説明

粒子移動型表示装置

【課題】分散液体の粘性を不必要に増すことなく、また、固定の帯電層や親和層を形成することなく、粘性に頼るよりも格段に画素表示のメモリ性を高め得る粒子移動型表示装置を提供する。
【解決手段】表示電極80を配置した定着面110を囲んで、隔壁電極90を形成した隔壁30を配置する。隔壁30で囲まれた移動空間45に帯電粒子50を分散させた分散液体40を充填しており、表示電極80と隔壁電極90との間に印加する電圧極性に応じて、定着面110と定着面120との間で帯電粒子50を移動させる。分散液体40には、帯電粒子50と逆極性に弱く帯電した分散液体40中で無色透明な超微粒子60が分散されている。帯電粒子50は、定着面110に積層した帯電粒子を凝集状態に保持して、階調表示の耐経時変化性、耐衝撃、耐折り曲げ性を著しく高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散液体中で帯電粒子を移動させて表示を行う粒子移動型表示装置、詳しくは、分散液体中に混合されて帯電粒子による表示のメモリ性を高める添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
非発光型の画像表示装置として、帯電粒子を電界等の作用にて移動させて表示を行う粒子移動型表示装置が知られている。帯電粒子の移動空間に臨ませて一対の電極を配置した粒子移動型表示装置は、この一対の電極間に電圧を印加して形成した電界によって帯電粒子を移動させる。粒子移動型表示装置は、光源光を50%以上損なわせる偏光板が不要、有色帯電粒子による高コントラストな画像表示が可能、低電圧駆動、構造および動作が単純等、画像表示装置として従来一般的な液晶表示装置に比べて、多くの利点を有している。
【0003】
粒子移動型表示装置の1種である電気泳動表示装置は、電界印加の解除後も、しばらく表示状態を維持できる表示のメモリ性を有するものがある。このため、画像表示の維持に電力を必要としない低消費電力の画像表示装置として注目されている。
【0004】
特許文献1には、表示電極を配置した表示面を囲んで隔壁を形成した電気泳動表示装置が示される。ここでは、隔壁の起立面に配置した隔壁電極と表示電極との間に直流電圧を印加して、表示面と起立面との間で帯電粒子を移動させている。
【0005】
特許文献2には、帯電粒子の移動空間を上下に挟んで透明電極を配置した電気泳動表示装置が示される。ここでは、分散液体の粘度を高めて、電圧解除後の帯電粒子の熱拡散を妨げることにより、表示のメモリ性を高めている。
【0006】
【特許文献1】特開平9−211499号公報
【特許文献2】特表2004−526199号公報(国際特許公開WO−2002−079869号公報)
【非特許文献1】パリティー、18巻、12号、54頁(2003)
【非特許文献2】伊藤、曽我見、高分子物理学(朝倉物理学体系)、203頁(朝倉書店、2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
粒子移動型表示装置で表示のメモリ性を高めることができれば、書き込み後に表示媒体(画面)を書き込み装置から取り外して持ち歩いたり、1つの表示媒体を用いて書き込み/消去を繰り返したりが可能となる。そして、このような表示媒体を用いた電子ペーパー、電子出版物、電子新聞等の実用化を通じて、世界的な紙節約と森林保護とが可能となる。
【0008】
しかし、特許文献2に示されるように、表示のメモリ性を高めるために分散液体の粘度を高めると、粘性抵抗が増して分散液体中の帯電粒子の移動速度が低下し、画像表示の応答性能が低下する。また、粘性抵抗のばらつきや温度変化によって、同一電圧同一時間の駆動に対する帯電粒子の移動距離が違ってくるので、単純な二階調の表示は別としても、階調表示の再現性が低下する。
【0009】
また、大きな粘性抵抗に打ち勝って帯電粒子を移動させるために駆動電圧を上昇させると、回路負担や電力消費が増して、電気泳動表示装置を採用する意味が薄れるし、帯電粒子の劣化や分散液体の電気分解と言った新たな問題を発生してしまう。
【0010】
そもそも、帯電粒子が移動できる範囲の粘性抵抗では、帯電粒子のブラウン運動等に基づく移動を十分阻止できない。このため、粘性抵抗に頼る表示のメモリ性は十分なものとは言えず、長時間の画像保持をすることは極めて困難である。
【0011】
そこで、分散液体に接する定着面(以下、泳動粒子が付着し、その状態が維持されるべき表面を定着面と称する。表示に際して目で見える部分、すなわち表示面だけでなく、水平移動型電気泳動ディスプレイにおける隔壁表面も定着面である。)に、帯電粒子と親和性の高い固定の親和層を設け、表面エネルギー的にメモリ性を補強する構造が提案された。しかし、表面エネルギー的な帯電粒子の拘束は、定着面に接する帯電粒子の第1層にしか及ばないので、階調書き込み後に電圧解除すると、第2層、第3層・・の帯電粒子が分散液体中に拡散を開始して次第に階調が変化する可能性がある。また、帯電粒子同士の親和性で凝集状態が保持されるとしても、同一極性に帯電した帯電粒子は基本的に反発し合うため、振動、折り曲げ、温度上昇によって容易に凝集状態が崩壊して階調が変化する可能性がある。
【0012】
そこで、分散液体に接する表示面に、帯電粒子と逆極性に帯電した固定の帯電層を設け、静電気的にメモリ性を補強する構造が提案された。静電的な拘束は、親和性による拘束よりも遠くの帯電粒子を引き付けるからである。しかし、静電気的にメモリ性を補強した電気泳動表示装置でも、第2層、第3層・・と距離が増大すると次第に拘束力が失われ、階調書き込み後に電圧解除すると、階調が経時変化を起こす可能性がある。
【0013】
特に、特許文献1に示すような電気泳動表示装置で隔壁に帯電粒子を集めて定着面全体を見通す表示状態とする場合、隔壁に集めた帯電粒子が分散液体中に分散して、表示された階調が経時変化する。
【0014】
また、中間階調を表示する場合、定着面を部分的に露出させる、言い換えれば、定着面の一部分に帯電粒子を多重積層して保持する必要がある。この場合、一箇所に積み上げられた帯電粒子は、電圧解除とともに次第に崩壊して、静電引力を高めた表示面へ移動して、階調が経時変化を起こす可能性がある。また、振動、折り曲げ、温度上昇によって、崩壊と定着面への拡散が一気に進行して階調が急変する可能性もある。
【0015】
そして、定着面に固定の帯電層や親和層を形成する場合、製造工程が増えて、製造コストの上昇や製品歩留まりの低下を引き起す。使用する材料や機材にも制限が増える可能性がある。
【0016】
本発明は、分散液体の粘性を不必要に増すことなく、表示のメモリ性を高め得る粒子移動型表示装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の粒子移動型表示装置は、帯電粒子と、前記帯電粒子を分散させた分散液体とを備え、電界をかけて前記帯電粒子を移動させる粒子移動型表示装置であって、前記分散液体が、前記帯電粒子よりも小さくて前記分散液体分子よりも大きく、かつ前記分散液体中で前記帯電粒子とは逆の極性に帯電した添加物質を含有しているものである。
【0018】
なお、本発明の粒子移動型表示装置は、帯電粒子を分散させた分散液体に接する定着面を備え、前記定着面の前記帯電粒子による被覆状態に応じた表示を行う粒子移動型表示装置において、前記分散液体中で前記帯電粒子よりも小さくて前記分散液体分子よりも大きい、前記分散液体中で実質的に無色透明な添加物質を前記分散液体中に分散させたものとしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の粒子移動型表示装置では、所望の画像の書き込みによって帯電粒子と定着面との間隔や、帯電粒子と帯電粒子との間隔が近接すると、定着面と帯電粒子や、帯電粒子同士は、添加物質を介する静電的な引力により相互に拘束し合い、その間隔を保持する。
【0020】
従って、書き込みによって定着面上に集められた帯電粒子は、定着面上で拘束されている帯電粒子の第1層が形成される。更に、前記第1層上の帯電粒子の第2層、第3層等も静電的な引力による凝集状態が保持される。言い換えれば、定着面と帯電粒子との間のみならず、帯電粒子間でも帯電粒子同士の拘束力が高められるので、定着面上に帯電粒子を集めて2層以上積層している場合でも、積層の最上層まで添加物質の仲介による拘束が、第1層と定着面との間と同等に確保される。これにより、経時変化、高温、外部衝撃、振動、折り曲げ等に耐えて帯電粒子の積載状態が保持され、帯電粒子の定着面上での拡散等が回避される。
【0021】
これにより、分散液体の粘性が低くても、定着面上での帯電粒子の積層状態等の崩壊を抑制できるようになる。定着面上での帯電粒子の拡散を生じることもなく、書き込み部分での帯電粒子の積載状態が保持されて、定着面が書き込まれた帯電粒子を拘束して位置を保持し続ける。従って、表示のメモリ性が高まる。
【0022】
また、表示面を囲む隔壁の起立面に隔壁電極を設けた粒子移動型表示装置の場合、隔壁に帯電粒子を集めて表示面を見通せる表示を行う。このとき、隔壁に集めた帯電粒子についても、同様に、帯電した固体物質が二層、三層の帯電粒子を拘束して、隔壁面における帯電粒子の凝集状態を保持する。これにより、分散液体中への帯電粒子の拡散を妨げて表示階調の変化が阻止される。
【0023】
