説明

空調システム

【課題】手術対象部位(術野)における十分な清浄度の確保が可能な空調システムを提供する。
【解決手段】本発明は、手術台205が設置された手術室の空調を行うための空調システムであって、前記手術台205の天井部に設置され、第1の風速でHEPAフィルタによって浄化された空気を吹き出す第1吹き出し口210と、前記天井部に取り付けられ、HEPAフィルタによって浄化された空気を吹き出す第1の無影灯300aと、前記天井部に取り付けられ、空気を吸い込む第2の無影灯300bと、からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い清浄度が要求される手術室(バイオクリーンルーム)に好適な空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
整形外科手術などの一部の特殊な手術において利用される手術室の中には、クリーンルームの清浄度クラス100を達成することが求められるものがある。従来はこのような清浄度を保つために採用されていた空調システムでは、手術室の天井面ほぼ全面にHEPAフィルタを取り付けた吹き出し口を設けて、HEPAフィルタで浄化された空気をこの吹き出し口全面から吹き出させるようにしていた。特許文献1(特開平11−218353号公報)には、天井面ほぼ全面にHEPAフィルタを取り付けた吹き出し口を有するクリーンルームが開示されている。
【特許文献1】特開平11−218353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のようなクリーンルームの場合、手術対象部位(術野)の清浄度確保が目的だが、無影灯や患者周囲で作業する医師や看護師が清浄空気の気流の障害となり、十分な清浄度を確保することが困難である、という問題があった。
【0004】
特に天井吹き出し方式クリーンルームの場合、天井と患者の間に設置された無影灯周囲では、熱による上昇流、天井からのダウンフロー、無影灯下面への巻き込み流などが複雑に絡み合い、それによって生じる気流の乱れと作業者からの発塵が、術野の清浄度確保を妨げる要因となっている。
【0005】
また、従来の手術室に採用されていた空調システムにおいては、上記のように天井面ほぼ全面にHEPAフィルタを取り付けた吹き出し口を設け、この吹き出し口全面を利用して空気を送り出す必要があったために、空気の搬送動力が非常に大きくなり、エネルギー効率が悪い、という問題があった。また、天井面ほぼ全面に相当する面積のHEPAフィルタを用いる必要があるため、これを維持するためのメンテナンスコストが非常に高価である、という問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上記課題を解決するものであって、請求項1に係る発明は、手術台が設置された手術室の空調を行うための空調システムであって、前記手術台の天井部に設置され、第1の風速でHEPAフィルタによって浄化された空気を吹き出す第1吹き出し口と、前記天井部に取り付けられ、HEPAフィルタによって浄化された空気を吹き出す第1の無影灯と、前記天井部に取り付けられ、空気を吸い込む第2の無影灯と、からなることを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に係る発明は、手術台が設置された手術室の空調を行うための空調システムであって、前記手術台の天井部に設置され、第1の風速でHEPAフィルタによって浄化された空気を吹き出す第1吹き出し口と、前記天井部に取り付けられ、HEPAフィルタによって浄化された空気を吹き出す第1の無影灯と、前記天井部に取り付けられ、HEPAフィルタによって浄化された空気を吹き出す第2の無影灯と、からなることを特徴とする。
【0008】
また、請求項3に係る発明は、手術台が設置された手術室の空調を行うための空調システムであって、前記手術台の天井部に設置され、第1の風速でHEPAフィルタによって浄化された空気を吹き出す第1吹き出し口と、前記天井部に取り付けられ、空気を吸い込む第1の無影灯と、前記天井部に取り付けられ、空気を吸い込む第2の無影灯と、からなることを特徴とする。
【0009】
また、請求項4に係る発明は、手術台が設置された手術室の空調を行うための空調システムであって、前記手術台の天井部に設置され、第1の風速でHEPAフィルタによって浄化された空気を吹き出す第1吹き出し口と、前記天井部に取り付けられ、空気を吸い込むか、又は空気を吹き出す第1の無影灯と、前記天井部に取り付けられた第2の無影灯と、からなることを特徴とする空調システム。
