説明

神経変性疾患モデル非ヒト哺乳動物

【課題】線条体におけるプロサイモシンα遺伝子発現不全非ヒト哺乳動物および該動物を用いたハンチントン病等の予防/治療薬のスクリーニング方法の提供。
【解決手段】線条体においてプロサイモシンα遺伝子発現不全非ヒト哺乳動物であって、対応する野生型動物と比較して、
(1)脳虚血処置に対して脆弱である、
(2)運動性が劣る、
(3)加齢によって、上記(1)および(2)の症状を自然発症する、および
(4)ドパミンD2受容体アゴニスト、ドパミン代謝阻害剤、NMDA受容体拮抗剤またはドパミンD1受容体アゴニストによって上記(1)、(2)および(3)の症状が改善する、
ことを特徴とする動物など。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線条体におけるプロサイモシンα遺伝子発現不全非ヒト哺乳動物などに関する。
【背景技術】
【0002】
中枢神経系の神経細胞が変性・脱落することで起こる神経変性疾患は、それぞれの疾患ごとに特定の部位が傷害されることが知られている。そのなかで、運動機能を制御、調節する錐体外路の主要な構成部位である大脳基底核の神経細胞が傷害されるものにパーキンソン病、ハンチントン病が挙げられる。前者は黒質緻密部から線条体へ投射するドパミン作動性神経(非特許文献1)、後者は線条体から淡蒼球や黒質網様層へ投射するGABA作動性神経の変性が原因とされている(非特許文献2)。両者はともに難治度、重症度が高い疾患として特定疾患治療研究事業の対象に指定されており、さらなる原因の究明と治療薬の開発が期待されている。ハンチントン病は白人で1万人に1人弱、その他の人種ではその数分の一に発症する、優勢遺伝性の疾患である。特に父親由来の原因遺伝子を持つ場合、症状が重篤となることが知られている。その症状は、異常不随意運動や姿勢異常といったジストニアと呼ばれる運動症状に加えて、うつや痴呆などの精神症状が見られる。ハンチントン病の新薬の開発が試みられ複数の物質が候補に挙げられているものの、現在のところ有効性は確立されていない状態である(非特許文献3)。
ハンチントン病の症状のうちジストニアについては、経験的にL−DOPA製剤が投与されてきた(非特許文献4)。しかしながら、L−DOPA製剤は有効性に優れる反面、作用持続時間が短く、長期使用で効果の変動(wearing off,on−off)やジスキネジアなどの症状を生じるため患者のQOL低下の原因となる。そのため、L−DOPA製剤に次ぐ効果を有し、作用持続時間が長いドパミンアゴニストが注目されるようになった。現在、我が国では6種類のドパミンアゴニストが臨床で使用されているが、なかでもプラミペキソールはハンチントン病における筋剛直に対し治療効果を示すとの報告があり(非特許文献5)、有効性の確立に期待が集まっている。
【0003】
このような状況下、ハンチントン病に対する治療薬の評価・スクリーニングを目的として、これまでにいくつかのハンチントン病様モデル動物が確立されてきた。最初に報告されたハンチントン病様モデルマウスは、ハンチントン病患者の持つハンチントン病遺伝子のexon1を導入したR6/2マウスであり、神経細胞死までは観察されないものの、脳重量の減少、筋肉量の低下、カロリー摂取量の増加、排尿頻度の増加、寿命の大幅な短縮、クラスピング、振戦などの症状を呈することが報告されている(非特許文献6)。しかし、該ハンチントン病様モデル動物は平均10−12週齢で死亡してしまうため、長期的に薬物の効果を検討することは困難であった。また、その症状は運動障害以外にも多岐に渡るため特異的な機能解析が難しいという問題点があった。これらの問題を解決すべく開発された、神経細胞死を誘発しないモデルマウスとしては、ヒトのハンチンチン病患者より得られたCAGリピート配列をノックインしたマウスが報告されている(非特許文献7、8)が、運動症状の改善を狙う新たな薬物の検討に適したモデルのニーズが高まっていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Lang,A.E.and A.M.Lozano,Parkinson’s disease.Second of two parts.N Engl J Med,1998.339(16):p.1130−43.
【非特許文献2】Kelly,C.M.,S.B.Dunnett,and A.E.Rosser,Medium spiny neurons for transplantation in Huntington’s disease.Biochem Soc Trans,2009.37(Pt1):p.323−8.
【非特許文献3】Walker,F.O.,Huntington’s disease.Lancet,2007.369(9557):p.218−28.
【非特許文献4】Segawa,M.,Hereditary progressive dystonia with marked diurnal fluctuation.Brain Dev.
【非特許文献5】Bonelli,R.M.and G.K.Wenning,Pharmacological management of Huntington’s disease:an evidence−based review.Curr Pharm Des,2006.12(21):p.2701−20.
【非特許文献6】Laura Mangiarini et al.,Cell,Vol.87,1996:p.493−506.
【非特許文献7】Liliana B.Menalled et al.,The Journal of Comparative Neurology,Vol.465,2003:p.11−26.
【非特許文献8】Elizabeth J.Slow et al.,Human Molecular Genetics,Vol.12,No.13,2003:p.1555−1567.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、線条体におけるプロサイモシンα遺伝子発現不全非ヒト哺乳動物および該動物を用いたハンチントン病を含む神経変性疾患の予防/治療薬のスクリーニング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は以前に、虚血ストレスによって誘導される神経性ネクローシス細胞死を抑制する核タンパク質としてプロサイモシンαを見出した(Ueda H et al.,J Cell Biol.Vol.176(6),853−862,2007)。そこで本発明者は、興奮性ドパミン受容体を持つ線条体のGABA神経において、線条体特異的に発現するG蛋白質γ7サブユニット遺伝子(Gng7)プロモーターの下流にcre蛋白質遺伝子を連結することで、cre−loxPシステムを利用して、プロサイモシンαが線条体において発現不全となったコンディショナルノックアウトマウスを作成した。該マウスは、線条体GABA神経において機能的プロサイモシンαを欠失しており、虚血ストレス時の神経保護作用を喪失している。発明者は週齢の若い該マウスの虚血処置時の表現型を評価すると共に、ドパミンD2受容体のアゴニストであるプラミペキソール、ドパミン代謝阻害剤であるセレギリンの該マウスに対する効果の検討を行った。その結果、該マウスは公知のハンチントン病モデルマウスに見られるような特徴を有することが確認された。また、その症状は、ドパミンD2受容体アゴニスト、ドパミン代謝阻害剤またはNMDA受容体拮抗剤の投与によって改善されることを見出した。さらに、発明者は週齢を重ねた該マウスの表現型についても評価し、ドパミンD1受容体アゴニストであるSKF38393の効果の検討を行った。その結果、加齢によって虚血処置時と類似の症状を自然発症すると共に、該症状は、ドパミンD1受容体アゴニストによって改善されることを見出した。
本発明者は、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
[1]線条体においてプロサイモシンα遺伝子発現不全非ヒト哺乳動物であって、対応する野生型動物と比較して、
(1)脳虚血処置に対して脆弱である、
(2)運動性が劣る、
(3)加齢によって、上記(1)および(2)の症状を自然発症する、および
(4)ドパミンD2受容体アゴニスト、ドパミン代謝阻害剤、NMDA受容体拮抗剤またはドパミンD1受容体アゴニストによって上記(1)、(2)および(3)の症状が改善する、
ことを特徴とする動物;
[2]G蛋白質γ7サブユニット遺伝子プロモーターにより発現制御されたcre遺伝子を有し、かつloxP配列に挟まれたプロサイモシンα遺伝子をホモ接合型で有する、上記[1]に記載の動物;
[3]ドパミンD2受容体アゴニストがプラミペキソール、ペルゴリド、カベルゴリン、タリペキソールまたはロビニロールである、上記[1]に記載の動物;
[4]ドパミン代謝阻害剤がセレギリン、エンタカルボン、ドアマンタジン、L−ドーパ、ドロキシドパまたはゾニサミドである、上記[1]に記載の動物;
[5]NMDA受容体拮抗剤がメマンチンまたはCP−101606である、上記[1]に記載の動物;
[6]ドパミンD1受容体アゴニストがSKF38393である、上記[1]に記載の動物;
[7]動物がマウスまたはラットである、上記[1]に記載の動物;
[8]上記[1]に記載の動物に試験化合物を適用し、(1)脳虚血処置に対する生存率および/または(2)運動性を測定することを特徴とする、神経変性疾患または虚血性疾患由来のジストニアの治療/予防薬のスクリーニング方法;
[9]上記[1]に記載の動物であって、週齢が進んだ該動物に試験化合物を適用し、(1)生存率および/または(2)運動性を測定することを特徴とする、神経変性疾患または虚血性疾患由来のジストニアの治療/予防薬のスクリーニング方法;
[10]試験化合物がドパミンD2受容体アゴニストである、上記[8]または[9]に記載のスクリーニング方法;
[11]試験化合物がドパミン代謝阻害剤である、上記[8]または[9]に記載のスクリーニング方法;
[12]試験化合物がNMDA受容体拮抗剤である、上記[8]または[9]に記載のスクリーニング方法;
[13]試験化合物がドパミンD1受容体アゴニストである、上記[8]または[9]に記載のスクリーニング方法;
[14]神経変性疾患がハンチントン病である、上記[8]または[9]に記載のスクリーニング方法;
などを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の線条体におけるプロサイモシンα遺伝子発現不全非ヒト哺乳動物によれば、ハンチントン病を含む神経変性疾患の新規予防/治療薬をスクリーニングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、マウスのプロサイモシンα遺伝子の野生型アリル、Floxedアリルおよび欠失アリルの構造を示す図である。
【図2】図2は、transient Middle Cerebral Artery Occlusion(tMCAO)処置を15分間実施後における、WTマウスの病態を示す図である。A:WTマウスに対するtMCAO処置と試験実施のタイムスケジュール、B:WTマウスの生存率、C:WTマウスのClinical score、D:WTマウスのロータロッド(6rpm)上の滞在時間。
【図3】図3は、transient Middle Cerebral Artery Occlusion(tMCAO)処置を15分間実施後における、GgマウスおよびGgFFマウスの病態を示す図である。*は、有意差(p<0.05,Gg vs GgFF)を示す。A:GgマウスおよびGgFFマウスに対するtMCAO処置と試験実施のタイムスケジュール、B:GgマウスおよびGgFFマウスの生存率、C:GgマウスおよびGgFFマウスのClinical score、D:GgマウスおよびGgFFマウスのロータロッド(6rpm)上の滞在時間。
【図4】図4は、プラミペキソールを投与され、transient Middle Cerebral Artery Occlusion(tMCAO)処置を15分間実施後における、各種マウスの病態を示す図である。A:各種マウスに対するプラミペキソールを投与、tMCAO処置および試験実施のタイムスケジュール、B:各種マウスの生存率、C:各種マウスのClinical score。
【図5】図5は、プラミペキソールを投与され、transient Middle Cerebral Artery Occlusion(tMCAO)処置を15分間実施後における、WTマウスおよびGgFFマウスの病態を示す図である。**は、有意差(p<0.01,ischemia vs ischemia+PPX)を示す。A:WTマウスおよびGgFFマウスに対するプラミペキソールを投与、tMCAO処置および試験実施のタイムスケジュール、B:WTマウスおよびGgFFマウスのロータロッド(6rpm)上の滞在時間、C:WTマウスおよびGgFFマウスのロータロッド(12rpm)上の滞在時間。
【図6】図6は、セレギリンを投与され、transient Middle Cerebral Artery Occlusion(tMCAO)処置を15分間実施後における、各種マウスの病態を示す図である。A:各種マウスに対するセレギリンを投与、tMCAO処置および試験実施のタイムスケジュール、B:各種マウスの生存率、C:各種マウスのClinical score。
【図7】図7は、セレギリンを投与され、transient Middle Cerebral Artery Occlusion(tMCAO)処置を15分間実施後における、GgFFマウスの病態を示す図である。A:GgFFマウスに対するセレギリンを投与、tMCAO処置および試験実施のタイムスケジュール、B:GgFFマウスのロータロッド(6rpm)上の滞在時間、C:GgFFマウスのロータロッド(12rpm)上の滞在時間。
【図8】図8は、WTマウス、GgマウスおよびGgFFマウスのclasping score、ロータロッド上での滞在時間を示す図である。**は、有意差(p<0.01,Gg vs GgFF)、#は、(p<0.05,WT vs GgFF)、##は、(p<0.05,WT vs GgFF)を示す。A:10週齢の各種マウスのclasping score、B:20週齢の各種マウスのclasping score、C:各種マウスの抱擁反射の写真像、D:10週齢の各種マウスのロータロッド(30rpm)上の滞在時間、E:10週齢の各種マウスのロータロッド(40rpm)上の滞在時間、F:20週齢の各種マウスのロータロッド(30rpm)上の滞在時間、G:20週齢の各種マウスのロータロッド(40rpm)上の滞在時間。
