説明

粉末成形用熱可塑性エラストマーパウダー、それを用いる粉末成形法およびその成形体

【目的】 粉体流動性に優れ、また賦形圧力がほとんどかからない状態でも高流動性を保ち、粉末成形可能な熱可塑性エラストマーパウダー、それを用いる粉末成形法およびその成形体を提供する。
【構成】 特定の粘弾性を有するエチレン・α−オレフィン共重合体ゴムとポリオレフィン系樹脂等とのエラストマー組成物からなることを特徴とする粉末成形用熱可塑性エラストマーパウダー、それを用いる粉末成形法およびその成形体。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、粉末成形用のオレフィン系熱可塑性エラストマーパウダー、それを用いる粉末成形法およびその成形体に関する。さらに詳しくは、本発明は、裏打材を問わず、主として各種分野の成形品の表皮材及びハウジング等に適する粉末回転成形等の粉末成形用熱可塑性エラストマーパウダー、それを用いる粉末成形法およびその成形体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、自動車用内装材としてのカバーリング材料においては、軽量で且つ、ソフト感に優れ、しかも高級感のある皮シボ模様やスティッチ模様などを施したものが一段と求められるようになってきた。また廃車を処分する際、内装材の焼却によって生じる酸性物質が大気を汚染し、酸性雨等の大きな社会問題となっており、よりクリーンな材料への要望が大きくなっている。
【0003】従来、これらのカバーリング材料としては、オレフィン系熱可塑性エラストマー(以下TPOと呼ぶ) シートの真空成形品及び塩化ビニル樹脂とABS樹脂を主体としたシートの真空成形品あるいはペースト用塩化ビニル樹脂と可塑剤を主体としたゾルの回転成形またはスラッシュ成形品(以下ゾル成形品と呼ぶ)等がある。
【0004】TPOの真空成形品は軽量性、クリーンな材料という点で目的を達しているものの複雑な形状のものを賦形さすことは困難であった。
【0005】また、真空成形品は成形時の残留歪みも大きく、長時間の使用において亀裂が生じ易いという欠点もかかえている。
【0006】塩化ビニル樹脂とABS樹脂を主体としたシートの真空成形品も、TPOの真空成形品と同様の複雑な形状のものを賦形さすことが困難であるという欠点があり、更にTPOと比較して、軽量性、クリーン性に劣るという欠点がある。
【0007】ペースト用塩化ビニル樹脂と可塑剤を主体としたゾル成形品は、ソフト感があり、複雑な形状の賦形が可能であるが、ゲル化温度が低いので、金型内での溶融が速く、フローマークやリップ或いはゾルの糸引き現象等の加工上の問題、軽量性、クリーン性に劣るという塩化ビニル固有の問題、更には可塑剤を多量に用いる為、自動車の窓ガラス内面に曇りを生ずるなど欠点も多い。
【0008】これら欠点や問題点のうち、成形法については最近粉末成形法が脚光を浴びてきている。
【0009】粉末成形法は、一般には流動浸漬法、静電塗装法、粉末溶射法、粉末回転成形法などがあるが、特に自動車用内装材のカバーリング等には、粉末回転成形法等が適している。
【0010】一方、TPOは例えば、部分架橋型TPO組成物としては、特開昭48−26838号公報、特開昭53−149240号公報などで公知である。
【0011】しかしながら、これまでに公知となっている部分架橋TPOが対象とした成形法としては、イ.射出成形(加工時の剪断速度γ≧103sec-1)、ロ.押出成形(同101 ≦γ≦102 sec-1)、ハ.カレンダー加工(同102≦γ≦103 sec-1)、ニ.ロまたはハで一次加工したものを圧縮成形、および、ホ.ロまたはハで一次加工したものを真空成形、などがあるが、そのいずれもが軟化点以上の温度とともに、それぞれの加工条件に相当する剪断速度における粘度に見合った賦形圧力を必要とするものであった。
【0012】しかしながら、粉末成形のように加工時の剪断速度が100sec-1以下又は振動周波数1ラジアン/秒以下でポリマーとしては静止に近い状態にあり、賦形時に圧力も加わらないかまたは非常に低圧下(≦1kg/cm2 )での成形法では極端な流動性不足を生じ成形が困難であった。また仮に成形を行えたとしても、低剪断速度域での流動性が劣る為、粉末粒子間の熱融着が不完全となり、機械的物性の低い成形物しか得ることができなかった。
【0013】そして、例えば、特開平2−57309号公報に、「1)ポリオレフィン系樹脂とエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムとを含む熱可塑性エラストマーのパウダーが、回転加熱状態にあるシボ模様転写用金型の内表面に、流動可塑状態で密着して溶融することにより、表面にシボ模様が形成されてなることを特徴とするシボ模様付熱可塑性エラストマー成形物。
