説明

筆記具

【課題】少量・多品種の商品に対応可能でありながら、機能性・デザイン性に優れた被覆部位を形成可能な筆記具を提供する。
【解決手段】軸筒の一部に被覆部位を設けた筆記具において、前記被覆部位は、それぞれが印刷により形成される第1の層と第2の層とを備え、前記第1の層は、周方向に見て少なくとも1箇所の不連続部位を有するように軸筒を被覆し、前記第2の層は、前記第1の層との重複印刷部分を有するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸筒の一部に被覆部位を設けた筆記具に関し、特に、被覆部位を印刷により形成した筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、滑り止めや感触性の向上等を目的として、様々なグリップ部を設けた筆記具が知られている。例えば、グリップ部にローレット加工を施したもの、またエラストマー等の軟質部材によって被覆したものなどが周知である。
また、印刷により被覆部位を形成し、この被覆部位をグリップ部として使用する筆記具も提案されている。例えば、特許文献1には、グリップの表面部分に指先によって感知し得る程度の厚さの塗膜を相互に隔離した状態にて盛り上げ部分の印刷層を複数個設け、さらに盛り上げ部分の上側に粘着性塗膜の印刷層を設けた筆記具又は化粧用ペンシルが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−331788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年筆記具ユーザーの嗜好は多様化しており、特に従来のものと明確に差別化された商品が受け入れられる傾向にある。このような市場のニーズに対応するためには、少量・多品種の商品を素早く提供することが求められるが、従来周知のローレット加工や軟質部材の被覆を施したグリップ部を有する筆記具は、多量生産を前提としているため、このようなニーズに対応することは難しい。
こうした課題を解決する手段としては、上記した特許文献1記載の筆記具のように、印刷による被覆部位の形成が有効である。すなわち、印刷により被覆部位を設けるようにすると、印刷用スクリーンのデザインを変えるだけで被覆部位のデザインを変更することができる。このため、少量・多品種の商品を素早く提供することができ、例えば、季節性によるデザインの変更や、多様な消費者ニーズに合わせた対応が、迅速かつ低コストで実現できる。
【0005】
しかしながら、上記した特許文献1記載の筆記具においては、単に滑り止め用の盛り上がりを設けたに過ぎず、被覆部位のデザインを考慮したものではなかった。例えば、特許文献1には、印刷層をグリップ表面において1周した状態にて設けることが記載されているものの(段落0024参照)、単に1周した状態となるように印刷したとすると外観が悪くなるという問題があった。すなわち、1周した状態となるように印刷すると、印刷の端部同士の合わせ目が必要となるが、この合わせ目において両者が完全に一致するように印刷することは技術的に難しいため、合わせ目がずれて外観が悪くなるという問題があった。
【0006】
そこで本発明は、印刷により被覆部位を形成することにより、少量・多品種の商品に対応可能でありながら、機能性・デザイン性に優れた被覆部位を形成可能な筆記具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
各請求項にそれぞれ記載された各発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、以下の点を特徴とする。
なお、符号は、発明の実施の形態において用いた符号を示し、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
(第1発明)
第1発明に係る筆記具10は、軸筒11の一部に被覆部位12を設け、前記被覆部位12は、それぞれが印刷により形成される第1の層13と第2の層14とを備え、前記第1の層13は、周方向に見て少なくとも1箇所の不連続部位15を有するように軸筒11を被覆し、前記第2の層14は、前記第1の層13との重複印刷部分を有するように設けられていることを特徴とする。
【0008】
すなわち、本発明に係る筆記具10の被覆部位12は、少なくとも第1の層13と第2の層14との2つの層からなっており、各層はそれぞれ一回の印刷で形成されるようになっている。なお、層の数は2層に限らず、3層以上であっても良い。
そして、本発明の第1の層13は、非印刷部分である不連続部位15を有している。この不連続部位15は1つとは限らず、2つ以上であっても良い。そして、この不連続部位15のうちの少なくとも1つを、第1の層13の印刷パターンの開始・終了部分とすることで、印刷パターンの両端部を非印刷部分とすることができる。このようにすれば、印刷パターンの端部の合わせ目が存在しないこととなり、合わせ目がずれて外観が悪くなることがない。
