説明

積層フィルムのカール矯正方法及び装置、並びに積層フィルムの製造方法

【課題】積層フィルムのカールを短時間で矯正する。
【解決手段】支持フィルム上の紫外線硬化性膜に紫外線を照射する。紫外線硬化剤の重合により、支持層11とハードコート層12とを有する積層フィルム10がつくられる。積層フィルム10は、ハードコート層12が内側に向くようにカール(第1のカール)する。支持層11の露呈部11aに水蒸気をあてる。露呈部11aの温度が、ガラス転移温度Tg1よりも高い状態となる。内部11bの温度は、ガラス転移温度よりも低い状態となる。積層フィルム10の第1のカールは更に顕著となる。所定の状態の露呈部11a及び内部11bを有する支持層11を所定の冷却速度で冷却する。露呈部11a及び内部11bの間で、第1のカールを打ち消しうる内部応力が発生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルムのカール矯正方法及び装置、並びに積層フィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリマーフィルムのうちセルロースアシレートフィルム等は、その優れた透明性、柔軟性などの特長を有する。このようなポリマーフィルムの用途は、窓ガラスに貼り付けるための窓貼り用フィルム、タッチパネル用フィルム、ITO基盤用フィルム、メンブレンスイッチ用フィルム、三次元加飾用フィルム、フラットパネルディスプレイ用の光学機能性フィルム等、多岐にわたる。
【0003】
上述したような用途のうち、ポリマーフィルムの表面を手、布、タッチペン等で接触する、又は擦るケースが想定される。かかる場合には、ポリマーフィルムの表面に傷がつくことを防ぐために、ポリマーフィルムよりも硬質なハードコート層をポリマーフィルムの表面に設ける。
【0004】
ハードコート層を表面に有するポリマーフィルムの製造方法の一例を説明する。まず、ポリマーフィルムの表面に、溶剤及び紫外線硬化剤を含む膜(以下、紫外線硬化性膜と称する)を形成する(膜形成工程と称する)。次に、紫外線硬化性膜から溶剤を蒸発させる(乾燥工程と称する)。第3に、紫外線の照射により、紫外線硬化性膜に含まれる紫外線硬化剤の重合を行う(重合工程と称する)。この重合工程により、紫外線硬化性膜から、紫外線硬化剤の重合体を含む膜(以下、重合体膜と称する)を得ることができる。こうして、ポリマーフィルムからなる支持層と、重合体膜からなるハードコート層とを有する積層フィルムを製造することができる。
【0005】
しかしながら、紫外線硬化剤の重合反応により、積層フィルムは、ハードコート層が内側を向くようにカールしてしまう。そこで、重合工程を経た積層フィルムに水蒸気を吹きつける工程(以下、水蒸気接触工程と称する)により、積層フィルムのカールを矯正していた(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−111315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、積層フィルムを大量製造する場合、所定の速度で搬送される帯状の支持フィルムに膜形成工程、乾燥工程、及び重合工程を順次行う。そして、製造された積層フィルムのカールを矯正するためには、積層フィルムに水蒸気接触工程を一定期間行う必要がある。
【0008】
したがって、支持フィルムの搬送速度が大きくなる(例えば、20m/分以上)につれて、水蒸気接触工程を行う水蒸気接触装置を搬送方向に長くしなければならない。このように、特許文献1に記載の方法では、積層フィルムの生産効率の向上と、積層フィルムのカール矯正に供する装置の省スペース化との両立を図ることができない。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためのものであり、積層フィルムのカール矯正方法及び装置、並びに積層フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の積層フィルムのカール矯正方法は、一方の面が内側に向くようにカールする帯状の積層フィルムを長手方向に搬送し、前記積層フィルムの搬送中には、他方の面における露呈部に水蒸気を接触させる水蒸気接触工程及びこの水蒸気接触工程を経た前記積層フィルムを冷却する冷却工程を連続して行い、前記積層フィルムの温度は、前記冷却工程の開始から2秒以内に50℃まで下がり、前記冷却工程の際、前記露呈部の温度は、前記露呈部のガラス転移温度よりも高いことを特徴とする。
【0011】
前記冷却工程では、前記積層フィルムの前記他方の面側を冷却することが好ましい。また、前記冷却工程では気体を前記露呈部にあてることが好ましい。
【0012】
前記冷却工程では水分子を介して前記積層フィルムを冷却することが好ましい。例えば、前記冷却工程では前記露呈部に液状の水を接触させることが好ましい。
【0013】
前記冷却工程では、前記露呈部を支持する周面を有する搬送ローラを用いて前記積層フィルムを搬送し、前記周面の温度は前記露呈部の温度よりも低く、前記周面及び前記露呈部の温度差は、10℃以上90℃以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の積層フィルムの製造方法は、上記のフィルムのカール矯正方法を用いて、前記積層フィルムを製造することを特徴とする。
【0015】
本発明の積層フィルムのカール矯正装置は、一方の面が内側に向くようにカールする帯状の積層フィルムが長手方向に搬送される搬送路を有するケーシングを有し、前記ケーシング内には、他方の面における前記露呈部がガラス転移温度よりも高温の状態となるように、前記露呈部に水蒸気を接触させる水蒸気接触部と、ガラス転移温度より高温の前記露呈部を有する前記積層フィルムを冷却し、前記積層フィルムの温度を冷却の開始から2秒以内に50℃まで下げる冷却部とが前記搬送方向上流側から下流側に向かって順次設けられ、前記水蒸気接触部と前記冷却部とが連なっていることを特徴とする。
