磁気転写用マスター担体及びその製造方法、並びに磁気転写方法
【課題】保管時の錆びの発生を抑制できる、耐食性に優れた磁気転写用マスター担体、及びその製造方法、並びに、前記磁気転写用マスター担体を用いた磁気転写方法を提供すること。
【解決手段】基材と、該基材上に磁性層とを備えてなり、かつ、該磁性層表面に存在する汚染物がプラズマ処理により除去されてなることを特徴とする磁気転写用マスター担体;基材上に磁性層を形成する工程、及び、該磁性層表面に存在する汚染物をプラズマ処理により除去する工程を含むことを特徴とする磁気転写用マスター担体の製造方法;並びに、前記磁気転写用マスター担体を用いた磁気転写方法である。
【解決手段】基材と、該基材上に磁性層とを備えてなり、かつ、該磁性層表面に存在する汚染物がプラズマ処理により除去されてなることを特徴とする磁気転写用マスター担体;基材上に磁性層を形成する工程、及び、該磁性層表面に存在する汚染物をプラズマ処理により除去する工程を含むことを特徴とする磁気転写用マスター担体の製造方法;並びに、前記磁気転写用マスター担体を用いた磁気転写方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録媒体に情報を磁気転写する磁気転写用マスター担体、及びその製造方法、並びに、前記磁気転写用マスター担体を用いた磁気転写方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報を高密度で記録可能な磁気記録媒体として、垂直磁気記録媒体が知られている。この垂直磁気記録媒体の情報記録領域は、狭トラックで構成されている。そのため、垂直磁気記録媒体では、狭いトラック幅において正確に磁気ヘッドを走査し、高いS/N比で信号を再生するためのトラッキングサーボ技術が重要となる。このトラッキングサーボを行うためには、トラッキング用のサーボ信号、アドレス情報信号、再生クロック信号等のサーボ情報を、所定間隔で垂直磁気記録媒体に、いわゆるプリフォーマットとして記録しておく必要がある。
【0003】
垂直磁気記録媒体に、サーボ情報をプリフォーマットする方法としては、例えば、サーボ情報に対応した、磁性層を含むパターンが形成されたマスター担体を、該磁気記録媒体に密着させた状態で記録用磁界(転写磁界)を印加し、マスター担体のパターンを磁気記録媒体に磁気転写する方法がある(例えば、特許文献1〜3参照)。
この方法において、該磁気記録媒体にマスター担体を密着させた状態で転写磁界が印加されると、磁束がマスター担体の磁化状態に基づきパターン上の磁性層に吸収され、磁界がパターンの凹凸形状に対応し強められる。このパターン状に強められた磁界によって、磁気記録媒体の所定箇所のみが磁化される。よって、これまでは高飽和磁化を有する磁性材料が積極的にマスター磁性層材料として使用されてきた。
【0004】
マスター担体に磁性層を形成するための材料として、例えば、従来から、Fe、Co、Pt、Cr等の合金が用いられている。これらの材料は組み合わせにもよるが、ある環境下では保管中に「錆び」が発生してしまい、耐食性に優れた磁性層を形成することは難しい。特に、Feを主成分とする合金(例えば、FeCo等)からなる磁性層は高飽和磁化を有する観点からは好ましいものの、一方で、高い確率で錆びが発生してしまうという問題があった。マスター担体は作製されてすぐに磁気記録媒体への磁気転写に使用されるとは限らず、様々な条件下で保管・輸送される場合が多いため、この錆びの問題は重大である。マスター担体に錆びが発生すると、磁気転写時のマスター磁性膜として機能しない(磁束を吸収出来ない)だけでなく、発生した腐食物により、転写時(密着時)に媒体とスペーシングを発生させ、転写信号形成を妨げてしまうことがある。
【0005】
上記問題の発生を抑制するために、例えば、磁性層上にダイヤモンドライクカーボン等の保護層を設けることも行われているが、十分な耐食性向上効果は得られていないのが現状である。
【0006】
【特許文献1】特開2003−203325号公報
【特許文献2】特開2000−195048号公報
【特許文献3】米国特許第7218465B1号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来における前記問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明は、保管時の錆びの発生を抑制できる、耐食性に優れた磁気転写用マスター担体、及びその製造方法、並びに、前記磁気転写用マスター担体を用いた磁気転写方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、以下のような知見を得た。即ち、マスター担体の磁性層上にプラズマ処理を施し、磁性層上の汚染物を除去することにより、保管時の錆びの発生を抑制でき、耐食性に優れたマスター担体を得ることができるという知見である。また、本発明者らは更に、磁性層材料としてCo及びPtを含む磁性層材料を使用することにより、耐食性をより一層向上できることをも見出した。
【0009】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 垂直磁気記録方式の磁気記録媒体上に配置し、磁場を印加して該磁気記録媒体に磁気情報を転写する磁気転写用マスター担体であって、
基材と、該基材上に磁性層とを備えてなり、かつ、
該磁性層表面に存在する汚染物がプラズマ処理により除去されてなることを特徴とする磁気転写用マスター担体である。
<2> 磁性層が、Co及びPtを含む磁性層材料からなる前記<1>に記載の磁気転写用マスター担体である。
<3> 垂直磁気記録方式の磁気記録媒体上に配置し、磁場を印加して該磁気記録媒体に磁気情報を転写する磁気転写用マスター担体の製造方法であって、
基材上に磁性層を形成する工程、及び、
該磁性層表面に存在する汚染物をプラズマ処理により除去する工程、を含むことを特徴とする磁気転写用マスター担体の製造方法である。
<4> 磁性層を、Co及びPtを含む磁性層材料を用いて形成する前記<3>に記載の磁気転写用マスター担体の製造方法である。
<5> 垂直磁気記録媒体を、垂直方向に初期磁化させる初期磁化工程と、
前記初期磁化工程後の垂直磁気記録媒体に対して、前記<1>から<2>のいずれかに記載の磁気転写用マスター担体を密着させる密着工程と、
前記垂直磁気記録媒体と前記磁気転写用マスター担体とを密着させた状態で、前記初期磁化と逆方向の垂直磁界を印加し、前記垂直磁気記録媒体に磁気情報を転写する工程と、を含むことを特徴とする磁気転写方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、従来における問題を解決することができ、保管時の錆びの発生を抑制できる、耐食性に優れた磁気転写用マスター担体、及びその製造方法、並びに、前記磁気転写用マスター担体を用いた磁気転写方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係る、磁気転写用マスター担体、及び、前記磁気転写用マスター担体の製造方法について説明する。
【0012】
先ず、図1を用いて垂直磁気記録の磁気転写技術の概要を説明する。図1は、垂直磁気記録の磁気転写方法の工程を示す説明図である。図1において、符号10は被転写用の磁気ディスクとしてのスレーブディスク(垂直磁気記録媒体に相当)、符号20は磁気転写用マスター担体としてのマスターディスクを表す。
【0013】
図1(a)に示されるように、スレーブディスク10のディスク平面に対し、垂直の方向から、直流磁界(Hi)を印加して、該スレーブディスク10を初期磁化する(初期磁化工程)。
初期磁化を行った後、図1(b)に示されるように、前記初期磁化後のスレーブディスク10と、マスターディスク20とを密着させる(密着工程)。
さらに、両ディスク10、20を密着させた後、図1(c)に示されるように、初期磁化の際に印加される磁界(Hi)とは、逆向きの磁界(Hd)を印加して、該スレーブディスク10に磁気転写する(磁気転写工程)。
【0014】
本実施形態の磁気転写用マスター担体とは、図1において示されるマスターディスク20に相当するものである。以下、このマスターディスク20を例に挙げて、本実施形態の磁気転写用マスター担体を説明する。
【0015】
〔マスターディスク(磁気転写用マスター担体)〕
図2(a)は、マスターディスク(磁気転写用マスター担体)20の部分断面図である。このマスターディスク20は、基材202と、該基材202の表面上に形成される磁性層204とを備える。該基材202は、その表面に、凸部206及び凹部207を有する。該凸部206は、その表面に前記磁性層204を有する。なお、本実施形態においては、製造が容易である等の理由により、凹部207の表面にも磁性層208が形成されている。他の実施形態においては、凹部207内に磁性層208がなくてもよい。
基材202の凸部206の表面(頂面)に形成される磁性層204は、転写信号に対応するビット部となる。このビット部は、初期磁化を反転させる部分であり、転写部に相当する。なお、凹部207は、磁化反転しない非転写部に相当する。
【0016】
図2(b)は、他の実施形態のマスターディスク20Aの部分断面図である。このマスターディスク20Aは、基材212と、該基材212の表面上に、転写信号に対応するビット部となる磁性層214とを備える。このマスターディスク20Aにおいては、該磁性層214が、転写部に相当し、隣り合う磁性層214の間の部分(隙間)が、非転写部に相当する。
【0017】
(基材)
前記基材は、例えば、ガラス、ポリカーボネート等の合成樹脂、ニッケル、アルミニウム等の金属、シリコン、カーボン等の公知の材料からなる。
【0018】
(磁性層)
前記磁性層を形成する材料(磁性層材料)としては、例えば、Fe、Co、Pt、CrNi、Pd等のうち、少なくとも1つを含有する金属、合金、化合物などが挙げられる。中でも、前記磁性層材料としては、Co及びPtを主成分として含むものであることが好ましく、CoとPtとからなる合金(CoPt)であることが特に好ましい。CoPtからなる磁性層を備えたマスターディスクは、保管時の錆びの発生を効果的に抑制することができ、耐食性により優れる点で、有利である。
【0019】
−プラズマ処理−
なお、前記マスターディスクでは、前記磁性層表面に存在する汚染物が、プラズマ処理により除去されてなることを特徴とする。前記磁性層表面に存在する汚染物が、プラズマ処理により除去されていることにより、前記マスターディスクは、保管時の錆びの発生を抑制することができ、耐食性に優れたものとなる。(なお、前記プラズマ処理の方法は後述する〔マスターディスクの製造方法〕の項目に記載する通りである。)
ここで、前記「汚染物」とは、特に制限はなく、例えば、プラズマ処理前の磁性層表面に存在する、Cl、Sなどが挙げられる。
また、前記「磁性層表面に存在する汚染物がプラズマ処理により除去された」とは、磁性層表面に存在するCl、及び、Sの合計存在量が、プラズマ処理前に比べ、プラズマ処理後に、単位面積当たりの質量比で、10%以上減少した状態をいうものとする。なお、前記減少率は、70%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましい。前記「磁性層表面に存在するCl、及び、Sの合計存在量」は、例えば、IC、ICP、TOF−SIMS、XPSなどにより測定することができる。
なお、プラズマ処理後の前記磁性層表面におけるCl、及び、Sの合計存在量は、70ng未満/枚であることが好ましく、30ng未満/枚であることがより好ましい。前記汚染物の存在量が、前記好ましい範囲内であると、より耐食性を向上させることができる点で、有利である。
