説明

粘着剤組成物

【課題】より良好な粘着物性を有する粘着剤組成物を提供する。
【解決手段】天然ゴムに極性基含有単量体をグラフト重合してなる変性天然ゴムを含有する粘着剤組成物において、さらに、アミノアルコキシシランおよび軟化剤成分を含有し、変性天然ゴムが、天然ゴムラテックスに極性基含有単量体を乳化重合し、凝固、乾燥して得られる粘着剤組成物。前記変性天然ゴムの極性基が、酸性基であることが好ましく、前記極性基含有単量体が、アクリル酸基、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸およびシトラコン酸からなる群から選ばれる一種以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粘着剤組成物(以下、単に「組成物」とも称する)に関し、詳しくは、より良好な粘着物性を有する粘着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
粘着剤として用いられる組成物は、高分子基材と、軟化剤成分と、樹脂成分とによって構成される。このうち、高分子基材には、全体の強度保持の機能を中心に、被着物との親和性が要求特性として求められる。これに対して軟化剤成分の機能は、接着剤全体の硬さを調整することにより被着物との密着性の改良を機能として有する。他方、樹脂成分に関しては粘着物に対して凝集力を与えることにより粘着物の接着力そのものを改良する機能を与える。
【0003】
従って、粘着物の粘着力の改善のためには、一般に、高分子基材の凝集力を改善すべく、多量の樹脂の配合手法が用いられる。しかしながら、この手法では組成物全体のTg(ガラス転移点)が上昇してしまうために温度に対する粘着特性の依存性が非常に大きなものとなってしまう問題点が存在する。
【0004】
他方、この凝集力の改良法のもう一つのアプローチとしては、高分子基材に関して従来多く用いられてきた天然ゴムに対して、より凝集力の優れたアクリル系の高分子材料が用いられるようになってきた。アクリル系の高分子材料は、分子内に極性の高いエステル基を有することより、高分子自体に凝集力を有する良好な特性が特徴である。しかしながら、このようなアクリル系の高分子材料は凝集力に優れる特徴はあるものの、ポリマーそのものの強度が伸張結晶性の欠如のために、天然ゴム対比劣るという問題点が存在する。そのため、接着強度の絶対値としては天然ゴムの方が優れた材料であるといえる。
【0005】
従って、粘着剤組成物の粘着特性を改善するためには、天然ゴムに対して極性基を導入することにより凝集力を向上させることは、Tgを上昇させることなく接着特性性能全体の向上のためには優れた手法と考えられる。具体的には、極性基含有単量体を天然ゴムにグラフト重合させることにより、極性基に由来する水素結合効果により、凝集力を高め、粘着剤組成物の粘着性能を高めることができる。
【0006】
従来、高分子基材としての天然ゴムに極性基を導入した粘着剤組成物として、特許文献1には、メタクリル酸メチルをグラフト重合した変性天然ゴムを用いるものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−25468号公報(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、天然ゴムにメタクリル酸メチルをグラフト重合させても、その凝集力を十分に高め、粘着剤組成物の粘着性能を十分に向上することはできず、今日、さらなる改良が望まれている。
【0009】
そこで本発明の目的は、粘着剤組成物の高分子基剤としての天然ゴム本来の特性を維持した上で、その凝集力を高め、より良好な粘着物性を有する粘着剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の変性天然ゴム、アミノアルコキシシランおよび軟化剤成分を含有することで、より良好な粘着物性を有する粘着剤組成物が得られることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の粘着剤組成物は、天然ゴムに極性基含有単量体をグラフト重合してなる変性天然ゴムを含有する粘着剤組成物において、
さらに、アミノアルコキシシランおよび軟化剤成分を含有し、
前記変性天然ゴムが、天然ゴムラテックスに前記極性基含有単量体を乳化重合し、凝固、乾燥して得られることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の粘着剤組成物は、前記変性天然ゴムの極性基が、酸性基であることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明の粘着剤組成物は、前記極性基含有単量体が、アクリル酸基、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸およびシトラコン酸からなる群から選ばれる一種以上であることが好ましい。
