説明

粉体の溶媒親和性測定方法

【課題】溶解度パラメータ(SP値)を用いて粉体の溶媒親和性を簡易に測定する方法を提供する。
【解決手段】この溶媒親和性測定方法は、下記(数式1)で求められるSPsol値が連続して減少する複数の混合溶媒を調製し、略同一量の粉体が収容された複数の容器にSPsol値が大きい混合溶媒から順に注入し、個々の容器内に収容されている粉体が、混合溶媒に沈降している状態から浮遊する状態に転じたときの当該容器内における混合溶媒のSPsol値を粉体の溶解度パラメータ(SPpowder値)とし、このSPpowder値を粉体における溶媒親和性の指標として用いることを特徴とする。
(数式1)混合溶媒のSPsol値=
[水の割合×水のSPsol値+有機溶媒の割合×有機溶媒のSPsol値]/100

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶解度パラメータ(SP値)を用いて粉体の溶媒親和性を簡易に測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉体は様々な分野において出発原料となり、近年では粉体に対して多くの特性を持たせることが要求されている。例えば、粉体を均一に塗布するには、水系および有機系溶媒に粉体を分散させてスプレーしたり、塗工したりする方法が有効である。その際、重要なのは、粉体が溶媒に均一に分散しかつ分散状態ができるだけ長く保たれることである。
【0003】
この特性は、使用する溶媒と粉体の親和性に左右されることが多く、溶媒との親和性を評価するために、様々な分析方法が試みられている。
【0004】
最も一般的な方法として、粉体に対する溶媒の接触角を測定する方法が知られている。すなわち、この方法は、粉体を圧縮成形し、得られた成形体に対して溶媒(主に水)の小滴を滴下し、成形体に滴下された液滴を側方から顕微鏡で観察して液滴の接触角を測定するものである。そして、滴下された溶媒に対し粉体の親和性が小さいほど上記接触角は大きく、粉体の親和性が大きいほど接触角は小さくなる。
【0005】
接触角を測定するこの方法は、手軽に実施できる利点を有するが、粉体の成形体を作る必要があることや、成形体の表面状態により測定値が変動するといった問題がある。
【0006】
また、粉体の充填層を作り、この充填層を毛細管の集まりと看做し、充填層に対する溶媒の浸透から接触角を求める方法も知られている。しかし、充填層について太さが一様な毛細管の集まりと考えたときに、毛細管の半径をどのような数値に仮定するかについて課題が存在した。
【0007】
接触角を測定する上述の方法とは別に、水に疎水性の粉体(トナー)を浮遊させ、これにメタノールを滴下させながら光の透過率を測定し、水とメタノールからなる混合溶媒にトナーが濡れて、沈降・溶媒中に分散させ、光の透過率が50%となったときのメタノール濃度を溶媒への親和性の指標とする方法も提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−299086号公報(請求項21、段落0026−段落0028)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1で提案されている上述の方法は、透過率を評価するための高額な光学装置が必要となり、かつ、パソコン等の精密機器を扱う必要があるため、製造現場のような粉体等が漂う場所では不向きな問題があった。
【0010】
このため、製造現場のような場所において、粉体の溶媒親和性評価を簡便に行なえる方法を確立することが望まれていた。
【0011】
本発明はこのような問題に着目してなされたもので、その課題とするところは、溶媒に対する粉体の親和性評価について簡便に行なえる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、請求項1に係る発明は、
溶媒に対する粉体の親和性を測定する方法において、
