突起状磁性層パターン(凸部)の中央にて転写磁束が不足し、垂直磁気記録媒体(スレーブディスク)の再生信号(転写信号)において信号凹み(例えば、図5)が生じてしまうという問題があった。この信号凹みは、図12に示すように、磁束が前記突起状磁性層パターン(凸部)のエッジ部分に集中しやすいこと、及び、エッジ部分に集中した磁束の流れは、基板からの法線方向に対して所定の角度を有している(斜めである)ため、前記突起状磁性層パターン(凸部)のエッジ部分付近のみが局所的に強く磁化反転することに起因するものと考えられる。
【0007】
【特許文献1】特開2003−203325号公報
【特許文献2】特開2000−195048号公報
【特許文献3】米国特許第7218465号明細書
【特許文献4】特開2007−242165号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、凸部の中央部分にも磁束を集中させることができ、もって垂直記録媒体の再生信号(転写信号)における信号凹みを低減することができる信号磁気転写用マスター担体、該磁気転写用マスター担体を用いた磁気転写方法、及び該磁気転写用マスター担体を用いて磁気転写された垂直磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、
<1> 円盤状の基板と、前記基板上に形成された磁性層とを備える磁気転写用マスター担体において、垂直磁気記録媒体に記録すべき情報に応じ、且つ、少なくとも表面に前記磁性層を有する凸部が形成され、前記凸部に溝が形成され、前記凸部の円周方向の幅WLと前記溝の円周方向の幅WGとが、0.1≦WG/WL≦0.5を満たすことを特徴とする磁気転写用マスター担体である。
<2> 溝の深さが、凸部の高さ以下である前記<1>に記載の磁気転写用マスター担体である。
<3> 溝に非磁性材料が充填された前記<1>から<2>のいずれかに記載の磁気転写用マスター担体である。
<4> 磁界を印加して、垂直磁気記録媒体を初期磁化する初期磁化工程と、初期磁化された垂直磁気記録媒体に、前記<1>から<3>のいずれかに記載の磁気転写用マスター担体を密着させる密着工程と、該垂直磁気記録媒体と該磁気転写用マスター担体とを密着させた状態で、初期磁化工程において印加した磁界と逆向きの記録用磁界を印加して、該垂直磁気記録媒体に情報を記録する磁気転写工程と、を含むことを特徴とする磁気転写方法である。
<5> 前記<4>に記載の磁気転写方法を用いて磁気転写されたことを特徴とする垂直磁気記録媒体である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決することができ、凸部の中央部分にも磁束を集中させることができ、もって垂直記録媒体の再生信号(転写信号)における信号凹みを低減することができる磁気転写用マスター担体、該磁気転写用マスター担体を用いた磁気転写方法、及び該磁気転写用マスター担体を用いて磁気転写された垂直磁気記録媒体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面に従って、本発明に係る磁気転写用マスター担体、磁気転写方法、垂直磁気記録媒体の好ましい実施の形態について詳説する。
【0012】
(磁気転写用マスター担体)
本発明の磁気転写用マスター担体は、円盤状の基板と、前記基板上に形成され、垂直磁気記録媒体に記録すべき情報に応じた磁性層とを有してなり、凸部が形成されている。
【0013】
例えば、図1に示されるように、磁気転写用マスター担体としてのマスターディスク46は円盤状に形成されており、マスターディスク46の径方向中周部分(マスターディスク46の内周部分46dと外周部分46eを除いた部分)には、円周方向に、ハッチングで示されるサーボ領域46bと非サーボ領域46c(非ハッチング部分)とが交互に形成されている。
【0014】
サーボ領域46bは、磁気パターン(サーボ情報パターン)が形成されている領域であり、非サーボ領域46cは、磁気パターン(サーボ情報パターン)が形成されていない領域である。
【0015】
<基板>
前記基板としては、円盤状である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。前記基板の材料としては、例えば、ニッケル、シリコン、石英ガラス等各種組成のガラス、アルミニウム、合金、各種組成のセラミックス、合成樹脂等が挙げられる。但し、前記基板の材料が合成樹脂の場合には、後述するリフトオフ工程でのレジスト剥離液で変質しない材質とするか、レジスト剥離液で変質しないような工夫(たとえば、保護コート)をする必要がある。
【0016】
なお、前記基板は、内径を有する円環状(ドーナツ状)であってもよく、内径を有しない円盤状のものであってもよい。
例えば、図2に示すように、基板47の片面に磁性層48が形成された転写情報担持面が形成されており、基板47の反対側の面が不図示の密着手段に保持されるようになっている。このマスターディスク46の片面(転写情報担持面)は、後述する垂直磁気記録媒体としてのスレーブディスク40と密着される面である。
【0017】
基板47表面に凹凸パターンを形成する場合(後述する図3A及び図3B)において、前記凹凸パターンの形成は、フォトファブリケーション法や、フォトファブリケーション法等で形成した原盤によるスタンパー法等によって行える。
【0018】
スタンパー法における原盤の形成は、例えば、以下のように行える。表面が平滑なガラス板(又は石英ガラス板)の上にスピンコート法等によりフォトレジストの層を形成し、プレベーク後に、このガラス板を回転させながら、サーボ信号に対応して変調したレーザー光(又は電子ビーム)を照射し、フォトレジスト層の略全面に所定のパターン、例えば各トラックに回転中心から半径方向に線状に延びるサーボ信号に相当するパターンを円周上の各フレームに対応する部分に露光する。
【0019】
その後、フォトレジストの層を現像処理し、露光部分が除去されたフォトレジストの層により形成された凹凸形状を有するガラス原盤を得る。次いで、ガラス原盤の表面の凹凸パターンを基に、この表面にメッキ(電鋳)を施し所定厚さまで形成することにより、表面にポジ状の凹凸パターンを有するNi基板を作成する。そして、この基板をガラス原盤から剥離する。
【0020】
この基板をそのままプレス原盤とするか、凹凸パターン上に必要に応じて軟磁性層、保護膜等を被覆してプレス原盤とする。
【0021】
また、ガラス原盤にメッキを施して、電鋳により第2の原盤を作成し、この第2の原盤に更にメッキを施して、電鋳によりネガ状凹凸パターンを有する反転原盤を作製してもよい。更に、第2の原盤にメッキを施して電鋳を行うか、低粘度の樹脂を押し付けて硬化させるかした、第3の原盤を作成し、第3の原盤にメッキを施して電鋳を行い、ポジ状凹凸パターンを有する基板を作成してもよい。
【0022】
一方、フォトファブリケーション法における原盤の形成は、例えば、以下のように行える。平板状の基板の平滑な表面にスピンコート法等によりフォトレジストの層を形成し、プレベーク後に、この基板を回転させながら、サーボ信号に対応して変調したレーザー光(又は電子ビーム)を照射し、フォトレジスト層の略全面に所定のパターン、例えば各トラックに回転中心から半径方向に線状に延びるサーボ信号に相当するパターンを円周上の各フレームに対応する部分に露光する。
【0023】
その後、フォトレジストの層を現像処理し、露光部分が除去されたフォトレジストの層により形成された凹凸形状を有する基板を得る。現像処理後の基板をポストベークし、フォトレジストの層の基板への付着力を増大させる。
【0024】
次いで、エッチング工程により、基板のエッチングを行い、凹凸パターンに相当する深さの穴を形成する。次いで、フォトレジストを除去し、表面を研磨して、バリがある場合には、これを取り除くとともに、表面を平滑化する。これにより、凹凸形状を有する原盤を得る。
【0025】
次いで、原盤の表面の凹凸パターン表面に導電層を付与した後、メッキ(電鋳)を施し、所定厚さまで形成することにより、表面にネガ状の凹凸パターンを有するNi基板を作製する。そして、この基板を原盤から剥離する。
【0026】
基板や電鋳による原盤の材料としては、金属ではNi又はNi合金を使用することができる。この基板を作成するメッキ法としては、無電解メッキ、電鋳、スパッタリング、イオンプレーティングを含む各種の金属成膜法等が適用できる。
【0027】
<磁性層>
前記磁性層としては、基板上に形成されている限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。
【0028】
前記磁性層に用いられる磁性材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択でき、例えば、Co、Co合金(CoNi、CoNiZr、CoNbTaZr等)、Fe、Fe合金(FeCo、FeCoNi、FeNiMo、FeAlSi、FeAl、FeTaN)、Ni、Ni合金(NiFe)を挙げることができ、中でも、FeCo、FeCoNiが好ましい。
【0029】
例えば、図2に示すように、磁性層48は、基板47上に形成されている。また、マスターディスク46の表面には、垂直磁気記録媒体に記録すべき情報に応じた凸部48aが形成されている。ここで、磁性層48は、例えば、図3Aに示すように、基板47に形成された突起上のみに形成されていてもよく、また、図3Bに示すように、基板47の全表面に形成されていてもよく、図3Cに示すように、平坦な基板47の表面に凸部状パターンとして形成されていてもよい。
【0030】
マスターディスク46において、基板47がNi等を主体とした強磁性体の場合には、この基板47が磁性層48として機能するので、基板47のみで磁気転写が可能であり、新たに磁性層48を形成しなくてもよいが、転写特性のよい磁性層48を設けることにより、より良好な磁気転写が行える。基板47が非磁性体の場合には、磁性層48を設けることが必要である。マスターディスク46の磁性層48は、保磁力Hcが48kA/m(≒600Oe)以下の軟磁性層であることが好ましい。
【0031】
<<凸部>>
