説明

粒状酸化コバルト黒色顔料の製造方法、および粒状酸化コバルト黒色顔料

【課題】優れた黒色度と高電気抵抗度とを兼ね備え、小粒径かつ粒度分布がシャープな粒状酸化コバルト黒色顔料の製造方法を提供する。
【解決手段】コバルト(二価)塩水溶液とアルカリ溶液との中和時のpHを10〜13にて行い、混合中和開始以降、あるいは混合中和終了以降、反応スラリーを温度10℃〜40℃を維持しながら、酸素含有ガスを連続的にバブリングすることにより得られた水酸化コバルト前駆体をろ過、洗浄、乾燥、解砕した後、密閉された大気中、500℃〜850℃にて0.5〜3時間焼成する、あるいは、酸素濃度15体積%以上、22体積%未満に維持された不活性ガス富化空気雰囲気中、500℃〜850℃にて焼成する、粒状酸化コバルト黒色顔料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒状酸化コバルト黒色顔料の製造方法、および粒状酸化コバルト黒色顔料に関し、詳しくは、含有する全コバルト中に占めるコバルト(二価)の割合が35〜70%であることを特徴とする、特にブラックマトリックス用着色組成物、プラズマディスプレイ、プラズマアドレス液晶等の黒色電極、遮光層形成用等に用いられる黒色度に優れ、かつ高電気抵抗の粒状酸化コバルト黒色顔料の製造方法、および粒状酸化コバルト黒色顔料に関する。
【背景技術】
【0002】
ブラックマトリックス用着色組成物等に用いられる黒色顔料は、黒色度、色相、着色力、隠ぺい力等の特性に優れ、かつ安価であることが求められており、カーボンブラックや、各種金属酸化物系顔料が用途に応じて利用されている。
【0003】
カーボンブラックは黒色度や耐熱性に優れる材料であるものの、近時、その有害性がとりざたされており、労働衛生面、あるいは環境負荷面で問題視されている。そうしたことから、代替材料となる金属酸化物系顔料が注目を浴びている。金属酸化物系顔料の代表例としては、酸化マンガン、酸化銅といった単独組成の金属酸化物粒子や、それら金属元素の複合酸化物粒子が挙げられるが、中でも酸化コバルト系顔料は黒色性に優れている。
【0004】
上記酸化コバルト系顔料の製造方法については、特許文献1に代表されるような、コバルト塩水溶液を中和後、酸化性ガスで四酸化三コバルトを製造する湿式反応法や、特許文献2に代表されるような、水酸化コバルトを焼成することにより四酸化三コバルトを製造する乾式法等の開示がある。
【0005】
更に本出願人は先に、少なくともコバルトを含有する酸化物であって、且つ全コバルト中における二価のコバルトが占める割合が40%〜70%であることを特徴とするコバルト含有粒状黒色顔料を提案した(特許文献3参照)。このコバルト含有粒状黒色顔料は、コバルト(二価)塩を、アルカリ金属塩を含む水酸化アルカリを用いて40℃以下の液温で中和し、水酸化コバルト(二価)を含むスラリーを生成させる際に、該スラリーに不活性ガスを連続的にバブリングさせ、得られた水酸化コバルト(二価)をろ過、洗浄、乾燥、解砕したのち、400℃〜800℃にて焼成することで製造される。
【0006】
【特許文献1】特開2002−68750号公報
【特許文献2】特開2003−138160号公報
【特許文献3】国際公開第2006/030896号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ブラックマトリックス用着色組成物等に適した黒色顔料には、黒色度のみならず、安定した高電気抵抗性が要求されるものである。より黒色度に優れ、かつ高電気抵抗であるためには、粉末を構成する粒子の黒色度が優れている他、粒子が均整に微細化されており、かつ凝集の少ないことが要求される。また、その製法上においても、生産性に優れた手段でなければならないことは言うまでもない。
【0008】
