説明

空気浄化装置およびそれを用いた空気調和機または冷蔵庫

【課題】装置の運転時においても、停止時においても抗菌作用を有し、樹脂類を劣化させることなく、人体に対して安全で安価な空気浄化装置およびそれを用いた空気調和機または冷蔵庫を提供すること。
【解決手段】少なくとも銀を表面上に形成したフィルタ部材2と、フィルタ部材2の表面に波長が400nmより大きく520nm以下の光を照射可能な光源3を備えることによって、装置の運転停止時である光の非照射時は銀による抗菌性を有し、さらに装置の運転時である光の照射時には、光により銀の抗菌活性を高めることができるので、さらに高い抗菌性を発揮することが可能となり、しかも光の波長を制限することで、樹脂類を劣化させることなく、人体に対して安全で安価な空気浄化装置を提供することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気浄化装置およびそれを用いた空気調和機または冷蔵庫に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の空気浄化装置においては、特許文献1に開示されているように発光ダイオード(LED)と光触媒物質の配された基材で、空気中の不純物を分解、浄化するものがあった。
【0003】
また特許文献2に開示されている内容では、吸着剤に吸着した臭気を、光触媒と光源を用いて分解するというものがある。
【特許文献1】特開2002−306580号公報
【特許文献2】特開平1−189322号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の構成においては、光を照射することで、活性が高まる光触媒を用いており、光が無い場合には全く作用しないものであった。装置が運転停止すると電力供給がないので、当然、光源は点灯せず、臭気分解効果や抗菌効果を発揮させることはできなかった。
【0005】
また光を照射するに際しては、低波長の紫外線領域の光を照射した場合は、樹脂類は紫外線により分子結合が分解され劣化するので、このため対策を講じる必要がある。また紫外線の中でも低波長の殺菌線を発生させる光源では、同時に人体への影響があるオゾンの発生があり、オゾン除去の対策を講じる必要があった。さらに高波長の光ではエネルギーが小さいために十分な効果が得られないという課題を有していた。
【0006】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、装置の運転時においても、停止時においても抗菌作用を有し、樹脂類を劣化させることなく、人体に対して安全で安価な空気浄化装置およびそれを用いた空気調和機または冷蔵庫を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記従来の課題を解決するために、本発明の空気浄化装置は、少なくとも銀を表面上に形成したフィルタ部材と、前記フィルタ部材の表面に波長が400nmより大きく520nm以下である光を照射可能な光源を備える構成とするものである。
【0008】
これによって、装置の運転停止時である光の非照射時は銀による抗菌性を有し、さらに装置の運転時である光の照射時には、光により銀の抗菌活性を高めることができるので、さらに高い抗菌性を発揮することが可能となる。しかも光の波長を制限することで、樹脂類を劣化させることなく、人体に対して安全で安価な空気浄化装置を提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の空気浄化装置は、停止時においても抗菌作用を有し、装置の運転時においてはさらに高い抗菌作用を発揮して、樹脂類を劣化させることなく、人体に対して安全で、安価に空気浄化をすることができる。
【0010】
本発明の空気調和機は、より空気浄化装置の抗菌性能を高め、使用することができ衛生的である。
【0011】
本発明の冷蔵庫は、冷蔵運転時には空気浄化装置の抗菌性能を高め、使用することができ衛生的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
第1の発明は、少なくとも銀を表面上に形成したフィルタ部材と、前記フィルタ部材の表面に波長が400nmより大きく520nm以下である光を照射可能な光源を備えたことにより、銀の抗菌活性をより高めることができ、光を照射しないときも抗菌効果を発揮することができる。しかも光の波長を制限することで、樹脂類を劣化させることなく、人体に対して安価で安全な十分な抗菌能力を有する空気浄化装置を提供することが可能となる。
【0013】
第2の発明は、銀をリン酸ジルコニウム銀とするもので、リン酸ジルコニウム銀は銀が非溶出型なので、フィルタ部材を水洗いすることができ、衛生的である。