前記凸部としては、少なくとも表面に磁性層48を有し、溝が形成されたものである限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。例えば、図4に示すように、溝50は、凸部48aの中心軸Aに対して対称となるように凸部48aに形成されていることが好ましいが、これに限定されるものではなく、凸部48aを分断してエッジ48bへの磁束収束を防止することができるものであれば(図4)、凸部48aのいずれの位置に形成されていてもよい。
また、図4に示すように、凸部48aの円周方向の幅WLと溝50の円周方向の幅WGとは、0.1≦WG/WL≦0.5を満たす。
なお、WG/WLの範囲(0.1≦WG/WL≦0.5)は、比(WG/WL)と比(HG/HL)との関係を統計的に分析して得られた3σの値に基づくものである。ここで、HGは、凸部48aが形成されたマスターディスク46を用いて磁気転写された垂直磁気記録媒体の再生信号(転写信号)における波形凹みの半値幅であり、HLは、凸部48aが形成されたマスターディスク46を用いて磁気転写された垂直磁気記録媒体の再生信号(転写信号)における凸部48aに対応する波形の半値幅である(図5)。
また、溝50の深さは、円周方向の幅WGの中心点で、凸部48aの高さt以下であることが好ましい。
また、溝50には、SiO2、カーボン、アルミナ;ポリメタアクリル酸メチル(PMMA)、ポリスチレン(PS)等のポリマー;円滑油等の非磁性材料が充填されていてもよい。
【0032】
また、図2に示すように、凸部48aは、平面視で長方形であり、高さがtであり、トラック方向(図中の太矢印方向)の長さがbであり、半径方向の長さがlである。この長さbとlの最適値は、記録密度や記録信号波形等により異なるが、例えば、長さbを80nmに、長さlを200nmにできる。
【0033】
また、凸部48aは、半径方向に長く形成される。この場合、例えば、半径方向の長さlが0.03〜20μm、トラック方向(円周方向)の長さbが0.05〜5μmであることが好ましい。この範囲で半径方向の方が長いパターンを選ぶことが、サーボ信号の情報を担持するパターンとしては好ましい。
【0034】
凸部48aの段差tは、30〜150nmの範囲が好ましく、磁性層48全体の厚さは、40〜250nmの範囲が好ましい。
【0035】
<<磁気転写用マスター担体の作製>>
【0036】
次に、本発明の磁気転写用マスター担体の作製について図6A〜図6Dにしたがって説明する。
【0037】
先ず、図6Aに示されるように、平坦な基板Bの平滑な表面にスピンコート法等によりフォトレジストの層を形成し、プレベーク後に、この基板を回転させながら、サーボ信号に対応して変調したレーザー光(又は電子ビーム)を照射し、フォトレジスト層の略全面に所定のパターン、例えば各トラックに回転中心から半径方向に線状に延びるサーボ信号に相当するパターンを円周上の各フレームに対応する部分に露光する。
【0038】
その後、フォトレジストの層を現像処理し、露光部分が除去されたフォトレジストの層R、Rにより形成された凹凸形状を有する基板を得る。現像処理後の基板をポストベークし、フォトレジストの層R、Rの基板への付着力を増大させる。なお、通常の工程では、ここにRIEによるエッチング工程が入るが、図示及び詳細な説明を省略する。
【0039】
次いで、図6Bに示されるように、基板Bの表面(上面)に磁性材料を堆積させ、磁性層48を形成する。磁性層48(軟磁性層)の形成は、磁性材料を真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の真空成膜手段、メッキ法などにより成膜する。
【0040】
次いで、図6Cに示されるように、磁性層48の裏面(上面)にメッキ法などにより基板材料を所定厚さに堆積させ、所定の機械的強度を有する基板47を形成する。基板47の材質としては、Ni又はNi合金が好ましく、基板47の厚さは、150μm程度が好ましい。これによりマスターディスク46が形成される。
【0041】
次いで、図6Dに示されるように、マスターディスク46を基板Bより剥離する。
【0042】
なお、マスターディスク46の磁性層48の上にダイヤモンドライクカーボン等の保護膜を設けることが好ましく、保護膜の上に更に潤滑剤層を設けてもよい。この場合、保護膜として厚さが5〜30nmのスパッタカーボン膜と潤滑剤層とする構成が好ましい。また、磁性層48と保護膜との間に、Si等の密着強化層を設けてもよい。潤滑剤は、後述する垂直磁気記録媒体(スレーブディスク)との接触過程で生じるずれを補正する際の、摩擦による傷の発生などの耐久性の劣化を改善する効果を有する。
【0043】
(垂直磁気記録媒体)
次に、本発明の垂直磁気記録媒体としての被転写用ディスクであるスレーブディスク40について説明する。スレーブディスクは、両面又は片面に磁気記録層が形成されたハードディスク、フレキシブルディスク等の円盤状垂直磁気記録媒体であり、マスターディスク46に密着させる以前に、グライドヘッド、研磨体などにより表面の微小突起又は付着塵埃を除去するクリーニング処理(バーニッシィング等)が必要に応じて施される。また、スレーブディスク40には予め初期磁化が施される。この詳細は後述する。
【0044】
スレーブディスクとしては、ハードディスク、高密度フレキシブルディスク等の円盤状垂直磁気記録媒体が使用できる。スレーブディスクの磁気記録層(磁性層)には、塗布型磁気記録層、メッキ型磁気記録層、又は金属薄膜型磁気記録層が採用できる。
【0045】
金属薄膜型磁気記録層の磁性材料としては、Co合金(CoPtCr、CoCr、CoPtCrTa、CoPtCrNbTa、CoCrB、CoPt、CoPtCrO、CoPtCr−SiO2、CoPtCr−TiO2、CoPt−SiO2、CoPt−TiO2等)、FePtを用いることができる。これらは、磁束密度が大きいこと、磁界印加方向と同じ方向(垂直磁気記録の場合垂直方向)の磁気異方性を有していることより、明瞭な転写が行えるため好ましい。
【0046】
そして磁性材料の下(支持体側)に必要な磁気異方性を付与するために、非磁性の下地層を設けることが好ましい。この下地層には、結晶構造と格子定数を磁性層に合わすことが必要である。そのためには、Ti、Cr、CrTi、CoCr、CrTa、CrMo、NiAl、Ru、Pd等を用いることが好ましい。
【0047】
更に、磁気記録層の垂直磁化状態を安定化させ、また、記録再生時の感度を向上させるために、非磁性の下地層の下に、更に軟磁性層からなる裏打ち層を設けることが好ましい。更に、磁気記録層の上に、保護層及び潤滑剤層を設けることが好ましい。
【0048】
なお、磁気記録層の厚さは、10nm〜500nmであることが好ましく、15nm〜200nmであることがより好ましい。また、非磁性層の厚さは、10nm〜150nmであることが好ましく、20nm〜80nmであることがより好ましい。また、裏打ち層の厚さは、50nm〜2,000nmであることが好ましく、80nm〜400nmであることがより好ましい。また、潤滑剤層の厚さは、0.5nm〜3nmであることが好ましく、1nm〜2nmであることがより好ましい。また、保護層の厚さは、3nm〜20nmであることが好ましく、5nm〜10nmであることがより好ましい。
(磁気転写方法)
【0049】
本発明の磁気転写方法は、初期磁化工程と、密着工程と、磁気転写工程とを少なくとも含み、更に必要に応じて適宜選択した、その他の工程を含む。
【0050】
<初期磁化工程>
前記初期磁化工程は、磁界を印加して、垂直磁気記録媒体を初期磁化する工程である。
【0051】
<密着工程>
前記密着工程は、初期磁化された垂直磁気記録媒体に、本発明の磁気転写用マスター担体を密着させる密着工程である。
【0052】
<磁気転写工程>
前記磁気転写工程は、該垂直磁気記録媒体と該磁気転写用マスター担体とを密着させた状態で、初期磁化工程において印加した磁界と逆向きの記録用磁界を印加して、該垂直磁気記録媒体に情報を記録する工程である。
<その他の工程>
前記その他の工程としては、必要に応じて、前記磁性層48の凹部をSiO2、カーボン、アルミナ;ポリメタアクリル酸メチル(PMMA)、ポリスチレン(PS)等のポリマー;円滑油等の非磁性材料で埋める工程、表面を平坦化する工程、平坦化した表面にDLC(ダイヤモンドライクカーボン)等で保護膜を形成する工程、最後に潤滑剤を塗布する工程などが挙げられる。
【0053】
次に、本発明の磁気転写方法について、図7〜図9Cを用いて、具体的に説明する。
【0054】
磁気転写装置10において、磁気転写時には、図9Aに示される後述する初期直流磁化を行った後の、スレーブディスク40のスレーブ面(磁気記録面)を、マスターディスク46の情報担持面に接触させ、所定の押圧力で密着させることができるようになっている。そして、このスレーブディスク40とマスターディスク46との密着状態で、磁界生成手段30により転写用磁界を印加してサーボ信号等の磁化パターンを転写記録することができるようになっている。
【0055】
マスターディスク46による磁気転写は、図7に示されるように、スレーブディスク40の片面にマスターディスク46を密着させて片面に逐次転写を行う場合と、スレーブディスク40の両面にそれぞれマスターディスク46を密着させて両面で同時転写を行う場合とがある。なお、マスターディスク46には、スレーブディスク40と密着させる前に、付着した塵埃を除去するクリーニング処理が必要に応じて施される。
【0056】
転写用磁界を印加する磁界生成手段30は、密着手段に保持されたスレーブディスク40及びマスターディスク46の半径方向に延びるギャップ31を有するコア32にコイル33が巻き付けられた電磁石装置34が上側に配設されてなり、トラック方向に垂直な磁力線Gを有する転写用磁界を印加できるようになっている。
【0057】
磁界印加時には、スレーブディスク40及びマスターディスク46を一体に回転させつつ磁界生成手段30によって転写用磁界を印加し、マスターディスク46の転写情報をスレーブディスク40のスレーブ面に磁気的に転写記録できるように回転手段が設けられている。なお、この構成以外に、磁界生成手段30を回転移動させるように設ける構成も採用できる。
【0058】
図9Aは磁界を一方向に印加してスレーブディスク40を初期直流磁化する工程(初期磁化工程)を示し、図9Bはマスターディスク46とスレーブディスク40とを密着させて初期直流磁界とは反対方向に磁界を印加する工程(密着工程及び磁気転写工程)を示し、図9Cは磁気転写後の状態をそれぞれ示す。スレーブディスク40についてはその下側の磁気記録層40Bのみを示している。なお、各図は模式図であり各部の寸法は実際とは異なる比率で示している。