2)ポリオレフィン系樹脂とエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムとを含む熱可塑性エラストマーのパウダーを、シボ模様転写用金型の中に入れて該金型を密封した後、該金型を回転させながら加熱して熱可塑性エラストマーのパウダーを流動可塑状態で金型内表面に密着させて溶融し、次いで、該金型を冷却して表面にシボ模様を有する熱可塑性エラストマー成形物を得ることを特徴とする熱可塑性エラストマー成形物の製造方法。」と記載された発明の如く、低剪断速度域で流動性が低いTPOを、回転加熱状態にある金型の内表面に、流動可塑状態で密着して溶融するという、粉末回転成形によりTPO成形物を得る例がある。しかしながら、この方法では、TPOパウダーの低剪断速度域での流動性がまだ不充分であり、そのため粉末粒子間の熱融着強度が充分ではなく、ピンホール等も生じやすいという問題があり、いまだ外観、物性等において充分満足する成形物は得られていなかった。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、かかる課題を解決し、賦形圧力がほとんどかからない状態でも高流動性を保つ熱可塑性エラストマーパウダーによる、ピンホール等がなく粉末粒子間の熱融着強度の充分に大きな成形物が得られる粉末成形用熱可塑性エラストマーパウダー、それを用いる粉末成形法およびその成形体を提供することにある。
【0015】成形品の残留歪みが小さく、硬度が低くて複雑な形状性のあるものを賦形させることが可能な粉末成形法の特長を活かして軽量性、クリーン性に優れた熱可塑性エラストマー製の、特に自動車用内装材のカバーリング材料等を提供することができる。
【0016】
【課題を解決するための手段】本発明は、1)エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムとポリオレフィン系樹脂とのエラストマー組成物からなる熱可塑性エラストマーパウダーであり、該エラストマー組成物の250℃での動的粘弾性測定に於いて周波数1ラジアン/秒で測定した複素動的粘度η* (1)が1.5×105 ポイズ以下であり、周波数1ラジアン/秒での複素動的粘度η* (1)と周波数100ラジアン/秒での複素動的粘度η* (100)とを用いて次式で算出されるニュートン粘性指数nが0.67以下であり、かつ、硬度(ショアD)が45以下であることを特徴とする粉末成形用熱可塑性エラストマーパウダーに関するものである。
n={logη* (1)−logη* (100)}/2
【0017】また、本発明は、2)エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムとポリオレフィン系樹脂との混合物を架橋剤の存在下で動的架橋してなる部分架橋型エラストマー組成物からなる熱可塑性エラストマーパウダーであり、該エラストマー組成物の250℃での動的粘弾性測定に於いて周波数1ラジアン/秒で測定した複素動的粘度η*(1)が1.5×105 ポイズ以下であり、周波数1ラジアン/秒での複素動的粘度η* (1)と周波数100ラジアン/秒での複素動的粘度η* (100) とを用いて次式で算出されるニュートン粘性指数nが0.67以下であり、かつ、硬度(ショアD)が45以下であることを特徴とする粉末成形用熱可塑性エラストマーパウダーに関するものである。
n={logη* (1)−logη* (100)}/2
【0018】3)また、2)において、動的架橋において、架橋助剤を併用することを特徴とする熱可塑性エラストマーパウダーに関する。
【0019】さらには、本発明は、4)1)2)または3)に記載の熱可塑性エラストマーパウダーを用いることを特徴とする粉末成形法およびその成形体に関するものである。
【0020】本発明において、粉末成形法とは、流動浸漬法、静電塗装法、粉末溶射法、粉末回転成形法などの成形法をいう。ただし、特開昭58−132507号公報の特許請求の範囲の欄に記載された粉末スラッシュ成形法を除く。
【0021】すなわち、本発明における粉末成形法からは、「熱可塑性エラストマーパウダーを必要量入れた開口部を有する容器を熱可塑性エラストマーパウダーの溶融温度より充分高温に加熱された開口部を有する金型と、開口部を合わせて固定するか、金型中空部へ固定して一体化し、回転および/または揺動とともに熱可塑性エラストマーパウダーを容器から金型内各部へ迅速に供給し、付着、溶融させ、必要ならば余剰の熱可塑性エラストマーパウダーを容器中へ排出する工程を含むことを特徴とする」粉末スラッシュ成形法を除く。
