空間の熱環境改善方法及び改善構造
【課題】地表面温度の上昇を抑制することにより空間の熱環境の改善を図るとともに、歩行する人間に対してより高い快適さを与え得るようにした空間の熱環境改善方法を提供する。
【解決手段】地表面に対する温度上昇抑制対策領域2,2…と、その未対策領域3,3…とを交互に形成する。前記温度上昇抑制対策領域2及びその未対策領域3は、少なくとも2m以上の幅で形成するのが望ましく、かつ分割数は少なくとも4以上とする。また、前記温度上昇抑制対策は、給水による地表面の湿潤対策、保水性舗装の施工、遮熱材料の塗工による舗装表面処理、地表面への散水、明度差付与処理のいずれか又は組合せとする。
【解決手段】地表面に対する温度上昇抑制対策領域2,2…と、その未対策領域3,3…とを交互に形成する。前記温度上昇抑制対策領域2及びその未対策領域3は、少なくとも2m以上の幅で形成するのが望ましく、かつ分割数は少なくとも4以上とする。また、前記温度上昇抑制対策は、給水による地表面の湿潤対策、保水性舗装の施工、遮熱材料の塗工による舗装表面処理、地表面への散水、明度差付与処理のいずれか又は組合せとする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地表面の冷却によって空間の熱環境負荷を軽減するとともに、気流を生起させることにより体感温度の低下を図り、歩行者等により高い快適さを与え得るようにした空間の熱環境改善方法及び改善構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、都市部や建築物が密集している地域では、アスファルト舗装またはコンクリート建築物からの放熱、照り返しによる輻射熱、ビル等の空調による排熱などによる熱によって気温が上昇するヒートアイランド現象が問題視されている。
【0003】
都市部におけるヒートアイランド現象に代表される熱環境負荷の改善を図るために、従来より種々の温度上昇抑制対策工法が提案されている。
【0004】
前記温度上昇抑制対策工法としては、代表的に保水性舗装を挙げることができる。保水性舗装は、舗装に対して保水性能を与えることによって、雨水を舗装内に保水しておき、晴天時に水分が蒸発する際の気化熱によって路面温度の上昇を抑制するものである。例えば、下記特許文献1では、路盤上又は基層上に位置する道路舗装体の表層部において、15〜30%の空隙を有する舗装体の空隙に水、セメント、繊維及び界面活性剤からなるセメントミルクを充填した保水性舗装体が開示されている。
【0005】
また、下記特許文献2では、所定の粗骨材を該粗骨材同士の間に間隙が形成されるようにアスファルトで相互に固結してなる透水層を不透水層の上に積層するとともに、前記間隙に細粒材を充填し、前記透水層は保水又は供給された水を前記細粒材同士又は該細粒材と粗骨材との間の微細間隙を介して該透水層の表面方向に揚水するようにした揚水性舗装が開示されている。
【0006】
また、上記保水性舗装は降雨を舗装内に保水するものであるため、保水量が少なく冷却持続時間が短時間であるため、晴天が続く場合には熱環境負荷対策として十分でないとの状況に鑑み、下記特許文献3では、路面または地表面を形成し吸水性を有する透水性舗装材と、該舗装材の下方または内部に位置されて水を流通させる暗渠と、該暗渠内に一端が浸されて他端を舗装材下面に配置され、毛管現象により暗渠内の水の一部を前記舗装材に導水可能とした導水部材と、前記暗渠内に導水用配管を通じて水を通水する水源とを備えたことを湿潤性舗装システムが開示されている。
【0007】
さらに、下記特許文献4では、舗装表面を湿潤状態に保持することができる湿潤性舗装システムであって、舗装表面を形成し給水機能を有する透水性舗装材と、地表に開口され又は開口可能な貯水槽と、この貯水槽と前記透水性舗装材との間を導水可能に接続する導水部材とを備えた湿潤性舗装システムが開示されている。
【特許文献1】特開2003−184014号公報
【特許文献2】特開2004−68465号公報
【特許文献3】特開2001−81709号公報
【特許文献4】特開平11−100803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図11の計測例に示されるように、保水性舗装の場合は、通常のアスファルト舗装に比べて、約13℃の路面温度低下が図られることが報告され、熱環境空間対策として十分な効果を上げることが期待されるが、舗装の熱低下が空間に与える影響に着目してみると、図12に示されるように、保水性舗装を適用した場合には、その直上の大気温度を一般のアスファルト舗装に比べて約1℃程度しか低減できていないことが分かる。従って、舗装面を歩行する人間に対する熱緩和効果は約1℃程度でしかなく、上記保水性舗装の適用による快適さが十分に得られていない状況にあった。