【0059】
図9Aに示されるように、予めスレーブディスク40に初期直流磁界Hinをトラック面に垂直な一方向に印加して磁気記録層40Bの磁化を初期直流磁化させておく。そして、図8及び図9Bに示されるように、スレーブディスク40の磁気記録層40B側の面とマスターディスク46の表面の磁性層48側の面とを密着させ、スレーブディスク40のトラック面に垂直な方向に、初期直流磁界Hinとは逆方向の転写用磁界Hduを印加して磁気転写を行う。
【0060】
その結果、図8及び図9Cに示されるように、スレーブディスク40の磁気記録層40Bにはマスターディスク46の凸部48aに応じた情報(例えばサーボ信号)が磁気的に転写記録される。
【0061】
図9A〜Cの説明では、スレーブディスク40の下側の磁気記録層40Bへの、下側のマスターディスク46による磁気転写について説明したが、スレーブディスク40の上側の磁気記録層についても、スレーブディスク40の上側にマスターディスク46を密着させて、下側の磁気記録層と同様にして、下側の磁気記録層と同時に磁気転写を行うこともできる。
【0062】
また、マスターディスク46の凹凸パターンが、図9Bのポジパターンと逆の凹凸形状のネガパターンの場合であっても、初期磁界Hinの方向および転写用磁界Hduの方向を上記と逆方向にすることによって、同様の情報を磁気的に転写記録することができる。
【0063】
なお、初期直流磁界および転写用磁界は、スレーブディスク40の保磁力、マスターディスク46およびスレーブディスク40の比透磁率等を勘案して定められた値を採用する必要がある。
【実施例】
【0064】
(実施例1)
(磁気転写用マスター担体の作製)
<原盤の作製>
8インチのSiウェハ(原板)上に、電子線レジストをスピンコート法により、100nmの厚みで塗布した。塗布後、該原板上の該レジストに対し、回転式電子線露光装置を用いて、サーボ情報等に対応させて変調した電子ビームを照射し、該レジストを露光した。その後、該レジストを現像し、未露光部分を除去して、該原板上に該レジストのパターンを形成した。
【0065】
次いで、パターン状の該レジストをマスクとして用い、該原板に対して反応性エッチング処理を行い、該レジストでマスクされていない箇所を掘り下げた。該エッチング処理後、該原板上に残存するレジストを溶剤で洗浄し、除去した。その後、該原板を乾燥させて、磁気転写用マスター担体を作製するための原盤を得た。
【0066】
<基板の作製>
前記原盤上に、Niからなる導電層(厚み:10nm)をスパッタリング法により、形成した。その後、該導電層を形成した原盤を母型として用い、電鋳法により、該原盤上に、Ni層を形成した。その後、Ni層を原盤から引き剥がし、該Ni層を洗浄等して、表面に溝を有する突起部を配設したNi基板を得た。
【0067】
<磁性層の作製>
次いで、前記Ni基板を、所定のチャンバー内にセットし、該Ni基板上に、磁性層としてのCoPt膜(Co80_Pt20at%)(厚み:20nm)を、スパッタリング法により、形成した。成膜条件は、以下の通りである。
<成膜条件>
成膜圧力=0.1Pa、Ni基板−ターゲット間距離=200mm、DCパワー=5000W/8inchφ(15.4W/cm2)。本条件は一例であり、必ずしもこれに限定されているわけではない。
【0068】
以上のようにして、溝を有する凸部が形成された磁気転写用マスター担体を作製した。この磁気転写用マスター担体は、ディスク回転数5,000rpmで50〜100MHzの復調信号を転写することができる。また、凸部の円周方向の幅WLと溝の円周方向の幅WGは、以下の通りである。なお、溝は、凸部の中心軸A(図4)に対して対称となるように形成されている。また、溝の深さは、凸部の高さの1倍であった。
【0069】
<凸部の円周方向の幅WLと溝の円周方向の幅WG>
WL=300nm
WG=80nm
WG/WL=0.289
【0070】
(垂直磁気記録媒体の作製)
2.5インチのガラス基板上に、以下に示す手順で各層を形成し、垂直磁気記録媒体を作製した。
作製した垂直磁気記録媒体は、第1の非磁性配向層、第1の軟磁性層、第2の非磁性配向層、第2の軟磁性層、第3の非磁性配向層、磁性層、保護層、及び潤滑剤層が順次形成されている。
なお、第1の非磁性配向層、第1の軟磁性層、第2の非磁性配向層、第2の軟磁性層、第3の非磁性配向層、磁性層、及び保護層は、スパッタリング法で形成し、潤滑剤層は、ディップ法で形成した。
【0071】
<第1の非磁性配向層の形成>
前記第1の非磁性配向層として、Ti膜を、4nmの厚みで形成した。
具体的には、前記ガラス基板を、Tiターゲットと対向させて配置し、圧力が0.1PaとなるようにArガスを流入させ、DCスパッタ成膜した。
【0072】
<第1の軟磁性層の形成>
前記第1の軟磁性層として、CoZrNb膜を、20nmの厚みで形成した。
具体的には、前記第1の非磁性配向層を形成した後のガラス基板を、CoZrNbターゲットと対向させて配置し、圧力が0.15PaとなるようにArガスを流入させ、DCスパッタ成膜した。
【0073】
<第2の非磁性配向層の形成>
前記第2の非磁性配向層として、Ru膜を、1nmの厚みで形成した。
具体的には、前記第1の軟磁性層を形成した後のガラス基板を、Ruターゲットと対向させて配置し、圧力が0.1PaとなるようにArガスを流入させ、DCスパッタ成膜した。
【0074】
<第2の軟磁性層の形成>
前記第2の軟磁性層として、CoZrNb膜を、15nmの厚みで形成した。
具体的には、前記第2の非磁性配向層を形成した後のガラス基板を、CoZrNbターゲットと対向させて配置し、圧力が0.15PaとなるようにArガスを流入させ、DCスパッタ成膜した。
【0075】
<第3の非磁性配向層の形成>
前記第2の非磁性配向層として、Ru膜を、10nmの厚みで形成した。
具体的には、前記第2の軟磁性層を形成した後のガラス基板を、Ruターゲットと対向させて配置し、圧力が0.1PaとなるようにArガスを流入させ、DCスパッタ成膜した。
【0076】
<磁性層の形成>
前記磁性層として、CoCrPtO膜を、25nmの厚みで形成した。
具体的には、前記第3の非磁性配向層を形成した後のガラス基板を、CoCrPtOターゲットと対向させて配置し、圧力が0.1PaとなるようにArガスを流入させ、DCスパッタ成膜した。
【0077】
<保護層の形成>
前記保護層として、C膜を、3nmの厚みで形成した。
具体的には、前記磁性層を形成した後のガラス基板を、Cターゲットと対向させて配置し、圧力が0.5PaとなるようにArガスを流入させ、DCスパッタ成膜した。
【0078】
<潤滑剤層の形成>
前記潤滑剤層として、PFPE潤滑剤からなる層を、1.5nmの厚みで形成した。
【0079】
前記垂直磁気記録媒体の保磁力は、358kA/m(4.5kOe)であった。
【0080】
<初期磁化工程>
前記垂直磁気記録媒体に磁界を印加して、該垂直磁気記録媒体の初期磁化を行なった。印加した磁界の強度は、10kOeである。
【0081】
<密着工程>
初期磁気化後の垂直磁気記録媒体に対し、前記磁気転写用マスター担体を、9kg/cm2の圧力で密着させた。
【0082】
<磁気転写工程>
前記垂直磁気記録媒体と、前記磁気転写用マスター担体とを密着させた状態で、記録磁界を印加した。該記録磁界の強度は、4.5kOeである。
その後、該記録磁界の印加を停止し、該磁気転写用マスター担体を、該垂直磁気記録媒体から分離した。
【0083】
<磁気転写された垂直磁気記録媒体の再生信号(転写信号)における(IL−ID)/ILの値>
磁気転写された垂直磁気記録媒体の再生信号(転写信号)を図10示す。
図10において、(IL−ID)/ILの値が約10%(0.1)であった。なお、ILは再生信号(転写信号)における凸部48aに対応する波形の強度であり、IDは再生信号(転写信号)における波形凹みの強度である(図5)。
【0084】
<IL、IDの測定方法>
再生信号はスピンスタンドを用いたGMRヘッドより取得した。予めID、ILを測定する信号の直前にトリガーとなる信号を設けておき、トリガーから一定時間ディレイを置いてID、IL出力を読み取る解析プログラムを使用して強度データを取得した。
【0085】
(実施例2)
(磁気転写用マスター担体及び垂直磁気記録媒体の作製)
実施例1において、凸部の円周方向の幅WLと溝の円周方向の幅WGとを以下の通りにした以外は、実施例1と同様にして、磁気転写用マスター担体を作製し、さらに、垂直磁気記録媒体を作製した。
【0086】
<凸部の円周方向の幅WLと溝の円周方向の幅WG>
WL=300nm
WG=30nm
WG/WL=0.1
【0087】
<磁気転写された垂直磁気記録媒体の再生信号(転写信号)における(IL−ID)/ILの値>
磁気転写された垂直磁気記録媒体の再生信号(転写信号)における(IL−ID)/ILの値は、10%(0.1)であった。なお、ILは再生信号(転写信号)における凸部48aに対応する波形の強度であり、IDは再生信号(転写信号)における波形凹みの強度である(図5)。
【0088】
<アドレスエラーレート>
また、磁気転写された垂直磁気記録媒体のアドレスエラーレートを下記のように測定したところ、4×10−6であった。
【0089】
<アドレスエラーレートの測定方法>
200MHz以上の周波数成分を除去した再生波形10,000周分を、スピンスタンドを用いてGMRヘッドで取得し、デコードプログラムを使用して解析した。これより求められた全フレーム数に対するアドレスエラーの数よりアドレスエラーレートを計算した。
【0090】
(実施例3)
(磁気転写用マスター担体及び垂直磁気記録媒体の作製)
実施例1において、凸部の円周方向の幅WLと溝の円周方向の幅WGとを以下の通りにした以外は、実施例1と同様にして、磁気転写用マスター担体を作製し、さらに、垂直磁気記録媒体を作製した。
【0091】
<凸部の円周方向の幅WLと溝の円周方向の幅WG>
WL=300nm
WG=45nm
WG/WL=0.15
【0092】
磁気転写された垂直磁気記録媒体の再生信号(転写信号)における(IL−ID)/ILの値は、約0%(0)であった。
【0093】
<アドレスエラーレート>
また、磁気転写された垂直磁気記録媒体のアドレスエラーレートを上記のように測定したところ、2×10−6であった。
【0094】
