説明

立体プリント布帛

【課題】
プリントにより付与された立体的な意匠を有する布帛であって、製造ロットによる品質のばらつきが少なく、かつ、耐摩耗性に優れた布帛を提供する。
【解決手段】
布帛の表面に、バインダーおよび中空微小球からなる意匠層がプリントにより付与されてなる布帛であって、中空微小球の粒子径が5〜150μmであり、バインダーに対する中空微小球の配合割合が3〜25重量%である、立体プリント布帛。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体プリント布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
布帛などのシート状物に、立体的に隆起した意匠を付与する方法の1つとして、発泡プリントが知られている。発泡プリントとは、熱処理により体積膨張する物質(発泡剤)を含む樹脂をシート状物にプリント後、熱処理して樹脂を発泡させ、隆起した意匠を表現するものであり(例えば、特許文献1〜3)、その独特の意匠性から、衣料などの分野で好ましく用いられている。
【0003】
発泡プリントにおける発泡剤としては、熱分解型発泡剤、揮発型発泡剤、マイクロカプセル型発泡剤などが用いられ、なかでもマイクロカプセル型発泡剤は、取扱性が良好であることから多用されている。しかしながら、この方法では、発泡により樹脂層表面が白色を帯びるという問題や、樹脂層の表面付近では、発泡により生じた気泡の壁厚(気泡周辺の樹脂の厚み。マイクロカプセル型発泡剤にあっては、マイクロカプセル自体の殻厚を含む)が極端に薄くなる部分があり、これにより耐摩耗性が悪くなるという問題があった。そのため、高度な耐久性が求められる用途、例えば、車両内装材として用いるには限界があった。また、発泡の制御が難しく、加熱温度や加熱時間の僅かな違いにより発泡倍率がばらついたり、完全に発泡させようとして過度に熱処理すると、シート状物が変色したりするという問題があった。
【0004】
これに対し、既発泡(既膨張)のマイクロカプセルを用いる提案もある。例えば、特許文献4には、筆記と同時に立体的な文字や図形を得ることができるインクであって、バインダ、着色剤および既発泡マイクロカプセルを含んでなる立体インクが記載されている。また、特許文献5には、建築物、冷蔵庫、保温庫、衣料などの分野において断熱性層を形成するための塗料組成物であって、バインダー樹脂、中空粒子、および、溶剤もしくは分散剤を含んでなる塗料組成物、ならびに、布帛などの含浸性基材に前記塗料組成物を塗布し、乾燥固化して断熱性層を形成してなる断熱性シートが記載されている。そして、中空粒子として、マイクロカプセル型発泡剤を予め発泡させたものを用いることができると記載されている。
【0005】
しかしながら、これらの組成物は、布帛などのシート状物に、立体的に隆起した意匠をプリントにより付与することを意図したものではなく、インク等がシート状物に浸透してしまうため、立体的な意匠性に劣るという問題があった。また、耐摩耗性も十分に満足できるものではなく、改良の余地があると考えられた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭52−110975号公報
【特許文献2】特開昭59−1577号公報
【特許文献3】特開平6−47875号公報
【特許文献4】特開昭63−273673号公報
【特許文献5】特開2001−220552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、プリントにより付与された立体的な意匠を有する布帛であって、製造ロットによる品質のばらつきが少なく、かつ、耐摩耗性に優れた布帛を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、布帛の表面に、バインダーおよび中空微小球からなる意匠層がプリントにより付与されてなる布帛であって、
中空微小球の粒子径が5〜150μmであり、
バインダーに対する中空微小球の配合割合が3〜25重量%である、
立体プリント布帛である。
【0009】
前記立体プリント布帛において、意匠層の厚みは10〜300μmであることが好ましい。
また、中空微小球は、マイクロカプセル型発泡剤を発泡させたものであるか、その表面を無機微粉末で被覆したものであることが好ましい。