【0014】
さらにまた、本発明の粘着剤組成物は、前記極性基含有単量体のグラフト量が、前記天然ゴムに対し0.01〜5.0質量%であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の粘着剤組成物は、前記アミノアルコキシシランが、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシランおよびジメチルアミノプロピルトリエトキシシランからなる群から選ばれる一種以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、上記構成としたことにより、より良好な粘着物性を有する粘着剤組成物を実現することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適実施形態について詳細に説明する。
本発明の粘着剤組成物は、天然ゴムに極性基含有単量体をグラフト重合してなる変性天然ゴムを含有する粘着剤組成物において、さらに、アミノアルコキシシランおよび軟化剤成分を含有し、変性天然ゴムが、天然ゴムラテックスに前記極性基含有単量体を乳化重合し、凝固、乾燥して得られることを特徴とするものである。
【0018】
本発明において用いることができる天然ゴムラテックスとしては、フィールドラテックス、アンモニア処理ラテックス、遠心分離濃縮ラテックス、界面活性剤や酵素で処理した脱蛋白ラテックス及びこれらを組み合わせたもの等いずれも使用可能であり、好ましいラテックスのゴム濃度は20〜60質量%である。
【0019】
また、本発明において、極性基含有単量体のグラフト量としては、天然ゴムラテックスの天然ゴム分に対し0.01〜5.0質量%であることが好ましく、0.01〜1.0質量%であることがより好ましい。かかる範囲とすることにより、さらにより良好な粘着物性を有する粘着剤組成物を提供することができる。
【0020】
本発明において、天然ゴムラテックス中で、天然ゴム分子に対し乳化重合させる極性基含有単量体としては、本発明の所望の効果が得られれば限定されないが、分子内に少なくとも一つの酸性基を有する重合体であることが好ましく、酸性基含有ビニル系単量体であることが好ましい。
【0021】
かかる酸性基含有ビニル系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和酸類が挙げられる。また、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等の2価の酸も使用することができる。なお、2価の酸は、無水マレイン酸等の無水物であってもよい。
【0022】
本発明において、乳化重合は、天然ゴムラテックス中に水及び必要に応じて乳化剤を加えたものの中に、極性基含有単量体を加え、さらに重合開始剤を加えて、所定の温度で撹拌して重合するのが一般的である。極性基含有単量体のラテックスへの添加に際しては、あらかじめラテックス中に乳化剤を加えておくか、あるいは極性基含有単量体を乳化した後、ラテックスに加える。使用しうる乳化剤としては、特に限定されないが、ノニオン系の界面活性剤、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル等が挙げられる。
【0023】
重合開始剤としては、特に限定はなく、種々の乳化重合用の開始剤を用いることができ、その添加方法についても特に限定はない。一般に用いられる重合開始剤の例としては過酸化ベンゾイル、過酸化水素、クメンハイドロパーオキサイド、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2−ジアミノプロパン)ヒドロクロリド、2,2−アゾビス(2−ジアミノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。重合温度を低減させるためにはレドックス系の重合開始剤を用いるのが好ましく、かかるレドックス系の重合開始剤において、過酸化物と組み合わせる還元剤としては、例えば、テトラエチレンペンタミン、メルカプタン類、酸性亜硫酸ナトリウム、還元性金属イオン、アスコルビン酸等が挙げられる。レドックス系の重合開始剤における好ましい組み合わせ例としては、tert−ブチルハイドロパーオキサイドとテトラエチレンペンタミンが挙げられる。
【0024】