(実施例4)
(磁気転写用マスター担体及び垂直磁気記録媒体の作製)
実施例1において、凸部の円周方向の幅WLと溝の円周方向の幅WGとを以下の通りにした以外は、実施例1と同様にして、磁気転写用マスター担体を作製し、さらに、垂直磁気記録媒体を作製した。
【0095】
<凸部の円周方向の幅WLと溝の円周方向の幅WG>
WL=300nm
WG=60nm
WG/WL=0.20
【0096】
磁気転写された垂直磁気記録媒体の再生信号(転写信号)における(IL−ID)/ILの値は約0%(0)であった。
【0097】
<アドレスエラーレート>
また、磁気転写された垂直磁気記録媒体のアドレスエラーレートを上記のように測定したところ、1×10−6であった。
【0098】
(実施例5)
(磁気転写用マスター担体及び垂直磁気記録媒体の作製)
実施例1において、凸部の円周方向の幅WLと溝の円周方向の幅WGとを以下の通りにした以外は、実施例1と同様にして、磁気転写用マスター担体を作製し、さらに、垂直磁気記録媒体を作製した。
【0099】
<凸部の円周方向の幅WLと溝の円周方向の幅WG>
WL=300nm
WG=120nm
WG/WL=0.40
【0100】
磁気転写された垂直磁気記録媒体の再生信号(転写信号)における(IL−ID)/ILの値は約0%(0)であった。
【0101】
<アドレスエラーレート>
また、磁気転写された垂直磁気記録媒体のアドレスエラーレートを上記のように測定したところ、1×10−6であった。
【0102】
(実施例6)
(磁気転写用マスター担体及び垂直磁気記録媒体の作製)
実施例1において、凸部の円周方向の幅WLと溝の円周方向の幅WGとを以下の通りにした以外は、実施例1と同様にして、磁気転写用マスター担体を作製し、さらに、垂直磁気記録媒体を作製した。
【0103】
<凸部の円周方向の幅WLと溝の円周方向の幅WG>
WL=300nm
WG=150nm
WG/WL=0.50
【0104】
磁気転写された垂直磁気記録媒体の再生信号(転写信号)における(IL−ID)/ILの値は10%(0.1)であった。
【0105】
<アドレスエラーレート>
また、磁気転写された垂直磁気記録媒体のアドレスエラーレートを上記のように測定したところ、5×10−6であった。
【0106】
(比較例1)
(磁気転写用マスター担体及び垂直磁気記録媒体の作製)
実施例1において、表面に溝を有しない突起部を配設したNi基板上に磁性層を形成して、溝を有しない凸部が形成された磁気転写用マスター担体を作製した以外は、実施例1と同様にして、磁気転写用マスター担体を作製し、さらに、垂直磁気記録媒体を作製した。
【0107】
磁気転写された垂直磁気記録媒体の再生信号(転写信号)を図5示す。
図5において、(IL−ID)/ILの値が約40%(0.4)であった。
【0108】
<アドレスエラーレート>
また、磁気転写された垂直磁気記録媒体のアドレスエラーレートを上記のように測定したところ、7×10−3であった。
【0109】
(比較例2)
(磁気転写用マスター担体及び垂直磁気記録媒体の作製)
実施例1において、凸部の円周方向の幅WLと溝の円周方向の幅WGとを以下の通りにした以外は、実施例1と同様にして、磁気転写用マスター担体を作製し、さらに、垂直磁気記録媒体を作製した。
【0110】
<凸部の円周方向の幅WLと溝の円周方向の幅WG>
WL=300nm
WG=180nm
WG/WL=0.60
【0111】
磁気転写された垂直磁気記録媒体の再生信号(転写信号)における(IL−ID)/ILの値は30%(0.3)であった。
【0112】
<アドレスエラーレート>
また、磁気転写された垂直磁気記録媒体のアドレスエラーレートを上記のように測定したところ、8×10−4であった。
【0113】
(実験例1)
(磁気転写用マスター担体及び垂直磁気記録媒体の作製)
実施例1において、表面に溝を有しない突起部を配設したNi基板上に磁性層を形成して、溝を有しない凸部が形成され、凸部の円周方向の幅WLが70nm〜140nm磁気転写用マスター担体を作製した以外は、実施例1と同様にして、磁気転写用マスター担体を作製し、さらに、垂直磁気記録媒体を作製した。
円周方向の幅WLと磁気転写された垂直磁気記録媒体の再生信号(転写信号)における(IL−ID)/ILの値との関係を図11に示す。
図11から、凸部の円周方向の幅WLが80nm以上であると、垂直磁気記録媒体の再生信号(転写信号)における(IL−ID)/ILの値が正の値となり、垂直記録媒体の再生信号(転写信号)における信号凹みが発生することが判る。以上より、凸部の円周方向の幅WLが80nm以上である場合に、凸部に溝を形成することの意義が生じることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】図1は、本発明の磁気転写用マスター担体の平面図である。
【図2】図2は、本発明の磁気転写用マスター担体の表面に形成されたパターンを示す部分拡大斜視図である。
【図3A】図3Aは、本発明の磁気転写用マスター担体の部分拡大斜視図である(その1)。
【図3B】図3Bは、本発明の磁気転写用マスター担体の部分拡大斜視図である(その2)。
【図3C】図3Cは、本発明の磁気転写用マスター担体の部分拡大斜視図である(その3)。
【図4】図4は、本発明の磁気転写用マスター担体における凸部に形成された溝を説明するための図である。
【図5】図5は、従来の磁気転写用マスター担体を用いて磁気転写された垂直磁気記録媒体の再生信号(転写信号)を示すグラフである。
【図6A】図6Aは、本発明の磁気転写用マスター担体の形成方法を説明するための工程図である(その1)。
【図6B】図6Bは、本発明の磁気転写用マスター担体の形成方法を説明するための工程図である(その2)。
【図6C】図6Cは、本発明の磁気転写用マスター担体の形成方法を説明するための工程図である(その3)。
【図6D】図6Dは、本発明の磁気転写用マスター担体の形成方法を説明するための工程図である(その4)。
【図7】図7は、本発明の磁気転写方法を実施するための磁気転写装置の要部正面図である。
【図8】図8は、本発明の磁気転写方法の概要について説明するための工程図である。
【図9A】図9Aは、本発明の磁気転写方法における基本工程を説明するための工程図である(その1)。
【図9B】図9Bは、本発明の磁気転写方法における基本工程を説明するための工程図である(その2)。
【図9C】図9Cは、本発明の磁気転写方法における基本工程を説明するための工程図である(その3)。
【図10】図10は、本発明の磁気転写用マスター担体を用いて磁気転写された垂直磁気記録媒体の再生信号(転写信号)を示すグラフである。
【図11】図11は、凸部の円周方向の幅WLと、磁気転写された垂直磁気記録媒体の再生信号(転写信号)における(IL−ID)/ILの値との関係を示すグラフである。
【図12】図12は、従来の磁気転写用マスター担体を説明するための図である。
【符号の説明】
【0115】
10 磁気転写装置
30 磁界生成手段
31 ギャップ
32 コア
33 コイル
34 電磁石装置
40 スレーブディスク(垂直磁気記録媒体)
40B 磁気記録層
46 マスターディスク(磁気転写用マスター担体)
46b サーボ領域
46c 非サーボ領域
47 基板
48 磁性層
48a 凸部
50 溝
b 凸部の円周方向の幅
G 磁力線
l 凸部の径方向の幅
t 凸部の高さ
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録媒体に情報を磁気転写する磁気転写用マスター担体、該磁気転写用マスター担体を用いた磁気転写方法、及び該磁気転写マスター担体を用いて磁気転写された垂直磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
情報を高密度で記録可能な磁気記録媒体として、垂直磁気記録方式の磁気記録媒体(以下、垂直磁気記録媒体)が知られている。この垂直磁気記録媒体の情報記録領域は、狭トラックで構成されている。そのため、垂直磁気記録媒体では、狭いトラック幅において正確に磁気ヘッドを走査し、高いS/N比で信号を再生するためのトラッキングサーボ技術が重要となる。このトラッキングサーボを行うためには、トラッキング用のサーボ信号、アドレス情報信号、再生クロック信号等のサーボ情報を、所定間隔で垂直磁気記録媒体に、いわゆるプリフォーマットとして記録しておく必要がある。
【0003】
垂直磁気記録媒体に、サーボ情報をプリフォーマットする方法としては、例えば、サーボ情報に対応した、表面に磁性層を有する複数の凸部からなるパターンが形成されたマスター担体を、該垂直磁気記録媒体に密着させた状態で、記録用磁界を印加し、該マスター担体のパターンに対応するサーボ情報を、該垂直磁気記録媒体に磁気転写する方法がある(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0004】
前記方法において、垂直磁気記録媒体に前記マスター担体を密着させた状態で記録用磁界が印加されると、前記マスター担体の磁化状態に基づいて、磁束がパターン状に配置する磁性層に吸収される。その結果、前記記録用磁界は、前記マスター担体のパターンに対応して強められる。このパターン状に強められた磁界によって、垂直磁気記録媒体の所定箇所のみが磁化される。このようにして、該マスター担体のパターンに対応するサーボ情報が、該垂直磁気記録媒体に磁気転写される。
【0005】
また、円盤状の基板表面に、垂直磁気記録媒体に転写すべき情報に応じた複数の突起状磁性層パターン(凸部)を垂直磁気転写用マスター担体に形成し、前記突起状磁性層パターン(凸部)の円周方向の幅Lと、前記突起状磁性層パターン(凸部)同士の円周方向の間隔Sとの比L/Sをコントロールすることで、垂直磁気記録媒体に対して良好な磁気転写を行う方法がある(例えば、特許文献4)。
【0006】
しかしながら、前記突起状磁性層パターン(凸部)の円周方向の幅Lが大きくなると、前記突起状磁性層パターン(凸部)の中央にて転写磁束が不足し、垂直磁気記録媒体(スレーブディスク)の再生信号(転写信号)において信号凹み(例えば、図5)が生じてしまうという問題があった。この信号凹みは、図12に示すように、磁束が前記突起状磁性層パターン(凸部)のエッジ部分に集中しやすいこと、及び、エッジ部分に集中した磁束の流れは、基板からの法線方向に対して所定の角度を有している(斜めである)ため、前記突起状磁性層パターン(凸部)のエッジ部分付近のみが局所的に強く磁化反転することに起因するものと考えられる。
