説明

科学実験用温度制御装置

【課題】 高温域で操作を行っているときでも冷凍サイクルを安定した状態で運転することができ、冷却対象物を効率よく冷却することができる科学実験用温度制御装置を提供する。
【解決手段】 冷凍サイクルを有する冷却手段である冷凍機16と加熱手段であるヒータ17とを備えた科学実験用温度制御装置において、前記冷凍サイクルの冷媒圧縮機23の前段に、該冷媒圧縮機23に吸入される循環冷媒ガスの温度を調節する熱交換器27を配置し、循環冷媒ガスを冷却又は加熱して冷媒圧縮機23に吸入されるガス温度を安定化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、科学実験用温度制御装置に関し、詳しくは、試料を所定温度に加熱又は冷却する科学実験用の恒温槽や恒温器の温度を所定の温度条件に制御するための温度制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製薬、農薬、香料、顔料、染料等の研究開発部門では、有機合成、高分子合成、無機合成等の実験を行う際に、操作温度を一定に保ったり、一定条件で変化させたりする必要があるため、冷却手段と加熱手段とを備えた恒温槽等の装置を使用して反応容器内の温度を操作条件に応じて制御するようにしている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このような恒温槽等では、室温以下の低温から100℃以上の高温まで幅広い範囲で温度調整を行う必要があり、操作条件によっては、100℃以上の高温域で操作を行った後に、急速に室温以下にまで冷却する温度調整を行うこともあった。
【特許文献1】特許第3023637号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、冷却手段として冷凍サイクルを有する冷凍機を使用した場合、100℃以上の高温域で操作を行っているときには、冷凍サイクルの冷媒蒸発器が高温雰囲気に晒されるため、冷媒蒸発器で蒸発して冷媒圧縮機に吸入される循環冷媒ガスも高温となり、冷媒圧縮機に大きな負担がかかり、冷却速度が安定しなかったりするなどの問題が発生することがあった。このため、従来は、高温に制御した恒温槽から低温に制御した別の恒温槽に反応容器を移動させて対応していた。
【0005】
そこで本発明は、高温域で操作を行っているときでも冷凍サイクルを安定した状態で運転することができ、冷却対象物を効率よく冷却することができる科学実験用温度制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の科学実験用温度制御装置は、冷凍サイクルを有する冷却手段と加熱手段とを備えた科学実験用温度制御装置において、前記冷凍サイクルの冷媒圧縮機の前段に、該冷媒圧縮機に吸入される循環冷媒ガスの温度を調節する熱交換器を配置したことを特徴としている。
【0007】
さらに、本発明の科学実験用温度制御装置は、前記熱交換器が、前記循環冷媒ガスが流れるフィン付きチューブと、該フィン付きチューブに大気を吹き付ける送風手段とを備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の科学実験用温度制御装置によれば、冷媒圧縮機に吸入される循環冷媒ガスは、前段の熱交換器で大気等と熱交換することによって大気温度付近に温度調節されるので、冷媒蒸発器で蒸発した循環冷媒ガスの温度が高い場合でも、また、低い場合でも、熱交換器により循環冷媒ガスの温度を一定範囲に調節することができる。これにより、循環圧縮機で吸入する循環冷媒の温度を安定化させることができ、循環冷媒の圧縮を効率よく行うことができ、冷凍サイクルを有する冷却手段の冷却効率を向上させることができる。
【0009】
また、熱交換器をフィン付きチューブと送風手段とで形成することにより、循環冷媒ガスと大気との熱交換効率を向上させることができ、熱交換器の小型化等を図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は本発明の科学実験用温度制御装置の第1形態例を示すもので、循環液により反応容器を加熱冷却する実験装置に適用した例を示す系統図である。本形態例に示す科学実験用液槽は、反応容器11に設けたジャケット12に循環液(二次加熱・冷却媒体)を循環させて反応容器11内を所定の操作温度に調節するものであって、二次加熱・冷却媒体である循環液は、循環ポンプ13により、循環液経路14a,14bを通ってジャケット12及び主熱交換器15を循環し、この主熱交換器15にて所定の温度に加熱又は冷却される。
【0011】
前記主熱交換器15には、冷凍サイクルを有する冷却手段である冷凍機16と、加熱手段であるヒータ17とが設けられており、図示しないコントローラにより、反応容器11の設定温度に応じて冷却量及び加熱量が調節されている。また、循環液経路14a,14bには、ジャケット12側に設けられる配管12a,12bを接続するための接続部18a,18bがそれぞれ設けられている。