特許文献1には、四酸化三コバルトの製造方法について開示されており、湿式反応のみで製造が可能としている。しかし、かかる製造方法においては、湿式反応のみで得られる粒子粒度は微細なままで、かつ熱処理(焼成等)もなされていない。これらに起因して、当該文献製造方法により得られる四酸化三コバルトは、微細な粒子粒度となるので、黒色度は十分なレベルとは言いがたいものである。また、形態の安定性にも欠け、熱処理を受けるブラックマトリックス用着色組成物等の使用に不適である。
【0009】
また、特許文献2は、四三酸化コバルト粉末について開示されているが、この製造方法は、ヒドロオキシ炭酸コバルト又は水酸化コバルトを酸化性雰囲気中で加熱して150〜800℃の温度で焼成することを特徴としている。この製造方法においては、単にコバルト化合物を焼成するのみで四三酸化コバルト粉末が得られるとしているが、こうして得られる四三酸化コバルトは、ほぼストイキオな形態であるため、三価のコバルトの比率が高く、それに起因して十分な黒色度を呈しているとは言い難いものである。
【0010】
以上のことから、本発明の目的は、プラズマディスプレイ、プラズマアドレス液晶等の黒色電極、遮光層形成用の黒色顔料粉として具備すべき、優れた黒色度と高電気抵抗度とを兼ね備え、小粒径かつ粒度分布がシャープな粒状酸化コバルト黒色顔料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究の結果、湿式中和−焼成法において、従来の四酸化三コバルトに比べ、黒色度その他の特性に優れた、二価のコバルト含有量の高い粒状酸化コバルト黒色顔料を製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
即ち、本発明は、コバルト(二価)塩水溶液とアルカリ溶液とを、pH10〜13にて混合中和し、混合中和開始以降、あるいは混合中和終了以降、混合液の温度を10℃〜40℃に維持しながら、該混合液中に酸素含有ガスを連続的にバブリングして水酸化コバルト前駆体を生成させ、生成した該前駆体をろ過、洗浄、乾燥、解砕した後、密閉された大気中、500℃〜850℃にて該前駆体を0.5〜3時間焼成することを特徴とする粒状酸化コバルト黒色顔料の製造方法である(以下、第1の製造方法と称す)。
【0013】
また、本発明は、コバルト(二価)塩水溶液とアルカリ溶液とを、pH10〜13にて混合中和し、混合中和開始以降、あるいは混合中和終了以降、混合液の温度を10℃〜40℃に維持しながら、該混合液中に酸素含有ガスを連続的にバブリングして水酸化コバルト前駆体を生成させ、生成した該前駆体をろ過、洗浄、乾燥、解砕した後、酸素濃度15体積%以上、22体積%未満に維持された不活性ガス富化空気雰囲気中、500℃〜850℃にて該前駆体を焼成することを特徴とする粒状酸化コバルト黒色顔料の製造方法である(以下、第2の製造方法と称す)。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法で製造された粒状酸化コバルト黒色顔料は、全コバルト中の二価のコバルトが占める割合が高く、優れた黒色度と高電気抵抗度とを兼ね備え、小粒径かつ粒度分布がシャープなことから、プラズマディスプレイ、プラズマアドレス液晶等の黒色電極、遮光層形成用の黒色顔料粉等の用途に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を、その好ましい形態に基づき説明する。
【0016】
本発明の粒状酸化コバルト黒色顔料は、少なくともその主成分がコバルト酸化物である黒色粒子であり、必要な特性に応じてSi、Al、Mn、Ni、Zn、Cu、Mg、Ti、Zr、W、Mo、P等の成分を少なくとも1種以上を選択し、含有させても良い。
【0017】
まず、第1の製造方法について述べる。
本発明の粒状酸化コバルト黒色顔料の製造方法は、コバルト(二価)塩水溶液とアルカリ溶液とを、pH10〜13にて混合中和し、混合中和開始以降、あるいは混合中和終了以降、混合液の温度を10℃〜40℃に維持しながら、該混合液中に酸素含有ガスを連続的にバブリングして水酸化コバルト前駆体を生成させ、生成した該前駆体をろ過、洗浄、乾燥、解砕した後、密閉された大気中、500℃〜850℃にて該前駆体を0.5〜3時間焼成することを特徴とするものである。
