説明

積層型ウェハレンズおよびその製造方法、多層レンズ

【課題】高い精度でウェハスケールレンズ同士を重ね合わせ、均一に接着する。
【解決手段】接着するウェハスケールレンズ201,202の間の充填部203に、毛細管現象を利用して遮光性接着剤213を浸透充填し、接着する。充填部203とレンズ光学部2011との境界には突起部2023が設けられているため、遮光性接着剤213は、中空部209へ浸透しない。また、中空部209と外部とを結ぶ通気性膜205が形成されており、中空部209の膨張した空気を外部へ逃がす働きをする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェハスケールレンズを複数重ねた積層型ウェハレンズおよびその製造方法、ならびに、それを個々に分割した多層レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
製造コストの削減のために、複数枚のウェハスケールレンズを重ね合わせて接着した積層型ウェハレンズが提案され、製造されている。しかしながら、積層型ウェハレンズを製造する場合において、接着するウェハレンズ同士を位置ずれまたは傾きが生じないように重ね合わせることは容易ではない。このようなウェハレンズ同士の位置ずれまたは傾き、言い換えれば、中心位置のずれ(光軸のずれ)および距離(高さ)のずれは、レンズ特性を劣化させる大きな原因となる。したがって、非常に高い精度でウェハスケールレンズ同士を重ね合わせて接着する技術が、積層型ウェハレンズの製造において必要不可欠である。
【0003】
そこで例えば、特許文献1には、図10(a)に示したように、ウェハスケールレンズ5010、5020を接着する接着剤5203をウェハスケールレンズ5010、5020の間に充填する技術が開示されている。特許文献1に開示された積層型ウェハレンズ5000は、2枚のウェハスケールレンズ5010、5020が重ね合わされた積層型ウェハレンズである。
【0004】
図10(b)は、接着前のウェハスケールレンズ5010、5020を表しており、接着時には、溝5012、5022に接着剤5203が充填される。図10(b)に示すように、接着剤5203が充填される溝5012、5022は、ウェハスケールレンズ5010、5020の互いに対向する側の面に、互いのレンズ光学部5011、5021を避けて形成されている。
【0005】
そして、接着時には、レンズ光学部5011、5021の周囲の部分のうち、溝5012、5022を除いた部分において、ウェハスケールレンズ5010、5020の対向面同士が互いに直に接している。これは、溝5012、5022に塗布する接着剤5203の厚さが、溝5012、5022の深さ内に納まっているためである。つまり、ウェハスケールレンズ5010、5020間の距離に、接着剤5203の有無は関係しない。よって、接着されたウェハスケールレンズ5010、5020間の距離を一定にすることができる。さらに、接着前であれば、重ね合わせたウェハスケールレンズ5010、5020の位置や向きを、ウェハスケールレンズ5010、5020間の位置ずれまたは傾きが生じないように調整することができる。
【0006】
なお、空隙へ遮光材や封止樹脂を毛細管現象を利用して浸透させる技術が開示されている。
【0007】
例えば、特許文献2には、レンズ間に形成された空隙部へ遮光材を毛細管現象を利用して浸透させる技術が開示されている。すなわち、毛細管現象を利用した浸透によって、レンズ面に触れることなく遮光材を空隙部へ入れることが可能となり、均一な遮光部を容易に形成できることが示されている。
【0008】
また、特許文献3には、機能素子が実装された基板と樹脂封止プレートとを適正な間隔の間隙を設けて対向配置し、その間隙に封止樹脂を浸透充填する技術が開示されている。樹脂封止プレートには、基板に実装された機能素子の機能部に対応して開口部が形成されている。樹脂封止プレートに開口部を設けることで、封止樹脂を浸透充填するときに基板上の機能部内へ封止樹脂が入り込むことを、開口部の境界において生じる表面張力によって阻止することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011-013576号公報(2011年1月20日公開)
【特許文献2】特開2002-350605号公報(2002年12月4日公開)
【特許文献3】特開2007-235045号公報(2007月9月13日公開)
【特許文献4】特開2009-210739号公報(2009月9月17日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、引用文献1に示された従来技術では、重ね合わせる各ウェハスケールレンズの対向面に溝を形成する必要があるため、金型加工が複雑になるという問題がある。また、溝の部分のみに接着剤が充填されるため、複数枚のウェハスケールレンズを光軸がずれないように調整し接着してから切断しても、それを多層レンズに分割した時には、個々の多層レンズごとまたは一つの多層レンズの分断面ごとに、接着代が不均一になる可能性がある。その結果、不均一な接着代によって、個々の多層レンズの光学的な性能にバラツキが出たり、あるいは、接着代が不十分であるために、接着が剥がれるといった問題がある。
【0011】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、その目的は、高い精度でウェハスケールレンズ同士を重ね合わせ、均一に接着することができる積層型ウェハレンズおよびその製造方法、多層レンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係る積層型ウェハレンズは、複数のレンズ光学部を有するウェハスケールレンズが、複数枚重ね合わされて接着された積層型ウェハレンズであって、互いに接着された2枚のウェハスケールレンズの対向する2面の間に、レンズ光学部と該レンズ光学部の周囲の遮光領域とを隔てるように、該レンズ光学部を取り囲んだ障壁部を有し、2枚のウェハスケールレンズの上記遮光領域における対向面の間に遮光性接着剤が充填されており、上記遮光領域における2枚のウェハスケールレンズの対向面の間隔が、該対向面の間に上記遮光性接着剤を毛細管現象によって浸透可能な間隔となるように、上記障壁部の高さが設定されていることを特徴としている。
【0013】
上記の構成によれば、ウェハスケールレンズ同士の接着を、毛細管現象による遮光性接着剤の浸透充填によって行うことができる。したがって、製造装置から取り外すことなくウェハスケールレンズ間の接着を行うことができる。具体的に言えば、ウェハスケールレンズ間の位置ずれまたは傾きのないように調整してから固定し、その状態のままウェハスケールレンズ間に遮光性接着剤を滴下して毛細管現象によって浸透充填し接着する。これにより、ウェハスケールレンズを接着する工程で、ウェハスケールレンズ間での位置ずれまたは傾きが生じない。また、遮光性接着剤の充填を均一かつ容易に短時間で行うことができる。したがって、ウェハスケールレンズを高い精度で重ね合わせることができる。
【0014】
ここで、2枚のウェハスケールレンズの対向面には障壁部が設けられており、その高さが、遮光領域における2枚のウェハスケールレンズの対向面の間隔が、該対向面の間に遮光性接着剤を毛細管現象によって浸透可能な間隔となるように設定されている。よって、ウェハスケールレンズを接着する工程に先立って、ウェハスケールレンズの位置合わせを容易かつ精度よく行うことが可能となる。また、遮光性接着剤がレンズ光学部の全周にあることで、多少の塗布ムラがあってもその影響は、レンズ光学部を除いたウェハスケールレンズ全体で吸収されるため、光学軸の軸ずれが起こり難くなる。さらに、従来技術のように、重ね合わせる各ウェハスケールレンズの対向面に溝のような複雑な形状を形成する必要がないため、金型加工が複雑にならない。
【0015】
また、障壁部が、レンズ光学部と遮光領域とを隔てるように、該レンズ光学部を取り囲んで設けられている。これにより、ウェハスケールレンズの対向面の間に浸透充填された遮光性接着剤は、障壁部に阻まれて、レンズ光学部側へ浸透することができない。その結果、遮光が必要な遮光領域だけに遮光性接着剤が充填され、遮光が不要なレンズ光学部には充填されない。すなわち、遮光性接着剤を選択的に充填することができる。それゆえ、レンズ光学部の透光性およびレンズ特性を悪化させることがない。