【0009】
そこで本発明の主たる課題は、地表面温度の上昇を抑制することにより空間の熱環境の改善を図るとともに、歩行する人間に対してより高い快適さを与え得るようにした空間の熱環境改善方法及び改善構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、地表面に対する温度上昇抑制対策領域と、その未対策領域とを交互に形成したことを特徴とする空間の熱環境改善方法が提供される。
【0011】
上記請求項1記載の発明は、地表面に対する温度上昇抑制対策領域と、その未対策領域とを交互に形成するものである。すなわち、地表面において、温度上昇抑制対策が施された領域と、その未対策領域とを交互に形成することにより気流を生起することが可能となる。気流発生のメカニズムは、未対策領域では気温の上昇により空気が暖められて軽い空気が作られ、この暖められた空気が上昇すると、それを補うように温度上昇抑制対策領域において空気の下降流が発生し、前記未対策領域に流れ込むことにより気流が発生するものと説明できるが、実際の空気流れは後述の実施例で示すように、種々の要因が重なり合い複雑な気流となるようである。しかしながら、温度上昇抑制対策領域と、その未対策領域とを交互に形成することにより、概ね0.15m/s程度の気流を発生することが可能となり、新有効温度を1℃ほど低減できるようになる。ここで、新有効温度とは、詳細には後述するが、関連する6要素を総合的に考慮できる人間の温熱感の指標となる体感温度である。
【0012】
また、本発明では、温度上昇抑制対策が施されていることにより、地表面温度の上昇が抑制され、熱環境空間の負荷を軽減することが可能となる。更に、施工面積が縮小化できることにより低コスト化が図れるようになる。
【0013】
請求項2に係る本発明として、前記地表面に対する温度上昇抑制対策領域及びその未対策領域は、少なくとも2m以上の幅で形成してある請求項1記載の空間の熱環境改善方法が提供される。
【0014】
上記請求項2記載の発明は、前記地表面に対する温度上昇抑制対策領域及びその未対策領域は、少なくとも2m以上の幅で交互に形成するようにしたものであり、後述の実施例で示されるように、対策領域及び未対策領域の基準ピッチが2mを超えたところから気流速度が上昇し、かつ温度低減効果が顕著となる傾向が見られるようになる。
【0015】
請求項3に係る本発明として、前記地表面に対する温度上昇抑制対策領域及びその未対策領域の分割数は少なくとも4以上とする請求項1〜2いずれかに記載の空間の熱環境改善方法が提供される。
【0016】
上記請求項3記載の発明は、温度上昇抑制対策領域及びその未対策領域の分割数は少なくとも4以上とするものである。分割数が4未満の場合は、風速及び温度のバラツキが大きくなり、特に風速が低下した領域、及び温度が上昇した領域で不快感が増すようになる。
【0017】
請求項4に係る本発明として、前記地表面に対する温度上昇抑制対策は、給水による地表面の湿潤対策、保水性舗装の施工、遮熱材料の塗工による舗装表面処理、地表面への散水、明度差付与処理のいずれか又は組合せとする請求項1〜3いずれかに記載の空間の熱環境改善方法が提供される。
【0018】
上記請求項4記載の発明は、温度上昇抑制対策を具体的に列挙したものであり、具体的には給水による地表面の湿潤対策、保水性舗装、遮熱性舗装、地表面への散水、明度差付与処理のいずれか又は組合せとすることができる。
【0019】
請求項5に係る本発明として、地表面に対する温度上昇抑制対策領域と、その未対策領域とを交互に形成したことを特徴とする熱環境空間の改善構造が提供される。
【発明の効果】
【0020】
以上詳説のとおり本発明によれば、地表面温度の上昇を抑制することにより空間の熱環境の改善を図ることが可能であるとともに、一様に温度上昇抑制対策を施した場合に比べて、気流の生成により歩行する人間に対してより高い快適さを与えることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
図1は本発明に係る空間の熱環境改善方法を示す概略平面図及びその横断面図である。
【0022】