【0018】
本発明の粒状酸化コバルト黒色顔料の製造方法においては、まず、コバルト(二価)塩水溶液とアルカリ溶液との混合中和をpH10〜13にて行うことが重要である。この中和時のpHは、得られる水酸化コバルト前駆体中のコバルトの形態をほぼ二価とする上で重要である。
【0019】
上記中和pHが10よりも低い場合、中和の際、三価のコバルト水酸化物を生じ易く、水酸化物コバルト前駆体生成に障害をきたすのみならず、水酸化コバルト前駆体の粒度が微細となり、ろ過性が悪化したり、後述する焼成を行う際に粒子同士の焼結が起こりやすくなったりする等の不具合が生じる。逆にpHが13よりも高い場合は、コバルト(二価)塩が過度の酸化を受けやすく、三価のコバルト水酸化物を生成するおそれがある。このような水酸化コバルト前駆体を用いて、次工程以降の処理を行うと、均整な形状や酸化の制御が困難であり、二価のコバルト含有量の高い粒状酸化コバルト黒色顔料が得られない。水酸化コバルト前駆体のより安定的な生成を考慮すると、中和時のpHは11〜12であることが好ましい。
【0020】
また、本発明の粒状酸化コバルト黒色顔料の製造方法においては、コバルト(二価)塩水溶液とアルカリ溶液との混合中和開始以降、あるいは混合中和終了以降、混合液を温度10℃〜40℃を維持しながら、酸素含有ガスを連続的にバブリングすることも重要である。
【0021】
殊に、前述のpHを10〜13に制御したうえで、反応スラリーの温度を10℃〜40℃に維持することが、好適な水酸化コバルト前駆体を得る上で重要である。この温度が40℃を超える場合、酸素含有ガスを連続的にバブリングしていることもあいまって、水酸化コバルト(二価)の酸化が進み、オキシ水酸化コバルト(三価)が析出しやすいばかりか、特許文献1に開示されているように、この時点で四酸化三コバルトが生成することもあり得るため、本発明が目的するところの、二価のコバルト含有比率の高く、かつ均整な粒状酸化コバルト黒色顔料を得るための、安定した水酸化コバルト前駆体が得られない。逆に、温度が10℃未満の場合は、水酸化コバルト生成の妨げとなるし、液温を下げることによる効果は何らなく、実用的でもない。
【0022】
また、上記混合中和開始以降、あるいは混合中和終了以降、混合液中に酸素含有ガスを連続的にバブリングする必要がある。この操作を行わない場合、得られる生成物である水酸化コバルト前駆体が凝集しやすく、微粒かつ粒度が揃ったものとならない。
【0023】
この理由は十分究明されていないが、低温度域で酸素含有ガスを連続的にバブリングすることにより、混合液中のコバルト(二価)塩から二価の水酸化コバルト前駆体を生成させる際に、バブリング酸素含有ガスが、凝集しようとする前駆体粒子間に入り込み、薄層の酸化膜が粒子間に形成され、粒子の凝集を妨げる役割を果たしているものとみられる。この効果は単なる機械攪拌では得られない。
【0024】
なお、バブリング酸素含有ガスは空気(酸素濃度22体積%)を用いても良いが、酸化の調整をより良く制御するために、酸素濃度5体積%以上、22体積%未満の不活性ガス富化空気を使用するのが好ましい。この際、用いる不活性ガスは、実用上窒素が好ましい。この範囲で空気中の酸素を低減することにより、バブリングガス量やバブリング時間の精密な制御なしに、目的とする水酸化コバルト前駆体を生成させることが容易となる。バブリング酸素含有ガスに空気を用いた場合、混合液の単位体積当たり0.01Nリットル/(L・分)〜0.3Nリットル/(L・分)で1時間〜3時間程度バブリングするのが好ましい。不活性ガス富化空気を使用する場合には、上記バブリングガス中総酸素量に応じて、バブリングガス速度、バブリング時間を調整すれば良い。
【0025】