【0016】
よって、金型加工が容易であってしかも積層型ウェハレンズの切断時に接着剤の接着代が均一であり、また高い精度でウェハスケールレンズ同士を重ね合わせることができる。
【0017】
さらに、本発明に係る積層型ウェハレンズは、上記ウェハスケールレンズの対向する2面のいずれか一方または両方には、少なくとも上記レンズ光学部と上記遮光領域との境界位置から、多層レンズを切り出すための切断位置まで連続した通気性膜が形成されていることを特徴としている。
【0018】
重ね合わされたウェハスケールレンズのレンズ光学部同士によって挟まれる空間(中空部)が、外部から完全に密閉された空間であると、積層型ウェハレンズが個片化された多層レンズの状態において、高温の外部環境下では、中空部内の空気が加熱され、空気の膨張または圧力の増加によって、接着されたウェハスケールレンズが剥離してしまう危険性がある。
【0019】
そこで、上記の構成によれば、さらに、多層レンズの状態において、通気性膜を中空部から外部との接触面まで配設できるように、ウェハスケールレンズ上に、少なくともレンズ光学部と遮光領域との境界位置から、多層レンズを切り出すための切断位置まで連続して通気性膜を形成する。
【0020】
これにより、多層レンズの状態において、中空部内の空気が高温状態となり、膨張したり気圧が高まったりした時、中空部内の空気を、通気性膜を通じて外部へ逃すことができる。
【0021】
なお、通気性膜は、例えば、ナノレベルの大きさの柱状構造を有し、かつ、該柱状構造の間に空気層を含んだ膜であってもよい。このような膜であれば、柱状構造以外の部分は空洞となっているので、中空部と外部との空気を互いに通すことができる。また、ナノレベルの微細構造であるために、毛細管現象は起こらず、通気性膜の空気層中へは遮光性接着剤は浸透しない。したがって、遮光性接着剤を通気性膜上に充填しても、空気層には遮光性接着剤が充填されず、通気性は保持される。
【0022】
さらに、本発明に係る積層型ウェハレンズは、上記障壁部は、上記2枚のウェハスケールレンズの対向する2面のいずれか一方または両方に設けられた突起部、または、上記2枚のウェハスケールレンズの対向する2面の間に設けられたスペーサーであってもよい。
【0023】
また、本発明に係る積層型ウェハレンズの製造方法は、複数のレンズ光学部を有するウェハスケールレンズが、複数枚重ね合わされて接着された積層型ウェハレンズの製造方法であって、上記積層型ウェハレンズは、互いに接着される2枚のウェハスケールレンズの対向する2面の間に、レンズ光学部と該レンズ光学部の周囲の遮光領域とを隔てるように、該レンズ光学部を取り囲んだ障壁部を有するとともに、2枚のウェハスケールレンズの上記遮光領域における対向面の間隔が、該対向面の間に遮光性接着剤を毛細管現象によって浸透可能な間隔となるように、上記障壁部の高さが設定されており、上記遮光領域における2枚のウェハスケールレンズの対向面の間隔が、該対向面の間に上記遮光性接着剤を毛細管現象によって浸透可能な間隔となるように、上記2枚のウェハスケールレンズを保持する保持工程と、上記保持した2枚のウェハスケールレンズの上記遮光領域における対向面の間に、上記遮光性接着剤を毛細管現象によって浸透させることによって充填する充填工程と、を含むことを特徴としている。
【0024】
上記の構成によれば、ウェハスケールレンズ同士の接着を、毛細管現象による遮光性接着剤の浸透充填によって行うことができる。したがって、製造装置から取り外すことなくウェハスケールレンズ間の接着を行うことができる。具体的に言えば、ウェハスケールレンズ間の位置ずれまたは傾きのないように調整してから固定し、その状態のままウェハスケールレンズ間に遮光性接着剤を滴下して毛細管現象によって浸透充填し接着する。これにより、ウェハスケールレンズを接着する工程で、ウェハスケールレンズ間での位置ずれまたは傾きが生じない。また、遮光性接着剤の充填を均一かつ容易に短時間で行うことができる。したがって、ウェハスケールレンズを高い精度で重ね合わせることができる。
【0025】
ここで、2枚のウェハスケールレンズの対向面には障壁部が設けられており、その高さが、遮光領域における2枚のウェハスケールレンズの対向面の間隔が、該対向面の間に遮光性接着剤を毛細管現象によって浸透可能な間隔となるように設定されている。よって、ウェハスケールレンズを接着する工程に先立って、ウェハスケールレンズの位置合わせを容易かつ精度よく行うことが可能となる。また従来技術のように、重ね合わせる各ウェハスケールレンズの対向面に溝のような複雑な形状を形成する必要がないため、金型加工が複雑にならない。
【0026】
また、障壁部が、レンズ光学部と遮光領域とを隔てるように、該レンズ光学部を取り囲んで設けられている。これにより、ウェハスケールレンズの対向面の間に浸透充填された遮光性接着剤は、障壁部に阻まれて、レンズ光学部側へ浸透することができない。その結果、遮光が必要な遮光領域だけに遮光性接着剤が充填され、遮光が不要なレンズ光学部には充填されない。すなわち、遮光性接着剤を選択的に充填することができる。それゆえ、レンズ光学部の透光性およびレンズ特性を悪化させることがない。
【0027】
よって、金型加工が容易であってしかも積層型ウェハレンズの切断時に接着剤の接着代が均一であり、また高い精度でウェハスケールレンズ同士を重ね合わせることができる。
【0028】
さらに、本発明に係る積層型ウェハレンズの製造方法は、上記充填工程の際、重ね合わせた2枚のウェハスケールレンズのうちの、一方のウェハスケールレンズに設けられた貫通穴から、他方のウェハスケールレンズに上記遮光性接着剤を滴下することを特徴としている。
【0029】
上記の構成によれば、さらに、重ね合わせた2枚のウェハスケールレンズのうちの、一方のウェハスケールレンズに設けられた貫通穴から、他方のウェハスケールレンズに遮光性接着剤を滴下することができる。なお、貫通穴が円板型のウェハスケールレンズの中心に設ければ、遮光性接着剤を半径方向に均一に充填することが可能となって好適であるが、これに限定されない。
【0030】
さらに、本発明に係る積層型ウェハレンズの製造方法は、上記充填工程の際、ずらして重ね合わせた2枚のウェハスケールレンズのうちの、一方のウェハスケールレンズ上における、他方のウェハスケールレンズからはみ出た位置に上記遮光性接着剤を滴下することを特徴としている。
【0031】
上記の構成によれば、さらに、ずらして重ね合わせた2枚のウェハスケールレンズのうちの、他方のウェハスケールレンズからはみ出た、一方のウェハスケールレンズの位置に遮光性接着剤を滴下することができる。これにより、ウェハスケールレンズの外形を一致させて重ね合わせ、はみ出した部分がまったくない状態で、ウェハスケールレンズの間に遮光性接着剤を滴下する場合と比較して、工程が簡便容易になる。
【0032】
さらに、本発明に係る積層型ウェハレンズの製造方法は、上記充填工程の際、重ね合わせた2枚のウェハスケールレンズのうちの、径の大きいウェハスケールレンズ上における、径の小さいウェハスケールレンズからはみ出た位置に上記遮光性接着剤を滴下することを特徴としている。
【0033】
上記の構成によれば、さらに、重ね合わせた2枚のウェハスケールレンズのうちの、径の小さいウェハスケールレンズからはみ出た、径の大きいウェハスケールレンズの位置に上記遮光性接着剤を滴下することができる。これにより、ウェハスケールレンズの外形を一致させて重ね合わせ、はみ出した部分がまったくない状態で、ウェハスケールレンズの間に遮光性接着剤を滴下する場合と比較して、工程が簡便容易になる。
【0034】
さらに、本発明に係る積層型ウェハレンズの製造方法は、上記遮光性接着剤の粘度は、10Pa・s以下であることを特徴としている。
【0035】
上記の構成によれば、さらに、遮光性接着剤の粘度が10Pa・s以下であることにより、毛細管現象による浸透力が強くはたらき、浸透が活発に起こる。よって、積層型ウェハレンズの遮光領域全体にムラなく均一に遮光性接着剤を浸透充填させることができる。
【0036】
さらに、本発明に係る積層型ウェハレンズの製造方法は、上記保持工程における、上記遮光領域における2枚のウェハスケールレンズの対向面の間隔は、1mm以下であることを特徴としている。
【0037】
上記の構成によれば、さらに、対向面の間隔が1mm以下であることにより、毛細管現象による浸透力が強くはたらき、浸透が活発に起こる。よって、積層型ウェハレンズの遮光領域全体にムラなく均一に遮光性接着剤を浸透充填させることができる。
