説明

空気分離装置

【課題】寒冷源として膨脹タービンを用いることなく、LN2 の製造が可能で、フラッシュの発生がなく、効率の良い運転をすることのできる空気分離装置を提供する。
【解決手段】外部より取り入れた空気を圧縮する空気圧縮機と、この空気圧縮機によって圧縮された圧縮空気中の不純物を除去する吸着塔と、この吸着塔を経た圧縮空気を超低温により冷却する熱交換器1と、この熱交換器1を経由し超低温に冷却された圧縮空気を各成分の沸点差を利用して分離し所望の成分を気体状態で取り出す精留塔2を備えた空気分離装置である。そして、上記精留塔2に、精留塔2内の空気液化用の寒冷源として塔内冷却用のパルスチューブ冷凍機3を設けている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、寒冷源として冷凍機を用いる空気分離装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に、深冷空気分離装置は、寒冷により空気を液化して各成分(N2 ,O2,Ar等)に精留分離したのち、所望の成分を気体状態または液体状態で取り出すようにしており、寒冷源として、膨張タービンや液体窒素等の冷熱エネルギーを利用している。このような深冷空気分離装置として、図9に示すような、膨脹タービンを利用した高純度窒素ガス製造装置がある。図において、21は原料空気(圧縮空気)を熱交換器22に供給する圧縮空気供給パイプである。この圧縮空気供給パイプ21を通る圧縮空気は、大気中の空気を空気圧縮機により取り込んで圧縮したのち、ドレン分離器,フロン冷却器および吸着筒を経由した圧縮空気である(図面では、これら空気圧縮機,ドレン分離器,フロン冷却器および吸着筒を省略している)。22は熱交換器であり、この内部に、吸着筒内部のモレキュラーシーブにより水分(H2 O)および炭酸ガス(CO2 )が吸着除去された圧縮空気が送り込まれ、超低温に冷却される。
【0003】23は精留塔であり、熱交換器22により超低温に冷却され圧縮空気導入パイプ24を経て送り込まれる圧縮空気をさらに冷却し、その一部を液化し液体空気として底部に溜め、N2 を気体状態で上部に溜めるようになっている。26は精留塔23の上方に配設された凝縮器27内蔵のコンデンサー(分縮器)である。この凝縮器27には、精留塔23の上部に溜るN2 ガスの一部が第1還流液パイプ28aを介して送入される。このコンデンサー26内は、精留塔23内よりも減圧状態になっており、精留塔23の底部の貯留液体空気(N2 ;50〜70%,O2 ;30〜50%)25が膨脹弁29a付き送給パイプ29を経て送り込まれ、気化して内部温度を液体窒素(LN2 )の沸点以下の温度に冷却するようになっている。この冷却により、精留塔23から第1還流液パイプ28aを介して凝縮器27内に送入されたN2 ガスが液化する。精留塔23の上部には、凝縮器27で生成したLN2 が第2還流液パイプ28bを流下して還流供給され、これがLN2 溜め(図示せず)を経て精留塔23内を下方に流下し、精留塔23の底部から上昇する圧縮空気と向流的に接触し冷却してその一部を液化するようになっている。この過程で圧縮空気中の高沸点成分(O2 )は液化されて精留塔23の底部に溜り、低沸点成分のN2 ガスが精留塔23の上部に溜る。
