説明

突起形成冶具および突起形成方法

【課題】狭隘な作業環境でも板材の片面からの容易な作業で、規定量の突起形成が行なえる突起形成冶具および突起形成方法を提供する。
【解決手段】シャフトが設けられた受け側部品と、この受け側部品に対向して配置され前記シャフトが貫通する孔部を有する可動側部品を備え、前記受け側部品と可動側部品の対抗面に板材を挟んで前記可動側部品をシャフトに沿って移動させることにより、板材に突起を形成する突起形成冶具において、前記シャフトは先端側にネジ部と、このネジ部にシャフトの軸方向に伸びる案内溝が設けられ、前記可動側部品の孔部は前記案内溝に嵌合する嵌合片が設けられ、前記可動側部品を貫通した前記シャフトのネジ部に螺合したナットを回転させることにより、前記可動側部品を前記受け側部品に押圧することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塑性変形により板材へ突起を形成する冶具および突起形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気集塵装置においては、図1の断面図に示すように、ケーシング2にガスの流れに沿って交互に吊り下げ配置された放電極4と集塵極5の間に、入口ダクト1から出口ダクト3を流通する含塵ガスを流し、該放電極と集塵極間のコロナ放電によって含塵ガスを荷電し、この荷電したダストをクーロン力によって前記集塵極に捕集する。上記集塵極5として、図2に示すように、上下を部材8で支持された複数の長尺状集塵板6を同一面内に多数配列した構造のものが使用されている場合、ガスの流通に伴って上記集塵板6が振動する。そこで、隣接する集塵板6の側端部相互を連結具7によって連結して、該集塵板6の振動を抑制する技術が提案されている(特許文献1)。
【0003】
図3に示すように、連結具7は、両側の当て板部分8で隣接する集塵板6の端部を表裏から押さえ、集塵板6の隙間9を貫通するボルト10を締付けることにより、隣接する集塵板6を連結する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−152206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に示される集塵板の連結構造が、ボルト10の締付力による当て板部分8と集塵板6の端部とによる押圧摩擦によるため、長期のガス流通に伴う上記集塵板6の微動によってボルト10の締付力が次第に緩み、集塵板6の隙間9に沿って連結具7が落下する恐れがあった。連結具7が落下してしまうとその部分の振動抑制機能が失われ、集塵板6の振動が大きくなってしまう。この対策としては、連結具7の下に位置させて集塵板6にポンチなどで突起を形成し、落下しようとする連結具7をこの突起に引っ掛けて落下を防止することが考えられる。
【0006】
しかしながら、納入済みの電気集塵装置に上記突起を形成する場合、図1に示すように集塵極5と放電極4の間の15〜20cmの狭隘な隙間に作業者が入り込んで突起形成することになり、しかも、1台の電機集塵装置について1500〜2000個の連結具ついて作業を行なうので、作業環境の点で問題があった。一般的に板材へ突起を加工成形するには、ポンチとダイが用いられる。この方法では、納入済みの構造物の板材に対しては、板材の両面に人を配置する必要があり、人手がかかる他、ポンチを打つハンマー力により一定の突起量を確保することは難しい。また、市販の油圧パンチャーのような片持ち型では頑丈で大形となり、狭い場所では使用できない。
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点を解消し、狭隘な作業環境でも板材の片面からの容易な作業で、規定量の突起形成が行なえる突起形成冶具および突起形成方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明は、シャフトが設けられた受け側部品と、この受け側部品に対向して配置され前記シャフトが貫通する孔部を有する可動側部品を備え、前記受け側部品と可動側部品の対抗面に板材を挟んで前記可動側部品をシャフトに沿って移動させることにより、板材に突起を形成する突起形成冶具において、
前記シャフトは先端側にネジ部と、このネジ部にシャフトの軸方向に伸びる案内溝が設けられ、前記可動側部品の孔部は前記案内溝に嵌合する嵌合片が設けられ、前記可動側部品を貫通した前記シャフトのネジ部に螺合したナットを回転させることにより、前記可動側部品を前記受け側部品に押圧することを特徴とする。