【0016】
前記冷却部には、前記積層フィルムの前記他方の面側を冷却する冷却機構が配されることが好ましい。
【0017】
前記冷却機構は、前記露呈部に前記水蒸気を含む気体をあてる水蒸気供給機と、前記気体の温度及び湿度を調節する気体調節機とを備えることが好ましい。また、前記冷却機構は、前記積層フィルムを搬送する搬送ローラを備え、前記周面の温度は前記露呈部の温度よりも低く、前記周面及び前記露呈部の温度差は、10℃以上90℃以下であることが好ましい。更に、前記冷却機構は、液状の水が貯留する槽と、前記積層フィルムを前記水の中へ案内するガイドローラとを備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、一方の面が内側に向くようにカールする帯状の積層フィルムを長手方向に搬送し、前記積層フィルムの搬送中には、他方の面における露呈部に水蒸気を接触させる水蒸気接触工程及びこの水蒸気接触工程を経た前記積層フィルムを所定条件下で冷却する冷却工程を連続して行うため、積層フィルムのカールの矯正を、従来に比べ短時間で行うことができる。このように、本発明によれば、積層フィルムのカールの矯正に要する時間を短縮することができるため、支持フィルムの搬送速度の高速化に伴う、積層フィルムのカールの矯正を行う装置の長大化を回避することができる。したがって、本発明によれば、積層フィルムの生産効率の向上と、積層フィルムのカール矯正に供する装置の省スペース化との両立を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】積層フィルムの概要を示す側面図である。
【図2】積層フィルム製造設備の概要を示す説明図である。
【図3】第1のカール矯正装置の概要を示す側面図である。
【図4】搬送方向に直交する断面における積層フィルムの断面図である。(a)は水蒸気接触工程が行われる前の積層フィルムについてのものである。(b)は水蒸気接触工程における積層フィルムについてのものであり、(c)は冷却工程後の積層フィルムについてのものである。
【図5】第2のカール矯正装置の概要を示す側面図である。
【図6】第3のカール矯正装置の概要を示す側面図である。
【図7】第4のカール矯正装置の概要を示す側面図である。
【図8】カールの曲率を算出するために必要な、測定フィルムの長さL及び高さHの概要を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
積層フィルム10は、図1に示すように、支持層11と、支持層11よりも硬いハードコート層12とを有する。積層フィルム10の厚さdは、特に限定されないが、5μm以上120μm以下であることが好ましく、40μm以上80μm以下であることがより好ましい。また、支持層11の厚さdsとハードコート層12の厚さdhとの比dh/dsは、例えば、0.04以上0.50以下であることが好ましく、0.10以上0.40以下であることがより好ましい。
【0021】
本発明におけるハードコート層12の屈折率は、積層フィルム10に反射防止性を付与するために、1.45〜2.00の範囲にあることが好ましく、1.45〜1.55の範囲にあることがより好ましく、さらに好ましくは1.48〜1.55であり、特に好ましくは1.49〜1.53である。ハードコート層12の屈折率をこの範囲に制御することにより、反射色をニュートラルな範囲に抑えつつ、表面の反射率が十分低減された積層フィルムを得ることができる。更にハードコート層12の屈折率をこの範囲に制御することで、干渉ムラと呼ばれる支持層11とハードコート層12の屈折率差に起因する故障を低減することができる。
【0022】
ハードコート層12の強度は、鉛筆硬度試験で、2H以上であることが好ましく、3H以上であることがさらに好ましく、4H以上であることが最も好ましい。さらに、JIS K5400に従うテーバー試験で、試験前後の試験片の摩耗量が少ないほど好ましい。
【0023】
積層フィルム10は、図2に示す積層フィルム製造設備20にて製造される。積層フィルム製造設備20は、ロール状の支持フィルム(以下、支持フィルムロールと称する)21から支持フィルム22を送り出す送り出し部23と、支持フィルム22から積層フィルム10をつくる搬送路24と、搬送路24から送り出された積層フィルム10を巻き芯にロール状に巻き取る巻き取り部25とを有する。搬送路24には、送り出し部23から巻き取り部25に向かって複数の搬送ローラ27が並べられる。
【0024】
(支持フィルム)
支持フィルム22の形成材料は、光透過性を有するもののであれば特に限定されないが、ポリマーであることが好ましく、例えば、セルロースアシレート、環状ポリオレフィン、ラクトン環含有重合体、環状ポリオレフィン、ポリカーボネイト等があげられる。なお、セルロースアシレートの詳細については後述する。
【0025】
搬送路24には、溶剤及び紫外線硬化剤を含む紫外線硬化性膜28を支持フィルム22に形成する膜形成装置31と、紫外線硬化性膜28から溶剤を蒸発させる乾燥装置32と、紫外線硬化剤の重合を行う重合装置33と、積層フィルム10のカールを矯正するカール矯正装置34とが、送り出し部23から巻き取り部25に向かって順次設けられる。
【0026】
膜形成装置31は、紫外線硬化剤と溶剤と含む塗布液を、支持フィルム22の表面に塗布するダイ36を有する。塗布液の塗布により、支持フィルム22の表面には、塗布液からなる紫外線硬化性膜28が形成される。塗布液は、紫外線硬化剤を適当な溶剤に溶解若しくはコロイド状分散して作製される。この際、紫外線硬化剤の濃度は、用途に応じて適宜選択されるが、一般的には、10質量%以上95質量%以下であることが好ましい。