【0004】30は精留塔23の上部に溜まるN2 ガスを製品N2 ガスとして取り出すN2ガス取出パイプであり、低温のN2 ガスを熱交換器22内に案内し、そこに送り込まれる圧縮空気と熱交換させて常温にしメインパイプ31に送り込む作用をする。31aは一定量のN2 ガスを所定の圧力で需要側に供給する製品N2 ガス供給弁である。32は放出パイプであり、コンデンサー26内の気化液体空気(排N2 ガス)の全部または一部を分岐パイプ34を経て膨脹タービン33の駆動部に送り込み他部を外部に放出する作用をする。32aは分岐パイプ34に供給する排N2 ガス量をコントロールすることにより寒冷量の調節を行う流量調節弁である。33は膨脹タービンであり、分岐パイプ34から供給された排N2 ガスを膨脹させて低温排N2 ガスを得たのち、戻しパイプ35を経て放出パイプ32の流量調節弁32a下流側部分に合流させる。これにより、分岐パイプ34を通る排N2 ガス、放出パイプ32を通る低温排N2 ガス,排N2 ガスおよびN2 ガス取出パイプ30から送り込まれる製品N2 ガスにより、熱交換器22内へ送り込まれる圧縮空気を低温に冷却するようになっている。
【0005】36はLN2 貯蔵タンク(内部は精留塔23の圧力より1kg/cm2 G程度低い圧力に設定されている)であり、精留塔23の上部のLN2 溜めから導入弁37a付き導入パイプ37を経てLN2 が圧力差により供給されるようになっている。38はLN2 貯蔵タンク36の下部から延びる自己加圧蒸発器38a付きLN2 取出パイプである。このLN2 取出パイプ38を設けているため、バックアップ作動(メインパイプ31からの製品N2 ガスの供給量低下,供給不能等の場合に、LN2 貯蔵タンク36のLN2 を後述のバックアップ系パイプ42を通して気化し需要側に供給する)後に、LN2 貯蔵タンク36の上部圧力が降下して所定圧力を下回っても、開閉弁39が開き、LN2 貯蔵タンク36内のLN2が自己加圧蒸発器38aに送り込まれて蒸発し体積膨張したのち、上部パイプ40を経てLN2 貯蔵タンク36の上部空間に導入される。これにより、LN2 貯蔵タンク36の上部圧力が上記所定圧力に戻り、開閉弁39は閉弁する。41は上部パイプ40から延びる開閉弁41a付き排出パイプであり、LN2 貯蔵タンク36の上部圧力が上記所定圧力を上回ると、開閉弁41aが開き、LN2 貯蔵タンク36内のLN2 が外部に放出されて所定圧力に戻るようになっている。42はLN2 貯蔵タンク36からメインパイプ31に延びるバックアップ系パイプであり、空気圧縮系ラインが故障等して、バックアップ系パイプ42内の圧力が所定圧力(製品N2 ガス圧力〔LN2 貯蔵タンク36の上部圧力と同じ〕より0.5kg/cm2 G程度低い圧力)に降下すると、開閉弁43が開き、LN2 貯蔵タンク36内のLN2 がバックアップ用蒸発器42aに送り込まれて蒸発し、製品N2 ガスとしてメインパイプ31に導入される。これにより、N2 ガスの供給が途絶えないようにしている。
【0006】この装置は、つぎのようにして製品窒素ガスを製造する。すなわち、空気圧縮機により空気を圧縮し、ドレン分離器により圧縮された空気中のH2 Oを除去してフロン冷却器により冷却し、その状態で吸着筒に送り込み、空気中のH2 OおよびCO2 を吸着除去する。ついで、H2 O,CO2 が吸着除去された圧縮空気を、精留塔23からN2 ガス取出パイプ30を経て送り込まれる製品N2 ガス,膨脹タービン33から送り込まれる低温排ガス等の冷媒によって冷やされている熱交換器22に送り込んで超低温に冷却し、その状態で精留塔23の下部内に投入する。つぎに、この投入圧縮空気をLN2 溜めからの溢流LN2 と接触させて冷却し、一部を液化して精留塔23の底部に液体空気25として溜める。この過程において、N2 とO2 の沸点の差により、圧縮空気中の高沸点成分であるO2が液化し、N2 が気体のまま残る。つぎに、この気体のまま残ったN2 をN2 ガス取出パイプ30から取り出して熱交換器22に送り込み、常温近くまで昇温させメインパイプ31から製品N2 ガスとして送り出す。一方、精留塔23の下部に溜った液体空気25については、これをコンデンサー26内に送り込み凝縮器27を冷却させる。この冷却により、精留塔23の上部から凝縮器27に送入されたN2 ガスが液化して精留塔23用の還流液となり、第2還流液パイプ28bを経て精留塔23に戻る。