説明

移動農機

【課題】緊急時にエンジンを有効に停止操作し得ると共に、該停止操作が迅速かつ的確に行われるように構成される移動農機を提供する。
【解決手段】停止ボタン28とデフロックレバー24とを操作パネル16に設け、該停止ボタン28を操作パネル16におけるハンドル18c側で且つ機体12の中央寄りに配置させ、デフロックレバー24を操作パネル16における機体12側で且つ該機体12の一側(機体12後方から見た際の右側)寄りに配置させる。これにより、オペレータが、停止ボタン28を迅速かつ的確に操作することができるようになり、安全性及び操作性の向上を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耕耘機等の移動農機に係り、詳しくは、走行する機体をオペレータが歩行しながら操作する移動農機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、耕耘機等の移動農機では、動力を断接するクラッチと連係されたクラッチレバーを操向ハンドルと一体的に握ることにより接続位置となるように構成したものが知られている。このような耕耘機において、主変速レバー及びデフロックレバーが、機体後方に延びる平面視ループ状の操向ハンドルの後端部に取り付けられたパネルに配置され、上記したクラッチレバーが「断」位置にある際に、主変速レバー及びデフロックレバーの操作が行いにくくなるように構成し、これらが誤操作されることを回避する耕運機が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2000−342003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載されるような移動農機では、主変速レバー及びデフロックレバーが、操向ハンドルの後端部に取り付けられたパネルに配置され、それらの近傍にアクセルレバーは配置されるものの、エンジン駆動そのものを停止する操作手段はパネル上に配置されておらず、緊急時にエンジンを直ちに停止させる際の対応に関しての配慮は不足するものとなっていた。
【0005】
そこで本発明は、緊急時にエンジンを有効に停止操作し得ると共に、該停止操作が迅速かつ的確に行われるように構成し、もって上記課題を解決した移動農機を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る本発明は(例えば図1ないし図6参照)、ハンドルフレーム(18)の後端に設けられた把持部(18c)を有し、機体(12)におけるエンジン(13)の動力を変速装置及び差動装置(5)を介して駆動輪(11)に伝達して移動しながら農作業する移動農機(1)において、
前記ハンドルフレーム(18)に、駆動状態の前記エンジン(13)を強制的に停止する停止スイッチ(28)と、前記差動装置(5)の差動を規制するデフロック装置を作動状態と非作動状態とに切換え操作するデフロック操作部材(24)と、を有する操作支持台(16)を設け、
前記停止スイッチ(28)は、前記操作支持台(16)における前記把持部(18c)側で且つ前記機体(12)の中央寄りに配置され、かつ前記デフロック操作部材(24)は、前記操作支持台(16)における前記機体(12)側で且つ該機体(12)の一側寄りに配置されてなる、
ことを特徴とする移動農機(1)にある。
【0007】
請求項2に係る本発明は(例えば図4及び図5参照)、前記ハンドルフレーム(18)に、前記エンジン(13)の出力を制御するスロットルレバー(27)を備え、
前記操作支持台(16)は、前記スロットルレバー(27)の回動基部に対向する部位に、該回動基部の配置空間を確保する切り欠き部(37)を備えてなる、
請求項1に記載の移動農機(1)にある。
【0008】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これは、発明の理解を容易にするための便宜的なものであり、特許請求の範囲の記載に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る本発明によると、停止スイッチが操作支持台に設けられ、さらに該操作支持台の把持部側で且つ機体の中央寄りに配置されるので、走行を緊急に停止しなければならない事態が生じたとき、上記停止スイッチを操作することでエンジンを直ちに停止させることができ、さらに、該停止スイッチが、オペレータの握る把持部近傍に配置されることによって、オペレータがこれを迅速かつ的確に操作することができる。また、デフロック操作部材が、操作支持台における機体側で且つ該機体の一側寄りに配置されてなるので、オペレータが緊急時に停止スイッチを慌てて操作するような場合にあっても、デフロック操作部材が停止スイッチより遠くに位置することによって誤操作されることを抑制することができ、緊急時における停止スイッチの操作性の向上を図ることができる。
