説明

神経分化誘導方法

【課題】神経欠損の修復に適した神経細胞を得るための、骨髄幹細胞を神経栄養因子および/またはジブチリルcAMP(dbcAMP)で処理することを含む神経分化誘導方法の提供。
【解決手段】該神経栄養因子がグリア細胞系由来神経栄養因子(GDNF)または下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)を含有する、神経分化誘導方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として毒性のない神経分化誘導方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中枢神経系(CNS)の損傷後の神経細胞の消失は、CNSの修復を困難とする。種々のげっ歯類およびヒトCNS領域から分離された神経幹細胞(NSC)に関する多数の研究により、成熟げっ歯類CNSにおいてはCNSが環境および/または外因性成長因子の影響により神経細胞へと分化し得ることが示されている(F.H.Gage,哺乳類の神経幹細胞,Science,287(2000)1433−1438;J.Price,B.P.Williams,神経幹細胞,Curr.Opin.Neurobiol.11(2001)564−567)。このように、NSCの復元はヒトCNS治療にとって可能な戦略であると考えられている(D.A.Peterson,脳の可塑性と修復における幹細胞,Curr.Opin.Pharmacol.2(2002)34−42)。
【0003】
ヒト骨髄由来幹細胞(hBMSC)は形態学的に不均質である。骨芽細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、あるいは筋組織へと分化できる多能性を有し、さらにはニューロンを形成することができる(E.Mezey,K.J.Chandross,G.Harta,R.A.Maki,S.R.McKercher,血液を脳へと変える: 骨髄から生体内で形成されたニューロン抗原を有する細胞,Science,290(2000)1779−1782;E.Mezey,S.Key,G.Vogelsang,I.Szalayova,G.D.Lange,B.Crain,移植骨髄によるヒト脳内における新しいニューロンの形成,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.100(2003)1364−1369;Sanchez−Ramosら,(2000);D.Woodbury,E.J.Schwarz,D.J.Prockop,I.B.Black,成熟ラットおよびヒト骨髄間質細胞のニューロンへの分化,J.Neurosci.Res.61(2000)364−370)。最近、ヒトおよびマウスBMSCが、レチノイン酸および上皮細胞増殖因子(EGF)または脳由来神経栄養因子(BDNF)の刺激後にニューロン前駆細胞マーカー(ネスチン)、神経特異的核タンパク質(NeuN)、およびグリア線維細胞酸性タンパク質(GFAP)を発現することが報告された[Sanchez−Ramosら、(2000)]。また、移植されたBMSCが損傷されたCNSにおいてニューロン系とグリア系とを区別できることが示されている(J.R.Sanchez−Ramos,成人骨髄由来神経細胞と臍帯血,J.Neurosci.Res.69(2002)880−893)。さらに、Choppらは、BMSCの移植により局所性脳虚血を有するラット(J.Chen,Y.Li,M.Chopp,ラットにおけるMCAo後のBDNFを伴う骨髄の脳内移植,Neuropharmacology,39(2000)711−716)、外傷性脳損傷を有するラット(D.Lu,Y.Li,L.Wang,J.Chen,A.Mahmood,M.Chopp,外傷性脳損傷モデルラットにおける骨髄間質細胞の動脈内投与,J.Neurotrauma.18(2001)813−819)、パーキンソン病マウス(Y.Li,J.Chen,L.Wang,L.Zhang,M.Lu,M.Chopp.1−メチル−4−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン投与によるパーキンソン病モデルマウスにおける骨髄間質細胞の脳内移植,Neurosci.Lett.316(2001)67−7)の機能回復に改善が見られることを見出した。これらの発見はヒトにおけるCNS細胞治療が有用な細胞源としての役割を果たす可能性を示唆している。
【0004】
