説明

空気入りタイヤ

【課題】スチールコードのコーティングゴムが初期接着性および耐熱劣化接着性に優れた耐久性の高い空気入りタイヤ。
【解決手段】カーカスと、該カーカスのタイヤ半径方向外側に配設したベルトとを備え、該ベルトがコーティングゴムで被覆したスチールコードよりなる層を含む空気入りタイヤにおいて、コムの補強用充填剤として25℃、相対湿度60%において、5質量%以上の吸湿量となる吸着剤をゴム成分100部に対して、1〜20部配合したゴム組成物をコーティングゴムに用いた空気入りタイヤで、近年開発された低結晶性層状粘土鉱物と非晶質物質アルミニウムケイ酸塩複合体からなる吸着剤を充填剤として使用したタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチールコード補強空気入りタイヤに関する。さらに詳しくは、スチールコードを含むベルト層を備え、スチールコードと該コードを被覆するゴムとの初期接着性及び耐熱劣化接着性を向上させたスチールコードコーティング用ゴム組成物を用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の足廻りを支えるタイヤに限らず、ベルト、ホース等のゴム製品には金属製の補強材が必要に応じて使用されている。タイヤでは、カーカス及びベルトの少なくとも一方の補強材料としてスチールコードを用いたスチールコード補強タイヤが、広く用いられるようになってきた。スチールコード補強タイヤにおいては、スチールコードと該コードを被覆するゴムとの接着性を確保することが重要であり、この接着層が破壊されれば致命的なタイヤ故障の原因となるので、スチールコードとゴムとの接着性を向上せたゴム組成物が提案されている(特許文献1及び2)。また、ゴムとの接着性を高め、その補強効果を高めるため、スチールコードには黄銅、亜鉛等でメッキを施し、ゴム組成物には接着促進剤として有機酸のコバルト塩等を配合することが行われている。
【0003】
しかしながら、この有機酸のコバルト塩を多量に用いる場合には、加硫直後の接着性、すなわち初期接着性には優れるものの、ゴムの熱劣化とそれによる水の生成が促進され、あるいは外部から侵入した水分によって接着層が劣化し、耐劣化接着性に劣るという不都合があった。最近では、加硫中に、スチールコード上の黄銅メッキとゴム層間に接着層を形成させるには適度の水分を必要とすることがわかり、例えば接着促進剤としてコバルト塩を除く特定の有機酸金属塩と含水無機塩とを含有させたスチールコード接着用ゴム組成物が提案されている(特許文献3)。しかし、かかる方法においても、初期接着性と耐熱劣化接着性における改良効果を発現するもののそのレベルは必ずしも満足すべきものではない。また、ゴム組成物にシリカ、水酸化アルミニウム、アネミナ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの無機充填剤を配合することによってベルト層への外部からの水分の侵入を防止して、湿熱劣化を抑制し、耐久性を向上させることが行われているが(特許文献4)、十分ではなく、さらなる向上が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−32810号公報
【特許文献2】特開平4−53845号公報
【特許文献3】国際公開WO97/49776号公報
【特許文献4】特開2000−79807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような状況下で、スチールコードに対する初期接着性及び耐熱劣化接着性を向上させたスチールコードコーティング用ゴム組成物を用いた空気入りタイヤを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、スチールコードと該コードを被覆するコーティングゴムからなるベルトを備えた空気入りタイヤにおいて、コーティングゴムに補強用充填剤として、25℃相対湿度60%での吸着量が5質量%以上の吸着剤(高吸湿性充填剤)を配合したゴムが、スチールコードに対する初期接着性及び耐熱劣化接着性の双方の向上に有効であることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。