【0010】
また、請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の空調システムにおいて、前記第1吹き出し口の周囲に設置され、前記第1の風速より遅い第2の風速で空気を吹き出す第2吹き出し口と、を有し、鉛直方向の投影を行ったとき、前記第1吹き出し口が形成する第1吹き出し口投影面が、前記手術台が形成する手術台投影面を含むことを特徴とする。
【0011】
また、請求項6に係る発明は、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の空調システムにおいて、前記第1吹き出し口から吹き出される空気は、鉛直下方に向けられた一方向流であることを特徴とする。
【0012】
また、請求項7に係る発明は、請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の空調システムにおいて、前記第2吹き出し口から吹き出される空気は、前記手術台がない方向に向けられた一方向流であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の空調システムは、手術台の面積を含む程度の広さであり、第1の風速でHEPAフィルタによって浄化された空気を吹き出す第1吹き出し口と、記天井部に取り付けられ、HEPAフィルタによって浄化された空気を吹き出す第1の無影灯と、前記天井部に取り付けられ、空気を吸い込む第2の無影灯と、を有しており、このような本発明の空調システムによれば、無影灯や患者周囲で作業する医師や看護師に基づく気流の乱れを極力抑制し、手術対象部位(術野)における十分な清浄度の確保が可能となる。そして、これに伴い、術野における電気メスの使用による臭気の除去ができるなど、術野の環境性能を上げることができるようになる。
【0014】
また、本発明の空調システムによれば、天井面ほぼ全面にHEPAフィルタを取り付けた吹き出し口を設ける必要がなく、エネルギー効率が向上する。また、天井面ほぼ全面に相当する面積のHEPAフィルタが必要でなく、HEPAフィルタ面積を縮小できるため、メンテナンスコストが安価となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る空調システムを適用した手術室の概要を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る空調システムにおける手術台・HEPAフィルタ内蔵吹き出し口・HEPAフィルタ内蔵エアーカーテン吹き出し口の配置関係を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る空調システムよって吹き出される空気を模式的に示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る空調システムにおけるHEPAフィルタ内蔵吹き出し口・HEPAフィルタ内蔵エアーカーテン吹き出し口のフィン配置を説明する図である。
【図5】本発明の実施形態に係る空調システムが適用された手術室の概略を示す図である。
【図6】本発明の実施形態に係る空調システムで用いられる無影灯300の斜視図である。
【図7】本発明の実施形態に係る空調システムで用いられる無影灯300の給排気構造を模式的に示す図である。
【図8】本発明の実施形態に係る空調システムに基づくシミュレーション結果を示す図である。
【図9】本発明の実施形態に係る空調システムに基づくシミュレーション結果を示す図である。
【図10】本発明の他の実施形態に係る空調システムで用いられる無影灯300の給排気構造を模式的に示す図である。
【図11】本発明の他の実施形態に係る空調システムで用いられる無影灯300の給排気構造を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。本発明の実施形態に係る空調システム100を適用した手術室の概要を示す図である。図1において、100は空調システム、110は空調機、120はフィルタ、131は第1送風ファン、132は第2送風ファン、133は第3送風ファン、134は第4送風ファン、141は第1ダンパー、142は第2ダンパー、143は第3ダンパー、150は吸気口、151はフィルタ、160は排気口、205は手術台、210はHEPAフィルタ内蔵吹き出し口、211はHEPAフィルタ、220はHEPAフィルタ内蔵エアーカーテン吹き出し口、221はHEPAフィルタ、230は換気口、300aは(第1)の無影灯、300bは(第2)の無影灯をそれぞれ示している。