そして凝縮器27を冷却し終えた液体空気25は気化し、放出パイプ32により熱交換器22に送られてこの熱交換器22を冷やしたのち、空気中に放出される。他方、コンデンサー26から取り出した排N2 ガスの全部もしくは一部は熱交換器22を通ったのち膨脹タービン33の駆動部に送り込まれ、これを駆動し冷媒を循環させ、再度熱交換器22に送り込まれて、熱交換器22内へ送り込まれる圧縮空気を冷却するようになっている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記装置に用いる膨張タービン33は、1分間に数万回と高速回転させるため、負荷変動に対する追従運転が困難であり、かつ故障が生じやすいという欠点等がある。そこで、比較的小型の空気分離装置では、膨張タービン33の代替として、外部からLN2 を供給するLN2 収容タンクを用い、このLN2 収容タンク内のLN2 を直接に精留塔23に供給している場合もある。ところが、このものでは、LN2 を消費するのみであり、LN2 の製造は不可能である。このため、LN2 の補給が必要となり、LN2 供給源の確保およびLN2 の輸送等のコストアップとなる。一方、膨脹タービン33を用いた空気分離装置では、LN2 の製造は、LN2 の還流液の一部を精留塔23のLN2 溜めからLN2 貯蔵タンク36に取り出すことにより行われているため、LN2 製造量と還流液量のバランスに変動が生じると、製品N2 ガスの純度に悪影響を及ぼす等運転が難しくなる。また、精留塔23からLN2 をLN2 貯蔵タンク36に減圧供給した場合にフラッシュロスが発生し、LN2 の収率が低下する等の欠点がある。しかも、LN2 貯蔵タンク36の上部圧力は精留塔23の圧力よりも少なくとも1kg/cm2 G程度低圧にする必要があり、N2 ガスのバックアップ時にはLN2 貯蔵タンク36の上部圧力をN2 供給圧力にまで上昇させなければならず、この上昇時間はバックアップが停止する。これを防ぐため、N2 供給圧力を精留塔23の圧力より1kg/cm2 G程度低い状態にしているが、精留塔23の状態は低圧運転の方が効率がよく、効率の悪い運転をしていることになる。
【0008】本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、寒冷源として膨脹タービンを用いることなく、LN2 等の製造が可能で、フラッシュの発生がなく、効率の良い運転をすることのできる空気分離装置の提供をその目的とする。
【0009】
【課題を解決するたの手段】上記の目的を達成するため、本発明の空気分離装置は、外部より取り入れた空気を圧縮する空気圧縮手段と、この空気圧縮手段によって圧縮された圧縮空気中の不純物を除去する除去手段と、この除去手段を経た圧縮空気を冷却する熱交換器と、この熱交換器を経由し低温に冷却された圧縮空気を各成分の沸点差を利用して分離し所望の成分を気体状態で取り出す精留塔とを備えた空気分離装置であって、当該装置内に、精留塔内の空気液化用の寒冷源として塔内冷却用冷凍機を設けたという構成をとる。
【0010】すなわち、本発明では、精留塔の空気液化用の寒冷源として塔内冷却用冷凍機を用いている。したがって、従来例のように、膨脹タービンを用いた場合の欠点(すなわち、膨脹タービンは1分間に数万回と高速回転するため、負荷変動に対する追従運転が困難であり、かつ故障が生じやすいという欠点)がなくなる。また、本発明において、上記精留塔から気体状態で取り出した成分(N2 ,O2 ,Ar等)の一部を導入する貯蔵手段と、上記貯蔵手段に導入した気体状態の成分を液化して上記貯蔵手段内に溜めるタンク内冷却用冷凍機とを設けた場合には、液化成分(LN2 ,LO2 ,LAr等)の製造を行うこともできる。