説明

移動ロボット

【課題】構造物の組立保守等の各種の作業を行う移動ロボットを提供する。
【解決手段】本発明に係るロボット本体は、伸展式の腕と、テザー式の腕と、伸展式の腕の伸展及び収容を制御するための移動用伸展式腕伸展部と、テザー式の腕の伸展及び収容を制御するためのテザー伸展部と、伸展式の腕及びテザー式の腕を所望の伸展方向に向けるための回転制御部と、作業用腕の伸展を制御する作業用腕伸展部と、上記の各種機構を制御するための本体制御部とを備えており、ロボット本体は、伸展式の腕を用いてテザー式の腕の構造物への取り付け位置を変更することにより、構造物上を移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動ロボットに関し、特に、伸展式腕とテザー式腕を有する移動ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
「国際宇宙ステーション」等の大型構造物を宇宙空間に構築して運用、保守を行う場合、現状では、クレーン型の宇宙ロボットやクレーン型宇宙ロボットの先端に取り付けられた小型のロボット、あるいは船外活動する宇宙飛行士により、組立、保守(部品交換等)、修理等の作業を行う必要がある。しかしながら、これらの方式では作業可能範囲が狭く、太陽発電衛星のように数km四方にも渡る超大型の宇宙構造物の構築には適さない。
【0003】
上記の従来方式の宇宙ロボットではロボットの作業可能範囲はロボットアームの腕の長さで制約されており、また、特許文献1に記載されているように、被搬送物を移動させる場合においても、移動用の足場(移動用のレールや電力供給用コネクタ等)が事前に設置されていることが必要である。
【0004】
【特許文献1】特開2004−230931号公報
【0005】
また足場間を高速で移動することは宇宙構造物に大きな反動力を与え、構造物の振動をもたらす等の理由から許されず、移動速度が制限されているため、大規模構造物を短期間に組み立てる方式としては適していない。
【0006】
また、構造物の組立途中で不具合があった場合には従来技術では不具合箇所まで移動することが一般的には不可能であり、不具合の復旧をロボットにより行うことも不可能であった。
【0007】
一方、宇宙空間を飛行移動するロボットは移動のための燃料が不可欠であり、特に大質量物体を運搬する場合には大量の燃料を必要とするため、経済的で効率的な移動方式とは言えない。
【0008】
また、空間内を移動する手段としてロボット本体と数箇所の足場の間をテザーで結び、テザーの長さを制御することにより、各足場を含む平面(各足場が同一平面内にない場合は各足場を含む曲面)に沿ってロボットを移動させる方式も考えられるが、ロボットから出ているテザーを足場に固定する作業を操作者が行わなければならない場合は大型宇宙構造物の組立には適しない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされてものであり、大きさが10数mから数100mを超える大型宇宙構造物の建設保守において、ロボットの移動用足場が出来上がっていない状態においても大型宇宙構造物上を移動し、構造物の組立保守等の各種の作業を行うロボットの移動手段を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、以下に示される本発明に係るロボットによって達成することができる。
【0011】
本発明の1つの特徴によれば、目標物に対する所定の作業を行うために該目標物の所定位置の近傍まで移動可能な移動ロボットであって、
該移動ロボットは、
所定の長さを前記移動ロボットから伸展することが可能な少なくとも4つの腕と、
前記腕を収容するハウジングと、
前記腕の前記ハウジングからの引き出し及び前記腕の前記ハウジングへの引き込みを制御して前記腕の長さを調整する腕長調整手段とを備えており、
前記腕の各々は、作業領域近傍に位置する固定部材に結合するための結合手段を有しており、前記腕の端部の各々が前記固定部材にそれぞれ結合された状態で、前記腕長調整手段によって前記腕の各々の長さを調整することにより、前記移動ロボットは、固定部材に結合された複数の前記腕の端部間によって囲まれる領域内で移動可能であり、
前記結合手段の少なくとも1つは、前記移動ロボットの移動可能な領域を変更するために、作業領域近傍に位置する固定部材に結合されている他の前記腕の端部を把持し、前記固定位置における固定部材との結合を解除し、作業領域近傍に位置する他の固定位置の固定部材に結合する付け替え手段として更に機能することを特徴とする移動ロボットが提供される。
