説明

管状構造体の応力解析システム及び応力解析方法

【課題】きわめて容易かつ迅速に管状構造体の板厚測定及び応力解析を実現させることができるシステム及び方法を提供する。
【解決手段】管状構造体の板厚を測定するとともに、測定して得た板厚データを所定の測定データ形式で保存する板厚測定装置2と、板厚測定装置2で保存した板厚データを測定データ形式から応力解析用データ形式に自動変換するとともに、自動変換して得た応力解析用データ形式の板厚データを用いて管状構造体の応力解析を行う応力解析装置3と、を備える応力解析システム1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管状構造体の応力解析システム及び応力解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、各種管状構造体(例えば、内容物の収容を目的とした搭状や円筒状の大型タンク、リアクタ等の比較的小型の容器、ストレート形状やエルボ形状の配管等)の安全性を評価する手法が種々提案されている。例えば、リアクタを継続使用する際には、リアクタを構成する壁板の厚さ(板厚)が所定の基準値を下回るか否かによって安全性が評価されていた。
【0003】
しかし、容器や配管等の管状構造体は、内部に収容された物質の特性や外部の温度変化の程度等によっては腐食し易い環境にさらされるため、局部的に腐食が進展する場合がある。このため、近年においては、管状構造体の安全性を正確に評価することを目的として、管状構造体の複数個所の板厚の変化量を測定し、この変化量に基づいて管状構造体の応力解析を行う技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−177067号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、前記した特許文献1に記載されたような従来の技術は、作業者の手によって板厚を測定するものであるため、管状構造体全体の板厚データ(分布)を取得することが困難であり、しかも作業に多大な労力や時間を要するという問題があった。また、仮に有効な測定データを多数取得できたとしても、その測定データを用いて有限要素法等の手法を採用して応力解析を行おうとすると、測定データの入力に膨大な労力・時間を要することとなるため、その実施は事実上困難であった。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、きわめて容易かつ迅速に管状構造体の板厚測定及び応力解析を実現させることができるシステム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明に係る管状構造体の応力解析システムは、管状構造体の板厚を測定するとともに、測定して得た板厚データを所定の測定データ形式で保存する板厚測定装置と、板厚測定装置で保存した板厚データを測定データ形式から応力解析用データ形式に自動変換するとともに、自動変換して得た応力解析用データ形式の板厚データを用いて管状構造体の応力解析を行う応力解析装置と、を備えるものである。
【0007】
また、本発明に係る管状構造体の応力解析方法は、管状構造体の板厚を測定して得た板厚データを所定の測定データ形式で保存する第1の工程と、第1の工程で保存した板厚データを測定データ形式から応力解析用データ形式に自動変換する第2の工程と、第2の工程で自動変換して得た応力解析用データ形式の板厚データを用いて管状構造体の応力解析を行う第3の工程と、を備えるものである。
【0008】
かかる構成及び方法を採用すると、容器や配管等の管状構造体の板厚を測定し、この測定により得た板厚データを測定データ形式から応力解析用データ形式に自動変換し、この応力解析用データ形式の板厚データを用いて管状構造体の応力解析を行うことができる。従って、単に板厚を測定するだけでなく、取得した測定データを用いて応力解析(応力集中も含めた強度解析)を容易かつ迅速に行うことができ、管状構造体の補修要否や解体再建造の判断を行うための安全性の評価を高い精度で実現させることができる。この結果、管状構造体の運用において、安全上の効果に加え、経済的な効果や資源節約の効果(管状構造体の長寿命化)を得ることが可能となる。
【0009】
