説明

空気ばね装置

【課題】上部材と下部材とが水平方向に相対的に大きく変位したときに、筒状膜部材に折れ皺が発生するのを抑えること。
【解決手段】上部材2および下部材3と、これらの両部材に両開口端部4a、4bが各別に連結されて封止された筒状膜部材4と、を備え、筒状膜部材4の内圧が300kPaの状態で、該筒状膜部材4の水平方向のばね定数は、35N/mm以上55N/mm以下である空気ばね装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鉄道車両等の車体と台車との間に配設される空気ばね装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、この種の空気ばね装置として、例えば下記特許文献1に示されるような、上部材および下部材と、これらの両部材に両開口端部が各別に連結されて封止された筒状膜部材と、を備える構成が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−115959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで近年、例えば当該空気ばね装置を採用する鉄道車両が、大きくカーブする線路上を高速で走行すること等があり、このような場合、空気ばね装置の上部材と下部材とが水平方向に相対的に大きく変位することとなる。すると、筒状膜部材が水平方向に大きく変形し、筒状膜部材における上側の上開口端部と下側の下開口端部とが、例えば約80mm以上100mm以下程度、水平方向に相対的に変位する。
しかしながら、前記従来の空気ばね装置では、上部材と下部材とが水平方向に相対的に大きく変位して、筒状膜部材が水平方向に大きく変形させられたときに、筒状膜部材に折れ皺が発生し易いという問題があった。
【0005】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、上部材と下部材とが水平方向に相対的に大きく変位したときに、筒状膜部材に折れ皺が発生するのを抑えることができる空気ばね装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
本発明に係る空気ばね装置は、上部材および下部材と、これらの両部材に両開口端部が各別に連結されて封止された筒状膜部材と、を備える空気ばね装置であって、前記筒状膜部材の内圧が300kPaの状態で、該筒状膜部材の水平方向のばね定数は、35N/mm以上55N/mm以下であることを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、筒状膜部材の内圧が300kPaの状態で、該筒状膜部材の水平方向のばね定数が、35N/mm以上55N/mm以下となっているので、上部材と下部材とが水平方向に相対的に大きく変位したときに、筒状膜部材に折れ皺が発生するのを抑えることが可能で、かつ筒状膜部材の耐久性を良好に維持することができる。
【0008】
すなわち、筒状膜部材の内圧が300kPaの状態で、筒状膜部材の水平方向のばね定数が35N/mmよりも小さい場合、および55N/mmよりも大きい場合はいずれも、上部材と下部材とが水平方向に相対的に大きく変位して、筒状膜部材が水平方向に大きく変形させられたときに、筒状膜部材に折れ皺が発生するおそれがある。
【0009】
ところで、筒状膜部材における同一箇所に繰り返し折れ皺が発生すると、この折れ皺の発生部分に損傷が生じやすくなるため、上部材と下部材との水平方向の相対的な変位時に筒状膜部材に折れ皺が発生する場合、上部材と下部材とが繰り返し変位することで、筒状膜部材が早期に寿命に至るおそれがある。
しかしながら、当該空気ばね装置では、前述のように筒状膜部材に折れ皺が発生するのを抑えることができるので、筒状膜部材の寿命を確保し易くすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る空気ばね装置によれば、上部材と下部材とが水平方向に相対的に大きく変位したときに、筒状膜部材に折れ皺が発生するのを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る空気ばね装置の縦断面図である。
【図2】図1に示す空気ばね装置を構成する筒状膜部材の拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態に係る空気ばね装置を説明する。
図1に示すように、空気ばね装置1は、上部材2および下部材3と、これらの両部材2、3に両開口端部4a、4bが各別に連結されて封止された筒状膜部材4と、を備えている。該空気ばね装置1は、例えば鉄道車両等の図示されない車体と台車との間に配設されており、これらの車体および台車のいずれか一方が上部材2に連結され、いずれか他方が下部材3に連結される。
【0013】
下部材3は、内圧が300kPaとされたときの筒状膜部材4よりも上下方向および水平方向の各ばね定数が高い筒状の補助弾性体6と、補助弾性体6上に配置された下面板7と、を備えている。
ここで筒状膜部材4、補助弾性体6および下面板7の各中心軸線は、共通軸上に位置している。以下では、この共通軸を軸線Oという。該軸線Oは、上下方向に沿って延在している。
【0014】