本発明に係る空間の熱環境改善方法は、図1に示されるように、地表面に対する温度上昇抑制対策領域2,2…と、その未対策領域3,3…とを交互に形成するものである。この場合、「交互に形成」とは、例えば仮想的に引かれるライン上で、前記温度上昇抑制対策領域2と、前記未対策領域3とが交互に配置されておればよく、規則的であると不規則的であるとを問わない。代表的には、図1に示されるように、一定幅で交互に隣接するように配置する例や、図2(A)に示されるように、格子状に前記温度上昇抑制対策領域2と前記未対策領域3とを配置する例及び図2(B)に示されるように、同心円状に前記温度上昇抑制対策領域2と前記未対策領域3とを配置する例などを挙げることができる。更には、温度上昇抑制対策領域2を間隔を空けて波縞模様状に配置する例、任意平面形状の温度上昇抑制対策領域2を千鳥状に配置する例なども挙げることができる。
【0023】
前記温度上昇抑制対策領域2と前記未対策領域3とが交互に配置されることにより、前記温度上昇抑制対策領域2の空気が相対的に低温となり、前記未対策領域3の空気が相対的に高温となると、高温領域で暖められた空気が上昇し、それを補うように低温領域の空気が下降を起こし、高温領域に流れ込むように気流が生起されるようになる。このような温熱差によって生じる気流は、概ね0.15m/s程度であるが、既往の文献によれば、0.15m/s程度の気流により新有効温度を1℃ほど低減させることが可能となる。
【0024】
前記新有効温度とは、1971年に発表された理論〔参考文献;”温熱快適性”田辺新一、木村建一編、建築環境学1、丸善、1992,4〕に基づく体感温度であり、温熱環境に関連する6つの要因、(1)空気温度、(2)放射温度、(3)気流、(4)湿度、(5)着衣量、(6)代謝量によって計算される。発汗による蒸発熱損失を考慮している点に特徴があり、快適範囲を含む暑熱環境、寒冷環境の評価に用いることができる。図10に着衣量、相対湿度を固定値として、新有効温度に対する気流の影響を表したグラフを示すが、同図から気流速度が0.15m/s程度上昇すれば、新有効温度は1℃ほど低減できることが分かる。
【0025】
前記温度上昇抑制対策領域2及び未対策領域3は、後述する実施例で示されるように、対策領域及び未対策領域の基準ピッチが2mを超えたところから気流速度が上昇し、かつ温度低減効果が顕著となる傾向が見られるようになることから、前記温度上昇抑制対策領域2及び未対策領域3は、少なくとも2m以上の幅で形成するのが望ましい。
【0026】
また、前記温度上昇抑制対策領域2、2…及びその未対策領域3、3…の分割数は少なくとも4以上、すなわち前記温度上昇抑制対策領域を2区分以上とするとともに、前記未対策領域3を2区分以上とするのが望ましい。後述の実施例に示されるように、分割数が4未満の場合は、風速及び温度のバラツキが大きくなり、風速が上がった領域及び温度が下降した領域ではより快適さが得られるようになるが、逆に風速が低下した領域及び温度が上昇した領域で不快感が増すようになるため好ましくない。
【0027】
前記温度上昇抑制対策としては、例えば給水による地表面の湿潤対策、保水性舗装、遮熱性舗装、地表面への散水、明度差付与処理のいずれか又は組合せとすることができる。
【0028】
前記給水による地表面の湿潤対策とは、例えば地盤内に給水管を埋設し、この給水管に供給される水を、直接的または導水シート等を介して地盤内に供給し、地表面を湿潤状態に保つ工法である。この工法は、人為的に水を供給する工法であるため、晴天が続く場合でも給水を枯らすことなく安定的に供給できる利点を有する。
【0029】
保水性舗装は、舗装体内部に保水層を有する舗装構造としたものであり、一般的には開粒度アスファルト混合物の混合物層の空隙に吸水・保水性能のある材料を充填した舗装構造や、コンクリートに吸水・保水能力のある材料を練り混ぜるか充填した舗装構造、更には吸水・保水能力を有する舗装用ブロックを敷設する舗装構造などを挙げることができる。
【0030】
前記遮熱性舗装は、太陽エネルギーの約50%を占めるといわれる近赤外線を効率的に反射する遮熱性塗料を路面に塗工することにより、路面温度の上昇を抑制し舗装体への蓄熱を減らすようにするものである。
【0031】
前記地表面への散水は、散水設備を地盤内に設備し、所定の時間毎、所定の領域に散水を行うことにより、水が蒸発する際に周囲の熱を気化潜熱として吸熱することにより、舗装表面の熱が水分の蒸発と共に放出されて地表面温度を低減させるものである。
【0032】
前記明度差付与処理とは、温度上昇抑制対策領域2の表面に、白色系塗料など明度の高い塗料を塗工することにより未対策領域3との間に明度差を設けるようにする処理である。前記温度上昇抑制対策2領域における熱吸収量を低減することにより地表面温度の低減を図るものである。