【0027】
(紫外線硬化剤)
紫外線硬化剤としては、例えば、電離放射線硬化性の多官能モノマーや多官能オリゴマーを用いることが好ましい。電離放射線硬化性の多官能モノマーや多官能オリゴマーの官能基としては、光、電子線、放射線重合性のものが好ましく、中でも光重合性官能基が好ましい。光重合性官能基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、スチリル基、アリル基等の不飽和の重合性官能基等が挙げられ、中でも、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0028】
(溶剤)
溶剤としては、支持フィルム22をなす物質を溶解させない化合物であることが好ましい。また、積層フィルム10における支持層11とハードコート層12との密着性を向上させるために、支持フィルム22をなす物質を膨潤させる化合物であることが好ましい。更に、溶剤としては、紫外線硬化剤が沈殿を生じることなく、均一に溶解又は分散されるものであれば特に制限はなく、2種類以上の溶剤を併用することもできる。
【0029】
溶剤の好ましい例としては、分散媒体としては、アルコール類、ケトン類、エステル類、アミド類、エーテル類、エーテルエステル類、炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類等が挙げられる。具体的には、アルコール(例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノアセテート等)、ケトン(例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等)、エステル(例えば酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸ブチル、乳酸エチル等)、脂肪族炭化水素(例えばヘキサン、シクロヘキサン、ハロゲン化炭化水素(例えばメチレンクロライド、メチルクロロホルム等)、芳香族炭化水素(例えばトルエン、キシレン等)、アミド(例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、n−メチルピロリドン等)、エーテル(例えばジオキサン、テトラハイドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル等)、エーテルアルコール(例えば1−メトキシ−2−プロパノール、エチルセルソルブ、メチルカルビノール等)、フルオロアルコール類(例えば、特開平8−143709号公報段落番号[0020]、同11−60807号公報段落番号[0037]等に記載の化合物) が挙げられる。
【0030】
これらの溶剤は、それぞれ単独で又は2 種以上を混合して使用することができる。好ましい溶剤としては、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、イソプロパノール、ブタノールが挙げられる。また、ケトン溶剤(例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)を主にした塗布溶剤系も好ましく用いられ、ケトン系溶剤の含有量が硬化性組成物に含まれる全溶剤の10質量%以上であることが好ましい。より好ましくは30質量%以上である。
【0031】
乾燥装置32は、紫外線硬化性膜28に乾燥風37をあてる乾燥風供給機38を有する。
【0032】
重合装置33は、紫外線ランプ46を有する。紫外線ランプ40は、紫外線硬化性膜28に向けて紫外線41を照射する。紫外線41の照射により、紫外線硬化性膜28は、紫外線硬化剤の重合体を含む重合体膜となる。こうして、紫外線硬化性膜28を有する支持フィルム22から、重合体膜からなるハードコート層12と、支持フィルム22からなる支持層11とを有する積層フィルム10(図1参照)を得ることができる。
【0033】
図3に示すように、カール矯正装置34は、入口45a及び出口45bが設けられたケーシング45を有する。ケーシング45内には、入口45aから出口45bにかけて、積層フィルム10の搬送路が形成される。ケーシング45内には、搬送方向上流側から下流側に向かって順次、予熱部51、水蒸気接触部52、冷却部53が連なって設けられる。仕切部材47により、予熱部51及び水蒸気接触部52は仕切られることが好ましい。なお、予熱部51は省略しても良い。また、仕切部材により、水蒸気接触部52及び冷却部53の間を仕切っても良い。
【0034】
(予熱部)
予熱部51内には、送出口から予熱風55を送り出す予熱風供給機56と、搬送路近傍における温度や湿度を検知する温度湿度センサ57とが設けられる。予熱風供給機56に設けられた送出口は、搬送路と対向するように形成される。送出口は、搬送路にある積層フィルム10の支持層11、及びハードコート層12に対向するように設けても良いし、支持層11とハードコート層12とのうちいずれか一方に対向するように設けても良い。予熱風55に用いる気体としては、空気のほか、窒素や希ガスなどの不活性ガスを用いることが好ましい。
【0035】
(水蒸気接触部)
水蒸気接触部52内には、送出口から水蒸気61を送り出す水蒸気供給機62と、搬送路近傍における温度や湿度を検知する温度湿度センサ63とが設けられる。水蒸気供給機62に設けられた送出口は、搬送路にある積層フィルム10の支持層11と対向するように設けられる。なお、水蒸気接触部52内において、水蒸気供給機62よりも搬送方向上流側や下流側に、水蒸気61を吸引する吸引機を設けても良い。
【0036】
(冷却部)