しかも、本発明では、精留塔にて上記の成分を気体状態で製造し、この気体状態の成分の一部を貯蔵手段に導入したのちタンク内冷却用冷凍機により液化し貯蔵しているため、従来例では生じたフラッシュロスが生じなくなり、収率が向上するうえ、上記の成分の製造量と還流液量のバランスに変動が生じなくなり、上記の成分の純度が劣化しない。さらに、精留塔の圧力(N2 等の発生圧力)と貯蔵手段内の圧力は同圧でよく、バックアップ時に貯蔵手段内の圧力を上昇させる必要がなくなる。このため、精留塔を低圧運転することができ、効率の良い運転が行える。また、貯蔵手段に溜めた液化成分を、装置の定期検査等で加温状態となった機器のクールダウンや装置停止等のガスバックアップ供給に利用することもできる。
【0011】
【発明の実施の形態】つぎに、本発明の実施の形態を図面にもとづいて詳しく説明する。
【0012】図1は本発明の空気分離装置の一実施の形態を示す構成図である。この実施の形態では、図9の空気分離装置において用いた膨脹タービン33の代替として、精留塔2に空気液化用のパルスチューブ冷凍機3を設けるようにしている。また、LN2 貯蔵タンク4にN2 ガス液化用のパルスチューブ冷凍機6を設け、精留塔2で製造したN2 ガスをLN2 貯蔵タンク4に導入したのち、パルスチューブ冷凍機6でLN2 にして貯蔵するようにしている。それ以外の部分は図9に示す空気分離装置と同様であり、同様の部分には同じ符号を付している。図1において、1は熱交換器である。この熱交換器1は、図9の熱交換器22と同様構造の熱交換器であり、同様の作用をする。ただし、この実施の形態では、膨脹タービン33を用いていないため、熱交換器1内を図9の分岐パイプ34が通っていない。これにより、熱交換器1内へ送り込まれる圧縮空気は、放出パイプ32を通る排N2 ガスおよびN2 ガス取出パイプ30から送り込まれる製品N2 ガスにより冷却されるようになっている。
【0013】2は精留塔である。この精留塔2は、図9の精留塔23と同様構造の精留塔であり、同様の作用をする。ただし、この実施の形態では、精留塔2の下部周壁から筒体2aが上向きに突設されており、この筒体2aの上端開口を蓋する蓋体に空気液化用のパルスチューブ冷凍機3(Heを冷媒として利用している)が取り付けられている。このパルスチューブ冷凍機3は精留塔2内に寒冷を発生させるものであり、この寒冷により、圧縮空気導入パイプ24を経て精留塔2に送り込まれる圧縮空気を冷却し、その一部を液化し液体空気として底部に溜め、N2 を気体状態で上部に溜めるようになっている。5は第1還流液パイプ28aから分岐する導出パイプであり、N2 ガス取出パイプ30を通るN2 ガスの一部を第1還流液パイプ28aを介して取り出してLN2 貯蔵タンク4に導入する作用をする。5aはLN2 貯蔵タンク5への最大供給量を制限する導出弁であり、精留塔2のN2 の濃度が劣化した場合およびLN2 貯蔵タンク4のLN2 の液面が上限に達した場合に、閉じるようになっている。6はLN2 貯蔵タンク4の頂部に設けたN2 ガス液化用のパルスチューブ冷凍機(Heを冷媒として利用している)であり、導出パイプ5を経て送り込まれる(液化温度近くの)N2 ガスを液化してLN2 貯蔵タンク4内に溜めるようになっている。7は供給弁7a付きLN2供給パイプであり、寒冷エネルギー不足時等に供給弁7aを開いてLN2 貯蔵タンク4内のLN2 をコンデンサー26に供給する作用をする。8は断熱保冷箱であり、内部に熱交換器1,精留塔2,コンデンサー26およびLN2 貯蔵タンク4が収容されている。この断熱保冷箱8の内部は真空状態に保持されており、かつパーライト(図示せず)が充填されている。この実施の形態では、精留塔2の圧力,LN2 貯蔵タンク4の上部圧力および製品N2 ガス圧力が同一に設定されている。