【0014】
第3の発明は、フィルタ部材表面の少なくとも一部の照度が100Lux以上であるように、光源を設置することにより、十分な抗菌効果を得ることができる。
【0015】
第4の発明は、光源を発光ダイオードとするもので、これにより安価な空気浄化装置を提供することができる。
【0016】
第5の発明は、第1の発明の空気浄化装置を空気調和機に設けるもので、より空気浄化装置の抗菌性能を高め、使用することができ衛生的である。
【0017】
第6の発明は、第1の発明の空気浄化装置を冷蔵庫に設けるもので、冷蔵運転時には空気浄化装置の抗菌性能を高め、使用することができ衛生的である。
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0019】
(実施の形態1)
図1は、本発明の第1の実施の形態における空気浄化装置の断面図を示すものである。
【0020】
図1において、1はケーシングであり、ケーシング1内にフィルタ部材2と光源3が複数個取り付けできるようになっている。4は装置の外部からの空気を吸入または排出する通気孔である。光源3は発光ダイオード(以下、略してLEDと称す)である。
【0021】
フィルタ部材2には銀配合量が3wt%のリン酸ジルコニウム銀をアクリル系バインダーも用いて2g/m塗布したポリエステル樹脂を使用した。銀の担体としてはゼオライト、シリカゲル、ガラス、リン酸カルシウム、ケイ酸塩、酸化チタン等の担体を用いることもできる。リン酸ジルコニウム銀を用いた場合、銀が水に溶出し難いという特徴があり、フィルタ部材を水洗する仕様にする場合には望ましい。
【0022】
本実施の形態ではフィルタ部材2としてリン酸ジルコニウム銀をバインダーを用いて塗布したが、ポリエステルにリン酸ジルコニウム銀を練り込み成型して、フィルタ部材とすることもできる。
【0023】
また、本実施の形態ではフィルタ部材2はシート形状としたが、この形状に限定される
ものではなく、ハニカム形状、プリーツ形状、不織布等にすることも可能である。
【0024】
(実験例1)
まず比較例1として銀を含まないシート形状のフィルタ部材を用意した。図1の空気浄化装置の銀を含まないフィルタ部材に黄色ブドウ状球菌の菌液をスプレー塗布後、遮光して3時間放置後、フィルタ部材を取り外し生理食塩水で洗い出しを行い、洗い出し液の菌数がほぼ1.0×106CFU/ccとなるようにした。菌数の計測は、標準寒天培地に
平板希釈し、35℃で48時間培養した後に寒天培地状のコロニーを数える方法で行った。
【0025】
次に銀配合量が3wt%の銀担持リン酸ジルコニウムを2wt%練り込みしたポリエステル樹脂のシート形状のフィルタに、比較例1と同量の黄色ブドウ状球菌の菌液をスプレー塗布後、遮光して3時間放置後、フィルタ部材を取り外し生理食塩水で洗い出しを行った。洗い出し液の菌数は1.0×103CFU/ccであり、比較例1と比較して抗菌性
能を有していることを確認した。
【0026】
さらに、光源3に種々の波長のLEDを用いて同様の試験を行った。照射時間は3時間とし、外部からの光が入らないように遮光した。フィルタ部材上の平均照射光度は150LUXとなるように調整した。(表1)は、試験に用いたLEDの中心ピーク波長と照射後のフィルタ部材から洗い出した菌の培養後の菌数を表したものである。
【0027】
【表1】

【0028】
(表1)の結果から明らかなように、試験1〜6の中心ピーク波長が520nm以下の光を照射した場合は、中心ピーク波長が520nmを超える試験7、8と比較して、大きく培養後の菌数が減少していることがわかる。ここで中心ピーク波長530nm以上の波長の光ではエネルギーが不足するため、十分な抗菌効果は得られず、中心ピーク波長520nm以下の光を照射することで十分な光のエネルギーが得られたことになり、銀の抗菌活性を高めることができ、さらに大きな抗菌効果が得られた。
【0029】
また試験1から試験4において、アクリル系バインダーと銀担持リン酸ジルコニウムを混合して、フィルタ部材表面に塗布したフィルタ部材2を用い、2000時間連続で運転させたところ、試験1と試験2では前記フィルタ部材2が紫外線により樹脂の分子構造が破壊されるので劣化し、前記フィルタ部材の表面に塗布した膜が剥離した。試験3、4では、光が紫外線領域の波長でないので樹脂の劣化もなく、膜の剥離はなかった。
【0030】
(実験例2)
次に実験例1の試験3と同様の空気浄化装置で、光源3とフィルタ部材2との距離を調整することにより、フィルタ部材2への照度を変化させた。実験例1と同様に、フィルタ