【0033】
上記空間の熱環境改善方法は、車道、歩道、駐車場、広場、園路、野球場、サッカー場の芝生、陸上競技場のトラック、屋上緑化地盤など広範な場所に適用が可能である。
【実施例】
【0034】
本発明に係る空間の熱環境改善方法について、モデル解析によって、温度上昇抑制対策領域2のパターンと、気流発生及び温度変化との相関性について検証を行った。
【0035】
1.解析概要
解析概要は下表1に示される通りとし、解析モデルは図3に示されるように、幅20m、高さ6mの空間を想定し、両側に壁面を設定し、上面は熱の出入りを自由な境界面とし、下面(舗装面)は下表2に示すように、温度上昇抑制対策領域と未対策領域との分割数を変えたケース1〜9,11〜14を設定した。前記温度上昇抑制対策領域は高温部として温度30℃に設定し、未対策領域は低温部として温度50℃に設定した。また、舗装面の熱伝達率は20[W/m2K]とした。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
2.解析結果
以上の試験結果について、生起された気流の風速分布を図4及び図5に示し、温度分布を図6及び図7に示す。なお、温度分布は基準温度[30℃]からの相対差で表した。また、1.5m高さ位置での風速分布を整理した結果を図8に示すとともに、1.5m高さ位置での温度分布を整理した結果を図9に示す。
【0039】
以上の試験結果から下記の知見が得られた。
【0040】
〈風速について〉
(1)温度上昇抑制対策領域と未対策領域とを交互に配置することにより、平均値で概ね0.13m/s〜0.18m/sの風速が生起できることが判明した。
(2)基準ピッチが2mを超えると風速が急激に上昇する結果となった。従って、温度上昇抑制対策領域と未対策領域とは、少なくとも2m以上の幅で形成することが望ましいことが判明した。
(3)基準ピッチが5m(分割数:4)を超えると、最大値と最小値とのバラツキが大きくなる結果となった。従って、温度上昇抑制対策領域及び未対策領域の分割数は少なくとも4以上とするのが望ましいことが判明した。
【0041】
〈温度について〉
(1)温度上昇抑制対策領域と未対策領域とを交互に配置することにより、平均値で概ね基準温度から上昇量を1℃以下とできることが判明した。
(2)基準ピッチが2mを超えると温度が急激に下降する結果となった。従って、温度上昇抑制対策領域と未対策領域とは、少なくとも2m以上の幅で形成することが望ましいことが判明した。
(3)基準ピッチが5m(分割数:4)を超えると、最大値と最小値とのバラツキが大きくなる結果となった。従って、温度上昇抑制対策領域及び未対策領域の分割数は少なくとも4以上とするのが望ましいことが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る空間の熱環境改善方法を示す、(A)は概略平面図、(B)は横断面図である。
【図2】温度上昇抑制対策領域2の配置パターン例を示す図である。
【図3】解析モデル図である。
【図4】解析結果に係る風速分布図(その1)である。
【図5】解析結果に係る風速分布図(その2)である。
【図6】解析結果に係る温度分布図(その1)である。
【図7】解析結果に係る温度分布図(その2)である。
【図8】風速分布を整理した風速−基準ピッチのグラフである。
【図9】温度分布を整理した温度−基準ピッチのグラフである。
【図10】気流の影響を示した新有効温度−室温グラフである。
【図11】アスファルト舗装及び保水性舗装の温度時刻歴図である。
【図12】アスファルト舗装及び保水性舗装の空間温度分布図である。
【符号の説明】
【0043】
2…温度上昇抑制対策領域、3…未対策領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、地表面の冷却によって空間の熱環境負荷を軽減するとともに、気流を生起させることにより体感温度の低下を図り、歩行者等により高い快適さを与え得るようにした空間の熱環境改善方法及び改善構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、都市部や建築物が密集している地域では、アスファルト舗装またはコンクリート建築物からの放熱、照り返しによる輻射熱、ビル等の空調による排熱などによる熱によって気温が上昇するヒートアイランド現象が問題視されている。
【0003】
都市部におけるヒートアイランド現象に代表される熱環境負荷の改善を図るために、従来より種々の温度上昇抑制対策工法が提案されている。