【0020】
(保護層、潤滑剤層)
また、前記マスターディスク表面(磁性層上)には、更に機械的、摩擦特性、耐候性を改善するために、保護層が形成されていてもよいが、前記したように、前記マスターディスクは、プラズマ処理により前記磁性層表面の汚染物が除去されてなることから、前記保護層を形成しなくとも、耐食性に優れたものとすることができる点で、有利である。前記保護層の材料としては、硬質な炭素膜が好ましく、例えば、無機カーボン、ダイヤモンドライクカーボン等を用いることができる。
また、前記保護層上には、更に、潤滑剤からなる層(潤滑剤層)が形成されていてもよい。前記潤滑剤としては、一般的に、パーフルオロポリエーテル(PFPE)等のフッ素系樹脂が用いられる。
【0021】
ところで、前記保護層には、微小なピンホールが存在することに加え、前記潤滑剤層の被覆率も低いため、複数回の磁気転写工程において、前記ピンホールから水分が侵入し、従来のマスターディスク表面に磁性層酸化物が生成する場合があった。該酸化物が生成することにより、該磁性層の体積が膨張し、膨張した箇所が凸状となり、スレーブディスク表面に物理的欠陥が発生することがあった。
特に、従来のFeCoからなる磁性層を備えたマスターディスクを接触させると、該磁性層の金属元素、特にFeの腐食、酸化が選択的に発生するとう問題があった。
これに対し、Feよりもイオン化傾向が低い、Co、Ptを選択したCoPtからなる磁性層を備えたマスターディスクでは、上記問題を大幅に改善することができる。
【0022】
(下地層)
また、前記マスターディスクの磁性層の垂直配向性、磁気異方性エネルギー(Ku)、飽和磁化(Ms)、核生成磁界(Hn)等を調整するために、該磁性層の下(磁性層と基材との間)に、下地層が形成されていてもよい。
前記下地層の材料としては、例えば、Pt、Ru、Pd、Co、Cr、Ni、W、Ta、Al、P、Si、Tiのうち、少なくとも1つを含有する金属、合金、化合物などが挙げられる。中でも、前記下地層の材料としては、Pt、Ru等の白金属の金属、合金が好ましい。また、前記下地層は、単層でもよく、多層でもよい。
【0023】
〔マスターディスク(磁気転写用マスター担体)の製造方法〕
図3〜図5は、前記マスターディスクの各製造工程を示す説明図である。図3〜図5に基づいて、本実施形態の磁気転写用マスター担体(マスターディスク)の製造方法を説明する。
【0024】
図3(a)に示されるように、表面が平滑なシリコンウエハーである原板(Si基板)30を用意し、この原板30の上に、電子線レジスト液をスピンコート法等により塗布して、レジスト層32を形成し(図3(b)参照)、ベーキング処理(プレベーク)を行う。
【0025】
次いで、高精度な回転ステージ又はX−Yステージを備えた不図示の電子ビーム露光装置のステージ上に原板30をセットし、原板30を回転させながら、サーボ信号に対応して変調した電子ビームを照射し、レジスト層32の略全面に所定のパターン33、例えば各トラックに回転中心から半径方向に線状に延びるサーボ信号に相当するパターンを円周上の各フレームに対応する部分に描画露光(電子線描画)する(図3(c)参照)。
【0026】
次いで、図3(d)に示されるように、レジスト層32を現像処理し、露光(描画)部分を除去して、残ったレジスト層32による所望厚さの被覆層を形成する。この被覆層が次工程(エッチング工程)のマスクとなる。なお、基板30上に塗布されるレジストはポジ型、ネガ型のどちらでも使用可能であるが、ポジ型とネガ型では、露光(描画)パターンが反転することになる。この現像処理の後には、レジスト層32と原板30との密着力を高めるためにベーキング処理(ポストベーク)を行う。
【0027】
次いで、図3(e)に示されるように、レジスト層32の開口部より原板30を表面より所定深さだけ除去(エッチング)する。このエッチングにおいては、アンダーカット(サイドエッチ)を最小にすべく、異方性のエッチングが望ましい。このような、異方性のエッチングとしては、反応性イオンエッチング(RIE;Reactive Ion Etching)が好ましく採用できる。
【0028】
次いで、図4(f)に示されるように、レジスト層32を除去する。レジスト層32の除去方法は、乾式法としてアッシングが採用でき、湿式法として剥離液による除去法が採用できる。以上のアッシング工程により、所望の凹凸状パターンの反転型が形成された原盤36が作製される。
【0029】
次いで、図4(g)に示されるように、原盤36の表面に均一厚さに導電層38を形成する。この導電層38の形成方法としては、PVD(Physical Vapor Deposition)、CVD(Chemical Vapor Deposition)、スパッタリング、イオンプレーティングを含む各種の金属成膜法等が適用できる。このように、導電膜の層(符号38)を1層形成すれば、次工程(電鋳工程)の金属の電着が均一に行えるという効果が得られる。導電層38としては、Niを主成分とする膜であることが好ましい。このようなNiを主成分とする膜は、形成が容易であり、且つ、硬質であるため、導電膜としてふさわしい。この導電層38の膜厚として、特に制限はないが、数十nm程度が一般的に採用できる。
【0030】
次いで、図4(h)に示されるように、原盤36の表面に、電鋳により所望の厚さの金属(ここでは、Ni)による金属板40を積層する(反転板形成工程)。この工程は、電鋳装置の電解液中に原盤36を浸し、原盤36を陽極とし、陰極との間に通電することにより行われるが、このときの電解液の濃度、pH、電流のかけ方等は、積層された金属板40(すなわち、図2で説明した基材202に相当するマスター基板となるも)に歪みのない最適条件で実施されることが求められる。
【0031】
そして、上記のようにして金属板40の積層された原盤36が電鋳装置の電解液から取
り出され、剥離槽(図示略)内の純水に浸される。
【0032】
次いで、剥離槽内において、金属板40を原盤36から剥離し(剥離工程)、図4(i)に示すような、原盤36から反転した凹凸状パターンを有するマスター基板42を得る。
【0033】
次いで、図4(j)に示されるように、マスター基板42の凹凸表面上に磁性層48を形成する。該磁性層の材料としては、前記したような磁性層材料が使用できるが、中でも、CoPtを使用することが好ましい。該磁性層材料としてCoPtを使用することにより、保管時の錆びの発生を抑制でき、耐食性に優れたマスターディスクを得ることが可能となる。該磁性層48の厚みは、10nm〜320nmの範囲が好ましく、20nm〜300nmの範囲がより好ましく、30nm〜100nmが更に好ましい。
該磁性層48は、上記材料のターゲットを用い、例えば、スパッタリングにより形成される。例えば、該磁性層材料としてCoPtを用いる場合、該磁性層の組成は、主として、該磁性層形成時のスパッタ圧(力)、Pt濃度で制御出来る。スパッタ圧(力)は、0.2Pa〜50Paが好ましく、0.2Pa〜10Paがより好ましい。Pt濃度は、5〜50原子%が好ましく、10〜25原子%がより好ましい。また、スパッタリングで磁性層を形成する際に使用するスパッタガスとしては、一般的なアルゴン(Ar)ガスが使用できるが、その他の希ガスを使用してもよい。また、スパッタリングで磁性層を形成する際の投入電力としては、0.6〜16.0W/cm2が好ましく、3.0〜10.0W/cm2がより好ましい。
【0034】
次いで、図5(k)に示されるように、マスター基板42上に形成された磁性層48に対して、プラズマ処理を施す。前記プラズマ処理は、例えば、Ar、Kr、Xe等を含む不活性ガス雰囲気中で行うことができるが、簡便性の観点から、前記磁性層を形成する際に使用されたスパッタガスと同様のものを使用することが好ましい。
前記プラズマ処理を行う際の圧力としては、0.05〜2.0Paが好ましく、0.1〜0.5Paがより好ましい。前記圧力が、0.05Pa未満であると、放電が安定せず、均一な薄膜が形成出来ないことがあり、2.0Paを超えると、薄膜中に不活性ガス粒子を取り込んで、低密度の磁性膜になってしまうことがある。
前記プラズマ処理を行う際の投入電力としては、1.5〜32.0W/cm2が好ましく、3.0〜10.0W/cm2がより好ましい。前記投入電力が、1.5W/cm2未満であると、放電が安定せず、均一な薄膜が形成出来ないことがあり、32.0W/cm2を超えると、スパッタ粒子エネルギーが大き過ぎる事により、均一な薄膜が形成出来ないことがある。
前記プラズマ処理を行う際の処理時間としては、5〜180秒が好ましく、10〜60秒がより好ましい。前記処理時間が、5秒未満であると、汚染物除去率が低下することがあり、180秒を超えると、マスター表面の磁性膜表面に取り込まれる不活性ガスが多くなり、磁性膜の磁気特性が低下してしまうことがある。
前記プラズマ処理を施すことにより、前記磁性層表面に存在する汚染物を除去することができ、これにより、保管時の錆びの発生を抑制でき、耐食性に優れたマスターディスクを得ることが可能となる。(なお、前記汚染物とは前記した〔マスターディスク〕の項目に記載した通りである。)
【0035】
その後、マスター基板42の内径及び外径を、所定のサイズに打抜き加工する。以上のプロセスにより、図5(l)に示すように、磁性層48(図2における磁性層204に相当)が設けられた凹凸パターンを有するマスターディスク20を作製することができる。なお、図4(j)と図5(l)とは同図であるが、プラズマ処理前の図4(j)では、磁性層上に汚染物(不図示)が存在している状態を示すのに対して、プラズマ処理後の図5(l)では、プラズマ処理により磁性層上の汚染物が除去された状態を示す。
【0036】
図6はマスターディスク20の上面図である。図6に示されるように、マスターディスク20の表面には、凹凸パターンからなるサーボパターン52が形成される。
また、図には示さないが、マスターディスク20表面の磁性層48(図5(l)参照)の上にダイヤモンドライクカーボン等の保護膜(保護層)や、更に、保護膜上に潤滑剤層を設けてもよい。
該保護層を形成する目的は、マスターディスク20とスレーブディスク10とを密着させた際に磁性層48が傷つきやすく、マスターディスク20として使用できなくなってしまうことを防止するためである。また、潤滑剤層は、スレーブディスク10との接触の際に生じる摩擦による傷の発生などを防止し、耐久性を向上させる効果がある。
具体的には、保護層として、厚さが2〜30nmのカーボン膜を形成し、更にその上に潤滑剤層を形成した構成などが挙げられる。また、磁性層48と、保護層との密着性を強化するため、磁性層48上にSi等の密着強化層を形成し、その後に保護層を形成してもよい。
【0037】
〔スレーブディスク(垂直磁気記録媒体)の説明〕
図1において示される、前記スレーブディスク10は、円盤状の基板の表面の片面或いは、両面に磁性層が形成されたものであり、具体的には、高密度ハードディスク等が挙げられる。このスレーブディスク10を例に挙げ、図7を用いて、垂直磁気記録媒体の説明を行う。
【0038】
図7は、スレーブディスク10の断面を示す説明図である。図7に示されるように、スレーブディスク10は、ガラスなど非磁性の基板12上に、軟磁性層(軟磁性下地層;SUL)13、非磁性層(中間層)14、磁性層(垂直磁気記録層)16が順次積層形成された構造からなり、磁性層16の上は更に保護層18と潤滑層19とで覆われている。なお、ここでは、基板12の片面に磁性層16を形成した例を示すが、基板12の表裏両面に磁性層を形成する態様も可能である。
【0039】
