説明

空調システム

【課題】ラムエアを大量に1次熱交換器及び2次熱交換器に供給することに伴い航空機の機体に大きなドラッグが発生する不具合の発生を防ぐ航空機用空調システムを提供する。
【解決手段】ラムエア通路8に設けられラムエアの供給量を変更するラムエア供給量変更手段たるラムエアドア81と、コンプレッサ4の出口の排気の温度を測定可能なコンプレッサ出口温度センサ91と、全温度を測定可能な温度センサたる全温度センサ92と、高度を測定可能な高度計93とをさらに具備させ、全温度センサ92が示す全温度及び高度計93が示す高度の関数としてコンプレッサ出口温度の目標値を設定し、コンプレッサ出口温度センサが示す排気の温度を前記目標値に近づけるべくラムエアドア81の制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機内に予圧用空気を供給し、同時に機内の冷暖房を伴う換気を行い得るようにした航空機用の空調システム(以下、「空調システム」と略称する)に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、航空機は、居住室や電子機器室等の予圧室に適温、適圧の調和空気を供給すべく、一般に空調装置を備えている。この空調装置は、調温、調圧を始めとして、除湿の役割、予圧室に酸素を送り込む役割、筐体から漏れる空気を補う役割など、様々な役割を兼ねている。そして、これらの役割を果たすために、外気の取り込みが不可欠なものである。
【0003】
このような外気の取り込みに際して、高高度飛行中は外気をそのまま取り込んでも予圧に必要な圧力や酸素量を得ることは期待できない。このため、常に十分な量の外気が存在するエンジンから抽気を得、そのエンジン抽気を調温、調圧して、調和空気として予圧室に供給する空調システムが確立されている。
【0004】
このような空調システムとして、概略を図5に示すように、タービンX3及びコンプレッサX4を単軸結合したエアサイクルマシンXACMを主体とし、このエアサイクルマシンXACMに、エンジンX1からコンプレッサX4にエンジン抽気を供給す抽気ラインX5と、前記エアサイクルマシンXACMのコンプレッサX4の出口とタービンX3の入口とを連通するブートストラップ回路X6と、前記エアサイクルマシンXACMのタービンX3の出口から出た空気を予圧室X2に移送するための給気ラインX7と、前記抽気ラインX5に設けられラムエアとの熱交換によりエンジン抽気を冷却する1次熱交換器X51と、前記ブートストラップ回路X6に設けられコンプレッサX4で圧縮し昇温させた空気をラムエアとの熱交換により冷却する2次熱交換器X61と、ラムエアを前記1次熱交換器X51及び2次熱交換器X61に供給するラムエア通路X8とを具備するものが広く用いられている。
【0005】
このような空調システムでは、エンジンX1から抽出した抽気を前記抽気ラインX5によりコンプレッサX4に導入し、コンプレッサX4により圧縮された空気をブーストラップ回路X6を経てタービンX3に導入し、タービンX3の内部でエンジン抽気を断熱膨張させ、断熱膨張により低温になったエンジン抽気を給気ラインX7により与圧室X2に供給するようにしている。その際、タービンX3内部で抽気を断熱膨張させることにより該タービンX3を駆動するとともに、このタービンX3の回転力を該タービンX3と単軸結合したコンプレッサX4に入力している。そして、コンプレッサX4に供給するエンジン抽気を予冷すべく前記抽気ラインX5に設けた1次熱交換器X51でエンジン抽気とラムエアとの熱交換を行い、さらにコンプレッサX4で圧縮昇温された抽気を冷却すべく2次熱交換器X61で抽気とラムエアとの熱交換を行うようにしている。(例えば、特許文献1を参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−2596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかして、温度の高低により、このような空調システムに対して要求される冷房能力、より具体的にはエンジン抽気、及びコンプレッサで圧縮した空気を冷却する能力は異なるが、特許文献1には、エンジン抽気、及びコンプレッサで圧縮した空気に対する冷房能力要求の高低に対応してラムエアの流量を変化させる記載及び示唆はなされていない。ところが、冷房能力要求が低いにも関わらずラムエアを大量に導入すると、航空機の機体に大きなドラッグが発生する。
【0008】
