説明

神経誘導管

【課題】生分解性と十分な強度を有し、神経突起を促進効果が高い神経誘導管を提供する。
【解決手段】本発明のペプチドで修飾されたオリゴ乳酸及び生分解性ポリマーを主成分とすることを特徴とする神経誘導管、特にペプチドコンジュゲートがIKVAVであることを特徴とする神経誘導管により、生分解性と十分な強度を有し、神経細胞成長促進効果が高い神経誘導管とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経誘導管に関する。さらに詳細には、欠損した神経組織をより効率的に再生させることができる、ペプチドで修飾されたオリゴ乳酸及び生分解性ポリマーを主成分とすることを特徴とする神経誘導管に関する。
【背景技術】
【0002】
欠損した末梢神経組織は損傷末端同士を外科的に端端縫合することによってなされていた。しかし、損傷末端同士の間隙がある程度以上の長さの場合、端端縫合すると張力が生じ、停滞した血流によって再生過程が妨げられることが知られている。また、多くの場合は欠損した末梢神経組織の断端が傷んでおり、そうした傷んだ断端をそのまま縫合すると、傷んだ断端が瘢痕化して神経の再生が阻害されることが知られている。そのため、欠損した末梢神経組織の断端が傷んでいる場合は、その断端を切除する必要があり、端端縫合が困難となる。端端縫合が困難である場合は、自家神経移植が行われる。自家神経移植には、運動機能を損なうことのないよう、機能損失が容認できる知覚神経が用いられている。しかし、知覚神経といえども知覚障害を引き起こす可能性は十分にあり、不必要なところはない。加えて、生体に必要以上にメスを入れることが良策でないことは容易に想像できる。そこで、自家神経移植を避けるために、神経誘導管(ガイドチューブ)の開発が求められている。
【0003】
これまでに、人工器具を用いて神経細胞増殖の足場を形成し、神経を再生させ、元の機能を回復させる方法について、種々の検討がなされてきた。しかしながら、管状体のみを用いた場合、切断された神経の両端部から若干の細胞増殖は見られるが、切断した神経が再度接合して回復することは困難であった。これは、細胞が増殖する場合、一般的に管状体の足場に付着し、そこから切断部分を埋める方向に増殖して行くが、切断部分を覆うのみでは切断端の間に空隙があり、その部分を全て埋め尽くすまでの間に細胞の増殖が止まるためである。
【0004】
人工材料によるガイドチューブとしては、まずシリコンが検討された。シリコンチューブは生体内で比較的異物反応が少なく、動物実験のみならず、ヒトにおいても実績を上げてきた。しかし、生体親和性がなく、チューブ内壁に沿った軸索伸展は見られなかった。また、シリコンチューブでは、チューブの内部と外部とで体液交換ができない。さらに、生体吸収性がなく、長期の埋入では不快感や痛みが生じてくる。そのため、神経再生後にチューブを取り除くための二度目の手術が必要であるという問題があった。
【0005】
より理想的なガイドチューブとして、チューブを取り除くための二度目の手術が必要ないようにするため、体内に残留することのない生体吸収性材料からなる管状体を用いて神経を再生しようとする試みがなされた(非特許文献1参照)。
【0006】
また、生体吸収材料として合成高分子のポリグリコール酸(poly(glycolicacid):PGA)やPLA、天然高分子のコラーゲンなどが検討された。しかし、合成高分子材料では再生が遅いといった問題や、天然高分子材料では強度が不十分といった問題があり、いずれも自家移植にはおよばず、満足できる結果は得られていない。さらに、これらを補うために、PGAとコラーゲン、ラミニンの複合化材料が開発されている(非特許文献2参照)。しかし、コラーゲン、ラミニンの異物除去は完全ではない。一方、神経再生に大きく影響するといわれているシュワン細胞をあらかじめチューブ内で培養しておいたハイブリッド型ポリ乳酸−カプロラクトン共重合体(P(LA/CL))チューブでは、良好な結果を得ている(非特許文献3参照)。
【0007】
さらに、生体吸収性材料の管状体内部に神経細胞の増殖を誘導する足場を形成し、神経を再生させる種々の試みがなされている。例えば、管状体内部にコラーゲンの繊維束を挿入し、フィブロネクチン(FN)でコーティングしたものがある(特許文献1、非特許文献4参照)。
【非特許文献1】鈴木京子ら著、「人工臓器」、1998年、第27巻、第2号、p.490―494
