説明

粒子特性試験装置

【課題】スロート部材内の流速など変化させて人工的な代替試験と、生体を用いた試験との相関が得られやすく、より高精度な試験評価を得ることが可能な粒子特性試験装置を提供する。
【解決手段】吸入投薬器4から放出された微粉末薬剤を分級捕集する分級捕集器1と、吸入投薬器と分級捕集器との間に介装配置されて、前記吸入投薬器から放出された微粉末薬剤を分級捕集器に供給するスロート部材2と、を備えている。前記スロート部材は、合成樹脂材によって縦方向から2分割形成され、ボルト、ナットによって結合された両分割部11,12の内部に、人体の気道モデルの通路10が形成されている。この通路は、上流側から下流側に沿って口腔通路部18、咽頭通路部19、喉頭通路部20、気管通路部21及び食道通路部23によって形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸入投薬器から投与された微粉末薬剤の粒子分布特性を評価する試験装置に関し、詳しくは、前記吸入投薬器の下流側に人体気道モデルのスロート部材を配置してなる粒子特性試験装置に関する
【背景技術】
【0002】
周知のように、喘息などの呼吸器系疾患を治療するための一つの方法としては、計量された微粉末薬剤を吸入投薬器によって経口的に患者に吸入投与することが行われている。
【0003】
前記微粉末薬剤は、喘息などの呼吸器系疾患に対する速効的処理または持続的処理が必要になって来るが、その粒径の大きさによって人体の疾患箇所である例えば肺胞まで速やかに到達するものとしないものがある。つまり、微粉末薬剤の粒径が大きすぎ、あるいは小さすぎると、該微粉末薬剤が患者の咽喉の内表面に付着して、処方された用量の微粉末薬剤が肺胞まで到達できなくなり、結果的に、処方された用量の薬剤の実質的な治療効果が何ら得ることができなくなる。
【0004】
そこで、微粉末薬剤の到達効率を試験する際に、かかる微粉末薬剤の粒径を空気力学的粒径に関して分析評価する粒子特性試験装置が提供されており、この一つとして以下の特許文献1に記載されたアンダーセン・カスケード・インパクタを用いた粒子特性試験装置が知られている。
【0005】
すなわち、この粒子特性試験装置は、ほぼ円柱状に積み重ねられた9段の分級ステージを有するカスケード・インパクタと、ほぼL字形状に折曲され、垂直部の下端部が前記カスケード・インパクタの上端部に接続された中空パイプ状のスロート部材と、該スロート部材の水平部の先端部に取り付けられて、微粉末薬剤を放出する吸入投薬器と、から主として構成されている。
【0006】
前記カスケード・インパクタは、上端部に設けられた吸い込み口の下部に前記8つの分級ステージが配置されていると共に、この下部に最終分級ステージと基台が配置されている。前記各分級ステージは、微粉末薬剤の空気力学的粒径を分級するもので、それぞれにはジェットプレートと、フィルタ部材を有し、約28.3L/minにて吸引した微粉末薬剤を約9μm〜0.4μmの粒径に段階的に分級するようになっている。前記最終フィルタは、0.4μm未満の粒子をすべて捕集するようになっている。前記吸い込み口は、微粉末薬剤をインパクタ本体内により高速流量(ストリーム)で流入させるようになっている。
【0007】
そして、試験時には、前記吸入投薬器から微粉末薬剤のストリームが、前記スロートを通ってインパクタ本体内に導かれ、前記ジェットプレートのジェットオリフィスを通過して各分級ステージのフィルタ部材で粒径に応じて順次捕集されてそれぞれの表面に沈着する。これらの薬量を回収して呼吸器系に到達できる粒度分布を測定評価するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2005−514089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、前記微粉末薬剤の空気力学的粒径の特性評価の一つの問題として、前記カスケード衝突の試験評価は通常必要な人間の関与によって変動することがある。つまり、通常、吸入投薬器から人間に投与された微粉末薬剤は、人体の口腔から複雑な気道を通って流速を大きく変化させると共に、気道の所定内壁へ付着しながら例えば肺胞に到達する。したがって、かかる人体の気道内での流速の変化や分散化、付着量などを考慮しなければ、前記カスケード・インパクタによる、より高精度な試験評価を得ることができない。