また、バインダーは、アクリル樹脂とウレタン樹脂を組み合わせたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、製造ロットによる品質のばらつきが少なく、かつ、耐摩耗性に優れた立体プリント布帛を提供することができる。本発明の立体プリント布帛は、従来品と比較して耐摩耗性が改良されているため、高度な耐久性が求められる車両内装材として、好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0012】
布帛
本発明に用いられる布帛は特に限定されるものでなく、例えば、織物、編物、不織布などの形態のものを挙げることができる。さらには、天然皮革、合成皮革、人工皮革などの布帛様シート状物であってもよい。
布帛を構成する繊維素材も特に限定されるものでなく、例えば、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維などを挙げることができ、これらを1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、耐久性の観点から、合成繊維が好ましく、ポリエステル繊維がより好ましい。布帛は、必要に応じて、染料や顔料により着色されたものであってもよい。
【0013】
本発明の立体プリント布帛は、前記布帛の表面に、バインダーおよび中空微小球からなる意匠層がプリントにより付与されてなるものである。
【0014】
バインダー
本発明に用いられるバインダーは特に限定されるものでなく、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などを挙げることができる。これらは1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、風合いの観点からはアクリル樹脂が好ましく、耐久性、特に耐摩耗性の観点からはウレタン樹脂が好ましく、これらを組み合わせて用いることがより好ましい。
【0015】
バインダーは、繊維加工用バインダーとして一般に市販されるものを用いることができ、取扱性の観点から、水に乳化、分散または溶解させた水系が好ましく用いられる。
【0016】
中空微小球
中空微小球とは、内部の微小な空隙を、各種材料からなる皮膜(外殻、外壁などと呼ばれる)で覆った球形のもので、本発明においては、熱処理しても体積膨張を起こさないものであることが求められる。このような中空微小球を用いることにより、製造時の、意匠層の体積変動を最小限に抑え、品質のばらつきを少なくすることができるとともに、中空微小球周辺の樹脂が引き伸ばされて薄くなるのを防止し、耐摩耗性を良好ならしめることができる。
【0017】
前記条件を満足する限り、中空微小球として種々のものを用いることができる。例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂などの熱硬化性樹脂や、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂などの熱可塑性樹脂からなる外殻を有する有機系中空微粒子;ガラス、シラス、シリカ、アルミナ、カーボンなどからなる外殻を有する無機系中空微粒子を挙げることができる。また、有機系中空微小球の表面を、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタンなどの無機微粉末で被覆したものを用いることもできる。なかでも、耐熱性、耐摩耗性、強度の観点から、熱可塑性樹脂からなる外殻を有する中空微小球、または、その表面を無機微粉末で被覆したものが好ましい。
【0018】
ここで、好ましく用いられる熱可塑性樹脂からなる外殻を有する中空微小球とは、典型的には、マイクロカプセル型発泡剤を予め発泡させたものである。マイクロカプセル型発泡剤自体は、熱処理により軟化かつ膨張可能な熱可塑性樹脂からなる外殻中に、低沸点炭化水素などの揮発型発泡剤を内包するものであり、本発明においては、これを発泡させて用いることができるほか、既発泡体として市販されるものを用いることもできる。これらは、粉体の形で、または、水に分散させた形で市販されており、そのいずれも使用可能である。既発泡マイクロカプセルとして市販されるものとしては、例えば、マツモトマイクロスフェアーF−DEシリーズ(粉体タイプ)、マツモトマイクロスフェアーF−Eシリーズ(水分散タイプ)(ともに松本油脂製薬株式会社製)などを挙げることができる。
【0019】
また、既発泡マイクロカプセルの無機微粉末被覆物として市販されるものとしては、例えば、マツモトマイクロスフェアーMFLシリーズ(粉体タイプ、松本油脂製薬株式会社製)などを挙げることができる。
【0020】
中空微小球の粒子径は、5〜150μmであることが求められ、さらには10〜30μmであることが好ましい。粒子径が5μm未満であると、十分な立体感が得られない。粒子径が150μmを超えると、耐摩耗性が悪くなる。