【0010】
請求項2に係る本発明によると、操作支持台が、スロットルレバーの回動基部に対向する部位に該回動基部の配置空間を確保する切り欠き部を備え、この切り欠き部にスロットルレバーが備え付けられるので、該スロットルレバーを操作支持台上の停止スイッチと横並びするようにハンドルフレーム上に配置し、全体としてスロットルレバーと停止スイッチとデフロック操作部材とを集約させるようにして、これらをコンパクトな領域内に配置させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面に沿って、本発明に係る実施の形態について説明する。なお、図1は本発明に係る移動農機を適用し得る耕耘機の側面図、図2は耕耘機を斜め後方から見た斜視図、図3は耕耘機の正面図、図4は耕耘機の耕耘部及びハンドルフレームの部分を中心に描いた平面図、図5は操作パネル16を拡大して示すもので、(a)はパネル面16bを斜め後方から見て拡大して示す図、(b)は操作パネル16の平面図、図6は操作パネル16を拡大して示すもので、(a)は操作パネル16の左側面図、(b)は操作パネル16の右側面図、(c)はパネル面の背面を斜め下方から見て拡大して示す図である。
【0012】
図1ないし図3に示すように、耕耘機(移動農機)1は、走行部10と耕耘部30とが一体的に構成されている。走行部10は、左右で一対の走行車輪(駆動輪)11に支持された機体12上に、エンジン13及び変速伝動部(図示せず)が配置され、エンジン13上に燃料タンク14が支持されている。また、機体12の後部には、変速伝動部を変速操作する変速レバー17と、機体12の走行方向を操作するハンドルフレーム18が配置されている。
【0013】
耕耘部30は、機体12に回転可能に支持された耕耘軸31と、該耕耘軸31に固定され、圃場を耕す耕耘爪32と、該耕耘爪32の上部を覆う耕耘カバー33とを有し、耕耘爪32は、変速伝動部を介して伝動されるエンジン13の出力により回転駆動される。
【0014】
機体12には、給油口を含む上部が一部露出するように燃料タンク14を覆うタンクカバー20と、変速レバー17の操作経路を案内するガイド溝21とエンジン13の排気の減圧消音を行うマフラー(図示せず)が位置する側に排気用のスリット22が形成された変速ガイドパネル23と、上記マフラーを覆うマフラーカバー25が配置されている。機体12下方の左右走行車輪11,11の間には、差動装置(ディファレンシャル)5が配設されている(図3参照)。
【0015】
相対向するタンクカバー20の後端部20aと変速ガイドパネル23の先端部23aは、それぞれ機体12の上方及び後方から見て略々連続するように互に沿うように形成されている。また、互に対向するタンクカバー20の側面の下端部20bとマフラーカバー25の上面25aは、側面視、互に沿うように形成されると共に、互に対向する変速ガイドパネル23の側面先端部23bとマフラーカバー25の後端部25bも互に沿うように形成されている。
【0016】
一方、ハンドルフレーム18は、機体12後部から後方に向かって斜め上方に延びる傾斜部18aと、該傾斜部18aの途中から屈曲して圃場面F(図1参照)と略々平行な水平となる水平部18bと、該水平部18bの最後端部に形成されたハンドル(把持部)18cと、を備えている。このハンドル18cは、オペレータが片手又は両手で把持し得るように、背面視における左右幅方向に延在する長尺状に形成されている。
【0017】
また、傾斜部18aから水平部18bへの移行部分には、ハンドル18cに対して接離可能に支持されたクラッチハンドル29が配置されている。このクラッチハンドル29は、ハンドル18c上部に重なる水平方向の位置(クラッチ接続状態となる位置)から、ハンドル18cに対して約60゜の角度に立ち上がる位置(クラッチ切断状態となる位置)まで、所謂がま口の口金状に図1矢印A方向に回動し得るように支持されている。
【0018】
更に、上記移行部分におけるハンドルフレーム18の右側部(例えば、図3の紙面左側、図4の紙面上側)には、機体12前後方向に延在するレバー溝19に沿って回動操作されるデフロックレバー(デフロック操作部材)24、スタートスイッチ26、及び停止ボタン(停止スイッチ)28が配置された操作パネル(操作支持台)16が取り付けられている。また、ハンドルフレーム18の上記移行部分における操作パネル16の端部(細かくは、後述する切り欠き部37)と対向する位置には、エンジン13の出力を調節制御するスロットルレバー27が配置されている。
【0019】