【0007】
【特許文献1】特開2003−203325号公報
【特許文献2】特開2000−195048号公報
【特許文献3】米国特許第7218465号明細書
【特許文献4】特開2007−242165号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、凸部の中央部分にも磁束を集中させることができ、もって垂直記録媒体の再生信号(転写信号)における信号凹みを低減することができる信号磁気転写用マスター担体、該磁気転写用マスター担体を用いた磁気転写方法、及び該磁気転写用マスター担体を用いて磁気転写された垂直磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、
<1> 円盤状の基板と、前記基板上に形成された磁性層とを備える磁気転写用マスター担体において、垂直磁気記録媒体に記録すべき情報に応じ、且つ、少なくとも表面に前記磁性層を有する凸部が形成され、前記凸部に溝が形成され、前記凸部の円周方向の幅WLと前記溝の円周方向の幅WGとが、0.1≦WG/WL≦0.5を満たすことを特徴とする磁気転写用マスター担体である。
<2> 溝の深さが、凸部の高さ以下である前記<1>に記載の磁気転写用マスター担体である。
<3> 溝に非磁性材料が充填された前記<1>から<2>のいずれかに記載の磁気転写用マスター担体である。
<4> 磁界を印加して、垂直磁気記録媒体を初期磁化する初期磁化工程と、初期磁化された垂直磁気記録媒体に、前記<1>から<3>のいずれかに記載の磁気転写用マスター担体を密着させる密着工程と、該垂直磁気記録媒体と該磁気転写用マスター担体とを密着させた状態で、初期磁化工程において印加した磁界と逆向きの記録用磁界を印加して、該垂直磁気記録媒体に情報を記録する磁気転写工程と、を含むことを特徴とする磁気転写方法である。
<5> 前記<4>に記載の磁気転写方法を用いて磁気転写されたことを特徴とする垂直磁気記録媒体である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決することができ、凸部の中央部分にも磁束を集中させることができ、もって垂直記録媒体の再生信号(転写信号)における信号凹みを低減することができる磁気転写用マスター担体、該磁気転写用マスター担体を用いた磁気転写方法、及び該磁気転写用マスター担体を用いて磁気転写された垂直磁気記録媒体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面に従って、本発明に係る磁気転写用マスター担体、磁気転写方法、垂直磁気記録媒体の好ましい実施の形態について詳説する。
【0012】
(磁気転写用マスター担体)
本発明の磁気転写用マスター担体は、円盤状の基板と、前記基板上に形成され、垂直磁気記録媒体に記録すべき情報に応じた磁性層とを有してなり、凸部が形成されている。
【0013】
例えば、図1に示されるように、磁気転写用マスター担体としてのマスターディスク46は円盤状に形成されており、マスターディスク46の径方向中周部分(マスターディスク46の内周部分46dと外周部分46eを除いた部分)には、円周方向に、ハッチングで示されるサーボ領域46bと非サーボ領域46c(非ハッチング部分)とが交互に形成されている。
【0014】
サーボ領域46bは、磁気パターン(サーボ情報パターン)が形成されている領域であり、非サーボ領域46cは、磁気パターン(サーボ情報パターン)が形成されていない領域である。
【0015】
<基板>
前記基板としては、円盤状である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。前記基板の材料としては、例えば、ニッケル、シリコン、石英ガラス等各種組成のガラス、アルミニウム、合金、各種組成のセラミックス、合成樹脂等が挙げられる。但し、前記基板の材料が合成樹脂の場合には、後述するリフトオフ工程でのレジスト剥離液で変質しない材質とするか、レジスト剥離液で変質しないような工夫(たとえば、保護コート)をする必要がある。
【0016】
なお、前記基板は、内径を有する円環状(ドーナツ状)であってもよく、内径を有しない円盤状のものであってもよい。
例えば、図2に示すように、基板47の片面に磁性層48が形成された転写情報担持面が形成されており、基板47の反対側の面が不図示の密着手段に保持されるようになっている。このマスターディスク46の片面(転写情報担持面)は、後述する垂直磁気記録媒体としてのスレーブディスク40と密着される面である。
【0017】
基板47表面に凹凸パターンを形成する場合(後述する図3A及び図3B)において、前記凹凸パターンの形成は、フォトファブリケーション法や、フォトファブリケーション法等で形成した原盤によるスタンパー法等によって行える。
【0018】
スタンパー法における原盤の形成は、例えば、以下のように行える。表面が平滑なガラス板(又は石英ガラス板)の上にスピンコート法等によりフォトレジストの層を形成し、プレベーク後に、このガラス板を回転させながら、サーボ信号に対応して変調したレーザー光(又は電子ビーム)を照射し、フォトレジスト層の略全面に所定のパターン、例えば各トラックに回転中心から半径方向に線状に延びるサーボ信号に相当するパターンを円周上の各フレームに対応する部分に露光する。
【0019】
その後、フォトレジストの層を現像処理し、露光部分が除去されたフォトレジストの層により形成された凹凸形状を有するガラス原盤を得る。次いで、ガラス原盤の表面の凹凸パターンを基に、この表面にメッキ(電鋳)を施し所定厚さまで形成することにより、表面にポジ状の凹凸パターンを有するNi基板を作成する。そして、この基板をガラス原盤から剥離する。
【0020】
この基板をそのままプレス原盤とするか、凹凸パターン上に必要に応じて軟磁性層、保護膜等を被覆してプレス原盤とする。
【0021】
また、ガラス原盤にメッキを施して、電鋳により第2の原盤を作成し、この第2の原盤に更にメッキを施して、電鋳によりネガ状凹凸パターンを有する反転原盤を作製してもよい。更に、第2の原盤にメッキを施して電鋳を行うか、低粘度の樹脂を押し付けて硬化させるかした、第3の原盤を作成し、第3の原盤にメッキを施して電鋳を行い、ポジ状凹凸パターンを有する基板を作成してもよい。
【0022】
一方、フォトファブリケーション法における原盤の形成は、例えば、以下のように行える。平板状の基板の平滑な表面にスピンコート法等によりフォトレジストの層を形成し、プレベーク後に、この基板を回転させながら、サーボ信号に対応して変調したレーザー光(又は電子ビーム)を照射し、フォトレジスト層の略全面に所定のパターン、例えば各トラックに回転中心から半径方向に線状に延びるサーボ信号に相当するパターンを円周上の各フレームに対応する部分に露光する。
【0023】
その後、フォトレジストの層を現像処理し、露光部分が除去されたフォトレジストの層により形成された凹凸形状を有する基板を得る。現像処理後の基板をポストベークし、フォトレジストの層の基板への付着力を増大させる。
【0024】
次いで、エッチング工程により、基板のエッチングを行い、凹凸パターンに相当する深さの穴を形成する。次いで、フォトレジストを除去し、表面を研磨して、バリがある場合には、これを取り除くとともに、表面を平滑化する。これにより、凹凸形状を有する原盤を得る。
【0025】
次いで、原盤の表面の凹凸パターン表面に導電層を付与した後、メッキ(電鋳)を施し、所定厚さまで形成することにより、表面にネガ状の凹凸パターンを有するNi基板を作製する。そして、この基板を原盤から剥離する。
【0026】
基板や電鋳による原盤の材料としては、金属ではNi又はNi合金を使用することができる。この基板を作成するメッキ法としては、無電解メッキ、電鋳、スパッタリング、イオンプレーティングを含む各種の金属成膜法等が適用できる。
【0027】
<磁性層>
前記磁性層としては、基板上に形成されている限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。
【0028】
前記磁性層に用いられる磁性材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択でき、例えば、Co、Co合金(CoNi、CoNiZr、CoNbTaZr等)、Fe、Fe合金(FeCo、FeCoNi、FeNiMo、FeAlSi、FeAl、FeTaN)、Ni、Ni合金(NiFe)を挙げることができ、中でも、FeCo、FeCoNiが好ましい。
【0029】
例えば、図2に示すように、磁性層48は、基板47上に形成されている。また、マスターディスク46の表面には、垂直磁気記録媒体に記録すべき情報に応じた凸部48aが形成されている。ここで、磁性層48は、例えば、図3Aに示すように、基板47に形成された突起上のみに形成されていてもよく、また、図3Bに示すように、基板47の全表面に形成されていてもよく、図3Cに示すように、平坦な基板47の表面に凸部状パターンとして形成されていてもよい。
【0030】
マスターディスク46において、基板47がNi等を主体とした強磁性体の場合には、この基板47が磁性層48として機能するので、基板47のみで磁気転写が可能であり、新たに磁性層48を形成しなくてもよいが、転写特性のよい磁性層48を設けることにより、より良好な磁気転写が行える。基板47が非磁性体の場合には、磁性層48を設けることが必要である。マスターディスク46の磁性層48は、保磁力Hcが48kA/m(≒600Oe)以下の軟磁性層であることが好ましい。
【0031】
<<凸部>>
前記凸部としては、少なくとも表面に磁性層48を有し、溝が形成されたものである限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。例えば、図4に示すように、溝50は、凸部48aの中心軸Aに対して対称となるように凸部48aに形成されていることが好ましいが、これに限定されるものではなく、凸部48aを分断してエッジ48bへの磁束収束を防止することができるものであれば(図4)、凸部48aのいずれの位置に形成されていてもよい。
また、図4に示すように、凸部48aの円周方向の幅WLと溝50の円周方向の幅WGとは、0.1≦WG/WL≦0.5を満たす。
