説明

立体模様化粧シート及びその製造方法

【課題】生産性を低下させたり製造に必要なエネルギー消費量を大幅に増加することなく、有機溶剤の使用量を削減して環境保護に寄与することができ、しかも立体的な意匠性に優れた立体模様化粧シート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】基体シート上に、油性インキ下地絵柄層と、油性撥液性インキ絵柄層を有し、該油性撥液性インキ絵柄層が設けられた部分を除く表面に水性トップコート層を有する立体模様化粧シート。また特に、蒸発速度が特定範囲の極性及び非極性溶剤を含有したインキを使用し、アフター乾燥ゾーンを具備する多色印刷機を使用して、インラインで一貫生産する立体模様化粧紙の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、建築物の内壁面や天井面等の建装材や建具家具、什器類等の表面装飾に使用するための、立体模様化粧シート及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、建築物の内壁面や天井面等の建装材や建具、家具、什器類等として、天然の木材や石材等を使用した場合よりも価格の低減や軽量化を図り、然もそれらと同等又は独自の意匠性を得る目的で、例えば合板、パーティクルボード、中密度繊維板、ハニカム材等の基材の表面に、予め所望の絵柄の意匠が施された化粧シートを貼付する方法が、ますます広く用いられる様になっている。
【0003】上記化粧シートとしては、例えば紙や合成樹脂フィルムまたはその積層体等からなる基体シート上に、木目柄や石目柄、抽象柄等の絵柄の印刷を施したものがある。これらを基材の表面に貼付してそのまま使用する例もあるが、絵柄層が表面に露出していると、使用中の摩耗や溶剤等の各種化学物質の作用等によって、経時的に絵柄の意匠性が損なわれてしまう。
【0004】勿論、基体シートが透明な材質であれば、絵柄層を基体シートの裏面に設けて、基体シートに絵柄層の保護の機能を担わせることも可能である。しかし、例えば紙や織布、不織布、突板、不透明合成樹脂フィルム等の不透明の材質を基体シートとした場合にはそれは不可能であるから、通常は化粧シートの貼付後に、耐磨耗性や耐溶剤性等の表面物性を付与する目的で、その表面に更に透明または半透明の塗装を施す方法が用いられている。
【0005】しかしながら、上記塗装の工程は、例えば複雑な形状の物品にあっては、工業的に効率よく塗装作業を行うことは困難であり、通常はスプレー塗装法によっているが、この方法は塗料が飛散し無駄が多い他、作業環境衛生上も問題が多い。また建築物の内壁面や天井面等にあっては、上記した問題点の他、塗装を手作業で行わざるを得ないので人件費が掛かり、また塗装作業及び乾燥の為の期間を必要とするので、工期が長引く原因にもなっていた。
【0006】そこで、上記した問題点を解決する目的で、予め化粧シートの絵柄層上に、表面に耐磨耗性や耐溶剤性等の表面物性を付与する為のトップコート層を施しておく方法が、既に実用化されている。こうすることによって、トップコート層を有する化粧シートを基材上に貼付するだけで、塗装工程を経ることなく、絵柄の意匠性の付与と表面物性の付与とを同時に行うことができるので、作業環境の改善や工期短縮等に大きく寄与するものである。
【0007】上記の様に、絵柄層上に全面にトップコート層を設けた化粧シートは、表面がほぼ平面状であるので、例えば年輪や導管溝等の凹凸を有する天然木材系材料と比較すると、意匠性の面でどうしても劣ってしまう。これを補う目的で、例えばエンボス法により凹凸を付与したり、さらにワイピングを施して凹部を着色したりすることにより、天然木材系材料に近い立体的な意匠性を有する化粧シートも得られている。
【0008】しかし、前記したエンボス法やワイピング法では、製造工程上、絵柄と凹凸との同調が困難であるので、意匠面でなお天然木材系材料には及ばない。そこで、基体シート上に設けた絵柄層(下地絵柄層)上に、これと同調した導管模様等の撥液性絵柄層を設け、その全面にトップコート剤を施したのち、前記撥液性絵柄層が設けられた部分のトップコート剤を弾かせて、前記撥液性絵柄層が設けられた部分を除く表面に選択的にトップコート層を設けることにより、下地絵柄層と同調した立体模様を得る方法が考案されている(特開昭59−10371号公報参照)。
【0009】ところで、上記した絵柄印刷層やトップコート層を設ける為に使用される印刷インキやトップコート剤としては、他の印刷分野や塗装分野と同様に、従来は有機溶剤を希釈溶媒とする油性の印刷インキやトップコート剤を使用する例が殆どであったが、近年の環境保護意識の高まりを受けて、有機溶剤の使用を廃止して、水を希釈溶媒とする水性の印刷インキやトップコート剤を使用して化粧シートを製造する試みが、既に一部で始まっている。
【0010】そして、前記した下地絵柄層や撥液性絵柄層、トップコート層の全てに、水性インキや水性トップコート剤等の材料を使用して、立体模様化粧シートを製造可能であることが、既に示されている(特開平8−35199号公報参照)。
【0011】しかしながら、上記した印刷インキやトップコート剤の水性化は、製造現場において大きな問題を惹き起こしている。何となれば、水性の印刷インキやトップコート剤の希釈溶媒である水は、従来の油性の印刷インキの希釈溶媒である有機溶剤と比較して蒸発熱や比熱が大きいので、印刷インキやトップコート剤の乾燥速度が遅く、乾燥不良による裏移りやブロッキングを発生し易いので、同一の製造条件では製造不可能であるからである。