【0017】
本実施形態に係る空調システム100は、比較的高い清浄度が要求される手術室(バイオクリーンルーム)に適用されるものであり、かつ、エネルギー効率を向上させ、メンテナンスコストを安価とするために、清浄度クラス100を達成する空間を手術台上の術野に限定する、という発想に基づいて構成されてなるものである。本発明に係る空調システム100においては、HEPAフィルタ内蔵吹き出し口210を従来の1/3程度として、小風量でも効率よく術野の清浄度を保つことにより、手術室全体のエネルギー消費量を削減するようにしている。
【0018】
本発明に係る空調システム100では、風量を削減しても術野における清浄度クラス100を達成するために(1)周囲からの汚染質が術野に侵入することを防ぐ、弱いエアーカーテンを形成可能なHEPAフィルタ内蔵エアーカーテン吹き出し口220を、HEPAフィルタ内蔵吹き出し口210の周囲に設けること、及び、(2)術野近傍で発生した汚染質を周囲へ押しやるために、HEPAフィルタ内蔵吹き出し口210から吹き出す空気の風速を、HEPAフィルタ内蔵エアーカーテン吹き出し口220から吹き出す空気の風速より速くするように調整すること、の2点が重要であることを、CFD(Computational Fluid Dynamics)による流体解析を行うことにより実証した。
【0019】
さらに、本実施形態に係る空調システム100では、上記のようなHEPAフィルタ内蔵エアーカーテン吹き出し口に加え、HEPAフィルタによって浄化された空気を吹き出す無影灯(給気を行う無影灯)、或いは、空気を吸い込む無影灯(排気を行う無影灯)を任意に組み合わせて用いることで、無影灯や患者周囲で作業する医師や看護師に基づく気
流の乱れを極力抑制し、手術対象部位(術野)における十分な清浄度を確保するようにしている。なお、無影灯を利用して、手術対象部位(術野)に対して空気を吹き出すことを、給気と定義し、無影灯を利用して、手術対象部位(術野)からの空気を吸い込むことを、排気と定義して定義する。
【0020】
上記のような無影灯を利用した給排気システムについては後述するとして、まず、天井部に設けるHEPAフィルタ内蔵エアーカーテン吹き出し口に基づく、手術室内の清浄度確保に係る技術について説明する。
【0021】
図1を参照して天井部に設けられる空調システム100の構成例を説明する。図1において、各構成間を結ぶ、矢印が付された黒線はダクトを示しており、矢印の方向はダクト中を流通する空気の方向を示している。空調システム100における空調機110は、取り入れられた空気を、内蔵している冷却器、加熱器、加湿器、フィルタ(いずれも図示略)により温湿度調整と粉塵除去などを、ダクトに送り出すものである。
【0022】
この空調機110から送り出された空気は、フィルタ120を通過した後、手術台205の天井部に設置されたHEPAフィルタ内蔵吹き出し口210に向かうダクト、及びHEPAフィルタ内蔵吹き出し口210の周囲に設けられたHEPAフィルタ内蔵エアーカーテン吹き出し口220に向かうダクトを流通するようになっている。HEPAフィルタ内蔵吹き出し口210には、不図示のフィルタホルダが設けられており、このフィルタホルダにHEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルタ211が装着されることにより、塵埃や浮游細菌などが除かれた浄化された空気を、手術台205に向けて吹き出すことができるようになっている。本実施形態においては、HEPAフィルタ内蔵吹き出し口210は、手術台205の上部に配置する。
【0023】
なお、特許請求の範囲における「第1吹き出し口」はHEPAフィルタ内蔵吹き出し口210のことを、また、「第2吹き出し口」はHEPAフィルタ内蔵エアーカーテン吹き出し口220のことをそれぞれ上位概念的に示したものである。
【0024】