デフロックレバー24は、差動装置5(図3参照)を作動状態又は非作動状態に切換え操作して、駆動力が伝わりにくい場所で一方の走行車輪11が滑って走行困難になった場合等に左右走行車輪11,11を直結(即ち、左右走行車輪11,11による差動駆動をロック)し、駆動力を圃場面F(図1参照)に良好に伝えるようにする。このデフロックレバー24は、操作パネル16における機体12側で且つ該機体12の一側(機体12を後方から見た際の右側)寄りに配置されている。
【0020】
スタートスイッチ26は、停止ボタン28との連係操作で、停止中のエンジン13を起動させるスイッチであり、操作パネル16におけるハンドル18c側で、且つ停止ボタン28よりも機体12の一側(機体12を後方から見た際の右側)寄りに配置されている。
【0021】
停止ボタン28は、操作パネル16におけるハンドル18c側で、且つスタートスイッチ26よりも機体12の中央寄り(即ち、図3及び図4の中央線C寄り)に配置されて、クラッチハンドル29の接続状態又は切断状態いずれの操作状態に拘らず、押下操作されることにより、エンジン13を無条件で強制的に停止するように機能する。該停止ボタン28は、上記のように配置されることによって、ハンドル18cの後方で操作するオペレータから非常に手近な位置関係となり、急を要する際にはオペレータによって迅速な操作がされるものとなる。
【0022】
上記停止ボタン28は、押下した状態を保ったままで時計回り方向に所定角度回動されると、スタートスイッチ26を操作してもエンジン13の始動を不能にするエンジンロック状態を保持するように機能する。即ち、停止ボタン28は、押圧操作に応じてエンジン13の駆動を強制的に停止し、かつ該停止状態からスタートスイッチ26が操作された場合にエンジン13を起動し得る停止・起動位置と、該停止・起動位置から一方向(図4の時計回り方向)に押し回しされた際にロックしてスタートスイッチ26の操作を無効にするロック位置と、に切り換え自在に構成されている。
【0023】
デフロックレバー24や停止ボタン28等が、操作パネル16に上述したように配置されると、デフロックレバー24は、停止ボタン28に比して、耕耘機1におけるハンドル18cの後方で操作するオペレータから遠い位置に配置されることとなる。これにより、オペレータが咄嗟に停止ボタン28を押下操作しようとした場合にあっても、その際の勢い等でデフロックレバー24を誤操作してしまうことを抑制することができるようになる。なお、デフロックレバー24が上記したような位置に配置されることは、停止ボタン28の操作時だけではなく、通常の作業時においてスロットルレバー27等の操作中に誤って触れるなどしてデフロックレバー24が操作されることを防ぐことにつながることは勿論である。
【0024】
図5(a),(b)、及び図6(a)〜(c)に示すように、操作パネル16は、側面視において略々「へ」の字状を呈しており、該操作パネル16の前部には、ハンドルフレーム18の傾斜部18aに沿う形状のパネル面16aが形成され、その後部には、ハンドルフレーム18の水平部18bに沿う形状のパネル面16bが形成されている。これにより、操作パネル16は、ハンドルフレーム18に配設された際に、全体として該ハンドルフレーム18の屈曲に沿って取り付けられる。
【0025】
操作パネル16は、パネル面16aの中央部に該パネル面16aの長手方向に沿って表裏貫通するように形成されたレバー溝19を有しており、該レバー溝19の図4中央線C寄りには、切り欠き部36が形成されている。また、パネル面16bには、停止ボタン28を上方に突出させる貫通穴34が、操作パネル16におけるハンドル18c側で且つ機体12の中央寄りに形成されると共に、スタートスイッチ26を上方に突出させる貫通穴35が、操作パネル16におけるハンドル18c側で且つ機体12の一側(機体12後方から見た際の右側)寄りに形成されている。更に、パネル面16bには、スロットルレバー27の回動基部に対向する部位に、該回動基部の配置空間を確保する切り欠き部37が形成されている。
【0026】
上記構成を有する本耕耘機1を用いた作業に際し、オペレータは、停止ボタン28が上記停止・起動位置になっていることを確認し、スタートスイッチ26を押下してエンジン13をスタートさせる。そして、オペレータは、ハンドル18cを操った状態で変速レバー17を適宜に操作し、耕耘爪32を回転させつつ走行車輪11を駆動させ、圃場を低速走行する耕耘機1を該耕耘機1の後部で保持しながら農作業を行う。
【0027】
このような作業中にあって、例えば、耕耘爪32に異物を巻き込む等の緊急にエンジン13を停止させなければならない事態が生じた際、オペレータは、操作パネル16に設けられている停止ボタン28を押圧操作することにより、エンジン13を停止させることができる。停止ボタン28は、操作パネル16におけるハンドル18c側で且つ機体12の中央寄りに形成されており、オペレータにとって手近で極めて操作し易いものとなっている。これにより、オペレータは、停止ボタン28を速やかに操作してエンジン13を直ちに停止することができ、耕耘機1の操作性及び安全性が向上するものとなる。