【0012】より具体的に例を挙げて説明すると、従来の油性の印刷インキの希釈剤の代表例の一つであるトルエンの場合、蒸発熱0.364kJ/g、比熱1.76J/K・gであるのに対し、水は蒸発熱2.26kJ/g、比熱4.19J/K・gである(沸点はそれぞれ110.6℃及び100℃)。従って、同一重量の希釈溶媒を蒸発させる為には、水の場合にはトルエンの場合と比較して数倍もの熱量が必要という計算になる。
【0013】このため、水性の印刷インキ及びトップコート剤を使用して化粧シートを製造しようとすると、油性の印刷インキ及びトップコート剤を使用した場合と比較して、乾燥機の運転条件が同一であれば印刷速度を数分の一に低下させる必要があり、一方同一の印刷速度で製造しようとすれば、乾燥機の乾燥容量を数倍に引き上げなければならない。
【0014】しかしながら、これらの方法はいずれも余り現実的とは言えない。何故なら、印刷速度を低下させる方法では、当然のことながら、単位時間当たりの生産量が低下するので、製造コストの増加に繋がる。一方乾燥機の乾燥容量を引き上げる為には、印刷装置が大型で高価となるし、また従来の油性インキ用の印刷装置を使用しようとすれば、可成り大掛かりな改造が必要となるので、やはり製造コストの増加に繋がる。
【0015】またいずれの方法を採用した所で、乾燥機の運転に必要なエネルギーの大幅な増加は避けられない。従って、こうした方法で有機溶剤の削減に成功した所で、エネルギー消費量が大幅に増加したのでは、総合的に見ると環境保護に寄与しているとは言えなくなってしまうという問題点があった。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、従来の立体模様化粧シートにおける上記した問題点に鑑みてなされたものであって、生産性を低下させたり製造に必要なエネルギー消費量を大幅に増加することなく、有機溶剤の使用量を削減して環境保護に寄与することができ、しかも立体的な意匠性に優れた立体模様化粧シート及びその製造方法を提供しようとするものである。
【0017】
【課題を解決するための手段】本発明の立体模様化粧シートは、基体シート上に、撥液性絵柄層と、該撥液性絵柄層が設けられた部分を除く表面に選択的に設けられたトップコート層とを、少なくとも有する立体模様化粧シートにおいて、前記撥液性絵柄層が油性撥液性インキからなり、且つ、前記トップコート層が水性トップコート剤からなることを特徴とするものである。
【0018】また特に、前記基体シートと、前記撥液性絵柄層との間に、油性インキからなる下地絵柄層を有することを特徴とするものである。
【0019】また特に、前記油性撥液性インキに含有される溶剤が、非極性有機溶剤を主体とすることを特徴とするものである。
【0020】また特に、前記油性撥液性インキに含有される溶剤が、非極性有機溶剤と、該非極性有機溶剤よりも蒸発速度の大きい極性有機溶剤とを主体とすることを特徴とするものである。
【0021】また特に、前記非極性有機溶剤の蒸発速度(酢酸正ブチルを100とする)が、50以上200以下であり、且つ、前記極性有機溶剤の蒸発速度が、200以上1000以下であることを特徴とするものである。
【0022】本発明の立体模様化粧シートの製造方法は、基体シート上に、撥液性絵柄層を設けた後、全面にトップコート剤を塗工し、前記撥液性絵柄層が設けられた部分のトップコート剤を弾かせて、前記撥液性絵柄層が設けられた部分を除く表面に選択的にトップコート層を設ける立体模様化粧シートの製造方法において、前記撥液性絵柄層には油性撥液性インキを使用し、前記トップコート剤としては水性トップコート剤を使用し、且つ、印刷・塗工にはアフター乾燥ゾーンを具備する多色印刷装置を使用し、前記撥液性絵柄層は最終印刷ユニット以外の印刷ユニットで印刷し、前記水性トップコート剤は最終印刷ユニットで塗工することにより、インラインで一貫生産することを特徴とするものである。
【0023】また特に、前記基体シートと、前記撥液性絵柄層との間に、前記撥液性絵柄層の印刷に使用する印刷ユニットよりも給紙部側の印刷ユニットを使用して、油性インキにより下地絵柄層を印刷することを特徴とするものである。
【0024】また本発明の立体模様化粧シートの製造方法は、基体シート上に、撥液性絵柄層を設けた後、全面にトップコート剤を塗工し、前記撥液性絵柄層が設けられた部分のトップコート剤を弾かせて、前記撥液性絵柄層が設けられた部分を除く表面に選択的にトップコート層を設ける立体模様化粧シートの製造方法において、前記撥液性絵柄層には油性撥液性インキを使用し、前記トップコート剤としては水性トップコート剤を使用し、且つ、前記撥液性絵柄層が設けられた基体シート上に、前記水性トップコート剤を塗工する時点において、前記撥液性絵柄層が、タックフリーとなる程度に残留溶剤を含有していることを特徴とするものである。
【0025】また特に、前記基体シートと、前記撥液性絵柄層との間に、油性インキにより下地絵柄層を設けることを特徴とするものである。
【0026】また特に、前記油性撥液性インキが、非極性有機溶剤を主体とすることを特徴とするものである。
【0027】また特に、前記油性撥液性インキに含有される溶剤が、非極性有機溶剤と、該非極性有機溶剤よりも蒸発速度の大きい極性有機溶剤とを主体とし、且つ、前記撥液性絵柄層が印刷された基体シート上に、前記水性トップコート剤を塗工する時点において、前記撥液性絵柄層が含有する残留溶剤が、前記非極性有機溶剤を主体とすることを特徴とするものである。