ところで、添加物質が上記のような帯電をしていない場合でも、帯電粒子と定着面との間隔や帯電粒子と帯電粒子との間隔が書き込みによって添加物質の大きさ以下になると、帯電粒子の周囲に浸透圧差が生じ、これらの間隔をさらに狭めようとする。言い換えれば、帯電粒子の周囲における添加物質の濃度差に起因する力は、帯電粒子と定着面側が近接した状態や、帯電粒子同士が近接した状態を維持しようとする。
【0024】
従って、書き込みによって間隔が狭められた部分だけがその間隔を保持して帯電粒子を拘束する一方で、書き込まれていない部分では、固体物質が排除されないので、帯電粒子の拘束力を生じない。言い換えれば、固定の親和層のように表示面を均一な親和状態とするのではなく、書き込みによって帯電粒子が圧縮された部分でのみ帯電粒子の拘束力を高める。
【0025】
このように前記濃度差に起因する力は、前述した本発明に関する静電的な引力と同様に、定着面上で外乱(熱拡散や外部衝撃)にさらされた帯電粒子に対する復元力として機能する。
【0026】
これらの機構により、分散液体の粘性が低くても、定着面上での帯電粒子の集合状態(例えば積層状態)の崩壊を抑制できるので、表示のメモリ性が高まる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、それぞれ本発明の一実施形態である電気泳動表示装置A、B、C(図1〜図3参照)について、図面を参照しながら説明する。電気泳動表示装置A、B、Cは、バックライトを持たない反射型であるが、本発明は、後方基板10に隣接させてバックライトを設けた透過型装置として実施してもよい。また、電気泳動表示装置A、B、Cは、表示セル46ごとに形成した薄膜トランジスタ素子を、格子状に配列した多数のデータ線と多数のトリガー線とによりダイナミック制御するアクティブマトリクス型であるが、本発明は、アクティブマトリクス型以外の表示セル駆動方式を採用してもよい。
【0028】
電気泳動表示装置A、B、Cは、多数の表示セル46を格子状に配列した画像表示素子であるが、図1〜図3では、2つの表示セル(単位表示)46により代表して図示している。また、特許文献1、特許文献2に示される電気泳動表示装置の一般的な構造、一般的な製造方法、表面処理等については、本発明の趣旨と隔たりがあるので、煩雑を避けるべく、一部図示を省略して詳細な説明も省略する。
【0029】
また、本発明の粒子移動型表示装置は、一対の基板間に、帯電粒子が介在する場合と、絶縁性液体に分散した帯電粒子が介在する場合との両方で実施可能であるが、これらの実施形態の本質は同じものであることから、以下では後者の電気泳動表示装置の代表的な実施の形態について説明する。
【0030】
<第1実施形態>
図1は第1実施形態の電気泳動表示装置の構成を模式的に示す断面図である。図1では画像表示素子の2つの表示セル46を図示しており、左右の表示セルの構造は同一である。従って、重複する構成要素には左右一方のみに符号を付している。また、符号を付していない構成要素(例えば、電極間に電気信号を印加する電気信号印加回路(ドライバ、配線)や、各表示セル46に対して配置した薄膜トランジスタ素子など)は図示を省略した。
【0031】
図1に示すように、第1実施形態の電気泳動表示装置Aは、後方基板10と透明基板20との間に隔壁90が設けられている。隔壁90等により形成される移動空間45内に分散液体40や帯電粒子50等を充填している。後方基板10上には、白色反射面を兼ねた表示電極80を埋め込んだ絶縁層100が配置され、隔壁90で四方を囲まれた絶縁層100の表面が帯電粒子50を用いた画素の第一の定着面すなわち表示面110となっている。
【0032】
表示電極80下には、駆動用の配線および表示セル46ごとの薄膜トランジスタ素子(不図示)が形成され、薄膜トランジスタ素子の出力端子が表示電極80に接続されている。30は隔壁電極であり、その表面は絶縁性の物質で覆われている。120は隔壁90の表面に設けられた帯電粒子50の第二の定着面である。
【0033】
帯電粒子50の移動空間45は、透明基板20と第二の定着面120と第一の定着面110とで囲まれている。移動空間45に充填された分散液体40には、画素表示の主体である黒色の帯電粒子50が分散され、本発明に関する帯電性の超微粒子60を含む添加物質が混合されている。
【0034】
第1実施形態の電気泳動表示装置Aでは、第一の定着面110における帯電粒子50の分布状態が表示セル46の表示状態に反映されている。図1の右側に示される表示セル46は、帯電粒子50が、第一の定着面110上に積層している分布状態を示している。この第一の定着面110を透明基板20側から観察すれば、白色の定着面110が黒色の帯電粒子50で覆われて、表示セル46が黒色に観察される。
【0035】
一方、図1の左側に示される表示セル46は、帯電粒子50が、第二の定着面120上に集合している分布状態を示している。この第一の定着面110を透明基板20側から観察すれば、黒色の帯電粒子50を取り払われた白色の表示電極80が見通されて、表示セル46が白色に観察される。
【0036】
そして、図1の右側に示される表示セル46と左側に示される表示セル46との中間状態、すなわち、第一の定着面110の周辺部分に帯電粒子50が積層して、中央部分に帯電粒子50が到達していない表示状態では、表示セル46が中間の階調の灰色に観察される。
【0037】
第1実施形態の電気泳動表示装置Aでは、移動空間45内における帯電粒子50の分布状態を変化させて表示セル46の表示状態を変化させる。帯電粒子50の分布状態は、帯電粒子50を移動空間45内で変位させて設定される。例えば、帯電粒子50がプラスに帯電しているおり、表示電極80が隔壁電極30に対して負電位となるように電気信号を印加すると、移動空間45に形成された電界によって、帯電粒子50は第一の定着面110へ移動する。
【0038】
なお、本発明は、第一の定着面110や第二の定着面120における帯電粒子50の拘束性能に関しているので、帯電粒子50を変位させて表示状態を変化させる方法は、一対の電極を用いた直流電圧の印加には限定されない。他の方法としては、例えば、誘電泳動力、分散液体の電気流体力学的な流動を利用する等でも構わない。
【0039】
また、第1実施形態の電気泳動表示装置Aでは、後方基板10側に表示電極80と隔壁電極30とを配置し、表示電極80と隔壁電極30との間に形成される電界によって、第一の定着面110と第二の定着面120との間で帯電粒子50を平面方向に変位させている。しかし、本発明は、この様な電極構成、電界形成、帯電粒子50の変位方向に限定されるものではなく、所望の表示状態を形成できれば構わない。例えば、帯電粒子50を後方基板10の法線方向に変位させる電極構成でも構わない。
【0040】
また、第1実施形態の電気泳動表示装置Aでは、帯電粒子50は黒色で、表示電極80面(又は絶縁層100)は白色としたが、これに限定されるものではない。表示電極80の反射面や絶縁層100を着色すれば、着色に応じたカラー表示となる。そして、隣接する3つの表示セル46における絶縁層100を赤・緑・青色(RGB三原色)のカラーフィルタ層にそれぞれ置き換えれば、3つの表示セル46の階調バランスによって1つの画素のフルカラー表示を行うことも可能である。
【0041】
第1実施形態の電気泳動表示装置Aは、白〜黒の階調表示が可能な多数の表示セル46を格子状に配置した画像表示素子である。それぞれの表示セル46は、図1に示すように構成されており、作製した画像表示素子の1画素の大きさは、100μm×100μmである。各表示セル46は、周囲を格子状の隔壁90によって相互に分離され、隔壁90は、幅8μm、高さ20μmである。
【0042】
表示電極80は、隔壁30に囲まれた表示面110の直下に位置し、薄膜トランジスタ素子(不図示)の出力端子に接続している。隔壁電極90は、隔壁30の表面を覆った金属薄膜で形成され、画像表示素子を構成する全画素の共通電極となっている。
【0043】
第1実施形態の電気泳動表示装置Aの製造方法を説明する。先ず、絶縁層を形成したステンレス製の後方基板10上に、一般的なフォトリソグラフィー法を用いて薄膜トランジスタ素子、配線パターン、アルミニウムからなる表示電極80、絶縁層100を形成する。絶縁層100上には、一般的なリソグラフィー法を用いて、隔壁90の中心となる微細構造物を形成する。この構造物の表面にチタンを蒸着して隔壁電極30とする。得られた隔壁電極30上を絶縁層でコートして、所定の表面性状を有する隔壁90を形成する。
【0044】
次に、隔壁90と絶縁層100とが形成する移動空間45に、分散液体40と帯電粒子50と帯電制御剤と本発明に関する添加物質とからなる混合物を充填する。第1実施形態の電気泳動表示装置Aでは、分散液体40として、炭化水素系溶媒(商品名:アイソパー、エクソン社製)を用いる。帯電制御剤としては、カルボキシル基を有する変性ポリイソプレン(商品名:クラプレンLIR410、クラレ社製)を用いた。帯電制御剤の添加濃度は0.3%である。
【0045】
帯電粒子50としては、平均粒径1〜2μm程度である黒色顔料を含有しているポリマービーズを使用する。帯電粒子50の表面は、あらかじめ長鎖状の炭化水素鎖が配置している。また、帯電粒子50の分散液体40中における帯電符号は、プラスであり、ζ電位は約+90mVである。
【0046】