【0014】上記装置において、パルスチューブ冷凍機3の冷凍能力は、熱交換器1の温端温度差によるエンタルピーのロス分とヒートリークロス分でよく、また、パルスチューブ冷凍機6の冷凍能力はN2 の潜熱分とヒートリークロス分の冷凍能力でよく、両冷凍機3,6ともに、例えばN2 ガス200Nm3 /hを発生する空気分離装置であれば、500W程度の冷凍能力で運転可能となる。この場合に、LN2 製造量は約7Nm3 /hとなる。また、通常運転時には、パルスチューブ冷凍機3はコンデンサー26の液体空気の液面を制御しながら運転され、パルスチューブ冷凍機6は貯蔵タンク4の上部圧力を制御しながら運転される。また、導出パイプ5によりLN2 貯蔵タンク4に供給される最大供給量はパルスチューブ冷凍機6の冷凍能力に左右される。
【0015】この装置は、つぎのようにして製品窒素ガスを製造する。すなわち、圧縮機で圧縮した空気を吸着塔に送り、この吸着塔で空気中の不純物(H2 O,CO2 )を除去し、ついで熱交換器1で液化温度まで冷却したのち、精留塔2下部に供給する。精留塔2内では、供給された圧縮空気が上昇ガスになるとともに、圧縮空気の少量(約1〜2%)がパルスチューブ冷凍機3の寒冷により液化し、精留塔2底部の液体空気25と混合する。一方、精留塔2の底部に溜まる液体空気25を膨張弁29aで減圧し、コンデンサー26に供給する。このコンデンサー26では、凝縮器27により精留塔2上部のN2 ガスの一部を液化するとともに、液体空気をガス化して排N2 ガスとして放出パイプ32に放出し、熱交換器1で冷熱を回収したのち、装置外へ排出する。凝縮器27で液化したLN2 を精留塔2上部から供給し還流液として精留塔2内を降下させる。一方、精留塔2上部のN2 ガスの一部をN2 ガス取出パイプ30,第1還流液パイプ28aおよび導出パイプ5を通してLN2 貯蔵タンク4の上部へ供給し、パルスチューブ冷凍機6で液化してLN2 貯蔵タンク4内に溜め、残りのN2 ガスを熱交換器1で冷熱を回収したのち、メインパイプ31に供給する。
【0016】この実施の形態では、精留塔2内の寒冷源としてパルスチューブ冷凍機3を用いているため、従来例のように膨脹タービン33を用いる必要がなく、負荷変動に対する追従運転が困難であるという欠点や、故障が生じやすいという欠点がなくなる。しかも、精留塔2で製造したN2 ガスをLN2 貯蔵タンク4に溜めている(すなわち、LN2 の製造が行える)ため、LN2 貯蔵タンク4へのLN2 の補給が不必要となり、LN2 供給源の確保およびLN2 の輸送等に費用がかからない。また、LN2 貯蔵タンク4のLN2 を装置の定期検査等により加温状態となった機器のクールダウンや装置停止時のN2 ガスのバックアップ供給にも利用することができる。さらに、LN2 貯蔵タンク4に精留塔2から取り出したN2ガスを導入しているため、LN2 製造量と還流液量のバランスに変動が生じることがなく、製品N2 ガスの純度に悪影響を及ぼこともなく、装置の運転が容易になる。また、フラッシュロスが発生せず、LN2 の収率が低下しない。さらに、LN2 貯蔵タンク4内の圧力を高くすることができ、従来例のように、N2 ガスのバックアップ時にN2 供給圧力を保つため貯蔵タンク4の上部圧力を上昇させる必要がない。このため、精留塔2を低圧運転にすることができ、効率の良い運転を行うことができる。さらに、パルスチューブ冷凍機3を精留塔2の下部(精留塔2内の最も温度の高い部分)に取り付けているため、精留効率をアップさせることができる。また、パルスチューブ冷凍機3を精留塔2の上部に設けて、LN2 の還流量を増加させてもよい。また、通常運転時には、コンデンサー26の液体空気の液面が所定液面より高くなると、パルスチューブ冷凍機3の冷凍能力が低下し、逆に、上記液面が所定液面より低くなると、冷凍能力が上昇するように液面をコントロールしている。一方、貯蔵タンク4の上部圧力が所定圧力より高くなると、パルスチューブ冷凍機6の冷凍能力が上昇し、逆に、上記上部圧力が所定圧力より低くなると、冷凍能力が低下するようにしている。