【0022】本発明による粉末成形法に使用される金型加熱方式にはガス加熱炉方式、熱媒体油循環方式、熱媒体油または熱流動砂内への浸漬方式あるいは、高周波誘導加熱方式などがある。
【0023】また、かかる粉末成形法に使用される熱可塑性エラストマーパウダーは、粉体流動性に優れ、低剪断速度かつ低圧力下で主として金型から供給される熱で容易に溶融しなければならない。
【0024】本発明の特徴はエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムとポリオレフィン系樹脂との混合物からなるエラストマー組成物、および該混合物を架橋剤の存在下で動的架橋してなる部分架橋型エラストマー組成物のうち、ある特定の粘弾性を有するエラストマー組成物を、例えばガラス転移温度以下の低温で粉末化することにより得られる熱可塑性エラストマーパウダーを用いることにより、従来タイプのTPOの成形法の対象外であった粉末回転成形法等の粉末成形法のように低剪断速度域で高流動性を必要とする成形法への展開を可能にしたことである。
【0025】本発明におけるエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムとは、オレフィンを主成分とするゴムであり、例えば、エチレン・プロピレン共重合体ゴム、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴム、エチレン・ブテン−1共重合体ゴム、エチレン・ブテン−1・非共役ジエン共重合体ゴムなどである。非共役ジエンの例としてはジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネン、1,4−ヘキサジエン、シクロオクタジエン、メチレンノルボルネン等がある。なかでも、エチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネンゴム(以下EPDMと称す)が好ましく用いられ、耐熱性、引張特性などに優れたエラストマーパウダーが得られる。特に、ASTM D−927−57Tに準じて100℃で測定したムーニー粘度(ML1+4 100℃)が130以上350以下、好ましくは200以上300以下であるエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴム100重量部あたり、パラフィン系プロセスオイルなどの鉱物油系軟化剤を30〜120重量部含有する油展オレフィン系共重合体ゴムが引張特性と流動性のバランスが取れる点で好ましい。
【0026】ポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン又はプロピレンとα−オレフィンの共重合体が好ましく用いられる。特にプロピレンとα−オレフィン共重合体樹脂を用いると成形体の硬度を下げることが可能である。好ましくは、プロピレン−エチレンランダムまたはブロック共重合体樹脂、プロピレン−ブテン−1ランダムまたはブロック共重合体樹脂である。また、JIS K−7210に準拠して230℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が20g/10分以上、特に50g/10分以上が好ましい。メルトフローレートが20g/10分未満のポリオレフィン系樹脂を用いて製造した熱可塑性エラストマーパウダーは、粉末成形時にパウダーが軟化するのみで、そのためパウダー同志が溶融付着し難く、強度の強い成形体が得られ難い。エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムとオレフィン系樹脂の配合比率は、両者の合計量を100重量%として、エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムが、好ましくは5重量%以上80重量%以下、さらに好ましくは20重量%以上80重量%以下、オレフィン系樹脂が、好ましくは20重量%以上95重量%以下、さらに好ましくは20重量%以上80重量%以下であることが好ましい。
【0027】エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムとポリオレフィン系樹脂との混合物を動的架橋する際の架橋剤は好適には有機過酸化物が用いられる。有機過酸化物としてはジアルキルパーオキサイドが好ましく用いられる。更に好ましくはビスマレイミド化合物のごとく架橋助剤の存在下で極く少量の有機過酸化物を用いて動的架橋を行うことが好ましい。そうすることで、エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムを適度に架橋し耐熱性を持たせると同時に、高流動性を実現することができる。この時架橋助剤はエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムとポリオレフィン系樹脂との混合物100重量部あたり、1.5重量部以下、好ましくは0.6重量部以下で用いられる。また架橋剤としての有機過酸化物は同様に0.4重量部以下、好ましくは0.1重量部以下、より好ましくは0.07重量部以下で用いられる。