【図9】図9は、プラミペキソール投与後24時間以内のGgマウスおよびGgFFマウスのclasping score、ロータロッド上での滞在時間を示す図である。A:GgマウスおよびGgFFマウスのclasping score、B:GgマウスおよびGgFFマウスのロータロッド(30rpm)上の滞在時間、C:GgマウスおよびGgFFマウスのロータロッド(40rpm)上の滞在時間。
【図10】図10は、プラミペキソール投与後7日目までのWTマウス、GgマウスおよびGgFFマウスのclasping score、ロータロッド上での滞在時間を示す図である。A:GgマウスおよびGgFFマウスに対するプラミペキソール投与と試験実施のタイムスケジュール、B:GgマウスおよびGgFFマウスのclasping score、C:GgマウスおよびGgFFマウスのロータロッド(30rpm)上の滞在時間、D:GgマウスおよびGgFFマウスのロータロッド(40rpm)上の滞在時間。
【図11】図11は、セレギリン投与後24時間以内のGgFFマウスのclasping score、ロータロッド上での滞在時間を示す図である。A:GgFFマウスに対するセレギリン投与と試験実施のタイムスケジュール、B:GgFFマウスのclasping score、C:GgFFマウスのロータロッド(30rpm)上の滞在時間、D:GgFFマウスのロータロッド(40rpm)上の滞在時間。
【図12】図12は、メマンチン投与後24時間以内のGgFFマウスのclasping score、ロータロッド上での滞在時間を示す図である。A:GgFFマウスに対するメマンチン投与と試験実施のタイムスケジュール、B:GgFFマウスのclasping score、C:GgFFマウスのロータロッド(30rpm)上の滞在時間、D:GgFFマウスのロータロッド(40rpm)上の滞在時間。
【図13】図13は、メマンチン投与後7日目までのGgFFマウスのclasping score、ロータロッド上での滞在時間を示す図である。A:GgFFマウスに対するメマンチン投与と試験実施のタイムスケジュール、B:GgFFマウスのclasping score、C:GgFFマウスのロータロッド(30rpm)上の滞在時間、D:GgFFマウスのロータロッド(40rpm)上の滞在時間。
【図14】図14は、GgFFマウス由来のゲノムを鋳型としたジェノミックPCR産物の電気泳動を示す図である。
【図15】図15は、GgマウスおよびGgFFマウスの脳における、プロサイモシンα欠損領域を示す図である。A:脳に対するプロサイモシンαのDAB染色像、B:脳に対するプロサイモシンαのDAB染色像の4倍視野(Cpu;線条体、Hip;海馬、Cere;小脳)、C:脳に対するプロサイモシンαのDAB染色像および蛍光染色像の20倍視野、D:プロサイモシンαのWestern blot像
【図16】図16は、GgマウスおよびGgFFマウスの脳における、神経細胞形態および神経細胞数の変化を示す図である。A:脳に対するNissl染色像、B:脳に対するNissl染色像の10倍視野(Cpu;線条体、Hip;海馬、Cere;小脳)、C:脳に対するNissl染色像の20倍視野(CA1;海馬CA1領域、DG;歯状回)
【図17】図17は、GgマウスおよびGgFFマウスにおける自発運動量および行動速度の評価を示す図である。*は、有意差(p<0.05,vs Gg)を示す。A:Open field試験における10分ごとのマウスの行動軌跡(代表的な1匹を例示)、B:行動距離、C:平均行動速度、D:中心滞在時間
【図18】図18は、GgマウスおよびGgFFマウスにおける不安様症状の評価を示す図である。A:Marble burying試験前後のビー玉の様子、B:Marble burying試験でマウスが隠したビー玉の数、C:Novelty induced hypophagia試験でマウスがミルクを飲みに行くまでの時間、D:Novelty induced hypophagia試験でマウスが30分間で飲んだミルクの量
【図19】図19は、GgマウスおよびGgFFマウスの運動機能評価を示す図である。*は、有意差(p<0.05,vs Gg)を示す。A:最初3日間のマウスのロータロッド(20rpm)上の滞在時間、B:4日目のマウスのロータロッド(30rpm)上の滞在時間、C:Stationary thin rod testにおけるロッド上の滞在時間、D:Footprint試験におけるマウスの歩幅、前肢両間の距離、後肢両間の距離および前後肢のかぶり
【図20】図20は、D1アゴニスト、D2アゴニスト投与後5時間のGgFFマウスのロータロッド上での滞在時間を示す図である。*は、有意差(p<0.05,vs vehicle)を示す。A:SKF38393投与後のGgFFマウスのロータロッド(30rpm)上の滞在時間、B:プラミペキソール投与後のGgFFマウスのロータロッド(30rpm)上の滞在時間
【図21】図21は、GgマウスおよびGgFFマウスのその他の行動学的解析結果を示す図である。*は、有意差(p<0.05,vs Gg)を示す。A:10週齢ごとのマウスの平均体重、B:Wirehang testにおける網から落下するまでの時間、C:Tail suspension testにおける1分間ごとのマウスの無動時間の割合、D:Forced swim testにおける1分間ごとのマウスの無動時間の割合、E:Nest building testにおける一晩経過後の未使用Nestletsの量と巣の形状のスコア、F:Step through testにおける暗箱に入るまでの時間、Training;1日目、Test;2日目
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、線条体におけるプロサイモシンα遺伝子発現不全非ヒト哺乳動物を提供する。
【0011】
線条体におけるプロサイモシンα遺伝子発現不全非ヒト哺乳動物とは、内在性プロサイモシンαの発現が線条体において不活性化された非ヒト哺乳動物を意味し、例えば、loxP配列によって挟まれたプロサイモシンα遺伝子を有する組換えES細胞から作製されるプロサイモシンα遺伝子改変非ヒト哺乳動物と線条体特異的に発現されるcre遺伝子を有する遺伝子改変非ヒト哺乳動物との交配によって得られる、線条体におけるプロサイモシンα遺伝子がノックアウトされた非ヒト哺乳動物の他、アンチセンスもしくはRNAi技術によりプロサイモシンα遺伝子の発現が線条体において不活性化されるノックダウン(KD)非ヒト哺乳動物なども含まれる。ここで「ノックアウト(KO)」とは、内在性遺伝子を破壊したり、除去したりすることにより完全なmRNAを産生不能にすることを意味し、他方、「ノックダウン(KD)」とは、mRNAから蛋白質への翻訳を阻害することにより、結果的に内在性遺伝子の発現を不活性化することを意味する。以下、本発明の線条体におけるプロサイモシンα遺伝子KO/KD動物を、単に「本発明のKO/KD動物」という場合がある。また、線条体において不活性化されたとは、大脳基底核の一部分である線条体においてプロサイモシンαの遺伝子発現が不活性化されていることをいい、線条体以外のその他の組織では野生型非ヒト哺乳動物と該遺伝子の発現に有意な差はない。
【0012】
本発明で対象とし得る「非ヒト哺乳動物」は、トランスジェニック系が確立されたヒト以外の哺乳動物であれば特に制限はなく、例えば、マウス、ラット、ウシ、サル、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスターなどが挙げられる。好ましくは、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター等であり、なかでも疾患モデル動物作製の面から個体発生および生物サイクルが比較的短く、繁殖が容易な齧歯動物がより好ましく、とりわけマウス(例えば、純系としてC57BL/6系統、BALB/c系統、DBA2系統など、交雑系としてB6C3F系統、BDF系統、B6D2F系統、ICR系統など)およびラット(例えば、Wistar、SDなど)が好ましい。
また、哺乳動物以外にもニワトリなどの鳥類を、本発明で対象とする「非ヒト哺乳動物」と同様の目的に用いることができる。
【0013】
線条体においてプロサイモシンα遺伝子をノックアウトする具体的な手段としては、対象非ヒト哺乳動物由来のプロサイモシンα遺伝子(ゲノムDNA)を常法に従って単離し、例えば、Cre−loxP系やFlp−frt系を用いてプロサイモシンα遺伝子の全部または一部を切り出して該遺伝子を欠失させることによって、結果的に遺伝子を不活性化するように構築したDNA配列を有するDNA鎖(以下、ターゲッティングベクターと略記する)を、相同組換えにより対象非ヒト哺乳動物のプロサイモシンα遺伝子座に組み込ませる方法などが好ましく用いられ得る。
【0014】
該相同組換え体は、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)への上記ターゲッティングベクターの導入により取得することができる。
ES細胞は胚盤胞期の受精卵の内部細胞塊(ICM)に由来し、インビトロで未分化状態を保ったまま培養維持できる細胞をいう。ICMの細胞は将来、胚本体を形成する細胞であり、生殖細胞を含むすべての組織の基になる幹細胞である。ES細胞としては、既に樹立された細胞株を用いてもよく、また、EvansとKaufmanの方法(ネイチャー(Nature)第292巻、154頁、1981年)に準じて新しく樹立したものでもよい。例えば、マウスES細胞の場合、現在、一般的には129系マウス由来のES細胞が使用されているが、免疫学的背景がはっきりしていないので、これに代わる純系で免疫学的に遺伝的背景が明らかなES細胞を取得するなどの目的で、例えば、C57BL/6マウスやC57BL/6の採卵数の少なさをDBA/2との交雑により改善したBDFマウス(C57BL/6とDBA/2とのF)から樹立されるES細胞なども良好に用いることができる。BDFマウスは、採卵数が多く、かつ卵が丈夫であるという利点に加えて、C57BL/6マウスを背景に持つので、これ由来のES細胞は疾患モデルマウスを作製したとき、C57BL/6マウスと戻し交雑することでその遺伝的背景をC57BL/6マウスに代えることが可能である点で有利に用いられ得る。
【0015】
ES細胞の調製は、例えば以下のようにして行うことができる。交配後の雌非ヒト哺乳動物[例えばマウス(好ましくはC57BL/6J(B6)などの近交系マウス、B6と他の近交系とのFなど)を用いる場合は、約2ヶ月齢以上の雄マウスと交配させた約8〜約10週齢程度の雌マウス(妊娠約3.5日)が好ましく用いられる]の子宮から胚盤胞期胚を採取して(あるいは桑実胚期以前の初期胚を卵管から採取した後、胚培養用培地中で上記と同様にして胚盤胞期まで培養してもよい)、適当なフィーダー細胞(例えばマウスの場合、マウス胎仔から調製される初代線維芽細胞や公知のSTO線維芽細胞株等)層上で培養すると、胚盤胞の一部の細胞が集合して将来胚に分化するICMを形成する。この内部細胞塊をトリプシン処理して単細胞を解離させ、適切な細胞密度を保ち、培地交換を行いながら、解離と継代を繰り返すことによりES細胞が得られる。
【0016】
ES細胞は雌雄いずれを用いてもよいが、通常雄のES細胞の方が生殖系列キメラを作製するのに都合が良い。また、煩雑な培養の手間を削減するためにもできるだけ早く雌雄の判別を行うことが望ましい。ES細胞の雌雄の判定方法としては、例えば、PCR法によりY染色体上の性決定領域の遺伝子を増幅、検出する方法が、その1例として挙げられる。この方法を使用すれば、従来、核型分析をするのに約10個の細胞数を要していたのに対して、1コロニー程度のES細胞数(約50個)で済むので、培養初期におけるES細胞の第一次セレクションを雌雄の判別で行なうことが可能であり、早期に雄細胞の選定を可能にしたことにより培養初期の手間は大幅に削減できる。
また、第二次セレクションは、例えば、G−バンディング法による染色体数の確認等により行うことができる。得られるES細胞の染色体数は正常数の100%が望ましい。
【0017】
このようにして得られるES細胞株は、未分化幹細胞の性質を維持するために注意深く継代培養することが必要である。例えば、STO線維芽細胞のような適当なフィーダー細胞上で、分化抑制因子として知られるLIF(1〜10,000U/ml)存在下に炭酸ガス培養器内(好ましくは、5%炭酸ガス/95%空気または5%酸素/5%炭酸ガス/90%空気)で約37℃で培養するなどの方法で培養し、継代時には、例えば、トリプシン/EDTA溶液(通常0.001〜0.5%トリプシン/0.1〜5mM EDTA、好ましくは約0.1%トリプシン/1mM EDTA)処理により単細胞化し、新たに用意したフィーダー細胞上に播種する方法などがとられる。このような継代は、通常1〜3日毎に行なうが、この際に細胞の観察を行い、形態的に異常な細胞が見受けられた場合はその培養細胞は放棄することが望まれる。
【0018】
ES細胞は、適当な条件により、高密度に至るまで単層培養するか、または細胞集塊を形成するまで浮遊培養することにより、頭頂筋、内臓筋、心筋などの種々のタイプの細胞に分化させることが可能である〔M.J.Evans及びM.H.Kaufman,ネイチャー(Nature)第292巻、154頁、1981年;G.R.Martin,プロシーディングズ・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシーズ・ユーエスエー(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.)第78巻、7634頁、1981年;T.C.Doetschmanら,ジャーナル・オブ・エンブリオロジー・アンド・エクスペリメンタル・モルフォロジー、第87巻、27頁、1985年〕。
【0019】
例えば、ターゲッティングベクターが、Cre−loxP系を用いてプロサイモシンα遺伝子の全部または一部を切り出して該遺伝子を欠失させるべく設計されたものである場合、当該ベクターは、例えば、以下のような構成をとることができる。
【0020】
まず、相同組換えにより、内在性のプロサイモシンα遺伝子の全部または一部に改変されたプロサイモシンα遺伝子の全部または一部を含むDNA断片が挿入されるために、ターゲッティングベクターは、当該改変されたプロサイモシンα遺伝子の全部または一部を含むDNA断片の5’上流および3’下流に、それぞれ標的部位と相同な配列(5’アームおよび3’アーム)を含む必要がある(例えば、ターゲッティングベクターは、挿入される他のDNA断片の5’上流側にプロサイモシンα遺伝子の5’調節領域と相同な配列を含み、3’下流側にはプロサイモシンα遺伝子の3’非翻訳領域と相同な配列を含む)。
【0021】
本発明におけるプロサイモシンα遺伝子としては、具体的には、対象非ヒト哺乳動物がマウスの場合、GenBank accession No.NM_008972.2として登録されている塩基配列と同一もしくは実質的に同一な塩基配列を含むDNAが挙げられる。また、対象非ヒト哺乳動物がラットの場合、GenBank accession No.NM_021740.1として登録されている塩基配列と同一もしくは実質的に同一な塩基配列を含むDNAが挙げられる。