水、および、水との相溶性を有する単一種類の有機溶媒とを異なる割合で混合して、下記(数式1)にて求められる溶解度パラメータ(SPsol値)が大きな値から小さな値まで連続して減少する複数の混合溶媒を調製する工程と、
上記粉体を個々の容器に略同一量それぞれ収容して、複数の測定用粉体収容容器を調製する工程と、
調製された個々の測定用粉体収容容器に対し、SPsol値の大きい混合溶媒から順にそれぞれ注入していき、個々の測定用粉体収容容器内に収容されている粉体が、注入された大きなSPsol値を有する混合溶媒に沈降している状態から、小さなSPsol値を有する混合溶媒に浮遊する状態に転じたときの、当該測定用粉体収容容器内における混合溶媒のSPsol値を粉体の溶解度パラメータ(SPpowder値)として決定する工程、
の各工程を有し、決定された溶解度パラメータ(SPpowder値)を粉体における溶媒親和性の指標とすることを特徴とし、
混合溶媒の溶解度パラメータ(SPsol値)=
[水の割合(体積%)×水のSPsol
+有機溶媒の割合(体積%)×有機溶媒のSPsol値]/100 (数式1)
請求項2に係る発明は、
溶媒に対する粉体の親和性を測定する方法において、
水、および、水との相溶性を有する単一種類の有機溶媒とを異なる割合で混合して、上記(数式1)にて求められる溶解度パラメータ(SPsol値)が小さな値から大きな値まで連続して増加する複数の混合溶媒を調製する工程と、
上記粉体を個々の容器に略同一量それぞれ収容して、複数の測定用粉体収容容器を調製する工程と、
調製された個々の測定用粉体収容容器に対し、SPsol値の小さい混合溶媒から順にそれぞれ注入していき、個々の測定用粉体収容容器内に収容されている粉体が、注入された小さなSPsol値を有する混合溶媒に浮遊している状態から、大きなSPsol値を有する混合溶媒に沈降する状態に転じたときの、当該測定用粉体収容容器内における混合溶媒のSPsol値を粉体の溶解度パラメータ(SPpowder値)として決定する工程、
の各工程を有し、決定された溶解度パラメータ(SPpowder値)を粉体における溶媒親和性の指標とすることを特徴とする。
【0013】
次に、請求項3に係る発明は、
溶媒に対する粉体の親和性を測定する方法において、
水、および、水との相溶性を有する単一種類の有機溶媒とを異なる割合で混合して、上記(数式1)にて求められる溶解度パラメータ(SPsol値)が大きな値から小さな値まで連続して減少する複数の混合溶媒を調製する工程と、
SPsol値が大きな値から小さな値まで連続して減少する混合溶媒を個々の容器に略同一量それぞれ収容して、複数の測定用混合溶媒収容容器を調製する工程と、
調製された個々の測定用混合溶媒収容容器に対し、SPsol値の大きい混合溶媒が収容された測定用混合溶媒収容容器から順に略同一量の粉体を投入し、投入された上記粉体が、大きなSPsol値を有する混合溶媒に沈降している状態から、小さなSPsol値を有する混合溶媒に浮遊する状態に転じたときの、当該測定用混合溶媒収容容器内における混合溶媒のSPsol値を粉体の溶解度パラメータ(SPpowder値)として決定する工程、
の各工程を有し、決定された溶解度パラメータ(SPpowder値)を粉体における溶媒親和性の指標とすることを特徴とし、
請求項4に係る発明は、
溶媒に対する粉体の親和性を測定する方法において、
水、および、水との相溶性を有する単一種類の有機溶媒とを異なる割合で混合して、上記(数式1)にて求められる溶解度パラメータ(SPsol値)が小さな値から大きな値まで連続して増加する複数の混合溶媒を調製する工程と、
SPsol値が小さな値から大きな値まで連続して増加する混合溶媒を個々の容器に略同一量それぞれ収容して、複数の測定用混合溶媒収容容器を調製する工程と、