冷却部53内には、積層フィルム10の支持層11側を支持する周面71aを有する搬送ローラ71と、この搬送ローラ71の周面71aの温度を調節するローラ温調機72とを有する。搬送ローラ71内には、伝熱媒体が流通可能な伝熱媒体流路が設けられる。ローラ温調機72は、伝熱媒体の温度を所定の範囲内に調節する温調部を内蔵し、伝熱媒体流路及び温調部の間で伝熱媒体を循環させる。搬送ローラ71の形成材料は、熱伝導性の高いものであることが好ましく、例えば、アルミニウムやステンレスやセラミックスなどを用いることができる。
【0037】
カール矯正装置34は、制御部80を有する。制御部80は、温度湿度センサ57、63から搬送路近傍における温度や湿度を読み取り、読み取った温度や湿度に基づいて、予熱風55の温度や湿度、または水蒸気61の温度や供給量をそれぞれ独立して調節する。また、制御部80は、ローラ温調機72が搬送ローラ71へ送り出す伝熱媒体の温度を調節する。
【0038】
本発明の作用について説明する。図2に示すように、送り出し部23は、支持フィルム22を搬送路24へ送り出す。支持フィルム22は、搬送路24の通過により積層フィルム10となって、巻き取り部25へ送られる。巻き取り部25は、積層フィルム10を巻き芯に巻き取る。
【0039】
次に、膜形成装置31は、支持フィルム22の表面に紫外線硬化性膜28を形成する膜形成工程を行う。乾燥装置32は、支持フィルム22上の紫外線硬化性膜28に乾燥風37をあてて、紫外線硬化性膜28から溶剤を蒸発させる乾燥工程を行う。乾燥風37の温度は、10℃以上150℃以下であることが好ましく、20℃以上120℃以下であることがより好ましい。紫外線硬化性膜28からの溶剤の蒸発は、紫外線硬化性膜28における残留溶剤量が0.5質量%以下なるまで行うことが好ましい。
【0040】
乾燥工程を経た支持フィルム22は、重合装置33に導入される。重合装置33では、紫外線硬化性膜28に含まれる紫外線硬化剤の重合を行う重合工程が行われる。重合工程の結果、紫外線硬化性膜28を有する支持フィルム22は、積層フィルム10となる。この重合工程では、紫外線硬化剤の収縮硬化により、ハードコート層12と支持層11との間では第1の内部応力が発生する。この第1の内部応力に起因して、重合工程を経た積層フィルム10は、ハードコート層12が内側に向くようにカール(以下、第1のカールと称する)する(図4(a)参照)。
【0041】
図3に戻って、第1のカールを有する積層フィルム10は、カール矯正装置34に導入される。積層フィルム10は、予熱部51、水蒸気接触部52、及び冷却部53を順次通過する。
【0042】
予熱部51では、積層フィルム10に予熱風51をあてる。この結果、積層フィルム10は加熱される。
【0043】
予熱風51による積層フィルム10の加熱は、支持層11をなす物質の温度Tfが、支持層11をなす物質のガラス転移温度Tg0に近づくように行うことが好ましい。(Tg−Tf)の値は、30℃以上80℃以下であることが好ましい。ここで、ガラス転移温度Tg0とは、重合工程後であって水蒸気接触工程前における、支持層11のガラス転移温度を指す。
【0044】
水蒸気接触部52では、積層フィルム10の支持層11側の表面に水蒸気61をあてる水蒸気接触工程が行われる。この結果、支持層11のうち積層フィルム10の表面に露呈する部(以下、露呈部と称する)11aにおけるガラス転移温度Tg1は、ガラス転移温度Tg0よりも低くなる。この結果、露呈部11aの温度が、ガラス転移温度Tg1よりも高い状態(以下、ゴム状態と称する)となる。一方、支持層11のうち、露呈部11aよりも内側の部分(以下、内部と称する)11bの温度は、ガラス転移温度Tg0よりも低い状態のままである(以下、ガラス状態と称する)。こうして、露呈部11aの弾性率が内部11bの弾性率よりも低くなる結果、積層フィルム10の第1のカールは更に顕著となる(図4(b)参照)。
【0045】
水蒸気接触工程を行う時間は、必要とするカールの矯正量を確保することができる範囲であればよく、たとえば、10秒以下であることが好ましく、2秒以下であることがより好ましい。
【0046】
水蒸気61は、飽和水蒸気及び過熱水蒸気のいずれであってもよい。水蒸気61の温度は、70℃以上130℃以下であることが好ましく、100℃以上120℃以下であることがより好ましい。水蒸気61の湿度は、30%RH以上100%RH以下であることが好ましく、60%RH以上90%RH以下であることがより好ましい。
【0047】
図3に戻って、冷却部53に導入された積層フィルム10は、温度が所定の範囲に調節された周面71aにより、支持層11側を支持される。この結果、冷却部53では、ゴム状態の露呈部11a及び内部11bが有する状態の支持層11を冷却する冷却工程が行われる。冷却工程の前後において、露呈部11aの収縮量は内部11bの収縮量に比べて大きいため、露呈部11a及び内部11bとの間で、第2の内部応力が発生する。第2の内部応力の発生により、第1のカールを打ち消すように、積層フィルム10は変形しようとする。こうして、第1のカールを矯正することができる(図4(c)参照)。
【0048】
冷却工程を行う時間は、1秒以上30秒以下であることが好ましく、5秒以上20秒以下であることがより好ましい。そして、冷却工程における積層フィルム10の温度の降下量ΔTは、10℃以上であることが好ましく、30℃以上であることがより好ましい。降下量ΔTの上限は特に限定されないが、例えば、90℃以下であることが好ましい。そして、冷却工程開始から2秒以内に、積層フィルム10の温度が50℃になるまで冷却することが好ましい。これにより、冷却工程における支持層11の冷却速度を、第1のカールの矯正を短時間で行える程度のものにすることができる。なお、冷却工程における支持層11の冷却速度は、特に限定されないが、例えば、0.33℃/秒以上であることが好ましい。
【0049】