【0009】
なお、被覆部位12を筆記具10のどの部分に設けるかは特に限定しないが、例えば、筆記具10の把持部に被覆部位12を設けることが考えられる。このように把持部に被覆部位12を設けることにより、この被覆部位12をグリップ部とすることができる。
(第2発明)
第2発明に係る筆記具10は、上記した第1発明に係る筆記具10の特徴点に加え、以下の点を特徴とする。
すなわち、前記第1の層13が前記第2の層14よりも下層に設けられていることを特徴とする。
(第3発明)
第3発明に係る筆記具10は、上記した第1又は2発明に係る筆記具10の特徴点に加え、以下の点を特徴とする。
【0010】
すなわち、前記第1の層13の印刷面積は前記第2の層14の印刷面積よりも大きいことを特徴とする。
(第4発明)
第4発明に係る筆記具10は、上記した第1〜3発明のいずれかに係る筆記具10の特徴点に加え、以下の点を特徴とする。
すなわち、前記不連続部位15が2箇所以上設けられていることを特徴とする。
(第5発明)
第5発明に係る筆記具10は、上記した第1〜4発明のいずれかに係る筆記具10の特徴点に加え、以下の点を特徴とする。
【0011】
すなわち、前記第2の層14の印刷部分は、前記第1の層13の印刷部分の範囲にのみ設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、上記したように印刷により被覆部位を形成したため、少量・多品種の商品を迅速かつ低コストで提供することができる。
また、被覆部位が複数の層からなるため、単一層で印刷する場合と比較して多様なデザインの印刷が可能である。また、例えば、第1の層13を軸筒11に密着して剥がれにくくするための層とし、第2の層14をグリップ性を高めるための滑り止め用の突起を形成するための層とするなど、各層に異なる機能を持たせることができ、機能面でも効果の高い筆記具10を提供することが可能である。
また、第1の層13は、周方向に見て少なくとも1箇所の不連続部位15を有するようになっているため、この不連続部位15を印刷パターンの両端部に設けることで、印刷パターンの両端部の合わせ目がずれて外観が悪くなるという問題を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る筆記具を示す側面図である。
【図2】前記実施形態に係る筆記具の断面図である。
【図3】前記実施形態に係る筆記具のグリップ部の拡大断面図である。
【図4】前記実施形態に係る筆記具のグリップ部の印刷パターンを示す図である。
【図5】本発明の変形例に係る筆記具のグリップ部の拡大断面図である。
【図6】本発明の変形例に係る筆記具のグリップ部の印刷パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を実施するための最良の形態である一実施形態について、図面に基づいて説明する。
本実施形態に係る筆記具10は、図1に示すように、内蔵されたリフィル(図示略)が軸方向に移動可能に保持され、その後端部分に設けられたノック部材16を押圧すると、内蔵されたリフィルのペン先(図示略)が内部から繰り出されるように形成されたノック式のボールペンである。
この筆記具10は、リフィルを内部に収納するための軸筒11を有している。図2に示すように、この軸筒11は、リフィルのペン先が繰り出される口先側に設けられた先細り円筒状の先軸筒部材17と、口先側とは逆側に設けられた円筒状の主軸筒部材18とを備えており、この2つの部材が螺合して形成されている。そして、この軸筒11の先端部分には、印刷により被覆部位が形成されており、この被覆部位がグリップ部12として使用されるようになっている。
【0015】
このグリップ部12は、前述したように印刷によって形成されるものである。本実施例においては、印刷方法としてスクリーン印刷を採用している。スクリーン印刷を使用することで、印刷用スクリーンのデザインを変えるだけでグリップ部12のデザインを容易に変更することができる。なお、印刷の方法としてはスクリーン印刷に限らず、パッド印刷等、他の印刷方法を使用しても良い。
また、印刷に使用するインクは従来公知のものが使用可能である。たとえば、アクリル樹脂、塩ビ−酢ビ共重合樹脂、ウレタン樹脂、ウレタンアクリレート樹脂が使用可能であり、軸筒11との密着性、グリップの硬度、汗や皮脂に対する耐久性、握った際のフィット感などを考慮して適宜決定すれば良い。本実施例においては、軸筒11との密着性、適度な弾性、耐久性、フィット感の総合的バランスの点から、ウレタン系樹脂又はウレタンアクリレート樹脂を用いることとする。