補助弾性体6の水平方向のばね定数は、例えば250N/mm以上350N/mmとなっている。この補助弾性体6は、環状の下基板8および上基板9と、これら両基板8、9、の間に上下方向に交互に配置された環状のゴム板10および金属板11と、を備える積層ゴムにより構成されている。下基板8、上基板9、ゴム板10および金属板11は、軸線Oと同軸に配置されるとともに、下基板8、上基板9および金属板11と、ゴム板10と、は互いに加硫接着されている。
【0015】
該補助弾性体6のうち、上基板9上には、下面板7が配置され固定されるとともに、下面板7には、前記車体および台車のいずれか一方が連結されている。
また、補助弾性体6を構成する各部材の外径のうち、上基板9の外径が最大になっているとともに、下基板8の内径が最小になっており、下基板8内には、内部が上下方向の両側に向けて開口して補助弾性体6内に連通する連通筒部12が嵌合されている。連通筒部12において下基板8から下方に突出する部分には、例えば、ダイヤフラム内に気体を給排する図示しない気体供給手段や補助タンクなどが気密に接続される。
【0016】
下面板7の外径は上基板9の外径よりも小さくなっており、下面板7は、補助弾性体6の上基板9に固定ボルト13により上方から固定されている。
さらに下面板7には、補助弾性体6内と筒状膜部材4内とを連通する給排孔14が、上下方向に沿って貫設されている。該給排孔14は、軸線Oと同軸に配置されており、補助弾性体6内を通して連通筒部12内に連通している。
【0017】
ここで、補助弾性体6の上基板9において下面板7よりも外周側に位置する外周縁部は、環状のゴム座15により上方および側方から被覆されている。ゴム座15の内周縁は、下面板7と補助弾性体6の上基板9との間に挟持されている。
【0018】
上部材2は、外径が筒状膜部材4の外径よりも大きく、水平方向の中央部が下方に向けて張り出された上面板16と、上面板16において中央部よりも外周側に位置する外周側部分を被覆する環状のゴム膜17と、上面板16における水平方向の中央部を上下方向に貫通し、筒状膜部材4内と外部とを連通する貫通筒部18と、を備えている。これらの上面板16、ゴム膜17および貫通筒部18は、軸線Oと同軸に配置されている。
【0019】
上面板16は、車体および台車のいずれか他方に連結されている。また、上面板16における水平方向の中央部と、ゴム膜17と、の間には、水平方向の隙間があいている。
貫通筒部18の上端部は、上面板16より上方に突出している。該貫通筒部18の上端部には、例えば、前述した気体供給手段や補助タンクなどが気密に接続される。
【0020】
筒状膜部材4の両開口端部4a、4bのうち、上側の上開口端部4aは、上面板16における水平方向の中央部に気密に外嵌されるとともに、該中央部とゴム膜17との間の隙間に配置されている。また両開口端部4a、4bのうち、下側の下開口端部4bは、下面板7に気密に外嵌されるとともに、ゴム座15上に配置されている。
【0021】
また筒状膜部材4において上開口端部4aと下開口端部4bとの間に位置する中間部分4cは、補助弾性体6の上基板9よりも水平方向の外側に膨出しており、該中間部分4cは、ゴム座15を介して補助弾性体6の上基板9に上方および側方から当接するとともに、ゴム膜17を介して上面板16に下方から当接している。
【0022】
ここで筒状膜部材4は、可撓性を具備しており、例えば弾性体材料、好ましくはゴム材料などで形成されている。本実施形態では図2に示すように、筒状膜部材4は、複数層のゴム層21、22、23が積層されてなり、筒状膜部材4の膜厚Tは、例えば5mm以上7mm以下となっている。
また筒状膜部材4は、ゴム層21、22、23として、内層ゴム21および外層ゴム22と、これらの両ゴム層21、22の間に挟み込まれるとともに、複数の補強コード24が打ち込まれることにより補強された補強層23と、を備えている。
【0023】
補強層23は複数層、図示の例では2層備えられている。各補強層23における補強コード24は、例えば有機繊維などにより形成されており、補強コード24の打ち込み本数は、例えば6本/1cm以上8本/1cm以下であり、補強コード24の外径は、例えば0.5mm以上0.8mm以下となっている。
【0024】
そして本実施形態では、筒状膜部材4の内圧が300kPaの状態で、該筒状膜部材4の水平方向のばね定数は、35N/mm以上55N/mm以下となっている。
【0025】
以上説明したように、本実施形態に係る空気ばね装置1によれば、筒状膜部材4の内圧が300kPaの状態で、該筒状膜部材4の水平方向のばね定数が、35N/mm以上55N/mm以下となっているので、上部材2と下部材3とが水平方向に相対的に大きく変位したときに、筒状膜部材4に折れ皺が発生するのを抑えることが可能で、かつ筒状膜部材4の耐久性を良好に維持することができる。
【0026】
すなわち、筒状膜部材4の内圧が300kPaの状態で、筒状膜部材4の水平方向のばね定数が35N/mmよりも小さい場合、および55N/mmよりも大きい場合はいずれも、上部材2と下部材3とが水平方向に相対的に大きく変位して、筒状膜部材4が水平方向に大きく変形させられたときに、筒状膜部材4に折れ皺が発生するおそれがある。
【0027】
