説明

神経突起伸長阻害の軽減のためのプロテインキナーゼA及び/又はカゼインキナーゼII

本発明はニューロンからの神経突起伸長の阻害の軽減方法に関し、前記ニューロンはNogo受容体を含み、前記方法は前記ニューロンをNogo受容体のリン酸化を引き起こすことのできる組成物と接触させることを含み、前記組成物はプロテインキナーゼA又はカゼインキナーゼIIを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は神経損傷又は神経疾患の分野に関し、特に本発明は神経突起伸長等の神経再生の阻害の軽減に関する。
【背景技術】
【0002】
ニューロンは他のニューロン又は標的組織とコミュニケーションするために神経突起を伸長させる。成人中枢神経系(central nervous system、CNS)におけるこの神経回路網は、損傷後に不十分にしか再生しない。これは当技術分野における問題の1つであり、神経回路網損傷後の患者は転帰不良となる。
【0003】
成体哺乳動物CNSの再生不全は、一つには損傷したミエリンと関連する神経突起伸長阻害因子による。ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、Nogo−A(レチクロン4A(Reticulon 4A)としても知られる)及び乏突起膠細胞ミエリン糖タンパク質(oligodendrocyte myelin glycoprotein、OMgp)は神経突起伸長を阻害するミエリン関連阻害因子であり、Nogo受容体1(Nogo receptor 1、NgR1)に結合し得る。これらミエリン関連タンパク質であるNogo−A、MAG及びOMgpは、結合しているNogo受容体を介して乏突起膠細胞からニューロン内へとシグナルを伝達する。このNogoシグナリングは中枢神経系(CNS)の発達及び維持において決定的に重要な役割を果たす。それはニューロンの分化、移動及び神経突起伸長を阻害し、成人CNSの損傷からの回復を不十分なものとし得る。
【0004】
Nogo−AはNogo−66と呼ばれるドメインを介してNgR1に結合する。Nogo−66ドメインは66のアミノ酸からなり、Nogo−Aの他の領域なしにNogo−66ドメインのみで、神経突起伸長を阻害するに十分である。MAGはNgR1を介してのみならず、NgR1の相同タンパク質であるNgR2をも介して神経突起伸長を阻害し得るが、Nogo−A及びOMgpはどちらもNgR2を介しては神経突起伸長を阻害し得ない(K. Venkatesh, O. Chivatakarn, H. Lee, P. S. Joshi, D. B. Kantor, B. A. Newman, R. Mage, C. Rader, R. J. Giger, The Nogo-66 receptor homolog NgR2 is a sialic acid-dependent receptor selective for myelin-associated glycoprotein. J Neurosci 25, 808-822 (2005))。
【0005】
NgR1はLINGO−1とp75NTR又はTAJ/TROYとを含むシグナリング複合体を作り出す(McGee, and Strittmatter Trends Neurosci 26, 193-198 (2003); Schwab et al. Trends Mol Med 12, 293-297 (2006))。p75NTR及びTAJ/TROYの両方がTNFアルファ受容体ファミリーに属し、神経突起伸長阻害のための細胞内シグナルを開始する主成分であると提唱されている。NgR2がLINGO−1とp75NTR又はTAJ/TROYとを含む複合体を作り出すかどうかは確かでない。
【0006】
Nogoシグナリングの役割に関する知識が蓄積される一方で、このシグナリングを制御する機序に関する知識は限られている。これは当技術分野における問題の1つである。cAMPの細胞内レベルの上昇により、Nogoシグナリングの神経突起伸長に対する阻害効果が克服されることが知られている(S. S. Hannila, M. T. Filbin, The role of cyclic AMP signaling in promoting axonal regeneration after spinal cord injury. Exp Neurol 209, 321-332 (2008))。しかしながら、cAMPがこうしたNogoシグナリングの効果を克服する機序の詳細は知られていない。
【0007】
ニューロトロフィン神経成長因子ファミリーのメンバーであるBDNFは、インビトロで複数のタイプの神経細胞の神経突起伸長を刺激するのみならず(R. H. Fryer, D. R. Kaplan, L. F. Kromer, Truncated trkB receptors on nonneuronal cells inhibit BDNF-induced neurite outgrowth in vitro. Exp Neurol 148, 616-627 (1997); M. Encinas, M. Iglesias, Y. Liu, H. Wang, A. Muhaisen, V. Cena, C. Gallego, J. X. Comella, Sequential treatment of SH-SY5Y cells with retinoic acid and brain-derived neurotrophic factor gives rise to fully differentiated, neurotrophic factor-dependent, human neuron-like cells. J Neurochem 75, 991-1003 (2000); R. Salie, J. D. Steeves, IGF-1 and BDNF promote chick bulbospinal neurite outgrowth in vitro. Int J Dev Neurosci 23, 587-598 (2005); E. Pastrana, M. T. Moreno-Flores, J. Avila, F. Wandosell, L. Minichiello, J. Diaz-Nido, BDNF production by olfactory ensheathing cells contributes to axonal regeneration of cultured adult CNS neurons. Neurochem Int 50, 491-498 (2007))、脊髄損傷からの回復をも部分的に促進する(B. S. Bregman, M. McAtee, H. N. Dai, P. L. Kuhn, Neurotrophic factors increase axonal growth after spinal cord injury and transplantation in the adult rat. Exp Neurol 148, 475-494 (1997); L. B. Jakeman, P. Wei, Z. Guan, B. T. Stokes, Brain-derived neurotrophic factor stimulates hindlimb stepping and sprouting of cholinergic fibers after spinal cord injury. Exp Neurol 154, 170-184 (1998); Y. Jin, I. Fischer, A. Tessler, J. D. Houle, Transplants of fibroblasts genetically modified to express BDNF promote axonal regeneration from supraspinal neurons following chronic spinal cord injury. Exp Neurol 177, 265-275 (2002); P. Lu, A. Blesch, M. H. Tuszynski, Neurotrophism without neurotropism: BDNF promotes survival but not growth of lesioned corticospinal neurons. J Comp Neurol 436, 456-470 (2001))。BDNFでの前処理は培養ニューロンにおける細胞内cAMPレベルを高め、ミエリン関連阻害因子の存在下においてもニューロンの神経突起伸長を可能にする(D. Cai, Y. Shen, M. De Bellard, S. Tang, M. T. Filbin, Prior exposure to neurotrophins blocks inhibition of axonal regeneration by MAG and myelin via a cAMP-dependent mechanism. Neuron 22, 89-101 (1999))。さらにBDNFは海馬における損傷誘導性神経突起成長に関わる(C. Dinocourt, S. E. Gallagher, S. M. Thompson, Injury-induced axonal sprouting in the hippocampus is initiated by activation of trkB receptors. Eur J Neurosci 24, 1857-1866 (2006))。これら報告は、BDNFが神経突起伸長を阻害するミエリン関連阻害因子の存在下においてもCNSにおける神経回路網の再生に寄与し得ると示唆する。しかしながら、その効果は限定的であり、神経回路網の完全な再生に十分ではない。
【0008】
ヒト神経芽細胞腫細胞株SH−SY5Yは、レチノイン酸(RA)処理5日後にBDNF依存性神経突起伸長を示す(M. Encinas, M. Iglesias, Y. Liu, H. Wang, A. Muhaisen, V. Cena, C. Gallego, J. X. Comella, Sequential treatment of SH-SY5Y cells with retinoic acid and brain-derived neurotrophic factor gives rise to fully differentiated, neurotrophic factor-dependent, human neuron-like cells. J Neurochem 75, 991-1003 (2000))。SH−SY5Y細胞はRAに反応してニューロン様細胞へと分化を開始し、ニューロン特異的タンパク質の発現を始める。しかしながら、RAによりSH−SY5Y細胞から分化した神経細胞は限定的な形態学的変化を示すのみである。BDNF処理はSH−SY5Y由来神経細胞の効率的な神経突起伸長に必要であり、さもなければより長期間のRA処理が必要である(S. Pahlman, A. I. Ruusala, L. Abrahamsson, M. E. Mattsson, T. Esscher, Retinoic acid-induced differentiation of cultured human neuroblastoma cells: a comparison with phorbolester-induced differentiation. Cell Differ 14, 135-144 (1984))。
【0009】
カゼインキナーゼII(CK2)はニューロンの文脈で研究されてきた。カゼインキナーゼIIはニューロンの2つの異なる表面タンパク質のリン酸化に関わる。どちらのタンパク質もNogo受容体との関連はない。さらに、この分野の研究はカゼインキナーゼII阻害因子の使用に完全に依存してきた。したがって、細胞内CK2の機能が当技術分野において研究されてきた。細胞内CK2活性が神経突起伸長自体に必要であることは知られている。細胞外CK2が存在することは知られている。しかしながら、細胞外CK2に関しては前述の通りあまり知られていない。さらに詳しくは、アミロイドベータ前駆体タンパク質及びニューログリカンCが内因性細胞外CK2によりニューロン表面でリン酸化され得ると示唆されている。しかしながら、これらリン酸化が神経突起伸長に与える(効果があるとすればその)効果は知られていない。
【0010】
カゼインキナーゼIIはある種のインビトロ調製物中でコラーゲン/ラミニンを処理するために用いられてきた。これら処理が細胞を伴うことは決してなかった。これら処理はこれまで、コラーゲン又はラミニン等の基質タンパク質のインビトロ調製物のみを伴っていた。
【0011】
細胞のカゼインキナーゼII処理は先行技術において一切知られていなかった。外因性カゼインキナーゼIIの細胞への適用は先行技術において知られていなかった。
【0012】
Ulloa et al(1993 EMBO vol 12 pp 1633-1640)は、N2Aマウス神経芽細胞腫細胞株におけるCK2活性をアンチセンスオリゴ及び特異的阻害因子で阻害した。N2A細胞はレチノイン酸(RA)及びBDNFのどちらでも神経突起を伸長させなかった。N2A細胞株を用いて彼らは、CK2の欠乏によりN2A細胞からの神経突起伸長が阻害されること、並びに、かかる欠乏により微小管関連タンパク質であるMAP1Bのリン酸化が変化することを見出した。MAP1Bは神経突起伸長に必要な細胞骨格の再構成に必要である。したがって彼らは、MAP1Bリン酸化の変化がCK2欠乏による神経突起伸長阻害を引き起こすと結論付けた。MAP1Bリン酸化は細胞内性である。細胞骨格の再構成と関連する他のタンパク質は、細胞内でCK2によりリン酸化されることが知られている。これら細胞内リン酸化現象は神経突起伸長自体に必要である。N2A細胞と同様に正常なニューロンはいかなる刺激もなしに神経突起を伸長させ得るので、これら細胞内リン酸化現象はニューロンにおける基礎レベルの細胞内CK2に触媒されると推定される。この論文はNogoシグナリングと関係ない。
【0013】
リン酸化とNogoシグナリングとの間の関連性はこれまで一切知られてない。Nogoシグナリングを制御する機序はこれまで知られていない。
【0014】
本発明は、先行技術と関連する(諸)問題の克服を目指す。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】K. Venkatesh, O. Chivatakarn, H. Lee, P. S. Joshi, D. B. Kantor, B. A. Newman, R. Mage, C. Rader, R. J. Giger, The Nogo-66 receptor homolog NgR2 is a sialic acid-dependent receptor selective for myelin-associated glycoprotein. J Neurosci 25, 808-822 (2005)
【非特許文献2】McGee,and Strittmatter Trends Neurosci 26, 193-198 (2003)
【非特許文献3】Schwab et al. Trends Mol Med 12, 293-297 (2006)
【非特許文献4】S. S. Hannila, M. T. Filbin, The role of cyclic AMP signaling in promoting axonal regeneration after spinal cord injury. Exp Neurol 209, 321-332 (2008)
【非特許文献5】R. H. Fryer, D. R. Kaplan, L. F. Kromer, Truncated trkB receptors on nonneuronal cells inhibit BDNF-induced neurite outgrowth in vitro. Exp Neurol 148, 616-627 (1997)
【非特許文献6】M. Encinas, M. Iglesias, Y. Liu, H. Wang, A. Muhaisen, V. Cena, C. Gallego, J. X. Comella, Sequential treatment of SH-SY5Y cells with retinoic acid and brain-derived neurotrophic factor gives rise to fully differentiated, neurotrophic factor-dependent, human neuron-like cells. J Neurochem 75, 991-1003 (2000)
【非特許文献7】R. Salie, J. D. Steeves, IGF-1 and BDNF promote chick bulbospinal neurite outgrowth in vitro. Int J Dev Neurosci 23, 587-598 (2005)
【非特許文献8】E. Pastrana, M. T. Moreno-Flores, J. Avila, F. Wandosell, L. Minichiello, J. Diaz-Nido, BDNF production by olfactory ensheathing cells contributes to axonal regeneration of cultured adult CNS neurons. Neurochem Int 50, 491-498 (2007)
【非特許文献9】B. S. Bregman, M. McAtee, H. N. Dai, P. L. Kuhn, Neurotrophic factors increase axonal growth after spinal cord injury and transplantation in the adult rat. Exp Neurol 148, 475-494 (1997)
【非特許文献10】L. B. Jakeman, P. Wei, Z. Guan, B. T. Stokes, Brain-derived neurotrophic factor stimulates hindlimb stepping and sprouting of cholinergic fibers after spinal cord injury. Exp Neurol 154, 170-184 (1998)
【非特許文献11】Y. Jin, I. Fischer, A. Tessler, J. D. Houle, Transplants of fibroblasts genetically modified to express BDNF promote axonal regeneration from supraspinal neurons following chronic spinal cord injury. Exp Neurol 177, 265-275 (2002)