HEPAフィルタ内蔵吹き出し口210に向かうダクト中には第1送風ファン131が、また、HEPAフィルタ内蔵エアーカーテン吹き出し口220に向かうダクト中には第2送風ファン132が設けられており、これらの送風ファンが制御されることによって、HEPAフィルタ内蔵吹き出し口210から吹き出す空気が第1の風速となるように、また、HEPAフィルタ内蔵エアーカーテン吹き出し口220から吹き出す空気が第1の風速より遅い第2の風速となるように調整している。また、HEPAフィルタ内蔵エアーカーテン吹き出し口220には、不図示のフィルタホルダが設けられており、このフィルタホルダにHEPAフィルタ221が装着されることにより、塵埃や浮游細菌などが除かれた浄化された空気をエアーカーテンとして吹き出すことが可能に構成されている。
【0025】
図2は本発明の実施形態に係る空調システムにおける手術台205、HEPAフィルタ内蔵吹き出し口210、HEPAフィルタ内蔵エアーカーテン吹き出し口220の配置関係を示す図である。図2に示すように、鉛直方向の投影を行ったとき、HEPAフィルタ内蔵吹き出し口210が形成するHEPAフィルタ内蔵吹き出し口投影面は、手術台205が形成する手術台投影面を含むようにされている。本発明に係る空調システム100においては、HEPAフィルタ内蔵吹き出し口210の吹き出し面積としては、手術台の面積を含む程度であればよく、HEPAフィルタ内蔵吹き出し口を天井面ほぼ全面に相当する面積とする必要はない。したがって、本発明に係る空調システム100によれば、エネルギー効率が向上し、メンテナンスコストが安価となるのである。
【0026】
図3は本発明の実施形態に係る空調システムよって吹き出される空気を模式的に示す図
である。本発明に係る空調システム100においては、HEPAフィルタ内蔵エアーカーテン吹き出し口220から吹き出す空気の風速を、HEPAフィルタ内蔵吹き出し口210から吹き出す空気のそれより遅くするようにしているが、これによれば、図3に示すように、HEPAフィルタ内蔵吹き出し口210の鉛直下方のエリアで発生した塵埃は、当該エリアを囲む弱いエアーカーテンのエリアに排出されやすい傾向があるものと推察される。これに対して、HEPAフィルタ内蔵エアーカーテン吹き出し口220から吹き出す空気の風速を、HEPAフィルタ内蔵吹き出し口210から吹き出す空気のそれより速く設定すると、HEPAフィルタ内蔵吹き出し口210の鉛直下方のエリアで発生した塵埃は、エアーカーテンのエリアに排出されにくい傾向があるものと推察される。
【0027】
再び図1に戻り、第3送風ファン133の吸引力によって、手術室内の空気は、換気口230a、230bによって引き込まれ、一部は空調機110に戻され再び循環され、残りは排気口160から排出される。手術室内の空気の吸い込み口として、床部に近い高さに設けられている換気口230aは、床部からの気流の巻き上がりや乱流を防止する機能を有しており、天井部に近い高さに設けられている換気口230bは、天井部における乱流を防止する機能を有している。
【0028】
換気口230a、230bによって手術室内から引き込まれた空気をどの程度の割合で空調機110に戻し、どの程度の割合で排気口160から排気するかを決めるのは第1ダンパー141及び第2ダンパー142である。これらのダンパーは不図示の制御部によって適宜制御される。一方、屋外からの空気は、フィルタ151が設けられた吸気口150から、第4送風ファン134の吸引力によって、空調機110に引き込まれる。吸気口150と空調機110とを結ぶダクトの間には第3ダンパー143が設けられ、屋外からの空気の取り込み量などが制御される。
【0029】
ここで、HEPAフィルタ内蔵吹き出し口210内、HEPAフィルタ内蔵エアーカーテン吹き出し口220内におけるフィンのレイアウトについて説明する。このようなフィンは、各吹き出し口から吹き出される空気の流れを決めるものである。図4は本発明の実施形態に係る空調システムにおけるHEPAフィルタ内蔵吹き出し口210、及び、HEPAフィルタ内蔵エアーカーテン吹き出し口220のフィン配置を説明する図である。なお、フィンの枚数は図示されるものに限定されるものではない。
【0030】
図4に示すように、HEPAフィルタ内蔵吹き出し口210内には、パンチングメタルやメッシュなどの複数の細孔を有する制風部材215が設けられており、この制風部材215によって、HEPAフィルタ内蔵吹き出し口210から吹き出される空気は、図3に示すように鉛直下方に向けられた均一な一方向流となる。
【0031】