しかしながら、培養用ペトリ皿への付着によるhBMSCの分離では、まず、不均質な集団が形成される(A.J.Friedenstein,J.E.Gorskaja,N.N.Kulagina,正常および照射マウス造血器官における線維芽細胞前駆体,Exp.Hematol.4(1976)267−274)。したがって、その大きさの違いや表面特異的マーカーに基づいてセルソーティングにより均質な集団を形成するいくつかの方法が開発されている(S.C.Hung,N.J.Chen,S.L.Hsieh,H.Li,H.L.Ma,W.H.Lo,ヒト骨髄由来の篩分けされた細胞の分離と特徴付け,Stem Cells.20(2002)249−258;R.Zohar,J.Sodek,C.A.McCulloch,フローサイトメトリーにより濃縮された間質前駆細胞の特徴付け,Blood,90(1997)3471−3481)。従って、Hungら(2002)は、最近、ヒト骨髄から細胞の大きさや粘着性に基づいてパーコールの密度勾配分離およびより小さな細胞を除去するための3μmの多孔性篩を用いて均質な集団を効果的に分離する方法を開発した。形成された精製hBMSC集団は、篩分けされた細胞(SSC)と称され、hBMSC不均質集団に比較してより優れた再生能力を有している[Hungら、(2002)]。SSCは2から3の経路において初期造血幹細胞表面マーカー、すなわちCD34およびAC133を欠失しており、骨形成MSCおよび成熟骨前駆体に対するマーカーを発現できない[Hungら、(2002)]。しかしながら、これらの細胞はThy−1、マトリックスレセプター(CD44およびCD105)、およびインテグリン(CD29およびCD51)を発現する。SSCは多分化能を有し、環境シグナルの影響下に骨形成、脂肪細胞化、および軟骨形成の系統を立ち上げることができる[Hungら、(2002)]。SSCは、幹細胞の神経分化を誘発するためインビトロにおいてしばしば使用されるβ−メルカプトエタノール及びレチノイン酸などの抗酸化剤の刺激により電気的活性神経細胞を形成することも明らかにされている(S.C.Hung,H.Cheng,C.Y.Pan,M.J.Tsai,L.S.Kao,H.L.Ma,篩分けされた幹細胞の電気的活性神経細胞へのインビトロ分化,Stem Cells,20(2002)522−529)。β−メルカプトエタノールおよびレチノイン酸はSSCの機能性ニューロンへの分化に対して強い影響を有するが、CNS組織の修復における2つの因子の役割は明らかにされていない。
【0005】
しかしながら、β−メルカプトエタノール及びレチノイン酸などの抗酸化剤によりSSCを刺激して神経細胞を形成する方法はインビトロにおいてのみ応用できる方法である。β−メルカプトエタノールは有毒物質である。さらに、レチノイン酸は発癌性物質である。両抗酸化剤は動物に損傷を引き起こし、これらにより刺激された神経細胞の移植は受容者に死をもたらすことになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、神経細胞の形態の変化を刺激する安全で効果的な神経栄養因子により線維芽細胞様形状から突起形成型へとSSCを形態学的に形質転換するための新規な方法を提供する。さらに、本発明により得られる神経細胞は動物における神経欠損の修復に適している。
【0007】
本発明の課題の一つは、神経栄養因子および/またはジブチリルcAMP(dbcAMP)により骨髄幹細胞を処理することを含む神経分化誘導方法を提供することであり、該神経栄養因子はグリア細胞系由来神経栄養因子(GDNF)または脳下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)を含有する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、骨髄幹細胞を神経栄養因子および/またはジブチリルcAMP(dbcAMP)で処理することを含む神経分化誘導方法であって、該神経栄養因子がグリア細胞系由来神経栄養因子(GDNF)または下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)を含有する、神経分化誘導方法を提供するものである。
【0009】
本発明によれば、骨髄幹細胞を採取し機能性神経細胞を作製する。ヒト骨髄由来幹細胞はニューロンへ分化できる可能性を有しており、神経細胞再生に最適な物質であると考えられる。好ましくは、該骨髄幹細胞はヒト骨髄由来の篩分けされた(size-sieved)幹細胞である。篩分けされた幹細胞は骨髄幹細胞初代培養において不均質集団が形成されないように、セルソーティングを利用して大きさの違いと表面特異的マーカーに基づき均質な集団を形成するために開発される。さらに、篩分けされた幹細胞は不均質集団より優れた再生能力を有している。ヒト骨髄細胞由来の篩分けされた幹細胞は3μmの多孔性篩により篩分けされているものがさらに好ましい。篩分けされた幹細胞は細胞の大きさや粘着性に基づいてパーコールの密度勾配分離、およびより小さな細胞を除去するための多孔性篩を用いてヒト骨髄から均質な集団として効果的に分離される。
【0010】
本発明によれば、神経栄養因子は神経分化を誘導する刺激剤として働く。化学試薬に比べて損傷の少ない正常な生理学的条件に存在する微小環境因子である神経栄養因子という観点において、神経栄養因子は動物に移植する目的のために骨髄幹細胞を処理する安全な試薬とみなされている。本発明においては、神経栄養因子はグリア細胞系由来神経栄養因子または脳下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチドを含有する。