【0021】
中空微小球の比重(みかけ比重)は、0.01〜0.9g/cmであることが好ましく、0.025〜0.25g/cmであることがより好ましい。比重が0.01g/cm未満であると、耐摩耗性が悪くなる虞がある。比重が0.9g/cmを超えると、硬く、ザラツキ感が生じ、触感が悪くなる虞がある。
【0022】
中空微小球の耐圧性は、100kg/cm以上であることが好ましく、200kg/cm以上であることがより好ましい。耐圧性が100kg/cm未満であると、立体プリント布帛を製造する際に加わる圧力により中空微小球が壊れてしまい、十分な立体感が得られない虞がある。
【0023】
中空微小球の耐熱性は、80℃以上であることが好ましく、130℃以上であることがより好ましい。耐熱性が80℃未満であると、立体プリント布帛を製造する際に加わる熱により中空微小球が壊れてしまい、十分な立体感が得られない虞がある。
【0024】
本発明においては、かかる中空微粒子を1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0025】
バインダーに対する中空微小球の配合割合は、固形分換算で、3〜25重量%であることが求められ、さらには10〜20重量%であることが好ましい。配合割合が3重量%未満であると、十分な立体感が得られない。配合割合が25重量%を超えると、耐摩耗性が悪くなる。
【0026】
プリント液
本発明の立体プリント布帛は、以上に説明した、バインダーと、中空微小球と、これらを分散等させる媒体である水とを少なくとも含んでなるプリント液を、布帛表面にプリント後、乾燥することにより製造することができる。
【0027】
プリント液全量に対するバインダーの含有量は、固形分換算で、20〜50重量%であることが好ましく、30〜50重量%であることがより好ましい。含有量が20重量%未満であると、耐摩耗性が悪くなる虞がある。含有量が50重量%を超えると、水の含有量が少ないために乾燥しやすく、プリント時に目詰まりを起こす虞がある。
中空微小球の含有量は、前記バインダーに対する配合割合を満足するように設定する。
【0028】
プリント液には、必要に応じて、着色剤(有機顔料、無機顔料、染料)、増粘剤、分散剤、難燃剤、湿潤剤などの添加剤を含ませることができる。
【0029】
プリント液は、バインダーに水を添加し、ミキサーなどを用いて混合、希釈した後、中空微小球を添加して混合、分散することにより調製することができる。さらに、必要に応じて添加剤(増粘剤を除く)を順次添加し、最後に、増粘剤を添加して、所望の粘度に調整する。
【0030】
プリント液の粘度は、10000〜50000cpsであることが好ましく、15000〜30000cpsであることが好ましい。粘度が10000cps未満であると、プリント液が布帛に浸透して、十分な立体感が得られない虞がある。粘度が50000cpsを超えると、連続加工性が悪くなったり、プリント液の付着ムラが生じたりする虞がある。
【0031】
プリント方法
プリント方法は特に限定されるものでなく、公知の方法、例えば、ロータリースクリーンプリント、フラットスクリーンプリント、ローラープリントなどを機械的に行う方法を挙げることができる。また、フラットスクリーンプリントなどを人の手により行うこともできる(ハンドプリントと呼ばれる)。なかでも、量産性の観点から、機械的方法、特にはロータリースクリーンプリント、フラットスクリーンプリントが好ましい。
【0032】
ロータリースクリーンプリントやフラットスクリーンプリントに用いられるスクリーン紗の厚みは、150〜300μmであることが好ましく、220〜260μmであることがより好ましい。紗厚が150μm未満であると、十分な立体感が得られない虞がある。紗厚が300μmを超えると、プリント液が滲んで、意匠層のキワ(柄際)が不鮮明になる虞がある。
【0033】
プリント部におけるプリント液の付与量は、固形分換算で、1〜100g/mであることが好ましく、40〜60g/mであることがより好ましい。付与量が1g/m未満であると、十分な立体感が得られない虞がある。付与量が100g/mを超えると、風合いが粗硬になる虞がある。
【0034】
乾燥
乾燥方法は特に限定されるものでなく、公知の方法を採用することができる。
【0035】
乾燥は、120〜130℃の熱を、2〜5分間加えることにより行うことが好ましい。温度や時間が下限値未満であると、乾燥が不十分になる虞がある。上限値を超えると、意匠層が黄変する虞がある。
【0036】
かくして、本発明の立体プリント布帛を得ることができる。