出発原料として用いられるコバルト(二価)塩としては硫酸コバルト(二価)、塩化コバルト(二価)、硝酸コバルト(二価)等、水に可溶な塩であることが好ましい。また、中和に用いられるアルカリとしては水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化アルカリが工業的に用いられる。また、反応の際に使用される酸素含有ガスは、実用上空気が好ましい。
【0026】
水酸化コバルト前駆体を生成させる際に、主成分がコバルト(二価)塩である水溶液とアルカリ溶液とを単に混合しただけでは、混合開始当初の混合液量が少ないときに十分な撹拌ができず、均一な水酸化コバルト前駆体を得ることが難しい場合がある。このようなときには、撹拌するに十分な量のpH10〜13の範囲に調製したアルカリ溶液を準備しておき、そのアルカリ溶液に、コバルト(二価)塩水溶液を添加して水酸化コバルト前駆体を生成させても良い。そのような場合であっても、更にアルカリ溶液を追加しながら、水酸化コバルト前駆体スラリーのpHを10〜13に維持することが重要である。
【0027】
このようにして得られた水酸化コバルト前駆体を含むスラリーは、ろ過、洗浄を行い、含有している水分を蒸発させる。
【0028】
ろ過、洗浄は副生成物や未反応物、過剰なアルカリ成分を除去するために行われる。副生成物、未反応物、過剰なアルカリが残留した場合、最終的に生成する粒状酸化コバルト黒色顔料の黒色性、電気抵抗等に影響を及ぼす恐れがある。
【0029】
水分を蒸発した乾燥体の水分量は1質量%以下であることが好ましい。含有水分量のコントロールは乾燥温度および乾燥時間を適宜調整することで行われる。含有する水分量を1質量%以下とすることで、より多い場合は後述する焼成工程で発生する水蒸気の量を低減させることができ、焼成効率の低下を防止できる。更に好ましくは水分量を0.1質量%〜0.6質量%に調整する。
【0030】
水分量が1質量%以下に調製された乾燥体に対して解砕操作を行う。解砕操作を行わない場合、乾燥体が凝集した状態で後述する焼成工程へと供給されることとなり、焼成によって更に凝集が促進される等の不具合を生じる。解砕装置としては高速回転型のハンマーミル、インパクトミル、ディスクミル等が好ましい。
【0031】
このようにして得られた乾燥体は、密閉された大気中、500℃〜850℃にて0.5〜3時間焼成する。ここで、重要なのは大気中で焼成しても構わないが、密閉された容器内で外部からの空気導入を行わないことにある。この理由は、過剰な空気を導入することによる過酸化を抑制するためである。焼成装置内の空気容量は、乾燥体質量に対し、0.01〜0.5m/kg程度に調整すれば良い。この空気容量は、焼成装置の内容積で決定される。
【0032】
一方、焼成時間と焼成温度は、生成する粒状酸化コバルト黒色顔料の焼結を抑制しつつ、水酸化コバルトの脱水を促進し、二価酸化物の結晶性向上を図る上で重要である。焼成温度が500℃未満の場合、その形態変化が十分でなく、十分な黒色性、高電気抵抗が得られない。逆に850℃超の場合、粒子同士の焼結が進み、後工程でも凝集・固化を解除できなくなるおそれがある。この焼成温度の更に好ましい温度範囲は、600℃〜800℃である。
【0033】
焼成時間は、0.5時間未満では、上記温度範囲内で高温度域を選択しても、その形態変化が十分でなかったり、ムラが生じたりして、十分な黒色性、高電気抵抗が得られないおそれがある。3時間を超える場合、上記温度範囲内で低温度域を選択しても、焼結が進み、後工程でも凝集・固化を解除できなくなるばかりか、焼成工程でコバルトの酸化が進行し、二価のコバルト含有量が低くなるおそれがある。
【0034】
こうして得られた焼成品は、若干の凝集・固化状態を呈するので、常法の解砕処理を行うことにより、目的とする粒状黒色顔料を得ることができる。
【0035】