【0004】
前記温度上昇抑制対策工法としては、代表的に保水性舗装を挙げることができる。保水性舗装は、舗装に対して保水性能を与えることによって、雨水を舗装内に保水しておき、晴天時に水分が蒸発する際の気化熱によって路面温度の上昇を抑制するものである。例えば、下記特許文献1では、路盤上又は基層上に位置する道路舗装体の表層部において、15〜30%の空隙を有する舗装体の空隙に水、セメント、繊維及び界面活性剤からなるセメントミルクを充填した保水性舗装体が開示されている。
【0005】
また、下記特許文献2では、所定の粗骨材を該粗骨材同士の間に間隙が形成されるようにアスファルトで相互に固結してなる透水層を不透水層の上に積層するとともに、前記間隙に細粒材を充填し、前記透水層は保水又は供給された水を前記細粒材同士又は該細粒材と粗骨材との間の微細間隙を介して該透水層の表面方向に揚水するようにした揚水性舗装が開示されている。
【0006】
また、上記保水性舗装は降雨を舗装内に保水するものであるため、保水量が少なく冷却持続時間が短時間であるため、晴天が続く場合には熱環境負荷対策として十分でないとの状況に鑑み、下記特許文献3では、路面または地表面を形成し吸水性を有する透水性舗装材と、該舗装材の下方または内部に位置されて水を流通させる暗渠と、該暗渠内に一端が浸されて他端を舗装材下面に配置され、毛管現象により暗渠内の水の一部を前記舗装材に導水可能とした導水部材と、前記暗渠内に導水用配管を通じて水を通水する水源とを備えたことを湿潤性舗装システムが開示されている。
【0007】
さらに、下記特許文献4では、舗装表面を湿潤状態に保持することができる湿潤性舗装システムであって、舗装表面を形成し給水機能を有する透水性舗装材と、地表に開口され又は開口可能な貯水槽と、この貯水槽と前記透水性舗装材との間を導水可能に接続する導水部材とを備えた湿潤性舗装システムが開示されている。
【特許文献1】特開2003−184014号公報
【特許文献2】特開2004−68465号公報
【特許文献3】特開2001−81709号公報
【特許文献4】特開平11−100803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図11の計測例に示されるように、保水性舗装の場合は、通常のアスファルト舗装に比べて、約13℃の路面温度低下が図られることが報告され、熱環境空間対策として十分な効果を上げることが期待されるが、舗装の熱低下が空間に与える影響に着目してみると、図12に示されるように、保水性舗装を適用した場合には、その直上の大気温度を一般のアスファルト舗装に比べて約1℃程度しか低減できていないことが分かる。従って、舗装面を歩行する人間に対する熱緩和効果は約1℃程度でしかなく、上記保水性舗装の適用による快適さが十分に得られていない状況にあった。
【0009】
そこで本発明の主たる課題は、地表面温度の上昇を抑制することにより空間の熱環境の改善を図るとともに、歩行する人間に対してより高い快適さを与え得るようにした空間の熱環境改善方法及び改善構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、地表面に対する温度上昇抑制対策領域と、その未対策領域とを交互に形成したことを特徴とする空間の熱環境改善方法が提供される。
【0011】
上記請求項1記載の発明は、地表面に対する温度上昇抑制対策領域と、その未対策領域とを交互に形成するものである。すなわち、地表面において、温度上昇抑制対策が施された領域と、その未対策領域とを交互に形成することにより気流を生起することが可能となる。気流発生のメカニズムは、未対策領域では気温の上昇により空気が暖められて軽い空気が作られ、この暖められた空気が上昇すると、それを補うように温度上昇抑制対策領域において空気の下降流が発生し、前記未対策領域に流れ込むことにより気流が発生するものと説明できるが、実際の空気流れは後述の実施例で示すように、種々の要因が重なり合い複雑な気流となるようである。しかしながら、温度上昇抑制対策領域と、その未対策領域とを交互に形成することにより、概ね0.15m/s程度の気流を発生することが可能となり、新有効温度を1℃ほど低減できるようになる。ここで、新有効温度とは、詳細には後述するが、関連する6要素を総合的に考慮できる人間の温熱感の指標となる体感温度である。
【0012】
また、本発明では、温度上昇抑制対策が施されていることにより、地表面温度の上昇が抑制され、熱環境空間の負荷を軽減することが可能となる。更に、施工面積が縮小化できることにより低コスト化が図れるようになる。