【非特許文献2】Matsumoto K、Ohnishi K、Kiyotani T、Sekine T、Ueda H、Nakamura T、Endo K、Shimizu Y、「Brain Research」、2000年6月、868巻、p.315―328
【非特許文献3】Hadlock T、Elisseeff J、Langer R.Vacanti J、Cheney M、「Arch Otolaryngol Head Neck Surg」、1998年、第124巻、p.1081―1086
【非特許文献4】島田ひろき等著、「人工臓器」、1993年、第22巻、第2号、p.359―363
【特許文献1】特開平5−237139号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したような、管状体内部にコラーゲンの繊維束を挿入し、フィブロネクチン(FN)でコーティングしたもの(特許文献1、非特許文献4参照)は、強度が不十分であるため、チューブ端部が縫合部で裂けやすいという恐れがあった。
【0009】
また、上述したように、ハイブリッド型ポリ乳酸−カプロラクトン共重合体(P(LA/CL))チューブでは良好な結果を得ている(非特許文献3参照)が、自家シュワン細胞の培養には時間を要し、緊急の場合には対応できないという問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、生体吸収性で安全で緊急時にも即座に用いることが可能で十分な強度を有する神経誘導管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、ペプチドで修飾されたオリゴ乳酸を用いた神経誘導管を発明するに至った。
【0012】
即ち、本発明の第1の要旨は、ペプチドとオリゴ乳酸とがペプチド結合により結合した化合物、を含む樹脂組成物を成型してなる神経誘導管に存する。本発明の第2の要旨は、上前本発明の第1の要旨にかかる神経誘導管において、ペプチドが、少なくともIle−Lys−Val−Ala−Val配列を有することを特徴とする神経誘導管に存する。また、本発明の第3の要旨は、上記本発明の第1又は第2の要旨にかかる神経誘導管において、オリゴ乳酸が、下記一般式1(mは1〜100の整数を表す。)で表されることを特徴とする神経誘導管に存する。
【0013】
【化1】

【0014】
さらに、本発明の第4の要旨は、上前本発明の第1〜第3の要旨にかかる神経誘導管において、樹脂組成物が、生分解性ポリマーを含むことを特徴とする神経誘導管に存する。また、本発明の第5の要旨は、上前本発明の第1〜第4の要旨にかかる神経誘導管において、神経誘導管の内壁に沿って細胞が成長することを特徴とする神経誘導管に存する。さらに、本発明の第6の要旨は、下記一般式2で表されるオリゴ乳酸単位及び下記一般式3で表されるペプチドを含むことを特徴とする、ペプチドで修飾されたオリゴ乳酸(nは1〜500の整数、oは1〜10の整数を表す。A及びBはそれぞれ単結合、又は2価の有機基を表す。)に存する。
【0015】
【化2】

【0016】
【化3】

【0017】
本発明の第7の要旨は、上前本発明の第6の要旨にかかるペプチドで修飾されたオリゴ乳酸を含む樹脂組成物を成型してなる成型体であり、第8の要旨は、上前本発明の第1、第4又は第5の要旨にかかる神経誘導管において、一般式3で表されるペプチドと一般式2で表されるオリゴ乳酸単位を備えるオリゴ乳酸とがペプチド結合により結合した化合物、を含む樹脂組成物を成形してなることを特徴とする神経誘導管に存する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、生体内で吸収され十分な強度を有する神経の増殖に有効な神経誘導管を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明におけるオリゴ乳酸の乳酸とは、L−乳酸、D−乳酸、L−乳酸とD−乳酸の任意の割合の混合物から選ばれる乳酸のことであり、オリゴ乳酸とは乳酸のオリゴマーを意味する。また、オリゴマーとは、乳酸などの単量体が複数結合した構造を有する化合物を意味する。本発明のオリゴ乳酸の場合、乳酸の単量体の結合数nは、通常、2以上500以下であるが、nの下限値は、好ましくは3、より好ましくは5、さらに好ましくは10である。nの上限値は、好ましくは100、より好ましくは50、さらに好ましくは25である。nが500より大きいとペプチドの効果が小さくなる。
【0020】