【0028】また特に、前記非極性有機溶剤の蒸発速度(酢酸正ブチルを100とする)が、50以上200以下であり、且つ、前記極性有機溶剤の蒸発速度が、200以上1000以下であることを特徴とするものである。
【0029】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照しつつ本発明を詳細に説明する。図1は本発明の立体模様化粧シートの実施の形態を示す側断面図であり、図2は本発明の立体模様化粧シートの製造に使用する印刷装置の一例を示す全体概要側面図である。
【0030】本発明の化粧シートは、図1に示す様に、紙等の基体シート1上に、撥液性絵柄層3と、撥液性絵柄層3が設けられた部分を除く表面に設けられたトップコート層4とを有しており、必要に応じて、撥液性絵柄層3やトップコート層4と基体シート1との間に、下地絵柄層2が設けられる。
【0031】基体シート1としては、従来公知の如く目的とする用途に応じて種々のシート状乃至フィルム状の材料を使用することができる。具体的には、例えば薄葉紙、チタン紙、樹脂含浸紙、難燃紙、無機質紙等の紙や、天然繊維または合成繊維からなる織布または不織布、突板等、またはポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、繊維素系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、フッ素系樹脂等の合成樹脂やそれらの混合物、共重合体等からなる透明、半透明または不透明の合成樹脂フィルム、又はそれらの複合体、積層体等、従来公知の任意の材料を使用することができる。
【0032】下地絵柄層2は、必要がなければ全く設けなくても良いが、平面的な絵柄に立体的な絵柄が加味された、優れた意匠効果を得る目的で、撥液性絵柄層3やトップコート層4に下地絵柄層2を併せて設けるのが一般的である。また、基体シート1が透明乃至半透明の材質からなる場合には、基体シート1の裏面側に設けることも可能であり、両面に併設しても良い。しかし、多色印刷装置を使用したインライン一貫生産のための便宜を考慮すると、下地絵柄層2は、撥液性絵柄層3やトップコート層4と基体シート1との間に設けることが好ましい。
【0033】下地絵柄層2に使用する材料としては、従来公知の任意の印刷インキやコーティング剤等を使用することができ、油性であっても水性であっても良い。近年では、環境問題への配慮から、水性インキを使用する例が徐々に増加しつつある。しかしながら、本発明の立体模様化粧シートにおいては、多色印刷装置を使用したインライン一貫生産を考慮すると、水性インキよりも乾燥速度の面で有利な、従来型の油性インキを使用することが好ましい。
【0034】上記した油性インキとは、染料または顔料等の着色剤を、適当な結着剤樹脂と共に、有機溶剤中に溶解または分散してなるものである。前記着色剤としては、例えばカーボンブラック、チタン白、亜鉛華、弁柄、黄鉛、紺青、カドミウムレッド等の無機顔料や、アゾ顔料、レーキ顔料、アントラキノン顔料、フタロシアニン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料等の有機顔料等、またはこれらの2種以上の混合物等を使用することができる。
【0035】また、前記結着剤樹脂としては、例えばアクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリビニル系樹脂、アルキド樹脂、石油系樹脂、ケトン樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、繊維素系樹脂、ゴム系樹脂等の各種合成樹脂類、またはそれらの混合物、共重合体等を使用することができる。
【0036】また、前記有機溶剤としては、例えばトルエン、キシレン、シクロヘキサン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等、またはそれらの混合物等を使用することができる。
【0037】その他、必要に応じて体質顔料や可塑剤、分散剤、界面活性剤、粘着付与剤、接着助剤、乾燥剤、硬化剤、硬化促進剤又は硬化遅延剤等の各種添加剤等が適宜使用される。
【0038】下地絵柄層2は1色であっても良いが、通常は自然色の意匠性を目的として2色乃至数色の多色印刷が施される。抽象柄等では通常の商用多色印刷物と同様に黄、紅、藍の3色又はこれに墨を加えた4色が使用される場合もある。これに対し、周知の様に、木目柄の場合には下地ベタ、木目模様、導管模様等に分版するのが普通であり、このうち導管模様は一般に、後述する撥液性絵柄層3として設けられる。また、基体シート1が透明乃至半透明である場合には、隠蔽性付与の目的で、最下層に白色または着色不透明のベタ印刷層を設けるのが一般的である。なお、絵柄印刷層2の塗布量は、絵柄の種類にもよるが、通常は全色合計で1〜3g/m2 (乾燥後)程度である。