本発明は、以上に述べた課題を解決すべく構成するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明に係る空調システムは、内部でエンジン抽気を断熱膨張させることにより駆動されるタービン及びこのタービンとともに回転しエンジンから抽出した抽気を圧縮し前記タービンに吐出するコンプレッサを単軸結合したエアサイクルマシンと、前記エアサイクルマシンのコンプレッサに供給するエンジン抽気をラムエアとの熱交換により冷却する1次熱交換器と、前記エアサイクルマシンのコンプレッサとタービンとの間に配され前記コンプレッサで圧縮し昇温させた空気をラムエアとの熱交換により冷却する2次熱交換器と、ラムエアを前記1次熱交換器及び2次熱交換器に供給するためのラムエア通路と、ラムエア通路に設けられラムエアの供給量を変更するラムエア供給量変更手段と、コンプレッサの出口の排気の温度を測定可能なコンプレッサ出口温度センサと、温度を測定可能な全温度センサと、高度を測定可能な高度計とを具備するものであって、温度センサが示す全温度及び高度計が示す高度の関数としてコンプレッサ出口温度の目標値を設定し、コンプレッサ出口温度センサが示す排気の温度を前記目標値に近づけるべくラムエア供給量変更手段の制御を行うようにしていることを特徴とする。
【0010】
このように構成すれば、温度センサが示す全温度及び高度計が示す高度の関数として所望の冷房能力を得るべくコンプレッサ出口温度の目標値を設定し、コンプレッサ出口温度センサが示す温度を前記目標値に近づけるべくラムエア供給量制御手段の制御を行うことにより、冷房能力要求が低い場合にはラムエア供給量制御手段によりラムエアの供給量を減少させる、すなわちラムエアの流量を少なくすることができる。従って、所望の冷房能力を確保しつつ航空機の機体に大きなドラッグが発生する不具合の発生を防げる。
【0011】
なお、本発明において、「全温度」とは、一般的によどみ温度t(K)として以下の式(1)で求められる温度を示す概念である。
【0012】
t={1+(κ−1)M2/2}Ts (1)
なお、上の式(1)で、κは流体の比熱比(空気であれば約1.4)、Mはマッハ数、Tsは大気温度(K)である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る空調システムによれば、冷房能力要求が低い場合には、全温度センサが示す全温度及び高度計が示す高度の関数として所望の冷房能力を得るべく設定されるコンプレッサ出口温度の目標値を高くし、これに対応させてラムエアの供給量を少なくするようにラムエア供給量制御手段を制御できる。すなわち、所望の冷房能力を確保しつつラムエアの供給量を少なくし、ラムエアを大量に供給することにより航空機の機体に大きなドラッグが発生する不具合の発生を防げる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る空調システムを示す概略図。
【図2】同実施形態に係る空調システムの制御装置を示す概略図。
【図3】同実施形態に係る空調システムのコンプレッサ出口温度目標値マップの一例を示す概略図。
【図4】同実施形態に係る空調システムの制御装置が行う制御の流れを示すフローチャート。
【図5】従来の空調システムを示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0016】
本実施形態に係る空調システムは、図1に概略図を示すように、エンジン1と与圧室2との間を空調部ACを介して接続したものである。この空調部ACは、内部でエンジン抽気を断熱膨張させることにより駆動されるタービン3及びこのタービン3とともに回転しエンジン1から抽出した抽気を圧縮し前記タービン3に吐出するコンプレッサ4を単軸結合したエアサイクルマシンACMと、このエアサイクルマシンACMにエンジン抽気を供給す抽気ライン5と、前記エアサイクルマシンACMのコンプレッサ4の出口とタービンの3入口とを連通するブートストラップ回路6と、前記エアサイクルマシンACMのタービン3の出口と予圧室2とを接続する給気ライン7と、前記抽気ライン5に設けられラムエアとの熱交換によりエンジン抽気を冷却する1次熱交換器51と、前記ブートストラップ回路6に設けられコンプレッサ4で圧縮し昇温させた空気をラムエアとの熱交換により冷却する2次熱交換器61と、ラムエアを前記1次熱交換器及び2次熱交換器に供給するラムエア通路8とを具備する。
【0017】
これらエアサイクルマシンACM、抽気ライン5、ブートストラップ回路6、給気ライン7、1次熱交換器51、2次熱交換器61、及びラムエア通路8は、上述したような従来のものと略同様の構成を有する。また、本実施形態では、ファンFをこれらコンプレッサ3及びタービン4にさらに単軸結合させているとともにこのファンFをラムエア通路8内に配していて、タービン3の回転力をこのファンFに入力することによりラムエア通路内8にラムエアが流れるようにしている。