【0016】
なお、樹脂以外の成分として、インク成分に不溶である微粒子を用いることも有効である。微粒子を用いることで、グリップを改質することが可能となる。この微粒子は目的とする改質に応じて選択されるが、材質としてはウレタン系粒子、架橋ポリアクリル酸エステル系粒子などが例示される。また、その粒子径も目的に応じて適宜選択することが可能である。微粒子を用いる場合、平均粒子径4〜15μmの粒子を形成後の各層における重量比で2〜10重量%となるように処方することが望ましい。このような微粒子を用いることで、耐摩耗性及びフィット感という効果が得られる。なお、上記平均粒子径はレーザー回折式粒子径測定器(SALD−2200、島津製作所)で求められるメディアン径である。
【0017】
さらに、上記以外にも、着色顔料、有機染料、濡れ剤、消泡剤、架橋剤、光重合開始剤等を使用しても良い。
次に図3及び図4を見ながらグリップ部12の外観について説明する。
図3(a)は筆記具10のグリップ部12の拡大断面図であり、図3(b)は図3(a)の一部をさらに拡大したものである。
この図3が示すように、本実施形態に係るグリップ部12は、第1の層13と第2の層14との2層構造となっており、各層はそれぞれ一回のスクリーン印刷で形成されるようになっている。このため、それぞれの層を異なる材料、色相、硬度などで形成することができるようになっている。
【0018】
この図3に示すように、第1の層13は、グリップ部12の略全面にベタ面として印刷されている。このため、第1の層13については軸筒11と接触する面積が大きくなっており、軸筒11に対する密着性が高くなっている。
また、この第1の層13の上には第2の層14が印刷されており、この第2の層14は、複数の突起ができるようにドット状の印刷パターンとなっている。このドット状の第2の層14により、グリップ部12を使用者が把持したときに、高い滑り止め効果を得られるようになっている。
なお、第1の層13を形成する印刷インクと第2の層14を形成する印刷インクは、同系列、すなわち同種の樹脂を使用したインクでも構わないし、異なる種の樹脂を使用した異系列のインクでも構わない。同系列のインクを使用した場合は、層の界面の親和性が大となるので、層間の剥がれを防止できるというメリットが得られる。異種系列のインクを用いる場合は、第1の層13のインクを軸との親和性が大きいものを選択し、第2の層14として第1の層13とは異なった性質を有するインクを選択することで、機能の選択肢を拡大するメリットが得られる。いずれにせよ、第1の層13をベタ面とすることで、グリップ部12の密着性を高め、剥がれに対する耐性を付与することが可能となる。
【0019】
図4は、前記した第1の層13及び第2の層14の印刷パターンを示す図である。
この図4が示すように、第1の層13は方形を2つ並べた印刷パターンとなっている。また、第2の層14はドットを所定間隔で配置した印刷パターンとなっている。
ここで、図4に示す印刷パターンは、左右方向が軸筒11の周方向に対応するようになっており、この印刷パターンを軸筒11に印刷した場合、図4中の2つの方形は軸筒11の周方向に並ぶことになる。すなわち、図4に示す印刷パターンは、第1の層13を形成する左側の方形の左端を一方の端部とし、右側の方形の右端を他方の端部とするものである。このため、軸筒11において印刷範囲の一端部(左側の方形の左端)と他端部(右側の方形の右端)とがほぼ一致するように、軸筒11のグリップ部12を一周するように印刷が行われることとなっている。
【0020】
しかしながら、印刷後において、上記した印刷範囲の一端部と他端部とは完全に一致せず、両端部の間にやや間隙が発生するように印刷されるようになっている。すなわち、上記した印刷範囲の一端部から他端部までの距離は、軸筒11の外周よりもやや短く設定されている。このため、図3で示すように、印刷範囲の両端部の間に非印刷部分、すなわち不連続部位15が形成されることとなっている。この不連続部位15が形成されることにより、軸筒11の軸方向と平行に所定幅を有する間隙が存在することとなる。言い換えると、第1の層13の印刷パターンにおける2つの方形が、軸筒11の軸方向に見て互いにオーバーラップしないように間隙を有するようになっている。このように、第1の層13を印刷する際に2つの方形が重なり合わず、印刷の合わせ目がずれて外観が悪くなることがないようになっている。
【0021】
なお、非印刷部分としての不連続部位15は、印刷範囲の両端部の間のみならず、第1の層13の印刷パターンにおける2つの方形の間にも形成される。すなわち、図3に示すように、不連続部位15は、軸筒11の中心軸を対称軸として、軸対称に2つ設けられている。このため、不連続部位15をデザイン的に設けることができ、不連続部位15を設けたことによる違和感を感じさせないようになっている。