円盤状の基板12は、ガラスやAl(アルミニウム)等の非磁性材料から構成されており、この基板12上に軟磁性層13を形成した後、非磁性層14と、磁性層16を形成する。
【0040】
軟磁性層13は、磁性層16の垂直磁化状態を安定させ、記録再生時の感度を向上させるために有益である。軟磁性層13に用いられる材料は、CoZrNb、FeTaC、FeZrN、FeSi合金、FeAl合金、パーマロイなどのFeNi合金、パーメンジュールなどのFeCo合金等の軟磁性材料が好ましい。この軟磁性層13は、ディスクの中心から外側に向かって半径方向に(放射状に)磁気異方性が付けられている。
【0041】
軟磁性層13の厚さは、20nm〜2000nmであることが好ましく、40nm〜400nmであることが更に好ましい。
【0042】
非磁性層14は、後に形成する磁性層16の垂直方向の磁気異方性を大きくする等の理由により設けられる。非磁性層14に用いられる材料は、Ti(チタン)、Cr(クロム)、CrTi、CoCr、CrTa、CrMo、NiAl、Ru(ルテニウム)、Pd(パラジウム)、Ta、Pt等が好ましい。非磁性層14は、例えば、スパッタリング法により上記材料を成膜することにより形成される。非磁性層14の厚さは、10nm〜150nmであることが好ましく、20nm〜80nmであることが更に好ましい。
【0043】
磁性層16は、垂直磁化膜(磁性膜内の磁化容易軸が基板に対し主に垂直に配向したもの)により形成されており、この磁性層16に情報が記録される。磁性層16に用いられる材料は、Co(コバルト)、Co合金(CoPtCr、CoCr、CoPtCrTa、CoPtCrNbTa、CoCrB、CoNi等)、Co合金−SiO2、Co合金−TiO2、Fe、Fe合金(FeCo、FePt、FeCoNi等)等が好ましい。これらの材料は、磁束密度が大きく、成膜条件や組成を調整することにより垂直の磁気異方性を有している。磁性層16は、スパッタリング法により上記材料を成膜することにより形成される。磁性層16の厚さは、10nm〜500nmであることが好ましく、20nm〜200nmであることが更に好ましい。
【0044】
本実施形態では、例えば、スレーブディスク10の基板12として、外形65mmの円盤状のガラス基板を用い、スパッタリング装置のチャンバー内にガラス基板を設置し、1.33×10−5Pa(1.0×10−7Torr)まで減圧した後、チャンバー内にAr(アルゴン)ガスを導入し、チャンバー内にあるCoZrNbターゲットを用い、同じくチャンバー内の基板の温度を室温として、80nm厚のSUL第1層をスパッタリング成膜する。次にその上に、チャンバー内にあるRuターゲットを用いて0.8nmのRu層をスパッタリング成膜する。さらにその上に、CoZrNbターゲットを用い、80nm厚のSUL第2層をスパッタリング成膜する。こうしてスパッタ成膜されたSULを、半径方向に50Oe以上の磁場を印加した状態で室温まで昇温し室温に冷却する。
【0045】
次に、例えば、Ruターゲットを用い、基板温度が室温の条件の下で放電させることによりスパッタリング成膜を行う。これによりRuからなる非磁性層14を60nm成膜する。
【0046】
この後、例えば、上記と同様にArガスを導入し、同じチャンバー内にあるCoCrPtターゲットを用い、同じく基板温度が室温の条件の下で放電させることによりスパッタリング成膜を行う。これによりCoCrPt−SiO2からなるグラニュラー構造の磁性層16を25nm成膜する。
【0047】
以上のプロセスにより、ガラス基板に、軟磁性層、非磁性層と磁性層が成膜された転写用磁気ディスク(スレーブディスク)10を作製することができる。
【0048】
〔磁気転写方法〕
以下、本発明の一実施形態に係る磁気転写方法について説明する。
【0049】
(スレーブディスクの初期磁化工程)
図1(a)に示されるように、スレーブディスク10の初期磁化(直流磁化)は、スレーブディスク10の表面に対し垂直に直流磁界を印加することができる装置(不図示の磁界印加手段)により初期化磁界Hiを発生させることにより行う。具体的には、初期化磁界Hiとしてスレーブディスク10の保磁力Hc以上の強度の磁界を発生させることにより行う。この初期磁化工程により、図8に示されるように、スレーブディスク10の磁性層16について、ディスク面と垂直な一方向に初期磁化Piさせる。なお、この初期磁化工程は、スレーブディスク10を磁界印加手段に対し相対的に回転させることにより行ってもよい。
【0050】
(磁気転写における密着工程)
次に、マスターディスク20と、初期磁化工程後のスレーブディスク10とを図1(b)のように重ね合わせて両者を密着させる工程(密着工程)を行う。図1(b)に示されるように、密着工程では、マスターディスク20の突起状パターン(凹凸パターン)の形成されている面と、スレーブディスク10の磁性層16の形成されている面とを所定の押圧力で密着させる。
【0051】
スレーブディスク10には、マスターディスク20に密着させる前に、グライドヘッド、研磨体等により、表面の微少突起又は付着塵埃を除去するクリーニング処理(バーニッシング等)が必要に応じて施される。
【0052】
なお、密着工程は、図1(b)に示すように、スレーブディスク10の片面のみにマスターディスク20を密着させる場合と、両面に磁性層が形成された転写用磁気ディスクについて、両面からマスターディスクを密着させる場合とがある。後者の場合では、両面を同時転写することができる利点がある。
【0053】
(磁気転写工程)
次に、図1(c)に基づき磁気転写工程を説明する。上記密着工程によりスレーブディスク10とマスターディスク20とを密着させたものについて、不図示の磁界印加手段により初期化磁界Hiの向きと反対方向に記録用磁界Hdを発生させる。記録用磁界Hdを発生させることにより生じた磁束がスレーブディスク10とマスターディスク20に進入することにより磁気転写が行われる。
【0054】
本実施形態では、記録用磁界Hdの大きさは、スレーブディスク10の磁性層16を構成する磁性材料のHcと略同じ値である。
【0055】
磁気転写は、スレーブディスク10及びマスターディスク20を密着させたものを不図示の回転手段により回転させつつ、磁界印加手段によって記録用磁界Hdを印加し、マスターディスク20に記録されている突起状のパターンからなる情報をスレーブディスク10の磁性層16に磁気転写する。なお、この構成以外にも、磁界印加手段を回転させる機構を設け、スレーブディスク10及びマスターディスク20に対し、相対的に回転させる手法であってもよい。
【0056】
磁気転写工程における、スレーブディスク10とマスターディスク20の断面の様子を図9に示す。図9に示されるように、凹凸パターンを有するマスターディスク20をスレーブディスク10が密着させた状態で、記録用磁界Hdを印加すると、磁束Gは、マスターディスク20の凸領域とスレーブディスク10が接触している領域では強く、記録用磁界Hdにより、マスターディスク20の磁性層48の磁化向きが記録用磁界Hdの方向に揃い、スレーブディスク10の磁性層16に磁気情報が転写される。一方、マスターディスク20の凹領域は、記録用磁界Hdの印加によって生じる磁束Gが凸領域に比べて弱く、スレーブディスク10の磁性層16の磁化向きが変わることはなく、初期磁化の状態を保ったままである。
【0057】
図10は、磁気転写に用いられる磁気転写装置について詳細に示したものである。磁気転写装置は、コア62にコイル63が巻きつけられた電磁石からなる磁界印加手段60を有するものであり、このコイル63に電流を流すことによりギャップ64において、密着させたマスターディスク20とスレーブディスク10の磁性層16に対し垂直に磁界を発生する構造になっている。発生する磁界の向きは、コイル63に流す電流の向きによって変えることができる。従って、この磁気転写装置によって、スレーブディスク10の初期磁化を行うことも、磁気転写を行うことも可能である。
【0058】
この磁気転写装置により初期磁化させた後、磁気転写を行う場合には、磁界印加手段60のコイル63に、初期磁化したときにコイル63に流した電流の向きと逆向きの電流を流す。これにより、初期磁化の際の磁化向きとは反対の向きに記録用磁界を発生させることができる。磁気転写は、スレーブディスク10及びマスターディスク20を密着させたものを回転させつつ、磁界印加手段60によって記録用磁界Hdを印加し、マスターディスク20に記録されている突起状のパターンからなる情報をスレーブディスク10の磁性層16に磁気転写するため、不図示の回転手段が設けられている。なお、この構成以外にも、磁界印加手段60を回転させる機構を設け、スレーブディスク10及びマスターディスク20に対し、相対的に回転させる手法であってもよい。
【0059】
本実施形態では、記録用磁界Hdは、本実施の形態に用いられるスレーブディスク10の磁性層16の保磁力Hcの40〜130%、好ましくは、50〜120%の強度の磁界を印加することにより磁気転写を行う。
【0060】
これにより、スレーブディスク10の磁性層16には、サーボ信号等の磁気パターンの情報が、初期磁化Piの反対向きの磁化となる記録磁化Pdとして記録される(図11参照)。
【0061】
なお、本発明の実施に際して、マスターディスク20に形成された突起状のパターンは、図5(l)で説明したポジパターンと反対のネガパターンであってもよい。この場合、初期化磁界Hiの方向及び記録用磁界Hdの方向を各々逆方向にすることにより、スレーブディスク10の磁性層16に、同様の磁化パターンを磁気転写することができるからである。また、本実施の形態では、磁界印加手段は、電磁石の場合について説明したが、同様に磁界が発生する永久磁石を用いてもよい。
【0062】
なお、上述した本発明の実施形態に係る方法により製造された垂直磁気記録媒体は、例えば、ハードディスク装置等の磁気記録再生装置に組み込まれて使用される。これにより、サーボ精度が高く、良好な記録再生特性の高記録密度磁気記録再生装置を得ることができる。
【0063】
〔効果〕
本発明によれば、耐食性に優れた磁気転写用マスター担体、及びその製造方法、並びに、前記磁気転写用マスター担体を利用した磁気転写方法を提供することができる。
ここで、前記「耐食性」とは、主に「防錆び効果」を示す。本発明の磁気転写用マスター担体に望まれる防錆び効果の程度としては、特に制限はないが、磁性層材料としてFeを主成分とする合金(FeCo等)を使用する場合には、錆び発生率が20〜50%程度であることが好ましく、また、磁性層材料としてCoPtを主成分とする合金を使用する場合には、錆び発生率が0〜1%程度であることが好ましい。(なお、プラズマ処理を施さずに得られる従来の磁気転写用マスター担体(磁性層材料としてFeを主成分とする合金を使用した場合)の錆び発生率は、58〜84%程度である。)ここで、前記「錆び発生率(%)」は、後述する実施例に記載の方法に従い、求めることができる。具体的には、80℃80RH%の高温高湿環境下で、マスター担体12枚を1週間保管し、保管後のマスター担体表面をハロゲン光観察と光学顕微鏡を併用して確認(異常を確認出来た場合は、FT−IR、EDAXによる詳細解析を実施)する。上記観察方法により異常が見られたマスター担体数を測定し、下記式により錆び発生率(%)を求めることができる。
[式]
錆び発生率(%)=(上記観察方法により異常が見られたマスター担体数/環境テスト後のマスター担体全数)×100
【0064】
本発明の磁気転写用マスター担体は、優れた防錆び効果(耐食性)を有するため、様々な条件下で保管・輸送した後であっても、磁気記録媒体への磁気転写に好適に使用することができる点で、有利である。
【実施例】