【0038】
また、本発明に係る多層レンズは、上記に記載の積層型ウェハレンズから、1組または複数組の重ね合わされたレンズ光学部を含むように切断されたことを特徴としている。
【0039】
上記の構成によれば、上記多層レンズは、積層型ウェハレンズが個片化されたものである。上記積層型ウェハレンズは、高い精度でウェハスケールレンズが重ね合わされた積層型レンズであるから、上記積層型ウェハレンズを個片化した多層レンズにおいても高い精度でレンズ光学部が積層されていることを期待することができる。また、積層型レンズを分割するときには、ウェハスケールレンズの遮光領域(充填部)で切断するが、積層型ウェハレンズは、遮光領域の全域が遮光性接着剤により接着されているので、接着代が不十分であったり、一つの多層レンズにおいて切断面毎に接着代が不均一であったりすることがない。
【0040】
よって、接着代が不均一であることによって多層レンズの光学的な性能が悪化すること、あるいは接着代が十分でないために多層レンズを構成するレンズが剥がれてしまうといったことがない。それゆえ、高品位な多層レンズを提供することができる。
【発明の効果】
【0041】
以上のように、本発明に係る積層型ウェハレンズは、互いに接着された2枚のウェハスケールレンズの対向する2面の間に、レンズ光学部と該レンズ光学部の周囲の遮光領域とを隔てるように、該レンズ光学部を取り囲んだ障壁部を有し、2枚のウェハスケールレンズの上記遮光領域における対向面の間に遮光性接着剤が充填されており、上記遮光領域における2枚のウェハスケールレンズの対向面の間隔が、該対向面の間に上記遮光性接着剤を毛細管現象によって浸透可能な間隔となるように、上記障壁部の高さが設定されている構成である。
【0042】
また、本発明に係る積層型ウェハレンズの製造方法は、積層型ウェハレンズは、互いに接着される2枚のウェハスケールレンズの対向する2面の間に、レンズ光学部と該レンズ光学部の周囲の遮光領域とを隔てるように、該レンズ光学部を取り囲んだ障壁部を有するとともに、2枚のウェハスケールレンズの上記遮光領域における対向面の間隔が、該対向面の間に遮光性接着剤を毛細管現象によって浸透可能な間隔となるように、上記障壁部の高さが設定されており、上記遮光領域における2枚のウェハスケールレンズの対向面の間隔が、該対向面の間に上記遮光性接着剤を毛細管現象によって浸透可能な間隔となるように、上記2枚のウェハスケールレンズを保持する保持工程と、上記保持した2枚のウェハスケールレンズの上記遮光領域における対向面の間に、上記遮光性接着剤を毛細管現象によって浸透させることによって充填する充填工程と、を含む方法である。
【0043】
したがって、ウェハスケールレンズ同士の接着を、毛細管現象による遮光性接着剤の浸透充填によって行うことにより、ウェハスケールレンズを接着する工程で、ウェハスケールレンズ間での位置ずれまたは傾きが生じない。また、遮光性接着剤の充填を均一かつ容易に短時間で行うことができる。したがって、ウェハスケールレンズを高い精度で重ね合わせることができる。
【0044】
また、高さが設定された障壁部により、ウェハスケールレンズを接着する工程に先立って、ウェハスケールレンズの位置合わせを容易かつ精度よく行うことが可能となる。
【0045】
また、障壁部が、レンズ光学部と遮光領域とを隔てるように、該レンズ光学部を取り囲んで設けられていることにより、遮光が必要な遮光領域だけに遮光性接着剤が充填され、遮光が不要なレンズ光学部には充填されない。すなわち、遮光性接着剤を選択的に充填することができる。それゆえ、レンズ光学部の透光性およびレンズ特性を悪化させることがない。また、遮光性接着剤がレンズ光学部の全周にあることで、多少の塗布ムラがあってもその影響は、レンズ光学部を除いたウェハスケールレンズ全体で吸収されるため、光学軸の軸ずれが起こり難くなる。
【0046】
よって、金型加工が容易であってしかも積層型ウェハレンズの切断時に接着剤の接着代が均一であり、また高い精度でウェハスケールレンズ同士を重ね合わせることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図2に示した積層型ウェハレンズの概略構造を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る積層型ウェハレンズの概略構成を示す斜視図である。
【図3】図2に示した積層型ウェハレンズのウェハスケールレンズにおける切断ラインを示した説明図である。
【図4】図1に示した積層型ウェハレンズから切り出された多層レンズの概略構造を示す断面図である。
【図5】図4に示した多層レンズの充填部の詳細構造を示す要部断面図であり、(a)は図4の破線領域Aを拡大した図であり、(b)は(a)の破線領域Bを拡大した図である。
【図6】図1に示した積層型ウェハレンズの遮光性接着剤の塗布方法を示す説明図であり、(a)は外形をずらして遮光性接着剤を塗布する方法を示し、(b)は一方のウェハスケールレンズの中心部に貫通穴を設けて遮光性接着剤を充填する方法を示す。
【図7】図1に示した積層型ウェハレンズを切断して多層レンズに分割する工程を示示す説明図である。
【図8】本発明の他の実施形態に係る積層型ウェハレンズの概略構成を示す斜視図である。
【図9】本発明のさらに他の実施形態に係る積層型ウェハレンズの構成を示す断面図である。
【図10】従来の積層型ウェハレンズの、(a)は斜視図であり、(b)は断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明に過ぎない。
【0049】
[実施形態1]
本発明の実施形態1に係る積層型ウェハレンズ20を、図1〜図7に基づいて、説明する。
【0050】
図2は、積層型ウェハレンズ20の概略構造を示す斜視図である。同図に示すように、積層型ウェハレンズ20は、2枚の径の等しい円板状のウェハスケールレンズ201,202が重ね合わさって、遮光性接着剤213によって接着されたものである。ウェハスケールレンズ201は、複数のレンズ光学部2011…がマトリクス状に配置されて形成されている。同様に、ウェハスケールレンズ202にも、ウェハスケールレンズ201の各レンズ光学部2011に対応して、複数のレンズ光学部2021…(図示せず)がマトリクス状に配置されて形成されている。なお、ウェハスケールレンズ201,202は、ガラスまたは樹脂などを材料として形成される。また、遮光性接着剤213は、遮光性を有する接着剤である。ここで、リフローレンズ用途では、熱膨張によるレンズ特性の劣化を抑制するため、ウェハスケールレンズ201,202と遮光性接着剤213の線膨張係数の差を、例えば10ppm/K以下と少なくすることが望ましい。
【0051】
ここで、上記線膨張係数の差について説明する。ウェハスケールレンズを形成するウェハ材料間の熱膨張差は、熱処理時の軸ズレに対して影響を与えるため、小さく抑えることが重要である。なお、ここでは、接着面積が小さい場合について考え、接着剤の高さ方向でせん断歪みが全て吸収されるものとする。
【0052】
説明のために、長さxの2種のウェハ材料M1、M2が、両端において接着剤で固定されている場合を考える。ウェハ材料M1、M2の線膨張係数の差をΔα、ウェハ材料M1、M2の温度上昇度の差をΔTとすると、ウェハ材料M1、M2の熱膨張の差は、Δx=x・Δα・ΔTとなる。
【0053】
上記熱膨張の差Δxが全て接着剤によって吸収されるとし、2箇所の接着剤の量(接着面積)の比をa:1とする。この場合、熱膨張の差Δxは、2ヶ所の接着剤に対して、それぞれ、Δx/(a+1),Δx・a/(a+1)だけ分配される。
【0054】
さらに、上記熱膨張の差Δxによって生じた軸ズレが常温復帰後もそのまま固定されるとした場合(ただし、実際には応力緩和が完全には起こらず、生じた軸ズレは常温復帰後に幾分回復すると考えられる)、レンズ光学部の軸ズレdは、d=Δx・(a−1)/(a+1)となる。
【0055】
例えば、長さx=2mm、温度上昇度の差ΔT=200K、接着剤の量の比2:1(a=2)とし、線膨張係数の差Δα=10ppm/Kとする。このとき、軸ズレd=2mm・10ppm/K・200K・1/3=1.3μmとなる。そして、軸ズレdはこれ以上大きくならないことが望ましいから、線膨張係数の差Δαは、10ppm/K以下であることが望ましい。
【0056】