【非特許文献12】P. Lu, A. Blesch, M. H. Tuszynski, Neurotrophism without neurotropism: BDNF promotes survival but not growth of lesioned corticospinal neurons. J Comp Neurol 436, 456-470 (2001)
【非特許文献13】D. Cai, Y. Shen, M. De Bellard, S. Tang, M. T. Filbin, Prior exposure to neurotrophins blocks inhibition of axonal regeneration by MAG and myelin via a cAMP-dependent mechanism. Neuron 22, 89-101 (1999)
【非特許文献14】C. Dinocourt, S. E. Gallagher, S. M. Thompson, Injury-induced axonal sprouting in the hippocampus is initiated by activation of trkB receptors. Eur J Neurosci 24, 1857-1866 (2006)
【非特許文献15】S. Pahlman, A. I. Ruusala, L. Abrahamsson, M. E. Mattsson, T. Esscher, Retinoic acid-induced differentiation of cultured human neuroblastoma cells: a comparison with phorbolester-induced differentiation. Cell Differ 14, 135-144 (1984)
【非特許文献16】Ulloa et al (1993 EMBO vol 12 pp 1633-1640)
【発明の概要】
【0016】
成人神経組織が不十分にしか、或いは全く再生しないことは問題である。外傷又は疾患等の因子により引き起こされる損傷後に、これは特に問題である。再生阻害を制御する様々な機序が同定されてきた。かかる機序の1つが、Nogo受容体を介するシグナリングによる神経突起伸長阻害である。この経路における様々なリガンド及び受容体が十分に特徴付けられているにもかかわらず、この阻害を軽減する信頼度の高い方法は先行技術において開示されてこなかった。
【0017】
本発明者らはこれら問題に取り組んだ。Nogoシグナリングの詳細な研究により、本発明者らは前記シグナリングを阻害し得る機序を同定した。さらに本発明者らは、Nogoシグナリング制御の鍵となるNogo受容体内の特定の分子標的を同定した。この標的はNogo受容体のセリン281である。この残基のリン酸化は神経突起伸長阻害因子の受容体への結合を消失させ、そのことにより神経再生阻害を軽減する。さらに本発明者らは、これが達成され得る有効な方法を教示及び実証し、かかる方法はプロテインキナーゼA及び/又はカゼインキナーゼIIでの処理等による。本発明はこれら驚くべき発見に基づく。
【0018】
したがって、態様の1つにおいて、本発明はニューロンからの神経突起伸長の阻害の軽減方法を提供し、
前記ニューロンはNogo受容体を含み、
前記方法は前記ニューロンをNogo受容体のリン酸化を引き起こすことのできる組成物と接触させることを含み、前記組成物はプロテインキナーゼA又はカゼインキナーゼIIを含む。
【0019】
好ましくは、前記組成物はプロテインキナーゼA及びカゼインキナーゼIIを含む。
【0020】
好ましくは、前記リン酸化は前記Nogo受容体のセリン281に対応するアミノ酸残基のリン酸化である。
【0021】
好ましくは、前記Nogo受容体はヒトNgR1である。
【0022】
また別の態様において、本発明は脊髄損傷のための医薬の製造のための、プロテインキナーゼAポリペプチドの使用に関する。
【0023】
また別の態様において、本発明は脊髄損傷の治療における使用のためのプロテインキナーゼAポリペプチドに関する。
【0024】
また別の態様において、本発明は脊髄損傷のための医薬の製造のための、カゼインキナーゼIIポリペプチドの使用に関する。
【0025】
また別の態様において、本発明は脊髄損傷の治療における使用のためのカゼインキナーゼIIポリペプチドに関する。
【0026】
また別の態様において、本発明は医薬としての使用のための、プロテインキナーゼA及びカゼインキナーゼIIを含む組成物に関する。
【0027】
また別の態様において、本発明は脊髄損傷のための医薬の製造のための、前述の組成物の使用に関する。
【0028】
また別の態様において、本発明は脊髄損傷の治療における使用のための前述の組成物に関する。
【0029】
また別の態様において、本発明は神経突起伸長を引き起こすための医薬の製造のための、プロテインキナーゼAポリペプチド又はカゼインキナーゼIIポリペプチドの使用に関する。
【0030】
また別の態様において、本発明は神経突起伸長を引き起こすことにおける使用のためのプロテインキナーゼAポリペプチド又はカゼインキナーゼIIポリペプチドに関する。
【0031】
また別の態様において、本発明は対象の脊髄損傷の治療方法に関し、前記方法は前記対象にNogo受容体のリン酸化を引き起こすことのできる組成物を有効量投与することを含み、前記組成物はプロテインキナーゼA又はカゼインキナーゼIIを含む。好ましくは、前記投与は損傷部位への局所投与である。
[本発明の詳細な説明]
【発明を実施するための形態】
【0032】
NogoシグナリングはCNSにおけるニューロンの神経突起伸長(3、4)、分化(B. Wang, Z. Xiao, B. Chen, J. Han, Y. Gao, J. Zhang, W. Zhao, X. Wang, J. Dai, Nogo-66 promotes the differentiation of neural progenitors into astroglial lineage cells through mTOR-STAT3 pathway. PLoS ONE 3, e1856 (2008); F. Wang, Y. Zhu, The interaction of Nogo-66 receptor with Nogo-p4 inhibits the neuronal differentiation of neural stem cells. Neuroscience 151, 74-81 (2008))、移動(Z. Su, L. Cao, Y. Zhu, X. Liu, Z. Huang, A. Huang, C. He, Nogo enhances the adhesion of olfactory ensheathing cells and inhibits their migration. J Cell Sci 120, 1877-1887 (2007))及びシナプス形成(E. M. Aloy, O. Weinmann, C. Pot, H. Kasper, D. A. Dodd, T. Rulicke, F. Rossi, M. E. Schwab, Synaptic destabilization by neuronal Nogo-A. Brain Cell Biol 35, 137-156 (2006))を阻害し得る。したがって、Nogoシグナリングは生理学的条件下で生じないCNS再生の主要阻害因子として同定されてきた。
【0033】
本発明者らは、例えばカゼインキナーゼII(CK2)等によるNogo受容体のリン酸化が、神経突起伸長等の神経再生を阻害するミエリン関連タンパク質の結合を阻害することを開示する。本発明者らは、神経芽細胞腫由来ニューロンからの神経突起伸長のNogo依存性阻害を抑制する脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor、BDNF)が、Nogo受容体のリン酸化を誘導するために任意で用いられ得ることを実証する。さらなる実施形態において、細胞外CK2処理はミエリン関連タンパク質による神経突起伸長阻害を克服する。これは例えばラット成体ニューロンにおいて実証されている。したがって、本発明はNogoシグナリングを、そしてそれゆえ神経再生を制御する新規方略を提供する。
【0034】
本発明者らはリン酸化とNogoシグナリングとの間の関連性を初めて開示する。本発明者らはNogo依存性神経突起伸長阻害に対する外部ドメインリン酸化の効果を初めて開示する。Nogo受容体のリン酸化は神経突起伸長自体には必要でないかもしれないが、神経突起伸長阻害を克服するのに必要である。神経突起伸長阻害はインビボ条件下で、例えば中枢神経系が外傷を負った後に生じる。
【0035】
さらに、本発明者らはNogoシグナリングがSH−SY5Y由来神経細胞等の哺乳動物細胞からの神経突起伸長を阻害すること、並びに、CK2での細胞外処理によりBDNFなしでかかる阻害が抑制されることを示している。CK2処理はNogo−66、MAG及びOMgpの受容体への結合を阻害し、これら神経突起伸長阻害因子の存在下での神経突起伸長を可能にする。したがって、本発明者らは有益なことに、BDNF非依存的な本発明の効果を示している。好ましくは、本発明の方法においてBDNFは用いられない。好ましくは、BDNFは本発明の方法から特に除去される。好ましくは、本発明の組成物はBDNFを含まない。
【0036】
定義
「含む(comprises、comprise、comprising)」なる用語は、当技術分野におけるその通常の意味、すなわち、述べられている特徴又は特徴のグループが含まれるが、何らかの他の述べられている特徴又は特徴のグループもまた存在することをその用語は排除しない、という意味を有すると理解されるべきである。
【0037】
Nogo受容体
広い意味で、「Nogo受容体」は神経突起伸長のNogo依存性阻害を媒介するあらゆるタンパク質を指していてもよく、膜に局在するという古典的な意味での受容体(NgR)のみを特に指す必要はなく、Nogoシグナリングを媒介するあらゆるNogo結合タンパク質を指していてもよく、かかるNogoシグナリングとは例えばNgRファミリーメンバー以外のタンパク質を介するものである。実際のところ、正常ニューロンでの本発明者らの結果は、CK2処理がかかるNgR非依存性NogoシグナリングをNgR依存性シグナリングと同じくらい遮断し得ることを示す。しかしながら好ましくは、「Nogo受容体」なる用語は本明細書において、当技術分野におけるその従来の意味でないことが文脈により示されない限り、その意味を与えられてもよい。
【0038】
NgR1並びにその相同タンパク質であるNgR2及びNgR3は、8つのロイシンリッチリピート領域を有し、細胞内ドメインを有さないグリコシルホスファチジルイノシトール(glycosylphosphatidylinositol、GPI)結合タンパク質ファミリーに属する。NgR1はNogo−A、MAG及びOMgpと相互作用し得る一方で、NgR2はMAGのみとシアル酸依存的な形で相互作用する。この相互作用も神経突起伸長を阻害し得る。NgR3のリガンドは知られていない。
【0039】
NgR1はLINGO−1及びニューロトロフィン受容体p75NTRを含む複合体を作り出す。或いは、p75NTRの代わりに、広くニューロンに発現するオーファン腫瘍壊死因子受容体ファミリーメンバーであるTAJ/TROYがこの複合体に含まれる。NgR1について見られるように、NgR2がLINGO−1、p75NTR又はTAJ/TROYを有する複合体を作り出し得るかどうかは知られていない。
【0040】
したがって、Nogoシグナリングは乏突起膠細胞において少なくとも3つのリガンドにより開始され得るのであり、少なくとも2つの受容体を介してニューロン内へとシグナルを伝達し得る。Nogoシグナリングにおける特定のリガンド−受容体システムの神経突起伸長阻害への相対的貢献度は、様々な神経細胞タイプによって変化し得る。
【0041】
本発明は細胞表面上に存在するNogo受容体に関する。実際のところ、標的細胞の細胞表面上のNogo受容体のリン酸化を誘導するために外因性物質が用いられるということは、本発明が特に教示するところである。したがって、本明細書において用いられる「Nogo受容体」なる用語は、好ましくは、標的細胞の細胞表面に存在するNogo受容体タンパク質を指す。好ましくは、標的細胞は脊椎動物標的細胞、より好ましくは哺乳動物標的細胞、最も好ましくはヒト標的細胞である。いくつかの実施形態において、標的細胞は最も好ましくは、治療されるべき対象に含まれるヒト細胞、例えば成人ヒトニューロン等のヒトニューロン等である。
【0042】
広い態様の1つにおいて、「Nogo受容体」なる用語はNgR1、NgR2又はNgR3等の公知のNogo受容体のいずれのポリペプチドを指していてもよい。さらに、Nogo受容体を標的にする際に、2以上のタイプのNogo受容体がリン酸化されるということであってもよい。このことは、選択された特定の標的細胞上に期せずして発現する特定のNogo受容体タイプに依存しない神経突起伸長阻害の軽減等の利点を本発明にもたらし得る。さらに、多数のNogo受容体タンパク質を標的にすることにより、より強力な効果及び/又はより迅速な効果が達成されるということであってもよい。
【0043】
公知のNogo受容体のそれぞれがアミノ酸残基番号281に保存されたセリンを有することに注目することは重要である。したがって、本発明のNogo受容体変異体への言及はあらゆる公知のNgRポリペプチドを同等に包含し得る。もちろんそれは、かかるポリペプチドが議論されている特定の変異又は置換を有する限りにおいてである。
【0044】
好ましくは、本発明のNogo受容体は1又は2以上のNgR1、NgR2又はNgR3である。より好ましくは、本発明のNogo受容体は1又は2以上のNgR1又はNgR2である。このことの利点は、これらNogo受容体がより良く特徴付けられており、したがって、インビボでより特異的又は限定的な効果を生み出すのに適しているということである。最も好ましくは、本発明のNogo受容体はNgR1である。このことには数多くの利点があり、そのうちのいくつかについては実施例で述べる。
【0045】
本発明は主に哺乳動物等の脊椎動物への適用に関する。したがって好ましくは、本発明のNogo受容体は哺乳動物Nogo受容体等の脊椎動物Nogo受容体である。最も好ましくは、本発明のNogo受容体はヒトNogo受容体である。ヒトNogo受容体はヒトNogo受容体アミノ酸配列に対応するポリペプチド配列を有する。当然ながら、本発明のNogo受容体ポリペプチドは非ヒト宿主細胞からの組換え体作製等のあらゆる適切な手段により作製されてよい。しかしながら、理解を容易にするため、非ヒト細胞から作製されるNogo受容体ポリペプチドは、もしそのアミノ酸配列がヒトアミノ酸配列に対応するのであれば、ヒトNogo受容体とみなされる。
【0046】
Nogo受容体変異体が本明細書において開示され、議論される。上述の議論から、かかる変異体がNgR1、NgR2、NgR3等の数多くの個別のNogo受容体サブタイプのうちの1つを含んでいてもよいと認められるであろう。理解を容易にするため、特定のアミノ酸又は特定の変異は、Nogo受容体参照配列に沿って議論される。
【0047】
参照配列
当技術分野において従来なされているように、ポリペプチド上の番号アドレスを用いて特定のアミノ酸残基について議論することが認められるであろう。番号アドレスを用いて特定のアミノ酸残基に言及する際には、ヒトNgR1のアミノ酸配列を参照配列として用いて番号振りをしている。最も好ましくは、Nogo受容体参照配列は以下のNM023004のヒトNgR1アミノ酸配列である:
MKRASAGGSRLLAWVLWLQAWQVAAPCPGACVCYNEPKVTTSCPQQGLQAVPVGIPAASQRIFLHGNRISHVPAASFRACRNLTILWLHSNVLARIDAAAFTGLALLEQLDLSDNAQLRSVDPATFHGLGRLHTLHLDRCGLQELGPGLFRGLAALQYLYLQDNALQALPDDTFRDLGNLTHLFLHGNRISSVPERAFRGLHSLDRLLLHQNRVAHVHPHAFRDLGRLMTLYLFANNLSALPTEALAPLRALQYLRLNDNPWVCDCRARPLWAWLQKFRGSSSEVPCSLPQRLAGRDLKRLAANDLQGCAVATGPYHPIWTGRATDEEPLGLPKCCQPDAADKASVLEPGRPASAGNALKGRVPPGDSPPGNGSGPRHINDSPFGTLPGSAEPPLTAVRPEGSEPPGFPTSGPRRRPGCSRKNRTRSHCRLGQAGSGGGGTGDSEGSGALPSLTCSLTPLGLALVLWTVLGPC
【0048】
この配列が、当技術分野において十分理解されているように、当該の残基の位置を特定するのに用いられるべきである。このことは厳密な数え上げ作業ということには必ずしもならない――文脈に注意が払われなければならない。例えば、もしヒトEHD2等の当該のタンパク質が若干異なる長さを有しているなら、ヒト配列における(例えば)S281に対応する正しい残基の位置の特定には、当該の配列の281番目の残基を単純に拾い上げるのではなく、配列を比較すること並びに等価な残基又は対応する残基を選択することが必要となり得る。このことは当業者である読者の能力の範囲内に十分収まる。典型的な配列比較を添付の図に示す。
【0049】
本発明が主にNgR1への言及により例証されることは当業者である読者にとって明らかであろう。NgR1が他のNgRファミリーポリペプチドと高い配列相同性を示すことに注目すべきである。したがって、いくつかの態様において、本発明は他のNgRファミリータンパク質への適用のための治療法の開発におけるNgR1の使用に関する。
【0050】
本発明のいくつかの態様において、特定のポリペプチドがNgRファミリーポリペプチドとみなされるべきかどうかについての機能検査を用いることが望ましくあり得る。配列に基づく前述の基準に加えて、或いはその代わりに、以下の機能的基準を用いてもよい:本明細書に記載のリガンド等のリガンドへの結合。さらに、実施例に記載のRAで処理したSH−SY5Y細胞における過剰発現等により、神経突起伸長アッセイにおいて機能する能力もまた基準として用いられてよい。したがって、特定のポリペプチドが実際にNgRファミリーポリペプチドとみなされるべきかどうかを決定するために、そのポリペプチドが神経突起伸長アッセイにおいて機能するかどうかが検査されてもよい。もしそのNgRタンパク質がこの文脈においてNogoシグナリングを支持するのであれば、そのポリペプチドはNogo受容体(NgRファミリーポリペプチド)とみなされてよい。もちろん本発明の目的は神経突起伸長阻害を軽減することであり、このことはNgRタンパク質を評価する際に銘記されなければならない――本発明に従ってキナーゼ処理されていない場合には特に、このアッセイにおいて神経突起伸長を阻害するのは野生型タンパク質である。
【0051】
本発明のNogo受容体変異体