【0012】
本形態例に示す冷凍機16は、低温回路21と高温回路22とを有する二元冷凍機であって、高温回路22を循環する冷媒で低温回路21を循環する低温側循環冷媒ガスを凝縮させる方式を採用している。低温回路21は、低温側循環冷媒ガスを所定圧力に圧縮する低温側冷媒圧縮機23と、圧縮された低温側循環冷媒ガスを冷却して凝縮させる低温側凝縮器24と、凝縮した低温側循環冷媒液を膨張させる低温側膨張弁25と、膨張した低温側循環冷媒液を蒸発させる低温側蒸発器26と、蒸発した低温側循環冷媒ガスを大気と熱交換させる熱交換器27とを有しており、低温側冷媒圧縮機23の作用によって前記各機器を低温側循環冷媒が循環しつつ、前記主熱交換器15に配置された前記低温側蒸発器26にて前記循環液を冷却する。
【0013】
また、高温回路22は、高温循環冷媒ガスを所定圧力に圧縮する高温側冷媒圧縮機31と、圧縮された高温側循環冷媒ガスを冷却して凝縮させる高温側凝縮器32と、凝縮した高温側循環冷媒液を膨張させる高温側膨張弁33と、膨張した高温側循環冷媒液を蒸発させる高温側蒸発器34とを有しており、高温側冷媒圧縮機31の作用によって前記各機器を高温側循環冷媒が循環しつつ、前記高温側蒸発器34と前記低温側凝縮器24とをそれぞれ流れる両循環冷媒を熱交換させることにより、低温側循環冷媒ガスを冷却して凝縮させている。このように形成した二元式の冷凍機16は、低温側蒸発器26を配置した主熱交換器15で循環液を−50℃以下の低温にまで冷却することができる。
【0014】
前記熱交換器27は、前記低温側循環冷媒ガスが流れるフィン付きチューブ28と、該フィン付きチューブ28に大気を吹き付ける送風手段(ファン)29とを備えており、該熱交換器27のフィン付きチューブ28内に流入する低温側循環冷媒ガスを大気と熱交換させて加熱又は冷却してから低温側冷媒圧縮機23に向けて送り出す。
【0015】
このような熱交換器27を低温側冷媒圧縮機23の前段に配置することにより、主熱交換器15の温度が高温、低温のいずれの場合であっても、低温側冷媒圧縮機23が吸入する低温側循環冷媒ガスの温度を、低温側冷媒圧縮機23に許容されるガス吸入温度の範囲内に調節することができ、低温側冷媒圧縮機23への負担を軽減し、冷却速度等の安定化が図れる。
【0016】
例えば、100℃以上の高温域で操作を行っている反応容器11を冷却するときには、100℃以上の循環液が流れる主熱交換器15の低温側蒸発器26に低温側循環冷媒液が導入され、循環液との熱交換によって昇温蒸発し、100℃以上に加熱された低温側循環冷媒ガスとなる。このような高温状態の低温側循環冷媒ガスを、熱交換器27にて大気と熱交換させることにより、低温側冷媒圧縮機23に吸入される低温側循環冷媒ガスの温度を、100℃以下の好適な温度範囲に冷却することができる。また、低温側冷媒圧縮機23が吸入する低温側循環冷媒ガスを冷却することにより、圧縮熱で昇温する圧縮機吐出ガスの温度も低くすることができ、低温側凝縮器24における低温側循環冷媒ガスの凝縮も確実に行うことができる。
【0017】
さらに、反応容器11を−50℃以下の低温に冷却している場合は、低温側蒸発器26から流出する低温側循環冷媒ガスの温度がそれ以下の低温状態となるため、熱交換器27を通さない場合は、低温側冷媒圧縮機23の吸入温度が低くなりすぎて圧縮効率が変化し、低温側凝縮器24における運転条件も大きく変化するが、−50℃以下の低温側循環冷媒ガスを熱交換器27で加熱することにより、低温側冷媒圧縮機23が吸入する低温側循環冷媒ガスの温度を好適な温度範囲に加熱することができる。
【0018】
このように、低温側冷媒圧縮機23に吸入される低温側循環冷媒ガスを熱交換器27で冷却又は加熱して適当な温度範囲に調整することにより、低温側冷媒圧縮機23で低温側循環冷媒ガスを安定した状態で圧縮することができ、さらに、低温側凝縮器24に流入する圧縮機吐出ガスの温度も安定化するので、高温側蒸発器34との熱交換も安定化し、高温回路22を構成する冷凍サイクルの負担も軽減することができる。
【0019】
したがって、反応容器11を100℃以上に加熱した条件下でも冷凍機16を安定した状態で運転することができるので、高温状態での精密な温度制御や、急速な冷却も確実に、かつ、効率よく行うことができ、研究開発部門における様々な要求に応えることができる。
【0020】
さらに、熱交換器27をフィン付きチューブ28と送風手段29とで形成することにより、低温側循環冷媒ガスを効率よく冷却又は加熱することができ、200℃程度に昇温した低温側循環冷媒ガスの冷却も効果的に行えるので、熱交換器27の小型化を図ることもできる。なお、低温側循環冷媒ガスの温度及び低温側冷媒圧縮機23の条件によっては、低温側循環冷媒ガスが流れるパイプのみで熱交換器27を形成することも可能であり、また、大気とではなく、水等と低温側循環冷媒ガスとを熱交換させることも可能である。