第1実施形態の電気泳動表示装置Aでは、添加物質として超微粒子60を用いる。超微粒子60の主成分は架橋性ポリスチレンであり、その平均粒径は約100ナノメートルである。超微粒子60の添加濃度は0.1wt%である。この程度の低い添加濃度では、分散液体40の粘性はほとんど変化しない。超微粒子60の表面には硫黄酸化物が配置されているので、超微粒子60の分散液体40中における帯電符号はマイナスであり、ζ電位は約−20mVである。
【0047】
また、第一の定着面110と、第二の定着面120の表面電位を公知のケルビン法で計測すると、プラスである。そして、マイナス帯電の超微粒子60を移動空間45の分散液体40に添加すると、超微粒子60が第一の定着面110や第二の定着面120に引き寄せられていく様子が観察される。即ち、定着面110、120は、分散液体40中における帯電符号がプラスである。
【0048】
上記混合物を充填した後、透明基板20を隔壁30上に設置し、後方基板10と透明基板20とを重ねて固定化し、分散液体40等を密閉する。透明基板20としてはポリカーボネート板を使用した。
【0049】
得られた画像表示素子の隔壁電極30を接地し、表示電極80の電位を1ヘルツ(Hz)にて、+14V、−14Vと交互に変調する。その結果、表示セル46には、白表示状態と黒表示状態が交互に出現する様子が確認された。
【0050】
次に、表示状態の保持性について確認した。表示電極80への+14V印加を100ミリ秒以内に解除する。これにより、第一の定着面110の帯電粒子50が隔壁90側の第二の定着面120へ変位して、表示セル46は白表示状態となる。続いて、電圧解除状態のまま常温放置して、表示セル46の白表示状態の経時変化を10時間に渡って観察したが、白表示状態の劣化は観察されない。
【0051】
同様に、表示電極80への−14V印加を100ミリ秒以内に解除して、表示セル46を黒表示状態とし、電圧解除状態のまま常温放置して、その後の経時変化を10時間に渡って観察したが、黒表示状態の劣化は観察されなかった。
【0052】
また、黒および白表示状態における10時間経過後の帯電粒子50の状態を光学顕微鏡で観察してみたところ、定着面110、120できれいな積層状態を維持している事が確認された。
【0053】
また、超微粒子60として、蛍光色素FITC(フルオロセインイソチオシアネート)がその表面に固定化されているものを利用し、上述したと同様に電圧信号を印加して解除した白表示状態や黒表示状態の表示セル46を蛍光顕微鏡で観察してみた。その結果、超微粒子60が、帯電粒子50間、及び帯電粒子と定着面110、120との間に配位していることが観察された。
【0054】
次に、表示状態の外乱に対する安定性を確認した。上述の要領で電圧信号の印加と解除とを行い、白表示を保持している状態で、電気泳動表示装置Aを1mの高さから合板面へ10回連続で落下させてみた。落下後も白表示状態の劣化は観察されなかった。また、同様に、黒表示を保持している状態で、電気泳動表示装置Aを1mの高さから合板面へ10回連続で落下させてみた。落下後も黒表示状態の劣化は観察されなかった。
【0055】
そして、白表示状態(黒表示状態)における落下後の定着面120(定着面110)の帯電粒子50を光学顕微鏡で観察してみたところ、落下以前の積層状態を維持していることが確認された。
【0056】
次に、表示状態の外力変形に対する安定性を確認した。上述の要領で電圧信号の印加と解除とを行い、白表示(黒表示)を保持している状態の電気泳動表示装置Aを手で湾曲させて元の平面状態に戻す折り曲げ操作を10回繰り返した。しかし、落下実験の場合と同様に、白表示(黒表示)の劣化は観察されず、光学顕微鏡による観察結果も折り曲げ操作以前の積層状態が確認された。
【0057】
<第2実施形態>
図2は第2実施形態の電気泳動表示装置の構成を模式的に示す断面図である。第2実施形態の電気泳動表示装置Bは、添加物質として超微粒子60とともに高分子70を加えたもので、表示セル46、帯電粒子50等の構成は電気泳動表示装置Aと同一である。従って、図2中、図1と共通する構成には共通の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0058】
図2に示すように、第2実施形態の電気泳動表示装置Bでは、分散液体40に混合される添加物質が超微粒子60と高分子70とを含む。高分子70は、ポリブタジエン(シス型とトランス型との混合タイプ)であり、分散液体40中では帯電を示さず、添加濃度は1.5wt%である。
【0059】
高分子70の添加後は、分散液体40の見かけ上の粘度が多少上昇したので、第1実施形態の電気泳動表示装置Aの場合よりも1V高い15Vを印加して、ほぼ同じ応答速度に揃えた書き込みを行った。
【0060】
なお、第2実施形態では、後述する浸透圧に由来する凝集力を発現させるために、高分子70を分散液体40に添加しているので、高分子70は、帯電粒子50と同一符号に帯電していても、帯電していなくとも構わない。
【0061】
このようにして製作した第2実施形態の電気泳動表示装置Bについても、第1実施形態の電気泳動表示装置Aと同じ要領で、電圧信号の印加と解除とを行い、白(黒)表示状態の保持性、安定性を調べてみた。まず、表示電極80への+15V印加を100ミリ秒以内に解除して白表示状態とし、電圧無印加の状態で常温放置して、白表示状態の経時変化を観察した。第1実施形態の電気泳動表示装置Aの場合と同様に、白表示状態の劣化は観察されなかった。
【0062】
続いて、表示電極80への−15V印加を100ミリ秒以内に解除して黒表示状態とし、電圧無印加の状態で常温放置して、黒表示状態の経時変化を観察した。第1実施形態の電気泳動表示装置Aの場合と同様に、黒表示状態の劣化は観察されなかった。
【0063】
そして、黒表示保持状態における定着面110、および白表示保持状態における定着面120の帯電粒子50を光学顕微鏡で観察してみたところ、第1実施形態の電気泳動表示装置Aの場合と同様に、最後まできれいな積層状態を維持していることが確認された。
【0064】
次に、表示状態の外乱に対する安定性を確認した。第1実施形態と同じ要領で電圧信号の印加と解除とを行い、同じ要領で10回連続の落下試験を行った。落下後も落下前と比較した白表示状態(黒表示状態)の劣化は観察されず、落下後の定着面120(定着面110)の光学顕微鏡の観察結果も、第1実施形態と同様に、落下以前の積層状態を維持していた。
【0065】
次に、表示状態の外力変形に対する安定性を確認した。第1実施形態と同じ要領で電圧信号の印加と解除とを行い、同じ要領で10回連続の折り曲げ操作を行った。落下実験の場合と同様に、白表示(黒表示)の劣化は観察されず、光学顕微鏡による観察結果も折り曲げ操作以前の積層状態を維持していた。
【0066】
<第3実施形態>
第3実施形態の電気泳動表示装置は、図2に示すように、添加剤として超微粒子60と高分子70とを使用しているが、超微粒子60の添加濃度を下げている。また、定着面110、定着面120、帯電粒子50にはフッ素を添加して、分散液体40中でマイナスの帯電を生じさせている。
【0067】
図2に示すように、帯電粒子50の表面には、長鎖状の炭化水素鎖の他に、フッ素原子を含む炭化水素鎖が配置されている。また、定着面110と定着面120とは、フッ素原子を含んでいる。これにより、分散液体40中における帯電粒子50、定着面110、および定着面120の帯電符号はそれぞれマイナスである。
【0068】
第3実施形態では、添加剤として、第1実施形態で用いた超微粒子60とともに、スチレン−ブタジエン共重合体からなる高分子70を用いている。超微粒子60の添加濃度は、0.08wt%、高分子70の添加濃度は、1.9wt%である。
【0069】
高分子70は、後述する浸透圧に由来する力を発現させるために分散液体40に添加している。また、第3実施形態では、帯電制御剤としてアミノ基を有する変性ポリイソブチレン(商品名:OLOA1200、シェブロンオロナイト社製)を用いた。帯電制御剤の添加濃度は0.5%である。これ以外は、第2実施形態と同じである。
【0070】
このようにして製作した第3実施形態の電気泳動表示装置についても、第1実施形態の電気泳動表示装置Aと同じ要領で、電圧信号の印加と解除とを行い、白(黒)表示状態の保持性、安定性を調べてみた。まず、表示電極80への+15V(−15V)印加を100ミリ秒以内に解除して白表示状態(黒表示状態)とし、電圧無印加の状態で常温放置して、白表示状態(黒表示状態)の経時変化を観察した。結果、白表示状態(黒表示状態)の劣化は観察されず、黒表示保持状態(白表示状態)における定着面110(定着面120)の光学顕微鏡による観察結果も、帯電粒子50が最後まできれいな積層状態を維持していた。
【0071】
次に、表示状態の外乱に対する安定性を確認した。第1実施形態と同じ要領で電圧信号の印加と解除とを行い、同じ要領で10回連続の落下試験を行った。落下後も落下前と比較した白表示状態(黒表示状態)の劣化は観察されず、落下後の定着面120(定着面110)の光学顕微鏡の観察結果も、落下以前の積層状態を維持していた。
【0072】
次に、表示状態の外力変形に対する安定性を確認した。第1実施形態と同じ要領で電圧信号の印加と解除とを行い、同じ要領で10回連続の折り曲げ操作を行った。落下実験の場合と同様に、白表示(黒表示)の劣化は観察されず、光学顕微鏡による観察結果も折り曲げ操作以前の積層状態を維持していた。