【0065】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0066】
〔実施例1〜5、比較例1〜5〕
以下のようにして、実施例1〜5のマスター担体(プラズマ処理有り)、及び、比較例1〜5のマスター担体(プラズマ処理無し)を作製した。また、垂直磁気記録媒体を作製し、得られた各マスター担体から垂直磁気記録媒体への磁気転写を行った。
【0067】
(マスター担体の作製)
−原盤の作製−
8インチのSi(シリコン)ウェハー(基板)上に、電子線レジストを、スピンコート法により、100nmの厚みで塗布した。塗布後、基板上の該レジストを、回転式電子線露光装置を用いて露光し、露光後の該レジストを現像して、凹凸パターンを有するレジストSi基板を作製した。
その後、該レジストをマスクとして用い、該基板に対して、反応性イオンエッチング処理を行い、凹凸パターンの凹部を掘り下げた。該エッチング処理後、該基板上に残存するレジストを可溶溶剤で洗浄し、除去した。除去後、該基板を乾燥したものを、マスター担体を調製するための原盤とした。
なお、本実施例1で用いたパターンは、大別すると、データ部と、サーボ部からなる。該データ部は、凸巾:90nm、凹巾:30nm(TP=120nm)のパターンで構成されている。該サーボ部は、基準信号長:80nm、総セクタ数:120、プリアンブル(40bit)/SAM(6bit)/Sectorcode(8bit)/CylinderCode(32bit)/Burstパターンで構成されている。該SAM部は、“001010”であり、SectorがBinary、CylinderはGray変換を用いている。Burst部は一般的な4バースト(各バーストは16bit)である。マンチェスター変換を使用した。
【0068】
−メッキ法によるマスター担体中間体の作製−
上記原盤上に、スパッタ法を用いてNi(ニッケル)導電性膜を20nm形成した。該導電性膜を形成した後の原盤を、スルファミン酸Ni浴に浸漬し、電解メッキにより、200μmの厚みのNi膜を形成した。その後、原盤よりNi膜を引き剥がし、洗浄して、Ni製のマスター担体中間体を得た。
【0069】
−磁気転写用磁性層の形成−
上記マスター担体中間体上に、アルゴン圧力0.3Pa条件下で、スパッタリング法により、下記表1に示す各磁性層材料からなる磁性層を、膜厚50nmとなるように形成した。磁性層形成時のスパッタリング条件は以下の通りである。
[スパッタリング条件]
アルゴン圧力:0.3Pa
基板−ターゲット間距離:200mm
投入電力(DC電源):1000W
装置:芝浦メカトロニクス製スパッタリング装置(OctavaII)
【0070】
−プラズマ処理−
更に、上記磁性層に対して、プラズマ処理を施し、磁性層表面の汚染物を除去することにより、実施例1〜5のマスター担体(プラズマ処理有り)を得た。この際のプラズマ処理条件は以下の通りである。なお、上記プラズマ処理後の磁性層表面における汚染物(S、Clの合計)の存在量をIC(イオンクロマト)により測定した(表1に、「汚染物量」として示す)。
[プラズマ処理条件]
アルゴン圧力:0.16Pa
基板−ターゲット間距離:75mm
投入電力(DC電源):1500W
処理時間:30秒間
装置:芝浦メカトロニクス製スパッタリング装置(OctavaII)
【0071】
また、上記プラズマ処理を施さない以外は、上記と同様に、マスター担体中間体上に磁性層を形成させて、比較例1〜5のマスター担体(プラズマ処理無し)を得た。なお、比較例1〜5のマスター担体(プラズマ処理無し)における汚染物(S、Clの合計)の存在量をIC(イオンクロマト)により測定した(表1に、「汚染物量」として示す)。
【0072】
(垂直磁気記録媒体の作製)
2.5インチのガラス基板上に、スパッタリング法を用いて、軟磁性層、第1非磁性配向層、第2非磁性配向層、磁気記録層及び保護層を、この順に形成した。更に、該保護層の上に、ディップ法により潤滑剤層を形成した。
軟磁性層の材料として、CoZrNbを用いた。該軟磁性層の厚みは、100nmであった。ガラス基板をCoZrNbターゲットと対向させて配置し、Arガスを0.6Pa圧になるように流入させ、DC1500Wで成膜した。
第1非磁性配向層としてTi:5nm、第2非磁性配向層としてRu:6nmを形成した。
第1非磁性配向層は、Tiターゲットと対向配置し、Arガスを0.5Pa圧になるように流入し、DC1000Wで放電し、5nmの厚さになるように、Tiシード層を成膜した。第1非磁性配向層形成後にRuターゲットと対向させて配置し、Arガスを0.8Pa圧になるように流入させ、DC900Wで放電し、6nmの厚さになるように第2非磁性配向層を成膜した。
磁気記録層として、CoCrPtO:18nmを形成した。CoCrPtOターゲットと対向させて配置し、O2を0.06%を含むArガスを14Pa圧になるように流入させ、DC290Wで放電し磁気記録層を作製した。
磁気記録層を形成した後に、C(カーボン)ターゲットと対向させて配置し、Arガスを0.5Pa圧になるように流入させ、DC1000Wで放電し、1000Wで放電し、C保護層(4nm)を形成した。この記録媒体の保磁力は、334kA/m(4.2kOe)とした。
更に、該媒体にディップ法により、PFPE潤滑剤を2nmの厚さで塗布した。
以上のようにして、垂直磁気記録媒体を調製した。
【0073】
(磁気転写)
上記垂直磁気記録媒体に対して、初期化を行った。初期化の際に印加する磁界の強度(初期磁界強度)は10kOeであった。
初期化済み垂直磁気記録媒体に対して、上記マスター担体を対向して配置し、これらを0.7MPaの圧力にて密着させた。互いに密着した状態で、磁界を印加して、磁気転写を行った。磁気転写に用いた磁界強度は4.6kOeであった。磁界印加終了後、マスター担体を、垂直磁気記録媒体から剥離した。
【0074】
〔評価〕
作製した実施例1〜5のマスター担体(プラズマ処理有り)、及び、比較例1〜5のマスター担体(プラズマ処理無し)について、以下のようにして耐食性(防錆び効果)を評価した。また、比較例1〜5のマスター担体(プラズマ処理無し)について、ビット長=100nmにおける単一波形の転写信号出力(平均値)を算出した。結果を表1に示す。
【0075】
−マスター担体の耐食性(防錆び効果)の評価−
各マスター担体12枚を、80℃、80RH%の高温高湿環境下で1週間保管した後、ハロゲン光観察と光学顕微鏡を併用して、各マスター担体の表面異常を確認した。ここで、表面異常とは、光学顕微鏡観察を用いて、目視でマスター表面を観察し、明らかに通常部と異なる異常部を確認したことを指す。表面異常を確認できた場合は更に、FT−IR、EDAXによる詳細解析を実施した(観察分解能:0.5μm以上)。上記表面異常の確認、及び、詳細解析の結果から、下記基準に基づき、各マスター担体の耐食性(防錆び効果)を評価した。なお、ここで、「錆び発生率(%)」とは、下記式により求めた値を示す。
[式]
錆び発生率(%)=(上記観察方法により異常が見られたマスター担体数/環境テスト後のマスター担体全数)×100
[耐食性(防錆び効果)基準]
◎:錆び発生率=10%未満
○:錆び発生率=10〜20%未満
△:錆び発生率=20〜50%未満
×:錆び発生率=50%以上
【0076】
−転写信号出力の評価−
各マスター担体の凹凸部(幅=100nm)における転写信号出力を確認した。転写媒体としては、2.5インチ 80Gb/in2仕様の垂直磁気記録媒体を使用した。スピンスタンド測定により、100〜200の転写サーボ信号をオシロスコープへ取り込み、プリアンブル信号出力平均を算出した。下記基準に基づき、各マスター担体の転写信号出力を評価した。
[転写信号出力基準]
◎:650mV以上
○:550〜650mV未満
△:400〜550mV未満
×:400mV以下
【0077】
【表1】
【0078】
表1の結果から、プラズマ処理を施して作製した実施例1〜5のマスター担体はいずれも、耐食性(防錆び効果)に優れることが確認された。これは、プラズマ処理を施すことにより、マスター担体の磁性層表面に存在する汚染物が除去されて、磁性層を構成する磁性層材料と反応する異物をほぼ皆無にしたことによる効果であると考えられる。
【0079】
Feを主成分とする合金からなる磁性層は錆び易いが(比較例2〜3)、プラズマ処理を施すことにより、Feを主成分とする合金からなる磁性層についても耐食性を高めることができることが示された(実施例2〜3)。なお、純Feからなる磁性層は元々耐食性に優れているものの、転写信号出力が弱く、そのため、マスター担体への利用は困難であることがわかる(比較例1)。
【0080】
一方、Co及びPtを主成分とする合金からなる磁性層は、元々Feを主成分とする合金からなる磁性層と比較して耐食性に優れるが(比較例4〜5)、更にプラズマ処理を施すことで、より一層耐食性を向上させることができることが示された(実施例4〜5)。Co及びPtを主成分とする合金からなる磁性層は転写信号出力にも優れることから、Co及びPtを主成分とする合金からなる磁性層を備え、かつ、該磁性層表面にプラズマ処理を施して作製されたマスター担体は、磁気転写用マスター担体として特に好適であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】図1は、垂直磁気記録転写方法の工程を示す説明図である。
【図2】図2は、一実施形態に係るマスターディスクの部分断面図である。
【図3】図3は、一実施形態に係るマスターディスクの製造方法の説明図である。
【図4】図4は、一実施形態に係るマスターディスクの製造方法の説明図である。
【図5】図5は、一実施形態に係るマスターディスクの製造方法の説明図である。
【図6】図6は、マスターディスクの上面図である。
【図7】図7は、スレーブディスクの断面を示す説明図である。
【図8】図8は、初期磁化工程後の磁性層(記録層)の磁化方向を示した説明図である。
【図9】図9は、磁気転写工程を示す説明図である。
【図10】図10は、磁気転写工程に用いる磁気印加装置の概略構成図である。
【図11】図11は、磁気転写工程後の磁性層(記録層)の磁化方向を示した説明図である。
【符号の説明】
【0082】
10 スレーブディスク(垂直磁気記録媒体)
20 マスターディスク(磁気転写用マスター担体)
12 基板
13 軟磁性層
16 磁性層
60 磁界印加手段
62 コア
63 コイル
80 磁界印加装置
202,212 基材
204,214 磁性層
206 凸部
207 凹部
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録媒体に情報を磁気転写する磁気転写用マスター担体、及びその製造方法、並びに、前記磁気転写用マスター担体を用いた磁気転写方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報を高密度で記録可能な磁気記録媒体として、垂直磁気記録媒体が知られている。この垂直磁気記録媒体の情報記録領域は、狭トラックで構成されている。そのため、垂直磁気記録媒体では、狭いトラック幅において正確に磁気ヘッドを走査し、高いS/N比で信号を再生するためのトラッキングサーボ技術が重要となる。このトラッキングサーボを行うためには、トラッキング用のサーボ信号、アドレス情報信号、再生クロック信号等のサーボ情報を、所定間隔で垂直磁気記録媒体に、いわゆるプリフォーマットとして記録しておく必要がある。
【0003】
垂直磁気記録媒体に、サーボ情報をプリフォーマットする方法としては、例えば、サーボ情報に対応した、磁性層を含むパターンが形成されたマスター担体を、該磁気記録媒体に密着させた状態で記録用磁界(転写磁界)を印加し、マスター担体のパターンを磁気記録媒体に磁気転写する方法がある(例えば、特許文献1〜3参照)。
