磁気転写用マスター担体、磁気転写方法、及び磁気記録媒体
【課題】保磁力、及び残留磁化が低減された、垂直磁気異方性を有する磁性層を備えた磁気転写用マスター担体等の提供。
【解決手段】本発明の磁気転写用マスター担体は、磁界が印加されると、垂直磁気記録媒体に記録すべき情報のパターンに対応した磁界のパターンを形成する磁気転写用マスター担体であって、該情報のパターンに対応して配設される凸部を表面に有する基材と、該凸部の先端面に少なくとも形成される、垂直磁気異方性を有する磁性層と、該磁性層の表面に形成される軟磁性層と、を備えることを特徴とする。
【解決手段】本発明の磁気転写用マスター担体は、磁界が印加されると、垂直磁気記録媒体に記録すべき情報のパターンに対応した磁界のパターンを形成する磁気転写用マスター担体であって、該情報のパターンに対応して配設される凸部を表面に有する基材と、該凸部の先端面に少なくとも形成される、垂直磁気異方性を有する磁性層と、該磁性層の表面に形成される軟磁性層と、を備えることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体に情報を磁気転写する磁気転写用マスター担体、該磁気転写用マスター担体を用いた磁気転写方法、及び該磁気転写方法を用いて作製された磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
情報を高密度で記録可能な磁気記録媒体として、垂直磁気記録方式の磁気記録媒体(以下、垂直磁気記録媒体)が知られている。この垂直磁気記録媒体の情報記録領域は、狭トラックで構成されている。そのため、垂直磁気記録媒体では、狭いトラック幅において正確に磁気ヘッドを走査し、高いS/N比で信号を再生するためのトラッキングサーボ技術が重要となる。このトラッキングサーボを行うためには、トラッキング用のサーボ信号、アドレス情報信号、再生クロック信号等のサーボ情報を、所定間隔で垂直磁気記録媒体に、いわゆるプリフォーマットとして記録しておく必要がある。
【0003】
垂直磁気記録媒体に、サーボ情報をプリフォーマットする方法としては、例えば、サーボ情報に対応した、表面に磁性層を有する複数の凸部からなるパターンが形成されたマスター担体を、該垂直磁気記録媒体に密着させた状態で、記録用磁界を印加し、該マスター担体のパターンに対応するサーボ情報を、該垂直磁気記録媒体に磁気転写する方法がある(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0004】
前記方法において、垂直磁気記録媒体に前記マスター担体を密着させた状態で記録用磁界が印加されると、前記マスター担体の磁化状態に基づいて、磁束がパターン状に配置する磁性層に吸収される。その結果、前記記録用磁界は、前記マスター担体のパターンに対応して強められる。このパターン状に強められた磁界によって、垂直磁気記録媒体の所定箇所のみが磁化される。このようにして、該マスター担体のパターンに対応するサーボ情報が、該垂直磁気記録媒体に磁気転写される。
なお、磁気転写後、記録用磁界は解除され、該垂直磁気記録媒体と密着している該マスター担体は、該垂直磁気記録媒体から分離される。
【0005】
従来、この種のマスター担体の磁性層の材料としては、高飽和磁化を有する等方性の磁性材料が用いられていた。記録用磁界を印加した際に、該マスター担体の磁性層の磁化を高めて、該磁性層に磁束を吸収させ易くするためである。
【0006】
しかしながら、該マスター担体の磁性層は、厚みが数十ナノメータ程度であり、非常に薄く、反磁界の影響を強く受ける。そのため、該磁性層の材料として高飽和磁化を有する磁性材料を使用しても、反磁界によって実効的な磁性層への印加磁界(記録用磁界)が減少し、該磁性層が未飽和状態となってしまう。その結果、該磁性層の磁化を、希望通り高くすることができず、問題であった。
【0007】
そこで、前記磁性層の材料として、反磁界の影響を受け難い、垂直磁気異方性を有する磁性材料を用いることが検討されている。
【0008】
しかしながら、垂直磁気異方性を有する磁性材料からなる磁性層は、反磁界の影響は受け難いものの、保磁力Hc、及び残留磁化Mrが大きいという問題がある。
保磁力Hcが大きいと、磁性層を飽和させるのに必要な印加磁界を大きくする必要がある。印加磁界が大きくなると、マスター担体において、磁性層以外の箇所に存在する磁界によっても、垂直磁気記録媒体が磁化されることがあり、問題であった。
残留磁化Mrが大きいと、前記のように、該マスター担体を該垂直磁気記録媒体から分離する際、該マスター担体の位置が、該垂直磁気記録媒体の表面方向に沿って僅かにずれても、該マスター担体の磁性層の残留磁化によって、該垂直磁気記録媒体が不要に磁化されることがあり、問題であった。
【0009】
【特許文献1】特開2003−203325号公報
【特許文献2】特開2000−195048号公報
【特許文献3】米国特許第7218465号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、保磁力、及び残留磁化が低減された、垂直磁気異方性を有する磁性層を備えた磁気転写用マスター担体、該磁気転写用マスター担体を用いた磁気転写方法、及び該磁気転写用マスター担体を用いて作製された磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、前記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。即ち、
磁気転写用マスター担体の凸部の少なくとも先端面に形成される磁性層の表面に、軟磁性層を形成すると、保磁力、及び残留磁化が低減することを知見した。
【0012】
本発明は、本発明者等の前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 磁界が印加されると、垂直磁気記録媒体に記録すべき情報のパターンに対応した磁界のパターンを形成する磁気転写用マスター担体であって、該情報のパターンに対応して配設される凸部を表面に有する基材と、該凸部の先端面に少なくとも形成される、垂直磁気異方性を有する磁性層と、該磁性層の表面に形成される軟磁性層と、を備えることを特徴とする磁気転写用マスター担体である。
該<1>に係る磁気転写用マスター担体は、磁性層の表面に、軟磁性層を形成することにより、保磁力、及び残留磁化が低減される。
<2> 磁性層の厚みw1と、軟磁性層の厚みw2との比(w2/w1)が、0.1〜0.8である前記<1>に記載の磁気転写用マスター担体である。
<3> 磁界を印加して、垂直磁気記録媒体を初期磁化する初期磁化工程と、初期磁化された垂直磁気記録媒体に、請求項1または2に記載の磁気転写用マスター担体を密着させる密着工程と、該垂直磁気記録媒体と該磁気転写用マスター担体とを密着させた状態で、初期磁化工程において印加した磁界と逆向きの磁界を印加して、該垂直磁気記録媒体に情報を記録する磁気転写工程と、を有することを特徴とする磁気転写方法である。
<4> 前記<3>に記載の磁気転写方法を用いて作製されたことを特徴とする磁気記録媒体である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決することができ、保磁力、及び残留磁化が低減された、垂直磁気異方性を有する磁性層を備えた磁気転写用マスター担体、該磁気転写用マスター担体を用いた磁気転写方法、及び磁気転写方法を用いて作製された、磁気記録媒体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る磁気転写用マスター担体、磁気転写方法、及び磁気記録媒体について、図面を用いて説明する。
【0015】
図1は、磁気転写用マスター担体を用いて垂直磁気記録媒体に情報を磁気転写する磁気転写方法の概略を示す説明図である。該磁気転写方法は、初期磁化工程、密着工程、及び磁気転写工程を有する。先ず、図1を用いて、該磁気転写用マスター担体を用いた磁気転写技術の概略を説明する。
【0016】
〔磁気転写技術の概略〕
図1において、符号10は、垂直磁気記録媒体であるスレーブディスクを表し、符合20は、磁気転写用マスター担体であるマスターディスクを表す。
図1(a)は、初期磁化工程を示す説明図である。図1(a)に示されるように、該初期磁化工程において、スレーブディスク10に対し直流磁界(Hi)が印加されて、該スレーブディスク10が初期磁化される。該直流磁界(Hi)は、スレーブディスク10の平面に対し、垂直に印加される。
図1(b)は、密着工程を示す説明図である。図1(b)に示されるように、該密着工程において、初期磁化後のスレーブディスク10に該マスターディスク20を密着させる。
図1(c)は、磁気転写工程を示す説明図である。図1(c)に示されるように、該磁気転写工程において、互いに密着したスレーブディスク10及びマスターディスク20に対し、前記直流磁界(Hi)と逆向きの磁界(Hd)(記録用磁界)が印加され、該マスターディスク20に基づいた情報が、該スレーブディスク10に記録される。
【0017】
次いで、前記磁気転写用マスター担体、磁気転写方法、及び磁気記録媒体について、それぞれ図面を用いて詳細に説明する。
【0018】
〔磁気転写用マスター担体〕
図2は、磁気転写用マスター担体(マスターディスク)20の断面の概略を示す説明図である。図2に示されるように、該磁気転写用マスター担体20は、基材200と、磁性層40と、軟磁性層43を有する。
【0019】
(基材)
前記基材200の材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、ガラス、ポリカーボネート等の合成樹脂、ニッケル、アルミニウム等の金属、シリコン、カーボン等の公知の材料が用いられる。
【0020】
前記基材200の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。図2において示される磁気転写用マスター担体20は、円盤状である。前記基材200は、表面に複数の凸部201を有する。
【0021】
前記凸部201は、垂直磁気記録媒体に記録すべき情報のパターンに対応して前記基材200の表面に配設されている。垂直磁気記録媒体に記録すべき情報としては、例えば、サーボ信号、アドレス情報信号等のトラッキングサーボ技術用のサーボ情報がある。該凸部201は、該基材200の表面上で、該記録すべき情報のパターンに対応した、パターンを成している。前記基材200の表面に配設される該凸部201の個数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。
【0022】
図3は、磁気転写用マスター担体20(マスターディスク)を上面から見た説明図である。図3に示されるように、磁気転写用マスター担体20の表面(上面)には、サーボ情報のパターンに対応して配設される凸部からなるパターン(サーボパターン52)が、放射状に形成されている。