部材に塗布した菌の変化を調べた。(表2)は、フィルタ部材2への照度と照射後のフィルタ部材2から洗い出した菌の培養後の菌数である。試験条件は実験例1と同様とした。
【0031】
【表2】

【0032】
(表2)から明らかなように、試験13〜18の照度が100Lux以上の場合では、試験11、12の照度が90Lux以下の場合と比較して培養後の菌数がはるかに少なくなり、優れた抗菌効果を有していた。逆に照度90Lux以下では、十分な光エネルギーが無いために十分な抗菌効果が得られないと考えられる。照度が100Lux以上の光を照射することで十分な光のエネルギーが得られたことになり、銀の抗菌活性を高めることができ、さらに大きな抗菌効果が得られた。
【0033】
(実施の形態2)
図2は、本発明の第2の実施の形態における空気調和機の室内機の断面図を示すものである。15は冷暖房が可能な空気調和機である。10はケーシング、11は熱交換器、12はクロスフローファン、13は風向ルーバー、14は実施の形態1で用いた空気浄化装置であり、空気調和機15の内部に各々が配置されている。
【0034】
まず、比較例2として銀を含まないシート形状のフィルタ部材を用意した。空気浄化装置14において、銀を含まないフィルタ部材に黄色ブドウ状球菌の菌液をスプレー塗布後、遮光して3時間放置後、フィルタ部材を取り外し生理食塩水で洗い出しを行い、洗い出し液の菌数がほぼ1.0×106CFU/ccとなるようにした。菌数の計測は、標準寒
天培地に平板希釈し、35℃で48時間培養した後に寒天培地状のコロニーを数える方法で行った。なお、空気調和機15は運転しない状態で試験を実施している。
【0035】
(実験例3)
実験例3として、次に空気浄化装置14において、銀配合量が3wt%のリン酸ジルコニウム銀をアクリル系バインダーも用いて2g/m塗布したポリエステル樹脂のシート形状のフィルタ部材に、比較例2と同量の黄色ブドウ状球菌の菌液をスプレー塗布後、遮光して3時間放置後、フィルタ部材を取り外し生理食塩水で洗い出しを行った。洗い出し液の菌数は1.0×103CFU/ccであり、抗菌性能を有していることを確認した。
なお空気調和機15は運転しない状態で試験を実施している。
【0036】
(実験例4)
次に実験例4として、さらに光源3に中心ピーク波長450nmのLEDを用いて試験を行った。つまり空気浄化装置14において、銀配合量が3wt%のリン酸ジルコニウム銀をアクリル系バインダーも用いて2g/m塗布したポリエステル樹脂のシート形状のフィルタ部材に、比較例2と同量の黄色ブドウ状球菌の菌液をスプレー塗布後、照射を3時間行い、フィルタ部材を取り外し生理食塩水で洗い出しを行った。なお試験時は外部か
らの光が入らないように遮光した。またフィルタ部材上の平均照度は150LUXとなるように調整した。照射後のフィルタ部材から洗い出した菌の培養後の菌数は4.0×10となり抗菌効果のあることを確認した。
【0037】
次に実験例4の空気調和機15で冷房運転を1時間行い停止後、光源3に中心ピーク波長450nmのLEDを用いて試験を行った。照射時間は3時間とし、外部からの光が入らないように遮光した。フィルタ部材上の平均照射光度は150LUXとなるように調整した。3時間照射後のフィルタ部材から洗い出した菌の培養後の菌数は1.0×10となった。
【0038】
ここで、冷房運転後は空気調和機15内が多湿になり、照射時の銀の光触媒反応に必要な水分が豊富に存在するため、活性が向上するものと考えられる。
【0039】
また、実験例4の空気調和機15で暖房運転を1時間行い停止後しながら、光源3に中心ピーク波長450nmのLEDを用いて試験を行った。照射時間は3時間とし、外部からの光が入らないように遮光した。フィルタ部材上の平均照射光度は150LUXとなるように調整した。3時間照射後のフィルタ部材から洗い出した菌の培養後の菌数は1.2×10となった。
【0040】
ここで、暖房運転後は空気調和機15内が高温になり、光照射時の銀の光触媒反応活性が向上するものと考えられる。
【0041】
(実施の形態3)
図3は、本発明の第3の実施の形態における空気浄化装置の断面図を示すものである。
【0042】
図3において、1はケーシング、ケーシング1内にフィルタ部材2と光源3が複数個取り付けできるようになっている。4は装置の外部からの空気を吸入または排出する通気孔である。20は水分を供給する供給部で、フィルタ部材2には銀配合量が3wt%のリン酸ジルコニウム銀をアクリル系バインダーも用いて2g/m塗布したポリエステル樹脂を使用した。図3の空気浄化装置を冷蔵庫の冷蔵室に設置した。
【0043】
