説明

突起型前案内部を有するブローチ工具

【課題】 前加工で加工された加工歯のひずみや誤差があっても、容易に芯だし及び周方向の位置決めが容易な突起型前案内部を有するブローチ工具を提供。
【解決手段】 ブローチ工具1に前案内部7と、前案内部の外周面22に突起案内部6を設ける。突起案内部は、外側案内面20、側面部21、外側傾斜部23、側面傾斜部24を設ける。側面傾斜部と側面部との側面接続線25の位置を外側案内面と外側傾斜部との外側接続線26の位置より後方に位置するようにする。外側傾斜部は、1段又は2段の段付き形状とする。又は外側傾斜部、側面傾斜部を曲面とする。さらに、突起部は前案内部の外周等分に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、棒状の本体の軸方向に多数の切れ刃を有するブローチ工具に関し、仕上げブローチやバリ取りブローチ等の前案内部に被加工物の荒加工されたキー溝、歯車、スプライン溝等に嵌合する突起型案内部を有するブローチ工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、内歯車加工用ブローチ工具は、前つかみ部、テーパ面を有する円筒状の前案内部、荒仕上げ切れ刃部、中仕上げ切れ刃部、仕上げ切れ刃部、後案内部、後つかみ部が順次設けられている。被加工物の前加工穴に前つかみ部を挿通させ、テーパ部で芯だしをしながら前案内部を被加工物の前加工穴に嵌合させ、ワークとブローチとの芯だしを行う。さらに、ブローチ工具を引き抜くことにより、順次前加工穴を切れ刃で徐々に切削し、内歯車を形成する。
【0003】
しかし、熱処理後の高硬度材の熱処理変形や、フライス等の前加工によるバリ等を修正あるいは除去するため、ブローチによる仕上げ加工を行う場合がある。あるいは、自動車の動力伝達変速歯車装置の走行中のギア抜け防止用の外歯スプライン(外歯歯車)にテーパ歯すじ嵌合する内歯スプライン(内歯歯車)の場合は、ブローチやピニオンカッタ等で予め荒歯切りされ、リードパンチャや、外周に多数の歯筋方向のテーパ歯を形成したローリングツール(特許文献1)による転造加工されたものをさらに仕上げブローチで行っている。かかる場合は、仕上げあるいはバリ取りブローチ加工においては、芯だしのみではなく、回転方向の位置決めも必要となる。
【0004】
そこで、特許文献2の場合は、前案内部の円筒部の外周面にワークの前加工されたスプライン溝に嵌合可能な突起案内部を長手方向に等分に配置している。突起案内部の先端側につかみ部に向かって幅方向及び高さ方向が漸減(後方に向かって漸増)する傾斜部を設け(例えば四角錐柱を軸方向に二等分し、本体側に軸方向に取り付けたような形状)、芯だし及び周方向の位置決めを行い、高硬度材の仕上げ加工を行っている。
【0005】
また、特許文献3の押しブローチでは、切れ刃の両側にワークのスプライン穴を案内する案内部を設けている。前側の案内部には先端側に傾斜部を設け、後側の案内部には先端側及び後端側の両側に傾斜部を設け、バリ取り、バニッシュ加工を行っている。
【0006】
一方、特許文献4は切れ刃の後方側に塑性仕上げ刃を有しているものである。この塑性仕上げ刃は、切れ刃がなく、前傾斜面、上傾斜面、後鉛直面、左右アプローチ面、左右のストレートランド部から形成されている。このアプローチ面とストレートランド部を切削刃で切削された歯の歯厚面を押し広げることによりワーク歯の塑性加工をしている。そして、左右アプローチ面が周方向の位置決め及び塑性加工を行っていく間、前傾斜面及び上傾斜面は、前方切れ刃で加工された歯底部に嵌合して径方向の移動を押さえている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実用新案登録第2547999号公報
【特許文献2】特開2004−130484号公報
【特許文献3】特開2006−334705号公報
【特許文献4】特開2008−161971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来熱処理ひずみや、前加工バリ、転造ひずみがあるものは、前加工歯の誤差、歯面の盛り上がりのばらつきが大きい。このため、ワーク側の溝等と案内部との嵌合隙間を大きめに設定するため、芯だし及び周方向位置決め精度が悪いという問題があった。また、ワークが軸方向にまっすぐに挿入されず加工不良を発生する等の問題があった。一方、特許文献4の前傾斜面、上傾斜面は、周方向の塑性加工中の径方向の移動を押さえるもので、前傾斜面の傾斜勾配が60度を超え垂直に近く、かかる芯だし効果は期待できない。本発明の課題は、かかる問題点に鑑みて、前加工で加工された加工歯のひずみや誤差があっても、容易に芯だし及び周方向の位置決めが容易な突起型前案内部を有するブローチ工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明においては、前案内部と、前記前案内部の外周面に突設され軸方向に延びる突起案内部と、を有するブローチ工具において、前記突起案内部は、径方向高さが軸方向に一定にされた外側案内面と、前記外側案内面の両側にそれぞれ形成された側面部と、前記外側案内面の前部に設けられ径方向の案内をする外側傾斜部と、前記側面部の前部に設けられかつ前記外側案内面の一部及び前記外側傾斜部に沿って形成され周方向の案内をする側面傾斜部と、を有し、前記側面傾斜部と前記側面部との側面接続線の位置が、前記外側案内面と前記外側傾斜部との外側接続線の位置より後方に位置するようにされている突起型前案内部を有するブローチ工具を提供することにより前述した課題を解決した。