ただし、接着剤がレンズ光学部を支持する面の全体に塗布されている場合、接着剤の剛性により、ウェハスケールレンズは身動きがとれなくなり、硬化収縮や熱膨張による歪みを吸収できず、ウェハスケールレンズ自体や接着剤が割れてしまう可能性がある。従って、上記の数値にかかわらず、線膨張係数の差はできるだけ少ない方が良い。
【0057】
図3は、積層型ウェハレンズ20のウェハスケールレンズ201,202における切断ライン(切断位置)212を示した説明図である。同図では、説明のために、切断ライン212を強調的に示している。
【0058】
図3に示すように、ウェハスケールレンズ201,202はそれぞれ複数のレンズ光学部2011…,2021…を有している。そして、複数のレンズ光学部2011…,2021…は、円板状のウェハスケールレンズ201,202にマトリクス状に配列している。そして、ウェハスケールレンズ201,202を横切るように、レンズ光学部2011,2021の幅の間隔で複数の切断ライン212…が縦横に設けられている。その結果、各々のレンズ光学部2011,2021は4本一組の切断ライン212によって四方を囲まれている。
【0059】
なお、ウェハスケールレンズ201,202には、できるだけ多くの多層レンズ30を得ることができるように、レンズ光学部2011,2021がウェハスケールレンズ201,202の全体に配置される。ただし、ウェハスケールレンズ201,202の形状または遮光性接着剤213の滴下方法(後述)などによって、レンズ光学部2011,2021の配置のされ方はさまざまに変化する。
【0060】
さらに、4本一組の切断ライン212によって四方を囲まれた区画のうち、レンズ光学部2011,2021を除いた領域、および、ウェハスケールレンズ201,202の円周の端部を含む領域は、遮光性接着剤213が塗布されて、対向するウェハスケールレンズ201,202と接着される平坦部(遮光領域)2012,2022である。
【0061】
図1は、積層型ウェハレンズ20の概略構造を示す断面図である。同図は、積層型ウェハレンズ20のレンズ光学部2011,2021を含む位置で切断した断面(図1のk−k線における矢視断面)を示す。
【0062】
前記のように、積層型ウェハレンズ20は、2枚の円板状で径の等しいウェハスケールレンズ201,202(図中の上方を第1のウェハスケールレンズ201、下方を第2のウェハスケールレンズ202とする。)を重ね合わせて接着したものである。
【0063】
図1に示すように、第1のウェハスケールレンズ201のレンズ光学部2011と第2のウェハスケールレンズ202のレンズ光学部2021とが、互いに対応した位置、すなわち光軸を一致させて配置される。また、これと同時に、第1のウェハスケールレンズ201の平坦部2012と第2のウェハスケールレンズ202の平坦部2022とが対応する位置に配置されるように重ね合わせる。レンズ光学部2011,2021は、このように重ね合わせた状態で所望のレンズ機能を持つように、2枚を一組として設計されている。なお、以下では、このように重ね合わされた状態を、ウェハスケールレンズ201,202が「正しく重ね合わされた状態」と呼ぶ。
【0064】
ウェハスケールレンズ201,202が正しく重ね合わされた状態では、第1のウェハスケールレンズ201と第2のウェハスケールレンズ202との間に、2種類の空間が形成される。すなわち、第1のウェハスケールレンズ201のレンズ光学部2011と第2のウェハスケールレンズ202のレンズ光学部2021との間に、中空部209が形成される。一方、第1のウェハスケールレンズ201の平坦部2012と第2のウェハスケールレンズ202の平坦部2022との間に、遮光性接着剤213を充填するための充填部203が形成される。正しく重ね合わされたウェハスケールレンズ201,202の間の充填部203は、ウェハスケールレンズ201,202全体で空間的に連続している。
【0065】
ウェハスケールレンズ201,202が正しく重ね合わされた状態で接着された積層型ウェハレンズ20は、切断ライン212がダイシング刃210(図7)によって切断されて、多層レンズ30が切り出される。ここで、多層レンズ30は、積層型ウェハレンズ20から、重ね合わされたレンズ光学部(図1では、2011,2021)を1組または複数組の含むように切断される。
【0066】
図4は、積層型ウェハレンズ20から切り出された多層レンズ30の概略構造を示す断面図である。
【0067】
図4に示すように、ウェハスケールレンズ201,202には、凹凸形状が形成されたレンズ光学部2011,2021と、ウェハスケールレンズ201,202の円板面に沿って平坦な平坦部2012,2022とが設けられている。また、第2のウェハスケールレンズ202は、第1のウェハスケールレンズ201との対向面上のレンズ光学部2021と平坦部2022との境界に、先端(エッジ)を有する突起部(コバ部;障壁部)2023を有している。
【0068】
突起部2023は、レンズ光学部2021と平坦部2022との境界部分に、中空部209を取り囲むように形成されている。そして、突起部2023のうち、先端からレンズ光学部2021にかけての領域は中空部209に属する。そして、当該領域は、レンズ光学部2021のレンズの有効径と繋げて光学設計されており、レンズ光学部2021に当該領域を含めて全体で、必要とするレンズ機能を有するようになっている。一方、突起部2023のうち、平坦部2022からの立ち上がりから先端までの領域は充填部203に属する。そして、当該領域は、遮光を必要とするため、充填部203に充填された遮光性接着剤213によって遮光される。すなわち、遮光を必要とする領域だけが遮光性接着剤213によって浸透充填されるようになっている。
【0069】
ここで、突起部2023の先端までの高さ、および、突起部2023の先端から対向する第1のウェハスケールレンズ201までの距離について説明する。
【0070】
まず、第2のウェハスケールレンズ202の平坦部2022から、突起部2023の先端までの高さは、毛細管現象によって遮光性接着剤213が充填部203に浸透することのできる高さに設定されている。
【0071】
詳細には、図4に示すように、ウェハスケールレンズ201,202の対向面全体に通気性膜205が形成されている。すなわち、突起部2023を含め、平坦部2012,2022には、通気性膜205が形成されている。そして、第1のウェハスケールレンズ201に形成された通気性膜205と、第2のウェハスケールレンズ202の突起部2023から離れた位置に形成された通気性膜205との距離は、対向する通気性膜205・205の間に毛細管現象によって遮光性接着剤213が浸透することのできる距離になっている。そのような距離となるように、突起部2023の高さ、および、ウェハスケールレンズ201,202に形成される通気性膜205のそれぞれの厚みが調整されている。なお、第1のウェハスケールレンズ201に形成された通気性膜205と、第2のウェハスケールレンズ202の突起部2023の先端に形成された通気性膜205とが当接している。これにより、遮光性接着剤213の中空部209への浸入が防がれる。
【0072】
このように、充填部203に遮光性接着剤213を毛細管現象を利用して浸透充填するため、充填部203の対向する通気性膜205・205の距離は1mm以下であり、遮光性接着剤213の粘度は10Pa・s以下であることが望ましい。
【0073】
ここで、遮光性接着剤213の粘度は、以下の特性を考慮して決定される。一般に、毛細管現象で浸透しやすい液体は次の特性をもつ。(i)粘度が低い、(ii)濡れやすい(接触角が小さい)、(iii)表面張力が大きい。そして、液体物質の浸透速度は、以下の数式(1)で表わされる。なお、t:時間、η:粘度、l:浸透する深さ、r:孔の径、γ:表面張力、θ:接触角とする。
【0074】
【数1】

【0075】
また、毛細管現象による浸透では、毛細管(すなわち、隙間)に存在している空気と、流入する液との置換を考慮しなければならない。すなわち、上記のように、充填部203に遮光性接着剤213を浸透させる場合、充填部203に存在している空気と浸透する遮光性接着剤213との置換を考慮する必要がある。そこで、充填部203から脱気をすることにより、充填部203へ遮光性接着剤213が浸透しやすいようにしてもよい。
【0076】
また、遮光性接着剤213の粘度ηが高い場合、上記数式(1)に示したように、浸透には時間がかかる。そこで、充填部203に遮光性接着剤213を浸透させるとき、圧入を行ってもよい。