本発明は、セリン281がセリン以外のあらゆる他のアミノ酸に置換されることにより特徴付けられるNogo受容体ポリペプチドに関する。好ましくは、S281は非リン酸アクセプター(non-phosphoacceptor)アミノ酸に置換され、結果として好ましくは、S281はS、T、又はYでない。
【0052】
好ましくは、本発明はS281Aを有するNogoRを提供する。これは、この部位でリン酸化できないという利点を有する。このことは、この受容体がCKII/PKAによるリガンド結合阻害に耐性があるという生物学的特性を有することを意味する。言い換えれば、かかる変異体はCKII/PKAの存在下でもNogoリガンドに応答してシグナリングを行うという新規機能を有する。
【0053】
好ましくは、本発明はS281Dを有するNogoRを提供する。これはS281でのリン酸化を模するという利点を有する。これは、この受容体が持続的にスイッチを「オフ」されるという生物学的特性を有し、結果としてこの受容体を用いて神経突起伸長阻害が持続的に軽減されることを意味する。より具体的には、この受容体はNogoリガンドと結合しない。言い換えれば、かかる変異体はCKII/PKAの存在にかかわらずNogoリガンドに応答して結合する(又はシグナリングを行う)ことがないという新規機能を有する。
【0054】
好ましくは、本発明のNogo受容体ポリペプチド(NogoR’s)は、例えばS281に対応する残基等の指示された箇所以外、NM023004の配列を含む。
【0055】
本発明はまた、NM023004に対して少なくとも60%の同一性、好ましくは、NM023004に対して少なくとも70%の同一性、好ましくは、NM023004に対して少なくとも75%の同一性、好ましくは、NM023004に対して少なくとも80%の同一性、好ましくは、NM023004に対して少なくとも85%の同一性、好ましくは、NM023004に対して少なくとも90%の同一性、好ましくは、NM023004に対して少なくとも95%の同一性、好ましくは、NM023004に対して少なくとも97%の同一性、好ましくは、NM023004に対して少なくとも98%の同一性、好ましくは、NM023004に対して少なくとも99%の同一性を有し、残基S281がセリン以外であるという特徴を常に有するNogoR’sに関する。
【0056】
切断型は好ましくは、かかる切断型の全長にわたってこの配列に対応する。好ましくは、本発明のNogoRポリペプチドは少なくとも30のアミノ酸、好ましくは、少なくとも80のアミノ酸、好ましくは、少なくとも130のアミノ酸、好ましくは、少なくとも180のアミノ酸、好ましくは、少なくとも230のアミノ酸、好ましくは、少なくとも280のアミノ酸、好ましくは、少なくとも330のアミノ酸、好ましくは、少なくとも380のアミノ酸、好ましくは、少なくとも382のアミノ酸(例えば全長NgR2)、好ましくは、少なくとも402のアミノ酸(例えば全長NgR3)、好ましくは、少なくとも417のアミノ酸(例えばNgR1)を含む。
【0057】
ポリペプチド及び変異体
Nogo受容体配列は本発明における使用のために修飾されてもよい。典型的には、セリン281(又は前記アドレスにおける置換残基)を含む配列領域を維持する修飾がなされる。修飾配列が必要なS281残基を維持するという条件で、アミノ酸置換、例えば1、2又は3から10、20又は30までの置換がなされてもよい。アミノ酸置換は、例えば治療上投与されるポリペプチドの半減期を伸ばすための、非自然的に生み出されたアナログの使用を含んでいてもよい。同じことが本発明のPKA又はCKIIポリペプチドについても適用され、この場合、どのような変異体又は置換が導入された後であってもPKA/CKIIキナーゼ活性が維持されることが常に必要である。
【0058】
同類置換がなされてもよく、例えば下の表に記載の同類置換がなされる。第2カラムの同じ区画、好ましくは第3カラムの同じ行のアミノ酸は相互に置換されてよい:
【0059】
【表1】

【0060】
本発明のタンパク質は典型的には組換えという手段、例えば下に記載の手段により作製される。しかしながら、固相合成等の当業者に良く知られている技術を用いる合成手段により作製されてもよい。本発明のタンパク質は、例えば抽出及び精製を補助するため、融合タンパク質として作製されてもよい。融合タンパク質パートナーの例には、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(glutathione-S-transferase、GST)、6xHis、GAL4(DNA結合及び/又は転写活性化ドメイン)及びβ−ガラクトシダーゼが含まれる。融合タンパク質配列の除去を可能にするため、融合タンパク質パートナーと当該のタンパク質配列との間のタンパク質分解切断部位を含むことも便利であるだろう。
【0061】
本発明のタンパク質は実質的に単離された形であってもよい。このタンパク質は、その意図された目的を妨げない担体又は希釈剤と混合されてもよく、それでも依然として実質的に単離されたものとみなされることが理解されるだろう。本発明のタンパク質は実質的に精製された形であってもよく、この場合、それは概して調製物中にこのタンパク質を含み、調製物中のタンパク質の90%超、例えば95%、98%又は99%が本発明のタンパク質である。
【0062】
本発明の適用
本発明がNogoシグナリングを阻害する新規方法に関することは、当業者である読者に注目されるだろう。この新規方法はNogo受容体のリン酸化を伴う。本明細書において開示される技術はまた、Nogo受容体変異体を伴う。明らかに、これらの若干異なる技術的バリエーションのそれぞれがNogoシグナリングの阻害に関する同じ共通の発明の一部である。便宜のため及び理解を容易にするため、本発明は主に神経突起伸長阻害を軽減すること又は減少させることに関して記述された。これは脊髄損傷等の分野において特にその適用を見出す。しかしながら、本発明のより広い態様はニューロンの移動又は分化等のニューロンの他の特性の操作を伴っていてもよい。実際のところ、原則としてNogoシグナリングにより制御される、或いはそれに影響を受けるあらゆるプロセス(神経突起伸長阻害等、ニューロンの移動等、又はNogoシグナリングに影響を受けるあらゆる他の生物学的現象等)が、Nogo受容体のリン酸化等の本明細書に開示の技術を用いて調節又は制御されてよい。
【0063】
理論に束縛されることは望まないが、神経突起伸長の精確な生体力学は依然として積極的な研究の主題である。本明細書において開示されるNogoシグナリング技術は、シグナル制御に影響を与えるという意味で神経突起伸長制御に影響を与えるということであってもよく、或いはかかる技術が、神経突起伸長効果を生み出すことに密接に関与し得る、線維形成に関与するタンパク質等の神経突起伸長機構に影響を与えるということであってもよい。本発明自体は神経突起伸長の精確な生体力学に関するものではない。Nogo受容体のリン酸化状態の操作が、或いは実際のところ、本明細書に開示される特定のNogo受容体変異体の使用が、神経突起伸長調節において有用であるということは、本発明の重要な教示である。この教示並びに本発明が実施される方法は、典型的には、物理的な神経突起伸長自体が生じる際の精確な分子機序に依存しない。
【0064】
本発明の重要な適用の1つは、脊髄損傷治療におけるものである。特に、本発明は脊髄損傷後の再生促進においてその適用を見出す。具体的には、もし本発明がNogo受容体を介するシグナリングにより引き起こされる神経突起伸長の阻害を軽減するか、或いは減少させるならば、本発明は有用である。Nogo受容体を介するシグナリングを抑制する、或いは減衰させることにより、有用なことに神経突起伸長阻害が減退した。このことは有益なことに神経突起伸長を可能にし、したがって神経再生を可能にする条件を提供する。
【0065】
本明細書において提示される数多くの実施例は、本発明の組成物の適用のための対象へのカニューレ挿入を伴う。治療されている対象がヒトである際には、カニューレ挿入が有益なことに回避されることに注目すべきである。カニューレ挿入ではなく、本発明組成物の局所注射又は連続注射が好ましくは用いられるであろう。
【0066】
インビボ適用は実施例において実証される。全体として、本発明は概して以下のように適用可能である:
・ng〜μgのCK2等のキナーゼを、任意で100μM ATPと共に、損傷後に、例えば脊髄損傷後に付加する。
【0067】
実験系の1つにおいて、脊髄に損傷をもたらし、損傷部位にカニューレを挿入してもよい。このカニューレを介して、CK2等のキナーゼがこの部位に適用されてもよい。
【0068】
CK2等のキナーゼをカニューレ挿入なしに、注射で適用することも可能である。このことはヒト対象に関して好ましい。しかしながら実験系に関しては、カニューレ挿入がCK2等のキナーゼを折に触れて付加することを容易にする。
【0069】
その後、神経突起成長が観察されるかどうかが、例えば組織切片の免疫蛍光法を用いて検査されてもよい。
【0070】
成長観察後、機能回復を評価するために、行動試験が実施されてもよい。
【0071】
好ましくは、CK2のみを用いてもよく、或いはCK2を、また別のCNS再生阻害因子であるコンドロイチン硫酸を消化し得るコンドロイチナーゼABCと組み合わせて用いてもよい。
【0072】
好ましくは、PKAを用いてもよく、或いはPKAをコンドロイチナーゼABCと組み合わせて用いてもよい。
【0073】
好ましくは、本発明の方法はインビトロでの方法であってもよい。
【0074】
好ましくは、本発明の方法はインビボでの方法、例えばヒト対象等の対象の治療における方法であってもよい。
【0075】
Nogo受容体のリン酸化
本発明の実際的な適用又は実施形態の大部分が、Nogo受容体のリン酸化の誘導を介して、Nogo受容体シグナリングに影響を及ぼすと想定されている。Nogo受容体変異体を伴う本発明の実施形態が本明細書において下で議論される。しかしながら、Nogo受容体のリン酸化の検討について言えば、本発明者らは驚くべきことに、本発明の有益な効果を媒介するNogo受容体内の特定の部位を同定した。この部位はNogo受容体のセリン281である。
【0076】
本発明者らは、セリン281及びその周囲のアミノ酸残基の研究に注意を向けた。添付の実施例において提示される配列分析並びに直接実験を含む様々な実験技術が、この驚くべき発見を確証するために用いられた。
【0077】
本発明者らにより開示される重要な洞察の1つは、Nogo受容体のセリン281が本発明のための標的として至上の重要性を有するということである。さらに本発明者らは、Nogo受容体のセリン281が標的にされ、且つリン酸化され得る多くの方法を開示した。これを達成する最も適切な方法のうち2つは、Nogo受容体のセリン281を直接的にリン酸化するためのプロテインキナーゼA及び/又はカゼインキナーゼIIの使用である。したがって、プロテインキナーゼA及びカゼインキナーゼIIは互いに必ずしも物理的関連がないにもかかわらず、本発明の文脈でそれらは、本発明を実施可能な複数の代替的方法からなる単一のまとまった技術的グループを形成する。言い換えれば、カゼインキナーゼII及びプロテインキナーゼAは同じ単一の発明を実施する2つの同等に妥当な方法を示す。したがって、添付の請求項におけるこれら2つの構造的に別個の代替案の存在は、単一の発明概念と完全に整合的である。さらに、これら2つの酵素は本発明の文脈で同じ技術的利益、すなわち、Nogo受容体のセリン281のリン酸化を触媒するという技術的利益を共有する。少なくともこれらの理由から、この適用は明らかに単一の発明概念に関するものとみなされ得る。理解を助け、当業者である読者が本発明の実施において困難のないことを保証するために、本発明の技術的利益を達成する多様な方法が記載される。
【0078】
セリン281
前述の通り、本発明が実施され得る異なる技術的方法が、実際にはそれぞれ同じ技術的効果、すなわち、Nogo受容体のセリン281のリン酸化を生み出すことに関するということは、核となる発明概念の重要な一部である。研究の過程で本発明者らは、この残基がCK2及びPKAの両方について予測されるリン酸アクセプター部位の一部であることを見出した。さらに、この重要な発見は、CK2及びPKAの両方がこの重要な残基のリン酸化を触媒し、且つ、それゆえ神経突起伸長の阻害の軽減を生み出すという、これら両方のことを実証する実験研究により裏付けられた。
【0079】
カゼインキナーゼII
好ましくは、カゼインキナーゼIIは脊椎動物カゼインキナーゼII、より好ましくは、哺乳動物カゼインキナーゼIIである。より好ましくは、カゼインキナーゼIIはヒトカゼインキナーゼIIである。
【0080】
カゼインキナーゼIIは最も一般的には、ヘテロ4量体として生じる。このヘテロ4量体は典型的には、2つのアルファポリペプチドからなる触媒サブユニット及び2つのベータポリペプチドからなる調節サブユニットを含む。かかる複合体は典型的には、キナーゼ活性を有するという意味で恒常的に活性を有する。さらに、これら触媒サブユニットそれ自体(すなわち、2つのアルファポリペプチドのホモ2量体)で、調節サブユニットの非存在下でも触媒活性を有する。
【0081】
したがって、CK2のヘテロ4量体型又はCK2のホモ2量体型が本発明において適用されてよく、具体的にはそれらはアルファ−ベータヘテロ4量体CK2又はアルファ−ホモ2量体CK2であってよい。
【0082】
最も好ましくは、CK2は、New England Bio Labs社等から入手した市販の調製物の形で用いられる。これは好ましくは、CK2のホロ酵素型である。
【0083】
最も好ましくは、使用されるCK2は2つのポリペプチド鎖からなり、それぞれのポリペプチド鎖は例えば以下のようなヒトCK2アルファサブユニットの配列を有する:遺伝子名;CSNK2A1、受入番号NM001895.3、NM177559.2、NM177560.2(3つのサブタイプ) 遺伝子名;CSNK2A2、受入番号NM001896.2。
【0084】
CSNK2A1に関して、NM001895及びNM177559は異なる5’非コード領域を有するにもかかわらず、同じタンパク質を生み出し得る。NM177560はより短いN末端領域を有する。アイソフォームbをコードする。最も好ましくは、NM001895及びNM177559のタンパク質配列が用いられ、それは以下のアイソフォームaである:
MSGPVPSRARVYTDVNTHRPREYWDYESHVVEWGNQDDYQLVRKLGRGKYSEVFEAINITNNEKVVVKILKPVKKKKIKREIKILENLRGGPNIITLADIVKDPVSRTPALVFEHVNNTDFKQLYQTLTDYDIRFYMYEILKALDYCHSMGIMHRDVKPHNVMIDHEHRKLRLIDWGLAEFYHPGQEYNVRVASRYFKGPELLVDYQMYDYSLDMWSLGCMLASMIFRKEPFFHGHDNYDQLVRIAKVLGTEDLYDYIDKYNIELDPRFNDILGRHSRKRWERFVHSENQHLVSPEALDFLDKLLRYDHQSRLTAREAMEHPYFYTVVKDQARMGSSSMPGGSTPVSSANMMSGISSVPTPSPLGPLAGSPVIAAANPLGMPVPAAAGAQQ
【0085】
CSNK2A2に関して、最も好ましくは、以下の配列が用いられる:
MPGPAAGSRARVYAEVNSLRSREYWDYEAHVPSWGNQDDYQLVRKLGRGKYSEVFEAINITNNERVVVKILKPVKKKKIKREVKILENLRGGTNIIKLIDTVKDPVSKTPALVFEYINNTDFKQLYQILTDFDIRFYMYELLKALDYCHSKGIMHRDVKPHNVMIDHQQKKLRLIDWGLAEFYHPAQEYNVRVASRYFKGPELLVDYQMYDYSLDMWSLGCMLASMIFRREPFFHGQDNYDQLVRIAKVLGTEELYGYLKKYHIDLDPHFNDILGQHSRKRWENFIHSENRHLVSPEALDLLDKLLRYDHQQRLTAKEAMEHPYFYPVVKEQSQPCADNAVLSSGLTAAR
【0086】
プロテインキナーゼA
好ましくは、プロテインキナーゼAは脊椎動物プロテインキナーゼA、より好ましくは、哺乳動物プロテインキナーゼAである。より好ましくは、プロテインキナーゼAはヒトプロテインキナーゼAである。
【0087】
使用されるプロテインキナーゼAは2つのアルファサブユニット及び2つのベータサブユニットからなっていてもよい。ベータサブユニットホモ2量体は阻害ドメインであり、cAMPがアルファホモ2量体からのベータホモ2量体の解離に必要である。
【0088】
より好ましくは、使用されるプロテインキナーゼAはヒトPKAアルファサブユニットの配列を有する2つのアルファポリペプチド鎖からなる(すなわちPKAアルファサブユニットホモ2量体):遺伝子名PRKACA、受入番号NM002730.3、NM207518.1(2つのサブタイプ)。これは、ベータサブユニット(PKAアルファ−ベータヘテロ4量体を活性化させるためにcAMPを必要とする)の使用を回避するという利点を有し、したがって、cAMPの使用を回避するというさらなる利点を有する。PRKACAに関して、NM002730は遍在的に発現するアイソフォーム1をコードする。NM207518は精子形成細胞特異的PKA、アイソフォーム2をコードする。最も好ましくは、アイソフォーム1配列は例えば以下のものが用いられる:
MGNAAAAKKGSEQESVKEFLAKAKEDFLKKWESPAQNTAHLDQFERIKTLGTGSFGRVMLVKHKETGNHYAMKILDKQKVVKLKQIEHTLNEKRILQAVNFPFLVKLEFSFKDNSNLYMVMEYVPGGEMFSHLRRIGRFSEPHARFYAAQIVLTFEYLHSLDLIYRDLKPENLLIDQQGYIQVTDFGFAKRVKGRTWTLCGTPEYLAPEIILSKGYNKAVDWWALGVLIYEMAAGYPPFFADQPIQIYEKIVSGKVRFPSHFSSDLKDLLRNLLQVDLTKRFGNLKNGVNDIKNHKWFATTDWIAIYQRKVEAPFIPKFKGPGDTSNFDDYEEEEIRVSINEKCGKEFSEF
【0089】
高い特異的活性を有するPKAをNew England Biolabs社から入手可能である。
【0090】
好ましくは、アルファ−ホモ2量体PKAが用いられる。
【0091】
理論に縛られることは望まないが、プロテインキナーゼAは神経突起伸長における生理学的役割を有さないようである。言い換えれば、インビボの自然発生的な生体系においては、PKAはNogo受容体と接触しないかもしれず、且つ/或いは、それをリン酸化しないかもしれないということもあり得る。しかしながら、PKAが実際にはこの重要なリン酸化現象を触媒することが、本明細書において明白に実証される。これら理由から、PKAを用いた治療はいかなる自然な生物学的プロセスの障害をも回避する点において、さらなる利点を提供するということもあり得る。
【0092】