【0023】
前記凸部201の表面は、図2に示されるように、先端面202と、側面203とからなる。本実施形態において、先端面202は、平面となっている。該先端面202の外形形状は、特に制限は無く、目的に応じて適宜選択できる。本実施形態において、該先端面202は、四角形(正方形)となっている。前記凸部201間には、凹部204がある。
【0024】
(磁性層)
前記磁性層40は、前記凸部201の表面のうち、少なくとも先端面202に形成される。図2において示されるように、本実施形態においては、該凸部201の先端面202以外に、製造容易等の理由により、凹部204の表面にも磁性層400が形成されている。
【0025】
前記磁性層40は、垂直磁気異方性を有する磁性材料を含む。該磁性層40の磁性材料としては、Fe、Co及びNiのうち少なくとも1つの強磁性金属と、Cr、Pt、Ru、Pd、Si、Ti、B、Ta及びOのうち少なくとも1つの非磁性物質と、から構成される合金、或いは化合物が用いられる。
前記磁性層40は、該磁性層40の面内方向に対し、垂直な方向において、磁気異方性を有する。
【0026】
前記磁性層40の厚みw1としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜設定されるが、10nm〜200nmが好ましく、15nm〜120nmがより好ましく、20nm〜80nmが更に好ましい。
該磁性層40の厚みw1が10nm未満であると、磁性凸部にスレーブ媒体の磁化反転に充分な量の磁束を集められないことがあり、厚みw1が200nmを超えると、隣接するパターン(磁性凸部)と繋がり、凸部の形状が悪化し、転写品質が悪化することがある。
前記磁性層40の厚みw1は、例えば、触針式表面形状測定機(DEKTAK6M、ULVAC製)によって測定できる。
前記磁性層40の厚みw1は、平均値(平均厚み)である。該厚みw1は、半径15mm、22mm及び29mm(90度毎に4箇所:計12箇所)の平均値として算出される。
なお、前記磁性層40の厚みw1が薄い場合(20nm未満の場合)、他の方法を用いて測定される。
該磁性層40の断面方向の薄片をFIB加工によって作製し、該薄片を、透過電子顕微鏡(TEM)を用いて測定することにより、求められる。
該厚みw1は、半径15mm及び25mm(180度毎に2箇所:計4箇所)の平均値として算出した。
【0027】
前記磁性層40の形成方法(成膜方法)としては、例えば、スパッタリング法がある。成膜圧力(Pa)、基板−ターゲット間距離(mm)、DCパワー(W)等の条件を適宜、選択することにより、スパッタリング法によって、前記凸部201の先端面202に磁性層40を形成できる。
【0028】
前記磁性層40が、CoPtからなる場合、主として、成膜圧力、Pt濃度、成膜温度を調節することによって、該磁性層40の垂直磁気異方性を制御できる。
【0029】
前記磁性層40の保磁力Hc及び残留磁化Mrは、以下のように定義される。図4Aは、一般的な、垂直磁化膜のM−H曲線を表す説明図である。この曲線が横軸Hと交わる点において、Hが負の値をとる点がHcであり、縦軸Mと交わる点において、Mが正の値をとる点がMrである。
なお、図4Bは、他の垂直磁化膜のM−H曲線を表す説明図である。このようなM−H曲線を示す垂直磁化膜もある。Hc及びMrは、前記垂直磁化膜の場合と同様である。
【0030】
Hc及びMrを求める方法は、以下の通りである。
【0031】
磁気転写用マスター担体の磁性層40及び下地層と同じものを、該マスター担体の製造時と同じ条件で、Niを20nm成膜したSi基板(4インチ)上に形成する。該Si基板上に形成された試料を、6mm×8mmのサイズに切り出し、その切り出した試料に対し、振動試料型磁力計(東英工業社製、VSM−C7)を用いて、面内方向及び垂直方向に磁界を印加して、その試料の磁化曲線の測定を行う。
得られた垂直磁化曲線に基づいて、保磁力Hc及び残留磁化Mrを算出する。
【0032】
(軟磁性層)
前記軟磁性層43は、前記磁性層40の表面に形成される。
軟磁性層の材料としては、軟磁性、若しくは半硬質磁性等の保磁力の小さい磁性層であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択され、例えば、Fe、Fe合金(FeCo、FeCoNi)、Co、Co合金(CoNi)、Ni、Ni合金(NiFe)が用いられる。特に、高飽和磁化材料であるFeCo、Coが好ましい。
【0033】
前記軟磁性層の形成方法としては、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等の真空成膜手段、メッキ法等が用いられる。
【0034】
該軟磁性層の厚みw2としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜設定されるが、1nm〜150nmが好ましく、2nm〜90nmがより好ましく、2nm〜60nmが更に好ましい。
該軟磁性層43の厚みw2が2nm未満であると、磁性層として機能しないことがあり、厚みw2が160nmを超えると隣接するパターン(磁性凸部)の転写品質を悪化させることがある。
前記軟磁性層43の厚みw2は、例えば、触針式表面形状測定機(DEKTAK6M、ULVAC製)によって測定できる。
前記軟磁性層43の厚みw2は、平均値(平均厚み)である。該厚みw2は、半径15mm、22mm及び29mm(90度毎に4箇所:計12箇所)の平均値として算出される。
なお、前記軟磁性層43の厚みw2が薄い場合(20nm未満の場合)、他の方法を用いて測定される。
該軟磁性層43の断面方向の薄片をFIB加工によって作製し、該薄片を、透過電子顕微鏡(TEM)を用いて測定することにより、求められる。
該厚みw1は、半径15mm及び25mm(180度毎に2箇所:計4箇所)の平均値として算出した。
【0035】
前記磁性層40の厚みw1と、前記軟磁性層43の厚みw2との比(w2/w1)としては、0.1〜0.8が好ましい。
【0036】
前記磁性層40は、必要に応じて、下地層、保護層等の他の層を含んでもよい。
【0037】
(下地層)
前記磁性層40の下に、必要に応じて、下地層を形成してもよい。該下地層の材料としては、Pt、Ru、Pd、Co、Cr、Ni、W、Ta、Al、P、Si、Tiのうち、少なくとも1つを含有する金属、合金、或いは化合物が挙げられる。該下地層の材料としては、Pt、Ru等の白金属の金属、合金が好ましい。該下地層は、単層でもよく、多層でもよい。該下地層は、スパッタリング法等の公知の方法により、形成できる。
該下地層の厚みは、1nm〜30nmの範囲が好ましく、3nm〜10nmの範囲が更に好ましい。
【0038】
(保護層等)
前記磁性層40上の軟磁性層43の表面に、必要に応じて、ダイヤモンドライクカーボン等の保護層を形成してもよい。該保護層の厚みは、通常、10nm以下である。更に、該保護層の上に、潤滑層剤層を形成してもよい。
【0039】
図5は、該磁気転写用マスター担体20の磁性層40のみ、及び磁性層40と軟磁性層43のM−H曲線を模式的に表した説明図である。
図5において、横軸は磁界(H)、縦軸(M)は磁化の強さを表す。図5において、実線で示されるM−H曲線は、図2において示される磁性層40と軟磁性層43のM−H曲線であり、破線で示されるM−H曲線は、軟磁性層43が形成されていない磁性層のM−H曲線である。
図5において示されるように、本発明の磁性層40は、軟磁性層43が形成されていない状態よりも、保磁力Hc、及び残留磁化Mrが、低減されている。
これは、磁性層40と軟磁性層43との間にカップリングが形成され、その結果、磁性層40の磁気異方性エネルギーが、軟磁性層43を形成する前と比べて、小さくなり、その結果、保磁力Hc、及び残留磁化Mrも減少したものと考えられる。
【0040】
〔磁気転写用マスター担体の製造方法〕
前記磁気転写用マスター担体20の製造には、原盤が用いられる。先ず、原盤の一製造方法を、図6を用いて説明する。
【0041】
(原盤の製造)
図6は、磁気転写用マスター担体20の製造に用いられる原盤の製造工程を示す説明図である。
図6(a)に示されるように、表面が平滑なシリコンウェハ(Si基板)からなる原板30を用意し、この原板30上に、電子線レジスト液をスピンコート法等により塗布して、レジスト層32を形成する(図6(b)参照)。その後、該レジスト層32を、ベーキング処理(プレベーク)する。
【0042】
次いで、図6(c)に示されるように、高精度な回転ステージ、又はX−Yステージを備えた不図示の電子ビーム露光装置のステージ上に、前記原板30をセットし、該原板30を回転させながら、該レジスト層32に対し、サーボ信号に対応させて変調した電子ビームを照射し、該レジスト層32に、サーボ信号に対応させたパターンを描画露光した。なお、図6(c)において、符号33が露光部分を表す。
【0043】
次いで、図6(d)に示されるように、該レジスト層32を現像処理し、露光部分(描画部分)33を除去すると、パターン状のレジスト層32が原板30上に形成される。
なお、原板30上に塗布されるレジストは、ポジ型、ネガ型のいずれも使用可能である。なお、ポジ型と、ネガ型とでは、露光(描画)パターンが反転することになる。
前記現像処理後、レジスト層32と原板30との密着力を高めるためのベーキング処理(ポストベーク)を行う。
【0044】
次いで、図6(e)に示されるように、該レジスト層32をマスクとして、該レジスト層32の開口部34より、原板30を、表面より所定の深さだけ除去(エッチング)する。該エッチングとしては、アンダーカット(サイドエッチ)を最小にするべく、異方性のエッチングを選択することが好ましい。該異方性のエッチングとしては、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)が好ましい。
【0045】
次いで、図6(f)に示されるように、エッチング後の該レジスト層32を除去する。該レジスト層32の除去方法としては、アッシング等の乾式法、剥離液による除去等の湿式法のいずれも採用できる。該レジスト層32が除去されると、原盤36が得られる。
【0046】
(磁気転写用マスター担体の製造)
前記原盤36を用いた、磁気転写用マスター担体20の一製造方法を、図7を用いて説明する。
【0047】
図7(g)に示されるように、原盤36の表面に、厚みが均一な導電層37を形成する。該導電層37の形成方法としては、PVD(Physical Vapor Deposition)、CVD(Chemical Vapor Deposition)等の各種金属成膜法を採用できる。該導電層37としては、例えば、Niを主成分とする膜からなる。このような、Niを主成分とする膜は、形成が容易であり、且つ、硬質であるため、該導電膜37として好適である。該導電層37の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択されるが、一般的に、数十nm程度が採用される。