【0010】
即ち、側面接続線の位置が、外側(径方向)接続線の位置より後方に位置するようにしているので、まず、外側傾斜部がワーク側案内溝の底部に沿って徐々に嵌合して芯だしが行われる。このとき、周方向側は、まだ位置決めが完了していない。次いで、側面傾斜部がワーク側案内溝の歯面に沿って徐々に嵌合して周方向位置決めが行われる。特に、前加工でひずみが小さい部分や盛り上がりがない部分、バリ等が少ない部分は径方向の溝底になる。一方、歯面は、誤差やばらつきが大きい。したがって、径方向の芯だしを最初に行い、その後、周方向の位置決めを行うことにより、より精度の高い芯だし、位置決めをおこなうことができるのである。
【0011】
外側傾斜部のブローチ軸に対する傾斜角は小さい方がよい。しかし、側面接続線の位置は外側接続線の位置より後方となるので、嵌合長さを確保しようとすると、接続線のずれ量がそのままブローチ長さの増大となる。そこで、請求項2に記載の発明においては、前記外側傾斜部は、1段又は2段の段付き形状とされている突起型前案内部を有するブローチ工具とした。
【0012】
また、請求項3に記載の発明においては、前記外側傾斜部又は側面傾斜部は曲面とした。さらに、請求項4に記載の発明においては、前記ブローチは内歯歯車仕上げブローチ工具であり、前記突起部を筒状の前記前案内部等分に配置した。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、突起案内部を有するブローチ工具の側面接続線の位置を外側接続線の位置より後方に位置させ、まず、誤差や盛り上がりバリ等の少ない歯底に嵌合する外側傾斜部で芯だしし、次いで、誤差や盛り上がりバリ等がある歯面に対し。側面傾斜部で周方向位置決めが行われるようにしたので、径方向の芯だしが確実となり、周方向の位置決め精度があがり、ワークの傾きも減少し、精度の高い仕上げブローチ加工を提供するものとなった。
【0014】
また、請求項2に記載の発明においては、前記外側傾斜部は、1段又は2段の段付き形状として、外側傾斜部の長さを短くしたので、ブローチ長さを長くすることなく従来と同一形状を容易に確保できる。また、傾斜部を直線でなく曲線にすることにより、スムースな芯だし及び周方向位置決めができる。さらに、請求項4に記載の発明においては、突起部を前案内部の外周等分に配置できるので、従来の仕上げブローチに即適用でき、精度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第一の実施の形態を示す突起案内部の(a)は部分拡大平面図、(b)は部分拡大側面図である。
【図2】本発明の第二の実施の形態を示す突起案内部の(a)は部分拡大平面図、(b)は部分拡大側面図である。
【図3】本発明の第三の実施の形態を示す突起案内部の(a)は部分拡大平面図、(b)は部分拡大側面図である。
【図4】本発明の突起案内部を有するブローチ工具の一部を切り欠いた側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。前述した特許文献2の高硬度材の仕上げ用超硬ブローチ工具に適用した場合について述べる。ブローチ工具1には、図4に示すように、前つかみ部2が先端に設けられた合金鋼からなる棒状本体3に、切れ刃4の付いた筒状の切れ刃本体5と、突起案内部6が設けられた切れ刃を有しない中空の前案内部7が順次差し込まれ、棒状本体の後ろつかみ部8の前側端面8aと、ダブルナット9,9間に挟持固定されている。ワーク穴に前つかみ部2を挿入して引き抜き、ワーク内面の仕上げ加工を行う。
【0017】
前案内部は、被加工物の最小内径よりやや小さくされた外径の円筒部10と前つかみ部2側に縮径される構造の前傾斜(テーパ)部11を有する。円筒部10の外周面にはワークのスプライン溝に嵌合可能な突起案内部6が長手方向に等分に設けられている。切れ刃本体5は、突起案内部6と同位相の芯あわせのための本体側案内部12と後方に向かって刃丈が漸増する多数の切れ刃4が設けられている。
【0018】
本発明の第一の実施の形態においては、図1に示すように、突起案内部6は、切れ刃方向に延びる高さが軸方向に一定の外側案内面20と、外側案内面の両側にそれぞれ形成された側面部21とが設けられている。外側案内面は周方向に円を描く(ワークの歯底円径)。さらに、外側案内面20の前部に外周面22に接続し切れ刃方向に幅が漸増する外側傾斜部23が設けられている。また、側面部21の前部に外周面22に接続しかつ外側傾斜部23に沿って形成され切れ刃方向に側面幅が漸増する側面傾斜部24が設けられている。
【0019】
側面傾斜部24と側面部21との接続線25の位置が、外側案内面20と外側傾斜部23との接続線26の位置より切れ刃本体5方向(後方)に位置するようにされている。外側傾斜部の傾斜角度はブローチ軸方向に対して45度以下、好ましくは30度以下である。
【0020】