前記応力解析システムにおいて、測定データ形式の板厚データとして、管状構造体を構成する板を複数の要素に分割した場合における各要素の板厚値を採用するとともに、応力解析用データ形式の板厚データとして、管状構造体の三次元数値モデルを複数の要素に分割した場合における各要素の板厚値を採用することができる。この際、測定データ形式の要素サイズを応力解析用データ形式の要素サイズよりも小さく設定する。また、かかる場合において、応力解析用データ形式の要素に対応する測定データ形式の要素群を特定するとともにこの要素群の板厚最小値(板厚平均値)を特定(算出)し、この要素群に対応する応力解析用データ形式の要素の板厚値を板厚最小値(板厚平均値)で代表させる応力解析装置を採用することができる。さらに、応力解析用データ形式の要素に対応する測定データ形式の要素群の板厚値の有効割合が所定の閾値を超えるか否かを判定し、有効割合が閾値以下である場合に、この要素群に対応する応力解析用データ形式の要素の板厚値を所定の置換値で代表させる応力解析装置を採用することもできる。
【0010】
また、前記応力解析システムにおいて、管状構造体の外形寸法データに基づいて管状構造体の三次元数値モデルを自動生成して複数の要素に分割する応力解析装置を採用することもできる。また、かかる場合において、応力解析装置は、三次元数値モデルを自動生成して複数の要素に分割する際に、管状構造体を構成する板の位置に応じて分割数を変更する(例えば、破損が発生し易い箇所は細かく分割し、破損が発生し難い箇所は粗く分割する)こともできる。
【0011】
また、前記応力解析システムにおいて、板厚測定装置及び応力解析装置を一体的に構成することもできる。
【0012】
また、前記応力解析システムにおいて、板厚測定装置を応力解析装置から離隔した位置に配置し、板厚測定装置と応力解析装置との間におけるデータ授受を所定の通信手段又はデータ記録媒体によって実現させることもできる。
【0013】
また、前記応力解析システムにおいて、管状構造体の製造時点における板厚データと、板厚測定装置で測定して得た管状構造体の板厚データと、管状構造体の使用期間と、に基づいて、板厚測定装置での測定時点から所定期間経過した時点における管状構造体の板厚データを推定する板厚推定手段を備えることもできる。
【0014】
かかる構成を採用すると、過去の板厚データの履歴(使用期間と板厚変化との関係)に基づいて、例えば板厚の変化率を算出することができ、この変化率を参照して将来(板厚測定時点から所定期間経過した時点)における管状構造体の板厚を推定することができる。そして、このように推定した板厚に基づいて、例えば管状構造体の寿命を予測したり、安全性確保のために今までの運転条件を見直したりすることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、きわめて容易かつ迅速に管状構造体の板厚測定及び応力解析を実現させることができるシステム及び方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る管状構造体の応力解析システムについて説明する。本実施形態においては、図1及び図2に示すように、略円筒状の胴部101と、所定の曲率を有する球面状の曲面で構成された底部102と、を備えるリアクタ100(反応容器)を管状構造体の例として挙げることとし、このリアクタ100を構成する鋼板の厚さを測定して応力解析を行うシステム及び方法について説明する。
【0017】
まず、図1〜図7を用いて、本実施形態に係る応力解析システム1の構成について説明する。
【0018】
応力解析システム1は、図3に示すように、リアクタ100を構成する鋼板の厚さ(板厚)を測定するとともに、測定して得た板厚データを所定の測定データ形式で保存する板厚測定装置2と、板厚測定装置2で保存した板厚データを測定形式データ形式から応力解析用データ形式に自動変換するとともに、自動変換して得た応力解析用データ形式の板厚データを用いてリアクタ100の応力解析を行う応力解析装置3と、を備えている。なお、本実施形態においては、板厚測定装置2と応力解析装置3とを物理的に離隔した位置に配置し、両者間のデータ授受を所定の通信方式(無線通信方式や有線通信方式)で実現させている。
【0019】
板厚測定装置2は、リアクタ100の鋼板上を走行する走行台車20、走行台車20に搭載された超音波探触子ユニット21、超音波探触子ユニット21を介して板厚を測定するための超音波厚さ計22、走行台車20の駆動制御や測定データの収集を行う制御装置23、制御装置23で収集した測定データに基づいて板厚データを算出し所定の測定データ形式で保存する情報処理装置24、情報処理装置24に対して操作信号を入力するための操作部25、情報処理装置24で保存された測定データを表示する表示部26等を有している。
【0020】