【0048】
次いで、図7(h)に示されるように、原盤36の表面に、電鋳により、所望の厚みの金属板38を積層する。該金属板の材料としては、例えば、Niが挙げられる。
電鋳は、所定の電鋳装置(不図示)において行なわれる。該電解装置は、スルファミン酸Ni等の電解液の入った電解液槽を有し、該電解液槽中の電解液に原盤36が浸される。該原盤36を陽極とし、該陽極と、図示されない陰極との間を通電すると、該原盤36上に金属板が積層される。電解液の濃度、電解液のpH、電流値等の諸条件は、適宜、設定される。
その後、前記金属板38を積層した原盤36は、電鋳装置の電解液槽から取り出され、純水等からなる剥離液に浸される。該剥離液中において、金属板38は、原盤36から引き剥がされる。このようにして、図7(i)に示されるような、原盤36表面の凹凸形状が反転した、表面形状を有する基板200が得られる。
【0049】
次いで、図7(j)において示されるように、前記基板200表面上の凸部201の先端面202に磁性層40を形成する。
該磁性層40の材料は、例えば、CoPtからなる。該磁性層40は、前記材料をターゲットとして用いたスパッタリング法によって形成される。
【0050】
次いで、図7(k)において示されるように、該磁性層40の上に、更に軟磁性層43を形成する。
該軟磁性層43の材料は、例えば、FeCo、Coからなる。該軟磁性層43は、前記材料をターゲットとして用いたスパッタリング法によって形成される。
必要に応じて、前記基板200を所定サイズに打抜き加工等すると、磁気転写用マスター担体20が得られる。
【0051】
〔垂直磁気記録媒体〕
前記磁気転写用マスター担体20を用いて磁気転写される垂直磁気記録媒体としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択される。図8は、垂直磁気記録媒体の断面の概略を示す説明図である。ここで、図8を用いて、一実施形態に係る該垂直磁気記録媒体の構成を説明する。
【0052】
図8に示されるように、該垂直磁気記録媒体10は、基板12と、軟磁性層(軟磁性下地層:SUL)13と、非磁性層(中間層)14と、磁性層15と、を有する。更に、図8において示される該垂直磁気記録媒体10は、該磁性層15上に、保護層16及び潤滑剤層17を備える。
【0053】
前記基板12は、円盤状であり、ガラス、Al(アルミニウム)等の非磁性材料からなる。
【0054】
前記軟磁性層13は、該磁性層16の垂直磁化状態を安定させ、記録再生時の感度を向上させる等の目的で設けられる。該軟磁性層13に用いられる材料としては、CoZrNb、FeTaC、FeZrN、FeSi合金、FeAl合金、パーマロイ等のFeNi合金、パーメンジュール等のFeCo合金等の軟磁性材料が用いられる。該軟磁性層13は、ディスクの中心から外側に向かって半径方向に(放射状に)磁気異方性が付けられている。
【0055】
前記非磁性層14は、後に形成する磁性層15の垂直方向の磁気異方性を大きくする等の目的で設けられる。該非磁性層14に用いられる材料としては、Ti、Cr、CrTi、CoCr、CrTa、CrMo、NiAl、Ru、Pd、Ta、Pt等が用いられる。
【0056】
前記磁性層15は、垂直磁化膜からなる。該垂直磁化膜は、膜内の磁化容易軸が基板12に対し、主として、垂直方向に配向している。該磁性層15に、情報が記録される。
該磁性層15に用いられる材料としては、Co合金(CoPtCr、CoCr、CoPtCrTa、CoPtCrNbTa、CoCrB、CoPt等)、Co合金−SiO2、Co合金-TiO2、Fe合金(FePt等)等が用いられる。
【0057】
前記保護層16は、C(カーボン)等からなり、前記潤滑剤層17は、PFPE等のフフッ素系潤滑剤等からなる。
【0058】
なお、前記垂直磁気記録媒体10は、前記基板12の片面に磁性層15が形成されているが、他の実施形態においては、該基板12の表裏面に磁性層15が形成されてもよい。
また、他の実施形態においては、軟磁性層13、及び非磁性層14が、複数層形成されてもよい。
【0059】
〔磁気転写方法〕
以下、前記磁気転写用マスター担体を用いて、前記垂直磁気記録媒体に情報を磁気転写する方法を説明する。
該磁気転写方法は、前記磁気転写技術の概略において説明した通り、初期化工程、密着工程、及び磁気転写工程を有する。以下、図1等を用いて、一実施形態に係る磁気転写方法を説明する。
【0060】
<初期磁化工程>
前記初期化工程は、垂直磁気記録媒体10(スレーブディスク)に対し直流磁界(Hi)を印加して、該垂直磁気記録媒体10を初期磁化する工程である。
図1(a)に示されるように、該初期磁化工程において、垂直磁気記録媒体10に対し、直流磁界(Hi)が印加される。該直流磁界(初期化磁界)(Hi)は、垂直磁気記録媒体10の表面に対し、垂直に印加される。該直流磁界(Hi)は、所定の磁界印加手段(不図示)により、印加される。該直流磁界(Hi)の強さは、垂直磁気記録媒体10の保磁力Hc以上に設定される。
【0061】
図9は、初期磁化後の垂直磁気記録媒体の磁性層の磁化方向を示す説明図である。図9において示されるように、初期磁化後の垂直磁気記録媒体10の磁性層15は、該垂直磁気記録媒体10のディスク面と垂直な一方向に、初期磁化される。なお、図9における符号Piで示される矢印は、該磁性層の磁化方向を表す。
【0062】
<密着工程>
前記密着工程は、初期磁化後の垂直磁気記録媒体10に該磁気転写用マスター担体(
マスターディスク)20を密着させる工程である。
図1(b)に示されるように、初期磁化後の垂直磁気記録媒体10と、磁気転写用マスター担体20と重ね合わせ、密着させる。
該密着工程では、該磁気転写用マスター担体20の表面の凸部201上の磁性層40と、該垂直磁気記録媒体10の磁性層(記録層)とが密着する。該磁気転写用マスター担体20は、所定の押圧力で、該垂直磁気記録媒体10に密着させる。
【0063】
なお、必要に応じて、磁気転写用マスター担体20を垂直磁気記録媒体10に密着する前に、該垂直磁気記録媒体10に、グライドヘッド、研磨体等によって表面の微小突起又は付着粉塵埃を除去するクリーニング処理(バーニッシング等)を施してもよい。
【0064】
該密着工程は、図1(b)に示されるように、本実施形態においては、垂直磁気記録媒体10の片面のみに磁気転写用マスター担体20を密着させているが、他の実施形態においては、両面に磁性層を有する垂直磁気記録媒体(スレーブディスク)に対し、両面から磁気転写用マスター担体20を密着させてもよい。
【0065】
<磁気転写工程>
前記磁気転写工程は、互いに密着した垂直磁気記録媒体10及び磁気転写用マスター担体20に対し、前記初期磁界(Hi)と逆向きの磁界(Hd)である記録用磁界を印加することにより、該磁気転写用マスター担体20に基づいた情報を、該垂直磁気記録媒体10に記録する工程である。
図1(c)に示されるように、互いに密着した垂直磁気記録媒体10及び磁気転写用マスター担体20に対し、所定の磁界印加手段(不図示)により、該初期磁界(Hi)と逆向きの磁界(Hd)を発生させる。
【0066】
図10は、磁気転写工程における垂直磁気記録媒体10及び磁気転写用マスター担体20の断面の様子を示す説明図である。図10に示されるように、垂直磁気記録媒体10及び磁気転写用マスター担体20を密着させた状態で、記録用磁界(Hd)を印加すると、該磁界(Hd)により生じた磁束Gは、磁気転写用マスター担体20に進入し、磁気転写用マスター担体20の有する磁性層40に吸収される。その結果、磁気転写用マスター担体20の凸部201の領域で、磁界が強くなる。これに対し、磁気転写用マスター担体20の凹部204の領域の磁界は、該凸部201の領域の磁界よりも弱くなる。このようにして、垂直磁気記録媒体10に記録すべき情報に対応した磁界のパターンが形成される。
その結果、凸部201に対応する領域では、垂直磁気記録媒体10の磁性層15の磁化の向きが反転し、情報が記録される、なお、凹部204に対応する領域では、磁性層15の磁化の向きは変化しない。
【0067】
図11は、磁気転写工程後の垂直磁気記録媒体の磁性層の磁化方向を示す説明図である。図11において示されるように、垂直磁気記録媒体10の磁性層15には、サーボ信号等の情報が、初期磁化Piの反対向きの磁化となって記録磁化Pdとして記録される。
【0068】
前記記録用磁界(Hd)は、目的に応じて適宜選択されるが、一般に、垂直磁気記録媒体10の磁性層16の保磁力(Hc)の40〜130%の強度の磁界が好ましく、50〜120%が更に好ましい。
【0069】
磁気転写用マスター担体20を用いて垂直磁気記録媒体10に情報を記録する際(磁気転写する際)、例えば、互いに密着した垂直磁気記録媒体10及び磁気転写用マスター担体20を、所定の回転手段(不図示)により回転させつつ、前記磁界印加手段によって記録用磁界(Hd)を印加してもよい。他の実施形態においては、該磁界印加手段に回転機構を儲け、垂直磁気記録媒体10及び磁気転写用マスター担体20に対し、相対的に回転させてもよい。
【0070】
図12は、磁気転写装置の概略を示す説明図である。該磁気転写装置は、コア62にコイル63が巻きつけられた電磁石からなる磁界印加手段60を有する。該磁気転写装置は、このコイル63に電流を流すと、ギャップ64において、互いに密着した磁気転写用マスター担体20及び垂直磁気記録媒体10に対し、垂直に磁界が発生する構造になっている。発生させる磁界の向きは、コイル63に流す電流の向きによって変えられる。従って、このような磁気転写装置によって、垂直磁気記録媒体10の初期磁化、及び磁気転写を行なえる。
【0071】
なお、前記磁気転写用マスター担体20により記録された垂直磁気記録媒体は、例えば、ハードディスク装置等の磁気記録再生装置に組み込まれて、使用される。該垂直磁気記録媒体は、サーボ精度が高く、良好な記録再生特性の高記録密度磁気記録再生装置を得られる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は以下に示される実施例に限定されるものではない。
【0073】
〔実施例1〕
〔磁気転写用マスター担体1〕
(原盤の作製)
【0074】
8インチのSiウェハ(原板)上に、電子線レジストをスピンコート法により、100nmの厚みで塗布した。塗布後、該原板上の該レジストに対し、回転式電子線露光装置を用いて、サーボ情報等に対応させて変調した電子ビームを照射し、該レジストを露光した。その後、該レジストを現像し、未露光部分を除去して、該原板上に該レジストのパターンを形成した。