また、このようにして得られた粒状酸化コバルト黒色顔料は、圧縮・せん断・箆なで作用のあるホイール型混練機で処理することにより、更に電気抵抗を高めることも可能である。好ましい処理条件としては線圧30kgf/cm〜160kgf/cmにて10〜90分間の処理である。これにより、粒状酸化コバルト黒色顔料の電気抵抗値は約1乗向上する。更に好ましい条件としては30kgf/cm〜120kgf/cmである。
【0036】
次に、第2の製造方法について述べる。
本発明の粒状酸化コバルト黒色顔料の製造方法は、コバルト(二価)塩水溶液とアルカリ溶液とを、pH10〜13にて混合中和し、混合中和開始以降、あるいは混合中和終了以降、混合液の温度を10℃〜40℃に維持しながら、該混合液中に酸素含有ガスを連続的にバブリングして水酸化コバルト前駆体を生成させ、生成した該前駆体をろ過、洗浄、乾燥、解砕した後、酸素濃度15体積%以上、22体積%未満に維持された不活性ガス富化空気雰囲気中、500℃〜850℃にて該前駆体を焼成することを特徴とするものである。
【0037】
第2の製造方法については、第1の製造方法における焼成の際の条件が相違するだけなので、以下にその相違部分のみ述べるものとする。
【0038】
第2の製造方法においては、湿式反応で得られた水酸化コバルト前駆体を含むスラリーに、ろ過、洗浄を行い、含有している水分を蒸発させ、更に解砕操作が加えられた乾燥体を焼成する際、酸素濃度15体積%以上、22体積%未満に維持された不活性ガス富化空気雰囲気中、500℃〜850℃にて該前駆体を焼成することが重要である。
【0039】
第2の製造方法においては、焼成雰囲気中の酸素濃度を15体積%以上、22体積%未満に維持することにより、焼成時間に余りとらわれずに、生成する粒状酸化コバルト黒色顔料の酸化の度合いを調節することができる。上記焼成雰囲気中の酸素濃度が22体積%を超える場合、空気もしくは酸素リッチな状態であるから、焼成時間の調整にかなりの注意を払う必要がある。15体積%未満の場合、目的とする粒状酸化コバルト黒色顔料生成のための焼成時間を長く取らざるを得ず、焼結が進み、後工程で凝集・固化を解除できなくなるおそれがある。
【0040】
第2の製造方法においては、第1の製造方法と同様、焼成温度は500℃〜850℃で行う。その範囲設定理由は、第1の製造方法と同様である。好ましい温度範囲は、600℃〜800℃である。焼成時間は、第1の製造方法に比べ、焼成雰囲気中の酸素濃度が低めになる傾向にあるので、多少長めの焼成時間を取ることができる。厳密に定める必要はないが、焼結による凝集・固化を防ぐ上で、1〜4時間程度で焼成するのが好ましい。
【0041】
次に、上記本発明の製造方法により得られる、粒状酸化コバルト黒色顔料について説明する。
【0042】
本発明の粒状酸化コバルト黒色顔料は、全コバルト含有量に占める二価コバルトの比率が35%〜70%であるのが好ましい。
【0043】
全コバルト含有量に占める二価コバルトの比率とは、粒子全体に含有される二価のコバルト含有量を、粒子全体に含有される全コバルト含有量で除した値に、100を乗じた値である。酸化コバルトの一般的な形態としては、四酸化三コバルト(Co)、酸化コバルト(CoOやCo)がある。Coは全コバルト中の二価のコバルトが占める割合は33%である。またCoOはコバルト全てが二価のコバルトであり、Coはコバルト全てが三価のコバルトである。
【0044】
そのような酸化コバルトに対して、本発明の粒状酸化コバルト黒色顔料は、全コバルト中に占める二価コバルトの割合が異なり、その元素構成により本発明の効果である黒色性、高電気抵抗性の両立が達成された。
【0045】
全コバルト中の二価のコバルトが占める割合が35%未満の場合、黒色度が不十分となる。70%超の場合、黒色顔料ではなく青緑色を呈した顔料となり、本発明の効果を発揮できない。全コバルト中の二価のコバルトが占める割合は、更に好ましくは40〜60%である。
【0046】