そして、第2の層14も、上記した第1の層13と同様に、軸筒11のグリップ部12を一周するように印刷される。この第2の層14の印刷領域は、図4に示すように、第1の層13の印刷部分の範囲にのみ設けられている。このため、この第2の層14は、実際には第1の層13の上に印刷されることとなり、軸筒11に直接印刷する場合と比較して剥離しにくくなっている。
【0022】
また、このように、第1の層13の上に第2の層14が印刷されるため、第2の層14をデザインとしても特徴的なものとすることができるようになっている。すなわち、従来のグリップ部12は、ローレットや格子状など規則性のあるものであり、画一的なデザインであったが、本実施形態に倣えば多様なデザインとすることが可能である。すなわち、本実施形態においては第2の層14としてドット状の印刷パターンを採用したが、印刷パターンとしてはこれに限らない。印刷可能な範囲でさえあれば、直線、曲線、円、又はそれらの組み合わせや、模様、文字など、自由に設定することができ、様々な意匠を凝らしたグリップ部12を形成することができる。
【0023】
以上のように、本実施形態によれば、印刷により被覆部位を形成したため、少量・多品種の商品を迅速かつ低コストで提供することができるとともに、デザイン性と機能性とを兼ね備えた筆記具10を提供することが可能となる。
(変形例)
上記した実施形態においては、第1の層13の上に第2の層14を印刷することとしたが、これに限らない。すなわち、図5に示すように、まず第2の層14を印刷し、その上に第1の層13を設けることとしても良い。このようにした場合でも、印刷面積の小さい第2の層14の剥離を防止することができる。
【0024】
また、第2の層14の印刷パターンとしては、上記したような実施形態に限らない。例えば図6に示すように、第1の層13における非印刷部分である不連続部位15にも、第2の層14の印刷領域を設けることとしても良い。この図6に示す変形例においては、第2の層14の印刷領域のうち、第1の層13の不連続部位15に跨るように印刷された円形の印刷領域は、そのすべてが不連続部位15に印刷されているわけではないため、単に軸筒11に直接印刷した場合と比較して剥離が起きにくくなっている。
また、印刷により被覆部位を設ける場所としては、グリップ部12に限らず、デザイン性等を考慮して他の場所としても良い。
【0025】
また、被覆部位は2層に限るものではなく、3層以上で形成しても良い。例えば、上記した第2の層14を複数の層とし、複数回の印刷で形成するとしても良い。この場合、それぞれの層を別の材料や色彩とすれば、更にデザイン性の高い筆記具10を提供できる。
また、不連続部位15は、2箇所に限らず、1箇所でも良いし、3箇所以上としても良い。例えば、軸筒11の軸方向に一定間隔で3箇所以上の不連続部位15を設けても良い。
また、不連続部位15は直線状に設けたものに限らず、例えば、曲線状に設けても良いし、ジグザグ状に設けても良い。
【符号の説明】
【0026】
10 筆記具 11 軸筒
12 グリップ部(被覆部位) 13 第1の層
14 第2の層 15 不連続部位
16 ノック部材 17 先軸筒部材
18 主軸筒部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒の一部に被覆部位を設けた筆記具であって、
前記被覆部位は、それぞれが印刷により形成される第1の層と第2の層とを備え、
前記第1の層は、周方向に見て少なくとも1箇所の不連続部位を有するように軸筒を被覆し、
前記第2の層は、前記第1の層との重複印刷部分を有するように設けられていることを特徴とする、筆記具。
【請求項2】
前記第1の層が前記第2の層よりも下層に設けられていることを特徴とする、請求項1記載の筆記具。
【請求項3】
前記第1の層の印刷面積は前記第2の層の印刷面積よりも大きいことを特徴とする、請求項1又は2記載の筆記具。
【請求項4】
前記不連続部位が2箇所以上設けられていることを特徴とする、請求項1、2又は3記載の筆記具。
【請求項5】
前記第2の層の印刷部分は、前記第1の層の印刷部分の範囲にのみ設けられていることを特徴とする、請求項1、2、3又は4記載の筆記具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−121288(P2011−121288A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281231(P2009−281231)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000005957)三菱鉛筆株式会社 (692)
【出願人】(598060774)株式会社カワイ化工 (2)