【0075】
次いで、パターン状の該レジストをマスクとして用い、該原板に対して反応性エッチング処理を行い、該レジストでマスクされていない箇所を掘り下げた。該エッチング処理後、該原板上に残存するレジストを溶剤で洗浄し、除去した。その後、該原板を乾燥させて、磁気転写用マスター担体を作製するための原盤を得た。
【0076】
(磁気転写用マスター担体の作製)
前記原盤上に、Niからなる導電層(厚み:10nm)をスパッタリング法により、形成した。その後、該導電層を形成した原盤を母型として用い、電鋳法により、該原盤上に、Ni層を形成した。その後、Ni層を原盤から引き剥がし、該Ni層を洗浄等して、表面に凸部を配設したNi基材を得た。
【0077】
次いで、前記Ni基材を、所定のチャンバー内にセットし、該Ni基材の凸部の先端面に、下地層としてTa膜、及びPt膜を、磁性層としてCoPt膜(Co80Pt20at%)を、それぞれスパッタリング法により、形成した(Ta膜:10nm、Pt膜:10nm、)。成膜条件は、以下の通りである。
【0078】
<成膜条件>
[Ta膜]
ターゲット材料:Ta
成膜圧力:2.0Pa
Ni基材−ターゲット間距離:200nm
DCパワー:350W
【0079】
[Pt膜]
ターゲット材料:Pt
成膜圧力:2.0Pa
Ni基材−ターゲット間距離:200nm
DCパワー:400W
【0080】
[CoPt膜]
ターゲット材料:CoPt
成膜圧力:2.0Pa
Ni基材−ターゲット間距離:200nm
DCパワー:1,000W
磁性層の厚みw1=20nm
【0081】
前記のように磁性層を形成した後、該磁性層の上に、軟磁性層としてのFeCo膜を、スパッタリング法により、形成した。成膜条件は、以下の通りである。
【0082】
<成膜条件>
成膜圧力:0.2Pa
Ni基材−ターゲット間距離:200mm
DCパワー:1,000W
軟磁性層の厚みw2=2nm
【0083】
以上のようにして、磁気転写用マスター担体を作製した。
【0084】
〔垂直磁気記録媒体〕
2.5インチのガラス基板上に、以下に示す手順で各層を形成し、垂直磁気記録媒体を作製した。
作製した垂直磁気記録媒体は、軟磁性層、第1の非磁性配向層、第2の非磁性配向層、磁性層、保護層、及び潤滑剤層が順次形成されている。
なお、軟磁性層、第1の非磁性配向層、第2の非磁性配向層、磁性層、及び保護層は、スパッタリング法で形成し、潤滑剤層は、ディップ法で形成した。
【0085】
(軟磁性層の形成)
前記軟磁性層として、CoZrNb膜を、100nmの厚みで形成した。
具体的には、前記ガラス基板を、CoZrNbターゲットと対向させて配置し、圧力が0.6PaとなるようにArガスを流入させ、DCパワー:1,500Wで放電して、成膜した。
【0086】
(第1の非磁性配向層の形成)
前記第1の非磁性配向層として、Ti膜を、5nmの厚みで形成した。
具体的には、前記軟磁性層を形成した後のガラス基板を、Tiターゲットと対向させて配置し、圧力が0.5PaとなるようにArガスを流入させ、DCパワー:1,000Wで放電して、成膜した。
【0087】
(第2の非磁性配向層の形成)
前記第2の非磁性配向層として、Ru膜を、6nmの厚みで形成した。
具体的には、前記第1の非磁性配向層を形成した後のガラス基板を、Ruターゲットと対向させて配置し、圧力が0.8PaとなるようにArガスを流入させ、DCパワー:900Wで放電して、成膜した。
【0088】
(磁性層の形成)
前記磁性層として、CoCrPtO膜を、18nmの厚みで形成した。
具体的には、前記第2の非磁性配向層を形成した後のガラス基板を、CoCrPtOターゲットと対向させて配置し、圧力が14PaとなるようにO2を0.06%含むArガスを流入させ、DCパワー:290Wで放電して、成膜した。
【0089】
(保護層の形成)
前記保護層として、C膜を、4nmの厚みで形成した。
具体的には、前記磁性層を形成した後のガラス基板を、Cターゲットと対向させて配置し、圧力が0.5PaとなるようにArガスを流入させ、DCパワー:1,000Wで放電して、成膜した。
【0090】
(潤滑剤層の形成)
前記潤滑剤層として、PFPE潤滑剤からなる層を、2nmの厚みで形成した。
【0091】
前記垂直磁気記録媒体の保磁力は、334kA/m(4.2kOe)であった。
【0092】
〔磁気転写〕
(初期磁化工程)
前記垂直磁気記録媒体に磁界を印加して、該垂直磁気記録媒体の初期磁化を行なった。印加した磁界の強度は、10kOeである。
【0093】
(密着工程)
初期磁気化後の垂直磁気記録媒体に対し、前記磁気転写用マスター担体を、9kg/cm2の圧力で密着させた。
【0094】
(磁気転写工程)
前記垂直磁気記録媒体と、前記磁気転写用マスター担体とを密着させた状態で、記録磁界を印加した。該記録磁界の強度は、3.6kOeである。
その後、該記録磁界の印加を停止し、該磁気転写用マスター担体を、該垂直磁気記録媒体から分離した。
【0095】
〔評価1〕
(磁気転写用マスター担体1の保磁力Hc、及び残留磁化Mr)
記録磁界の印加を停止した後、垂直磁気記録媒体から分離した磁気転写用マスター担体1の磁性層の保磁力Hc、及び残留磁化Mrを評価した。
保磁力Hc、及び残留磁化Mrの測定には、振動試料型磁力計(東英工業社製、VSM−C7)を使用した。
結果は、表1に示した。
【0096】
〔評価2〕
(磁気転写を行った磁気記録媒体のサーボ信号品位)
前記磁気転写を行った垂直磁気記録媒体に記録されたサーボ信号の品位を評価した。サーボ信号品位の評価としては、プリアンブル部のTAA(Track Average Amplitude)再生出力を、半径15mm位置の全セクタに対して検出し、そのSNRを算出した。評価装置には、協同電子社製 LS−90を用い、リード幅120nm、ライト幅200nmのGMRヘッドを使用した。結果は、表1に示した。
【0097】
〔実施例2〕
(磁気転写用マスター担体2)
実施例1と同様にして作製したNi基材上に、実施例1と同条件で磁性層を成膜した後、軟磁性層としてのFeCo膜を、スパッタリング法により、形成した。成膜条件は、以下の通りである。
【0098】
<成膜条件>
成膜圧力:0.2Pa
Ni基材−ターゲット間距離:200mm
DCパワー:1,000W
軟磁性層の厚みw2=5nm
【0099】
〔実施例3〕
(磁気転写用マスター担体3)
実施例1と同様にして作製したNi基材上に、実施例1と同条件で磁性層を成膜した後、軟磁性層としてのFeCo膜を、スパッタリング法により、形成した。成膜条件は、以下の通りである。
【0100】
<成膜条件>
成膜圧力:0.2 Pa
Ni基材−ターゲット間距離:200mm
DCパワー:1,000W
軟磁性層の厚みw2=10nm
【0101】
〔実施例4〕
(磁気転写用マスター担体4)
実施例1と同様にして作製したNi基材上に、実施例1と同条件で磁性層を成膜した後、軟磁性層としてのFeCo膜を、スパッタリング法により、形成した。成膜条件は、以下の通りである。
【0102】
<成膜条件>
成膜圧力:0.2Pa
Ni基材−ターゲット間距離:200mm
DCパワー:1,000W
軟磁性層の厚みw2=15nm
【0103】
〔実施例5〕
(磁気転写用マスター担体5)
実施例1と同様にして作製したNi基材上に、実施例1と同条件で磁性層を成膜した後、軟磁性層としてのFeCo膜を、スパッタリング法により、形成した。成膜条件は、以下の通りである。
【0104】
<成膜条件>
成膜圧力:0.2Pa
Ni基材−ターゲット間距離:200mm
DCパワー:1,000W
軟磁性層の厚みw2=20nm
【0105】
〔比較例1〕
(磁気転写用マスター担体11)
実施例1と同様にして作製したNi基材上に、実施例1と同条件で磁性層を成膜した後、軟磁性層を成膜せずに、実施例1と同様の評価を行った。
【0106】
【表1】
【0107】
表1に示されるように、実施例1〜5は、比較例1に対し、保磁力Hc及び残留磁化Mrの低減効果が見られた。また、サーボ信号品位の評価においても、良好な結果が得られた。
但し、軟磁性層の厚みw2=15nm以上では、サーボ信号品位の低下が見られる。これは、軟磁性層の厚みが厚くなりすぎることで、磁性凸部の線幅が広がり、信号品位の低下が引き起こされたためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】図1は、磁気転写方法の概略を示す説明図である。
【図2】図2は、磁気転写用マスター担体の断面の概略を示す説明図である。
【図3】図3は、磁気転写用マスター担体の上面の説明図である。
【図4A】図4Aは、一般的な、垂直磁化膜のM−H曲線を表す説明図である。
【図4B】図4Bは、他の垂直磁化膜のM−H曲線を表す説明図である。
【図5】図5は、磁性層のM−H曲線を模式的に表した説明図である。
【図6】図6は、磁気転写用マスター担体の製造に用いられる原盤の製造工程を示す説明図である。
【図7】図7は、磁気転写用マスター担体の製造工程を示す説明図である。
【図8】図8は、垂直磁気記録媒体の断面の概略を示す説明図である。
【図9】図9は、初期磁化後の垂直磁気記録媒体の磁性層の磁化方向を示す説明図である。
【図10】図10は、磁気転写における垂直磁気記録媒体及び磁気転写用マスター担体の断面の様子を示す説明図である。
【図11】図11は、磁気転写後の垂直磁気記録媒体の磁性層の磁化方向を示す説明図である。
【図12】図12は、磁気転写装置の概略を示す説明図である。
【符号の説明】
【0109】
10 垂直磁気記録媒体(スレーブディスク)
20 磁気転写用マスター担体(マスターディスク)
200 基材
201 凸部
202 先端面
203 側面
204 凹部
40 磁性層
43 軟磁性層
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体に情報を磁気転写する磁気転写用マスター担体、該磁気転写用マスター担体を用いた磁気転写方法、及び該磁気転写方法を用いて作製された磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
情報を高密度で記録可能な磁気記録媒体として、垂直磁気記録方式の磁気記録媒体(以下、垂直磁気記録媒体)が知られている。この垂直磁気記録媒体の情報記録領域は、狭トラックで構成されている。そのため、垂直磁気記録媒体では、狭いトラック幅において正確に磁気ヘッドを走査し、高いS/N比で信号を再生するためのトラッキングサーボ技術が重要となる。このトラッキングサーボを行うためには、トラッキング用のサーボ信号、アドレス情報信号、再生クロック信号等のサーボ情報を、所定間隔で垂直磁気記録媒体に、いわゆるプリフォーマットとして記録しておく必要がある。