【0010】
しかし、前記従来の技術にあっては、吸入投薬器とカスケード・インパクタとの間に設けられたスロート部材は、単にL字形状のパイプによって形成されて、内周表面が滑らかに形成されている。このため、前記微粉末薬剤の流速が速くなると共に、付着などが殆どなくなることから、精度の高い試験評価を得ることができない。
【0011】
本発明は、前記従来の粒子特性試験装置の技術的課題に鑑みて案出されたもので、スロート部材内の流速など変化させて人工的な代替試験と、生体を用いた試験との相関が得られやすく、より高精度な試験評価を得ることが可能な粒子特性試験装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、投薬器から放出された微粉末薬剤の粒径に応じて分級して捕集する分級捕集器と、前記投薬器と分級捕集器との間に介装配置されて、前記投薬器から放出された微粉末薬剤を前記分級捕集器に供給するスロート部材と、を備えた粒子特性試験装置であって、前記スロート部材を、人体の気道を模した気道モデルによって形成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、投薬器から放出された微粉末薬剤は、スロート部材の気道を模した通路を通過中に咽頭部などの絞りによって流動抵抗が生じて流速が変化すると共に、一部が内壁面に付着しながら分級捕集器に流入する。このため、分級捕集器での人工的な代替試験と、生体を用いた試験との相関が得られやすくなり、微粉末薬剤の粒子分布のより高精度な評価を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る粒子特性試験装置に供されるスロート部材を2分割して示す展開図である。
【図2】本実施形態の粒子特性試験装置の全体構成図である。
【図3】本実施形態のスロート部材の斜視図である。
【図4】同スロート部材を示す図3の矢視図である。
【図5】本実施形態に供される投薬器の側面図である。
【図6】本実施形態に供される連結部材である。
【図7】本実施形態のスロート部材を用いた粒子特性試験装置と、従来のL字形状のスロート部材を用いた粒子特性試験装置とにおける微粉末薬剤の噴出量に対する割合を実験した結果を示す棒グラフである。
【図8】他の実験例の結果を示す棒グラフである。
【図9】スロート部材の他例を2分割して示す展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る粒子特性試験装置の実施形態を図面に基づいて詳述する。
【0016】
本発明に係る粒子特性試験装置は、図2に示すように、カスケード・インパクタである分級捕集器1と、該分級捕集器1の上端部に接続されたスロート部材2と、該スロート部材2の先端部に連結部材3を介して取り付けられた吸入投薬器4と、前記分級捕集器1に微粉末薬剤を吸引する吸引発生器5と、該吸引発生器5の作動を制御する制御機構6と、から構成されている。
【0017】
前記分級捕集器1は、吸入投薬器4から放出された微粉末薬剤の空気力学的粒径の特性評価を慣性衝突によって得るようにしたもので、ほぼ円板状の基台7上に、9つの分級ステージST1〜ST9が積み重ね配置されていると共に、これらの上端部には前記スロート部材2が接続された吸い込み部材8が設けられている。
【0018】
前記各分級ステージST1〜ST9は、微粉末薬剤の空気力学的粒径を分級するもので、それぞれには図外のジェットプレートと、ステンレス製の衝突ディスクを有している。前記ジェットプレートは、その中を微粉末薬剤のジェットストリームが所定の速度で通過する複数のジェットオリフィスが形成されている一方、前記衝突ディスクは、衝突表面を有している。
【0019】
すなわち、前記最上段の1次分級ステージST1は約11μm以上の粒径の微粉末薬剤を捕集し、2次分級ステージST2は約7.0〜11μmの粒径、3次分級ステージST3は約4.7〜7.0μmの粒径、4次分級ステージST4は約3.3〜4.7μmの粒径、5次分級ステージST5は2.1〜3.3μmの粒径、6次分級ステージST6は1.1〜2.1μmの粒径、7次分級ステージST7は0.65〜1.1μmの粒径、8次分級ステージST8は0.43〜0.65μmの粒径、最下段の9次分級ステージST9は0.43μm未満の粒径の微粉末薬剤をそれぞれ段階的に分級捕集するようになっている。前記各分級ステージST1〜ST9は、3つの結合部材14によって前記基部7上に積層状態に結合固定されている。