【0012】
本発明の好ましい態様では、前記移動ロボットにおいて、前記付け替え手段として機能しない前記固定部材に固定される前記腕は、テザー式の腕である。
【0013】
また、前記移動ロボットにおいて、前記付け替え手段として機能する腕は、STEM(storable Tubular Extendable Member)機構、あるいは自動車等に用いられている伸展式アンテナ等の機構を利用した腕である。
【0014】
また、前記移動ロボットは、前記腕の各々が作業領域近傍の所望の方向に位置する固定部材へ向かって伸展することができるように、前記腕の各々の伸展方向を制御する腕伸展方向制御手段をさらに備えている。
【0015】
また、前記移動ロボットにおいて、前記腕長調整手段は、前記腕の各々を収容するための複数の巻取り機構を備えており、該巻取り機構の各々は、前記ハウジング内で階層的に配置される。
【0016】
さらに別の本発明の特徴によれば、目標物に対する所定の作業を行うために該目標物の所定位置の近傍まで移動可能な移動ロボットであって、
該移動ロボットは、
所定の長さを前記作業ロボットから伸展することが可能な少なくとも4つの腕と、
前記腕を収容するハウジングと、
前記腕の各々の前記ハウジングからの引き出し及び前記腕の前記ハウジングへの引き込みを制御して前記腕の各々の長さを調整する腕長調整手段と、
前記腕の各々が作業領域近傍の所望の方向に位置する固定部材へ向かって伸展することができるように、前記腕の各々の伸展方向を制御する腕伸展方向制御手段と、
前記移動ロボットの移動位置に関する指令を受信する移動指令受信手段とを備えており、
前記腕の各々は、作業領域近傍に位置する固定部材に結合するための結合手段を有しており、前記腕の端部の各々が前記固定部材にそれぞれ結合された状態で、前記腕長調整手段によって前記腕の各々の長さを調整することにより、前記移動ロボットは、固定部材に結合された複数の前記腕の端部間によって囲まれる領域内で移動可能であり、
前記結合手段の少なくとも1つは、前記移動ロボットの移動可能な領域を変更するために、作業領域近傍に位置する固定部材に結合されている他の前記腕の端部を把持し、前記固定位置における固定部材との結合を解除し、作業領域近傍に位置する他の固定位置の固定部材に結合する付け替え手段として更に機能し、
前記移動指令受信手段によって受信された指令に基づいて、前記腕伸展方向制御手段は、前記腕の各々の伸展方向を決定し、前記腕長調整手段は、前記腕の各々の長さを決定し、前記結合手段は、前記腕の各々を固定部材に結合し、前記付け替え手段は、前記腕の各々を別の固定部材へ付け替えることを特徴とする移動ロボットが提供される。
【発明の効果】
【0017】
現状の宇宙用ロボットでは宇宙空間に構築される大型構造物に沿った移動は数メートルから10数メートル単位でしか行えないが、本発明に係るロボットによれば、提案する方式を用いることによりロボットは打上げ・収納時には小型でありながら、軌道上ではロボット本体の収納時の容積よりもはるかに広い範囲を容易に移動可能である。
【0018】
また、従来の宇宙ロボットではロボットが移動中に構造物に大きな反力を与えるが、本発明に係るロボットは構造物に固定された状態で移動及び作業を行うため、大きな反力が回避可能となる。一般に、宇宙空間に構築される構造物は地上からの打上げコストを低減するため構造剛性が低いため、ロボットの動作時の反力は構造物に振動を与え、振動が減衰するまで次の作業に移れない等により、組立作業の効率低下をもたらすが、本発明によればそのような効率低下を低減できる。
【0019】
さらに、従来の移動技術では構造物側に不具合がある場合(組立途中で不具合が発生した場所等)、不具合箇所への移動は不可能、あるいは困難であったが、本発明に係るロボットはテザーを構造物に固定用金具(フック等)で固定するだけで移動可能であり、ロボットが構造物の不具合発生箇所に移動して不具合対策の作業を実施することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
ここで、図面を通して本発明の一実施形態に係る作業用ロボットを説明する。
【0021】
[ロボットの構成]
図1は、本発明の一実施形態に係るロボットの概略図を示している。本発明に係る移動ロボットは、ロボット本体100と、伸縮可能なテザー式の腕110、120、130及び140と、衛星のアンテナ等に利用されているSTEM(Storable Tubular Extendible Member)等の構造体を利用した伸展式の腕150と、伸展式の腕の長さを制御可能な伸展腕伸展/収縮装置160と、テザー式の腕の長さ及び張力をテザーが弛まないように制御可能なテザー伸展/巻取り装置170と、これらを収容するハウジング180とから構成されている。