セリン281を標的とするために用いられ得る酵素の比較から、理論に縛られることは望まないが、CK2はNogo受容体の「自然な」リン酸化のためのより可能性のある生物学的候補のようである。こうした理由から、本発明の治療のためにCK2を用いることがPKA等の他の可能な酵素の使用に対してさらなる利点を提供するかもしれないということもあり得る。なぜなら、最も自然的又は生物学的である可能性の高いキナーゼ−基質ペアリングの使用により達成される、より高い生物学的忠実度又は特異性が存在するかもしれないからである。そうでなくとも、本発明者らにより実証されるように、CK2はNogo受容体のセリン281のリン酸化をもたらすための有効な触媒である。
【0093】
本明細書に記載の当該の特定のキナーゼのサブユニットが、本発明において同等に適用されてもよいことに注目すべきである。サブユニットは典型的にはインビボで活性酵素を構成するタンパク質の集合のサブセットであってもよく、或いは、サブユニットが当該のキナーゼのポリペプチドのうちの1つの断片又は切断型を指していてもよい。特に、当該の酵素の触媒サブユニットのみを用いることは有益であろう。これは、一層の活性を有する型の酵素等の利点を提供してもよく、且つ/或いは、より大きな分子又は複合体を用いることから生じるかもしれない免疫原性又は他の合併症を回避してもよい。実際のところ、偶然に切断された、或いは変異したポリペプチドの使用は、本発明の範囲内であると意図される。変異は例えば、活性を高めるため、或いは用いられている酵素の公知の補因子への非依存性を提供するために生み出されてもよい。もし当業者である読者が当該の酵素の特定の断片又は切断型が本発明の範囲内に収まるかどうかを決定することを望むのであれば、使用される酵素がその機能的触媒性活性を維持することは重要である。より具体的には、Nogo受容体の残基281等におけるように、Nogo受容体内へのホスフェートの組込みを触媒できる場合にのみ、本発明において使用されるキナーゼは関心の対象となる。このことは例えば、リン酸化を可能にする条件下で当該のキナーゼ又は断片をNogo受容体と組み合わせること、並びに、その後リン酸化実際に生じたかどうかを決定するためにNogo受容体をアッセイすることにより、容易に試験され得る。さらに、当該のキナーゼの活性は例えば、それを細胞に適用すること、並びに、それによる神経突起伸長阻害の軽減を試験することにより、機能的に評価されてもよい。明らかに、こうした神経突起伸長阻害の機能的軽減を生み出すことのできる酵素又は断片のみが、本発明において関心の対象となるか、或いは適用される。この機能性アッセイが実施され得る典型的な方法は、実施例において提示される。
【0094】
したがって文脈が別様に示唆しない限り、「プロテインキナーゼA」又は「カゼインキナーゼII」等の本発明における当該のキナーゼへの言及は、それらキナーゼのサブユニット、断片、変異体又は切断型が、上で説明したNogo受容体のためのキナーゼ触媒活性を、最も好ましくは神経突起伸長阻害の軽減のための機能性アッセイにおいて保持するという条件で、常にそれらのあらゆるサブユニット、断片、変異体又は切断を含むものと理解されるべきである。
【0095】
好ましくは、本発明において用いられるプロテインキナーゼA又はカゼインキナーゼIIは、全長ポリペプチドを含む。より好ましくは、本発明において用いられるプロテインキナーゼA又はカゼインキナーゼIIは、ヒト野生型酵素に対応するポリペプチドを含む。最も好ましくは、本発明において用いられるプロテインキナーゼA又はカゼインキナーゼIIは、実施例において開示されるものである。
【0096】
好ましくは、本発明において用いられるプロテインキナーゼA又はカゼインキナーゼIIは、E−coli発現組換えタンパク質を含む。
【0097】
好ましくは、本発明において用いられるプロテインキナーゼA又はカゼインキナーゼIIは外因性、すなわち、投与部位に位置する細胞において生成しないが、本発明の組成物等において、外部から或いは外因的に提供される。
【0098】
組成物
本発明の組成物は、NogoRセリン281のリン酸化を引き起こすことのできる酵素等の1又は2以上の触媒を含む。好ましくは、かかる酵素はPKAである。好ましくは、かかる酵素はCKIIである。
【0099】
本発明の組成物はPKA及びCKIIを含んでいてもよい。
【0100】
CK2は好ましくは、500〜1200U/ml CK2終末濃度で、或いは、もし組成物が例えば貯蔵のために乾燥/凍結乾燥又は濃縮されたならば、それと等価な量で存在する。
【0101】
実施形態の1つにおいて、本発明は10〜100μM ATP、5〜0.5μg CK2、1〜10mM MgCl2又はMg−アセテート及び10〜50mM KCl又はK−アセテートを含む組成物を提供する。
【0102】
用いられる酵素がCK2アルファサブユニットホモ2量体である際には、;Kイオンは任意である(実際にはKイオンは不要である);したがって好ましくは、酵素としてCK2アルファサブユニットホモ2量体のみを含む組成物は、さらなる成分としてMg及びATPのみを含む。
【0103】
CK2アルファ及びベータヘテロ4量体を用いることには、ベータサブユニットがCK2リン酸化の基質特異性を高め、Kイオンがベータサブユニットのこの効果を促進するという利点がある。したがって、酵素としてCK2アルファ及びベータヘテロ4量体を用いる際には、好ましくは、この利点を得るためにKイオンが含まれる。
【0104】
実施形態の1つにおいて、本発明は10〜100μM ATP、5〜0.05μg PKA及び1〜10mM MgCl2又はMg−アセテートを含む組成物を提供する。
【0105】
本発明のポリペプチドは、好ましくは、本発明の組成物を作製するために様々な成分と組み合わされてもよい。好ましくは、組成物は医薬組成物(これはヒト又は動物における使用のためのものであってもよい)を作製するための薬学的に許容可能な担体又は希釈剤と組み合わされる。適切な担体及び希釈剤は等張食塩水液、例えばリン酸緩衝食塩水を含む。
【0106】
本発明の組成物は直接注射により投与されてもよい。
【0107】
組成物は脊髄等の神経組織の部位への投与のために処方されてもよく、したがって脳脊髄液又は他のかかる組織と適合するよう処方されてもよい。
【0108】
典型的には、それぞれのタンパク質は特定のmg/kg体重量ではなく、特定の有効投与量で投与されてもよい。投与のための典型的な活性レベルは実施例において示す。例を挙げれば、体積に関して言えば、マウスでは典型的には本発明者らはCNSに約2μlを注射する。したがってヒトでは、本発明者らは典型的には50〜200μlのキナーゼ+ATP溶液を注射する。有効成分の用量は、本明細書において議論される通りである。
【0109】
処方/投与
好ましくは、CKII及び/又はPKA等の本発明の組成物を送達するために注射が用いられる。
【0110】
本発明の組成物(例えば、キナーゼ、ATP及び/又はイオンを含む)は、例えば脊髄除圧手術中に、局所的に投与されてもよい。
【0111】
もし手術が不要であるなら、注射が投与のための代替的方法として用いられてもよい。
【0112】
手術後、本発明の組成物は定期的な注射により有効な期間、例えば1ヶ月まで等の期間、或いは3ヶ月まで等のさらに長い期間にわたって投与され得る。
【0113】
マトリゲル(BD Bioscience社製)等の基質が、試薬を投与される領域に保つため、有益なことに用いられてもよい。投与量/放出期間を制御するために、基質の代わりにあらゆる持続放出物質及び/又は装置が用いられ得る。
【0114】
ATP
一部のニューロンはATPを分泌し得るので、ATPは本発明の組成物の本質的な要素でなくともよい。インビトロ条件下で本発明者らは、培養基がATPを含むがゆえにATPを付加せずに、CK2等の外因性キナーゼの効果を実証した。
【0115】
好ましくは、本発明の組成物はATPを含む。これはNogo受容体のリン酸化の促進を助けるATPを供給するという利点を有する。
【0116】
好ましくは、組成物はCK2又はPKAを含む組成物について、0.1〜1mM ATPを含む。
【0117】
マグネシウム
好ましくは、組成物は5mM Mg2+イオン源を含む。
【0118】
Mg2+イオンはMgCl2又は(CH3COO)Mg2)等のMgAc(マグネシウムアセテート)として提供されてもよい。
【0119】
カリウム
本発明の組成物がCK2を含む際には、好ましくは、前記組成物はさらにカリウムイオンを含む。カリウムイオンは典型的にはPKAを含む組成物には不要であるが、例えばPKAを含む組成物がCKIIをも含む際には、任意で含まれてもよい。
【0120】
カリウムイオンは好ましくは、KCl又はカリウムアセテート(CH3COOK)等の25〜50mM Kイオンとして提供される。
【0121】
KCl等のカリウムイオンは本質的に重要ではないが、有益なことに、アルファ−ベータヘテロ4量体CK2のキナーゼ活性に対する促進効果を有する。
【0122】
cAMP
サイクリックAMP(cAMP)が、特に本発明の組成物がPKAを含む際に、前記組成物に任意で含まれてもよい。具体的には、PKAのアルファ型のみが用いられる際にはcAMPは任意である。しかしながら、PKAのベータ型が用いられる際には、cAMPは本発明の組成物に含まれることが望ましく、PKA活性を高める/可能にするという利点を有する。
【0123】
cAMPは好ましくは、ジブチリルcAMP又は通常のcAMPとして提供される。どちらの化合物もSigma Inc.社又はMerck Inc.社等を介して、市販で入手可能である。ジブチリルcAMPの使用は、細胞透過性であるという利点を有する。さらに、通常のcAMPは細胞膜(plasma membranes)に浸透しない。本発明の組成物は好ましくは細胞外で適用されるので、好ましくは通常のcAMPが本発明のcAMPとして用いられる。なぜならこれは、細胞内シグナリングに対するあらゆる副作用を最少化する又は除去するという利点を提供し、付加されるcAMPを細胞外の環境に限局し、そのことによりそれが本発明の組成物の酵素と共に局在し続けるのに役立つという利点を提供するからである。
【0124】
利点
Nogo受容体のリン酸化がNogoシグナリングを抑制し、神経突起再生を可能にすることは本発明の利点である。
【0125】
Nogo受容体のリン酸化がこれら受容体のアゴニストの結合を遮断することは本発明の利点である 。
【0126】
本発明は、脊髄損傷に特にその適用を見出す。
【0127】
Nogo受容体が標的とされることは本発明の利点である。これは、リガンド非依存性な仕方で作用する方法及び組成物を提供するという利点を有する。
【0128】
組合せ
本発明をコンドロイチンシグナリングの阻害と組み合わせることが有益であり得る。これを達成する方法の1つとして、コンドロイチナーゼABC等のコンドロイチナーゼが、神経突起伸長を可能にする条件を促進するために適用され得る。コンドロイチナーゼがNogo経路と別個の経路を標的とすることは利点である。したがって、神経突起伸長の促進のための二重標的アプローチを提供するためにコンドロイチナーゼを本発明の治療又は組成物と組み合わせることは有益である。
【0129】
本発明を、Nogo経路を標的とするまた別の方法と組み合わせることが有益であり得る。例えば、本発明を抗Nogo受容体抗体又はNogo受容体のリガンドに対する抗体の適用と組み合わせることが有益であり得る。シグナリング経路における同じ箇所を標的とするために複数の介入手段が用いられていることは、これら実施形態の利点である。したがって、望まれない副作用又は他の経路内への交差シグナリング(crossover signalling)の可能性は、有益なことに回避される。
【0130】
本発明を抗LINGO抗体と組み合わせることもまた有益であり得る。典型的な抗LINGO抗体はBiogen Inc社により提供されるものであるだろう。かかる組合せは異なる物理的分子を標的とするが、依然として同じシグナリング複合体全体内にあるという利点を有する。したがって、このような組合せは、シグナリング忠実度という利点、すなわち、単一の経路のみを標的とするという利点を、複数の異なる分子を標的にし、そのことによりシグナルのより一層強力な遮断を達成することを目指すという利点と組み合わせて提供する。
【0131】
本発明を、ニューロンの適切な結合を促進するために有効であり得るリハビリテーションと組み合わせることもまた有益であり得る。かかる組合せはまた有益なことに、異常な結合を減少させ得る。
【0132】
本発明の組成物は、神経外科手術等の手術中又は手術後の投与においてその適用を見出し得る。この実施形態において、手術は成人神経組織への損傷の1例である。したがって、キナーゼ、ATP及びあらゆる必要な金属イオンが手術中に適用されてもよい。
【0133】
本発明の組成物において任意でセスリン(Cethrin)が含まれていてもよい。典型的にはこれは、1回投与量当たり0.3、1、3、6又は9mgで用いられる。
【0134】
本発明の組成物における基質の適用又は基質の包含は、付加される試薬が損傷部位に残る又は持続するのに役立つという利点を有する。
【0135】
炎症抑制剤が本発明の組成物に含まれてもよく、且つ/或いは、損傷/手術後にそれができるだけ早く適用されてもよい。
【0136】
幹細胞移植が、好ましくは炎症が治まった後に(さもなければ、移植細胞は宿主免疫系により死滅させられるかもしれない)実行されてもよい。例を挙げれば、マウスに関しては、細胞は損傷から5日後に移植されるのであり、すなわち炎症後に細胞が移植される。
【0137】
したがって、炎症抑制剤、Rho阻害因子(C3毒素等)及び/又はES細胞が有用なことに本発明と組み合わされてもよい。ES細胞に関しては、Nogoシグナリングの強制活性化は神経分化を阻害し、神経幹細胞の神経膠への分化を促進し得る。したがって、もしNogoが損傷領域において活性を有するのであれば、移植細胞の分化は有益なことに、Nogoシグナリングの阻害により促進され得る。
【0138】
神経突起伸長阻害の軽減
ニューロンの再成長又は再生が損傷した成人神経組織において不十分にしか、或いは一切生じないことは、当技術分野における継続的な問題だった。この文脈において損傷は、外傷による物理的損傷を意味していてもよく、或いは、変性疾患等の神経障害による損傷を意味していてもよい。明らかに、あらゆるかかる状況において、神経組織の再生又は再成長が望ましい。
【0139】
神経突起伸長が健常な成人神経組織において阻害されることは十分確立している。この阻害を除去又は軽減することが本発明の目的である。このことの最終的帰結は、神経突起伸長等を介する神経再生の促進又は亢進である。これは神経突起伸長の刺激として言及されるかもしれない。実際のところ、適用の大部分に関して、神経突起伸長の刺激と神経突起伸長阻害の軽減との間に実質的な違いはないだろう。しかしながら、この潜在的システムについて本発明者らにより得られた洞察及び理解ゆえに、本発明は一貫して神経突起伸長阻害の軽減の観点から記載される。これはなぜなら、ある種のNogoファミリーリガンドが神経突起伸長の阻害因子であることは確立しているからである。したがって、Nogo受容体を介するシグナリングにより生み出されるこの阻害の軽減こそが本発明の主題である。もしこの阻害の除去を神経突起伸長の「刺激」とみなすことが有益であれば、これに折に触れて注目又は言及されてもよい。そのことは、神経突起伸長阻害を除去又は緩和し、そのことにより神経突起伸長等を介する神経再生を可能にする又は促進する(又は実際に刺激する)という本発明の目的全体から逸脱しない。
【0140】
さらに、本発明は有益なことに、神経突起伸長の1又は2以上の刺激要因と組み合わされてもよく、そのことにより伸長を誘導すると同時にその阻害を除去又は軽減し、より明白な或いはより亢進された再成長又は再生をもたらしてもよい。
【0141】
さらなる適用
広い態様の1つにおいて、本発明は医薬としての使用のためのPKAに関する。
【0142】
広い態様の1つにおいて、本発明は医薬としての使用のためのCK2に関する。
【0143】
広い態様の1つにおいて、本発明はCK2の細胞外での新規使用に関する。
【0144】
プロテインキナーゼA(PKA)が、CK2と同様、Nogoシグナリングを阻害し得ることが開示される。最も好ましくは、本発明において使用されるキナーゼはPKAである。
【0145】
本発明は脊髄損傷後の神経突起伸長阻害の軽減に関し、特にNogoシグナリングの阻害による軽減に関する。
【0146】
本発明の適用は神経突起伸長阻害の軽減のみに限られない。Nogoシグナリングは成長中のニューロンの分化(B. Wang, Z. Xiao, B. Chen, J. Han, Y. Gao, J. Zhang, W. Zhao, X. Wang, J. Dai, Nogo-66 promotes the differentiation of neural progenitors into astroglial lineage cells through mTOR-STAT3 pathway. PLoS ONE 3, e1856 (2008); F. Wang, Y. Zhu, The interaction of Nogo-66 receptor with Nogo-p4 inhibits the neuronal differentiation of neural stem cells. Neuroscience 151, 74-81 (2008))、シナプス形成(E. M. Aloy, O. Weinmann, C. Pot, H. Kasper, D. A. Dodd, T. Rulicke, F. Rossi, M. E. Schwab, Synaptic destabilization by neuronal Nogo-A. Brain Cell Biol 35, 137-156 (2006))、及び移動(Z. Su, L. Cao, Y. Zhu, X. Liu, Z. Huang, A. Huang, C. He, Nogo enhances the adhesion of olfactory ensheathing cells and inhibits their migration. J Cell Sci 120, 1877-1887 (2007))に関与する。それはまた、認知症を引き起こす神経変性障害であるアルツハイマー病にも関与する(J. H. Park, D. A. Gimbel, T. GrandPre, J. K. Lee, J. E. Kim, W. Li, D. H. Lee, S. M. Strittmatter, Alzheimer precursor protein interaction with the Nogo-66 receptor reduces amyloid-beta plaque deposition. J Neurosci 26, 1386-1395 (2006); V. Gil, O. Nicolas, A. Mingorance, J. M. Urena, B. L. Tang, T. Hirata, J. Saez-Valero, I. Ferrer, E. Soriano, J. A. del Rio, Nogo-A expression in the human hippocampus in normal aging and in Alzheimer disease. J Neuropathol Exp Neurol 65, 433-444 (2006); H. Y. Zhu, H. F. Guo, H. L. Hou, Y. J. Liu, S. L. Sheng, J. N. Zhou, Increased expression of the Nogo receptor in the hippocampus and its relation to the neuropathology in Alzheimer's disease. Hum Pathol 38, 426-434 (2007))。したがって、本発明は有益なことに、神経突起伸長阻害の軽減等の特に適切な分野と同様、これら分野に適用されてもよい。