また、本発明のペプチドで修飾されたオリゴ乳酸を神経誘導管に使用する場合、乳酸の単量体の結合数mは、通常、2以上100以下であるが、mの下限値は、好ましくは3、より好ましくは5、さらに好ましくは10である。mの上限値は、好ましくは50、より好ましくは30、さらに好ましくは25である。mが100より大きいとペプチドで修飾されたオリゴ乳酸が神経誘導管の表面に移行しにくくなり、好ましくない。
【0021】
ペプチドで修飾されたオリゴ乳酸とは、オリゴ乳酸と複数のアミノ酸がペプチド結合により結合した化合物を意味し、アミノ酸は通常αアミノ酸である。αアミノ酸としては、例えば、L−イソロイシン、D−イソロイシン、L−アロイソロイシン、D−アロイソロイシン、L−リジン、D−リジン、L−バリン、D−バリン、L−α−アラニン、D−α−アラニン、グリシン、L−ノルバリン、D−ノルバリン、L−ロイシン、D−ロイシン、L−ノルロイシン、D−ノルロイシン、L−フェニルアラニン、D−フェニルアラニン、L−チロシン、D−チロシンなどを挙げられるが、この中でも、L−イソロイシン、D−イソロイシン、L−アロイソロイシン、D−アロイソロイシン、L−リジン、D−リジン、L−バリン、D−バリン、L−α−アラニン、D−α−アラニンが好ましく用いられる。
【0022】
ペプチドで修飾されたオリゴ乳酸に含まれるペプチド部分は、アミノ酸配列が複数結合した構造を示す。アミノ酸配列の結合数は、通常、1以上50以下である。アミノ酸の結合数の下限値は、好ましくは2、さらに好ましくは3であり、上限値は、好ましくは10さらに好ましくは7である。アミノ酸結合数の最も好ましい値は5である。
【0023】
本発明において、ペプチドで修飾されたオリゴ乳酸に含まれるペプチド部分の最も好ましい構造は、下記一般式3で表される。
【0024】
【化4】

【0025】
上記一般式3において、oは正の整数を表し、好ましくは1以上10以下である。oが大きい方が、より神経細胞と接触しやすくなるという効果を得られると考えられる。しかし、上記mに対してoが大きくなりすぎると水溶性が高くなり、ポリ乳酸と混合させる際にうまく混合できずに溶出してしまう虞があるため、オリゴ乳酸との親水疎水バランスを考えなければならない。
【0026】
また、上記一般式3において、A及びBはそれぞれ、ペプチド、2価の芳香族基、2価のアルキル基、アルケニル基、酸素、硫黄、エステル、エーテル、ウレタン、などの有機基を表すが、好ましくはペプチド又は単結合であり、最も好ましくはA及びBが、ともに単結合である。
【0027】
本発明のオリゴ乳酸の合成法としては、複数の乳酸を脱水重縮合反応により合成する方法、乳酸エステルのエステル交換反応により合成する方法、ラクチドの開環反応により合成する方法などを挙げられるが、好ましくは複数の乳酸の脱水重縮合反応により合成する方法が選ばれる。
【0028】
複数の乳酸の脱水重縮合反応によりオリゴ乳酸を合成する場合は、オリゴ乳酸を合成した後、ペプチドで修飾されたオリゴ乳酸を合成する前に、オリゴ乳酸の水酸基を不活性化させることが好ましい。不活性化させる方法としては、無水酢酸などによりアセチル化させる方法が好ましい手段として用いられる。
【0029】
ペプチドで修飾されたオリゴ乳酸の合成方法は、末端アセチル化オリゴ乳酸にペプチドの数量体を反応させても良いし、末端アセチル化オリゴ乳酸にアミノ酸を結合させて、ペプチド連鎖を延長させていっても良いが、末端アセチル化オリゴ乳酸にペプチドの数量体を反応させる方が好ましい。
【0030】
本発明における生分解性ポリマーとは、微生物により分解されるポリマーや生体内で分解されるポリマーを示し、例えば、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸、ポリDL−乳酸、ポリ乳酸―ポリエーテル共重合体、ポリ乳酸グリコール酸共重合体、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリプロピレンカーボネート、ポリパラジオキサノンなどの合成高分子や、多糖類、コラーゲン、ゼラチンなどの天然高分子や、ポリ4−ヒドロキシブチレートなどの微生物産系高分子などを挙げられる。この中でもポリL−乳酸、ポリD−乳酸、ポリDL−乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸グリコール酸共重合体、ポリ乳酸―ポリエーテル共重合体が好ましく、より好ましくは、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸、ポリ乳酸―ポリエーテル共重合体であり、さらに好ましくはポリL−乳酸、ポリD−乳酸であり、最も好ましくはポリL−乳酸である。