調製された個々の測定用混合溶媒収容容器に対し、SPsol値の小さい混合溶媒が収容された測定用混合溶媒収容容器から順に略同一量の粉体を投入し、投入された上記粉体が、小さなSPsol値を有する混合溶媒に浮遊している状態から、大きなSPsol値を有する混合溶媒に沈降する状態に転じたときの、当該測定用混合溶媒収容容器内における混合溶媒のSPsol値を粉体の溶解度パラメータ(SPpowder値)として決定する工程、
の各工程を有し、決定された溶解度パラメータ(SPpowder値)を粉体における溶媒親和性の指標とすることを特徴とする。
【0014】
また、請求項5に係る発明は、
請求項1〜4のいずれかに記載の発明に係る粉体の溶媒親和性測定方法において、
水との相溶性を有する単一種類の上記有機溶媒がアセトンで、かつ、上記粉体が表面処理を施した銀粉、銅粉またはニッケル粉から選択される金属粉であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1〜2に係る粉体の溶媒親和性測定方法は、
溶解度パラメータ(SPsol値)が連続して減少若しくは増加する複数の混合溶媒を調製し、かつ、略同一量の粉体が収容された複数の測定用粉体収容容器に対し、溶解度パラメータ(SPsol値)が相違する混合溶媒を順次注入し、個々の測定用粉体収容容器内に収容されている粉体が、注入された混合溶媒に沈降している状態から浮遊する状態に転じたとき、あるいは、個々の測定用粉体収容容器内に収容されている粉体が、注入された混合溶媒に浮遊している状態から沈降する状態に転じたときを観察して、当該測定用粉体収容容器内における混合溶媒のSPsol値を粉体の溶解度パラメータ(SPpowder値)と決定し、このSPpowder値を、粉体における溶媒親和性の指標としている。
【0016】
また、請求項3〜4に係る粉体の溶媒親和性測定方法も、
溶解度パラメータ(SPsol値)が連続して減少若しくは増加する複数の混合溶媒を調製し、かつ、溶解度パラメータ(SPsol値)が相違する略同一量の混合溶媒をそれぞれ収容した測定用混合溶媒収容容器の各々に対し略同一量の粉体を投入し、投入された粉体が、個々の測定用混合溶媒収容容器内の混合溶媒に沈降している状態から浮遊する状態に転じたとき、あるいは、個々の測定用混合溶媒収容容器内の混合溶媒に浮遊している状態から沈降する状態に転じたときを観察して、当該測定用混合溶媒収容容器内における混合溶媒のSPsol値を粉体の溶解度パラメータ(SPpowder値)と決定し、このSPpowder値を、粉体における溶媒親和性の指標としている。
【0017】
従って、請求項1〜4に係る粉体の溶媒親和性測定方法によれば、
高額な光学装置を必要とせず、パソコン等の精密機器を扱う必要もないことから、製造現場のような粉体等が漂う場所において測定が可能で、かつ、測定用容器内に収容されている粉体の沈降若しくは浮遊状態を観察するといった簡便な操作により粉体の溶媒親和性が測定されるため、測定作業者は熟練者である必要が無く、かつ、製造された粉体の管理にこれ等の測定方法を利用できる効果を有している。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明方法により測定された粉体の溶解度パラメータ(SPpowder値)と従来法により計測された当該粉体の接触角計測値との関係を示すグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0020】
まず、本発明方法を実施する際、水、および、水との相溶性を有する単一種類の有機溶媒(例えばアセトン)とを異なる割合で混合して、溶解度パラメータ(SPsol値)が連続して減少若しくは増加する複数の混合溶媒を調製する。
【0021】
尚、上記混合溶媒の溶解度パラメータ(SPsol値)は、以下の(数式1)により求めることができる。
【0022】
混合溶媒の溶解度パラメータ(SPsol値)=
[水の割合(体積%)×水のSPsol
+有機溶媒の割合(体積%)×有機溶媒のSPsol値]/100 (数式1)