なお、周面71aの温度T71aと露呈部11aの温度T11aとの温度差(=T11a−T71a)は10℃以上100℃以下であることが好ましく、40℃以上100℃以下であることがより好ましい。また、温度T11aは、70℃以上支持層11をなす物質の融点以下であることが好ましく、80℃以上110℃以下であることがより好ましい。温度T71aは、0℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上50℃以下であることがより好ましい。
【0050】
上記実施形態では、搬送ローラ71を1つ用いたが、本発明はこれに限られず、搬送方向に並べられた複数の搬送ローラ71を用いても良い。更に、上記実施形態では、積層フィルム10の搬送において、搬送ローラ71を用いて露呈部11aを支持したが、本発明はこれに限られず、搬送ローラ71に巻きかけながら、積層フィルム10を搬送しても良い(図5参照)。各搬送ローラ71の周面71aの温度は所定の範囲に調節されているため、露呈部11a及び内部11bを有する支持層11の急速冷却をより確実に行うことができる。
【0051】
なお、冷却部53において、搬送路を介して搬送ローラ71と対向するニップローラを設けても良い。搬送ローラ71とニップローラとを用いることにより、支持層11の急速冷却をより確実に行うことができる。
【0052】
なお、支持層11の冷却のために、冷却されたローラを支持層11へ接触させたが、本発明はこれに限られず、乾いた冷却風を支持層11にあててもよい。
【0053】
なお、図6に示すように、冷却部53内に、水を貯留する槽85と、槽に貯留する水の中へ積層フィルム10を案内するガイドローラ86とを設けても良い。なお、槽85内に貯留する水の温度を、所定の範囲内で略一定に維持する水温調節機87を設けても良い。槽85内に貯留する水の温度は0℃以上60℃以下であることが好ましく、10℃以上40℃以下であることがより好ましい。また、積層フィルム10を水中に案内する代わりに、シャワーを用いて積層フィルム10に水をかけてもよいし、積層フィルム10へ水を塗布してもよいし、霧状の水を吹きつけてもよい。また、水槽、シャワー、塗布、霧吹きの組み合わせでも良く、中でも、シャワーと水槽との組み合わせが好ましい。シャワーと水槽との組み合わせは、シャワー、水槽への浸水の順に行うことが好ましい。
【0054】
なお、図7に示すように、積層フィルム10に向けて、冷却風90を送り出す冷却風装置91を冷却部53内に設けても良い。冷却風装置91は、制御部80の制御の下、冷却風90の雰囲気の温度、湿度や供給量を、所定の範囲内で略一定に維持する。冷却風90の温度は0℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上50℃以下であることがより好ましい。冷却風90の湿度は、10%RH以上90%RH以下であることが好ましく、50%RH以上90%RH以下であることがより好ましい。冷却風90に用いる気体としては、空気のほか、窒素や希ガスなどの不活性ガスを用いることが好ましい。なお、冷却風90を積層フィルム10にあてる代わりに、冷却用気体が充満したケーシング内において、積層フィルム10を通過させても良い。
【0055】
このように、冷却工程では、積層フィルム10の冷却媒体として、湿潤気体や液状の水、霧状の水等を用いても良い。すなわち、冷却工程では、水分子を介在して、積層フィルムを冷却することが好ましい。
【0056】
なお、膜形成工程において、塗布液に含まれる紫外線硬化剤が支持フィルム22に染み込む結果、支持フィルム22の表層に染み込み層が形成される場合がある。かかる場合、染み込み層を支持層11の一部としてよい。
【0057】
搬送ローラとの接触に起因してオレシワが発生する場合には、上記のものに加え、以下の方法を用いることが好ましい。
【0058】
オレシワとは、ハードコート層12側が突出するように折れ曲がってなり、長手方向へスジ状に形成される積層フィルム10のシワをいい、膨張または収縮している状態の支持層11が搬送ローラ27と接触すると発生する。
【0059】
支持層11の膨張には、ガラス状態からゴム状態への相転移に起因するものや、支持層11の温度よりも高い温度(例えば、20〜30℃高い)の搬送ローラ27との接触に起因するものが含まれる。一方、支持層11の収縮には、ゴム状態からガラス状態への相転移に起因するものや、支持層11の温度よりも低い温度(例えば、20〜30℃低い)の搬送ローラ27との接触に起因するものが含まれる。
【0060】
オレシワの発生プロセスは、以下の通り推測される。
【0061】
(オレシワの発生プロセスその1)
支持層11のうち搬送ローラ27と接触している部分は、搬送ローラ27の周面との摩擦力により巾方向への膨張することが困難である。このため、当該部分にて膨張が起こると当該部分は厚み方向へ膨張する結果、積層フィルム10が搬送ローラ27の周面に対して起立するように折れ曲がってしまう。こうして、図12に示すようなオレシワが積層フィルム10に発生してしまう。
【0062】
(オレシワの発生プロセスその2)
搬送ローラとの接触に起因する支持層11の膨張または収縮により、積層フィルム10のうち搬送ローラよりも搬送方向上流側の部分、及び搬送方向下流側の部分とでは、幅が異なる。この幅の差に起因して、内部応力が発生する結果、積層フィルム10にオレシワが発生してしまう。
【0063】
更に、ゴム状態の支持層11のヤング率は、ガラス状態の場合のものに比べて小さい。このため、ゴム状態の支持層11は、外力や内部応力に対する形状維持が困難な状態となる。この結果、支持層11がゴム状態の場合には、支持層11の膨張または収縮により、積層フィルム10にオレシワが発生しやすくなる。
【0064】