【0003】
垂直磁気記録媒体に、サーボ情報をプリフォーマットする方法としては、例えば、サーボ情報に対応した、表面に磁性層を有する複数の凸部からなるパターンが形成されたマスター担体を、該垂直磁気記録媒体に密着させた状態で、記録用磁界を印加し、該マスター担体のパターンに対応するサーボ情報を、該垂直磁気記録媒体に磁気転写する方法がある(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0004】
前記方法において、垂直磁気記録媒体に前記マスター担体を密着させた状態で記録用磁界が印加されると、前記マスター担体の磁化状態に基づいて、磁束がパターン状に配置する磁性層に吸収される。その結果、前記記録用磁界は、前記マスター担体のパターンに対応して強められる。このパターン状に強められた磁界によって、垂直磁気記録媒体の所定箇所のみが磁化される。このようにして、該マスター担体のパターンに対応するサーボ情報が、該垂直磁気記録媒体に磁気転写される。
なお、磁気転写後、記録用磁界は解除され、該垂直磁気記録媒体と密着している該マスター担体は、該垂直磁気記録媒体から分離される。
【0005】
従来、この種のマスター担体の磁性層の材料としては、高飽和磁化を有する等方性の磁性材料が用いられていた。記録用磁界を印加した際に、該マスター担体の磁性層の磁化を高めて、該磁性層に磁束を吸収させ易くするためである。
【0006】
しかしながら、該マスター担体の磁性層は、厚みが数十ナノメータ程度であり、非常に薄く、反磁界の影響を強く受ける。そのため、該磁性層の材料として高飽和磁化を有する磁性材料を使用しても、反磁界によって実効的な磁性層への印加磁界(記録用磁界)が減少し、該磁性層が未飽和状態となってしまう。その結果、該磁性層の磁化を、希望通り高くすることができず、問題であった。
【0007】
そこで、前記磁性層の材料として、反磁界の影響を受け難い、垂直磁気異方性を有する磁性材料を用いることが検討されている。
【0008】
しかしながら、垂直磁気異方性を有する磁性材料からなる磁性層は、反磁界の影響は受け難いものの、保磁力Hc、及び残留磁化Mrが大きいという問題がある。
保磁力Hcが大きいと、磁性層を飽和させるのに必要な印加磁界を大きくする必要がある。印加磁界が大きくなると、マスター担体において、磁性層以外の箇所に存在する磁界によっても、垂直磁気記録媒体が磁化されることがあり、問題であった。
残留磁化Mrが大きいと、前記のように、該マスター担体を該垂直磁気記録媒体から分離する際、該マスター担体の位置が、該垂直磁気記録媒体の表面方向に沿って僅かにずれても、該マスター担体の磁性層の残留磁化によって、該垂直磁気記録媒体が不要に磁化されることがあり、問題であった。
【0009】
【特許文献1】特開2003−203325号公報
【特許文献2】特開2000−195048号公報
【特許文献3】米国特許第7218465号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、保磁力、及び残留磁化が低減された、垂直磁気異方性を有する磁性層を備えた磁気転写用マスター担体、該磁気転写用マスター担体を用いた磁気転写方法、及び該磁気転写用マスター担体を用いて作製された磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、前記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。即ち、
磁気転写用マスター担体の凸部の少なくとも先端面に形成される磁性層の表面に、軟磁性層を形成すると、保磁力、及び残留磁化が低減することを知見した。
【0012】
本発明は、本発明者等の前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 磁界が印加されると、垂直磁気記録媒体に記録すべき情報のパターンに対応した磁界のパターンを形成する磁気転写用マスター担体であって、該情報のパターンに対応して配設される凸部を表面に有する基材と、該凸部の先端面に少なくとも形成される、垂直磁気異方性を有する磁性層と、該磁性層の表面に形成される軟磁性層と、を備えることを特徴とする磁気転写用マスター担体である。
該<1>に係る磁気転写用マスター担体は、磁性層の表面に、軟磁性層を形成することにより、保磁力、及び残留磁化が低減される。
<2> 磁性層の厚みw1と、軟磁性層の厚みw2との比(w2/w1)が、0.1〜0.8である前記<1>に記載の磁気転写用マスター担体である。
<3> 磁界を印加して、垂直磁気記録媒体を初期磁化する初期磁化工程と、初期磁化された垂直磁気記録媒体に、請求項1または2に記載の磁気転写用マスター担体を密着させる密着工程と、該垂直磁気記録媒体と該磁気転写用マスター担体とを密着させた状態で、初期磁化工程において印加した磁界と逆向きの磁界を印加して、該垂直磁気記録媒体に情報を記録する磁気転写工程と、を有することを特徴とする磁気転写方法である。
<4> 前記<3>に記載の磁気転写方法を用いて作製されたことを特徴とする磁気記録媒体である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決することができ、保磁力、及び残留磁化が低減された、垂直磁気異方性を有する磁性層を備えた磁気転写用マスター担体、該磁気転写用マスター担体を用いた磁気転写方法、及び磁気転写方法を用いて作製された、磁気記録媒体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る磁気転写用マスター担体、磁気転写方法、及び磁気記録媒体について、図面を用いて説明する。
【0015】
図1は、磁気転写用マスター担体を用いて垂直磁気記録媒体に情報を磁気転写する磁気転写方法の概略を示す説明図である。該磁気転写方法は、初期磁化工程、密着工程、及び磁気転写工程を有する。先ず、図1を用いて、該磁気転写用マスター担体を用いた磁気転写技術の概略を説明する。
【0016】
〔磁気転写技術の概略〕
図1において、符号10は、垂直磁気記録媒体であるスレーブディスクを表し、符合20は、磁気転写用マスター担体であるマスターディスクを表す。
図1(a)は、初期磁化工程を示す説明図である。図1(a)に示されるように、該初期磁化工程において、スレーブディスク10に対し直流磁界(Hi)が印加されて、該スレーブディスク10が初期磁化される。該直流磁界(Hi)は、スレーブディスク10の平面に対し、垂直に印加される。
図1(b)は、密着工程を示す説明図である。図1(b)に示されるように、該密着工程において、初期磁化後のスレーブディスク10に該マスターディスク20を密着させる。
図1(c)は、磁気転写工程を示す説明図である。図1(c)に示されるように、該磁気転写工程において、互いに密着したスレーブディスク10及びマスターディスク20に対し、前記直流磁界(Hi)と逆向きの磁界(Hd)(記録用磁界)が印加され、該マスターディスク20に基づいた情報が、該スレーブディスク10に記録される。
【0017】
次いで、前記磁気転写用マスター担体、磁気転写方法、及び磁気記録媒体について、それぞれ図面を用いて詳細に説明する。
【0018】
〔磁気転写用マスター担体〕
図2は、磁気転写用マスター担体(マスターディスク)20の断面の概略を示す説明図である。図2に示されるように、該磁気転写用マスター担体20は、基材200と、磁性層40と、軟磁性層43を有する。
【0019】
(基材)
前記基材200の材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、ガラス、ポリカーボネート等の合成樹脂、ニッケル、アルミニウム等の金属、シリコン、カーボン等の公知の材料が用いられる。
【0020】
前記基材200の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。図2において示される磁気転写用マスター担体20は、円盤状である。前記基材200は、表面に複数の凸部201を有する。
【0021】
前記凸部201は、垂直磁気記録媒体に記録すべき情報のパターンに対応して前記基材200の表面に配設されている。垂直磁気記録媒体に記録すべき情報としては、例えば、サーボ信号、アドレス情報信号等のトラッキングサーボ技術用のサーボ情報がある。該凸部201は、該基材200の表面上で、該記録すべき情報のパターンに対応した、パターンを成している。前記基材200の表面に配設される該凸部201の個数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。
【0022】
図3は、磁気転写用マスター担体20(マスターディスク)を上面から見た説明図である。図3に示されるように、磁気転写用マスター担体20の表面(上面)には、サーボ情報のパターンに対応して配設される凸部からなるパターン(サーボパターン52)が、放射状に形成されている。
【0023】
前記凸部201の表面は、図2に示されるように、先端面202と、側面203とからなる。本実施形態において、先端面202は、平面となっている。該先端面202の外形形状は、特に制限は無く、目的に応じて適宜選択できる。本実施形態において、該先端面202は、四角形(正方形)となっている。前記凸部201間には、凹部204がある。
【0024】
(磁性層)
前記磁性層40は、前記凸部201の表面のうち、少なくとも先端面202に形成される。図2において示されるように、本実施形態においては、該凸部201の先端面202以外に、製造容易等の理由により、凹部204の表面にも磁性層400が形成されている。
【0025】
前記磁性層40は、垂直磁気異方性を有する磁性材料を含む。該磁性層40の磁性材料としては、Fe、Co及びNiのうち少なくとも1つの強磁性金属と、Cr、Pt、Ru、Pd、Si、Ti、B、Ta及びOのうち少なくとも1つの非磁性物質と、から構成される合金、或いは化合物が用いられる。
前記磁性層40は、該磁性層40の面内方向に対し、垂直な方向において、磁気異方性を有する。
【0026】
前記磁性層40の厚みw1としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜設定されるが、10nm〜200nmが好ましく、15nm〜120nmがより好ましく、20nm〜80nmが更に好ましい。
該磁性層40の厚みw1が10nm未満であると、磁性凸部にスレーブ媒体の磁化反転に充分な量の磁束を集められないことがあり、厚みw1が200nmを超えると、隣接するパターン(磁性凸部)と繋がり、凸部の形状が悪化し、転写品質が悪化することがある。
前記磁性層40の厚みw1は、例えば、触針式表面形状測定機(DEKTAK6M、ULVAC製)によって測定できる。