水と混合する有機溶媒は、水との相溶性を有することを条件に任意であるが、水の溶解度パラメータ(SPsol値)と大きく相違する有機溶媒を選択した方が、混合溶媒のSPsol値を広い範囲で変化させられるため好ましい。例えば、水のSPsol値は23.4MPa1/2であり、アセトンのSPsol値は10.0MPa1/2、エタノールは12.7MPa1/2、メタノールは14.5〜14.8MPa1/2であることからアセトンが好ましい。
【0023】
本発明方法を実施する場合、通常は、アセトンの割合を5〜70体積%の範囲で5体積%ずつ変化させて調製した複数の混合溶媒を用意する。
【0024】
また、粉体と混合溶媒との親和性測定に使用する容器(例えば試験管)は十分に乾燥しておき、その中に被検体である粉体を投入し、あるいは混合溶媒を収容する。尚、被検体である粉体を投入する場合、投入量としては0.02g程度で十分で、スパチュラに少し掬う程度で精密な秤量を必要としない。
【0025】
そして、被検体である粉体が投入された容器(例えば試験管)内へ混合溶媒を注入して粉体の溶媒親和性測定を行なう場合には、略同一量の粉体がそれぞれ投入された容器を複数調製し、複数の測定用粉体収容容器を用意しておく。
【0026】
次に、上記粉体(被検体)が投入された複数の測定用粉体収容容器に対し、準備した混合溶媒を加えるが、粉体と混合溶媒の親和性が大きければ、粉体は混合溶媒に濡れ、粉体は沈んだ状態となる。反対に、粉体と溶媒の親和性が小さければ、粉体は混合溶媒に濡れず、粉体は混合溶媒の界面に浮遊する。
【0027】
ところで、個々の測定用粉体収容容器に対して、上記溶解度パラメータ(SPsol値)が大きい混合溶媒から順にそれぞれ注入する場合、初めは上記SPsol値が大きい混合溶媒に濡れて沈んでいた測定用粉体収容容器内の粉体(被検体)が、混合溶媒のSPsol値が順次小さくなるにつれて粉体が混合溶媒に濡れなくなり、あるSPsol値の混合溶媒が注入された測定用粉体収容容器のところから粉体が浮遊するようになる。そして、測定用粉体収容容器(試験管)に軽く衝撃を与えても粉体が沈降しなくなったとき、当該測定用粉体収容容器(試験管)内における混合溶媒のSPsol値を、粉体(被検体)の溶解度パラメータ(SPpowder値)として決定する。より細かな数値が必要な場合は、更に混合溶媒の混合割合を細かく分けて試験を行い数値化する。
【0028】
ここで、測定用粉体収容容器(試験管)に軽く衝撃を与えている理由は、粉体間に含まれる気泡などが原因で粉体が浮遊してしまうことがあるからである。しかし、あまりに強く衝撃を与えると自重による粉体の沈降が生じてしまうので注意が必要である。
【0029】
また、測定用粉体収容容器(試験管)に混合溶媒を注入する操作は慎重に行なう必要がある。測定用粉体収容容器(試験管)に混合溶媒を急激に加えてしまうと、この混合溶媒に対して粉体が親和性を有さず、粉体と混合溶媒が濡れていない状態であっても、粉体が自重で沈降してしまう場合があるからである。最良の方法は、パスツールピペット等で測定用粉体収容容器(試験管)の壁面をつたわせて慎重に溶媒を加えることである。
【0030】
尚、測定用粉体収容容器に対し、溶解度パラメータ(SPsol値)が大きい混合溶媒から順にそれぞれ注入する場合について説明したが、溶解度パラメータ(SPsol値)が小さい混合溶媒から順にそれぞれ注入する場合も粉体の溶媒親和性を測定することができる。
【0031】
すなわち、個々の測定用粉体収容容器に対し、溶解度パラメータ(SPsol値)が小さい混合溶媒から順にそれぞれ注入する場合、初めは上記SPsol値が小さい混合溶媒に濡れずに浮遊していた測定用粉体収容容器内の粉体(被検体)が、混合溶媒のSPsol値が順次大きくなるにつれて粉体が混合溶媒に濡れ、あるSPsol値の混合溶媒が注入された測定用粉体収容容器のところから粉体が沈降するようになる。そして、当該測定用粉体収容容器(試験管)内における混合溶媒のSPsol値を、粉体(被検体)の上記溶解度パラメータ(SPpowder値)として決定する。より細かな数値が必要な場合は、更に混合溶媒の混合割合を細かく分けて試験を行い数値化する。