また、本発明の粒状酸化コバルト黒色顔料は、その粒子形状が粒状であることが好ましい。板状等の形状を呈した粒子は分散性、流動性の点で劣るのみならず、板状粒子の場合はその厚み方向の粒子サイズが数十nm程度となり、光の吸収波長に偏りが生じ、黒色顔料としての色相が悪化してしまい、黒色度を重要視するプラズマディスプレイ、プラズマアドレス液晶等の黒色電極、遮光層形成用途として不十分である。ここで言う粒状とは球状、紡錘状などを意味し、板状粒子を除外している。
【0047】
また、本発明の粒状酸化コバルト黒色顔料は、粒子全体に対する全コバルト含有量が60質量%〜80質量%であり、かつ粒子全体に対する二価のコバルト含有量は、24質量%〜50質量%であることが好ましい。更に好ましくは、粒子全体に対する全コバルト含有量は、65質量%〜75質量%であり、かつ粒子全体に対する二価のコバルト含有量は26質量%〜45質量%である。粒子全体に対する全コバルト含有量を60質量%以上とすることで、コバルト以外の成分量が過多となることが防止され、本発明の効果が高くなる。80質量%以下とすることで、コバルトと酸素の電荷バランスがとりやすくなり安定な物質となる。また、粒子全体に対する二価のコバルト含有量を24質量%以上とすることで、黒色度が十分となり、50質量%以下とすることで同様に黒色度が十分となる。
【0048】
また、本発明の粒状酸化コバルト黒色顔料は、一次粒子径が0.02μm〜0.6μmであることが好ましい。一次粒子径を0.02μm以上とすることで、その色味が赤みを呈することが防止され、また分散性が良好になる。また、0.6μm以下とすることで、色味が十分になり、更に着色力も十分となる。一次粒子径が0.05μm〜0.3μmであると色相、着色力のバランスがとりやすく更に好ましい。
【0049】
また、本発明の粒状酸化コバルト黒色顔料は、着色性評価時のL値が38以下、b値が0以下であることが好ましい。更に好ましくはL値が36以下、b値が−0.5以下である。着色性の評価方法は、次のとおりである。黒色顔料0.5gと酸化チタン(石原産業社製R800)1.5gにヒマシ油1.3ccを加え、フーバー式マーラーで練り込む。この練り込んだサンプル2.0gにラッカー4.5gを加え、更に練り込んだ後、これをミラーコート紙上に4milのアプリケータを用いて塗布し、乾燥後、色差計(東京電色社製カラーアナライザーTC−1800型)にて黒色度(L値)および色相(a値、b値)を測定する。L値が38よりも高い場合、十分な着色性とは言えず、また、b値が0よりも高い場合、色相が黄色みを呈していることとなり好ましくない。
【0050】
また、本発明の粒状酸化コバルト黒色顔料は電気抵抗が高いことが特徴である。具体的には電気抵抗値が1×10Ωcm以上であることが好ましい。更に好ましくは5×10Ωcm以上、より更に好ましくは1×10Ωcmである。電気抵抗が1×10Ωcmよりも低い場合、プラズマディスプレイ、プラズマアドレス液晶等のブラックマトリックスオンアレイ型高遮光性膜形成の材料としては、その機能を十分に高めることができなくなり好ましくない。
【実施例】
【0051】
以下、実施例等により本発明を具体的に説明する。しかしながら、本発明の範囲はかかる実施例に制限されない。
〔実施例1〕
pH12の水酸化ナトリウム水溶液80リットルを、200リットルの反応容器に投入した。次いで1.2mol/リットルのコバルト(二価)を含有する硫酸コバルト(二価)水溶液60リットルを1リットル/分の速度で前記反応容器に連続投入した。同時に水酸化ナトリウム水溶液を用いて、反応スラリーのpHが12となるように適宜調節した。その間、スラリー温度は35℃を維持し、常時、5Nリットル/分の速度で空気バブリングを行った。混合が終了した後、撹拌を継続しながら空気バブリングを15Nリットル/分の速度で90分間行った。
【0052】
得られた水酸化コバルト前駆体スラリーをろ過、洗浄し、得られたケーキを80℃にて乾燥させた。こうして得られた乾燥体は水分量が0.5質量%であった。水分量の測定は、JIS K 5101-1991の加熱減量測定法に準じて行った。更に、この乾燥体をハンマーミルで解砕した。
【0053】