【0022】
プロサイモシンα遺伝子の塩基配列と実質的に同一な塩基配列とは、例えば、該塩基配列と、約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の同一性を有する塩基配列である。本明細書における塩基配列の同一性は、例えば、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=−3)にて計算することができる。
【0023】
さらに、該ターゲッティングベクターは、それぞれ標的部位と相同な配列の内側であって、かつプロサイモシンα遺伝子の全部または一部を挟み込む態様で、loxP配列をタンデムに有する必要がある。相同組換えによって染色体上に組み込まれた当該DNA断片は、プロサイモシンα遺伝子の全部または一部の両端の5’側および3’側に存在するloxP配列にCre蛋白質が作用することによって、該loxP配列に挟み込まれたプロサイモシンα遺伝子の全部または一部が切り出され、プロサイモシンα遺伝子がノックアウトされる。
【0024】
挿入される他のDNA断片としては特に制限はないが、薬剤耐性遺伝子やレポーター遺伝子を用いると、ターゲッティングベクターが染色体へ組み込まれたES細胞を、薬剤耐性もしくはレポーター活性を指標として選択することができる。ここで薬剤耐性遺伝子としては、例えば、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼII(nptII)遺伝子、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(hpt)遺伝子などが、レポーター遺伝子としては、例えば、β−ガラクトシダーゼ(lacZ)遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(cat)遺伝子などがそれぞれ挙げられるが、それらに限定されない。
【0025】
薬剤耐性もしくはレポーター遺伝子は、哺乳動物細胞内で機能し得る任意のプロモーターの制御下にあることが好ましい。例えば、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)ロングターミナルリピート(LTR)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)LTR、マウス白血病ウイルス(MoMuLV)LTR、アデノウイルス(AdV)由来初期プロモーター等のウイルスプロモーター、並びにβ−アクチン遺伝子プロモーター、PGK遺伝子プロモーター、トランスフェリン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成蛋白質遺伝子のプロモーターなどが挙げられる。
【0026】
また、ターゲッティングベクターは、薬剤耐性もしくはレポーター遺伝子の下流に、該遺伝子からのmRNAの転写を終結させる配列(ポリアデニレーション(polyA)シグナル、ターミネーターとも呼ばれる)を有していることが好ましく、例えば、ウイルス遺伝子由来、あるいは各種哺乳動物または鳥類の遺伝子由来のターミネーター配列を用いることができる。好ましくは、SV40由来のターミネーターなどが用いられる。
【0027】
通常、哺乳動物における遺伝子組換えは大部分が非相同的であり、導入されたDNAは染色体の任意の位置にランダムに挿入される。したがって、薬剤耐性やレポーター遺伝子の発現を検出するなどの選択(ポジティブ選択)によっては相同組換えにより標的となる内在性プロサイモシンα遺伝子にターゲッティングされたクローンのみを効率よく選択することができず、選択されたすべてのクローンについてサザンハイブリダイゼーション法もしくはPCR法による組込み部位の確認が必要となる。そこで、ターゲッティングベクターの標的配列に相同な領域の外側に、例えば、ガンシクロビル感受性を付与する単純ヘルペスウイルス由来チミジンキナーゼ(HSV−tk)遺伝子を連結しておけば、該ベクターがランダムに挿入された細胞はHSV−tk遺伝子を有するため、ガンシクロビル含有培地では生育できないが、相同組換えにより内在性プロサイモシンα遺伝子座にターゲッティングされた細胞はHSV−tk遺伝子を有しないので、ガンシクロビル耐性となり選択される(ネガティブ選択)。あるいは、HSV−tk遺伝子の代わりに、例えばジフテリア毒素遺伝子を連結すれば、該ベクターがランダムに挿入された細胞は自身の産生する該毒素によって死滅するので、薬剤非存在下で相同組換え体を選択することもできる。
【0028】
ES細胞へのターゲッティングベクターの導入には、リン酸カルシウム共沈殿法、電気穿孔(エレクトロポレーション)法、リポフェクション法、レトロウイルス感染法、凝集法、顕微注入(マイクロインジェクション)法、遺伝子銃(パーティクルガン)法、DEAE−デキストラン法などのいずれも用いることができるが、上述のように、哺乳動物における遺伝子組換えは大部分が非相同的であり、相同組換え体が得られる頻度は低いので、簡便に多数の細胞を処理できること等の点からエレクトロポレーション法が一般的に選択される。エレクトロポレーションには通常の動物細胞への遺伝子導入に使用されている条件をそのまま用いればよく、例えば、対数増殖期にあるES細胞をトリプシン処理して単一細胞に分散させた後、10〜10細胞/mlとなるように培地に懸濁してキュベットに移し、ターゲッティングベクターを10〜100μg添加し、200〜600V/cmの電気パルスを印加することにより行なうことができる。
【0029】
ターゲッティングベクターが組み込まれたES細胞は、単一細胞をフィーダー細胞上で培養して得られるコロニーから分離抽出した染色体DNAをサザンハイブリダイゼーションまたはPCR法によりスクリーニングすることによっても検定することができるが、他のDNA断片として薬剤耐性遺伝子やレポーター遺伝子を使用した場合は、それらの発現を指標として細胞段階で形質転換体を選択することができる。例えば、ポジティブ選択用マーカー遺伝子としてnptII遺伝子を含むベクターを用いた場合、遺伝子導入処理後のES細胞をG418などのネオマイシン系抗生物質を含有する培地中で培養し、出現した耐性コロニーをトランスフォーマントの候補として選択する。また、ネガティブ選択用マーカー遺伝子として、HSV−tk遺伝子を含むベクターを用いた場合、ガンシクロビルを含有する培地中で培養し、出現した耐性コロニーを相同組換え体の候補として選択する。得られたコロニーをそれぞれ培養プレートに移してトリプシン処理、培地交換を繰り返した後、一部を培養用として残し、残りをPCRもしくはサザンハイブリダイゼーションにかけて導入DNAの存在を確認する。
【0030】
導入DNAの組み込みが確認されたES細胞を同種の非ヒト哺乳動物由来の胚内に戻すと、宿主胚のICMに組み込まれてキメラ胚が形成される。これを仮親(受胚用雌)に移植してさらに発生を続けさせることにより、プロサイモシンα遺伝子が改変されたキメラ非ヒト哺乳動物が得られる。キメラ動物の中でES細胞が将来卵や精子に分化する始原生殖細胞の形成に寄与した場合には、生殖系列キメラが得られることとなり、これを交配することによりプロサイモシンα遺伝子改変が遺伝的に固定された非ヒト哺乳動物を作製することができる。
【0031】
キメラ胚の作製方法としては、桑実胚期までの初期胚同士を接着させて集合させる方法(集合キメラ法)と、胚盤胞の割腔内に細胞を顕微注入する方法(注入キメラ法)とがある。ES細胞によるキメラ胚の作製においては従来より後者が広く行なわれているが、最近では、8細胞期胚の透明帯内へのES細胞の注入により集合キメラを作る方法や、マイクロマニピュレーターが不要で操作が容易な方法として、ES細胞塊と透明帯を除去した8細胞期胚とを共培養して凝集させることによって集合キメラを作製する方法も行われている。
【0032】
いずれの場合も、宿主胚は、後述する受精卵への遺伝子導入において、採卵用雌として使用され得る非ヒト哺乳動物から同様にして採取することができるが、例えばマウスの場合、キメラマウス形成へのES細胞の寄与率を毛色(コートカラー)で判定し得るように、ES細胞の由来する系統とは毛色の異なる系統のマウスから宿主胚を採取することが好ましい。例えば、ES細胞が129系マウス(毛色:アグーチ)由来であれば、採卵用雌としてC57BL/6マウス(毛色:ブラック)やICRマウス(毛色:アルビノ)を用い、ES細胞がC57BL/6もしくはDBFマウス(毛色:ブラック)由来のものやTT2細胞(C57BL/6とCBAとのF(毛色:アグーチ)由来)であれば、採卵用雌としてICRマウスやBALB/cマウス(毛色:アルビノ)を用いることができる。
【0033】
また、生殖系列キメラ形成能はES細胞と宿主胚との組み合わせに大きく依存するので、生殖系列キメラ形成能の高い組み合わせを選択することがより好ましい。例えばマウスの場合、129系統由来のES細胞に対してはC57BL/6系統由来の宿主胚等を用いることが好ましく、C57BL/6系統由来のES細胞に対してはBALB/c系統由来の宿主胚等が好ましい。
【0034】
採卵用雌マウスは約4〜約6週齢程度が好ましく、交配用の雄マウスとしては約2〜約8ヶ月齢程度の同系統のものが好ましい。交配は自然交配によってもよいが、好ましくは性腺刺激ホルモン(卵胞刺激ホルモン、次いで黄体形成ホルモン)を投与して過剰排卵を誘起した後に行なわれる。
【0035】
胚盤注入法による場合は、胚盤胞期胚(例えばマウスの場合、交配後約3.5日)を採卵用雌の子宮から採取し(あるいは桑実胚期以前の初期胚を卵管から採取した後、胚培養用培地(後述)中で胚盤胞期まで培養してもよい)、マイクロマニピュレーターを用いて胚盤胞の割腔内にターゲッティングベクターが導入されたES細胞(約10〜約15個)を注入した後、偽妊娠させた受胚用雌非ヒト哺乳動物の子宮内に移植する。受胚用雌非ヒト哺乳動物は受精卵への遺伝子導入における受胚用雌として使用され得る非ヒト哺乳動物を同様に用いることができる。
【0036】
共培養法による場合は、8細胞期胚および桑実胚(例えばマウスの場合、交配後約2.5日)を採卵用雌の卵管および子宮から採取して(あるいは8細胞期以前の初期胚を卵管から採取した後、胚培養用培地中で8細胞期または桑実胚期まで培養してもよい)酸性タイロード液中で透明帯を溶解した後、ミネラルオイルを重層した胚培養用培地の微小滴中にターゲッティングベクターが導入されたES細胞塊(細胞数約10〜約15個)を入れ、さらに上記8細胞期胚または桑実胚(好ましくは2個)を入れて一晩共培養する。得られた桑実胚または胚盤胞を上記と同様にして受胚用雌非ヒト哺乳動物の子宮内に移植する。
【0037】
移植胚が首尾よく着床し受胚雌が妊娠すれば、自然分娩もしくは帝王切開によりキメラ非ヒト哺乳動物が得られる。自然分娩した受胚雌にはそのまま哺乳を継続させればよく、帝王切開により出産した場合は、産仔は別途用意した哺乳用雌(通常に交配・分娩した雌非ヒト哺乳動物)に哺乳させることができる。
【0038】
生殖系列キメラの選択は、まずES細胞の雌雄が予め判別されている場合はES細胞と同じ性別のキメラマウスを選択し(通常は雄性ES細胞が使用されるので、雄キメラマウスが選択される)、次いで毛色等の表現型からES細胞の寄与率が高いキメラマウス(例えば、50%以上)を選択する。例えば、129系マウス由来の雄性ES細胞であるD3細胞とC57BL/6マウス由来の宿主胚とのキメラ胚から得られるキメラマウスの場合、アグーチの毛色の占める割合の高い雄マウスを選択するのが好ましい。選択されたキメラ非ヒト哺乳動物が生殖系列キメラであるか否かの確認は、適当な系統の同種動物との交雑により得られるF動物の表現型に基づいて行なうことができる。例えば、上記キメラマウスの場合、アグーチはブラックに対して優性であるので、雌C57BL/6マウスと交雑すると、選択された雄マウスが生殖系列キメラであれば得られるFの毛色はアグーチとなる。
【0039】
上記のようにして得られるターゲッティングベクターが導入された生殖系列キメラ非ヒト哺乳動物(ファウンダー)は、通常、相同染色体の一方のプロサイモシンα遺伝子のみが改変されたヘテロ接合体として得られる。相同染色体の両方のプロサイモシンα遺伝子が改変されたホモ接合体を得るためには、上記のようにして得られるF動物のうちヘテロ接合体の兄妹同士を交雑すればよい。ヘテロ接合体の選択は、例えばF動物の尾部より分離抽出した染色体DNAをサザンハイブリダイゼーションまたはPCR法によりスクリーニングすることにより検定することができる。得られるF動物の1/4がホモ接合体となる。
【0040】
ターゲッティングベクターとしてウイルスを用いる場合の別の好ましい一実施態様として、ポジティブ選択用マーカー遺伝子が5’および3’アームの間に挿入され、該アームの外側にネガティブ選択用マーカー遺伝子を含むDNAを含むウイルスで、非ヒト哺乳動物のES細胞を感染させる方法が挙げられる(例えば、プロシーディングズ・オヴ・ナショナル・アカデミー・オヴ・サイエンシーズ・ユーエスエー(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)第99巻,第4号,第2140−2145頁,2002年参照)。例えば、レトロウイルスやレンチウイルスを用いる場合、ディッシュなどの適当な培養器に細胞を播き、培養液にウイルスベクターを加えて(所望によりポリブレンを共存させてもよい)、1〜2日間培養後、上述のように選択薬剤を添加して培養を続け、ベクターが組み込まれた細胞を選択する。
【0041】
loxP配列によって挟まれたプロサイモシンα遺伝子を有する、プロサイモシンα遺伝子改変非ヒト哺乳動物は、上記した方法によって作成されうるが、すでに現存するプロサイモシンα遺伝子改変非ヒト哺乳動物を入手して用いてもよい。
【0042】
線条体におけるプロサイモシンα遺伝子がノックアウトされた非ヒト哺乳動物は、前記のloxP配列によって挟まれたプロサイモシンα遺伝子を有する、プロサイモシンα遺伝子改変非ヒト哺乳動物と線条体特異的に発現されるcre遺伝子を有する遺伝子改変非ヒト哺乳動物を交配することによって得られる。
【0043】
線条体特異的に発現されるcre遺伝子を導入する具体的な手段としては、Cre蛋白質をコードするDNAを、自体公知のトランスジェニック作製技術を用いて導入し、対象非ヒト哺乳動物内で線条体特異的に発現させる方法などが挙げられる。
【0044】