また、図4に示すように、HEPAフィルタ内蔵エアーカーテン吹き出し口220に設けられるフィン225は、鉛直下方の方向に対して所定の角度θ0をなすように配されて
いる。これにより、HEPAフィルタ内蔵エアーカーテン吹き出し口220から吹き出される空気は、図3に示すように、手術台205がない方向に向けられた一方向流となる。
【0032】
図5は本発明の実施形態に係る空調システムが適用された手術室の概略を示す図である。図5においては、手術台205の天面より下方に複数の下部排気口230aが配されると共に、手術台205の天面より上方に複数の上部排気口230bが配されることを特徴としている。上部排気口230bの総開口面積は、下部排気口230aの総開口面積の1/4程度が好ましい。このような手術台205の天面より上方に上部排気口230bが設けられることで、手術室における手術台205設置箇所以外の上方空間に停滞しがちな塵埃を効果的に排気することができる。なお、本実施形態においては、上部排気口230bを手術室の側壁に設けるようにしたが、本発明では、上部排気口230bは手術台205
の天面より上方であれば、どこに設置してもよく、例えばこれを天井面に設けるようにしてもよい。
【0033】
次に、上記のようなHEPAフィルタ内蔵エアーカーテン吹き出し口を利用した給気システムに加えて、本実施形態に係る空調システム100で用いられる、給排気構造を有する無影灯300について説明する。
【0034】
図6は本発明の実施形態に係る空調システムで用いられる無影灯300の斜視図であり、図7は本発明の実施形態に係る空調システムで用いられる無影灯300a、300bの給排気構造を模式的に示す図である。
【0035】
本実施形態に係る空調システム100で用いる無影灯300は、天井部に取り付けられており、複数のヒンジ部315を有する可動アーム部310の先端に、複数の光源部330が収容されてなる傘部320を有する構造となっている。
【0036】
また、可動アーム部310、ヒンジ部315は中空部を有しており、当該中空部がダクトとして機能する。図7における無影灯300aは、天井裏に送風ファン350を有しており、HEPAフィルタ355を介して前記中空部に送風を行うことができるようになっている。HEPAフィルタ355により浄化された空気は、中空部を経て、傘部320における光源部330が配されていない空間である給排口部340から、手術対象部位(術野)に対して、清浄度の高い空気を給気するようになっている。
【0037】
一方、図7における無影灯300bは、天井裏にポンプ360を有しており、前記中空部に空気を吸引することができるようになっている。この中空部における空気の吸引により、無影灯300bにおいては、手術対象部位(術野)における空気を給排口部340から吸引し、排気するようになっている。
【0038】
なお、図7に示す実施形態においては、無影灯300aが給気システムとして機能し、無影灯300bが排気システムとして機能する場合を例に挙げて説明したが、無影灯300a及び無影灯300bの双方を給気システムとしたり、或いは、無影灯300a及び無影灯300bの双方を排気」システムとしたりする構成も本発明に含まれるものである。
【0039】
以上のように構成される空調システム100において、熱気流解析ソフト「Flow Designer」を用いてシミュレーションを行った結果を以下に示す。
【0040】
図8は、手術室に設置された2つの無影灯300a、300bのいずれか一方にのみ給気システムまたは排気システムを設け、各システムの流出入風速を変化させたときの術野の粒子濃度(粒径0.5μm、3人在室時)を比較したものである。0.6m/s以下の風速では無影灯300を排気システムとして機能させた方が清浄度確保に効果的であることが分かる。
【0041】
図9において、(A)は2つの無影灯のいずれも給排気システムが設けられていない従来のものを用いた場合の術野個数粒子濃度を示しており、(B)は本実施形態に係る空調システム100において1つの無影灯300を給気システムとして機能させ、もう1つの
無影灯については給排気システムが設けられていない従来のものを用いた場合の術野個数粒子濃度を示しており、(C)は本実施形態に係る空調システム100において2つの無影灯300を排気システムとして機能させた場合の術野個数粒子濃度を示しており、(D)は2つの無影灯300を給気システムとして機能させた場合の術野個数粒子濃度を示しており、(E)は1つの無影灯300を排気システムとして機能させ、もう1つの無影灯