【0020】
これら各分級ステージST1、ST2は人体の口腔、分級ステージST3は咽頭、分級ステージST4は気管、分級ステージST5,6は気管支、分級ステージ7〜9は肺胞にそれぞれ相当しており、これらの呼吸器系の各部位で微粉末薬剤が付着吸収されることを想定して形成されている。
【0021】
前記基部7の中空内部と前記吸引発生器5とは、ホース15によって接続されており、前記投薬器4から放出された微粉末薬剤を、前記吸引発生器5によって生じた負圧吸引力によって前記スロート部材2を介して分級捕集器1の各分級ステージST1〜ST9の衝突ディスクに衝突させながら所定の流速で通過させるようになっている。
【0022】
前記吸い込み部材8は、前記1次分級ステージST1の上端部に載置固定された円筒部8aと、該円筒部8aの上端中央に一体に設けられた小径な吸い込み筒部8bとから構成されている。また、この吸い込み筒部8bの上端部には、前記スロート部材2の下端部に有する後述の嵌入部2bを接続する円筒状の接続部材29が連結されている。
【0023】
前記スロート部材2は、図1及び図3、図4に示すように、比較的硬度の高い合成樹脂材によって射出成形などによってほぼ逆L字形状に折曲形成されていると共に、縦方向から2分割に形成されている。つまり、縦方向から半割状に形成されている。また、スロート部材2の内部には、複雑な人体の気道モデルとしての通路10が形成されている。
【0024】
具体的に説明すれば、スロート部材2は、縦方向から2分割された両分割部11、12の平坦な両対向面11a、12aを合わせてなり、各分割部11,12の内側縁と外側縁には、長手方向のほぼ等間隔位置に矩形板状のボス部11b、11c、12b、12cが一体に突設されている。各内側のボス部11b、12bは、それぞれ3つ形成されているのに対して、各外側のボス部11c、12cは、強度を確保するためにそれぞれ4つ形成されている。
【0025】
また、前記一方の分割部11の各ボス部11b、11bには、結合手段であるボルト30の軸部先端に形成された雌ねじ部が螺着するナット13がそれぞれ埋設固定され、他方の分割部12のボス部12b、12cには、前記各ボルト30の軸部が挿通するボルト挿通孔14がそれぞれ貫通形成されている。
【0026】
さらに、前記スロート部材2は、図3及び図4に示すように、ほぼ水平に沿って形成された上端部2aの先端部に前記連結部材3が嵌合する円柱状の嵌合部2bが一体に形成されている。この嵌合部2bは、軸方向の長さLが前記連結部材3との十分な嵌合代(密着性)を確保し得る長さに設定されている。一方、ほぼ垂直に沿って形成された下端部2cの下部には、前記吸い込み部材8の吸い込み筒部8bに嵌入する嵌入部2dが一体に形成されている。この嵌入部2dは、ほぼ円筒状に形成され、その長さL1が前記吸い込み筒部8bとの十分な嵌合代を確保し得る長さに設定されている。
【0027】
前記通路10は、前述したように、複雑な構造の気道モデルとして形成され、前記嵌合部2bの内部に形成された人体の口元に相当する開口部16と、舌片17の上部に形成された通路断面積の小さな人体の口腔に相当する口腔通路部18と、該口腔通路部18の下流側に位置し、比較的断面積の大きな人体の咽頭の口部に相当する咽頭通路部19と、該咽頭通路部19の下流側に位置し、断面積が比較的大きな喉頭部に相当する喉頭通路部20と、該喉頭通路部20の下流側に位置し、断面積が変化した気管に相当する気管通路部21と、喉頭蓋に相当する細長い喉頭蓋部22を介して前記気管通路部21と分離される食道の上流側に相当する食道通路部23と、から主として構成されている。
【0028】
前記開口部16は、微粉末薬剤を吸入し易くするために先端の開口面積が広い断面ほぼラッパ状に形成されている。
【0029】
前記口腔通路部18は、舌片17の上面に沿ってほぼ円弧状に形成されて、前記開口部16から咽頭通路部19付近までほぼ均一な断面形状に形成されている。
【0030】