【0009】
また、上記に記載の突起形成冶具において、前記受け側部品の板厚が前記可動側部品の板厚より薄く設定されていることを特徴とする。
【0010】
また、上記に記載の突起形成冶具において、前記受け側部品の板厚が先細り状に形成されていることを特徴とする。
【0011】
また、上記に記載の突起形成冶具において、前記受け側部品はシャフトを挟む両側に2ヶ所の成形面をもち、前記可動側部品は前記孔部を挟む両側に2ヶ所の成形面をもち、前記ネジ部に螺合したナットを回転させることにより、前記受け側部品と可動側部品の2ヶ所の成形面同士が接近することを特徴とする突起形成冶具。
【0012】
また、上記に記載の突起形成冶具において、前記受け側部品と可動側部品の成形面の一方に凹部を設け、他方に凸部を設けたことを特徴とする。
【0013】
また、上記課題を解決するため本発明は、上記先端側にネジ部とこのネジ部に案内溝を有するシャフトが設けられた受け側部品と、この受け側部品に対向して配置され前記シャフトが貫通する孔部を有する可動側部品を備え、前記可動側部品を貫通した前記ねじ部に螺合したナットを回転させることにより可動側部品がシャフトに沿って受け側部品側に移動するように構成された突起形成冶具による突起形成方法において、
板材の隙間に前記突起形成冶具を受け側部品側から差し込み、
前記受け側部品が板材の隙間を通過した位置で、突起形成冶具全体を所定の角度回転させることにより、受け側部品と可動側部品の各成形面を板材の表裏の加工位置に対向させ、
前記ネジ部のナットを回転することにより、前記可動側部品と受け側部品で板材を挟圧して突起を形成することを特徴とする。
また、上記に記載の突起形成方法において、前記突起形成冶具は前記受け側部品の板厚が前記可動側部品の板厚より薄く設定され、前記突起形成冶具を板材の隙間に差し込む際に前記受け側部品側から差し込むことを特徴とする。
【0014】
また、上記に記載の突起形成方法において、前記受け側部品はシャフトを挟む両側に2ヶ所の成形面をもち、前記可動側部品は前記孔部を挟む両側に2ヶ所の成形面をもち、前記ネジ部に螺合したナットを回転させることにより、前記受け側部品と可動側部品の2ヶ所の成形面同士が板材を挟圧することにより、板材の2ヶ所に同時に突起を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、狭隘な作業環境でも板材の片面からの簡単な作業で、規定量の正確な突起形成が行なえる。また、受け側部品と可動側部品に成形面を複数備えれば複数箇所の突起形成を同時に行えるので、さらに作業時間が短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】電機集塵装置の集塵極の構成を示す断面図。
【図2】同じく集塵板の構造を示す説明図。
【図3】同じく図2の一部を拡大して示す説明図。
【図4】本発明実施例の受け側部品と可動側部品の離間状態の突起形成冶具の正面図。
【図5】同じく受け側部品と可動側部品の密着状態の正面図。
【図6】同じく図5の平面図。
【図7】同じくシャフトのネジ部の断面と可動側部品の孔部の断面を示す説明図。
【図8】同じく突起形成冶具の板材の隙間への挿入状態を示す説明図。
【図9】同じく挿入後に突起形成冶具の回転させた状態の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図4〜図7は突起形成冶具の説明図である。19は突起形成冶具で、以下の構成からなる。
【0018】
30は板状で湾曲部37を有する形状で両端に成形面31を有し、中央にシャフト33が突設された受け側部品(受けダイ)で、成形面31には板材成形用の凹部32が設けられている。シャフト33は、先端側から途中までネジ部34が形成され、このネジ部34にシャフトの軸方向に伸びる案内溝35が設けられ、後述の可動側部品20を貫通したネジ部34にナット36が螺合する。
【0019】
20は上記受け側部品30に対向する可動側部品(パンチ)で、受け側部品と同様に板状で湾曲部27を有する形状で両端に成形面31を有し、成形面には板材整形用の突起22が設けられ、中央に上記シャフト33が貫通する孔部23(図7(b)参照)が形成されている。孔部23には、上記ネジ部34の案内溝35に嵌合する嵌合片24が設けられ、嵌合片24は案内溝35を摺動することにより、可動側部品20を回り止めしながらシャフトに沿って移動させ、受け側部品と可動側部品の成形面31、21を常時対向する位置に維持する。