【0073】
<第4実施形態>
図3は第4実施形態の電気泳動表示装置の構成を模式的に示す断面図である。第4実施形態の電気泳動表示装置Cは、図1に示す電気泳動表示装置Aの構成における超微粒子60を高分子70に置き換えたもので、表示セル46、帯電粒子50等の構成は電気泳動表示装置Aと同一である。従って、図3中、図1と共通する構成には共通の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0074】
図3に示すように、第4実施形態の電気泳動表示装置Cは、分散液体40に混合される添加剤が高分子70からなる。高分子70は、帯電粒子50に対して逆極性の帯電を示しており、分散液体40中で超微粒子状を呈している。すなわち、高分子70に、第1実施形態および第2実施形態における超微粒子60の役割を担わせている。すなわち、帯電粒子50と定着面110(定着面120)の間隔および帯電粒子50の間隔に静電的に配位して、同一電位極性の帯電粒子50と定着面110(定着面120)および帯電粒子50同士を静電的に引き合わせる役割である。
【0075】
このようにして製作した第4実施形態の電気泳動表示装置についても、第1実施形態の電気泳動表示装置Aと同じ要領で、電圧無印加の常温放置による白表示状態(黒表示状態)の経時変化、表示状態の外乱に対する安定性、および表示状態の外力変形に対する安定性を調べた結果、良好な画素表示のメモリ性が確認された。
【0076】
<第1比較例>
第1実施形態〜第3実施形態の効果を比較するために、図1に示す分散液体40に、超微粒子60も、高分子70も添加していない第1比較例の電気泳動表示装置を試作した。第1比較例の電気泳動表示装置は、第1実施形態または第2実施形態で用いた添加剤を用いないこと以外は第1実施形態と同じである。
【0077】
試作した第1比較例の電気泳動表示装置の表示状態の保持性について観察した。表示電極80への+15V印加を100ミリ秒以内に解除して白表示状態とし、電圧印加を解除したまま常温放置して白表示状態の経時変化を観察した。電圧解除後は、数分を待たずして白表示状態が周辺から劣化を始め、10時間経過後は黒表示となった。
【0078】
また、第1比較例の電気泳動表示装置を垂直に起立させた状態で、表示電極80への−15V印加を100ミリ秒以内に解除して黒表示状態とし、電圧印加を解除したまま常温放置して黒表示状態の経時変化を観察した。電圧解除後は、数分を待たずして黒表示状態が全体的に劣化を始め、10時間経過後は白表示となった。
【0079】
次に、表示状態の外乱に対する安定性を確認した。第1実施形態と同じ要領で電圧信号の印加と解除とを行い、同じ要領で10回連続の落下試験を行った。落下後は落下前と比較した白表示状態(黒表示状態)の劣化が観察された。落下後の定着面120(定着面110)の光学顕微鏡の観察結果では、落下以前の積層状態が部分的に崩壊していた。
【0080】
次に、表示状態の外力変形に対する安定性を確認した。第1実施形態と同じ要領で電圧信号の印加と解除とを行い、同じ要領で10回連続の折り曲げ操作を行った。落下実験の場合と同様に、白表示(黒表示)の劣化が観察された。光学顕微鏡による観察結果も折り曲げ操作以前の積層状態が部分的に崩壊していた。
【0081】
<第2比較例>
第1実施形態〜第3実施形態とは帯電粒子50の帯電極性が異なる第4実施形態の効果を比較するために、第3実施形態の電気泳動表示装置Cから高分子70だけを除去した第2比較例の電気泳動表示装置を試作した。第2比較例の電気泳動表示装置は、第3実施形態で用いた添加剤を用いないこと以外は第3実施形態と同じである。
【0082】
試作した第2比較例の電気泳動表示装置の表示状態の保持性について観察した。第1比較例と同じ要領で白表示状態(黒表示状態)を形成し、第1比較例と同じ要領で常温放置して白表示状態(黒表示状態)の経時変化を観察した。結果、第1比較例とほぼ同様な白表示状態(黒表示状態)の劣化が確認された。
【0083】
また、表示状態の外乱に対する安定性、表示状態の外力変形に対する安定性についても同様な実験を行ったところ、第1比較例とほぼ同様な白表示状態(黒表示状態)の劣化が確認された。
【0084】
図4は第1実施形態〜第3実施形態、第1比較例、第2比較例の試作実験結果の一覧表、図5は静電引力によって定着面に帯電粒子が拘束された状態の説明図、図6は静電引力によって帯電粒子同士が拘束された状態の説明図である。
【0085】
図4に示すように、超微粒子(60:図1)および高分子(70:図2)を添加することによって、表示のメモリ性、すなわち、経時変化への抵抗性、落下衝撃への抵抗性、表示媒体の変形への抵抗性が向上する。そして、このような帯電粒子(50:図1)の拘束性能と分布状態の維持能力とは、次に説明する3つのメカニズムによって引き起される。
【0086】
<静電引力による保持>
表示のメモリ性を高める第1のメカニズムは、静電的な引力に起因している。図5は、帯電粒子50が定着面110に近接し、帯電粒子50と定着面110との間に帯電した超微粒子60が配位している様子を模式的に示している。前述した様に、超微粒子60は、帯電粒子50に対して逆符号の帯電を示している。定着面110が、帯電粒子50と同極性の帯電を示す場合、帯電粒子50と超微粒子60の間には、静電的な引力が作用する。この静電的な引力は、分散液体40の比誘電率が小さい程、大きくなる傾向にある。例えば、水中では、真空中と比較して、静電的な引力は約80分の1に減衰する。一方、比誘電率2の液体中ならば、真空中と比較して、静電的な引力は約半分となる。また、これらの静電的な引力は、帯電の価数の絶対値が大きい程、強くなる傾向にある。例えば、超微粒子60の帯電価数が−1の場合よりも、−2の方が静電的な引力を大きくできる傾向にある。この様な静電的な引力は、超微粒子60と定着面110との間にも作用する。このために、帯電粒子50と定着面110との間には、静電的な引力相互作用が発現する。結果的に、帯電粒子60が定着面110上でトラップされている状態となる。
【0087】
同様の引力相互作用は、隔壁30の定着面120上に近接している帯電粒子50群にも作用する。即ち、定着面120に帯電粒子50群が近接していて、且つ、両者の間に超微粒子60が配位している場合、帯電粒子50と定着面120との間にも引力相互作用が発現する。
【0088】
図6は、帯電粒子50同士が近接し、帯電粒子50間に超微粒子60が配位している様子を模式的に示す。前述した様に、超微粒子60は、帯電粒子50に対して逆符号の帯電を示している。従って、帯電粒子50と超微粒子60との間には静電引力が生じる。このために、帯電粒子50間には、引力相互作用が発現する。
【0089】
この互いに近接している帯電粒子50群が、図5に示す定着面110(定着面120)上に存在しているとする。この場合、泳動粒子50群は、定着面110(定着面120)から引力相互作用を受けていると見ることが可能である。この作用は、引力相互作用なので、定着面110(定着面120)上に近接して集合した帯電粒子50群の集合状態を維持するように機能する。また、これらの相互作用は、静電引力に起因するものなので、帯電粒子50間の距離の増大や帯電粒子50と定着面110(定着面120)間の距離の増大に対して復元力としても機能する。即ち、分布状態の外乱に対する復元力としても機能する。
【0090】
図5と図6では、明確な球形の形状を有する超微粒子60を用いた例を図示している。本発明は明確な形状を有するものに限定されず、帯電している高分子(70:図3)でも構わない。あるいは、帯電している低分子や、よりサイズ的に小さいイオンでも構わない。
【0091】
なお、上述したような静電的な引力相互作用に関連する研究が、先に掲げた非特許文献1、2に報告されている。非特許文献1では、同一符号の電荷を有する分子間に逆符号の電荷のイオンを介して引力相互作用が働くとする研究例が紹介されている。非特許文献2では、同一極性に帯電している微粒子間に、逆極性に帯電している物質を介して引力相互作用が発現する研究例が紹介されている。
【0092】
一方、従来の電気泳動表示装置の分散液体中にも、帯電粒子に対して逆極性に帯電している物質が分散液体中に存在することがある。例えば、帯電制御剤が、そのような逆極性に帯電している物質の供給源になる可能性がある。従って、従来の電気泳動表示装置においても、帯電粒子間に上述した静電的な引力が作用している可能性がある。しかしながら、その静電的な引力は、表示のメモリ性を実現するためには不十分であった。この原因として、少なくとも以下に述べる二つのものがあると考えられる。
【0093】
第1の原因は、帯電制御剤等の逆極性に帯電している物質の価数の絶対値が小さすぎるためである。分散液体中で、帯電制御剤はプロトンを解離し、その価数の絶対値は1になる場合が多い。上述したように、本発明に関する静電的な引力は、この価数の絶対値が大きい程、大きくなる。これに対し、本発明に関する逆極性に帯電している物質の価数の絶対値は、2以上である。
【0094】
第2の原因は、帯電制御剤の濃度にある。帯電粒子には、分散液体中における高分散性と高帯電性を付与する必要がある。これを両立するためには、帯電制御剤の濃度を大きくするほうが有利である。一方、本発明では、分散性と帯電性の付与に必要な帯電制御剤を確保した上で、静電的な引力の発現に必要な物質(帯電制御剤とは異なる材質)を分散液体に加えている。