【0011】
多くのCNSニューロン細胞集団にとって重要な生存因子であるグリア細胞系由来神経栄養因子(GDNF)は、種々のCNS機能障害の治療に使用できる可能性を有している。GDNFの治療価値が最近AiraksinenおよびSaarmaにより再検討された(M.S.Airaksinen,M.Saarma,GDNFファミリー:シグナリング、生物学的機能、および治療価値,Nat.Rev.Neurosci.3(2002)383−394)。また、損傷した脊髄へGDNFを髄腔内注射することにより、脊髄損傷(SCI)ラットにおいて後肢の回復に改善が見られたという報告もなされている(H.Cheng,J.P.Wu,S.F.Tzeng,打撲による脊髄損傷におけるグリア細胞系由来神経栄養因子の神経細胞保護,J.Neurosci.Res.69(2002)397−405)。本発明によれば、GDNFで処置することにより神経炎の拡がりや分枝する長い突起を改善することができる。神経特異的マーカーの見地において、GDNFはニューロフィラメント軽鎖タンパク質(NF−L)、小胞タンパク質であるシナプシン−1および神経前駆マーカーであるインターネキシンの発現を刺激する効果を有している。GDNFはまた、SSCに神経非特異的細胞骨格タンパク質α−チューブリンの発現を誘導する。好ましくは、グリア細胞系由来神経栄養因子の投与量は、20ng/mL〜50ng/mLである。
【0012】
cAMP誘導神経ペプチドである下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)は、インビボおよびインビトロにおけるCNS神経分化に重要な役割を果たしている(E.Dicicco−Bloom,N.Lu,J.E.Pintar,J.Zhang,PACAPリガンド/レセプター系による大脳皮質神経発生の制御,Ann.N.Y.Acad.Sci.11(1998)274−289;J.A.Waschek,神経系の発達と再生における脳下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ペプチドの複数の働き,Dev.Neurosci.24(2002)14−23)。さらに、軸索の再生には細胞内cAMPの上昇が不可欠である(W.D.Snider,F.Q.Zhou,J.Zhong,A.Markus,再生経路のシグナリング,Neuron.35(2002)13−16)。Gatteiらは、GDNFレセプター−αおよびその受容体チロシンキナーゼRETがhBMSC内に発現されることを見出した(V.Gattei,A.Celetti,A.Cerrato,M.Degan,A.De Iuliis,F.M.Rossi,G.Chiappetta,C.Consales,S.Improta,V.Zagonel,D.Aldinucci,V.Agosti,M.Santoro,G.Vecchio,A.Pinto,M.Grieco,骨髄微小環境である正常および白血病ヒト造血細胞および間質細胞におけるRET受容体チロシンキナーゼおよびGDNFR−αの発現,Blood.89(1997)2925−2937)。本発明によれば、PACAPはSSCをニューロンへ形態学的に形質転換するためのSSCの神経分化の刺激に用いられる。PACAPはPAC1レセプターを介して細胞内cAMPを上昇させ、神経発生を刺激する[Dicicco−Bloomら、(1998)]。本発明によれば、PACAPによる処理は、神経炎の拡がりや分枝する長い突起を改善することができる。神経特異的マーカーの見地において、PACAPはNF−L、小胞タンパク質であるシナプシン−1および神経前駆マーカーであるインターネキシンの発現を刺激する効果を有している。PACAPはまた、SSC内にα−チューブリンの発現を誘導する。好ましくは、下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチドの投与量は、10ng/mL〜20ng/mLである。
【0013】
ジブチリルcAMP(dbcAMP)はSSC内に非常に分枝した長い微細な突起を誘導する細胞透過性cAMP類似体である。本発明によれば、dbcAMPで処理することは、NF−L、小胞タンパク質であるシナプシン−1および神経前駆マーカーであるインターネキシンの発現を高める。dbcAMPはまた、SSC内にα−チューブリンの発現を誘導する。また、dbcAMPでの処理は、GDNF−およびPACAP−処理SSC培養において観察されたよりも突起の分枝、および伸長をさらに誘導するる。好ましくは、ジブチリルcAMPの投与量は、100μMである。
【0014】