【0013】
請求項2に係る本発明として、前記地表面に対する温度上昇抑制対策領域及びその未対策領域は、少なくとも2m以上の幅で形成してある請求項1記載の空間の熱環境改善方法が提供される。
【0014】
上記請求項2記載の発明は、前記地表面に対する温度上昇抑制対策領域及びその未対策領域は、少なくとも2m以上の幅で交互に形成するようにしたものであり、後述の実施例で示されるように、対策領域及び未対策領域の基準ピッチが2mを超えたところから気流速度が上昇し、かつ温度低減効果が顕著となる傾向が見られるようになる。
【0015】
請求項3に係る本発明として、前記地表面に対する温度上昇抑制対策領域及びその未対策領域の分割数は少なくとも4以上とする請求項1〜2いずれかに記載の空間の熱環境改善方法が提供される。
【0016】
上記請求項3記載の発明は、温度上昇抑制対策領域及びその未対策領域の分割数は少なくとも4以上とするものである。分割数が4未満の場合は、風速及び温度のバラツキが大きくなり、特に風速が低下した領域、及び温度が上昇した領域で不快感が増すようになる。
【0017】
請求項4に係る本発明として、前記地表面に対する温度上昇抑制対策は、給水による地表面の湿潤対策、保水性舗装の施工、遮熱材料の塗工による舗装表面処理、地表面への散水、明度差付与処理のいずれか又は組合せとする請求項1〜3いずれかに記載の空間の熱環境改善方法が提供される。
【0018】
上記請求項4記載の発明は、温度上昇抑制対策を具体的に列挙したものであり、具体的には給水による地表面の湿潤対策、保水性舗装、遮熱性舗装、地表面への散水、明度差付与処理のいずれか又は組合せとすることができる。
【0019】
請求項5に係る本発明として、地表面に対する温度上昇抑制対策領域と、その未対策領域とを交互に形成したことを特徴とする熱環境空間の改善構造が提供される。
【発明の効果】
【0020】
以上詳説のとおり本発明によれば、地表面温度の上昇を抑制することにより空間の熱環境の改善を図ることが可能であるとともに、一様に温度上昇抑制対策を施した場合に比べて、気流の生成により歩行する人間に対してより高い快適さを与えることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
図1は本発明に係る空間の熱環境改善方法を示す概略平面図及びその横断面図である。
【0022】
本発明に係る空間の熱環境改善方法は、図1に示されるように、地表面に対する温度上昇抑制対策領域2,2…と、その未対策領域3,3…とを交互に形成するものである。この場合、「交互に形成」とは、例えば仮想的に引かれるライン上で、前記温度上昇抑制対策領域2と、前記未対策領域3とが交互に配置されておればよく、規則的であると不規則的であるとを問わない。代表的には、図1に示されるように、一定幅で交互に隣接するように配置する例や、図2(A)に示されるように、格子状に前記温度上昇抑制対策領域2と前記未対策領域3とを配置する例及び図2(B)に示されるように、同心円状に前記温度上昇抑制対策領域2と前記未対策領域3とを配置する例などを挙げることができる。更には、温度上昇抑制対策領域2を間隔を空けて波縞模様状に配置する例、任意平面形状の温度上昇抑制対策領域2を千鳥状に配置する例なども挙げることができる。
【0023】
前記温度上昇抑制対策領域2と前記未対策領域3とが交互に配置されることにより、前記温度上昇抑制対策領域2の空気が相対的に低温となり、前記未対策領域3の空気が相対的に高温となると、高温領域で暖められた空気が上昇し、それを補うように低温領域の空気が下降を起こし、高温領域に流れ込むように気流が生起されるようになる。このような温熱差によって生じる気流は、概ね0.15m/s程度であるが、既往の文献によれば、0.15m/s程度の気流により新有効温度を1℃ほど低減させることが可能となる。
【0024】
前記新有効温度とは、1971年に発表された理論〔参考文献;”温熱快適性”田辺新一、木村建一編、建築環境学1、丸善、1992,4〕に基づく体感温度であり、温熱環境に関連する6つの要因、(1)空気温度、(2)放射温度、(3)気流、(4)湿度、(5)着衣量、(6)代謝量によって計算される。発汗による蒸発熱損失を考慮している点に特徴があり、快適範囲を含む暑熱環境、寒冷環境の評価に用いることができる。図10に着衣量、相対湿度を固定値として、新有効温度に対する気流の影響を表したグラフを示すが、同図から気流速度が0.15m/s程度上昇すれば、新有効温度は1℃ほど低減できることが分かる。
【0025】