【0037】
意匠層
意匠層の厚みは、10〜300μmであることが好ましく、100〜250μmであることがより好ましい。厚みが10μm未満であると、十分な立体感が得られない虞がある。布帛の状態によっても異なるが、10μm程度以上の厚みあれば、目視あるいは触感において、立体感を認知することができる。厚みが300μmを超えると、耐摩耗性が悪くなる虞がある。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例中の「部」、「%」は重量基準であるものとする。また、立体プリント布帛の耐摩耗性は、以下の方法に従って測定、評価した。
【0039】
[立体プリント布帛の耐摩耗性]
JIS L 1096 8.17.3 C法(テーバ形法)に準拠し、摩耗輪CS−10、荷重4.9Nの条件で、1000回摩耗した。摩耗後の試験片を観察し、下記の基準に従って等級付けし、3級以上を合格(○)、2級以下を不合格(×)とした。
5級:意匠層に状態の変化がない
4級:意匠層の状態にやや変化がある
3級:意匠層の厚みがやや低くなっているが、意匠層は残っている
2級:意匠層の厚みが低くなって、淡く見えにくい
1級:意匠層が完全に消失している
【0040】
[実施例1]
下記処方に従い、粘度20000cpsのプリント液を得た。プリント液全量に対するバインダーの含有量は32%であり、バインダーに対する中空微小球の配合割合は15.6%であった。
【0041】
処方
1)商品名「HYDRAN HW−101」;40部
(バインダー(ポリウレタン樹脂)、固形分40%、DIC株式会社製)
2)商品名「VONCOAT R−510」;40部
(バインダー(アクリル樹脂)、固形分40%、DIC株式会社製)
3)商品名「マツモトマイクロスフェアーMFL−80GCA」;5部
(アクリル系コポリマーからなる外殻を有する既発泡マイクロカプセルの炭酸カルシウム微粉末被覆物、粒子径20μm、比重0.20g/cm、耐圧性200kg/cm、耐熱性140℃、固形分100%、松本油脂製薬株式会社製)
4)商品名「SNシックナーA−812」;3部
(増粘剤(ウレタン系)、固形分40%、サンノプコ株式会社製)
5)商品名「DEXCEL BLACK HR」;1部
(顔料、固形分20%、DIC株式会社製)
6)水;11部
【0042】
得られたプリント液を、ポリエステル繊維織物に、紗厚250μm、柄面積10%のロータリースクリーンプリント機を用いて、付与量が固形分換算で40g/mとなるようにプリントし、次いで、乾燥機を用いて130℃で2分間熱処理して乾燥させ、120μm厚の意匠層を有する立体プリント布帛を得た。
耐摩耗性の評価結果を表1に示した。
【0043】
[実施例2〜6]
[比較例1〜3]
プリント液として、それぞれ、表1および表2に示す処方のプリント液を用いた以外は、実施例1と同様にして、立体プリント布帛を得た。
表中に記載されている中空微小球(いずれも松本油脂製薬株式会社製)の詳細は表3の通りである。
【0044】
耐摩耗性の評価結果を表1および表2に示した。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
いずれの実施例も、立体的で、かつ、耐摩耗性に優れた意匠を有するものであった。
【0049】
一方、比較例1は、中空微小球としてマイクロカプセル型発泡剤(発泡性マイクロカプセル)を用いているため、立体感は良好であるものの、耐摩耗性が劣るものであった。
比較例2は、バインダーに対する中空微小球の配合割合が多いため、立体感は良好であるものの、耐摩耗性が劣るものであった。
比較例3は、バインダーに対する中空微小球の配合割合が少ないため、耐摩耗性は良好であるものの、立体感が著しく劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛の表面に、バインダーおよび中空微小球からなる意匠層がプリントにより付与されてなる布帛であって、
中空微小球の粒子径が5〜150μmであり、
バインダーに対する中空微小球の配合割合が3〜25重量%である、
立体プリント布帛。
【請求項2】
意匠層の厚みが10〜300μmである、請求項1に記載の立体プリント布帛。
【請求項3】
中空微小球がマイクロカプセル型発泡剤を発泡させたものであるか、その表面を無機微粉末で被覆したものである、請求項1または2に記載の立体プリント布帛。
【請求項4】
バインダーがアクリル樹脂とウレタン樹脂を組み合わせたものである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の立体プリント布帛。