ところで、筒状膜部材4における同一箇所に繰り返し折れ皺が発生すると、この折れ皺の発生部分に損傷が生じやすくなるため、上部材2と下部材3との水平方向の相対的な変位時に筒状膜部材4に折れ皺が発生する場合、上部材2と下部材3とが繰り返し変位することで、筒状膜部材4が早期に寿命に至るおそれがある。
しかしながら、当該空気ばね装置1では、前述のように筒状膜部材4に折れ皺が発生するのを抑えることができるので、筒状膜部材4の寿命を確保し易くすることができる。
【0028】
なお、補強コード24の打ち込み本数や外径を調整することにより、筒状膜部材4の水平方向のばね定数を変化させる場合、筒状膜部材4の外形状を変更させることなくばね定数を変化させることができるので、例えば当該空気ばね装置1の試作評価などを低コストで行うことができる。
【0029】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、筒状膜部材4の膜厚T、補強層23における補強コード24の打ち込み本数、および補強コード24の外径は、前記実施形態に示されたものに限られず、筒状膜部材4の内圧が300kPaの状態で、該筒状膜部材4の水平方向のばね定数が、35N/mm以上55N/mm以下であれば、適宜変更することが可能である。
【0030】
また前記実施形態では、補助弾性体6は、積層ゴムにより構成されているものとしたが、内圧が300kPaとされたときの筒状膜部材4よりも上下方向および水平方向の各ばね定数が高い他の構成に適宜変更することができる。例えば、下基板8と、上基板9と、およびこれらの両基板8、9の間に配設されて両基板8、9に加硫接着された筒状の弾性部材と、を備える構成を採用してもよい。
さらに、補助弾性体6はなくてもよい。この場合、下部材3が下面板7および上基板9からなる構成であってもよい。
【0031】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【0032】
次に、以上説明した作用効果についての検証試験を実施した。
本検証試験では、実施例1〜3および比較例1、2の5種類の空気ばね装置1を用いた。これらの空気ばね装置1は、筒状膜部材4の内圧が300kPaの状態での筒状膜部材4の水平方向のばね定数を、下記表1に示す各値となるように互いに異ならせ、他の構成を同一のものとした。
【0033】
そして、実施例1〜3および比較例1、2のそれぞれについて、変位試験および耐久性試験を行った。
【0034】
変位試験では、空気ばね装置1に、周波数が0.3Hzの振動を加え、上部材2と下部材3とを水平方向に相対的に変位させることにより筒状膜部材4を水平方向に変形させ、筒状膜部材4の折れ皺の有無を観察した。なお加振時に、筒状膜部材4の上開口端部4aと下開口端部4bとを、水平方向に相対的に±100mm変位させた。
【0035】
耐久性試験では、空気ばね装置1における筒状膜部材4の内圧を200kPaとした。そして空気ばね装置1に、周波数が0.3Hzの振動を、30万回加えて上部材2と下部材3とを水平方向に相対的に変位させることにより筒状膜部材4を水平方向に変形させた。加振時には、水平方向のうち、空気ばね装置1の前記軸線Oと平行に延在する仮想軸回りに周回する方向に、筒状膜部材4の上開口端部4aと下開口端部4bとを、相対的に±100mm変位させた。なお、前記軸線Oと前記仮想軸との水平方向に沿った距離は、800mmとした。
【0036】
結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1より、変位試験において、実施例1〜3では、筒状膜部材4への折れ皺の発生が抑えられた一方で、比較例1および2では、筒状膜部材4に折れ皺が発生したことが確認された。
【0039】
なお比較例1では、筒状膜部材4の水平方向のばね定数が35N/mmよりも小さいことから、筒状膜部材4の剛性が低くなっており、筒状膜部材4が変形し易くなっている。そのため、筒状膜部材4が水平方向に大きく変形させられたときに、折れ皺が発生し易くなっている。
また比較例2では、筒状膜部材4の水平方向のばね定数が55N/mmよりも大きいことから、筒状膜部材4の剛性が高くなっており、柔軟性が低くなっている。そのため、筒状膜部材4が水平方向に大きく変形させられたときに、折れ皺が発生し易くなっている。
【0040】
また耐久性試験において、実施例1〜3では、耐久性が良好に維持された一方で、比較例1および2では、筒状膜部材4が折れ皺の発生部分を起点にパンクしたことが確認された。
【符号の説明】
【0041】
1 空気ばね装置
2 上部材
3 下部材
4 筒状膜部材
4a、4b 開口端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部材および下部材と、
これらの両部材に両開口端部が各別に連結されて封止された筒状膜部材と、を備える空気ばね装置であって、
前記筒状膜部材の内圧が300kPaの状態で、該筒状膜部材の水平方向のばね定数は、35N/mm以上55N/mm以下であることを特徴とする空気ばね装置。

【図1】
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【図2】
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