【0017】上記両パルスチューブ冷凍機3,6は、図2に示すように、円筒状のパルスチューブ10と、高圧Heガス溜め(高圧バッファタンク)11と、低圧Heガス溜め(低圧バッファタンク)12とを備えており、上記パルスチューブ10内でHeガスを膨張させることにより、寒冷を発生させるようにしている。このようなパルスチューブ10は、その冷端(低温側・ガスの入口側)10aが精留塔2の下部に配設されているとともに、その熱端(高温側)10bが精留塔2の外部に配設され放熱するようになっている。13a,13bは上記パルスチューブ10の冷端10aおよび熱端10bに配設される円盤状の層流化部材である。14a,14bは上記パルスチューブ10の冷端10aおよび熱端10bに取り付けられる蓋体である。15は上記冷端側蓋体14aの中央貫通穴14cに内嵌状に取り付けられた冷端側本管であり、給気バルブ16aを設けた給気管16と排気バルブ17aを設けた排気管17に分岐している。そして、上記給気管16の先端が高圧Heガス源(図示せず)に連通し、上記排気管17の先端が低圧Heガス源(図示せず)に連通している。18は上記熱端側蓋体14bの中央貫通穴14dに内嵌状に取り付けられた熱端側本管であり、第1バルブ19aを設けた第1分岐管19と第2バルブ20aを設けた第2分岐管20に分岐している。そして、上記第1分岐管19の先端が高圧Heガス溜め11に連通し、上記第2分岐管20が低圧Heガス溜め12に連通している。
【0018】上記両パルスチューブ冷凍機3,6の作動は、つぎのサイクルを繰り返すことにより行う。まず、図3に示すように、給気バルブ16a,排気バルブ17aおよび第2バルブ20aを閉弁する。この状態で、パルスチューブ10内は低圧Heガス源の内圧と同一圧力となっている。ついで、第1バルブ19aを開弁すると、高圧Heガス溜め11内の高圧Heガスがパルスチューブ10の熱端10bに流れ込み、パルスチューブ10内のガス圧は高圧Heガス溜め11の圧力近くまで上昇する。この過程Pのパルスチューブ10内の気体分布が図3に示されている。図3において、Dは高圧Heガス溜め11から導入された高圧Heガスで、B,Cは低圧から高圧になったパルスチューブ10内のHeガスである。
【0019】つぎに、図4に示すように、第1バルブ19aを開弁した状態で給気バルブ16aのみを開弁する(その他のバルブ17a,20aは元のまま)と、高圧Heガス源から高圧Heガスが供給されてパルスチューブ10の冷端10aに流入する。このとき、高圧Heガス源の給気圧力が高圧Heガス溜め11の圧力よりやや高く設定されており、上記過程Pでパルスチューブ10の熱端10bに流れ込んだ高圧Heガス溜め11の高圧ガスD(図3参照)はただちに高圧Heガス溜め11内に戻される。この過程Qは基本的には等圧給気過程であり、パルスチューブ10内の気体分布が図4に示されている。図4において、Aは高圧Heガス源からパルスチューブ10内に導入された高圧Heガスである。
【0020】つぎに、図5に示すように、第1バルブ19aと給気バルブ16aを閉弁したのち(排気バルブ17aは閉弁したたまま)、第2バルブ20aを開弁すると、パルスチューブ10の熱端10bのガスC(図4参照)が低圧Heガス溜め12に流入する(戻る)ため、パルスチューブ10内の圧力が低圧ガス溜め12の圧力まで低下する。すなわち、上記過程Qにおいてパルスチューブ10の冷端10aに入った高圧HeガスAは、HeガスBとともに低圧Heガス溜め12の圧力まで膨脹し、温度降下してパルスチューブ10の冷端10a側を冷却する。この過程Rのパルスチューブ10内の気体分布が図5に示されている。