なお、WG/WLの範囲(0.1≦WG/WL≦0.5)は、比(WG/WL)と比(HG/HL)との関係を統計的に分析して得られた3σの値に基づくものである。ここで、HGは、凸部48aが形成されたマスターディスク46を用いて磁気転写された垂直磁気記録媒体の再生信号(転写信号)における波形凹みの半値幅であり、HLは、凸部48aが形成されたマスターディスク46を用いて磁気転写された垂直磁気記録媒体の再生信号(転写信号)における凸部48aに対応する波形の半値幅である(図5)。
また、溝50の深さは、円周方向の幅WGの中心点で、凸部48aの高さt以下であることが好ましい。
また、溝50には、SiO2、カーボン、アルミナ;ポリメタアクリル酸メチル(PMMA)、ポリスチレン(PS)等のポリマー;円滑油等の非磁性材料が充填されていてもよい。
【0032】
また、図2に示すように、凸部48aは、平面視で長方形であり、高さがtであり、トラック方向(図中の太矢印方向)の長さがbであり、半径方向の長さがlである。この長さbとlの最適値は、記録密度や記録信号波形等により異なるが、例えば、長さbを80nmに、長さlを200nmにできる。
【0033】
また、凸部48aは、半径方向に長く形成される。この場合、例えば、半径方向の長さlが0.03〜20μm、トラック方向(円周方向)の長さbが0.05〜5μmであることが好ましい。この範囲で半径方向の方が長いパターンを選ぶことが、サーボ信号の情報を担持するパターンとしては好ましい。
【0034】
凸部48aの段差tは、30〜150nmの範囲が好ましく、磁性層48全体の厚さは、40〜250nmの範囲が好ましい。
【0035】
<<磁気転写用マスター担体の作製>>
【0036】
次に、本発明の磁気転写用マスター担体の作製について図6A〜図6Dにしたがって説明する。
【0037】
先ず、図6Aに示されるように、平坦な基板Bの平滑な表面にスピンコート法等によりフォトレジストの層を形成し、プレベーク後に、この基板を回転させながら、サーボ信号に対応して変調したレーザー光(又は電子ビーム)を照射し、フォトレジスト層の略全面に所定のパターン、例えば各トラックに回転中心から半径方向に線状に延びるサーボ信号に相当するパターンを円周上の各フレームに対応する部分に露光する。
【0038】
その後、フォトレジストの層を現像処理し、露光部分が除去されたフォトレジストの層R、Rにより形成された凹凸形状を有する基板を得る。現像処理後の基板をポストベークし、フォトレジストの層R、Rの基板への付着力を増大させる。なお、通常の工程では、ここにRIEによるエッチング工程が入るが、図示及び詳細な説明を省略する。
【0039】
次いで、図6Bに示されるように、基板Bの表面(上面)に磁性材料を堆積させ、磁性層48を形成する。磁性層48(軟磁性層)の形成は、磁性材料を真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の真空成膜手段、メッキ法などにより成膜する。
【0040】
次いで、図6Cに示されるように、磁性層48の裏面(上面)にメッキ法などにより基板材料を所定厚さに堆積させ、所定の機械的強度を有する基板47を形成する。基板47の材質としては、Ni又はNi合金が好ましく、基板47の厚さは、150μm程度が好ましい。これによりマスターディスク46が形成される。
【0041】
次いで、図6Dに示されるように、マスターディスク46を基板Bより剥離する。
【0042】
なお、マスターディスク46の磁性層48の上にダイヤモンドライクカーボン等の保護膜を設けることが好ましく、保護膜の上に更に潤滑剤層を設けてもよい。この場合、保護膜として厚さが5〜30nmのスパッタカーボン膜と潤滑剤層とする構成が好ましい。また、磁性層48と保護膜との間に、Si等の密着強化層を設けてもよい。潤滑剤は、後述する垂直磁気記録媒体(スレーブディスク)との接触過程で生じるずれを補正する際の、摩擦による傷の発生などの耐久性の劣化を改善する効果を有する。
【0043】
(垂直磁気記録媒体)
次に、本発明の垂直磁気記録媒体としての被転写用ディスクであるスレーブディスク40について説明する。スレーブディスクは、両面又は片面に磁気記録層が形成されたハードディスク、フレキシブルディスク等の円盤状垂直磁気記録媒体であり、マスターディスク46に密着させる以前に、グライドヘッド、研磨体などにより表面の微小突起又は付着塵埃を除去するクリーニング処理(バーニッシィング等)が必要に応じて施される。また、スレーブディスク40には予め初期磁化が施される。この詳細は後述する。
【0044】
スレーブディスクとしては、ハードディスク、高密度フレキシブルディスク等の円盤状垂直磁気記録媒体が使用できる。スレーブディスクの磁気記録層(磁性層)には、塗布型磁気記録層、メッキ型磁気記録層、又は金属薄膜型磁気記録層が採用できる。
【0045】
金属薄膜型磁気記録層の磁性材料としては、Co合金(CoPtCr、CoCr、CoPtCrTa、CoPtCrNbTa、CoCrB、CoPt、CoPtCrO、CoPtCr−SiO2、CoPtCr−TiO2、CoPt−SiO2、CoPt−TiO2等)、FePtを用いることができる。これらは、磁束密度が大きいこと、磁界印加方向と同じ方向(垂直磁気記録の場合垂直方向)の磁気異方性を有していることより、明瞭な転写が行えるため好ましい。
【0046】
そして磁性材料の下(支持体側)に必要な磁気異方性を付与するために、非磁性の下地層を設けることが好ましい。この下地層には、結晶構造と格子定数を磁性層に合わすことが必要である。そのためには、Ti、Cr、CrTi、CoCr、CrTa、CrMo、NiAl、Ru、Pd等を用いることが好ましい。
【0047】
更に、磁気記録層の垂直磁化状態を安定化させ、また、記録再生時の感度を向上させるために、非磁性の下地層の下に、更に軟磁性層からなる裏打ち層を設けることが好ましい。更に、磁気記録層の上に、保護層及び潤滑剤層を設けることが好ましい。
【0048】
なお、磁気記録層の厚さは、10nm〜500nmであることが好ましく、15nm〜200nmであることがより好ましい。また、非磁性層の厚さは、10nm〜150nmであることが好ましく、20nm〜80nmであることがより好ましい。また、裏打ち層の厚さは、50nm〜2,000nmであることが好ましく、80nm〜400nmであることがより好ましい。また、潤滑剤層の厚さは、0.5nm〜3nmであることが好ましく、1nm〜2nmであることがより好ましい。また、保護層の厚さは、3nm〜20nmであることが好ましく、5nm〜10nmであることがより好ましい。
(磁気転写方法)
【0049】
本発明の磁気転写方法は、初期磁化工程と、密着工程と、磁気転写工程とを少なくとも含み、更に必要に応じて適宜選択した、その他の工程を含む。
【0050】
<初期磁化工程>
前記初期磁化工程は、磁界を印加して、垂直磁気記録媒体を初期磁化する工程である。
【0051】
<密着工程>
前記密着工程は、初期磁化された垂直磁気記録媒体に、本発明の磁気転写用マスター担体を密着させる密着工程である。
【0052】
<磁気転写工程>
前記磁気転写工程は、該垂直磁気記録媒体と該磁気転写用マスター担体とを密着させた状態で、初期磁化工程において印加した磁界と逆向きの記録用磁界を印加して、該垂直磁気記録媒体に情報を記録する工程である。
<その他の工程>
前記その他の工程としては、必要に応じて、前記磁性層48の凹部をSiO2、カーボン、アルミナ;ポリメタアクリル酸メチル(PMMA)、ポリスチレン(PS)等のポリマー;円滑油等の非磁性材料で埋める工程、表面を平坦化する工程、平坦化した表面にDLC(ダイヤモンドライクカーボン)等で保護膜を形成する工程、最後に潤滑剤を塗布する工程などが挙げられる。
【0053】
次に、本発明の磁気転写方法について、図7〜図9Cを用いて、具体的に説明する。
【0054】
磁気転写装置10において、磁気転写時には、図9Aに示される後述する初期直流磁化を行った後の、スレーブディスク40のスレーブ面(磁気記録面)を、マスターディスク46の情報担持面に接触させ、所定の押圧力で密着させることができるようになっている。そして、このスレーブディスク40とマスターディスク46との密着状態で、磁界生成手段30により転写用磁界を印加してサーボ信号等の磁化パターンを転写記録することができるようになっている。
【0055】
マスターディスク46による磁気転写は、図7に示されるように、スレーブディスク40の片面にマスターディスク46を密着させて片面に逐次転写を行う場合と、スレーブディスク40の両面にそれぞれマスターディスク46を密着させて両面で同時転写を行う場合とがある。なお、マスターディスク46には、スレーブディスク40と密着させる前に、付着した塵埃を除去するクリーニング処理が必要に応じて施される。
【0056】
転写用磁界を印加する磁界生成手段30は、密着手段に保持されたスレーブディスク40及びマスターディスク46の半径方向に延びるギャップ31を有するコア32にコイル33が巻き付けられた電磁石装置34が上側に配設されてなり、トラック方向に垂直な磁力線Gを有する転写用磁界を印加できるようになっている。
【0057】
磁界印加時には、スレーブディスク40及びマスターディスク46を一体に回転させつつ磁界生成手段30によって転写用磁界を印加し、マスターディスク46の転写情報をスレーブディスク40のスレーブ面に磁気的に転写記録できるように回転手段が設けられている。なお、この構成以外に、磁界生成手段30を回転移動させるように設ける構成も採用できる。
【0058】
図9Aは磁界を一方向に印加してスレーブディスク40を初期直流磁化する工程(初期磁化工程)を示し、図9Bはマスターディスク46とスレーブディスク40とを密着させて初期直流磁界とは反対方向に磁界を印加する工程(密着工程及び磁気転写工程)を示し、図9Cは磁気転写後の状態をそれぞれ示す。スレーブディスク40についてはその下側の磁気記録層40Bのみを示している。なお、各図は模式図であり各部の寸法は実際とは異なる比率で示している。
【0059】
図9Aに示されるように、予めスレーブディスク40に初期直流磁界Hinをトラック面に垂直な一方向に印加して磁気記録層40Bの磁化を初期直流磁化させておく。そして、図8及び図9Bに示されるように、スレーブディスク40の磁気記録層40B側の面とマスターディスク46の表面の磁性層48側の面とを密着させ、スレーブディスク40のトラック面に垂直な方向に、初期直流磁界Hinとは逆方向の転写用磁界Hduを印加して磁気転写を行う。