【0039】撥液性絵柄層3としては、少なくとも撥液剤、すなわち具体的には例えばフッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ワックス類等の、液体を弾く性質を有する物質が添加されてなる撥液性インキが使用される。前記撥液剤の添加量は、通例固形分比5〜70重量%程度である。本発明においては特に、希釈溶剤として有機溶剤を使用した油性撥液性インキを使用する。その着色剤や結着剤樹脂、溶剤としては、前記した下地絵柄層2の場合と同様の材料を使用することができる。但し、この撥液性絵柄層3は、当該立体模様化粧シートの完成状態において、表面に露出した状態となることから、耐磨耗性や耐溶剤性等を考慮すると、結着剤樹脂としては硬化型樹脂を使用することが好ましい。
【0040】前記硬化型樹脂として具体的には、例えばウレタン系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、アルキド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、シリコーン系樹脂等の熱硬化性樹脂または常温硬化性樹脂や、アクリル系樹脂、ウレタンアクリレート系樹脂、エステルアクリレート系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂、シリコーン系樹脂等の電離放射線硬化型樹脂等を好適に使用することができる。
【0041】また、撥液性絵柄層3の形成に使用する油性撥液性インキに含有される溶剤は、疎水性の強い非極性有機溶剤を主体とすることが好ましい。非極性有機溶剤の使用は、水に対する反撥性に富む疎水性の結着剤樹脂や撥液剤等に対する溶解性が高い他、撥液性絵柄層3中に少量残留すればその撥水性を高める作用をも有するので、水性トップコート剤に対する反撥力を高め、撥液性絵柄層3上に塗工された水性トップコート剤を迅速且つ確実に弾かせ、印刷速度を向上すると共に、弾き残り等の不良発生を防止する上で効果的である。
【0042】上記非極性有機溶剤として具体的には、例えばヘキサン、オクタン、イソオクタン、トリメチルヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶剤や、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤、リグロイン、石油ベンジン、ミネラルスピリット等の石油系溶剤等、またはこれらの2種以上の混合溶剤等を主体とすることが好ましい。
【0043】但し、上記した非極性有機溶剤は、結着剤樹脂に対する溶解性が必ずしも十分でない場合が多い。特に、結着剤樹脂として硬化型樹脂を使用する場合には、硬化型樹脂は例えばイソシアネート基やエポキシ基、(メタ)アクリロイル基等の極性基を含有する場合が多く、従って非極性有機溶剤のみを使用したのでは、溶解不良のために、十分な印刷適性が得られない場合が多い。こうした場合には、溶解性の確保の目的で、非極性有機溶剤と極性有機溶剤とを併用する方法が、広く採用されている。
【0044】係る極性有機溶剤としては、具体的には例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール等のアルコール類や、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸正ブチル、酢酸イソブチル等のエステル類、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類等、またはこれらの2種以上の混合溶剤等が、一般に使用されている。
【0045】しかしその際、非極性有機溶剤よりも蒸発速度の小さい極性有機溶剤を併用すると、乾燥工程において非極性有機溶剤が先に蒸発し、極性有機溶剤が多く残留し易いので、後から塗工する水性トップコート剤に対する反撥力が低減されてしまう可能性がある。従って、非極性有機溶剤と極性有機溶剤とを併用する場合には、蒸発速度の小さい非極性有機溶剤と、蒸発速度の大きい極性有機溶剤との組合せを主体とすることが好ましい。
【0046】これら溶剤の蒸発速度の目安として、非極性有機溶剤の蒸発速度(酢酸正ブチルを100とする)を、概ね50以上200以下、極性有機溶剤の蒸発速度を、概ね200以上1000以下とすることが好ましい。非極性有機溶剤の蒸発速度が50未満であると、印刷工程においてインキの乾燥が遅すぎる為に、ブロッキングやトラレ等の原因となり易く、一方200を越えると、トップコート剤の塗工の時点までに十分に蒸発乾燥してしまい、撥液性の向上効果が得られない場合がある。また、極性有機溶剤の蒸発速度が200未満であると、トップコート剤の塗工の時点までに十分に蒸発乾燥することが出来ずに、撥液性を低下させてしまう場合があり、一方1000を越えると、蒸発乾燥が速すぎる為に、インキの機上安定性が低下し、印刷作業性や印刷品質に悪影響を与える場合があるからである。
【0047】具体的には、前記非極性有機溶剤としては、例えばオクタン、トリメチルヘキサン、エチルシクロヘキサン、ミネラルスピリット、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等、前記極性有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、蟻酸プロピル等から、それぞれ1種または2種以上を適宜選択して組み合わせたものを主体とすることが好ましい。
【0048】この様に構成することによって、撥液性絵柄層3の印刷時に油性撥液性インキに含有されていた非極性有機溶剤及び極性有機溶剤の内、蒸発速度の大きい極性有機溶剤が優先的に蒸発乾燥し、蒸発速度の小さい非極性有機溶剤が多く残留し易いので、後にその上に塗工する水性トップコート剤に対する反撥力の向上効果を十分に発揮させることができる。但し本発明は、従来広く行われている様に、撥液性絵柄層3の白化や紛状化等の防止の目的で、比較的親水性の小さい遅乾性の極性有機溶剤を少量添加することを妨げるものではない。