【0032】
また、被検体である粉体が投入された容器(例えば試験管)へ、混合溶媒を注入して粉体の溶媒親和性を測定する方法について説明したが、溶解度パラメータ(SPsol値)が相違する略同一量の混合溶媒を収容した測定用混合溶媒収容容器の各々に対し、略同一量の粉体を投入する方法を採っても、粉体の溶媒親和性を測定することができる。
【0033】
例えば、溶解度パラメータ(SPsol値)が連続して減少若しくは増加する複数の混合溶媒を調製し、溶解度パラメータ(SPsol値)が相違する略同一量の混合溶媒をそれぞれ収容した複数の測定用混合溶媒収容容器を用意する。
【0034】
次に、溶解度パラメータ(SPsol値)の相違する混合溶媒が収容された測定用混合溶媒収容容器に対し、SPsol値の大きい混合溶媒が収容された測定用混合溶媒収容容器から順に、あるいは、SPsol値の小さい混合溶媒が収容された測定用混合溶媒収容容器から順に略同一量の粉体を投入した場合、粉体と混合溶媒の親和性が大きければ、粉体は混合溶媒に濡れ粉体は沈んだ状態となる。反対に、粉体と溶媒の親和性が小さければ、粉体は混合溶媒に濡れず粉体は混合溶媒の界面に浮遊する。
【0035】
従って、投入された粉体が、個々の測定用混合溶媒収容容器内の混合溶媒に沈降している状態から浮遊する状態に転じたとき、あるいは、個々の測定用混合溶媒収容容器内の混合溶媒に浮遊している状態から沈降する状態に転じたときを観察することで粉体の溶媒親和性を測定することができる。
【0036】
上述したように、粉体の溶解度パラメータ(SPpowder値)と混合溶媒の溶解度パラメータ(SPsol値)との関係は、SPpowder値≧SPsol値であれば粉体は浮遊し、SPpowder値<SPsol値であれば沈降する状態を観察することができるので、粉体と溶媒との親和性の指標として使用することができる。
【0037】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【実施例1】
【0038】
溶媒との親和性を持たせるために表面処理が施された14種類の銀粉を被検体とした。
【0039】
尚、14種類の銀粉は、表面処理剤(界面活性剤)の量や種類が異なるものであり、この実施例においてはステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ラウリン酸といった脂肪酸、またはこれらの混合物からなる表面処理剤を適用している。
【0040】
また、アセトンの割合を5〜70体積%の範囲で5体積%ずつ変化させて調製した複数の混合溶媒(水とアセトン)を用意した。
【0041】
そして、14種類の銀粉の各々について、それぞれ0.02gずつ試験管にとり、水とアセトンの混合溶媒をその溶解度パラメータ(SPsol値)が大きい順に用いて、それぞれの銀粉のSPpowder値を求めた。
【0042】
この結果を図1のグラフ図に示す。
【0043】
他方、SPpowder値が求められた上記14種類の銀粉について、水が50体積%、メタノールが50体積%の混合溶媒を用い、従来法に従って接触角測定装置(協和界面科学株式会社製、DM300自動接触角計)により接触角を計測した。
【0044】
この結果も図1のグラフ図に示す。
【0045】
図1のグラフ図から、従来法で計測した接触角と上記SPpowder値は良い相関を示しており、粉体の成形体を作らなくても溶媒との親和性を評価できることが確認できる。
【実施例2】
【0046】
溶媒との親和性を持たせるために表面処理が施された5種類の銅粉を被検体とした。
【0047】
尚、5種類の銅粉は、表面処理剤の量や種類が異なるものであり、この実施例においてはステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ラウリン酸といった脂肪酸、またはこれらの混合物からなる表面処理剤を適用している。
【0048】