すなわち、本発明は、ゴム成分及び高吸湿性充填剤をゴム成分100質量部に対して1〜20質量部含有することを特徴とするスチールコードコーティング用ゴム組成物を用いた空気入りタイヤ提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、初期接着性及び耐熱劣化接着性を向上させたスチールコードコーティング用ゴム組成物を用い、耐久性に優れたた空気入りタイヤが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、一枚以上のカーカスプライからなるカーカスと、該カーカスのタイヤ半径方向外側に配設した2枚以上のベルト層からなるベルトとを備え、該ベルトがコーティングゴムで被覆したスチールコードよりなる層を含む空気入りタイヤにおいて、コムの補強用充填剤として25℃、相対湿度60%において、5質量%以上の吸湿量となる吸着剤をゴム成分100部に対して、1〜20部配合したゴム組成物をコーティングゴムに用いたタイヤである。特に、近年開発された低結晶性層状粘土鉱物と非晶質物質アルミニウムケイ酸塩複合体を充填剤として使用するとゴムとスチールコードとの初期接着性及び耐熱劣化接着性に優れたゴム組成物が得られ、これをベルト層に用いたタイヤは耐久性に優れたタイヤとなる。
【0009】
本発明のタイヤに使用するゴム組成物の補強用充填剤は、25℃、相対湿度60%において、5質量%以上の吸湿量を有するものであればよく、特に制限はないが、例えば、天然イモゴライト、合成チューブ状アルミニウムケイ酸塩および低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩複合体などを好ましく挙げることができる。これらは単独でもよく、2種以上組合せて用いてもよい。
【0010】
合成チューブ状アルミニウムケイ酸塩は、無機ケイ素化合物溶液と無機アルミニウム溶液を所定のケイ素/アルミニウム比率になるよう混合した溶液中でシリカ・アルミナ系前駆体を形成した後、共存イオンを取り除いて、加熱熟成後生成、析出する固形分を回収、洗浄して得られるチューブ状アルミニウムケイ酸塩で、例えば特開2001−64010に製造方法が開示されている。
また、天然のチューブ状アルミニウムケイ酸塩であるイモゴライトも使用でき、市販のものを使用することができる。
【0011】
次に、低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩複合体の非晶質アルミニウムケイ酸塩は水和ケイ酸アルミニウムであり、低結晶性層状粘土鉱物は、水酸化アルミニウムからなる単層または数層程度のギブサイトあるいは層方向の積層をほとんど示さない低結晶性の層状粘土鉱物である。この複合体は、無機ケイ素化合物溶液と無機アルミニウム溶液を所定のケイ素/アルミニウム比率になるよう混合し、pH調整したあと脱塩処理したものを10℃以上で加熱することにより得られ、相対湿度60%で45質量%以上の水蒸気を吸着する性能を有する高吸着性物質で、例えばWO2009/084632に開示されている。
【0012】
このような高吸湿性充填剤は、その吸湿性や吸水性により多少水分を含んでいるため、加硫時にこの水分が放出されて、スチールコードとゴム相との間の接着層の形成に有効に作用し、初期接着性を向上させる。また、水分が放出された高吸湿性充填剤は、経時によるゴム劣化に伴って生成する水分を吸収するので、水分による接着層の破壊が抑制され耐熱劣化接着性が向上するものと考えられる。
【0013】
これらの吸湿性充填剤の配合量は、ゴム成分100質部に対して、1〜20質量部であり、好ましくは、ゴム成分100質量部に対して、5〜10質量部である。充填剤の配合量が1部未満では接着性向上効果が得られず、20部以上では未加硫ゴムの粘度が高くなり、スチールコードへのカレンダー作業性が悪くなる。
【0014】
本発明のタイヤに使用するコーティング用ゴム組成物におけるゴム成分としては、天然ゴムや合成ゴムが用いられる。合成ゴムとしては、例えばブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムが好ましく、さらに臭素化ブチルゴム,パラメチルスチレン基を有するブチルゴム(具体的にはイソブチレンとp−ハロゲン化メチルスチレンとの共重合体等)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)なども好適なものとして挙げることができる。
ゴム成分は、天然ゴム及び上記合成ゴムの中から、適宜1種又は2種以上選択して用いられるが、天然ゴムを主成分として用いることが望ましく、天然ゴムの割合は耐破壊性やスチールコードとの接着性の点でゴム分率(質量%)の50乃至100質量%であることが好ましく、特に60乃至100質量%が好ましく、更には100質量%であることが好ましい。上記天然ゴム以外の合成ゴムは50質量%以下の割合でブレンド使用することが望ましく、50質量%を超える使用は耐破壊性やスチールコードとの接着を低下させる。
【0015】