【0021】
図2は本発明の科学実験用温度制御装置の第2形態例を示すもので、反応容器を浸漬させる恒温液槽内の液体を加熱冷却するために使用した例を示す系統図である。
【0022】
本形態例は、液体を貯留する恒温液槽51内にヒータ52と蒸発器53とを配置して前記液体の温度制御を行うものであって、前記蒸発器53を含む冷凍機54は、循環冷媒ガスを所定圧力に圧縮する冷媒圧縮機55と、圧縮された循環冷媒ガスを冷却して凝縮させる凝縮器56と、凝縮した循環冷媒液を膨張させる膨張弁57と、膨張した循環冷媒液を蒸発させる前記蒸発器53とで冷凍サイクルを構成するとともに、蒸発器53で蒸発した循環冷媒ガスを冷媒圧縮機55の前段で大気と熱交換させる熱交換器58を備えている。
【0023】
本形態例においても、液槽51内の液体を100度以上に加熱した状態で温度制御を行ったり、液体を室温あるいはそれ以下の温度に急速に冷却したりするときに、蒸発器53を通ることによって100℃以上に加熱された循環冷媒ガスを熱交換器58にて大気と熱交換させることにより、冷媒圧縮機55で吸入する循環冷媒ガスの温度を冷媒圧縮機55に許容されるガス吸入温度の範囲内に冷却することができる。これにより、冷媒圧縮機55の吸入ガスや吐出ガスの温度が安定化し、冷凍機54の負担を軽減して冷却効率を向上させることができ、前記形態例と同様に、冷凍サイクルを効率よく運転することができ、液槽51内の液体を効率よく温度制御することができる。
【0024】
なお、冷凍サイクルの構成は、両形態例の方式に限定されるものではなく、一元、二元、三元の各冷凍サイクル、多段圧縮の冷凍機にも適用可能であり、膨張弁は、キャピラリーチューブやオリフィスであってもよい。また、フィン付きチューブの形状や構造も任意であり、熱容量等の条件に応じて最適なものを選択することができ、材質についても、銅製、アルミニウム製、銅製チューブとアルミニウム製フィンとの組み合わせなどを適宜採用することができる。
【実施例】
【0025】
図1に示す構成の実験装置を使用し、循環液を200℃に加熱した後、−80℃に冷却する実験を行った。まず、ヒータ17を作動させて循環液を200℃に加熱し、15分間200℃を保持した時点で冷凍機16の運転を開始した。そのときの循環液温度、圧縮機下面温度、吐出ガス温度及び室温の変化を図3に示す。
【0026】
図3から明らかなように、圧縮機吸入ガスを熱交換器27で大気と熱交換させることにより、循環液の温度変化に関係なく、吸入ガス温度に影響される圧縮機下面温度及び吐出ガス温度が安定した状態となっており、冷凍機16の運転状態が極めて安定した状態となっていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の科学実験用温度制御装置を、循環液により反応容器を加熱冷却する実験装置に適用した例を示す系統図である。
【図2】本発明の科学実験用温度制御装置を、反応容器を浸漬させる恒温液槽内の液体を加熱冷却するために使用した例を示す系統図である。
【図3】実施例の結果を示すもので、循環液温度、圧縮機下面温度、吐出ガス温度及び室温の変化を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
11…反応容器、12…ジャケット、13…循環ポンプ、14a,14b…循環液経路、15…主熱交換器、16…冷凍機、17…ヒータ、21…低温回路、22…高温回路、23…低温側冷媒圧縮機、24…低温側凝縮器、25…低温側膨張弁、26…低温側蒸発器、27…熱交換器、28…フィン付きチューブ、29…送風手段、31…高温側冷媒圧縮機、32…高温側凝縮器、33…高温側膨張弁、34…高温側蒸発器、51…恒温液槽、52…ヒータ、53…蒸発器、54…冷凍機、55…冷媒圧縮機、56…凝縮器、57…膨張弁、58…熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍サイクルを有する冷却手段と加熱手段とを備えた科学実験用温度制御装置において、前記冷凍サイクルの冷媒圧縮機の前段に、該冷媒圧縮機に吸入される循環冷媒ガスの温度を調節する熱交換器を配置したことを特徴とする科学実験用温度制御装置。
【請求項2】
前記熱交換器は、前記循環冷媒ガスが流れるフィン付きチューブと、該フィン付きチューブに大気を吹き付ける送風手段とを備えていることを特徴とする請求項1記載の科学実験用温度制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−292295(P2006−292295A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−114534(P2005−114534)
【出願日】平成17年4月12日(2005.4.12)
【出願人】(591245543)東京理化器械株式会社 (36)