【0022】
テザー式の腕110、120、130及び140は、ロボットが作業を行う構造物の異なる箇所に結合するために、それぞれの端部にフック等の固定部材を有している。また、伸展式の腕150は、テザー式の腕110、120、130及び140のフック等の固定部材を把持し構造物の所望の位置に結合するために、その端部に着脱用ハンドを有している。なお、伸展式の腕150は、テザー式の腕を構造物に結合する機能に加えて、自らを構造物の所定の位置に結合する機能を有するように、テザー式の腕と同様の腕の端部をさらに備えた構成としてもよい。
【0023】
上記のロボットの構成によれば、伸縮式の腕で複数本の伸縮可能なテザーの一端をテザーの一端に取り付けられているフック等を利用して構造物上の各所に固定した上で、テザーの長さを調整することにより、ロボット本体は空間内を移動することが可能となる。また、テザー式の腕及び伸展式の腕は、それぞれ、収納時には伸展腕伸展/収縮装置160及びテザー伸展/巻取り装置170に制御されてロボット本体に内蔵され、作業時に必要な長さまで腕を伸ばすように動作させるようになっている。
【0024】
図に示すように、ハウジング180は、各テザー式の腕及び伸展式の腕を様々な方向に伸展したときに絡むことがないようにテザー式の腕110、120、130及び140のそれぞれと、伸展式の腕150とを階層的に配置するように構成してもよい。なお、ハウジング180の各階層の構造は、円柱構造であっても角柱構造であってもよいし、テザー式の腕及び伸展式の腕の伸展方向を制御できる構造であれば何であってもよい。さらに、作業用のロボットアーム(図示されていない)を別の階層に配置することにより、ロボット本体100は、テザー式の腕の長さを調整しながら、その周辺で作業することができる。
【0025】
また、ハウジング180の各階層を、回転軸を共通として回転可能に構成することにより、各テザー式の腕及び伸展式の腕を別個の伸展方向に誘導できる。結果として、各テザー式の腕をその長さの範囲内で構造物の任意の位置に取り付けることができ、構造物の各箇所に結合された各テザー式の腕の各端部により囲まれる範囲内でロボット本体100は移動することができ、各種作業を行うことができる。また、その範囲外でロボットに作業させようとするときは、伸展式の腕によってテザー式の腕の構造物上の取り付け位置を変更することにより、ロボットが移動可能な範囲を変更することが可能となる。また、このように伸展式の腕、テザー式の腕、あるいは作業用腕を内蔵する各階層の階層数は自由に選択できるため、伸展式の腕、テザー式の腕、あるいは作業用腕の冗長な腕を容易にハウジングに内蔵でき、これらの腕の一部に不具合が発生した場合に、容易にその機能の代替が可能である。このような機能は従来の作業ロボットや移動ロボットには無かった機能である。
【0026】
ロボットが、固定されたテザー式の腕の端部を囲む領域内でしか移動することができないことを想定すると、ロボットの移動可能な領域を大きく確保するためには、テザーの長さもそれに対応して十分な長さを用意しておく必要がある。それに対して、本発明に係るロボットは、上述の通り、伸展式の腕150により、テザー式の腕の端部の配置位置を随時変更することができる。したがって、本発明によれば、テザーの取り付け位置を随時変更することにより、ロボットは、テザー式の腕の長さを超えて移動可能となる。また、伸展式の腕の長さは、テザー式の腕の端部の位置を移動させるために用いられることから、テザー式の腕の長さと同程度の長さがあれば十分である。結果として、本発明は、伸展式の腕及びテザー式の腕を全作業領域が広大であっても比較的短く設計することが可能であり、伸展式の腕及びテザー式の腕を伸展腕伸展/収縮装置160及びテザー伸展/巻取り装置170によってハウジング180内に収容したときのロボット全体の容積及び重量を低減させることができる。
【0027】
[ロボットの移動手順]