また、アセトンの割合を5〜70体積%の範囲で5体積%ずつ変化させて調製した複数の混合溶媒(水とアセトン)を用意した。
【0049】
そして、5種類の銅粉の各々について、それぞれ0.02gずつ試験管にとり、水とアセトンの混合溶媒をその溶解度パラメータ(SPsol値)が大きい順に用いて、それぞれの銀粉のSPpowder値を求めた。
【0050】
他方、SPpowder値が求められた上記5種類の銅粉について、水が50体積%、メタノールが50体積%の混合溶媒を用い、従来法に従って接触角測定装置(協和界面科学株式会社製、DM300自動接触角計)により接触角を計測した。
【0051】
結果は、図1のグラフ図に示された実施例1と同等の相関が得られ、母体となる金属粉による影響は見受けられなかった。
【実施例3】
【0052】
溶媒との親和性を持たせるために表面処理が施された10種類のNi(ニッケル)粉を被検体とした。
【0053】
尚、10種類のNi粉は、表面処理剤の量や種類が異なるものであり、この実施例においてはステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ラウリン酸といった脂肪酸、またはこれらの混合物からなる表面処理剤を適用している。
【0054】
また、アセトンの割合を5〜70体積%の範囲で5体積%ずつ変化させて調製した複数の混合溶媒(水とアセトン)を用意した。
【0055】
そして、10種類のNi粉の各々について、それぞれ0.02gずつ試験管にとり、水とアセトンの混合溶媒をその溶解度パラメータ(SPsol値)が大きい順に用いて、それぞれのNi粉のSPpowder値を求めた。
【0056】
他方、SPpowder値が求められた上記10種類のNi粉について、水が50体積%、メタノールが50体積%の混合溶媒を用い、従来法に従って接触角測定装置(協和界面科学株式会社製、DM300自動接触角計)により接触角を計測した。
【0057】
結果は、図1のグラフ図に示された実施例1と同等の相関が得られ、母体となる金属粉による影響は見受けられなかった。
【0058】
これ等の結果から、算出したSPpowder値は、母体となる金属粉表面を被覆する界面活性剤(表面処理剤)と溶媒との親和性を表していることが予想される。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明方法によれば溶解度パラメータ(SP値)を用いて粉体の溶媒親和性を簡易に測定できるため、スプレーや塗工に用いられる塗液用粉体の簡易分析等に利用される産業上の利用可能性を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒に対する粉体の親和性を測定する方法において、
水、および、水との相溶性を有する単一種類の有機溶媒とを異なる割合で混合して、下記(数式1)にて求められる溶解度パラメータ(SPsol値)が大きな値から小さな値まで連続して減少する複数の混合溶媒を調製する工程と、
上記粉体を個々の容器に略同一量それぞれ収容して、複数の測定用粉体収容容器を調製する工程と、
調製された個々の測定用粉体収容容器に対し、SPsol値の大きい混合溶媒から順にそれぞれ注入していき、個々の測定用粉体収容容器内に収容されている粉体が、注入された大きなSPsol値を有する混合溶媒に沈降している状態から、小さなSPsol値を有する混合溶媒に浮遊する状態に転じたときの、当該測定用粉体収容容器内における混合溶媒のSPsol値を粉体の溶解度パラメータ(SPpowder値)として決定する工程、
の各工程を有し、決定された溶解度パラメータ(SPpowder値)を粉体における溶媒親和性の指標とすることを特徴とする粉体の溶媒親和性測定方法。
混合溶媒の溶解度パラメータ(SPsol値)=
[水の割合(体積%)×水のSPsol
+有機溶媒の割合(体積%)×有機溶媒のSPsol値]/100 (数式1)
【請求項2】
溶媒に対する粉体の親和性を測定する方法において、