本発明のタイヤに使用するコーティング用ゴム組成物においては、所望により、従来スチールコードコーティング用ゴム組成物において慣用されている各種接着促進剤を適宜含有させることにより、従来これらを配合した場合の初期接着性および耐劣化接着性を一段と向上させることができる。この接着促進剤としては、例えば有機酸の金属塩、特に有機酸のコバルト塩が好ましく挙げられる。
使用できる有機酸としては、飽和、不飽和、あるいは直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、例えばネオデカン酸、ステアリン酸、ナフテン酸、ロジン、トール油酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などが挙げられる。また、かかる有機酸は金属が多価の場合はその一部をホウ素、ホウ酸あるいはアルミニウムなどを含有する化合物と置換することもできる。具体的には、ローヌプーラン社製マノボンド等が使用できる。
有機酸の金属塩の配合量は、ゴム100質量部に対して、金属元素含有量として、0.1〜0.2質量部を配合することが好ましい。
【0016】
本発明で使用するコーティング用ゴム組成物には、通常硫黄が含有される。この硫黄の含有量は、前記ゴム成分100質量部当たり、3〜8質量部の範囲が好ましい。この含有量が3質量部未満では接着力発現の元となるCuS(スチールコードの黄銅メッキ中の銅と硫黄との反応により生成する)の生成に充分な硫黄を提供することができず、接着力が不充分になるおそれがある。また、8質量部を超えるとCuSが過剰に生成するため、肥大化したCuSの凝集破壊が起こり、接着力が低下するとともに、ゴム物性としての耐熱老化性も低下する傾向がみられる。
【0017】
さらに、本発明使用するコーティング用ゴム組成物には、前記各成分以外に、ゴム業界で通常使用される配合剤を通常の配合量で適宜配合することができる。具体的には、カーボンブラック等の充填剤、アロマオイル等の軟化剤、ジフェニルグアニジン等のグアニジン類、メルカプトベンゾチアゾール等のチアゾール類、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド等のスルフェンアミド類、テトラメチルチウラムジスルフィド等のチウラム類などの加硫促進剤、酸化亜鉛等の加硫促進助剤、ポリ(2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン)、フェニル−α−ナフチルアミン等のアミン類などの老化防止剤等である。
【0018】
これらのうち、カーボンブラックなどの充填剤は加硫ゴムの引張り強さ、破断強度、引張応力、硬さなどの増加、及び耐摩耗性、引張り抵抗性の向上などの補強剤として知られており、酸化亜鉛は脂肪酸と錯化合物を形成し、加硫促進効果を高める加硫促進助剤として知られている。
【0019】
充填剤として用いられるカーボンブラックとしては特に制限はなく、例えばSRF、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAFなどが用いられ、窒素吸着比表面積(NSA)が30m/g以上、かつジブチルフタレート吸油量(DBP)が90ml/100g以上のカーボンブラックが好ましい。カーボンブラックを用いることにより、耐破壊特性の改良効果は大きくなる。
カーボンブラックは、1種用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
カーボンブラックの使用量は、好ましくはゴム成分100質量部に対して30〜80質量部、好ましくは45〜70質量部である。
【0020】
また、本発明のタイヤに適用されるスチールコードは、ゴムとの接着を良好にするために黄銅、亜鉛、あるいはこれにニッケルやコバルトを含有する合金でメッキ処理されていることが好ましく、特に黄銅メッキ処理が施されているものが好適である。スチールコードの黄銅メッキ中のCu含有率が75重量%以下、好ましくは55〜70重量%で、良好で安定な接着が得られる。なお、スチールコードの撚り構造については特に制限はない。
【0021】
本発明のタイヤに使用するコーティング用ゴム組成物の製造方法は、特に限定されず、通常行なわれる方法により、吸湿性充填剤を単独でゴム成分に添加し、他の配合成分と共にバンバリーミキサー、ロール、インターナルミキサー等の混練り機を用いて混練りすることによって得られ、成形加工後、加硫を行い、タイヤ用ゴムとして用いられる。
【0022】
上記のコーティング用ゴム組成物をベルト部材に用いた空気入りタイヤは、スチールコードとの接着性が高く、耐久性に優れている。このタイヤに充填する気体としては、空気の外、窒素等の不活性ガスが使用できる。
【実施例】
【0023】
次に、本発明を実施例により、さらに詳しく説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