【0028】動的架橋に使用する装置としては一軸混練押出機あるいは二軸混練押出機等の連続混練押出機が好適に用いられる。特に二軸混練押出機を用いて最大剪断速度γmax≧10sec-1で連続押出架橋を行うことが好ましい。γmax<103 sec-1で押出架橋を行うとエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムの分散粒子径が大きくなり外観不良を招き好ましくない。
【0029】本発明において、エラストマー組成物の250℃での動的粘弾性測定における周波数1ラジアン/秒で測定した複素動的粘度η* (1)は、1.5×105 ポイズ以下、好ましくは1.0×105 ポイズ以下、さらに好ましくは3×104 ポイズ以下である。
【0030】周波数1ラジアン/秒で測定した複素動的粘度η* (1)が1.5×105 ポイズを越えるとかかるエラストマー組成物を用いて製造したエラストマーパウダーは金型面上で溶融しなくなり加工時の剪断速度が1/sec-1以下と非常に低い粉末成形法では成形が出来なくなる。
【0031】又、本発明においてエラストマー組成物は、250℃での動的粘弾性測定に於いて周波数1ラジアン/秒で測定した複素動的粘度η* (1)と周波数100ラジアン/秒で測定した複素動的粘度η* (100) とを用いて次式で算出されるニュートン粘性指数nが0.67以下、好ましくは0.60以下、さらに好ましくは0.53以下である。
n={logη* (1)−logη* (100)}/2
【0032】ニュートン粘性指数nが0.67を越えると、仮に周波数1ラジアン/秒で測定した複素動的粘度η* (1)が1.5×105 ポイズ以下であっても、複素動的粘度の周波数依存性が大きくなり、粉末成形のように成形時のせん断速度が1sec-1以下と非常に小さく、又、成形時の賦形圧力が1kg/cm2 以下と非常に小さい成形法では溶融したエラストマーパウダー粒子同志の熱融着が不完全になり機械的物性の低い成形物しか得られない。
【0033】本発明において、熱可塑性エラストマーパウダーを用いて得た成形物は硬度(ショアD)が45以下である。
【0034】硬度(ショアD)が45を越えると、成形物が硬くなり感触が硬すぎて好ましくないのみならず、自動車の内装用表皮材として用いた時には衝突時の乗員保護の点でも好ましくない。
【0035】本発明においてエラストマー組成物の粉砕は液体N2 による冷凍粉砕法が好適に用いられる。粉砕温度−40℃以下、より好ましくは−70℃以下、さらに好ましくは−90℃以下まで冷却したエラストマー組成物ペレットをハンマーミル、ピンミルその他を用いた機械的粉砕法等により得ることができる。
【0036】−40℃より高い温度で粉砕すると、粉砕したエラストマーパウダーの粒径が粗くなり粉末成形性が低下するので好ましくない。粉砕操作中にポリマー温度がガラス転移温度以上になるのを防ぐ為、発熱が少なく、粉砕効率の高い方法が好ましい。
【0037】また、粉砕装置そのものが外部冷却によって冷却されていることが好ましい。
【0038】得られたエラストマーパウダーはTyler標準篩の32メッシュ篩を全重量の95%以上が通過する程度にまで粉砕されていることが好ましい。32メッシュのふるい上累積率が5%を越えると、粉末成形時に厚みムラが生じる原因の1つとなる。この厚みムラは成形物の柔軟性にムラを与え、折れジワを起こし易くなるなど成形物の商品価値をそこなう要因となる。
【0039】本発明においてエラストマーパウダーには、再凝集現象(互着)を防止する目的で有機または無機質の微粒粉末を添加することができる。添加の時期は、分級前に加えることも、分級後に加えることも可能であるが、分級前に加える方が、分級操作とブレンド操作が同時に行えるので効率的である。
【0040】有機または無機質の微粒粉末とは、室温でガラス転移温度以下または融点以下の熱的性質を持つ平均粒子径50μm以下の微細粉体である。例えばポリオレフィン樹脂粉末やタルク、カオリン、酸化ケイ素、酸化アルミナなどがあるが、特にポリオレフィン樹脂の粉末が成形時にエラストマーパウダー粒子間の熱融着強度を低下させることがない点で好ましい。互着防止剤としてのポリオレフィン樹脂粉末はエラストマーパウダー100重量部に対し、0.2〜20重量部以下の範囲で添加するのが好ましい。添加量が0.2重量部未満では互着防止の効果は得られ難く、20重量部を越えると成形品の柔軟性が損なわれるので好ましくない。好ましくは0.5〜15重量部である。