【0049】撥液性絵柄層3は、下地絵柄層2が設けられる場合には、目的とする意匠の性質に応じて、下地絵柄層2の絵柄と同調していても同調していなくても良い。しかし、例えば木目柄の意匠にあっては、木目模様の下地絵柄層2と導管模様の撥液性絵柄層3とを同調させると、天然木材系材料と比較しても遜色のない極めて優れた意匠性を得ることができ、非常に好適である。
【0050】トップコート層4は、化粧シートの表面に耐磨耗性、耐擦傷性、耐溶剤性、耐汚染性等の表面物性を付与する目的で設けられるものであって、少なくとも絵柄印刷層2を透視可能な透明性を有する透明、着色透明または半透明の樹脂層が設けられる。また、本発明においては、トップコート層4は撥液性絵柄層3が設けられた部分を除く表面に選択的に設けられているので、撥液性絵柄層3との膜厚の差により、表面に凹凸の立体感を与えている。
【0051】特に、木目柄の立体模様化粧シートにあっては、一般にトップコート層4の膜厚を着色の撥液性絵柄層3の膜厚よりも厚くすることによって、導管模様に相当する撥液性絵柄層3部に凹状部5を形成して、天然木材系材料に近似した立体的な導管模様を与えることができる。
【0052】この他、撥液性絵柄層3とトップコート層4との一方又は両方に、例えばシリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の艶調整剤を適宜添加して、撥液性絵柄層3とトップコート層4との表面の艶状態を異ならせることによって、絵柄や凹凸に同調した艶変化模様を賦与することも可能である。
【0053】上記トップコート層4は、撥液性絵柄層3が設けられた部分を含む全面にトップコート剤を塗工した後、撥液性絵柄層3の撥液作用によってその上に塗工されたトップコート剤を弾かせることによって、撥液性絵柄層3が設けられた部分を除く表面に選択的に形成する。係るトップコート剤としては、有機溶剤を希釈溶剤とする油性トップコート剤も従来使用されているが、本発明においては特に、水を主たる希釈溶剤とする水性トップコート剤を使用する。
【0054】その理由の第一は、前述した通り、油性の撥液性絵柄層3との組合せによる撥液効果の向上であるが、これに並ぶ第二の理由として、近年の環境保護意識の高まりに鑑みた、有機溶剤の使用量の削減が挙げられる。
【0055】その事情を詳述すると、トップコート層4の塗布量は、目的とする意匠や必要とする耐磨耗性等の条件にもよるが、通例5〜10g/m2 (乾燥後)程度に達するから、必然的に希釈溶媒の含有量も、下地絵柄層2や撥液性絵柄層3よりも遥かに多くなる。本発明の立体模様化粧シートは、このトップコート層4に使用するトップコート剤として、水を主たる希釈溶媒とする水性トップコート剤を使用することによって、有機溶剤の使用量の大幅な削減を達成するものである。
【0056】この他、水性トップコート剤を使用することの利点として、一般に構成樹脂として水溶性ないし水中分散性の良い親水性の樹脂を使用するので、これを硬化してえられるトップコート層4は、有機溶剤に対する耐溶剤性に優れている点も挙げることができる。
【0057】上記した水性トップコート剤としては、例えば水溶性メラミン系樹脂等の水溶性硬化型樹脂の水溶液や、例えば酢酸ビニル樹脂系水性エマルジョン、ウレタン樹脂系水性エマルジョン、アクリル樹脂系水性エマルジョン、ポリオレフィン樹脂系水性エマルジョン等の、非水溶性の樹脂の微粒子を適当な分散剤の作用により水中に分散してなるエマルジョン型のトップコート剤等、従来公知の任意の水性トップコート剤を使用することができる。
【0058】勿論、必要な表面物性を得る為に、メラミン類やエポキシ化合物、アジリジン等を硬化剤として添加した硬化型のトップコート剤を使用することが好ましい。なお、係る水性トップコート剤の中には、溶解性、分散性または塗工適性等の改善を目的として、希釈溶媒として水にアルコール類等の少量の水溶性有機溶剤を添加した溶液を使用している例もあるが、本発明はこれらを排除するものではない。
【0059】本発明の立体模様化粧シートの製造に当たり、下地絵柄層2や撥液性絵柄層3、トップコート層4の印刷・塗工方法としては、例えばオフセット印刷法やスクリーン印刷法、フレキソ印刷法等も可能ではあろうが、長尺状の被印刷体に対する多色連続高速印刷が可能で、階調が豊富で調子安定性にも優れ、任意周長のエンドレス柄の製版が容易であり、しかも印刷版の耐刷力にも優れたグラビア印刷法が、係る化粧シートの製造には最も適しており、従来より化粧シート類の殆どがグラビア印刷法によって製造されていることは周知の通りである。
【0060】既述の如く、トップコート層4に水性トップコート剤を使用すると、従来の油性トップコート剤を使用した場合と比較すれば当然乾燥性が低下するので、ブロッキングやトラレ等の問題が発生し易くなる。この問題を回避する為には、各印刷ユニットの乾燥機23の乾燥能力を増強する方法も考えられるが、これには新たな設備投資が必要となる。これに対し、従来の全油性タイプの化粧シートの製造に使用していた既存の印刷装置を使用して、水性トップコート剤を使用した化粧シートを製造しようとすると、印刷速度を低下させる必要が発生することが、当然考えられる。