については給排気システムが設けられていない従来のものを用いた場合の術野個数粒子濃
度を示しており、(F)は2つの無影灯300の一方を排気システムとして機能させ、他方を給気システムとして機能させた場合の術野個数粒子濃度を示している。なお、無影灯300を給排気システムとして機能させた場合、給気・排気のいずれも0.4m/sの風速でこれを行った結果を示している。また、EPAフィルタ内蔵吹き出し口210・HEPAフィルタ内蔵エアーカーテン吹き出し口220からの給気は0.4m/sの風速でこれを行った結果を示している。
【0042】
図9に示すように、無影灯300を給気システム、排気システムのいずれとして用いた場合でも、術野における個数粒子濃度が低減されることがわかる。また、無影灯300のいずれか一方を、給気システム、又は排気システムとして用いた場合についても、術野個数粒子濃度を低減できることがわかる。さらに、最も好ましくは、HEPAフィルタ内蔵吹き出し口からなる空調システムと、給気システムと機能する無影灯300と、排気システムと機能する無影灯300と、を併用した(F)のパターンによれば、術野における個数粒子濃度を極小にすることが可能となる。
【0043】
以上のような本発明の空調システム100によれば、無影灯や患者周囲で作業する医師や看護師に基づく気流の乱れを極力抑制し、手術対象部位(術野)における十分な清浄度の確保が可能となる。そして、これに伴い、術野における電気メスの使用による臭気の除去ができるなど、術野の環境性能を上げることができるようになる。
【0044】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。先の実施形態においては、可動アーム部310、ヒンジ部315に中空部を設けて、当該中空部がダクトとして機能させ、さらに送風ファン350やポンプ360を天井裏に設けることで、無影灯300を給気システム又は排気システムとして機能させていた。
【0045】
これに対して、他の実施形態においては、傘部320に送風ファン350を設けることで、、無影灯300を給気システム又は排気システムとして機能させようにしている。以下、具体的に説明する。図10は本発明の他の実施形態に係る空調システムで用いられる無影灯300の給排気構造を模式的に示す図である。
【0046】
図10の無影灯300aにおいては、HEPAフィルタ355と送風ファン350とを組み合わせた送風システムが傘部320に設けられることで、術野に対して清浄度の高い空気を供給する給気システムを構成している。
【0047】
一方、図10の無影灯300aにおいては、送風ファン350を傘部320に設けることで、術野における空気を、傘部320の上方に排気する排気システムを構成している。
【0048】
以上のような実施形態によれば、先の実施形態と同様の効果を享受することができることに加えて、傘部320における構成のみで給排気システムを構築することが可能となるので、コストがかからなり空調システムを実現することが可能となる。
【0049】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。図11は本発明の他の実施形態に係る空調システムで用いられる無影灯300の給排気構造を模式的に示す図である。
【0050】
図11(A)は給排気システムが設けられていない既設の無影灯300を示しており、図11(B)は上記図11(A)に示すような既設の無影灯300に、後付けで排気システムを搭載した例を示している。
【0051】
図11(B)の無影灯300aにおいては、後付けダクト380を可動アーム部310に這わせると共に、既設の傘部320周辺に後付け給排気部370を設けて、さらに後付
けダクト380を天井裏に設定したポンプ360と接続することで、無影灯300aを排気システムとして機能させる例を示している。
【0052】
また、図11(B)の無影灯300bにおいては、後付けダクト380を可動アーム部310内に設ける共に、既設の傘部320を給排口として利用して、さらに後付けダクト380を天井裏に設定したポンプ360と接続することで、無影灯300aを排気システムとして機能させる例を示している。
【0053】
以上のような実施形態によれば、既設の無影灯300に簡便に排気システムを後付けすることが可能となる。
【0054】