【0041】本発明におけるエラストマー組成物は、未架橋のエチレン−α−オレフィン共重合体ゴムあるいはポリオレフィン系樹脂を、部分架橋型エラストマー組成物100重量部に対し50重量部以下でブレンドすることにより、柔軟性の優れたエラストマー組成物とすることが可能である。この場合のα−オレフィンは、プロピレン及びブテン−1などが単独または併用して用いられる。特にエチレン含有量が40〜90重量%好ましくは70〜85重量%のエチレン−プロピレン共重合体ゴムまたはエチレン−ブテン−1共重合体ゴムでML1+4 100℃が50以下のものが好ましい。
【0042】またエラストマーパウダーで粉末成形を行った成形品を脱型する際、金型内面との密着が強く、無理に脱型を試みると折れジワや白化トラブルが発生する事がある。この為、成形前の金型内面を一般的に用いられる離型剤、例えばジメチルポリシロキサンの塗布など金型内面に離型剤をコートする必要が生じることもある。しかしながら、多数個を連続生産するには、数個成形の度に離型剤のコートが必要となり、成形コストの上昇に結びつく。このような場合には金型材質を改良する方法も考えられるが、エラストマーパウダー中に内部添加離型剤としてメチルポリシロキサン化合物を、エラストマー組成物またはエラストマーパウダー100重量部あたり2重量部以下で添加しておく方法が効果的である。この場合の添加時期は粉末化前後のいずれでもよい。この場合のメチルポリシロキサン化合物としては、25℃における粘度が20センチストークス以上であればよい。好ましい粘度範囲は50〜5000センチストークスである。粘度が大きくなりすぎると、離型剤としての効果が減少する。また、内部添加離型剤が2重量部より多くなると、エラストマーパウダー間の熱融着を阻害し、機械的物性に劣った成形物しか得られない。また、金型表面に内部添加離型剤がブリードし金型が汚染され好ましくない。また、内部添加離型剤量をコントロールすることで粉末化後の再凝集現象を軽減することもできる。
【0043】本発明ではまた、フェノール系、サルファイト系、フェニルアルカン系、フォスファイト系、アミン系あるいはアミド系安定剤の如き、公知の耐熱安定剤、老化防止剤、耐候安定剤、帯電防止剤、金属石ケン、ワックス等の滑剤、着色用顔料等を必要量配合することができる。
【0044】本発明による成形体の用途としては、次に示す種々の分野の製品がある。自動車分野においては、自動車のインストルメントパネル、コンソールボックス、アームレスト、ヘッドレスト、ドアトリム、リアパネル、ピラートリム、サンバイザー、トランクルームトリム、トランクリッドトリム、エアーバック収納ボックス、シートバックル、ヘッドライナー、グローブボックス、ステアリングホイールカバー、天井材などの内装表皮材、キッキングプレート、チェンジレバーブーツ、天井材などの内装成形体、スポイラー、サイドモール、ナンバープレートハウジング、ミラーハウジング、エアダムスカート、マッドガードなどの自動車外装部品の成形体に適する。
【0045】家電・OA機器分野においては、テレビ、ビデオ、洗濯機、乾燥機、掃除機、クーラー、エアコン、リモコンケース、電子レンジ、トースター、コーヒーメーカー、ポット、ジャー、食器洗い器、電気カミソリ、ヘアードライヤー、マイク、ヘッドホーン、ビューテイー器具、CD・カセット収納箱、パーソナルコンピューター、タイプライター、映写機、電話、コピー機、フアクシミリ、テレックスなどのハウジングおよび該ハウジングの表皮材に適する。
【0046】スポーツ用品分野においては、スポーツシューズ装飾部品、各種球技のラケット・スポーツ機器・用品のグリップ、自転車・二輪車・三輪車のサドル表皮材及びハンドルグリップなどに適する。
【0047】建築・住宅分野において、家具・机・椅子などの表皮材、門・扉・塀などの表皮材、壁装飾材料・天井装飾材料・カーテンウォールの表皮材、台所・洗面所・トイレなどの屋内用床材、ベランダ・テラス・バルコニー・カーポートなどの屋外用床材、玄関マット・テーブルクロス・コースター・灰皿敷などの敷物に適する。
【0048】工業用品分野においては、電動工具類のグリップ・ホース及びその表皮材、パッキング材料に適する。
【0049】それ以外にも、かばん、ケース類・フアイル・手帳・アルバム・文房具・カメラボデイー・人形やその他玩具等の表皮材、また、時計バンドなどの成形体、額の外枠及びその表皮材に適している。
【0050】
【実施例】次に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はその主旨を越えない限りこれらの実施例に何ら制限されるものではない。なお実施例、比較例におけるエラストマー組成物またはエラストマーパウダーの動的粘弾性、粉体性状、成形性及び成形シートの引張物性は次の方法により行った。