神経栄養因子は多くの神経疾患のニューロン生存および修復に対して効果を有している。したがって、神経栄養因子と細胞移植の組み合わせは、神経疾患の治療にとって有効な治療戦略であると考えられる。神経幹細胞の分化は神経栄養因子はによって誘導されることが明らかになっている(N.Y.Ip,ニューロトロフィンおよび神経性サイトカイン:神経および造血細胞に作用する2つの成長因子ファミリー,Ann.N.Y.Acad.Sci.840(1998)97−106;A.Markus,T.D.Patel,W.D.Snider,神経栄養因子および軸索成長,Curr.Opin.Neurobiol.12(2002)523−531;H.Thoenen,ニューロトロフィンと神経可塑性,Science.270(1995)593−598)。しかしながら、神経細胞におけるSSCの分化転換に対する神経栄養因子の作用については知られていない。本発明では、まず、GDNFおよびPACAPがSSC分化を成熟ニューロン表現型へ刺激できることを示す。cAMP/PKA、MAPキナーゼ、PI3キナーゼ、およびPLC−γシグナリング経路を活性化することによって神経細胞保護を発揮し、軸索の再成長を刺激する2つの神経栄養因子が知られている[Airaksinenら、(2002)およびWaschekら、(2002)]。さらに、細胞内cAMPの上昇はSSC内の神経突起の形成を高めることができる。本発明は、ITS培地中で培養されたSSCが突起形成型であり、ニューロンシナプシン小胞タンパク質であるシナプシン−1陽性であることを明らかにした。ITS培地中のGDNFまたはPACAPでの処理は、さらに、特有の突起を有するSSCのニューロン様細胞への形質転換を誘導することができる。ほとんどのCNS成熟ニューロンにおいて発現されたNFタンパク質は、ニューロンの成長、組織化、形状、および可塑性において重要な役割を果たしていることが知られている。したがって、GDNFまたはPACAPを含有するITS培地により誘導されたSSC中のNF−Lの付加発現はSSCの神経分化に対する2つの分子の制御的役割を示している。長い突起中に広がる分枝およびNF−Lの増加がdbcAMP処理SSCに認められる。これは、細胞内cAMPがPACAP処理SSCのニューロン分化促進に関与している可能性を示すものである。SSC中でのNF−Lおよびα−チューブリンの産生においてGDNFのPACAPまたはdbcAMPとの併用による相乗効果は観察されなかったことに注意すべきである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に示す実施例は本発明の説明だけを目的とするものであって、本発明の権利範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0016】
実施例1:ヒト骨髄由来の篩分けされた幹細胞
SSCをヒト骨髄から公知の方法[Hungら、(2002)]にしたがって単離した。すなわち、正常ドナーの腸骨稜からヒト骨髄を吸引採取し、リン酸緩衝食塩液(PBS)で2回洗浄した。細胞を1.073g/mLのパーコール溶液(シグマ社、登録商標)に入れ、900gで30分間遠心分離を行った。単核細胞(MNC)を界面から集め、1×106MNC/cm2の密度で孔サイズ3μmの篩(トランスウェルシステム、登録商標、コーニング社)が挿入されている10cmのプラスチック培養皿上に載せた。細胞を10%牛胎児血清(FBS)、100U/mLのペニシリン、100mg/mLのストレプトマイシン、および0.25μg/mLのアムフォテリシンB(血清含有培地)を含有するダルベッコ変法イーグル培地(低濃度グルコース)(DMFM−LG)中で培養した。7日後、挿入されている篩の上部に付着している細胞はより大きな、線維芽細胞様形態を有しており、これをSSCと名付けた。しかしながら、篩を通過した細胞は小さく、多角形であり、再生度は低かった。SSCを0.25%トリプシンおよび1mMのEDTAにより収集し、10cmの培養ペトリ皿に移した。SSCを80%飽和まで血清含有培地中で培養した後、細胞をウェスタン・ブロッティング法用には1×105細胞/皿の密度で35mm培養ペトリ皿に、免疫蛍光法用には1×104細胞/ウェルの密度で8穴チャンバーに移した。
【0017】
実施例2:ヒト骨髄由来の篩分けされた幹細胞の刺激
血清含有培地中で48時間培養後、SSCを血清培地(ITS培地)のみ、およびGDNF(20および50ng/mL、R&D、登録商標)、PACAP(10および20ng/mL、シグマ、登録商標)またはdbcAMP(20μM、シグマ、登録商標)を含有するITS培地中で処理した。ITS培地は56%DMEM−LG(ライフ・バイオテク、登録商標)、40%MCDB−201培地(シグマ、登録商標)、および1mg/mLのインスリン、0.55mg/mLのヒトトランスフェリン、0.5μg/mLの亜セレン酸ナトリウム、10nMのデキサメタゾン(シグマ、登録商標)および10μMのアスコルビン酸(シグマ、登録商標)を含有する1倍ITS培地サプリメントを含む。本発明者らは、無血清DMEM−LG培地中のSSCがGDNFおよびPACAPにわずかに応答することを確認した。しかし、SSCをITSサプリメント含有無血清培地中で培養した場合、これらの細胞は培養プレート上によく付着し、突起の伸長がみられた。したがって、ITS培地中での処理を行った。