こうして得られた解砕済み乾燥体を、密閉された大気中で700℃にて2時間焼成し、粒子粉末を得た。
【0054】
得られた粒子粉末は、以下に示す方法で評価した。評価結果を表1に示す。
【0055】
〔評価方法〕
(a)粒子全体に対する全コバルト含有量
試料を酸に完全に溶解し、ICPにてコバルトの含有量を求めた。
(b)粒子全体に対する二価のコバルト含有量
試料と硫酸アンモニウム鉄(二価)とを同時に酸に完全に溶解し、溶液中の二価の鉄イオン濃度をジフェニルアミンスルフォン酸ナトリウムを指示薬として二クロム酸カリウム標準液を用いた滴定により求めた。
次に、あらかじめ添加した二価の鉄イオン濃度と、滴定によって求められた二価の鉄イオン濃度の差を計算によって求め、三価の鉄イオン濃度を求めた。
三価の鉄イオンは以下の化学反応によって生成するため、この濃度を試料に含有されていた三価のコバルトイオン濃度とした。
Co3++Fe2+→Co2++Fe3+
(c)粒子形状、一次粒子径
走査型顕微鏡(倍率4万倍)により、粒子形状を観察した。同時に、任意に200個の粒子のフェレ径を計測し、その個数平均値を持って一次粒子径とした。
(d)電気抵抗
試料10gをホルダーに入れ、600kgf/cmの圧力を加えて25mmφの錠剤型に成形後、電極を取り付け150kgf/cmの加圧状態で測定した。測定に使用した試料の厚さおよび断面積かと抵抗値から電気抵抗値を算出した。
(e)黒色度、色相
粉体の黒色度測定はJIS K5101−1991に準拠して行った。試料2.0gにヒマシ油1.4ccを加え、フーバー式マーラーで練り込む。この練り込んだサンプル2.0gにラッカー7.5gを加え、更に練り込んだ後これをミラーコート紙上に4milのアプリケータを用いて塗布し、乾燥後、色差計(東京電色社製、カラーアナライザーTC-1800型)にて、黒色度(L値)および色相(a値、b値)を測定した。
(f)着色性(塗料化時分散性と色相の評価)
試料0.5gと酸化チタン(石原産業社製R800)1.5gにヒマシ油1.3ccを加え、フーバー式マーラーで練り込む、この練り込んだサンプル2.0gにラッカー4.5gを加え、更に練り込んだ後、これをミラーコート紙上に4milのアプリケータを用いて塗布し、乾燥後、色差計(東京電色社製カラーアナライザーTC−1800型)にて黒色度(L値)および色相(a値、b値)を測定した。
(g)比表面積
島津−マイクロメリティックス製2200型BET計にて測定した。
(h)吸油量
JIS K 5101−1991に準拠して行った。
【0056】
〔実施例2〕
酸素含有ガスを酸素濃度10体積%にして中和時に10リットル/分、混合が終了した後に30リットル/分で反応スラリーへ吹き込んだ以外は実施例1と同様に行い粒子粉末を得た。得られた粒子粉末は実施例1と同様の方法で評価した。
【0057】
〔実施例3〕
酸素濃度18体積%に維持された雰囲気で焼成した以外は実施例1と同様に行い粒子粉末を得た。得られた粒子粉末は実施例1と同様の方法で評価した。
【0058】
〔比較例1〕
反応スラリー温度を50℃とした以外は実施例1と同様に行い粒子粉末を得た。得られた粒子粉末は実施例1と同様の方法で評価した。
【0059】
〔比較例2〕
反応スラリーのpHを9とした以外は実施例1と同様に行い、粒子粉末を得た。得られた粒子粉末は実施例1と同様の方法で評価した。
【0060】
〔比較例3〕
焼成装置内へ外気を導入し、外気と同程度のガス濃度にした以外は実施例1と同様に行い、粒子粉末を得た。得られた粒子粉末は実施例1と同様の方法で評価した。
【0061】
〔比較例4〕
焼成装置内に窒素を導入し、焼成雰囲気を酸素10体積%に維持した以外は実施例1と同様に行い、粒子粉末を得た。得られた粒子粉末は実施例1と同様の方法で評価した。
【0062】
【表1】

【0063】
表1から明らかなように、実施例の粒子粉末は黒色度に優れ、かつ高電気抵抗を示し、小粒径で粒度分布がシャープであり、ブラックマトリックス用着色組成物、プラズマディスプレイ、プラズマアドレス液晶等の黒色電極、遮光層形成用等の材料として優れている。