【0077】
一方、突起部2023から、第1のウェハスケールレンズ201において対応する位置である、レンズ光学部2011と平坦部2012との境界までの間隙の高さは、遮光性接着剤213が毛細管現象によって浸透することのできない高さに設定されている。これにより、突起部2023が障壁となって、(たとえ、図4に示したように、第1のウェハスケールレンズ201に形成された通気性膜205と、第2のウェハスケールレンズ202の突起部2023の先端に形成された通気性膜205とが当接していなくても、)充填部203に浸透した遮光性接着剤213が中空部209へは浸透しない。その結果、中空部209には遮光性接着剤213が充填されないので、レンズ光学部2011,2021と中空部209によって形成されるレンズの透光性およびレンズ特性を保つことができる。
【0078】
なお、上記では、突起部2023が第2のウェハスケールレンズ202のみに設けられている場合について説明したが、突起部は少なくとも一方のウェハスケールレンズに設けられていればよい。すなわち、ウェハスケールレンズ201,202のどちらか一方、あるいは両方に突起部が設けられていればよい。
【0079】
そして、両方のウェハスケールレンズ201,202に突起部が設けられている場合、ウェハスケールレンズ201,202を正しく重ね合わせた時に、第1のウェハスケールレンズ201の突起部と、第2のウェハスケールレンズ202の突起部との先端同士が向き合った状態となるようにする。また、この場合には、第1のウェハスケールレンズ201の突起部の平坦部2012から先端までの高さと、第2のウェハスケールレンズ202の突起部の平坦部2022から先端までの高さの和は、遮光性接着剤213が毛細管現象によって浸透できる高さに設定する。また、両突起部の間隙は、遮光性接着剤213が浸透できない高さにする。
【0080】
図5は、図4に示した多層レンズ30の充填部203の詳細構造を示す要部断面図であり、(a)は図4の破線領域Aを拡大した図であり、(b)は(a)の破線領域Bを拡大した図である。
【0081】
図5(a)に示すように、中空部209から、外部との接触面である切断ライン212における切断面まで通じた通気性膜(エアパス)205が、遮光性接着剤213とウェハスケールレンズ201,202との間に形成されている。ここで、図1より明らかなように、通気性膜205は、平坦部2012,2022のみでなく、レンズ光学部2021,2011も含めたウェハスケールレンズ201,202の対向面全体に形成することが望ましい。ただし、後述のように、遮光性接着剤213を中空部209へ浸入させず、かつ、膨張した中空部209内の空気を排出するためには、通気性膜205は、少なくとも、隣接する多層レンズ30間の充填部203の中に一体として形成され、切断ライン212において切断されることで外部と接触するように形成されていればよい。
【0082】
通気性膜205は、中空部209において膨張した空気を外部に排出できる材質、構造であればよい。例えば、通気性膜205は、第2のウェハスケールレンズ202の表面から第1のウェハスケールレンズ201の表面の方向へ伸びた柱状構造を有する膜であることが望ましい。
【0083】
図5(b)に、通気性膜205が柱状構造207を有する場合の例を示す。図5(b)に示すように、通気性膜205が柱状構造を有する場合、通気性膜205では、ナノレベルの大きさの微細な柱状構造207の間(空気層208)を空気が通ることになる。そのため、積層型ウェハレンズ20を多層レンズ30に分割した後には、通気性膜205によって中空部209と多層レンズ30の外部とが結ばれて、通気性膜205が、中空部209と外部との空気を互いに通じさせる空気通路(エアパス)として機能することになる。
【0084】
これにより、多層レンズ30が高温状態となり中空部209内の空気が熱せられて膨張した時には、通気性膜205を通じて、膨張した空気が外部へ排出される。それゆえ、中空部209の空気の膨張あるいは圧力の増大によって、遮光性接着剤213が剥がれて、多層レンズ30が構成レンズに分解したり、傾いてレンズ特性が悪化したりすることがない。
【0085】
また、上記柱状構造207の材料には酸化ケイ素が用いることができる。酸化ケイ素が用いれば、柱状構造207を形成することができるとともに、通気性膜205が反射防止膜としての機能も持つようになる。そのため、ウェハスケールレンズ201,202の通気性膜205が形成される側の面には反射防止膜を別途設ける必要がない。さらに、通気性膜205の遮光性接着剤213と接触する側の表面に、フッ素系の撥水(疎水性)膜を形成してもよい。このような撥水(疎水性)膜を形成することで、毛細管現象による遮光性接着剤213の通気性膜205への浸入を抑制する効果を向上させることができる。
【0086】
以下では、積層型ウェハレンズ20および多層レンズ30の製造方法の各工程について、説明する。
【0087】
(1)ウェハスケールレンズ形成工程
はじめに、ウェハスケールレンズ201,202を形成する。図1に示すように、第1および第2のウェハスケールレンズ201,202には、レンズ光学部2011,2021および平坦部2012,2022が形成される。また、第2のウェハスケールレンズ202には、第1のウェハスケールレンズ201と対向する面の、レンズ光学部2021と平坦部2022との境界部分に、中空部209を取り囲むようにして、先端(エッジ)を有する突起部2023が形成される。なお、突起部2023は、ウェハスケールレンズ201,202に一体として形成されているため、ウェハスケールレンズ201,202の対向面の構造、すなわち、レンズ光学部2011,2021および平坦部2012,2022と同一工程において同時に形成することが好ましい。
【0088】
(2)通気性膜形成工程
次に、図1に示すように、第1および第2のウェハスケールレンズ201,202の互いに対向する面の平坦部2012,2022に、通気性膜205を形成する。
【0089】
ここで、通気性膜205は、平坦部2012,2022のみでなく、レンズ光学部2021,2011も含めたウェハスケールレンズ201,202の対向面全体に形成することが望ましい。特に、第2のウェハスケールレンズ202では、突起部2023の先端まで通気性膜205を形成し、遮光性接着剤213を浸透させるときには、第1のウェハスケールレンズ201に形成された通気性膜205と、第2のウェハスケールレンズ202の突起部2023の先端に形成された通気性膜205とを当接させることが望ましい。こうすることによって、遮光性接着剤213が中空部209へ浸入することを妨げることができる。
【0090】
また、通気性膜205は、第1および第2のウェハスケールレンズ201,202の平坦部2012,2022に沿って、中空部209において膨張した空気を切断ライン212の位置(すなわち、切断後に外部との接触面となる位置)まで排出できるように、ナノレベルの大きさの微細な構造(例えば、柱状構造207)を有するように形成する。また、通気性膜205の材料としては、例えば、酸化ケイ素を用いることができる。
【0091】
詳細には、上記通気性膜205を、一般的な多層膜として、屈折率の高い・低い材料の組み合わせにより形成する場合、材料としては例えば、SiO、TiO、Al、MgF、SiN、CeO、ZrO、HfO、Ta等を用いることができる。
【0092】
また、形成方法については、例えば、蒸着法により、上記1つまたは複数の材料からなるナノサイズの粒子を蒸着し、粒子内細孔と粒子間細孔とによって空隙を含んだ単層または多層膜をウェハスケールレンズ201,202の表面に積層して形成する。なお、上記蒸着法による通気性膜205の形成方法は、特開2009-210739号公報(先行技術文献の特許文献4)を参考とした。
【0093】
(3)重ね合わせ工程
次に、第1および第2のウェハスケールレンズ201,202を重ね合わせる。このとき、第1のウェハスケールレンズ201のレンズ光学部2011と第2のウェハスケールレンズ202のレンズ光学部2021とが対応するように、かつ、第1のウェハスケールレンズ201の平坦部2012と第2のウェハスケールレンズ202の平坦部2022とが対応するように、正しく重ね合わせる。詳細には、ウェハスケールレンズは、ウェハ上に複数個配置されたレンズ光学部(光学面)を2箇所以上で個々に光学的に合わせることで、重ね合わせる。