【0051】エラストマー組成物の動的粘弾性レオメトリックス社製ダイナミックアナライザー RDS−7700型を用い振動周波数1ラジアン/秒及び100ラジアン/秒での動的粘弾性を測定し、複素動的粘度η* (1)及びη* (100) を算出した。なお、測定は、平行平板モードで行い、加歪みは5%、サンプル温度は250℃で測定した。又、η* (1)とη* (100) の結果をもとに次式でニュートン粘性指数nを算出した。
n={logη* (1)−logη* (100)}/2
【0052】エラストマーパウダーの粉体流動性エラストマーパウダー100mlをJIS K−6721のかさ比重測定装置の漏斗に入れ、ダンパーを引き抜いてパウダーが落下し始めてから全パウダーが落下し終わるまでの時間(秒数)を測定した。秒数の短いほど粉体流動性の良いことを示している。
【0053】エラストマーパウダーの成形性の予備評価(1) 粉末成形性エラストマーパウダー500gを表面温度が250℃に加熱された大きさ30cm×30cm、厚さ3mmのニッケル電鋳シボ板にふりかけ14秒間付着させた後、該エラストマーパウダーの未溶着粉末を排出させ、パウダー溶着シボ板を雰囲気温度280℃の加熱炉中で60秒間加熱溶融させた。金型上でのパウダーの融合状態及び金型を70℃に水冷後脱型して得られた成形シートの性状から次の判定基準で粉末成形性の予備評価を行った。
◎:パウダーが互いに十分融合し、得られた成形シートの引張強度は十分強い。
○:パウダーが互いに十分融合し、得られた成形シートの引張強度は強い。
△:パウダーが互いに融合するが、得られた成形シートの引張強度は低くもろい。
×:パウダーが互いに融合せず、パウダーのままで金型上に存在。
◎と○は、最終製品まで加工できるが、△及び×のものは最終製品まで加工出来ない。
(2) 脱型力エラストマーパウダー250gを表面温度が270℃に加熱された大きさ150mm×300mm、厚さ3mmのニッケル電鋳シボ板にふりかけ15秒間付着させた後、該エラストマーパウダーの未溶着パウダーを排出させ、パウダー溶着シボ板を雰囲気温度280℃の加熱炉中で60秒間加熱溶融させた。その後、金型温度を70℃まで冷却し、離型を行った。この操作を10回繰り返し、10回目の離型時にバネばかりを用いて成形シートと金型との脱型力(剥離強度)を測定した。幅125mm当たりの脱型力が小さいほど脱型性が良いことを示す。
【0054】成形シートの物性粉末成形性の予備評価で得られた成形シートをJIS K−6301に記載の1号ダンベルで試験片を打抜き、23℃、50%RHの条件で24時間状態調整後、同条件で引張試験機を用い引張速度200mm/分で引張試験を行い、破断強度及び破断伸びを測定した。また、硬度はショアDにて測定した。
【0055】実施例−1EPDM(ML1+4 100℃=242、プロピレン含量=28重量%、ヨウ素価=12)100重量部あたり鉱物油系軟化剤(出光興産、ダイアナプロセスPW−380)100重量部を添加した油展EPDM(ML1+4100℃=53)50重量部と、プロピレン−エチレンランダム共重合体樹脂(エチレン含量=3重量%、MFR=60g/10分) 50重量部及び架橋助剤 (住友化学製スミファインBM−ビスマレイミド化合物)0.4重量部をバンバリーミキサーを用いて10分間混練した後、押出機を用いてペレット状の架橋用マスターバッチ (以下M.B.と記載) とした。このM.B.100重量部に対し、有機過酸化物 (三建化工製サンペロックスAPO)0.04重量部を添加し、2軸混練機(日本製鋼所製TEX−44)を用いて220℃で動的架橋を行い、エラストマー組成物ペレットを得た。このエラストマー組成物ペレットを液体N2 を用いて−100℃の温度で冷却後、冷凍粉砕を行い熱可塑性エラストマーパウダーを得た。このパウダーはタイラー標準篩の32メッシュ篩を99重量%通過した。このパウダーを用いて粉末成形性の予備評価を行った。結果を表1に示す。この熱可塑性エラストマーパウダーを二軸回転装置架台に取り付けた自動車内装用ヘッドレスト表皮用粉末回転成形金型内に150g投入し、300℃の加熱炉中で自転速度、公転速度を共に毎分15回転で8分間回転させた後回転を停止した。その時点での金型表面温度は280℃であった。直ちに水冷し成形皮膜を脱型した。この粉末回転成形により得られた成形皮膜は重量150g、厚み1.4〜1.6mmの欠肉のない、肉厚の均一性に優れた引張強度及び引裂強度の強いピンホールのない製品であった。