カール矯正装置34において、支持層11のうちゴム状態の部分は、搬送ローラと非接触の状態で搬送することが好ましい。搬送ローラと非接触の状態で搬送する方法とは、積層フィルム10の下方から浮上風をあてる方法、クリップテンタ等のテンタ装置を用いて、積層フィルム10の耳部を把持した状態で搬送する方法や、搬送ローラを用いて支持層11のうちガラス状態の部分のみを支持して搬送する方法がある。
【0065】
そして、支持層11がゴム状態となっている時間を短くするために、以下の方法を用いても良い。冷却部53では、ゴム状態の支持層11を、ガラス状態になるまで冷却することが好ましい。冷却方法としては、搬送される積層フィルムに冷却風をあてる方法がある。なお、冷却風を浮上風として用いてもよい。
【0066】
また、支持層11がゴム状態となっている時間を短くするために、予熱部51や冷却部53において、除湿工程を行ってもよい。除湿工程は、湿度が調節された調湿風を支持層11にあて、支持層11に含まれる水分子を支持層11の外部へ放出させるものである。また、水蒸気61が水蒸気接触部52から予熱部51や冷却部53へ入ることを防ぐために、水蒸気61の流入を防ぐ遮り部材を予熱部51の出口や冷却部53の入口に設けても良い。
【0067】
水蒸気接触工程の前後に行われる各工程において、積層フィルム10の温度が、積層フィルム10の雰囲気の露点よりも高くなるように、積層フィルム10の温度、または積層フィルム10の雰囲気の露点を調節する結露防止工程を行うことが好ましい。
【0068】
積層フィルム10の搬送速度は、20m/分以上であることが好ましく、30m/分以上であることがより好ましい。積層フィルム10の搬送速度の上限は、搬送速度の増大に起因する問題が生じない限り、特に限定されないが、例えば、70m/分以下であることが好ましい。
【0069】
(セルロースアシレート)
セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、すなわち、アシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、A及びBは、アシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、またBは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
【0070】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1である)を意味する。
【0071】
全アシル化置換度、即ち、DS2+DS3+DS6は2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)である。
【0072】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときは、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位及び6位の水酸基による置換度の総和をDSAとし、2位,3位及び6位の水酸基のアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DSBは0.30以上であり、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBはその20%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは25%以上が6位水酸基の置換基であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また更に、セルロースアシレートの6位の置換度が0.75以上であり、さらには0.80以上であり特には0.85以上であるセルロースアシレートも挙げることができる。これらのセルロースアシレートにより溶解性の好ましい溶液(ドープ)が作製できる。特に非塩素系有機溶剤において、良好な溶液の作製が可能となる。さらに粘度が低く、濾過性の良い溶液の作製が可能となる。
【0073】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでも良い。
【0074】
本発明のセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル、ブタノイルである。
【0075】
なお、支持層11に微粒子を含有させてもよい。これにより、支持層11の表面に凹凸を付与することができる。また、支持層11に内部散乱効果を付与することができる。この結果、積層フィルムに反射防止機能を付与することができる。
【0076】
微粒子は有機粒子であっても、無機粒子であってもよい。粒径にばらつきがないほど、散乱特性にばらつきが少なくなり、ヘイズ値の設計が容易となる。
【0077】
本発明に使用することの出来る無機粒子としては、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化インジウム、ITO、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化アンチモン、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウム或いはこれらの複合酸化物等を挙げることが出来る。
【0078】
微粒子の一次粒子の平均直径は3μm〜12μmであり、5μm〜12μmが好ましく、6μm〜10μmがより好ましい。支持層11における微粒子の含有量は0.1〜20質量%であることが好ましく、0.1〜18質量%がより好ましい。支持層11が複数の層から構成される場合には、表層に微粒子が含まれることが好ましい。微粒子の平均直径が上記の範囲である場合には、画像表示装置に設置した際のギラツキを防止し、かつコントラスト比が良好となり、かつ漆黒感が良好な反射防止フィルムを得ることができる。平均直径が3μm未満であると表面の凹凸が細かくなって反射光の乱反射が強くなり、画面が白茶け、漆黒感に劣る反射防止フィルムとなる。平均粒径が12μmを超えると、コントラスト比が低下する。