前記咽頭通路部19は、断面積が上流側から下流側に掛けて漸次大きくなるように形成され、また、前記喉頭通路部20は、断面積が比較的大きくかつ複雑な形状に形成され、下流側の前方側に前記食道通路部23に連通し、後方側に前記気管通路部21に連通している。
【0031】
前記気管通路部21は、上流側は断面積が比較的小さく形成されているのに対して前記嵌入部2dの位置する下流通路部21aは上流側よりも断面積の大きなほぼ均一径に形成されており、前記下流部通路部21aが前記吸い込み部材8の吸い込み筒部8bを介して前記分級捕集器1内に連通している。
【0032】
前記食道通路部23は、断面積が他の部位より最も大きく形成されていると共に異形状に形成され、上流部23aが前記喉頭通路部20に連続的に連通している一方、下流部23bの底部が閉塞片24によって閉塞されて全体がチャンバー状態になっている。
【0033】
そして、前記スロート部材2は、図1に示した予め2分割された各分割部11,12の各対向面11a、12aを合わせながら全体の位置決めを行いつつ、前記各ボルト30を各一方分割部11のボルト挿通孔13から挿通してナット14に締結する。これによって、両分割部11,12が一体的に連結されて、両者間の内部に気道モデルの前記通路10が形成されると共に、対向面11a、12aが密着してシール性を確保するようになっている。
【0034】
前記連結部材3は、縦断面図である図5にも示すように、軟質な合成ゴムあるいは合成樹脂材によってほぼ円筒状に形成され、図中右端部側に前記分級捕集器2の嵌合部2bが嵌合する円形状の嵌合溝3aが形成されていると共に、左端部側には前記投薬器4の後述する挿通部が挿通嵌合する円形状の挿通溝3bが形成されて、前記嵌合溝3aと挿通溝3bとは、互いの軸心が同軸上になっている。
【0035】
前記嵌合溝3aは、その内径Dが前記嵌合部2bの外径よりも僅かに小さく形成されて、前記嵌合部2bを軸方向から嵌合させると、周壁が拡径方向へ弾性変形しつつ溝内周面が嵌合部2bの外周面に密着しながら嵌着固定される。
【0036】
前記挿通溝3bは、その内径D1が前記嵌合溝3aの内径Dよりも小さく、また投薬器4の挿通部の外径よりも僅かに小さく形成されて、前記挿通部を反対軸方向から挿通させると、挿通溝3b周壁が拡径方向へ弾性変形しつつ溝内周面が挿通部の外周面に密着しながら挿通固定される。
【0037】
これによって、前記投薬器4を、スロート部材2に簡単且つ確実に連結することが可能になると共に、各溝3a、3bの内周面が対応する各部の外周面に密着状態に嵌着するため、前記吸引発生器5による微粉末薬剤の吸引中における空気漏れの発生を抑制できる。なお、挿通溝3bの内周縁には、前記挿通部を軸方向から容易に挿通するためのガイドとなる面取り円環状の切欠部3cが形成されている。
【0038】
前記投薬器4は、図6に示すように、合成樹脂材によって形成されて、内部にカプセル収容室を備えた投薬器本体25と、該投薬器本体25の前端部に一体に設けられて、前記連結部材3を介して分級捕集器2の嵌合部2bに連結される円筒状の挿通部26と、投薬器本体25のカプセル収容室へ後端部から引き出し、引き入れ自在に設けられて、微粉末薬剤が充填された図外のカプセルを前記カプセル収容室に送り出すカプセルホルダ27と、投薬器本体25の上端部に一体に設けられた筒状部25a内に上下動可能に設けられて、押し下げることによってピンによりカプセルに穴をあける穴あけ具28と、から主として構成されている。
【0039】
この吸入投薬器4は、本出願人が先に出願して特許された特許第3512971号公報に記載されたものと同じものである。したがって、具体的な説明は省略する。
【0040】
前記吸引発生器5は、例えば電動モータの回転力によって駆動するポンプ機構によって吸引負圧を発生させるもので、前記高圧ホース15を介して分級捕集器1の基部7側から微粉末薬剤を吸引するようになっている。また、その吸引力は前記制御機構6によって自由に設定することが可能である。
【0041】
以下、本実施形態における粒子特性試験装置作用について説明する。まず、各構成部材を接続する手順について簡単に説明すると、前記分級捕集器1の吸い込み部材8に、吸い込み筒部8bと接続部材29及び嵌入部2dを介して前記スロート部材2を上方から接続する。なお、このとき、前記接続部材29と嵌入部2d及び吸い込み筒部8bとは、図外のシール部材などによってそれぞれの間が気密的にシールされるようになっている。