図2は、本発明に係るロボット本体100が大型宇宙構造物上を移動し、構造物の組立保守などの各種作業を行うときの典型的なロボットの動作の手順を示したものである。前提として、ロボット本体100は、大型宇宙構造物上或いはロボットを輸送してきた輸送機上に安定的に置かれているものとする。また、この状態で、ロボット本体に外部から送られてきたロボットの移動範囲に関する指令に基づいて、ロボット内部の制御により、テザー式の腕を結合する複数の目標位置を特定した上で、まず、1本目のテザー式の腕(例えば、図1の腕110)を目標位置に取り付けるためにテザー式腕を伸展すべき方向を決定する(ステップ200)。次に、1本目のテザー式の腕(例えば、図1の腕110)を構造物の目標位置に取り付けるために必要となる伸展する長さを決定する(ステップ210)。なお、これは、例えば、ロボット本体や伸展式の腕に装備されたセンサやカメラ等により識別された取り付け目標位置とそのテザー式の腕との距離を算出することにより実現できる。次に、伸展式の腕150でテザー式の腕110の端部を把持し、伸展式の腕150を伸展させると共にテザー式の腕110も伸展させて、テザー式の腕110の端部にある固定用金具(フック)を構造物の目標位置にある固定部材に取り付ける(ステップ220)。これは、伸展式の腕が取り付けの対象となるテザー式の腕の位置をカメラ等により認識して、伸展式の腕が当該テザー式の腕を把持した上で、ステップ210で決定されたテザー式の腕を伸展する長さに基づいて、伸展腕伸展/収縮装置160及びテザー伸展/巻取り装置170を制御し、テザー式の腕110及び伸展式の腕150を伸展させることによって実現可能である。次に、伸展式の腕150を一旦収納した後に、ステップ210と同様の方法で、他のテザー式の腕(例えば、図1の腕120)の端部を把持してテザー式の腕120の端部の固定用金具を構造物上の別の場所に取り付ける(ステップ230)。そして、ステップ200から230を繰り返し、全てのテザー式の腕(例えば、図1では腕110、120、130及び140)の端部をそれぞれ構造物上の別の目標位置に取り付ける(ステップ240)。ステップ240が完了すれば、ロボットが構造物上を移動可能な状態になり、各テザー式の腕の長さを調整することによって、ロボット本体100を各テザー式の腕の端部により囲まれる領域内で移動させて各種作業を行うことができる(ステップ250)。ステップ250においてロボット本体100が移動可能な範囲を超えてロボットを移動させて作業を行わせる場合には、上記ステップを繰り返して、ロボットの移動可能範囲を変えることができる(ステップ260)。ステップ260では、実際には、まず、付け替えの対象となるテザー式の腕をカメラ等により認識し、その方向に伸展式の腕を向けて、伸展し、伸展式の腕でテザー式の腕を把持する。そして、テザー式の腕を構造物から取り外し、一旦、テザー式の腕をハウジングに収容する。この状態で、ステップ200及び210によってテザー式の腕の伸展方向及び伸展する長さを決定し、ステップ220によって構造物上の別の位置にテザー式の腕を結合することに基づいてステップ260は実現され得る。
【0028】
ステップ260によれば、ロボットが移動後にさらに新たな領域に移動する場合、複数のテザー式の腕又は伸展式の腕が構造物に結合されている状態において、ロボット本体のテザー式の腕(伸展式腕で代用も可能)を伸展式の腕を用いて構造物上の別の場所に取り付けることによりロボットの移動可能範囲を変えることが可能となる。すなわち、一旦、テザー式の腕が構造物の所定の位置に固定されると、ロボット本体が移動可能な範囲はテザー式の腕の長さに依存して制限されるものの、随時、ロボットは自らが有する伸展式の腕により、テザー式の腕を別の場所に付け替えることができ、移動範囲を変更しながら、ロボットは各種作業を行うことができる。
【0029】
[ロボットのシステム構成]
図3は、本発明の一実施形態に係るロボットのシステム構成を示している。ロボット本体300は、伸展式の腕の伸展及び収容を制御するための移動用伸展式腕伸展部310、テザー式の腕の伸展及び収容を制御するためのテザー伸展部320、伸展式の腕及びテザー式の腕を所望の伸展方向に向けるための回転制御部330、作業用腕の伸展を制御する作業用腕伸展部340、及び上記の各種機構を制御するための本体制御部350を備えている。なお、移動用伸展式腕伸展部310及びテザー伸展部320は、伸展式の腕及びテザー式の腕の本数に対応する数が必要となるが、ここでは、説明を簡単にするために、1本の伸展式の腕及び1本のテザー式の腕のみを図示している。なお、テザー式の腕、あるいは伸展式の腕の固定位置を変更するため、これらの固定位置を付け替える途中においても構造物に対してロボット本体が安定的に固定されているためには、構造物に結合されているテザー式の腕、及び伸展式の腕を併せた本数は3本以上であることが必要である。
【0030】