【0060】
その結果、図8及び図9Cに示されるように、スレーブディスク40の磁気記録層40Bにはマスターディスク46の凸部48aに応じた情報(例えばサーボ信号)が磁気的に転写記録される。
【0061】
図9A〜Cの説明では、スレーブディスク40の下側の磁気記録層40Bへの、下側のマスターディスク46による磁気転写について説明したが、スレーブディスク40の上側の磁気記録層についても、スレーブディスク40の上側にマスターディスク46を密着させて、下側の磁気記録層と同様にして、下側の磁気記録層と同時に磁気転写を行うこともできる。
【0062】
また、マスターディスク46の凹凸パターンが、図9Bのポジパターンと逆の凹凸形状のネガパターンの場合であっても、初期磁界Hinの方向および転写用磁界Hduの方向を上記と逆方向にすることによって、同様の情報を磁気的に転写記録することができる。
【0063】
なお、初期直流磁界および転写用磁界は、スレーブディスク40の保磁力、マスターディスク46およびスレーブディスク40の比透磁率等を勘案して定められた値を採用する必要がある。
【実施例】
【0064】
(実施例1)
(磁気転写用マスター担体の作製)
<原盤の作製>
8インチのSiウェハ(原板)上に、電子線レジストをスピンコート法により、100nmの厚みで塗布した。塗布後、該原板上の該レジストに対し、回転式電子線露光装置を用いて、サーボ情報等に対応させて変調した電子ビームを照射し、該レジストを露光した。その後、該レジストを現像し、未露光部分を除去して、該原板上に該レジストのパターンを形成した。
【0065】
次いで、パターン状の該レジストをマスクとして用い、該原板に対して反応性エッチング処理を行い、該レジストでマスクされていない箇所を掘り下げた。該エッチング処理後、該原板上に残存するレジストを溶剤で洗浄し、除去した。その後、該原板を乾燥させて、磁気転写用マスター担体を作製するための原盤を得た。
【0066】
<基板の作製>
前記原盤上に、Niからなる導電層(厚み:10nm)をスパッタリング法により、形成した。その後、該導電層を形成した原盤を母型として用い、電鋳法により、該原盤上に、Ni層を形成した。その後、Ni層を原盤から引き剥がし、該Ni層を洗浄等して、表面に溝を有する突起部を配設したNi基板を得た。
【0067】
<磁性層の作製>
次いで、前記Ni基板を、所定のチャンバー内にセットし、該Ni基板上に、磁性層としてのCoPt膜(Co80_Pt20at%)(厚み:20nm)を、スパッタリング法により、形成した。成膜条件は、以下の通りである。
<成膜条件>
成膜圧力=0.1Pa、Ni基板−ターゲット間距離=200mm、DCパワー=5000W/8inchφ(15.4W/cm2)。本条件は一例であり、必ずしもこれに限定されているわけではない。
【0068】
以上のようにして、溝を有する凸部が形成された磁気転写用マスター担体を作製した。この磁気転写用マスター担体は、ディスク回転数5,000rpmで50〜100MHzの復調信号を転写することができる。また、凸部の円周方向の幅WLと溝の円周方向の幅WGは、以下の通りである。なお、溝は、凸部の中心軸A(図4)に対して対称となるように形成されている。また、溝の深さは、凸部の高さの1倍であった。
【0069】
<凸部の円周方向の幅WLと溝の円周方向の幅WG>
WL=300nm
WG=80nm
WG/WL=0.289
【0070】
(垂直磁気記録媒体の作製)
2.5インチのガラス基板上に、以下に示す手順で各層を形成し、垂直磁気記録媒体を作製した。
作製した垂直磁気記録媒体は、第1の非磁性配向層、第1の軟磁性層、第2の非磁性配向層、第2の軟磁性層、第3の非磁性配向層、磁性層、保護層、及び潤滑剤層が順次形成されている。
なお、第1の非磁性配向層、第1の軟磁性層、第2の非磁性配向層、第2の軟磁性層、第3の非磁性配向層、磁性層、及び保護層は、スパッタリング法で形成し、潤滑剤層は、ディップ法で形成した。
【0071】
<第1の非磁性配向層の形成>
前記第1の非磁性配向層として、Ti膜を、4nmの厚みで形成した。
具体的には、前記ガラス基板を、Tiターゲットと対向させて配置し、圧力が0.1PaとなるようにArガスを流入させ、DCスパッタ成膜した。
【0072】
<第1の軟磁性層の形成>
前記第1の軟磁性層として、CoZrNb膜を、20nmの厚みで形成した。
具体的には、前記第1の非磁性配向層を形成した後のガラス基板を、CoZrNbターゲットと対向させて配置し、圧力が0.15PaとなるようにArガスを流入させ、DCスパッタ成膜した。
【0073】
<第2の非磁性配向層の形成>
前記第2の非磁性配向層として、Ru膜を、1nmの厚みで形成した。
具体的には、前記第1の軟磁性層を形成した後のガラス基板を、Ruターゲットと対向させて配置し、圧力が0.1PaとなるようにArガスを流入させ、DCスパッタ成膜した。
【0074】
<第2の軟磁性層の形成>
前記第2の軟磁性層として、CoZrNb膜を、15nmの厚みで形成した。
具体的には、前記第2の非磁性配向層を形成した後のガラス基板を、CoZrNbターゲットと対向させて配置し、圧力が0.15PaとなるようにArガスを流入させ、DCスパッタ成膜した。
【0075】
<第3の非磁性配向層の形成>
前記第2の非磁性配向層として、Ru膜を、10nmの厚みで形成した。
具体的には、前記第2の軟磁性層を形成した後のガラス基板を、Ruターゲットと対向させて配置し、圧力が0.1PaとなるようにArガスを流入させ、DCスパッタ成膜した。
【0076】
<磁性層の形成>
前記磁性層として、CoCrPtO膜を、25nmの厚みで形成した。
具体的には、前記第3の非磁性配向層を形成した後のガラス基板を、CoCrPtOターゲットと対向させて配置し、圧力が0.1PaとなるようにArガスを流入させ、DCスパッタ成膜した。
【0077】
<保護層の形成>
前記保護層として、C膜を、3nmの厚みで形成した。
具体的には、前記磁性層を形成した後のガラス基板を、Cターゲットと対向させて配置し、圧力が0.5PaとなるようにArガスを流入させ、DCスパッタ成膜した。
【0078】
<潤滑剤層の形成>
前記潤滑剤層として、PFPE潤滑剤からなる層を、1.5nmの厚みで形成した。
【0079】
前記垂直磁気記録媒体の保磁力は、358kA/m(4.5kOe)であった。
【0080】
<初期磁化工程>
前記垂直磁気記録媒体に磁界を印加して、該垂直磁気記録媒体の初期磁化を行なった。印加した磁界の強度は、10kOeである。
【0081】
<密着工程>
初期磁気化後の垂直磁気記録媒体に対し、前記磁気転写用マスター担体を、9kg/cm2の圧力で密着させた。
【0082】
<磁気転写工程>
前記垂直磁気記録媒体と、前記磁気転写用マスター担体とを密着させた状態で、記録磁界を印加した。該記録磁界の強度は、4.5kOeである。
その後、該記録磁界の印加を停止し、該磁気転写用マスター担体を、該垂直磁気記録媒体から分離した。
【0083】
<磁気転写された垂直磁気記録媒体の再生信号(転写信号)における(IL−ID)/ILの値>
磁気転写された垂直磁気記録媒体の再生信号(転写信号)を図10示す。
図10において、(IL−ID)/ILの値が約10%(0.1)であった。なお、ILは再生信号(転写信号)における凸部48aに対応する波形の強度であり、IDは再生信号(転写信号)における波形凹みの強度である(図5)。
【0084】
<IL、IDの測定方法>
再生信号はスピンスタンドを用いたGMRヘッドより取得した。予めID、ILを測定する信号の直前にトリガーとなる信号を設けておき、トリガーから一定時間ディレイを置いてID、IL出力を読み取る解析プログラムを使用して強度データを取得した。
【0085】
(実施例2)
(磁気転写用マスター担体及び垂直磁気記録媒体の作製)
実施例1において、凸部の円周方向の幅WLと溝の円周方向の幅WGとを以下の通りにした以外は、実施例1と同様にして、磁気転写用マスター担体を作製し、さらに、垂直磁気記録媒体を作製した。
【0086】
<凸部の円周方向の幅WLと溝の円周方向の幅WG>
WL=300nm
WG=30nm
WG/WL=0.1
【0087】
<磁気転写された垂直磁気記録媒体の再生信号(転写信号)における(IL−ID)/ILの値>
磁気転写された垂直磁気記録媒体の再生信号(転写信号)における(IL−ID)/ILの値は、10%(0.1)であった。なお、ILは再生信号(転写信号)における凸部48aに対応する波形の強度であり、IDは再生信号(転写信号)における波形凹みの強度である(図5)。
【0088】
<アドレスエラーレート>
また、磁気転写された垂直磁気記録媒体のアドレスエラーレートを下記のように測定したところ、4×10−6であった。
【0089】
<アドレスエラーレートの測定方法>
200MHz以上の周波数成分を除去した再生波形10,000周分を、スピンスタンドを用いてGMRヘッドで取得し、デコードプログラムを使用して解析した。これより求められた全フレーム数に対するアドレスエラーの数よりアドレスエラーレートを計算した。
【0090】
(実施例3)
(磁気転写用マスター担体及び垂直磁気記録媒体の作製)
実施例1において、凸部の円周方向の幅WLと溝の円周方向の幅WGとを以下の通りにした以外は、実施例1と同様にして、磁気転写用マスター担体を作製し、さらに、垂直磁気記録媒体を作製した。
【0091】
<凸部の円周方向の幅WLと溝の円周方向の幅WG>
WL=300nm
WG=45nm
WG/WL=0.15
【0092】
磁気転写された垂直磁気記録媒体の再生信号(転写信号)における(IL−ID)/ILの値は、約0%(0)であった。
【0093】
<アドレスエラーレート>
また、磁気転写された垂直磁気記録媒体のアドレスエラーレートを上記のように測定したところ、2×10−6であった。
【0094】
(実施例4)
(磁気転写用マスター担体及び垂直磁気記録媒体の作製)
実施例1において、凸部の円周方向の幅WLと溝の円周方向の幅WGとを以下の通りにした以外は、実施例1と同様にして、磁気転写用マスター担体を作製し、さらに、垂直磁気記録媒体を作製した。
【0095】
<凸部の円周方向の幅WLと溝の円周方向の幅WG>
WL=300nm
WG=60nm
WG/WL=0.20
【0096】