走行台車20は、図1〜図3に示すように、複数の車輪20aと、これら車輪20aを回転駆動するモータ20bと、を有しており、制御装置23がモータ20bを制御することにより、リアクタ100の胴部101及び底部102を構成する鋼板上を走行する。走行台車20には、鋼板に対して磁力による吸着力を発揮する図示されていない磁石(永久磁石や電磁石)が設けられており、この磁石により、走行台車20はリアクタ100の鋼板上に吸着しながら走行することができるようになっている。また、走行台車20には、走行中における自己の位置を測定する位置センサ20cが搭載されており、位置センサ20cを介して得られた位置データは、ケーブル20dを介して制御装置23に伝送されるようになっている。
【0021】
走行台車20は、リアクタ100の胴部101を構成する鋼板上において、図1に示すように胴部101上を鉛直方向(高さ方向)に走行することができるとともに、走行方向を90°回転させて胴部101上を水平方向(円周方向)に走行することができる。これにより、走行台車20は胴部101の略全面にわたって走行することができ、走行台車20に搭載される超音波探触子ユニット21によって胴部101の略全面の板厚を測定することができる。
【0022】
一方、走行台車20は、リアクタ100の底部102を構成する鋼板上において、図2(A)、(B)に示すように、底部102の中心に装着された所定の支持部材20eと走行台車20とを接続する回転半径規定部材20fにより走行半径が規定された状態で所定の曲率半径の円周上を走行する。回転半径規定部材20fにより、支点部材20eと走行台車20との間の距離を増減させると、走行台車20は底部102の略全面にわたって走行することができ、走行台車20に搭載された超音波探触子ユニット21によって底部102の略全面の板厚を測定することができる。
【0023】
超音波探触子ユニット21には、図示されていない複数の超音波探触子が千鳥状(互い違い)に配列された状態で搭載されている。超音波探触子を用いて鋼板の厚さを測定する際には、超音波厚さ計22からパルス電圧を超音波探触子に周期的に送ることにより、超音波探触子の送信振動子を発振させ、これにより発生した超音波を被検体となる鋼板中に送り込む。そして、被検体底面からの反射波を超音波探触子の受信振動子で受信し、この受信振動子が振動することにより得られる電圧を超音波厚さ計22で検出・増幅する。このように超音波厚さ計22で検出・増幅された板厚に関するデータは、制御装置23に送信される。制御装置23は、受信した板厚に関するデータを所定のデータに変換した上で情報処理装置24に送信する。情報処理装置24は、制御装置23から送信されたデータに基づいて鋼板の厚さ(板厚値)を算出する。
【0024】
制御装置23は、走行台車20のモータ20bや操舵輪を駆動制御することにより、走行台車20を所望の方向に走行させる。この際、予め設定された走行ルートに沿って走行台車20を走行させるように制御してもよく、操作部25に入力された操作信号に基づいて走行台車20を走行させるように制御してもよい。また、制御装置23は、走行台車20の位置センサ20cを介して得られた位置データを検出し、検出した位置データを、超音波厚さ計22を介して得られた板厚に関するデータに対応させて情報処理装置24に送信する。
【0025】
情報処理装置24は、各種機器を統合制御するCPU(Central Processing Unit)24a、各種機器を制御するためのプログラムやデータが記録されるとともに測定データを記録するためのメモリ24b、外部機器とデータ通信を行うための通信部24c等を備えている。CPU24aは、超音波厚さ計22を介して得られた板厚に関するデータを制御装置23から受信して板厚値を算出する。そして、CPU24aは、位置センサ20cを介して得られた位置データに対応させて、算出した板厚値をメモリ24bに保存する。本実施形態においては、リアクタ100の胴部101及び底部102を複数の要素に分割し、その要素に対応させて(すなわち所定の測定データ形式で)板厚データを保存することとしている。また、CPU24aは、保存した板厚データを位置データとともに表示部26に表示する。
【0026】
具体的には、リアクタ100の胴部101において、この胴部101を円周方向に沿って等間隔でni個に分割する一方、高さ方向に沿って等間隔でnj個に分割することにより、全部でni×nj個の要素(格子)を形成し、これら要素毎に板厚値を保存する。図4(A)は、リアクタ100の胴部101の板厚データを要素毎に示した測定データマップである。図4(A)においては、横軸に胴部101の円周方向の要素数i(1、2、3、……、ni)を採用し、縦軸に胴部101の高さ方向の要素数j(1、2、3、……、nj)を採用し、各要素が(i、j)の形式で表示され、各要素(i、j)における板厚値がその数値に対応した色(濃淡)で表示される。
