説明

立て起こし装置および重量部材の立て起こし方法

【課題】重量部材を立て起こし、取付位置に移動させることができる立て起こし装置を提供すること。
【解決手段】横並びに配置された一対の架台台車1と、一対の架台台車1のそれぞれの一端部および他端部にそれぞれ立設され、動力によって伸縮するブーム2と、一方の架台台車1に立設された一対のブーム2と他方の架台台車1に立設された一対のブーム2とをそれぞれ接続する一対のビーム3と、一対のビーム3に架設され、架台台車1から突出したレール4と、レール4にガイドされ、レール上を移動可能な一対のトロリ付きチェーンブロック5とを備えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工事中の建屋内において使用され、PC壁、鋼製耐震壁などの重量部材を立て起こし、移動させる立て起こし装置、および工事中の建屋内において重量部材を立て起こし、移動させる重量部材の立て起こし方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図6および図7は、フロアークレーンを用いたPC壁の立て起こし作業を説明する図である。図6および図7に示すように、工事中の建屋内において使用され、PC壁、鋼製耐震壁などの重量部材を立て起こし、重量部材を取付位置に移動させるフロアークレーン100が知られている。フロアークレーン100は、自走式の走行台車101と、斜め側方に張り出し、走行台車101を支持するアウトリガー102と、旋回可能、かつ起伏可能に設けられた伸縮ブーム103と、伸縮ブーム103の先端から繰り出されたワイヤ104を巻き上げる巻上装置(図示せず)とを備えている(たとえば、非特許文献1参照)。一方、立て起こされるPC壁Hは、平床台車Dに搭載されて搬送される。PC壁Hの一端側と他端側とには、吊り治具Zが取り付けてあり、建屋を構成する躯体にPC壁Hを取り付けた後に、PC壁Hから取り外すようになっている。そして、上述したフロアークレーン100を用いてPC壁Hを立て起こす場合には、図6に示すように、一端側に取り付けた吊り治具Zを用いてPC壁Hを吊り上げることになる。このように、立て起こされたPC壁Hは、フロアークレーン100によって取付位置に搬送され、他端に取り付けた吊り治具Zを介錯することによって、取付姿勢が調整される。
【0003】
図8および図9は、油圧リフターを用いたPC壁の立て起こし作業を説明する図である。図8および図9に示すように、工事中の建屋内において使用され、PC壁、構成耐震壁などの重量部材を立て起こし、重量部材を取付位置に移動させる油圧リフター200が知られている。油圧リフター200は、左右一対の台車201と、これら台車201の中央に起立するように設けられた伸縮可能なブーム202と、ブーム202を相互に接続するビーム203と、ビーム203の中央に設けられたチェーンブロック204とを備えている。一方、立て起こされるPC壁Hは、平床台車Dに搭載されて搬送される。PC壁Hの一端側と他端側とには、吊り治具Zが取り付けてあり、建屋を構成する躯体にPC壁Hを取り付けた後に、取り外すようになっている。そして、上述した油圧リフター200を用いてPC壁Hを立て起こす場合には、図8に示すように、取付位置の近傍まで搬送した後、一端側に取り付けた吊り治具Zを用いてPC壁Hを吊り上げることになる。このように立て起こされたPC壁Hは、他端に取り付けた吊り治具Zを介錯することによって、取付姿勢が調整される。
【0004】
【非特許文献1】株式会社前田製作所、“外壁ユニット施工用フロアークレーン”、[online]、[平成20年11月5日検索]、インターネット<URL:http://www.maesei.co.jp/new07/pdf/mc-283cf.pdf>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、フロアークレーン100を用いてPC壁Hを立て起こす場合には、PC壁Hの重量が500kg〜2tと重いため、フロアークレーン100の容量も大きなものが必要となる。また、PC壁Hとフロアークレーン100の自重による反力が大きなものとなり、スラブ耐力を超えてしまうこともある。さらに、上述したフロアークレーン100は、アウトリガー102を斜め側方に張り出して走行台車を支持するため、図7に示すように、躯体柱近傍にPC壁を搬送できない(フロアークレーンが転倒する)場合がある。
【0006】