【0042】
続いて、前記連結部材3を介して前記スロート部材2に投薬器4を接続する。このとき、連結部材3と嵌合部2b及び挿通部26とは、前記連結部材3の各溝3a、3b内周面の強い密着性によって確実なシールがなされている。
【0043】
各構成部材の組み付けが完了した後、前記カプセルホルダ27によって予め投薬器4のカプセル収容室に収容保持されたカプセルの前後所定位置に、穴あけ具28によって穴開けを行う。そうすると、カプセル内の微粉末薬剤が吸引されて、前記スロート部材2の開口部16から通路10内を流動しながら分級捕集器1内に流入する。この分級捕集器1では、微粉末薬剤が前記各分級ステージST1〜ST9の各衝突ディスクに衝突しながら粒径に応じて順次捕集される。
【0044】
すなわち、1次分級ステージST1では、約11μm以上の粒径の微粉末薬剤が捕集され、2次分級ステージST2では、約7.0〜11μmの粒径が、3次分級ステージST3では、約4.7〜7.0μmの粒径が、4次分級ステージST4では、約3.3〜4.7μmの粒径が、5次分級ステージST5では、2.1〜3.3μmの粒径が、6次分級ステージST6では、1.1〜2.1μmの粒径が、7次分級ステージST7では、0.65〜1.1μmの粒径が、8次分級ステージST8では、0.43〜0.65μmの粒径が、最下段の9次分級ステージST9では、0.43μm未満の粒径の微粉末薬剤がそれぞれ段階的に分級捕集される。
【0045】
これによって、分級捕集器1の各分級ステージST1〜ST9で捕集された微粉末薬剤の粒径を空気力学的粒径に関して分析評価することができる。
【0046】
ここで、本実施形態では、前記吸入投薬器4から放出された微粉末薬剤は、スロート部材2の気道モデルである通路10を通りながら、前記分級捕集器1内に流入するため、微粉末薬剤の粒径をより精度の高い分析評価することが可能になる。
【0047】
すなわち、投薬器4から放出された微粉末薬剤の流動粉体は、開口部16から通路断面積の小さな口腔通路部18を通過する際に流速が上昇し、さらに比較的通路断面積の大きな咽頭通路部19に流入すると、ここでは流速が僅かに低下して内壁面に粉体の一部が付着する。その後、通路断面積がさらに大きな喉頭通路部20に到達し、ここで凹凸のある内壁面に粉体の一部が付着しながら流下し、細長い喉頭蓋部22を挟んで前記気管通路部21側と食道通路部23側に分流する。
【0048】
前記食道通路部23では、通路断面積が急に大きくなることから、この上流部23aに流入した粉体は流速を落として一部が内壁面に付着する共に下流部23bの底面23cに沈着する。
【0049】
一方、前記気管通路部21に流入した粉体は、そのまま前記分級捕集器1内に流入する。したがって、前記分級捕集器1には、投薬器4から放出された微粉末薬剤総量の一部のみが流入すると共に、特異な流速で流入することになる。
【0050】
図7及び図8は前記単純なパイプ状の従来のスロート部材を用いた場合と、本実施形態のスロート部材2を用いた場合の微粉末薬剤の前記分級捕集器1での到達割合を実験によって比較したグラフである。つまり、吸入投薬器4から放出される微粉末薬剤(噴出薬量)の分級捕集器1に対する割合(%)を示している。白抜き棒線は従来のスロート部材を用いた場合、網掛け棒線は本実施形態に供されたスロート部材2を用いた場合を示している。
【0051】
この各実験例では、カスケード・インパクタや吸入器は、前記本実施形態の分級捕集器1と投薬器3を用いた。
【0052】
まず、図7に示す第1実験例では、キャリア型モデル製剤(薬剤)としては薬剤Aを用い、投薬器4から放出される微粉末薬剤の試験流量、つまりスロート部材内への流量としては28.3L/minに設定した。また、吸引時間は8.5秒、噴霧回数は2回(40mg/dose)に設定した。
【0053】