【0020】
前記受け側部品30の湾曲部37および可動側部品20の湾曲部27は、板材の隙間を形成する端部に折り曲げ部(またはフランジ部)がある場合、この折り曲げ部(またはフランジ部)を跨って(避けて)各成形面31、21が板材の成形すべき面に接触できるようにするためのものである。
【0021】
図4に示すように、シャフト33が可動側部品20に貫通した状態で、シャフトの先端側のネジ部34にナットが螺合され、このナットを回転することにより可動側部品20を矢印方向に押圧して移動させる。図5は移動の結果、可動側部品20の成形面21と受け側部品30の成形面31が密着した状態を示す。この密着状態では突起22が凹部32に入り込んだ状態となり、板材が介在すると板材が凸部22によって凹部32に押し込まれ、塑性変形により突起が形成される。なお、25はナット26で可動側部品20を押圧するときの、可動側部品の強度を保つ補強部である。
【0022】
図6は、図5の密着状態の平面図で、T1は可動側部品20の板厚寸法、T2とT3は受け側部品30の板厚寸法である。受け側部品の板厚(T2、T3)は可動側部品の板厚(T1)より薄く(小さく)設定され(T1>T2)、また、受け側部品30の板厚では、先端側の板厚T3が可動側部品側の板厚T2より薄く(小さく)先細り状に設定される(T2>T3)。そして、図5に示すシャフト33の外径φは、受け側部品30の板厚T2と同等に設定される。実際の一例として例えば、T2とφを8.5mmに設定すれば、10mm程度の隙間に受け側部品30側から挿入することができる。そして、受け側部品30の先端側の板厚T3をさらに小さく(薄く)設定すれば、隙間への狙いの定めが容易で、突起形成冶具の挿入が極めて容易となる。
【0023】
上記構成からなる突起形成冶具19による、板材への突起形成手順について図8、図9に基いて説明する。図では板材として図3に示すように、縦向きの隙間9を介して隣接する集塵板6に突起を形成する手順を示している。
【0024】
先ず、図8に示すように突起形成冶具19の受け側部品30と可動側部品20を離間させて縦にした状態で、受け側部品30を先頭として隙間9に矢印方向に挿入する。このときの隙間9とは、図3に示す連結具7の下に位置する隙間9である。また、このときの離間距離Sは集塵板6の板厚より十分大きな値、または、集塵板6の端部に折り曲げ部(フランジ部)がある場合、折り曲げ部(フランジ部)の高さより大きな値とする。
【0025】
次いで、突起形成冶具19の矢印方向の挿入により、受け側部品30が集塵板の隙間9を通過した位置で挿入を停止し、突起形成冶具19の全体を矢印B方向に90°回転させて横向きにする。この状態は図9に示され、可動側部品20と受け側部品30の各成形面21と31がそれぞれ集塵板の表面と裏面で横向きになっており、集塵板の突起を形成すべき加工位置を挟んで対向している。
【0026】
次いで、ナット36を矢印Cの時計回りに回転させて手締めすることにより、可動側部品20と受け側部品30の各成形面で集塵板6を軽く挟持し、この状態で水平出しを行う。水平度が確認できたら、インパクトドライバ(図示せず)でナット36をさらに所定のトルクでねじ込み、可動側部品20と受け側部品30の各成形面21、31で集塵板6を挟圧し、集塵板6の所定場所に塑性変形による突起が形成される。このとき、トルク制御付のインパクトドライバを用いれば、突起の規定量を管理できると共に、シャフト33を痛めることがない。
【0027】
上記のようにして形成された突起は、図3に示す連結具7の下に位置させて設けられた1対の突起11で示される。突起11は、上記のように管理された規定量(連結具が落下しない規定高さ)で形成されるので、連結具7の締付が緩んでも、突起11で確実に防止することができる。
【0028】
上記の突起形成に際しては、隙間9を形成する集塵板6の端部に折り曲げ部(またはフランジ部)がある場合でも、前記受け側部品30の湾曲部37および可動側部品20の湾曲部27によって、この折り曲げ部(またはフランジ部)を跨って(避けて)、各成形面31、21が集塵板6の両面に接触できるので、突起形成の障害となることはない。
【0029】
また、可動側部品20と受け側部品30の両端の2ヶ所の各成形面21、31で、集塵板6を挟圧するので、シャフト33の両側に均等に張力が働くので、シャフト33に無理な曲げ力がかからず破損を防止できると共に、2ヶ所の突起を同時に形成することができ、能率的である。