前記磁性層40の厚みw1は、平均値(平均厚み)である。該厚みw1は、半径15mm、22mm及び29mm(90度毎に4箇所:計12箇所)の平均値として算出される。
なお、前記磁性層40の厚みw1が薄い場合(20nm未満の場合)、他の方法を用いて測定される。
該磁性層40の断面方向の薄片をFIB加工によって作製し、該薄片を、透過電子顕微鏡(TEM)を用いて測定することにより、求められる。
該厚みw1は、半径15mm及び25mm(180度毎に2箇所:計4箇所)の平均値として算出した。
【0027】
前記磁性層40の形成方法(成膜方法)としては、例えば、スパッタリング法がある。成膜圧力(Pa)、基板−ターゲット間距離(mm)、DCパワー(W)等の条件を適宜、選択することにより、スパッタリング法によって、前記凸部201の先端面202に磁性層40を形成できる。
【0028】
前記磁性層40が、CoPtからなる場合、主として、成膜圧力、Pt濃度、成膜温度を調節することによって、該磁性層40の垂直磁気異方性を制御できる。
【0029】
前記磁性層40の保磁力Hc及び残留磁化Mrは、以下のように定義される。図4Aは、一般的な、垂直磁化膜のM−H曲線を表す説明図である。この曲線が横軸Hと交わる点において、Hが負の値をとる点がHcであり、縦軸Mと交わる点において、Mが正の値をとる点がMrである。
なお、図4Bは、他の垂直磁化膜のM−H曲線を表す説明図である。このようなM−H曲線を示す垂直磁化膜もある。Hc及びMrは、前記垂直磁化膜の場合と同様である。
【0030】
Hc及びMrを求める方法は、以下の通りである。
【0031】
磁気転写用マスター担体の磁性層40及び下地層と同じものを、該マスター担体の製造時と同じ条件で、Niを20nm成膜したSi基板(4インチ)上に形成する。該Si基板上に形成された試料を、6mm×8mmのサイズに切り出し、その切り出した試料に対し、振動試料型磁力計(東英工業社製、VSM−C7)を用いて、面内方向及び垂直方向に磁界を印加して、その試料の磁化曲線の測定を行う。
得られた垂直磁化曲線に基づいて、保磁力Hc及び残留磁化Mrを算出する。
【0032】
(軟磁性層)
前記軟磁性層43は、前記磁性層40の表面に形成される。
軟磁性層の材料としては、軟磁性、若しくは半硬質磁性等の保磁力の小さい磁性層であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択され、例えば、Fe、Fe合金(FeCo、FeCoNi)、Co、Co合金(CoNi)、Ni、Ni合金(NiFe)が用いられる。特に、高飽和磁化材料であるFeCo、Coが好ましい。
【0033】
前記軟磁性層の形成方法としては、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等の真空成膜手段、メッキ法等が用いられる。
【0034】
該軟磁性層の厚みw2としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜設定されるが、1nm〜150nmが好ましく、2nm〜90nmがより好ましく、2nm〜60nmが更に好ましい。
該軟磁性層43の厚みw2が2nm未満であると、磁性層として機能しないことがあり、厚みw2が160nmを超えると隣接するパターン(磁性凸部)の転写品質を悪化させることがある。
前記軟磁性層43の厚みw2は、例えば、触針式表面形状測定機(DEKTAK6M、ULVAC製)によって測定できる。
前記軟磁性層43の厚みw2は、平均値(平均厚み)である。該厚みw2は、半径15mm、22mm及び29mm(90度毎に4箇所:計12箇所)の平均値として算出される。
なお、前記軟磁性層43の厚みw2が薄い場合(20nm未満の場合)、他の方法を用いて測定される。
該軟磁性層43の断面方向の薄片をFIB加工によって作製し、該薄片を、透過電子顕微鏡(TEM)を用いて測定することにより、求められる。
該厚みw1は、半径15mm及び25mm(180度毎に2箇所:計4箇所)の平均値として算出した。
【0035】
前記磁性層40の厚みw1と、前記軟磁性層43の厚みw2との比(w2/w1)としては、0.1〜0.8が好ましい。
【0036】
前記磁性層40は、必要に応じて、下地層、保護層等の他の層を含んでもよい。
【0037】
(下地層)
前記磁性層40の下に、必要に応じて、下地層を形成してもよい。該下地層の材料としては、Pt、Ru、Pd、Co、Cr、Ni、W、Ta、Al、P、Si、Tiのうち、少なくとも1つを含有する金属、合金、或いは化合物が挙げられる。該下地層の材料としては、Pt、Ru等の白金属の金属、合金が好ましい。該下地層は、単層でもよく、多層でもよい。該下地層は、スパッタリング法等の公知の方法により、形成できる。
該下地層の厚みは、1nm〜30nmの範囲が好ましく、3nm〜10nmの範囲が更に好ましい。
【0038】
(保護層等)
前記磁性層40上の軟磁性層43の表面に、必要に応じて、ダイヤモンドライクカーボン等の保護層を形成してもよい。該保護層の厚みは、通常、10nm以下である。更に、該保護層の上に、潤滑層剤層を形成してもよい。
【0039】
図5は、該磁気転写用マスター担体20の磁性層40のみ、及び磁性層40と軟磁性層43のM−H曲線を模式的に表した説明図である。
図5において、横軸は磁界(H)、縦軸(M)は磁化の強さを表す。図5において、実線で示されるM−H曲線は、図2において示される磁性層40と軟磁性層43のM−H曲線であり、破線で示されるM−H曲線は、軟磁性層43が形成されていない磁性層のM−H曲線である。
図5において示されるように、本発明の磁性層40は、軟磁性層43が形成されていない状態よりも、保磁力Hc、及び残留磁化Mrが、低減されている。
これは、磁性層40と軟磁性層43との間にカップリングが形成され、その結果、磁性層40の磁気異方性エネルギーが、軟磁性層43を形成する前と比べて、小さくなり、その結果、保磁力Hc、及び残留磁化Mrも減少したものと考えられる。
【0040】
〔磁気転写用マスター担体の製造方法〕
前記磁気転写用マスター担体20の製造には、原盤が用いられる。先ず、原盤の一製造方法を、図6を用いて説明する。
【0041】
(原盤の製造)
図6は、磁気転写用マスター担体20の製造に用いられる原盤の製造工程を示す説明図である。
図6(a)に示されるように、表面が平滑なシリコンウェハ(Si基板)からなる原板30を用意し、この原板30上に、電子線レジスト液をスピンコート法等により塗布して、レジスト層32を形成する(図6(b)参照)。その後、該レジスト層32を、ベーキング処理(プレベーク)する。
【0042】
次いで、図6(c)に示されるように、高精度な回転ステージ、又はX−Yステージを備えた不図示の電子ビーム露光装置のステージ上に、前記原板30をセットし、該原板30を回転させながら、該レジスト層32に対し、サーボ信号に対応させて変調した電子ビームを照射し、該レジスト層32に、サーボ信号に対応させたパターンを描画露光した。なお、図6(c)において、符号33が露光部分を表す。
【0043】
次いで、図6(d)に示されるように、該レジスト層32を現像処理し、露光部分(描画部分)33を除去すると、パターン状のレジスト層32が原板30上に形成される。
なお、原板30上に塗布されるレジストは、ポジ型、ネガ型のいずれも使用可能である。なお、ポジ型と、ネガ型とでは、露光(描画)パターンが反転することになる。
前記現像処理後、レジスト層32と原板30との密着力を高めるためのベーキング処理(ポストベーク)を行う。
【0044】
次いで、図6(e)に示されるように、該レジスト層32をマスクとして、該レジスト層32の開口部34より、原板30を、表面より所定の深さだけ除去(エッチング)する。該エッチングとしては、アンダーカット(サイドエッチ)を最小にするべく、異方性のエッチングを選択することが好ましい。該異方性のエッチングとしては、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)が好ましい。
【0045】
次いで、図6(f)に示されるように、エッチング後の該レジスト層32を除去する。該レジスト層32の除去方法としては、アッシング等の乾式法、剥離液による除去等の湿式法のいずれも採用できる。該レジスト層32が除去されると、原盤36が得られる。
【0046】
(磁気転写用マスター担体の製造)
前記原盤36を用いた、磁気転写用マスター担体20の一製造方法を、図7を用いて説明する。
【0047】
図7(g)に示されるように、原盤36の表面に、厚みが均一な導電層37を形成する。該導電層37の形成方法としては、PVD(Physical Vapor Deposition)、CVD(Chemical Vapor Deposition)等の各種金属成膜法を採用できる。該導電層37としては、例えば、Niを主成分とする膜からなる。このような、Niを主成分とする膜は、形成が容易であり、且つ、硬質であるため、該導電膜37として好適である。該導電層37の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択されるが、一般的に、数十nm程度が採用される。
【0048】
次いで、図7(h)に示されるように、原盤36の表面に、電鋳により、所望の厚みの金属板38を積層する。該金属板の材料としては、例えば、Niが挙げられる。
電鋳は、所定の電鋳装置(不図示)において行なわれる。該電解装置は、スルファミン酸Ni等の電解液の入った電解液槽を有し、該電解液槽中の電解液に原盤36が浸される。該原盤36を陽極とし、該陽極と、図示されない陰極との間を通電すると、該原盤36上に金属板が積層される。電解液の濃度、電解液のpH、電流値等の諸条件は、適宜、設定される。
その後、前記金属板38を積層した原盤36は、電鋳装置の電解液槽から取り出され、純水等からなる剥離液に浸される。該剥離液中において、金属板38は、原盤36から引き剥がされる。このようにして、図7(i)に示されるような、原盤36表面の凹凸形状が反転した、表面形状を有する基板200が得られる。
【0049】
次いで、図7(j)において示されるように、前記基板200表面上の凸部201の先端面202に磁性層40を形成する。
該磁性層40の材料は、例えば、CoPtからなる。該磁性層40は、前記材料をターゲットとして用いたスパッタリング法によって形成される。
【0050】
次いで、図7(k)において示されるように、該磁性層40の上に、更に軟磁性層43を形成する。
該軟磁性層43の材料は、例えば、FeCo、Coからなる。該軟磁性層43は、前記材料をターゲットとして用いたスパッタリング法によって形成される。
必要に応じて、前記基板200を所定サイズに打抜き加工等すると、磁気転写用マスター担体20が得られる。
【0051】
〔垂直磁気記録媒体〕