テザー式の腕及び伸展式の腕のそれぞれの取り付け面は、典型的には、各腕が回転するときに互いに干渉しないように図1に示したように階層構造になっている。この構造により、回転制御部330は、これらの階層構造の各取り付け面の中心を回転軸として、各階層のハウジングを個別に回転させ、テザー式の腕及び伸展式の腕のそれぞれに対する伸展方向を制御する。なお、複数の腕を同じ階層の取り付け面に取り付けるように構成してもよい。この場合、各腕が伸展したときに互いに干渉することがないように、回転制御部330による制御可能な回転角度に制限を設けてもよい。
【0031】
なお、ロボット本体300は、バッテリや太陽電池などの動作用動力源(図示されていない)を内蔵してもよいし、伸展式の腕で把持した構造物から接触式又は非接触式により動力の供給を受けてもよい。また、ロボット本体300は、ロボット本体と操作者との間を無線回線で通信するための通信装置(図示されていない)を有する。これにより、ロボットは電源や通信回線確保のために構造物との間に特別なインターフェースを持つ必要はなく、構造物にテザーの一端のフックを引っ掛けて、テザー式の腕の長さを調整するだけで構造物に沿った移動が可能となる。また、上記の通信装置により、操作者の有するコンピュータから送信されたロボット操作用の指令を受信し、これを本体制御部350に転送して、ロボットの動作を制御することが可能となる。
【0032】
作業用腕伸展部340に作業用ロボットアームが取り付けられれば、組立途中で不具合が発生した構造物上の箇所に移動し、不具合の復旧作業を行うことが可能である。すなわち、最初に伸展式の腕でテザー式の腕を構造物上の不良箇所の近辺に固定し、そのテザー式の腕の長さを調整することによりロボット本体を不具合箇所に移動し、作業用ロボットアームによって復旧作業を行うことができる。なお、作業用腕制御部340によって制御される作業用ハンドは移動用伸展式腕伸展部310によって制御される伸展腕先ハンドを兼ねても良い。また、逆に、移動用伸展式腕伸展部310によって制御される伸展腕先ハンドは作業用腕制御部340によって制御される作業用ハンドを兼ねても良い。
【0033】
図4は、図3に示した移動用伸展式腕伸展部310の詳細システム構成を示している。移動用伸展式腕伸展部310は、本体制御部350からの指令を取り込むインターフェース、その指令を制御する制御回路、アクチュエータ、伸展式の腕を支持して伸展させる伸展部、リソースライン伸展部、伸展アームの張力を感知する張力センサ等の伸展アームの状況を監視するための各種センサ、及び伸展アームから構成される。制御回路は、本体制御部350から伸展式の腕を制御するための信号が入力されると、実際に伸展式の腕がどのテザー式の腕を把持し、構造物上のどの目標物まで移動させるか、又は、伸展式の腕がどのテザー式の腕を把持しハウジングに収容するか、更には、テザー式の腕の長さをどれくらいに調整するかを信号としてアクチュエータに出力する。このとき、制御回路は、例えば、回転制御部330による伸展式腕のハウジングの回転制御とロボット本体300に搭載されたカメラ等(図示していない)とを協働させて、把持するテザー式の腕の端部(フック等)を視覚的に識別し、把持するテザー式の腕まで伸展式の腕を接近させてテザーを掴むための信号も出力する。なお、伸展式の腕がテザー式の腕を認識し、テザー式の腕のフック等を把持し、伸展させ、所定の目標位置に結合するための技術は、当業者であれば容易に認識し得る設計事項である。結果として、制御回路、アクチュエータ及び伸展部を介して、伸展式の腕は、所定の動作をすることができる。なお、張力センサにより伸展式の腕の張力を本体制御部350にフィードバックすることもできる。また、伸展式の腕自身をテザー式の腕と同様に構造物の所定位置に結合するときには、本体制御部350からの信号に基づいて、制御回路及びカメラ等を用いて構造物上の結合位置を認識し、アクチュエータ及び伸展部によって伸展式の腕は伸展され、結合位置に結合することができる。
【0034】
図5は、図3に示したテザー式腕のテザー伸展部320の詳細システム構成を示している。テザー伸展部320は、本体制御部350からの指令を取り込むインターフェース、その指令を制御する制御回路、アクチュエータ、テザーの巻取り及び伸展を行うリール機構、テザーの張力を感知する張力センサ等のテザー式の腕の状況を監視するための各種センサ、及びテザー式の腕から構成される。制御回路は、本体制御部350からテザー式の腕を制御するための信号が入力されると、回転制御部330と協働して、実際にテザー式の腕をどの方向にどのくらいの長さに調整するかを信号としてアクチュエータに出力する。その結果として、アクチュエータ及びリール機構を介してテザー式の腕は、伸展式の腕に誘導されながら所定の長さに調整され、その長さで固定される。なお、張力センサによりテザー式の腕の張力を本体制御部350にフィードバックすることもできる。