【0095】
<濃度勾配による保持>
表示のメモリ性を高める第2のメカニズムは、分散液体40に添加された添加物質の大きさと濃度勾配とに起因している。第2のメカニズムに関する添加物質は、高分子及び/又は超微粒子である。この第2のメカニズムについて、図7と図8を用いて説明する。図7は帯電粒子間に本発明に関する添加物質としての高分子が存在している状態の説明図、図8は帯電粒子間に前記高分子が存在しない状態の説明図である。
【0096】
高分子70は、分散液体40中で有限の拡がりを示している。また、高分子70は、帯電粒子50や定着面110(定着面120)に対して親和性が低く、吸着しにくい性質を有している。
【0097】
図7は、隣接する帯電粒子50同士の表面間距離が、高分子70の分散液体40中における平均的な拡がりサイズよりも大きい状態を模式的に示している。この場合、帯電粒子間には高分子70が存在しうる。図7では、そのような高分子を高分子130とした。
【0098】
一方、図8は、帯電粒子50同士が近接配置しており、この帯電粒子50表面間の最短距離は、高分子70の分散液体40中における拡がりサイズよりも小さい状態を示している。この場合、帯電粒子50表面間の最短距離が高分子70の拡がりよりも狭いため、この領域E内には高分子70は存在する事ができない。図8では、該領域Eを破線で模式的に囲った。この破線で模式的に囲った領域E内では、高分子70の濃度はゼロである。
【0099】
一方、この領域E以外では、高分子70の濃度はゼロよりも大きい。従って、図8における帯電粒子50の周囲には、高分子70の濃度勾配が形成される。この濃度勾配のために、帯電粒子50の周囲には高分子70に関する浸透圧の勾配が形成される。破線で囲った領域E内の高分子70に関する浸透圧は、基本的にゼロとなる。一方、この破線で囲った領域E外の高分子70に関する浸透圧はゼロではない。この浸透圧勾配により、帯電粒子50同士は緩やかな凝集状態が維持される。
【0100】
一般的に、この濃度勾配に起因する力は、高分子70の濃度Cや分散液体40中における高分子70の広がりdが大きい程、大きくなる。濃度Cを大きくするには、高分子70の添加量を増大させればよい。一方、広がりdを大きくするには、高分子70の分子量を増大させればよい。この濃度勾配に由来する力は、帯電粒子50同士の表面間距離が、分散液体40中における高分子70の平均的な拡がりサイズよりも小さい場合に発現する。
【0101】
上記濃度勾配に由来する力は、帯電粒子50間だけでなく、帯電粒子50と定着面110(定着面120)との間でも発生する。例えば、帯電粒子50と定着面110との間の最短距離が、高分子70の拡がりよりも小さい距離に近接したならば、この両者の最近接領域内には、高分子70が存在できない。この結果、上述したような高分子70の濃度勾配が形成され、両者には引力相互作用が発生する。この力も、高分子70の濃度C及び広がりdが大きい程、大きくなる。
【0102】
上記濃度勾配に由来する力の引力相互作用のエネルギーWは、分散液体40の熱エネルギー(熱ゆらぎ、kBT:kBはボルツマン定数、Tは分散液体の絶対温度である)の少なくとも5倍以上にすることができる。例えば、2物体(帯電粒子50同士、または、帯電粒子50と定着面110)を十分に近接させたり、高分子70の濃度Cや広がりdを大きくしたりすればよい。
【0103】
相互作用のエネルギーが分散液体40の熱エネルギーの5倍以上あれば、定着面110や定着面120に密集した帯電粒子50の状態は、熱揺らぎにより崩れにくい。更に、高分子70の濃度Cや広がりdを増大させるなどの処理により、相互作用のエネルギーWを分散液体40の熱エネルギーの15倍以上にする事も可能である。この場合には、さらに大きな外乱(例えば、分散液体40の流動、衝撃等)に対しても、定着面110や定着面120に密集した帯電粒子50の安定性が増す。
【0104】
ところで、上記説明では、添加剤としての高分子70が、帯電粒子50、定着面110、定着面120に吸着しにくいとした。しかし、本発明は、この条件に限定されるものではない。高分子70が帯電粒子50、定着面110、定着面120に吸着しやすい場合、高分子70の分散液体40中への添加量を多くすれば、上記引力相互作用を発現させることが可能である。少なくとも帯電粒子50、定着面110、定着面120に吸着可能以上の量の高分子70が、分散液体40中に添加されていればよい。帯電粒子50と定着面110、定着面120に吸着できなかった過剰分の高分子70は、2物体(帯電粒子50同士、または、帯電粒子50と定着面110)に吸着し難い。この結果、この過剰分の高分子70は、上述した浸透圧に由来する引力相互作用を帯電粒子50間と帯電粒子50と定着面110との間に発現させることが可能である。
【0105】
上述した濃度勾配に起因する引力相互作用は、前述した様な高分子70だけでなく、超微粒子60を用いた系でも発現する。帯電粒子50同士や帯電粒子50と定着面110との間で表面間距離が、超微粒子60のサイズよりも小さくなれば、帯電粒子50の周囲には超微粒子60の濃度勾配が形成される。この濃度勾配も、前述した高分子70の濃度勾配と同様に、引力相互作用を誘起する。超微粒子60の濃度勾配に由来する引力相互作用W’は、超微粒子60の添加濃度が大きい程、超微粒子60のサイズが小さい程、超微粒子60が細長い程、大きくなる。従って、上述した本発明に関する超微粒子60も濃度勾配に起因する引力相互作用を原理的には発現可能である。
【0106】
更に、本発明では、添加剤として高分子70と超微粒子60との両方を用いても、所望の引力相互作用を発現できれば構わない。この場合、帯電粒子50には、浸透圧に起因する引力が二重に作用し、帯電粒子50の分布状態の維持に有効に作用する。結果的に、高分子70を単独で、あるいは超微粒子60を単独で用いた場合よりも、より少ない添加量で所望の帯電粒子50の分布状態を維持できる。
【0107】
添加量が少なくできることは、帯電粒子50の周囲の粘性抵抗を抑えることとなり、より低い駆動電圧で帯電粒子50を分散液体40中で変位させることが可能となる。なお、上記第2のメカニズムに関する超微粒子60と高分子70は、帯電していても構わない。
【0108】
<界面親和力による保持>
表示のメモリ性を高める第3のメカニズムは、定着面110、120と帯電粒子50の表面特性に起因する。この表面特性に起因する力を利用する分布状態の維持に関する説明を図9と図10を用いて行う。図9は、帯電粒子50同士が、分散液体40中で凝集している状態を模式的に示している。帯電粒子50は、分散液体40に対して親和性の低い表面を有しているとする。例えば、分散液体40として炭化水素系溶媒を用いた場合、帯電粒子50の表面の親和性を低くする構造としては、フッ素等の撥油性のユニットや、水酸基等の親水性のユニットをあげることができる。この場合、帯電粒子50同士が接触できるならば、その接触状態を維持しようとする。この挙動は、水中で疎水性の固体物質が集合しようとする現象に基本的には同じである。従って、図10に示すように、定着面110上で帯電粒子50同士が接触して集合している場合、帯電粒子50間には、その接触状態を維持しようとする相互作用が作用する。
【0109】
図10は、帯電粒子50が、分散液体40中において、定着面110に接触している状態を示す模式図である。定着面110は、帯電粒子50と同様に、分散液体40に対して親和性の低い表面を有しているとする。この場合も、帯電粒子50と定着面110とが接触できるならば、その接触状態を維持しようとする。従って、定着面110で帯電粒子50同士及び定着面110と帯電粒子50とが接触して集合している場合も、帯電粒子50には、これらの接触状態を維持しようとする相互作用が作用する。ここで、図10を用いて説明した相互作用は、定着面120上に近接している帯電粒子50に対しても発現する。これらの相互作用は、定着面110や定着面120における帯電粒子50の分布状態を維持するように機能する。
【0110】
なお、表面特性に起因する力を利用する場合、上述した濃度勾配に起因する力も共存する場合がある。帯電粒子50や定着面(110、120)の表面を分散液体40に対して親和性を低くすると、分散液体40中の添加物質もこれら表面に吸着し難くなる場合がある。この状況は、前述した濃度勾配に起因する力が発現するために必要な条件である。従って、分散液体40中に添加されている添加物質の性質によっては、第3のメカニズムである表面特性に起因する引力とともに、第2のメカニズムである濃度勾配に起因する引力も発現する場合がある。
【0111】
<静電引力と濃度勾配とによる保持>
図11は帯電粒子の間隔に超微粒子の濃度勾配が形成された状態の説明図、図12は帯電粒子の間隔に超微粒子と高分子の濃度勾配が形成された状態の説明図である。本発明では、画像表示素子に画素表示の保持力、すなわちメモリ性を強化するために、上述した3種類のメカニズムを利用することができる。その際、第1のメカニズムのみの利用でも、第1のメカニズムと第2のメカニズムとの併用、あるいは第1のメカニズムと第3のメカニズムとの併用でも構わない。更には全てのメカニズムの併用でも構わない。
【0112】