前記磁気転写用マスター担体20を用いて磁気転写される垂直磁気記録媒体としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択される。図8は、垂直磁気記録媒体の断面の概略を示す説明図である。ここで、図8を用いて、一実施形態に係る該垂直磁気記録媒体の構成を説明する。
【0052】
図8に示されるように、該垂直磁気記録媒体10は、基板12と、軟磁性層(軟磁性下地層:SUL)13と、非磁性層(中間層)14と、磁性層15と、を有する。更に、図8において示される該垂直磁気記録媒体10は、該磁性層15上に、保護層16及び潤滑剤層17を備える。
【0053】
前記基板12は、円盤状であり、ガラス、Al(アルミニウム)等の非磁性材料からなる。
【0054】
前記軟磁性層13は、該磁性層16の垂直磁化状態を安定させ、記録再生時の感度を向上させる等の目的で設けられる。該軟磁性層13に用いられる材料としては、CoZrNb、FeTaC、FeZrN、FeSi合金、FeAl合金、パーマロイ等のFeNi合金、パーメンジュール等のFeCo合金等の軟磁性材料が用いられる。該軟磁性層13は、ディスクの中心から外側に向かって半径方向に(放射状に)磁気異方性が付けられている。
【0055】
前記非磁性層14は、後に形成する磁性層15の垂直方向の磁気異方性を大きくする等の目的で設けられる。該非磁性層14に用いられる材料としては、Ti、Cr、CrTi、CoCr、CrTa、CrMo、NiAl、Ru、Pd、Ta、Pt等が用いられる。
【0056】
前記磁性層15は、垂直磁化膜からなる。該垂直磁化膜は、膜内の磁化容易軸が基板12に対し、主として、垂直方向に配向している。該磁性層15に、情報が記録される。
該磁性層15に用いられる材料としては、Co合金(CoPtCr、CoCr、CoPtCrTa、CoPtCrNbTa、CoCrB、CoPt等)、Co合金−SiO2、Co合金-TiO2、Fe合金(FePt等)等が用いられる。
【0057】
前記保護層16は、C(カーボン)等からなり、前記潤滑剤層17は、PFPE等のフフッ素系潤滑剤等からなる。
【0058】
なお、前記垂直磁気記録媒体10は、前記基板12の片面に磁性層15が形成されているが、他の実施形態においては、該基板12の表裏面に磁性層15が形成されてもよい。
また、他の実施形態においては、軟磁性層13、及び非磁性層14が、複数層形成されてもよい。
【0059】
〔磁気転写方法〕
以下、前記磁気転写用マスター担体を用いて、前記垂直磁気記録媒体に情報を磁気転写する方法を説明する。
該磁気転写方法は、前記磁気転写技術の概略において説明した通り、初期化工程、密着工程、及び磁気転写工程を有する。以下、図1等を用いて、一実施形態に係る磁気転写方法を説明する。
【0060】
<初期磁化工程>
前記初期化工程は、垂直磁気記録媒体10(スレーブディスク)に対し直流磁界(Hi)を印加して、該垂直磁気記録媒体10を初期磁化する工程である。
図1(a)に示されるように、該初期磁化工程において、垂直磁気記録媒体10に対し、直流磁界(Hi)が印加される。該直流磁界(初期化磁界)(Hi)は、垂直磁気記録媒体10の表面に対し、垂直に印加される。該直流磁界(Hi)は、所定の磁界印加手段(不図示)により、印加される。該直流磁界(Hi)の強さは、垂直磁気記録媒体10の保磁力Hc以上に設定される。
【0061】
図9は、初期磁化後の垂直磁気記録媒体の磁性層の磁化方向を示す説明図である。図9において示されるように、初期磁化後の垂直磁気記録媒体10の磁性層15は、該垂直磁気記録媒体10のディスク面と垂直な一方向に、初期磁化される。なお、図9における符号Piで示される矢印は、該磁性層の磁化方向を表す。
【0062】
<密着工程>
前記密着工程は、初期磁化後の垂直磁気記録媒体10に該磁気転写用マスター担体(
マスターディスク)20を密着させる工程である。
図1(b)に示されるように、初期磁化後の垂直磁気記録媒体10と、磁気転写用マスター担体20と重ね合わせ、密着させる。
該密着工程では、該磁気転写用マスター担体20の表面の凸部201上の磁性層40と、該垂直磁気記録媒体10の磁性層(記録層)とが密着する。該磁気転写用マスター担体20は、所定の押圧力で、該垂直磁気記録媒体10に密着させる。
【0063】
なお、必要に応じて、磁気転写用マスター担体20を垂直磁気記録媒体10に密着する前に、該垂直磁気記録媒体10に、グライドヘッド、研磨体等によって表面の微小突起又は付着粉塵埃を除去するクリーニング処理(バーニッシング等)を施してもよい。
【0064】
該密着工程は、図1(b)に示されるように、本実施形態においては、垂直磁気記録媒体10の片面のみに磁気転写用マスター担体20を密着させているが、他の実施形態においては、両面に磁性層を有する垂直磁気記録媒体(スレーブディスク)に対し、両面から磁気転写用マスター担体20を密着させてもよい。
【0065】
<磁気転写工程>
前記磁気転写工程は、互いに密着した垂直磁気記録媒体10及び磁気転写用マスター担体20に対し、前記初期磁界(Hi)と逆向きの磁界(Hd)である記録用磁界を印加することにより、該磁気転写用マスター担体20に基づいた情報を、該垂直磁気記録媒体10に記録する工程である。
図1(c)に示されるように、互いに密着した垂直磁気記録媒体10及び磁気転写用マスター担体20に対し、所定の磁界印加手段(不図示)により、該初期磁界(Hi)と逆向きの磁界(Hd)を発生させる。
【0066】
図10は、磁気転写工程における垂直磁気記録媒体10及び磁気転写用マスター担体20の断面の様子を示す説明図である。図10に示されるように、垂直磁気記録媒体10及び磁気転写用マスター担体20を密着させた状態で、記録用磁界(Hd)を印加すると、該磁界(Hd)により生じた磁束Gは、磁気転写用マスター担体20に進入し、磁気転写用マスター担体20の有する磁性層40に吸収される。その結果、磁気転写用マスター担体20の凸部201の領域で、磁界が強くなる。これに対し、磁気転写用マスター担体20の凹部204の領域の磁界は、該凸部201の領域の磁界よりも弱くなる。このようにして、垂直磁気記録媒体10に記録すべき情報に対応した磁界のパターンが形成される。
その結果、凸部201に対応する領域では、垂直磁気記録媒体10の磁性層15の磁化の向きが反転し、情報が記録される、なお、凹部204に対応する領域では、磁性層15の磁化の向きは変化しない。
【0067】
図11は、磁気転写工程後の垂直磁気記録媒体の磁性層の磁化方向を示す説明図である。図11において示されるように、垂直磁気記録媒体10の磁性層15には、サーボ信号等の情報が、初期磁化Piの反対向きの磁化となって記録磁化Pdとして記録される。
【0068】
前記記録用磁界(Hd)は、目的に応じて適宜選択されるが、一般に、垂直磁気記録媒体10の磁性層16の保磁力(Hc)の40〜130%の強度の磁界が好ましく、50〜120%が更に好ましい。
【0069】
磁気転写用マスター担体20を用いて垂直磁気記録媒体10に情報を記録する際(磁気転写する際)、例えば、互いに密着した垂直磁気記録媒体10及び磁気転写用マスター担体20を、所定の回転手段(不図示)により回転させつつ、前記磁界印加手段によって記録用磁界(Hd)を印加してもよい。他の実施形態においては、該磁界印加手段に回転機構を儲け、垂直磁気記録媒体10及び磁気転写用マスター担体20に対し、相対的に回転させてもよい。
【0070】
図12は、磁気転写装置の概略を示す説明図である。該磁気転写装置は、コア62にコイル63が巻きつけられた電磁石からなる磁界印加手段60を有する。該磁気転写装置は、このコイル63に電流を流すと、ギャップ64において、互いに密着した磁気転写用マスター担体20及び垂直磁気記録媒体10に対し、垂直に磁界が発生する構造になっている。発生させる磁界の向きは、コイル63に流す電流の向きによって変えられる。従って、このような磁気転写装置によって、垂直磁気記録媒体10の初期磁化、及び磁気転写を行なえる。
【0071】
なお、前記磁気転写用マスター担体20により記録された垂直磁気記録媒体は、例えば、ハードディスク装置等の磁気記録再生装置に組み込まれて、使用される。該垂直磁気記録媒体は、サーボ精度が高く、良好な記録再生特性の高記録密度磁気記録再生装置を得られる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は以下に示される実施例に限定されるものではない。
【0073】
〔実施例1〕
〔磁気転写用マスター担体1〕
(原盤の作製)
【0074】
8インチのSiウェハ(原板)上に、電子線レジストをスピンコート法により、100nmの厚みで塗布した。塗布後、該原板上の該レジストに対し、回転式電子線露光装置を用いて、サーボ情報等に対応させて変調した電子ビームを照射し、該レジストを露光した。その後、該レジストを現像し、未露光部分を除去して、該原板上に該レジストのパターンを形成した。
【0075】
次いで、パターン状の該レジストをマスクとして用い、該原板に対して反応性エッチング処理を行い、該レジストでマスクされていない箇所を掘り下げた。該エッチング処理後、該原板上に残存するレジストを溶剤で洗浄し、除去した。その後、該原板を乾燥させて、磁気転写用マスター担体を作製するための原盤を得た。
【0076】
(磁気転写用マスター担体の作製)
前記原盤上に、Niからなる導電層(厚み:10nm)をスパッタリング法により、形成した。その後、該導電層を形成した原盤を母型として用い、電鋳法により、該原盤上に、Ni層を形成した。その後、Ni層を原盤から引き剥がし、該Ni層を洗浄等して、表面に凸部を配設したNi基材を得た。
【0077】
次いで、前記Ni基材を、所定のチャンバー内にセットし、該Ni基材の凸部の先端面に、下地層としてTa膜、及びPt膜を、磁性層としてCoPt膜(Co80Pt20at%)を、それぞれスパッタリング法により、形成した(Ta膜:10nm、Pt膜:10nm、)。成膜条件は、以下の通りである。
【0078】
<成膜条件>
[Ta膜]
ターゲット材料:Ta
成膜圧力:2.0Pa
Ni基材−ターゲット間距離:200nm
DCパワー:350W
【0079】
[Pt膜]
ターゲット材料:Pt
成膜圧力:2.0Pa
Ni基材−ターゲット間距離:200nm
DCパワー:400W
【0080】
[CoPt膜]
ターゲット材料:CoPt
成膜圧力:2.0Pa
Ni基材−ターゲット間距離:200nm
DCパワー:1,000W
磁性層の厚みw1=20nm
【0081】
前記のように磁性層を形成した後、該磁性層の上に、軟磁性層としてのFeCo膜を、スパッタリング法により、形成した。成膜条件は、以下の通りである。
【0082】
<成膜条件>
成膜圧力:0.2Pa
Ni基材−ターゲット間距離:200mm
DCパワー:1,000W
軟磁性層の厚みw2=2nm
【0083】