【0094】
この時点では、重ね合わされたウェハスケールレンズ201,202は接着がされていない状態なので、ウェハスケールレンズ201,202同士の位置ずれまたは傾きがないように、ウェハスケールレンズ201,202の位置を精密に調整することができる。このとき、ウェハスケールレンズ201,202は、それぞれのウェハスケールレンズごとに保持することができる保持装置(図示せず)によって、ウェハスケールレンズ201,202の位置および傾きを調整したのちに固定してもよい(保持工程)。
【0095】
図1に示すように、ウェハスケールレンズ201,202を重ね合わせた結果、ウェハスケールレンズ201,202の間には、中空部209と充填部203が形成される。充填部203は、ウェハスケールレンズ201,202全体で空間的に連続している。
【0096】
(4)浸透充填工程
次に、位置を調整した状態で固定したウェハスケールレンズ201,202の間に形成された充填部203に、遮光性接着剤213を浸透充填する(充填工程)。遮光性接着剤213が固着し、重ね合わせたウェハスケールレンズ201,202同士が接着すると、積層型ウェハレンズ20が完成する。
【0097】
ここで、前述のように、正しく重ね合わされたウェハスケールレンズ201,202の間の充填部203は、ウェハスケールレンズ201,202全体で空間的に連続している。また、ウェハスケールレンズ201,202の間隔(すなわち、充填部203の高さ)は、毛細管現象によって遮光性接着剤213が浸透する間隔に設定されている。そのため、重ね合わされたウェハスケールレンズ201,202の周端の一箇所に遮光性接着剤213を滴下すると、ウェハスケールレンズ201,202全体の充填部203に、毛細管現象によって遮光性接着剤213が浸透充填される。
【0098】
詳細には、第2のウェハスケールレンズ202には、突起部2023が、第1のウェハスケールレンズ201と対向する面の、レンズ光学部2021と平坦部2022との境界部分に、中空部209を取り囲むように形成されている。そして、突起部2023の高さは、ウェハスケールレンズ201,202の間隔が、毛細管現象によって充填部203に遮光性接着剤213が浸透する間隔となるように設定されている。加えて、突起部2023の高さは、突起部2023の先端と第1のウェハスケールレンズ201との間隔が、充填部203に浸透した遮光性接着剤213が中空部209へは浸透しない間隔となるように設定されている。例えば、図4に示したように、突起部2023の先端が、通気性膜205を介して、ウェハスケールレンズ201に当接するようにすれば、突起部2023の位置では、ウェハスケールレンズ201,202の間にはマクロな隙間は存在しなくなる。これにより、ウェハスケールレンズ201,202の間隔を最適に確保して、毛細管現象によって充填部203に遮光性接着剤213を浸透充填するとともに、突起部2023が障壁となって中空部209への遮光性接着剤213の浸透を防ぐことができる。
【0099】
また、充填部203のウェハスケールレンズ201,202の面上に形成された通気性膜205は、柱状構造207および柱状構造207同士の間隙(空気層208)がナノスケールの大きさである。そのために、図5(b)に示すように、充填部203に浸透した遮光性接着剤213は、通気性膜205の空気層208の内部へは浸透することができない。また、通気性膜205は、平坦部2012,2022に形成されることによって、中空部209の熱膨張した空気を外部へ逃がす通気性の層としても機能する。
【0100】
つづいて、図6(a)(b)を参照して、ウェハスケールレンズ201,202を接着するときの、遮光性接着剤213の滴下方法について説明する。
【0101】
遮光性接着剤213の滴下を行う時は、前述のように前処理として、ウェハスケールレンズ201,202同士を正しく重ね合わせ、位置ずれおよび傾きがないように精密に調整し、さらにその状態で2枚のウェハスケールレンズ201,202の位置を保持装置によって固定する。そして、固定されたウェハスケールレンズ201,202の間に、塗布部204を用いて遮光性接着剤213を滴下すると、毛細管現象によってウェハスケールレンズ201,202のすべての充填部203に遮光性接着剤213が浸透充填される。
【0102】
図6(a)に、遮光性接着剤213の塗布方法の一例である、ウェハスケールレンズ201,202の外形をずらして遮光性接着剤213を塗布する方法を示す。
【0103】
図6(a)に示すように、2枚の径の等しい円板状のウェハスケールレンズ201,202を、遮光性接着剤213を滴下できる程度に少しずらした状態で、一方の(第1の)ウェハスケールレンズ201から、他方の(第2の)ウェハスケールレンズ202がはみ出した部分に遮光性接着剤213を滴下する。すなわち、遮光性接着剤213が滴下される側のウェハスケールレンズ202を、他方のウェハスケールレンズ201の下側に配置し、塗布部204によって上方から遮光性接着剤213を滴下する。
【0104】
上記の滴下方法によれば、径の等しいウェハスケールレンズ201,202を重ね合わせ、外形にはみ出した部分がない状態で、ウェハスケールレンズ201,202の間に遮光性接着剤213を滴下する場合と比較して、工程が簡便容易になる。
【0105】
また、図6(b)に、遮光性接着剤213の塗布方法の他の例である、一方のウェハスケールレンズ201の中心部に貫通穴211を設けて遮光性接着剤を充填する方法を示す。
【0106】
図6(b)に示すように、2枚の径の等しい円板状のウェハスケールレンズ201,202の一方の第1のウェハスケールレンズ201の中心あるいは中心部に貫通穴211を設けて、貫通穴211を設けない他方の第2のウェハスケールレンズ202と重ね合わせ、貫通穴211を通じてウェハスケールレンズ202に遮光性接着剤213を滴下する。
【0107】
上記の滴下方法によれば、レンズ光学部2011,2021を一致させるように、ウェハスケールレンズ201,202を重ね合わせた状態で遮光性接着剤213を充填すると、貫通穴211が円板の中心に設けられていることから、ウェハスケールレンズ201,202の半径方向にほぼ均一に充填することが可能となる。
【0108】
さらに、遮光性接着剤213の他の滴下方法として、以下のようにすることができる。図6(a)では、ウェハスケールレンズ201,202は径の等しい円板状であるが、一方のウェハスケールレンズの外形を他方のウェハスケールレンズの外形より大きくしてもよい。そして、外形の大きいウェハスケールレンズを下側に配置し、小さいウェハスケールレンズを上側に配置して、外形の大きいウェハスケールレンズが、小さいウェハスケールレンズからはみ出した外周部に、遮光性接着剤213を上方から滴下部204を用いて滴下する。このとき、隣接するウェハスケールレンズ201,202は、遮光性接着剤213の滴下前に、レンズ光学部2011,2021および平坦部2012,2022同士をそれぞれ一致させるように重ね合わせて固定しておく。
【0109】
上記の構成によれば、ウェハスケールレンズ201,202の外形を一致させて重ね合わせ、はみ出した部分がまったくない状態で、ウェハスケールレンズの間に遮光性接着剤を滴下する場合と比較して、工程が簡便容易になる。また、外形のはみ出した所であれば、どこにでも遮光性接着剤213を滴下することもできるので、例えば、複数個所に遮光性接着剤213の滴下を行うことができる。
【0110】
(5)分割工程
最後に、積層型ウェハレンズ20を個々の多層レンズ30に分割する。図7は、積層型ウェハレンズ20の断面図であり、切断ライン212に沿って切断して多層レンズ30に分割する様子を示している。積層型ウェハレンズ20を、ウェハスケールレンズ201,202に設定された切断ライン212に沿って、一つまたは複数のレンズ光学部2011,2021を含むように切断すると、多層レンズ30が完成する。なお切断にはダイシング刃210を用いることができる。
【0111】
図7に示すように、充填部203の全域が遮光性接着剤213で接着されており、充填部203の大きさがダイシング刃210の幅よりも十分大きい。その結果、切断ライン212に沿って切断したとき、各切断面の切断ライン212に沿った全長において遮光性接着剤213によって接着された状態となる。したがって、個々の多層レンズ30ごとあるいは一つの多層レンズ30の切断面ごとに、接着代が不均一になることはない。それゆえ、接着代が不均一である場合に生じる、個々の多層レンズ30の光学的な性能にバラツキが出ること、あるいは接着代が十分でなく遮光性接着剤213が多層レンズ30の構成レンズから剥がれてしまうといったことがなく、高品質な多層レンズ30を提供することが可能である。