【0021】つぎに、図6に示すように、排気バルブ17aを開弁する(その他のバルブ16a,19a,20aは元のまま)と、上記過程Rにおいてパルスチューブ10内で膨脹したHeガスAが低圧Heガス源に排出され、低圧Heガス溜め12の低圧Heガスがパルスチューブ10内に流入する。
【0022】こうして1サイクルが終わり、ついで新たに上記過程Pが始まる。このように循環してワークするので、高圧Heガスは、不断に膨脹して低圧となる。気体のパルスチューブ10内における熱伝導、混合と、流動によるロスとを考慮しない場合、高圧Heガス溜め11内の圧力は高圧Heガス源の給気圧力に、また低圧Heガス溜め12内の圧力は低圧Heガス源の内圧にそれぞれ等しい。そして、上記の1サイクルが終わると、結局、HeガスAが高圧Heガス源からパルスチューブ10内に入り、このパルスチューブ10内で断熱膨脹し寒冷を発生したのち、低圧Heガス源内に排出されたことになる。また、HeガスBは常にパルスチューブ10内でガスピストンの役割を演じ、C,Dはそれぞれ各Heガス溜め11,12から出入りしているだけである。
【0023】図7は本発明の空気分離装置の他の実施の形態を示している。この実施の形態では、図1の空気分離装置において、LN2 貯蔵タンク4から延びるLN2 供給パイプ7を精留塔2の上部に接続し、これにより、LN2 貯蔵タンク4内のLN2 を精留塔2のLN2 溜めに導入するようにしている。それ以外の部分は図1に示す空気分離装置と同様であり、同様の部分には同じ符号を付している。この実施の形態でも、上記実施の形態の同様に作用し、同様の効果を奏する。
【0024】図8は本発明の空気分離装置のさらに他の実施の形態を示している。この実施の形態では、図1の空気分離装置において、LN2 貯蔵タンク4に供給弁9a付き外部LN2 供給パイプ9を取り付けている。それ以外の部分は図1に示す空気分離装置と同様であり、同様の部分には同じ符号を付している。この実施の形態でも、図1の実施の形態の同様に作用し、同様の効果を奏する。しかも、LN2貯蔵タンク4に外部LN2 供給パイプ9を介して外部からLN2 を供給することができるため、装置のスタートアップ前にLN2 貯蔵タンク4に外部からLN2を供給しておき、スタートアップ時にLN2 貯蔵タンク4からLN2 をコンデンサー26に供給することにより、スタートアップ時のクールダウンの時間短縮をすることができるようになる。
【0025】なお、上記各実施の形態では、冷凍機として、パルスチューブ冷凍機3,6を用いているが、これに限定するものではなく、GM(ギフォード・マクマホン)冷凍機,スターリング冷凍機等を用いることができる。これら冷凍機の冷媒としては、Heが好適に用いられる。また、上記各実施の形態では、N2 ガスを製造する空気分離装置が示されているが、これに限定するものではなく、N2 以外にO2 やArを製造するようにしてもよい。
【0026】また、各実施の形態において、パルスチューブ冷凍機3が故障した場合や、精留塔2のN2 発生量が増大した(原料空気が増大した)場合に、パルスチューブ冷凍機3の補助として、LN2 貯蔵タンク4のLN2 を精留塔2もしくはコンデンサー26に供給し、寒冷源として用いることができる。また、図8の実施の形態において、LN2 貯蔵タンク4から延びるLN2 供給パイプ7を精留塔2の上部に接続し、これにより、LN2 貯蔵タンク4内のLN2 を精留塔2のLN2 溜めに導入するようにしてもよい。また、上記パルスチューブ冷凍機3,6において、各バルブ16a,17a,19a,20aのタイプとして電動バルブ、電磁バルブ、気動バルブまたは回転バルブ等が用いられる。
【0027】