以下の実施例、比較例において、調製したゴム組成物について、下記の方法により初期接着性及び耐劣化接着性を求めた。
【0024】
(1)初期接着性
黄銅メッキ(Cu:63重量%,Zn:37重量%)したスチールコード(1×5構造、素線径0.25mm)を12.5mm間隔で平行に並べ、このスチールコードを両側から各ゴム組成物からなるシートでコーティングして、これを160℃×20分間の条件で加硫し、厚さ12.5mmのサンプルを作製し、ASTM−D−2229に準拠して、スチールコードを引抜き、その際の引抜き力を測定し、比較例1の値を100として指数表示した。数値が大きいほど良好である。
(2)耐熱劣化接着性
上記(1)と同様にして、160℃×20分間の条件で加硫し、厚さ12.5mmのサンプルを作製し、これを空気中にて100℃で7日間放置して劣化させたのち、ASTM−D−2229に準拠して、スチールコードを引抜き、その際の引抜き力を測定し、比較例1の値を100として指数表示した。数値が大きいほど良好である。
【0025】
実施例1〜4及び比較例1
表1に従う配合処方のゴム組成物をバンバリーミキサーにて混練して調製した。
得られたゴム組成物について、初期接着性と耐熱劣化接着性を上記の方法で測定した。その結果を表1に示す。
【0026】
【表1】


*1 天然ゴム RSS#3
*2 N330〔東海カーボン(株)製〕
*3 吸湿性充填剤1 イモゴライト(組成SiO・Ai・2HO)
*4 吸湿性充填剤2 低結晶性層状粘度鉱物と非晶質アルミニウムケイ塩複合体
ハスクレイHC500〔戸田工業(株)製〕
*5 N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン
*6 マノボンドC(有効成分:コバルト金属として22%、ローヌプーラン社商品名)
*7 N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド〔大内新興化学工業(株)製、商品名:ノクセラーDZ〕
【0027】
表1の示す結果から、本発明のコーティング用ゴム組成物は、スチールコードに対する初期接着性及び耐熱劣化接着性に優れている。このゴム組成物をベルト層に使用したタイヤは、耐久性に優れたものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のベルト層を備えたタイヤは耐劣化性に優れ、乗用自動車や重荷重車両のタイヤとして好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーカスと、該カーカスのタイヤ半径方向外側に配設したベルトとを備え、該ベルトがコーティングゴムで被覆したスチールコードよりなる層を含む空気入りタイヤにおいて、コムの補強用充填剤として25℃、相対湿度60%において、5質量%以上の吸湿量となる吸着剤をゴム成分100部に対して、1〜20部配合したゴム組成物をコーティングゴムに用いた空気入りタイヤ。
【請求項2】
吸着剤が、吸着量15質量%以上の吸着剤であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
吸着剤が、アルミニウムケイ酸塩である請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
吸着剤が、天然イモゴライトである請求項3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
吸着剤が、合成チューブ状アルミニウムケイ酸塩である請求項3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
吸着剤が、低結晶性層状粘土鉱物と非晶質アルミニウムケイ酸塩複合体である請求項3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
吸着剤をゴム成分100部に対して、5〜10部配合したゴム組成物をコーティングゴムに用いた請求項1〜6のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
コーティングゴムが、ゴム成分100質量部に対して接着促進剤を0.1〜0.2質量部含有したゴム組成物である請求項1〜7に記載の空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2013−71997(P2013−71997A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211721(P2011−211721)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】