また、油圧リフター200を用いてPC壁Hを立て起こしても、図9に示すように、台車201が躯体柱や取り付けたPC壁Hに干渉するので、PC壁Hを取付位置に移動させることができない(作業員による介錯によって移動させると、油圧リフターが転倒する場合がある)。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、PC壁、鋼製耐震壁などの重量部材を立て起こし、重量部材を取付位置に移動させることができる立て起こし装置および重量部材の立て起こし方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、横並びに配置された一対の架台台車と、一対の架台台車のそれぞれの一端部および他端部にそれぞれ立設され、動力によって伸縮するブームと、一方の架台台車に立設された一対のブームと他方の架台台車に立設された一対のブームとをそれぞれ接続する一対のビームと、一対のビームに架設され、架台台車から突出したレールと、該レールにガイドされ、レール上を移動可能な一対のチェーンブロックとを備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、上記発明において、建屋内でブームを伸張した場合に躯体と当接する部位に躯体を養生する柔材を配設したことを特徴とする。
【0010】
本発明は、重量部材を吊り上げる吊り上げ工程と、架台台車に立設され、動力によって伸縮するブームを伸張させることにより、ブームを躯体に突っ張らせる突っ張り工程と、重量部材を立て起こす立て起こし工程と、立て起こした重量部材を取付位置に移動させる移動工程とを含んだことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる立て起こし装置は、ブームを伸張させることにより、ブームを躯体に突っ張らせた後、立て起こした重量部材を取付位置に移動させれば、取付位置が躯体柱近傍であっても重量部材を移動させることができる。
【0012】
本発明にかかる重量部材の立て起こし方法は、ブームを伸張させることにより、ブームを躯体に突っ張らせたのち、立て起こした重量部材を取付位置に移動させるので、立て起こし装置が転倒することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明にかかる立て起こし装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0014】
図1および図2は、本発明の実施の形態である立て起こし装置を説明する図である。本実施の形態である立て起こし装置は、工事中の建屋内において使用され、PC壁、構成耐震壁などの重量部材を立て起こし、移動させるものであって、ここでは、立て起こす重量部材として、PC壁Hを例に説明する。
【0015】
立て起こすPC壁Hは、上述したPC壁Hと同様に、平床台車Dに搭載されて搬送される。また、上述したPC壁Hと同様に、PC壁Hの一端側と他端側とには、吊り治具Zが取り付けてあり、建屋を構成する躯体にPC壁Hを取り付けた後に、PC壁Hから取り外すようになっている。
【0016】
立て起こし装置は、横並びに配置された一対の架台台車1を備えている。架台台車1は、PC壁Hを取付作業位置まで移動させるためのものであって、一端部下面と他端部下面とに回転自在な車輪11を備えており、無軌道走行が可能となっている。なお、架台台車1は、人力によって移動させられるものであってもよいし(図3参照)、動力によって移動させられるものであってもよい。
【0017】
一対の架台台車1のそれぞれの一端部および他端部(車輪の直上)には、ブーム2がそれぞれ立設されている。ブーム2は、油圧や電力などの動力によって伸縮するテレスコープ型のものであって、本実施の形態である立て起こし装置は、三段階に伸縮する三段式のブーム2が採用されている。また、これら四本のブーム2は同期して伸縮するようになっており、四本のブーム2が略同一の速度で伸張し、略同一の速度で収縮するようになっている。なお、ブーム2は、施工階の階高によって任意の段数のものを採用可能であって、三段式のものに限られるものではない。
【0018】
立て起こし装置は、一方の架台台車1に立設された一対のブーム2と他方の架台台車1に立設された一対のブーム2とを接続する一対のビーム3を備えており、架台台車1は、自立するようになっている。
【0019】
一対のビーム3の下面には、レール4が架設されている。レール4は、側方に延出するフランジを有し、トロリ付きのチェーンブロック5(二つ)が移動可能にガイドされるようになっている。また、レール4の両端は、架台台車1の前方および後方から突出しており、チェーンブロック5が架台台車1からはみ出せるようになっている。
【0020】
また、一対のビーム3のそれぞれ一端部と他端部とには、柔材6が配設してある。柔材6は、躯体を傷つけないように養生するとともに、ビーム3が滑らないようにするためのもので、たとえば、ゴムのような弾性体により構成されている。
【0021】
図3〜図5は、本発明の実施の形態である立て起こし装置を用いた立て起こし作業を説明する図であって、図3は搬送工程を説明する図、図4は揚重工程を説明する図、図5は立て起こし工程を説明する図である。
【0022】
上述した立て起こし装置およびPC壁Hが搭載された平床台車Dは、建屋内に設置された仮設エレベータE(図2参照)により施工階まで揚重される。そして、PC壁Hが搭載された平床台車Dが整列された荷取り位置において、PC壁Hの一端側に取り付けられた吊り治具Zと、他端側に取り付けられた吊り治具Zとがトロリ付きのチェーンブロック5に玉掛けされ、チェーンブロック5によってPC壁Hを吊り上げる(吊り上げ工程)(図3参照)。PC壁Hを吊り上げると、図3に示すように、人力によってもしくは動力を用いて立て起こし装置を取付作業位置まで移動させることにより、PC壁Hが取付作業位置まで搬送される。