【0061】しかしながら、従来の化粧シート製造用印刷装置の中には、最終印刷ユニットの乾燥機で乾燥した後、印刷ユニットの乾燥機とは別に設けられた大容量の乾燥機(アフター乾燥ゾーン)を具備した印刷装置も、多数存在する。そこで、本発明の立体模様化粧シートの製造に使用する印刷装置として、上記したアフター乾燥ゾーンを具備する多色印刷装置を使用し、トップコート層をその最終印刷ユニットで塗工すれば、水性トップコート剤を塗工する印刷ユニットの乾燥機では乾燥能力が不足であっても、その後アフター乾燥ゾーンにおいて十分に乾燥させることが出来るので、ブロッキングやトラレ等の不良を発生することなく、高速度で印刷製造することができる。
【0062】勿論、下地絵柄層2や撥液性絵柄層3には、水性インキよりも乾燥性の良い油性インキを使用するのであるから、従来の全油性タイプの化粧シートの場合と同一の条件で印刷しても、当該印刷ユニットの乾燥機で十分に乾燥することができるので、乾燥不良の問題は当然発生しない。
【0063】図2に示したものは、上述したアフター乾燥ゾーン60を具備する多色印刷装置の一例であって、4基の印刷ユニット20、30、40、50を備えた4色グラビア輪転印刷装置である。
【0064】本発明の立体模様化粧シートの製造方法においては例えば、給紙部10側から順に、第1印刷ユニット20では下地ベタを、第2印刷ユニット30では木目模様を、それぞれ油性インキにて印刷して下地絵柄層2を設け、その上に第3印刷ユニット40で油性撥液性インキにて撥液性絵柄層3を設け、最後に最終印刷ユニットである第4印刷ユニット50で水性トップコート剤を全面に塗工する。
【0065】そして、撥液性絵柄層3の表面の撥液性を利用して、撥液性絵柄層3上の水性トップコート剤を弾かせることによって、撥液性絵柄層3が設けられた部分を除く表面に選択的にトップコート層4を形成する。斯くして、撥液性絵柄層3とトップコート層4との塗布量差によって、撥液性絵柄層3が設けられた部分に凹状部5を出現させ、立体模様の意匠感を得るものである。
【0066】勿論、本発明の立体模様化粧シートの製造方法は上記に限定されるものではなく、例えば3色以下の印刷装置を使用して、下地絵柄層2を設けないか1色のみとすることも出来るし、逆に5色以上の印刷装置を使用して、下地絵柄層2を3色以上で印刷したり、撥液性絵柄層3を2色以上で印刷したりすることも可能である。また、印刷方式はグラビア方式には限定されず、例えばオフセット印刷方式、スクリーン印刷方式、凸版印刷方式、フレキソ印刷方式、ドライオフセット印刷方式等の任意の印刷方式が適用可能である。
【0067】また特に下地ベタ層やトップコート層4の形成方法としては、例えばグラビアコーティング方式、マイクログラビアコーティング方式、ロールコーティング方式、リップコーティング方式、ナイフコーティング方式、エアーナイフコーティング方式、キスコーティング方式、スプレーコーティング方式、ディップコーティング方式等の任意のコーティング方式を適用することも可能である。
【0068】本発明の立体模様化粧シートの製造方法においては、油性撥液性インキからなる撥液性絵柄層3を、水性トップコート剤の塗工の時点までに、十分に乾燥させてしまうよりも逆に、ブロッキングやトラレを発生しないタックフリーの状態となる程度に、残留溶剤を含有している方が、撥液剤の撥液効果に残留溶剤の撥液効果が加味されて、水性トップコート剤に対する反撥力を高め、迅速且つ確実に弾くので、印刷速度を向上し、弾き残り等の不良発生を防止する上で、非常に効果的である。
【0069】上記の様に、撥液性絵柄層3に溶剤分を残留させる方法としては、例えば撥液性絵柄層3を印刷する印刷ユニットの乾燥機の風量や乾燥温度等を弱めに設定する方法や、通常の油性印刷インキに使用されている溶剤よりも遅乾性の有機溶剤を油性撥液性インキに添加しておく方法等、適宜の方法が使用可能である。
【0070】なお、トップコート層4を形成した後にまで、撥液性絵柄層3に溶剤分が残留していると、ブロッキングや裏移り、臭気等の原因となるので好ましくない。しかしながら、最終ユニットでの水性トップコート剤の塗工後、印刷シートは最終ユニットの乾燥機23及び大容量のアフター乾燥ゾーン60により十分に乾燥されるので、通常は残留溶剤の問題が発生することはない。
【0071】水性トップコート剤の塗工の時点において、撥液性絵柄層3に残留する溶剤としては、水に対する反撥力の高い溶剤であるほど好ましく、中でも表面張力の低い非極性有機溶剤を主体とすることが好ましい。その為には、当然のことながら、撥液性絵柄層3に使用する油性撥液性インキに含有される溶剤が、非極性有機溶剤を主体とすることが、最も好ましい。
【0072】しかしながら既述の様に、非極性有機溶剤は一般に、各種の結着剤樹脂に対する溶解性が必ずしも十分でないので、非極性有機溶剤を主体とした希釈溶剤を使用すると、印刷適性に優れたインキを得ることが困難である場合が多い。従って各種の結着剤樹脂に対する溶解性に優れた極性有機溶剤を併用しつつ、印刷適性にも優れ、しかも水性トップコート剤に対する反撥力にも優れた油性撥液性インキを得る為には、水性トップコート剤の塗工の時点において、撥液性絵柄層3が含有する残留溶剤が、非極性有機溶剤を主体とする様に、油性撥液性インキの希釈溶剤は、非極性有機溶剤と、それよりも蒸発速度の大きい極性有機溶剤との組合せを主体とすることが好ましい。