【0018】
ここで、前記ラムエア通路8は、機体外に向けて開口するラムエア入口8aと前記1次熱交換器51及び2次熱交換器61との間を接続している。
【0019】
前記給気ラインは、タービンの内部で断熱膨張して低温になった空気を与圧室に供給すべく、タービンの出口と与圧室とを接続する。タービン内部で抽気ガスを断熱膨張させることにより該タービンを駆動するとともに、このタービンの回転力を該タービンと単軸結合したコンプレッサの動力として利用している。そして、コンプレッサにエンジン抽気を送る以前にエンジン抽気を予冷すべく前記抽気ラインに設けた1次熱交換器でエンジン抽気とラムエアとの熱交換を行い、さらにコンプレッサで圧縮昇温された抽気を冷却すべく2次熱交換器で抽気とラムエアとの熱交換を行うようにしている。
【0020】
しかして本実施形態に係る空調システムは、前記図1に示すように、開度を変更することによりラムエア通路8からのラムエア供給量を変更するラムエア供給量変更手段たるラムエアドア81と、前記ブーストラップ回路6のコンプレッサ4の出口近傍の部位に設けられコンプレッサ4の出口の温度を測定可能なコンプレッサ出口温度センサ91と、機体の所定位置に配され高度を測定可能な高度計93と、機体の所定位置に配され全温度を測定可能な温度センサ(以下全温度センサ92と称する)と、これらを制御する制御装置94とをさらに具備する。
【0021】
前記ラムエアドア81は、前記ラムエア通路内8であって前記ラムエア入口8aと前記1次熱交換器51及び2次熱交換器61との間に位置するとともに、一端81aをラムエア通路8の側壁に蝶着していて、開度を変更することにより前記1次熱交換器51及び2次熱交換器61に対するラムエアの供給量を変更可能に構成している。
【0022】
前記制御装置94は、前記図1に示すように、また、図2にこの制御装置94の概略を示すように、中央演算処理装置941と、記憶装置942と、入力インタフェース943と、出力インタフェース944とを具備してなるマイクロコンピュータシステムを主体に構成されている。入力インタフェース943には、前記コンプレッサ出口温度センサ91から出力されるコンプレッサ出口温度信号a、前記全温度センサ92から出力される全温度信号b、及び高度計93から出力される高度信号cが少なくとも入力される。一方、出力インタフェース944からは、ラムエアドア81に対して開度制御信号eが少なくとも出力される。
【0023】
また、前記制御装置94には、全温度信号bが示す全温度t及び高度信号cが示す高度hの関数としてコンプレッサ出口温度Tの目標値T0を設定し、コンプレッサ出口温度センサ91が示すコンプレッサ出口温度Tを前記目標値T0に近づけるべくラムエアドア81の開度制御を行うラムエア供給量制御プログラムを内蔵している。このラムエア供給量制御プログラムは、所定時間、例えば0.1秒ごとに実行するようにしている。
【0024】
具体的には、前記制御装置94に、代表的な全温度t及び高度hに対応するコンプレッサ出口温度Tの目標値T0を記憶した図3に示すようなコンプレッサ出口温度目標値マップを記憶しているとともに、前記全温度信号bが示す全温度t及び前記高度信号cが示す高度hに基づき、コンプレッサ出口温度Tの目標値T0を補間計算している。そして、コンプレッサ出口温度信号aが示すコンプレッサ出口温度Tと前記目標値T0を比較し、この比較の結果に基づきラムエアドア81の制御を行うようにしている。なお、このコンプレッサ出口温度Tの目標値T0は、代表的な全温度t及び高度hにおいて、予めラムエアドア開度を順次変更して与圧室2に供給される空気を所定の温度まで冷却可能であるか否かを判定するとともにコンプレッサ出口温度Tを測定する実験を行い、該実験で得られた前記空気を所定の温度まで冷却可能な場合のうちラムエア開度が最小である場合のコンプレッサ出口温度Tの測定結果として求めたものである。
【0025】
ここで、ラムエア供給量制御プログラムによる制御の手順をフローチャートである図4を参照しつつ説明する。
【0026】
まず、前記全温度信号bを全温度センサ92から受け取る(ステップS1)。
【0027】
次いで、前記高度信号cを高度計93から受け取る(ステップS2)。
【0028】
それから、全温度信号bが示す全温度t及び前記高度信号cが示す高度hに対応するコンプレッサ出口温度の目標値T0をコンプレッサ出口温度目標値マップを参照して算出する(ステップS3)。
【0029】
さらに、コンプレッサ出口温度信号aをコンプレッサ出口温度センサ91から受け取り(ステップS4)、このコンプレッサ出口温度信号aが示すコンプレッサ出口温度Tと前記目標値T0とを比較する(ステップS5)。
【0030】