【0056】比較例−1実施例−1において油展EPDMを70重量部、プロピレン−エチレンランダム共重合体樹脂をMFRが1.2g/10分のものを30重量部とした他は実施例−1と同様の配合、同一条件で熱可塑性エラストマーパウダーを得た。得られたエラストマーパウダーは、32メッシュ篩を99重量%通過した。この熱可塑性エラストマーパウダーを用い実施例−1と同様に粉末成形性の予備評価を行った。結果を表1に示す。また,実施例−1と同様に粉末回転成形を行ったが、金型内で粉体どうしが融合せずにぼそぼその状態の成形皮膜しか得られなかった。この成形皮膜は、肉厚はきわめて不均一で、引張強度及び引裂強度がきわめて低いものであった。
【0057】実施例−2実施例−1において油展EPDM(ML1+4 100℃=53)を40重量部とし、プロピレン−エチレンランダム共重合体樹脂(エチレン含量=3重量%、MFR=60g/10分)50重量部に代えてプロピレン−ブテン−1ランダム共重合体樹脂(ブテン含量=22.4重量%、MFR=92g/10分)60重量部を用い、さらに、M.B.作成において、前記樹脂及び油展EPDMの合計100重量部に対し、離型剤(トーレ・シリコーン社製 SH200、粘度100センチストークス)0.2重量部を用いた以外は実施例−1と同様な操作で熱可塑性エラストマーパウダーを得た。このパウダーはタイラー標準篩の32メッシュ篩を99重量%通過した。このパウダーを用いて粉末成形性の予備評価を行なった結果を表2に示す。また、実施例−1と同様に粉末回転成形を行なった。得られた成形皮膜は、重量150g、厚み1.4〜1.6mmの欠肉のない、肉厚の均一性に優れた、引張強度及び引裂強度の強いピンホールのない製品であった。
【0058】比較例−2(A成分)エチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネン3元共重合体ゴム:エチレン/プロピレン単位(重量比):78/22、ヨウ素価12、ムーニー粘度(ML1+4 121℃)55(B成分)アイソタクチックポリプロピレン樹脂:メルトインデックス13g/10分(230℃)
(C成分)ナフテン系プロセスオイル(D成分)1,3−ビス(tert−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン20重量%、ジビニルベンゼン30重量部およびパラフィン系鉱油50重量%よりなる混合物上記(A成分)55重量部、(B成分)45重量部および(C成分)30重量部をバンバリーミキサーを用いて、180℃で5分間混練した後、得られた混練物をシートカッターで角ペッレト状とした。この角ペレット100重量部に対し、(D成分)1重量部をヘンシェルミキサーで混合し、2軸混練機(日本製鋼所製TEX−44)を用いて220℃で押出し、熱可塑性のエラストマーを製造した。このようにして得られた熱可塑性エラストマーのペレットを実施例−1の場合と同一条件で粉砕し、熱可塑性エラストマーのパウダーを得た。このパウダーはタイラー標準篩の32メッシュを98重量%通過した。この熱可塑性エラストマーパウダーを用いて実施例−1と同様に粉末回転成形を行なったが、金型内で粉体どうしが融合せずにぼそぼその状態の成形皮膜しか得られなかった。
【0059】比較例−3比較例−2において、(A成分)を80重量部、(B成分)を20重量部とし、さらに(E成分)ブチルゴム(エッソ製 IIR065)10重量部を添加した以外は、比較例−2と同様にして熱可塑性エラストマーパウダーを得た。このパウダーはタイラー標準篩の32メッシュを98重量%通過した。この熱可塑性エラストマーパウダーを用いて実施例−1と同様に粉末回転成形を行なったが、金型内で粉体どうしが融合せずにぼそぼその状態の成形皮膜しか得られなかった。
【0060】比較例−4比較例−2において、(C成分)を用いなかったこと以外は、比較例−2と同様にして熱可塑性エラストマーパウダーを得た。このパウダーはタイラー標準篩の32メッシュを98重量%通過した。この熱可塑性エラストマーパウダーを用いて実施例−1と同様に粉末回転成形を行なったが、金型内で粉体どうしが融合せずにぼそぼその状態の成形皮膜しか得られなかった。
【0061】
【表1】


【0062】
【表2】


【0063】
【発明の効果】以上述べたように本発明によれば賦形圧力がほとんどかからない状態でも高流動性を保つ熱可塑性エラストマーパウダーによる、ピンホール等がなく粉末粒子間の熱融着強度の充分に大きな成形物が得られる粉末成形用熱可塑性エラストマーパウダー、それを用いる粉末成形法およびその成形体を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムとポリオレフィン系樹脂とのエラストマー組成物からなる熱可塑性エラストマーパウダーであり、該エラストマー組成物の250℃での動的粘弾性測定に於いて周波数1ラジアン/秒で測定した複素動的粘度η* (1)が1.5×105 ポイズ以下であり、周波数1ラジアン/秒での複素動的粘度η* (1)と周波数100ラジアン/秒での複素動的粘度η* (100)とを用いて次式で算出されるニュートン粘性指数nが0.67以下であり、かつ、硬度(ショアD)が45以下であることを特徴とする粉末成形用熱可塑性エラストマーパウダー。