【実施例1】
【0035】
図6は、本発明の実施例に係るロボット600の具体的な構造を分離して表示したものである。図では、ロボット600の上位層及び下位層にそれぞれ伸展式の腕610、630、2つの中間層にテザー式の腕620をそれぞれ配置したときの様子を示している。なお、テザー式の腕620は4本が図示されているが、実際には、テザー式の腕と伸展式の腕は併せて4本以上であり、伸展式の腕の固定位置の付け替え作業時、あるいは伸展式腕を用いてテザー式腕の固定位置の付け替え作業を行っている際であって、これらの構造物に対する固定が解除されている際に、構造物の固定されているテザー式の腕及び伸展式腕を併せた本数はロボット本体が構造物に対して安定した位置姿勢を保持するためには3本以上であることが必要である。この例のように、4本以上のテザー式の腕を用意したときは、必要な本数のテザー式の腕及び伸展式の腕を使用しながら、残ったテザー式の腕を故障時に使うための予備として利用することが可能である。なお、テザー式の腕は、伸縮式の腕による代用も可能である。すなわち、伸縮式の腕の有するテザー式の腕を付け替える着脱用ハンドは、テザー式の腕と同様に構造物に結合するように機能させてもよい。この場合、伸展式の腕は、テザー式の腕の端部と同様の構造を有していても有していなくてもよい。ただし、テザー式の腕の本数は、伸展式の腕の本数よりも多い本数であることが望ましい。これは、テザー式の腕が、伸展式の腕が有する上記の付け替え機能などの自律制御機能を有する必要がないため、経済的であり、簡易な構造で構成可能であるからである。
【0036】
図7は、伸展式の腕の機構のイメージ図として、(a)は伸展式の腕が収容されているとき、(b)は伸展式の腕が伸展しているときをそれぞれ示している。なお、伸展式の腕は伸展及び巻取り、あるいは収縮、収納が可能であれば他の構成であっても良い。
【0037】
図8は、作業領域として宇宙ステーションを想定し、本発明の一実施形態に係るロボットを船内実験室に設置した様子を示している。本ロボット840は、船内実験室(構造物)810の固定部材880に対してテザー式の腕860を介して結合され、船外プラットフォーム820の側面に配置される標準実験ペイロード830に対して伸展式の腕850を介して結合されている。この状態では、本ロボット840は、伸展式の腕850とテザー式の腕860によって囲まれる領域870の内側を移動することができ、この領域内で各種作業を行うことができる。また、領域870の外側にロボット840を非常に大きな船内実験室(構造物)810にわたって移動させて作業を行うときには、伸展式の腕850によりテザー式の腕860を把持して別の固定部材880に付け替えることができる。
【0038】
図9から図13は、本発明の一実施形態に係るロボットの構造物上での移動可能範囲を例示したものである。
【0039】
図9は、テザー式の腕及び伸展式の腕を収容した状態の本発明に係るロボット900が、輸送機910によって作業を行う構造物920まで輸送されて置かれている状態を例示している。なお、ここでは、構造物920は、図8の船内実験室(構造物)810の一部の作業領域に対応するものである。
【0040】
図10は、ロボット900が構造物920上で移動して作業することができるようにするために、伸展式の腕1030を用いて、3本のテザー式の腕1000、1010及び1020を構造物920に取り付けている様子を示している。
【0041】
図11は、4本目のテザー式の腕1000、1010、1020及び1100を構造物920に取り付けた状態を示している。この状態では、ロボット900は、4本のテザー式の腕の端部によって囲まれる領域1110の内側を移動することができ、この領域内で各種作業を行うことができる。
【0042】
図12及び図13は、構造物へのテザー式の腕の取り付け位置を変更するときの動作の様子を示したものである。図12は、伸展式の腕1000を別の取り付け位置に取り付けるための前段階として、図11の状態からテザー式の腕1000、1010が伸展され、伸展式の腕1020、1100が巻き取られた状態を示している。図13は、図12におけるテザー式の腕1000を取り外して構造物920の別の取り付け位置に付け替えることにより、ロボット900の移動可能な領域1110を変更した状態を示している。図13の状態を図11及び12の状態と比較すると、ロボット900の移動可能な領域は、図面の左右方向に拡がっていることがわかる。
【0043】