【0079】
上記実施形態では、支持層11にハードコート層12が重なる積層フィルム10について説明したが、本発明の積層フィルムはこれに限られない。例えば、支持層11にハードコート層12が重なり、更にハードコート層12に、低屈折率層が重なる積層フィルムでも良い。
【0080】
屈折率がハードコート層よりも低い低屈折率層を設けることにより、積層フィルムに反射防止機能を付与することができる。低屈折率層とハードコート層との屈折率差が小さすぎる場合は反射防止性が低下し、大き過ぎると反射光の色味が強くなる傾向がある。低屈折率層とハードコート層との屈折率差は0.01以上0.30以下が好ましく、0.05以上0.20以下がより好ましい。低屈折率層は、低屈折率素材を用いて形成することができる。低屈折率素材としては、低屈折率バインダーを用いることができる。また、バインダーに微粒子を加えて低屈折率層を形成することもできる。
【0081】
低屈折率バインダーとしては、含フッ素共重合体を好ましく用いることができる。含フッ素共重合体は、含フッ素ビニルモノマーから導かれる構成単位と架橋性付与のための構成単位を有することが好ましい。
【0082】
低屈折率層の屈折率は、1.20〜1.46であることが好ましく、1.25〜1.42であることがより好ましく、1.30〜1.38であることが特に好ましい。また低屈折率層の厚さは、50〜150nmであることが好ましく、70〜120nmであることがさらに好ましい。
【0083】
低屈折率層には、ハードコート層よりも低い微粒子が含まれていることが好ましい。低屈折率層に含まれる微粒子の塗設量は、1〜100mg/mが好ましく、より好ましくは1〜80mg/m、更に好ましくは1〜70mg/mである。微粒子の塗設量が該下限値以上であれば、耐擦傷性の改良効果が明らかに現れ、該上限値以下であれば、低屈折率層表面に微細な凹凸ができて外観や積分反射率が悪化するなどの不具合が生じないので好ましい。
【0084】
低屈折率層に含まれる微粒子は、無機微粒子、中空の無機微粒子、又は中空の有機樹脂微粒子であって、低屈折率のものであることが好ましく、中空の無機微粒子が特に好ましい。無機微粒子としては、例えば、シリカ又は中空シリカの微粒子が挙げられる。
【0085】
このような微粒子の平均粒径は、低屈折率層の厚みの30%以上100%以下が好ましく、より好ましくは30%以上80%以下、更に好ましくは35%以上70%以下である。すなわち、低屈折率層の厚みが100nmであれば、微粒子の粒径は30nm以上100nm以下が好ましく、より好ましくは30nm以上80nm以下、更に好ましくは、35nm以上70nm以下である。
【0086】
ハードコート層には、内部散乱性付与、あるいはハードコート層の表面凹凸形状付与の目的で、平均粒径が3.0〜12.0μm、好ましくは5〜8μmの微粒子、例えば無機化合物の粒子または樹脂粒子を含有してもよい。但し、必要とされる、表面凹凸形状、あるいは内部散乱性は、前記したように透明支持体に含有される微粒子により、表面凹凸形状、さらには内部散乱性が付与されている場合には、ハードコート層に含まれる微粒子の平均粒径が3μm未満であることが好ましい。また、平均粒径1μm以下の無機微粒子はハードコート層の屈折率を調整する意図で添加されるが、ハードコート層用塗布液の安定性を低下させる弊害があるため、該無機微粒子を含まないことが好ましい。
【0087】
また、ハードコート層の表面凹凸形状については、中心線平均粗さ(Ra)を0.05μm以上0.20μm以下とすることが好ましい。Raは、より好ましくは0.05μm以上0.15μm以下である。また、凹凸の周期(Sm)は10μm以上150μm以下とすることが好ましく、50μm以上150μm以下とすることがより好ましく、60μm以上120μm以下にすることがさらに好ましい。
【実施例】
【0088】
(実験1)
図2に示す積層フィルム製造設備20において、平らな支持フィルムを膜形成装置31、乾燥装置32及び重合装置33へと順次導入し、支持フィルムからなる支持層(厚さ80μm)とハードコート層(厚さ9μm)とを有する積層フィルムを得た。重合装置33から送り出された積層フィルムは、ハードコート層が内側になるようにカールしていた。積層フィルムのカールの曲率は、20.9m−1であった。積層フィルムのカールの曲率の算出方法は後述するものと同様である。
【0089】
図7に示すカール矯正装置において、カールした積層フィルムを、予熱部51、水蒸気接触部52、及び冷却部53へ順次案内した。予熱風供給機56は、予熱風55を積層フィルムにあて、積層フィルムの温度T51を88℃にした。水蒸気供給機62は、積層フィルムの支持層側の面側に水蒸気接触工程を行った。水蒸気接触工程では、水蒸気を含む気体(温度T52=106℃、湿度AH52=570g/m)を用いた。水蒸気接触工程に要した時間P52は1.40秒であった。水蒸気接触部52の出口における積層フィルムの温度Tf52は、99℃であった。冷却部53では、積層フィルムを冷却する冷却工程を行った。冷却工程では、温度がTf52の積層フィルムの両面に、温度T53が20℃、相対湿度Hが32%RHの冷却用気体を所定時間P53だけあてて、冷却工程における積層フィルムの冷却速度を略一定に維持した。冷却用気体の風速V1は5.0m/秒であった。P53は10秒であった。冷却工程の開始から2秒経過後の積層フィルムの温度Tf53は46℃であった。こうして、積層フィルムのカールを矯正した。
【0090】
(実験2〜12)