n={logη* (1)−logη* (100)}/2
【請求項2】エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムとポリオレフィン系樹脂との混合物を架橋剤の存在下で動的架橋してなる部分架橋型エラストマー組成物からなる熱可塑性エラストマーパウダーであり、該エラストマー組成物の250℃での動的粘弾性測定に於いて周波数1ラジアン/秒で測定した複素動的粘度η* (1)が1.5×105 ポイズ以下であり、周波数1ラジアン/秒での複素動的粘度η* (1)と周波数100ラジアン/秒での複素動的粘度η* (100)とを用いて次式で算出されるニュートン粘性指数nが0.67以下であり、かつ、硬度(ショアD)が45以下であることを特徴とする粉末成形用熱可塑性エラストマーパウダー。
n={logη* (1)−logη* (100)}/2
【請求項3】エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムがエチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムである請求項1または2記載のエラストマーパウダー。
【請求項4】エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムがASTM D−927−57Tに準拠して100℃で測定したムーニー粘度(ML1+4 100℃) が130以上350以下であるエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴム100重量部あたり鉱物油系軟化剤を30〜120重量部配合した油展オレフィン系共重合体ゴムである請求項1または2記載のエラストマーパウダー。
【請求項5】ポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン又はプロピレンとα−オレフィンとの共重合体である請求項1または2記載のエラストマーパウダー。
【請求項6】ポリオレフィン系樹脂が、JIS K−7210に準拠して230℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が20g/10分以上のポリオレフィン系樹脂である請求項1または2記載のエラストマーパウダー。
【請求項7】動的架橋において、架橋助剤を併用することを特徴とする請求項2記載のエラストマーパウダー。
【請求項8】架橋剤が有機過酸化物である請求項2記載のエラストマーパウダー。
【請求項9】架橋剤がジアルキルパーオキサイドである請求項2記載のエラストマーパウダー。
【請求項10】架橋助剤がビスマレイミド化合物である請求項7記載のエラストマーパウダー。
【請求項11】請求項1または2記載のエラストマーパウダー100重量部あたり、互着防止剤としてポリオレフィン系樹脂パウダーを0.2〜20重量部添加してなることを特徴とする粉末成形用熱可塑性エラストマーパウダー。
【請求項12】タイラー標準篩の32メッシュ篩を95重量%以上通過するまでに粉砕された請求項1または2記載のエラストマーパウダー。
【請求項13】請求項2記載のエラストマー組成物100重量部に対し、50重量部以下のエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムおよび/またはポリオレフィン系樹脂をブレンドしてなることを特徴とする粉末成形用熱可塑性エラストマーパウダー。
【請求項14】請求項1または2記載のエラストマー組成物もしくはエラストマーパウダー100重量部に対し、メチルポリシロキサン化合物を2重量部以下添加してなることを特徴とする粉末成形用熱可塑性エラストマーパウダー。
【請求項15】メチルポリシロキサン化合物が、25℃における粘度が20センチストークス以上のメチルポリシロキサン化合物である請求項14記載のエラストマーパウダー。
【請求項16】メチルポリシロキサン化合物がジメチルポリシロキサンである請求項14記載のエラストマーパウダー。
【請求項17】請求項1、2または7記載のエラストマーパウダーを用いることを特徴とする粉末成形法。
【請求項18】請求項1、2または7記載のエラストマーパウダーを用いて粉末成形してなることを特徴とする成形体。