図14は、ロボット900を図のさらに右側に移動させるための準備段階として、伸展式の腕1000を巻き取ると共にテザー式の腕1010をできる限り伸展させることによってロボット900を右側へ移動させた状態を示している。図15は、図13及び14のテザー式の腕1000、1020、1100の構造物920への取り付け位置をそのまま維持し、他のテザー式の腕1010を別の場所に取り付けた状態を示している。これにより、ロボット900は、図11及び12とは異なる領域内で移動して各種作業を行うことができる。上述の例では、テザー式の腕1000を付け替える前に、図11の状態から図12の状態へロボット900を移動させておくことにより、テザー式の腕1000の新しい固定位置への固定に際して必要とされる腕の長さを短くすることができる。この点、ロボットの本体制御部は、テザー式の腕の取り付け位置を変更する前に、必要に応じて、テザー式の腕の長さを予め調整してロボットを移動させておくように制御することが望ましいと言える。また、テザー式の腕1010を付け替える前に、図13の状態から図14の状態へのロボット900を移動させておくことにより、テザー式の腕1010を付け替えるときにロボット900が構造物920に与える反力を低減させることが可能となる。
【0044】
これまで、本発明に係るロボットが宇宙ステーションで利用される場合を想定して実施例を説明してきたが、本発明に係るロボットは、その他にも、例えば、ビルの側面を移動可能な作業用ロボットとして応用することも可能である。この場合、宇宙空間とは異なる重力を伴う環境となり、伸展式の腕が重力に逆らって伸びて移動しなければならなくなるが、これは伸展式の腕の構造強度の設計問題であり、強度の大きな合金等を用いることにより解決され得る。
【産業上の利用可能性】
【0045】
大型宇宙構造物でその組立がロボットの利用により低コストで行なわれなければならないものの例として太陽発電衛星がある。太陽発電衛星は静止軌道上に数km四方の巨大な宇宙構造物を構築して太陽エネルギーを収集し、収集したエネルギーを様々な方法で地上に伝送するシステムである。本発明に係る移動ロボットは、月面および惑星上での構造物建築や、太陽発電衛星のシステム等の巨大な宇宙構造物を構築する際や宇宙構造物の側面を移動する際に利用することができる。太陽発電衛星で得られたエネルギーが地上で作られたエネルギーと同等程度に安価であるためには本発明のような小型軽量化が可能なロボットによる大型宇宙構造物の自動的な構築や宇宙構造物の側面での移動が不可欠である。
【0046】
以上のように、本発明の実施例について説明してきたが、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、これに種々の変更を加え得るものであることは容易に理解される。そして、それらが特許請求の範囲の各請求項に記載した事項、及びそれと均等な事項の範囲内にある限り、当然に本発明の技術的範囲に含まれる。例えば、上記の実施例はテザー式の腕及び伸展式の腕を特定の構造で収容するロボットに対するものであるが、これはあくまでも一例であり、本発明がこの特定の具体例に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態に係るロボットの概略図を示している。
【図2】本発明の一実施形態に係るロボットの移動動作の手順を示している。
【図3】本発明の一実施形態に係るロボットのシステム構成を示している。
【図4】本発明の一実施形態に係るロボットの伸展機構の詳細システム構成を示している。
【図5】本発明の一実施形態に係るロボットのテザー伸展機構の詳細システム構成を示している。
【図6】本発明の一実施形態に係るロボットの構造を分離して表示した図である。
【図7】伸展腕機構のイメージ図を示している。
【図8】本発明の一実施形態に係るロボットの設置状況を示している。
【図9】本発明の一実施形態に係るロボットの移動可能範囲を示している。
【図10】本発明の一実施形態に係るロボットの移動の様子を示している。
【図11】本発明の一実施形態に係るロボットの移動の様子を示している。
【図12】本発明の一実施形態に係るロボットの移動の様子を示している。
【図13】本発明の一実施形態に係るロボットの移動の様子を示している。
【図14】本発明の一実施形態に係るロボットの移動の様子を示している。
【図15】本発明の一実施形態に係るロボットの移動の様子を示している。
【符号の説明】
【0048】
100、600、900 ロボット
110、120、130、140、620、860 テザー式の腕
150、610、850 伸展式の腕