【0023】
つぎに、動力によってブーム2を伸張させることにより、図4に示すように、ブーム2を上階躯体に突っ張らせる(突っ張り工程)。このとき、柔材6が上階躯体に当接するので、上階躯体が傷つくこともなければ、ビーム3が滑ることもない。また、図4に示すように、ブーム2の伸張に伴ってPC壁Hが揚重される。
【0024】
つぎに、トロリ付きチェーンブロック5のチェーンの長さを調整しながらPC壁Hを立て起こし(立て起こし工程)、トロリ付きチェーンブロック5をレール4の端部まで移動させることにより、PC壁Hを取付位置まで移動させる(移動工程)。そして、取付位置まで移動させられたPC壁Hは、躯体梁に取り付けられる。
【0025】
躯体梁にPC壁Hが取り付けられると、PC壁Hの一端側と他端側とに取り付けられた吊り治具Zからフックを取り外し、トロリ付きチェーンブロック5を所定の位置まで戻す。
【0026】
そして、ブーム2を収縮させることにより、上階躯体から切り離し(縁切り)、立て起こし装置を走行可能にする。その後、立て起こし装置を荷取り位置まで移動させる。
【0027】
以上の工程を繰り返すことにより、施工階におけるPC壁Hの立て起こし作業が完了すると、仮設エレベータ(図2参照)を用いることにより、立て起こし装置を次の施工階に揚重するとともに、取り付けるPC壁Hを当該次の施工階に揚重する。
【0028】
上述した実施の形態である立て起こし装置は、ブーム2を上階躯体に突っ張らせた後、PC壁Hを立て起こし、その後、PC壁Hを取り付け位置に移動させるので、立て起こし装置が転倒することがない。
【0029】
ブーム2を上階躯体に突っ張らせることにより反力をとるので、フロアークレーン100などで必要なカウンタウェイトが不要となり、立て起こし装置を軽量なものとすることができる。したがって、躯体を補強する必要がない。
【0030】
レール4が架台台車1よりも突出しているので、架台台車1から離れた取付位置にPC壁Hを移動させることもできる。また、架台台車1と取付位置とが離れているので、架台台車1が取付作業の邪魔になることもない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態である立て起こし装置を説明する図である。
【図2】本発明の実施の形態である立て起こし装置を説明する図である。
【図3】本発明の実施の形態である立て起こし装置を用いたPC壁の搬送工程を説明する図である。
【図4】本発明の実施の形態である立て起こし装置を用いたPC壁の揚重工程を説明する図である。
【図5】本発明の実施の形態である立て起こし装置を用いたPC壁の立て起こし工程を説明する図である。
【図6】フロアークレーンを用いたPC壁の立て起こし作業を説明する図である。
【図7】フロアークレーンを用いたPC壁の立て起こし作業を説明する図である。
【図8】油圧リフターを用いたPC壁の立て起こし作業を説明する図である。
【図9】油圧リフターを用いたPC壁の立て起こし作業を説明する図である。
【符号の説明】
【0032】
1 架台台車
11 車輪
2 ブーム
3 ビーム
4 レール
5 トロリ付きチェーンブロック
6 柔材
D 平床台車
H PC壁
Z 吊り治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横並びに配置された一対の架台台車と、
一対の架台台車のそれぞれの一端部および他端部にそれぞれ立設され、動力によって伸縮するブームと、
一方の架台台車に立設された一対のブームと他方の架台台車に立設された一対のブームとをそれぞれ接続する一対のビームと、
一対のビームに架設され、架台台車から突出したレールと、
該レールにガイドされ、レール上を移動可能な一対のチェーンブロックと
を備えたことを特徴とする立て起こし装置。
【請求項2】
建屋内でブームを伸張した場合に躯体と当接する部位に躯体を養生する柔材を配設したことを特徴とする請求項1に記載の立て起こし装置。
【請求項3】
重量部材を吊り上げる吊り上げ工程と、
架台台車に立設され、動力によって伸縮するブームを伸張させることにより、ブームを躯体に突っ張らせる突っ張り工程と、
重量部材を立て起こす立て起こし工程と、
立て起こした重量部材を取付位置に移動させる移動工程と
を含んだことを特徴とする重量部材の立て起こし方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−126320(P2010−126320A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303896(P2008−303896)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)