【0073】この様にすることによって、撥液性絵柄層3の印刷形成直後の乾燥工程においては、蒸発速度の小さい非極性有機溶剤よりも、蒸発速度の大きい極性有機溶剤の方が優先的に蒸発乾燥するので、結果的に非極性有機溶剤が選択的に残留し易く、反撥力の向上に寄与することができる。
【0074】上記の目的を達成するためには、既に述べた様に、前記した非極性有機溶剤の蒸発速度(酢酸正ブチルを100とする)が、50以上200以下であり、一方これと組合せて使用する極性有機溶剤の蒸発速度が、200以上1000以下であることが好ましい。
【0075】この他、通常の印刷装置の構造上、水性トップコート剤の塗工後、当該塗工部が乾燥機にはいる間での時間は極めて僅かであるので、塗工直後から高温で乾燥させてしまうと、水性トップコート剤が撥液性絵柄層3によって完全に弾かれる以前に、乾燥機によって強制的に乾燥、増粘してしまうので、弾き残りの不良を発生しやすい。また、条件によっては、水性トップコート剤の内部で水分の沸騰が発生し、これによって生じた気泡が、水性トップコート剤の増粘の為に、外気中へ排出されない内に、水性トップコート剤が乾燥固化してしまい、発泡状の不良を発生する場合もある。
【0076】そこで、特開平8−35199号公報に記載の様に、水性トップコート剤の塗工後の乾燥温度を、低温側から高温側に段階的に変化させながら乾燥を行うと、乾燥初期における急激な増粘が抑制されるので、水性トップコート剤が十分に弾かれる為の時間が確保でき、しかも前記沸騰現象そのものが抑制されると共に、気泡の排出の為の時間も確保されるので、弾き残りや発泡等の不良の防止に有効である。
【0077】
【実施例】アフター乾燥ゾーンを備えた従来の化粧シート製造用グラビア5色印刷機を使用して、坪量30g/m2 の薄葉紙に、トルエン及び酢酸エチルを主溶剤とする硝化綿系油性印刷インキを使用して、下地着色と隠蔽性付与を兼ねた1色の下地ベタ層と、導管模様を除く2色の木目柄層とを、第1〜第3印刷ユニットを使用して順次印刷して、乾燥後の合計塗布量約2g/m2 の下地絵柄層を設け、次いで第4印刷ユニットにて下記組成の油性撥液性インキを使用して、前記木目柄と同調した導管柄の撥液性絵柄層を設け、さらに第5印刷ユニットにて、下記組成の水性トップコート剤を使用して、乾燥後の塗布量約6g/m2 のトップコート層を設けて、本発明の立体模様化粧シートを製造した。
【0078】油性撥液性インキ組成アクリル系樹脂 20重量部シリカゲル粉末 20重量部着色顔料 5重量部イソシアネート系硬化剤 20重量部シリコーン系撥液剤 3重量部トルエン 30重量部メチルエチルケトン 15重量部酢酸エチル 15重量部
【0079】水性トップコート剤組成アクリル系樹脂 75重量部エポキシ系硬化剤 10重量部シリコーン系離型剤 0.5重量部水 24.5重量部
【0080】上記印刷工程において、印刷速度は100m/分とし、乾燥条件は、第1〜第3印刷ユニットは100℃に設定して十分に乾燥させたが、第4印刷ユニットは80℃と弱めに設定して、撥液性絵柄層がタックフリーとなる程度に溶剤分を残留させた。また、水性トップコート剤の塗工後は、各5mずつ3ゾーンに分割されたアフター乾燥ゾーンで、順に80℃、120℃、180℃の3段階の温度設定により乾燥させた。
【0081】この様にして、乾燥不良によるブロッキング・トラレや、弾き残り、気泡等の問題を発生することなく、木目の絵柄と同調した導管模様のエンボスを有する、立体的な意匠性に優れた立体模様化粧シートを製造することが出来た。
【0082】
【発明の効果】本発明の立体模様化粧シートは、油性撥液性インキによる撥液性絵柄層と、水性トップコート剤によるトップコート剤とを組合せた構成により、従来の全油性タイプの立体模様化粧シートと比較して、有機溶剤の使用量を大幅に削減し、環境保護に寄与することができ、しかも作業環境の大幅な改善が見られ、大規模な排気処理設備は不要となり、完全水性化の場合の様な、乾燥に要するエネルギー消費の大幅な増加をもたらすこともない。
【0083】また、撥液性絵柄層が油性インキからなるので、水性トップコート剤に対する反撥力に優れ、迅速かつ確実に弾くことができるので、弾き残り等の不良を発生することなく高速度で印刷製造することができ、導管端部の弾きがシャープで立体的意匠性に優れた立体模様化粧シートを容易に製造することができる。
【0084】しかも、従来の全油性タイプの化粧シートの製造にも広く使用されていた印刷装置の内、アフター乾燥ゾーンを具備した多色印刷装置を使用して、インラインで一貫生産することにより、新たな設備増設や印刷速度の低下等の措置を必要とすることなく、従来とほぼ同一の条件で生産性良く製造することができる。
【0085】また、水性トップコート剤を塗工する時点において、撥液性絵柄層がタックフリーとなる程度に残留溶剤を含有していることにより、油性の残留溶剤が撥液性絵柄層の撥液性を向上し、生産性や立体的意匠感の品質向上に寄与することができる。
【0086】また、撥液性絵柄層に使用する油性撥液性インキに含有される溶剤が、非極性有機溶剤を主体とするか、非極性有機溶剤とそれよりも蒸発速度の大きい極性有機溶剤とを主体とすることにより、水性トップコート剤を塗工する時点において、撥液性絵柄層に含有される残留溶剤が、疎水性の非極性有機溶剤を主体としたものになり易く、従って撥液性絵柄層の撥液性を向上し、生産性や立体的意匠感の品質向上に寄与することができる。