【0064】
これに対し、比較例1および2の粒子粉末は、反応条件が本発明の製造方法の製造条件から逸脱しているため、全コバルト中、あるいは粒子全体に対する二価のコバルト含有量が低下し、黒色度や色相が劣る等、各種特性の面で不具合である。
【0065】
また、比較例3の粒子粉末は、焼成時外気を導入して処理したことにより、全コバルト中の二価のコバルトが占める割合が低下しており、これに起因して、色相が劣ったものとなった。
【0066】
また、比較例4の粒子粉末は、焼成時低酸素濃度雰囲気で処理したが、焼成不足で酸化コバルト化が十分でなく、微細な酸化コバルト粒子の残存により、一次粒子径が小さく、比表面積も大きいものであった。それにより、黒色度、色相、あるいは着色力等各種特性が著しく劣ったものであった。













【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト(二価)塩水溶液とアルカリ溶液とを、pH10〜13にて混合中和し、混合中和開始以降、あるいは混合中和終了以降、混合液の温度を10℃〜40℃に維持しながら、該混合液中に酸素含有ガスを連続的にバブリングして水酸化コバルト前駆体を生成させ、生成した該前駆体をろ過、洗浄、乾燥、解砕した後、密閉された大気中、500℃〜850℃にて該前駆体を0.5〜3時間焼成することを特徴とする粒状酸化コバルト黒色顔料の製造方法。
【請求項2】
前記酸素含有ガスとして、酸素濃度5体積%以上、22体積%未満の不活性ガス富化空気を使用することを特徴とする請求項1に記載の粒状酸化コバルト黒色顔料の製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ溶液は、水酸化ナトリウム水溶液、又は水酸化カリウム水溶液である請求項1又は2に記載の粒状酸化コバルト黒色顔料の製造方法。
【請求項4】
コバルト(二価)塩水溶液とアルカリ溶液とを、pH10〜13にて混合中和し、混合中和開始以降、あるいは混合中和終了以降、混合液の温度を10℃〜40℃に維持しながら、該混合液中に酸素含有ガスを連続的にバブリングして水酸化コバルト前駆体を生成させ、生成した該前駆体をろ過、洗浄、乾燥、解砕した後、酸素濃度15体積%以上、22体積%未満に維持された不活性ガス富化空気雰囲気中、500℃〜850℃にて該前駆体を焼成することを特徴とする粒状酸化コバルト黒色顔料の製造方法。
【請求項5】
前記酸素含有ガスに、酸素濃度5体積%以上、22体積%未満の不活性ガス富化空気を使用することを特徴とする請求項4に記載の粒状酸化コバルト黒色顔料の製造方法。
【請求項6】
前記アルカリ溶液は、水酸化ナトリウム水溶液、又は水酸化カリウム水溶液である請求項4又は5に記載の粒状酸化コバルト黒色顔料の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の粒状酸化コバルト黒色顔料の製造方法により得られる、少なくともコバルトを含有する酸化物であって、全コバルト中の二価のコバルトが占める割合が35%〜70%であることを特徴とする粒状酸化コバルト黒色顔料。
【請求項8】
粒子全体に対する全コバルト含有量が60質量%〜80質量%であり、かつ、粒子全体に対する二価のコバルト含有量が24質量%〜50質量%であることを特徴とする請求項7に記載の粒状酸化コバルト黒色顔料。
【請求項9】
一次粒子径が0.02μm〜0.6μmであることを特徴とする、請求項7又は8に記載の粒状酸化コバルト黒色顔料。


【公開番号】特開2007−284340(P2007−284340A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−74575(P2007−74575)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】