【0030】
上記作業で突起を形成する場合、従来の1/4の作業時間で済み、例えば1500〜2000ヶ所の連結具7の下方に突起を設ける場合、約1週間の作業で済む。
【符号の説明】
【0031】
6…板材(集塵板)、9…隙間、11…突起、19…突起形成冶具、20…可動側部品、21…可動側部品の成形面、22…凸部、23…孔部、24…嵌合片、27…湾曲部、30…受け側部品、31…受け側部品の成形面、32…凹部、33…シャフト、34…ネジ部、35…案内溝、36…ナット、T1…可動側部品の板厚、T2、T3…受け側部品の板厚。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトが設けられた受け側部品と、この受け側部品に対向して配置され前記シャフトが貫通する孔部を有する可動側部品を備え、前記受け側部品と可動側部品の成形面に板材を挟んで前記可動側部品をシャフトに沿って移動させることにより、板材に突起を形成する突起形成冶具において、
前記シャフトは先端側にネジ部と、このネジ部にシャフトの軸方向に伸びる案内溝が設けられ、前記可動側部品の孔部は前記案内溝に嵌合する嵌合片が設けられ、前記可動側部品を貫通した前記シャフトのネジ部に螺合したナットを回転させることにより、前記可動側部品を前記受け側部品に押圧することを特徴とする突起形成冶具。
【請求項2】
請求項1に記載の突起形成冶具において、前記受け側部品の板厚が前記可動側部品の板厚より薄く設定されていることを特徴とする突起形成冶具。
【請求項3】
請求項1または2に記載の突起形成冶具において、前記受け側部品の板厚が先細り状に形成されていることを特徴とする突起形成冶具。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の突起形成冶具において、前記受け側部品はシャフトを挟む両側に2ヶ所の成形面をもち、前記可動側部品は前記孔部を挟む両側に2ヶ所の成形面をもち、前記ネジ部に螺合したナットを回転させることにより、前記受け側部品と可動側部品の2ヶ所の成形面同士が接近することを特徴とする突起形成冶具。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の突起形成冶具において、前記受け側部品と可動側部品の成形面の一方に凹部を設け、他方に凸部を設けたことを特徴とする突起形成冶具。
【請求項6】
先端側にネジ部とこのネジ部に案内溝を有するシャフトが設けられた受け側部品と、この受け側部品に対向して配置され前記シャフトが貫通する孔部を有する可動側部品を備え、前記可動側部品を貫通した前記ねじ部に螺合したナットを回転させることにより可動側部品がシャフトに沿って受け側部品側に移動するように構成された突起形成冶具による突起形成方法において、
板材の隙間に前記突起形成冶具を受け側部品側から差し込み、
前記受け側部品が板材の隙間を通過した位置で、突起形成冶具全体を所定の角度回転させることにより、受け側部品と可動側部品の各成形面を板材の表裏の加工位置に対向させ、
前記ネジ部のナットを回転することにより、前記可動側部品と受け側部品で板材を挟圧して突起を形成することを特徴とする突起形成方法。
【請求項7】
請求項6に記載の突起形成方法において、前記突起形成冶具は前記受け側部品の板厚が前記可動側部品の板厚より薄く設定され、前記突起形成冶具を板材の隙間に差し込む際に前記受け側部品側から差し込むことを特徴とする突起形成方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載の突起形成方法において、前記受け側部品はシャフトを挟む両側に2ヶ所の成形面をもち、前記可動側部品は前記孔部を挟む両側に2ヶ所の成形面をもち、前記ネジ部に螺合したナットを回転させることにより、前記受け側部品と可動側部品の2ヶ所の成形面同士が板材を挟圧することにより、板材の2ヶ所に同時に突起を形成することを特徴とする突起形成方法。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれかに記載の突起形成方法において、前記受け側部品と可動側部品の成形面の一方に凹部を設け、他方に凸部を設けたことを特徴とする突起形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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