Cre蛋白質をコードするDNAとしては、バクテリオファージP1由来のCre蛋白質もしくはそれと実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質をコードするDNAであってよい。Cre蛋白質をコードするDNAとしては、GenBank accession No.YP_006472.1として登録されているアミノ酸配列をコードするDNAが挙げられる。「実質的に同一のアミノ酸配列」としては、前記アミノ酸配列と約90%以上、好ましくは約95%以上、より好ましくは約98%以上の同一性を有するアミノ酸配列などが挙げられる。アミノ酸配列の同一性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;マトリクス=BLOSUM62;フィルタリング=OFF)にて計算することができる。
実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質としては、前記アミノ酸配列を含み、該アミノ酸配列からなる蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質が好ましい。実質的に同質の活性としては、例えば、loxP配列結合作用、loxPに挟まれたDNA配列の切り出し作用などが挙げられる。実質的に同質とは、それらの活性が定性的に同等であることを示す。したがって、loxP配列結合作用、loxPに挟まれたDNA配列の切り出し作用などの活性が同等であることが好ましいが、これらの活性の程度(例、約0.01〜100倍、好ましくは約0.5〜20倍、より好ましくは約0.5〜2倍)や蛋白質の分子量などの量的要素は異なっていてもよい。また、Cre蛋白質をコードするDNAは、GenBank accession No.NC_005856.1として登録されている塩基配列に含まれるDNAが用いられ得る。
【0045】
Cre蛋白質をコードするDNAは、バクテリオファージP1に由来するDNAまたはRNAの全てあるいは一部を用いて公知の方法により調製されたcDNAを原料として用い、公知のcre遺伝子配列をもとに作製したオリゴヌクレオチドをプローブもしくはプライマーとして、ハイブリダイゼーション法もしくはPCR法などにより単離することができる。
【0046】
本発明の線条体特異的に発現されるcre遺伝子を有する遺伝子改変非ヒト哺乳動物は、Cre蛋白質をコードするDNAを「線条体において特異的に発現可能な状態で」保持している。したがって、当該DNAを対象動物に導入するにあたっては、当該DNAを対象動物の線条体においてのみ機能し得るプロモーターの下流に連結した発現カセットを含む形態(例、発現ベクターなど)で用いる必要がある。
【0047】
Cre蛋白質をコードするDNAを担持するベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミド、λファージなどのバクテリオファージ、モロニー白血病ウイルスなどのレトロウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス、ワクシニアウイルスまたはバキュロウイルスなどの動物もしくは昆虫ウイルスなどが用いられる。なかでも、プラスミド(好ましくは大腸菌由来、枯草菌由来または酵母由来、特に大腸菌由来のプラスミド)や、動物ウイルス(好ましくはレトロウイルス、レンチウイルス)が好ましい。
【0048】
Cre蛋白質の遺伝子発現調節を行うプロモーターとしては、対象非ヒト哺乳動物の線条体において機能し得るプロモーターである必要があり、そのようなプロモーターとしては、例えば、G蛋白質γ7サブユニット遺伝子(Gng7)プロモーター、Distal−less homeobox protein 5/6(Dlx5/6)プロモーター、Tyrosine Hydroxylaseプロモーター等が挙げられ、その中でも線条体に特異的に高発現するプロモーターとして、G蛋白質γ7サブユニット遺伝子(Gng7)プロモーターが特に好ましく用いられる。
【0049】
Cre蛋白質をコードするDNAの下流には、非ヒト哺乳動物において目的とするメッセンジャーRNAの転写を終結させる配列(ポリアデニレーション(polyA)シグナル、ターミネーターとも呼ばれる)を有していることが好ましく、例えば、ウイルス遺伝子由来、あるいは各種哺乳動物または鳥類の遺伝子由来のターミネーター配列を用いて、効率よい導入遺伝子の発現を達成することができる。好ましくは、シミアンウイルスのSV40ターミネーターなどが用いられる。その他、目的の遺伝子をさらに高発現させる目的で、各遺伝子のスプライシングシグナル、エンハンサー領域、真核遺伝子のイントロンの一部を、プロモーター領域の5’上流、プロモーター領域と翻訳領域間あるいは翻訳領域の3’下流に連結することも目的により可能である。
【0050】
また、胚性幹細胞(ES細胞)を用いて非ヒト哺乳動物を作製する場合、上記のベクターは、導入DNAが安定に組み込まれたクローンを選択するための選択マーカー遺伝子(例:ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子などの薬剤耐性遺伝子)をさらに含むことが好ましい。さらに、相同組換えにより宿主染色体の特定の部位に導入DNAを組み込むこと(即ち、ノックイン動物の作製)を意図する場合には、上記のベクターは、ランダムな挿入を排除するために、標的部位と相同なDNA配列の外側に単純ヘルペスウイルス由来チミジンキナーゼ(HSV−tk)遺伝子やジフテリア毒素遺伝子をネガティブ選択マーカー遺伝子としてさらに含むことが好ましい。
【0051】
上記のプロモーター、Cre蛋白質をコードするDNA、ターミネーターなどは、適当な制限酵素およびDNAリガーゼ等を用いた通常の遺伝子工学的手法により、上記のベクター中に正しい配置で、即ち非ヒト哺乳動物においてCre蛋白質を発現可能な配置で、挿入することができる。
【0052】
Cre蛋白質をコードするDNAを含む発現ベクターを細胞に導入する方法としては、標的細胞に応じて自体公知の方法が適宜用いられる。例えば、受精卵などの初期胚への導入については、マイクロインジェクション法が用いられる。また、ES細胞への導入については、リン酸カルシウム共沈殿法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、レトロウイルス感染法、凝集法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法、DEAE−デキストラン法などが用いられ得る。あるいは、ベクターとしてレトロウイルスやレンチウイルスなどを用いる場合には、初期胚やES細胞にウイルスを添加して1〜2日培養し、該細胞を該ウイルスに感染させることにより、簡便に遺伝子導入を達成し得る場合がある。ES細胞からの個体再生(ファウンダーの樹立)、継代(ホモ接合体の作製)等は、本発明のプロサイモシンα遺伝子改変非ヒト哺乳動物において上記した方法と同様の方法により行うことができる。
【0053】
好ましい一実施態様においては、Cre蛋白質をコードするDNAを含む発現ベクターは、マイクロインジェクション法により対象となる非ヒト哺乳動物の初期胚に導入される。
【0054】
対象非ヒト哺乳動物の初期胚は、同種の非ヒト哺乳動物の雌雄を交配させて得られる体内受精卵を採取するか、あるいは同種の非ヒト哺乳動物の雌雄からそれぞれ採取した卵と精子を体外受精させることにより得ることができる。
用いる非ヒト哺乳動物の齢や飼育条件等は動物種によってそれぞれ異なるが、例えばマウス(好ましくはC57BL/6J(B6)などの近交系マウス、B6と他の近交系とのFなど)を用いる場合は、雌が約4〜約6週齢、雄が約2〜約8ヶ月齢程度のものが好ましく、また、約12時間明期条件(例えば7:00−19:00)で約1週間飼育したものが好ましい。
【0055】
体内受精は自然交配によってもよいが、性周期の調節と1個体から多数の初期胚を得ることを目的として、雌非ヒト哺乳動物に性腺刺激ホルモンを投与して過剰排卵を誘起した後、雄非ヒト哺乳動物と交配させる方法が好ましい。雌非ヒト哺乳動物の排卵誘発法としては、例えば初めに卵胞刺激ホルモン(妊馬血清性性腺刺激ホルモン、一般にPMSGと略する)、次いで黄体形成ホルモン(ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン、一般にhCGと略する)を、例えば腹腔内注射などにより投与する方法が好ましいが、好ましいホルモンの投与量、投与間隔は非ヒト哺乳動物の種類によりそれぞれ異なる。例えば、非ヒト哺乳動物がマウス(好ましくはC57BL/6J(B6)などの近交系マウス、B6と他の近交系とのFなど)の場合は、通常、卵胞刺激ホルモン投与後、約48時間後に黄体形成ホルモンを投与し、直ちに雄マウスと交配させることにより受精卵を得る方法が好ましく、卵胞刺激ホルモンの投与量は約20〜約50IU/個体、好ましくは約30IU/個体、黄体形成ホルモンの投与量は約0〜約10IU/個体、好ましくは約5IU/個体である。
【0056】
一定時間経過後、膣栓の検査等により交配を確認した雌非ヒト哺乳動物の腹腔を開き、卵管から受精卵を取り出して胚培養用培地(例:M16培地、修正Whitten培地、BWW培地、M2培地、WM−HEPES培地、BWW−HEPES培地等)中で洗って卵丘細胞を除き、微小滴培養法等により5%炭酸ガス/95%大気下でDNA顕微注入まで培養する。直ちに顕微注入を行わない場合、採取した受精卵を緩慢法または超急速法等で凍結保存することも可能である。
【0057】
一方、体外受精の場合は、採卵用雌非ヒト哺乳動物(体内受精の場合と同様のものが好ましく用いられる)に上記と同様に卵胞刺激ホルモンおよび黄体形成ホルモンを投与して排卵を誘発させた後、卵子を採取して受精用培地(例:TYH培地)中で体外受精時まで微小滴培養法等により5%炭酸ガス/95%大気下で培養する。他方、同種の雄非ヒト哺乳動物(体内受精の場合と同様のものが好ましく用いられる)から精巣上体尾部を取り出し、精子塊を採取して受精用培地中で前培養する。前培養終了後の精子を卵子を含む受精用培地に添加し、微小滴培養法等により5%炭酸ガス/95%大気下で培養した後、2個の前核を有する受精卵を顕微鏡下で選抜する。直ちにDNAの顕微注入を行わない場合は、得られた受精卵を緩慢法または超急速法等で凍結保存することも可能である。
【0058】
受精卵へのDNAの顕微注入は、マイクロマニピュレーター等の公知の装置を用いて常法に従って実施することができる。簡潔に言えば、胚培養用培地の微小滴中に入れた受精卵をホールディングピペットで吸引して固定し、インジェクションピペットを用いてDNA溶液を雄性もしくは雌性前核、好ましくは雄性前核内に直接注入する。導入DNAはCsCl密度勾配超遠心または陰イオン交換樹脂カラム等で高度に精製したものを用いることが好ましい。また、導入DNAは制限酵素を用いてベクター部分を切断し、直鎖状にしておくことが好ましい。
【0059】
DNA導入後の受精卵は胚培養用培地中で微小滴培養法等により5%炭酸ガス/95%大気下で1細胞期〜胚盤胞期まで培養した後、偽妊娠させた受胚用雌非ヒト哺乳動物の卵管または子宮内に移植される。受胚用雌非ヒト哺乳動物は移植される初期胚が由来する動物と同種のものであればよく、例えば、マウス初期胚を移植する場合は、ICR系の雌マウス(好ましくは約8〜約10週齢)などが好ましく用いられる。受胚用雌非ヒト哺乳動物を偽妊娠状態にする方法としては、例えば、同種の精管切除(結紮)雄非ヒト哺乳動物(例えば、マウスの場合、ICR系の雄マウス(好ましくは約2ヶ月齢以上))と交配させて、膣栓の存在が確認されたものを選択する方法が知られている。
【0060】
受胚用雌は自然排卵のものを用いてもよいし、あるいは精管切除(結紮)雄との交配に先立って、黄体形成ホルモン放出ホルモン(一般にLHRHと略する)もしくはその類縁体を投与し、受精能を誘起させたものを用いてもよい。LHRH類縁体としては、例えば、[3,5−DiI−Tyr]−LH−RH、[Gln]−LH−RH、[D−Ala]−LH−RH、[des−Gly10]−LH−RH、[D−His(Bzl)]−LH−RHおよびそれらのEthylamideなどが挙げられる。LHRHもしくはその類縁体の投与量、ならびにその投与後に雄非ヒト哺乳動物と交配させる時期は、非ヒト哺乳動物の種類によりそれぞれ異なる。例えば、非ヒト哺乳動物がマウス(好ましくはICR系のマウスなど)の場合には、通常、LHRHもしくはその類縁体を投与した後、約4日目に雄マウスと交配させることが好ましく、LHRHあるいはその類縁体の投与量は、通常、約10〜60μg/個体、好ましくは約40μg/個体である。
【0061】
通常、移植される初期胚が桑実胚期以後の場合は受胚用雌の子宮に、それより前(例えば、1細胞期〜8細胞期胚)であれば卵管に胚移植される。受胚用雌は、移植胚の発生段階に応じて偽妊娠からある日数が経過したものが適宜使用される。例えばマウスの場合、2細胞期胚を移植するには偽妊娠後約0.5日の雌マウスが、胚盤胞期胚を移植するには偽妊娠後約2.5日の雌マウスが好ましい。受胚用雌を麻酔(好ましくはAvertin、ネンブタール等が使用される)後、切開して卵巣を引き出し、胚培養用培地に懸濁した初期胚(約5〜約10個)を胚移植用ピペットを用いて、卵管腹腔口もしくは子宮角の卵管接合部付近に注入する。
【0062】
移植胚が首尾よく着床し受胚雌が妊娠すれば、自然分娩もしくは帝王切開により仔非ヒト哺乳動物が得られる。自然分娩した受胚雌にはそのまま哺乳を継続させればよく、帝王切開により出産した場合は、産仔は別途用意した哺乳用雌(例えばマウスの場合、通常に交配・分娩した雌マウス(好ましくはICR系の雌マウス等))に哺乳させることができる。
【0063】
受精卵細胞段階におけるCre蛋白質をコードするDNAの導入は、導入DNAが対象非ヒト哺乳動物の生殖系列細胞および体細胞のすべてに存在するように確保される。導入DNAが染色体DNAに組み込まれているか否かは、例えば、産仔の尾部より分離抽出した染色体DNAをサザンハイブリダイゼーションまたはPCR法によりスクリーニングすることにより検定することができる。上記のようにして得られる仔非ヒト哺乳動物(F)の生殖系列細胞においてCre蛋白質をコードするDNAが存在することは、その後代(F)の動物全てが、その生殖系列細胞および体細胞のすべてにCre蛋白質をコードするDNAが存在することを意味する。
通常、F動物は相同染色体の一方にのみ導入DNAを有するヘテロ接合体として得られる。また、個々のF個体は相同組換えによらない限り異なる染色体上にランダムに挿入される。相同染色体の両方に導入DNAを有するホモ接合体を得るためには、F動物と非トランスジェニック動物とを交雑してF動物を作製し、相同染色体の一方にのみ導入DNAを有するヘテロ接合体の兄妹同士を交雑すればよい。1遺伝子座にのみ導入DNAが組み込まれていれば、得られるF動物の1/4がホモ接合体となる。
【0064】