【0031】
本発明の神経誘導管を構成する材料のうち、ペプチドで修飾されたオリゴ乳酸及び生分解性ポリマーの合計量が占める割合は、50質量%以上であるが、好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、最も好ましくは90質量%以上である。神経誘導管を構成する材料のうち、ペプチドで修飾されたオリゴ乳酸及び生分解性ポリマー以外の材料としては、可塑剤、安定剤、生体吸収性調節剤、表面処理剤などを含んでいても良いが、好ましくは可塑剤が添加される。可塑剤としては、ポリエーテル、ポリエステルなどが挙げられる。ポリエーテルとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコール共重合体が挙げられ、ポリエステルとしては、ポリカプロラクトンなどが挙げられる。本発明の神経誘導管を構成する材料のうち、ペプチドで修飾されたオリゴ乳酸及び生分解性ポリマーの合計量が占める割合が50質量%未満であると、機械的強度が低下するか、又は神経成長促進作用が損なわれ好ましくない。
【0032】
ポリ乳酸にポリエーテルを可塑剤として添加する代わりに、グリコール酸、ポリエーテル、カプロラクトンから選ばれる1つ以上の成分を共重合させても良い。この中でもポリ乳酸―ポリエーテル共重合体、ポリ乳酸―ポリグリコール酸が好ましく、ポリ乳酸―ポリエチレングリコールブロック共重合体がさらに好ましく用いられる。共重合させた場合の共重合体中に含まれる乳酸単位は、好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、最も好ましくは70質量%以上である。
【0033】
本発明の神経誘導管を構成するペプチドで修飾されたオリゴ乳酸と生分解性ポリマーの質量比率は、生分解性ポリマー100質量部に対してペプチドで修飾されたオリゴ乳酸は通常10質量部以下である。ペプチドで修飾されたオリゴ乳酸の上限値は好ましくは40質量部、より好ましくは10質量部、さらに好ましくは5質量部である。またペプチドで修飾されたオリゴ乳酸の下限値は好ましくは0.01質量部、より好ましくは0.1質量部、さらに好ましくは1質量部である。ペプチドで修飾されたオリゴ乳酸が40質量部より多いと、神経誘導管の強度が低下して好ましくない。またペプチドで修飾されたオリゴ乳酸が0.01質量部より少ないと、神経細胞成長促進効果が低下し好ましくない。
【0034】
本発明の神経誘導管は、公知の成型方法により作成することができる。成型方法の例としては、射出成型、キャスト成型、スピンコート、エレクトロスピニングを挙げられるが、低温で成型できる点で、キャスト成型、スピンコート、エレクトロスピニングが好ましく、神経誘導管の機能発現のための相分離構造を形成させるには、スピンコート及びエレクトロスピニングが好ましく用いられる。またエレクトロスピニングが製造の効率の点で最も好ましい。
【0035】
本発明の神経誘導管は、目的の形状に成型後、物理的又は化学的表面処理、若しくは架橋等を行っても良いし、表面処理又は架橋後に目的の形状に成型しても良い。また、2種類以上の表面処理又は架橋等を併用しても良い。
【0036】
本発明の神経誘導管は、使用する前にγ線滅菌、紫外線滅菌等公知の方法により滅菌することが好ましい。
【実施例】
【0037】
以下に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
(1)IKVAVペプチド合成
各オリゴペプチドの合成は全てFmoc固相合成法により、大気下で、手合成にて行った。5量体のオリゴペプチドIKVAVを合成するために、まず、Fmoc−PAL−PEG−PS(9−フルオレニルメトキシカルボニル−PAL−ポリエチレングリコール−ポリスチレン)樹脂(以下、単に「樹脂」という。)をプラスチック空カラムに秤量し、ジメチルホルムアミド(DMF)で膨潤させた。その後、上記樹脂にFmoc−アミノ酸を、Fmoc−アミノ酸(V)、Fmoc−アミノ酸(A)、Fmoc−アミノ酸(V)、Fmoc−アミノ酸(K)、Fmoc−アミノ酸(I)の順で連続的に縮合させた。具体的には、Fmoc−アミノ酸はそれぞれ上記樹脂に対して3倍等量を用いて、Fmoc(保護基)の除去(脱Fmoc)には、20%ピペリジン/DMFを用いた。活性化剤としては、上記樹脂に対して3倍等量のN−ヒドロキシベンゾトリアゾール1水和物(HOBt)、同3倍等量の2−(1H−ベンゾトリアゾール−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロフォスフェート(HBTU)、及び同6倍等量(1.50mmol)のジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)を用いた。