粘着剤として配合したとき、加工性を低下させずに低ロス特性や耐摩耗性を向上させるという目的を考えると、天然ゴムの分子に対し、各分子にまんべんなく少量の極性基が導入されることが重要であるため、重合開始剤の添加量は、極性基含有単量体100モルに対して1〜100モル%がより好ましく、10〜100モル%がより好ましい。これらの成分を反応容器に仕込み、30〜80℃で10分〜7時間反応させることにより、変性天然ゴムラテックスが得られる。上記のごとく処理されたラテックスを凝固し、洗浄後、真空乾燥機、エアドライヤー、ドラムドライヤー等の通常の乾燥機を用いて乾燥することにより、アミノ基含有変性天然ゴムを得ることができる。
【0025】
本発明において、アミノアルコキシシランとしては、アミノプロピルトリエトキシシラン等の分子内にアミノ基を有するアルコキシシランであればいずれも用いることができる。かかるアミノアルコキシシランとしては、例えば、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、ジメチルアミノプロピルトリエトキシシラン、ジエチルアミノプロピルトリエトキシシラン、ジプロピルアミノプロピルトリエトキシシラン等がある。
【0026】
また、アミノアルコキシシランの添加量としては、その用途に基づいた要求量を選択可能であるが、1〜10質量部が好ましく、特に2〜5質量部が経済性と効果の点から一般的により好ましい。
【0027】
本発明において、軟化剤としては、一般のゴム用軟化剤であればいずれも用いることができ、例えば、ポリブテン系軟化剤や、ナフテンオイル、アロマオイル、スピンドルオイル等の石油系軟化剤、Liq−ポリイソプレン等の低分子量ポリマーや、なたねオイル等の植物油を用いることができる。これらの軟化剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
かかる軟化剤の配合量は、変性天然ゴム100質量部に対して20〜100質量部であることが好ましく、特に30〜80質量部であることが好ましい。
【0029】
また、本発明の粘着剤組成物は、通常、上述のような変性天然ゴムに、粘着付与剤を配合して調製することができる。
【0030】
かかる粘着付与剤としては、例えば、ロジンエステルや水添ロジンエステル、不均化ロジンエステルや重合ロジンエステルの如きロジン系樹脂、クマロンインデン樹脂や水添クマロンインデン樹脂、フェノール変性クマロンインデン樹脂やエポキシ変性クマロンインデン樹脂の如きクマロンインデン系樹脂、ポリテルペン樹脂やスチレン変性テルペン樹脂、フェノール変性テルペン樹脂の如きテルペン系樹脂、脂肪族系石油樹脂や芳香族系石油樹脂、芳香族変性脂肪系石油樹脂や芳香族系純モノマー樹脂の如き石油系樹脂などの適宜なものを用いることができる。
【0031】
また、粘着付与剤の配合量としては、グラフト天然ゴム100質量部あたり10〜200質量部が一般的であるがこれに限定されない。
【0032】
本発明の粘着剤組成物には必要に応じて、変性天然ゴム、軟化剤及び粘着付与剤以外の各種添加剤が添加されてもよい。かかる添加剤としては、例えば、可塑剤、無機充填剤又は有機充填剤、増粘剤、顔料、染料などが挙げられ、必要に応じて適宜配合される。
【0033】
また、本発明の粘着剤組成物は、例えば、トルエン、シクロヘキサン、ヘキサン、キシレン、リグロイン、石油ベンジン等の溶剤に5〜30質量%程度の濃度に溶解させ、この粘着剤溶液を基剤に塗布して乾燥させることにより粘着層を形成するなどの用途に用いられる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
(実施例1)
(1)天然ゴムラテックスの変性反応工程
フィールドラテックスを、ラテックスセパレータ(斎藤遠心工業株式会社製)を用いて回転数7500rpmで遠心分離することで、乾燥ゴム濃度60質量%の濃縮ラテックスを得た。このラテックス1000gを、撹拌機、温調ジャケットを備えたステンレス製反応容器に投入し、予め10mLの水と1.5gの乳化剤「エマルゲン1108」(花王株式会社製)を無水マレイン酸60gに加えて乳化したものを、990mLの水と添加し窒素置換しながら30分間撹拌した。次いで、重合開始剤tert−ブチルハイドロパーオキサイド2.0gとテトラエチレンペンタミン2.0gとを加え、40℃で1時間反応させたることで、変性天然ゴムラテックスを得た。
【0035】
(2)凝固・乾燥工程