例えば、静電引力と濃度勾配とに起因する力を同時に帯電粒子50の分布状態の維持に利用することも可能である。これについて図11、図12を用いて説明する。図11は、帯電粒子240同士の表面間距離が、超微粒子250の大きさよりも小さい場合を模式的に示している。この近接した領域Fを破線で囲った。超微粒子260は、この領域Fの近傍に存在する超微粒子である。これらの超微粒子250、260は、帯電粒子240に対して逆極性の帯電を示しているとする。
【0113】
破線で囲った領域Fには超微粒子260がその大きさのために侵入できない。このため、帯電粒子240の周囲には超微粒子250、260の濃度勾配が形成される。この場合も、超微粒子250、260の濃度勾配に起因する引力が、帯電粒子240間に作用する。一方、超微粒子250、260と帯電粒子240との間には静電引力が作用している。このため、帯電粒子240間には、超微粒子260を媒介した架橋状態が形成される。これらの浸透圧と静電力に起因する引力とが同時に帯電粒子240間に作用する。
【0114】
この2種類の力が同時に作用する状況は、帯電粒子240が定着面110に対して近接しており、両者の間に超微粒子250が挟まれている場合にも発現する。なお、超微粒子250が帯電粒子240の定着面110への近接前に、定着面110上に吸着していても構わない。帯電粒子240の分布状態が維持されている状態では、帯電している超微粒子250は、定着面110上に配置している事になる。この場合、定着面110の表面は帯電面として機能する。一般的に、帯電面とこの帯電面に対して逆符号に帯電している粒子間の引力は、両者間の距離に依存しない。従って、帯電粒子240の分布状態が維持されている状態では、定着面110と帯電粒子240との間には、両者間の距離に依存しない引力が作用する。
【0115】
また、第2実施形態で説明したように、高分子が帯電している超微粒子とともに添加物質として使用されている場合にも、浸透圧に起因する力と静電力とが帯電粒子に作用する。これについては、図12を用いて説明する。
【0116】
図12は、帯電粒子240同士の最近接した表面間の距離が、超微粒子250の平均粒径と高分子70の分散液体40中における広がりサイズよりも小さい場合を模式的に示している。この最近接した領域Gを破線で囲った。超微粒子260は、領域Gの近傍に存在している超微粒子である。超微粒子250、260は帯電しており、その帯電符号は帯電粒子240に対して反対であるとする。
【0117】
破線で囲った領域G内には、超微粒子250と高分子70とが侵入できない。このために、帯電粒子240の周囲には超微粒子250と高分子70の濃度勾配が形成され、高分子70の濃度勾配に起因する引力と、超微粒子250、260の濃度勾配に起因する引力とが、帯電粒子240に同時に作用する。一方、超微粒子260と帯電粒子240との間には、静電力に起因する引力が作用する。
【0118】
この様に、本発明に関する添加物質として高分子70と帯電している超微粒子250、260とを併用した場合、帯電粒子240には、濃度勾配に起因する起源の異なる2種類の引力と、静電力に起因する引力とが同時に作用する。このため高分子70のみ、或は超微粒子250、260のみを添加物質として用いる場合よりも、所望の引力を発現させるための添加物質の濃度を抑えることができる。添加濃度の抑制は、分散液体の粘性抵抗を抑えることを通じて、表示の駆動電圧を小さくできる。なお、超微粒子250、260が帯電粒子240の定着面110への近接前に、定着面上に吸着していても構わない。
【0119】
<静電引力と界面親和力とによる保持>
本発明は、静電引力と表面特性に起因する力とを同時に帯電粒子の分布状態の維持に利用する事も可能である。この様な状況は、添加物質が少なくとも帯電粒子に対して逆極性の帯電を示す超微粒子を含み、且つ、帯電粒子と定着面が分散液体に対して親和性の小さい構造を有する場合に、発現させることが可能である。
【0120】
更に、本発明では、上述した3種類のメカニズムを同時に、帯電粒子の分布状態の維持に利用することが可能である。この様な状況は、帯電粒子と定着面が分散液体に対して親和性の小さい構造を有し、添加剤が帯電粒子と定着面とに吸着し難く、且つ、添加剤には少なくとも帯電粒子に対して逆極性を示す超微粒子が含まれる場合に実現可能となる。
【0121】
濃度勾配と表面特性とに起因する力は、帯電粒子等が極めて近接した場合に強く作用する。即ち短距離力的な性質を有している。一方、静電力に起因する力は、濃度勾配等に起因する力よりも、長距離にわたって作用する。これら短距離力と長距離力が作用可能な状態にあれば、帯電粒子に外乱(例えば、分散液体の流動)が作用しても長距離力が復元力として作用し、更に短距離力が帯電粒子等の近接状態を維持するために機能する事となる。従って、帯電粒子の分布状態を安定化する事が可能である。
【0122】
<材料の説明>
次に第1実施形態〜第4実施形態で使用した材料について説明する。
【0123】
電気泳動表示装置における分散液体は絶縁性流体である。その例としては、イソパラフィン(例えば、商品名がアイソパーのエクソン社製の流体)、シリコーンオイル及びキシレン、トルエン等の有機溶媒や、2種類状の有機溶媒の混合物をあげることができる。
【0124】
電気泳動表示装置における帯電粒子は、所望の表示を行う事ができれば、特に材料や粒子サイズや粒子の色等に制限はない。着色されていて絶縁性液体中で正極性又は負極性の良好な帯電特性を示す材料が好ましい。例えば、各種の無機顔料や有機顔料やカーボンブラック、或いは、それらを含有させた樹脂を使用すると良い。また、帯電粒子の表面特性も、所望の表示を行う事ができれば特に制限はない。ただし、表面特性に起因する力を定着面上の分布状態の維持に利用する場合は、帯電粒子の表面は、分散液体に対して親和性の小さい構造を有していることが好ましい。分散液体が炭化水素系溶媒の場合には、親和性の小さい構造として、フッ素含有残基(例えば−CF3)や水酸基(−OH)をあげることができる。なお、帯電粒子の平均粒径は通常0.01〜50μm程度のものを使用できるが、好ましくは、0.1〜10μm程度のものを用いる。
【0125】
上述した絶縁性液体中や帯電粒子中には、帯電粒子の帯電を制御し安定化させるための帯電制御剤を添加しておくと良い。かかる帯電制御剤としては、コハク酸イミド等の窒素含有化合物、カルボキシル基を有する化合物、モノアゾ染料の金属錯塩やサリチル酸や有機四級アンモニウム塩やニグロシン系化合物などを用いると良い。
【0126】
このような従来の帯電制御剤は、帯電粒子の帯電付与やその帯電状態を安定化させるために分散液体中に添加される固体物質である。これに対して、第1実施形態で使用した添加物質は、帯電粒子が帯電制御剤により安定な帯電状態にあることを前提にして、さらに分散液体中に添加され、帯電粒子とは逆極性に帯電して、帯電粒子の帯電状態をそのまま利用して相互作用を行うものである。
【0127】
<超微粒子>
次に、第1実施形態で使用した超微粒子について説明する。前述した第1のメカニズムに関与する超微粒子は、帯電粒子に対して逆極性の帯電を示す。この特性を発現させるために、超微粒子は、分散液体中で帯電可能な分子構造ユニットを有していても構わない。そのような分子構造ユニットとしては、硫黄酸化物やアミノ基、あるいはカルボキシル基等をあげることができる。なお、この帯電可能な分子構造ユニットは、予め超微粒子に固定化されているものでも、分散液体中に存在する他の固体物質の吸着に由来するものでも構わない。更には、他の機構により所望の帯電を発現するものでも構わない。また、超微粒子は、前述した保持状態においては、帯電粒子と定着面との間に配位している。更に、好ましくは、超微粒子は泳動粒子間にも配位している。
【0128】
第1実施形態で使用した超微粒子は、有機物でも無機物でも、或は両者の複合体でも構わない。有機物組成の超微粒子としては、アクリル系高分子の超微粒子を上げる事ができる。超微粒子が有機分子から構成される場合、超微粒子の分散液体中への溶解や変質等を防止するために、分子間が架橋されていてもよい。無機物組成の超微粒子としては、シリカ系や酸化アルミニウム系の超微粒子をあげる事ができる。
【0129】
超微粒子の平均粒径は、帯電粒子の平均粒径の半分以下、好ましくは、1μm未満、より好ましくは1nm以上1μm未満である。所望の表示特性が得られるならば、ナノメートルオーダー以下であっても構わない。
【0130】
また、超微粒子は、二つの定着面間における帯電粒子群の移動完了時において、帯電粒子間及び定着面と帯電粒子との間に配位している事が望ましい。この状態を実現できるならば、超微粒子の物性等にも特に制限はない。この状態を実現する手段の一つは、超微粒子の電界に対する移動性を帯電粒子よりも低くすることである。
【0131】
この場合には、帯電粒子の所定の変位が完了する時点でも、帯電粒子の近傍には超微粒子が存在することが可能である。超微粒子の移動度を下げる手段には特に制限はない。例えば、超微粒子のζ電位の絶対値を小さくする方法をあげることができる。特に、超微粒子の記号電位の絶対値が帯電粒子のζ電位の絶対値よりも小さければ、超微粒子の移動性は帯電粒子の移動性より小さくなる。
【0132】