この方法において、該磁気記録媒体にマスター担体を密着させた状態で転写磁界が印加されると、磁束がマスター担体の磁化状態に基づきパターン上の磁性層に吸収され、磁界がパターンの凹凸形状に対応し強められる。このパターン状に強められた磁界によって、磁気記録媒体の所定箇所のみが磁化される。よって、これまでは高飽和磁化を有する磁性材料が積極的にマスター磁性層材料として使用されてきた。
【0004】
マスター担体に磁性層を形成するための材料として、例えば、従来から、Fe、Co、Pt、Cr等の合金が用いられている。これらの材料は組み合わせにもよるが、ある環境下では保管中に「錆び」が発生してしまい、耐食性に優れた磁性層を形成することは難しい。特に、Feを主成分とする合金(例えば、FeCo等)からなる磁性層は高飽和磁化を有する観点からは好ましいものの、一方で、高い確率で錆びが発生してしまうという問題があった。マスター担体は作製されてすぐに磁気記録媒体への磁気転写に使用されるとは限らず、様々な条件下で保管・輸送される場合が多いため、この錆びの問題は重大である。マスター担体に錆びが発生すると、磁気転写時のマスター磁性膜として機能しない(磁束を吸収出来ない)だけでなく、発生した腐食物により、転写時(密着時)に媒体とスペーシングを発生させ、転写信号形成を妨げてしまうことがある。
【0005】
上記問題の発生を抑制するために、例えば、磁性層上にダイヤモンドライクカーボン等の保護層を設けることも行われているが、十分な耐食性向上効果は得られていないのが現状である。
【0006】
【特許文献1】特開2003−203325号公報
【特許文献2】特開2000−195048号公報
【特許文献3】米国特許第7218465B1号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来における前記問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明は、保管時の錆びの発生を抑制できる、耐食性に優れた磁気転写用マスター担体、及びその製造方法、並びに、前記磁気転写用マスター担体を用いた磁気転写方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、以下のような知見を得た。即ち、マスター担体の磁性層上にプラズマ処理を施し、磁性層上の汚染物を除去することにより、保管時の錆びの発生を抑制でき、耐食性に優れたマスター担体を得ることができるという知見である。また、本発明者らは更に、磁性層材料としてCo及びPtを含む磁性層材料を使用することにより、耐食性をより一層向上できることをも見出した。
【0009】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 垂直磁気記録方式の磁気記録媒体上に配置し、磁場を印加して該磁気記録媒体に磁気情報を転写する磁気転写用マスター担体であって、
基材と、該基材上に磁性層とを備えてなり、かつ、
該磁性層表面に存在する汚染物がプラズマ処理により除去されてなることを特徴とする磁気転写用マスター担体である。
<2> 磁性層が、Co及びPtを含む磁性層材料からなる前記<1>に記載の磁気転写用マスター担体である。
<3> 垂直磁気記録方式の磁気記録媒体上に配置し、磁場を印加して該磁気記録媒体に磁気情報を転写する磁気転写用マスター担体の製造方法であって、
基材上に磁性層を形成する工程、及び、
該磁性層表面に存在する汚染物をプラズマ処理により除去する工程、を含むことを特徴とする磁気転写用マスター担体の製造方法である。
<4> 磁性層を、Co及びPtを含む磁性層材料を用いて形成する前記<3>に記載の磁気転写用マスター担体の製造方法である。
<5> 垂直磁気記録媒体を、垂直方向に初期磁化させる初期磁化工程と、
前記初期磁化工程後の垂直磁気記録媒体に対して、前記<1>から<2>のいずれかに記載の磁気転写用マスター担体を密着させる密着工程と、
前記垂直磁気記録媒体と前記磁気転写用マスター担体とを密着させた状態で、前記初期磁化と逆方向の垂直磁界を印加し、前記垂直磁気記録媒体に磁気情報を転写する工程と、を含むことを特徴とする磁気転写方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、従来における問題を解決することができ、保管時の錆びの発生を抑制できる、耐食性に優れた磁気転写用マスター担体、及びその製造方法、並びに、前記磁気転写用マスター担体を用いた磁気転写方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係る、磁気転写用マスター担体、及び、前記磁気転写用マスター担体の製造方法について説明する。
【0012】
先ず、図1を用いて垂直磁気記録の磁気転写技術の概要を説明する。図1は、垂直磁気記録の磁気転写方法の工程を示す説明図である。図1において、符号10は被転写用の磁気ディスクとしてのスレーブディスク(垂直磁気記録媒体に相当)、符号20は磁気転写用マスター担体としてのマスターディスクを表す。
【0013】
図1(a)に示されるように、スレーブディスク10のディスク平面に対し、垂直の方向から、直流磁界(Hi)を印加して、該スレーブディスク10を初期磁化する(初期磁化工程)。
初期磁化を行った後、図1(b)に示されるように、前記初期磁化後のスレーブディスク10と、マスターディスク20とを密着させる(密着工程)。
さらに、両ディスク10、20を密着させた後、図1(c)に示されるように、初期磁化の際に印加される磁界(Hi)とは、逆向きの磁界(Hd)を印加して、該スレーブディスク10に磁気転写する(磁気転写工程)。
【0014】
本実施形態の磁気転写用マスター担体とは、図1において示されるマスターディスク20に相当するものである。以下、このマスターディスク20を例に挙げて、本実施形態の磁気転写用マスター担体を説明する。
【0015】
〔マスターディスク(磁気転写用マスター担体)〕
図2(a)は、マスターディスク(磁気転写用マスター担体)20の部分断面図である。このマスターディスク20は、基材202と、該基材202の表面上に形成される磁性層204とを備える。該基材202は、その表面に、凸部206及び凹部207を有する。該凸部206は、その表面に前記磁性層204を有する。なお、本実施形態においては、製造が容易である等の理由により、凹部207の表面にも磁性層208が形成されている。他の実施形態においては、凹部207内に磁性層208がなくてもよい。
基材202の凸部206の表面(頂面)に形成される磁性層204は、転写信号に対応するビット部となる。このビット部は、初期磁化を反転させる部分であり、転写部に相当する。なお、凹部207は、磁化反転しない非転写部に相当する。
【0016】
図2(b)は、他の実施形態のマスターディスク20Aの部分断面図である。このマスターディスク20Aは、基材212と、該基材212の表面上に、転写信号に対応するビット部となる磁性層214とを備える。このマスターディスク20Aにおいては、該磁性層214が、転写部に相当し、隣り合う磁性層214の間の部分(隙間)が、非転写部に相当する。
【0017】
(基材)
前記基材は、例えば、ガラス、ポリカーボネート等の合成樹脂、ニッケル、アルミニウム等の金属、シリコン、カーボン等の公知の材料からなる。
【0018】
(磁性層)
前記磁性層を形成する材料(磁性層材料)としては、例えば、Fe、Co、Pt、CrNi、Pd等のうち、少なくとも1つを含有する金属、合金、化合物などが挙げられる。中でも、前記磁性層材料としては、Co及びPtを主成分として含むものであることが好ましく、CoとPtとからなる合金(CoPt)であることが特に好ましい。CoPtからなる磁性層を備えたマスターディスクは、保管時の錆びの発生を効果的に抑制することができ、耐食性により優れる点で、有利である。
【0019】
−プラズマ処理−
なお、前記マスターディスクでは、前記磁性層表面に存在する汚染物が、プラズマ処理により除去されてなることを特徴とする。前記磁性層表面に存在する汚染物が、プラズマ処理により除去されていることにより、前記マスターディスクは、保管時の錆びの発生を抑制することができ、耐食性に優れたものとなる。(なお、前記プラズマ処理の方法は後述する〔マスターディスクの製造方法〕の項目に記載する通りである。)
ここで、前記「汚染物」とは、特に制限はなく、例えば、プラズマ処理前の磁性層表面に存在する、Cl、Sなどが挙げられる。
また、前記「磁性層表面に存在する汚染物がプラズマ処理により除去された」とは、磁性層表面に存在するCl、及び、Sの合計存在量が、プラズマ処理前に比べ、プラズマ処理後に、単位面積当たりの質量比で、10%以上減少した状態をいうものとする。なお、前記減少率は、70%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましい。前記「磁性層表面に存在するCl、及び、Sの合計存在量」は、例えば、IC、ICP、TOF−SIMS、XPSなどにより測定することができる。
なお、プラズマ処理後の前記磁性層表面におけるCl、及び、Sの合計存在量は、70ng未満/枚であることが好ましく、30ng未満/枚であることがより好ましい。前記汚染物の存在量が、前記好ましい範囲内であると、より耐食性を向上させることができる点で、有利である。
【0020】
(保護層、潤滑剤層)
また、前記マスターディスク表面(磁性層上)には、更に機械的、摩擦特性、耐候性を改善するために、保護層が形成されていてもよいが、前記したように、前記マスターディスクは、プラズマ処理により前記磁性層表面の汚染物が除去されてなることから、前記保護層を形成しなくとも、耐食性に優れたものとすることができる点で、有利である。前記保護層の材料としては、硬質な炭素膜が好ましく、例えば、無機カーボン、ダイヤモンドライクカーボン等を用いることができる。
また、前記保護層上には、更に、潤滑剤からなる層(潤滑剤層)が形成されていてもよい。前記潤滑剤としては、一般的に、パーフルオロポリエーテル(PFPE)等のフッ素系樹脂が用いられる。
【0021】
ところで、前記保護層には、微小なピンホールが存在することに加え、前記潤滑剤層の被覆率も低いため、複数回の磁気転写工程において、前記ピンホールから水分が侵入し、従来のマスターディスク表面に磁性層酸化物が生成する場合があった。該酸化物が生成することにより、該磁性層の体積が膨張し、膨張した箇所が凸状となり、スレーブディスク表面に物理的欠陥が発生することがあった。
特に、従来のFeCoからなる磁性層を備えたマスターディスクを接触させると、該磁性層の金属元素、特にFeの腐食、酸化が選択的に発生するとう問題があった。
これに対し、Feよりもイオン化傾向が低い、Co、Ptを選択したCoPtからなる磁性層を備えたマスターディスクでは、上記問題を大幅に改善することができる。
【0022】
(下地層)
また、前記マスターディスクの磁性層の垂直配向性、磁気異方性エネルギー(Ku)、飽和磁化(Ms)、核生成磁界(Hn)等を調整するために、該磁性層の下(磁性層と基材との間)に、下地層が形成されていてもよい。
前記下地層の材料としては、例えば、Pt、Ru、Pd、Co、Cr、Ni、W、Ta、Al、P、Si、Tiのうち、少なくとも1つを含有する金属、合金、化合物などが挙げられる。中でも、前記下地層の材料としては、Pt、Ru等の白金属の金属、合金が好ましい。また、前記下地層は、単層でもよく、多層でもよい。
【0023】
〔マスターディスク(磁気転写用マスター担体)の製造方法〕