前記温度上昇抑制対策領域2及び未対策領域3は、後述する実施例で示されるように、対策領域及び未対策領域の基準ピッチが2mを超えたところから気流速度が上昇し、かつ温度低減効果が顕著となる傾向が見られるようになることから、前記温度上昇抑制対策領域2及び未対策領域3は、少なくとも2m以上の幅で形成するのが望ましい。
【0026】
また、前記温度上昇抑制対策領域2、2…及びその未対策領域3、3…の分割数は少なくとも4以上、すなわち前記温度上昇抑制対策領域を2区分以上とするとともに、前記未対策領域3を2区分以上とするのが望ましい。後述の実施例に示されるように、分割数が4未満の場合は、風速及び温度のバラツキが大きくなり、風速が上がった領域及び温度が下降した領域ではより快適さが得られるようになるが、逆に風速が低下した領域及び温度が上昇した領域で不快感が増すようになるため好ましくない。
【0027】
前記温度上昇抑制対策としては、例えば給水による地表面の湿潤対策、保水性舗装、遮熱性舗装、地表面への散水、明度差付与処理のいずれか又は組合せとすることができる。
【0028】
前記給水による地表面の湿潤対策とは、例えば地盤内に給水管を埋設し、この給水管に供給される水を、直接的または導水シート等を介して地盤内に供給し、地表面を湿潤状態に保つ工法である。この工法は、人為的に水を供給する工法であるため、晴天が続く場合でも給水を枯らすことなく安定的に供給できる利点を有する。
【0029】
保水性舗装は、舗装体内部に保水層を有する舗装構造としたものであり、一般的には開粒度アスファルト混合物の混合物層の空隙に吸水・保水性能のある材料を充填した舗装構造や、コンクリートに吸水・保水能力のある材料を練り混ぜるか充填した舗装構造、更には吸水・保水能力を有する舗装用ブロックを敷設する舗装構造などを挙げることができる。
【0030】
前記遮熱性舗装は、太陽エネルギーの約50%を占めるといわれる近赤外線を効率的に反射する遮熱性塗料を路面に塗工することにより、路面温度の上昇を抑制し舗装体への蓄熱を減らすようにするものである。
【0031】
前記地表面への散水は、散水設備を地盤内に設備し、所定の時間毎、所定の領域に散水を行うことにより、水が蒸発する際に周囲の熱を気化潜熱として吸熱することにより、舗装表面の熱が水分の蒸発と共に放出されて地表面温度を低減させるものである。
【0032】
前記明度差付与処理とは、温度上昇抑制対策領域2の表面に、白色系塗料など明度の高い塗料を塗工することにより未対策領域3との間に明度差を設けるようにする処理である。前記温度上昇抑制対策2領域における熱吸収量を低減することにより地表面温度の低減を図るものである。
【0033】
上記空間の熱環境改善方法は、車道、歩道、駐車場、広場、園路、野球場、サッカー場の芝生、陸上競技場のトラック、屋上緑化地盤など広範な場所に適用が可能である。
【実施例】
【0034】
本発明に係る空間の熱環境改善方法について、モデル解析によって、温度上昇抑制対策領域2のパターンと、気流発生及び温度変化との相関性について検証を行った。
【0035】
1.解析概要
解析概要は下表1に示される通りとし、解析モデルは図3に示されるように、幅20m、高さ6mの空間を想定し、両側に壁面を設定し、上面は熱の出入りを自由な境界面とし、下面(舗装面)は下表2に示すように、温度上昇抑制対策領域と未対策領域との分割数を変えたケース1〜9,11〜14を設定した。前記温度上昇抑制対策領域は高温部として温度30℃に設定し、未対策領域は低温部として温度50℃に設定した。また、舗装面の熱伝達率は20[W/m2K]とした。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
2.解析結果
以上の試験結果について、生起された気流の風速分布を図4及び図5に示し、温度分布を図6及び図7に示す。なお、温度分布は基準温度[30℃]からの相対差で表した。また、1.5m高さ位置での風速分布を整理した結果を図8に示すとともに、1.5m高さ位置での温度分布を整理した結果を図9に示す。
【0039】
以上の試験結果から下記の知見が得られた。
【0040】
〈風速について〉
(1)温度上昇抑制対策領域と未対策領域とを交互に配置することにより、平均値で概ね0.13m/s〜0.18m/sの風速が生起できることが判明した。
(2)基準ピッチが2mを超えると風速が急激に上昇する結果となった。従って、温度上昇抑制対策領域と未対策領域とは、少なくとも2m以上の幅で形成することが望ましいことが判明した。