ベクターとしてウイルスを用いる場合の別の好ましい一実施態様として、上記プロサイモシンα遺伝子改変非ヒト哺乳動物の場合と同様に、Cre蛋白質をコードするDNAを含むウイルスで、非ヒト哺乳動物の初期胚もしくはES細胞を感染させる方法が挙げられる。細胞として受精卵を用いる場合は、感染に先立って透明帯を除いておくことが好ましい。ウイルスベクターを感染させて1〜2日間培養後、初期胚であれば、上述のように偽妊娠させた受胚用雌非ヒト哺乳動物の卵管または子宮内に移植し、ES細胞であれば、上述のように選択薬剤を添加して培養を続け、ベクターが組み込まれた細胞を選択する。
【0065】
さらに、プロシーディングズ・オヴ・ナショナル・アカデミー・オヴ・サイエンシーズ・ユーエスエー(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)第98巻,第13090−13095頁,2001年に記載されるように、雄非ヒト哺乳動物から採取した精原細胞をSTOフィーダー細胞と共培養する間にウイルスベクターに感染させた後、雄性不妊非ヒト哺乳動物の精細管に注入して雌非ヒト哺乳動物と交配させることにより、効率よくCre蛋白質をコードするDNAのへテロ非ヒト哺乳動物(+/−)産仔を得ることができる。
【0066】
線条体特異的に発現されるCre遺伝子を有する遺伝子改変非ヒト哺乳動物は、上記した方法によって作成されうるが、すでに現存する遺伝子改変非ヒト哺乳動物を入手して用いてもよい。
【0067】
線条体特異的に発現されるCre遺伝子を有する遺伝子改変非ヒト哺乳動物と前記のloxP配列によって挟まれたプロサイモシンα遺伝子を有する、プロサイモシンα遺伝子改変非ヒト哺乳動物とを交雑する場合、ホモ接合体同士を交雑することが望ましい。例えば、線条体特異的に発現されるcre遺伝子を有する遺伝子改変非ヒト哺乳動物としてGng7−Cre(+/+)マウスと、loxP配列によって挟まれたプロサイモシンα遺伝子を有する、プロサイモシンα遺伝子改変非ヒト哺乳動物として、ProTa flox(+/+)マウスとを交雑して得られるFは、全個体がGng7−Cre(+/−)×ProTa flox(+/−)である。このF個体同士を交雑することにより、1/8の確率でGng7−Cre(+/−)×ProTa flox(+/+)が得られる。そこで、得られたGng7−Cre(+/−)×ProTa flox(+/+)雄マウスに対し、ProTa flox(+/+)雌マウスを交雑することで、1/2の高確率でGng7−Cre(+/−)×ProTa flox(+/+)を効率的に得ることができる。上記交雑方式においてプロサイモシンα遺伝子がホモノックアウトされた影響が母体に与える影響を考慮し、雄がGng7−Cre(+/−)×ProTa flox(+/+)で雌がProTa flox(+/+)となるように交雑することが最も好ましい。プロサイモシンα遺伝子は線条体においてホモノックアウトされていることが好ましい。従って、線条体におけるプロサイモシンα遺伝子がノックアウトされた非ヒト哺乳動物としては、G蛋白質γ7サブユニット遺伝子プロモーターにより発現制御されたcre遺伝子を有し、かつloxP配列に挟まれたプロサイモシンα遺伝子をホモ接合型で有する非ヒト哺乳動物が好ましく挙げられる。
【0068】
線条体におけるプロサイモシンα遺伝子発現不全非ヒト哺乳動物には、アンチセンスもしくはRNAi技術によりプロサイモシンα遺伝子の発現が線条体において不活性化される条件付ノックダウン(KD)非ヒト哺乳動物も含まれる。
【0069】
線条体においてプロサイモシンα遺伝子をノックダウンする具体的な手段としては、プロサイモシンαのアンチセンスRNAもしくはsiRNA(shRNAを含む)をコードするDNAを、自体公知のトランスジェニック作製技術を用いて導入し、対象非ヒト哺乳動物内で線条体特異的に発現させる方法などが挙げられる。
【0070】
目的のポリヌクレオチドの標的領域と相補的な塩基配列を含むDNA、即ち、目的のポリヌクレオチドとハイブリダイズすることができるDNAは、該目的のポリヌクレオチドに対して「アンチセンス」であるということができる。
プロサイモシンαをコードするポリヌクレオチドの塩基配列に、相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を有するアンチセンスDNAとしては、プロサイモシンαをコードするポリヌクレオチドの塩基配列に相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を含有し、該ポリヌクレオチドの発現を抑制し得る作用を有するものであれば、いずれのアンチセンスDNAであってもよい。
【0071】
プロサイモシンαをコードするポリヌクレオチドに実質的に相補的な塩基配列とは、例えば、該ポリヌクレオチドの相補鎖の塩基配列と、オーバーラップする領域に関して、約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有する塩基配列である。本明細書における塩基配列の相同性は、例えば、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=−3)にて計算することができる。
特に、プロサイモシンαをコードするポリヌクレオチドの相補鎖の全塩基配列のうち、(a)翻訳阻害を指向したアンチセンスDNAの場合は、プロサイモシンα蛋白質のN末端部位をコードする部分の塩基配列(例えば、開始コドン付近の塩基配列など)の相補鎖と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有するアンチセンスDNAが、(b)RNaseHによるRNA分解を指向するアンチセンスDNAの場合は、イントロンを含むプロサイモシンαをコードするポリヌクレオチドの全塩基配列の相補鎖と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有するアンチセンスDNAがそれぞれ好適である。
【0072】
具体的には、対象非ヒト哺乳動物がマウスの場合、GenBank accession No.NM_008972.2として登録されている塩基配列に相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列、またはその一部を含むアンチセンスDNA、好ましくは、該塩基配列に相補的な塩基配列またはその一部を含むアンチセンスDNAなどが挙げられる。また、対象非ヒト哺乳動物がラットの場合、GenBank accession No.NM_021740.1で表される塩基配列に相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列、またはその一部を含むアンチセンスDNA、好ましくは、該塩基配列に相補的な塩基配列またはその一部を含むアンチセンスDNAなどが挙げられる。
【0073】
プロサイモシンαをコードするポリヌクレオチドの塩基配列に相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を有するアンチセンスDNA(以下、「本発明のアンチセンスDNA」ともいう)は、クローン化した、あるいは決定されたプロサイモシンαをコードするDNAの塩基配列情報に基づき設計し、合成しうる。かかるアンチセンスDNAは、プロサイモシンα遺伝子の複製または発現を阻害することができる。即ち、本発明のアンチセンスDNAは、プロサイモシンα遺伝子から転写されるRNA(mRNAまたは初期転写産物)とハイブリダイズすることができ、mRNAの合成(プロセッシング)または機能(蛋白質への翻訳)を阻害することができる。
【0074】
本発明のアンチセンスDNAの標的領域は、アンチセンスDNAがハイブリダイズすることにより、結果としてプロサイモシンα蛋白質への翻訳が阻害されるものであればその長さに特に制限はなく、該蛋白質をコードするmRNAの全配列であっても部分配列であってもよく、短いもので約10塩基程度、長いものでmRNAまたは初期転写産物の全配列が挙げられる。具体的には、プロサイモシンα遺伝子の5’端ヘアピンループ、5’端6−ベースペア・リピート、5’端非翻訳領域、翻訳開始コドン、蛋白質コード領域、ORF翻訳終止コドン、3’端非翻訳領域、3’端パリンドローム領域または3’端ヘアピンループなどが、アンチセンスDNAの好ましい標的領域として選択しうるが、プロサイモシンα遺伝子内の如何なる領域も対象として選択しうる。例えば、該遺伝子のイントロン部分を標的領域とすることもできる。
さらに、本発明のアンチセンスDNAは、プロサイモシンαのmRNAもしくは初期転写産物とハイブリダイズして蛋白質への翻訳を阻害するだけでなく、二本鎖DNAであるプロサイモシンα遺伝子と結合して三重鎖(トリプレックス)を形成し、RNAの転写を阻害し得るものであってもよい。あるいはDNA:RNAハイブリッドを形成してRNaseHによる分解を誘導するものであってもよい。
【0075】
プロサイモシンαをコードするmRNAもしくは初期転写産物を、コード領域の内部(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)で特異的に切断し得るリボザイムをコードするDNAもまた、本発明のアンチセンスDNAに包含され得る。リボザイムとして最も汎用性の高いものとしては、ウイロイドやウイルソイド等の感染性RNAに見られるセルフスプライシングRNAがあり、ハンマーヘッド型やヘアピン型等が知られている。ハンマーヘッド型は約40塩基程度で酵素活性を発揮し、ハンマーヘッド構造をとる部分に隣接する両端の数塩基ずつ(合わせて約10塩基程度)をmRNAの所望の切断部位と相補的な配列にすることにより、標的mRNAのみを特異的に切断することが可能である。このタイプのリボザイムは、RNAのみを基質とするので、ゲノムDNAを攻撃することがないというさらなる利点を有する。プロサイモシンα mRNAが自身で二本鎖構造をとる場合には、RNAヘリカーゼと特異的に結合し得るウイルス核酸由来のRNAモチーフを連結したハイブリッドリボザイムを用いることにより、標的配列を一本鎖にすることができる[Proc.Natl.Acad.Sci.USA,98(10):5572−5577(2001)]。さらに、転写産物の細胞質への移行を促進するために、tRNAを改変した配列をさらに連結したハイブリッドリボザイムとすることもできる[Nucleic Acids Res.,29(13):2780−2788(2001)]。
【0076】
本明細書においては、プロサイモシンαのmRNAもしくは初期転写産物のコード領域内の部分配列(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)に相同なオリゴRNAとその相補鎖とからなる二本鎖RNA、いわゆる短鎖干渉RNA(siRNA)もまた、本発明のKD動物作製のために用いることができる。siRNAを細胞内に導入するとそのRNAに相同なmRNAが分解される、いわゆるRNA干渉(RNAi)と呼ばれる現象は、以前から線虫、昆虫、植物等で知られていたが、この現象が動物細胞でも広く起こることが確認されて以来[Nature,411(6836):494−498(2001)]、リボザイムの代替技術として汎用されている。siRNAは標的となるmRNAの塩基配列情報に基づいて、市販のソフトウェア(例:RNAi Designer;Invitrogen)を用いて適宜設計することができる。
【0077】
本発明のアンチセンスオリゴDNA及びリボザイムは、プロサイモシンαのcDNA配列もしくはゲノミックDNA配列に基づいてmRNAもしくは初期転写産物の標的配列を決定し、市販のDNA/RNA自動合成機(アプライド・バイオシステムズ社、ベックマン社等)を用いて、これに相補的な配列を合成することにより調製することができる。合成されたアンチセンスオリゴDNAまたはリボザイムは、必要に応じて適当なリンカー(アダプター)配列を介して発現ベクターのプロモーターの下流に挿入することにより、アンチセンスオリゴRNAまたはリボザイムをコードするDNA発現ベクターを調製することができる。ここで用いられ得る発現ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミド、λファージなどのバクテリオファージ、モロニー白血病ウイルスなどのレトロウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス、ワクシニアウイルスまたはバキュロウイルスなどの動物もしくは昆虫ウイルスなどが用いられる。なかでも、プラスミド(好ましくは大腸菌由来、枯草菌由来または酵母由来、特に大腸菌由来のプラスミド)や、動物ウイルス(好ましくはレトロウイルス、レンチウイルス)が好ましく例示される。
【0078】
また、本発明のアンチセンスオリゴDNAを発現させるプロモーターは、線条体特異的に発現するプロモーターである必要がある。そのようなプロモーターとしては、例えば、G蛋白質γ7サブユニット遺伝子(Gng7)プロモーターが挙げられる。
【0079】
より長いアンチセンスRNA(例えば、プロサイモシンαmRNAの相補鎖全長など)をコードするDNA発現ベクターは、常法によりクローニングしたプロサイモシンαcDNAを、必要に応じて適当なリンカー(アダプター)配列を介して発現ベクターのプロモーターの下流に逆方向に挿入することにより調製することができる。
【0080】
一方、siRNAをコードするDNAは、センス鎖またはアンチセンス鎖をコードするDNAとして別個に合成し、それぞれを適当な発現ベクター中に挿入することにより調製することができる。この場合、該ベクターが導入された動物細胞内で、センス鎖とアンチセンス鎖がそれぞれ転写されてアニーリングすることにより、siRNAが形成される。shRNAは、センス鎖とアンチセンス鎖との間に、適当なループ構造を形成しうる長さの塩基(例えば15から25塩基程度)を挿入したユニットを、適当な発現ベクター中に挿入することにより調製することができる。この場合、該発現ベクターを導入された動物細胞内で転写されたshRNAは、自身でループを形成した後に、内在の酵素ダイサー(dicer)などによってプロセシングされることにより成熟siRNAが形成される。siRNAまたはshRNAを発現するベクターのプロモーターとしては、線条体特異的に発現するプロモーターである必要がある。そのようなプロモーターは、G蛋白質γ7サブユニット遺伝子(Gng7)プロモーターが挙げられる。
【0081】
プロサイモシンαのアンチセンスRNA、siRNA、shRNA、もしくはmiRNAをコードするDNAを含む発現ベクターを細胞に導入する方法、該DNAが導入された受精卵などの初期胚、ES細胞からの個体再生(ファウンダーの樹立)、継代(ホモ接合体の作製)等は前記したCre蛋白質をコードするDNAを用いて線条体特異的に発現されるCre遺伝子を有する遺伝子改変非ヒト哺乳動物を作成する方法と同様の方法を用いることができる。