【0147】
特に本発明は、アルツハイマー病及び/又はパーキンソン病等の神経変性疾患一般に適用されてもよい。これは本発明の特に好ましい適用である。なぜなら、NogoRはアミロイドB及びその前駆体であるAPPに結合し得るからである。
【0148】
本発明はまた、脳卒中発作等の、より急性の神経障害に適用されてもよい。
【0149】
Nogoの阻害はミエリン形成の増加をもたらす。したがって本発明は、多発性硬化症等のあらゆるミエリン形成障害にその適用を見出す。したがって本発明は、多発性硬化症に適用されてもよい。統合失調症は、ミエリン形成不全と結び付けられる神経障害のまた別の例である。したがって本発明は、統合失調症に適用されてもよい。さらに本発明は、ある系においてミエリン形成を増加させるための方法に関し、前記方法は、前記系においてNogo受容体をリン酸化することを含み、それは好ましくは、前記系へのPKA及び/又はCKIIの付加による。
【0150】
本発明はまた、Nogoリガンド等の神経突起伸長阻害因子のNogo受容体への結合を阻害する方法に関し、前記方法はセリン281等で前記Nogo受容体のリン酸化を誘導することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】BDNFはRAで処理されたSH−SY5Yの神経突起伸長を促進し、NgR1のリン酸化を誘導する。(A)SH−SY5Y細胞が示されている試薬と共にインキュベートされた。細胞画像が位相差顕微鏡法で撮影された。(B)40μm超の神経突起様構造を伸長させる細胞の数及び細胞総数が(A)で撮影された画像から計数された。それぞれの試料において300超の細胞が検査された。40μm超の神経突起様構造を伸長させる細胞の比率が細胞総数に対するパーセントとして示される。3回の実験の平均が示される。エラーバーは実験間のS.E.を示す。データはスチューデントt検定で分析された。(C)BDNFと共に、或いはそれなしに24時間インキュベートされた後のRA処理SH−SY5Y細胞から全細胞抽出物が調製され、SDS−PAGEで分析された。イムノブロッティングが示されている抗体を用いて実施された。(D)RA及びBDNFの両方で処理された細胞から調製される全細胞抽出物が、示されている試薬と共に1時間、37℃でインキュベートされた。イムノブロッティングが抗NgR1抗体を用いて実施された。(E)RA処理SH−SY5Y細胞が、以下のもののうちの1つの存在下又は非存在下でBDNFと共に24時間インキュベートされた:PKC阻害因子−500nM Go6983若しくはGo6976;PKA阻害因子−2μM KT5720若しくはPKA阻害因子ペプチド14〜22;又はカゼインキナーゼ阻害因子500nM若しくは1μM。これら細胞から調製された全細胞抽出物がSDS−PAGEで分析された。イムノブロッティングが抗NgR1抗体を用いて実施された。
【図2】CK2はRA処理SH−SY5Y細胞の神経突起伸長をBDNFなしで促進する。(A)RA処理SH−SY5Y細胞が24時間、示されている試薬と共にインキュベートされた。細胞画像が位相差顕微鏡法で撮影された。(B)40μm超の神経突起様構造を伸長させる細胞の数及び細胞総数が(A)で撮影された画像から計数された。それぞれの試料で300超の細胞が検査された。計算が図1Bの通りになされた。RAのみとRA+CKII+ATPとの間のスチューデントt検定の結果はp=0.0014だった。(C)NgR1のMyc標識した野生型及び変異体バージョンを、SH−SY5Y細胞において過剰発現させた。これら細胞をRA、CK2及びATPで処理した。過剰発現しているNgR1−Mycを抗Myc抗体を用いて検出した。(D)281S/A変異体NgR1−Mycを過剰発現しているSH−SY5Y細胞がRA及びNEP1−40と共にインキュベートされた。(E)281S/D変異体NgR1−Mycを過剰発現しているSH−SY5Y細胞が(C)と同様に処理された。
【図3】CK2はNgR1をリン酸化し、ミエリン関連タンパク質のNgR1への結合を阻害する。(A)Myc標識した野生型、281S/A又は281S/D変異体のNgR1をCOS7細胞において過剰発現させた。これら過剰発現した細胞が、ATPとCK2との組合せ又はNEP1−40と共に30分間、37℃でインキュベートされた。PBSで洗浄後、細胞はHis×6標識Nogo−GFPと共に3時間、4℃でインキュベートされた。これら細胞は固定され、免疫蛍光法が抗Myc抗体及び抗GFP抗体を用いて実施された。(B)Myc標識野生型NgR1を過剰発現しているCOS7細胞が(A)に記載の通り処理された。タンパク質を抽出し、抗Myc抗体を用いてMyc標識NgR1を免疫沈降させた。同時沈殿させたHis×6標識Nogo−GFPが抗GFP抗体により検出された。(C)NgR1過剰発現COS7細胞の細胞表面タンパク質がビオチンで標識された。ビオチン標識タンパク質が分画され、SDS−PAGEで分析された。ビオチン標識NgR1−Mycが抗Myc抗体を用いて検出された。(D)野生型NgR1−Myc又は281S/A変異体NgR1−Mycを過剰発現しているCOS7細胞が、α−32P−ATPと共にCK2の存在下又は非存在下でインキュベートされた。Myc標識タンパク質を免疫沈降させ、SDS−PAGEで分析した。タンパク質はPVDF膜上へとブロットされ、この膜は組み込まれた32Pを検出するため、X線フィルムに曝露された。オートラジオグラフィーの後、抗Myc抗体を用いたイムノブロッティングにこの膜を用いた。(E及びF)Myc標識された野生型、281S/A又は281S/D変異体のNgR1を過剰発現しているCOS7細胞が(A)に記載の通り処理された。PBSで洗浄後、細胞はHis標識OMgp(E)又はHA標識MAG(F)と共に3時間、4℃でインキュベートされた。これら細胞を固定し、免疫蛍光法を抗Myc抗体及び抗His抗体(E)又は抗Myc抗体及び抗HA抗体(F)を用いて実施した。
【図4】ヒトNgR1におけるセリン281を含むCK2標的モチーフは、脊椎動物NgR1及びNgR2において保存されている。(A)ヒト(GenBank受入番号NM 023004)、マウス(NM 022982)、ラット(AF462390)、ダニオ(NM 203478)及びニワトリ(XM415292)のNgR1のC末端隣接領域のアミノ酸配列が比較された。ヒトNgR1と同一のアミノ酸が赤で示される。(B)ヒトNgR1(GenBank受入番号NM 023004)、NgR2(NM 178570)及びNgR3(NM 178568)並びにマウスNgR1(NM 022982)、NgR2(NM 199223)及びNgR3(NM 177708)のC末端隣接領域のアミノ酸配列が比較された。(C)α−32P−ATPと共にCK2の存在下又は非存在下でインキュベートした後のMyc標識NgR2を過剰発現しているCOS7細胞から、全細胞抽出物が調製される。Myc標識NgR2を全細胞抽出物から免疫沈降させSDS−PAGEで分析した。タンパク質がPVDF膜上へとブロットされ、この膜は図3cに記載の通り処理される。(D)Myc標識ヒトNgR2を過剰発現しているCOS7細胞がATP及びCK2の組合せと共に、或いはそれなしに、30分間、37℃でインキュベートされた。PBSで洗浄後、細胞はHA標識MAGと共に3時間、4℃でインキュベートされた。これら細胞は固定され、免疫蛍光法が抗Myc抗体及び抗HA抗体を用いて実施された。(E)CK2及びATPと共にインキュベートした後、NgR2−Mycがゲル中トリプシンで消化され、トリプシンペプチドが質量分析法で分析された。リンペプチドとして検出されたペプチド配列が記載される。
【図5】CK2は生後ラットニューロンをミエリン関連阻害因子であるNogo、MAG及びOMgpによる神経突起伸長阻害からレスキューする。(A)生後5日目のラットに由来するDRGニューロンがNogo−66断片と共に、或いはそれなしに、示されている試薬の存在下で培養された。示されている試薬の付加から24時間後、細胞は固定され、α−チューブリンIIIが免疫蛍光法で検出された。(B)20μm超の神経突起を伸長させる細胞の数及びα−チューブリンIII陽性細胞総数が(A)で撮影された画像から計数された。20μm超の神経突起様構造を伸長させる細胞集団が総細胞数に対するパーセントとして示される。3つの実験の平均が示される。エラーバーは実験間のS.E.を示す。データがスチューデントt検定で分析された。(C及びD)生後5日目のラットに由来するDRGニューロンが、ポリ−D−リジン及びMAG(C)又はOMgp(D)でコートされた8ウェルチェンバースライド上に播種され、CK2と共に、或いはそれなしに、24時間インキュベートされた。細胞は固定され、免疫蛍光法が抗αチューブリンIII抗体を用いて実施された。(E)20μm超の神経突起を伸長させる細胞の数及びα−チューブリンIII陽性細胞総数が、(C及びD)で撮影された画像から計数された。20μm超の神経突起様構造を伸長させる細胞集団を、細胞総数に対するパーセントとして示した。(B)の通り計算がなされた。(F)生後8日目のラットに由来するCGニューロンが示されているミエリン関連阻害因子と共に、或いはそれなしに、24時間、CK2の存在下又は非存在下で培養された。細胞は固定され、α−チューブリンIIIが免疫蛍光法により検出された。(G)野生型NgR1−Myc又は281S/A変異体NgR1−Mycを過剰発現しているCGニューロンがNogo断片と共に、或いはそれなしに、CK2の存在下又は非存在下で24時間培養された。過剰発現しているNgR1−Mycが免疫蛍光法により検出された。(H)20μm超の神経突起を伸長させるMyc陽性細胞の数及びMyc陽性細胞総数が(G)で撮影された画像から計数された。(B)の通り計算がなされた。
【図6】図6は、脊椎動物のNgR1のアミノ酸配列を示す。NgR1のNCBI受入番号は、ラット;AF 462390、ヒト;NM 023004、マウス;NM 022982、ダニオ;NM 203478、ニワトリ;XM 415292である。赤字はヒトNgR1と相同なアミノ酸を示す。緑字はヒトNgR1と類似したアミノ酸を示す。NF;N末端隣接領域、LRR;ロイシンリッチリピートモチーフ、CF;C末端隣接領域。
【図7】図7は以下のものを示す:A、RA処理SH−SY5Y細胞が示されている試薬と共に24時間培養された。固定後、ベータ−チューブリンIIIが抗ベータ−チューブリンIII抗体を用いて検出された。B、野生型又は281S/A変異体のNgR1−MycをSH−SY5Y細胞において過剰発現させた。RAでの処理の5日後、これら細胞は500U/ml PKA及び500nM(74kBq/ml)ATPと共にインキュベートされた。その後、NgR1−Mycを免疫沈降させ、SDS−PAGEで分析した。C、野生型又は281S/A変異体のNgR1−Mycを過剰発現しているRA処理SH−SY5Y細胞が500U/ml PKA及び500nM ATPと共に24時間インキュベートされ、固定された。NgR1−Mycが抗Myc抗体を用いて検出された。PKAはCK2と同様に、RA処理SH−SY5Y細胞からの神経突起伸長を誘導した(図7A)。PKAが野生型NgR1−Mycをリン酸化した(図7B)。セリン281における変異生成は、PKAでのリン酸化(図7B)及びPKA処理後の神経突起伸長(図7C)の両方を強力に阻害した。したがって、PKA及びCK2の両方がNgR1をリン酸化し得るのであり、Nogoシグナリングの神経突起伸長に対する阻害効果を無効にし得る。
【図8】図8はヒトNgRのアミノ酸配列を示す。NgRのNCBI受入番号は図4Bの通りである。赤字はヒトNgR1と相同なアミノ酸を示す。黒三角はヒトNgR1におけるセリン281の位置を示す。
【図9】図9は写真及び配列比較を示す。(A)PirBの全長がC末端のストレプトアビジン結合ペプチド(streptoavidine-binding peptide、SBP)標識と共にCOS7細胞に発現した。これらCOS7細胞はOptiMEM(Invitrogen社製)中の2000U/ml PKA、5mM MgSO4及び100μM 32P−ATPと共に37℃で1時間インキュベートされた。インキュベーション後、細胞は洗浄され、タンパク質が0.5%TritonX-100、20mMトリスHCl(pH8.0)及び150mM NaClで抽出された。ストレプトアビジン電磁ビーズ(Invitrogen社製)を用いて抽出物からSBP標識PirBを沈殿させた。ビーズと結合しているタンパク質がSDS−PAGEで分析され、組み込まれた32Pがオートラジオグラフィーで検出された。(B)PirBを過剰発現しているCOS7細胞が、非標識ATPを除いて(A)に記載の通り処理された。SDS−PAGEで分析されたタンパク質がクマシーブリリアントブルーG−250で染色された。PirBに対応するバンドが切除され、質量分析法で分析された。質量分析法で検出されたリンペプチドのアミノ酸配列がボックスで囲われた。黒三角はリン酸化されたアミノ酸であるセリン425を示す。ヒトLILRB1、2、3及び5、並びにラット及びマウスPirBのリン酸化部位付近のアミノ酸配列が比較された。マウスPirBと相同なアミノ酸残基が赤字で示された。
【図10A】図10Aは写真を示す。(A)嗅内野海馬切片の器官型培養物が生後5日目及び6日目の129X1/SvJJmsSlc(アルビノ)マウスから調製された。培養基は2日毎に交換された。インビトロでの日数(DIV、day in vitro)10日目、嗅内野海馬投射が滅菌メスの刃で横切された。破壊切片が8日間、1250U/ml PKA及び100μM ATPと共に、或いはそれらなしで培養された。DIV17日目、少分量のDilペースト(Invitrogen社製)が横切部の嗅内野側に適用された。DIV18日目、嗅内野海馬投射の再生を検査するため、これら切片を共焦点顕微鏡法で観察した。DIV10日目に生み出された損傷部位の位置が白の点線で示される。
【図10B】図10Bは棒グラフを示す。(B)歯状回付近のDilシグナルの強度がImageJ(バージョン1.42q、National institute of health、米国)で測定された。測定された領域(100μm平方)は(A)に中抜きの白四角で示された。強度は対照(破壊されていない)におけるDilシグナルに対するパーセントで示された。実験は3組で5回反復された。典型的な画像が(A)に示され、5回の独立した実験の平均が(B)にプロットされた。統計的有意性を評価するため、スチューデントt検定が用いられた。
【0152】
本発明はここで実施例により説明される。これら実施例は例証的であることが意図されており、添付の請求項を限定することを意図するものではない。
[実施例]
【0153】
方法及び試薬
ヒト神経芽細胞腫細胞株であるSH−SY5YはATCC社から購入した。Ham's F12培地、Neurobasal-A培地、マウス抗GFPモノクローナル抗体及びB27添加剤はInvitrogen社から購入した。レチノイン酸、クレアチン及びクレアチンホスホキナーゼ、マウス抗Mycモノクローナル抗体及びポリ−D−リジンはSigma社から購入した。ラットニューロン及びNSF-1添加剤はLONZA社から購入した。BDNF、Go6983、Go6976、CK2阻害因子(4,5,6,7−テトラブロモ−2−アザベンツイミダゾール)、KT5720、ミリストイル化PKA阻害因子ペプチド14〜22アミド及びNEP1−40ペプチドはMerck社から購入した。抗LINGO−1抗体はMillipore社から購入した。抗NogoA抗体及び抗NgR抗体はSanta Cruz社から購入した。ATPはRoche社から購入した。CK2及びラムダタンパク質ホスファターゼはNew England Biolab社から購入した。コラーゲンIV、OMgp−His及びNogo−FcはR&D社から購入した。ウサギ抗Mycポリクローナル抗体はCell Signalling社から購入した。α−32P−ATPはGE healthcare社から購入した。
【0154】
細胞培養
SH−SY5Y細胞が10%ウシ胎仔血清を伴うHam's F12培地で37℃で5%のCO及び95%の大気の中で培養された。15〜21の継代数が本明細書に記載の実験で用いられる。さらなる継代は自発的分化を誘導し、細胞はBDNFなしに神経突起を伸長させる傾向にある(データは示されていない)。RA処理のため、これら細胞はコラーゲンIVにコートされた4ウェルチェンバースライド上に播種される(20000細胞/ウェル)。24時間の培養後、培地は10μM RA及び10%ウシ胎仔血清を含むHam's F12培地に交換された。培地は3日目に新鮮な培地へと交換され、培養5日後の細胞が実験のために用いられた。Encinas et al.(M. Encinas, M. Iglesias, Y. Liu, H. Wang, A. Muhaisen, V. Cena, C. Gallego, J. X. Comella, Sequential treatment of SH-SY5Y cells with retinoic acid and brain-derived neurotrophic factor gives rise to fully differentiated, neurotrophic factor-dependent, human neuron-like cells. J Neurochem 75, 991-1003 (2000))は、RA処理SH−SY5Y細胞が血清除去後にアポトーシスを開始するのは、低密度で培養される場合のみであると報告した。本明細書において用いられる細胞密度はEncinas et al.による論文における密度より高く(M. Encinas, M. Iglesias, Y. Liu, H. Wang, A. Muhaisen, V. Cena, C. Gallego, J. X. Comella, Sequential treatment of SH-SY5Y cells with retinoic acid and brain-derived neurotrophic factor gives rise to fully differentiated, neurotrophic factor-dependent, human neuron-like cells. J Neurochem 75, 991-1003 (2000))、血清又はBDNFの欠乏による細胞死は顕著ではなかった。本明細書では、RAで5日間処理されたSH−SY5Y細胞がRA処理SH−SY5Yと呼ばれる。BDNF処理のため、RA処理SH−SY5Y細胞は血清非含有Ham's F12培地を用いて洗浄され、25ng/ml BDNFと共に血清非含有Ham's F12培地中で24時間インキュベートされた。対照(RAのみ)として、RA処理SH−SY5Y細胞が血清非含有Ham's F12のみで24時間インキュベートされた。