【0027】
リアクタ100の底部102においては、この底部102を、第1の方向と、この第1の方向に直交する第2の方向と、に沿って各々分割して複数の要素を形成し、これら要素毎に板厚値を保存する。図4(B)は、リアクタ100の底部102の板厚データを要素毎に示した測定データマップである。図4(B)においても、横軸に底部102のある方向(第1の方向)の要素数i(1、2、3、……、ni)を採用し、縦軸に第1の方向と直交する方向(第2の方向)の要素数j(1、2、3、……、nj)を採用し、各要素が(i、j)の形式で表示され、各要素(i、j)における板厚値がその数値に対応した色(濃淡)で表示される。
【0028】
また、情報処理装置24は、メモリ24bに所定の測定データ形式で保存した板厚データ(測定データ)を、通信部24cを介して、無線通信方式又は有線通信方式で応力解析装置3に送信する。応力解析装置3に送信された板厚データは、後述する情報処理装置30の通信部30cを介して受信された後、所定のデータ変換処理により応力解析用データ形式の板厚データに変換され、この応力解析用データ形式の板厚データに基づいて応力解析がなされることとなる。これら通信部24c、30cは、本発明における通信手段を構成する。
【0029】
応力解析装置3は、図3に示すように、板厚測定装置2から送信された板厚データ(測定データ)を受信して所定の処理を行うとともに処理後のデータを用いてリアクタ100の応力解析を行う情報処理装置30、情報処理装置30に対して操作信号を入力するための操作部31、情報処理装置で処理されたデータ等を表示する表示部32等を有している。
【0030】
情報処理装置30は、各種機器を統合制御するCPU(Central Processing Unit)30a、各種機器を制御するためのプログラムやデータが記録されるとともに測定データを記録するためのメモリ30b、外部機器とデータ通信を行うための通信部30c等を備えている。CPU30aは、メモリ30bに記録されたリアクタ100の外形寸法データに基づいて、リアクタ100の応力解析用の三次元数値モデルを自動生成する。図5は、自動生成されたリアクタ100の三次元数値モデルの概念図である。本実施形態においては、有限要素法を用いてリアクタ100の応力解析を行うため、リアクタ100の胴部101及び底部102を複数の要素に分割する。この際、CPU30aは、三次元数値モデルにおける全要素の初期の板厚値をデフォルトの値に設定している。
【0031】
応力解析装置3の情報処理装置30で作成した三次元数値モデルの各要素は、4つの節点を有しており、各節点がxyz座標を有している。例えばn番目の要素(以下、「要素(n)」という)における4つの節点の座標は、図6に示すように、(xn1、yn1、zn1)、(xn2、yn2、zn2)、(xn3、yn3、zn3)、(xn4、yn4、zn4)となり、要素(n)はこれら4つの節点をつなぐ線で囲まれた領域で構成される。要素(n)のサイズは、板厚測定装置2の情報処理装置24で保存された測定データの要素(i、j)のサイズよりも大きくなっている。従って、測定した板厚データの保存形式の要素(i、j)と、応力解析用の三次元数値モデルの要素(n)と、は一対一に対応していないため、測定した板厚データをそのまま応力解析用の三次元数値モデルに適用することはできない。
【0032】
そこで、応力解析装置3の情報処理装置30のCPU30aは、板厚測定装置2から送信された要素(i、j)毎の板厚データを、応力解析用の三次元数値モデルの要素(n)毎の板厚データに変換する。具体的には、CPU30aは、図7に示すように、三次元数値モデルの要素(n)の各節点のxyz座標に基づいて、測定データにおける要素(n)の対応範囲An(imax、imin、jmax、jmin)を算出する。このとき、対応範囲Anは、要素(n)が漏れなく含まれるように算出される。要素(n)の境界は、三次元数値モデルの座標軸と必ずしも平行でないため、対応範囲Anにおける測定データの要素(i、j)には、要素(n)に含まれないものが存在する可能性がある。そして、CPU30aは、算出した対応範囲Anにおける測定データの要素(i、j)から、要素(n)に含まれる測定データの要素群を検出し、検出した要素群(例えば図7に示した36個の要素)における板厚データの最小値を特定する。その後、CPU30aは、このように特定した最小値を、三次元数値モデルの要素(n)の板厚の代表値として(初期のデフォルト値に代えて)設定する。以上のデータ変換を、全要素について実行することにより、測定された要素(i、j)毎の板厚データ(測定データ形式)が、応力解析用の三次元数値モデルの要素(n)毎の板厚データ(応力解析用データ形式)に変換されることとなる。