【0082】
本発明の線条体においてプロサイモシンα遺伝子発現不全非ヒト哺乳動物は、対応する野生型動物と比較して、以下の特性:
(1)脳虚血処置に対して脆弱である、
(2)運動性が劣る、
(3)加齢によって、上記(1)および/または(2)の症状を自然発症する、および
(4)ドパミンD2受容体アゴニスト、ドパミン代謝阻害剤、NMDA受容体拮抗剤またはドパミンD1受容体アゴニストによって上記(1)、(2)または(3)の症状が改善する、
を有する。これらの表現型は、従来公知のハンチントン病モデルマウスとしてのハンチンチントランスジェニックマウスやハンチンチンノックインマウスの表現型と一致する部分もあるが、それらのマウスは、線条体全体の神経細胞が傷害されているため、上記の表現型の進行が早く、より重篤であり、実際のハンチントン病の病態を正確に再現していない。また、本発明の線条体においてプロサイモシンα遺伝子発現不全非ヒト哺乳動物は、運動性異常を示すことからジストニア(dystonia)症状を示すモデルマウスの表現型とも一致する。ここでジストニアは、虚血性疾患に由来して発症するもの(二次性ジストニア)であってよく、虚血性疾患としては脳梗塞(脳血栓、脳塞栓)が挙げられる。
【0083】
脳虚血処置に対して脆弱であるとは、例えば、本発明の非ヒト哺乳動物の中大脳動脈を結紮することによって、対応する野生型動物と比較して生存率が低下することをいう。運動性が劣るとは、中大脳動脈の結紮の有無に関わらず、対応する野生型動物と比較して運動機能、運動協調性が劣ることをいう。また、本発明の非ヒト哺乳動物は加齢によって、脳虚血処置に対する脆弱性および運動性が劣る症状を自然発症する。例えば、Gng cre/+;ProTa flox/floxマウスであれば、約10週齢で対応する野生型マウスと比べて、上記の症状が現れ、週齢が進むにつれて重篤化し、約20週齢においては野生型マウスと比較して顕著な症状の差が確認できる。これら症状は、興奮性ドパミンD1受容体を発現する線条体GABA神経において機能的プロモサイモシンαを欠失しており、神経保護作用を喪失していることに起因することが示唆される。さらに、本発明の非ヒト哺乳動物は、興奮性ドパミンD1受容体の作用の補完効果が期待できるドパミンD2受容体アゴニスト、ドパミン代謝阻害剤、グルタミン酸からの神経細胞保護効果が期待されるNMDA受容体拮抗剤または抑制性ドパミンD2受容体の作用の補完効果が期待できるドパミンD1受容体アゴニストを投与されることによって、前記した症状に改善が見られる特徴を有する。ここで、ドパミンD2受容体アゴニストとしては、プラミペキソール、ペルゴリド、カベルゴリン、タリペキソール、ロビニロール等が挙げられる。また、ドパミン代謝阻害剤としては、セレギリン、エンタカルボン、ドパミン遊離作用を有するアマンタジン、ドパミンの前駆体であるL−ドーパ、プロドラッグとしてのL−ドーパ、ドロキシドパ、ドパミン合成酵素の発現上昇などに関連するゾニサミドなども挙げられる。NMDA受容体拮抗剤としては、メマンチン、CP−101606(IUPAC名:(1S,2S)−1−(4−hydroxyphenyl)−2−(4−hydroxy−4−phenylpiperidino)−1−propanol)などが挙げられる。ドパミンD1受容体アゴニストとしては、SKF38393(SKF38393 HCl,(±)−1−phenyl−2,3,4,5−tetrahydro−1H−3−benzazepine−7,8−diol HCl)、SKF81297(6Chloro1phenyl2,3,4,5tetrahydro1H3benzazepine7,8diol)、Doxanthrineなどが挙げられる。
【0084】
これらの知見に基づけば、プロサイモシンαの線条体における発現不全は、線条核神経の機能低下を通じて神経変性疾患の発症・進展に関与するだけでなく、ジストニアの発症・進展にも深く関与していることが強く示唆される。したがって、本発明の非ヒト哺乳動物は、被験物質を適用し、(1)脳虚血処置に対する生存率および/または(2)運動性を測定することを特徴とする、神経変性疾患または虚血性疾患によるジストニアの治療/予防薬のスクリーニング方法を提供する。さらに、前記の通り、本発明の非ヒト哺乳動物は、加齢とともに脳虚血処置に対する脆弱性および運動性が劣る症状を自然発症し、特に脳虚血処置なしであっても生存率が低下する可能性がある。従って、週齢が進んだ本発明の非ヒト哺乳動物は、被験物質を適用し、(1)生存率および/または(2)運動性を測定することを特徴とする、神経変性疾患または虚血性疾患によるジストニアの治療/予防薬のスクリーニング方法も提供する。週齢は、約10週齢以上、好ましくは約20週齢以上である。
【0085】
具体的には、該スクリーニング方法では、本発明の非ヒト哺乳動物に被験物質を投与する。被験物質としては、公知の合成化合物、ペプチド、蛋白質、DNAライブラリーなどの他に、例えば哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒトなど)の組織抽出物、細胞培養上清などが用いられ、好ましくは、ドパミンD2受容体アゴニスト、ドパミン代謝阻害剤、NMDA受容体拮抗剤またはドパミンD1受容体アゴニストが用いられうる。ドパミンD2受容体アゴニスト、ドパミン代謝阻害剤、NMDA受容体拮抗剤またはドパミンD1受容体アゴニストとしては前記したものが例示される。被験物質の脳虚血処置に対する生存率調節作用および/または運動性調節作用は、それぞれ自体公知の方法、例えば、後記実施例において用いられる方法などに準じて測定することができる。また、測定された結果、被験物質を非投与の本発明の非ヒト哺乳動物に比して脳虚血処置に対する生存率および/または運動性を改善させる被験物質が好ましく選択される。
【0086】
該スクリーニング法により選択された、脳虚血処置に対する生存率調節作用および/または運動性調節作用を有する被験物質が予防・治療可能な疾患として、神経変性疾患(例えば、ハンチントン病、アルツハイマー、パーキンソン病、神経症(例えば、鬱、不安等)、ジストニア、進行性核上性麻痺、筋萎縮性側索硬化症、線条体黒質変性症、Shy−Drager症候群、オリーブ橋小脳萎縮症などが挙げられる。さらに該被験物質は運動性障害の改善を目的として虚血性疾患に由来するジストニアの予防・治療も可能である。
【0087】
神経変性疾患等の治療/予防薬は、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤などとして経口的に、あるいは水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、または懸濁液剤などの注射剤の形で非経口的に使用できる。該治療/予防薬は、生理学的に認められる担体、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤などとともに一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することができる。これら製剤における有効成分量は後述する投与量を考慮して適宜選択される。
【0088】
錠剤、カプセル剤などに混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガント、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸などのような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖またはサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油またはチェリーのような香味剤などが用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、前記タイプの材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射のための無菌組成物は注射用水のようなベヒクル中の活性物質、胡麻油、椰子油などのような天然産出植物油などを溶解または懸濁させるなどの通常の製剤実施に従って処方することができる。
【0089】
注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D−ソルビトール、D−マンニトール、塩化ナトリウムなど)などが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例えば、エタノールなど)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、非イオン性界面活性剤(例えば、ポリソルベート80TM、HCO−50など)などと併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油などが挙げられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどと併用してもよい。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液など)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノールなど)、酸化防止剤などと配合してもよい。調製された注射液は、通常、適当なアンプルに充填される。
【0090】
このようにして得られる製剤は、安全で低毒性であるので、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して投与することができる。
【0091】
神経変性疾患等の治療/予防薬の投与量は、対象疾患、投与対象、投与ルートなどにより異なるが、例えば、神経変性疾患の治療目的で経口投与する場合、一般的に成人(体重60kg)においては、一日につき約0.1mg〜約100mg、好ましくは約1.0〜約50mg、より好ましくは約1.0〜約20mgである。非経口投与の場合、当該治療/予防薬の投与量は投与対象、対象疾患などによっても異なるが、例えば、神経変性疾患の治療目的で注射剤として成人(体重60kg)に投与する場合、一日につき約0.01〜約30mg程度、好ましくは約0.1〜約20mg程度、より好ましくは約0.1〜約10mg程度である。投与対象がヒト以外の動物の場合も、体重60kg当たりに換算した量を投与することができる。
【実施例】
【0092】
以下において、実施例および参考例により本発明をより具体的に説明するが、この発明はこれらに限定されるものではない。
【0093】
実施例1 遺伝子組み換えマウスの作成
C57BL/6J系雄性マウス(野生型マウス)に加え、線条体に特異的に発現するGng7のプロモーターにより制御された相同組換え酵素(Cre)を発現するTGマウス(Gng7−Cre(+/−)雄性マウス)、さらにはGng7−Cre(+/−)とFloxedプロサイモシンα遺伝子組み換えマウスを交配させたコンディショナル遺伝子欠損マウス(Gng cre/+;ProTa flox/flox雄性マウス)を実験に用いた。両マウスは若齢マウスとして8−16週齢、高齢マウスとして20−30週齢ともに体重:20−35gの個体を使用した。飼育条件は恒温(22±2℃)、恒湿(55±5%)とし、一般実験用の固形飼料(MF、オリエンタル酵母、東京)、水道水を自由に摂取させた。すべての実験は長崎大学動物実験規則で定める方法に準じて行った。Gng7−Cre(+/+)雄性マウスは東京大学大学院 医学系研究科分子神経生物学教室三品昌美教授より、Floxedプロサイモシンα遺伝子組み換えマウスは大塚製薬株式会社から譲渡された。
マウスプロサイモシンα遺伝子の野生型アリルの構造は図1上段に示すとおりである。また、Floxedプロサイモシンα遺伝子組み換えマウスの有するFloxedアリルは、エキソン1と2の間、およびエキソン3と4の間にloxP配列が相互にタンデムになるようにそれぞれ挿入されており(図1、中段)、Cre蛋白質がloxP配列に作用することによって、2つのloxP配列に挟まれたエキソン2および3を含む配列が欠失する(図1、下段)。なお、Cre蛋白質は、線条体特異的発現プロモーターであるGng7プロモーター下流に連結され、上記のコンディショナルマウスは線条体において特異的にプロサイモシンα遺伝子が機能不全となる。本実施例においては、特に別途記載が無い限り、WTは野生型マウス(C57BL/J6)を、GgはGng7−Cre(+/−)マウスつまりGng7プロモーター下流にcre遺伝子をヘテロ接合型となるように挿入したマウスを、GgFFはGng7発現領域である大脳基底核の線条体領域特異的にcre−loxPシステムでプロサイモシンαを欠損させたマウスを示す。
【0094】
実施例2 虚血による線条体におけるプロサイモシンα欠損の若齢マウスの病態
8−16週齢のWT、GgおよびGgFFマウスを15分間左中大脳動脈を閉塞することで、一過性の脳虚血状態を引き起こした軽度脳卒中モデルの病態を評価した(図2、3)。GgFFマウスの対照群にはGgマウスを用いた。
tMCAO処置後の一過性中大脳動脈閉塞モデルの生存率を経時的に評価した結果、WTマウスでは、生存率は5日間にわたり無変化であった(図2B)。また、Ggマウスでも4日目において90%以上の生存率を示した(図3B)。しかし、GgFFマウスでは生存率を大幅に低下させ、処置後2日において、すでに生存率60パーセント以下に低下した(図3B)。Survival ratio(%)は、tMCAO実施前に測定した値を100%とし日数経過による生存率を百分率で示した。
また、tMCAO処置後の一過性中大脳動脈閉塞モデルの運動機能障害を経日的に評価した結果、WTマウスとGgマウスでは微弱な運動障害しか観察されなかった(図2C、3C)。しかし、GgFFマウスでは4ポイントにも及ぶ障害が観察された(図3C)。本願の実施例において、Clinical scoreは次に示す1〜5の臨床スコアで表される。1:右前肢の麻痺、2:一方向性の動き、3:体勢を保てず一方向に傾く、4:自発運動の消失、5:死。
さらに、tMCAO処置後の一過性中大脳動脈閉塞モデルの運動機能を経日的に評価した結果、GgFFマウスはGgマウスに比して、滞在時間が短くなる傾向が見られた(図3D)。ロータロッドの回転速度は、脳卒中病態モデルマウスで実施可能な6rpmにて行った。
【0095】
実施例3 虚血による線条体におけるプロサイモシンα欠損の若齢マウスの病態に対するドパミンD2受容体アゴニストの症状改善効果