【0155】
生後5日目のラットに由来するDRGニューロンを2mMグルタミン及び2%NSF-1添加剤を含むNeurobasal-A培地中に再懸濁させ、ポリ−D−リジンでコートされた8ウェルチェンバースライド上に播種した(5000細胞/ウェル)。播種から4時間後、培地を新鮮な培地と交換した。
【0156】
生後8日目のラットに由来するCGニューロンを25mM KCl、2mMグルタミン及び2%B27添加剤を含むNeurobasal-A培地中に再懸濁させ、ポリ−D−リジンでコートされた8ウェルチェンバースライド上に播種した(10000細胞/ウェル)。播種から4時間後、培地を新鮮な培地と交換した。
【0157】
細胞のCK2処理
RA処理SH−SY5Y細胞のCK2処理のため、これら細胞は血清非含有Ham's F12で洗浄され、100nM ATP又は500U/ml CK2又はその両方と共に、25mM KCl及び5mM MgClを含む血清非含有Ham's F12中で24時間インキュベートされた。
【0158】
生後5日目のラットに由来するDRGニューロンのCK2処理のために、播種から4時間のインキュベーション後、培地が2mMグルタミン、10mM KCl、5mM MgCl及び2%NSF−1添加剤を500U/ml CK2と共に含むneurobasal-A培地へと交換された。対照(処理なし)として、培地がCK2なしの培地へと交換された。生後8日目のラットに由来するCGニューロンのために、2mMグルタミン、2%B27添加剤及び25mM KClを含むneurobasal-A培地が用いられた。
【0159】
COS7細胞のCK2処理のために、細胞が血清非含有Ham's F12培地で洗浄され、500μM ATP及び1200U/ml CK2の両方と共に、或いはそれらなしに、25mM KCl及び5mM MgClを含む血清非含有Ham's F12培地中で30分間、37℃でインキュベートされた。
【0160】
α32P−ATPを伴うCK2によるリン酸化
Myc標識NgR1又はNgR2を過剰発現しているCOS7細胞の処理のため、細胞が培養皿からこすり取られた。これら細胞はPBSで洗浄され、25mM KCl、5mM MgCl、1200U/mlのCK2、200μM ATP(3.7kBq/ml)を含むPBS中で再懸濁された。30分間、30℃でのインキュベーション後、リン酸化を終結させ、タンパク質が0.1%Triton X 100、250mM NaCl及び25mM EDTAで抽出された。抗Myc抗体を用いてMyc標識タンパク質を免疫沈降させ、SDS−PAGEで分析した。
【0161】
ミエリン関連タンパク質の発現及び精製
第1鎖DNAがヒト胎児脳(TAKARA社製)から精製されたmRNAから、SuperScript II逆転写酵素(Invitrogen社製)及びオリゴdTを用いて合成された。ヒトNogo−AのcDNAが、テンプレートとして第1鎖DNAを用いたPCRにより増幅された。増幅されたNogo−A(Genbank受入番号NM 020532)断片であるNt 3444〜3709が、pEGFP N2(TAKARA社製)内へ組み込まれた。Nogo−A断片及びEGFP領域が切除され、pcDNA 3.1/Hisベクター(Invitrogen社製)内へ組み込まれた。このベクターのHis×6、Nogo−A及びEGFP領域がベクターから切除され、pBEn-SBP-SETベクター(Stratagene社製)内へと組み込まれ、その後それをArcticExpress (DE3)RIL E. coli(Stratagene社製)に導入した。His×6−Nogo−A断片−EGFPタンパク質の発現が、1mM IPTGにより一晩かけて18℃で誘導された。His×6 Nogo−A断片−GFPがTALONカラム(TAKARA社製)を用いて精製された。
【0162】
ヒトMAG(NM 002361)の発現のため、MAG(Nt 198〜1655)のcDNAが、第1鎖DNAをテンプレートとして用いたPCRにより増幅され、終止コドンがMAG cDNAの3´末端にPCRにより付加される。MAG cDNAがpDisplayベクター(Invitrogen社製)内に組み込まれた。このプラスミドをCOS7細胞内へと導入した。導入した細胞は10%血清及び600μg/mlのgeneticinを含むDMEM(Invitrogen社製)で維持された。MAGの精製のため、これら細胞は2mM L−グルタミンを伴うVP-SFM培地(Invitrogen社製)で3日間培養された。HA標識MAGが馴化培地からHA標識タンパク質精製キット(Sigma社製)を用いて精製された。
【0163】
NgR1−Myc及びNgR2−Mycの発現
NgR2 cDNAが、第1鎖DNAをテンプレートとして用いたPCRにより増幅された。PCR産物はpCR Bluntベクター(Invitrogen社製)内へと連結された。pCR Bluntに挿入されたNgR2 cDNAの配列が確認された。全長NgR1をコードするIMAGEクローンをGene Service Inc社から購入した。NgR1のcDNA(NM 023004、Nt.184〜1543)及びNgR2(NM 17857、Nt.1〜1200)をそれぞれ、Sal1及びKpn1部位を有するpDisplayベクター内へと導入した。NgR、Myc標識及び膜貫通ドメインをコードする領域がこのベクターからKpn1及びNot1と共に切除される。Kpn1−Not1断片がpCEP4(Invitrogen社製)内へと組み込まれた。Nucleoector(amaxa社製)を用いたエレクトロポレーションが導入のために用いられた。NgR/pDisplayをCOS7内へと導入し、NgR1−Myc−膜貫通ドメイン/pCEP4をSH−SY5Y細胞内へと導入した。ラットニューロンへの導入のため、NeuroMagキット(OZ Bioscience社製)が用いられた。Nogo−66断片を伴う、或いはそれを伴わない、ラミニンでコートされた8ウェルチェンバースライド上で24時間培養されたニューロンが、導入のために用いられた。導入後、ニューロンはさらに24時間培養され、CK2が培養基内に500U/mlの終末濃度まで付加された。ニューロンがCK2と共に24時間培養され、固定された。
【0164】
神経突起伸長アッセイ
ミエリン関連阻害因子での神経突起伸長阻害のため、1μgのNogo−Fc、500ngのHA標識MAG又は500ngのHis標識OMgpが、ポリ−D−リジンでコートされた8ウェルチェンバースライドの異なるウェル上にスポットされ、カバーなしにクリーンベンチ上に一晩放置される。PBSで2度洗浄後、ニューロンが播種され、「細胞培養」に記載の通り処理された。ニューロンが24時間、37℃で培養され、PBS中で2%パラホルムアルデヒド及び0.1%triton X100で固定された。免疫蛍光法が抗α−チューブリンIIIモノクローナル抗体を用いて実施された。
【0165】
ミエリン関連タンパク質の結合アッセイ
CK2と共に、或いはそれなしに処理後、野生型又は変異体のNgRを過剰発現しているCOS7細胞が、His×6標識Nogo−GFP(10μg/ml)、HA−MAG(50μg/ml)又はHis×6標識OMgp(10μg/ml)と共にPBS中で3時間、4℃でインキュベートされた。細胞は2度洗浄され、PBS中の2%パラホルムアルデヒドで20分間4℃で、その後PBS中の2%パラホルムアルデヒド及び0.1%Triton X 100で固定された。細胞表面におけるNgR1の発現レベルを検査するため、細胞表面タンパク質単離キット(Pierce社製)が用いられた。NgR1を過剰発現しているCOS7細胞の表面タンパク質がビオチンで標識され、抽出された。ストレプトアビジンビーズを用いてビオチン標識タンパク質を沈殿させ、SDS−PAGEで分析した。5×10の細胞から分画されたそれぞれの試料をSDS−PAGEで分析した。
【0166】
イムノブロッティング
細胞が皿からこすり取られ、PBSで2度洗浄され、その後それら細胞を0.1%Triton X-100及びホスファターゼ阻害因子カクテル(Roche社製)及びEDTA非含有プロテアーゼ阻害因子カクテル(Roche社製)を含むPBS中で再懸濁させた。15分間氷上でインキュベーション後、試料を14000×gで20分間、4℃で遠心分離した。30μgのタンパク質を含む上清をSDS−PAGEで分析し、PVDF膜へとブロットした。このPVDF膜がブロッキング緩衝液(PBS中の5%スキムミルク、0.4%Triton X-100)中で1時間インキュベートされ、第1抗体がブロッキング緩衝液中に希釈され、適切な第2抗体が西洋ワサビペルオキシダーゼで標識された。結合した抗体がECL又はECL Plusキット(GE healthcare社製)で可視化された。
【0167】
免疫蛍光アッセイ
固定された細胞がPBSで洗浄され、PBS中の3%BSA及び0.5%Triton X-100と共に室温で30分間インキュベートされ、第1抗体、PBS中の3%BSA及び0.5%Triton X-100と共に37℃で2時間インキュベートされた。PBSで洗浄後、細胞はさらにPBS中の適切な第2抗体、3%BSA及び0.5%Triton X-100と共に37℃で30分間インキュベートされた。PBSで3回洗浄後、細胞はDAPIを伴うVECTASHIELD封入剤(VECTOR社製)と共にマウントされ、共焦点レーザー走査顕微鏡法で観察された。
【0168】
免疫沈降
CK2処理(図3C)又はNogo−GFPと共にインキュベーション(図3B)後、タンパク質が、ホスファターゼ阻害因子カクテル及びEDTA非含有プロテアーゼ阻害因子カクテルを含むPBS中の0.1%Triton X100で抽出された。抽出物は25μgの抗Mycウサギポリクローナル抗体及びプロテインA電磁ビーズ(New England Biolab社製)と共に2時間、4℃でインキュベートされた。PBS中の0.1%Triton X100で5回洗浄後、ビーズは1×SDS−PAGEローディング緩衝液と共にインキュベートされ、3分間加熱された。
【0169】
質量分析
NgR2−Mycを過剰発現しているCOS7細胞が、500U/mlのCK2及び500μM ATPと共に1時間培養された。細胞抽出及び抗Myc抗体を用いたNgR2−Mycの免疫沈降については上に記載した。沈殿させたタンパク質をSDS−PAGEで分析し、コロイド性クマシーブリリアントブルー染色で可視化した。NgR2−Mycに対応するバンドがゲルから切除された。ゲル切片中のタンパク質がゲル中トリプシンで消化された。質量分析がケンブリッジプロテオミクスセンター(Cambridge Centre for Proteomics、英国、ケンブリッジ)で実施された。
【実施例1】
【0170】
実施例1:NogoシグナリングはRA処理SH−SY5Y細胞からの神経突起伸長を阻害する
SH−SY5Y細胞は5日間のRA処理後に限定的な形態学的変化を示したが、Encinas et al.により以前に報告されたように(M. Encinas, M. Iglesias, Y. Liu, H. Wang, A. Muhaisen, V. Cena, C. Gallego, J. X. Comella, Sequential treatment of SH-SY5Y cells with retinoic acid and brain-derived neurotrophic factor gives rise to fully differentiated, neurotrophic factor-dependent, human neuron-like cells. J Neurochem 75, 991-1003 (2000))、5日間のRA処理及び1日間のBDNF処理という連続処理後には、効率的な神経突起伸長が観察された(図1A)。本発明者らは、Nogo−66のNgR1への結合の拮抗阻害因子であるNEP1−40(T. GrandPre, S. Li, S. M. Strittmatter, Nogo-66 receptor antagonist peptide promotes axonal regeneration. Nature 417, 547-551 (2002))が、RAによりSH−SY5Y細胞から分化した神経細胞からの神経突起伸長をBDNFなしに促進したことを見出した(図1A及びB)。このことは、NogoシグナリングがSH−SY5Y由来神経細胞からの神経突起伸長を阻害すること、並びに、BDNFがNogoシグナリングのこうした効果を抑制することを示唆する。
【0171】
図1Cに示されるように、Nogoシグナリングに関与するタンパク質であるNogo−A、NgR1及びLINGO−1は、RA処理SH−SY5Y細胞に発現していた。Nogo−A及びLINGO−1のいずれもBDNF処理後に顕著な変化を示さなかった一方で、NgR1の上側のバンドはBDNF処理により増加した(図1C、矢印)。ラムダホスファターゼでの処理はホスファターゼ阻害因子の非存在下でのみ、上側のバンドを減少させた(図1D)。これら結果は、BDNFがRA処理SH−SY5Y細胞において内因性NgR1のリン酸化を促進し、SDS−PAGEでのより低い移動度に寄与することを示す。どのキナーゼがNgR1のリン酸化に関与するのかを検討するため、RA処理SH−SY5Y細胞がBDNFと共にキナーゼ阻害因子の存在下でインキュベートされた。PKC阻害因子であるGo6983及びGo6976もPKA阻害因子であるKT5720及びPKA阻害因子ペプチドも、NgR1の上側のバンドのレベルに対する効果を示さない。しかしながら、CK2阻害因子は上側のバンドを減少させた(図1E)。このことと一致して、BDNFは神経細胞においてCK2を活性化させることが知られている(P. R. Blanquet, Neurotrophin-induced activation of casein kinase 2 in rat hippocampal slices. Neuroscience 86, 739-749 (1998))。これら結果は、CK2様活性がNgR1のリン酸化に関与することを示す。したがって、BDNFはCK2様活性によりNgR1のリン酸化を誘導し、このことはBDNFによる神経突起伸長の促進と同時に生じる。
【実施例2】
【0172】
実施例2:RA処理SH−SY5Y細胞はCK2での細胞外処理後にBDNFなしで神経突起を伸長させる
NgR1はグリコシルホスファチジルイノシトール結合膜タンパク質であり、細胞質ドメインを有さない(W. A. Barton, B. P. Liu, D. Tzvetkova, P. D. Jeffrey, A. E. Fournier, D. Sah, R. Cate, S. M. Strittmatter, D. B. Nikolov, Structure and axon outgrowth inhibitor binding of the Nogo-66 receptor and related proteins. Embo J 22, 3291-3302 (2003); X. L. He, J. F. Bazan, G. McDermott, J. B. Park, K. Wang, M. Tessier-Lavigne, Z. He, K. C. Garcia, Structure of the Nogo receptor ectodomain: a recognition module implicated in myelin inhibition. Neuron 38, 177-185 (2003))。したがって、BDNF処理後のNgR1のリン酸化部位は細胞外であり、CK2での細胞外処理によりリン酸化され得る。培養基へのATPのみの付加及びCK2のみの付加のいずれもSH−SY5Y由来神経細胞からの神経突起伸長を誘導しなかった。しかしながら、これら細胞はCK2及びATPの両方と共に24時間同時インキュベーション後に、有意な神経突起伸長を示した(図2A及びB)。したがって、CK2での細胞外処理は、SH−SY5Y由来神経細胞からの神経突起伸長に対するNogoシグナリングの阻害効果をBDNFなしに抑制する。
【実施例3】
【0173】
実施例3:ヒトNgR1のセリン281は、NogoシグナリングのCK2媒介抑制のための重要な標的である
ヒトNgR1はCK2によるリン酸化のための5つの候補部位、すなわち、トレオニン173、セリン192、セリン281、トレオニン325及びセリン345を含み、これら候補部位がアラニンに置換された。本実施例において用いられるキナーゼはCK2である。これらNgR1変異体を過剰発現しているRA処理SH−SY5Y細胞がATP及びCK2で24時間処理された際に、NgR1のセリン281からアラニンへの置換(281S/A)を保持している細胞は、顕著な神経突起伸長を示さなかった(図2C)。しかしながら、281S/A変異体NgR1を保持している細胞は依然として神経突起を伸長させる潜在能力を有していた。なぜならこれら細胞は、NEP1−40で24時間処理した後に、神経突起伸長を示したからである(図2D)。これら結果は、281S/A変異体NgR1は恒常的には活性を有さず、Nogoの結合がRA処理SH−SY5Yからの神経突起伸長阻害に必要であることを示す。
【0174】
NgR1のセリン281がアスパラギン酸へと置換され(281S/D)、この変異体NgR1をRA処理SH−SY5Y細胞において過剰発現させた(図2E)。リン酸化されたセリン残基の様に、アスパラギン酸は負の電荷を帯びているにもかかわらず、281S/D変異体NgR1を過剰発現している細胞は、CK2及びATPでの同時処理なしのRA処理後に神経突起を伸長させなかった(図2E)。このことは、281S/D変異体NgR1が恒常的にネガティブなNgR1変異体ではないことを示す。
【0175】
これら結果は、他の膜タンパク質がCK2での細胞外処理によりリン酸化され得るとしても(J. Walter, A. Schindzielorz, B. Hartung, C. Haass, Phosphorylation of the beta-amyloid precursor protein at the cell surface by ectocasein kinases 1 and 2. J Biol Chem 275, 23523-23529 (2000); S. Yamauchi, Y. Tokita, S. Aono, F. Matsui, T. Shuo, H. Ito, K. Kato, K. Kasahara, A. Oohira, Phosphorylation of neuroglycan C, a brain-specific transmembrane chondroitin sulfate proteoglycan, and its localization in the lipid rafts. J Biol Chem 277, 20583-20590 (2002))、ヒトNgR1のセリン281がCK2によるNogoシグナリングの阻害効果抑制にとって本質的に重要であることを示す。