【0033】
CPU30aは、このようなデータ変換処理により得られた板厚データを含む応力解析用三次元数値モデルと、メモリ30bに記録された各種解析条件(材料特性、圧力、温度、振動、初期条件、境界条件等)と、に基づいて、有限要素法を用いてリアクタ100の応力解析を行う。そして、CPU30aは、操作部31からの操作信号等に応じて、応力解析結果を表示部32に表示する。
【0034】
なお、板厚データの測定漏れや記録漏れ等に起因して、測定データにおいて要素(n)の対応範囲An(imax、imin、jmax、jmin)に含まれる要素群の板厚値が有効でない(又は有効である板厚値が少ない)場合が想定される。CPU30aは、かかる場合に備えて、対応範囲Anに含まれる要素群の板厚値の有効割合(有効データ率)を算出し、有効データ率が所定の閾値(例えば90%)を超えた場合にのみ、板厚の最小値を三次元数値モデルの要素(n)の板厚の代表値として設定する。一方、CPU30aは、有効データ率が所定の閾値以下である場合には、所定の置換値を三次元数値モデルの要素(n)の板厚の代表値として設定することとする。
【0035】
次に、図8及び図9を用いて、本実施形態に係る応力解析システム1を用いた応力解析方法について説明する。
【0036】
最初に、図8を用いて、応力解析方法全体の流れを説明する。まず、板厚測定装置2は、ユーザの操作等に基づいて、走行台車20を走行させてリアクタ100の全面における板厚を測定する(板厚測定工程:S1)。そして、板厚測定装置2の情報処理装置24のCPU24aは、板厚測定工程S1によって得られた板厚データを位置データと対応させて要素(i、j)毎にメモリ24bに保存する(データ保存工程:S2)。これら板厚測定工程S1及びデータ保存工程S2は、本発明における第1の工程を構成する。
【0037】
一方、応力解析装置3の情報処理装置30は、ユーザの操作等に基づいて、リアクタ100の応力解析用の三次元数値モデルを生成する(解析モデル生成工程:S3)。この際、応力解析装置3の情報処理装置30のCPU30aは、メモリ30bに記録されたリアクタ100の外形寸法データに基づいて、リアクタ100の三次元数値モデルを自動生成してメモリ30bに保存する。
【0038】
次いで、板厚測定装置2の情報処理装置24は、ユーザの操作等に基づいて、メモリ24bに所定の測定データ形式で保存した板厚データ(測定データ)を、通信部24cを介して応力解析装置3に送信する。応力解析装置3の情報処理装置30は、通信部30cを介して測定データを受信してメモリ30bに保存する(データ授受工程:S4)。
【0039】
続いて、応力解析装置3の情報処理装置30は、メモリ30bに保存された測定データと、三次元数値モデルの要素(n)のデータと、を読み込み、測定データ形式の板厚データを応力解析用データ形式の板厚データに自動変換する(データ自動変換工程:S5)。データ自動変換工程については、図9を用いて後に詳述する。データ自動変換工程S5は、本発明における第2の工程に相当するものである。
【0040】
その後、応力解析装置3の情報処理装置30は、ユーザの操作等に基づいて、メモリ30bに記録された各種解析条件を読み込み(解析条件読込工程:S6)、この解析条件と、データ変換工程S5によって得られた板厚データ及び三次元数値モデルと、に基づいて、有限要素法を用いてリアクタ100の応力解析を行う(応力解析工程:S7)。応力解析工程S7は、本発明における第3の工程に相当する。最後に、応力解析装置3の情報処理装置30は、ユーザの操作等に基づいて、応力解析結果を表示部32に表示する(結果出力工程:S8)。
【0041】
ここで、図9を用いて、データ自動変換工程S5について説明する。
【0042】
まず、応力解析装置3の情報処理装置30は、メモリ30bに保存された測定データ(すなわち要素(i、j)毎の板厚データ)を読み込む(測定データ読込工程:S11)とともに、応力解析用の三次元数値モデルの要素(n)の節点データを読み込む(解析データ読込工程:S12)。そして、情報処理装置30は、三次元数値モデルの要素(n)の各節点のxyz座標に基づいて、要素(n)に対応する測定データの範囲(対応範囲An)を算出する(対応範囲算出工程:S13)。次いで、情報処理装置30は、算出した対応範囲Anにおける測定データの要素(i、j)から、要素(n)に含まれる測定データの要素群を検出し、検出した要素群における板厚データの最小値を特定する(板厚最小値特定工程:S14)。