この第1実験例の結果をみると、微粉末薬剤の粒径が10μm以上の場合は、従来では約60%であるのに対して本実施形態のものでは約45%に低減していることが明らかである。また、粒径が9〜10μmの場合は、従来では約3%であるのに対して本実施形態のものでは2.5%に低減しており、以下、微粉末薬剤の粒径が5.8〜9μm、4.7〜5.8μm、3.3〜4.7μm、2.1〜3.3μm、1.1〜2.1μm、0.65〜1.1μm、0.43〜0.65μm、0.43μm以下のいずれの場合においても、従来のスロート部材を用いたものよりも本実施形態のスロート部材2を用いた場合の分級割合が低くなっていることが明らかである。特に、粒径が3.3〜4.7μmの場合には、割合の差値が最も大きくなっている。これは、かかる粒径の質量では流速等との関係で前記スロート部材2の内壁面に付着し易くことに起因するものと考えられる。
【0054】
なお、図7中、最右端に示す特性は、微粉末薬剤の粒径が5.8μm以下の場合のトータルとしての比較を示しており、本実施形態のスロート部材2を用いた場合の方が、全体的に分級割合が低くなっていることが明らかである。
【0055】
また、図7中、最左端に示す特性は、従来のスロートを用いた場合と本実施形態のスロート部材2を用いたい場合におけるそれぞれに付着する薬粉の量を示し、これかも明らかなように、従来のスロートでは付着薬粉量が約10%であるのに対して本実施形態のスロート部材2を用いた場合は、約32%付着していることが明らかである。
【0056】
次に、図8に示す第2実験例では、キャリア型モデル製剤(薬剤)としては薬剤Bを用い、吸入投薬器4から放出される微粉末薬剤の試験流量としては60L/minに設定した。また、吸引時間は4秒、噴霧回数は5回(12.5mg/dose)に設定した。
【0057】
この第2実験例の結果をみると、微粉末薬剤の粒径が8.6μm以上の場合は、従来では約60%であるのに対して本実施形態のものでは約50%に低減していることが明らかである。また、粒径が6.5〜8.6μmの場合は、従来では約4%であるのに対して本実施形態のものでは2%に低減しており、以下、微粉末薬剤の粒径が4.4〜6.5μm、3.3〜4.4μm、2.0〜3.3μm、1.1〜2.0μm、0.54〜1.1μm、0.25〜0.54μm、0.25μm以下のいずれの場合においても、従来のスロート部材を用いたものよりも本実施形態のスロート部材2を用いた場合の分級割合が低くなっていることが明らかである。特に、粒径が2.0〜3.3μmの場合は、その差値が最も大きくなっており、かかる粒径の質量では流速等との関係で前記スロート部材2の内壁面に付着し易いことに起因するものと考えられる。
【0058】
なお、図8中、最右端に示す特性は、微粉末薬剤の粒径が0.54〜6.5μmの場合のトータルとしての比較を示しており、本実施形態のスロート部材2を用いた場合の方が、全体的に分級割合が低くなっていることが明らかである。
【0059】
また、図8中、最左端に示す特性は、従来のスロートを用いた場合と本実施形態のスロート部材2を用いたい場合におけるそれぞれに付着する薬粉の量を示し、これかも明らかなように、従来のスロートでは付着薬粉量が約15%であるのに対して本実施形態のスロート部材2を用いた場合は、約34%付着していることが明らかである。
【0060】
以上の第1、第2実験例からも明らかなように、分級捕集器1内での微粉末薬剤の流量が、従来のスロート部材を用いた場合よりも本実施形態に供されるスロート部材2を用いた場合の方が減少している。これは、本実施形態のスロート部材2が、気道モデルを用いていることから通路10の通路断面積の異なる通路部、つまり口腔通路部18や咽頭通路部19、喉頭通路部20及び気管通路部21を通過する際に、通路断面積の変化に伴って流速が変化すると共に凹凸のあるこれらの内壁面に微粉末薬剤の一部が付着しながら流下し、さらに食道通路部23に流入して下流部23bの底面などに沈着するからである。
【0061】
したがって、本実施形態では、前記スロート部材2と分級捕集器1との有機的な連結によって、吸入投薬器4から放出された微粉末薬剤のスロート部材2の通路10内での流動変化と流量変化に基づいて、前記分級捕集器1内で粒子分布の評価を行うようにしたため、該分級捕集器1での人工的な代替試験と生体を用いた試験との相関が得られやすくなり、微粉末薬剤の粒子分布のより高精度な評価を得ることが可能になる。
【0062】
また、本実施形態におけるスロート部材2は、前記評価試験後に、図1に示すように、2分割形成されて両分割部11,12を展開することができるので、各通路部18〜21、23の内周面などに付着、沈着したに微粉末薬剤の各部の付着量をそれぞれ個別的に測定することが可能になる。これによって、微粉末薬剤の必要量も高精度に評価することができる。この結果、処方された用量の薬剤の実質的な治療効果が何ら得ることができる。