【0018】
SSCの形態を図1および図2に示す。図2に示すように、SSCを10%FBS含有培地中で培養した場合、細胞は平坦な、線維芽細胞様形態を示した。しかしながら、ITS培地のみで培養する間にSSCは神経突起を伸長形成することを見出した(図1および2)。更に、SSCをGDNFまたはPACAPを含有するITS培地中で処理すると神経炎の伸長がさらに向上した。これは、SSCのITS培地のみによる7日間の培養の際に、小胞タンパク質であるシナプシン−1がすでに観察されたことを示していた。上記のように、ITS培地のみでもSSCのニューロン分化はある程度誘導された。
【0019】
実施例3:ニューロン特異的マーカーに対するGDNF、PACAP、およびdbcAMPの効果
ITS培地中でのSSCのニューロン分化に及ぼすGDNF、PACAPおよびdbcAMPの効果について検討した。SSCにおけるニューロン特異的マーカー(NF−LおよびNF−H)の量をウェスタン・ブロッティング法により求めた。SSCを1×105細胞/35mmペトリ皿の密度で新たにペトリ皿に取り、GDNF、PACAP、またはdbcAMPを上記の濃度で含有するITS培地中で7日間培養した。細胞を収集し、1%のSDS、1mMのフェニルメチルスルフォニルフルオライド(PMSF)、1mMのEDTA、1.5mMのペプスタチン、2mMのロイペプチンおよび0.7mMのアプロチニンを含有するPBSを用いて氷冷しながら穏やかにホモジナイズした。タンパク質濃度をBio−Rad、DCキット(登録商標)を用いて測定した。全タンパク質10μgを7.5%SDS−PAGEにかけ、ニトロセルロース膜に転写した。膜を抗NF抗体(ケミコン、登録商標)と共に4℃で一晩インキュベートした後、西洋ワサビペルオキシダーゼ標識二次抗体を加え高感度ケミルミネッセンス溶液(NEN・ライフサイエンス、登録商標)によりNF−L(70kDa)およびNF−H(200kDa)を同定した。
【0020】
結果を図3および図4に示す。図3に示すように、ウェスタン・ブロッティングは、GDNFまたはPACAP処理はSSC中のNF−Hに対する効果は低かったが、NF−Lタンパク質の発現を刺激する効果を有していることを示した。。
【0021】
図4に示したように、細胞透過性cAMP類似体(dbcAMP)を含有するITS培地はITS培地単独の場合に比較して、非常に分枝した長い微細な突起をSSCに誘導することが確認された。GDNFおよびPCACPと同様に、dbcAMPで処理することは、SSC中のNF−Lおよびα−チューブリン量を増大することもウェスタン・ブロッティング法により確認された。しかし、SSC中でのNF−Lおよびα−チューブリンの産生に対してGDNFとPACAPまたはdbcAMPとの組み合わせによる相乗効果は見られなかった。
【0022】
その他のニューロン中間径フィラメントタンパク質であるα−インターネキシン(図5)の免疫蛍光染色をα−インターネキシンに対する抗体(1:200、ケミコン、登録商標)を用いて行った。GDNFおよびPACAPはSSCに分枝した突起をある程度誘導できることが示された。しかしながら、dbcAMPによる7日間の処理は、コントロールの培養に加えGDNF処理およびPACAP処理SSC培養の場合と比較しても、より高度に分枝した長い突起を生じさせることができた。
【0023】
実施例4:SSCの形態変化に対するGDNFおよびPACAPの効果
ITS培地中で7日間、50ng/mLのGDNFまたは20nMのPACAPで処理したSSCの形態変化を検出するために、SSCを4%パラフォルムアルデヒド含有PBS中で10分間固定した。シナプス小胞タンパク質であるシナプシン−1の免疫蛍光法による測定は、0.1%トリトンX−100および5%ウマ血清を含有するPBS中で抗シナプシン−1抗体(1:200、BD・バイオサイエンス、登録商標)を4℃で一晩反応させた後、ビオチン化二次抗体(1:200、ベクター、登録商標)およびFITC−アビジン(1:200、ベクター、登録商標)により行った。結果は、SSCの突起および/または辺縁膜に処理の有無にかかわりなくシナプシン−1の強い免疫蛍光染色を示した。さらに、GDNFまたはPACAPで処理した培養におけるシナプシン−1陽性細胞では分枝した伸長した突起が観察された(図6に示す)。
【0024】
本発明を実施例により例示、説明したが、種々の変形および改良が当業者により可能である。本発明は説明のため用いた特別な形式に限定されるものではなく、本発明の精神および範囲から逸脱しない範囲における全て変形が添付した特許請求の範囲に定義される範囲に含まれることを意図している。。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】SSCのニューロン様形質転換の相コントラスト画像を示す。SSCはITS培地のみ(0)、および50ng/mLのGDNFまたは20ng/mLのPACAPを含有するITS培地において突起形成型細胞になることが確認できる(倍率:200倍)。