磁気転写された垂直磁気記録媒体の再生信号(転写信号)における(IL−ID)/ILの値は約0%(0)であった。
【0097】
<アドレスエラーレート>
また、磁気転写された垂直磁気記録媒体のアドレスエラーレートを上記のように測定したところ、1×10−6であった。
【0098】
(実施例5)
(磁気転写用マスター担体及び垂直磁気記録媒体の作製)
実施例1において、凸部の円周方向の幅WLと溝の円周方向の幅WGとを以下の通りにした以外は、実施例1と同様にして、磁気転写用マスター担体を作製し、さらに、垂直磁気記録媒体を作製した。
【0099】
<凸部の円周方向の幅WLと溝の円周方向の幅WG>
WL=300nm
WG=120nm
WG/WL=0.40
【0100】
磁気転写された垂直磁気記録媒体の再生信号(転写信号)における(IL−ID)/ILの値は約0%(0)であった。
【0101】
<アドレスエラーレート>
また、磁気転写された垂直磁気記録媒体のアドレスエラーレートを上記のように測定したところ、1×10−6であった。
【0102】
(実施例6)
(磁気転写用マスター担体及び垂直磁気記録媒体の作製)
実施例1において、凸部の円周方向の幅WLと溝の円周方向の幅WGとを以下の通りにした以外は、実施例1と同様にして、磁気転写用マスター担体を作製し、さらに、垂直磁気記録媒体を作製した。
【0103】
<凸部の円周方向の幅WLと溝の円周方向の幅WG>
WL=300nm
WG=150nm
WG/WL=0.50
【0104】
磁気転写された垂直磁気記録媒体の再生信号(転写信号)における(IL−ID)/ILの値は10%(0.1)であった。
【0105】
<アドレスエラーレート>
また、磁気転写された垂直磁気記録媒体のアドレスエラーレートを上記のように測定したところ、5×10−6であった。
【0106】
(比較例1)
(磁気転写用マスター担体及び垂直磁気記録媒体の作製)
実施例1において、表面に溝を有しない突起部を配設したNi基板上に磁性層を形成して、溝を有しない凸部が形成された磁気転写用マスター担体を作製した以外は、実施例1と同様にして、磁気転写用マスター担体を作製し、さらに、垂直磁気記録媒体を作製した。
【0107】
磁気転写された垂直磁気記録媒体の再生信号(転写信号)を図5示す。
図5において、(IL−ID)/ILの値が約40%(0.4)であった。
【0108】
<アドレスエラーレート>
また、磁気転写された垂直磁気記録媒体のアドレスエラーレートを上記のように測定したところ、7×10−3であった。
【0109】
(比較例2)
(磁気転写用マスター担体及び垂直磁気記録媒体の作製)
実施例1において、凸部の円周方向の幅WLと溝の円周方向の幅WGとを以下の通りにした以外は、実施例1と同様にして、磁気転写用マスター担体を作製し、さらに、垂直磁気記録媒体を作製した。
【0110】
<凸部の円周方向の幅WLと溝の円周方向の幅WG>
WL=300nm
WG=180nm
WG/WL=0.60
【0111】
磁気転写された垂直磁気記録媒体の再生信号(転写信号)における(IL−ID)/ILの値は30%(0.3)であった。
【0112】
<アドレスエラーレート>
また、磁気転写された垂直磁気記録媒体のアドレスエラーレートを上記のように測定したところ、8×10−4であった。
【0113】
(実験例1)
(磁気転写用マスター担体及び垂直磁気記録媒体の作製)
実施例1において、表面に溝を有しない突起部を配設したNi基板上に磁性層を形成して、溝を有しない凸部が形成され、凸部の円周方向の幅WLが70nm〜140nm磁気転写用マスター担体を作製した以外は、実施例1と同様にして、磁気転写用マスター担体を作製し、さらに、垂直磁気記録媒体を作製した。
円周方向の幅WLと磁気転写された垂直磁気記録媒体の再生信号(転写信号)における(IL−ID)/ILの値との関係を図11に示す。
図11から、凸部の円周方向の幅WLが80nm以上であると、垂直磁気記録媒体の再生信号(転写信号)における(IL−ID)/ILの値が正の値となり、垂直記録媒体の再生信号(転写信号)における信号凹みが発生することが判る。以上より、凸部の円周方向の幅WLが80nm以上である場合に、凸部に溝を形成することの意義が生じることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】図1は、本発明の磁気転写用マスター担体の平面図である。
【図2】図2は、本発明の磁気転写用マスター担体の表面に形成されたパターンを示す部分拡大斜視図である。
【図3A】図3Aは、本発明の磁気転写用マスター担体の部分拡大斜視図である(その1)。
【図3B】図3Bは、本発明の磁気転写用マスター担体の部分拡大斜視図である(その2)。
【図3C】図3Cは、本発明の磁気転写用マスター担体の部分拡大斜視図である(その3)。
【図4】図4は、本発明の磁気転写用マスター担体における凸部に形成された溝を説明するための図である。
【図5】図5は、従来の磁気転写用マスター担体を用いて磁気転写された垂直磁気記録媒体の再生信号(転写信号)を示すグラフである。
【図6A】図6Aは、本発明の磁気転写用マスター担体の形成方法を説明するための工程図である(その1)。
【図6B】図6Bは、本発明の磁気転写用マスター担体の形成方法を説明するための工程図である(その2)。
【図6C】図6Cは、本発明の磁気転写用マスター担体の形成方法を説明するための工程図である(その3)。
【図6D】図6Dは、本発明の磁気転写用マスター担体の形成方法を説明するための工程図である(その4)。
【図7】図7は、本発明の磁気転写方法を実施するための磁気転写装置の要部正面図である。
【図8】図8は、本発明の磁気転写方法の概要について説明するための工程図である。
【図9A】図9Aは、本発明の磁気転写方法における基本工程を説明するための工程図である(その1)。
【図9B】図9Bは、本発明の磁気転写方法における基本工程を説明するための工程図である(その2)。
【図9C】図9Cは、本発明の磁気転写方法における基本工程を説明するための工程図である(その3)。
【図10】図10は、本発明の磁気転写用マスター担体を用いて磁気転写された垂直磁気記録媒体の再生信号(転写信号)を示すグラフである。
【図11】図11は、凸部の円周方向の幅WLと、磁気転写された垂直磁気記録媒体の再生信号(転写信号)における(IL−ID)/ILの値との関係を示すグラフである。
【図12】図12は、従来の磁気転写用マスター担体を説明するための図である。
【符号の説明】
【0115】
10 磁気転写装置
30 磁界生成手段
31 ギャップ
32 コア
33 コイル
34 電磁石装置
40 スレーブディスク(垂直磁気記録媒体)
40B 磁気記録層
46 マスターディスク(磁気転写用マスター担体)
46b サーボ領域
46c 非サーボ領域
47 基板
48 磁性層
48a 凸部
50 溝
b 凸部の円周方向の幅
G 磁力線
l 凸部の径方向の幅
t 凸部の高さ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円盤状の基板と、前記基板上に形成された磁性層とを備える磁気転写用マスター担体において、
垂直磁気記録媒体に記録すべき情報に応じ、且つ、少なくとも表面に前記磁性層を有する凸部が形成され、
前記凸部に溝が形成され、
前記凸部の円周方向の幅WLと前記溝の円周方向の幅WGとが、0.1≦WG/WL≦0.5を満たすことを特徴とする磁気転写用マスター担体。
【請求項2】
溝の深さが、凸部の高さ以下である請求項1に記載の磁気転写用マスター担体。
【請求項3】
溝に非磁性材料が充填された請求項1から2のいずれかに記載の磁気転写用マスター担体。
【請求項4】
磁界を印加して、垂直磁気記録媒体を初期磁化する初期磁化工程と、
初期磁化された垂直磁気記録媒体に、請求項1から3のいずれかに記載の磁気転写用マスター担体を密着させる密着工程と、
該垂直磁気記録媒体と該磁気転写用マスター担体とを密着させた状態で、初期磁化工程において印加した磁界と逆向きの記録用磁界を印加して、該垂直磁気記録媒体に情報を記録する磁気転写工程と、を含むことを特徴とする磁気転写方法。
【請求項5】
請求項4に記載の磁気転写方法を用いて磁気転写されたことを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項1】
円盤状の基板と、前記基板上に形成された磁性層とを備える磁気転写用マスター担体において、
垂直磁気記録媒体に記録すべき情報に応じ、且つ、少なくとも表面に前記磁性層を有する凸部が形成され、
前記凸部に溝が形成され、
前記凸部の円周方向の幅WLと前記溝の円周方向の幅WGとが、0.1≦WG/WL≦0.5を満たすことを特徴とする磁気転写用マスター担体。
【請求項2】
溝の深さが、凸部の高さ以下である請求項1に記載の磁気転写用マスター担体。
【請求項3】
溝に非磁性材料が充填された請求項1から2のいずれかに記載の磁気転写用マスター担体。
【請求項4】
磁界を印加して、垂直磁気記録媒体を初期磁化する初期磁化工程と、
初期磁化された垂直磁気記録媒体に、請求項1から3のいずれかに記載の磁気転写用マスター担体を密着させる密着工程と、
該垂直磁気記録媒体と該磁気転写用マスター担体とを密着させた状態で、初期磁化工程において印加した磁界と逆向きの記録用磁界を印加して、該垂直磁気記録媒体に情報を記録する磁気転写工程と、を含むことを特徴とする磁気転写方法。
【請求項5】
請求項4に記載の磁気転写方法を用いて磁気転写されたことを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【図11】
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10】
【図12】
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10】
【図12】
【公開番号】特開2009−252341(P2009−252341A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103362(P2008−103362)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
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