【0063】
前記スロート部材2を半割状に分割形成したことによって、試験後に各通路部18〜21、23などの清掃が容易になるので、繰り返し行われる前記評価試験の精度を維持することができる。
【0064】
さらに、前記スロート部材2を、型を用いた射出成形によって製造することから、複雑な気道モデルを容易かつ精密に形成することが可能になると共に、全体の製造作業も容易になる。
【0065】
図9はスロート部材2の他例を示し、一方の分割部11の対向面11aの外周側に、細い嵌合凹溝31を気道溝に沿って形成されている一方、他方の分割部12の対向面12aの外周側に、前記嵌合凹溝31に嵌合する嵌合凸部32がそれぞれ形成されている。
【0066】
したがって、両分割部11,12を対向面11a、12aを介して組み合わせた際に、前記各嵌合凹溝31に嵌合凸部32が嵌合することから、両者11,12の位置決めがなされると共に、シール性が向上して微粉末薬剤が気道を通過する際において外部へのリークを十分に抑制することが可能になる。
【0067】
本発明は、前記実施形態の構成に限定されるものではなく、例えばスロート部材2を分割形成することなく、合成樹脂材などで一体に形成することも可能である。また、スロート部材2の気道モデルは、子供用の小さなものから大人用の大きなもの、さらには、女性用、男性用に分けて形成することも可能であり、これによって、それぞれの気道に応じたより高精度な空気力学的粒径の特性評価を行うことができる。
【0068】
さらに、スロート部材を、合成樹脂材以外の材料、例えば硬度の高い合成ゴムやアルミ合金などの金属で形成することもできる。
【0069】
また、前記通路10の内面に、例えば粘膜に近似した材料を塗布し、評価試験中にこれらに付着した微粉末薬剤の量を測定すれば、該微粉末薬剤の必要量をより厳密にチェックすることができる。
【符号の説明】
【0070】
1…分級捕集器
2…スロート部材
2a…上端部
2b…嵌合部
2c…下端部
2d…嵌入部
3…連結部材
4…吸入投薬器
5…吸引発生器
6…制御機構
7…基部
8…吸い込み部材
10…通路(気道モデル)
11…一方の分割部
11a…対向面
11c・12c…ボス部
12…他方の分割部
12a…対向面…
13…ボルト挿通孔
14…ナット(結合部材)
18…口腔通路部
19…咽頭通路部
20…喉頭通路部
21…気管通路部
23…食道通路部
30…ボルト(結合部材)
31…嵌合凹溝
32…嵌合凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
投薬器から放出された微粉末薬剤の粒径に応じて分級して捕集する分級捕集器と、前記投薬器と分級捕集器との間に介装配置されて、前記投薬器から放出された微粉末薬剤を前記分級捕集器に供給するスロート部材と、を備えた粒子特性試験装置であって、
前記スロート部材を、人体の気道を模した気道モデルによって構成したことを特徴とする粒子特性試験装置。
【請求項2】
請求項1に記載の粒子特性試験装置において、
前記スロート部材は、内部の上流側から下流側に沿って気道中の口腔、咽頭、喉頭、気管及び食道にそれぞれ相当する通路部が形成されていることを特徴とする粒子特性試験装置。
【請求項3】
請求項1に記載の粒子特性試験装置において、
前記スロート部材を、縦断方向から2分割に形成すると共に、該2つの分割部を複数の結合部材を介して結合、分割自在に形成したことを特徴とする粒子特性試験装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項の粒子特性試験装置において、
前記スロート部材を、射出成形による合成樹脂材によって形成したことを特徴とする粒子特性試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−24314(P2012−24314A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165532(P2010−165532)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)