まず比較例3として銀を含まないシート形状のフィルタ部材を用意した。図3の空気浄化装置において、銀を含まないフィルタ部材に黄色ブドウ状球菌の菌液をスプレー塗布後、遮光して3時間放置後、フィルタ部材を取り外し生理食塩水で洗い出しを行い、洗い出し液の菌数がほぼ1.0×106CFU/ccとなるようにした。菌数の計測は、標準寒
天培地に平板希釈し、35℃で48時間培養した後に寒天培地状のコロニーを数える方法で行った。なお冷蔵庫は運転しない状態で試験を実施している。
【0044】
(実験例5)
実験例5として、空気浄化装置において、銀配合量が3wt%のリン酸ジルコニウム銀をアクリル系バインダーも用いて2g/m塗布したポリエステル樹脂のシート形状のフィルタに、比較例3と同量の黄色ブドウ状球菌の菌液をスプレー塗布後、遮光して3時間放置後、フィルタ部材を取り外し生理食塩水で洗い出しを行った。洗い出し液の菌数は1.0×103CFU/ccであり、抗菌性能を有していることを確認した。なお冷蔵庫は
運転しない状態で試験を実施している。
【0045】
(実験例6)
次に実験例6として、さらに光源3に中心ピーク波長470nmのLEDを用いて試験を行った。つまり空気浄化装置14において、銀配合量が3wt%のリン酸ジルコニウム銀をアクリル系バインダーも用いて2g/m塗布したポリエステル樹脂のシート形状の
フィルタ部材に、比較例3と同量の黄色ブドウ状球菌の菌液をスプレー塗布後、照射を3時間行い、フィルタ部材を取り外し生理食塩水で洗い出しを行った。なお試験時は外部からの光が入らないように遮光した。またフィルタ部材上の平均照射光度は150LUXとなるように調整した。照射後のフィルタ部材から洗い出した菌の培養後の菌数は3.9×10となった。実験例5と比較と比較すると、光を照射することで抗菌性能が向上していることが確認された。
【0046】
(実験例7)
次に実験例7として、冷蔵庫の冷蔵運転を1間行い停止後、光源3に中心ピーク波長470nmのLEDを用いて試験を行った。なお、供給部20から製氷用水を霧化したものを供給しておいた。照射時間は3時間とし、外部からの光が入らないように遮光した。フィルタ部材上の平均照度は150LUXとなるように調整した。3時間照射後のフィルタから洗い出した菌の培養後の菌数は0.9×10となり、実験例6と比較してさらに抗菌性能が向上していることが確認できた。
【0047】
実験例7では、空気浄化装置の内部が多湿になり、照射時の銀の光触媒反応に必要な水分が豊富に存在するため、活性が向上するものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上のように、本発明にかかる空気浄化装置は、光を照射することでフィルタ部材に含まれる銀の抗菌活性を向上させるもので、用途は空気浄化装置に限定されるものではなく、空気調和機、空気清浄機、冷蔵庫等にも応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施の形態1における空気浄化装置を示す断面図
【図2】本発明の実施の形態2における空気調和機を示す断面図
【図3】本発明の実施の形態3における空気浄化装置を示す断面図
【符号の説明】
【0050】
1 ケーシング
2 フィルタ部材
3 光源
4 通気孔
10 ケーシング
11 熱交換器
12 クロスフローファン
13 風向ルーバー
14 空気浄化装置
15 空気調和機
20 供給部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも銀を表面上に形成したフィルタ部材と、前記フィルタ部材の表面に波長が400nmより大きく520nm以下の光を照射可能な光源を備えたことを特徴とする空気浄化装置。
【請求項2】
銀がリン酸ジルコニウム銀であることを特徴とする請求項1に記載の空気浄化装置。
【請求項3】
フィルタ部材表面の少なくとも一部の照度が100Lux以上であるように、光源を設置したことを特徴とする請求項1または2に記載の空気浄化装置。
【請求項4】
光源が発光ダイオードであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の空気浄化装置。
【請求項5】
請求項1記載の空気浄化装置を設けたことを特徴とする空気調和機。
【請求項6】
請求項1記載の空気浄化装置を設けたことを特徴とする冷蔵庫。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−284344(P2008−284344A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−96859(P2008−96859)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】