【0043】
次いで、応力解析装置3の情報処理装置30は、対応範囲Anに含まれる要素群の板厚値の有効割合(有効データ率)を算出し、この有効データ率が所定の閾値を超えるか否かを判定する(有効データ率判定工程:S15)。有効データ率判定工程S15において、有効データ率が所定の閾値を超えるものと判定した場合に、情報処理装置30は、板厚最小値特定工程S14で特定した板厚の最小値を三次元数値モデルの要素(n)の板厚の代表値として設定する(第1代表値設定工程:S16)。一方、有効データ率判定工程S15において、有効データ率が所定の閾値以下であると判定した場合に、情報処理装置30は、所定の置換値を(板厚の最小値に代えて)三次元数値モデルの要素(n)の板厚の代表値として設定する(第2代表値設定工程:S17)。
【0044】
この後、応力解析装置3の情報処理装置30は、解析データ読込工程S12で読み込んだ全要素の板厚データが、測定データ読込工程S11で読み込んだ測定データを反映させて設定されたか否かを判定する(終了判定工程:S18)。そして、情報処理装置30は、終了判定工程S18において全要素の板厚データの設定が完了していないものと判定した場合には、データ設定が完了していない要素について対応範囲算出工程S13から第1代表値設定工程S16(又は第2代表値設定工程S17)までの工程群を繰り返す。一方、情報処理装置30は、終了判定工程S18において全要素の板厚データの設定が完了したものと判定した場合に、データ自動判定工程S5を終了する。
【0045】
以上説明した実施形態に係る応力解析システム1(応力解析方法)においては、管状構造体であるリアクタ100の板厚を測定し、この測定により得た板厚データを測定データ形式から応力解析用データ形式に自動変換し、この応力解析用データ形式の板厚データを用いてリアクタ100の応力解析を行うことができる。従って、単に板厚を測定するだけでなく、取得した測定データを用いて応力解析(応力集中も含めた強度解析)を容易かつ迅速に行うことができ、リアクタ100の補修要否や解体再建造の判断を行うための安全性の評価を高い精度で実現させることができる。この結果、リアクタ100の運用において、安全上の効果に加え、経済的な効果や資源節約の効果(リアクタ100の長寿命化)を得ることが可能となる。
【0046】
なお、本実施形態においては、測定データ形式から応力解析用データ形式への変換を行う際に、対応範囲Anに含まれる要素群の板厚最小値を、三次元数値モデルの要素(n)の板厚の代表値として設定した例を示したが、対応範囲Anに含まれる要素群の板厚平均値を算出し、この板厚平均値を三次元数値モデルの要素(n)の板厚の代表値として設定することもできる。
【0047】
また、本実施形態においては、板厚測定装置2と応力解析装置3とを別々に構成するとともに両者を物理的に離隔した位置に配置し、所定の通信方式で両者間のデータ授受を実現させた例を示したが、これら板厚測定装置2及び応力解析装置3を一体的に構成する(例えば情報処理装置を1つにまとめる)こともできる。
【0048】
また、本実施形態においては、所定の通信手段(板厚測定装置2の通信部24c及び応力解析装置3の通信部30c)を用いてデータ授受を実現させた例を示したが、磁気記録式や光学記録式等の各種データ記録媒体を用いてデータ授受を実現させることもできる。
【0049】
また、本実施形態においては、管状構造体(リアクタ100)の板厚測定及び応力解析を行うシステム及び方法について示したが、測定した現在の板厚値を用いて、管状構造体の将来の板厚値を推定するような構成を採用することもできる。例えば、板厚測定装置2の情報処理装置24が、図10に示すように、リアクタ100の製造時点における板厚値(P0)と、測定して得た現在のリアクタ100の板厚値(P1)と、リアクタ100の使用期間(0〜T1)と、に基づいて、使用期間と板厚変化との関係を求め、この関係に基づいて、現在(測定時点T1)から所定期間経過した将来の時点(T2)におけるリアクタ100の板厚値(P2)を推定することもできる。かかる場合における板厚測定装置2の情報処理装置24は、本発明における板厚推定手段として機能する。
【0050】
かかる構成を採用すると、過去の板厚値の時間履歴に基づいて板厚の変化率(減少率)を算出することができ、この変化率を参照して将来(板厚測定時点から所定期間経過した時点)におけるリアクタ100の板厚を推定することができる。そして、このように推定した板厚に基づいて、例えばリアクタ100の寿命を予測したり、安全性確保のために今までの運転条件を見直したりすることが可能となる。なお、このような推定処理を、応力解析装置3の情報処理装置30で実現させてもよく、かかる場合における応力解析装置3の情報処理装置30は、本発明における板厚推定手段として機能する。また、前記推定処理を行う板厚推定手段を板圧測定装置2及び応力解析装置3とは別に設けることもできる。