水、および、水との相溶性を有する単一種類の有機溶媒とを異なる割合で混合して、上記(数式1)にて求められる溶解度パラメータ(SPsol値)が小さな値から大きな値まで連続して増加する複数の混合溶媒を調製する工程と、
上記粉体を個々の容器に略同一量それぞれ収容して、複数の測定用粉体収容容器を調製する工程と、
調製された個々の測定用粉体収容容器に対し、SPsol値の小さい混合溶媒から順にそれぞれ注入していき、個々の測定用粉体収容容器内に収容されている粉体が、注入された小さなSPsol値を有する混合溶媒に浮遊している状態から、大きなSPsol値を有する混合溶媒に沈降する状態に転じたときの、当該測定用粉体収容容器内における混合溶媒のSPsol値を粉体の溶解度パラメータ(SPpowder値)として決定する工程、
の各工程を有し、決定された溶解度パラメータ(SPpowder値)を粉体における溶媒親和性の指標とすることを特徴とする粉体の溶媒親和性測定方法。
【請求項3】
溶媒に対する粉体の親和性を測定する方法において、
水、および、水との相溶性を有する単一種類の有機溶媒とを異なる割合で混合して、上記(数式1)にて求められる溶解度パラメータ(SPsol値)が大きな値から小さな値まで連続して減少する複数の混合溶媒を調製する工程と、
SPsol値が大きな値から小さな値まで連続して減少する混合溶媒を個々の容器に略同一量それぞれ収容して、複数の測定用混合溶媒収容容器を調製する工程と、
調製された個々の測定用混合溶媒収容容器に対し、SPsol値の大きい混合溶媒が収容された測定用混合溶媒収容容器から順に略同一量の粉体を投入し、投入された上記粉体が、大きなSPsol値を有する混合溶媒に沈降している状態から、小さなSPsol値を有する混合溶媒に浮遊する状態に転じたときの、当該測定用混合溶媒収容容器内における混合溶媒のSPsol値を粉体の溶解度パラメータ(SPpowder値)として決定する工程、
の各工程を有し、決定された溶解度パラメータ(SPpowder値)を粉体における溶媒親和性の指標とすることを特徴とする粉体の溶媒親和性測定方法。
【請求項4】
溶媒に対する粉体の親和性を測定する方法において、
水、および、水との相溶性を有する単一種類の有機溶媒とを異なる割合で混合して、上記(数式1)にて求められる溶解度パラメータ(SPsol値)が小さな値から大きな値まで連続して増加する複数の混合溶媒を調製する工程と、
SPsol値が小さな値から大きな値まで連続して増加する混合溶媒を個々の容器に略同一量それぞれ収容して、複数の測定用混合溶媒収容容器を調製する工程と、
調製された個々の測定用混合溶媒収容容器に対し、SPsol値の小さい混合溶媒が収容された測定用混合溶媒収容容器から順に略同一量の粉体を投入し、投入された上記粉体が、小さなSPsol値を有する混合溶媒に浮遊している状態から、大きなSPsol値を有する混合溶媒に沈降する状態に転じたときの、当該測定用混合溶媒収容容器内における混合溶媒のSPsol値を粉体の溶解度パラメータ(SPpowder値)として決定する工程、
の各工程を有し、決定された溶解度パラメータ(SPpowder値)を粉体における溶媒親和性の指標とすることを特徴とする粉体の溶媒親和性測定方法。
【請求項5】
水との相溶性を有する単一種類の上記有機溶媒がアセトンで、かつ、上記粉体が表面処理を施した銀粉、銅粉またはニッケル粉から選択される金属粉であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の粉体の溶媒親和性測定方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−185137(P2012−185137A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50259(P2011−50259)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)