前記コンプレッサ出口温度Tが前記目標値T0より高い場合は、ラムエア供給量を増加させる、すなわち開度を大きくするようにラムエアドア81に開度制御信号eを出力する(ステップS6)。一方、前記コンプレッサ出口温度Tが前記目標値T0より低い場合は、ラムエア供給量を減少させる、すなわち開度を小さくするようにラムエアドア81に開度制御信号eを出力する(ステップS7)。
【0031】
このように制御を行うと、全温度tが低く、要求される冷房能力が低い場合、また、高度hが低い場合すなわち外気圧が高い場合には、全温度tがより高い場合あるいは高度hがより低い場合と比較して、コンプレッサ出口温度Tの目標値T0を温度下降幅が低くなるように設定してラムエアドア81の開度を小さくする制御を行い、所望の冷房能力だけは確保しつつラムエア供給量を減少させることができる。例えば、ある全温度・高度条件下において、従来の空調システムではラムエア流量が152(lb/min)であるのに対して、本実施形態に係る空調システムのラムエア流量は107(lb/min)であり、従って前記所定の全温度・高度条件下においてはラムエア流量を従来の空調システムと比較して約30%削減できる。
【0032】
以上に述べたように、本実施形態に係る空調システムでは、全温度センサ92が示す全温度t及び高度計93が示す高度hの関数として所望の冷房能力を得るべくコンプレッサ出口温度Tの目標値T0を設定しているので、冷房能力要求が低い場合にはこの目標値T0を高温側に設定し、コンプレッサ出口温度センサ91が示すコンプレッサ出口温度Tを前記目標値T0に近づけるべくラムエアドア81の制御を行う、すなわちコンプレッサ出口温度Tの目標値T0が高温側であればラムエアドアの開度を小さくしてラムエアの供給量を減少させることができる。従って、所望の冷房能力を確保しつつ、ラムエアを必要以上に空調システムに供給することにより航空機の機体に大きなドラッグが発生する不具合の発生を防げる。
【0033】
なお、本発明は以上に述べた実施形態に限られない。
【0034】
例えば、上述した実施形態では、温度センサが示す全温度及び高度計が示す高度の関数としてコンプレッサ出口温度の目標値を設定する際にコンプレッサ出口温度マップを参照するようにしているが、全温度及び高度を変数とする所定の近似式により算出した値にコンプレッサ出口温度の目標値を設定するようにしてもよい。
【0035】
また、ラムエア流量制御手段は、上述したようなバルブでなく、ラムエア通路の開度を変更可能であれば、例えばスライド移動可能なシャッター等を利用して構成たものであってもよい。
【0036】
さらに、エンジンと1次熱交換器との間に、1次熱交換器に供給するエンジン抽気を予冷するためのプリクーラを設けるようにする、あるいはブーストラップ回路や給気ラインにエンジン抽気の除湿を行うための除湿機構を設ける等してももちろんよい。
【0037】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0038】
ACM…エアサイクルエンジン
3…タービン
4…コンプレッサ
51…1次熱交換器
61…2次熱交換器
8…ラムエア通路
81…ラムエアドア
91…コンプレッサ出口温度センサ
92…温度センサ
93…高度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部でエンジン抽気を断熱膨張させることにより駆動されるタービン及びこのタービンとともに回転しエンジンから抽出した抽気を圧縮し前記タービンに吐出するコンプレッサを単軸結合したエアサイクルマシンと、前記エアサイクルマシンのコンプレッサに供給するエンジン抽気をラムエアとの熱交換により冷却する1次熱交換器と、前記エアサイクルマシンのコンプレッサとタービンとの間に配され前記コンプレッサで圧縮し昇温させた空気をラムエアとの熱交換により冷却する2次熱交換器と、ラムエアを前記1次熱交換器及び2次熱交換器に供給するためのラムエア通路と、ラムエア通路に設けられラムエアの供給量を変更するラムエア供給量変更手段と、コンプレッサの出口の排気の温度を測定可能なコンプレッサ出口温度センサと、全温度を測定可能な温度センサと、高度を測定可能な高度計とを具備するものであって、温度センサが示す全温度及び高度計が示す高度の関数としてコンプレッサ出口温度の目標値を設定し、コンプレッサ出口温度センサが示す排気の温度を前記目標値に近づけるべくラムエア供給量変更手段の制御を行うようにしていることを特徴とする空調システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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