図3〜図5は、前記マスターディスクの各製造工程を示す説明図である。図3〜図5に基づいて、本実施形態の磁気転写用マスター担体(マスターディスク)の製造方法を説明する。
【0024】
図3(a)に示されるように、表面が平滑なシリコンウエハーである原板(Si基板)30を用意し、この原板30の上に、電子線レジスト液をスピンコート法等により塗布して、レジスト層32を形成し(図3(b)参照)、ベーキング処理(プレベーク)を行う。
【0025】
次いで、高精度な回転ステージ又はX−Yステージを備えた不図示の電子ビーム露光装置のステージ上に原板30をセットし、原板30を回転させながら、サーボ信号に対応して変調した電子ビームを照射し、レジスト層32の略全面に所定のパターン33、例えば各トラックに回転中心から半径方向に線状に延びるサーボ信号に相当するパターンを円周上の各フレームに対応する部分に描画露光(電子線描画)する(図3(c)参照)。
【0026】
次いで、図3(d)に示されるように、レジスト層32を現像処理し、露光(描画)部分を除去して、残ったレジスト層32による所望厚さの被覆層を形成する。この被覆層が次工程(エッチング工程)のマスクとなる。なお、基板30上に塗布されるレジストはポジ型、ネガ型のどちらでも使用可能であるが、ポジ型とネガ型では、露光(描画)パターンが反転することになる。この現像処理の後には、レジスト層32と原板30との密着力を高めるためにベーキング処理(ポストベーク)を行う。
【0027】
次いで、図3(e)に示されるように、レジスト層32の開口部より原板30を表面より所定深さだけ除去(エッチング)する。このエッチングにおいては、アンダーカット(サイドエッチ)を最小にすべく、異方性のエッチングが望ましい。このような、異方性のエッチングとしては、反応性イオンエッチング(RIE;Reactive Ion Etching)が好ましく採用できる。
【0028】
次いで、図4(f)に示されるように、レジスト層32を除去する。レジスト層32の除去方法は、乾式法としてアッシングが採用でき、湿式法として剥離液による除去法が採用できる。以上のアッシング工程により、所望の凹凸状パターンの反転型が形成された原盤36が作製される。
【0029】
次いで、図4(g)に示されるように、原盤36の表面に均一厚さに導電層38を形成する。この導電層38の形成方法としては、PVD(Physical Vapor Deposition)、CVD(Chemical Vapor Deposition)、スパッタリング、イオンプレーティングを含む各種の金属成膜法等が適用できる。このように、導電膜の層(符号38)を1層形成すれば、次工程(電鋳工程)の金属の電着が均一に行えるという効果が得られる。導電層38としては、Niを主成分とする膜であることが好ましい。このようなNiを主成分とする膜は、形成が容易であり、且つ、硬質であるため、導電膜としてふさわしい。この導電層38の膜厚として、特に制限はないが、数十nm程度が一般的に採用できる。
【0030】
次いで、図4(h)に示されるように、原盤36の表面に、電鋳により所望の厚さの金属(ここでは、Ni)による金属板40を積層する(反転板形成工程)。この工程は、電鋳装置の電解液中に原盤36を浸し、原盤36を陽極とし、陰極との間に通電することにより行われるが、このときの電解液の濃度、pH、電流のかけ方等は、積層された金属板40(すなわち、図2で説明した基材202に相当するマスター基板となるも)に歪みのない最適条件で実施されることが求められる。
【0031】
そして、上記のようにして金属板40の積層された原盤36が電鋳装置の電解液から取
り出され、剥離槽(図示略)内の純水に浸される。
【0032】
次いで、剥離槽内において、金属板40を原盤36から剥離し(剥離工程)、図4(i)に示すような、原盤36から反転した凹凸状パターンを有するマスター基板42を得る。
【0033】
次いで、図4(j)に示されるように、マスター基板42の凹凸表面上に磁性層48を形成する。該磁性層の材料としては、前記したような磁性層材料が使用できるが、中でも、CoPtを使用することが好ましい。該磁性層材料としてCoPtを使用することにより、保管時の錆びの発生を抑制でき、耐食性に優れたマスターディスクを得ることが可能となる。該磁性層48の厚みは、10nm〜320nmの範囲が好ましく、20nm〜300nmの範囲がより好ましく、30nm〜100nmが更に好ましい。
該磁性層48は、上記材料のターゲットを用い、例えば、スパッタリングにより形成される。例えば、該磁性層材料としてCoPtを用いる場合、該磁性層の組成は、主として、該磁性層形成時のスパッタ圧(力)、Pt濃度で制御出来る。スパッタ圧(力)は、0.2Pa〜50Paが好ましく、0.2Pa〜10Paがより好ましい。Pt濃度は、5〜50原子%が好ましく、10〜25原子%がより好ましい。また、スパッタリングで磁性層を形成する際に使用するスパッタガスとしては、一般的なアルゴン(Ar)ガスが使用できるが、その他の希ガスを使用してもよい。また、スパッタリングで磁性層を形成する際の投入電力としては、0.6〜16.0W/cm2が好ましく、3.0〜10.0W/cm2がより好ましい。
【0034】
次いで、図5(k)に示されるように、マスター基板42上に形成された磁性層48に対して、プラズマ処理を施す。前記プラズマ処理は、例えば、Ar、Kr、Xe等を含む不活性ガス雰囲気中で行うことができるが、簡便性の観点から、前記磁性層を形成する際に使用されたスパッタガスと同様のものを使用することが好ましい。
前記プラズマ処理を行う際の圧力としては、0.05〜2.0Paが好ましく、0.1〜0.5Paがより好ましい。前記圧力が、0.05Pa未満であると、放電が安定せず、均一な薄膜が形成出来ないことがあり、2.0Paを超えると、薄膜中に不活性ガス粒子を取り込んで、低密度の磁性膜になってしまうことがある。
前記プラズマ処理を行う際の投入電力としては、1.5〜32.0W/cm2が好ましく、3.0〜10.0W/cm2がより好ましい。前記投入電力が、1.5W/cm2未満であると、放電が安定せず、均一な薄膜が形成出来ないことがあり、32.0W/cm2を超えると、スパッタ粒子エネルギーが大き過ぎる事により、均一な薄膜が形成出来ないことがある。
前記プラズマ処理を行う際の処理時間としては、5〜180秒が好ましく、10〜60秒がより好ましい。前記処理時間が、5秒未満であると、汚染物除去率が低下することがあり、180秒を超えると、マスター表面の磁性膜表面に取り込まれる不活性ガスが多くなり、磁性膜の磁気特性が低下してしまうことがある。
前記プラズマ処理を施すことにより、前記磁性層表面に存在する汚染物を除去することができ、これにより、保管時の錆びの発生を抑制でき、耐食性に優れたマスターディスクを得ることが可能となる。(なお、前記汚染物とは前記した〔マスターディスク〕の項目に記載した通りである。)
【0035】
その後、マスター基板42の内径及び外径を、所定のサイズに打抜き加工する。以上のプロセスにより、図5(l)に示すように、磁性層48(図2における磁性層204に相当)が設けられた凹凸パターンを有するマスターディスク20を作製することができる。なお、図4(j)と図5(l)とは同図であるが、プラズマ処理前の図4(j)では、磁性層上に汚染物(不図示)が存在している状態を示すのに対して、プラズマ処理後の図5(l)では、プラズマ処理により磁性層上の汚染物が除去された状態を示す。
【0036】
図6はマスターディスク20の上面図である。図6に示されるように、マスターディスク20の表面には、凹凸パターンからなるサーボパターン52が形成される。
また、図には示さないが、マスターディスク20表面の磁性層48(図5(l)参照)の上にダイヤモンドライクカーボン等の保護膜(保護層)や、更に、保護膜上に潤滑剤層を設けてもよい。
該保護層を形成する目的は、マスターディスク20とスレーブディスク10とを密着させた際に磁性層48が傷つきやすく、マスターディスク20として使用できなくなってしまうことを防止するためである。また、潤滑剤層は、スレーブディスク10との接触の際に生じる摩擦による傷の発生などを防止し、耐久性を向上させる効果がある。
具体的には、保護層として、厚さが2〜30nmのカーボン膜を形成し、更にその上に潤滑剤層を形成した構成などが挙げられる。また、磁性層48と、保護層との密着性を強化するため、磁性層48上にSi等の密着強化層を形成し、その後に保護層を形成してもよい。
【0037】
〔スレーブディスク(垂直磁気記録媒体)の説明〕
図1において示される、前記スレーブディスク10は、円盤状の基板の表面の片面或いは、両面に磁性層が形成されたものであり、具体的には、高密度ハードディスク等が挙げられる。このスレーブディスク10を例に挙げ、図7を用いて、垂直磁気記録媒体の説明を行う。
【0038】
図7は、スレーブディスク10の断面を示す説明図である。図7に示されるように、スレーブディスク10は、ガラスなど非磁性の基板12上に、軟磁性層(軟磁性下地層;SUL)13、非磁性層(中間層)14、磁性層(垂直磁気記録層)16が順次積層形成された構造からなり、磁性層16の上は更に保護層18と潤滑層19とで覆われている。なお、ここでは、基板12の片面に磁性層16を形成した例を示すが、基板12の表裏両面に磁性層を形成する態様も可能である。
【0039】
円盤状の基板12は、ガラスやAl(アルミニウム)等の非磁性材料から構成されており、この基板12上に軟磁性層13を形成した後、非磁性層14と、磁性層16を形成する。
【0040】
軟磁性層13は、磁性層16の垂直磁化状態を安定させ、記録再生時の感度を向上させるために有益である。軟磁性層13に用いられる材料は、CoZrNb、FeTaC、FeZrN、FeSi合金、FeAl合金、パーマロイなどのFeNi合金、パーメンジュールなどのFeCo合金等の軟磁性材料が好ましい。この軟磁性層13は、ディスクの中心から外側に向かって半径方向に(放射状に)磁気異方性が付けられている。
【0041】
軟磁性層13の厚さは、20nm〜2000nmであることが好ましく、40nm〜400nmであることが更に好ましい。
【0042】
非磁性層14は、後に形成する磁性層16の垂直方向の磁気異方性を大きくする等の理由により設けられる。非磁性層14に用いられる材料は、Ti(チタン)、Cr(クロム)、CrTi、CoCr、CrTa、CrMo、NiAl、Ru(ルテニウム)、Pd(パラジウム)、Ta、Pt等が好ましい。非磁性層14は、例えば、スパッタリング法により上記材料を成膜することにより形成される。非磁性層14の厚さは、10nm〜150nmであることが好ましく、20nm〜80nmであることが更に好ましい。
【0043】
磁性層16は、垂直磁化膜(磁性膜内の磁化容易軸が基板に対し主に垂直に配向したもの)により形成されており、この磁性層16に情報が記録される。磁性層16に用いられる材料は、Co(コバルト)、Co合金(CoPtCr、CoCr、CoPtCrTa、CoPtCrNbTa、CoCrB、CoNi等)、Co合金−SiO2、Co合金−TiO2、Fe、Fe合金(FeCo、FePt、FeCoNi等)等が好ましい。これらの材料は、磁束密度が大きく、成膜条件や組成を調整することにより垂直の磁気異方性を有している。磁性層16は、スパッタリング法により上記材料を成膜することにより形成される。磁性層16の厚さは、10nm〜500nmであることが好ましく、20nm〜200nmであることが更に好ましい。
【0044】