なお、これまでの実施形態においては、無影灯300に傘部320が設けられたものを例として、説明してきたが、無影灯300における傘部320は必須の構成要件ではなく、傘部320を有しない無影灯300によっても、本発明に係る空調システム100を構成することが可能である。
【符号の説明】
【0055】
100・・・空調システム、110・・・空調機、120・・・フィルタ、131・・・第1送風ファン、132・・・第2送風ファン、133・・・第3送風ファン、134・・・第4送風ファン、141・・・第1ダンパー、142・・・第2ダンパー、143・・・第3ダンパー、150・・・吸気口、151・・・フィルタ、160・・・排気口、205・・・手術台、210・・・HEPAフィルタ内蔵吹き出し口、211・・・HEPAフィルタ、215・・・制風部材、225・・・フィン、220・・・HEPAフィルタ内蔵エアーカーテン吹き出し口、221・・・HEPAフィルタ、230・・・換気口、230a・・・下部排気口、230b・・・上部排気口、300・・・無影灯、310・・・可動アーム部、315・・・ヒンジ部、320・・・傘部、330・・・光源部、340・・・給排口部、350・・・送風ファン、355・・・HEPAフィルタ、360・・・ポンプ、370・・・後付け給排気部、380・・・後付けダクト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
手術台が設置された手術室の空調を行うための空調システムであって、
前記手術台の天井部に設置され、第1の風速でHEPAフィルタによって浄化された空気を吹き出す第1吹き出し口と、
前記天井部に取り付けられ、HEPAフィルタによって浄化された空気を吹き出す第1の無影灯と、
前記天井部に取り付けられ、空気を吸い込む第2の無影灯と、からなることを特徴とする空調システム。
【請求項2】
手術台が設置された手術室の空調を行うための空調システムであって、
前記手術台の天井部に設置され、第1の風速でHEPAフィルタによって浄化された空気を吹き出す第1吹き出し口と、
前記天井部に取り付けられ、HEPAフィルタによって浄化された空気を吹き出す第1の無影灯と、
前記天井部に取り付けられ、HEPAフィルタによって浄化された空気を吹き出す第2の無影灯と、からなることを特徴とする空調システム。
【請求項3】
手術台が設置された手術室の空調を行うための空調システムであって、
前記手術台の天井部に設置され、第1の風速でHEPAフィルタによって浄化された空気を吹き出す第1吹き出し口と、
前記天井部に取り付けられ、空気を吸い込む第1の無影灯と、
前記天井部に取り付けられ、空気を吸い込む第2の無影灯と、からなることを特徴とする空調システム。
【請求項4】
手術台が設置された手術室の空調を行うための空調システムであって、
前記手術台の天井部に設置され、第1の風速でHEPAフィルタによって浄化された空気を吹き出す第1吹き出し口と、
前記天井部に取り付けられ、空気を吸い込むか、又は空気を吹き出す第1の無影灯と、
前記天井部に取り付けられた第2の無影灯と、からなることを特徴とする空調システム。
【請求項5】
前記第1吹き出し口の周囲に設置され、前記第1の風速より遅い第2の風速で空気を吹き出す第2吹き出し口と、を有し、
鉛直方向の投影を行ったとき、前記第1吹き出し口が形成する第1吹き出し口投影面が、前記手術台が形成する手術台投影面を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の空調システム。
【請求項6】
前記第1吹き出し口から吹き出される空気は、鉛直下方に向けられた一方向流であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の空調システム。
【請求項7】
前記第2吹き出し口から吹き出される空気は、前記手術台がない方向に向けられた一方向流であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の空調システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−85672(P2013−85672A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228444(P2011−228444)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】