また、超微粒子が分散液体中で変位する際、超微粒子の平均粒径が小さくなる程、分散液体は高粘性的な流体としての応答を示す場合がある。例えば、粘性の小さな液体中を移動する微粒子にとって、この液体は高粘性流体として振舞う。従って、超微粒子の平均粒径を小さくする事も、超微粒子の移動性の低下に対して効果がある場合がある。
【0133】
また、超微粒子が前述した第2のメカニズムに関与する場合、このメカニズムを発現できるならば、第1のメカニズムに関与する超微粒子であっても、関与しない他の超微粒子であってもよい。この場合の超微粒子は、定着面および帯電粒子に対して吸着し難いか、吸着可能であるかが、重要な特性となる。
【0134】
定着面や帯電粒子に吸着し難い特性を有している場合は、そうでない場合と比較して、少ない添加濃度で前述の濃度勾配による力を帯電粒子に作用させ易い。超微粒子が、定着面等に吸着し易い場合には、定着面等への飽和吸着量以上の超微粒子を分散液体に添加すれば、前述の濃度勾配による力を帯電粒子に作用させることができる。
【0135】
超微粒子に吸着し難い性質を付与するための手段は特に制限はない。例えば、超微粒子表面に有機分子からなる立体障害基を設けても構わない。超微粒子の分散液体への添加濃度には特に制限はない。ただ、添加濃度は少ない方が、表示素子の駆動電圧の低減等に貢献できるので、好ましい。例えば、重量濃度では3%以下が好ましく、より好ましくは1%以下、更に好ましくは0.25%以下である。
【0136】
<高分子>
次に、第2実施形態で使用した高分子について説明する。高分子の性状は、液体でも固体でも構わないが、分散液体に溶解しやすい事が望ましい。分散液体にイソパラフィン等の炭化水素系の溶媒を用いた場合、高分子としてゴム系高分子を使用する事が可能である。ゴム系高分子は、炭化水素系の溶媒と同程度に極性を低くする事が可能で、且つ、前記炭化水素系溶媒に対する溶解性を付与し易いからである。ゴム系高分子としては、イソプレンゴム系高分子、ブタジエンゴム系高分子、エチレンプロピレンゴム系高分子、イソブチレンゴム系高分子、あるいはこれら高分子の誘導体をあげる事ができる。
【0137】
高分子が帯電粒子に対して反対極性の帯電を示す場合、この高分子は、第1のメカニズムに関与することが可能である。高分子の帯電方法は、特に制限はない。例えば、帯電分子構造ユニットが含まれている高分子をあげることができる。帯電分子構造ユニットとしては、カルボキシル基、酸化硫黄、フッ素等をあげることができる。また、高分子は、前述した第2のメカニズムに関与させることも可能である。このメカニズムを発現できるならば、第1のメカニズムにも関与可能な高分子でも、あるいは関与しない高分子であってもよい。この場合には、高分子が、定着面および帯電粒子に対して吸着し難いか、吸着可能であるかが、重要な特性である。
【0138】
高分子が定着面および帯電粒子に吸着し難い特性を有している場合は、そうでない場合と比較して、少ない添加濃度で前述の濃度勾配による力を帯電粒子に作用させ易い。
【0139】
しかし、高分子が定着面および帯電粒子に吸着し易い場合であっても、定着面、および帯電粒子への飽和吸着量以上の高分子を分散液体に添加すれば、前述の濃度勾配による力を帯電粒子に作用させることができる。
【0140】
そして、定着面および帯電粒子に対して吸着し難い性質を高分子に付与するための手段は特に制限はない。例えば、高分子に帯電粒子等に対して親和性の小さい分子構造ユニットを付与すればよい。例えば、帯電粒子等の表面が炭化水素鎖で被覆されている場合には、高分子にフッ素や水酸基を配置すればよい。高分子の分散液体への添加濃度には特に制限はない。ただ、添加濃度は少ない方が、表示素子の駆動電圧の低減等に貢献できるので、好ましい。例えば、重量濃度では3%以下が好ましく、より好ましくは1%以下、更に好ましくは0.25%以下である。
【0141】
定着面の種類には、特に制限はない。定着面が電極面上に設けられている場合には、電極面を非導電性の材料で被覆して、この被覆面が定着面として機能することが好ましい。このような被覆層の材料には特に制限はなく、有機物でも無機物でも構わない。
【0142】
定着面への帯電性付与が必要な場合には、定着面に分散液体中で帯電可能な分子構造を有していても構わない。このような分子構造としては、硫黄酸化物やアミノ基、あるいはカルボキシル基等をあげることができる。なお、この帯電可能な分子構造は、予め定着面に固定化されているものでも、分散液体中に存在する他の固体物質の吸着に由来するものでも構わない。更には、他の機構により所望の帯電を発現するものでも構わない。例えば、定着面が電極面上に設けられている場合には、電極と電極の被覆層との接触帯電を利用する事も可能である。なお、定着面の帯電極性は、帯電粒子の帯電極性と同じであることが好ましい。
【0143】
また、分散液体に対して親和性の小さい定着面が必要な場合には、分散液体の性質に応じて定着面の表面分子等を制御すればよい。例えば分散液体として炭化水素系溶媒を用いた場合、定着面にフッ素等の撥油性のユニットや、水酸基等の親水性ユニットを配置すればよい。
【0144】
第1実施形態〜第3実施形態で用いた基板の種類には、特に制限はない。例えば、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリカーボネート(PC)等の柔らかい基板や、ガラス、石英等の硬い基板も使用できる。書き込み装置から取り外して持ち運べる表示媒体としては、落下しても破損せず、折り曲げ可能な柔らかい基板が望ましい。なお、表示素子の表示面側に配置される基板は、透明である必要がある。
【0145】
第1実施形態〜第3実施形態で用いた電極材料や電極配置も、所望の表示を実現できれば大きな制限はない。電極材料としてはAl電極やITO電極を挙げる事ができる。電極配置としては、表示状態の変化に必要な所望の帯電粒子変位を誘起できるものであれば、特に制限はない。図1に示す表示電極80を光反射層としても利用する場合は、銀(Ag)あるいはアルミ(Al)等の光反射率の高い材料を好適に使用する。この表示電極80を白色表示として使用する場合は、電極表面そのものに光が乱反射するように表面凹凸をつけるか、あるいは電極上に光散乱層を形成しておく事が好ましい。また、表示電極80と隔壁電極90とを同種材料と誌してもよいし、異種材料の組み合わせとしてもよい。
【0146】
<発明との対応>
第1実施形態の電気泳動表示装置Aは、帯電粒子50を分散させた分散液体40に接する定着面110を備え、定着面110の帯電粒子50による被覆状態に応じた表示を行う。そして、定着面110は、分散液体40中で帯電粒子50と等しい極性に帯電し、分散液体40中で帯電粒子50よりも小さくて分散液体40分子よりも大きい、分散液体40中で帯電粒子50とは逆の極性に帯電する超微粒子60を分散液体40中に分散させている。
【0147】
所望の画像の書き込みによって帯電粒子50と定着面(110、120)との間隔、また、帯電粒子50と帯電粒子50との間隔が近接すると、定着面(110、120)と帯電粒子50、また、帯電粒子50と帯電粒子50とが超微粒子60を介する静電的な引力により相互に拘束し合い、その間隔を保持する。そして、書き込みによって定着面(110、120)上に集められた帯電粒子50は、定着面(110、120)上に第1層が拘束されることに加えて、第1層上の第2層、第3層・・・にも静電的な引力により、凝集状態が保持される。言い換えれば、定着面(110、120)と帯電粒子50との間のみならず、帯電粒子50間でも帯電粒子50の拘束力が高められるので、定着面(110、120)に帯電粒子を集めて2層以上積層している場合でも、積層の最上層まで超微粒子60の仲介による拘束が、第1層と定着面110との間と同等に確保される。これにより、経時変化、高温、外部衝撃、振動、折り曲げ等に耐えて帯電粒子50の積載状態等が保持される。
【0148】
これにより、分散液体40の粘性が低くても、定着面上での帯電粒子50の積層状態等の崩壊を生じることもなく、書き込み部分での帯電粒子50の積層状態等を保持し続ける。従って、画素表示のメモリ性が高まる。
第1実施形態の電気泳動表示装置Aは、分散液体40中の同一電界に対する超微粒子60の移動速度は、帯電粒子50の移動速度よりも小さい。従って、表示電極80と隔壁電極90との間に電圧信号を印加して帯電粒子50を変位させても、帯電粒子の周囲に超微粒子60が存在する状態を実現できる。
【0149】
第1実施形態の電気泳動表示装置Aは、分散液体40における超微粒子60のζ電位の絶対値は、帯電粒子50のζ電位の絶対値よりも小さい。従って、分散液体40中の同一電界に対する超微粒子60の移動速度は、帯電粒子50の移動速度よりも小さい。
【0150】
第2実施形態の電気泳動表示装置Bは、帯電粒子50を分散させた分散液体40に接する定着面(110、120)を備え、定着面(110、120)の帯電粒子50による被覆状態に応じた表示を行う。そして、分散液体40中で帯電粒子50よりも小さくて分散液体40分子よりも大きい、分散液体40中で実質的に無色透明な高分子70を分散液体40中に分散させている。
【0151】
従って、帯電粒子50と定着面(110、120)との間隔、また、帯電粒子50と帯電粒子50との間隔が書き込みによって高分子70の大きさ以下になると、これらの間隔での高分子70の濃度が低下して外側から間隔をさらに狭めようとする浸透圧が発生する。言い換えれば、帯電粒子50周囲における高分子70の濃度差が、帯電粒子50と定着面(110、120)や、帯電粒子50同士の間に引力相互作用が作用することになる。