本実施形態では、例えば、スレーブディスク10の基板12として、外形65mmの円盤状のガラス基板を用い、スパッタリング装置のチャンバー内にガラス基板を設置し、1.33×10−5Pa(1.0×10−7Torr)まで減圧した後、チャンバー内にAr(アルゴン)ガスを導入し、チャンバー内にあるCoZrNbターゲットを用い、同じくチャンバー内の基板の温度を室温として、80nm厚のSUL第1層をスパッタリング成膜する。次にその上に、チャンバー内にあるRuターゲットを用いて0.8nmのRu層をスパッタリング成膜する。さらにその上に、CoZrNbターゲットを用い、80nm厚のSUL第2層をスパッタリング成膜する。こうしてスパッタ成膜されたSULを、半径方向に50Oe以上の磁場を印加した状態で室温まで昇温し室温に冷却する。
【0045】
次に、例えば、Ruターゲットを用い、基板温度が室温の条件の下で放電させることによりスパッタリング成膜を行う。これによりRuからなる非磁性層14を60nm成膜する。
【0046】
この後、例えば、上記と同様にArガスを導入し、同じチャンバー内にあるCoCrPtターゲットを用い、同じく基板温度が室温の条件の下で放電させることによりスパッタリング成膜を行う。これによりCoCrPt−SiO2からなるグラニュラー構造の磁性層16を25nm成膜する。
【0047】
以上のプロセスにより、ガラス基板に、軟磁性層、非磁性層と磁性層が成膜された転写用磁気ディスク(スレーブディスク)10を作製することができる。
【0048】
〔磁気転写方法〕
以下、本発明の一実施形態に係る磁気転写方法について説明する。
【0049】
(スレーブディスクの初期磁化工程)
図1(a)に示されるように、スレーブディスク10の初期磁化(直流磁化)は、スレーブディスク10の表面に対し垂直に直流磁界を印加することができる装置(不図示の磁界印加手段)により初期化磁界Hiを発生させることにより行う。具体的には、初期化磁界Hiとしてスレーブディスク10の保磁力Hc以上の強度の磁界を発生させることにより行う。この初期磁化工程により、図8に示されるように、スレーブディスク10の磁性層16について、ディスク面と垂直な一方向に初期磁化Piさせる。なお、この初期磁化工程は、スレーブディスク10を磁界印加手段に対し相対的に回転させることにより行ってもよい。
【0050】
(磁気転写における密着工程)
次に、マスターディスク20と、初期磁化工程後のスレーブディスク10とを図1(b)のように重ね合わせて両者を密着させる工程(密着工程)を行う。図1(b)に示されるように、密着工程では、マスターディスク20の突起状パターン(凹凸パターン)の形成されている面と、スレーブディスク10の磁性層16の形成されている面とを所定の押圧力で密着させる。
【0051】
スレーブディスク10には、マスターディスク20に密着させる前に、グライドヘッド、研磨体等により、表面の微少突起又は付着塵埃を除去するクリーニング処理(バーニッシング等)が必要に応じて施される。
【0052】
なお、密着工程は、図1(b)に示すように、スレーブディスク10の片面のみにマスターディスク20を密着させる場合と、両面に磁性層が形成された転写用磁気ディスクについて、両面からマスターディスクを密着させる場合とがある。後者の場合では、両面を同時転写することができる利点がある。
【0053】
(磁気転写工程)
次に、図1(c)に基づき磁気転写工程を説明する。上記密着工程によりスレーブディスク10とマスターディスク20とを密着させたものについて、不図示の磁界印加手段により初期化磁界Hiの向きと反対方向に記録用磁界Hdを発生させる。記録用磁界Hdを発生させることにより生じた磁束がスレーブディスク10とマスターディスク20に進入することにより磁気転写が行われる。
【0054】
本実施形態では、記録用磁界Hdの大きさは、スレーブディスク10の磁性層16を構成する磁性材料のHcと略同じ値である。
【0055】
磁気転写は、スレーブディスク10及びマスターディスク20を密着させたものを不図示の回転手段により回転させつつ、磁界印加手段によって記録用磁界Hdを印加し、マスターディスク20に記録されている突起状のパターンからなる情報をスレーブディスク10の磁性層16に磁気転写する。なお、この構成以外にも、磁界印加手段を回転させる機構を設け、スレーブディスク10及びマスターディスク20に対し、相対的に回転させる手法であってもよい。
【0056】
磁気転写工程における、スレーブディスク10とマスターディスク20の断面の様子を図9に示す。図9に示されるように、凹凸パターンを有するマスターディスク20をスレーブディスク10が密着させた状態で、記録用磁界Hdを印加すると、磁束Gは、マスターディスク20の凸領域とスレーブディスク10が接触している領域では強く、記録用磁界Hdにより、マスターディスク20の磁性層48の磁化向きが記録用磁界Hdの方向に揃い、スレーブディスク10の磁性層16に磁気情報が転写される。一方、マスターディスク20の凹領域は、記録用磁界Hdの印加によって生じる磁束Gが凸領域に比べて弱く、スレーブディスク10の磁性層16の磁化向きが変わることはなく、初期磁化の状態を保ったままである。
【0057】
図10は、磁気転写に用いられる磁気転写装置について詳細に示したものである。磁気転写装置は、コア62にコイル63が巻きつけられた電磁石からなる磁界印加手段60を有するものであり、このコイル63に電流を流すことによりギャップ64において、密着させたマスターディスク20とスレーブディスク10の磁性層16に対し垂直に磁界を発生する構造になっている。発生する磁界の向きは、コイル63に流す電流の向きによって変えることができる。従って、この磁気転写装置によって、スレーブディスク10の初期磁化を行うことも、磁気転写を行うことも可能である。
【0058】
この磁気転写装置により初期磁化させた後、磁気転写を行う場合には、磁界印加手段60のコイル63に、初期磁化したときにコイル63に流した電流の向きと逆向きの電流を流す。これにより、初期磁化の際の磁化向きとは反対の向きに記録用磁界を発生させることができる。磁気転写は、スレーブディスク10及びマスターディスク20を密着させたものを回転させつつ、磁界印加手段60によって記録用磁界Hdを印加し、マスターディスク20に記録されている突起状のパターンからなる情報をスレーブディスク10の磁性層16に磁気転写するため、不図示の回転手段が設けられている。なお、この構成以外にも、磁界印加手段60を回転させる機構を設け、スレーブディスク10及びマスターディスク20に対し、相対的に回転させる手法であってもよい。
【0059】
本実施形態では、記録用磁界Hdは、本実施の形態に用いられるスレーブディスク10の磁性層16の保磁力Hcの40〜130%、好ましくは、50〜120%の強度の磁界を印加することにより磁気転写を行う。
【0060】
これにより、スレーブディスク10の磁性層16には、サーボ信号等の磁気パターンの情報が、初期磁化Piの反対向きの磁化となる記録磁化Pdとして記録される(図11参照)。
【0061】
なお、本発明の実施に際して、マスターディスク20に形成された突起状のパターンは、図5(l)で説明したポジパターンと反対のネガパターンであってもよい。この場合、初期化磁界Hiの方向及び記録用磁界Hdの方向を各々逆方向にすることにより、スレーブディスク10の磁性層16に、同様の磁化パターンを磁気転写することができるからである。また、本実施の形態では、磁界印加手段は、電磁石の場合について説明したが、同様に磁界が発生する永久磁石を用いてもよい。
【0062】
なお、上述した本発明の実施形態に係る方法により製造された垂直磁気記録媒体は、例えば、ハードディスク装置等の磁気記録再生装置に組み込まれて使用される。これにより、サーボ精度が高く、良好な記録再生特性の高記録密度磁気記録再生装置を得ることができる。
【0063】
〔効果〕
本発明によれば、耐食性に優れた磁気転写用マスター担体、及びその製造方法、並びに、前記磁気転写用マスター担体を利用した磁気転写方法を提供することができる。
ここで、前記「耐食性」とは、主に「防錆び効果」を示す。本発明の磁気転写用マスター担体に望まれる防錆び効果の程度としては、特に制限はないが、磁性層材料としてFeを主成分とする合金(FeCo等)を使用する場合には、錆び発生率が20〜50%程度であることが好ましく、また、磁性層材料としてCoPtを主成分とする合金を使用する場合には、錆び発生率が0〜1%程度であることが好ましい。(なお、プラズマ処理を施さずに得られる従来の磁気転写用マスター担体(磁性層材料としてFeを主成分とする合金を使用した場合)の錆び発生率は、58〜84%程度である。)ここで、前記「錆び発生率(%)」は、後述する実施例に記載の方法に従い、求めることができる。具体的には、80℃80RH%の高温高湿環境下で、マスター担体12枚を1週間保管し、保管後のマスター担体表面をハロゲン光観察と光学顕微鏡を併用して確認(異常を確認出来た場合は、FT−IR、EDAXによる詳細解析を実施)する。上記観察方法により異常が見られたマスター担体数を測定し、下記式により錆び発生率(%)を求めることができる。
[式]
錆び発生率(%)=(上記観察方法により異常が見られたマスター担体数/環境テスト後のマスター担体全数)×100
【0064】
本発明の磁気転写用マスター担体は、優れた防錆び効果(耐食性)を有するため、様々な条件下で保管・輸送した後であっても、磁気記録媒体への磁気転写に好適に使用することができる点で、有利である。
【実施例】
【0065】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0066】
〔実施例1〜5、比較例1〜5〕
以下のようにして、実施例1〜5のマスター担体(プラズマ処理有り)、及び、比較例1〜5のマスター担体(プラズマ処理無し)を作製した。また、垂直磁気記録媒体を作製し、得られた各マスター担体から垂直磁気記録媒体への磁気転写を行った。
【0067】
(マスター担体の作製)
−原盤の作製−
8インチのSi(シリコン)ウェハー(基板)上に、電子線レジストを、スピンコート法により、100nmの厚みで塗布した。塗布後、基板上の該レジストを、回転式電子線露光装置を用いて露光し、露光後の該レジストを現像して、凹凸パターンを有するレジストSi基板を作製した。
その後、該レジストをマスクとして用い、該基板に対して、反応性イオンエッチング処理を行い、凹凸パターンの凹部を掘り下げた。該エッチング処理後、該基板上に残存するレジストを可溶溶剤で洗浄し、除去した。除去後、該基板を乾燥したものを、マスター担体を調製するための原盤とした。
なお、本実施例1で用いたパターンは、大別すると、データ部と、サーボ部からなる。該データ部は、凸巾:90nm、凹巾:30nm(TP=120nm)のパターンで構成されている。該サーボ部は、基準信号長:80nm、総セクタ数:120、プリアンブル(40bit)/SAM(6bit)/Sectorcode(8bit)/CylinderCode(32bit)/Burstパターンで構成されている。該SAM部は、“001010”であり、SectorがBinary、CylinderはGray変換を用いている。Burst部は一般的な4バースト(各バーストは16bit)である。マンチェスター変換を使用した。
【0068】
−メッキ法によるマスター担体中間体の作製−
上記原盤上に、スパッタ法を用いてNi(ニッケル)導電性膜を20nm形成した。該導電性膜を形成した後の原盤を、スルファミン酸Ni浴に浸漬し、電解メッキにより、200μmの厚みのNi膜を形成した。その後、原盤よりNi膜を引き剥がし、洗浄して、Ni製のマスター担体中間体を得た。
【0069】
−磁気転写用磁性層の形成−