実施例2と同様に、8−16週齢のWT、GgおよびGgFFマウスを15分間左中大脳動脈を閉塞することで、一過性の脳虚血状態を引き起こした軽度脳卒中モデルに対して、プラミペキソールによる生存率、運動機能障害の改善効果を評価した(図4、5)。15分間のtMCAO処置を施したGgFFマウスに0.01mg/kgプラミペキソールを腹腔内投与した際の症状改善効果を経過観察した結果をsurvival ratio、Clinical scoreおよびLatency to fallで示す。対照群には同じく15分間のtMCAO処置を施したWTマウス、Ggマウスを用いた。PPXはプラミペキソールを示す。
その結果、WTマウスでは投与群と非投与群に差は見られなかったが、GgFFマウスでは、投与群において生存率が75パーセントに改善した(図4B)。また、運動機能障害についても、GgFFマウスの投与群において顕著に改善した(図5C)。さらに、運動機能について、6rpmと12rpmの両条件下で、WTマウスに比較してGgFFマウスの運動機能は低下していたが、プラミペキソールの腹腔内投与により改善が認められた(図5B、C)。
【0096】
実施例4 虚血による線条体におけるプロサイモシンα欠損の若齢マウスの病態に対するセレギリンの症状改善効果
実施例2と同様に、8−16週齢のWT、GgおよびGgFFマウスを15分間左中大脳動脈を閉塞することで、一過性の脳虚血状態を引き起こした軽度脳卒中モデルに対して、セレギリンによる生存率、運動機能障害の改善効果を評価した(図6、7)。15分間のtMCAO処置を施したGgFFマウスに10mg/kgセレギリンを腹腔内投与した際の症状改善効果を経過観察した結果をsurvival ratio、Clinical scoreおよびLatency to fallで示す。対照群には同じく15分間のtMCAO処置を施したWTマウス、Ggマウスを用いた。
その結果、GgFFマウスでは、投与群において生存率が顕著に改善した(図6B)。また、運動機能障害についても、GgFFマウスの投与群において顕著に改善した(図6C)。さらに、運動機能について、6rpmと12rpmの両条件下で、非投与群に比べて、GgFFマウスの運動機能は、セレギリンの腹腔内投与により改善が認められた(図7B、C)。
【0097】
本発明者は、上記実施例において主に週齢8−16の若齢マウスを対象に解析を行った。そこで、週齢の進んだ加齢マウスについても解析を行った。
【0098】
実施例5 線条体におけるプロサイモシンα欠損マウスの週齢依存的な抱擁反射行動または運動機能低下の進行
大脳基底核の線条体領域特異的にプロサイモシンαを欠損したマウスで週齢依存的なClasping reflex(抱擁反射)症状の発症ならびに運動機能の低下に関する評価を行った(図8)。Clasping scoreは異常がない場合0、前肢同士もしくは後肢同士を結ぶ行動を1、前後肢を結び抱え込む行動を2として判定した。その結果、WTマウスおよびGgマウスは異常が確認できなかったが、10週齢および20週齢のGgFFマウスのClasping scoreは、有意に高いことが確認できた(図8A、B、C)。
また、運動機能の評価について、マウスを回転式のロッド上で歩行させ、ロッドに滞在できる時間を測定(ロータロッド法)することで評価した。ロッド上を歩行するには全身の各部位をコントロールしバランスをとる必要があるため、本試験は協調運動性の評価法として用いられている。マウス用ロータロッド(MK−610A;室町器械)を最大滞在時間を60秒間、ロッドの回転速度を30rpm、40rpmの条件下で試験を行った。本実施例において本試験を行う前には、20rpmの回転速度で60秒間の訓練試行を1時間の間隔をあけて1日につき4回、3日間連続で行った。30rpmはロータロッド回転速度1分毎30回転すること、40rpmは1分毎40回転することを示す。その結果、GgFFマウスのロータロッド上での滞在時間は、WTマウスおよびGgマウスに比して有意に短いことが確認できた(図8D、E)。
【0099】
実施例6 線条体におけるプロサイモシンα欠損の高齢マウスの抱擁反射行動または運動機能低下に対するドパミンD2受容体アゴニストの症状改善効果
Clasping reflexおよび運動機能低下を示すGgFFマウスおよびコントロールとしてのGgマウスに対し、ドパミンD2受容体のアゴニストであるプラミペキソール0.01mg/kgを腹腔内に投与し、急性(24時間以内)の症状改善効果を評価した(図9)。Preはプラミペキソール投与前、1hrはプラミペキソール投与1時間後を、以下5hrは5時間後、24hrは24時間後を示す。なお、本願実施例で用いられるプラミペキソールは塩酸プラミペキソール(ビ・シフロール 0.125mg錠、日本ベーリンガーインゲルハイム)を乳棒、乳鉢を用いて粉砕し、生理食塩水に溶解した後、水酸化ナトリウム水溶液でpHを7.0に調整して用いた。各種マウスへは27ゲージの注射針を用いて腹腔内に投与した。投与5時間後において、GgFFマウスの上記の症状が緩和される傾向が観察された。
また、GgFFマウスおよびGgマウスに対し、慢性的にプラミペキソールを0.01 mg/kg腹腔内投与した場合の症状改善効果についても、プラミペキソールの投与方法以外は原則的に上記と同様の方法に従って評価した(図10)。Pre値はプラミペキソール投与前の測定値であり、プラミペキソールは投与1日目から7日目まで毎日投与し、投与してから24時間後に投与1日後の値を測定、以下1日おきに7日目までclasping scoreの判定ならびにロータロッドによる運動機能評価を行った(図10A)。その結果、GgFFマウスのClasping scoreは、投与前に比して経日的に改善する傾向が確認できた(図10B)。また、GgFFマウスのロータロッド上での滞在時間は、投与前に比して経日的に長くなる傾向が確認できた(図10C、D)。
【0100】
実施例7 線条体におけるプロサイモシンα欠損の高齢マウスの抱擁反射行動または運動機能低下に対するセレギリンの症状改善効果
GgFFマウスに対し、ドパミン代謝に関わるMAO−Bの阻害剤であるセレギリン10mg/kgを腹腔内に投与し、急性(24時間以内)の症状改善効果を評価した(図11)。セレギリンは、モノアミン酸化酵素阻害剤(MAOI)のひとつで、選択的にMAO−Bを阻害しドーパミンの分解を防ぐことで、結果的に脳内ドーパミン量を増加させる薬剤である。Preはセレギリン投与前、1hrはセレギリン投与1時間後を、以下5hrは5時間後、24hrは24時間後を示す。その結果、GgFFマウスのClasping scoreは、投与前に比して改善する傾向が確認できた(図11B)。また、GgFFマウスのロータロッド上での滞在時間は、投与前に比して経時的に長くなる傾向が確認できた(図11C、D)。
【0101】
実施例8 線条体におけるプロサイモシンα欠損の高齢マウスの抱擁反射行動または運動機能低下に対するメマンチンの症状改善効果
GgFFマウスに対し、グルタミン酸過剰による細胞死を抑制するNMDA受容体拮抗作用を有するメマンチン10mg/kgを腹腔内に投与し、急性(24時間以内)の症状改善効果を評価した(図12)。Preはメマンチン投与前、1hrはメマンチン投与1時間後を、以下5hrは5時間後、24hrは24時間後を示す。投与24時間後において、GgFFマウスの運動機能は最も回復が見られた。
GgFFマウスに対し、慢性的にメマンチンを10mg/kg腹腔内投与した場合の症状改善効果を示す。Pre値はメマンチン投与前の測定値であり、メマンチンは投与1日目から7日目まで毎日投与し、投与してから24時間後に投与1日後の値を測定、以下1日おきに7日目までclasping scoreの判定ならびにロータロッドによる運動機能評価を評価した(図13)。Pre値はメマンチン投与前の測定値であり、メマンチンは投与1日目から7日目まで毎日投与し、投与してから24時間後に投与1日後の値を測定、以下1日おきに7日目までclasping scoreの判定ならびにロータロッドによる運動機能評価を行った(図13A)。結果として、慢性投与によって顕著に症状が回復することが確認できた。
【0102】
実施例9 プロサイモシンα欠損の高齢マウスのジェノタイピング
週齢20−30のGgFFおよびGgの耳片を50μl Extraction buffer(20×SSC 500μl,500mM Tris−HCL pH8.0 200μl,500mM EDTA ph8.0 400μl,10%SDS 1.0ml,1mg/ml ProteinaseK 500μl,DW 7.4ml)に入れ、60℃でOvernightすることによりDNAを抽出した。MangoMix 2xマスターミックス(BIOLINE)を用い、遺伝子型をPCR法により判定した(図14)。プライマーとPCR条件は以下のものを用いた。
GgFF;
5’−TCCTTGGCTTTTACTGCCAGAAG−3’ (配列番号1)
5’−TCACCTGGAGAATCAATCAAGGC−3’ (配列番号2)
94℃ 180s→94℃ 30s→60℃ 30s→72℃ 30s→72℃ 300s→4℃ ∞(下線部を40cycle)
Gg;
5’−GGCGACGTTGTTAGTACCTGAC−3’ (配列番号3)
5’−ATCCCTGAACATGTCCATCAGGTTC−3’ (配列番号4)
5’−TATAGGTACCCAGAAGTGAATTCGGTTCGC−3’ (配列番号5)
95℃ 120s→95℃ 30s→60℃ 20s→72℃ 30s→72℃ 300s→4℃ ∞(下線部を35cycle)
【0103】
実施例10 プロサイモシンα欠損の高齢マウスのプロサイモシンα欠損領域
週齢20−30のGgFFマウスまたはGgマウスについて、ペントバルビタール麻酔下で開腹開胸後、心臓の右心耳に切れ目をいれ、左心室からK free PBSを灌流、脱血させた後、4%パラホルムアルデヒド/0.1M PBで灌流固定した。脳を摘出し、25%sucrose/K free PBSに浸漬して4℃で一晩放置した。O.C.T. Compound(Sakura)で包埋し、エタノール/ドライアイスにより、組織を急速凍結させた。クリオスタット(CM1900、ライカマイクロシステムズ株式会社)を用いて、厚さ30 μmの脳切片を作製した。組織切片をPBST(0.1%TritonX−100 in K free PBS)で洗浄後1% Hに30分置換し、内因性ペルオキシダーゼを分解した。PBSTで洗浄後(以後毎ステップPBST洗浄表記なし)、ブロッキング反応として2%BSA/2%anti−mouse serum(cappel 55435、MP Biomedicals)/PBST溶液で室温にて1時間反応させた。1%BSA/PBST溶液にて1:1000に希釈した抗プロサイモシンα抗体(NT 2F11、ALEXIS Enzo Life Sciences)を4℃にてover night後、Biotinylated α−mouse IgG(1:500 Zymax)in 1%BSA/PBSTに1時間置換した。次に30分前に作成したvectastain ABC液(A液15μl、B液15μl in 1%BSA/PBST 2000μl)に1時間置換しシグナル増強を行った。20mg/mL DAB solutionを10mlのPBSに溶解し1%CoCl 250μL,1%NiSO 200μLを少量ずつ加えながら混ぜ3.3μlの30%H(Wako)を入れた溶液に約5分置換し、シランコートされたスライドグラス(松波硝子工業株式会社)に張り付け風乾後アルコール脱水、キシレン透徹を行い、Permount(Fisher Chemicals)で封入後、蛍光位相差顕微鏡(BZ−8000、株式会社キーエンス)で観察した。蛍光染色時は30μm切片作製、PBSTで洗浄後、50%MeOH 10分、100%MeOH 10分浸漬し、PBSTで洗浄後にブロッキング反応を行った。二次抗体にはalexa fluor 488 anti−mouse IgG(1:300 Molecular probe)in 1%BSA/PBSTで2時間反応させた。
本発明者は、Gng7は主に線条体に発現が多く、海馬、小脳にも発現していることをReal−time PCRによってこれまでに確認している。週齢20−30のGgFFマウスの30μm脳切片を用いてプロサイモシンαの免疫組織化学を行った所、線条体、海馬、小脳での顕著な発現低下を観察した(図15A,B)。DAB染色および蛍光染色の20倍視野の写真からは、線条体で7〜8割の細胞でプロサイモシンαが欠損していること、歯状回の内側ではGgFFマウスでも発現が残っていること、小脳ではプルキンエ細胞層ではプロサイモシンα発現が残っており、主に顆粒細胞層でプロサイモシンα欠損が起こっていることが分かった(図15C)。
また、線条体におけるプロサイモシンαの発現をイムノブロット法で確認した。週齢20−30のGgFFマウスまたはGgマウスを断頭したのち氷上でマウスの脳組織を摘出しPBSで洗浄した。マウス用ブレインスライサ(室町機械)で500μmの厚さにスライスしカミソリで線条体、海馬、小脳の各部位を切り出し、SDS sample buffer(500mM Tris−HCl(pH6.8)5ml,10%SDS 10ml,100%glycerol 5mlをMQで50mlにメスアップ)100μlの入ったエッペンチューブに入れる。Bioruptor(Cosmo Bio)で超音波破砕した後、15000rpmにて10分遠心後上清を回収しDC Protein Assay Regent(BIO−RAD laboratories)を用いてタンパク定量を行った。1レーン当たり20μgのタンパク質を15%SDS−PAGEで30mA,300Vの条件でDyeがゲル下端に来るまで泳動を行う。ゲルのタンパク質をニトロセルロースメンブレンにセミドライ式で100mA,30Vの条件で90分間転写する。5%スキムミルク,2%Fetal bovine serum/TBST(TBS,0.1%Tween20)で1時間ブロッキングを行った。一次抗体をブロッキングに用いたBufferにて1000倍に希釈し一晩反応させる。TBSTで3回洗浄後、HRP標識した2次抗体をブロッキングに用いたBufferにて2000倍に希釈し2時間反応させた。TBSTで3回洗浄後した。Super Signal West Pico Chemiluminesent substrateおよびSuperSignal West Dura Extended Duration Substrate(Thermo scientific)にて化学発光させシグナルを検出した。一次抗体には抗プロサイモシンα抗体(1:1000; ALEXIS)および抗β−tubulin抗体(1:1000; Santa Cruz)を用い、二次抗体にはHRP標識抗マウスIgG抗体(1:2000;Promega)およびHRP標識抗ラビットIgG抗体(1:2000;Promega)を用いた。
その結果、Western blotでも線条体、海馬、小脳でのプロサイモシンα発現減少の結果を得た(図15D)。
【0104】
実施例11 プロサイモシンα欠損の高齢マウスの神経細胞形態および神経細胞数