【0152】
これにより、分散液体40の粘性が低くても、帯電粒子50の積層状態の崩壊や定着面(110、120)上での拡散を生じることもなく、書き込み部分での帯電粒子50の積載状態を保持して、書き込まれた帯電粒子50の位置を保持し続ける。従って、画素表示のメモリ性が高まる。
【0153】
第1実施形態の電気泳動表示装置Aは、分散液体40中における超微粒子60の大きさは、帯電粒子50の平均粒径の半分以下である。従って、定着面(110、120)上に密に堆積した帯電粒子50の隙間空間に収まって、帯電粒子50の間隔を押し広げて光漏れする隙間を形成しない。
【0154】
第1実施形態の電気泳動表示装置Aは、帯電粒子50の平均粒径は2μmより大きく、分散液体40中における固体物質の大きさは1μm以下である。従って、従来どおりの材料と製造方法とをそのまま利用して、新たな問題を引き起すことなく、実績と信頼性のある電気泳動表示装置を製造できる。
【0155】
第1実施形態の電気泳動表示装置Aは、分散液体40における超微粒子60の重量濃度が、0.3%以下である。
【0156】
第1実施形態の電気泳動表示装置Aにおいて、帯電粒子50の表面同士の親和性を帯電粒子50の表面と分散液体40との親和性よりも大きくすれば、帯電粒子50の凝集状態の保持を期待できる。
【0157】
第1実施形態の電気泳動表示装置Aにおいて、帯電粒子50の表面と定着面(110、120)との親和性を、定着面(110、120)と分散液体40との親和性よりも大きくすれば、定着面(110、120)上における帯電粒子50の保持を期待できる。
【0158】
第2実施形態の電気泳動表示装置Bにおいて、分散液体40中における帯電粒子50の表面と高分子70との親和性を、帯電粒子50の表面同士の親和性よりも小さくすれば、高分子70の少ない添加濃度で前述の濃度勾配による力を帯電粒子50に作用させ易い。
【0159】
第2実施形態の電気泳動表示装置Bにおいて、分散液体40中における帯電粒子50の表面と高分子70との親和性が、帯電粒子50の表面同士の親和性よりも大きい場合であっても、高分子70の分散液体40中への添加量を、定着面(110、120)、および帯電粒子50の表面へ吸着可能な量よりも多くすれば、前述の濃度勾配による力を帯電粒子50に作用させ得る。
【0160】
第1実施形態の電気泳動表示装置Aおよび第2実施形態の電気泳動表示装置Bでは、超微粒子60がサブミクロンサイズ以下の超微粒子と、分散液体中での拡がりオーダーがミクロンサイズ以下の高分子との少なくとも一方である。
【0161】
第1実施形態の電気泳動表示装置Aは、二つの定着面(110、120)と表示電極80と隔壁電極30とを備え、隔壁電極30と表示電極80との間に電気信号を印加して所定の定着面上に帯電粒子50を集めた後に電圧解除した状態で、定着面と帯電粒子50との間に超微粒子60が配位していることが観察されている。
【0162】
第1実施形態の電気泳動表示装置Aは、隔壁電極90と表示電極80との間に電気信号を印加して所定の定着面上に帯電粒子50を集めた後に電圧解除した状態で、帯電粒子50の間隔に超微粒子60が配位していることが観察されている。
【0163】
第1実施形態の電気泳動表示装置Aの製造においては、上述したように、帯電粒子50よりも小さくて分散液体40分子よりも大きい、分散液体40中で実質的に無色透明な超微粒子60を分散液体40に混合してある。
【0164】
第2実施形態の電気泳動表示装置Bの製造においては、上述したように、分散液体40中での分子の拡がりが帯電粒子50よりも小さくて分散液体40分子よりも大きい、分散液体40中で実質的に無色透明な高分子を分散液体40に混合してある。
【0165】
第1実施形態の電気泳動表示装置Aの表示媒体は、後方基板10と透明基板20との間に、帯電粒子50を分散させた分散液体40を封入してある。そして、帯電粒子50よりも小さくて分散液体40の分子よりも大きい、分散液体40中で実質的に無色透明な超微粒子60を分散液体40に混合してある。
【0166】
第1実施形態の電気泳動表示装置Aの表示媒体は、超微粒子60が、分散液体40中で帯電粒子50と同一極性に帯電し、分散液体40における超微粒子60のζ電位の絶対値が帯電粒子50のζ電位の絶対値よりも小さい。
【図面の簡単な説明】
【0167】
【図1】第1実施形態の電気泳動表示装置の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】第2実施形態の電気泳動表示装置の構成を模式的に示す断面図である。
【図3】第4実施形態の電気泳動表示装置の構成を模式的に示す断面図である。
【図4】第1実施形態〜第3実施形態、第1比較例、第2比較例の試作実験結果の一覧表である。
【図5】静電引力によって定着面に帯電粒子が拘束された状態の説明図である。
【図6】静電引力によって帯電粒子同士が拘束された状態の説明図である。
【図7】帯電粒子間に本発明に関する添加物質としての高分子が存在している状態の説明図である。
【図8】帯電粒子間に前記高分子が存在しない状態の説明図である。
【図9】帯電粒子が凝集している状態の説明図である。
【図10】帯電粒子が定着面に凝集している状態の説明図である。
【図11】帯電粒子の間隔に超微粒子の濃度勾配が形成された状態の説明図である。
【図12】帯電粒子の間隔に超微粒子と高分子の濃度勾配が形成された状態の説明図である。
【符号の説明】
【0168】
10、20 一対の基板(後方基板、透明基板)
30 隔壁電極
40 分散液体
45 移動領域
46 表示セル
50 帯電粒子
60、70 添加物質(超微粒子、高分子)
80 表示電極
90 隔壁
100 絶縁層
110 第一の定着面
120 第二の定着面
A、B、C 粒子移動型表示装置(電気泳動表示装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯電粒子と、前記帯電粒子を分散させた分散液体とを備え、電界をかけて前記帯電粒子を移動させる粒子移動型表示装置であって、
前記分散液体が、前記帯電粒子よりも小さくて前記分散液体分子よりも大きく、かつ前記分散液体中で前記帯電粒子とは逆の極性に帯電した添加物質を含有していることを特徴とする粒子移動型表示装置。
【請求項2】
電界をかけたときの前記分散液体中の前記添加物質の移動速度は、同じ電界をかけたときの前記帯電粒子の移動速度よりも小さいことを特徴とする請求項1記載の粒子移動型表示装置。
【請求項3】
前記分散液体中の前記添加物質のζ電位の絶対値は、前記帯電粒子のζ電位の絶対値よりも小さいことを特徴とする請求項1または2に記載の粒子移動型表示装置。
【請求項4】
前記分散液体中の前記添加物質が、前記分散液体中で実質的に無色透明であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の粒子移動型表示装置。
【請求項5】
前記分散液体中の前記添加物質の大きさは、前記帯電粒子の平均粒径の半分以下であることを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項記載の粒子移動型表示装置。
【請求項6】
前記帯電粒子の平均粒径は2μmより大きく、前記分散液体中の前記添加物質の大きさは1μm以下であることを特徴とする請求項1乃至5いずれか1項記載の粒子移動型表示装置。
【請求項7】
前記分散液体の前記添加物質の重量濃度が、0.3%以下であることを特徴とする請求項1乃至6いずれか1項記載の粒子移動型表示装置。
【請求項8】
帯電粒子と、前記帯電粒子を分散させた分散液体と、前記分散液体に接し前記帯電粒子が付着する定着面とを備え、電界をかけて前記帯電粒子を移動させ前記定着面に維持することにより表示を行うメモリ性粒子移動型表示装置であって、
前記分散液体が、前記帯電粒子よりも小さくて前記分散液体分子よりも大きく、かつ前記分散液体中で前記帯電粒子とは逆の極性に帯電した添加物質を含有していることを特徴とするメモリ性粒子移動型表示装置。
【請求項9】
前記添加物質は、超微粒子と高分子との少なくとも一方であることを特徴とする請求項8記載のメモリ性粒子移動型表示装置。
【請求項10】
前記電界がかけられていない状態で、前記定着面に近接している前記帯電粒子と前記定着面との間に、前記添加物質が配位していることを特徴とする請求項8または9に記載のメモリ性粒子移動型表示装置。
【請求項11】
前記電界がかけられていない状態で、前記定着面に近接している前記帯電粒子間に、前記添加物質が配位していることを特徴とする請求項8乃至10のいずれか1項記載のメモリ性粒子移動型表示装置。
【請求項12】
前記定着面が、前記帯電粒子に対して同極性に帯電していることを特徴とする請求項8乃至11のいずれか1項記載のメモリ性粒子移動型表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−121570(P2007−121570A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−311926(P2005−311926)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)