【図2】GDNF、PACAPおよびdbcAMPによるSSCのニューロン様形質転換の相コントラスト画像を示す。血清含有培地中のSSCの形態は線維芽細胞様であり、血清除去培地(ITS培地単独、0)では突起形成型になることが示された。さらに、GDNF(50ng/mL)、PACAP(20ng/mL)、dbcAMP(0.1mM)、GDNF(50ng/mL)+PACAP(20ng/mL)、またはGDNF(50ng/mL)+dbcAMP(0.1mM)を添加したITS培地中で7日間処理したSSCの突起は伸長し高度に分枝している(倍率:200倍)。
【図3】ニューロン特異的マーカーNF−LおよびNF−Hの発現の結果を示す。ウェスタン・ブロッティング分析はニューロン特異的マーカーNF−Lが、ITS培地単独(0)に比較して、ITS培地中のGDNF(50ng/mL)またはPACAP(10または20ng/mL)による7日間の処理後に向上(upregulate)したことを示している。
【図4】NF−Lおよびα−チューブリンの発現の結果を示す。ウェスタン・ブロッティング分析はニューロン特異的マーカーNF−Lは上記と同様に処理したSSCにおいて7日間の処理後に向上(upregulate)したことを示している。さらに、ニューロン非特異的細胞骨格タンパク質α−チューブリンのSSC中濃度は、上記に示した種々の処置により増加している。ITS培地のみによる処置を0として示している。
【図5】SSC中のα−インターネキシンの免疫蛍光染色の結果を示す。ここでは、SSCをITS培地単独(0)、またはGDNF(50ng/mL)、PACAP(20ng/mL)およびdbcAMP(0.1mM)を含有するITS培地中で7日間処理し、培養物に対してα−インターネキシンに対する免疫蛍光染色を行っている。GDNFおよびdbcAMPで処理したSSCの突起の分枝(矢)および伸長(矢じり)はITS培地のみ(0)におけるよりもはるかに大きい結果である。縮尺バー=50μm
【図6】SSCのニューロン様形質転換を示す画像である。小胞タンパク質であるシナプシン−1はSSCをITS培地のみ(0)で7日間培養したときすでに発現されている。さらに、GDNF(50ng/mL)またはPACAP(20ng/mL)含有ITS培地中で7日間処理することによって、突起(矢)の伸長(矢じり)がさらに誘導されるとともに分枝が増大している。縮尺バー=50μm
【誤訳訂正書】
【提出日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【誤訳訂正1】
【訂正対象書類名】図面
【訂正対象項目名】全図
【訂正方法】追加
【訂正の内容】

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨髄幹細胞を神経栄養因子および/またはジブチリルcAMP(dbcAMP)で処理することを含む神経分化誘導方法であって、該神経栄養因子がグリア細胞系由来神経栄養因子(GDNF)または下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)を含有する、神経分化誘導方法。
【請求項2】
骨髄幹細胞がヒト骨髄由来の篩分けされた幹細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ヒト骨髄由来の篩分けされた幹細胞が3μmの多孔性篩により篩分けされる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
グリア細胞系由来神経栄養因子の投与量が20ng/mL〜50ng/mLである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチドの投与量が10ng/mL〜20ng/mLである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ジブチリルcAMPの投与量が100μMである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
神経分化がニューロフィラメント軽鎖タンパク質(NF−L)の増加、α−チューブリンの増加、小胞タンパク質であるシナプシン−1の産生、ニューロン前駆細胞マーカーであるインターネキシンの産生、細胞突起の伸長、および突起分枝の増加を含む請求項1に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−6333(P2006−6333A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−182015(P2005−182015)
【出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【出願人】(505236481)
【Fターム(参考)】