【0051】
また、本実施形態においては、リアクタ100の外形寸法データに基づいてリアクタ100の三次元数値モデルを自動生成し、図5に示すように複数の要素に分割した例を示したが、この際に、リアクタ100を構成する鋼板の位置に応じて分割数を変更する(例えば、破損が発生し易い箇所は細かく分割し、破損が発生し難い箇所は粗く分割する)こともできる。
【0052】
また、本実施形態においては、応力解析装置3の情報処理装置30のCPU30aが、メモリ30bに記録されたリアクタ100の外形寸法データに基づいて、リアクタ100の応力解析用の三次元数値モデル(メッシュモデル)を自動生成した例を示したが、このようなメッシュモデルを手動で生成することもできる。すなわち、ユーザが所定の操作部(例えばマウスやキーボード)を操作することにより、リアクタ100の三次元画像を描画した後、その画像を複数の要素に分割することにより、応力解析用の三次元数値モデルを生成することができる。
【0053】
また、本実施形態においては、リアクタ100の三次元数値モデルを生成して複数の4節点四角形要素に分割した後、有限要素法を採用して応力解析を行った例を示したが、3節点三角形要素や中間節点を有する高次要素についても、本実施形態と同様の手法で板厚データを測定データ形式から応力解析用データ形式に自動変換することが可能である。また、差分法等の他の解析方法を採用して応力解析を行うこともできる。
【0054】
また、本実施形態においては、円筒状の容器(リアクタ100)の板厚測定及び応力解析を行うシステム及び方法を示したが、同様のシステム及び方法を採用して、他の管状構造体(例えば、図11に示すようなエルボ200)の板厚測定及び応力解析を行うこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施形態に係る応力解析システムの板厚測定装置によりリアクタの胴部の板厚を測定している状態を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る応力解析システムの板厚測定装置によりリアクタの底部の板厚を測定する状態を示すものであり、(A)は平面図、(B)は断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る応力解析システムの機能的構成を説明するためのブロック図である。
【図4】本発明の実施形態に係る応力解析システムの板厚測定装置によって測定された板厚データを要素毎に示した測定データマップであり、(A)はリアクタ胴部の板厚データを示すもの、(B)はリアクタ底部の板厚データを示すものである。
【図5】本発明の実施形態に係る応力解析システムの応力解析装置によって生成されたリアクタの三次元数値モデルの概念図である。
【図6】図5に示した三次元数値モデルの要素を構成する節点を説明するための説明図である。
【図7】本発明の実施形態に係る応力解析システムの板厚測定装置で測定された板厚データを測定データ形式から応力解析用データ形式に変換する手順を説明するための説明図である。
【図8】本発明の実施形態に係る応力解析方法を説明するためのフローチャートである。
【図9】図8に示したデータ自動変換工程を説明するためのフローチャートである。
【図10】リアクタの板厚値推定処理を説明するためのタイムチャートである。
【図11】本発明の実施形態に係る応力解析システムによって板厚測定及び応力解析が可能な他の管状構造体(エルボ)の概念図である。
【符号の説明】
【0056】
1…応力解析システム、2…板厚測定装置、3…応力解析装置、24…板厚推定手段、24c・30c…通信部(通信手段)、100…リアクタ(管状構造体)、200…エルボ(管状構造体)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状構造体の板厚を測定するとともに、測定して得た板厚データを所定の測定データ形式で保存する板厚測定装置と、
前記板厚測定装置で保存した板厚データを前記測定データ形式から応力解析用データ形式に自動変換するとともに、自動変換して得た前記応力解析用データ形式の板厚データを用いて前記管状構造体の応力解析を行う応力解析装置と、を備える、
管状構造体の応力解析システム。
【請求項2】