【0028】
また、操作パネル16にはデフロックレバー24が配置されているが、該レバー24は機体12側で且つ該機体12の右側寄り、つまりオペレータからは停止ボタン28より遠い位置に配置されていることによって、停止ボタン28が押圧される際に誤操作されることが抑制され、緊急時におけるエンジン13の停止動作が阻害されないものとなる。なお、上述したような停止ボタン28の押圧操作は、エンジン13を、クラッチハンドル29の接続状態又は切断状態いずれの操作状態に拘らず、直ちに強制的に停止させるものとなる。
【0029】
以上のように本実施の形態によれば、停止ボタン28が操作パネル16に設けられ、さらに該操作パネル16のハンドル18c側で且つ機体12の中央寄りに配置されるので、走行を緊急に停止しなければならない事態が生じたとき、上記停止ボタン28を操作することでエンジン13を直ちに停止させることができ、さらに、該停止ボタン28が、オペレータの握るハンドル18c近傍に配置されることによって、オペレータがこれを迅速かつ的確に操作することができるようになる。また、デフロックレバー24が、操作パネル16における機体12側で且つ該機体12の一側(機体12後方から見た際の右側)寄りに配置されてなるので、オペレータが緊急時に停止ボタン28を慌てて操作するような場合にあっても、デフロックレバー24が停止ボタン28より遠くに位置することによって誤操作されることを抑制することができ、緊急時における停止ボタン28の操作性の向上を図ることができる。
【0030】
また、操作パネル16が、スロットルレバー27の回動基部に対向する部位に該回動基部の配置空間を確保する切り欠き部37を備え、この切り欠き部37にスロットルレバー27が備え付けられるので、該スロットルレバー27を操作パネル16上の停止ボタン28と横並びするようにハンドルフレーム18上に配置し、全体としてスロットルレバー27と停止ボタン28とデフロックレバー24とを集約させるようにして、これらをコンパクトな領域内に配置させることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る移動農機を適用し得る耕耘機の側面図である。
【図2】耕耘機を斜め後方から見た斜視図である。
【図3】耕耘機の正面図である。
【図4】耕耘機の耕耘部及びハンドルフレームの部分を中心に描いた平面図である。
【図5】操作パネルを拡大して示すもので、(a)はパネル面を斜め後方から見て拡大して示す図、(b)は操作パネルの平面図である。
【図6】操作パネルを拡大して示すもので、(a)は操作パネルの左側面図、(b)は操作パネルの右側面図、(c)はパネル面の背面を斜め下方から見て拡大して示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1 移動農機(耕耘機)
5 差動装置
11 駆動輪(走行車輪)
12 機体
13 エンジン
16 操作支持台(操作パネル)
18 ハンドルフレーム
18c 把持部(ハンドル)
24 デフロック操作部材(デフロックレバー)
27 スロットルレバー
28 停止スイッチ(停止ボタン)
37 切り欠き部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドルフレームの後端に設けられた把持部を有し、機体におけるエンジンの動力を変速装置及び差動装置を介して駆動輪に伝達して移動しながら農作業する移動農機において、
前記ハンドルフレームに、駆動状態の前記エンジンを強制的に停止する停止スイッチと、前記差動装置の差動を規制するデフロック装置を作動状態と非作動状態とに切換え操作するデフロック操作部材と、を有する操作支持台を設け、
前記停止スイッチは、前記操作支持台における前記把持部側で且つ前記機体の中央寄りに配置され、かつ前記デフロック操作部材は、前記操作支持台における前記機体側で且つ該機体の一側寄りに配置されてなる、
ことを特徴とする移動農機。
【請求項2】
前記ハンドルフレームに、前記エンジンの出力を制御するスロットルレバーを備え、
前記操作支持台は、前記スロットルレバーの回動基部に対向する部位に、該回動基部の配置空間を確保する切り欠き部を備えてなる、
請求項1に記載の移動農機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−168586(P2007−168586A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−368420(P2005−368420)
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)