【0087】特に、撥液性絵柄層に使用する油性撥液性インキに含有される溶剤が、非極性溶剤とそれよりも蒸発速度の大きい極性有機溶剤とを主体とする場合において、非極性有機溶剤の蒸発速度を50以上200以下、極性有機溶剤の蒸発速度を200以上1000以下とすることにより、水性トップコートの塗工の時点における極性有機溶剤の残留を防止し、非極性有機溶剤を選択的に残留させることが容易となり、従って撥液性絵柄層の撥液性を向上し、生産性や立体的意匠感の品質向上に寄与することができる。
【0088】以上詳細に説明した様に、本発明の立体模様化粧シート及びその製造方法は、生産性を低下させたり製造に必要なエネルギー消費量を大幅に増加することなく、有機溶剤の使用量を削減して環境保護に寄与することができ、しかも立体的な意匠性に優れた立体模様化粧シートを容易に得ることができるという優れた利点を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の立体模様化粧シートの実施の形態を示す側断面図である。
【図2】本発明の立体模様化粧シートの製造に使用する印刷装置の一例を示す全体概要側面図である。
【符号の説明】
1‥‥基体シート
2‥‥下地絵柄層
3‥‥撥液性絵柄層
4‥‥トップコート層
5‥‥凹状部
10‥‥給紙部
11‥‥被印刷体
20‥‥第1印刷ユニット
21‥‥版胴
22‥‥圧胴
23‥‥乾燥機
30‥‥第2印刷ユニット
40‥‥第3印刷ユニット
50‥‥第4印刷ユニット
60‥‥アフター乾燥ゾーン
70‥‥検反部
80‥‥排紙部

【特許請求の範囲】
【請求項1】基体シート上に、撥液性絵柄層と、該撥液性絵柄層が設けられた部分を除く表面に選択的に設けられたトップコート層とを、少なくとも有する立体模様化粧シートにおいて、前記撥液性絵柄層が油性撥液性インキからなり、且つ、前記トップコート層が水性トップコート剤からなることを特徴とする立体模様化粧シート。
【請求項2】前記基体シートと、前記撥液性絵柄層との間に、油性インキからなる下地絵柄層を有することを特徴とする請求項1に記載の立体模様化粧シート。
【請求項3】前記油性撥液性インキに含有される溶剤が、非極性有機溶剤を主体とすることを特徴とする請求項1または2に記載の立体模様化粧シート。
【請求項4】前記油性撥液性インキに含有される溶剤が、非極性有機溶剤と、該非極性有機溶剤よりも蒸発速度の大きい極性有機溶剤とを主体とすることを特徴とする請求項1または2に記載の立体模様化粧シート。
【請求項5】前記非極性有機溶剤の蒸発速度(酢酸正ブチルを100とする)が、50以上200以下であり、且つ、前記極性有機溶剤の蒸発速度が、200以上1000以下であることを特徴とする請求項4に記載の立体模様化粧シート。
【請求項6】基体シート上に、撥液性絵柄層を設けた後、全面にトップコート剤を塗工し、前記撥液性絵柄層が設けられた部分のトップコート剤を弾かせて、前記撥液性絵柄層が設けられた部分を除く表面に選択的にトップコート層を設ける立体模様化粧シートの製造方法において、前記撥液性絵柄層には油性撥液性インキを使用し、前記トップコート剤としては水性トップコート剤を使用し、且つ、印刷・塗工にはアフター乾燥ゾーンを具備する多色印刷装置を使用し、前記撥液性絵柄層は最終印刷ユニット以外の印刷ユニットで印刷し、前記水性トップコート剤は最終印刷ユニットで塗工することにより、インラインで一貫生産することを特徴とする立体模様化粧シートの製造方法。
【請求項7】前記基体シートと、前記撥液性絵柄層との間に、前記撥液性絵柄層の印刷に使用する印刷ユニットよりも給紙部側の印刷ユニットを使用して、油性インキにより下地絵柄層を印刷することを特徴とする請求項6に記載の立体模様化粧シートの製造方法。
【請求項8】基体シート上に、撥液性絵柄層を設けた後、全面にトップコート剤を塗工し、前記撥液性絵柄層が設けられた部分のトップコート剤を弾かせて、前記撥液性絵柄層が設けられた部分を除く表面に選択的にトップコート層を設ける立体模様化粧シートの製造方法において、前記撥液性絵柄層には油性撥液性インキを使用し、前記トップコート剤としては水性トップコート剤を使用し、且つ、前記撥液性絵柄層が設けられた基体シート上に、前記水性トップコート剤を塗工する時点において、前記撥液性絵柄層が、タックフリーとなる程度に残留溶剤を含有していることを特徴とする立体模様化粧シートの製造方法。
【請求項9】前記基体シートと、前記撥液性絵柄層との間に、油性インキにより下地絵柄層を設けることを特徴とする請求項8に記載の立体模様化粧シートの製造方法。
【請求項10】前記油性撥液性インキが、非極性有機溶剤を主体とすることを特徴とする請求項8または9に記載の立体模様化粧シートの製造方法。
【請求項11】前記油性撥液性インキに含有される溶剤が、非極性有機溶剤と、該非極性有機溶剤よりも蒸発速度の大きい極性有機溶剤とを主体とし、且つ、前記撥液性絵柄層が印刷された基体シート上に、前記水性トップコート剤を塗工する時点において、前記撥液性絵柄層が含有する残留溶剤が、前記非極性有機溶剤を主体とすることを特徴とする請求項8または9に記載の立体模様化粧シートの製造方法。
【請求項12】前記非極性有機溶剤の蒸発速度(酢酸正ブチルを100とする)が、50以上200以下であり、且つ、前記極性有機溶剤の蒸発速度が、200以上1000以下であることを特徴とする請求項11に記載の立体模様化粧シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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