【実施例4】
【0176】
実施例4:CK2はミエリン関連阻害因子の野生型NgR1への結合を阻害するが、セリン281置換を保持している変異体NgR1への結合を阻害しない
Nogo−66断片は、野生型NgR1を過剰発現しているCOS7細胞と結合した(図3A)。しかしながら、Nogo−66断片はCK2及びATPでの処理後の細胞に結合しなかった。281S/A変異体NgR1を野生型NgR1の代わりに過剰発現させた際、CK2処理はNogo−66断片の結合を遮断しなかった。NEP1−40は、Nogo−66断片による野生型NgR1及び281S/A変異体NgR1の両方への結合を阻害した。281S/D変異体NgR1が過剰発現する際、Nogo−66断片の結合はCK2処理なしでも観察されなかった(図3A右)。図2Eの結果と併せて考えると、281S/D変異体NgR1はNogo−66と結合し得ないし、内因性NgR1を介するシグナリングを阻害し得ない。Nogo−66断片と過剰発現NgR1との間の相互作用もまた、免疫沈降アッセイにおいて観察された(図3B)。ATPのみ又はCK2のみでの処理はこの相互作用を阻害しなかった一方で、ATP及びCK2での同時処理はNogo−66断片の過剰発現NgR1への結合を阻害した。変異体及び野生型のNgR1−Mycの細胞表面における発現レベルを検査するため、細胞表面タンパク質をビオチン標識した。同等レベルのビオチン標識NgR1−Mycの野生型、281S/A及び281S/Dがウエスタンブロッティングにより検出された(図3C)。
【0177】
さらに、過剰発現NgR1がCK2での細胞外処理後にリン酸化される。野生型又は281S/A変異体のNgR1を過剰発現しているCOS7細胞がCK2と共にα−32P−ATPの存在下でインキュベートされ、過剰発現NgR1を免疫沈降させた。野生型NgR1及び281S/A変異体NgR1の両方がCK2処理でリン酸化されたにもかかわらず、281S/A変異体NgR1のリン酸化は野生型NgR1のリン酸化よりもはるかに弱かった(図3D)。これら結果は、NgR1のセリン281がCK2による効率的なNgR1のリン酸化、及び、Nogo−66とNgR1との間の相互作用の阻害の両方に必要であることを示す。
【0178】
図3E及びFは、CK2処理がOMgp及びMAGの両方の野生型NgR1への結合を阻害したが、281S/A変異体NgR1への結合は阻害しなかったことを示す。OMgp及びMAGのいずれも、281S/D変異体NgR1を過剰発現しているCOS7と結合しなかった。これら結果は、CK2処理がNogo−66、MAG及びOMgpのNgR1への結合を阻害し得ること、並びに、NgR1のセリン281がCK2の効果のため本質的に重要であることを示す。
【実施例5】
【0179】
実施例5:ヒトNgR1のセリン281は、脊椎動物NgR1及びNgR2の両方において保存されている
図4Aは、セリン281がヒトNgR1のロイシンリッチリピートのC末端隣接領域にあること(W. A. Barton, B. P. Liu, D. Tzvetkova, P. D. Jeffrey, A. E. Fournier, D. Sah, R. Cate, S. M. Strittmatter, D. B. Nikolov, Structure and axon outgrowth inhibitor binding of the Nogo-66 receptor and related proteins. Embo J 22, 3291-3302 (2003); X. L. He, J. F. Bazan, G. McDermott, J. B. Park, K. Wang, M. Tessier-Lavigne, Z. He, K. C. Garcia, Structure of the Nogo receptor ectodomain: a recognition module implicated in myelin inhibition. Neuron 38, 177-185 (2003))、並びに、セリン281を含むCK2の標的モチーフがヒト、マウス、ラット、ダニオ及びニワトリにおいて保存されていることを示す。マウス、ラット及びニワトリのNgR1は、CK2のまた別の候補標的モチーフをC末端隣接領域のセリン304に有する。しかしながら、後者のセリンはヒト及びダニオNgR1において保存されていない。
【0180】
CK2標的モチーフに加えて、セリン281はPKA標的モチーフに関与し、PKA標的モチーフもまた他種において保存されている(図4A)。このことは、PKAがCK2と同様にNgR1をリン酸化し、そのことによりNogoシグナリングの神経突起伸長に対する阻害効果を抑制するかもしれないことを示唆する。しかしながら本発明者らは、BDNF処理後のRA処理SH−SY5Y細胞におけるNgR1のリン酸化へのPKAの寄与を検出し得なかった(図1E)。
【0181】
さらに、ヒトNgR1のセリン281を含むCK2標的モチーフは、ヒト及びマウスNgR2において保存されている(図4B)。ヒトNgR1のセリン281はヒトNgR2のセリン282に対応する。NgR3は、NgR1及びNgR2と同様、CK2によるリン酸化の標的部位候補をC末端隣接領域に有するとはいえ、この部位はNgR1のセリン281の11アミノ酸上流にある。逆に、NgR1のセリン281を含むPKA標的モチーフはこれら3つのNgRにおいて保存されている。
【0182】
NgR2の保存されたCK2標的モチーフと一致して、CK2はNgR2をリン酸化し(図4C)、CK2処理はMAGのNgR2を過剰発現しているCOS7細胞への結合を阻害した(図4D)。ヒトNgR2は2つのCK2標的部位、すなわち、セリン282及びトレオニン366を含むにもかかわらず、セリン282を含むCK2標的部位のみがヒトNgR1において保存されている。CK2処理後、質量分析によりヒトNgR2のセリン282を含むペプチドのリン酸化が検出されたが、トレオニン366を含むペプチドのリン酸化は検出されなかった(図4E)。
【実施例6】
【0183】
実施例6:CK2はラットニューロンをNogo、MAG又はOMgpによる神経突起伸長阻害からレスキューする。
本発明者らは、NgRのリン酸化がラットニューロンをミエリン関連阻害因子による神経突起伸長阻害からレスキューし得るかどうかを検査した。生後ラットDRGニューロンがCK2で24時間処理された際、これらニューロンはNogo−66断片による神経突起伸長阻害を克服した(図5A及びB)。ATPのみではNogo−66断片の阻害効果を抑制しなかった(データは示されていない)。BDNFはRA処理SH−SY5Y細胞からの神経突起伸長を誘導し得るにもかかわらず(図1A及びB)、Nogo−66断片のDRGニューロンに対する効果を遮断しない(図5A及びB)。このことは神経芽細胞腫細胞と正常ニューロンとの間のBDNFシグナリングにおける違いを示唆し、それはインビボでの神経突起伸長に対するBDNFの限定的効果と一致する(B. S. Bregman, M. McAtee, H. N. Dai, P. L. Kuhn, Neurotrophic factors increase axonal growth after spinal cord injury and transplantation in the adult rat. Exp Neurol 148, 475-494 (1997); L. B. Jakeman, P. Wei, Z. Guan, B. T. Stokes, Brain-derived neurotrophic factor stimulates hindlimb stepping and sprouting of cholinergic fibers after spinal cord injury. Exp Neurol 154, 170-184 (1998); Y. Jin, I. Fischer, A. Tessler, J. D. Houle, Transplants of fibroblasts genetically modified to express BDNF promote axonal regeneration from supraspinal neurons following chronic spinal cord injury. Exp Neurol 177, 265-275 (2002); P. Lu, A. Blesch, M. H. Tuszynski, Neurotrophism without neurotropism: BDNF promotes survival but not growth of lesioned corticospinal neurons. J Comp Neurol 436, 456-470 (2001); C. Dinocourt, S. E. Gallagher, S. M. Thompson, Injury-induced axonal sprouting in the hippocampus is initiated by activation of trkB receptors. Eur J Neurosci 24, 1857-1866 (2006))。
【0184】
CK2処理は、ニューロンをNogo−66断片による神経突起伸長阻害のみならずMAG又はOMgpによる神経突起伸長阻害からもレスキューし得る(図5C−E)。図5Fは、ニューロンがCK2で24時間処理される際に、生後5日目のラットに由来するDRGニューロンのみならず、生後8日目のラットに由来する小脳顆粒(cerebellar granule、CG)ニューロンも、Nogo−66、MAG又はOMgpの存在下で神経突起を伸長させ得ることを示す。
【実施例7】
【0185】
実施例7:CK2は281S/A変異体NgR1を発現しているニューロンをNogo−66による神経突起伸長阻害からレスキューしない
NgR1のセリン281の要件を評価するため、野生型及び281S/A変異体のNgR1を生後8日目のラットに由来するCGニューロンにおいて過剰発現させた。野生型及び281S/A変異体のNgR1を過剰発現している両方のCGニューロンが神経突起を伸長させ、それはNogo−66断片により遮断された。24時間のCK2処理後、野生型NgR1を過剰発現しているニューロンはNogo−66断片の存在下で神経突起を伸長させた。逆に、281S/A変異体NgR1を過剰発現しているニューロンは、CK2での24時間の処理後も神経突起を伸長させなかった(図5G及びH)。これら結果は、CK2が野生型NgR1を介するNogoシグナリングを阻害し得るが、281S/A変異体NgR1を介するNogoシグナリングを阻害し得ないことを示し、このことは図2及び3と一致する。したがって、NgR1を介するNogoシグナリングは、以前に報告されているように(3、4)、生後ラットニューロンからの神経突起伸長を遮断し得るのであり、NgR1のセリン281はCK2がNogoシグナリングの神経突起伸長に対する阻害効果を抑制するために不可欠である。
【実施例8】
【0186】
実施例8:被験体における神経突起伸長阻害の軽減方法
ニューロンからの神経突起伸長の阻害の軽減方法が実証される。本実施例において被験体はマウスである。マウスニューロンはNogo受容体を含む。
【0187】
脊髄損傷モデルが用いられる。実験的外傷の導入後、前記ニューロンをNogo受容体のリン酸化を引き起こすことのできる組成物と接触させる。このステップにおいて、以下の2つの組成物のうちの1つが典型的には注射により、或いは実験的外傷時に導入されたカニューレを介して適用される:
A)(PKA):
10〜100μM ATP、5〜0.05μgPKA及び1〜10mM MgCl2若しくはMg−アセテート。
又は
B)(CKII):
10〜100μM ATP、5〜0.5μgCK2、1〜10mM MgCl2若しくはMg−アセテート及び10〜50mM KCl若しくはK−アセテート。
【0188】
ヒトへの適用のためには、より高いレベルのキナーゼ、典型的には0.05〜5mgのキナーゼ、すなわちPKA又はCK2が用いられる。ヒトでの使用のためのイオン及びATPの濃度は、典型的には上にある通りである。
【実施例9】
【0189】
実施例9−PirB/LILRB
Nogo−A、MAG及びOMgpはNgRに結合し得るミエリン関連タンパク質である(Gonzenbach, R. R., and Schwab, M. E. (2008). Disinhibition of neurite growth to repair the injured adult CNS: focusing on Nogo. Cell Mol Life Sci 65, 161-176.)。近年、マウスPirB(ペア型Ig様受容体B、paired-Ig-like receptor B、NM011095)及びそのヒトホモログLILRB(白血球免疫グロブリン様受容体B、leukocyte immunoglobulin-like receptor Bs)が、ミエリン関連タンパク質のための受容体の第2グループであると報告されてきた(Atwal, J. K., Pinkston-Gosse, J., Syken, J., Stawicki, S., Wu, Y., Shatz, C., and Tessier-Lavigne, M. (2008))。
【0190】
PirBは軸索再生を阻害するミエリン阻害因子のための機能的受容体である(Science 322, 967-970.)。PirB/LILRBの発現は脳のある特定の領域に限定されるようであるとはいえ、それは神経突起伸長阻害のためにNgRと協同し得る(Atwal et al., ibid)。
【0191】
図9では、PirBをCOS7細胞に過剰発現させ、これら細胞がプロテインキナーゼA(PKA)の触媒サブユニット及びATPと共にインキュベートされた。細胞表面上のPirBはPKAの基質であり得る(図9A)。
【0192】
質量分析は、リン酸化部位がPirBの細胞外ドメインのセリン425であることを示す。
【0193】
PKA標的部位はヒト、ラット及びマウスにおいて保存されている(図9B)。これら結果は、PKAでの細胞外処理がNgRからのシグナリングに加えて、PirB/LILRBからのシグナリングに対しても有益な効果をもたらし得ることを示唆する。
【0194】
したがって、実施形態の1つにおいて本発明は、ニューロンからの神経突起伸長の阻害の軽減方法に関し、前記ニューロンはPirB/LILRB受容体を含み、前記方法は前記ニューロンをPirB/LILRBのリン酸化を引き起こすことのできる組成物と接触させることを含み、前記組成物はプロテインキナーゼA又はカゼインキナーゼIIを含む。好ましくは、前記組成物はプロテインキナーゼA及びカゼインキナーゼIIを含む。好ましくは、前記リン酸化は前記PirB/LILRBのセリン425に対応するアミノ酸残基のリン酸化である。
【0195】
Nogo及びPirB/LILRBの両方を標的とすることが有益であり得る;この実施形態において本発明は、ニューロンからの神経突起伸長の阻害の軽減方法を提供し、前記ニューロンはNogo受容体及びPirB/LILRB受容体を含み、前記方法は前記ニューロンをNogo受容体及びPirB/LILRB受容体のリン酸化を引き起こすことのできる組成物と接触させることを含み、前記組成物はプロテインキナーゼA又はカゼインキナーゼIIを含む。好ましくは、前記組成物はプロテインキナーゼA及びカゼインキナーゼIIを含む。好ましくは、前記リン酸化は前記Nogo受容体のセリン281に対応するアミノ酸残基のリン酸化及び前記PirB/LILRBのセリン425に対応するアミノ酸残基のリン酸化である。
【実施例10】
【0196】
実施例10−本発明による哺乳動物CNSの再生
本実施例において、本発明者らは哺乳動物CNSに対する本発明の作用を実証する。
【0197】
嗅内野のニューロンは、生後期間に海馬の歯状回への強力な投射を形成する。嗅内野海馬系は、アルツハイマー病において影響を受ける最初の領域のうちの1つであり、この系の問題は方向感覚障害及び記憶障害の両方をもたらすと考えられている。
【0198】
脳の器官型切片培養物はインビボ系の多くの特徴を保存し、無傷脳のモデルとして広範に用いられている。
【0199】
無傷脳における嗅内野海馬投射は、器官型切片インビトロ培養物において保存され得る。生後5〜7日目のマウスから調製される嗅内野海馬切片はインビトロで6日培養後、損傷からの不十分な再生を示す(Kluge, A., Hailer, N. P., Horvath, T. L., Bechmann, I., and Nitsch, R. (1998). Tracing of the entorhinal-hippocampal pathway in vitro. Hippocampus 8, 57-68. Prang, P., Del Turco, D., and Kapfhammer, J. P. (2001). Regeneration of entorhinal fibers in mouse slice cultures is age dependent and can be stimulated by NT-4, GDNF, and modulators of G-proteins and protein kinase C. Exp Neurol 169, 135-147.))。
【0200】
コンドロイチン硫酸プロテオグリカン及びミエリン関連タンパク質は主要な再生阻害因子であることが知られている(Mingorance, A., Sole, M., Muneton, V., Martinez, A., Nieto-Sampedro, M., Soriano, E., and del Rio, J. A. (2006). Regeneration of lesioned entorhino-hippocampal axons in vitro by combined degradation of inhibitory proteoglycans and blockade of Nogo-66/NgR signaling. FASEB J 20, 491-493.)。
【0201】
中枢神経系(CNS)の在住マクロファージである小膠細胞の移動が観察され、膠細胞による瘢痕様構造が損傷後の器官型培養物において形成され得る(Mingorance et al., ibid)。損傷に対する嗅内野海馬切片培養物のこれらすべての応答が、インビボの正常脳の応答と類似する。したがって、哺乳動物一般における本発明の適用可能性の例証としてのこのモデル系において本発明を実証することの妥当性は、十分確立されている。
【0202】
図10において、生後5日目又は6日目のマウスに由来する嗅内野海馬切片がインビトロでの日数(DIV)10日目に横切され、PKA及びATPと共に、或いはそれらなしに8日間インキュベートされた。