(3)基準ピッチが5m(分割数:4)を超えると、最大値と最小値とのバラツキが大きくなる結果となった。従って、温度上昇抑制対策領域及び未対策領域の分割数は少なくとも4以上とするのが望ましいことが判明した。
【0041】
〈温度について〉
(1)温度上昇抑制対策領域と未対策領域とを交互に配置することにより、平均値で概ね基準温度から上昇量を1℃以下とできることが判明した。
(2)基準ピッチが2mを超えると温度が急激に下降する結果となった。従って、温度上昇抑制対策領域と未対策領域とは、少なくとも2m以上の幅で形成することが望ましいことが判明した。
(3)基準ピッチが5m(分割数:4)を超えると、最大値と最小値とのバラツキが大きくなる結果となった。従って、温度上昇抑制対策領域及び未対策領域の分割数は少なくとも4以上とするのが望ましいことが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る空間の熱環境改善方法を示す、(A)は概略平面図、(B)は横断面図である。
【図2】温度上昇抑制対策領域2の配置パターン例を示す図である。
【図3】解析モデル図である。
【図4】解析結果に係る風速分布図(その1)である。
【図5】解析結果に係る風速分布図(その2)である。
【図6】解析結果に係る温度分布図(その1)である。
【図7】解析結果に係る温度分布図(その2)である。
【図8】風速分布を整理した風速−基準ピッチのグラフである。
【図9】温度分布を整理した温度−基準ピッチのグラフである。
【図10】気流の影響を示した新有効温度−室温グラフである。
【図11】アスファルト舗装及び保水性舗装の温度時刻歴図である。
【図12】アスファルト舗装及び保水性舗装の空間温度分布図である。
【符号の説明】
【0043】
2…温度上昇抑制対策領域、3…未対策領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地表面に対する温度上昇抑制対策領域と、その未対策領域とを交互に形成したことを特徴とする空間の熱環境改善方法。
【請求項2】
前記地表面に対する温度上昇抑制対策領域及びその未対策領域は、少なくとも2m以上の幅で形成してある請求項1記載の空間の熱環境改善方法。
【請求項3】
前記地表面に対する温度上昇抑制対策領域及びその未対策領域の分割数は少なくとも4以上とする請求項1〜2いずれかに記載の空間の熱環境改善方法。
【請求項4】
前記地表面に対する温度上昇抑制対策は、給水による地表面の湿潤対策、保水性舗装の施工、遮熱材料の塗工による舗装表面処理、地表面への散水、明度差付与処理のいずれか又は組合せとする請求項1〜3いずれかに記載の空間の熱環境改善方法。
【請求項5】
地表面に対する温度上昇抑制対策領域と、その未対策領域とを交互に形成したことを特徴とする熱環境空間の改善構造。
【請求項1】
地表面に対する温度上昇抑制対策領域と、その未対策領域とを交互に形成したことを特徴とする空間の熱環境改善方法。
【請求項2】
前記地表面に対する温度上昇抑制対策領域及びその未対策領域は、少なくとも2m以上の幅で形成してある請求項1記載の空間の熱環境改善方法。
【請求項3】
前記地表面に対する温度上昇抑制対策領域及びその未対策領域の分割数は少なくとも4以上とする請求項1〜2いずれかに記載の空間の熱環境改善方法。
【請求項4】
前記地表面に対する温度上昇抑制対策は、給水による地表面の湿潤対策、保水性舗装の施工、遮熱材料の塗工による舗装表面処理、地表面への散水、明度差付与処理のいずれか又は組合せとする請求項1〜3いずれかに記載の空間の熱環境改善方法。
【請求項5】
地表面に対する温度上昇抑制対策領域と、その未対策領域とを交互に形成したことを特徴とする熱環境空間の改善構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−39873(P2007−39873A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−198778(P2005−198778)
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(595013690)
【出願人】(000172813)佐藤工業株式会社 (73)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(595013690)
【出願人】(000172813)佐藤工業株式会社 (73)
【Fターム(参考)】
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