【0039】
オリゴペプチドIKVAVの合成過程において、脱Fmocとカップリングが行われているかについては、各々の反応をカイザーテストにて確認した。脱Fmocでは、カイザーテストを行って陰性(黄)の場合は陽性(青)となるまで反応を繰り返し、カップリングでは、カイザーテストを行って陽性(青)の場合は陰性(黄)となるまで、反応を繰り返した。このようにして、オリゴペプチドIKVAVを樹脂に付着させた。
【0040】
得られたオリゴペプチドIKVAV付き樹脂の一部を分取し、DMF、DCM、メタノールの順番に洗浄し、減圧乾燥した後、85%トリフルオロ酢酸(TFA)、並びに、スカベンジャーとして7.5%m−クレゾール、及び7.5%チオアニソールでカクテル溶液を調整し、それを各カラムに加え、室温で約1時間反応させた。その後、この反応で得た反応液を遠沈管に取り出し、反応後の樹脂をTFAで5回洗浄し、その洗浄液も同遠沈管に取った。そして、TFAの容積が1/10になるまで揮発させた後、約20倍等量のジエチルエーテルに滴下して再沈殿させた。その後、冷却遠心(8500rpm、0℃、20分間)し上澄み溶液を除去した。この再沈殿を3〜6回繰り返し、減圧乾燥して粗オリゴペプチドを得た。このようにして、樹脂からオリゴペプチドIKVAVを切り出した。
【0041】
得られた粗オリゴペプチドをHPLCの220nm(ペプチド結合の吸収波長)、300nm(Fmoc基の吸収波長)でモニターし、分析を行った。その結果、220nmにメインピークが見られ、300nmでは吸収されていないことを確認した。
【0042】
(2)オリゴ乳酸合成
乳酸モノマーを脱水重縮合反応させることによりオリゴ乳酸を合成した。具体的には、乳酸の90%水溶液を145℃で3時間加熱後、145℃のまま減圧し、約20kPa(150Torr)で3時間保持した。その後、155℃、約0.4kPa(3Torr)で3時間、185℃、約0.4kPa(3Torr)で3時間、脱水縮合反応を行った。このようにしてオリゴ乳酸を合成した後、無水酢酸によって、合成されたオリゴ乳酸の水酸基を不活性化させ、末端がアセチル化されたオリゴ乳酸(acOLLA)を得た。
【0043】
(3)acOLLA−IKVAVコンジュゲート合成
(1)で合成したオリゴペプチドIKVAV付き樹脂の一部を分取した。その後、オリゴペプチドIKVAVを樹脂から切り出さずに、活性化剤として、樹脂に対して5倍等量のHOBt、同5倍等量のHBTU、及び、同10倍等量のDIPEAを加え、溶媒としてDMFを加え、(2)で得たacOLLAを同5倍等量加えて、固相上にてカップリングを行った。カップリングが行われているかどうかは、(1)と同様にカイザーテストにて陰性(黄)となったことより確認した。樹脂からの切り出し操作についても(1)と同様の方法で行った。このようにして、acOLLA−IKVAVを得た。
【0044】
得られた生成物をHPLCの220nm(ペプチド結合の吸収波長)でモニターし、分析を行い、疎水基の導入の確認行った。
【0045】
(4)エレクトロスピニング不織布の作製
エレクトロスピニングによって不織布を作製した。この作製方法を、図1に概略的に示す。
【0046】
溶質に(3)で得られたacOLLA−IKVAV(1wt%/ポリL乳酸)を用い、溶媒としてヘキサフルオロイソプロピルアルコール(HFIP)を用いて、ポリマー溶液(20w/v%)を作製した。このポリマー溶液をプラスチックシリンジ1に取り、高圧電圧供給システム2によって電圧をかけながら押し出し(13kV、3mL/h)、ターゲット3に紡糸した。ターゲット3にはステンレス製の板を用い、図1に矢印で示したように回転(109rpm)させながら10分間紡糸した。その後、2日〜3日室温で減圧乾燥した。不織布の厚さはマイクロメーターにより測定した。
【0047】
(5)細胞播種実験