【発明の効果】以上のように、本発明の空気分離装置によれば、精留塔の空気液化用の寒冷源として塔内冷却用冷凍機を用いている。したがって、従来例のように、膨脹タービンを用いた場合の欠点(すなわち、膨脹タービンは1分間に数万回と高速回転するため、負荷変動に対する追従運転が困難であり、かつ故障が生じやすいという欠点)がなくなる。また、本発明において、上記精留塔から気体状態で取り出した成分(N2 ,O2 ,Ar等)の一部を導入する貯蔵手段と、上記貯蔵手段に導入した気体状態の成分を液化して上記貯蔵手段内に溜めるタンク内冷却用冷凍機とを設けた場合には、液化成分(LN2 ,LO2 ,LAr等)の製造を行うこともできる。しかも、本発明では、精留塔にて上記の成分を気体状態で製造し、この気体状態の成分の一部を貯蔵手段に導入したのちタンク内冷却用冷凍機により液化し貯蔵しているため、従来例では生じたフラッシュロスが生じなくなり、収率が向上するうえ、上記の成分の製造量と還流液量のバランスに変動が生じなくなり、上記の成分の純度が劣化しない。さらに、精留塔の圧力(N2 等の発生圧力)と貯蔵手段内の圧力は同圧でよく、バックアップ時に貯蔵手段内の圧力を上昇させる必要がなくなる。このため、精留塔を低圧運転することができ、効率の良い運転が行える。また、貯蔵手段に溜めた液体状態の成分を、装置の定期検査等で加温状態となった機器のクールダウンや装置停止等のガスバックアップ供給に利用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の空気分離装置の一実施の形態を示す構成図である。
【図2】パルスチューブ冷凍機の説明図である。
【図3】上記パルスチューブ冷凍機の作用を示す説明図である。
【図4】上記パルスチューブ冷凍機の作用を示す説明図である。
【図5】上記パルスチューブ冷凍機の作用を示す説明図である。
【図6】上記パルスチューブ冷凍機の作用を示す説明図である。
【図7】本発明の空気分離装置の他の実施の形態を示す構成図である。
【図8】本発明の空気分離装置のさらに他の実施の形態を示す構成図である。
【図9】従来例を示す構成図である。
【符号の説明】
1 熱交換器
2 精留塔
3,6 パルスチューブ冷凍機
4 LN2 貯蔵タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】 外部より取り入れた空気を圧縮する空気圧縮手段と、この空気圧縮手段によって圧縮された圧縮空気中の不純物を除去する除去手段と、この除去手段を経た圧縮空気を冷却する熱交換器と、この熱交換器を経由し低温に冷却された圧縮空気を各成分の沸点差を利用して分離し所望の成分を気体状態で取り出す精留塔とを備えた空気分離装置であって、当該装置内に、精留塔内の空気液化用の寒冷源として塔内冷却用冷凍機を設けたことを特徴とする空気分離装置。
【請求項2】 上記精留塔から気体状態で取り出した成分の一部を導入する貯蔵手段と、上記貯蔵手段に導入した気体状態の成分を液化して上記貯蔵手段内に溜めるタンク内冷却用冷凍機とを設けた請求項1記載の空気分離装置。
【請求項3】 冷凍機がHe(ヘリウム)を利用した冷凍機である請求項1または2記載の空気分離装置。
【請求項4】 冷凍機がGM冷凍機,スターリング冷凍機またはパルスチューブ冷凍機である請求項3記載の空気分離装置。
【請求項5】 精留塔で取り出される成分がN2 ,O2 およびArの少なくとも1つである請求項1記載の空気分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図7】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図6】
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【図9】
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