【0112】
[実施形態2]
本発明の他の実施形態について説明すれば、以下のとおりである。なお、説明の便宜上、前記実施形態1にて説明した部材と同じ機能を有する部材については同じ符号を付記し、その説明を省略する。
【0113】
本実施形態の構造および製造工程の説明に当たっては、実施形態1と同様の部分については説明を省略し、相違点のみ説明する。具体的には、ウェハスケールレンズの接着工程のみについて説明を行い、そのほかについては省略する。
【0114】
図8に、3枚のウェハスケールレンズによって構成された積層型ウェハレンズ40の斜視図を示す。同図に示すように、積層型ウェハレンズ40では、隣接するウェハスケールレンズ同士は、遮光性接着剤421,422によって接着されている。すなわち、第1のウェハスケールレンズ401と第2のウェハスケールレンズ402とが遮光性接着剤421によって接着され、第2のウェハスケールレンズ402と第3のウェハスケールレンズ403とが遮光性接着剤422によって接着されている。
【0115】
積層型ウェハレンズ40の製造方法は、例えば以下の通りである。
【0116】
はじめに、第1のウェハスケールレンズ401と第2のウェハスケールレンズ402とを重ね合わせて、ウェハスケールレンズ401,402間での位置ずれまたは傾きのないように精密に調整して、保持装置によって固定した状態とし、重ね合わせたウェハスケールレンズ401,402の間に遮光性接着剤421を滴下し、浸透充填させる。このときの遮光性接着剤421の滴下は、図6(a)に示した2枚構成の積層型ウェハレンズ20の場合と同様に、ウェハスケールレンズ401,402の一方をずらして、一方のウェハスケールレンズがはみ出した位置に遮光性接着剤421を滴下する方法で行う。
【0117】
次に、遮光性接着剤421が固着してから、第2のウェハスケールレンズ402の第1のウェハスケールレンズ401と接着されていない面と、第3のウェハスケールレンズ403とを重ね合わせて、位置ずれまたは傾きのないように調整してから保持装置によって固定した状態とし、重ね合わせたウェハスケールレンズ402,403の間に遮光性接着剤422を滴下し、浸透充填させる。このときの遮光性接着剤422の滴下も、前述した遮光性接着剤421の滴下と同様に、ウェハスケールレンズ402,403の一方をずらして、一方のウェハスケールレンズがはみ出した位置に遮光性接着剤422を滴下する方法で行う。
【0118】
なお、上記のウェハスケールレンズを重ね合わせるすべての工程において、ウェハスケールレンズのレンズ光学部および平坦部同士の位置が正しく一致するように調整を行ったのちに保持固定を行う。
【0119】
また、遮光性接着剤421,422の浸透充填方法としては、前述のようにウェハスケールレンズをずらす方法のほか、実施形態1において図6(b)を参照して説明したように、接着するウェハスケールレンズの一方に貫通穴を設け、貫通穴を通じて他方のウェハスケールレンズに遮光性接着剤を滴下する方法でもよい。
【0120】
具体的には、貫通穴を設ける方法の場合には、以下の通りである。
【0121】
まず、第1のウェハスケールレンズ401および第3のウェハスケールレンズ403に貫通穴を設ける。
【0122】
次に、第1のウェハスケールレンズ401と第2のウェハスケールレンズ402とを、第1のウェハスケールレンズ401が上となるように重ね合わせて、位置および傾きのないように調整し、保持装置によって固定して、第1のウェハスケールレンズ401に設けた貫通穴を通してウェハスケールレンズ402の表面に遮光性接着剤421を滴下し、浸透充填させる。
【0123】
次に、遮光性接着剤421が固着してから、第2のウェハスケールレンズ402の第1のウェハスケールレンズ401と接着されていない面と、第3のウェハスケールレンズ403とを、第3のウェハスケールレンズ403が上となるように重ね合わせて、位置ずれまたは傾きのないように調整し、保持装置によって固定して、第3のウェハスケールレンズ403に設けた貫通穴を通してウェハスケールレンズ402の表面に遮光性接着剤422を滴下し、浸透充填させる。
【0124】
さらに、上記の手順を繰り返せば、4枚以上のウェハスケールレンズで構成される積層型ウェハレンズを製造することもできる。
【0125】
積層ウェハレンズを構成する各ウェハスケールレンズの径を、滴下方向に対して徐々に大きなものとする。径の大きなものから下から順に積層された構成である。そして、重ね合わせたウェハスケールレンズのはみ出した部分に遮光性接着剤を滴下する。このとき、1枚のウェハスケールレンズに対して、はみ出した部分の複数箇所に遮光性接着剤を滴下してもよい。さらに、1枚のウェハスケールレンズに対して、重ね合わせたウェハスケールレンズを回転させながら、はみ出した部分に遮光性接着剤を滴下してもよい。すなわち、例えば、ウェハスケールレンズの全周に遮光性接着剤を滴下してもよい。なお、ウェハスケールレンズに滴下する際、重ね合わせたウェハスケールレンズのはみ出した部分が小さい場合には、はみ出した部分が大きく露出するように、重ね合わせたウェハスケールレンズを傾けてもよい。
【0126】
そして、上記のように滴下された遮光性接着剤は、遮光性接着剤が滴下されたウェハスケールレンズとそのすぐ上に隣接する径の小さいウェハスケールレンズとの間に浸透充填される。
【0127】
この工程をすべてのウェハスケールレンズ間で繰り返せば、遮光性接着剤を滴下するウェハスケールレンズとその他のウェハスケールレンズとの間に干渉が発生せずに、スムーズな接着を行うことができる。
【0128】
また、4枚以上のウェハスケールレンズを積層した積層ウェハレンズを、貫通穴を通して遮光性接着剤を滴下する方法で作成する場合、例えば、それぞれのウェハスケールレンズに設ける貫通穴の径を、遮光性接着剤の滴下方向に沿って徐々に小さくすれば、すべてのウェハスケールレンズの隙間に遮光性接着剤を容易に滴下することが可能である。
【0129】
ここで、図9は、本発明のさらに他の実施形態に係る積層型ウェハレンズの構成を示す断面図である。
【0130】
以上の実施形態1,2においては、遮光性接着剤が中空部へ浸入することを防ぐために、ウェハスケールレンズに突起部を設ける構成について説明した。しかし、図9に示すように、突起部の代わりに、リング状のスペーサー(障壁部)614を設けてもよい。スペーサー614は、平坦部6012,6022とレンズ光学部2011,2021との境界に配置されており、上下をウェハスケールレンズ601,602の平坦部6012,6022に当接されている。スペーサー614の高さは、充填部603の高さが遮光性接着剤613が充填部603へ浸透する高さとなるように設定されている。
【0131】
この構成によっても、スペーサー614が障壁となって、充填部603に浸透した遮光性接着剤613が中空部609へは浸透しない。
【0132】
以上のように、本発明に係る積層型ウェハレンズは、複数のレンズ光学部を有するウェハスケールレンズが、複数枚重ね合わされた積層型ウェハレンズであって、互いに隣接する2つのウェハスケールレンズの隙間に遮光性液体(遮光性接着剤)を用いて、毛細管現象を利用して液体を浸透充填し、接着されている構成である。
【0133】
上記構成により、高い精度でウェハスケールレンズが重ね合わされた積層型ウェハレンズにおいて、遮光性液体によるウェハスケールレンズ間の接着を行った積層により、遮光性を有する積層型ウェハレンズを実現できる。このように積層型ウェハレンズを形成することで、多層レンズを安価に製造することができる。
【0134】
詳細には、上記積層型ウェハレンズの製造方法は、複数のレンズ光学部を有するウェハスケールレンズが、複数枚重ね合わされた積層型ウェハレンズの製造方法であって、互いに隣接する2つのウェハスケールレンズの隙間に遮光性液体を用いて、毛細管現象を利用して液体を浸透充填し、接着する方法である。このとき、ウェハスケールレンズの間隔が1mm以下で、遮光性液体の粘度は10Pa・s以下であることが望ましい。また、レンズ光学部とそれ以外の平坦部とは、エッジを有するコバ部(遮壁部)を形成し、あらかじめウェハスケールレンズのレンズ光学部の有効径が遮光を必要とするコバ部に繋げて光学設計されており、遮光を必要とする領域だけが浸透充填されている。これにより、ウェハスケールレンズ間の接着を、位置ズレや傾き調整を行なった状態で装置から取り外すことなく行なえるので、ウェハスケールレンズ間の位置ズレや傾きを生じない。積層型ウェハレンズは接着後、個々の多層レンズに分割される。