かかる突起案内部6において、まず、テーパ部11に沿っておおよその芯だしが行われる。次に、ワーク歯溝底と外側傾斜部23とが徐々に嵌合して、外側傾斜部に沿って径方向の芯だしが行われる。同時に、ワーク溝歯面と径方向に側面傾斜部24とが徐々に嵌合して、側面傾斜部に沿って徐々に周方向に位置決めが行われる。しかし、接続線25の位置が接続線26の位置より後方に位置しているので、芯だし動作が完了するまでは、周方向の位置決めは完了しない。
【0021】
即ち、ワークの歯溝底側は、前加工でひずみが小さく、又は盛り上がりが少なく、バリ等も少ない。この歯溝底にそって外側傾斜部23が径方向に漸増して外側案内面20と嵌合する。これにより、精度の高い芯だしが行われる。芯だしがしっかりできるので、誤差等の多い歯面の周方向の位置決めは、芯だしがおこなわれてから側面傾斜部24でさらに案内され、側面部21で位置決めが行われる。このため、精度の高い位置決めを可能とした。
【0022】
なお、円筒部10の外周面22の外径は、ワークの内径(谷径、歯先円径)に嵌合させるが、ワークの内径の精度が悪い場合には、充分な隙間を与える。しかし、ワーク歯溝底と外側案内面で、誤差やばらつきの小さい芯だしがおこなわれるので、かかる隙間の影響を受けることが少ないので、精度の高い芯だし、位置決めをおこなうことができるのである。
【0023】
本発明の第二の実施の形態について説明する。図2は第二の実施の形態を示す突起案内部61の斜視図である。第一の実施の形態とは外側傾斜部が異なる。なお、前述した第一の実施の形態と同じ部分については、同符号を付し説明の一部を省略する。本実施の形態においては、外側傾斜部33を二段としたものである。芯だしに重要な外側案内面20側の外側傾斜部34の傾斜角度を緩やかにし、精度のいらない外側傾斜部の先端側35の傾斜角度を大きくする。これにより、周方向の接続線25の位置を従来と同じとし、ブローチ全体長さを制限できる。
【0024】
本発明の第三の実施の形態について説明する。図3は第三の実施の形態を示す突起案内部62の斜視図である。第二の実施の形態では、外側傾斜部43を外側に凸状の曲線とした。なお、前述した第一、第二の実施の形態と同じ部分については、同符号を付し説明の一部を省略する。本実施の形態においては、外側傾斜部43を外側に凸状の曲線としたものである。立ち上がり傾斜角度を最大とし外側案内面20に近づくにしたがって傾斜角度が漸減するようにされている。図2、3では、外側傾斜部33、43の最終角度は15度程度として、接続線が明確になるように図示しているが、最終傾斜角度を0度としてもよい。また、平均傾斜角度で45度以下好ましくは30度以下とするとよい。
【0025】
以上の説明においては、熱処理後の高硬度材のブローチ工具に適用した例を述べたが、押しブローチや、一般的なブローチ工具にも適宜適用できる。また、突起案内部は等分に設けているが、1箇所でもより多くの箇所に設けても、不等分であっても良い。また、外側案内面や、外側傾斜面の径方向断面では円弧としているが直線等でもよい。さらに、突起案内部の長さも適宜設定されることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0026】
1 ブローチ工具
6、61、62 突起案内部
7 前案内部
20 外側案内面
21 側面部
22 外周面
23、33、43 外側傾斜部
24 側面傾斜部
25 側面接続線
26 外側接続線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前案内部と、前記前案内部の外周面に突設され軸方向に延びる突起案内部と、を有するブローチ工具において、前記突起案内部は、径方向高さが軸方向に一定にされた外側案内面と、前記外側案内面の両側にそれぞれ形成された側面部と、前記外側案内面の前部に設けられ径方向の案内をする外側傾斜部と、前記側面部の前部に設けられかつ前記外側案内面の一部及び前記外側傾斜部に沿って形成され周方向の案内をする側面傾斜部と、を有し、前記側面傾斜部と前記側面部との側面接続線の位置が、前記外側案内面と前記外側傾斜部との外側接続線の位置より後方に位置するようにされていることを特徴とする突起型前案内部を有するブローチ工具。
【請求項2】
前記外側傾斜部は、1段又は2段の段付き形状とされていることを特徴とする請求項1記載の突起型前案内部を有するブローチ工具。
【請求項3】
前記外側傾斜部又は側面傾斜部は曲面とされていることを特徴とする請求項1記載の突起型前案内部を有するブローチ工具。
【請求項4】
前記ブローチは内歯歯車仕上げブローチ工具であり、前記突起部は筒状の前記前案内部の外周等分に配置されている請求項1又は2又は3記載の突起案内部を有するブローチ工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−18085(P2013−18085A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153494(P2011−153494)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000005197)株式会社不二越 (625)
【Fターム(参考)】