細胞播種実験はラットの後根神経節(DRG)細胞を単離して用いた。ラットより脊柱摘出し、脊柱内部よりDRGを採取した。その後、メスで神経線維を除去し、PBS800μL(Ice−cold)に入れ、引き続き下記の酵素処理を行った。
【0048】
酵素処理は、2.5%Trypsinを100μL(final 0.25%)、70U/μL DNaseを3μL(final 200U/mL)、1%collagenaseを100μL(final 0.1%)(total 1mL)を含む酵素液を用いて、37℃で30分間(2分〜3分毎にタッピング)行った。
【0049】
次に、DMEM+10%FBS9mLを添加し、ピペッティングして、セルストレーナー(40μm)に通し、遠心(800rpm、6分)後、上清を除去した。次いで、Sato medium(+Fluorodeoxyuridine)を添加し、ピペッティングしてDRG細胞を単離した。
【0050】
単離したDRG細胞を4×104cells/cm播種した。サンプルとして、(3)で作製した不織布を用いた。この不織布の表裏を各30分間UV照射して滅菌後、24穴プレートに一枚ずつ入れ、上から滅菌済み金属リングをかぶせて固定した。37℃、5%CO雰囲気下で培養し、4日後に中性ホルマリン緩衝液で固定した。その後、ギムザ染色し、顕微鏡で観察した。そして、神経突起伸長細胞をカウントし、接着細胞数で割り付けた。その結果、神経突起伸張細胞率は、65%でありacOLLA−IKVAVコンジュゲートで修飾した神経誘導管は、神経突起の伸張を促進できることがわかった。
【0051】
(比較例1)
実施例1の(4)においてacOLLA−IKVAVコンジュゲート及びポリL乳酸のブレンド物に替えて、ポリL乳酸のみでエレクトロスピニングによって不織布を作製した。それ以外は実施例1と同様に細胞播種実験を行った結果、神経突起伸張細胞率は49%であり、この神経誘導管は神経突起の伸張をあまり促進していないことがわかった。
【0052】
(比較例2)
実施例1の(4)においてacOLLA−IKVAVコンジュゲート及びポリL乳酸のブレンド物に替えて、オリゴペプチドIKVAV及びポリL乳酸のみでエレクトロスピニングによって不織布を作製した。それ以外は実施例1と同様に細胞播種実験を行った結果、神経突起伸張細胞率は49%であり、この神経誘導管はポリL乳酸からなる神経誘導管と比べ、突起の伸張に関して改善が認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】エレクトロスピニングによる不織布の作製方法を概略的に示した図である。
【符号の説明】
【0054】
1 プラスチックシリンジ
2 高圧電圧供給システム
3 ターゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプチドとオリゴ乳酸とがペプチド結合により結合した化合物、を含む樹脂組成物を成型してなる神経誘導管。
【請求項2】
前記ペプチドが、少なくともIle−Lys−Val−Ala−Val配列を有することを特徴とする、請求項1に記載の神経誘導管。
【請求項3】
前記オリゴ乳酸が、下記一般式1(mは1〜100の整数を表す。)で表されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の神経誘導管。
【化1】

【請求項4】
前記樹脂組成物が、生分解性ポリマーを含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の神経誘導管。
【請求項5】
管の内壁に神経細胞が沿って成長することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の神経誘導管。
【請求項6】
下記一般式2で表されるオリゴ乳酸単位及び下記一般式3で表されるペプチドを含むことを特徴とする、ペプチドで修飾されたオリゴ乳酸(nは1〜500の整数、oは1〜10の整数を表す。A及びBはそれぞれ単結合、又は2価の有機基を表す。)。
【化2】

【化3】

【請求項7】
請求項6に記載のペプチドで修飾されたオリゴ乳酸を含む樹脂組成物を成型してなる成型体。
【請求項8】
前記一般式3で表される前記ペプチドと前記一般式2で表される前記オリゴ乳酸単位を備える前記オリゴ乳酸とがペプチド結合により結合した前記化合物、を含む前記樹脂組成物を成形してなることを特徴とする、請求項1、4又は5のいずれか1項に記載の神経誘導管。

【図1】
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