160 伸展腕伸展/収縮装置
170 テザー伸展/巻取り装置
180 ハウジング
310 移動用伸展式腕伸展部
320 テザー伸展部
330 回転制御部
910 輸送機
810、920 構造物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標物に対する所定の作業を行うために該目標物の所定位置の近傍まで移動可能な移動ロボットであって、
該移動ロボットは、
所定の長さを前記移動ロボットから伸展することが可能な少なくとも4つの腕と、
前記腕を収容するハウジングと、
前記腕の前記ハウジングからの引き出し及び前記腕の前記ハウジングへの引き込みを制御して前記腕の長さを調整する腕長調整手段とを備えており、
前記腕の各々は、作業領域近傍に位置する固定部材に結合するための結合手段を有しており、前記腕の端部の各々が前記固定部材にそれぞれ結合された状態で、前記腕長調整手段によって前記腕の各々の長さを調整することにより、前記移動ロボットは、固定部材に結合された複数の前記腕の端部間によって囲まれる領域内で移動可能であり、
前記結合手段の少なくとも1つは、前記移動ロボットの移動可能な領域を変更するために、作業領域近傍に位置する固定部材に結合されている他の前記腕の端部を把持し、前記固定位置における固定部材との結合を解除し、作業領域近傍に位置する他の固定位置の固定部材に結合する付け替え手段として更に機能することを特徴とする移動ロボット。
【請求項2】
前記付け替え手段として機能しない前記固定部材に固定される前記腕は、テザー式の腕であることを特徴とする請求項1に記載の移動ロボット。
【請求項3】
前記付け替え手段として機能する腕は、伸展式の機構を利用した腕であることを特徴とする請求項1又は2に記載の移動ロボット。
【請求項4】
前記腕の各々が作業領域近傍の所望の方向に位置する固定部材へ向かって伸展することができるように、前記腕の各々の伸展方向を制御する腕伸展方向制御手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の移動ロボット。
【請求項5】
前記腕長調整手段は、前記腕の各々を収容するための複数の巻取り機構を備えており、該巻取り機構の各々は、前記ハウジング内で階層的に配置されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の移動ロボット。
【請求項6】
目標物に対する所定の作業を行うために該目標物の所定位置の近傍まで移動可能な移動ロボットであって、
該移動ロボットは、
所定の長さを前記作業ロボットから伸展することが可能な少なくとも4つの腕と、
前記腕を収容するハウジングと、
前記腕の各々の前記ハウジングからの引き出し及び前記腕の前記ハウジングへの引き込みを制御して前記腕の各々の長さを調整する腕長調整手段と、
前記腕の各々が作業領域近傍の所望の方向に位置する固定部材へ向かって伸展することができるように、前記腕の各々の伸展方向を制御する腕伸展方向制御手段と、
前記移動ロボットの移動位置に関する指令を受信する移動指令受信手段とを備えており、
前記腕の各々は、作業領域近傍に位置する固定部材に結合するための結合手段を有しており、前記腕の端部の各々が前記固定部材にそれぞれ結合された状態で、前記腕長調整手段によって前記腕の各々の長さを調整することにより、前記移動ロボットは、固定部材に結合された複数の前記腕の端部間によって囲まれる領域内で移動可能であり、
前記結合手段の少なくとも1つは、前記移動ロボットの移動可能な領域を変更するために、作業領域近傍に位置する固定部材に結合されている他の前記腕の端部を把持し、前記固定位置における固定部材との結合を解除し、作業領域近傍に位置する他の固定位置の固定部材に結合する付け替え手段として更に機能し、
前記移動指令受信手段によって受信された指令に基づいて、前記腕伸展方向制御手段は、前記腕の各々の伸展方向を決定し、前記腕長調整手段は、前記腕の各々の長さを決定し、前記結合手段は、前記腕の各々を固定部材に結合し、前記付け替え手段は、前記腕の各々を別の固定部材へ付け替えることを特徴とする移動ロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−260436(P2008−260436A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−105018(P2007−105018)
【出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)