【0203】
Dil(1,1’−ジオクタデシル−3,3,3’3,−テトラメチルインドカルボシアニンペルクロレート、1,1'-dioctadecyl-3,3,3'3,-tetramethlindocarbocyanine perchlorate)は、側方に拡散して細胞全体を染色する親油性膜染料であるが、細胞間相互作用を介して移動することはできない。したがって、ニューロンの投射をDilで追跡し得る。
【0204】
処理なしの切片又はPKA若しくはATPで処理された切片において、Dilの位置は横切部の嗅内側に限られており(図10)、これら脳切片がインビボの脳におけるのと同じくらい不十分にしか神経回路網を再生させ得ないことを示している。これら切片がATP及びPKAの両方でインキュベートされた場合にのみ、Dilが横切部を越えて海馬の側に観察された(図10)。
【0205】
これら結果は、PKA及びATPの組合せでの処理がCNS再生の内因性阻害因子を克服し、本発明により神経回路網の再生を促進し得ることを示す。
【0206】
しかしながら、PKA及びATPでの処理後もDilは海馬の歯状回を越えては検出されなかった。このことは、この処理が正常海馬の本質的層構造を変化させないことを示す(図10)。これは、障害をもたらし得る想定外の再生を回避するためにも、CNS再生の促進にとって重要な特徴である。
【0207】
したがって、本発明によるPKAの外因的付加は、正常条件下では完全に阻害されるCNSの再生を促進するために有用な方法であると実証される。
[実施例の要約]
【0208】
本発明者らは、NogoシグナリングがNogo受容体のリン酸化により抑制され得ると開示する。Nogo受容体のリン酸化部位は細胞外である(図3及び4)。BDNFは、RAによりSH−SY5Y細胞から分化した神経細胞におけるNgR1の外部ドメインリン酸化を誘導する(図1)。NgRの外部ドメインリン酸化は、神経突起伸長を阻害するミエリン関連阻害因子であるNogo−66、MAG及びOMgpの結合を阻害する(図3及び4)。
【0209】
外部ドメインリン酸化は、ニューロン、免疫細胞、上皮細胞及び内皮細胞を含む多くのタイプの細胞で報告されてきた(F. A. Redegeld, C. C. Caldwell, M. V. Sitkovsky, Ecto-protein kinases: ecto-domain phosphorylation as a novel target for pharmacological manipulation? Trends Pharmacol Sci 20, 453-459 (1999))。外部ドメインリン酸化は、基質タンパク質が細胞膜に局在化した後の外部プロテインキナーゼ及びかかる局在化前の細胞内キナーゼの両方により触媒され得る(S. Yamauchi, Y. Tokita, S. Aono, F. Matsui, T. Shuo, H. Ito, K. Kato, K. Kasahara, A. Oohira, Phosphorylation of neuroglycan C, a brain-specific transmembrane chondroitin sulfate proteoglycan, and its localization in the lipid rafts. J Biol Chem 277, 20583-20590 (2002); J. Walter, A. Capell, A. Y. Hung, H. Langen, M. Schnolzer, G. Thinakaran, S. S. Sisodia, D. J. Selkoe, C. Haass, Ectodomain phosphorylation of beta-amyloid precursor protein at two distinct cellular locations. J Biol Chem 272, 1896-1903 (1997))。細胞内キナーゼは細胞内ATPをリン酸基の供給源として用いる一方で、外部プロテインキナーゼは細胞外ATPを用いる。生理学的条件下での細胞外ATPの濃度はミクロモルレベルと推定されてきた(E. M. Schwiebert, Extracellular ATP-mediated propagation of Ca(2+) waves. Focus on "mechanical strain-induced Ca(2+) waves are propagated via ATP release and purinergic receptor activation". Am J Physiol Cell Physiol 279, C281-3 (2000))。組織が損傷した際に、ATPは瀕死の細胞又は損傷した細胞から損傷した細胞膜を介して放出され得る。組織損傷により誘導され得る炎症は、ニューロンを含む様々な細胞タイプからのATPの放出をも誘導し得る(J. Sawynok, X. J. Liu, Adenosine in the spinal cord and periphery: release and regulation of pain. Prog Neurobiol 69, 313-340 (2003))。したがって、細胞外ATPの濃度は組織損傷により上昇し得る。外部ドメインリン酸化のインビトロ機能が報告されてきたにもかかわらず(F. A. Redegeld, C. C. Caldwell, M. V. Sitkovsky, Ecto-protein kinases: ecto-domain phosphorylation as a novel target for pharmacological manipulation? Trends Pharmacol Sci 20, 453-459 (1999))、そのインビボ機能は依然として明らかでない。
【0210】
近年、コラーゲンXVIIの外部ドメインリン酸化がメタロプロテイナーゼによるその脱落を阻害し得ることが示された(E. P. Zimina, A. Fritsch, B. Schermer, A. Y. Bakulina, M. Bashkurov, T. Benzing, L. Bruckner-Tuderman, Extracellular phosphorylation of collagen XVII by ecto-casein kinase 2 inhibits ectodomain shedding. J Biol Chem 282, 22737-22746 (2007))。コラーゲンXVIIの外部ドメインリン酸化はCK2により触媒され、そのリン酸化部位はメタロプロテイナーゼの標的部位に位置する(E. P. Zimina, A. Fritsch, B. Schermer, A. Y. Bakulina, M. Bashkurov, T. Benzing, L. Bruckner-Tuderman, Extracellular phosphorylation of collagen XVII by ecto-casein kinase 2 inhibits ectodomain shedding. J Biol Chem 282, 22737-22746 (2007))。NgRもメタロプロテイナーゼにより脱落すると知られており(A. R. Walmsley, G. McCombie, U. Neumann, D. Marcellin, R. Hillenbrand, A. K. Mir, S. Frentzel, Zinc metalloproteinase-mediated cleavage of the human Nogo-66 receptor. J Cell Sci 117, 4591-4602 (2004); A. R. Walmsley, A. K. Mir, S. Frentzel, Ectodomain shedding of human Nogo-66 receptor homologue-1 by zinc metalloproteinases. Biochem Biophys Res Commun 327, 112-116 (2005))、CK2によりリン酸化され得る(図1−4)一方で、そのリン酸化部位は脱落部位に含まれない。NgR1の脱落部位はアミノ酸358であり(A. R. Walmsley, G. McCombie, U. Neumann, D. Marcellin, R. Hillenbrand, A. K. Mir, S. Frentzel, Zinc metalloproteinase-mediated cleavage of the human Nogo-66 receptor. J Cell Sci117, 4591-4602 (2004))、そのリン酸化部位は281である(図3及び4)。本発明者らはRA処理SH−SY5Y細胞をウエスタンブロッティングにより分析した際にNgR1の消化された断片を検出し得なかった(図1)。NgR1の外部ドメインリン酸化はその脱落を制御しないようである。代わりに本発明者らは、NgRの外部ドメインリン酸化が神経突起伸長を阻害するミエリン関連阻害因子であるNogo、MAG及びOMgpの結合を遮断することを示す(図3及び4)。
【0211】
BDNFはNgR1のリン酸化を誘導し、RA処理SH−SY5Y細胞のNogoシグナリングを克服し得るにもかかわらず(図1)、ラット初代ニューロンからの神経突起伸長に対するNogoシグナリングの効果を減弱しない(図5)。さらに、内因性外部CK2活性が神経細胞と関連すると報告されてきたにもかかわらず(F. A. Redegeld, C. C. Caldwell, M. V. Sitkovsky, Ecto-protein kinases: ecto-domain phosphorylation as a novel target for pharmacological manipulation? Trends Pharmacol Sci 20, 453-459 (1999))、ATPのみを伴う神経細胞のインキュベーションはNogoシグナリングを阻害しなかった(図2)。したがって、内因性外部CK2活性はNogoシグナリングを阻害するには不十分なようである。これら結果は、NgRのリン酸化がCNSにおいて自然には生じ得ないことを示唆するのであり、このことは、NogoシグナリングがCNSにおける神経突起伸長を阻害し得るという事実と一致する(3、4)。
【0212】
本発明者らは、BDNFの代わりに外因性CK2を用いた細胞外処理が、Nogoシグナリングによる神経突起伸長阻害からニューロンをレスキューすることを示す(図5)。外因性CK2での細胞外処理はNgR1のセリン281をリン酸化し、このことはNogo、MAG及びOMgpのNgR1への結合を阻害し得る(図3)。NgR1のCK2リン酸化部位であるセリン281はNgR2において保存されており、NgR2のリン酸化はMAGの結合を阻害する(図4)。NgRを介するシグナリングはNogoシグナリングの主要な経路と考えられているとはいえ、近年の論文はNgR1−/−マウスに由来するニューロンが依然としてNogoシグナリングによる神経突起伸長阻害に感受性があることを示す(O. Chivatakarn, S. Kaneko, Z. He, M. Tessier-Lavigne, R. J. Giger, The Nogo-66 receptor NgR1 is required only for the acute growth cone-collapsing but not the chronic growth-inhibitory actions of myelin inhibitors. J Neurosci 27, 7117-7124 (2007))。このことは、NogoシグナリングがNgRを介してのみならず、未知のNogo受容体を介して、ニューロンからの神経突起伸長を阻害し得ることを示唆する。NgR1の欠損によってはNogo−66断片の阻害効果からニューロンがレスキューされない一方で(O. Chivatakarn, S. Kaneko, Z. He, M. Tessier-Lavigne, R. J. Giger, The Nogo-66 receptor NgR1 is required only for the acute growth cone-collapsing but not the chronic growth-inhibitory actions of myelin inhibitors. J Neurosci 27, 7117-7124 (2007))、CK2での細胞外処理によりレスキューされ得る(図5)。したがってCK2処理は、ミエリン関連阻害因子であるNogo−66、MAG及びOMgpによる神経突起伸長阻害の、NgR依存的経路及びあらゆる未知の非依存的経路の両方を遮断するはずである。CK2の標的部位であるセリン281はPKAの標的部位でもあるので(図4)、PKAでの細胞外処理は、CK2と同様、Nogoシグナリングを遮断する際に有用である。
【0213】
要約すると、本発明者らは、BDNFがRA処理SH−SY5Y細胞においてCK2様活性によりNgR1のリン酸化を誘導し、そのことがNogoシグナリングによる神経突起伸長阻害を克服することを見出す。しかしながら、BDNFによるNogoシグナリング阻害はラットニューロンでは生じない。BDNFの代わりに外因性CK2を用いた細胞外処理が、Nogoシグナリングによる神経突起伸長阻害からニューロンをレスキューする。CK2は、NgR1及びNgR2の両方の外部ドメインをリン酸化し、そのことによりMAGのNgR2への結合並びにNogo、MAG及びOMgpのNgR1への結合の両方が遮断される。これら結果は、Nogo受容体のリン酸化がNogoシグナリングを抑制し得ることを示す。したがって、Nogo受容体のリン酸化が、Nogoシグナリングの操作のための新規標的であることが実証される。
【0214】
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38. E. P. Zimina, A. Fritsch, B. Schermer, A. Y. Bakulina, M. Bashkurov, T. Benzing, L. Bruckner-Tuderman, Extracellular phosphorylation of collagen XVII by ecto-casein kinase 2 inhibits ectodomain shedding. J Biol Chem 282, 22737-22746 (2007).
39. A. R. Walmsley, G. McCombie, U. Neumann, D. Marcellin, R. Hillenbrand, A. K. Mir, S. Frentzel, Zinc metalloproteinase-mediated cleavage of the human Nogo-66 receptor. J Cell Sci 117, 4591-4602 (2004).
40. A. R. Walmsley, A. K. Mir, S. Frentzel, Ectodomain shedding of human Nogo-66 receptor homologue-1 by zinc metalloproteinases. Biochem Biophys Res Commun 327, 112-116 (2005).
【0215】
上で本明細書において言及されたすべての出版物が、本明細書に参照により組み込まれる。記載された本発明の態様及び実施形態の様々な修正及びバリエーションが、本発明の範囲から逸脱することなく当業者にとって明らかであろう。本発明が具体的な好ましい実施形態との関連で説明されたとはいえ、本請求項に記載の本発明がかかる具体的実施形態に不当に限定されるべきでないことは理解されるべきである。実際のところ、本発明を実施するために記載されている様式の、当業者にとって明らかな様々な修正は、添付の請求項の範囲内であることが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニューロンからの神経突起伸長の阻害の軽減方法であって、
前記ニューロンがNogo受容体を含み、
前記方法が前記ニューロンをNogo受容体のリン酸化を引き起こすことのできる組成物と接触させることを含み、前記組成物がプロテインキナーゼA又はカゼインキナーゼIIを含む方法。
【請求項2】
組成物がプロテインキナーゼA及びカゼインキナーゼIIを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
リン酸化がNogo受容体のセリン281に対応するアミノ酸残基のリン酸化である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
Nogo受容体がヒトNgR1である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
脊髄損傷のための医薬の製造のための、プロテインキナーゼAポリペプチドの使用。
【請求項6】
脊髄損傷の治療における使用のためのプロテインキナーゼAポリペプチド。
【請求項7】
脊髄損傷のための医薬の製造のための、カゼインキナーゼIIポリペプチドの使用。
【請求項8】
脊髄損傷の治療における使用のためのカゼインキナーゼIIポリペプチド。
【請求項9】
医薬としての使用のための、プロテインキナーゼA及びカゼインキナーゼIIを含む組成物。
【請求項10】
脊髄損傷のための医薬の製造のための、請求項9に記載の組成物の使用。
【請求項11】
脊髄損傷の治療における使用のための請求項9に記載の組成物。
【請求項12】
神経突起伸長を引き起こすための医薬の製造のための、プロテインキナーゼAポリペプチド又はカゼインキナーゼIIポリペプチドの使用。
【請求項13】
神経突起伸長を引き起こすことにおける使用のためのプロテインキナーゼAポリペプチド又はカゼインキナーゼIIポリペプチド。
【請求項14】
対象の脊髄損傷の治療方法であって、前記対象にNogo受容体のリン酸化を引き起こすことのできる組成物を有効量投与することを含み、前記組成物がプロテインキナーゼA又はカゼインキナーゼIIを含む方法。
【請求項15】
投与が損傷部位への局在投与である、請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【公表番号】特表2012−519676(P2012−519676A)
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−552505(P2011−552505)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【国際出願番号】PCT/GB2010/000391
【国際公開番号】WO2010/100428
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(503276997)メディカル リサーチ カウンシル (10)
【Fターム(参考)】