上記マスター担体中間体上に、アルゴン圧力0.3Pa条件下で、スパッタリング法により、下記表1に示す各磁性層材料からなる磁性層を、膜厚50nmとなるように形成した。磁性層形成時のスパッタリング条件は以下の通りである。
[スパッタリング条件]
アルゴン圧力:0.3Pa
基板−ターゲット間距離:200mm
投入電力(DC電源):1000W
装置:芝浦メカトロニクス製スパッタリング装置(OctavaII)
【0070】
−プラズマ処理−
更に、上記磁性層に対して、プラズマ処理を施し、磁性層表面の汚染物を除去することにより、実施例1〜5のマスター担体(プラズマ処理有り)を得た。この際のプラズマ処理条件は以下の通りである。なお、上記プラズマ処理後の磁性層表面における汚染物(S、Clの合計)の存在量をIC(イオンクロマト)により測定した(表1に、「汚染物量」として示す)。
[プラズマ処理条件]
アルゴン圧力:0.16Pa
基板−ターゲット間距離:75mm
投入電力(DC電源):1500W
処理時間:30秒間
装置:芝浦メカトロニクス製スパッタリング装置(OctavaII)
【0071】
また、上記プラズマ処理を施さない以外は、上記と同様に、マスター担体中間体上に磁性層を形成させて、比較例1〜5のマスター担体(プラズマ処理無し)を得た。なお、比較例1〜5のマスター担体(プラズマ処理無し)における汚染物(S、Clの合計)の存在量をIC(イオンクロマト)により測定した(表1に、「汚染物量」として示す)。
【0072】
(垂直磁気記録媒体の作製)
2.5インチのガラス基板上に、スパッタリング法を用いて、軟磁性層、第1非磁性配向層、第2非磁性配向層、磁気記録層及び保護層を、この順に形成した。更に、該保護層の上に、ディップ法により潤滑剤層を形成した。
軟磁性層の材料として、CoZrNbを用いた。該軟磁性層の厚みは、100nmであった。ガラス基板をCoZrNbターゲットと対向させて配置し、Arガスを0.6Pa圧になるように流入させ、DC1500Wで成膜した。
第1非磁性配向層としてTi:5nm、第2非磁性配向層としてRu:6nmを形成した。
第1非磁性配向層は、Tiターゲットと対向配置し、Arガスを0.5Pa圧になるように流入し、DC1000Wで放電し、5nmの厚さになるように、Tiシード層を成膜した。第1非磁性配向層形成後にRuターゲットと対向させて配置し、Arガスを0.8Pa圧になるように流入させ、DC900Wで放電し、6nmの厚さになるように第2非磁性配向層を成膜した。
磁気記録層として、CoCrPtO:18nmを形成した。CoCrPtOターゲットと対向させて配置し、O2を0.06%を含むArガスを14Pa圧になるように流入させ、DC290Wで放電し磁気記録層を作製した。
磁気記録層を形成した後に、C(カーボン)ターゲットと対向させて配置し、Arガスを0.5Pa圧になるように流入させ、DC1000Wで放電し、1000Wで放電し、C保護層(4nm)を形成した。この記録媒体の保磁力は、334kA/m(4.2kOe)とした。
更に、該媒体にディップ法により、PFPE潤滑剤を2nmの厚さで塗布した。
以上のようにして、垂直磁気記録媒体を調製した。
【0073】
(磁気転写)
上記垂直磁気記録媒体に対して、初期化を行った。初期化の際に印加する磁界の強度(初期磁界強度)は10kOeであった。
初期化済み垂直磁気記録媒体に対して、上記マスター担体を対向して配置し、これらを0.7MPaの圧力にて密着させた。互いに密着した状態で、磁界を印加して、磁気転写を行った。磁気転写に用いた磁界強度は4.6kOeであった。磁界印加終了後、マスター担体を、垂直磁気記録媒体から剥離した。
【0074】
〔評価〕
作製した実施例1〜5のマスター担体(プラズマ処理有り)、及び、比較例1〜5のマスター担体(プラズマ処理無し)について、以下のようにして耐食性(防錆び効果)を評価した。また、比較例1〜5のマスター担体(プラズマ処理無し)について、ビット長=100nmにおける単一波形の転写信号出力(平均値)を算出した。結果を表1に示す。
【0075】
−マスター担体の耐食性(防錆び効果)の評価−
各マスター担体12枚を、80℃、80RH%の高温高湿環境下で1週間保管した後、ハロゲン光観察と光学顕微鏡を併用して、各マスター担体の表面異常を確認した。ここで、表面異常とは、光学顕微鏡観察を用いて、目視でマスター表面を観察し、明らかに通常部と異なる異常部を確認したことを指す。表面異常を確認できた場合は更に、FT−IR、EDAXによる詳細解析を実施した(観察分解能:0.5μm以上)。上記表面異常の確認、及び、詳細解析の結果から、下記基準に基づき、各マスター担体の耐食性(防錆び効果)を評価した。なお、ここで、「錆び発生率(%)」とは、下記式により求めた値を示す。
[式]
錆び発生率(%)=(上記観察方法により異常が見られたマスター担体数/環境テスト後のマスター担体全数)×100
[耐食性(防錆び効果)基準]
◎:錆び発生率=10%未満
○:錆び発生率=10〜20%未満
△:錆び発生率=20〜50%未満
×:錆び発生率=50%以上
【0076】
−転写信号出力の評価−
各マスター担体の凹凸部(幅=100nm)における転写信号出力を確認した。転写媒体としては、2.5インチ 80Gb/in2仕様の垂直磁気記録媒体を使用した。スピンスタンド測定により、100〜200の転写サーボ信号をオシロスコープへ取り込み、プリアンブル信号出力平均を算出した。下記基準に基づき、各マスター担体の転写信号出力を評価した。
[転写信号出力基準]
◎:650mV以上
○:550〜650mV未満
△:400〜550mV未満
×:400mV以下
【0077】
【表1】
【0078】
表1の結果から、プラズマ処理を施して作製した実施例1〜5のマスター担体はいずれも、耐食性(防錆び効果)に優れることが確認された。これは、プラズマ処理を施すことにより、マスター担体の磁性層表面に存在する汚染物が除去されて、磁性層を構成する磁性層材料と反応する異物をほぼ皆無にしたことによる効果であると考えられる。
【0079】
Feを主成分とする合金からなる磁性層は錆び易いが(比較例2〜3)、プラズマ処理を施すことにより、Feを主成分とする合金からなる磁性層についても耐食性を高めることができることが示された(実施例2〜3)。なお、純Feからなる磁性層は元々耐食性に優れているものの、転写信号出力が弱く、そのため、マスター担体への利用は困難であることがわかる(比較例1)。
【0080】
一方、Co及びPtを主成分とする合金からなる磁性層は、元々Feを主成分とする合金からなる磁性層と比較して耐食性に優れるが(比較例4〜5)、更にプラズマ処理を施すことで、より一層耐食性を向上させることができることが示された(実施例4〜5)。Co及びPtを主成分とする合金からなる磁性層は転写信号出力にも優れることから、Co及びPtを主成分とする合金からなる磁性層を備え、かつ、該磁性層表面にプラズマ処理を施して作製されたマスター担体は、磁気転写用マスター担体として特に好適であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】図1は、垂直磁気記録転写方法の工程を示す説明図である。
【図2】図2は、一実施形態に係るマスターディスクの部分断面図である。
【図3】図3は、一実施形態に係るマスターディスクの製造方法の説明図である。
【図4】図4は、一実施形態に係るマスターディスクの製造方法の説明図である。
【図5】図5は、一実施形態に係るマスターディスクの製造方法の説明図である。
【図6】図6は、マスターディスクの上面図である。
【図7】図7は、スレーブディスクの断面を示す説明図である。
【図8】図8は、初期磁化工程後の磁性層(記録層)の磁化方向を示した説明図である。
【図9】図9は、磁気転写工程を示す説明図である。
【図10】図10は、磁気転写工程に用いる磁気印加装置の概略構成図である。
【図11】図11は、磁気転写工程後の磁性層(記録層)の磁化方向を示した説明図である。
【符号の説明】
【0082】
10 スレーブディスク(垂直磁気記録媒体)
20 マスターディスク(磁気転写用マスター担体)
12 基板
13 軟磁性層
16 磁性層
60 磁界印加手段
62 コア
63 コイル
80 磁界印加装置
202,212 基材
204,214 磁性層
206 凸部
207 凹部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直磁気記録方式の磁気記録媒体上に配置し、磁場を印加して該磁気記録媒体に磁気情報を転写する磁気転写用マスター担体であって、
基材と、該基材上に磁性層とを備えてなり、かつ、
該磁性層表面に存在する汚染物がプラズマ処理により除去されてなることを特徴とする磁気転写用マスター担体。
【請求項2】
磁性層が、Co及びPtを含む磁性層材料からなる請求項1に記載の磁気転写用マスター担体。
【請求項3】
垂直磁気記録方式の磁気記録媒体上に配置し、磁場を印加して該磁気記録媒体に磁気情報を転写する磁気転写用マスター担体の製造方法であって、
基材上に磁性層を形成する工程、及び、
該磁性層表面に存在する汚染物をプラズマ処理により除去する工程、を含むことを特徴とする磁気転写用マスター担体の製造方法。
【請求項4】
磁性層を、Co及びPtを含む磁性層材料を用いて形成する請求項3に記載の磁気転写用マスター担体の製造方法。
【請求項5】
垂直磁気記録媒体を、垂直方向に初期磁化させる初期磁化工程と、
前記初期磁化工程後の垂直磁気記録媒体に対して、請求項1から2のいずれかに記載の磁気転写用マスター担体を密着させる密着工程と、
前記垂直磁気記録媒体と前記磁気転写用マスター担体とを密着させた状態で、前記初期磁化と逆方向の垂直磁界を印加し、前記垂直磁気記録媒体に磁気情報を転写する工程と、を含むことを特徴とする磁気転写方法。
【請求項1】
垂直磁気記録方式の磁気記録媒体上に配置し、磁場を印加して該磁気記録媒体に磁気情報を転写する磁気転写用マスター担体であって、
基材と、該基材上に磁性層とを備えてなり、かつ、
該磁性層表面に存在する汚染物がプラズマ処理により除去されてなることを特徴とする磁気転写用マスター担体。
【請求項2】
磁性層が、Co及びPtを含む磁性層材料からなる請求項1に記載の磁気転写用マスター担体。
【請求項3】
垂直磁気記録方式の磁気記録媒体上に配置し、磁場を印加して該磁気記録媒体に磁気情報を転写する磁気転写用マスター担体の製造方法であって、
基材上に磁性層を形成する工程、及び、
該磁性層表面に存在する汚染物をプラズマ処理により除去する工程、を含むことを特徴とする磁気転写用マスター担体の製造方法。
【請求項4】
磁性層を、Co及びPtを含む磁性層材料を用いて形成する請求項3に記載の磁気転写用マスター担体の製造方法。
【請求項5】
垂直磁気記録媒体を、垂直方向に初期磁化させる初期磁化工程と、
前記初期磁化工程後の垂直磁気記録媒体に対して、請求項1から2のいずれかに記載の磁気転写用マスター担体を密着させる密着工程と、
前記垂直磁気記録媒体と前記磁気転写用マスター担体とを密着させた状態で、前記初期磁化と逆方向の垂直磁界を印加し、前記垂直磁気記録媒体に磁気情報を転写する工程と、を含むことを特徴とする磁気転写方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−252292(P2009−252292A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−99077(P2008−99077)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
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