前記測定データ形式の板厚データは、前記管状構造体を構成する板を複数の要素に分割した場合における各要素の板厚値であり、
前記応力解析用データ形式の板厚データは、前記管状構造体の三次元数値モデルを複数の要素に分割した場合における各要素の板厚値であり、
前記測定データ形式の要素サイズは前記応力解析用データ形式の要素サイズよりも小さく設定され、
前記応力解析装置は、前記応力解析用データ形式の要素に対応する前記測定データ形式の要素群を特定するとともに前記要素群の板厚最小値を特定し、前記要素群に対応する前記応力解析用データ形式の要素の板厚値を前記板厚最小値で代表させるものである、
請求項1に記載の管状構造体の応力解析システム。
【請求項3】
前記測定データ形式の板厚データは、前記管状構造体を構成する板を複数の要素に分割した場合における各要素の板厚値であり、
前記応力解析用データ形式の板厚データは、前記管状構造体の三次元数値モデルを複数の要素に分割した場合における各要素の板厚値であり、
前記測定データ形式の要素サイズは前記応力解析用データ形式の要素サイズよりも小さく設定され、
前記応力解析装置は、前記応力解析用データ形式の要素に対応する前記測定データ形式の要素群を特定するとともに前記要素群の板厚平均値を算出し、前記要素群に対応する前記応力解析用データ形式の要素の板厚値を前記板厚平均値で代表させるものである、
請求項1に記載の管状構造体の応力解析システム。
【請求項4】
前記測定データ形式の板厚データは、前記管状構造体を構成する板を複数の要素に分割した場合における前記各要素の板厚値であり、
前記応力解析用データ形式の板厚データは、前記管状構造体の三次元数値モデルを複数の要素に分割した場合における各要素の板厚値であり、
前記測定データ形式の要素サイズは前記応力解析用データ形式の要素サイズよりも小さく設定され、
前記応力解析装置は、前記応力解析用データ形式の要素に対応する前記測定データ形式の要素群を特定するとともに前記要素群の板厚値の有効割合が所定の閾値を超えるか否かを判定し、前記有効割合が前記閾値以下である場合に、前記要素群に対応する前記応力解析用データ形式の要素の板厚値を所定の置換値で代表させるものである、
請求項1から3の何れか一項に記載の管状構造体の応力解析システム。
【請求項5】
前記応力解析装置は、前記管状構造体の外形寸法データに基づいて前記管状構造体の三次元数値モデルを自動生成して複数の要素に分割するものである、
請求項2から4の何れか一項に記載の管状構造体の応力解析システム。
【請求項6】
前記応力解析装置は、前記三次元数値モデルを自動生成して複数の要素に分割する際に、前記管状構造体を構成する板の位置に応じて分割数を変更するものである、
請求項5に記載の管状構造体の応力解析システム。
【請求項7】
前記板厚測定装置及び前記応力解析装置は、一体的に構成されるものである、
請求項1から6の何れか一項に記載の管状構造体の応力解析システム。
【請求項8】
前記板厚測定装置は、前記応力解析装置に対して離隔した位置に配置され、
前記板厚測定装置と前記応力解析装置との間におけるデータ授受が、所定の通信手段又はデータ記録媒体によって実現される、
請求項1から6の何れか一項に記載の管状構造体の応力解析システム。
【請求項9】
前記管状構造体の製造時点における板厚データと、前記板厚測定装置で測定して得た前記管状構造体の板厚データと、前記管状構造体の使用期間と、に基づいて、前記板厚測定装置での測定時点から所定期間経過した時点における前記管状構造体の板厚データを推定する板厚推定手段を備える、
請求項1から8の何れか一項に記載の管状構造体の応力解析システム。
【請求項10】
管状構造体の板厚を測定して得た板厚データを所定の測定データ形式で保存する第1の工程と、
前記第1の工程で保存した板厚データを前記測定データ形式から応力解析用データ形式に自動変換する第2の工程と、
前記第2の工程で自動変換して得た前記応力解析用データ形式の板厚データを用いて前記管状構造体の応力解析を行う第3の工程と、を備える、
管状構造体の応力解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図4】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−145132(P2010−145132A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−320072(P2008−320072)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(000116736)旭化成エンジニアリング株式会社 (49)