本発明者はこれまでにプロサイモシンαが虚血ストレス時に神経細胞を保護する作用を有することをin vitro,in vivoともに明らかとしてきた。そこで前記実施例10のGgFFマウスにおいてプロサイモシンαの発現低下していた領域において、神経細胞の形態や細胞数に変化があるかをNissl染色により確認した。Nissl染色は神経細胞を可視化する標準的な組織学的方法として用いられており、神経細胞形質および樹状突起中の粗面小胞体由来のリボソームRNAから構成されるNissl物質を染色する。損傷を受けた場合、神経細胞体内に再分布し、神経細胞死のマーカーとしても用いられている。免疫染色と同様に30μmの脳切片を作製し、シランコートされたスライドグラスに張り付け風乾後、PBSTで洗浄した。MQに10秒程度浸漬後、水浴で37℃に温めておいたcresyl violet溶液(2.5g cresylecht violet,300ml HO,30ml 1M NaOAc,170ml 1M AcOHをmixし7日間スターラーで撹拌)に15〜30分浸漬し染色する。MQで洗浄後、アルコール脱水、キシレン透徹を行い、Permountで封入後、顕微鏡(Keyence)で観察した。
その結果、GgFFマウスでは線条体、海馬、小脳において顕著な神経細胞死や脱落、神経細胞層の配列の乱れは観察されなかった(図16A,B,C)。
【0105】
実施例12 プロサイモシンα欠損の高齢マウスにおける自発運動量および行動速度の評価
20−30週齢のマウスを用いて新規環境下での自発運動機能をOpen field testにて評価した。約50lxの部屋に試験30分前にマウスを入れておき環境に適応させた。縦70cm×横70cm×高さ30cmのアクリル箱の隅からマウスを入れ30分間、Video tracking system(Muromachi Kikai)を用いてPCにて解析を行った。箱を8×8に分画した際の中心4×4区画での行動時間を不安様行動の指標として測定した。Open field試験において、20−30週齢のGgFFマウスは顕著な自発行動量の低下を認めた(図17A,B)。また行動速度にも低下がみられ、中心滞在時間の低下も観察された(図17C,D)。
これらの結果より、GgFFマウスは週齢依存的な運動機能障害または、不安様行動の促進がみられることが明らかとなった。
【0106】
実施例13 プロサイモシンα欠損の高齢マウスにおける不安様症状の評価
さらに、20−30週齢のGgFFマウスは不安行動が促進しているか否かを調べるため、他の不安行動の試験であるMarble burying testおよびNovelty induced hypophagia testを行った。
Marble burying testは、無害なガラス玉を床敷きで覆い隠そうとするマウスの行動が、不合理と認識しつつ繰り返される強迫性障害患者の脅迫行為と見かけ上類似していることから、強迫性障害に関連した不安様行動試験として認知されつつある試験である。抗不安薬の投与により隠すビー玉の数が低下することが報告されている。縦28cm×横45cm×高さ20cmのアクリルケージに床敷を5cm入れ、17mmの青色ビー玉を等間隔に5×5個置く。ケージを薄暗い所に置き、マウスをケージに入れた。30分後マウスを回収し、2/3以上床敷に埋められたビー玉の数をカウントした。この試験においてGgFFマウスが隠したビー玉の数は、Ggマウスと有意な差はなかったが、若干の低下傾向にあり、運動機能低下が観察された(図18A,B)。
Novelty induced hypophagia testは、コンデンスミルクをHomecage(HC)で飲む群と、新規環境(Novelty;N)で飲む群で、飲みに行くまでの時間と飲んだミルクの量を比較し、不安行動を評価する試験である。不安行動が亢進しているマウスは新規環境でミルクを飲みに行くまでの時間が増加し、飲む量も減少するとされている。まずグループ飼いしたマウスを約50lxの薄暗い部屋に入れ、5mlの25%コンデンスミルクを30分間自由に摂取できるようにした。これを1日1回3日間繰り返して、ミルクの味を覚えさせた。4日目は、3日間と同様に薄暗い部屋のHomecageでミルクを飲めるマウス(Homecage群)と、1000lxの明るく照らされた床敷のない透明ケージでミルクを飲めるマウス(Novelty群)の2群に分けて実験を行った。どちらの群も1匹ずつ30分間試行し、ミルクを初めて飲むまでの時間と、5分毎のミルクを飲んだ量を測定した。この試験においてGgFFマウスはHC群、N群ともにミルクを飲みに行くまでの時間、飲む量のどちらも有意な差はなかった(図18C,D)。
これらの結果からGgFFマウスは不安様行動の亢進はみられないことが明らかとなった。
【0107】
実施例14 プロサイモシンα欠損の高齢マウスにおける運動機能評価
これまでの試験において20−30週齢のGgFFマウスは自発行動量の低下がみられることが明らかとなった。そこで、GgFFマウスの運動機能を詳細に調べるため若齢マウスと同様にロータロッド試験、さらにStationary thin rod試験、Footprint試験を行った。
ロータロッド試験においてGgFFマウスはGgマウスと比べ、20rpmの低速で回るロータ上を歩くことを覚える訓練1回目から落ちる時間が顕著に早かった。またGgFFマウスは訓練3日間の間に少しずつ上達は見られるが、Ggマウスと同等の運動機能にはならなかった(図19A)。4日目により高速の30rpmで試験したところ、訓練の結果と同様にロータ上から落下するまでの時間は短かった(図19B)。
さらに、バランス感覚を調べるため、止まった細い棒上から落ちるまでの時間を調べるStationary thin rod試験を行った。1.5cm diameter,50cm longの滑らかなステンレス棒を地面から40cmの高さに水平に設置し、マウスの怪我防止のため、マウスを棒の中心に乗せ、落下するまでの時間を測定した。最大滞在時間を60秒とし、1時間の間隔をあけて6試行行った。その結果、GgFFマウスはGgマウスと同様に6回の試行において徐々に棒上に乗れるようになり、有意な差はなかった(図19C)。
また歩行機能を調べるFootprint試験では、マウスの前肢および後肢足底をそれぞれ赤および黒インクで塗布し、幅48mm、長さ650mm、高さ230mmの通路上を歩行させた。その際、マウスが暗い場所を好む性質を利用し、後ろからライトで照らして前進させた。歩き始めと歩き終わりを除いた3歩の平均値で以下のパラメータを解析し、歩行機能を評価した。その結果、GgFFマウスに異常な歩行様式はみられず、歩幅(Stride length:片前肢から同前肢までの距離で左右の平均)、前肢両間の距離(Forepaw base:左右の前肢間の距離)、後肢両間の距離(Hindpaw base:左右の後肢間の距離)、前後肢のかぶり(Forepaw/Hindpaw overlap:片前肢と後肢の距離で左右の平均)の4項目すべてでGgマウスと有意な差はなかった(図19D)。
これらの結果より、20−30週齢のGgFFマウスは通常の歩行やバランスといった顕著な運動機能障害はないが、ロータロッド試験のような高度な運動協調性に異常があることが示唆された。
【0108】
実施例15 プロサイモシンα欠損の加齢マウスにおける運動機能障害に対するD1,D2アゴニスト投与の効果
これまでの結果からGgFFマウスは運動機能障害を自然発症することが明らかとなった。そこで、GgFFマウスと同様に線条体が病態となっているパーキンソン病で用いられているドパミンアゴニストを用いてGgFFマウスの運動機能障害が治療できるか検討した。
D1アゴニストであるSKF38393 30mg/kgの腹腔内投与5時間後では、ロータロッド試験における運動機能障害の有意な改善を認めた(図20A)。しかしD2アゴニストのパラミペキソールの投与では最大容量の1mg/kgでも改善効果はみられなかった(図20B)。
この結果から、Gng7発現細胞でプロサイモシンαが欠損することはドパミン作動性神経細胞のバランスになんらかの影響を与えていることが示唆された。
【0109】
実施例16 プロサイモシンα欠損の高齢マウスの行動学的解析
さらに、GgFFマウスに関して、以下の点についても検証を行った。
(1)体重
体重に関しては若齢において有意な差は確認されなかったが、週齢を重ねるごとに体重増加の程度が対照群と比較し低下し、29週齢まででGgマウスと差はないが、30−39週齢で有意な体重の低下がみられた(図21A)。
(2)握力
筋力の評価としてWirehang testを行った。1cm角の格子状の網の上にマウスを乗せ、上下逆さにして30cmの高さに固定する。マウスが落ちるまでの時間を測定し、最大180秒とした。握力を測定するWirehang試験に関してはGgマウスがほぼ最大潜時の180秒間落ちないのに対して、GgFFマウスは20秒程度落下が早かった(図21B)。
(3)うつ様症状
うつ様症状の評価にはTail suspension testおよびPorsolt forced swim testを行った。
Tail suspension testでは、マウスの尾を木の棒の先にテープで固定し、高さ30cmのところに吊るした。無動になるまでの時間と1分毎の無動時間を6分間測定した。その結果、GgFFマウスは全体6分間を通して有意な無動時間の低下を示し、前半3分間は特に顕著であった(図21C)。
また、Porsolt forced swim testでは、直径20cm高さ30cmのアクリル円柱状容器に25±1℃の水を20cm入れた。マウスをその容器に入れ、無動になるまでの時間と1分毎の無動時間を6分間測定した。測定後マウスを回収し、キムタオルで水分をふきとった。その結果、GgマウスとGgFFマウスに有意な差はなかった(図21D)。
(4)社会性
自己の周辺環境への配慮や社会性を調べるため、Nest building testを行った。明暗サイクル(明期8:00〜20:00/暗期20:00〜8:00)の暗期1時間前(19:00)にマウスを1匹ずつ大ケージに分け、Nestlet 2.5g(Ancare)を入れた。翌朝巣の形状を以下の基準でスコアリングし、未使用のNestletの量を量った。
Score1.Nestletの90%が未使用。
Score2.Nestletの50−90%が未使用。
Score3.Nestletの50%以上使用。隅に90%以上Nestletを集めていない。巣らしきものがない。
Score4.Nestletの90%以上使用し、隅に集めている。平坦な巣がある。
Score5.Nestletの90%以上使用し、くぼみのある完全な巣がある。
その結果、巣として使わなかったNestletsの量と巣の形状のスコアリングは、GgFFマウスはどちらの項目でもGgマウスと差がなく、社会性に異常はないことが明らかとなった(図21E)。
(5)学習機能
学習機能の評価にはStep through testを用いた。1日目の電流を覚えさせる訓練ではGgマウスとGgFFマウスに有意な差はなかったことから、両群に同じ条件付けができたと考えられる。しかし2日目の試験ではGgFFマウスは電流がかかる暗箱にGgマウスよりも早く入ってしまい、学習機能の低下が示唆された(図21F)。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明において、ハンチントン病を含む神経変性疾患のモデルマウスとして線条体におけるプロサイモシンα遺伝子発現不全非ヒト哺乳動物の作成に成功したことによって、該疾患の発症機構などの研究に寄与することができる。また、該非ヒト哺乳動物は該疾患の新規予防/治療薬のスクリーニングに利用可能である。
本出願は、日本で出願された特願2011−119651(出願日:平成23年5月27日)を基礎としており、その内容はすべて本明細書に包含されるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線条体においてプロサイモシンα遺伝子発現不全非ヒト哺乳動物であって、対応する野生型動物と比較して、
(1)脳虚血処置に対して脆弱である、
(2)運動性が劣る、
(3)加齢によって、上記(1)および(2)の症状を自然発症する、および
(4)ドパミンD2受容体アゴニスト、ドパミン代謝阻害剤、NMDA受容体拮抗剤またはドパミンD1受容体アゴニストによって上記(1)、(2)および(3)の症状が改善する、
ことを特徴とする動物。
【請求項2】
G蛋白質γ7サブユニット遺伝子プロモーターにより発現制御されたcre遺伝子を有し、かつloxP配列に挟まれたプロサイモシンα遺伝子をホモ接合型で有する、請求項1記載の動物。
【請求項3】
ドパミンD2受容体アゴニストがプラミペキソール、ペルゴリド、カベルゴリン、タリペキソールまたはロビニロールである、請求項1に記載の動物。
【請求項4】
ドパミン代謝阻害剤がセレギリン、エンタカルボン、ドアマンタジン、L−ドーパ、ドロキシドパまたはゾニサミドである、請求項1に記載の動物。
【請求項5】
NMDA受容体拮抗剤がメマンチンまたはCP−101606である、請求項1に記載の動物。
【請求項6】
ドパミンD1受容体アゴニストがSKF38393である、請求項1に記載の動物。
【請求項7】
動物がマウスまたはラットである、請求項1に記載の動物。
【請求項8】
請求項1記載の動物に試験化合物を適用し、(1)脳虚血処置に対する生存率および/または(2)運動性を測定することを特徴とする、神経変性疾患または虚血性疾患由来のジストニアの治療/予防薬のスクリーニング方法。
【請求項9】
請求項1記載の動物であって、週齢が進んだ該動物に試験化合物を適用し、(1)生存率および/または(2)運動性を測定することを特徴とする、神経変性疾患または虚血性疾患由来のジストニアの治療/予防薬のスクリーニング方法。
【請求項10】
試験化合物がドパミンD2受容体アゴニストである、請求項8または9に記載のスクリーニング方法。
【請求項11】
試験化合物がドパミン代謝阻害剤である、請求項8または9に記載のスクリーニング方法。
【請求項12】
試験化合物がNMDA受容体拮抗剤である、請求項8または9に記載のスクリーニング方法。
【請求項13】
試験化合物がドパミンD1受容体アゴニストである、請求項8または9に記載のスクリーニング方法。
【請求項14】
神経変性疾患がハンチントン病である、請求項8または9に記載のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図20】
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【図8】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図21】
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