【0135】
また、上記積層型ウェハレンズの製造方法は、リフローレンズ用途では、熱膨張によるレンズ特性の劣化を抑制するため、ウェハスケールレンズと遮光性接着剤の線膨張係数の差を例えば10ppm/K以下と少なくすることがことが望ましい。また、固片化された多層レンズは、遮光性接着剤によって囲まれた空間(中空部)が、常温または低温の外部環境下において、外部から密閉されている。そのため、高温の外部環境下において、膨張した中空部内の空気の圧力によって、構成する多層レンズ間が剥離してしまう可能性がある。そこで、ウェハスケールレンズの接着面に柱状の膜を形成する。この膜はナノレベルの微細な構造であるため、凹構造中には毛細管現象で遮光性接着剤は浸入できない。その結果、上記膜内に空気層が残ることで、接着剤と反射防止膜の内部から、外部へと空気層が接続する。したがって、膨張した空気は、反射防止膜内部より外部へ排出される。この柱状の膜に酸化ケイ素等を用いて反射防止膜としても良い。また、最表面にフッ素系の撥水膜(疎水性)を形成することで、毛細管による遮光性接着剤の浸入抑制効果を向上させることもできる。
【0136】
なお、本発明は以下のように構成してもよい。
【0137】
すなわち、本発明に係る積層型ウェハレンズは、複数のレンズ光学部を有するウェハスケールレンズが、複数枚重ね合わされた積層型ウェハレンズであって、対向するウェハスケールレンズ間で、何れか一方若しくは両方のウェハスケールレンズに、光学領域と充填部を隔てる環状の突起部を有し、上記充填部に遮光性接着剤が充填されており、上記突起部は、ウェハスケールレンズ間に毛細管作用で遮光性接着剤が充填できる高さに規定されて構成されていてもよい。
【0138】
また、本発明に係る積層型ウェハレンズの製造方法は、複数のレンズ光学部を有するウェハスケールレンズが、複数枚重ね合わされた積層型ウェハレンズの製造方法であって、レンズ光学部を避けて遮光性接着剤を、毛細管現象を利用して遮光部に浸透充填する方法であってもよい。
【0139】
さらに、上記製造方法は、ウェハスケールレンズのうち少なくとも一方の中心に貫通穴を設けて、遮光性接着剤を浸透充填する方法であってもよい。
【0140】
さらに、上記製造方法は、ウェハスケールレンズのうち少なくとも一方の外形をずらして、遮光性接着剤を浸透充填する方法であってもよい。
【0141】
さらに、上記製造方法は、ウェハスケールレンズのうち少なくとも一方の外形を大きくして、遮光性接着剤を浸透充填する方法であってもよい。
【0142】
さらに、上記製造方法は、上記浸透充填の際の遮光性接着剤の粘度を10Pa・s以下とする方法であってもよい。
【0143】
また、本発明に係る多層レンズは、前記積層型ウェハレンズから一または複数個毎に切断されたものであってもよい。
【0144】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明は特に、カメラ付携帯電話、インターホン用カメラ、車載用カメラなど、種々の電子機器類に搭載されるレンズおよびその製造に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0146】
20,40,60 積層型ウェハレンズ
30 多層レンズ
201,202,401,402,403,601,602 ウェハスケールレンズ
205,605 通気性膜
211 貫通穴
212 切断ライン(切断位置)
213,421,422,613 遮光性接着剤
614 スペーサー(障壁部)
2011,2021,6011,6021 レンズ光学部
2012,2022,6012,6022 平坦部(遮光領域)
2023 突起部(障壁部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のレンズ光学部を有するウェハスケールレンズが、複数枚重ね合わされて接着された積層型ウェハレンズであって、
互いに接着された2枚のウェハスケールレンズの対向する2面の間に、レンズ光学部と該レンズ光学部の周囲の遮光領域とを隔てるように、該レンズ光学部を取り囲んだ障壁部を有し、
2枚のウェハスケールレンズの上記遮光領域における対向面の間に遮光性接着剤が充填されており、
上記遮光領域における2枚のウェハスケールレンズの対向面の間隔が、該対向面の間に上記遮光性接着剤を毛細管現象によって浸透可能な間隔となるように、上記障壁部の高さが設定されていることを特徴とする積層型ウェハレンズ。
【請求項2】
上記ウェハスケールレンズの対向する2面のいずれか一方または両方には、少なくとも上記レンズ光学部と上記遮光領域との境界位置から、多層レンズを切り出すための切断位置まで連続した通気性膜が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の積層型ウェハレンズ。
【請求項3】
上記障壁部は、上記2枚のウェハスケールレンズの対向する2面のいずれか一方または両方に設けられた突起部、または、上記2枚のウェハスケールレンズの対向する2面の間に設けられたスペーサーであることを特徴とする請求項1または2に記載の積層型ウェハレンズ。
【請求項4】
複数のレンズ光学部を有するウェハスケールレンズが、複数枚重ね合わされて接着された積層型ウェハレンズの製造方法であって、
上記積層型ウェハレンズは、互いに接着される2枚のウェハスケールレンズの対向する2面の間に、レンズ光学部と該レンズ光学部の周囲の遮光領域とを隔てるように、該レンズ光学部を取り囲んだ障壁部を有するとともに、2枚のウェハスケールレンズの上記遮光領域における対向面の間隔が、該対向面の間に遮光性接着剤を毛細管現象によって浸透可能な間隔となるように、上記障壁部の高さが設定されており、
上記遮光領域における2枚のウェハスケールレンズの対向面の間隔が、該対向面の間に上記遮光性接着剤を毛細管現象によって浸透可能な間隔となるように、上記2枚のウェハスケールレンズを保持する保持工程と、
上記保持した2枚のウェハスケールレンズの上記遮光領域における対向面の間に、上記遮光性接着剤を毛細管現象によって浸透させることによって充填する充填工程と、を含むことを特徴とする積層型ウェハレンズの製造方法。
【請求項5】
上記充填工程の際、重ね合わせた2枚のウェハスケールレンズのうちの、一方のウェハスケールレンズに設けられた貫通穴から、他方のウェハスケールレンズに上記遮光性接着剤を滴下することを特徴とする請求項4に記載の積層型ウェハレンズの製造方法。
【請求項6】
上記充填工程の際、ずらして重ね合わせた2枚のウェハスケールレンズのうちの、一方のウェハスケールレンズ上における、他方のウェハスケールレンズからはみ出た位置に上記遮光性接着剤を滴下することを特徴とする請求項4に記載の積層型ウェハレンズの製造方法。
【請求項7】
上記充填工程の際、重ね合わせた2枚のウェハスケールレンズのうちの、径の大きいウェハスケールレンズ上における、径の小さいウェハスケールレンズからはみ出た位置に上記遮光性接着剤を滴下することを特徴とする請求項4に記載の積層型ウェハレンズの製造方法。
【請求項8】
上記遮光性接着剤の粘度は、10Pa・s以下であることを特徴とする請求項4〜7のいずれか1項に記載の積層型ウェハレンズの製造方法。
【請求項9】
上記保持工程における、上記遮光領域における2枚のウェハスケールレンズの対向面の間隔は、1mm以下であることを特徴とする請求項4〜8のいずれか1項に記載の積層型ウェハレンズの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層型ウェハレンズから、1組または複数組の重ね合わされたレンズ光学部を含むように切断されたことを特徴とする多層レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−76769(P2013−76769A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215472(P2011−215472)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】