実験2〜5,10では、各パラメータを表1に示すものに調節したこと以外は実験1と同様にして、積層フィルムのカールを矯正した。また、実験6、7では、積層フィルムの支持層側の面に冷却用気体をあてたこと、及び各パラメータを表1に示すものに調節したこと以外は、実験1と同様にして、積層フィルムのカールを矯正した。
【0091】
実験8、11では、図6に示すような冷却部53において、温度がT53に調節された水の中へ積層フィルムを案内したこと及び各パラメータを表1に示すものに調節したこと以外は、実験1と同様にして、積層フィルムのカールを矯正した。
【0092】
実験9、12では、図3に示すような冷却部53において、周面の温度がT53に調節された搬送ローラを用いて、積層フィルムの支持層側の面を冷却しながら、積層フィルムを搬送したこと、及び各パラメータを表1に示すものに調節したこと以外は、実験1と同様にして、積層フィルムのカールを矯正した。
【0093】
【表1】

【0094】
1.カールの曲率の測定
カール矯正装置から送り出された積層フィルムから長手方向の長さが5mmのスリット状のフィルムを切り出した。更に、積層フィルムの幅方向へ150mm間隔でスリット状のフィルムを切断し、複数の測定フィルム100(縦の長さ5mm、横の長さ150mm)を得た。図8に示すように、平らな台102の上に、ハードコート層が下側を向くように測定フィルム100を配した。横方向における測定フィルム100の両端を結ぶ線分の長さLと、台102から測定フィルム100のうち最も高い位置100tまでの高さHとを測定した。そして、長さLと高さHとから、積層フィルムの幅方向における測定フィルム100のカールの曲率Cを算出した。
【0095】
実験1〜12の結果より、本発明によれば、積層フィルムのカールの矯正に要する時間を、従来に比べて短くすることができることがわかった。
【符号の説明】
【0096】
10 積層フィルム
11 支持層
12 ハードコート層
24 搬送路
27 搬送ローラ
33 重合装置
34 カール矯正装置
71 搬送ローラ
72 ローラ温調機
80 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面が内側に向くようにカールする帯状の積層フィルムを長手方向に搬送し、
前記積層フィルムの搬送中には、他方の面における露呈部に水蒸気を接触させる水蒸気接触工程及びこの水蒸気接触工程を経た前記積層フィルムを冷却する冷却工程を連続して行い、
前記積層フィルムの温度は、前記冷却工程の開始から2秒以内に50℃まで下がり、
前記冷却工程の際、前記露呈部の温度は、前記露呈部のガラス転移温度よりも高いことを特徴とする積層フィルムのカール矯正方法。
【請求項2】
前記冷却工程では、前記積層フィルムの前記他方の面側を冷却することを特徴とする請求項1記載の積層フィルムのカール矯正方法。
【請求項3】
前記冷却工程では気体を前記露呈部にあてることを特徴とする請求項1または2記載の積層フィルムのカール矯正方法。
【請求項4】
前記冷却工程では水分子を介して前記積層フィルムを冷却することを特徴とする請求項1ないし3記載の積層フィルムのカール矯正方法。
【請求項5】
前記冷却工程では前記露呈部に液状の水を接触させることを特徴とする請求項4記載の積層フィルムのカール矯正方法。
【請求項6】
前記冷却工程では、前記露呈部を支持する周面を有する搬送ローラを用いて前記積層フィルムを搬送し、
前記周面の温度は前記露呈部の温度よりも低く、前記周面及び前記露呈部の温度差は、10℃以上90℃以下であることを特徴とする請求項1ないし5のうちいずれか1項記載の積層フィルムのカール矯正方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のうちいずれか1項記載のフィルムのカール矯正方法を用いて、前記積層フィルムを製造することを特徴とする積層フィルムの製造方法。
【請求項8】
一方の面が内側に向くようにカールする帯状の積層フィルムが長手方向に搬送される搬送路を有するケーシングを有し、
前記ケーシング内には、他方の面における前記露呈部がガラス転移温度よりも高温の状態となるように、前記露呈部に水蒸気を接触させる水蒸気接触部と、ガラス転移温度より高温の前記露呈部を有する前記積層フィルムを冷却し、前記積層フィルムの温度を冷却の開始から2秒以内に50℃まで下げる冷却部とが前記搬送方向上流側から下流側に向かって順次設けられ、
前記水蒸気接触部と前記冷却部とが連なっていることを特徴とする積層フィルムのカール矯正装置。
【請求項9】
前記冷却部には、前記積層フィルムの前記他方の面側を冷却する冷却機構が配されることを特徴とする請求項8記載の積層フィルムのカール矯正装置。
【請求項10】
前記冷却機構は、
前記露呈部に前記水蒸気を含む気体をあてる水蒸気供給機と、
前記気体の温度及び湿度を調節する気体調節機とを備えることを特徴とする請求項9記載の積層フィルムのカール矯正装置。
【請求項11】
前記冷却機構は、
前記積層フィルムを搬送する搬送ローラを備え、
前記周面の温度は前記露呈部の温度よりも低く、前記周面及び前記露呈部の温度差は、10℃以上90℃以下であることを特徴とする請求項9または10記載の積層フィルムのカール矯正装置。
【請求項12】
前記冷却機構は、
液状の水が貯留する槽と、
前記積層フィルムを前記水の中へ案内するガイドローラを備えることを特徴とする請求項9ないし11のうちいずれか1項記載の積層フィルムのカール矯正装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−215268(P2011−215268A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81783(P2010−81783)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】