次にギ酸を加えることで変性天然ゴムラテックスのpHを4.7に調整し凝固させた。この固形物をクレーパー5回、シュレッダーを通してクラム化した後、熱風式乾燥機で110℃、210分乾燥することで変性天然ゴムAを得た。得られた変性天然ゴムAの質量より、ジメチルアミノエチルメタクリレートの添加反応率は100%であることが確認された。また、石油エーテルで抽出を行った後、アセトンとメタノールの2:1混合溶媒で抽出することで、ホモポリマーの分離を試みたが、抽出物を分析したところホモポリマーは検出されず、添加した単量体の100%が天然ゴム分子に導入されていることが確認された。
【0036】
次に、ニーダー型混練り装置で上記の変性天然ゴム100質量部に対してテルペン系粘着付与樹脂60質量部、ポリブテン系軟化剤30質量部、及び老化防止剤1質量部を混合してグラフト天然ゴム系粘着剤を得た。また、アミノアルコキシシランとしてアミノプロピルトリエトキシシランを5質量部加えることにより粘着剤組成物を得た。さらにこの粘着剤組成物を、トルエン100質量部に溶解して粘着剤溶液を得た。それを厚さ30μmのポリエステルフィルム上に塗工し、100℃で5分間乾燥させて厚さ約40μmの粘着剤層を有する粘着テープを得た。
【0037】
(実施例2)
無水マレイン酸をメタクリル酸に変更した以外は、実施例1中の配合を用いて、実施例1と同様に粘着剤組成物及び粘着テープを得た。
【0038】
(比較例1)
フィールドラテックス(天然ゴムラテックス)をグラフト重合処理せずに用いた以外は、実施例1と同様に粘着剤組成物及び粘着テープを得た。
【0039】
(比較例2)
変性剤をメチルメタクリレートに変更した以外は、実施例1中の配合を用いて同様に粘着剤組成物及び粘着テープを得た。
【0040】
評価試験
実施例1、2及び比較例1、2で得られた粘着テープについて下記の特性を調べ、結果を表1に示した。
【0041】
(接着力)
280番の耐水研磨紙で表面研磨した厚さ2mmのステンレス鋼板に、幅20mmの粘着テープを2kgのゴムローラを一往復させて圧着し、30分経過後、その接着力を、180度ピール、引張り速度300mm/分、23℃、65%R.H.の条件で調べた。結果を、比較例1を100とした数値で示し、数値が大きい程良好な接着性を示す。
【0042】
(保持力)
23℃の温度条件下、ベーク板に上記と同様にして粘着テープを幅5mm×長さ20mmの面積で圧着して垂下し、その粘着テープの自由端に500gの均一荷重を負荷し、40℃に保持して粘着テープが剥がれ落ちるまでの時間をクリープ試験機にて測定した。結果を、比較例1を100とした数値で示し、数値が大きい程良好な保持力を示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1より実施例1及び実施例2のグラフト天然ゴム系粘着剤は、従来の天然ゴム、またはメチルメタクリレートで変性した天然ゴムと比較して、接着力および保持力(凝集性)に優れて実用性に優れていることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムに極性基含有単量体をグラフト重合してなる変性天然ゴムを含有する粘着剤組成物において、
さらに、アミノアルコキシシランおよび軟化剤成分を含有し、
前記変性天然ゴムが、天然ゴムラテックスに前記極性基含有単量体を乳化重合し、凝固、乾燥して得られることを特徴とする粘着剤組成物。
【請求項2】
前記変性天然ゴムの極性基が、酸性基である請求項1記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
前記極性基含有単量体が、アクリル酸基、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸およびシトラコン酸からなる群から選ばれる一種以上である請求項1または2記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
前記極性基含有単量体のグラフト量が、前記天然ゴムに対し0.01〜5.0質量%である請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
前記アミノアルコキシシランが、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルプロピルトリメトキシシランおよびジメチルアミノプロピルトリエトキシシランからなる群から選ばれる一種以上である請求項1〜4のうちいずれか一項に記載の粘着剤組成物。

【公開番号】特開2010−235820(P2010−235820A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86401(P2009−86401)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】