以上のようにして、磁気転写用マスター担体を作製した。
【0084】
〔垂直磁気記録媒体〕
2.5インチのガラス基板上に、以下に示す手順で各層を形成し、垂直磁気記録媒体を作製した。
作製した垂直磁気記録媒体は、軟磁性層、第1の非磁性配向層、第2の非磁性配向層、磁性層、保護層、及び潤滑剤層が順次形成されている。
なお、軟磁性層、第1の非磁性配向層、第2の非磁性配向層、磁性層、及び保護層は、スパッタリング法で形成し、潤滑剤層は、ディップ法で形成した。
【0085】
(軟磁性層の形成)
前記軟磁性層として、CoZrNb膜を、100nmの厚みで形成した。
具体的には、前記ガラス基板を、CoZrNbターゲットと対向させて配置し、圧力が0.6PaとなるようにArガスを流入させ、DCパワー:1,500Wで放電して、成膜した。
【0086】
(第1の非磁性配向層の形成)
前記第1の非磁性配向層として、Ti膜を、5nmの厚みで形成した。
具体的には、前記軟磁性層を形成した後のガラス基板を、Tiターゲットと対向させて配置し、圧力が0.5PaとなるようにArガスを流入させ、DCパワー:1,000Wで放電して、成膜した。
【0087】
(第2の非磁性配向層の形成)
前記第2の非磁性配向層として、Ru膜を、6nmの厚みで形成した。
具体的には、前記第1の非磁性配向層を形成した後のガラス基板を、Ruターゲットと対向させて配置し、圧力が0.8PaとなるようにArガスを流入させ、DCパワー:900Wで放電して、成膜した。
【0088】
(磁性層の形成)
前記磁性層として、CoCrPtO膜を、18nmの厚みで形成した。
具体的には、前記第2の非磁性配向層を形成した後のガラス基板を、CoCrPtOターゲットと対向させて配置し、圧力が14PaとなるようにO2を0.06%含むArガスを流入させ、DCパワー:290Wで放電して、成膜した。
【0089】
(保護層の形成)
前記保護層として、C膜を、4nmの厚みで形成した。
具体的には、前記磁性層を形成した後のガラス基板を、Cターゲットと対向させて配置し、圧力が0.5PaとなるようにArガスを流入させ、DCパワー:1,000Wで放電して、成膜した。
【0090】
(潤滑剤層の形成)
前記潤滑剤層として、PFPE潤滑剤からなる層を、2nmの厚みで形成した。
【0091】
前記垂直磁気記録媒体の保磁力は、334kA/m(4.2kOe)であった。
【0092】
〔磁気転写〕
(初期磁化工程)
前記垂直磁気記録媒体に磁界を印加して、該垂直磁気記録媒体の初期磁化を行なった。印加した磁界の強度は、10kOeである。
【0093】
(密着工程)
初期磁気化後の垂直磁気記録媒体に対し、前記磁気転写用マスター担体を、9kg/cm2の圧力で密着させた。
【0094】
(磁気転写工程)
前記垂直磁気記録媒体と、前記磁気転写用マスター担体とを密着させた状態で、記録磁界を印加した。該記録磁界の強度は、3.6kOeである。
その後、該記録磁界の印加を停止し、該磁気転写用マスター担体を、該垂直磁気記録媒体から分離した。
【0095】
〔評価1〕
(磁気転写用マスター担体1の保磁力Hc、及び残留磁化Mr)
記録磁界の印加を停止した後、垂直磁気記録媒体から分離した磁気転写用マスター担体1の磁性層の保磁力Hc、及び残留磁化Mrを評価した。
保磁力Hc、及び残留磁化Mrの測定には、振動試料型磁力計(東英工業社製、VSM−C7)を使用した。
結果は、表1に示した。
【0096】
〔評価2〕
(磁気転写を行った磁気記録媒体のサーボ信号品位)
前記磁気転写を行った垂直磁気記録媒体に記録されたサーボ信号の品位を評価した。サーボ信号品位の評価としては、プリアンブル部のTAA(Track Average Amplitude)再生出力を、半径15mm位置の全セクタに対して検出し、そのSNRを算出した。評価装置には、協同電子社製 LS−90を用い、リード幅120nm、ライト幅200nmのGMRヘッドを使用した。結果は、表1に示した。
【0097】
〔実施例2〕
(磁気転写用マスター担体2)
実施例1と同様にして作製したNi基材上に、実施例1と同条件で磁性層を成膜した後、軟磁性層としてのFeCo膜を、スパッタリング法により、形成した。成膜条件は、以下の通りである。
【0098】
<成膜条件>
成膜圧力:0.2Pa
Ni基材−ターゲット間距離:200mm
DCパワー:1,000W
軟磁性層の厚みw2=5nm
【0099】
〔実施例3〕
(磁気転写用マスター担体3)
実施例1と同様にして作製したNi基材上に、実施例1と同条件で磁性層を成膜した後、軟磁性層としてのFeCo膜を、スパッタリング法により、形成した。成膜条件は、以下の通りである。
【0100】
<成膜条件>
成膜圧力:0.2 Pa
Ni基材−ターゲット間距離:200mm
DCパワー:1,000W
軟磁性層の厚みw2=10nm
【0101】
〔実施例4〕
(磁気転写用マスター担体4)
実施例1と同様にして作製したNi基材上に、実施例1と同条件で磁性層を成膜した後、軟磁性層としてのFeCo膜を、スパッタリング法により、形成した。成膜条件は、以下の通りである。
【0102】
<成膜条件>
成膜圧力:0.2Pa
Ni基材−ターゲット間距離:200mm
DCパワー:1,000W
軟磁性層の厚みw2=15nm
【0103】
〔実施例5〕
(磁気転写用マスター担体5)
実施例1と同様にして作製したNi基材上に、実施例1と同条件で磁性層を成膜した後、軟磁性層としてのFeCo膜を、スパッタリング法により、形成した。成膜条件は、以下の通りである。
【0104】
<成膜条件>
成膜圧力:0.2Pa
Ni基材−ターゲット間距離:200mm
DCパワー:1,000W
軟磁性層の厚みw2=20nm
【0105】
〔比較例1〕
(磁気転写用マスター担体11)
実施例1と同様にして作製したNi基材上に、実施例1と同条件で磁性層を成膜した後、軟磁性層を成膜せずに、実施例1と同様の評価を行った。
【0106】
【表1】
【0107】
表1に示されるように、実施例1〜5は、比較例1に対し、保磁力Hc及び残留磁化Mrの低減効果が見られた。また、サーボ信号品位の評価においても、良好な結果が得られた。
但し、軟磁性層の厚みw2=15nm以上では、サーボ信号品位の低下が見られる。これは、軟磁性層の厚みが厚くなりすぎることで、磁性凸部の線幅が広がり、信号品位の低下が引き起こされたためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】図1は、磁気転写方法の概略を示す説明図である。
【図2】図2は、磁気転写用マスター担体の断面の概略を示す説明図である。
【図3】図3は、磁気転写用マスター担体の上面の説明図である。
【図4A】図4Aは、一般的な、垂直磁化膜のM−H曲線を表す説明図である。
【図4B】図4Bは、他の垂直磁化膜のM−H曲線を表す説明図である。
【図5】図5は、磁性層のM−H曲線を模式的に表した説明図である。
【図6】図6は、磁気転写用マスター担体の製造に用いられる原盤の製造工程を示す説明図である。
【図7】図7は、磁気転写用マスター担体の製造工程を示す説明図である。
【図8】図8は、垂直磁気記録媒体の断面の概略を示す説明図である。
【図9】図9は、初期磁化後の垂直磁気記録媒体の磁性層の磁化方向を示す説明図である。
【図10】図10は、磁気転写における垂直磁気記録媒体及び磁気転写用マスター担体の断面の様子を示す説明図である。
【図11】図11は、磁気転写後の垂直磁気記録媒体の磁性層の磁化方向を示す説明図である。
【図12】図12は、磁気転写装置の概略を示す説明図である。
【符号の説明】
【0109】
10 垂直磁気記録媒体(スレーブディスク)
20 磁気転写用マスター担体(マスターディスク)
200 基材
201 凸部
202 先端面
203 側面
204 凹部
40 磁性層
43 軟磁性層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁界が印加されると、垂直磁気記録媒体に記録すべき情報のパターンに対応した磁界のパターンを形成する磁気転写用マスター担体であって、
該情報のパターンに対応して配設される凸部を表面に有する基材と、
該凸部の先端面に少なくとも形成される、垂直磁気異方性を有する磁性層と、
該磁性層の表面に形成される軟磁性層と、を備えることを特徴とする磁気転写用マスター担体。
【請求項2】
磁性層の厚みw1と、軟磁性層の厚みw2との比(w2/w1)が、0.1〜0.8である請求項1に記載の磁気転写用マスター担体。
【請求項3】
磁界を印加して、垂直磁気記録媒体を初期磁化する初期磁化工程と、
初期磁化された垂直磁気記録媒体に、請求項1または2に記載の磁気転写用マスター担体を密着させる密着工程と、
該垂直磁気記録媒体と該磁気転写用マスター担体とを密着させた状態で、初期磁化工程において印加した磁界と逆向きの磁界を印加して、該垂直磁気記録媒体に情報を記録する磁気転写工程と、を有することを特徴とする磁気転写方法。
【請求項4】
請求項3に記載の磁気転写方法を用いて作製されたことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項1】
磁界が印加されると、垂直磁気記録媒体に記録すべき情報のパターンに対応した磁界のパターンを形成する磁気転写用マスター担体であって、
該情報のパターンに対応して配設される凸部を表面に有する基材と、
該凸部の先端面に少なくとも形成される、垂直磁気異方性を有する磁性層と、
該磁性層の表面に形成される軟磁性層と、を備えることを特徴とする磁気転写用マスター担体。
【請求項2】
磁性層の厚みw1と、軟磁性層の厚みw2との比(w2/w1)が、0.1〜0.8である請求項1に記載の磁気転写用マスター担体。
【請求項3】
磁界を印加して、垂直磁気記録媒体を初期磁化する初期磁化工程と、
初期磁化された垂直磁気記録媒体に、請求項1または2に記載の磁気転写用マスター担体を密着させる密着工程と、
該垂直磁気記録媒体と該磁気転写用マスター担体とを密着させた状態で、初期磁化工程において印加した磁界と逆向きの磁界を印加して、該垂直磁気記録媒体に情報を記録する磁気転写工程と、を有することを特徴とする磁気転写方法。
【請求項4】
請求項3に記載の磁気転写方法を用いて作製されたことを特徴とする磁気記録媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−252297(P2009−252297A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−99621(P2008−99621)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
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